本実施例1について説明する前に、まず発明者が独自に考案し、本発明を開発するきっかけとなったテーピング法について説明する。発明者は、前傾姿勢によって腰痛を患った腰痛保持者や、前傾姿勢を長時間保持する事が困難な者に対し、その筋肉保持力の効果を示すテーピング法を開発し、研究した。このテーピング法は医療又は介護従事者の腰痛や頚肩腕症状を改善するためのものであって、図13に示す如く、まず着用者の両肩峰部から第6〜7胸椎あたりまで左右対称にV字のテーピングを施す。そして、この第6〜7胸椎あたりから仙骨の下部まで背骨の中心棘突起を挟むかたちで連続してテープを施す。
更に、第7〜10胸椎を中心として両側に沿う脊柱起立筋(2)(腰腸肋筋、胸最長筋、胸棘筋)の少なくとも一部を抑えるように筋走行に直行する形で固定し、その位置上にあって肋骨と胸椎とをつなぐ下後鋸筋全面を補い、そのまま第6〜8肋骨の側方部あたりにつないで腋窩まで導く。これにより、前傾姿勢で一番ストレスのかかる肋骨下位部分、第7〜11胸椎に付着する腰腸肋筋、胸最長筋、胸棘筋の一部及び下後鋸筋の全面積をサポートするものである。
また、下後鋸筋は胸部後面にあって肋骨と胸椎とを繋ぎ、短縮性筋収縮力を発揮すれば同位置下の肋骨間の腔間が狭まって前方面にある肋間の腔間は広がるものとなる。そのため肋骨と胸椎に付着する下後鋸筋に最強緊締力を施すことで筋緊張を高めて肋間の腔間を狭めることにより、胸郭の持ち上げ作用を補うと考えた。よって、下後鋸筋の位置に胸椎から水平にテープを導き、そのかかる力も対称とした。
更に、骨盤安定ベルトの如き効果を示すよう、両腸骨の腸骨稜上縁を仙骨中心に押し込む位置に取り巻く。このようにテープを骨盤(9)周囲に途切れることなく施すことにより、このテープの位置下にある仙骨上に付着する脊柱起立筋(2)の起始部に圧力を与えることができる。
上記テーピングの持つ張力は、伸ばされる方向に拮抗して縮む力、短縮方向に働く張力を持ち、仙骨から胸椎上方の脊柱起立筋(2)全域に搭載したことで、その張力が前傾姿勢に主動で機能する脊柱起立筋(2)の補助力となる。
ここで、前傾時の主動となる脊柱起立筋(2)の作用は筋肉が伸張されながら力を出す作用をなすものである。そのため、上記テーピングを施すことにより、テーピングの力が常に体幹の重みを正常姿勢の中心軸へ引き戻す力(短縮性筋収縮力)の方向に発揮することとなる。そしてこの作用効果により前傾姿勢へ体幹を導くことができる。そのため、前傾姿勢保持力の弱い脊柱起立筋(2)にテーピングを施すことにより、前傾姿勢が保持可能となる理論が成り立つ。
また実際に、前傾姿勢がつらい、前傾位で腰に違和感があり前傾姿勢がとりづらい被験者に、上記に示すテーピングを施行することにより、容易に前傾位が可能となるという結果が得られた。しかしながら、この効果を示すテーピングは肌に直接貼る方法であるため、かぶれやただれ等が生じて肌に悪影響を及ぼすおそれがあることから、長時間持続することは困難であるとともに、作業開始前にその都度テーピングを施すことは手間がかかり難しいものである。
そこで発明者は、上記テーピング法の問題点を解消することができるとともに、上記テーピング理論と同様の効果を奏することのできる手段として、本発明のメディカルコンディショニングウェアを独自に開発した。本発明の実施例1について図1〜10において説明すると、本実施例のメディカルコンディショニングウェアは伸縮性を有する編地にて構成し、着用することによって医療又は介護従事者である着用者(1)の体表面にフィットする緊締力を備えたものである。ここで本実施例における「緊締力」とは、生地の伸縮力により着用者(1)の筋肉に付与される力であって、着用者(1)の筋肉を締め付けて当該筋肉の伸張を抑制する力のことを意味するものである。
そして、本実施例は相対的に緊締力の異なる4種類の編地、即ち最強緊締部(8)、強緊締部(37)、中緊締部(33)、弱緊締部(45)から成るものである。尚、強緊締部(37)、中緊締部(33)、及び弱緊締部(45)は本発明の本体部(7)を構成するものである。そして、これらの緊締力は編地の伸縮性によって付与されるものであり、編地の伸張回復力が大きいほど緊締力は向上するとともに、編地の伸張回復力が小さいほど緊締力は低下するものとなる。
そして、この緊締力は編地の編目密度と本実施例の編地を構成するナイロン繊維とポリウレタン繊維の糸の設計とを適宜変化させることにより4段階に調整することができる。また、高伸縮性繊維と高弾性糸との複合糸を用いて構成される編地において、これを形成するループの大きさとループを形成する際の糸の張力や編地の送り等を調整することにより、緊締力を段階的なものとすることができる。
また、本実施例で使用する編地の縦横方向の相対的な伸びは、縦方向が最も「伸びに対する抵抗」が大きく、横方向は縦方向よりも「伸びに対する抵抗」を少なくするとともに、バイアス方向は縦方向や横方向よりも更に伸び、且つ必要とされる「伸びに対する抵抗」を有するよう構成している。尚、本実施例では着用者(1)の身長方向に沿って編地の縦方向を配置している。
次に、上記の如き緊締部を備えた本実施例について以下に詳細に説明する。まず、医療又は介護従事者に求められる治療、手術、看護等の医療行為や介護は、図2(a)〜(e)、及び図3(a)〜(c)に示す如く立位において腰をさまざまな角度に曲げての姿勢、例えば大きく曲げて前屈した前傾姿勢あるいは脊柱を曲げた前かがみの姿勢で、且つ腕下垂位置での手作業が多い。そのため、図3(a)に示す如く直立姿勢では脊柱起立筋(2)が重点(3)近くに位置しているが、図3(b)の前傾または図3(c)の前かがみの姿勢をとった場合、背骨を支える脊柱起立筋(2)は伸展しながら最も重点(3)から離れる頭部と体幹(腰椎から上の胴部及び胸郭部)の重みを支えるために、支点(4)に最も近い位置にあって力点(5)として機能する脊柱起立筋(2)の一部、あるいは前傾の角度によりその対応する範囲は異なるが、その姿勢を保持するのに必要となる腰部筋が力を発揮する。
