第1の実施の形態.
<1.構成>
図1に示すように、電力変換装置1は直流線LH,LL及び交流線Pu,Pv,Pwと接続される。電力変換装置1は例えばインバータであって、直流線LH,LLの間に印加される直流電圧を交流電圧に変換して、当該交流電圧を交流線Pu,Pv,Pwへと出力する。ここでは直流線LLに印加される電位は直流線LHに印加される電位よりも低い。
インバータ1はスイッチング素子S1〜S6とダイオードD1〜D6とを備えている。スイッチング素子S1〜S6は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ又は電界効果トランジスタなどである。スイッチング素子S1〜S3は交流線Pu,Pv,Pwの各々と直流線LHとの間に設けられる。以下では、各スイッチング素子S1〜S3を上側のスイッチング素子とも呼び、スイッチング素子S1〜S3を纏めて上側のスイッチング素子群とも呼ぶ。ダイオードD1〜D3のアノードはそれぞれ交流線Pu,Pv,Pwに接続され、ダイオードD1〜D3はそれぞれスイッチング素子S1〜S3と並列に接続される。
各スイッチング素子S4〜S6は交流線Pu,Pv,Pwの各々と直流線LLとの間に設けられている。以下では各スイッチング素子S4〜S6を下側のスイッチング素子とも呼び、スイッチング素子S4〜S6を纏めて下側のスイッチング素子群とも呼ぶ。ダイオードD4〜D6のアノードは直流線LLに接続され、ダイオードD4〜D6はそれぞれスイッチング素子S4〜S6と並列に接続される。なお、ダイオードD1〜D6はスイッチング素子S1〜S6の寄生ダイオードであってもよい。
かかるスイッチング素子S1〜S6には制御部3からそれぞれスイッチング信号Sが与えられる。かかるスイッチング信号Sにより各スイッチング素子S1〜S6が導通する。制御部3が適切なタイミングでスイッチング素子S1〜S6へとそれぞれスイッチング信号Sを与えることにより、インバータ1は直流電圧を交流電圧に変換する。インバータ1の制御については後に詳述する。
インバータ1は例えば誘導性負荷2を駆動することができる。誘導性負荷2は交流線Pu,Pv,Pwに接続される。誘導性負荷2は例えばモータである。インバータ1によって誘導性負荷2に交流電圧が印加されれば、誘導性負荷2に略正弦波状の交流電流が流れる。理想的には交流線Pu,Pv,Pwにはそれぞれ正弦波状の線電流iu,iv,iwが流れる。これによって誘導性負荷2が駆動される。ここでは、インバータ1から誘導性負荷2へと流れる線電流の方向を正、誘導性負荷2からインバータ1へと流れる線電流の方向を負とそれぞれ定義する。
直流線LH,LLに流れる直流電流Idcは直流電流検出部4によって検出され、制御部3へと出力される。図1の例示では直流電流検出部4は直流線LLに設けられている。なお直流電流検出部4は直流線LHに設けられても良い。
直流電流検出部4は例えばシャント抵抗R41と検出部41とを備えている。図1の例示ではシャント抵抗R41は直流線LLに設けられている。検出部41は例えばシャント抵抗R41に印加される電圧を検出して、シャント抵抗R41の抵抗値と、検出した電圧とに基づいて直流電流Idcを得る。検出部41はかかる直流電流Idcの値(以下、簡単のため値自体をも直流電流Idcとして表す。他の諸量も同様)を制御部3に出力する。なお検出部41がシャント抵抗R41の電圧を検出して制御部3に出力し、制御部3が直流電流Idcを算出しても良い。また直流電流検出部4はシャント抵抗を用いて検出する必要はなく、任意の直流電流検出センサーが採用されえる。例えばホールCT(Current-Transformer)などの電流センサーを用いても良い。
また直流電流Idcの平均値(以下、直流電流平均値と呼ぶ)Idc_aveを取得する直流電流平均値取得部5が設けられる。直流電流平均値取得部5は例えばシャント抵抗R41と検出部51とを備える。検出部51は例えば抵抗及びコンデンサからなる平滑回路などの一次フィルタであって、シャント抵抗R41に流れる直流電流Idcを平均化し、これを直流電流平均値Idc_aveとして制御部3に出力する。なお、検出部51がシャント抵抗R41の電圧を制御部3に出力し、制御部3が直流電流平均値Idc_aveを算出しても良い。
なお直流電流平均値取得部5は必ずしもシャント抵抗R41に流れる直流電流Idcを検出してこれを平均化する必要はなく、例えば図2に例示するように検出部41から入力される直流電流Idcを平均化してもよい。
また本実施の形態の最上位概念では直流電流検出部4は必須要件ではなく、直流電流平均値取得部5が設けられていればよい。
また直流線LH,LLの間の直流電圧Vdcは直流電圧検出部6によって検出される。図1の例示では、直流線LH,LLの間には平滑コンデンサC1が設けられており、直流電圧検出部6は例えば平滑コンデンサC1の両端電圧を検出する。
制御部3はスイッチング信号生成部31と線電流取得部32とを備えている。スイッチング信号生成部31はスイッチング信号Sを生成する。かかるスイッチング信号Sは例えば次のように生成される。即ち、例えば交流線Pu,Pv,Pwにそれぞれ印加する相電圧Vu,Vv,Vwについての相電圧指令値を、線電流取得部32によって算出された線電流iu,iv,iwに基づいて生成し、かかる相電圧指令値とキャリア波形との比較によってスイッチング信号Sを生成する。線電流iu,iv,iwに基づく相電圧指令値の生成および相電圧指令値とキャリア波形との比較に基づくスイッチング信号Sの生成は公知技術であるので詳細な説明は省略する。
図1の例示では、スイッチング信号生成部31は補正部311を備えている。補正部311の詳細については後述するものの、必須要件ではない。
また図1の例示では、スイッチング信号生成部31は電圧取得部312を備えている。電圧取得部312はインバータ1が出力する交流電圧(相電圧)についての電圧振幅と電圧位相とを取得する。例えば電圧取得部312は相電圧指令値の振幅および位相をそれぞれ電圧振幅と電圧位相として取得する。なお電圧取得部312はこれに限らず、交流線Pu,Pv,Pwの相電圧Vu,Vv,Vwを検出し、これに基づいて電圧振幅と電圧位相とを算出しても構わない。
図1の例示では、線電流取得部32は位相差取得部321と線電流算出部322とを備えている。位相差取得部321はインバータ1が出力する交流電圧と線電流との位相差(力率角)θを取得する。線電流取得部32は直流電流平均値Idc_aveと直流電圧Vdcと電圧振幅と電圧位相と位相差θとに基づいて後述する方法で線電流を算出する。
またここでは、制御部3はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部3はこれに限らず、制御部3によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
<2.線電流算出>
線電流iu,iv,iwはその電流実効値Irmsとその電流位相ψとを用いて次式で表すことができる。
また相電圧Vu,Vv,Vwはその電圧実効値Vrmsとその電圧位相φとを用いて次式で表すことができる。
式(1)から理解できるように、電流実効値Irmsと電流位相ψとを求めることで、線電流iu,iv,iwを算出することができる。本実施の形態では交流線Pu,Pv,Pw側の電力Pacと直流線LH,LLの電力Pdcとが互いに等しいという関係に基づいて電流実効値Irmsを算出する。なお電流実効値Irmsと線電流iu,iv,iwの振幅(以下、電流振幅と呼ぶ)とは比例関係にあるので、電流実効値Irmsの算出は電流振幅の算出と把握できる。
電力Pacは、相電圧Vu,Vv,Vwの電圧実効値Vrmsと、線電流iu,iv,iwの電流実効値Irmsと、相電圧と線電流との位相差(力率角)θとを用いて次式で表される。
Pac=3Vrms・Irms・cosθ ・・・(3)
一方、直流線LH,LL側の電力Pdcは、直流電圧Vdcと直流電流平均値Idc_aveとを用いて次式で表される。
Pdc=Vdc・Idc_ave ・・・(4)
電力Pacと電力Pdcとが互いに等しいという関係に基づいて次式が導かれる。
Irms=Vdc・Idc_ave/(3Vrms・cosθ)・・・(5)
したがって式(5)の右辺の全ての変数を得ることができれば、電流実効値Irmsを算出することができる。さて直流電圧Vdcは直流電圧検出部6によって検出され、直流電流平均値Idc_aveは直流電流平均値取得部5によって取得される。電圧実効値Vrmsは電圧振幅に基づいて算出できるので、電圧取得部312によって取得される。位相差θは位相差取得部321によって取得される。位相差θの算出の具体例については後に詳述する。
線電流算出部322は上述のようにして得られる直流電圧Vdc、直流電流平均値Idc_ave、電圧実効値Vrmsおよび位相差θに基づいて、式(5)を用いて電流実効値Irms(即ち電流振幅)を算出する。
なお誘導性負荷2の負荷状態が定常状態であれば、式(5)に用いられる変数のいずれもが時間に依らずに一定値であると見なすことができる。したがって誘導性負荷2の定常的な運転において、各変数を1回検出して電流実効値Irmsを1回算出し、以後の任意の時点における線電流算出にこの電流実効値Irmsを用いても構わない。もちろん所定期間毎に各変数を検出して式(5)を用いて電流実効値Irmsを更新しても構わない。
