このように、従来の外方部材51では、切欠き部54が少なくとも硬化層53の範囲で全て除去されるように所定の幅に形成されているので、複列の外側転走面51a、51bと肩部52とのエッジ部55がオーバーヒートし、表面の結晶粒が粗粒化して悪化していても確実に除去することができ、焼割れによる亀裂や欠けによる軸受の短寿命を防止することができる。
然しながら、車両の旋回走行時によるモーメント荷重で、ボールが外側転走面51a、51bから乗り上げ、接触楕円の長径側頂点がエッジ部55から脱落するとエッジロードが発生し、極端な高面圧となって大きく寿命が低下する。自動車の燃費向上のため車輪用軸受装置のさらなる小型化と軽量化が要求されており、今後は特許文献1の手法ではエッジロード発生の対策としては不十分となることが考えられる。
また、粗粒化させないために、高周波焼入れ時に外側転走面51a、51bのエッジ部55付近が余り昇温しないようにするとしても、旋回走行時の高面圧に対応するためには、ある程度の深い硬化層が必要であり、粗粒化を防止しつつ、深い硬化層を形成することの両立は困難であった。さらに、焼入鋼切削によって硬化層を除去する必要があり、工程数が増加するため、コスト高になる。
ここで、焼入れ性の良い鋼種を選択することも考えられるが、材料規格が特殊となるため、他の材料との混入防止対策等でコストアップとなって好ましくない。したがって、現行の鋼種のままで、車両の旋回走行時のエッジ部55付近の高面圧による短寿命対策が求められている。
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、内方部材の熱処理時に、内側転走面の肩部の過熱を抑制し、結晶の粗粒化を防止すると共に、内側転走面から転動体がはみ出して転動する際にも極端なエッジロードとなることも防止して軸受の長寿命化を図った車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面に対向する一方の内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪または等速自在継手の外側継手部材からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体とを備えた車輪用軸受装置において、前記内方部材の内側転走面の大径端に円筒状の肩部が形成され、前記転動体が転動する当該内側転走面の終端から前記肩部にかけてテーパ面が形成されると共に、前記内側転走面が旋削加工された後、高周波焼入れによって所定の硬化層が形成されている。
このように、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に複列の外側転走面に対向する一方の内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪または等速自在継手の外側継手部材からなる内方部材を備えた車輪用軸受け装置において、内方部材の内側転走面の大径端に円筒状の肩部が形成され、転動体が転動する当該内側転走面の終端から肩部にかけてテーパ面が形成されると共に、内側転走面が旋削加工された後、高周波焼入れによって所定の硬化層が形成されているので、テーパ面によって転動体が転動する内側転走面の終端から離れた位置にエッジ部を設け、高周波焼入れによって昇温される熱をこのエッジ部の方向へも逃がし、内側転走面の終端の近傍がオーバーヒートするのを防止することができる。すなわち、熱の影響で組織が粗粒化し易い部分をテーパ面に収め、内側転走面の終端の近傍の組織は粗粒化しないようにすることで、粗粒化した組織の高面圧による短寿命を防止することができる。
また、内側転走面の外径側の終端の溝底からの高さhが、車輪用軸受装置が適用される車両の旋回μ=0.6で転動体がはみ出して転動しない高さ以上、または、転動体の直径をDaとし、内側転走面の溝曲率半径Raを、2Ra=1.02〜1.08Daとした時、h≦0.50Daに設定されていれば、内側転走面の終端から転動体がはみ出して転動する際にも、その荷重を受ける体積を大きくとり、肩部のエッジ部に比べ内側転走面の終端の角部が極端にエッジロードとなるのを防止することができる。
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記内側転走面の終端と前記テーパ面のエッジ部の角部が所定の曲率半径R1、R2からなる円弧状に形成され、前記終端側の曲率半径R1が前記テーパ面のエッジ部の曲率半径R2よりも大きく(R1>R2)設定されていれば、角部に高面圧がかかった時に、エッジロードが発生するのを防止することができる。
また、請求項3に記載の発明のように、前記内側転走面の終端部の硬化層の表面から1mm以内のオーステナイト結晶粒度が、前記テーパ面のエッジ部のオーステナイト結晶粒度よりも小さく設定されていれば、高面圧下での粗粒化による短寿命を防止し、軸受の長寿命化を図ることができる。
また、請求項4に記載の発明のように、前記内側転走面の外径側の終端の溝底からの高さhが、前記車輪用軸受装置が適用される車両の旋回μ=0.6で前記転動体がはみ出して転動しない高さ以上、かつ、前記転動体の直径をDaとし、前記内側転走面の溝曲率半径Raを、2Ra=1.02〜1.08Daとした時、h≦0.50Daに設定されていれば、内側転走面の研削加工において、研削焼けを起こすのを防止すると共に、転動体の肩乗り上げを防止し、軸受の長寿命化を図ることができる。