そして、図4(a)に示す如く直立姿勢では脊柱起立筋(2)は短縮するが、図4(b)に示す如く前傾姿勢を取った場合は体幹を支える腰部(6)は腰椎と仙骨とで成す腰仙関節部が図4(b)の矢印にて示す如く最大に伸ばされ、その関節上にある脊柱起立筋(2)は大きな力を発揮する。また、図4(c)に示す如く前かがみ姿勢の場合にも脊柱起立筋(2)は伸張する。
また、その部位のストレスは前傾により伸張性ストレスにとどまらず、仙骨上で腰椎5番目が腹部前方に滑る剪断力もかかり、その上部に付着する脊柱起立筋(2)の伸張力が他の椎骨上の伸張力より大となる。その機能メカニズムがストレスに対応する腰部筋の緊張度を高め、筋肉の疲労度を高める。そこで、本実施例では下記の如き構成とすることにより、前傾姿勢又は前かがみの姿勢時に腰部(6)にかかる筋肉の仕事量を軽減し、腰仙関節を支えやすくする効果を得ることが可能となる。また、腰仙関節で成す椎間関節を支える脊柱起立筋(2)の補助効果が椎間関節の矢状面での前屈運動を良好にするという結果が得られている。そのため、椎間関節内で招く関節面でのずれを制御できると考えられる。
本実施例のメディカルコンディショニングウェアについて説明すると、本実施例は緊締力を備えた本体部(7)と、この本体部(7)よりも緊締力の強い最強緊締部(8)とで構成したものであって、この最強緊締部(8)は、下記第1〜7緊締部から成るものである。この第1〜7緊締部について以下に説明すると、まず図5、6に示す如く、前身頃には着用者(1)前面の左右腸骨稜及び腹直筋の下部に対応する位置に連続して最強緊締力を備えた一対の第1最強緊締部(10)を配置している。
このように第1最強緊締部(10)を骨盤(9)の前方に配置することにより、骨盤(9)前方から骨盤(9)後方に向けて圧力が生じ、第1最強緊締部(10)の緊締力が下腹筋に腹圧を付与するものとなる。そのため、第1最強緊締部(10)によって下腹筋の収縮力を促し、前傾姿勢をとることにより下腹部の緊張が緩むというリスクを回避し、下腹部の拮抗面で荷重を支える腰椎への荷重ストレスを軽減させることが可能となる。また、この第1最強緊締部(10)の下方から裾部にかけて、図5に示す如く中緊締部(33)である第4中緊締部(51)を配置している。
また、上記第1最強緊締部(10)の左右両端に連続して、図1、7に示す如く着用者(1)の後身頃の骨盤(9)に対応する位置に第3最強緊締部(12)を配置している。尚、図1、7には各緊締部の境界を明確なものとするため、便宜上鎖線を付しているが、全ての緊締部の編地は連続して形成したものである。
そしてこの第3最強緊締部(12)は上記の如く着用者(1)の骨盤(9)に対応する位置に配置するとともに、図1に示す如く着用者(1)の後面において一側(17)から他側(18)まで連続した帯状としている。そのため、骨盤(9)を構成する2つの寛骨内の腸骨を最強の緊締力によって腸骨側方より仙骨中心に引き合う圧力を持ち、体幹の前屈位でまねく骨盤(9)内の腸骨に対する仙骨の上方への滑り作用に対し、過度な摩擦を軽減すべく働き、下方に引き戻す力を引き出して仙腸関節の摩擦力を緩和することができるものである。
また、第3最強緊締部(12)は図8に示す如く、着用者(1)の仙骨位置を中心として両側に向かってやや上方に拡開したV字型(47)としている。そのため、このV字型(47)は図8の中心点(59)から左右対称に着用者(1)の両側までを辺とし、その中心に位置する脊柱起立筋(2)を作用軸と考えれば、図8に示す如く中心ベクトル(20)方向に作用する力はV字型(47)を構成する二辺の力の合力となり大きな力を発揮することが可能となる。また、この第3最強緊締部(12)の下方から裾部にかけて、図1に示す如く強緊締部(37)である第5強緊締部(50)を配置している。
また、上記の如く第1最強緊締部(10)と第3最強緊締部(12)とを連続して配置することにより、着用者(1)の骨盤(9)に対応する位置に最強緊締部(8)が環状に配置されるものとなる。そのため、第1最強緊締部(10)と第3最強緊締部(12)とによって仙骨と腸骨とで構成される仙腸関節を保護する骨盤ベルトの仕様を構成するものとなる。このように骨盤ベルトの仕様とすることにより、この位置下にある仙骨上に付着する脊柱起立筋(2)の起始部に広範囲に圧力を付与することが可能となる。
そのため、人間の最も長い筋肉である脊柱起立筋(2)が伸ばされる場合、ゴムバンドのような伸張性を持つ筋肉の特性から、一方の端を固定した状態でもう一方の端が動く時、図4(b)に示す前傾時の筋肉の伸張性収縮の動きがより安定し、伸びやすくなるという効果を得ることができる。従って、上記の如く第1最強緊締部(10)及び第3最強緊締部(12)を配置することにより、前傾時の筋肉の伸張性収縮の動きが安定し、脊柱起立筋(2)の良好な作用を確保することが出来るため、前傾姿勢の保持力を向上させることが可能となる。
また、図1に示す如く、第3最強緊締部(12)の幅方向中央から上方に連続して、第3最強緊締部(12)よりも幅狭に形成した第4最強緊締部(13)を配置している。この第4最強緊締部(13)は、図7に示す如く着用者(1)の第1〜5腰椎に対応する位置に配置されており、上方に向けて左右に拡開して形成している。
上記の如く第3最強緊締部(12)及び第4最強緊締部(13)を連続して形成配置することにより、前傾姿勢で手作業を行う際に大きな伸張力がかかる部位、第8〜12胸椎あたりの引き戻し作用を高め、腰仙角をなす第4、5腰椎及び第1仙椎にて構成する腰仙関節上の筋肉にかかる腰椎剪断力を軽減することが可能となる。これにより、前傾姿勢で前方に傾斜する胸郭部(21)の傾きを容易にし、第3最強緊締部(12)、第4最強緊締部(13)の最強の緊締力で支える脊柱起立筋(2)の腰部(6)への伸張力を強く支えつつ、胸郭部(21)にその力を伝えながら前傾姿勢における胸椎部の後弯角を減少させることが可能となる。
ここで上記胸郭部(21)について説明すると、図9(a)(b)にそれぞれ示す如く着用者(1)の前面及び後面において、両肩峰の先端近くをそれぞれ四角形の上方の角とし、その直下に位置する第12肋骨の位置の先端を下方の角とする。そして、着用者(1)前面及び後面においてそれぞれ両肩峰線と両肋骨とを結ぶ線を水平線とし、この水平線に直交する線で両肩と第12肋骨の位置とを結ぶことにより胸郭部(21)を直方体で表すことができる。
