JP2013155398A - 防汚膜付き基体及びその製造方法 - Google Patents

防汚膜付き基体及びその製造方法 Download PDF

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安彦 赤尾
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Abstract

【課題】撥水性等の防汚性に優れるとともに、繰り返しの拭き取り操作等に対して防汚性の低下が抑制された耐摩耗性に優れる、含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】透明基体2の主面上に形成された酸化ケイ素膜3と、前記酸化ケイ素膜の表面に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜とを有し、前記酸化ケイ素膜は、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.5Pa以下で形成され、4〜10nmの膜厚を有することを特徴とする防汚膜付き基体1及び透明基体上に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体を製造する方法であって、透明基体の前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面に、スパッタリング法により、酸化ケイ素膜を形成する工程、形成された酸化ケイ素膜の表面上に前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する工程、を具備する。
【選択図】図1

Description

本発明は、防汚膜付き基体及びその製造方法に関する。
スマートフォンやタブレットPC等に用いられるタッチパネルは使用時に人間の指が触れるため、指紋、皮脂、汗等による汚れが付着しやすい。これらの汚れは付着すると落ちにくく、光の加減等によっては目立つため、視認性や美観を損ねるという問題があった。さらに、ディスプレイガラス、光学素子、衛生機器等においても同様の問題が指摘されていた。
このような問題を解消するために、これらの部品や機器の人間の指が触れる部分に含フッ素有機ケイ素化合物からなる防汚膜を形成した基板を用いる方法が知られている。基板上に形成された防汚膜には、汚れが付着するのを抑制するために高い撥水・撥油性が求められるとともに、付着した汚れの払拭に対する耐摩耗性が求められている。
上記防汚膜を形成した基板における撥水・撥油性と耐摩耗性を両立するための試みとして、例えば、特許文献1にはガラス基体にマグネトロンスパッターまたはゾル・ゲル縮合反応法によりシリカ下地層を形成し、特定のペルフルオロアルキル アルキルシランにより表面処理を施した、撥水性及び潤滑性を有し、耐久性の改良されたガラス物品が記載されている。しかしながら、特許文献1の方法では実使用において求められる耐摩耗性を十分満たしているとは言えず、さらに耐摩耗性が改善された防汚膜が求められている。
特開平5−238781号公報
本発明は、撥水性等の防汚性に優れるとともに、繰り返しの拭き取り操作等に対して防汚性の低下が抑制された耐摩耗性に優れる、含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体及びその製造方法の提供を目的とする。
本発明の第1の実施形態の防汚膜付き基体は、透明基体と、前記透明基体の主面上に形成された酸化ケイ素膜と、前記酸化ケイ素膜の表面に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜とを有し、前記酸化ケイ素膜は、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.5Pa以下で形成され、4〜10nmの膜厚を有することを特徴とする。
本発明の第2の実施形態の防汚膜付き基体は、透明基体と、前記透明基体の主面上に形成された酸化ケイ素膜と、前記酸化ケイ素膜の表面に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜とを有し、前記酸化ケイ素膜は、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.3Pa以下で形成され、4〜20nmの膜厚を有することを特徴とする。
本発明の第3の実施形態の防汚膜付き基体は、透明基体と、前記透明基体の主面上に形成された酸化ケイ素膜と、前記酸化ケイ素膜の表面に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜とを有し、前記酸化ケイ素膜はスパッタリング法により、成膜ガス圧0.1Pa以下で形成され、4〜100nmの膜厚を有することを特徴とする。
本発明の第4の実施形態の防汚膜付き基体は、透明基体と、前記透明基体の主面上に形成された酸化ケイ素膜と、前記酸化ケイ素膜の表面に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜とを有し、前記酸化ケイ素膜は、スパッタリング法により、成膜ガス圧が0.7Pa以下、基板の温度が250℃〜300℃で形成され、4〜20nmの膜厚を有することを特徴とする。
本発明の第1の実施形態の製造方法は、透明基体上に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体を製造する方法であって、以下の(1)工程及び(2)工程を具備する。
(1)前記透明基体の前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面に、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.5Pa以下、4〜10nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜を形成する工程。
(2)前記(1)工程で形成された酸化ケイ素膜の表面上に前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する工程。
本発明の第2の実施形態の製造方法は、透明基体上に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体を製造する方法であって、以下の(1)工程及び(2)工程を具備する。
(1)前記透明基体の前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面に、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.3Pa以下、4〜20nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜を形成する工程。
(2)前記(1)工程で形成された酸化ケイ素膜の表面上に前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する工程。
本発明の第3の実施形態の製造方法は、透明基体上に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体を製造する方法であって、以下の(1)工程及び(2)工程を具備する。
(1)前記透明基体の前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面に、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.1Pa以下、4〜100nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜を形成する工程。
(2)前記(1)工程で形成された酸化ケイ素膜の表面上に前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する工程。
本発明の第4の実施形態の製造方法は、透明基体上に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体を製造する方法であって、以下の(1)工程及び(2)工程を具備する。
(1) 前記透明基体の前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面に、スパッタリング法により、成膜ガス圧が0.7Pa以下、透明基体の温度が250℃〜300℃で、4〜20nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜を形成する工程。