また、請求項5に記載の発明のように、前記肩部の外径面の前記内側転走面の溝底からの高さHが、前記転動体の直径をDaとした時、H≦0.6Daに設定されていれば、アウター側のシールのスペースが制約されることなく、軽量化を図ることができる。
また、請求項6に記載の発明のように、前記テーパ面の傾斜角が、前記内側転走面の終端位置での当該内側転走面の接線と前記肩部の外径面で作る角度よりも小さく、40°〜85°の範囲に設定されていれば、肩部の外径面と内側転走面の終端との距離が短くなって、結晶粒度が粗粒化されるのを防止し、エッジロードを低減させて軸受の長寿命化を図ることができると共に、肩部が大径になって質量が増加したり、シールの断面高さが減少したりするのを防止することができる。
また、請求項7に記載の発明のように、前記テーパ面の面仕上げが焼入れ後の内側転走面と同時に総型砥石による研削面とされていれば、熱処理によって付着した酸化スケールを確実に除去でき、内側転走面への酸化スケールの侵入による音響、振動悪化、酸化スケールの噛み込み圧痕からの破損を防止することができる。
また、請求項8に記載の発明のように、前記肩部の外径面が前記内側転走面と同時に総型砥石によって研削されれば、さらに加工工数を削減することができる。
また、請求項9に記載の発明のように、前記ハブ輪の内側転走面の硬化層の軸方向深さが、当該内側転走面の転動体との接触点位置から前記肩部にかけて軸方向に漸増するように形成されていれば、旋回走行時の高面圧に対応する充分な硬化層深さを確保することができ、軸受の長寿命化を図ることができる。
また、請求項10に記載の発明のように、前記ハブ輪または外側継手部材が炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも前記内側転走面の表面硬さが58〜64HRCの範囲に設定されていれば、所望の寿命を確保することができる。
また、請求項11に記載の発明のように、前記内輪が高炭素クロム軸受鋼で形成され、前記内側転走面を有する前記内輪が芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されていれば、所望の寿命を確保することができる。
また、請求項12に記載の発明のように、前記複列の転動体のうちアウター側の転動体のピッチ円直径がインナー側の転動体のピッチ円直径よりも大径に設定されていれば、有効に軸受スペースを活用して外方部材の外径を大きくすることなく、アウター側の軸受列の剛性を高めると共に、負荷容量を増大せしめることができる。
また、請求項13に記載の発明のように、前記複列の転動体のうちアウター側の転動体の外径がインナー側の転動体の外径よりも小径に形成されると共に、前記アウター側の転動体の個数が前記インナー側の転動体の個数よりも多く設定されていれば、アウター側の軸受列の剛性を高めることができると共に、インナー側の軸受列の負荷容量を増大させることができる。
本発明に係る車輪用軸受装置は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面に対向する一方の内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪または等速自在継手の外側継手部材からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体とを備えた車輪用軸受装置において、前記内方部材の内側転走面の大径端に円筒状の肩部が形成され、前記転動体が転動する当該内側転走面の終端から前記肩部にかけてテーパ面が形成されると共に、前記内側転走面が旋削加工された後、高周波焼入れによって所定の硬化層が形成されているので、テーパ面によって転動体が転動する内側転走面の終端から離れた位置にエッジ部を設け、高周波焼入れによって昇温される熱をこのエッジ部の方向へも逃がし、内側転走面の終端の近傍がオーバーヒートするのを防止することができる。すなわち、熱の影響で組織が粗粒化し易い部分をテーパ面に収め、内側転走面の終端の近傍の組織は粗粒化しないようにすることで、粗粒化した組織の高面圧による短寿命を防止することができる。また、内側転走面の外径側の終端の溝底からの高さhが、車輪用軸受装置が適用される車両の旋回μ=0.6で転動体がはみ出して転動しない高さ以上、または、転動体の直径をDaとし、内側転走面の溝曲率半径Raを、2Ra=1.02〜1.068Daとした時、h≦0.50Daに設定されていれば、内側転走面の終端から転動体がはみ出して転動する際にも、その荷重を受ける体積を大きくとり、肩部のエッジ部に比べ内側転走面の終端の角部が極端にエッジロードとなるのを防止することができる。