即ち、図9(a)では着用者(1)後面の肩峰側の角をA、B、このA、Bから鉛直下方に位置する肋骨側の角をC、Dとするとともに、図9(b)では着用者(1)前面の肩峰側の角をA’、B’、このA’、B’から鉛直下方に位置する肋骨側の角をC’、D’とする。そして、胸郭を左右側方から見た場合には、図9(c)(d)に示す如く、A’、A、C、C’の四方形、B、B’、D’、Dの四方形をそれぞれ描くことにより、A〜D及びA'〜D’を頂点とした直方体にて着用者(1)の胸郭部(21)を表すことができる。
また、上記第4最強緊締部(13)に連続して、図1、7に示す如く第4最強緊締部(13)よりも幅広に形成した第5最強緊締部(14)を着用者(1)の後面の胸背部に対応する位置に配置している。この第5最強緊締部(14)は、図7に示す如く着用者(1)の第8〜12胸椎に対応する位置付近を中央部とし、両端を着用者(1)の両腋窩まで連続して帯状に配置している。これにより、図8に示す如く第4最強緊締部(13)と第5最強緊締部(14)とで上方に拡開したV字型(48)が形成されるものとなる。
上記の如く第4最強緊締部(13)及び第5最強緊締部(14)を配置することにより、着用者(1)の胸郭部(21)の重みを支える脊柱起立筋(2)の仕事量を緩和することが可能となる。即ち、第4最強緊締部(13)及び第5最強緊締部(14)は図8に示す如く第3最強緊締部(12)の幅方向中央から着用者(1)の腋窩まで拡開したV字型(48)を形成している。このV字型(48)は、中心点(25)から対称に腋窩までを辺とし、その中心に位置する脊柱起立筋(2)を作用軸と考えれば、図8に示す如く中心ベクトル(20)方向に作用する力はV字を構成する二辺の力の合力となり大きな力を発揮することが可能となる。
また、図1、7に示す如く上記第5最強緊締部(14)に連続して第6最強緊締部(15)を形成している。即ちこの第6最強緊締部(15)は、一対の帯状体にて形成したものであってこの一対の帯状体をそれぞれ一方帯状体(22)及び他方帯状体(23)とする。そしてこの一方帯状体(22)及び他方帯状体(23)は、第5最強緊締部(14)の幅方向中央部から着用者(1)の左右の肩峰に向けて拡開して配置することによりV字型を形成している。またこの一方帯状体(22)及び他方帯状体(23)は、図7に示す如く着用者(1)の肩甲骨(30)に対応する位置に配置しており、その形成幅は着用者(1)の肩峰を全体的に被覆するものとしている。
上記第6最強緊締部(15)が占める具体的な位置は、図7に示す如く両肩甲骨(30)の上角(24)の位置と肩甲骨中心点(25)を含む肩甲骨内側縁(26)と外側縁(27)近傍あたりを縦方向に連続して覆う位置である。更に、この第6最強緊締部(15)によって肩甲骨下角(28)を被覆することにより、胸郭関節上方にある肩甲骨(30)を肋骨面上に安定させることができる。このように第6最強緊締部(15)によって肩甲骨(30)を胸郭関節上で良好な位置へ導くことにより、前傾姿勢で生じる肩甲骨外転運動をコントロールし、胸郭部(21)から離れすぎる肩甲骨外転運動を抑制する効果を引き出すことができる。
即ち、図10(a)に示す如く直立姿勢の場合には、肩甲骨(30)は内転位をとり菱形筋、僧帽筋中部線維は短縮するが、図10(b)(c)に示す如く前傾姿勢又は前かがみ姿勢をとった場合には、肩甲骨(30)が外転位をとり、菱形筋、僧帽筋中部線維は伸張するものとなる。そのため、上記の如き第6最強緊締部(15)を配置して肩甲骨(30)の外転方向への移動を抑制することにより、肩甲胸郭関節面での適切な稼働を維持し、肩甲骨(30)が肩甲胸郭関節面上から離れることなく適切な位置を保てる機能を発揮することができる。
また、腕下垂位で屈曲・内旋・外旋運動を関節窩から起こす手作業時での肩関節の関節窩内の上腕骨が引き離されるメカニズムに対し、この第6最強緊締部(15)の最強の緊締力がその位置下にある棘下筋に作用し、棘下筋の短収縮性収縮方向に作用する筋収縮力をサポートするものである。この作用効果が、腕下垂位で腕が下垂方向に落ちようとする方向への力を上方にリフトする力を補強し、腕下垂位での手作業の効率を高めるものとなる。
また、上記第6最強緊締部(15)の上端に連続して、着用者(1)の前身頃には肩部から胸部にかけて一対の第2最強緊締部(11)を配置している。即ち、一対の第6最強緊締部(15)の肩峰側の先端に、一対の第2最強緊締部(11)をそれぞれ第6最強緊締部(15)に連続して配置し、図5、6に示す如くこの第2最強緊締部(11)を着用者(1)の肩部から胸部側に突出した略三角形の形状で配置している。
上記の如く第2最強緊締部(11)を第6最強緊締部(15)に連続して配置することにより、第2最強緊締部(11)の緊締力が着用者(1)の肩前方より胸部を上方から押さえ、途切れることなく着用者(1)後面側の第6最強緊締部(15)から第5最強緊締部(14)、第4最強緊締部(13)へとつなぎ、着用者(1)の脊椎を両側から補い、そのまま直下に位置する腰椎仙骨に沿う形となる。即ち、図7に示す如く第6最強緊締部(15)が着用者(1)の肩峰から胸椎中心に向けて胸郭後方面でV字型を作り、その下方に位置する第7〜12胸椎と第1〜5腰椎、及び仙骨を補う第3〜5最強緊締部(12)(13)(14)へとつないでいる。
上記の如く第2最強緊締部(11)を肩前方から第6最強緊締部(15)に連続するよう肩後方に導いたことにより、上腕骨を外転・外旋方向に導くことが可能となり、また、肩関節部につながる肩甲骨(30)を後傾位に導く力も得ることが可能となる。
そのため、肩甲骨(30)前傾による胸椎後弯角増大を抑制することができるとともに、肩関節内での上腕骨内転・内旋位での円背姿勢を改善し、胸郭部(21)を後方に引き戻して胸椎を補う脊柱と胸郭前方に拮抗する胸郭後面に位置する筋群の短縮性筋収縮作用を誘発した。このように胸郭後面にある筋群が短縮性収縮を起こしやすくしたことにより、円背姿勢の改善効果が表れ、胸椎後弯角を正常化させ、胸椎前弯角で成すアーチバックが良好となって矢状面での姿勢を改善することが可能となる。
