本発明の実施例1について図1〜10において説明すると、本実施例のメディカルコンディョニングウェアは伸縮性を有する編地にて構成し、着用することによって医療又は介護従事者である着用者(1)の体表面にフィットする緊締力を備えたものである。ここで本実施例における「緊締力」とは、編地の伸縮力により着用者(1)の筋肉に付与される力であって、着用者(1)の筋肉を締め付けて該筋肉の伸張を抑制する力のことを意味するものである。
そして、本実施例は相対的に緊締力の異なる3種類の編地、即ち最強緊締部(2)、強緊締部(3)、中緊締部(4)から成るものである。尚、強緊締部(3)、中緊締部(4)は本発明の本体部(5)を構成するものである。そして、これらの緊締力は編地の伸縮性によって付与されるものであり、編地の伸張回復率が大きいほど緊締力が向上するとともに、編地の伸張回復率が小さいほど緊締力が低下するものとなる。
そして、この緊締力は編地の編目密度と本実施例の編地を構成するナイロン繊維とポリウレタン繊維の糸の設計とを適宜変化させることにより4段階に調整することができる。尚、上記編目密度は、編目密度を低くするほど編地の伸張回復率が小さくなる一方、編目密度を高くするほど編地の伸張回復率が高くなる。そのため、編目密度と糸の設計によって緊締力を段階的なものとすることができる。
また、本実施例で使用する編地の縦横方向の相対的な伸びは、縦方向が最も伸びに対する抵抗が大きく、横方向は縦方向よりも若干伸びを許すとともに、バイアス方向に最も伸びるよう構成している。尚、本実施例では着用者(1)の身長方向に編地の縦方向を配置している。
次に、前傾姿勢による骨盤・股関節への影響について以下に説明する。2つの寛骨(8)(腸骨・坐骨・恥骨)と仙骨(10)とから成る骨盤は、両大転子(20)を結ぶ水平線を軸として前方及び後方に回旋し、前傾姿勢と後方伸展を実現する。そのため両足で立脚して前傾姿勢をとる仕事に長時間携わる際には、骨盤の前傾保持力と両大腿骨頭(12)の位置が寛骨臼蓋(11)内で安定することが求められる。
よって医療又は介護従事者は、図10に示す如き医療行為又は介護時において常に股関節上に残る骨盤の前傾姿勢が求められることから、その位置を確保する体幹と骨盤・股関節を繋ぐ筋肉の収縮力が必要とされる。ここで、上記前傾姿勢は両股関節上で骨盤が前方に傾くことによってなされる。そのため、この前傾姿勢の動作時に骨盤後方にあって骨盤底に位置する坐骨と大腿骨(9)とを繋ぐ筋肉と、骨盤と大転子(20)とを繋ぐ筋肉とが重要な役割を持つ。
また、前傾時で体幹の重みを支える腰背部筋の弱化、いわゆる持続的収縮力に対応しきれずに招く筋肉の疲労によって筋肉の伸びを抑制するため、前傾姿勢に必要な力が弱化することにより、腰痛が発生する。従って、本発明では前傾姿勢時の前傾した骨盤を支える腰背部筋の作用を補強し、前傾姿勢における姿勢保持を良好にすることを目的としている。そこで、骨盤前傾状態で下肢と骨盤とを安定させることにより、骨盤から始まる体幹筋の仕事量が軽減されて疲労軽減につながり、上記目的が達成されると考えられる。
前傾姿勢は、骨盤と体幹とを繋ぐ脊柱起立筋が伸張しながら力を発揮して実現する。この能力は体幹を前屈させる能力の一端であって、立位からの前傾は、骨盤の前傾位を支える下肢と骨盤とを繋ぐ筋肉の能力が重要となる。特に、骨盤と下肢とを直接つなぐ筋肉であるハムストリング筋(7)と大殿筋(6)は重要性を持っている。
そこで本実施例では、伸びない方向が縦に強く、最も緩む方向がバイアス方向であるという特殊な編地から成る最強緊締部(2)を配置している。上記伸びない方向、これは筋肉にたとえて言い換えると縮む方向となり、この縮む方向と拮抗するのが伸びる方向である。人間の筋肉にも伸びる方向と縮む方向とがあり、一つの関節を介してその付着する筋肉の収縮方向で屈曲伸展運動が行われる。
人間が前傾姿勢をとる際には体幹が前屈する。この体幹前屈では、体幹を起立させる作用を主とする脊柱起立筋が短収縮方向に伸ばされつつ力を発揮し、この収縮方法は運動学的にいえばエキセントリック収縮である。そのため、前傾姿勢時には脊柱起立筋は常にエキセントリック収縮を強いられ、伸ばされながら力を発揮し、前傾角度が決まればその前傾角度でアイソメトリック収縮を維持する。
そしてこの前傾姿勢を安定させるには、上記に示すエキセントリック収縮力及びアイソメトリック収縮力の持続性が求められることとなる。そこで、本実施例は縦方向に最も強い収縮力を持つとともにバイアス方向にはそれに比して収縮力が弱いという編地の特殊性を活用し、各緊締部の適切な配置を行うことにより、筋収縮時において筋肉に最もダメージを与えるエキセントリック収縮力をサポートするよう構成している。