外周に車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に所定のシメシロを介して圧入され、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列のボールとを備えた車輪用軸受装置において、前記ハブ輪の内側転走面の大径端に円筒状の肩部が形成され、前記転動体が転動する当該内側転走面の終端から前記肩部にかけてテーパ面が形成されると共に、前記内側転走面の終端と前記テーパ面のエッジ部の角部が所定の曲率半径R1、R2からなる円弧状に形成され、前記終端側の曲率半径R1が前記テーパ面のエッジ部の曲率半径R2よりも大きく(R1>R2)設定され、前記内側転走面が旋削加工された後、高周波焼入れ、もしくは加熱炉によってズブ焼入れによって所定の硬化層が形成され、その後、複列の内側転走面が、研削加工、そして超仕上げ加工により、所定の形状および面粗度に仕上げられる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図、図2は、図1のハブ輪単体を示す拡大断面図、図3は、図2の要部拡大図、図4は、図3の変形例を示す要部拡大図、図5は、図2のハブ輪の硬化層を示す説明図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
この車輪用軸受装置は従動輪用の第3世代と称され、内方部材1と外方部材2、および両部材1、2間に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)3、3を備えている。内方部材1は、ハブ輪4と、このハブ輪4に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
ハブ輪4は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、この車輪取付フランジ6の円周等配位置に車輪を固定するためのハブボルト6aが植設されている。また、ハブ輪4の外周には一方(アウター側)の内側転走面4aが直接形成され、この内側転走面4aから軸方向に延びる小径段部4bが形成されている。そして、外周に他方(インナー側)の内側転走面5aが形成された内輪5がこの小径段部4bに圧入され、さらに、小径段部4bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部4cにより所定の軸受予圧が付与された状態で、ハブ輪4に対して内輪5が軸方向に固定され、背面合せタイプの複列アンギュラ玉軸受を構成している。
ハブ輪4はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、アウター側の内側転走面4aをはじめ、後述するアウター側のシール8が摺接するシールランド部から小径段部4bに亙り高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。なお、加締部4cは、鍛造後の素材表面硬さ25HRC以下の未焼入れ部としている。一方、内輪5および転動体3は、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲で硬化処理されている。これにより、シールランド部の耐摩耗性が向上するだけでなくハブ輪4の強度が向上すると共に、内輪5の嵌合面におけるフレッティング摩耗が抑制されて耐久性が向上する。また、加締部4cの加工性を向上させ、塑性変形によるクラック等の発生を防止することができる。
外方部材2は、外周に車体(図示せず)に取り付けるための車体取付フランジ2bを一体に有し、内周に前記内方部材1の複列の内側転走面4a、5aに対向する複列の外側転走面2a、2aが一体に形成されている。この外方部材2は、ハブ輪4と同様、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、それぞれの転走面2a、4aと2a、5a間に複列の転動体3、3が収容され、保持器7、7によりこれら複列の転動体3、3が転動自在に保持されている。また、外方部材2と内方部材1との間に形成される環状空間の開口部にはシール8、9が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
ここで、ハブ輪4は、図2に拡大して示すように、内側転走面4aの大径端に円筒状の肩部(基部)10が形成されると共に、この肩部10と内側転走面4aの大径端との交差部に環状の切欠き部11が形成されている。そして、内側転走面4aが旋削加工された後、高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化層12が形成されている(図中クロスハッチングにて示す)。その後、高周波焼入れ、もしくは加熱炉によってズブ焼入れされ、複列の内側転走面41a、5aが、研削加工、そして超仕上げ加工により、所定の形状および面粗度に仕上げられる。
内側転走面4aの外径側の終端13の溝底からの高さ、所謂溝深さhは、この車輪用軸受装置が適用される車両の旋回μ=0.6で転動体3がはみ出して転動しない高さ以上、好ましくは、旋回μ=0.7で転動体3がはみ出して転動しない高さ以上、かつ、転動体3の直径をDaとした時、h≦0.50Daに設定されている。これにより、転動体3の肩乗り上げを防止し、軸受の長寿命化を図ることができる。ただし、内側転走面4aの溝曲率半径Raは、2Ra=1.02〜1.08Daとする。ここで、旋回μとは、車両が旋回運動をするときタイヤにはコーナリングフォース、すなわち、各車輪にその旋回運動円の中心に向いて働く力が発生するが、この時のタイヤと路面の間の摩擦係数を示している。