(2)前記(1)工程で形成された酸化ケイ素膜の表面上に前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する工程。
本発明によれば、撥水性等の防汚性に優れるとともに、繰り返しの拭き取り操作等に対して防汚性の低下が抑制された耐摩耗性に優れる、含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体及びその製造方法が提供できる。
本発明の防汚膜付き基体の一実施形態の断面図である。 本発明の防汚膜付き基体の製造方法の一実施形態に使用可能な装置を模式的に示す図である。 本発明の防汚膜付き基体の製造方法の一実施形態に使用可能な装置を模式的に示す図である。 本発明の防汚膜付き基体の製造方法の一実施形態に使用可能な装置を模式的に示す図である。 実施例及び比較例の防汚膜付き基体における耐摩耗性を示すグラフである。 実施例及び比較例の防汚膜付き基体において、成膜条件の違いによる耐摩耗性の違いを示すグラフである。
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
[防汚膜付き基体]
本発明の防汚膜付き基体は、透明基体と、前記透明基体の主面上に形成された酸化ケイ素膜と、前記酸化ケイ素膜の表面に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜とを有し、本発明の第1の実施形態の前記酸化ケイ素膜は、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.5Pa以下で形成され、4〜10nmの膜厚を有する。
本発明の第2の実施形態の防汚膜付き基体は、前記酸化ケイ素膜は、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.3Pa以下で形成され、4〜20nmの膜厚を有する。
本発明の第3の実施形態の防汚膜付き基体は、前記酸化ケイ素膜はスパッタリング法により、成膜ガス圧0.1Pa以下で形成され、4〜100nmの膜厚を有する。
本発明の第4の実施形態の防汚膜付き基体は、前記酸化ケイ素膜は、スパッタリング法により、成膜ガス圧が0.7Pa以下、基板の温度が250℃〜300℃で形成され、4〜20nmの膜厚を有する。
本発明の防汚膜付き基体が有する含フッ素有機ケイ素化合物被膜は、後述の含フッ素加水分解性ケイ素化合物が基体の表面で以下のように加水分解縮合反応して形成される被膜であり、該被膜が撥水性や撥油性を有することで防汚膜として機能する。本明細書において、含フッ素加水分解性ケイ素化合物とは、加水分解可能な基または原子がケイ素原子に結合した加水分解性シリル基を有し、さらにそのケイ素原子に結合する含フッ素有機基を有する化合物をいう。なお、本明細書において、上記ケイ素原子に結合して加水分解性シリル基を構成する加水分解可能な基または原子を併せて「加水分解性基」という。
本発明の防汚膜付き基体において、防汚膜となる含フッ素有機ケイ素化合物の被膜は、上記含フッ素加水分解性ケイ素化合物の加水分解性シリル基が、加水分解によりシラノール基となり、さらにこれらが分子間で脱水縮合して−Si−O−Si−で表されるシロキサン結合を生成することで形成される。得られる被膜において、シロキサン結合のケイ素原子に結合する上記含フッ素有機基は、殆どが基体と反対側の被膜表面付近に存在する。この含フッ素有機基の作用により該被膜は、撥水性や撥油性の発現が可能となる。また、上記で生成したシラノール基は、基体の表面の水酸基(基体−OH)と脱水縮合反応により化学結合して、密着点(基体−O−Si)を形成する。
ここで、上記過程を経て基体表面に形成される含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体においては、用いる基体表面に酸化ケイ素膜を形成することにより、基体表面に多数の水酸基(基体−OH)が形成されることにより、防汚膜と基体との間の密着性が向上し、繰り返しの払拭操作等にも耐えうる高い耐摩耗性を有する防汚膜付き基体が得られると考えられている。
本発明は、上記構成の防汚膜付き基体において、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される基体の表面に酸化ケイ素膜を上記条件で形成することで、得られる防汚膜付き基体の耐摩耗性を高いレベルに引き上げることを可能としたものである。
なお、本発明における酸化ケイ素膜による上記効果は、特許文献1における酸化ケイ素膜による効果とは明らかに区別される。これは、後述の実施例において確認された通り、特許文献1の防汚膜付き基体は、耐摩耗性は改善されているものの、本発明の成膜時のガス圧及び成膜厚を選択することに比べ、非常に低いレベルでの改善にとどまっていることから明らかと言える。
図1は、本発明の防汚膜付き基体の一実施形態の断面図を示す。本発明の第1の実施形態の防汚膜付き基体1は、透明基体2と、該透明基体2の主面上にスパッタリング法により、成膜時のガス圧0.5Pa以下で形成され、4〜10nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜3と、酸化ケイ素膜3上に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜4とを有する。
本発明の第2の実施形態の防汚膜付き基体1では、酸化ケイ素膜3は、成膜時のガス圧0.3Pa以下で形成され、4〜20nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜である。
本発明の第3の実施形態の防汚膜付き基体1では、酸化ケイ素膜3は、成膜時のガス圧0.1Pa以下で形成され、4〜100nmの膜厚を有し、第4の実施形態の防汚膜付き基体では、成膜時のガス圧0.7Pa以下、基板の温度が250℃〜300℃で形成され、4〜20nmの膜厚を有する。以下、本発明の防汚膜付き基体を構成する各構成要素について説明する。
(透明基体)
透明基体2としては、平滑で、可視光を透過し得るものであれば、特に限定することなく用いることができる。具体的には、例えば、無色透明なソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス(SiO−Al−NaO系ガラス)、リチウムアルミノシリケートガラス、石英ガラス、無アルカリガラス、その他のガラスからなる透明ガラス板や、そのような透明ガラス板の表面に化学強化を施した強化ガラス板、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリエーテルスルホン、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー等の単独のプラスチックフィルムあるいは複数種のプラスチックの積層フィルム等のプラスチックフィルムを用いることができる。
透明基体2としては、その上面に設ける層との密着性の観点から、ソーダライムシリケートガラス板を用いることが好ましい。また、強度の点からは、アルミノシリケートガラス板を強化した強化ガラス板(例えば、登録商標:ドラゴントレイル等)を用いることが好ましい。
本発明の防汚膜付き基体は、その使用形態を考慮すると、透明基体2の強度が十分であることが好ましい。したがって、透明基体2は、アルミノシリケートガラス板を強化した強化ガラス板であることが好ましい。アルミノシリケートガラス板を構成するガラス材料としては、例えば以下の組成のガラス材料が使用される。すなわち、モル%で表示した組成が、SiOを50〜80%、Alを1〜20%、NaOを6〜20%、KOを0〜11%、MgOを0〜15%、CaOを0〜6%及びZrOを0〜5%含有するガラス材料が使用される。
アルミノシリケートガラス板を強化した強化ガラス板の表面には、圧縮応力層が形成されており、その圧縮応力層の厚さは好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上である。また、圧縮応力層における表面圧縮応力は、200MPa以上であることが好ましく、550MPa以上であることがより好ましい。アルミノシリケートガラス板に化学強化を施す方法は、典型的には、アルミノシリケートガラス板を、KNO溶融塩に浸漬し、イオン交換処理した後、室温付近まで冷却する方法が挙げられる。KNO溶融塩の温度や浸漬時間などの処理条件は、表面圧縮応力及び圧縮応力層の厚さが所望の値となるように設定すればよい。透明基体2として前記プラスチックフィルムを用いる場合には、ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることが好ましい。