また、上記第3〜6最強緊締部(12)(13)(14)(15)の配置によって、最強緊締部(8)が着用者(1)の仙骨に対応する位置から両肩峰に対応する位置に向けて大きなV字型(46)を形成するものとなる。そのため、図8の矢印に示す如く、この大きなV字型(46)を形成する長尺な帯状部分の力の合力により、V字方向への力が直上方向の中心ベクトル(20)の力に合成される。そのため、この中心ベクトル(20)の力が着用者(1)の背骨中心に走行する脊柱起立筋(2)に作用するものとなる。
ここで、図9に示す如くA〜D、A’〜D’にて示された胸郭部(21)の荷重を持ち上げる力は、背骨上に沿う脊柱起立筋(2)が主に作用し、肋骨と胸椎とを結ぶ下後鋸筋、肩甲骨(30)と背骨をつなぐ菱形筋、僧帽筋上・中・下部線維、肋骨上を走行し、2つの腸骨稜の上縁から始まり上腕骨小結節稜につく広背筋が支えている。そのため、このAからC、一方のBからDの方向にそれぞれ最強の緊締力である第3〜6最強緊締部(12)(13)(14)(15)を連続配置することにより、上記A〜D及びA’〜D’にて示す胸郭部(21)の重みを腰から後方に持ち支え、元の直立姿勢に戻す力を持ちながら前傾姿勢を保持する力を生み出すことが可能となる。
また、図8に示す如く、上記第3〜6最強緊締部(12)(13)(14)(15)で形成する大きなV字型(46)の合力と、第3最強緊締部(12)でのV字型(47)の合力、及び第4、5緊締部(13)(14)でのV字型(48)の合力の3つの合力が合わさることにより、前傾姿勢時の負荷の軽減効果を最大に発揮することができる。
この3つのV字型(46)(47)(48)に配置した最強緊締部(8)により、立位姿勢を構築する脊柱起立筋(2)が互いに近づくコンセントリック収縮を良好にさせ、立位姿勢のバランスを回復させつつ前傾での伸びる方向への力をサポートし、主に背筋群に作用する短縮性の収縮方向に作用するものとなる。この効果を引き出す最強緊締部(8)は、その最強の緊締力の配置下にある脊柱起立筋(2)の伸張性収縮に対し、常に立位姿勢を基本とする元の位置に体幹を戻す力を発揮するものである。
この作用効果は、図3(b)(c)に示す如く前傾での重点(3)が支点(4)から離れて腰椎にかかる荷重が増幅する力に対し、最強緊締部(8)の伸張性収縮力で対応するものである。そして、この最強緊締部(8)が脊柱起立筋(2)の腰部(6)に位置する筋群の短縮性の収縮方向に引き戻す力となり、その伸張力の持久的能力を向上させることができるものとなる。
また、上記の如く形成した一対の第6最強緊締部(15)の間隔には、水平方向に第7最強緊締部(16)を配置している。即ち、この第7最強緊締部(16)は図1に示す如く、第6最強緊締部(15)の間隔において水平方向に上下平行に配置した二本の帯状から成るものであって、上方に配置した帯状体を上方帯状体(31)とするとともに下方に配置した帯状体を下方帯状体(32)としている。
そして、図7に示す如く着用者(1)の胸椎上方に対応する位置に上方帯状体(31)を配置するとともに、この上方帯状体(31)の下方に、強緊締部(37)である帯状の第3強緊締部(34)を介して下方帯状体(32)を配置している。そして、この2本の帯状体の両端を各第6最強緊締部(15)に連続して配置している。尚、下方帯状体(32)の下方と第6最強緊締部(15)とで囲まれた部分には強緊締部(37)である略半楕円形の第4強緊締部(35)を配置している。
そして、図7に示す如く上記上方帯状体(31)は第2、3胸椎あたりの棘突起と横突起、その上方と下方の椎骨と連携する深層筋の胸最長筋、半棘筋、回旋筋、多裂筋、中層筋の大菱形筋、表層筋の僧帽筋中部線維のうちのいずれかの部分に位置するものである。また、上記下方帯状体(32)は、第5、6胸椎あたりを中心に両側の棘突起と横突起を含み、脊柱起立筋(2)の深層筋である胸最長筋、半棘筋、回旋筋、多裂筋、中層筋の大菱形筋、表層筋の僧帽筋のうちのいずれかの部分に位置するものである。
そして、着用者(1)の首回りに位置する上記上方帯状体(31)の上方と第6最強緊締部(15)とで囲まれた部分には、中緊締部(33)である第2中緊締部(36)を設けている。この第2中緊締部(36)は、着用者(1)の第7頸椎及び第1胸椎に対応する位置に配置している。上記の如く第7最強緊締部(16)、第3強緊締部(34)、第4強緊締部(35)、第2中緊締部(36)をそれぞれ配置することにより、図1に示す如く着用者(1)後面の胸椎に対応する位置において中緊締部(33)と強緊締部(37)が交互に配置されるものとなる。
そのため、第7最強緊締部(16)の上方帯状体(31)及び下方帯状体(32)により、両側の肩甲骨(30)を内転位に引き寄せる力を発揮しつつ、第3強緊締部(34)、第4強緊締部(35)を配置したことによって、その拮抗する肩甲骨(30)外転方向への動きも許した。この最強緊締部(8)と強緊締部(37)の交互の配置により、肩甲骨(30)を内転方向に矯正しすぎる不快感を回避しつつも肩甲骨(30)内転方向に適圧の緊締力を生み出すことが可能となり、肩甲骨(30)の作動を円滑なものとすることができる。従って、上記の如き構成によって、肩甲骨(30)の上角(24)から内側縁(26)に付着する菱形筋に短縮性収縮力を効率良く引き出し、肩甲骨(30)を内転方向に導いて前傾姿勢・前かがみの姿勢での円背姿勢を矯正することができる。
また、上記第2中緊締部(36)は図7に示す如く、着用者(1)の第7頸椎、第1胸椎、及び首回りに対応する位置にあり、首を支える筋肉に適圧を付与して頸椎の回旋運動と前屈運動を良好に行うことが可能となる。この首周囲の第2中緊締部(36)と比べ、その直下に第7最強緊締部(16)の上方帯状体(31)を配置することにより、頭蓋骨を支える頭板状筋、頭半棘筋群の重要部分と、その外筋となり頭を支える僧帽筋の下方部全周を固定させ、頭を支える筋肉の緊張性を高めることができる。そのため、頭部が前屈する(頭を下方に向ける)動きに対して安定性を確保することが可能となる。