旋回μ=0.6急旋回で充分発生する可能性のある旋回μの値であり、それに対応する必要がある。また、h≦0.50Daは、これ以上溝深さhが深くなると、内側転走面4aの研削加工を行う際、ハブ輪4と同軸で研削を行うと、肩部10付近が砥石の側面で加工する状態となり、研削焼けを起こし易くなるから好ましくないからである。また、内側転走面4aの接触角方向に砥石を傾斜させた状態で送りをかける、所謂アンギュラフィードで研削加工すれば、砥石の側面で加工する状態になり難いが、内側転走面4aの同軸度や溝ピッチ寸法(溝底と基準面の寸法)等の精度が悪化して好ましくない。
また、肩部10の外径面の溝底からの高さHは、H≦0.60Daに設定されている。これ以上、肩部10の外径面が大きくなると、アウター側のシール8のスペースが制約されて設計自由度がなくなると共に、重量が増して軽量化を阻害して好ましくない。
切欠き部11は所定の傾斜角θからなるテーパ面に形成されている。このように、切欠き部11によって転動体3が転動する内側転走面4aの終端13から離れた位置にエッジ部11aを設け、高周波焼入れによって昇温される熱をこのエッジ部11aの方向へも逃がし、内側転走面4aの終端13の近傍がオーバーヒートするのを防止することができる。すなわち、熱の影響で組織が粗粒化し易い部分をテーパ面からなる切欠き部11に収め、外側転走面の終端の近傍の組織は粗粒化しないようにすることで、粗粒化した組織の高面圧による短寿命を防止することができる。
また、内側転走面の外径側の終端の溝底からの高さhが、車輪用軸受装置が適用される車両の旋回μ=0.6で転動体がはみ出して転動しない高さ以上、または、転動体の直径をDaとし、内側転走面の溝曲率半径Raを、2Ra=1.02〜1.08Daとした時、h≦0.50Daに設定されていれば、転動体3が転動する内側転走面41a、5aの終端13から肩部10にかけて切欠き部11がテーパ面に形成され、内側転走面41a、5aの終端13から転動体3がはみ出して転動する際にも、その荷重を受ける体積を大きくとり、肩部10のエッジ部11aに比べ内側転走面41a、5aの終端13の角部が極端にエッジロードとなるのを防止することができる。
ここで、高周波焼入れによって硬化される硬化層12について、内側転走面41a、5aの終端13より外径側(図2中の細かいクロスハッチングの範囲)において表面から1mm以内、すなわち旋回μ=0.7で最大せん断応力深さを十分に許容できる深さ以内では、JIS−G0551で規定されるオーステナイト結晶粒度番号が、硬化層12の内側転走面41a,5aの終端13より内径側(図2中の粗いクロスハッチングの範囲)、すなわちエッジ部11a近傍、における表面から1mm以内の最も粗粒であるオーステナイト結晶粒度番号よりも、大きく設定されている。具体的には、硬化層12のエッジ部11aの表面から1mm以内の最も粗粒であるオーステナイト結晶粒度番号が2番(結晶粒の大きさが約150μm)に対し、内側転走面41a、5aの終端13より外径側における表面から1mm以内のオーステナイト結晶粒度番号が5番(結晶粒の大きさが略60μm)に細粒化されている。これにより、軸受の長寿命化を図ることができる。
切欠き部11の傾斜角θは、図3に拡大して示すように、内側転走面4aの終端13位置での内側転走面4aの接線14と基部10の外径面で作る角度αよりも小さく、θ=40°〜85°の範囲に設定されている。この傾斜角θが40°未満では、基部10の外径面と内側転走面4aの終端13との距離が短くなって、粗粒化防止効果が薄れると共に、エッジロード低減効果が低くなる。一方、傾斜角θが85°を超えると、基部10が大径になり、質量の増加やシール断面が小さくなって好ましくない。
切欠き部11のテーパ面の面仕上げは、焼入れ前の旋削による旋削面、あるいは、焼入れ後の焼入れ鋼切削による旋削面であっても良いが、ここでは、焼入れ後の内側転走面4aと同時に総型砥石による研削面とされている。これにより、熱処理によって付着した酸化スケールを確実に除去でき、内側転走面4aへの酸化スケールの侵入による音響、振動悪化、酸化スケールの噛み込み圧痕からの破損を防止することができる。また、焼入れ鋼切削であれば、研削と同様、酸化スケールを除去できるが、その後に内側転走面4aの研削加工が必要となるため、研削工程も行なわなければならない作業効率を考えればそのメリットは少ない。さらに、基部10の外径面も前述した内側転走面4aと切欠き部11と同時に総型砥石によって研削されれば、酸化スケールをより確実に除去できる。
図4に、図3の変形例を示す。なお、この実施形態は、前述した実施形態と基本的には内側転走面4aの終端13aと基部10の切欠き部11’のエッジ部11bの形状が異なるだけで、その他同一部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
転動体3が転動する内側転走面4aの終端13aから肩部10にかけて切欠き部11’がテーパ面に形成され、終端13aおよび切欠き部11’のエッジ部11bの角部が所定の曲率半径R1、R2からなる円弧状に形成されている。そして、終端13aの曲率半径R1が切欠き部11’のエッジ部11bの曲率半径R2よりも大きく(R1>R2)設定されている。これにより、前述した実施形態と同様、高周波焼入れによって昇温される熱をこのエッジ部11bの方向へも逃がし、内側転走面4aの終端13aの近傍がオーバーヒートするのを防止することができると共に、角部に高面圧がかかった時に、エッジロードが発生するのを防止することができる。
