JP2013066886A - レーザ光を用いて生体物質を操作する方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】複数Nのホログラフィック光トラップを生み出すためにビームが収束されたレーザ光を用いて生体物質を操作する方法の提供。
【解決手段】ビームが収束された連続波レーザ光と、可視光の波長から紫外線の波長の範囲内から選択され、且つ操作されるべき前記生体物質の強い吸収特性に関係する波長を使用することを避ける波長λを有する前記ビームが収束された連続波レーザ光から前記複数Nのホログラフィック光トラップを生み出すステップと、前記波長連続波レーザ光と複数Nの光トラップによってトラップされるような大きさの前記広がった生体物質との組み合わせを利用するステップとを備え、前記ホログラフィック光トラップのパワーPは、前記複数Nのトラップのレーザ光のエネルギーを前記生体物質の複数の点に広げることを特徴とする方法。
【選択図】図9A
【解決手段】ビームが収束された連続波レーザ光と、可視光の波長から紫外線の波長の範囲内から選択され、且つ操作されるべき前記生体物質の強い吸収特性に関係する波長を使用することを避ける波長λを有する前記ビームが収束された連続波レーザ光から前記複数Nのホログラフィック光トラップを生み出すステップと、前記波長連続波レーザ光と複数Nの光トラップによってトラップされるような大きさの前記広がった生体物質との組み合わせを利用するステップとを備え、前記ホログラフィック光トラップのパワーPは、前記複数Nのトラップのレーザ光のエネルギーを前記生体物質の複数の点に広げることを特徴とする方法。
【選択図】図9A
Description
本発明は、裁定番号DMR−9808595のもとに国立科学財団のMRSECプログラムを通して、また教育省からのGAANN奨励金を通して、国立科学財団によって与えられた契約番号DMR−9730189により米国政府の支援によりなされたものである。米国政府も本発明に対して一定の権利を有している。
本発明は、概して、レーザ光を用いて生体物質を操作する方法に関する。より詳細には、本発明は、可視光を用いて形成された光ピンセットに関する。この光ピンセットは、生体の生物学的材料などの種々の光感知材料を操作するために、調査又は操作される材料に対してかなりの損傷又は有害な影響を与えずに使用することができる。
液状媒体の中に浸漬された小さい誘電体の粒子の位置を操作するために、単一の光ビームからの光学傾斜力(optical gradient force)を用いて光ピンセットを構成することは周知である。この場合、液状媒体の屈折率は、粒子のそれよりも小さい。この光ピンセットの技術は反射、吸収の操作をできるように、また誘電率が低い粒子も同様に操作できるように一般化されている。
このため、1つの光トラップを生成するために単一の光ビームを使用することによって、1つの粒子を操作することができるいくつかのシステムが開発されている。そのようなシステムを用いて複数の粒子を操作するには、複数の光ビームを使用する必要がある。従来の光ピンセット法を用いて拡張された複数ビームのトラップを作り出すことは難しいため、一般に生体物質の検査、また電子的、光子的及び光電子的装置、化学的及び生物学的アッセイで使用する化学センサのアレイ、並びにホログラフィック及びコンピュータ記憶マトリックスを含むナノ複合材料の製造及び操作のような多くの潜在的な商業上の用途ではそれらを使用できない。
光ピンセットは高輝度で緊密に集束された光ビームが及ぼす力を使用して、誘電体粒子を一般に液状媒体の中でトラップ及び操作する。光ピンセットの以前の説明では、調査、診断評価、及びさらに治療の目的のために、セル又はそれらの成分を捕捉するような生物学的な用途に対するそれらの潜在的な有用性が強調された。これらの同じ報告書は、可視光を使用する場合の光トラッピング法によって引き起こされた、本来の永続的な損傷又は変化の発生についても強調した。特に、Arイオンレーザからの波長λ=514.5nmの緑色光が、生体物質に対して様々な悪影響を及ぼすことが観察されている。すなわち、赤血球は文字通り爆発し、緑色植物のセルは破壊され、また緑のレーザ光を継続して与えると、トラップされた繊毛バクテリアを死なせてしまう。最初の2つの例の緑色レーザ光による損傷は、明らかに、それぞれヘモグロビン及び葉緑素が緑色光を強く吸収して、急激な加熱及び破局的な破壊に至ったことにより結果として生じたものである。第3の種類の損傷の仕組みは、当業者には「オプティキューション(opticution)」と呼ばれ、直接的には明らかではなかった。その後の研究により、光ピンセットの使用によるセルの死亡に対する同様の仕組みの、光誘導による突発変異誘発(optically-induced mutagensis)であると特定された。