電流位相ψは、相電圧Vu,Vv,Vwの電圧位相φと、位相差θとを用いて次式で表される。
ψ=φ−θ ・・・(6)
位相差θは位相差取得部321によって取得され、電圧位相φは電圧取得部312によって取得される。線電流算出部322は電圧取得部312から任意の時点での電圧位相φを受け取り、位相差取得部321から位相差θを受け取って、式(6)を用いて任意の時点での電流位相ψを算出する。そして、線電流算出部322は算出した電流実効値Irmsと算出した電流位相ψとに基づいて式(1)を用いて当該時点での線電流iu,iv,iwの少なくともいずれか二つを算出する。なお線電流iu,iv,iwの総和は零であるので、二つの線電流を算出すれば式(1)に依らずとも残りの線電流を算出することができる。
以上のように本線電流検出方法によれば、3つの交流線Pu,Pv,Pwを流れる線電流iu,iv,iwを検出する電流検出部を設けることなく、線電流iu,iv,iwを得ることができる。
ここで、本実施の形態とは異なって次のようにして線電流iu,iv,iwを得る方法について考慮する。即ち特許文献1のように、インバータ1のスイッチングパターンに基づいて直流電流Idcを線電流として算出する。より詳細には、例えば所定の一周期において、第1及び第2のスイッチングパターンが採用される第1及び第2の期間内に直流電流Idcを検出する(この算出方法については後に詳述する)。そしてこれらの直流電流Idcをそれぞれ第1及び第2のスイッチングパターンに対応して決まる線電流iu,iv,iwの二つとして把握する。このような線電流の検出方法によれば、第1及び第2の期間内に直流電流Idcを検出する必要がある。よって第1及び第2の期間が検出可能な期間よりも短ければ、第1及び第2の期間を増大させる補正を行う必要がある。
一方で本線電流検出方法によれば、直流電流平均値Idc_aveを得るためにスイッチングパターンが採用される期間内に直流電流を検出する必要はない。よって当該期間を増大させる必要がない。したがって、当該期間を増大させることによる交流電圧および線電流のゆがみを抑制できる。
<2−1.位相差の算出例>
ここでは任意の時点における線電流iu,iv,iwの一つの値に基づいて、位相差θを算出することを企図する。この線電流iu,iv,iwの一つの値は、インバータ1のスイッチングパターンに基づいて直流電流Idcから得る。以下では、まずインバータ1で採用されるスイッチングパターンについて説明する。
<2−1−1.インバータ1の制御>
インバータ1はスイッチング信号Sによって以下で述べるように制御される。まず、同じ交流線に接続される上側のスイッチング素子および下側のスイッチング素子は相互に排他的に導通する。即ち、スイッチング素子S1,S4は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S2,S5は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S3,S6は相互に排他的に導通する。これは、直流線LH,LLが短絡して各スイッチング素子S1〜S6に大電流が流れることを防止するためである。
したがって、スイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンとして8種類のパターンが存在する。上側および下側のスイッチング素子が導通することをそれぞれ「1」「0」で示し、各相のスイッチングパターンを並べて表すと、スイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンは次の8種類である。即ち、スイッチングパターンは、(000)(001)(010)(011)(100)(101)(110)(111)である。例えば下側のスイッチング素子S4,S5が導通し、上側のスイッチング素子S3が導通するときにはスイッチングパターン(001)が採用される。
また、これらのスイッチングパターンが採用されるときにインバータ1が出力する相電圧についてのベクトルを、上記数字の並びを2進数の数字と把握し、これを10進数で表して、それぞれ電圧ベクトルV0〜V7と表す。例えばスイッチングパターン(100)が採用されるときには電圧ベクトルV4が採用される。
図3は電圧ベクトルV0〜V7の位置関係を示す電圧ベクトル図である。各電圧ベクトルV1〜V6はこれらの始点を中心点に一致させそれらの終点を放射状に外側に向けて配置される。各電圧ベクトルV1〜V6の終点同士を結ぶと正六角形を構成する。電圧ベクトルV0,V7に対応するスイッチングパターンでは交流線Pu,Pv,Pwが互いに短絡されるので、電圧ベクトルV0,V7は大きさを有さない。よって電圧ベクトルV0,V7は中心点に配置される。以下では電圧ベクトルV0,V7を零電圧ベクトルとも呼び、電圧ベクトルV1〜V6を非零電圧ベクトルとも呼ぶ。なお、上述の説明から理解できるように、非零電圧ベクトルV1〜V6においては、交流線Pu,Pv,Pwのうち、直流線LH,LLの一方が1つの交流線と導通し、他方が2つの交流線と導通する。また零電圧ベクトルV0,V7においては、交流線Pu,Pv,Pwの全てが直流線LHまたは直流線LLと導通する。以下では、図3に例示するように、非零電圧ベクトルのうち周方向で隣り合う二者の間の領域を領域R1〜R6と呼ぶ。
さて制御部3は、各領域R1〜R6を構成する2つの非零電圧ベクトルVi,Vj(i,j=1〜6,i≠j)と零電圧ベクトルV0(或いは零電圧ベクトルV7)とを所定周期Tにおいて適宜に採用する。換言すれば、6つのスイッチングパターン(001)(010)(011)(100)(101)(110)のうち互いに異なる2つのスイッチングパターンと、スイッチングパターン(000)(或いはスイッチングパターン(111))とが所定周期において採用される。所定周期Tにおける平均的な電圧ベクトルVは各電圧ベクトルの合成で表される。よって以下では電圧ベクトルVを合成電圧ベクトルと呼ぶ。例えば所定周期Tにおいて領域R1を構成する電圧ベクトルV0,V4,V6がそれぞれ期間t0,t4,t6(t0,t4,t6≧0,T=t0+t4+t6)に渡って採用される。言い換えれば、期間t0,t4,t6においてそれぞれスイッチングパターン(000)(100)(110)が採用される。このときの合成電圧ベクトルVは次式で表される。
V=(t0・V0+t4・V4+t6・V6)/T ・・・(7)
制御部3は所定周期T毎に期間t0,t4,t6を適宜に調整して電圧ベクトルV0,V4,V6を採用することで、電圧ベクトルVをその大きさを一定に保ちつつも、領域R1内において中心点を中心として電圧ベクトルVの方向を回転させることができる。同様にして、制御部3が領域R2内において電圧ベクトルV0(V7),V2,V6を適宜に採用する。領域R3〜R6内においても同様である。これによって合成電圧ベクトルVを、その大きさを一定に保ちつつも、その方向を回転させることができる。よって交流線Pu,Pv,Pwには三相交流電圧が出力されることになる。なお、合成電圧ベクトルVの大きさが交流線Pu,Pv,Pwから出力される三相交流電圧の振幅に相当し、角速度の逆数が三相交流電圧の周期に相当する。よって大きさも角速度も一定であれば当該三相交流電圧は対称三相交流電圧となる。
以上のように、制御部3は所定周期T毎に互いに異なる非零電圧ベクトルVi,Vjと零電圧ベクトルとをそれぞれ期間ti(≧0),tj(≧0),t0(或いはt7、或いはt0+t7)に渡って採用する。言い換えれば、上側および下側のスイッチング素子群の一方に属するスイッチング素子の2つと他方に属するスイッチング素子の一つとが導通するスイッチングパターン(001)(010)(011)(100)(101)(110)のうち、互いに異なる2つのスイッチングパターンがそれぞれ期間ti,tjに渡って採用され、上側および下側のスイッチング素子群の一方のみに属する3つのスイッチング素子を導通させるスイッチパターン(000)(111)のうち少なくともいずれか一つがそれぞれ少なくとも期間t0,t7に渡って採用される。
<2−1−2.直流電流と線電流との対応>
上述の各スイッチングパターンが採用されているときにインバータ1に流れる電流について考察する。なお上述の通りスイッチングパターンは電圧ベクトルと対応するので、以下では電圧ベクトルを用いて説明する。図4〜図11はそれぞれ電圧ベクトルV0〜V7が採用されたときのインバータ1に流れる電流を示している。図4,11に示すように零電圧ベクトルV0,V7が採用されている場合は、交流線Pu,Pv,Pwが互いに短絡するので、直流線LH,LLには直流電流Idcが流れない。
図5に示すように非零電圧ベクトルV1が採用されるときには上側のスイッチング素子S3と下側のスイッチング素子S4,S5とが導通する。したがって直流線LHを流れる直流電流Idcはスイッチング素子S3を経由して線電流iwとして交流線Pwを正の方向に流れる。かかる線電流iwは誘導性負荷2において分岐する。分岐された2つの電流は線電流iu,ivとしてそれぞれ交流線Pu,Pvを負の方向に流れる。線電流iu,ivはそれぞれスイッチング素子S4,S5を経由して直流線LLにおいて合流し、直流電流Idcとして流れる。したがって、非零電圧ベクトルV1が採用されているときには直流電流Idcは線電流iwと等しい。