ここで、内側転走面4aの終端13aおよび切欠き部11’のエッジ部11bの角部は、焼入れ前の旋削による旋削面、あるいは、焼入れ後の焼入れ鋼切削による旋削面であっても良いが、ここでは、焼入れ後の内側転走面4aと同時に総型砥石による研削面とされている。これにより、転動体3が内側転走面4aの終端13aを乗り越えて転動した際に、転動体3自体に傷が付くのを防止でき、また、エッジ部をなくすことで過大荷重が負荷された時、クラック発生の起点となるのを防止することができる。
図5は、図2のハブ輪4の硬化層12を示す説明図である。本実施形態におけるハブ輪4の硬化層12は、その軸方向深さが内側転走面4aの転動体3との接触点P位置から基部10にかけて軸方向に漸増するように形成されている。すなわち、高周波焼入れする際の誘導加熱用のコイルを適切な形状とし、また、コイルに作用する電流を制御し、例えば、硬化層12の軸方向深さA〜Eが、A<B<C<D<Eの関係になるように設定されている。これにより、旋回走行時の高面圧に対応する充分な硬化層深さを確保することができ、軸受の長寿命化を図ることができる。
図6は、本発明に係る車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。なお、この実施形態は、前述した第1の実施形態(図1)と基本的にはハブ輪の構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
この車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と称され、内方部材15と外方部材2、および両部材15、2間に転動自在に収容された複列の転動体3、3を備えている。内方部材15は、ハブ輪16と、このハブ輪16に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
ハブ輪16は、アウター側の端部に車輪取付フランジ6を一体に有し、この車輪取付フランジ6の円周等配位置に車輪を固定するためのハブボルト6aが植設されている。また、ハブ輪16の外周には一方(アウター側)の内側転走面4aが直接形成され、この内側転走面4aから軸方向に延びる小径段部4bが形成され、内周にトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)16aが形成されている。そして、外周に他方(インナー側)の内側転走面5aが形成された内輪5がこの小径段部4bに圧入され、この小径段部4bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部4cにより所定の軸受予圧が付与された状態で、ハブ輪16に対して内輪5が軸方向に固定されている。
ハブ輪16はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、アウター側の内側転走面4aをはじめ、アウター側のシール8が摺接するシールランド部から小径段部4bに亙り高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化層12が形成されている(図中クロスハッチングにて示す)。
外方部材2は、外周に車体(図示せず)に取り付けるための車体取付フランジ2bを一体に有し、内周に前記内方部材1の複列の内側転走面4a、5aに対向する複列の外側転走面2a、2aが一体に形成されている。この外方部材2はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、複列の外側転走面2a、2aが旋削加工された後、高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施され、その後、複列の内側転走面41a、5aが、研削加工、そして超仕上げ加工により、所定の形状および面粗度に仕上げられる。
ここで、ハブ輪16は、内側転走面4aの大径端に円筒状の肩部10が形成されると共に、この肩部10と内側転走面4aの交差部に環状の切欠き部11が形成されている。切欠き部11は所定の傾斜角θからなるテーパ面に形成されている。これにより、高周波焼入れによって昇温される熱をこのエッジ部11aの方向へも逃がし、内側転走面41aの終端13の近傍がオーバーヒートするのを防止することができる。すなわち、熱の影響で組織が粗粒化し易い部分をテーパ面からなる切欠き部11に収め、内側転走面4aの終端13の近傍の組織は粗粒化しないようにすることで、粗粒化した組織の高面圧による短寿命を防止することができる。
また、内側転走面41aの外径側の終端13の溝底からの高さhが、車輪用軸受装置が適用される車両の旋回μ=0.6で転動体3がはみ出して転動しない高さ以上、または、転動体3の直径をDaとし、内側転走面41aの溝曲率半径Raを、2Ra=1.02〜1.08Daとした時、h≦0.50Daに設定されていれば、内側転走面41aの終端13から転動体3がはみ出して転動する際にも、その荷重を受ける体積を大きくとり、肩部10のエッジ部11aに比べ内側転走面41a、5aの終端13の角部が極端にエッジロードとなるのを防止することができる。