即ち、筋肉は短収縮方向に力を持ちながら伸張する能力を備えており、この能力により伸びる力が向上する。そこで、縦方向で上方に伸ばされなければならない筋肉に対し、下方に引き戻す力、要するに短収縮方向に力を発揮する編地の張力を活用するため、縦伸びを最大に抑制することを特徴とする最強緊締部(2)を、下記の如く前傾姿勢時に最大に伸ばされる筋肉と拮抗する方向に配置する。この位置こそ、前傾時で最大に緩みながら力を発揮する図9(a)に示す大殿筋(6)とハムストリング筋(7)の上方部である。この配置により、図9(b)の鎖線矢印にて示す前傾姿勢時に招く大殿筋(6)とハムストリング筋(7)の伸びの力に保持力が生じ、前傾姿勢が容易となる。
もう一つの効果は、前傾姿勢時で骨盤とその上方にある体幹の重みを支える軸となる股関節の安定力の向上である。股関節は、図8に示す如く立脚時で寛骨臼蓋(11)に大腿骨頭(12)がはまり込む形をとり、骨盤がぶれることなく安定する。この立脚時での股関節安定に働く筋群、中殿筋、大腿筋膜張筋に加え、骨盤後方から股関節の大転子(20)に付着する梨状筋、双子筋、大腿方形筋、閉鎖筋、そして腸骨稜(17)後方面から仙骨(10)・尾骨に始まり大腿骨(9)の殿筋粗面(13)に付着する大殿筋(6)らがエキセントリック収縮力を発揮し、大腿骨頭(12)を安定させる。
従って、前傾姿勢時の軸となる股関節の安定は、この上記に示す大殿筋(6)と梨状筋、双子筋、大腿方形筋、閉鎖筋とハムストリング筋(7)の伸張性作用の効率をいかに高めるかが重要となる。そこで本実施例では、骨盤と股関節とを着用者(1)の後方で繋ぐ筋肉に対してはエキセントリック収縮力をサポートして後方より骨盤の安定性を高めるとともに、骨盤前方より支える腹直筋、大腰筋、縫工筋、大腿直筋らに対してはその前傾姿勢で求められるコンセントリック収縮力を発揮しやすいよう構成している。
また、背骨と骨盤、骨盤と股関節を繋ぐ筋肉は矢状面上で互いに拮抗的収縮力を発揮して一つの姿勢を構築することから、矢状面に沿う形で緊締力を変化させ、骨盤前傾時で大腿骨(9)と骨盤との位置がしっかり安定するよう骨盤後方において最強緊締部(2)の配置面積を大きくすることにより、伸びながら力を発揮しやすいものとしている。
本実施例の具体的構成について以下に説明すると、図1に示す如く着用者(1)後面において、腸骨稜(17)上端に対応する位置から仙骨(10)に対応する位置を介して大転子(20)外側に対応する位置まで一対の帯状体(14)(15)をそれぞれ左右対称に斜め方向にクロスすることにより、第1最強緊締部(16)を配置している。そしてこの帯状体(14)(15)の形成幅を着用者(1)の仙骨(10)全体を被覆可能な幅としている。上記の如く一対の帯状体(14)(15)をクロスして配置することにより、この第1最強緊締部(16)が着用者(1)後面の仙骨(10)、仙腸関節、及び股関節に対応する位置を被覆するものとなる。
また、この第1最強緊締部(16)は着用者(1)の腸骨に付着する大殿筋(6)、中殿筋、大腿筋膜張筋、梨状筋、大腿方形筋、双子筋、閉鎖筋の一部を上方から押さえる位置にある。尚、上記の如く着用者(1)の仙骨(10)に対応する位置で一対の帯状体(14)(15)がクロスするよう配置することにより、図1の鎖線にて四角に囲まれた仙骨(10)中心に一対の帯状体(14)(15)の緊締力が合流し、この部分において最強緊締力を確実に発揮し得るよう形成している。
以上より、上記第1最強緊締部(16)は着用者(1)の腸骨稜(17)上方に付着する内腹斜筋の下方を補う位置を上端とし、腸骨外唇上に付着する中殿筋の1/2以上を含む位置から腸骨稜(17)前方の大腿筋膜張筋全域に対応する位置に配置されるものとなる。上記の如く第1緊締部を配置することにより、帯状体(14)(15)が着用者(1)の両大転子(20)外側から仙骨(10)中心でクロスされるため、その両側にある仙腸関節が仙骨(10)に固定されて安定性を確保することができる。
また、骨盤から下肢にかけて付着する大殿筋(6)は前傾姿勢時に伸展し、伸張力を持続的に発揮して前傾姿勢を保持するものである。そして図2(a)に示す如く、この大殿筋(6)の走行が仙骨(10)から腸骨稜(17)を上端縁として斜め下方の殿筋粗面(13)にあることから、この大殿筋(6)の筋走行に対して第1最強緊締部(16)が斜め方向に伸びる力となる。
この斜め方向に伸びる力が可動範囲を広める効果をもたらし、前傾姿勢で伸張される大殿筋(6)の伸張性収縮力を高めることができる。即ち、この斜めにやや伸びる力が短縮方向に力を発揮するものとなり、伸びながら力を発揮する大殿筋(6)上方部の伸展力を良好なものにすることができる。そのため、前傾姿勢において骨盤が後方より持続的に支えられるものとなり、前傾姿勢を長時間安定して維持することが可能となる。
また図1に示す如く、上記第1最強緊締部(16)の下端に連続して、着用者(1)後面において上記大転子(20)外側に対応する位置から大腿部内側上部に向けて斜め下方に帯状に第2最強緊締部(18)を配置している。これにより、第2最強緊締部(18)は着用者(1)後面の坐骨結節(21)、及び大内転筋上部に対応する位置を被覆するものとなる。更に詳細には、図2(b)に示す如く坐骨結節(21)の位置下に付着する、ハムストリング筋(7)を構成する半膜様筋(22)、半腱様筋(23)、及び大腿二頭筋(24)の長頭部の総面積の約1/4を被覆するものとなる。