また図7に示すように非零電圧ベクトルV3が採用されるときには、上側のスイッチング素子S2,S3と下側のスイッチング素子S4とが導通する。したがって直流線LHを流れる直流電流Idcは分岐してそれぞれスイッチング素子S2,S3を経由して線電流iv,iwとして交流線Pv,Pwを正の方向に流れる。かかる線電流iv,iwは誘導性負荷2において合流して線電流iuとして交流線Puを負の方向に流れる。線電流iuはスイッチング素子S4を経由して直流電流Idcとして直流線LLを流れる。したがって、非零電圧ベクトルV3が採用されているときには直流電流Idcは、負の値を有する線電流iuと対応する。以下では、線電流が負であることを表現すべく、その符号にマイナスを付与する。
図6、図8〜図10に示すように、他の非零電圧ベクトルV2,V4〜V6が採用されるときにも直流電流Idcと線電流とが対応付けられる。図3には各非零電圧ベクトルに対応する線電流が付記されている。
図3に示されるように、非零電圧ベクトルV1〜V6が採用されているときには直流電流Idcは線電流iu,iv,iwのいずれかと対応する。したがって、直流電流Idcを、非零電圧ベクトルに基づいて決定される相の線電流として推定することができる。例えば非零電圧ベクトルV4が採用される期間において直流電流Idcを線電流iuとして検出する(図8も参照)。
またインバータ1の制御について上述したように、所定周期T毎に非零電圧ベクトルVi,Vjがそれぞれ期間ti,tjに渡って採用される。しかも図3から理解できるように、各領域R1〜R6で採用される非零電圧ベクトルVi,Vjについて、直流電流Idcと一致する線電流の相は互いに異なる。例えば領域R1で採用される非零電圧ベクトルV4,V6について考慮すると、非零電圧ベクトルV4が採用される期間t4では直流電流Idcはu相の線電流と対応し、非零電圧ベクトルV6が採用される期間t6では直流電流Idcはw相の線電流(−iw)と対応する。したがって所定周期T内の期間ti,tjにおいて直流電流Idcをそれぞれ異なる2相の線電流として検出することができる。3相の線電流iu,iv,iwの総和は零であるので、検出した2相の線電流から残りの1相の線電流を算出することができる。よって所定周期T毎に3相の線電流が算出される。
しかしながら実際には期間ti,tjの少なくともいずれか一方が直流電流Idcを検出するために必要な期間よりも短い場合が生じ、その期間において適切に直流電流Idcを検出できない。この点について以下に説明する。
図12は所定周期Tにおけるスイッチング素子S1〜S3の導通/非導通と直流電流Idcの一例を示している。図12の例示では、期間t0,t4,t6,t7に渡ってそれぞれ電圧ベクトルV0,V4,V6,V7が採用されている。即ち、図12は領域R1における一例を示している。さて図12の例示では所定周期Tの始期においてスイッチング素子S1〜S3は非導通である。そして、所定周期Tの始期から期間t0が経過したときにスイッチング素子S1が導通し、スイッチング素子S1が導通を開始した時点から期間t4が経過したときにスイッチング素子S2が導通し、スイッチング素子S2が導通を開始した時点から期間t6が経過したときにスイッチング素子S3が導通している。
そして図12に例示するように、直流電流Idcはスイッチング素子S1〜S3の導通/非導通の切り替えによって過渡的には脈動する。かかる過渡的な脈動は期間の経過と共に低減して直流電流Idcは安定する。なお図12の例示では脈動から安定までの期間が期間t11で表されている。一般的には、このような期間t11を避けて直流電流Idcが検出される。
しかしながら図13に例示するように期間t6が期間t11よりも短ければ、適切な精度で期間t6における直流電流Idcを検出できない。
また検出した直流電流Idcの値をアナログからデジタルに変換する場合であれば、かかる変換にも期間t13を要する。したがって、たとえ過渡的な脈動が非常に小さく期間t11が無視できる程度に小さいとしても、期間t6が期間t13よりも短いときにはその期間t6において直流電流Idcを検出できない。
一方、図13の例示では期間t4は直流電流Idcの検出に必要な期間tref(図13の例示では期間t11,t13の和)よりも長い。よって、期間t4のうち最初の期間t11と最後の期間t13を除いた期間t12において直流電流Idcの検出することで、適切な精度で直流電流Idcを検出できる。よって図13の例示では所定周期Tにおいて1相の線電流iuの値を取得することができるものの、他の2相の線電流iv,iwを適切な精度で取得できない。また例えば所定周期Tにおいて期間ti,tjの両方が期間trefよりも短いときには、所定周期Tにおいて1相の線電流すら適切な精度で検出できない。
なお特許文献1ではこのような事態を回避すべく、期間ti,tjが期間trefよりも短いときにはその期間を増大させる補正を行っている。
さて期間ti,tjが期間trefよりも短いという事象は、例えば合成電圧ベクトルVが各非零電圧ベクトルV1〜V6の近傍に位置する、若しくは零電圧ベクトルV0,V7の近傍に位置するときに生じる。例えば図14を参照して、合成電圧ベクトルVが領域R1に位置して非零電圧ベクトルV4の近傍に位置する場合、期間t6が期間trefよりも短い。図14では、期間ti,tjのいずれか一方のみが期間trefよりも短い領域を斜線のハッチングで示し、期間ti,tjの両方が期間trefよりも短い領域を砂地のハッチングで示している。
<2−1−3.位相差の算出>
ここで、位相差θを、線電流iu,iv,iwと直流電圧Vdcと直流電流平均値Idc_aveと電圧実効値Vrmsと電圧位相φとを用いて表すことを企図する。式(6)を式(1)に代入すると次式が導かれる。
式(5)を式(8)に代入すると次式が導かれる。
さらに式(9)の各列において、位相差θについて変形すれば、位相差θについて次の3つの式を得ることができる。
直流電圧Vdcおよび直流電流平均値Idc_aveは直流電圧検出部6および直流電流平均値取得部5によって検出されるので既知である。電圧実効値Vrmsおよび電圧位相φも電圧取得部312によって得られるので既知である。またスイッチングパターンに基づいて直流電流Idcを検出することで線電流iu,iv,iwのいずれか一つが検出されるので、一つの線電流も既知である。したがって、式(10)〜(12)のうち既知となる線電流に対応した式を用いて位相差θを算出することができる。
位相差取得部321には、スイッチング信号Sと直流電流Idcと直流電流平均値Idc_aveと直流電圧と電圧実効値Vrmsおよび電圧位相φとが入力される。位相差取得部321は期間ti,tjの少なくとも一方が期間trefよりも長いときに、その一方の期間において上述のように直流電流Idcを線電流の一つとして検出する。そして式(10)〜(12)のうち検出された線電流に対応した式を用いて位相差θを算出する。
線電流算出部322は上述したように電流実効値Irmsと電流位相ψとを用いて任意の時点における線電流iu,iv,iwの少なくともいずれか二つを算出する。したがってこの場合は期間ti,tjを増大させる補正を行うことなく、線電流を算出することができる。
なお期間ti,tjの両方が期間trefよりも短いときにも、期間ti,tjのいずれか一方を期間trefよりも長くなるように補正することで、期間ti,tjの一方において線電流の一つを検出し、上述のようにして位相差θを算出してもよい。このような補正は補正部311によって実行される。補正部311は、例えば相電圧指令値を適宜に補正することによって、或いは例えばスイッチング信号Sのパルス幅を適宜に補正することによって、期間ti,tjの一方を補正する。
このような場合であっても、期間ti,tjの両方を補正する必要がないので、線電流のゆがみは低減される。
なおこの位相差θは上述のように誘導性負荷2の定常運転では一定と見なすことができるので、定常運転においては少なくとも1回算出されれば良い。或いは適宜のタイミングで位相差θを更新しても構わない。
また期間ti,tjの両方が期間trefよりも長いときには、式(1)に基づいて線電流を算出することなく、線電流取得部32が期間ti,tjにおいて直流電流Idcからそれぞれ二相の線電流を検出してもよい。そして期間ti,tjの少なくともいずれか一方が期間trefよりも短いときに、位相差取得部321が位相差θを算出し、線電流算出部322が式(1)に基づいて線電流を算出しても良い。また例えば期間ti,tjの一方のみが期間trefよりも短いときには、その一方の期間において直流電流Idcから1相の線電流を検出し、残りの線電流のうち少なくとも一つを式(1)に基づいて算出しても良い。
<3.具体的な動作の一例>
