JP2013100586A - チタン銅及びその製造方法 - Google Patents

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Takatsugu Hatano
隆紹 波多野
Yuki Kawasaki
由記 川崎
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Abstract

【課題】 高強度及び高ノッチ曲げ性を兼備したチタン銅及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 1.5〜5.0質量%のTiを含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、引張強さが800MPa以上であり、板厚に対し45〜55%の断面位置である板厚方向の中央部において、板厚方向と平行にEBSD測定を行い、結晶方位を解析したときに、Cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が5%以上、Brass方位{1 1 0}<1 1 2>の面積率が40%以下、Copper方位{1 1 2}<1 1 1>の面積率が20%以下であるチタン銅。
【選択図】図1

Description

本発明はチタン銅及びその製造方法に関し、より詳細には、コネクタ、端子、リレ−、スイッチ等の導電性ばね材に好適に用いられるチタン銅及びその製造方法に関する。
電子機器の各種端子、コネクタ、リレー、スイッチなどの電気伝導性及びばね性が必要な材料として、製造コストを重視する場合には低廉な黄銅が用いられ、ばね性が重視される場合にはりん青銅が用いられ、ばね性及び耐食性が重視される場合には洋白が用いられてきた。しかしながら、近年の電子機器類及びその部品の軽量化、薄肉化および小型化に伴い、これらの材料では強度を十分に向上させることが難しいため、チタン銅などのいわゆる高級ばねの需要が増大している。
JIS合金番号C1990に規定されるチタン銅は、溶体化処理の後に時効処理を行うことにより製造される。溶体化処理では、鋳造や熱間圧延の際に生成した粗大なCu−Ti化合物をCu母地に固溶させると同時にCu母地を再結晶させ、再結晶粒の結晶粒径を調整する。時効処理においてはCu3TiまたはCu4Tiの微細粒子を析出させ、これらの微細粒子が引張り強さ、耐力、ばね限界値などの強度特性の向上に寄与する。
銅合金板をコネクタ等の電気・電子部品にプレス加工する際、曲げ加工部の寸法精度を向上させるため、あらかじめ銅合金板表面にノッチング加工と呼ばれる切り込み加工を施し、この切り込みに沿って銅合金板を曲げることがある(以下、ノッチ曲げともいう)。このノッチ曲げは、例えば車載用メス端子のプレス加工において多用されている。ノッチング加工により銅合金は加工硬化し延性を失うため、続く曲げ加工において銅合金に割れが生じやすくやすくなる。したがって、ノッチ曲げに用いられる銅合金には、特に良好な曲げ加工性が求められる。
チタン銅の曲げ性を改善する技術として、例えば特許文献1では、Cube方位{001}<100>({200}面のX線回折強度に相当)を高め、Brass方位{110}<112>({220}面のX線回折強度に相当)を抑制する方策が提唱されている。そのための製造方法として、(1)鋳造、(2)熱間圧延(950℃から400℃に温度を下げながら行う)、(3)冷間圧延(加工度50%以上)、(4)中間焼鈍(450〜600℃、導電率を1.5倍以上に硬さを0.8倍以下に調整する)、(5)冷間圧延(加工度70%以上)、(6)溶体化処理(700〜980℃、結晶粒径5〜25μm)、(6)冷間圧延(加工度0〜50%)、(7)時効処理(400〜600℃)を順次行う工程が開示されている。
特開2011−26635号公報
本発明者らは、特許文献1に記載の発明の効果について検証試験を行った。その結果、特許文献1の技術ついて、曲げ加工性をW曲げ試験で評価した場合に、一定の改善効果が認められた。しかしながら、ノッチ曲げに対しては、十分といえる曲げ加工性が得られなかった。そこで、本発明は、高強度及び高ノッチ曲げ性を兼備したチタン銅及びその製造方法を提供することを課題とする。