同様の材料がλ=1064nmで動作するNd:YAGレーザからの赤外光によってトラップされた場合には、生体物質に対してはかなり少ない損傷しか観察されなかった。主に単一の光ピンセットを用いるこれらのまた同様の初期の観察に基づいて、研究者は、生体物質を光学的にトラップするには、赤外線照射は可視光照射よりも動作的に優れているとの結論に至った。すなわち、赤外光を用いても、生体物質に対して何ら明白な悪影響を及ぼさなかった。
しかしながら、レーザ誘起による損傷は、特定の環境の中では望ましいことがある。例えば、λ=532nmで動作するパルス式光ピンセットが、染色体のような生体物質を切断する能力に対して選び出されている。この方法で使用される光ピンセットは、光学的はさみ又は光学的メスとして周知である。例えそうであっても、可視光を用いて生体物質を非破壊的にトラッピングする見込みは、生体物質に対するかねて定評があり認められた悪影響のために、認めることができない光学的なトラッピング及び操作であると当業者によって以前は考えられていた。
従って、本発明の目的は、光の可視又は紫外の部分のスペクトルを用いる少なくとも1つの光トラップを使用する改良された方法及びシステムであって、レーザ光を用いて生体物質を操作する方法を提供することである。
また、本発明の目的は、効率、有用性及び使用上の安定性のレベルが増加した、可視光の光トラップを制御するための新規な方法を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、人の目に見える光を用いて比較的簡単に位置合わせされる、可視光の光トラップを制御するための新しい方法を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、局部的な領域を正確にトラップすることができる、可視光の光トラップを制御するための新しい方法及び装置を提供することである。
本発明の付加的な目的は、操作されるサンプルが光の吸収により過渡に加熱又は変形されない、可視光の光トラップを制御するための新しい方法を提供することである。
本発明の付加的な目的は、操作されるサンプルが光の吸収により過渡に加熱又は変形されない、可視光の光トラップを制御するための新しい方法を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、大いに改良されたトラッキング精度を有する光トラップを制御するための新しい方法を提供することである。
本発明の別の目的は、電子的、機械的、化学的又は生物学的な状態が高輝度の光パターンを有する光ピンセットに極めて敏感などのような材料にも使用できる光ピンセットに対して可視光を使用するための新しい方法を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、効率的な光トラップを行うが材料の望ましい化学的、生物学的、電子的又は機械的な状態を変えることがない、パワーレベルが可変の光トラップを制御するための新しい方法を提供することである。
上記の目的に基づいて、可視の光ピンセットによって生物学的な物質及び他の高輝度の光に敏感な材料に対して加えられた損傷又は望ましくない変化は、1つには光トラッピングシステム及び方法の適切な設計によって、許容できる、最小の又はゼロの大きさ及びレベルにまでも減らすことができることが発見されている。さらに、紫外線の波長は、本発明の特徴を利用することによって、特殊な小形の物体及び特定の種類の材料に対して使用することもできると信じられている。その結果、そのような光ピンセットは、生物学的なシステム及び光に敏感な材料を有する他のシステムにおいて高範囲に及ぶ用途があり、また赤外線の光ピンセットに対して多数の利点を持つことができる。