上記の如き構成とすることにより、第2最強緊締部(18)は前傾時に坐骨から下肢につながるハムストリング筋(7)の伸展性に対して短収縮方向に作用する力を付与し、その伸張性収縮力を向上させることが可能となる。また、この第2最強緊締部(18)と上記第1最強緊締部(16)とを連続させることにより、骨盤の傾きを制御する下肢筋と殿筋の連係された伸展性の筋収縮作用を良好なものとし、前傾姿勢時において骨盤を安定させることができる。
また、着用者(1)の前面には、図3、4に示す如く腸骨稜(17)外側において上記第1最強緊締部(16)に連続して第3最強緊締部(25)を配置している。この第3最強緊締部(25)は、図3に示す如く着用者(1)の前面において鼠径靭帯に対応する位置を被覆するよう下端縁をこの鼠径靭帯の形成方向に配置するとともに着用者(1)前面の骨盤底から腸骨稜(17)上端に対応する位置に向けて上方に拡開したV字型とし、着用者(1)前面の骨盤全体に対応する位置に配置している。
上記の如く第3最強緊締部(25)を配置することにより、図5(a)に示す如く着用者(1)の腹部(30)下方にあって腹圧を高める腹直筋(26)の走行と編地の縦方向が同一方向にあることから、第3最強緊締部(25)はこの腹直筋(26)の筋走行に対しては最大限に伸びを抑える方向に緊締力を発揮するものとなる。また、図5(b)の矢印に示す如く腹斜筋(27)の走行と編地のバイアス方向が同一方向にあることから、この腹斜筋(27)の走行に対してはやや伸びを許す方向に力を発揮するものとなる。
上記の如く第3最強緊締部(25)を配置することにより、着用者(1)の腹筋群全域を上方から押さえて緊張させることができる。ここで、前傾姿勢では図6(a)の矢印にて示す如く、腹部(30)の重みが垂直下方向にかかり、その力は腹筋の拮抗面で体幹の重みを支える腰背部筋によって支えられて前傾姿勢を保持している。そのため、前傾姿勢において下腹筋などの緊張を保持し、図6(b)の鎖線矢印に示す如く支点となる腰椎(28)から荷重線までの距離を短縮することにより、腰背部にある筋群の仕事量を軽減することができる。
即ち、図6(a)に示す如く前傾姿勢では、腹直筋(26)の起始部と停止部の位置が近づくが、重力方向に下がる動きとなって腹直筋(26)が緩む、いわゆる腹筋群がたるんだ状態となる。このように腹筋群の緊張が緩むことによって骨盤前方からの支える力が弱まる結果、下方に落ちようとする腹部(30)の重みが生まれる。
一方、この腹部(30)の拮抗面に存在する背筋の仕事量は腰椎(28)の支点から重点までの距離が大きくなるため、力点である背筋群の筋効率を悪くする。従って、上記の如く第3最強緊締部(25)によって腹筋群の伸びを抑制することにより、図6(b)の鎖線にて示す如く支点から重点までの距離を短くすることが可能となり、これにより背筋群の負担を軽減することができる。
また、第1仙骨は図7(a)に示す如く、立位時には水平面に対して30度の角度を持つ面(32)を備えている。一方前傾姿勢を取った場合には、図7(b)に示す如く水平面と上記面(32)とでなす角度、即ち仙骨角が45度に増大して第5腰椎(31)にかかる剪断力が60%に増大する。そしてこの仙骨角の増大に伴って下位腰椎(28)にかかる前方への剪断力は大きいものとなる。
そのため、前傾姿勢によって腰部にかかるストレスは前傾姿勢の深さに比例して増大し、骨盤を支える脊柱起立筋の収縮力もこれに比例して増大する。そこで、上記の如く第3最強緊締部(25)の緊締力が腹部(30)の緊張を促すことにより、前傾姿勢で招く第5腰椎(31)が仙骨(10)上で前方に下がる力(剪断力)、つまり腹部(30)方向にすべる力を下方から支え、背骨を第1仙骨上で上方に引き上げる脊柱起立筋と腰背筋の仕事量を軽減し得る効果につながる。
上記原理は、バイオメカニクスによって人間のてこの原理として立証されている。本発明はそのてこの原理を考慮したものであって、前傾姿勢時の支点である腰椎(28)への荷重ストレスに対し、力点として作用する脊柱起立筋、腰方形筋、広背筋などの仕事量の効率性を高めることにより、筋膜性腰痛症やぎっくり腰を予防するとともに背筋群の疲労軽減効果を高めることが可能となる。
このように第3最強緊締部(25)を骨盤の前方に配置することにより、骨盤前方から骨盤後方に向けて圧力が生じ、第3最強緊締部(25)の緊締力が下腹筋に腹圧を付与するものとなる。そのため、第3最強緊締部(25)によって下腹筋の収縮力を促し、前傾姿勢をとることにより腹部(30)の緊張が緩むというリスクを回避し、腹部(30)の拮抗面で荷重を支える腰椎(28)への荷重ストレスを軽減させることが可能となる。