従来技術では、銅合金の結晶方位をX線回折法等で解析し、得られたデータに基づき銅合金の特性を改良している。通常、X線等は銅合金表面に照射され、このとき得られる情報は銅合金の極表層の方位情報である。
一方、本発明者らは、ノッチ曲げに対しては、銅合金板内部の結晶方位を制御する必要があることを見出した。これはノッチング加工により、曲げの内角が板内部に移動するためである。そして、板厚方向中央部の結晶方位をノッチ曲げに対して適正化し、この結晶方位を得るための製造方法を明らかにした。
また、本発明者らは結晶方位の解析において、より精密な測定が可能であるEBSD法を用いた。EBSD(Electron Back Scatter Diffraction:電子後方散乱回折)とは、SEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折(菊池パターン)を利用して結晶方位を解析する技術である。
以上の知見を背景にして完成した本発明は一側面において、1.5〜5.0質量%のTiを含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、引張強さが800MPa以上であり、板厚に対し45〜55%の断面位置である板厚方向の中央部において、板厚方向と平行にEBSD測定を行い、結晶方位を解析したときに、Cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が5%以上、Brass方位{1 1 0}<1 1 2>の面積率が40%以下、Copper方位{1 1 2}<1 1 1>の面積率が20%以下のチタン銅である。
本発明に係るチタン銅は一実施形態において、Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si及びZrのうち1種以上を総量で0〜1.0質量%含有する。
また、本発明は別の一側面において、1.5〜5.0質量%のTiを含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなるインゴットを作製し、このインゴットを800〜1000℃の温度から熱間圧延することにより、厚みを5〜20mm、導電率を10%IACS以上に調整した後、加工度30〜99.5%の冷間圧延、軟化度0.20〜0.80の予備焼鈍、加工度3〜50%の冷間圧延、700〜900℃で5秒間〜30分間の溶体化処理、加工度0〜50%の冷間圧延、350〜550℃で2〜20時間の時効処理、加工度0〜40%の冷間圧延を順次行う方法であり、
前記軟化度は、温度Tのときの軟化度をSとして次式で示される、チタン銅の製造方法である:
S=(σ0−σ)/(σ0−σ900
(ここで、σ0は予備焼鈍前の引張強さであり、σおよびσ900はそれぞれ予備焼鈍後および900℃で焼鈍後の引張強さである)。
本発明に係るチタン銅の製造方法は一実施形態において、前記インゴットがAg、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si及びZrのうち1種以上を総量で0〜1.0質量%含有する。
本発明は更に別の一側面において、上記チタン銅を備えた伸銅品である。
本発明は更に別の一側面において、上記チタン銅を備えた電子機器部品である。
本発明によれば、高強度及び高ノッチ曲げ性を兼備したチタン銅及びその製造方法を提供することができる。
本発明に係る合金を種々の温度で焼鈍したときの焼鈍温度と引張強さとの関係を示すグラフである。 実施例におけるノッチ曲げ試験の試験手順を示す図である。
(Ti濃度)
Ti濃度を1.5〜5.0質量%とする。チタン銅は、溶体化処理によりCuマトリックス中へTiを固溶させ、時効処理により微細な析出物を合金中に分散させることにより、強度及び導電率を向上させる。
Ti濃度が1.5質量%未満になると、析出物の析出が不充分となり所望の強度が得られない。ここで、チタン銅に所望される強度とは、引張強さで800MPa以上、より好ましくは引張強さで850MPa以上である。一方、Ti濃度が5.0質量%を超えると、ノッチ曲げ性が著しく劣化する。より好ましいTi濃度は2.9〜3.4質量%である。