本発明の他の目的、特徴及び利点は、下記に示した添付の図面と併せて考慮すれば、その好ましい実施形態の次の説明から容易に明らかになるであろう。図面では、全体を通じて、同様の素子には同じ番号を付けてある。
本発明の改良を最も良く理解するために、図1及び図2はいくつかの従来の特徴を含む数個の方法及びシステムを示す。図1の光ピンセットシステム10では、光学傾斜力(optical gradient force)は、媒体16内に分散された小さい誘電体粒子14を制御可能に操作するために、1つの光ビーム12を使用することによって発生する。媒体16の屈折率nmは、粒子14のそれよりも小さい。光学傾斜力の基本的な性質は周知であり、この原理は反射、吸収及び同様に誘電率が低い粒子の操作をできるように一般化されていることも理解されよう。これらの技術のいずれも後で説明される本発明の改良に関連して実行することができ、下記の専門用語の光ピンセット、光トラップ及び光学傾斜力のトラップを使用することによって達成される。
光ピンセットのシステム10は、光トラッピング効果を実行するために必要な力を加えることができる光ビーム12(レーザ光又は他の輝度が極めて高い光源など)を使用することによって利用される。この光トラッピング効果は、粒子を操作するために必要とされる。従来の形状の光ピンセット10の目的は、収束光学素子(対物レンズ20など)の後部開口部24の中心に1つ以上の成形した光ビームを投影することである。図1に示すように、光ビーム12の幅は「W」であり、光軸22に対する入射角はφである。光ビーム12は対物レンズ20の後部開口部24に入射し、前部開口部26から出射して、結像体積(imaging volume)32の焦点面30内の焦点28にほぼ収束する。ここで、焦点28は光トラップ33に一致する。一般に、どのような収束形光学システムも、光ピンセットのシステム10に対するベースを形成することができる。
光ビーム12がコリメートされたレーザ光であり、その軸が光軸22に一致する場合、この光ビーム12は対物レンズ20の後部開口部24に入射し、結像体積32内の焦点である対物レンズの焦点面30の中心点Cに送られる。光ビーム12の軸が光軸22に対して角度φだけ移動される場合、ビームの軸31及び光軸22は後部開口部24の中心点Bで一致する。この変位により、対物レンズ20の角倍率に依存する量だけ視野に沿って光トラップの移動が可能にされる。2つの変数、すなわち、角度変位φ及び光ビーム12の変化する収束度を用いて、結像体積32内の選択された位置に光トラップを形成することができる。複数の光ビーム12を異なる角度φ及び異なるコリメーションの程度で後部開口部24に加えることにより、複数の光トラップ33を様々な位置に配置することができる。
三次元の中で光トラッピングを実行するには、トラップされる粒子上で作られた光学傾斜力は、光の散乱及び吸収から生じる他の放射圧力を超えなければならない。一般に、このことは、後部開口部24において適当な形状を有するために光ビーム12の波面を有することが必要である。例えば、ガウス形TEM00の入射レーザ光については、ビームの直径wは、後部開口部24の直径にほぼ一致する必要がある。より一般的には、ビームプロフィール(ガウス−ラゲールのような)の比較可能な条件を公式化することができる。
いくつかの従来の特徴を含む図2の別のシステムでは、光ピンセットシステム10は、対物レンズ20の視野にわたって光トラップ33を移動することができる。望遠鏡34はレンズL1及びL2から構成され、図1の従来技術のシステムの中で中心点Bと光学的に結合する点Aを確立する。図2のシステムでは、点Aを通過する光ビーム12は点Bも通過するため、光ピンセットシステム10を実現するための基本的な要求事項に適合している。コリメーションの程度は、望遠鏡34の移行特性(transfer property)を最適にするように、レンズL1及びL2を図2に示すように配置することによって保持される。さらに、望遠鏡34の倍率は、対物レンズ20の後部開口部24の面において光ビーム12及びその幅wの角変位を最適にするように選択することができる。前述したように、一般に、いくつかの光ビーム12を用いていくつかの関連する光トラップを形成することができる。そのような複数のビーム12は、複数の独立した入射ビーム又は従来の反射及び/又は屈折光学素子によって操作された1つのビームから作り出すことができる。