上記の如く、帯状体の形成幅を着用者(1)の肩峰の幅とほぼ同一とし、最強の緊締力を保ちながら肩甲骨(30)中心から肩甲骨(30)の内側縁(26)を含む位置を通過し、肩甲骨下角(28)を全面的に被覆した第6最強緊締部(15)の構成と、第2、3胸椎とその近傍に位置する菱形筋と僧帽筋中部線維を被覆した第7最強緊締部(16)の上方帯状体(31)と、第4、5胸椎と肩甲骨内側縁(26)に付着する大菱形筋及びその上方に位置する僧帽筋中部線維の一部を被覆した第7最強緊締部(16)の下方帯状体(32)とにより、前傾姿勢で招く肩甲骨(30)が外転方向に可動する筋肉のエキセントリック収縮に対し、逆方向のコンセントリック収縮作用を引き出すことが可能となる。
そのため、上記第6最強緊締部(15)及び第7最強緊締部(16)の最強の緊締力により、肩甲骨(30)内転方向に引き戻す力が常に持続し、前傾姿勢での過度な肩甲骨(30)外転を抑制することができる。従って、肩甲骨(30)外転位で招く円背姿勢を改善し、胸椎後弯角を改善する効果を得ることが可能となる。
また、前傾位で手作業を行う場合、腕は下垂位となり体幹の前方に位置するため、上腕骨は肩内転屈曲位での肩内外旋運動を伴う。上腕骨が肩甲骨関節窩で連結する解剖的機能的特徴から、上記の上腕骨の動きとともに肩甲骨(30)は外転運動と上方回旋運動を成す。そのため、上記第6、7最強緊締部(15)(16)の構成により肩甲骨(30)に内転方向と下方回旋運動の力を付与しつつ、肩甲骨外転運動と上方回旋運動を起こすため、肩甲骨(30)の円滑な運動を引き出すことができる。
また、上記の如く形成した第2最強緊締部(11)及び第6最強緊締部(15)に連続して、上腕二頭筋の筋腱移行部に対応する位置に強緊締部(37)である帯状の第1強緊締部(38)を、着用者(1)の上腕部外周に環状に配置している。また、この第1強緊締部(38)に連続して、図1、5に示す如く上腕二頭筋の筋腹に対応する位置に帯状の中緊締部(33)である第1中緊締部(40)を着用者(1)の上腕部外周に環状に配置している。
このように最強緊締部(8)である第2、6最強緊締部(11)(15)に連続して強緊締部(37)である第1強緊締部(38)及び中緊締部(33)である第1中緊締部(40)を配置することにより、緊締力を肩から上腕にかけて段階的に変化させ、肩の遠位に行くほど緊締力を弱めることにより、腕の先端で力を発揮する握力を向上させることができる。
即ち、腕下垂位での作業時に肩関節を介して肩甲骨(30)に付着する三角筋中部線維、後部線維が伸張性収縮力を発揮して着用者(1)の肩を安定させることができる。そして、第6最強緊締部(15)と第2最強緊締部(11)の最強の緊締力によって肩三角筋の下方部に付着する上腕二頭筋長頭と上腕三頭筋長頭への固定力が高まり、最大にかかる伸張性収縮力に対して第6最強緊締部(15)及び第2最強緊締部(11)の緊締力が、伸張する筋肉の方向に比して逆方向に作用する力となり、腕下垂位で実施する手作業の作用効果を高めることが可能となる。
上記効果は発明者がテーピング法を用いて既に実証済みである。即ち、上腕二頭筋は肘の屈曲・伸展時に力を発揮する。腕下垂位での手作業は腕を下方に下げるエキセントリック収縮、腕を曲げての作業時にはコンセントリック収縮で行われる。両収縮作用で筋肉の付着部に最も牽引性ストレスが発生するのは腕を下方に下ろして力を発揮するエキセントリック収縮力を発揮する時である。
その筋肉の付着部に牽引性ストレスが大きく発生し、その張力が過大となれば、その付着部が剥離する力に及ぶ場合もある。これを解消するために、肩から腕にかけて段階的にテーピングの付与を変化させるテーピング法を行った。このテーピング法は、腕の付着部を最強とするとともに、付着部から筋肉が移行する筋腱移行部を強、筋腹を中とした。尚、力の大きさは同じ張力のテープを重ねる枚数で可変させた。その効果は、テープを巻かない腕のエキセントリック収縮力に比べてはるかにエキセントリック収縮力が増し、動きやすさを得ることができた。この結果を基にして着用者(1)の肩から上腕に対応する位置に上記の如く段階的に緊締部を配置したものである。
また、図6に示す如く着用者(1)前身の肋骨下部に対応する位置には、強緊締部(37)である第2強緊締部(41)を配置している。即ち、この第2強緊締部(41)は、着用者(1)の両腋窩から脇腹側を一側とし、中央部を着用者(1)のみぞおち方向に突出して配置したものであって、図6に示す如く着用者(1)の肋骨下部、即ち本実施例では第8〜12肋骨部分を被覆したものである。このように最強緊締部(8)よりも一段階緊締力を弱めた第2強緊締部(41)を肋骨下部に対応する位置に配置することにより、この第2強緊締部(41)により被覆された肋骨下部に付着する外腹斜筋の柔軟性を引き出し、ゆったりとした体幹の回旋力を向上させることができる。
また図6に示す如く、着用者(1)前面のみぞおちに対応する位置には、緊締力の最も弱い弱緊締部(45)である第1弱緊締部(42)を配置している。このように弱緊締部(45)である第1弱緊締部(42)を配置することにより、着用者(1)後面の胸腰背部に設けた最強緊締部(8)である第5最強緊締部(14)及び第6最強緊締部(15)に対応する位置において着用者(1)前面では緊締力が最も弱くなるため、背骨後方に位置する背筋群の緊張度が高まり、後方に引き寄せられる短縮性収縮力の力を発揮しやすいものとなる。
更に、上記円背姿勢の改善効果を更に高めるために、図5に示す如く着用者(1)の胸骨中心に対応する位置に弱緊締部(45)である菱形の第2弱緊締部(43)を配置している。このように弱緊締部(45)である第2弱緊締部(43)を胸骨中心部に配置することにより、この位置下にある着用者(1)の胸骨への圧迫を回避しつつ、胸骨に付着する大胸筋、肋間筋の緊張緩和効果が得られ、その拮抗筋にあたる僧帽筋中部線維、大・小菱形筋が胸椎中心に引き寄せられる筋収縮力を引き出すものとなる。そのため、着用者(1)の前傾時の円背姿勢を改善することが可能となる。