また、第3最強緊締部(25)を図5(b)に示す如く腹斜筋(27)の走行に対してやや伸びを許す方向に力を発揮するよう配置することにより、体幹の回旋作用を許して医療又は介護の作業を円滑に行うことが可能となる。更に、図4に示す如くこの第3最強緊締部(25)を腸骨稜(17)外側で第1最強緊締部(16)に連続させることにより、骨盤前方で骨盤中心方向に腹部(30)を持ち上げる力を集結させることが可能となり、下腹筋群の緊張を更に高めることができる。
また図3に示す如く、上記第3最強緊締部(25)の大転子(20)外側から連続して着用者(1)の腸脛靭帯上部に対応する位置まで第4最強緊締部(33)を配置している。即ちこの第4最強緊締部(33)は、股関節の下方となる大腿骨(9)上位端の前方において、大腿筋膜張筋の下方部且つ腸脛靭帯の上方部に位置し、大転子(20)が内旋方向に向かう力を持たせる梨状筋の付着する位置に配置している。
人間が静止状態で立脚する時、股関節内で大腿骨頭(12)が内旋し、図8の鎖線に示す如く寛骨臼蓋(11)内にはめ込まれる。そしてこの時、脚が遊脚期の外旋位から立脚期の内旋位をとる際に作用する筋肉、すなわち梨状筋が外旋位でコンセントリック収縮し、内旋位でエキセントリック収縮する。
そこで、第4最強緊締部(33)の中間位置で縦方向に最強緊締力を保持しながらも、横方向にやや伸びる力を備えた編地が、大殿筋(6)の筋腹中央、つまり大殿筋(6)中間あたりとその深部にある梨状筋が伸展する方向への緊張を緩ませ、伸展力を発揮する筋肉の伸びを補強している。従って、梨状筋の起始部あたりから更に股関節前方にまで第4最強緊締部(33)の横伸びをやや許す力が加わる位置と考え、上記に示す大腿骨(9)上方端の殿筋粗面(13)より前方且つ腸脛靭帯上方の位置で、大腿筋膜張筋の下方部で大転子(20)前方あたりまで第4最強緊締部(33)を配置している。
またこの構成は、梨状筋が付着し、大腿骨頭(12)のローテーションとともに変化する大転子(20)の前方への位置変化に対応している。従って、立脚位で求められる股関節のローテーションをサポートしつつ、股関節ローテーションの最終位置となる大転子(20)移動を制御し、股関節を安定させる効果が得られた。
即ち、遊脚期で求められる股関節ローテーションの自由度は横に伸びる力により補助されるが、股関節最終位となり立脚する位置となった時、大転子(20)の上方で大腿筋膜張筋と中殿筋全域に設定した第4最強緊締部(33)の力が縦伸びを最大に抑制する力を持つことから、大腿筋膜張筋と中殿筋の側方へのぶれを制御する短縮性の収縮力を発揮する。
そして、この第4最強緊締部(33)が立脚期で大腿筋膜張筋及び中殿筋の短縮性筋緊張を引き出し、図8に示す如く大転子(20)の上方から立脚期に求められる大腿骨(9)の側方移動を制御して寛骨臼蓋(11)に大腿骨頭(12)をはめ込む力としている。そのため、立脚期の股関節を骨盤内に安定させる効果を得ることが可能となる。この骨盤内の股関節が安定することにより、前傾姿勢時に骨盤が前方に回旋する動きが起こしやすくなる。
また、上記第2最強緊締部(18)の下方で、坐骨から発する半腱様筋(23)、半膜様筋(22)、大腿二頭筋(24)の上方部から大腿骨(9)全面積の中間あたりまでの距離に、第1強緊締部(34)を配置している。この第1強緊締部(34)は、図1に示す如く大腿骨(9)の外側から膝内側に斜め下方に向けて配置している。この配置方向は、第1強緊締部(34)が持つ斜め方向に最も伸びるとともに、その拮抗方向にも収縮力を備えた編地の作用によって、坐骨・恥骨から始まり大腿内側に付着する股関節内転筋作用を引き出すことができ、ハムストリング筋(7)を内転方向に引き寄せて大腿骨(9)を股関節下に位置させる補助効果を生み出して、膝関節安定効果を高めている。
上記に示した効果に加え、この第1強緊締部(34)が備える縦伸びを最大に抑制する力が、前傾位で伸展する半腱様筋(23)、半膜様筋(22)、及び大腿二頭筋(24)の伸張力をサポートするという効果を有するものである。即ち、前傾姿勢では前述の通り体幹の重みが前方に変化し、骨盤はその前方移動とともに前傾する。
この時、骨盤を下肢につなぐハムストリング筋(7)は伸ばされつつ力を発揮する伸張性筋収縮力が求められる。そのためこの前傾姿勢を安定させるには、直立位の下肢の位置から体幹を支える骨盤の安定性が必要となる。この骨盤の安定性は、骨盤前傾位で保持しなければならないことから、前傾姿勢での下肢筋への仕事量が増大するものとなる。
そこで、前傾姿勢で招く骨盤前方への回旋を下肢後方面で支えるハムストリング筋(7)の起始部よりも下方の筋腱移行部あたりに、第1強緊締部(34)を配置している。上記位置に第2最強緊締部(18)よりも緊締力が一段階弱い第1強緊締部(34)を配置することにより、深い前傾位で求められる骨盤前方回旋を良好に導くことが可能となる。
即ち、上記前傾姿勢における骨盤前方回旋時には、骨盤と下肢とをつなぐハムストリング筋(7)の伸展力は強くなり、伸展範囲も大きくなる。そのため、大腿後面の筋腹あたりはその伸展力の大きさにも対応しつつ、短収縮性方向への力を持ち続けなければならない。従って、大腿後面の最大の筋腹を持つ位置である大腿中央部に最強の緊締力を付与した場合には、当該位置において短縮性収縮方向に力を発揮しすぎるものとなる。