図15は本実施の形態にかかる線電流取得方法のフローチャートの一例を示している。図15のフローチャートは例えば所定周期T毎に繰り返し実行される。ここでは所定周期Tを有して連続する期間の各々として期間T[k](kは自然数)を定義して説明する。ステップST1にて、線電流取得部32は、ある期間T[k−1]において、例えば次の期間T[k]において期間ti,tjのいずれか一方のみが期間trefよりも短いかどうかを推定する。かかる推定は例えば次のようにして行われる。即ち、例えば期間T[k]において出力されるスイッチング信号Sが、期間T[k−1]においてスイッチング信号生成部31から線電流取得部32へと入力される。線電流取得部32はスイッチング信号Sに基づいて次の期間T[k]における期間ti,tjを求め、期間ti,tjの各々と期間trefとを比較して推定する。
なお、図15の例示では、ステップST1にて、線電流取得部32は、期間ti,tjの両方が期間trefよりも小さいかどうかの第1推定と、期間ti,tjのいずれか一方のみが期間trefよりも短いかどうかの第2推定と、期間ti,tjの両方が期間trefよりも長いかどうかの第3推定とを実行している。換言すれば、線電流取得部32は、期間ti,tjの両方が期間trefよりも小さい場合aと、期間ti,tjのいずれか一方のみが期間trefよりも短い場合bと、期間ti,tjの両方が期間trefよりも長い場合cとに場合分けしている。ただし、本実施の形態における最上位概念では第2推定において肯定的な推定がなされた場合の動作が行われれば良い。
さて、ステップST1の第2推定において肯定的な推定がなされれば、ステップST2にて線電流取得部32は次のようにして1相の線電流を検出する。まず線電流取得部32は、期間T[k]内における期間ti,tjのうち期間trefよりも長い期間において、直流電流検出部4を用いて直流電流Idcを検出する。ここでは期間tiが期間trefよりも長いと仮定して説明する。よってステップST2において期間tiにおける直流電流Idcが検出される。図13の例示では期間t4において直流電流Idcが検出される。そして、線電流取得部32は検出された直流電流Idcを、非零電圧ベクトルViに基づいて決定される相の線電流と推定する。図13の例示では直流電流Idcをu相の線電流iuと推定する。
次に、ステップST3にて位相差取得部321は、推定された1相の線電流と、直流電圧Vdcと、直流電流平均値Idc_aveと、相電圧Vu,Vv,Vwとに基づいて、交流線Pu,Pv,Pw側の力率角(即ち交流線の力率角)を算出する。この力率角(位相差)の算出は、上述のように直流線LH,LL側の電力と交流線Pu,Pv,Pw側の電力とが互いに等しいという関係に基づいて行われる。
したがって、検出された1相の線電流に応じて式(10)から式(12)のいずれかを用いることで位相差θを算出することができる。
次にステップST4にて、線電流取得部32は、直流電圧Vdcと直流電流平均値Idc_aveと相電圧(電圧実効値Vrmsと電圧位相φ)と算出した位相差θとを用いて、残りの2相の線電流の少なくとも何れか一方を算出する。この算出も直流線LH,LL側の電力と交流線Pu,Pv,Pw側の電力とが等しいという関係に基づいて行われる。以下に詳細な一例について説明する。
例えば式(6)を用いて電流位相ψを算出し、式(3)を用いて電流実効値Irmsを算出する。そして、電流実効値Irmsと電流位相ψとを、残りの2相の線電流に応じた式(1)に代入して、当該残りの2相の線電流の少なくとも何れか一方を算出する。例えばステップST4において線電流iuが取得されていれば、式(1)から線電流iv,iwの少なくとも何れか一方が算出される。なお必ずしも電流実効値Irmsと電流位相ψとを算出する必要はなく、例えば式(9)を用いて残りの2相の線電流の少なくとも何れか一方を算出しても良い。
以上のように、たとえ期間tjが期間trefを下回っていたとしても、この期間tjを期間tref以上の値まで増大させる補正を行うことなく、所定周期Tにおいて線電流iu,iv,iwを得ることができる。一方、例えば特許文献1のように期間tjを増大させれば、期間tjに対応してインバータ1が出力する線間電圧に歪みが生じる。例えば期間t6においてはスイッチングパターン(110)が採用されるので、相電圧Vu,Vvは高電位を採り、相電圧Vwは低電位を採る。よって期間t6において線間電圧Vuv(=Vu−Vv)は零を採り、線間電圧Vvw(=Vv−Vw)は直流電圧Vdc(直流線LH,LLの間の電圧)を採り、線間電圧Vvw(=Vv−Vw)は直流電圧Vdcを負にした値を採る。期間t6が増大されると、線間電圧Vuv,Vvw,Vwuが上記の値を採る期間が延びて線間電圧Vuv,Vvw,Vwuの波形が歪む。ひいては線電流に歪みが生じる。他方、本線電流取得方法によればかかる歪みを抑制して線電流iu,iv,iwを取得することができる。これを図14の電圧ベクトル図に対応させて説明すると、斜線で示された領域において期間ti,tjの補正を行う必要がなく、この領域における線間電圧および線電流のゆがみが低減される。
なお、線電流の検出精度という観点では、期間T[k−1]以前の直流電流平均値Idc_aveと期間T[k]における直流電流平均値Idc_aveとの差異は小さいことが望ましい。上述の線電流取得方法では、期間T[k]の直流電流平均値Idc_aveを期間T[k−1]以前の直流電流平均値Idc_aveと見なしているからである。当該差異を小さくすることは、例えばモータを略一定速度で運転することで実現できる。他方、この場合には必ずしも期間T[k−1]以前の直流電流平均値Idc_aveが採用される必要はなく、例えば平均化回路によって検出された、ステップST3が実行される時点より前の直流電流平均値Idc_aveが、採用されてもよい。
また上述のように図15の例示では、ステップST1にて線電流取得部32は期間ti,tjの両方が期間trefよりも短いかどうかの第1推定を実行している。ステップST1の第1推定において肯定的な推定がなされると、ステップST5にて補正部311は期間ti,tjのいずれか一方のみを期間tref以上の値に補正する。かかる補正は公知の任意の方法によって実現される。例えば相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*とキャリアとの比較によってスイッチング信号Sを生成する場合は、期間tiが増大するように相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を補正すればよい。これによってスイッチング信号生成部31は補正後の期間において対応する電圧ベクトルを採用することになる。
次に上述したステップST2を実行して1相の線電流を取得する。ステップST2においては、線電流取得部32は、期間ti,tjのうちステップST5にて補正された期間に流れる直流電流を、直流電流検出部4を用いて検出して上述のように1相の線電流を取得する。そして、ステップST3にて上述のように力率角(位相差)θを算出し、ステップST4にて上述のように他の2相の線電流を取得する。これによって、例えば特許文献1のように期間ti,tjの両方を期間tref以上の値に補正する場合に比べて、インバータ1が出力する線間電圧および線電流の歪みを低減して3相の線電流を得ることができる。これを図14の電圧ベクトル図に対応させて説明すると、砂地の領域において期間ti,tjのいずれか一方のみを補正すればよく、期間ti,tjの両方を補正する場合に比べて、この領域における線間電圧および線電流の歪みを低減できる。
なおステップST5にて、補正部311は期間ti,tjのうちより大きい方の期間を期間tref以上の値まで増大させる補正を行うことが望ましい。例えば図16に例示するように、ステップST11にて、補正部311は期間ti,tjの大小関係を比較する。ステップST11にて期間tiが期間tjよりも長いときには、ステップST12にて補正部311は期間tiを所定期間tref以上に補正する。ステップST11にて期間tjが期間tiよりも長いときには、ステップST13にて期間tjを所定期間tref以上に補正する。なお、期間ti,tjが互いに等しいときにはステップST12,ST13のいずれが実行されてもよい。これによって、インバータ1が出力する線間電圧および線電流の歪みを抑制することができる。
また期間ti,tjのいずれか一方を増大させた分だけ、零電圧ベクトルが採用される期間を低減させることが望ましい。これは、大きさを有さない零電圧ベクトルの期間を低減する方が、大きさを有する非零電圧ベクトルが採用される期間が低減される場合に比べて線間電圧および線電流の歪みが小さいからである。
また図15の例示では、上述したようにステップST1にて、線電流取得部32は期間ti,tjの両方が期間trefよりも長いかどうかの第3推定を実行している。ステップST1の第3推定において肯定的な推定がなされると、ステップST6にて期間ti,tjにおいて検出された直流電流Idcを、それぞれ非零電圧ベクトルVi,Vjに基づいて決定される相の線電流として推定する。そして、これらの2相の線電流から残りの一相の線電流を算出する。これによって、3相の線電流を得ることができる。なお、ステップST6において必ずしも期間ti,tjの両方で直流電流Idcを検出する必要はない。期間ti,tjのいずれか一方で直流電流Idcを1相の線電流として検出し、残りの2相の線電流をステップST4と同様にして算出してもよい。
第2の実施の形態.