透明基体2の厚さは特に限定されないが、透明基体2を上述したガラス基板で構成する場合、0.1〜2mmが好ましく、0.3〜1mmがより好ましい。透明基体2の厚さが2mmを超えると、基体が重くなりすぎ実用的でないため好ましくない。また、透明基体2の厚さが0.5mm未満の場合には、強度及び上層に形成する膜の保持性が不十分となるおそれがある。
透明基体2を上述したプラスチックフィルムで構成する場合、その厚さは50〜200μmが好ましい。なお、透明基体2は、単一の層で構成されていてもよく、複数の層が積層された積層板でもよい。
(酸化ケイ素膜)
酸化ケイ素膜3は、透明基体2上にスパッタリング法によって形成される。本発明の第1の実施形態において、酸化ケイ素膜3は成膜時のガス圧が0.5Pa以下で形成され、4〜10nmの膜厚を有する。
本発明の防汚膜付き基体1は、酸化ケイ素膜3の膜厚が小さいほど繰り返しの拭き取り操作等に対して防汚性の低下が抑制された耐摩耗性に優れ、反射率を低減し優れた視認性を有する。成膜時のガス圧を小さくすることにより耐摩耗性に優れ、膜厚に依存せず優れた耐摩耗性が付与されることから、酸化ケイ素膜3は、本発明の第2の実施形態では、成膜ガス圧が0.3Pa以下で形成され、4〜20nmの膜厚を有し、第3の実施形態では、成膜ガス圧が0.1Pa以下で形成され、4〜100nmの膜厚を有する。成膜ガス圧とは、スパッタリング法で成膜する際のガスの全圧をいい、最低ガス圧はスパッタリング法で実現可能な最低ガス圧である。酸化ケイ素膜の膜厚は、触針式表面粗さ測定器(以下、触診式段差計ともいう。)により測定して得られた厚さである。
酸化ケイ素膜3が、成膜時のガス圧が0.5Paを超えて形成されかつ膜厚が10nmを超える場合、ガス圧が0.3Paを超えて形成されかつ膜厚が20nmを超える場合、ガス圧が0.1Paを超えて形成されかつ膜厚が100nmを超える場合には十分な擦り耐久性が得られないため好ましくない。また、膜厚が4nm未満であると安定した膜厚の制御ができないおそれがあり好ましくない。更に、酸化ケイ素膜3は、成膜時のガス圧が0.1Pa以下で形成され、4〜20nmの膜厚を有することが好ましい。
スパッタリング法としては、DC(直流)スパッタリング方式、AC(交流)スパッタリング方式、RF(高周波)スパッタリング方式等を用いるスパッタリング法を用いることができる。これらのスパッタリング方式は2極スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法のいずれの方法であってもよい。さらに、これらの中でも、RFマグネトロンスパッタリング法またはACスパッタリング法は、プロセスが安定しており、装置構造が簡単な直流電源または交流電源を使用するので操作しやすく、膜厚制御の点で有利な成膜方法である。さらに、大面積への成膜が容易であるため好適に用いられる。
DCマグネトロンスパッタリング法には、パルス波状に電圧を印加する方法が含まれる。このようなパルス化DCマグネトロンスパッタリング法は、異常放電の防止に有効である。ターゲットの種類とスパッタリング方式、条件等の好適な組み合わせについては後述する。
スパッタガスとしては、各種不活性ガス及び反応性ガスを用いることができる。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等の希ガスが挙げられる。これらの中でも、経済性及び放電のし易さの点から、アルゴンが好ましい。反応性ガスとしては、例えば、酸素ガス、酸素ガスと不活性ガスとの混合ガス、窒素ガスと不活性ガスとの混合ガス等を用いることができる。また、スパッタガスとして、窒素ガス(N)以外に、窒素原子を含むガスであるNO、NO、NO、NH等を用いることもできる。なお、これらのガスは、単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
ターゲットとしては、ケイ素又はケイ素酸化物を主成分とするものが用いられる。ケイ素又はケイ素酸化物を主成分とするターゲットとしては、ケイ素又はケイ素酸化物のみからなるもの、またはケイ素又はケイ素酸化物を主成分として含み、かつケイ素以外の元素、例えばホウ素、リン等公知のドーパントを本発明の特徴を損なわない範囲でドープしたものが挙げられる。具体的には、ケイ素を主成分とするものとして多結晶シリコンターゲット、ケイ素酸化物を主成分とするものとして酸化ケイ素ターゲット等が用いられる。
絶縁体であるケイ素酸化物を主体とするターゲットを用いる場合には、RFスパッタリング法によってスパッタリングを行う。ターゲットが絶縁体等の高抵抗材料である場合には、スパッタ電極(カソード)からの電子がターゲット表面にまで供給されない。例えばターゲットに直流電圧を印加するDCスパッタリング法では、ターゲット表面が次第に正に帯電し、正イオンがターゲットに入射するのに十分な負電位を維持することができなくなる。その結果スパッタリングガスとターゲットから放出される二次電子数が減少し、ガスがプラズマ化されなくなり放電が維持できなくなる。RFスパッタリング法では、ターゲット表面が帯電するまでの時間よりも短い周期で間欠的に負電位を印加し、放電を維持してスパッタリングを行うものである。また、高周波数の電力を印加することにより、ターゲット―基体間の電子密度が低くても、ガス分子と電子の衝突回数が増加し、イオンの生成効率が高まるため放電が維持される。
酸化ケイ素ターゲットを用いる場合には、RFマグネトロンスパッタリング法が絶縁物の薄膜が形成できるため好ましく、スパッタガスとしては、不活性ガスであるアルゴンガスを用いることが、得られる膜の組成がターゲットの組成から大きくずれることがないため好ましい。また、酸化性雰囲気下で反応性スパッタリング法により酸化ケイ素膜3を形成することもできる。
導電体である多結晶シリコンターゲットを用いる場合には、スパッタリング法は特に限定されないが、ACスパッタリング法が、装置構造が簡単で操作しやすく、緻密な膜を形成できるとともにアーキングの発生が少ないため好ましい。
反応性スパッタリング法により、ケイ素またはケイ素酸化物を主成分とするターゲットを用いて酸化ケイ素膜3を形成する場合には、酸化性雰囲気下でスパッタリングすることにより、酸化ケイ素膜3の組成を制御できる。なお、酸化性雰囲気とは、不活性ガス中に酸化性ガスを含む雰囲気である。酸化性ガスとは、O、HO、CO、COなどの酸素原子含有ガスを意味する。酸化性ガスの濃度は、酸化ケイ素膜3の光透過率などの特性に大きく影響する。したがって、酸化性ガスの濃度は装置、基板温度、スパッタリング圧力など、使用する条件で、最適化する必要がある。
Ar−Oガス(ArとOの混合ガス)系のスパッタガスが、ガスの組成を制御しやすい点で特に好ましい。Ar−Oガス系においてケイ素又はケイ素酸化物を主成分とするターゲットを用い、反応性スパッタリングを行う場合には、透明で反射率の低い膜が得られることから、O濃度は20〜100体積%であることが好ましい。スパッタガスにおける酸素ガス及びAr等の不活性ガスの分圧は特に限定されず、グロー放電が安定に行われる圧力であればよい。透明基体2の温度は室温(25℃)であればよく、基体が変形するおそれがあるため400℃以下であることが好ましい。より好ましくは250℃〜300℃である。
本発明の第4の実施形態では、酸化ケイ素膜3は、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.7Pa以下、透明基体2の温度250〜300℃で形成され、4〜20nmの膜厚を有する。成膜時の基体温度及び膜厚をこのようにすることで、擦り耐久性に優れる防汚膜付き基体を得ることができる。
成膜ガス圧が0.7Paを超える場合には、擦り耐久性向上の効果を得ることができないため好ましくない。また、基体温度は、優れた擦り耐久性の向上の効果を得ることができるため、250℃〜300℃が好ましい。膜厚が4nm未満であると安定した膜厚の制御ができないおそれがあり、20nmを超えると擦り耐久性を十分に得ることができない。
スパッタリング法により酸化ケイ素膜3を形成する場合、各ターゲットの電力密度(投入電力をターゲットの面積で割った値)は、0.1〜10W/cmであるのが好ましく、0.5〜7W/cmであるのがより好ましい。電力密度が0.1W/cm未満である場合は、放電が安定しない。電力密度が10W/cmを超えると、発生した熱でターゲットが割れるおそれがある。
本発明において、基体の搬送速度は投入電力及び所望の膜厚に応じて決定すればよく、膜厚を4〜10nmで形成する場合には0.01m/秒〜0.02m/秒、4〜20nmで形成する場合には0.008m/秒〜0.02m/秒、4〜100nmで形成する場合には0.005m/秒〜0.02m/秒であることが好ましい。
(含フッ素有機ケイ素化合物被膜)