図3に示した全体的な光学操作システムの1つの好ましい実施形態では、任意の光トラップのアレイを形成することができる。回折光学素子40は、大体において、対物レンズ20の後部開口部24と共役の面42内に配置される。明確にするために、回折された出力ビーム44は1つしか示してないが、複数のそのようなビーム44を回折光学素子40によって作ることができることを理解されたい。回折光学素子40に入射する光ビーム12は、この回折光学素子40の特性に応じたパターンの出力ビーム44に分割される。それぞれの出力ビームは、点Aから放射する。このため、出力ビーム44も、前述した下流の光学素子の結果として点Bを通過する。
図3の回折光学素子40は入射する光ビーム12に対して直角になるように示されているが、他の多くの構成も可能である。例えば、図4では、光ビーム12は光軸22に対して傾斜角βで到来し、回折光学素子40に対して直角ではない。この実施形態では、点Aから放射された回折ビーム44は、結像体積32の焦点面52の中に光トラップ50を形成する(図1に最も良く示されている)。光ピンセットシステム10のこの構成では、入射した光ビーム12の回折されない部分54を光ピンセットシステム10から取り除くことができる。従って、この構成によりバックグラウンド光の少ない処理が可能になり、光トラップの形成における効率及び有用性が改良される。
この回折光学素子40は、入射した光ビーム12を事前選択された所望のパターンに分割するコンピュータ生成によるホログラムを含むことができる。そのようなホログラムを図3及び図4の光学素子の残りの素子と結合することにより、任意のアレイを作ることができる。これらのアレイでは、回折光学素子40を使用して、各回折ビームの波面を別々に成形する。このため、光トラップ50の三次元の配列を形成するために、光トラップ50を対物レンズ20の焦点面52の中だけでなく、焦点面52から離れた位置にも配置することができる。
図3及び図4の光ピンセットシステム10には、回折ビーム4を収束して光トラップ50を形成するために、対物レンズ20(又はフレネルレンズのような他の類似の機能的に等価な光学素子)などの収束光学素子も含まれる。さらに、望遠鏡34又は他の等価の移行光学素子(transfer optics)は、上記の後部開口部24の中心点Bと共役の点Aを作る。回折光学素子40は、点Aを含む面内に置かれる。
別の実施形態では、望遠鏡34を使用しないで、任意の光トラップのアレイ50を作り出すことができる。そのような実施形態では、回折光学素子40を点Bを含む面内に直接配置することができる。
光ピンセットシステム10では、静的な又は時間依存性の回折光学素子40のいずれも使用することができる。動的なすなわち時間依存性の素子については、時間的に変化する光トラップのアレイ50を作り出すことができ、これらのアレイをそのような特徴を利用するシステムの一部とすることができる。さらに、これらの動的な光学素子40を使用して、粒子及びマトリックス媒体を互いに相対的に活発に移動させることができる。例えば、回折光学素子40を、コンピュータ生成のホログラフィックパターンにより転写された変化を受ける液晶のフェイズアレイとすることができる。
図5に示された別の実施形態では、システムは光ピンセットのトラップ50を連続的に移動できるように構成することができる。ジンバルに搭載したミラー60は、その回転中心を点Aに置いて配置される。光ビーム12はその軸が点Aを通過するようにミラー60の表面に入射し、後部開口部24に投影される。ミラー60が傾斜することにより、ミラー60に対する光ビーム12の入射角が変化され、この特徴を使用して結果として光トラップ50を移動することができる。第2の望遠鏡62がレンズL3及びL4から形成されて、点Aと共役の点A’を作る。点A’に置かれた回折光学素子40が次に、回折されたビーム64のパターンを作り出す。それぞれの回折されたビームは点Aを通り、光ピンセットアレイのシステム10内にピンセットトラップ50の1つを形成する。
図5の実施形態の動作に当たっては、ミラー60がピンセットアレイ全体を一体として移動する。この方法は光ピンセットのアレイを静止した基板と精密に位置合わせして、小振幅で急速な振動の変位によって光トラップ50を動的に固めることに対して、また一般的な移動能力を要求するどのような用途に対しても有用である。