図7は、本発明に係る車輪用軸受装置の第3の実施形態を示す縦断面図である。なお、この実施形態は、前述した実施形態(図1、6)と基本的には軸受部の構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
この車輪用軸受装置は第4世代と称され、内方部材17と外方部材2、および両部材17、2間に転動自在に収容された複列の転動体3、3を備えている。内方部材17は、ハブ輪18と、このハブ輪18に内嵌された後述する等速自在継手19を構成する外側継手部材20とを備えている。
ハブ輪18は、アウター側の端部に車輪取付フランジ6を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面4aと、この内側転走面4aから軸方向に延びる円筒状の小径段部4bが形成されている。ハブ輪18はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面4aをはじめ、車輪取付フランジ6の基部6bから小径段部4bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
ここで、ハブ輪18の内周には高周波焼入れによって硬化された凹凸部21が形成されている。この凹凸部21はアヤメローレット状に形成され、旋削等により独立して形成された複数の環状溝と、ブローチ加工等により形成された複数の軸方向溝とを略直交させて構成した交叉溝、あるいは、互いに傾斜した螺旋溝で構成した交叉溝からなる。また、凹凸部21の凸部は良好な食い込み性を確保するために、その先端部が三角形状等の尖塔形状に形成されている。
等速自在継手19は、外側継手部材20と継手内輪22とケージ23およびトルク伝達ボール24とからなる。外側継手部材20は、カップ状のマウス部25と、このマウス部25の底部をなす肩部26と、この肩部26から軸方向に延びる中空状の軸部27が一体に形成されている。肩部26の外周には、前記外方部材2の複列の外側転走面2a、2aに対向する他方(インナー側)の内側転走面21aが形成されている。また、軸部27には、ハブ輪18の小径段部4bに所定のシメシロを介して円筒嵌合するインロウ部27aと、このインロウ部27aの端部に嵌合部27bがそれぞれ形成されている。
外側継手部材20はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面20aをはじめ、肩部26の外周から軸部27のインロウ部27aに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。なお、嵌合部27bは鍛造後の表面硬さの生のままとされている。
外方部材2と内方部材17のそれぞれの転走面2a、4aと2a、20a間に複列の転動体3、3が収容され、保持器7、7によりこれら複列の転動体3、3が転動自在に保持されている。また、外方部材2と内方部材17との間に形成される環状空間の開口部にはシール8、9が装着され、軸受内部に封入した潤滑グリースの漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
ここで、ハブ輪18に外側継手部材20の軸部27が所定のシメシロで圧入され、小径段部4bの端面に外側継手部材20の肩部26が衝合されて所定の予圧が付与された状態で、嵌合部27bの内径にマンドレル等の拡径治具をアウター側に押し込んで嵌合部27bを拡径し、この嵌合部27bをハブ輪18の凹凸部21に食い込ませて加締め、ハブ輪18と外側継手部材20が一体に塑性結合されている。これにより、装置の軽量・コンパクト化を図ると共に、大きなモーメント荷重が負荷されても結合部の緩みを長期間に亘って防止し、耐久性を向上させることができる。符号28、29は、ハブ輪18の開口端部および外側継手部材20の肩部26に内嵌されたエンドキャップで、継手内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から継手内部に雨水やダスト等の異物が侵入するのを防止している。
ここで、ハブ輪18は、内側転走面4aの大径端に円筒状の肩部10が鍛造加工により形成されると共に、この肩部10と内側転走面4aの交差部に環状の切欠き部11が形成されている。切欠き部11は所定の傾斜角θからなるテーパ面に形成されている。これにより、高周波焼入れによって昇温される熱をこのエッジ部11aに逃がし、内側転走面4aの終端13がオーバーヒートするのを防止することができる。すなわち、熱の影響で粗粒化し易い部分をテーパ面からなる切欠き部11に収め、内側転走面4aの終端13は粗粒化しないようにすることで、高面圧下での粗粒化による短寿命を防止することができる。
また、外側継手部材20もハブ輪18と同様、肩部26が形成されると共に、この肩部26と内側転走面20aの交差部に環状の切欠き部11が形成されている。切欠き部11は所定の傾斜角θからなるテーパ面に形成されている。これにより、高周波焼入れによって昇温される熱をこのエッジ部11aの方向へも逃がし、内側転走面20aの終端13の近傍がオーバーヒートするのを防止することができる。すなわち、熱の影響で組織が粗粒化し易い部分をテーパ面からなる切欠き部11に収め、内側転走面20aの終端13の近傍の組織は粗粒化しないようにすることで、粗粒化した組織の高面圧による短寿命を防止することができる。また、内側転走面20aの外径側の終端13の溝底からの高さhが、車輪用軸受装置が適用される車両の旋回μ=0.6で転動体3がはみ出して転動しない高さ以上、または、転動体3の直径をDaとし、内側転走面20aの溝曲率半径Raを、2Ra=1.02〜1.08Daとした時、h≦0.50Daに設定されていれば、内側転走面20aの終端13から転動体3がはみ出して転動する際にも、その荷重を受ける体積を大きくとり、肩部10のエッジ部11aに比べ内側転走面20a、5aの終端13の角部が極端にエッジロードとなるのを防止することができる。