そのため、伸びる方向への緩みまでも制御しすぎる、つまり骨盤前方回旋を過度に制御すると考えられる。そこで、ハムストリング筋(7)の起始部よりも下方の筋腱移行部あたりに第2最強緊締部(18)よりも緊締力が一段階弱い強緊締力を備えた第1強緊締部(34)を配置することにより、深い前傾位で求められる骨盤前方回旋を良好に導くことができる。
また、大腿後面に配置した第2最強緊締部(18)と第1強緊締部(34)とが大腿外側の面積よりも大腿内側の面積を広いものとしている。そのため、大腿骨(9)を内側に引き寄せ、荷重軸となる大腿骨頭(12)下に膝関節を導く力を引き出しやすくなり、恥骨と大腿骨(9)内側面とを繋ぐ恥骨筋、長内転筋、短内転筋、大内転筋、薄筋などの内転筋群の短収縮作用を効果的に発揮しやすいものとなる。
また、股関節の最も近い位置で大腿骨(9)を大腿骨頭(12)下に導く力として強く求められる大腿上方部に働きかける恥骨筋と長内転筋位置下には第2最強緊締部(18)が有する伸びを最強に抑制する力を作用させている。その第2最強緊締部(18)が有する力によって、大腿骨頭(12)下に大腿骨(9)を引き寄せる力を良好に発揮させることが可能となる。
また、第1強緊締部(34)の力を第2最強緊締部(18)よりも一段階弱い強緊締力とすることにより、大腿骨(9)中間の大腿内側部に位置する薄筋、つまり股関節内転運動と膝関節の内側とを補強する薄筋に対して作用しやすいように、第2最強緊締部(18)よりも広い面積としている。また、薄筋は2関節筋であって、その薄筋と内側に位置する半腱様筋(23)、半膜様筋(22)とともに、膝内側部の保護作用にも貢献することから、薄筋に対応する幅広い第1強緊締部(34)の配置面積と位置が、大腿骨頭(12)の中間あたりから膝関節の上方にあたる位置までしっかり補強する力を引き出すことができる。
その作用は、上記に示した大腿骨(9)を大腿骨頭(12)下に導く内転筋作用を更に効率良く発揮することができるものとしている。そして薄筋と半腱・半膜様筋作用を効果的にサポートすることにより、股関節と膝関節をともに安定させ、立脚期で招きやすい膝の外側へのぶれも制御する効果を生み出すものである。
また図3に示す如く、着用者(1)前面において第3最強緊締部(25)の下端に沿った形で第2強緊締部(35)を配置するとともに、この第2強緊締部(35)の外側の一端を第4最強緊締部(33)に連続して配置している。この第2強緊締部(35)は、第4最強緊締部(33)で補った股関節に近い位置であって、上前腸骨棘から始まる縫工筋と、下前腸骨棘から始まる大腿直筋の付着部を補強する位置から大腿内側にある股関節内転筋方向で膝内側部に向かう斜め下方に配置している。
第2強緊締部(35)をこのように配置することにより、大腿四頭筋をバイアス状にサポートすることができる。またこの第2強緊締部(35)は、大腿四頭筋上方で股関節上方の上前腸骨棘から始まり、膝内側にある脛骨上端に向かって走行する縫工筋の筋走行に沿う形としている。
上記の如く第2強緊締部(35)が縫工筋に沿って配置されることから、この第2強緊締部(35)のバイアス方向への伸びが縫工筋の伸展力を高めつつ、その縦方向に短収縮性収縮を発揮する編地のキックバック力も反映し、この作用による大腿部の引き上げ時での短収縮性筋収縮作用も向上し、歩行運動を円滑に導くことができる。また、この第2強緊締部(35)の緊締力の作用を足の振り上げ動作筋、即ち腸腰筋、縫工筋、大腿直筋の上方端に活用しているため、後方にある足を前方に振り上げるときの筋収縮(短縮性収縮力)を発揮しやすくなる。
また、第2強緊締部(35)の持つ収縮力の特徴は、縦に伸びる力を最大に制御するとともにバイアス方向に伸びやすいものである。この編地の収縮力は、膝屈曲位で作業を行う前傾位での医療又は介護動作において、体重を支えてコントロールする大腿四頭筋の伸張力をサポートする力となる。即ち、第2強緊締部(35)が有する縦伸びを強く制御する力は、膝屈曲位での膝関節安定性を最大にコントロールする大腿四頭筋の伸びながら膝屈曲を許し、屈曲角度が決定すれば持続的に筋収縮力を発揮するエキセントリック収縮力に対応するものである。
このエキセントリック収縮力は、常に膝関節の屈曲方向に動く大腿骨(9)を脛骨上で支えて安定させる作用、つまり膝関節の屈曲角度を制御する力となる。そこで、立脚期から医療行為又は介護時の前傾姿勢における膝関節屈曲運動の際に、伸展位にある大腿四頭筋の短縮性収縮力がほどかれ、膝屈曲運動を許す範囲の伸張力(伸びながら力を発揮する)が必須となる。