試料ステージ(図示せず)を移動することにより又は望遠鏡34を調整することにより、光トラップのアレイ50を試料ステージに対して縦方向に移動することもできる。さらに、試料ステージを移動することによって、光ピンセットのアレイを試料に対して横方向に移動することもできる。この機能は、対物レンズの視野の範囲を超えた大規模な移動に対して特に有用になるであろう。
図6に示した別の実施形態では、光学システムは、光ピンセット10によってトラップされた粒子のイメージを視察することができるように構成される。二色性ビームスプリッタ70又は他の等価な光学ビームスプリッタが、光ピンセットシステム10の対物レンズ20と光学縦列(optical train)との間に挿入されている。図示した実施形態では、ビームスプリッタ70は、光ピンセットのアレイを形成するために使用される光の波長を選択的に反射し、他の波長を透過させる。このため、光トラップ50を形成するために使用される光ビーム12は高い効率で後部開口部24に送られ、一方イメージを形成するために使用される光ビーム66はイメージ形成用光学素子(図示せず)を通過できる。
光学システムの1つの用途に対する図が、図7A及び図7Bに示されている。回折光学素子40は、1つの光ビーム12と相互作用してコリメートされたビームの4x4のアレイを作り出すように設計される。532nmで動作する100mWの周波数倍増ダイオードポンプ式Nd:YAGレーザは、光ビーム12に対してガウス形TEM00形状を提供する。図7Aでは、アレイの16個の主光ピンセット10の中でトラップされた16個のシリカの球体により後方散乱されたレーザ光によって、視野が部分的に照射されている。直径が1μmの球体が水中に分散され、顕微鏡のガラスのスライドと厚さが170μmのカバーガラスとの間の試料体積の中に配置される。ピンセットのアレイはカバーガラスを通して上方に投影され、カバーガラスの8μm上側で顕微鏡の上側のスライドの20μm以上下側の面内に配置される。シリカの球体は、16個の光ピンセット10のそれぞれの中に三次元で安定してトラップされる。
図7Bでは、光ピンセット10(トラップ)が消滅された1/30秒後で、球体がトラップ側から拡散する時間を有する前の、球体が光学的に組織化された配列が示されている。
[適応ピンセットモード]
種々の実施形態の中で、前に記述した基本的な光トラップモードは、様々な有用な手順の中で使用することができる。さらに、他の実施形態は、光トラップの動作及び効用を向上させるために、これらの方法に適合するように構成することができる装置及びシステムを含む。特に、光トラップを制御及び変更することができ、これらの特徴を利用する種々の実施形態を以下に説明する。
種々の実施形態の中で、前に記述した基本的な光トラップモードは、様々な有用な手順の中で使用することができる。さらに、他の実施形態は、光トラップの動作及び効用を向上させるために、これらの方法に適合するように構成することができる装置及びシステムを含む。特に、光トラップを制御及び変更することができ、これらの特徴を利用する種々の実施形態を以下に説明する。
光トラップの各種の新しい使用及び用途は、光トラップの構成の時間的に変化する構成及び動的な変化から生じる。本発明の1つの形態では、光トラップのアレイを図8に示す方法で都合よく操作することができる。図示した光学システム100では、回折光学素子102は、コリメートされたレーザビーム104をいくつかの(2つ以上の)レーザビーム106及び108に分割する。いくつかのレーザビーム106及び108の各々は、対物面118内の個々の光トラップの中に送られる。これらのいくつかのレーザビーム106、108の各々は、レーザ114及び116によって形成された望遠鏡のような従来の光学的配列の動作により、対物ビーム112の後部開口部110に移される。対物レンズ112は、これらいくつかのビーム106,108の各々を収束する。本発明の好ましい形態では、移動可能なナイフエッジ120が、いくつかのレーザビーム106,108の光路の中に移動できるように配置され、これにより、いくつかのレーザビームの任意の選択された1つを選択的にブロックして、一部の光トラップの形成を選択的に阻止できるようにする。そのような方法及び構造により、適当に設計されたナイフエッジ又は開口付きのナイフエッジの構造体及び同様のそのような構造体を用いて、どのような望ましい光トラップのアレイも作ることができる。