本発明の実施形態の防汚膜付き基体1において、酸化ケイ素膜3の表面に、含フッ素有機ケイ素化合物被膜4の形成を行う。この含フッ素有機ケイ素化合物被膜4は、下記する被膜形成用組成物を、酸化ケイ素膜3の上に塗布した後加熱処理する方法、または酸化ケイ素膜3の上面で撥水剤を気相蒸着させた後加熱処理する方法などにより形成することができる。塗布方法としては、スピンコート、ディップコート、キャスト、スリットコート、スプレーコート、蒸着法等が挙げられる。加熱処理の温度は、80〜200℃が好ましく、生産性の点から、80〜100℃が特に好ましい。被膜形成用組成物の反応性を高めるために、加熱処理の際に湿度を制御してもよい。
本発明の実施形態の防汚膜付き基体1において、透明基体2に強固に密着した含フッ素有機ケイ素化合物被膜4を得るには、上記のようにして得られる酸化ケイ素膜形成透明基体2の表面状態を保持したまま、被膜の形成を行うことが必要とされる。そのため、含フッ素有機ケイ素化合物被膜4は、真空蒸着法により形成されることが好ましい。なお、含フッ素有機ケイ素化合物被膜の形成は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する被膜形成用組成物を用いて行われる。
本発明に用いる被膜形成用組成物は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物であって、被膜形成が可能な組成物であれば、特に制限されない。被膜形成用組成物は含フッ素加水分解性ケイ素化合物以外の任意成分を含有してもよく、含フッ素加水分解性ケイ素化合物のみで構成されてもよい。任意成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲で用いられる、フッ素原子を有しない加水分解性ケイ素化合物(以下、「非フッ素水分解性ケイ素化合物」という)、触媒等が挙げられる。
なお、含フッ素加水分解性ケイ素化合物、及び、任意に非フッ素加水分解性ケイ素化合物を被膜形成用組成物に配合するにあたって、各化合物はそのままの状態で配合されてもよく、その部分加水分解縮合物として配合されてもよい。また、該化合物とその部分加水分解縮合物の混合物として被膜形成用組成物に配合されてもよい。
また、2種以上の加水分解性ケイ素化合物を組み合わせて用いる場合には、各化合物はそのままの状態で被膜形成用組成物に配合されてもよく、それぞれが部分加水分解縮合物として配合されてもよく、さらには2種以上の化合物の部分加水分解共縮合物として配合されてもよい。また、これらの化合物、部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物の混合物であってもよい。ただし、用いる部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物は、蒸着が可能な程度の重合度のものとする。以下、加水分解性ケイ素化合物の用語は、化合物自体に加えてこのような部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物を含む意味で用いられる。
(含フッ素加水分解性ケイ素化合物)
本発明に用いる含フッ素加水分解性ケイ素化合物は、得られる含フッ素有機ケイ素化合物被膜が、撥水性、撥油性等の防汚性を有するものであれば特に限定されない。
具体的には、パーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基及びパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有する含フッ素加水分解性ケイ素化合物が挙げられる。これらの基は加水分解性シリル基のケイ素原子に連結基を介してまたは直接結合する含フッ素有機基として存在する。なお、パーフルオロポリエーテル基とは、パーフルオロアルキレン基とエーテル性酸素原子とが交互に結合した構造を有する2価の基をいう。なお本発明における含フッ素加水分解性ケイ素化合物の数平均分子量は、2000〜10000であることが好ましく、3000〜5000であることがより好ましい。数平均分子量が前記範囲内であることで防汚性能が十分に発現され、耐摩耗性にも優れた膜とすることができる。なお、本明細書における数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより測定されたものをいう。
上に説明したように、含フッ素加水分解性ケイ素化合物が透明基体2の表面で反応して得られる被膜においては、上記含フッ素有機基が被膜の表面付近に存在することで、撥水性、撥油性等の防汚性を有する被膜となる。これらの基を有する含フッ素加水分解性ケイ素化合物の具体例としては、下記一般式(I)〜(V)で表される化合物等が挙げられる。本明細書において、一般式(I)で示される化合物を、化合物(I)ということもある。他の一般式で示される化合物も同様である。
Figure 2013155398
式(I)中、Rf1は炭素数1〜16の直鎖状のパーフルオロアルキル基(アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等)、Rは水素原子または炭素数1〜5の低級アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等)、Xは加水分解可能な基(例えば、アミノ基、アルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基、イソシアネート基等)またはハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、mは1〜50、好ましくは1〜30の整数、nは0〜2、好ましくは1〜2の整数、pは1〜10、好ましくは1〜8の整数である。
化合物(I)において、Rf1の炭素数は1〜4が好ましい。また、Rはメチル基が好ましい。Xで示される加水分解性基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
2q+1CHCHSi(NH) …(II)
式(II)中、qは1以上、好ましくは2〜20の整数である。
一般式(II)で表される化合物としては例えば、n−トリフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)プロピルシラザン(n−CFCHCHSi(NH)、n−ヘプタフロロ(1,1,2,2−テトラヒドロ)ペンチルシラザン(n−CCHCHSi(NH)等を例示することができる。
2r+1CHCHSi(OCH …(III)
式(III)中、rは1以上、好ましくは1〜20の整数である。
一般式(III)で表される化合物としては、2−(パーフルオロオクチル)エチルトリメトキシシラン(n−C17CHCHSi(OCH)等を例示することができる。
Figure 2013155398
式(IV)中、Rf2は、−(OC−(OC−(OCF−(s、t、uはそれぞれ独立に0〜200の整数)で表わされる2価の直鎖状パーフルオロポリエーテル基であり、R、Rは、それぞれ独立に炭素原子数1〜8の一価炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等)である。X、Xは独立に加水分解可能な基(例えば、アミノ基、アルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基、イソシアネート基等)またはハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)であり、d、eは独立に1〜2の整数であり、c、fは独立に1〜5(好ましくは1〜2)の整数であり、a及びbは独立に2または3である。
化合物(IV)が有するRf2においてs+t+uは、20〜300であることが好ましく、25〜100であることがより好ましい。また、R、Rはメチル基、エチル基、ブチル基が好ましい。X、Xで示される加水分解性基としては、炭素数1〜6 のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。また、a及びbはそれぞれ3が好ましい。
F−(CF−(OC−(OC−(OCF(CHO(CH Si(X3−k(R ・・・(V)
式(V)中、vは1〜3の整数であり、w、y、zはそれぞれ独立に0〜200の整数であり、hは1または2であり、iは2〜20の整数であり、Xは加水分解性基であり、Rは炭素数1〜22の直鎖または分岐の炭化水素基であり、kは0〜2の整数である。w+y+zは、20〜300であることが好ましく、25〜100であることがより好ましい。また、iは2〜10であることが好ましい。Xは、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。Rは、炭素数1〜10のアルキル基が好ましい。