(その他の添加元素)
Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si及びZrのうち1種以上を総量で0〜1.0質量%含有させることにより、引張強さを更に向上させることができる。これら元素の合計含有量が0質量%、すなわち、これらの元素を含まなくてもよい。一方、これら元素の合計含有量が1.0質量%を超えると、曲げ加工性が劣化する。
より好ましくは、上記元素のうち1種以上を総量で0.005〜0.5質量%含有させる。
(結晶方位)
チタン銅では、Cube方位が多くBrass方位およびCopper方位が少ない場合に、不均一な変形が抑制され、曲げ性が向上する。ここで、Cube方位とは、圧延面法線方向(ND)に(0 0 1)面が、圧延方向(RD)に(1 0 0)面が向いている状態であり、{0 0 1}<1 0 0>の指数で示される。Brass方位とは、NDに(1 1 0)面が、RDに(1 1 2)面が向いている状態であり、{1 1 0}<1 1 2>の指数で示される。Copper方位とは、NDに(1 1 2)面が、RDに(1 1 1)面が向いている状態であり、{1 1 2}<1 1 1>の指数で示される。
板厚中央部におけるCube方位の面積率が5%未満になるとノッチ曲げ性が急激に低下する。そこで、板厚中央部におけるCube方位の面積率を5%以上、より好ましくは10%以上とする。
板厚中央部におけるCube方位の面積率の上限値は、本発明が目的とするノッチ曲げ性の点からは特に規制されない。ただし、後述する条件で製造した本発明でのチタン銅では、Cube方位の面積率が80%を超えることはない。
板厚中央部におけるCopper方位の面積率が20%を超えると、またBrass方位の面積率が40%を超えると、ノッチ曲げ性が急激に悪化する。このため、板厚中央部におけるCopper方位の面積率及びBrass方位の面積率をそれぞれ20%以下および40%以下、より好ましくはそれぞれ15%以下および30%以下とする。
板厚中央部におけるCopper方位の面積率、及び、Brass方位の面積率の下限値は、ノッチ曲げ性の点からは規制されないが、後述する条件で製造した本発明でのチタン銅では、板厚中央部におけるCopper方位の面積率及びBrass方位の面積率のいずれかが1%未満になることはない。
ここで、板厚の中央部とは、板厚に対し45〜55%の断面位置を指す。
(製造方法)
チタン銅の一般的な製造プロセスでは、まず溶解炉で電気銅、Ti等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに鋳造する。チタンの酸化損耗を防止するため、溶解及び鋳造は真空中又は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。その後、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理の順で所望の厚みおよび特性を有する条や箔に仕上げる。熱処理後には、熱処理時に生成した表面酸化膜を除去するために、表面の酸洗や研磨等を行ってもよい。また、高強度化のために、溶体化処理と時効の間や時効後に冷間圧延を行ってもよい。
本発明では、上述の結晶方位を得るために、溶体化処理の前に、熱処理(以下、予備焼鈍ともいう)及び比較的低加工度の冷間圧延(以下、軽圧延ともいう)を行い、さらに熱間圧延上がりの導電率を所定の範囲に調整する。
予備焼鈍は、熱間圧延後の冷間圧延により形成された圧延組織中に、部分的に再結晶粒を生成させることを目的に行う。圧延組織中の再結晶粒の割合には最適値があり、少なすぎてもまた多すぎても上述の結晶方位が得られない。最適な割合の再結晶粒は、下記に定義する軟化度Sが0.20〜0.80になるよう、予備焼鈍条件を調整することにより得られる。
図1に本発明に係る合金を種々の温度で焼鈍したときの焼鈍温度と引張強さとの関係を例示する。熱電対を取り付けた試料を950℃の管状炉に挿入し、熱電対で測定される試料温度が所定温度に到達したときに、試料を炉から取り出して水冷し、引張強さを測定したものである。試料到達温度が600〜800℃の間で再結晶が進行し、引張強さが急激に低下している。高温側での引張強さの緩やかな低下は、再結晶粒の成長によるものである。