また、上記第2弱緊締部(43)の外周には、図6に示す如く着用者(1)の胸郭前方で鎖骨下にあり、左右に位置する大胸筋を1/2以上被覆する位置に、中緊締部(33)である第3中緊締部(44)を配置している。このように最強緊締部(8)よりも2段階緊締力の弱い中緊締部(33)を着用者(1)の大胸筋に対応する位置に配置することにより、大胸筋に付与される緊張を緩和し、前傾姿勢での胸の締め付けや圧迫を解放し、呼吸筋をリラックスさせて呼吸リズムを整えやすくすることができる。
(背筋力の検証)
上記の如く構成したものにおいて、本実施例の効果を確認するために背筋力、立位体前屈、体重バランスの検証実験を行った。まず、背筋力の実証実験について以下に説明する。背筋力を測定することにより、脊柱起立筋とその側方に位置する背筋群等の、前傾位における伸展された筋収縮(エキセントリック収縮)状態からコンセントリック収縮に変化する力をみることができる。
背筋力は背筋力計を用いて測定したものであって、その方法は下記の通りである。
1 両足を肩幅に広げ、軽く膝を曲げ、前傾位をとる。
2 上記の体勢で顎を引き、両手でしっかり背筋計のハンドルを持つ。
3 ハンドルを持った体勢から膝と背骨を伸展させながら両手で背筋力計のハンドルを引き上げる。
そして、被験者5名により、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用した場合と着用していない場合における背筋力を、上記の測定方法にて行った。この測定により得られた背筋力の結果を下記表1に示す。
尚、表1において、「未着用」は本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用せずに測定を行った場合、「着用」は本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用して測定を行った場合、「差」は、未着用時と着用時との背筋力の差を示すものである。
上記結果から、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用した方が、未着用の場合よりも背筋力が平均で14.4kg上昇したことが明らかとなった。この理由は、脊柱起立筋などが縦方向に伸展され、これらの筋肉に対応する位置に配置した編地の緊締力により、この編地が上記の如く縦方向に伸びた筋肉に伴って縦方向に伸びるとともに、体勢を保持するエキセントリック収縮時から立位に変化する際に上記筋肉がコンセントリック収縮し、上記編地が元の張力に戻るキックバック時と同方向に筋収縮力が作用するため背筋力の向上が見られたと考えられるためである。
この測定結果から、本実施例では医療行為又は介護作業における立位からの前傾姿勢、つまり基本立位から前方に倒れる動作、この動作の変化は前傾位で招く基本姿勢を保つ軸となす腰椎の支点から重点が前方へ移動する荷重に対し作用する背筋力(力点)を補助し、その収縮力の持続力をサポートし得る能力が期待できることが確認された。
また、本実証実験では未着用時の背筋力を測定した後に着用時の背筋力を測定した。そのため、被験者が前傾位から基本姿勢をとる際の体勢の変化、つまりエキセントリック収縮状態からコンセントリック収縮力を発揮しやすいと感じる動きやすさを全員が感じた。この感覚は測定値からも見られるように、本実施例のウェアを着用することによって自らの背筋力が伸びた状態でエネルギーを放出していた前傾位の姿勢から、次に基本姿勢に変化する際のコンセントリック収縮力が発揮しやすくなり、この測定の動作である前屈から伸展位の動きの変化をスムーズに起こしやすく背筋力のエネルギー効率が高まっていることの表れといえる。従って、本実施例のメディカルコンディショニングウェアは、前傾姿勢の保持力向上が期待できるものである。
また、エネルギーの効率性から未着用時よりも着用時の方が疲労軽減に効果があると言える。従って、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用することにより、前傾姿勢で招く背筋群の疲労増幅から疲労発生要因となる背筋力の弱化を防ぎ、筋肉の強化を軽減させ、腰痛予防効果も期待できるものである。
(立位体前屈の検証)
次に、立位体前屈の測定を行った。立位体前屈の測定方法は以下の通りである。
1 床面に上面が水平な台を載置し、この台の上に立脚する。
2 立脚位の体勢は両足を揃え、つま先と両膝は前方に向け、両膝は伸ばす。
3 両方の手掌を大腿前方に配置するとともに、両腕から手指の先端まで伸ばしておく。
4 上記の体勢からゆっくり腰を前方に倒していく。
5 腰から上体を前方方向に折り曲げるように屈曲させた状態での両手指の先端の位置を最終可動域とする。
6 両手指の先端から立脚している台の上面までの最短距離を測る。
そして、上記の測定方法により、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用した場合と着用していない場合とにおける立位体前屈の測定を被験者5名によって行った。この測定結果を下記表2に示す。
尚、表2において「未着用」、「着用」、「差」の定義は上記表1と同じである。また、上記測定数値は、台の上面を「0」とし、この台の上面よりも上方に手指の先端がある場合はこの手指の先端から台の上面までの距離を表す数字の前に「-」(マイナス)を付与している。
測定の結果、被験者全員が未着用時よりも着用時での数値に効果が表れて平均4.2cm可動域が伸び、腰椎関節をはじめとする腰仙関節の可動性の改善が見られた。立位体前屈と医療行為又は介護作業で求められる立位での前傾姿勢は、上記に示す背骨間の関節の可動性をコントロールする脊柱起立筋が主動筋(主に力として働く筋肉)となるため、この脊柱起立筋の伸ばしながらの力、つまりエキセントリック収縮力が必要となる。そして本測定の結果から、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用することにより、立位体前屈、いわゆる人間が前傾姿勢をとる際に求められる脊柱起立筋の伸張性筋収縮時のサポートが得られることを実証することができた。