また、市販されているパーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基及びパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物として、KP−801(商品名、信越化学工業社製)、X−71(商品名、信越化学工業社製)、KY−130(商品名、信越化学工業社製)、オプツ−ル(登録商標)DSX(商品名、ダイキン工業社製)などが好ましく使用できる。
なお、市販品の含フッ素加水分解性ケイ素化合物について、これが溶剤とともに供給される場合には、溶剤を除去して使用される。本発明に用いる、被膜形成用組成物は、上記含フッ素加水分解性ケイ素化合物と必要に応じて添加される任意成分を混合することで調製され、蒸着に供される。
このような含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物を透明基体2の酸化ケイ素膜形成面に付着させ反応させて成膜することで含フッ素有機ケイ素化合物被膜が得られる。なお、具体的な蒸着方法、反応条件については従来公知の方法、条件等が適用可能である。また、例えば、以下に説明する本発明の含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体の製造方法により製造できる。
含フッ素有機ケイ素化合物被膜の膜厚は外観およびコストの観点から50nm以下が好ましく、その下限は単分子層の厚さである。被膜の膜厚は2〜30nmがより好ましく、5〜20nmが特に好ましい。
[防汚膜付き基体の製造方法]
本発明の第1の実施形態の防汚膜付き基体の製造方法は、透明基体上に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体を製造する方法であって、以下の(1)工程及び(2)工程を具備する。
(1)前記透明基体の前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面に成膜ガス圧0.5Pa以下、膜厚10nm以下で酸化ケイ素膜を形成する工程。(以下、酸化ケイ素膜形成工程ともいう。)
(2)前記(1)工程で処理された透明基体の表面上に含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物を反応させて前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する工程(以下、成膜工程ともいう。)
また、本発明の第2の実施形態では、前記(1)工程は、(1)前記透明基体の前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面に、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.3Pa以下、4〜20nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜を形成する工程であり、第3の実施形態では、(1)前記透明基体の前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面に、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.1Pa以下、4〜100nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜を形成する工程であり、第4の実施形態では、(1)前記透明基体の前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面に、スパッタリング法により、成膜時のガス圧が0.7Pa以下、透明基体の温度が250℃〜300℃で4〜20nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜を形成する工程である。
このような本発明の製造方法によれば、透明基体上に含フッ素有機ケイ素化合物被膜が高い密着性をもって形成されることで、得られる防汚膜付き基体において、優れた撥水性や撥油性等の防汚性と高レベルでの耐摩耗性の両立が可能となる。
図2〜4は本発明の防汚膜付き基体の製造方法の一実施形態に使用可能な装置を模式的に示す図である。以下、図2〜4を参照しながら各工程について説明する。
図2は、本発明の防汚膜付き基体の製造に使用可能なスパッタリング装置の一例を概略的に示す図であり、図3は、本発明の防汚膜付き基体の製造に使用可能な成膜装置の一例を概略的に示す図である。本発明の一実施形態では、図2及び図3に示す装置を用いる。この場合、透明基体2は図2の左側から右側に向かって搬送手段21により搬送されながら図2に示す真空チャンバー22内で、上記(1)酸化ケイ素膜形成工程を行い、真空チャンバー22より取出された後、図3に示す搬送手段31によって真空チャンバー32内で(2)成膜工程を順に経ることで防汚膜付き基体1となる。図4は本発明の防汚膜付き基体の製造に使用可能な装置の一例を概略的に示す図であり、図4に示す装置を用いた場合、透明基体2は図4の左側から右側に向かって搬送手段41により搬送されながら、真空チャンバー42内で、上記(1)酸化ケイ素膜形成工程、(2)成膜工程を順に経ることで防汚膜付き基体1となる。
本発明の第1の実施形態における酸化ケイ素膜形成工程は、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.5Pa以下、膜厚10nm以下で酸化ケイ素膜を形成する工程であり、図2及び図4に示すように、通常、チャンバー22又は42内で行われる。
図2に示す装置を用いた本発明の製造方法における実施形態では、透明基体2は、真空チャンバー(成膜槽)22に導入される前に、真空チャンバー22に連結され、独立に給排気可能に構成された前室23に搬送される。透明基体2の搬送後、前室23を密閉した上で、前室23と真空チャンバー22の間の扉(図示せず)を開けて真空チャンバー22へ透明基体2を搬送する。真空チャンバー22内には、(1)酸化ケイ素膜形成工程のためのスパッタリング装置5が設置されている。
密閉状態で一定の内圧を保ったまま、真空チャンバー22から酸化ケイ素膜を形成した透明基体を取り出すために、真空チャンバー22の前室23と連結する側の反対側は、独立に給排気可能に構成された基体取り出し室24に連結されている。真空チャンバー22から基体取り出し室24に蒸着前の透明基体を搬送する際には、基体取り出し室24を真空状態とする。その後、基体取り出し室24から蒸着前の透明基体を取り出す際には、基体取り出し室24と真空チャンバー22の間の扉(図示せず)を閉めることで、真空チャンバー22は密閉され内部の圧力は保持される。
図2に示すスパッタリング装置5は、真空チャンバー22内に設置されたスパッタ電極51、スパッタ電極51上に配置されたターゲット6、スパッタ電極51に電力を供給する交流電源7を有している。真空チャンバー22には、透明基体2を搬送する搬送手段21、スパッタガスを供給するガス供給路25が設置されており、スパッタ電極51は、外部にある交流電源7と接続されている。
ターゲット6は酸化ケイ素形成材料を平板上に形成したもの等であり、後述するように、搬送手段21上の透明基体2が搬送される位置と対向するようにスパッタ電極51上に配置される。また、透明基体2は図示されないが接地されている。本実施形態では、ターゲット6として酸化ケイ素ターゲット又は多結晶シリコンターゲットを用いることにより、所望の膜厚を有する酸化ケイ素膜を形成することができる。
スパッタ電極51は、複数の磁石が所定の方向に配置された構造を有しており、図示しないトランスを介して交流電源7に接続され、0〜20kWの交番電界が印加できるように構成されている。スパッタ電極51には、ターゲット6が保持されている。
真空チャンバー22には、アルゴンガス等のスパッタガスを供給するガス供給手段が設けられている。ガス供給手段は例えば、ガス供給路25及び図示しないガスボンベなどから構成することができる。また、スパッタガスの流量を調節するスパッタガス流量調節手段として、マスフローコントローラーなどを備えてもよい。
スパッタガスとしては、アルゴンと酸素の混合ガス等を用いる。
スパッタガスボンベとマスフローコントローラーは、いずれも真空チャンバー22の外部に設けることができる。