そのような光トラップ制御方法を使用する場合の図が、図9に示されている。ここでは、光トラップは回折光学素子12のホログラフィック形状で形成される。図8の移動可能なナイフエッジ120は、その光トラップの1つの線124以外の全てをブロックすることができ、ナイフエッジ120を組織的に移動することによって、それぞれの線124を設定することができる。これにより、光トラップ132を粒子126で組織的に充填することができる。この方法は光トラップ132を様々な違った種類の粒子で充填することができ、光トラップのアレイの外側部分を優先的に充填する傾向があるという粒子126の一般的な問題を回避することもできる。そのような優先的な充填は、内側の光トラップの充填をブロックすることがある。このように光トラップを制御して形成することにより、光トラップの配列を正確に形成及び変更することもできる。
光トラップ132のアレイを充填することに対して詳細な制御を行うことの他に、光トラップの充填を加速する装置を設けることができる。例えば、図8には、下記を行うための装置を示す機能ブロック128が示されている、すなわち、(1)選択された粒子126を出力すること(図10参照)、(2)粒子126に(電気泳動又は電気浸透によって)圧力差を加えること、(3)温度勾配を加えること、及び(4)漁網のような方法で粒子126を含む懸濁液を通して光トラップのアレイ全体を移動すること、である。粒子の濃度が約10−4μm−3で、また約100μm/secの妥当な流速で開始して、粒子134を光トラップ132の中に充填して、約1分で線124すなわちアレイのパターンの1つの行を充填することができることが、実験から求められた。アレイを基板上に移すことによって又は粒子が浮遊している流体をゲル化することによって、粒子126の十分に発達したアレイを永続的なものにすることができる。そのような方式により、多種多様な異なる粒子のアレイ及び粒子126が結合したアレイを作ることもできる。光トラップ132の前述した特性及び機能性を用いて、それぞれの粒子126を運用上の用途及び研究目的に対してさらに探索、イメージ形成及び操作することもできる。
さらに別の実施形態では、光トラップ132を特定の光学的な要求事項に対応して動的に変更することができる。このことは、1つ以上の光トラップ132を用いて様々な光トラップの位置において粒子を変更、除去、又は追加することができるように、又は1つの対象物に対して様々な操作ができるように、所望の命令情報を有するコンピュータプログラムを用いて行うことができる。さらに、植物又は動物のセルなどの任意の対象物を動的に操作するために、1つ以上の光トラップ132を移動したり、それらの特性を変えること(トラップの形状又は強度の変更など)ができる。このことは、壊れやすい構造体を操作する場合又は対象物に対して複雑な操作を行う必要がある場合に特に好適である。これまで、そのような対象物は、1つの力任せのトラップによって扱われていた。このトラップは、対象物に対して損傷を与える可能性があるか、又は所望の機能を行うために必要とされることが多い自由度を備えていないことがある。
さらに、別の処理では、粒子126を大きさによって動的に分類することができる。粒子126のアレイを、図10に示した方法で映像化することもできる。顕微鏡138は粒子126を映像化することができ、パーソナルコンピュータ140は粒子126を識別し、これらの粒子をトラップするために(図8の回折光学素子144に対する)ホログラム142のみの位相を計算することができる。次に、コンピュータ制御の空間光変調器143は、レーザビーム144に位相変調のパターンを加えることによって、コンピュータ設計のホログラム142を実行することができる。このレーザビームは、任意の様々な目的に対して動的に変化させることもできる。修正されたレーザビーム(図8の数個のレーザビーム106,108も参照のこと)は顕微鏡によって収束され、映像スクリーン150上で粒子126をトラップする(ピンセットとしても周知の)光トラップ132のアレイを作り出す。次に、粒子126を分類するために又は所定の対象物の形状を操作、検査若しくは変形するために、それぞれの粒子126を個別に操作して所望の構造体を作ることができる。
[可視及びUVスペクトルの光の使用]