この立脚期(膝伸展位)から膝屈曲位をとる際には、膝関節屈曲が徐々に大きくなることで大腿四頭筋が伸ばされる力が大きくなる。そして、大腿前方に縦方向に最強に縮む力を配置することにより、膝屈曲位での大腿四頭筋の伸張力を補強することが可能となる。この第2強緊締部(35)の作用効果は、大腿四頭筋の持続的伸張力をサポートする効果を示し、前傾姿勢時での膝関節屈曲位を良好に導くものとなる。その効果は、医療行為又は介護時の動作を容易なものとし、下肢屈曲動作の軸となる膝関節の故障を予防することができる。
また図3に示す如く、着用者(1)前面において第4最強緊締部(33)の下端に連続して第3強緊締部(36)を膝方向に縦長に形成しており、この第3強緊締部(36)は腸脛靭帯を引き続き強緊締力で大腿外側の中間あたりまでサポートしている。そしてこの第3強緊締部(36)下にある腸脛靭帯は、膝関節の下方にある脛骨に付着する靭帯で、股関節と膝関節とを繋いで膝関節を側方より保護している。そのためこの腸脛靭帯を側方よりサポートすることによって、大腿骨(9)の側方へのぶれを制御し、膝関節の側方へのぶれも制御できると考えられる。
また、上記第1強緊締部(34)を配置した大腿後面で膝上方部、大腿中央よりやや下方には、第1中緊締部(37)を配置している。そしてこの第1中緊締部(37)緊締力を第1強緊締部(34)よりも一段階弱とする中緊締部(4)としている。そして、この第1中緊締部(37)に位置するハムストリング筋(7)の筋腹中央より下方に位置する筋群が、前傾位での骨盤前方回旋に伴うハムストリング筋(7)の伸張性が更に求められる位置である。
そのため、ハムストリング筋(7)の筋肉の起始部あたりに第2最強緊締部(18)を、次いでその下方にある筋腹中央へ第1強緊締部(34)を、そしてその下方にある筋肉下方部へは第1中緊締部(37)を配置することにより、伸展方向へ作用する筋肉に対して最大に牽引(伸ばされる)力がかかる位置に最強緊締部(2)が位置し、その位置から徐々に緊締力を低下させ、筋腹が最大であって力を発揮しやすい位置には緊締力の弱い中緊締部(4)が位置するものとなる。これにより、筋肉の収縮、特に伸びながら力を発揮する筋収縮力の効果を高め、その筋肉の持続力を向上させて筋疲労を軽減させる効果を引き出すことができる。
また、大腿前方に配置した第2強緊締部(35)の下方に連続して配置するとともに、第2強緊締部(35)でサポートしている大腿四頭筋中間部の筋腹が最も大きい位置あたりには、第2中緊締部(38)を配置している。そしてこの第2中緊締部(38)の対応位置にある上記大腿四頭筋は、その伸張力とともに横への膨張も認められる。そしてその伸展力が求められる膝上方部は、大腿中間あたりに配置した強緊締力より一段階弱い中緊締部(4)としたことにより横への膨張を促し、膝の屈曲運動の円滑性を引き出すことが可能となり、膝関節上の大腿四頭筋作用が良好となる。
また、着用者(1)後面で上記第2最強緊締部(18)、第1強緊締部(34)、第1中緊締部(37)と、多段階の緊締部を配置したのと同様に、着用者(1)前面においても、大腿四頭筋の起始部から中間を経て下方部、つまり膝関節上方までの位置に向けて第3最強緊締部(25)、第2強緊締部(35)及び第2中緊締部(38)を順次配置し、大腿四頭筋の起始部あたりに最強緊締部(2)を、筋腱移行部あたりに第2強緊締部(35)を、筋腹あたりに第2中緊締部(38)を多段階的に配置し、編地の緊締力を大腿四頭筋の筋肉量に反比例して配置している。このように緊締部を多段階に配置することにより、大腿四頭筋の伸展力を向上させて筋肉の持続的収縮力を良好なものにし、大腿四頭筋の疲労度を軽減させることができる。
このような大腿四頭筋の持続的収縮力の保持効果と伸張力の向上は、医療行為にみられる前傾姿勢時での膝関節安定効果を引き出すことができる。これらの総合力は、医療行為又は介護時に見られる前傾姿勢時での膝関節への荷重ストレスに対応する力となり、膝関節のトラブルを発生させる膝関節の動揺性を改善して膝関節のトラブルを予防することができる。
(背筋力の検証)
上記の如く構成したものにおいて、本実施例の効果を確認するために背筋力、立位体前屈、体重バランス、SLR(膝伸展挙上)の検証実験を行った。まず、背筋力の実証実験について以下に説明する。背筋力の向上は、背筋力を発揮する脊柱起立筋及び腰背部筋が付着する骨盤がニュートラルな状態にあることが必要である。そのため、背筋力測定は背筋群の力が発揮できる骨盤の安定状態を表すものである。
背筋力は背筋力計を用いて測定したものであって、その方法は下記の通りである。
1 両足を肩幅に広げ、軽く膝を曲げ、前傾位をとる。
2 上記の体勢で顎を引き、両手でしっかり背筋計のハンドルを持つ。
3 ハンドルを持った体勢から膝と背骨を伸展させながら両手で背筋力計のハンドルを引き上げる。
そして、被験者5名により、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用した場合と着用していない場合における背筋力を、上記の測定方法にて行った。この測定により得られた背筋力の結果を下記表1に示す。