真空チャンバー22内に、ガス供給路25を介してスパッタガスが供給された状態で、スパッタ電極に交流電源7から交番電界が印加されると、ターゲット6の周辺のスパッタガスの一部が電子を放出してイオン化する。スパッタ電極51に配置された磁石により、ターゲット6の表面に漏洩磁界が形成されるため、この電子は、ターゲット6の表面近傍に発生した磁界中を、トロイダル曲線を描きながら周回する。この電子の軌道に沿って強いプラズマが発生し、このプラズマにより形成されたターゲット表面の電圧降下層(陰極暗部)でスパッタガスのイオンが加速され、ターゲット6に衝突することで、ターゲット6の表面の原子や粒子(この場合酸化ケイ素分子や酸化ケイ素粒子、ケイ素原子、ケイ素粒子等)が叩き出される。叩き出された酸化ケイ素粒子等は、透明基体2の表面に付着して酸化ケイ素膜が形成される。酸素ガスなどを導入して、反応性スパッタリングを行う場合には、叩き出されたSi原子やSi粒子がスパッタガス中の酸素原子や酸素粒子等と結合して酸化ケイ素膜を形成する。
スパッタリングターゲットを用いて、透明基体2の含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面、すなわち被照射面2aに酸化ケイ素膜3を形成する方法については、上記の通りである。
スパッタリングターゲットの前面と透明基体2の被照射面2aとの間の距離は、上記プラズマが安定に形成される範囲となるように設定されれば特に制限されないが、装置の小形化の観点から30〜200mmが好ましく、50〜100mmがより好ましい。また、透明基体2の搬送速度についても、酸化ケイ素膜の膜厚が上記範囲となるように設定されれば特に制限されないが、生産性の観点から、0.005〜0.02m/秒が好ましく、0.01〜0.02m/秒がより好ましい。
酸化ケイ素膜形成工程に用いられるスパッタリングターゲットとしては、例えば、酸化ケイ素ターゲット(アルバック社製)、多結晶シリコーンターゲット(アルバック社製)等が使用可能である。
(2)成膜工程
次いで、上記(1)工程で酸化ケイ素膜が形成された透明基体の処理面に、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物を付着させ反応させる。含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物を、上記と同様に、被膜形成用組成物という。
被膜形成用組成物を酸化ケイ素膜形成透明基体の処理面に付着させる方法としては、含フッ素加水分解性ケイ素化合物の層を形成するのに通常用いられる方法であれば特に制限されず、例えば、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。用いる含フッ素加水分解性ケイ素化合物の分解を抑える点、及び、装置の簡便さより、真空蒸着法が好ましい。
特に、図2に示すスパッタ装置に続いて、図3に示す装置を用いて真空チャンバー32内で上記(1)工程の直後に、被膜形成用組成物をプラズマ処理透明基体の処理面に付着させる場合や、酸化ケイ素膜形成工程(1)と成膜工程(2)を同一チャンバー内で連続して行うには、真空蒸着法が好適である。
真空蒸着法としては、抵抗加熱法、電子ビーム加熱法、高周波誘導加熱法、反応性蒸着、分子線エピタキシー法、ホットウォール蒸着法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法等に細分することができるが、いずれの方法も適用することができる。用いる含フッ素加水分解性ケイ素化合物の分解を抑制する点、及び、装置の簡便さより、抵抗加熱法が好適に利用できる。真空蒸着装置は特に制限なく、公知の装置が利用できる。以下、図3に示す真空チャンバー32内で真空蒸着法、特に抵抗加熱法による真空蒸着装置8を用いて、被膜形成用組成物を酸化ケイ素膜を形成した透明基体の処理面に付着させる方法について説明する。
図3に示す真空蒸着装置において、真空チャンバー32内の圧力は、生産安定性の観点から、1Pa以下に維持されることが好ましく、0.1Pa以下がより好ましい。この真空度であれば、抵抗加熱法による真空蒸着を問題なく行うことができる。
真空チャンバー32には、真空チャンバー22と同様に、図示しない扉を介して前室33と基体取出し室35が設けられ、これらにより、前室23、真空チャンバー22及び取出し室25と同様に操作し、真空チャンバー32内の真空状態を保持することができる。
真空蒸着装置8は、真空チャンバー32外に被膜形成用組成物を加熱する加熱容器81と、真空チャンバー32内に、加熱容器81から蒸気を供給する配管82と、配管82に接続され加熱容器81から供給される蒸気をプラズマ処理透明基体の処理面に噴射するための噴射口を有するマニホールド83が備えられている。また、真空チャンバー32内において、酸化ケイ素膜形成透明基体2は、マニホールド83の噴射口とプラズマ処理透明基体2の処理面とが対向するように保持されている。
加熱容器81は、蒸着源である被膜形成用組成物が十分な蒸気圧を有する温度にまで加熱できる加熱手段を有する。被膜形成用組成物の種類によるが加熱温度は、具体的には30℃〜400℃が好ましく、50℃〜300℃が特に好ましい。加熱温度が上記範囲の下限値以上であると、成膜速度が良好になる。上記範囲の上限値以下であると、含フッ素加水分解性ケイ素化合物の分解が生じることなく、基材表面に防汚性を有する被膜を形成できる。
ここで、本発明においては、真空蒸着の際に、加熱容器81内の含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する被膜形成用組成物を蒸着開始温度まで昇温した後、その蒸気を所定の時間、系外に排出する前処理を設けることが好ましい。この前処理により、含フッ素加水分解性ケイ素化合物が通常含有する、得られる被膜の耐久性に影響を与える低分子量成分等を除去でき、さらには、蒸着源から供給する原料蒸気の組成を安定化が可能となる。これにより、耐久性の高い含フッ素有機ケイ素化合物被膜を安定して形成することが可能となる。
具体的には、加熱容器81の上部に、マニホールド83へと接続される配管82とは別に、初期蒸気を系外に排出するための開閉自在な排気口に接続する配管(図示せず)を設け、系外でトラップする等の方法をとればよい。
また、真空蒸着時における、酸化ケイ素膜を形成した透明基体2の温度は室温(20〜25℃)から200℃までの範囲であることが好ましい。プラズマ処理透明基体2の温度が200℃以下であると、成膜速度が良好になる。プラズマ処理透明基体2の温度の上限値は150℃がより好ましく、100℃が特に好ましい。
なお、マニホールド83は加熱容器81から供給される蒸気が凝縮するのを防止するため、加熱できるようにヒーターを備えていることが好ましい。配管82については、その途中で加熱容器81からの蒸気が凝縮するのを防ぐために、加熱容器81と共に加熱されるように設計することが好ましい。
また、成膜速度を制御するために、上記配管82上に可変バルブ84を設け、真空チャンバー32内に設けられた膜厚計35での検出値に基づいて上記可変バルブ84の開度を制御することが好ましい。このような構成を設けることで、酸化ケイ素膜形成透明基体2の処理面に供給する含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物の蒸気の量を制御することが可能となる。これにより、酸化ケイ素膜軽視え透明基体2の処理面に精度よく目的とする厚さの被膜を形成できる。なお、膜厚計35としては、水晶振動子モニタ等を用いることができる。さらに、膜厚の測定は、例えば、膜厚計35として、薄膜解析用X線回折計ATX−G(RIGAKU社製)を用いた場合には、X線反射率法により反射X線の干渉パターンを得て、該干渉パターンの振動周期から算出することができる。
このようにして、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物が、上記(1)工程で、例えば、成膜時のガス圧が0.5Pa以下、4〜10nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜が形成された透明基体の処理面に蒸着する。さらに蒸着と同時にまたは蒸着後、含フッ素加水分解性ケイ素化合物が加水分解縮合反応することにより、上記処理により水酸基の密度が増した透明基体の表面に化学結合するとともに、分子間でシロキサン結合することで含フッ素有機ケイ素化合物被膜となる。
この含フッ素加水分解性ケイ素化合物の加水分解縮合反応は、蒸着と同時に上記透明基体のプラズマ処理された表面で進行するが、さらにこの反応を十分に促進させるために、必要に応じて、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成された透明基体を、真空チャンバーから取り出した後、ホットプレートや恒温恒湿槽を使用した加熱処理を行ってもよい。加熱処理の条件としては、例えば、80〜200℃の温度で10〜60分間の加熱処理が挙げられる。