本発明の好ましい実施形態では、可視の光ピンセットを都合よく使用することができる。本発明の別の形態では、紫外光に適合した特定の大きさの材料に対して又は紫外光に感受性が低い用途に対して、本発明は紫外光を含む可視光よりも短い波長にまで拡張することができる。これまでは、生きている生体物質の中で使用するピンセットは、前述した理由のために赤外光から形成されてきた。一般に、光ピンセットは、少なくとも3つの主要な仕組み、すなわち、(1)機械的に崩壊する物理的な相互接続、(2)加熱、及び(3)生体材料の場合、生体分子の光化学作用による変形、により生物学的システムを損傷することがある(単に典型的な仕組みを示したが、他の仕組みも考えられる)。第1の仕組みには、膜を構成するリン脂質光トラップ内に引き込み、次にそれらをミセル又は気胞として排出するような工程が含まれる。そのような工程は光ピンセットの動作に固有のものであり、使用する光の波長には依存しない。所定の用途に対してできるだけ小さくかつ最も効率的なトラッピング力を用いることによって、これらの破壊的な工程を最小限にすることができる。加熱は、緑のレーザ光がヘモグロビンが豊富な赤血球を破壊することに代表されるように、光トラッピング光子の吸収に起因する。しかしながら、大抵の生体物質は本質的に可視光に対しては透明であり、実際には、赤外光をより強く吸収する。例えば、水の吸収係数は、λ=1μmのときμ∂=0.1cm−1(赤外範囲)と比べるとλ=500nmのとき約μ∂=3x10−4cm−1(可視範囲)である。従って、赤外ベースの光トラップは、可視光ベースのトラップよりも約300倍も効率的に水を加熱する。この差は、他の生物学的システムの構成要素に対して報告されているものよりもはるかに少ない。例えば、大抵の蛋白質及び多糖類のモル吸収係数は、可視光に対してはμ∂≒0.1cm−1/Mであり、赤外放射に対してはμ∂≒0.01cm−1/Mである。ヘモグロビンは例外であり、可視光部分のスペクトル内でμ∂≒104cm−1/Mという比較的巨大なモル吸収係数を有する。そのような強い吸収条件がない場合は、可視光は加熱に対しては赤外光よりも優れていることになり、実際に、生物学的システムでは水が行き渡っているため望ましいであろう。
本発明の好ましい実施形態では、可視の光ピンセットを都合よく使用することができる。本発明の別の形態では、紫外光に適合した特定の大きさの材料に対して又は紫外光に感受性が低い用途に対して、本発明は紫外光を含む可視光よりも短い波長にまで拡張することができる。これまでは、生きている生体物質の中で使用するピンセットは、前述した理由のために赤外光から形成されてきた。一般に、光ピンセットは、少なくとも3つの主要な仕組み、すなわち、(1)機械的に崩壊する物理的な相互接続、(2)加熱、及び(3)生体材料の場合、生体分子の光化学作用による変形、により生物学的システムを損傷することがある(単に典型的な仕組みを示したが、他の仕組みも考えられる)。第1の仕組みには、膜を構成するリン脂質光トラップ内に引き込み、次にそれらをミセル又は気胞として排出するような工程が含まれる。そのような工程は光ピンセットの動作に固有のものであり、使用する光の波長には依存しない。所定の用途に対してできるだけ小さくかつ最も効率的なトラッピング力を用いることによって、これらの破壊的な工程を最小限にすることができる。加熱は、緑のレーザ光がヘモグロビンが豊富な赤血球を破壊することに代表されるように、光トラッピング光子の吸収に起因する。しかしながら、大抵の生体物質は本質的に可視光に対しては透明であり、実際には、赤外光をより強く吸収する。例えば、水の吸収係数は、λ=1μmのときμ∂=0.1cm−1(赤外範囲)と比べるとλ=500nmのとき約μ∂=3x10−4cm−1(可視範囲)である。従って、赤外ベースの光トラップは、可視光ベースのトラップよりも約300倍も効率的に水を加熱する。この差は、他の生物学的システムの構成要素に対して報告されているものよりもはるかに少ない。例えば、大抵の蛋白質及び多糖類のモル吸収係数は、可視光に対してはμ∂≒0.1cm−1/Mであり、赤外放射に対してはμ∂≒0.01cm−1/Mである。ヘモグロビンは例外であり、可視光部分のスペクトル内でμ∂≒104cm−1/Mという比較的巨大なモル吸収係数を有する。そのような強い吸収条件がない場合は、可視光は加熱に対しては赤外光よりも優れていることになり、実際に、生物学的システムでは水が行き渡っているため望ましいであろう。