図8は、本発明に係る車輪用軸受装置の第4の実施形態を示す縦断面図である。なお、この実施形態は、前述した実施形態(図1)と基本的には複列の転動体の左右のピッチ円直径が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
この車輪用軸受装置は第3世代と呼称される従動輪用であって、内方部材30と外方部材31、および両部材30、31間に転動自在に収容された複列の転動体3’、3とを備えている。内方部材30は、ハブ輪32と、このハブ輪32に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
ハブ輪32は、アウター側の端部に車輪取付フランジ6を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面32aと、この内側転走面32aから軸方向に延びる軸状部33を介して小径段部4bが形成されている。
ハブ輪32はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面32aをはじめ、車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bから小径段部4bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
外方部材31は、外周にナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ2bを一体に有し、内周にハブ輪32の内側転走面32aに対向するアウター側の外側転走面31aと、内輪5の内側転走面5aに対向するインナー側の外側転走面2aが一体に形成されている。これら両転走面間に複列の転動体3’、3が収容され、保持器7’、7によって転動自在に保持されている。
この外方部材31はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、複列の外側転走面31a、2aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。そして、外方部材31と内方部材30との間に形成される環状空間の開口部にはシール8、9が装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
ハブ輪32の外郭形状は、内側転走面32aの溝底部からカウンタ部34と、このカウンタ部34から軸方向に延びる軸状部33を介して段部33aおよび内輪5が突き合わされる肩部33bを介して小径段部4bに続いている。また、ハブ輪32のアウター側の端部にはすり鉢状の凹所35が形成されている。この凹所35の深さは内側転走面32aの溝底付近までの深さとされ、ハブ輪32のアウター側が略均一な肉厚となっている。
本実施形態では、アウター側の転動体3’のピッチ円直径PCDoがインナー側の転動体3のピッチ円直径PCDiよりも大径に設定されている。そして、アウター側の転動体3’の外径doがインナー側の転動体3の外径diよりも小径に形成されている。そして、ピッチ円直径PCDo、PCDiの違いにより、アウター側の転動体3’の個数がインナー側の転動体3の個数よりも多く設定されている。これにより、有効に軸受スペースを活用して外方部材31の外径を大きくすることなく、アウター側の軸受列の剛性を高めると共に、負荷容量を増大せしめることができる。さらに、ハブ輪32のアウター側端部に凹所35が外郭形状に沿って形成され、ハブ輪32のアウター側が均一な肉厚に設定されているので、装置の軽量・コンパクト化と高剛性化という、相反する課題を解決することができる。
外方部材31において、ピッチ円直径PCDo、PCDiの違いに伴い、アウター側の外側転走面31aがインナー側の外側転走面2aよりも拡径して形成され、アウター側の外側転走面31aから円筒状の大径側の肩部36と段部36aを介して小径側の肩部37に続き、インナー側の外側転走面2aに到っている。
また、図9に示すように、ハブ輪32の基部10および内輪5の肩部(外径)5bの内側転走面32a、5aの端部にそれぞれ環状の切欠き部11’、11が形成されている。切欠き部11’、11は所定の傾斜角θからなるテーパ面に形成されている。これにより、高周波焼入れによって昇温される熱をこのエッジ部11aの方向へも逃がし、内側転走面32a、5aの終端13’、13の近傍がオーバーヒートするのを防止することができる。すなわち、熱の影響で組織が粗粒化し易い部分をテーパ面からなる切欠き部11’、11に収め、内側転走面32a、5aの終端13’、13の近傍の組織は粗粒化しないようにすることで、粗粒化した組織の高面圧による短寿命を防止することができる。