予備焼鈍における軟化度Sを次式で定義する。
S=(σ0−σ)/(σ0−σ900
ここで、σ0は焼鈍前の引張強さであり、σおよびσ900はそれぞれ予備焼鈍後および900℃で焼鈍後の引張強さである。900℃という温度は、本発明に係る合金を900℃で焼鈍すると安定して完全再結晶することから、再結晶後の引張強さを知るための基準温度として採用している。
Sが0.20未満になると、板厚中央部において、Brass方位が40%を超え、これに伴いCube方位の面積率の低下も生じる。
Sが0.80を越えると、板厚中央部において、Copper方位の面積率が20%を超え、これに伴いCube方位の面積率の低下も生じる。
予備焼鈍の温度、時間および冷却速度は特に制約されず、Sを上記範囲に調整することが重要である。一般的には、連続焼鈍炉を用いる場合には炉温400〜850℃で5秒間〜10分間の範囲、バッチ焼鈍炉を用いる場合には炉温350〜600℃で30分間〜20時間の範囲で行われる。
なお、予備焼鈍条件の設定は、次の手順により行うことができる。
(1)予備焼鈍前の材料の引張り強さ(σ0)を測定する。
(2)予備焼鈍前の材料を900℃で焼鈍する。具体的には、熱電対を取り付けた材料を950℃の管状炉に挿入し、熱電対で測定される試料温度が900℃に到達したときに、試料を炉から取り出して水冷する。
(3)上記900℃焼鈍後の材料の引張強さ(σ900)を求める。
(4)例えば、σ0が1150MPa、σ900が350MPaの場合、軟化度0.20及び0.80に相当する引張強さは、それぞれ990MPa及び510MPaである。
(5)焼鈍後の引張強さが510〜990MPaとなるように、予備焼鈍の条件を求める。
上記予備焼鈍の後、溶体化処理に先立ち、加工度3〜50%の軽圧延を行う。加工度R(%)は次式で定義する。
R=(t0−t)/t0×100(t0:圧延前の板厚,t:圧延後の板厚)
加工度がこの範囲から外れると板厚中央部のCube方位の面積率が5%未満になる。
上記予備焼鈍および軽圧延の実施に加え、熱間圧延上がりの導電率を10%IACS以上、より好ましくは15%IACS以上に調整することにより、本発明の結晶方位が得られる。該導電率が10%IACS未満になると、Copper方位およびBrass方位の面積率が増加し、Cube方位面積率が5%未満になる。
通常のチタン銅の熱間圧延は、後の溶体化熱処理での負荷を下げるために、Tiをできるだけ溶体化する(Cu中に固溶させる)条件で行われる。このためチタン銅の通常の熱間圧延上がりの導電率は2〜5%IACSである。Tiを溶体化するためには、熱間圧延終了後の冷却の際のTi析出を抑制する必要があるので、熱間圧延後の材料は水冷等により急冷される。
本発明は、熱間圧延においてTiをできるだけ析出させることを意図するものであり、例えば、800〜1000℃に加熱したインゴットを厚み5〜20mmまで圧延した後、熱間圧延後の材料を空冷等により徐冷することにより、上記導電率が得られる。熱間圧延直後の材料を断熱容器に挿入する、バーナーで加熱する、加熱炉に挿入し炉冷するなどし、冷却を積極的に遅らせ析出をより促進することも可能である。ただし、導電率は30%IACSを超えて上げようとすると、冷却に長時間を要し生産効率が極度に低下するため、導電率の上限値を30%IACSにすることが好ましい。
本発明合金の製造方法を工程順に列記すると次のようになる。
(1)インゴットの鋳造
(2)熱間圧延(温度800〜1000℃,厚み5〜20mm程度まで、導電率10%IACS以上)
(3)冷間圧延(加工度30〜99.5%)
(4)予備焼鈍(軟化度:S=0.20〜0.80)
(5)軽圧延(加工度3〜50%)
(6)溶体化処理(700〜900℃で5秒〜30分間)
(7)冷間圧延(加工度0〜50%)
(8)時効処理(350〜550℃で2〜20時間)
(9)冷間圧延(加工度0〜40%)
(10)歪取り焼鈍(300〜700℃で5秒〜10時間)
ここで、冷間圧延(3)の加工度は30〜99.5%とすることが好ましい。予備焼鈍(4)で部分的に再結晶粒を生成させるためには、冷間圧延(3)で歪を導入しておく必要があり、30%以上の加工度で有効な歪が得られる。一方、加工度が99.5%を超えると、圧延材のエッジ等に割れが発生し、圧延中の材料が破断することがある。