(体重バランスの検証)
次に、体重バランスの測定を行った。この体重バランスの測定は、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用することにより、体幹の左右のバランスが整えられ、姿勢改善がみられるか否かの効果を確認するために行った。体重は、重心を保つ背骨の中心から骨盤を介し、両股関節に流れて両下肢に伝わる。その両下肢が体重を支えることにより体幹重心が安定し、両脚への体重分散が1/2荷重となる。従って、背骨を中心として両側に位置する筋群の作用が同等に機能する力を同時に発すれば、背骨の左右に位置する筋肉の収縮力は均等値に近くなる。
ここで、上記体重バランスの測定方法について説明すると、同型の体重計を2つ揃えて床面に設置する。そして、被験者はこの2つの体重計の中心に体重心がくるように立つ。次に、体幹に沿わせて手を置き、姿勢を整えて顎を引き、目線は目の高さの水平線上とする。そして脚を片方ずつ体重計に乗せ、設定された位置に両脚を配置する。この状態で膝を伸ばし、つま先と膝関節は同じ方向に向けて自然な状態で立つ。そして体重計の目盛りが静止した際の重量を記録する。
そして上記の方法により、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用した場合と着用していない場合の被験者5名の体重バランスを測定した。この測定により得られた体重バランスの測定結果を下記表3に示す。
尚、表3において「未着用」、「着用」の定義は上記表1と同じである。また「差」は、同一の被験者において着用時の「左右差」から未着用時の「左右差」を差し引いたものである。
表3より、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用することによって被験者全員で体重の左右差が小さくなり、両脚に体重が乗る体幹バランスが良好となったことがうかがえた。即ち、未着用時に平均4.16kgあった体重の左右差が、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用することにより平均で2.6kg少なくなって平均1.56kgの左右差となり、体重バランスの偏りが改善された。
この検証により、本実施例のメディカルコンディショニングウェアを着用することで体幹の左右のバランスが整えられて姿勢改善が図られたことにより、その骨盤の中心に位置する背骨の重心位置も正され、その背骨から両側の股関節を介して体重が二等分化される本来の体重バランスに近づいたことが実証された。
また、上記実施例1では前身頃の着用者(1)の胸部に対応する位置には、図6に示す如く主に中緊締部(33)と弱緊締部(45)とを配置しているが、本実施例2では特に着用者(1)が女性である場合を想定して、前身頃の胸部に対応する位置に、強緊締部(37)と弱緊締部(45)とを配置している。女性は胸郭前方に乳房があり、その重みは個人の形状により異なる。乳房は胸郭部(21)の第4、5肋骨あたりに乳頭が位置する特徴を有するとともに、その乳房の外周囲は胸骨中心より左右の肋骨面に位置し、大胸筋が支えとなって持ち上げ作用を奏している。
特に介護従事者や看護師らが行う前傾姿勢は胸椎後弯を増幅するリスクがあり、当然その胸椎後弯角の増幅は大胸筋の張りを弱らせ乳房が下方へ落ちるリスクも増幅させることとなる。そこで、本実施例では下記に示す如く緊締力を備えた編地を、胸椎後弯角を減少させるとともに乳房を持ち上げて安定させる位置に配置している。
この配置によって、女性のシンボルであって特徴となりうる乳房を大切に保護しつつ、介護従事者または医療従事者として働く女性たちの美しいボディ作りも進めながら、ワーキングウェアとして前傾姿勢での作業をサポートするウェアを提供することを目的としている。尚、本実施例の後身頃における各緊締部の配置は上記実施例1の構成と全く同様であり、前身頃における下記緊締部以外の緊締部の配置は、上記実施例1のものとほぼ同じである。
本実施例2のメディカルコンディショニングウェアの前身頃について以下に説明すると、まず、図11、12に示す如く着用者(1)のアンダーバストの位置、つまり女性下着のブラジャーの下位位置にあたる横隔膜の上方で第6、7肋骨あたりに位置する胸骨下に、胸郭部(21)中心から両側の腋窩まで連続して帯状の第7強緊締部(52)を水平に配置している。そしてこの第7強緊締部(52)を、体幹の外側、つまり腋窩に位置する第6、7、8肋骨あたりで胸郭後方面の肩甲骨(30)の内転作用を引き出す後身頃の第5最強緊締部(14)に連続している。
上記の如く第7強緊締部(52)と図1に示す第5最強緊締部(14)とを連続させることにより、第5最強緊締部(14)が示す胸椎中心に肩甲骨(30)を近付け内転させる作用、いわゆる胸椎後弯角を減少させる力と連携することにつながり、その拮抗面にある胸郭部(21)前方の筋肉である大胸筋を広げる作用を引き出し、乳房を持ち上げる大胸筋の伸展力作用を高めることができる。
また、上記第7強緊締部(52)の両端側に連続して、図12に示す如く着用者(1)の乳房の外周であって第3、4肋骨あたりにある大胸筋の上方部と乳房の上方に対応する位置に、ドーム型に弯曲した帯状の第9強緊締部(53)を配置している。また、この第9強緊締部(53)の上方には、一対の第2最強緊締部(11)をそれぞれ第9強緊締部(53)に連続して配置している。
また、上記の如く形成した第7強緊締部(52)の幅方向中央から第9強緊締部(53)に向けて、V字型に拡開した第10強緊締部(54)を形成している。そして、このV字型の拡開した先端部を、第9強緊締部(53)の胸骨中心よりやや両端側で乳房の上方に対応する位置にそれぞれ連続している。上記の如く第9強緊締部(53)をV字型とすることにより、このV字型が胸郭部(21)の中央にかかる乳房の重みを両側へ分散させる力となり、2つの乳房の重みを胸郭部(21)の上方で支えやすいものとしている。