尚、表1において、「未着用」は本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用せずに測定を行った場合、「着用」は本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用して測定を行った場合、「差」は、着用時の値から未着用時の値を差し引いた値を示すものである。
上記の結果から、未着用時に比べて着用時の背筋力が平均20kg向上した。また表1に示す如く、被験者全員において着用時の背筋力が未着用時の場合よりも向上したという結果が得られたことから、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用することによって骨盤がニュートラルな状態に導かれ、その骨盤に付着する脊柱起立筋、腰背部筋が矢状面方向の収縮、前傾位(前屈)時のエキセントリック収縮、立位に戻る(後屈)時のコンセントリック収縮運動を起こしやすくなったと言える。一方未着用の場合には、骨盤をニュートラルにする力が弱化し、脊柱起立筋・腰背部筋の筋肉の矢状面方向でなされる前傾位(前屈)時のエキセントリック収縮から立位に戻る(後屈運動)時のコンセントリック収縮力に変化する緊張力が発揮しにくい状態にあったと言える。
(立位体前屈の検証)
次に、立位体前屈の測定を行った。この立位体前屈を行うことにより、下肢後面(ハムストリング筋)から大殿筋、そして腰部筋の柔軟性をみることができる。即ち、骨盤の後面にある大殿筋と骨盤の坐骨から膝下方に付くハムストリング筋(大腿二頭筋と半腱・半膜様筋)が両脚立位から体幹を前屈させるとき、下肢が床に固定された状態から骨盤が前傾し、その上方にある体幹が前方下方に倒れるための筋肉の柔軟性と連動性により前に屈曲する角度が増大する。
その前屈位が抑制されて可動性に制限がみられる場合、上記に示す下肢後面筋と殿筋群の伸びながらの力(エキセントリック収縮が)が弱まり、体幹前屈位に伴う骨盤の前傾位がとれないリスクが考えられる。そして本発明が目的とする前傾位の保持力は、常に下肢後面筋のハムストリング筋が骨盤前傾位に伴う伸張力を保持しなければ生まれない点を最大の特徴とすることから、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用することで骨盤前傾位の角度がどう変化するかをみるものである。
ここで、立位体前屈をスムーズにするには、
1 前屈位を可能とする背筋群の柔軟性と同筋肉群のエキセントリック収縮力
2 下肢後面の筋肉の柔軟性と同筋肉群のエキセントリック収縮力
の機能が必要とされる。
そのため本実施例のメディカルコンディショニングウェアの着用時及び未着用時の立位体前屈を測定することで、人間が前傾姿勢をとる際に必要とされる体幹筋の柔軟性を引き出せる骨盤の安定力と大腿筋からハムストリング筋(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)の柔軟性、及び背筋群のエキセントリック収縮力をみることが可能となる。
立位体前屈の測定方法は以下の通りである。
1 床面に上面が水平な台を載置し、この台の上に立脚する。
2 立脚位の体勢は両足を揃え、つま先と両膝は前方に向け、両膝は伸ばす。
3 両方の手掌を大腿前方に配置するとともに、両腕から手指の先端まで伸ばしておく。
4 上記の体勢からゆっくり腰を前方に倒していく。
5 腰から上体を前方方向に折り曲げるように屈曲させた状態での両手指の先端の位置を最終可動域とする。
6 両手指の先端から立脚している台の上面までの最短距離を測る。
そして、上記の測定方法により、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用した場合と着用していない場合とにおける立位体前屈の測定を被験者5名によって行った。この測定結果を下記表2に示す。
尚、上記表2において「未着用」、「着用」、「差」の定義は上記表1と同じである。また、上記測定数値は、台の上面を「0」とし、この台の上面よりも上方に手指の先端がある場合はこの手指の先端から台の上面までの距離を表す数字の前に「-」(マイナス)を付与している。一方、台の上面よりも下方に手指の先端がある場合には、この手指の先端から台の上面までの距離を数字の前に符号をつけずに表している。
測定の結果、全ての被験者の前屈位がプラスの方向に改善されて平均8cm伸びた。この結果から、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用することによりハムストリング筋の伸展力をサポートし、骨盤前傾位をとりやすく、ハムストリング筋が伸びながらの力の作用により、骨盤が前傾位に傾く体重移動を支える能力が高まったことが明らかとなった。
この結果から、着用時には前傾位におけるハムストリング筋のサポート力が得られたと言える。従って、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用することにより、骨盤の安定力、大腿筋からハムストリング筋の柔軟性及び背筋群のエキセントリック収縮力の数値が改善したものと考えられる。