図17の例示では、図1の例示と比較して、制御部3が直流電流平均値取得部33を備えている。直流電流平均値取得部33には直流電流検出部4からの直流電流Idcとスイッチング信号生成部31からのスイッチング信号Sとが入力されて、これらに基づいて直流電流平均値Idc_aveを算出する。具体的な算出方法は後に詳述する。
図18は本実施の形態にかかる線電流取得方法のフローチャートの一例を示している。図15のフローチャートと相違する点として、ステップST6の次にステップST7が実行される。即ち、ステップST7は期間ti,tjのいずれもが期間trefよりも長いときに実行される。
ステップST7においては、直流電流平均値取得部33は式(5)に基づいて直流電流平均値Idc_aveを算出する。式(5)を直流電流平均値Idc_aveについて整理すると次式が導かれる。
Idc_ave=3Vrms・Irms・cosθ/Vdc・・・(13)
直流電流平均値取得部33は式(13)に基づいて直流電流平均値Idc_aveを算出する。ここで、電圧実効値Vrmsは相電圧指令値の実効値であってもよく、交流線Pu,Pv,Pwの電圧を検出して得られる実効値であってもよい。電流実効値Irmsは、ステップST6において取得された線電流iu,iv,iwから求められる。力率角(位相差)θは電圧位相φと電流位相ψの差分で求められる(式(6))。電圧位相φは相電圧指令値の位相であってもよく、交流線Pu,Pv,Pwの電圧を検出して得られる位相であってもよい。電流位相ψはステップST6において取得された線電流iu,iv,iwから求められる。直流電圧Vdcは直流電圧検出部6によって検出される。なお、式(1)から理解できるように、2相の線電流に基づいて電流実効値Irmsと電流位相ψとを算出することが可能である。したがって、平均値の算出という観点では、3相の線電流を取得する必要はなく、2相の線電流を取得すればよい。
このような電力変換装置によれば、直流電流平均値Idc_aveが制御部3の演算機能によって算出される。したがって第1の実施の形態のように、例えば一次フィルタによって構成される直流電流平均値取得部5を設ける必要がなく、製造コストを低減することができる。
なお交流線Pu,Pv,Pw側の電力Pacは固定座標系の二軸、いわゆるα軸とβ軸の電圧Vα,Vβと、α軸の電流iαとβ軸の電流iβとを用いて次式で表すことができる。
Pac=Vα・iα+Vβ・iβ ・・・(14)
また交流線Pu,Pv,Pw側の電力Pacは回転座標系の二軸、いわゆるd軸とq軸の電圧Vd,Vqと、d軸の電流idとq軸の電流iqとを用いて次式で表すことができる。
電圧Vα,Vβ及び電流iα,iβはそれぞれ相電圧Vu,Vv,Vwおよび線電流iu,iv,iwに対して公知の変換(例えば絶対変換)を適用することによって求めることができる。
Pac=Vd・id+Vq・iq ・・・(15)
さて、電圧Vα,Vβ,Vd,Vq及び電流iα,iβ,id,iqは相電圧Vu,Vv,Vwおよび線電流iu,iv,iwに対して公知の変換(例えば絶対変換)を適用することによって求めることができる。
電力Pac,Pdcが互いに等しいという関係に基づいて、式(4)と式(14)或いは式(15)とを用いれば、次式が導かれる。
Idc_ave=(Vα・iα+Vβ・iβ)/Vdc ・・・(16)
Idc_ave=(Vd・id+Vq・iq)/Vdc ・・・(17)
したがって、直流電流平均値取得部33は、式(16)或いは式(17)を採用して直流電流平均値Idc_aveを算出しても良い。
また直流電流平均値取得部33は次の関係に基づいて直流電流平均値Idc_aveを算出しても良い。即ち、直流電流平均値Idc_aveの所定周期Tにおける積分値が、期間ti,tjにそれぞれ流れる直流電流Idcの積分値が等しいという関係を用いる。かかる関係から次式が導かれる。
Idc_ave=(ti・Idci+tj・Idcj)/T ・・・(18)
ここで、Idci,Idcjはそれぞれ期間ti,tjにおいて流れる直流電流Idcである。直流電流平均値取得部33は式(18)に基づいて直流電流平均値Idc_aveを算出する。ここで、期間ti,tjおよび直流電流Idci,Idcjの取得は、図15を参照して説明したステップST1,ST6と同様の動作を直流電流平均値取得部33が行うことによって実現される。一方で線電流取得部32はステップST6にて期間ti,tjおよび直流電流Idci,Idcjを取得しているので、これらを直流電流平均値取得部33へと与えても良い。これによって線電流取得部32と直流電流平均値取得部33とで重複した演算を省略できる。
また式(18)に基づく直流電流平均値Idc_aveの算出(ステップST7)と、非零電圧ベクトルVi,Vjに基づいて決定される相の線電流の推定(ステップST6)とのいずれを先に実行しても構わない。
第3の実施の形態.
第3の実施の形態では、図19に示すように電流極性検出部7が設けられる。電流極性検出部7は、線電流iu,iv,iwが流れる方向の切り替わりを検出する。第1の実施の形態で述べたように、ここではインバータ1から誘導性負荷2へと向う方向を正と定義し、その反対方向を負と定義している。よって電流極性検出部7は線電流iu,iv,iwの正負の極性の切り替わりを検出する、とも表現できる。
さて線電流iu,iv,iwは周知のように互いに位相が120度ずれた略正弦波形状を有し(式(1)も参照)、線電流iu,iv,iwの極性と電流位相ψの範囲との関係は下表で示される。
例えば線電流iwの極性が切り替わる時点において電流位相ψは30度又は210度である。そして当該時点の直前の線電流iu,iv,iwの極性パターンが(正、負、負)であれば、当該時点における電流極性は30度である。或いは当該時点の直後の線電流iu,iv,iwの極性パターンが(正、負、正)であれば当該時点における電流位相ψは30度である。また当該時点の直前の線電流iu,iv,iwの極性パターンが(負、正、正)、又は当該時点の直後の線電流iu,iv,iwの極性パターンが(負、正、負)であれば、電流位相ψは210度である。
線電流iuの極性が切り替わる時点における電流位相ψおよび線電流ivの極性が切り替わる時点における電流位相ψについても同様であるので繰り返しの説明を避ける。
位相差取得部321は、電流極性検出部7によって検出される各線電流iu,iv,iwの極性を受け取る。そして上述のように電流極性検出部7によって検出される線電流の極性が切り替わったときに、その時点における電流位相ψを、当該電流の極性の切り替わりに対応した値に決定する。例えば線電流iu,iv,iwの各々の極性が切り替わる時点の直前及び直後の少なくともいずれか一方における線電流iu,iv,iwのいずれか一つの極性に基づいて、電流位相ψを決定する。例えば線電流iu,iv,iwの極性のパターンが(正、負、正)から(負、負、正)へと変化したときに、電流位相ψを90度に決定する。
なお線電流iu,iv,iwの例えばいずれか二相のみを用いても良い。例えば線電流iu,ivの極性と電流位相ψとの関係は下表で示される。
位相差取得部321は、例えば線電流iu,ivの極性パターンが(正、負)から(負、負)へと変化したときに、電流位相ψを90度に決定する。この場合、電流極性検出部7は線電流iu,ivの極性のみを検出すればよい。
また位相差取得部321は、線電流iu,iv,iwの極性が切り替わった時点における電圧位相φを電圧取得部312から受け取る。そして電圧位相φと電流位相ψとの差を演算して、位相差θ(=φ−ψ)を算出する。
電圧振幅(電圧実効値Vrms)は第1の実施の形態と同様にして取得される。そして線電流算出部322は任意の時点における電圧位相φを電圧取得部312から受け取り、この電圧位相φと、位相差取得部321からの位相差θとを用いて当該時点における電流位相ψを算出する。この算出は式(6)を用いて実行される。そして、当該時点における電流位相ψと、電流実効値Irmsとに基づいて、式(1)を用いて、当該時点における線電流iu,iv,iwの少なくとも二つを算出する。
以上のようにして任意の時点における線電流iu,iv,iwを算出できるので、第1の実施の形態と同様に線電流のゆがみを低減できる。また本実施の形態によれば位相差取得部321は第1の実施の形態とは異なって直流電流Idcに基づいて1相の線電流を検出する必要がない。よって直流電流検出部として検出速度の遅いものを採用することができ、回路コストを低減できる。また期間ti,tjの両方が期間trefよりも小さいときであっても、期間ti,tjの両方を増大させることなく、線電流を得ることができる。したがって更に線電流のゆがみを低減することができる。