冷間圧延(7)及び(9)は高強度化のために任意に行うものである。ただし、圧延加工度の増加とともに強度が増加する反面、Brass方位面積率が増加してCube方位面積率が減少する傾向にある。冷間圧延(7)及び(9)におけるそれぞれの加工度が上記上限値を超えると、BrassおよびCube方位面積率が本発明の規定から外れ、ノッチ曲げで割れが発生する。
歪取り焼鈍(10)は、冷間圧延(9)を行う場合にこの冷間圧延で低下するばね限界値等を回復させるために任意に行うものである。歪取り焼鈍(10)の有無に関わらず、板厚中央部の結晶方位制御によりノッチ曲げ性が向上するという本発明の効果は得られる。歪取り焼鈍(10)は行っても良いし行わなくても良い。
なお、工程(6)及び(8)については、チタン銅の一般的な製造条件を選択すればよい。
本発明のチタン銅は種々の伸銅品、例えば板、条及び箔に加工することができ、更に、本発明のチタン銅は、リードフレーム、コネクタ、ピン、端子、リレー、スイッチ、二次電池用箔材等の電子機器部品等に使用することができる。
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
(実施例1)
3.2質量%のTiを含有し残部が銅及び不可避的不純物からなる合金を実験材料とし、熱間圧延上がりの導電率、予備焼鈍条件及び軽圧延条件と結晶方位との関係、さらに結晶方位が製品の曲げ性および機械的特性に及ぼす影響を検討した。
真空溶解炉にて電気銅2.5kgを溶解し、上記合金組成が得られるよう合金元素を添加した。この溶湯を鋳鉄製の鋳型に鋳込み、厚さ30mm、幅60mm、長さ120mmのインゴットを製造した。このインゴットを、次の工程順で加工し、板厚0.15mmの製品試料を作製した。
(1)熱間圧延:インゴットを950℃で3時間加熱し、厚さ10mmまで圧延した。熱間圧延上がりの導電率を変化させたるために、圧延直後の材料を次の三通りの方法で冷却した。
(A)水槽中に投入する(水冷)。
(B)大気中に放置する(空冷)。
(C)200〜400℃に昇温した電気炉に挿入した後、炉の通電を切って炉内で冷却する(炉冷)。
(2)研削:熱間圧延で生成した酸化スケールをグラインダーで除去した。研削後の厚みは9mmであった。
(3)冷間圧延:軽圧延の圧延加工度に応じ、所定の厚みまで冷間圧延した。
(4)予備焼鈍:所定温度に調整した電気炉に試料を挿入し、所定時間保持した後、試料を水槽に入れ冷却した。
(5)軽圧延:種々の圧延加工度で、厚み0.2mmまで冷間圧延を行った。
(6)溶体化処理:800℃に調整した電気炉に試料を挿入し、10秒間保持した後、試料を水槽に入れ冷却した。溶体化処理後の結晶粒径は約10μmであった。
(7)冷間圧延:加工度25%で厚さ0.15mmまで冷間圧延した。
(8)時効処理:電気炉を用い400℃で8時間、Ar雰囲気中で加熱した。
熱間圧延後の試料、予備焼鈍後の試料および製品試料(この場合は時効上がり)について、次の評価を行った。
(熱間圧延後の導電率測定)
熱間圧延後の試料表面を機械研磨し、スケールを除去するとともに平坦化した。この表面において、接触式電気抵抗測定装置(フェルスター社製シグマテストD2.068)を用い、周波数60kHzの条件で導電率を測定した。
(予備焼鈍での軟化度評価)
予備焼鈍前および予備焼鈍後の試料につき、引張試験機を用いてJIS Z 2241に準拠し圧延方向と平行に引張強さを測定し、それぞれの値をσ0およびσとした。また、900℃焼鈍試料を前記手順(950℃の炉に挿入し試料が900℃に到達したときに水冷)で作製し、圧延方向と平行に引張強さを同様に測定しσ900を求めた。σ0、σ、σ900から、軟化度Sを求めた。
S=(σ0−σ)/(σ0−σ900
(製品の結晶方位測定)
板厚方向中央部において、Cube方位、Copper方位及びBrass方位の面積率をEBSDにより測定した。板厚中央部の結晶方位を解析するための試料として、試料の一方の表面から板厚中央部までを塩化第二鉄溶液を用いたエッチングにより除去し、その後、機械研摩とコロイダルシリカ砥粒により鏡面に仕上げた。仕上げ後の試料の厚みは、元の板厚に対し45〜55%の範囲であった。