(体重バランスの検証)
次に、体重バランスの測定を行った。この体重バランスの測定は、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用することにより、体幹の左右・前後のバランスが整えられ、姿勢改善がみられるか否かの効果を確認するために行った。体重は、重心を保つ背骨の中心から骨盤を介し、両股関節に流れて両下肢に伝わる。その両下肢が体重を支えることにより体幹重心が安定し、両脚への体重分散が1/2荷重となる。従って、背骨を中心として両側に位置する筋群の作用が同等に機能する力を同時に発すれば、背骨の左右に位置する筋肉の収縮力は均等値に近くなる。
ここで上記体重バランスの測定方法について説明すると、まず同型の体重計を2つ揃えて床面に設置する。そして、被験者はこの2つの体重計の中心に体重心がくるように立つ。次に、体幹に沿わせて手を置き、姿勢を整えて顎を引き、目線は目の高さの水平線上とする。そして脚を片方ずつ体重計に乗せ、設定された位置に両脚を配置する。この状態で膝を伸ばし、つま先と膝関節は同じ方向に向けて自然な状態で立つ。そして体重計の目盛りが静止した際の重量を記録する。
そして上記の方法により、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用した場合と着用していない場合の被験者5名の体重バランスを測定した。この測定により得られた体重バランスの測定結果を下記表3に示す。
尚、上記表3において「未着用」、「着用」の定義は上記表1と同じである。また「差」は、同一の被験者において着用時の「左右差」から未着用時の「左右差」を差し引いたものである。
体重バランスの崩れは、体幹の傾きがある方に重心が傾き、同側の下肢に体重が多く乗る。結果、体重計が示す重量に左右差が表れる。そこで本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用した場合と未着用の場合において体重差を検証した結果、着用時の方が被験者全員において体重の左右差が小さくなり、両脚に体重が乗る体幹バランスが良好となったことがうかがえた。即ち、未着用時に平均5.04kgあった体重の左右差が、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用した場合には平均で3.92kg左右差が少なくなり、平均1.12kgの左右差となって体重バランスが改善された。
この検証により、本ボトムスを着用することで骨盤がニュートラルな状態に導かれ、その骨盤の中心に位置する背骨の重心位置も正され、その背骨から両側の股関節を介して体重が二等分化される、本来の体重バランスに近づいたことが分かる。
(SLRの検証)
次にSLR(膝伸展挙上)の測定を行った。このSLRの測定は、骨盤周囲に位置する脊柱起立筋と腰背部筋から大殿筋、そして下肢後面のハムストリング筋の柔軟性をみる機能テスト法である。このSLRテストは、腰痛罹患患者に対する「ラセグテスト」としても用いられ、腰痛原因となる脊柱起立筋の筋緊張度を判定する際に用いられたり、腰背部筋から大殿筋、そして伸展力があって可能となるハムストリング筋の股関節屈曲位がスムーズに実践できるかの判定、及び膝伸展位での股関節屈曲運動における腰椎神経根の圧迫度を判定する神経鑑別法としても知られている。
ここでSLRの測定方法について説明すると、まず背臥位で両脚を伸ばしてそろえ、両手は体側に置いてつま先は底屈位とする。そして片側の膝を伸ばしたままゆっくりと持ち上げて最終位置でつま先を背屈する。この方法で持ち上げた膝関節伸展位での股関節屈曲角度を測定する。股関節屈曲角度はゴニオメーターを用いて測定した。尚、正常な股関節屈曲角度は80度〜90度である。そしてこの測定方法により5名の被験者のSLRを測定し、その測定結果を下記表4に示す。
尚、上記表4において「未着用」、「着用」、「差」の定義は上記表1と同じである。本測定の結果、被験者全員において未着用時よりも着用時の角度の向上がみられ、右は平均12度、左は平均13度向上した。これは、骨盤周囲に位置する脊柱起立筋と腰背部筋から大殿筋、そして下肢後面のハムストリング筋の柔軟性の向上によるものといえる。
即ち、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用することにより骨盤の安定力が得られ、その骨盤に付着する体幹筋(脊柱起立筋・腰背部筋)と大殿筋からハムストリング筋の伸展力を向上することができる。また、片側の脚を持ち上げる際には対側の下腹筋、いわゆる筋力が求められるが、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用することで下腹筋の力が引き出しやすいものとなり、より片側の挙上運動を起こしやすくしたと言える。