なお期間ti,tjの両方が期間trefよりも長いときには、線電流算出部322による算出を行うことなく、線電流取得部32が期間ti,tjにおいてスイッチングパターンに基づいて直流電流Idcをそれぞれ二つの線電流として検出してもよい。この場合、図1の直流電流検出部4が設けられる。そして、期間ti,tjの少なくともいずれか一方が期間trefよりも短いときに、本実施の形態のようにして線電流算出部322が線電流を算出しても良い。この場合、期間ti,tjの一方において直流電流Idcを検出する必要があるので、直流電流検出部4としては比較的早く検出できるものを採用する必要がある。しかしながら、期間ti,tjを補正する必要がないので、線電流のゆがみを更に低減できるという効果は招来する。
また線電流算出部322は、三相座標系における線電流iu,iv,iwを算出しているが、他の座標系における線電流iu,iv,iwを算出しても良い。例えば線電流算出部322は電流位相ψを、モータ制御で用いられる三相座標系以外の座標系(例えばdq軸座標系)における電流位相ψ’に変換してもよい。つまりここでは誘導性負荷2としてモータが採用される。
電流位相ψは例えば三相座標系においてU相軸を基準とした位相である。一方、三相座標系以外の座標系において基準となる軸とU相軸との間の位相差をΨとすると、電流位相ψ’は次式で表される。
ψ’=ψ−Ψ ・・・(19)
例えば三相座標系以外の座標系としてdq軸座標系を採用すると、その位置関係は図20で示す通りとなる。図20はU,V,Wの三相座標系とdq軸座標系とを重ねて表し、これに電流ベクトルIを記載した図である。図20の例示では、電流位相ψ’はq軸を基準とする。この場合、U軸とd軸との位相差θreを用いて電流位相ψ’は次式で表される。
ψ’=ψ−θre−π/2 ・・・・(20)
なお位相差θreはモータの回転子の回転位置に相当するところ、このような回転位置は公知の手法によって得ることができる。
そして線電流算出部322は、三相座標系以外の座標系における線電流を算出しても良い。たとえばdq軸座標系における線電流id,iqは次式で表すことができる。
id=−√(3/2)・Im・sinψ’ ・・・(21)
iq=√(3/2)・Im・cosψ’ ・・・(22)
ここで、Imは電流振幅を表し、式(1)でいうsinの係数である。
このような線電流の算出によれば、三相座標系の線電流iu,iv,iwを算出し、これに公知の座標変換行列を乗算して線電流id,iqを算出する場合に比して、簡単に線電流id,iqを算出することができる。
<電流極性検出部>
図21に例示するように、電流極性検出部7はスイッチング素子S4,S5の電圧を検出する。また電流極性検出部7は極性判定部72を有し、極性判定部72はスイッチング素子S4,S5の電圧に基づいて線電流iu,ivの極性を判別する。なお図21の例示では電流極性検出部7は二相の線電流iu,ivの極性を判別するものの、これに限らない。例えば電流極性検出部7はスイッチング素子S4〜S6の任意の二つの電圧を検出し、これらに対応する線電流の極性を判別しても良い。或いはスイッチング素子S4〜S6の電圧を検出し、三相の線電流iu,iv,iwの極性を判別してもよい。また図21の例示では、直流線LL側に位置する下側のスイッチング素子S4〜S6の電圧を検出しているものの、直流線LH側に位置する上側のスイッチング素子S1〜S6の電圧を検出しても良い。
さて、スイッチング素子S4の電圧は、スイッチング素子S4とダイオードD4とからなるスイッチング部を流れる電流の極性に応じて変わる。例えば交流線Puから直流線LLに向ってスイッチング素子S4に線電流iuが流れているときには、スイッチング素子S4の電圧はスイッチング素子S4の特性に応じた電圧値を採る。一方で、直流線LLから交流線Puに向ってダイオードD4に線電流iuが流れているときには、スイッチング素子S4の電圧はダイオードD4の特性に応じた電圧値を採る。したがって、スイッチング素子S4の電圧に基づいて線電流iuの極性を検出することができる。同様に、スイッチング素子S5の電圧の極性を検出することで、線電流iv極性を検出できる。
図21の例示では 電流極性検出部7は分圧抵抗R11,R12,R21,R22を備える。分圧抵抗R11,R12は互いに直列に接続され、この直列接続体がスイッチング素子S4に並列に接続される。分圧抵抗R21,R22は互いに直列に接続され、この直列接続体がスイッチング素子S5に並列に接続される。電流極性検出部7は分圧抵抗R11,R12で分圧された電圧をスイッチング素子S4の電圧として検出し、分圧抵抗R21,R22で分圧された電圧をスイッチング素子S5の電圧として検出する。
よってスイッチング素子S4の電圧Vinに対する検出電圧Voは、分圧抵抗R11,R12の抵抗値をr1,r2とすると次式で表される。
Vo=r2・Vin/(r1+r2) ・・・(23)
式(23)から理解できるように、検出電圧Voの正負は電圧Vinの正負と同じであるので、極性判定部72は検出電圧Voの極性に基づいて電圧Vinの極性、即ち線電流iuの極性を判別する。スイッチング素子S5についても同様であるので、繰り返しの説明を避ける。
さて、スイッチング素子S4とダイオードD4とからなるスイッチング部及びスイッチング素子S5とダイオードD5とからなるスイッチング部の各々は次で説明する特性を有する。即ち当該スイッチング部は、図22に例示するように、自身に流れる電流の絶対値が小さいときの当該電流に対する電圧の変化率が、当該絶対値が大きいときの変化率よりも高い特性を有する。なおダイオードD4,D5が設けられていない場合にはスイッチング素子S4,S5自体が上記特性を有する。
例えばスイッチング素子S1が非導通であって線電流iuが正であるときには、ダイオードD4に電流が流れる(図21も参照)。このときスイッチング素子S4(ダイオードD4)の電圧はダイオードD4の電流−電圧特性に従う値である。つまり図22の第4象限(線電流が正である領域)で示される特性はダイオードD4の電流−電圧特性である。
また例えばスイッチング素子S4が導通し線電流iuが負であるときには、スイッチング素子S4に電流が流れる。このときスイッチング素子S4の電圧はスイッチング素子S4の電流−電圧特性に従う値である。つまり図22の第2象限(線電流が負である領域)で示される特性はスイッチング素子S4の電流−電圧特性である。このような特性を有するスイッチング素子として、例えばトランジスタ、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタなどのバイポーラ素子が採用できる。
このようなスイッチング部に依れば、線電流が零付近で電圧が急峻に変化するので、電流極性検出部7は高い精度で線電流iu,ivの極性を判別できる。またスイッチング素子S4,S5の電圧を増大せずに或いは小さい増幅率で線電流iu,ivの極性を判別できる。
このように線電流iu,ivの極性を高い精度で検出できるので、電流極性検出部7は、特許文献9,10で示すようなデッドタイム補償において、適切な補償に資する。ここでいうデッドタイムとは、インバータ1の同じ交流線に接続される上側のスイッチング素子と下側のスイッチング素子とのスイッチングに際して、一旦、上側のスイッチング素子と下側のスイッチング素子との両方を非導通とする期間である。これによって、上側のスイッチング素子と下側のスイッチング素子が同時に導通することを避けることができる。
さて、例えばスイッチング素子S1,S4を非導通とするデッドタイムでは、線電流iuが負であれば上側のダイオードD1に電流が流れる。よって交流線Puには高電位(直流線LHの電位)が印加される。一方、当該デッドタイムにおいて線電流iuが正であれば下側のダイオードD4に電流が流れ、交流線Puには低電位(直流線LLの電位)が印加される。よって当該デッドタイムに流れる線電流iuの極性によって、交流線Puに出力される相電圧Vuが変化する。これによって出力すべき相電圧指令値Vu*と、実際に出力される相電圧Vuとの間に誤差が生じえる。他のv相、w相についても同様である。特許文献9,10ではデッドタイムにおける線電流の極性を検出し、この極性に応じた補償量を生成し、これを例えば相電圧指令値に加えて補正することで、当該誤差を低減している。或いはインバータ1のスイッチング素子S1〜S6に与えるスイッチング信号に対して、補償量に基づいてそのパルス幅を調整してもよい。