なお、図4に示すようにスパッタリング装置5と真空蒸着装置8を同一チャンバー42内に配置して、酸化ケイ素膜と含フッ素有機ケイ素化合物被膜を連続して形成することもできる。この場合の好ましい条件は上述したものと同様である。この場合には、酸化ケイ素膜が形成される透明基体2の位置と真空蒸着装置8で含フッ素加水分解性ケイ素化合物が蒸着される透明基体2の位置は、互いに処理の影響を受けない距離、具体的には200mm以上離れていることが好ましく、さらに処理を別々の真空チャンバーで行うことが好ましい。
本発明の製造方法により上記のようにして得られる含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体は、撥水性や撥油性等の防汚性に優れるとともに、繰り返しの払拭操作等にも耐えうる高い耐摩耗性を有するものである。これは、上記(1)の酸化ケイ素膜形成工程により、用いる基体表面に酸化ケイ素膜を形成し、この酸化ケイ素膜が防汚膜との密着性を向上させた結果であると考える。
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。例1〜6が実施例であり、例7〜9が比較例である。
[例1〜9]
本実施例においては、図2に示すものと同様の装置すなわち真空チャンバー22内で酸化ケイ素膜形成を行える装置及び図3に示すものと同様の装置すなわち真空チャンバー32内で真空蒸着処理が行える装置を用いて、以下の手順によりガラス基板上に含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成して、例1、2、7、8の防汚膜付き基体1、2、7、8を得た。また、図4に示すものと同様の装置、すなわち真空チャンバー42内に酸化ケイ素膜を形成できる装置と真空蒸着処理が行える装置を設置して以下の手順によりガラス基板上に酸化ケイ素膜及び含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成して例3〜6の防汚膜付き基体3〜6を得た。また、図3に示すものと同様の装置を用いて、酸化ケイ素膜を形成せず、含フッ素有機ケイ素化合物被膜のみを形成した防汚膜付き基体9を得た。得られた防汚膜付き基体1〜9について撥水性の耐摩耗試験を行い評価した。
(装置、防汚膜付き基体の構成材料、原料)
図2に示すものと同様の装置として、基体を搬送する搬送手段21、前室23、真空チャンバー22、基体取り出し室24を有するインターバック式スパッタリング装置(装置名:SIV−3545(アルバック社製))のスパッタ電極に、スパッタリングターゲットを保持させた装置を用いた。図3に示すものと同じ装置として、基体を搬送する搬送手段31、前室33、真空チャンバー32、基体取り出し室34を有する縦型インライン成膜装置(装置名:SDP−850VT(アルバック社製))に縦型蒸着源(日立造船株式会社製)を設置した装置を用いた。
図4に示すのと同様の装置としては、基体を搬送する搬送手段41、前室43、真空チャンバー42、基体取り出し室44を有する縦型インライン成膜装置(装置名:SDP−850VT(アルバック社製))の真空チャンバー42内に、基体搬送上流側に交流電源9(装置名:TruPlasma 3020(ヒュチンガ社製)、)に接続された交流マグネトロンカソード(アルバック社製)、またそれより下流側に縦型蒸着源(日立造船株式会社製)を設置した装置を用いた。
透明基体2として、厚さが1.1mm、1辺の長さが100mmの正方形のソーダライムガラス基板、Dragontrail(商品名:旭硝子社製)を用いた。なお、図2〜図4に示す装置にかける前に、ガラス基板に対して、アルカリ洗剤、サンウォッシュTL2%液(商品名、ライオン社製)による洗浄と、それに続いて超純水での超音波洗浄を実施した。
含フッ素有機ケイ素化合物被膜形成用の組成物として、オプツール(登録商標)DSX(商品名、ダイキン工業社製)剤(含フッ素有機基を有する加水分解性ケイ素化合物の20質量%パーフルオロヘキサン溶液)から以下の方法で溶剤を除去したものを用いた。
(防汚膜付き基体の製造)
例1、2と例7、8においては、図2に示すものと同様の装置を用い、インターバック式スパッタリング装置5の真空チャンバー22内の搬送手段21にガラス基板2を設置し、55mm/分(=0.9mm/秒)で搬送した。スパッタ電極に、酸化ケイ素ターゲット(558mm×126mm、厚さ6mm、(アルバック社製)を保持させて、RFマグネトロンスパッタリング法により、酸化ケイ素膜を形成した。ガラス基板2の温度は表1のようにした。スパッタ電極は、RF交流電源7(装置名:RFS−50C(アルバック社製))に接続し2.7kWのRF電力を印加した。その後、真空チャンバー22より取出した酸化ケイ素膜を形成したガラス基板2を、真空チャンバー32内の縦型インライン成膜装置の搬送手段31に設置して、真空蒸着装置8を用いた被膜形成用組成物(含フッ素加水分解性ケイ素化合物)の真空蒸着による含フッ素有機ケイ素化合物被膜10nmの形成を後述のように行った。
例3〜6では、図4に示すのと同様の装置を用い、インライン成膜装置の搬送手段41にガラス基板2を設置し、900mm/分で搬送した。交流マグネトロンカソードには、多結晶シリコンターゲット(600mm×126mm、厚さ12mm)アルバック社製)2本を保持させた。交流電源より、2.7kW、4.7kW、6.6kW、及び8kWの交流電力を印加し、それぞれ4nm、7nm、10nm、12nmの酸化ケイ素膜を、ガラス基板2を加熱することなく反応性交流マグネトロンスパッタリングで形成した。続いてカソードよりガラス基板搬送下流側に設置した蒸着源により、含フッ素有機ケイ素化合物被膜10nmの形成を後述のように行った。
例9では、図3に示すものと同様の装置を用いて、酸化ケイ素膜を形成せずに、ガラス基板2の表面に被膜形成用組成物(含フッ素加水分解性ケイ素化合物)の真空蒸着による含フッ素有機ケイ素化合物被膜10nmの形成を後述のように行った。
なお、例1、2、7〜9において真空チャンバー32内の圧力は0.7Pa以下であった。
酸化ケイ素膜形成は、例1、2、7、8においては、スパッタガスとしてアルゴンガスのみを、ガス圧が表1のようになるように導入した。例3〜6においては、酸素ガス50%とアルゴンガス50%の混合ガスを、ガス圧(真空チャンバー42内の圧力)0.06Paとなるよう導入した。各例において、導入ガス量は各ガス種でプラズマが安定に放電する最低流量とした。各例において、所定の電力を交流電源7、9によりスパッタ電極に供給して、スパッタリングを行った。なお、スパッタリングによる酸化ケイ素膜の形成は、スパッタリングターゲット6の前面とガラス基板2の被処理面2aとの距離は、図2に示す装置では60mm、図4に示す装置では80mmとして行った。
ガラス基板2の処理表面への真空蒸着装置8を用いた被膜形成用組成物(含フッ素加水分解性ケイ素化合物)の真空蒸着による含フッ素有機ケイ素化合物被膜形成は、例1、2、7〜9については図3に示されるものと同様縦型インライン成膜装置内、例3〜6については図4に示されるものと同様のインライン成膜装置内で、全て同一の以下の条件で、膜厚が10nmとなるように行った。膜厚の管理は、具体的には水晶振動子モニタで膜厚を測定しながら成膜速度を調整しつつ蒸着することで行った。なお、最終的な膜厚は、成膜後、分光エリプソメトータ(UVISEL:堀場製作所社製)にて測定した。
蒸着材料であるオプツールDSX剤を加熱容器81内に導入した。その後、加熱容器内を真空ポンプで10時間以上脱気して溶液中の溶媒除去を行って含フッ素有機ケイ素化合物被膜形成用の組成物とした。
次いで、上記含フッ素有機ケイ素化合物被膜形成用の組成物が入った加熱容器81を270℃まで加熱した。270℃に到達した後、温度が安定するまで10分間その状態を保持した。その後、所定の位置に酸化ケイ素膜が形成されたガラス基板2を移動して、10nmの膜厚になるように上記水晶振動子モニタで膜厚を測定しながら成膜工程を行った。膜厚が10nmになった時点で成膜工程を終え、真空チャンバー32から基体取り出し室34を経て蒸着膜付きのガラス基板2を取り出した。
取り出された蒸着膜付きのガラス基板2は、ホットプレートに膜面を上向きにして設置し、大気中で150℃、60分間熱処理を行い防汚膜付き基体1〜9とした。例1〜9で得られた防汚膜付き基体1〜9について擦り耐久性を、以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
(擦り耐久性(耐摩耗性)試験)
まず、上記で得られた防汚膜付き基体の防汚膜表面の水接触角を測定した。次に、以下の方法で擦り試験を実施し、所定の擦り回数終了後ごとに防汚膜表面の水の接触角を測定した。防汚膜表面の水接触角の測定は、自動接触角計DM−501(協和界面科学製)を用いて、純水1μLを滴下して行った。防汚膜表面における水接触角の測定箇所は10箇所として、その平均を算出して評価に用いた。