EBSD測定では、結晶粒を200個以上含む、500μm四方の試料面積に対し、0.5μm のステップでスキャンし、方位を解析した。理想方位からのずれ角度については、共通の回転軸を中心に回転角を計算し、ずれ角度とした。例えば、S方位(2 3 1)[6 −4 3]に対して、(1 2 1)[1 −1 1]は(20 10 17) 方向を回転軸にして、19.4°回転した関係になっており、この角度をずれ角度とした。共通の回転軸は最も小さいずれ角度で表現できるものを採用した。全ての測定点に対してこのずれ角度を計算して小数点第一位までを有効数字とし、Cube方位、Copper方位、Brass方位のそれぞれから15°以内の方位を持つ結晶粒の面積を全測定面積で除し、面積率とした。EBSDによる方位解析において得られる情報は、電子線が試料に侵入する数10nmの深さまでの方位情報を含んでいるが、測定している広さに対して充分に小さいため、面積率として記載した。
(製品の引張り試験)
引張試験機を用いてJIS Z2241に準拠し圧延方向と平行に引張強さを測定した。
(製品のノッチ曲げ試験)
試験手順を図2に示す。板厚tに対し深さ1/3tのノッチング加工を施した。ノッチ先端の角度は90度とし、先端に幅0.1mmの平坦部を設けた。次に、JIS H3100に準拠し、内曲げ半径をtとし、Good Way方向(曲げ軸が圧延方向と直交)にW曲げ試験を行った。そして、曲げ断面を機械研磨及びバフ研磨で鏡面に仕上げ、光学顕微鏡で割れの有無を観察した。割れが認められない場合を○、割れが認められた場合を×と評価した。
表1に評価結果を示す。
発明例は、いずれも本発明が規定する条件で熱間圧延、予備焼鈍および軽圧延を行ったものであり、板厚中央部の結晶方位が本発明の規定を満たし、ノッチ曲げで割れが発生せず、950MPa以上と高い引張強さが得られた。
比較例1は、予備焼鈍での軟化度が0.20未満になったため、Brass方位面積率が40%を超え、Cube方位面積率が5%未満となった。比較例2は、予備焼鈍での軟化度が0.80を超えたため、Copper方位面積率が20%を超えた。
比較例3および4は、軽圧延の加工度が本発明の規定から外れたものであり、Cube方位面積率が5%未満となった。
比較例5は、熱間圧延上がりの導電率が10%未満であったため、Brass方位面積率が40%を超え、Copper方位面積率が20%を超え、Cube方位面積率が5%未満となった。
比較例6は、従来のチタン銅の製造方法に準じて製造されたものであり、熱間圧延後では水冷を行い、予備焼鈍および軽圧延を行わず、そのまま板厚0.2mmまで圧延したものである。Brass方位面積率が40%を超え、Copper方位面積率が20%を超え、Cube方位面積率が5%未満になった。
比較例7は、先行文献1が提唱する製造方法に準じて製造されたものであり、熱間圧延後では水冷を行い、軽圧延の加工度を70%以上としたものである。Copper方位面積率が20%を超えた。
以上の比較例では、Cube、BrassまたはCopper方位の面積率が本発明の規定から外れた結果、ノッチ曲げで割れが発生した。
(実施例2)
実施例1で示したノッチ曲げ性の改善効果が、異なる成分および製造条件のチタン銅系合金でも得られるかについて検討した。
まず、実施例1と同様の方法で鋳造を行い、表2の成分を有するインゴットを得た。
(1)熱間圧延:インゴットを950℃で3時間加熱し、厚さ10mmまで圧延した。圧延直後の材料水冷または空冷により冷却した。
(2)研削:熱間圧延で生成した酸化スケールをグラインダーで除去した。研削後の厚みは9mmであった。
(3)冷間圧延
(4)予備焼鈍:所定温度に調整した電気炉に、試料を挿入し、所定時間保持した後、試料を大気中に放置し冷却した。
(5)軽圧延
(6)溶体化処理:所定温度に調整した電気炉に試料を挿入し、10秒間保持した後、試料を水槽に入れ冷却した。該温度は再結晶粒の平均直径が5〜25μmの範囲になる範囲で選択した。
(7)冷間圧延(圧延1)
(8)時効処理:電気炉を用い所定温度で8時間、Ar雰囲気中で加熱した。該温度は時効後の引張強さが最大になるように選択した。