図23の例示では、検出電圧Voを所定値に制限する検出電圧制限部を更に備える。例えば電流極性検出部7は保護回路73を更に備える。検出電圧制限部の一例たる保護回路73は、スイッチング素子S4,S5の電圧が基準値以上であるときに、検出電圧を所定値に制限する。つまり、保護回路73は極性判定部72に所定値を超える電圧が印加されることを回避する。よって保護回路73は極性判定部72を過電圧から保護することができる。
例えば線電流iuがスイッチング素子S1又はダイオードD1を流れているときには、スイッチング素子S4の電圧は直流線LH,LL間の直流電圧Vdcとほぼ等しい。この直流電圧Vdcは例えば数百Vである。一方で、スイッチング素子S4又はダイオードD4に電流が流れているときのスイッチング素子S4の電圧の絶対値は数V以下である。電流極性検出部7はこの数V以下の電圧を検出することで線電流iuの極性を判別する。よって、線電流iuがスイッチング素子S1又はダイオードD1を流れるときのスイッチング素子S4の電圧を検出する必要はない。したがって保護回路73は例えば数Vよりも大きい電圧がスイッチング素子S4に印加される場合に、検出電圧を所定値に制限する。
保護回路73は例えばダイオードD10,D20とツェナーダイオードZD1,ZD2とを有する。ダイオードD10は分圧抵抗R11,R12の間の点と、直流電源E1との間に設けられ、直流電源E1側にカソードを有する。ダイオードD20は分圧抵抗R21,R22の間の点と、直流電源E1との間に設けられ、直流電源E1側にカソードを有する。ダイオードD10,D20は、検出電圧が直流電源E1の電圧よりも高いときに導通して、直流電源E1側へと電流を流す。これによって、検出電圧を直流電源E1の電圧とほぼ等しい値にクランプすることができる。
ツェナーダイオードZD1は分圧抵抗R12と並列に接続され、直流線LL側にアノードを有する。ツェナーダイオードZD2は分圧抵抗R22と並列に接続され、直流線LL側にアノードを有する。ツェナーダイオードZD1,ZD2は、各々に印加される電圧が自身のツェナー電圧を超えると導通し、その電圧をツェナー電圧に維持する。よって、検出電圧をそのツェナー電圧にクランプできる。
ツェナーダイオードZD1,ZD2のツェナー電圧は例えば5Vであり、直流電源E1の電圧も例えば5Vである。よってスイッチング素子S4,S5の電圧が基準値以上となることで分圧抵抗R12,R22の各々の電圧が5Vを超える期間では、検出電圧は上限値に制限されて極性判定部72に出力される。なお、ダイオードD10とツェナーダイオードZD1との両方が設けられる必要はなく、いずれか一方が設けられれば良い。ただし、ダイオードD10は応答性に優れるので、線間誘起電圧が基準値を超えたときに速やかにクランプできる。一方で、ツェナーダイオードZD1は検出経路に電流を流すことができるので、検出経路上で検出電圧を制限できる。ダイオードD20とツェナーダイオードZD2についても同様である。
図24は、電流極性検出部7の他の一例の概念的な構成を示している。電流極性検出部7は分圧抵抗R13,R14,R23,R24とツェナーダイオードZD11,ZD21と極性判定部72とを備えている。
分圧抵抗R13とツェナーダイオードZD11とは互いに直列に接続され、この直列接続体がスイッチング素子S4に並列に接続される。分圧抵抗R23とツェナーダイオードZD21とは互いに直列に接続され、この直列接続体がスイッチング素子S4に並列に接続される。ツェナーダイオードZD11,ZD21は分圧抵抗R13,R23に対してそれぞれ直流線LL側に設けられ、直流線LL側にアノードを有する。分圧抵抗R14は、分圧抵抗R13とツェナーダイオードZD11との間の点と、直流電源E1との間に設けられ、分圧抵抗R24は、分圧抵抗R23とツェナーダイオードZD21との間の点と、直流電源E1との間に設けられる。
分圧抵抗R13とツェナーダイオードZD11との間の点の電圧がスイッチング素子S4の電圧として検出されて極性判定部72に出力され、分圧抵抗R23とツェナーダイオードZD21との間の点の電圧がスイッチング素子S5の電圧として検出されて極性判定部72に出力される。
このような電流極性検出部7において、スイッチング素子S4,S5の電圧が基準値を超えることでツェナーダイオードZD11,ZD21が導通する期間では、ツェナーダイオードZD11,ZD21のツェナー電圧が検出される。言い換えれば、ツェナーダイオードZD11,ZD21が検出電圧制限部として機能する。ツェナーダイオードZD11のツェナー電圧の値は、スイッチング素子S4とダイオードD4とからなるスイッチング部を流れる電流が零となる近傍でツェナーダイオードZD11が導通しないように、設定される。ツェナーダイオードZD21についても同様である。
一方、スイッチング素子S4の電圧が基準値を下回ることでツェナーダイオードZD11が導通しない期間においては、スイッチング素子S4の電圧と、直流電源E1の直流電圧と分圧抵抗R13,R14に基づく値が検出される。例えばスイッチング素子S4の電圧、直流電源E1の直流電圧をそれぞれVin,Vccとすると、検出電圧は次式で表される。なお検出電圧を図21の検出電圧と同じくVoと表し、分圧抵抗R13,R14の抵抗値を分圧抵抗R11,R12と同じくそれぞれr1,r2で表す。
Vo=Vcc−(Vcc−Vin)・r2/(r1+r2)
=Vcc・r1/(r1+r2)+Vin・r2/(r1+r2)・・・(24)
式(24)の第1項は定数でありオフセット成分である。第2項はスイッチング素子S4の電圧Vinに基づく成分である。したがって検出電圧Voはスイッチング素子S4の電圧Vinとして検出されることとなる。極性判定部72は検出電圧Voが第1項よりも大きいときに電圧Vinの極性が正であると判別し、検出電圧Voが第1項よりも小さいときに電圧Vinの極性が負であると判別する。なおスイッチング素子S5の電圧についても同様であるので繰り返しの説明を避ける。
図24は、電流極性検出部7の他の一例の概念的な構成を示している。電流極性検出部7は分圧抵抗R13,R14,R23,R24とダイオードD11,D21と極性判定部72とを備えている。分圧抵抗R13,R14とダイオードD11とは直流電源E1と交流線Puとの間で互いに直列に接続される。ダイオードD11は交流線Pu側にカソードを有する。分圧抵抗R13,R14とダイオードD11とは直流電源E1から交流線Puへとこの順で配置される。分圧抵抗R23,R24とダイオードD21とは直流電源E1と交流線Pvとの間で互いに直列に接続される。ダイオードD21は交流線Pv側にカソードを有する。分圧抵抗R23,R24とダイオードD21とは直流電源E1から交流線Pvへとこの順で配置される。
分圧抵抗R13,R14の間の点の電圧がスイッチング素子S4の電圧として検出されて極性判定部72に出力され、分圧抵抗R23,R24の間の点がスイッチング素子S5の電圧として検出されて極性判定部72に出力される。
スイッチング素子S4,S5の電圧が基準値を超えることでダイオードD11,D21が導通しない期間においては、検出電圧は直流電源E1の直流電圧Vccに制限される。よってダイオードD11,D21は電圧制限部として機能する。なお、この直流電圧Vccはスイッチング素子S4,S5の電圧が零となる近傍においてダイオードD11,D21が導通するように設定される。
一方、スイッチング素子S4の電圧が基準値を下回ることでダイオードD11が導通する期間においては、スイッチング素子S4の電圧と、直流電源E1の直流電圧と分圧抵抗R13,R14とダイオードD11に基づく値が検出される。例えばダイオードD11の順方向電圧をVfとすると、検出電圧は次式で表される。
Vo=(Vcc−Vf−Vin)・r1/(r1+r2)+Vf+Vin
=Vcc・r1/(r1+r2)+Vf・r2/(r1+r2)
+Vin・r2/(r1+r2) ・・・(25)