また、加熱炉によってズブ焼入れされる場合には、前述した部分的なオーバーヒートは発生しないが、高周波コイルによる加熱によりズブ焼入れされる場合と共に、内側転走面32a、5aの終端13から転動体3がはみ出して転動する際にも、その荷重を受ける体積を大きくとり、肩部10のエッジ部11aに比べ内側転走面41a、5aの終端13、13’の角部が極端にエッジロードとなるのを防止し、軸受の長寿命化を図ることができる。
図10は、本発明に係る車輪用軸受装置の第5の実施形態を示す縦断面図である。なお、この実施形態は、前述した実施形態(図1)と基本的には複列の転動体の左右の構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
この車輪用軸受装置は第3世代と呼称される従動輪用であって、内方部材39と外方部材40、および両部材39、40間に転動自在に収容された複列の転動体3’、3とを備えている。内方部材39は、ハブ輪41と、このハブ輪41に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
ハブ輪41は、アウター側の端部に車輪取付フランジ6を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面41aと、この内側転走面41aから軸方向に延びる軸状部33を介して小径段部4bが形成されている。
ハブ輪41はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面41aをはじめ、車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bから小径段部4bに亙って高周波コイルによる加熱または加熱炉による加熱によりズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。ズブ焼入れの後、複列の内側転走面41a、5aが、研削加工、そして、超仕上げ加工により、所定の形状および面粗度に仕上げられる。
外方部材40は、外周に車体取付フランジ2bを一体に有し、内周にハブ輪41の内側転走面41aに対向するアウター側の外側転走面40aと、内輪5の内側転走面5aに対向するインナー側の外側転走面2aが一体に形成されている。これら両転走面間に複列の転動体3’、3が収容され、保持器7’、7によって転動自在に保持されている。
この外方部材40はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、複列の外側転走面40a、2aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。そして、外方部材40と内方部材39との間に形成される環状空間の開口部にはシール8、9が装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
ハブ輪41の外郭形状は、内側転走面41aの溝底部からカウンタ部34と、このカウンタ部34から軸方向に延びる軸状部33を介して内輪5が突き合わされる肩部33bを介して小径段部4bに続いている。また、ハブ輪41のアウター側の端部にはすり鉢状の凹所35が形成されている。
本実施形態では、アウター側の転動体3’のピッチ円直径PCDoとインナー側の転動体3のピッチ円直径PCDiが同一に設定されている。そして、アウター側の転動体3’の外径doがインナー側の転動体3の外径diよりも小径に形成されている。そして、転動体3’、3の外径do、diの違いにより、アウター側の転動体3’の個数がインナー側の転動体3の個数よりも多く設定されている。これにより、アウター側の軸受列の剛性を高めることができると共に、インナー側の軸受列の負荷容量を増大させることができる。さらに、ハブ輪41のアウター側端部に凹所35が外郭形状に沿って形成され、ハブ輪41のアウター側が均一な肉厚に設定されているので、装置の軽量・コンパクト化と高剛性化という、相反する課題を解決することができる。
また、図11に示すように、ハブ輪41の肩部10と内輪5の肩部5bに環状の切欠き部11’、11が形成されている。切欠き部11’、11は所定の傾斜角θからなるテーパ面に形成されている。これにより、高周波焼入れによって昇温される熱をこのエッジ部11aの方向へも逃がし、内側転走面41a、5aの終端13’、13の近傍がオーバーヒートするのを防止することができる。すなわち、熱の影響で組織が粗粒化し易い部分をテーパ面からなる切欠き部11’、11に収め、内側転走面41a、5aの終端13’、13の近傍の組織は粗粒化しないようにすることで、粗粒化した組織の高面圧による短寿命を防止することができる。
また、内側転走面41a、5aの外径側の終端の溝底からの高さhが、車輪用軸受装置が適用される車両の旋回μ=0.6で3転動体がはみ出して転動しない高さ以上、または、転動体3の直径をDaとし、内側転走面41a、5aの溝曲率半径Raを、2Ra=1.02〜1.08Daとした時、h≦0.50Daに設定されていれば、内側転走面41a、5aの終端13から転動体3がはみ出して転動する際にも、その荷重を受ける体積を大きくとり、肩部10のエッジ部11aに比べ内側転走面41a、5aの終端13の角部が極端にエッジロードとなるのを防止することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。