具体的な擦り試験の方法は、以下の手順で実施した。すなわち、まず底面が10mm×10mmである平面金属圧子の表面に平織り綿布金巾3号を装着して、サンプルを擦る摩擦子とした。
次に、上記摩擦子を用い、平面摩耗試験機3連式(大栄科学精器製作所製)にて摩耗試験を行った。具体的には、まず上記圧子の底面がサンプルの防汚膜面に接触するよう摩耗試験機に取り付け、摩擦子への加重が1000gとなるように重りを載せ、平均速さ6400mm/min、片道40mmで往復摺動した。往復1回で擦り回数2回として試験を行った。
Figure 2013155398
また、ガラス基板1を加熱せず(25℃で)、成膜時のガス圧及び膜厚を変更して酸化ケイ素膜3を形成して得られた防汚膜付き基体について、上記擦り耐久試験を擦り回数50k回行った結果を表2に示す。
Figure 2013155398
酸化ケイ素膜を形成する際の成膜ガス圧を0.06Paの一定の条件で、膜厚を変更した例3〜6(実施例)で得られた、防汚膜付き基体3〜6、及び例9(比較例)で得られた防汚膜付き基体9の擦り耐久性(耐摩耗性)試験の結果を図5に示す。この結果から、成膜ガス圧が0.1Pa以下であれば、膜厚が4〜20nmの範囲で良好な擦り耐久性が得られることがわかる。
形成する酸化ケイ素膜の膜厚を10nmと一定とし、酸化ケイ素膜形成時の成膜ガス圧及び基体温度を変更した例1、2(実施例)、例7〜9(比較例)で得られた、防汚膜付き基体1、2、7〜9の擦り耐久性(耐摩耗性)試験の結果を図6に示す。この結果から、基体温度が250〜300℃であると擦り耐久性に優れた防汚膜付き基体を得られることが分かる。これに比べて例7〜9で得られた防汚膜付き基体7〜9では、十分な擦り耐久性を得られていないことが分かる。
1…防汚膜付き基体、2…透明基体、3…酸化ケイ素膜、4…防汚膜、5…スパッタ装置、6…スパッタリングターゲット、7,9…交流電源、8…真空蒸着装置、31…搬送手段、32…真空チャンバー、33…前室、34…基体取り出し室、35…膜厚計、
51…スパッタ電極、81…加熱容器、82…配管、83…マニホールド、84…可変バルブ

Claims (11)

  1. 透明基体と、
    前記透明基体の主面上に形成された酸化ケイ素膜と、
    前記酸化ケイ素膜の表面に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜とを有し、
    前記酸化ケイ素膜は、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.5Pa以下で形成され、4〜10nmの膜厚を有することを特徴とする防汚膜付き基体。
  2. 透明基体と、
    前記透明基体の主面上に形成された酸化ケイ素膜と、
    前記酸化ケイ素膜の表面に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜とを有し、
    前記酸化ケイ素膜は、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.3Pa以下で形成され、4〜20nmの膜厚を有することを特徴とする防汚膜付き基体。
  3. 透明基体と、
    前記透明基体の主面上に形成された酸化ケイ素膜と、
    前記酸化ケイ素膜の表面に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜とを有し、
    前記酸化ケイ素膜は、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.1Pa以下で形成され、4〜100nmの膜厚を有することを特徴とする防汚膜付き基体。
  4. 透明基体と、
    前記透明基体の主面上に形成された酸化ケイ素膜と、
    前記酸化ケイ素膜の表面に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜とを有し、
    前記酸化ケイ素膜は、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.7Pa以下、基板の温度が250℃〜300℃で形成され、4〜20nmの膜厚を有することを特徴とする防汚膜付き基体。
  5. 前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜は、蒸着法によって形成された被膜である請求項1〜4のいずれか1項記載の防汚膜付き基体。
  6. 前記透明基体がガラス基板であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の防性汚膜付き基体。
  7. 透明基体上に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体を製造する方法であって、以下の(1)工程及び(2)工程を具備する。
    (1)前記透明基体の前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面に、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.5Pa以下、4〜10nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜を形成する工程。
    (2)前記(1)工程で形成された酸化ケイ素膜の表面上に前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する工程。
  8. 透明基体上に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体を製造する方法であって、以下の(1)工程及び(2)工程を具備する。
    (1)前記透明基体の前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面に、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.3Pa以下、4〜20nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜を形成する工程。
    (2)前記(1)工程で形成された酸化ケイ素膜の表面上に前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する工程。
  9. 透明基体上に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体を製造する方法であって、以下の(1)工程及び(2)工程を具備する。
    (1)前記透明基体の前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面に、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.1Pa以下、4〜100nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜を形成する工程。
    (2)前記(1)工程で形成された酸化ケイ素膜の表面上に前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する工程。
  10. 透明基体上に形成された含フッ素有機ケイ素化合物被膜を有する防汚膜付き基体を製造する方法であって、以下の(1)工程及び(2)工程を具備する。
    (1)前記透明基体の前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される表面に、スパッタリング法により、成膜ガス圧0.7Pa以下、透明基体の温度が250℃〜300℃で4〜20nmの膜厚を有する酸化ケイ素膜を形成する工程。
    (2)前記(1)工程で形成された酸化ケイ素膜の表面上に前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する工程。
  11. 前記(2)工程が、
    前記(1)工程で形成された酸化ケイ素膜の表面上に含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物を蒸着法により反応させて前記含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する工程である請求項7〜10のいずれか1項記載の防汚膜付き基体の製造方法。
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