式(25)の第1項および第2項は定数でありオフセット成分である。第3項はスイッチング素子S4の電圧Vinに基づく成分である。したがって検出電圧Voはスイッチング素子S4の電圧Vinとして検出されることとなる。極性判定部72は検出電圧Voが第1項と第2項との和よりも大きいときに電圧Vinの極性が正であると判別し、検出電圧Voが第1項と第2項との和よりも小さいときに電圧Vinの極性が負であると判別する。なおスイッチング素子S5の電圧についても同様であるので繰り返しの説明を避ける。
<電圧検出回路のパラメータ>
ここでは、図22を参照して、スイッチング素子S4の電圧Vinが電圧値Vref1よりも大きいときに線電流iuが正であると判別し、スイッチング素子S4の電圧が電圧値Vref2よりも小さいときに線電流iuが負であると判別する。そして、電圧値Vref1,Vref2の差である電圧差ΔVoが、量子化単位をΔqとして次式を満たすように、電圧検出回路の各要素のパラメータを決定する。
ΔVo>x・Δq ・・・(26)
ここでxは正の定数である。また量子化単位Δqは検出電圧Voをアナログ/デジタル変換する際の量子化単位である。
例えば図21の電流極性検出部7では次式が成立する(式(23)〜式(25)も参照)。
ΔVo=ΔVi・r2/(r1+r2) ・・・(27)
式(27)を式(26)に代入すると次式が導かれる。
r2/(r1+r2)>x・Δq/ΔVi ・・・(28)
よって式(28)が成立するように抵抗値r1,r2を選定すればよい。ここで抵抗値r1,r2を選定するにあたり、分圧抵抗R11,R12での消費電力の上限値Wを設定する。よって分圧抵抗R11,R12の合成抵抗の抵抗値r3は、直流電圧Vdcの上限値Vdcmaxを用いて次式で表される。
r3>Vdcmax^2/W ・・・(29)
ここでA^BはAのB乗を示す。例えば上限値Vdcmax,Wがそれぞれ400[V]、0.5[W]であるときには抵抗値r3を320[kΩ]よりも大きく設定する。
そこで、抵抗値r3(=r1+r2)が確実に式(28)を満足するように、抵抗値r1を式(29)の右辺よりも大きい値に設定する。例えば抵抗値r1を330[kΩ]に設定する。
式(28)を変形して抵抗値r2についての不等式を求めると次式が導かれる。
r2>x・Δq・r1/(ΔVi−x・Δq) ・・・(30)
よって抵抗値r2を式(30)を満たす値に設定する。例えば電圧差ΔVi、量子化単位Δq、定数xがそれぞれ0.1[V]、5.0/1024、x=8[LSB]であるときには、抵抗値r2を13.4[kΩ]よりも大きい値(例えば15[kΩ])に設定する。
図24の電圧検出回路においても式(27)が成立する。なぜなら式(24)の右辺の第1項は定数であって、差分によってキャンセルされるからである。よって式(28)も成立する。また分圧抵抗R13,R14での消費電力が最大となるのは、ツェナーダイオードZD11が導通したときであり、このとき分圧抵抗R13に最も大きな電圧が印加される。このとき消費電力を上限値Wよりも低くするには次式を満足する必要がある。
r1>(Vdcmax−Vz)^2/W ・・・(31)
ここでVzはツェナーダイオードZD11のツェナー電圧である。このツェナー電圧Vzは上限値Vdcmaxに比べて十分に小さいので簡単のために零に近似する。例えば上限値Vdcmax,Wがそれぞれ400[V]、0.5[W]であるときには抵抗値r1を320[kΩ]よりも大きい値、例えば330[kΩ]に設定する。
抵抗値r2は式(28)を満たすように設定される。例えば電圧差ΔVi、量子化単位Δq、定数xがそれぞれ0.1[V]、5.0/1024、x=8[LSB]であるときには、抵抗値r2を13.4[kΩ]よりも大きい値に選定する。
さらに抵抗値r2は式(23)の第1項の電圧Vccの係数が0.5となるように、即ちオフセット成分が電圧Vccの半値となるように、選定されてもよい。この場合、抵抗値r2を抵抗値r1と同じ値(例えば330[kΩ])に選定する。これは式(28)を満足する。
図25の電圧検出回路においても式(27)が成立する。なぜなら式(25)に示すように第1項及び第2項は定数であって、差分によってキャンセルされるからである。よって式(28)も成立する。また分圧抵抗R11,R12での消費電力が最大となるのは、ダイオードD11が導通したときであり、このとき分圧抵抗R11,R12に最も大きな電圧が印加される。このとき消費電力が上限値Wよりも小さくなるように抵抗値r3を選定する。つまり抵抗値r3が次式を満たすように抵抗値r1,r2を選定する。
r3>Vcc^2/W ・・・(32)
例えば電圧Vcc、上限値Wがそれぞれ5[V]、0.05[W]であるときには抵抗値r3が500[Ω]よりも大きくなるように抵抗値r1,r2を選定する。
また式(25)の第1項および第2項のオフセット成分が0.5Vccとなるように抵抗値r1,r2を選定する。ここでは順方向電圧Vfは十分に小さいので零に近似すると、抵抗値r1,r2を互いに等しく選定する。よって式(28)も鑑みて例えば抵抗値r1,r2を1[kΩ]に選定する。
第4の実施の形態.
第4の実施の形態では、図26に例示するように、直流線LH又は直流線LLを流れる直流電流を検出する直流電流検出部4と、交流電圧の電圧振幅と電圧位相とを取得する電圧取得部312と、線電流と交流電圧との位相差を取得する位相差取得部321と、直流電流に基づいて1相の線電流を検出する一相線電流検出部323と、残りの線電流の少なくとも一つを算出する線電流算出部322とが設けられる。
第4の実施の形態では、式(1)を用いて電流振幅Imを算出する。式(1)を変形すると電流振幅Imは次式で表すことができる。
Im=iu/(√2・sinψ)
Im=iv/{√2・sin(ψ−2π/3)}
Im=iw/{√2・sin(ψ+2π/3)} ・・・(33)
式(29)によれば、線電流iu,iv,iwのうちいずれか一相の線電流の値と、電流位相ψとを求めることで、電流振幅Imを求めることができる。
線電流iu,iv,iwのうちいずれか一相の線電流は図26に示す一相線電流検出部323によって検出される。一相線電流検出部323は直流電流Idcとスイッチング信号Sを入力する。一相線電流検出部323は期間ti,tjの一方において直流電流Idcを、スイッチング素子Sxp,Sxnのスイッチングパターンに基づいて決定される一相の線電流として検出する。この検出は第1の実施の形態で述べたとおりである。例えば期間ti,tjの一方においてスイッチングパターン(100)(電圧ベクトルV4)が採用される場合、その期間において直流電流Idcを線電流iuとして検出する。
電流位相ψは第3の実施の形態と同様にして求める。即ち、電流極性検出部7によって検出される線電流の極性が切り替わったときに、その時点における電流位相ψを、当該電流の極性の切り替わりに対応した値に決定する。例えば線電流iu,iv,iwの極性のパターンが(正、負、正)から(負、負、正)へと変化したときに、電流位相ψを90度に決定する(表1も参照)。
位相差取得部321は、線電流の極性が切り替わった時点における電圧位相φを電圧取得部312から受け取り、当該時点における電圧位相φと、当該時点における電流位相ψとの差を演算して、位相差θ(=φ−ψ)を算出する。
次に線電流算出部322は、期間ti,tjの一方における電圧位相φを電圧取得部312から受け取り、この電圧位相φと位相差θとから当該時点における電流位相ψを算出する。
そして線電流算出部322は一相線電流検出部323からの線電流と、算出した電流位相ψとに基づいて、式(33)を用いて電流振幅Imを算出する。
次に線電流算出部322は残りの少なくとも1相の線電流を算出する。より詳細には、算出した電流振幅Imと、算出した電流位相ψとに基づいて、式(1)を用いて他の線電流のうち少なくとも1相の線電流を算出する。
以上のように、第4の実施の形態においては、期間ti,tjの一方において直流電流Idcを線電流として検出し、残りの少なくとも1相の線電流を式(1)に基づいて算出する。よって、期間ti,tjの他方が電流検出に必要な期間よりも短い場合であっても、この期間ti,tjの他方を増大させる補正を行うことなく、線電流を得ることができる。よって線電流のゆがみを低減できる。
なお期間ti,tjの両方が直流電流Idcの電流検出に必要な期間よりも短い場合には、期間ti,tjの一方を、電流検出に必要な期間以上に増大させることが望ましい。しかるに、たとえこの場合であっても期間ti,tjの両方を増大させる補正を行う必要がないので、線電流の歪みは低減される。