上記の如く第7、9、10強緊締部(52)(53)(54)を配置することにより、着用者(1)の乳房の重みを前方から押さえて上方に持ち上げ、胸郭部(21)の前方面から離れるリスクを改善した。このように乳房の持ち上げ効果と乳房の重量を抑え、コンパクトにする効果を更に高めることのできる構成とするとともに、後身頃の第6最強緊締部(15)から前見頃に続く第2最強緊締部(11)に連続させることにより、着用者(1)の胸郭上方から第7、9、10強緊締部(52)(53)(54)全体で着用者(1)の乳房の重みを上方に持ち上げる作用効果を更に高めることができる。また、医療行為時や介護時の乳房の揺れを制御することができることから、医療行為時や介護時に乳房の揺れを気にすることなく集中力を高めることができる。
また図11に示す如く、上記第7、9、10強緊締部(52)(53)(54)に囲まれた部分には弱緊締部(45)を配置し、この部分を第3弱緊締部(56)としている。このように、この第3弱緊締部(56)を第7、9、10強緊締部(52)(53)(54)よりも弱い緊締部とすることにより、複数の着用者(1)間で異なる胸のふくらみの膨張率を許容しつつ、乳房全体で圧迫感を感じにくくすることが可能となる。そのため、乳房の中心に位置する乳頭への編地による摩擦力が軽減し、乳房への圧迫から生じる違和感を回避することができる。
また、上記第9強緊締部(53)の上方と一対の第6最強緊締部(15)とで囲まれる部分であって、首の側方部で僧帽筋上部線維の首周囲から肋骨上方で両側の胸鎖関節上から鎖骨の1/2の面積を被覆可能とする範囲に、第11強緊締部(57)を配置している。この第11強緊締部(57)は、縦方向の長さを胸骨柄から胸骨全域を覆う長さとするとともに、横幅を、胸骨に付着する大胸筋の付着部中心から外側方向で、鎖骨の1/2の位置より短い範囲としている。
上記の如く第11強緊締部(57)を、これに隣接する第2最強緊締部(11)よりも緊締力の弱いものとすることにより、胸鎖関節に与える緊締力が弱まり、胸鎖関節内の鎖骨運動への強い圧迫を回避することが可能となる。また、大胸筋が広がる方向に導かれ、胸部への圧迫感を回避することができる。
また、第11強緊締部(57)の配置下にある胸鎖関節で上方に動く鎖骨運動を強い圧力で抑えすぎることを回避し、その胸鎖関節内の鎖骨運動を起こしやすくする効果を得ることができる。この鎖骨運動の円滑性は、手作業の土台となる肩甲骨運動の支点となる胸鎖関節の円滑性につながり、手作業の要となる腕の動きのスムーズさを更に引き出すことができる。
また、第11強緊締部(57)の最下方部の緊締力が胸郭部(21)の前方にある2つの乳房を支え、持ち上げる効果を引き出すことができる。即ち、この第11強緊締部(57)はドーム型の第9強緊締部(53)に連続するとともに、胸郭部(21)の下方に水平に配置した第7強緊締部(52)の中心からV字型で持ち上げ効果を示した第10強緊締部(54)の2つの力の延長線上に配置していることから、更にV字型の力を胸骨中心から側方、つまり肩上方に伝える効果を得ることが可能となる。
また、上記第7強緊締部(52)の両端部から前身頃の下端に向けて、一対の帯状の第8強緊締部(58)を配置している。この第8強緊締部(58)は、図12に示す如く胸郭部(21)の第6、7、8肋骨の外側部に対応する位置から、第9〜12肋骨の外側部に対応する位置を通過し、その肋骨の下方に位置する腸骨稜の前方全域に対応する位置に連続して配置している。このように、両腸骨稜の前方に対応する位置に配置した強緊締部(37)を胸郭部(21)の肋骨面から導くことにより、胸郭部(21)と腸骨間の腔間を繋ぎ前方から体幹を支える腹斜筋・腹横筋・腹直筋作用をサポートするものとなる。
上記サポート効果により、背骨を支えて体幹のバランスを整え、腰部(6)への荷重を分散させる背筋群への作用を軽減することができる。従って、前傾姿勢において前方に落ちようとする体幹の重みを両側に配置した第8強緊締部(58)の緊締力で支えて胸郭部(21)を安定させ、より体幹の安定度を高めて前傾姿勢で前方に下がろうとする荷重を支える背筋群の仕事量を軽減させる作用効果を得ることができる。この作用効果は、腰椎にかかる前方へ滑ろうとする剪断力の抑制にも効果を示し、腰部筋の疲労軽減効果を得ることが可能となる。
また、第8強緊締部(58)による腸骨稜へのサポートは、骨盤(9)の前方への傾きを制御する作用効果も得ることができ、前傾時の骨盤(9)前方回旋への抑制力を高める効果につながり、骨盤(9)の前方回旋を抑制する腰背部筋の仕事量を緩和して腰背部筋の疲労軽減効果をもたらすことが可能となる。
また、上記第8強緊締部(58)と第7強緊締部(52)、及び第1最強緊締部(10)とで囲まれた部分には弱緊締部(45)を配置しており、この緊締部を第4弱緊締部(60)としている。この第4弱緊締部(60)は、前傾姿勢で最も緩む位置と考えられる腹直筋の筋腹を被覆するものである。また、第4弱緊締部(60)に対応する位置には、呼吸作用にはたらく横隔膜の下方部も一部含まれるよう構成しているため、その位置への圧力を弱め、腹式呼吸での腹部の膨張と横隔膜の上方・下方への緊張力を許し、円滑性を引き出し、前傾姿勢での呼吸をスムーズなものにすることができる。
また、上記実施例1では図5に示す如く、左右腸骨稜及び腹直筋の下部に対応する位置に第1最強緊締部(10)を前身頃の一側(17)から他側(18)まで連続して配置しているのに対し、本実施例2では第1最強緊締部(10)が第8強緊締部(58)により2箇所において分断されているが、各分断は第8強緊締部(58)の幅方向の長さのみであるから、第1最強緊締部(10)と図1の第3最強緊締部(12)とにより骨盤ベルトの仕様を構成し、この骨盤ベルトの脊柱起立筋(2)の起始部に広範囲に圧力を付与することができるという効果を得ることができることに変わりはない。
また、上記所定位置に配置した最強緊締部(8)の特徴は、上記の如く縦方向に最も伸びない力を有することである。そのため、この縦方向に最も伸びない編地の緊締力が、矢状面で起こす前屈時にかかる背筋群の伸張性仕事量を大幅に補助するものである。このように伸張性仕事量を補助することにより、筋肉の仕事量が緩和され長時間の筋仕事量に対応することが可能となる。