(9)冷間圧延(圧延2)
(10)歪取り焼鈍:所定温度に調整した電気炉に試料を挿入し、10秒間保持した後、試料を大気中に放置し冷却した。
熱間圧延後の試料、予備焼鈍後の試料および製品試料について、実施例1と同様の評価を行った。表2及び3に評価結果を示す。圧延1、圧延2を行わなかった場合には、それぞれの加工度の欄に0と記している。歪取り焼鈍を行わなかった場合は、温度の欄に「なし」と表記している。












発明例は、いずれも本発明が規定する濃度のTiを含有し、本発明が規定する条件で予備焼鈍および軽圧延を行ったものであり、板厚中央部の結晶方位が本発明の規定を満たし、ノッチ曲げが可能であり、850MPaを超える高い引張強さが得られた。
比較例8は、予備焼鈍での軟化度が0.80を超えたため、Copper方位面積率が20%を超え、Cube方位面積率が5%未満となった。
比較例9は、軽圧延の加工度が本発明の規定から外れたものであり、Cube方位面積率が5%未満となった。
比較例10は、熱間圧延上がりの導電率が10%未満であったため、Brass方位面積率が40%を超え、Copper方位面積率が20%を超え、Cube方位面積率が5%未満となった。
比較例11、12は、それぞれ圧延1および圧延2の加工度が本発明の規定上限値を超えたため、Brass方位の面積率が40%を超え、Cube方位面積率が5%未満となった。
以上の比較例8〜12では、Cube、BrassまたはCopper方位の面積率が本発明の規定から外れた結果、ノッチ曲げで割れが発生した。
比較例13は、Ti濃度が1.5質量%未満であるため、析出物の析出が不充分となり、引張強さは800MPa未満となった。比較例14は、Ti濃度が5.0質量%を超えるため、ノッチ曲げで割れが発生した。

Claims (6)

  1. 1.5〜5.0質量%のTiを含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、引張強さが800MPa以上であり、板厚に対し45〜55%の断面位置である板厚方向の中央部において、板厚方向と平行にEBSD測定を行い、結晶方位を解析したときに、Cube方位{0 0 1}<1 0 0>の面積率が5%以上、Brass方位{1 1 0}<1 1 2>の面積率が40%以下、Copper方位{1 1 2}<1 1 1>の面積率が20%以下であるチタン銅。
  2. Ag、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si及びZrのうち1種以上を総量で0〜1.0質量%含有する請求項1に記載のチタン銅。
  3. 1.5〜5.0質量%のTiを含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなるインゴットを作製し、このインゴットを800〜1000℃の温度から熱間圧延することにより、厚みを5〜20mm、導電率を10%IACS以上に調整した後、加工度30〜99.5%の冷間圧延、軟化度0.20〜0.80の予備焼鈍、加工度3〜50%の冷間圧延、700〜900℃で5秒間〜30分間の溶体化処理、加工度0〜50%の冷間圧延、350〜550℃で2〜20時間の時効処理、加工度0〜40%の冷間圧延を順次行う方法であり、
    前記軟化度は、温度Tのときの軟化度をSとして次式で示される、請求項1又は2に記載のチタン銅の製造方法:
    S=(σ0−σ)/(σ0−σ900
    (ここで、σ0は予備焼鈍前の引張強さであり、σおよびσ900はそれぞれ予備焼鈍後および900℃で焼鈍後の引張強さである)。
  4. 前記インゴットがAg、B、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si及びZrのうち1種以上を総量で0〜1.0質量%含有する請求項3に記載のチタン銅の製造方法。
  5. 請求項1又は2に記載のチタン銅を備えた伸銅品。
  6. 請求項1又は2に記載のチタン銅を備えた電子機器部品。
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