光化学作用による変形は、別個の分子状態に対する1つ以上の光子の共振吸収(resonant absorption)又は広い分子帯域に対する非共振吸収のいずれかによって進行する。最も関連する共振遷移は赤外光(振動遷移に対する)から可視光(電子遷移に対する)までの中で発生する。しかしながら、最も関連する共振遷移は光の周波数に強く依存するため、それらの遷移が任意の特定の赤外又は可視のレーザからの単色光によって駆動されることは極めて起こりそうもない。広帯域への遷移は、主に光スペクトルの紫外の端部で発生するため、赤外光又は可視光のいずれによっても行われることはない。
(前述した)「オプティキューション」は加熱又は機械的な崩壊によってではなく、主に光化学によって行われると信じられているため、可視の(又は場合によっては紫外の)光ピンセットが同様の光化学的な反応(又は光感知化学状態、光感知電子状態又は顕微鏡レベルにおける敏感な機械的構造などのある種の材料に悪影響をもたらすような他の光学的に行われる事象)を有する生物学的な又は他の材料に対して結果として悪影響を与えることがある理由を理解することは重要である。そのような材料は、例えば、分子が小さい薬物、ドープされた半導体、高温超伝導、触媒及び低融点の金属を含むことができる。
例えば、可視光における光化学的な劣化に対する生体の耐性は、太陽光の中で進化した自然の副産物と思われる。しかしながら、太陽からの可視の光束は、一般的な1mWの光ピンセットのそれよりも約6桁小さい。光ピンセットの焦点における強力な照射により、2つ以上の光子が協力して1つの光遷移を行う多光子吸収(multiple-photon absorption)の割合が大いに増加される。多光子の事象は光子が同時に到達することが必要であり、そのような事象が発生する度合いは光の輝度に大きく依存する。光トラップの強力な焦点は、実際に、そのような多光子の処理を行うために必要な高輝度の光環境を提供する。
多光子の吸収は、1つの紫外の光子と同じエネルギーを発生する2つの可視の光子が同時に吸収されるため、可視の光ピンセットでは赤外の光ピンセットよりも大きな損傷を与えることがある。同様に、このことは、紫外の光子にまで拡張することができる。これらの紫外の光子は、材料の化学的、生物学的、電子的又は機械的な状態を変えるような光エネルギーを発生するためには、2つ以上のそのような光子が必要とされる波長を有する。これに反して、赤外光の2個光子の吸収は可視の光子と同じエネルギーを発生するため、通常は光化学的な又は同様の光による変形を発生させるには十分ではない。このため、赤外光を用いて関連する光化学的事象を実現するには、3個又は4個もの光子の吸収を必要とする。高次の吸収処理は低次の処理よりも可能性が高くないため、生体物質における染色体の組み替えなどの有害な光化学反応を引き起こす可能性は、可視の光ピンセットは赤外光のピンセットよりも高いと思われる。このことは、確実に収束されたλ=532nmの光のパルスが染色体を正確に切断できる光メスを形成する仕組みであると信じられている。
光ピンセットの焦点体積内のn個光子の吸収の概算速度Wnは、次のように変化する。
ここで、Pはビームのパワーであり、σは吸収体に対する光子の捕獲断面積である。上記の式が示すように、短い波長における低次の処理は、少なくともパワーが等しいビームに対しては、波長が長い高次の処理よりもはるかに多く発生する。
しかしながら、光ピンセットは、赤外光よりも短い波長の光(例えば、可視また場合によっては紫外)を用いて作られる場合は、はるかに効率的である。その結果、そのような光ピンセットは、赤外のピンセットのトラッピング力に適合するためにはるかに小さいパワーしか必要としない。そのようなピンセットがこのようなかなりの利点を有するため、生体物質の顕微操作(及び前述したような他の光に極めて敏感な材料)に対してそれらを使用する門戸が開かれる。誘電体材料を光トラップの焦点に吸引する光学傾斜力の大きさは、概略で、下記のレイリーの近似式の中でλの4乗に逆比例して変化する。
このため、例えば、λ=532nmで動作する可視のトラップは、λ=1064nmで動作する赤外のトラップと同じトラッピング力を得るために、1/16のパワーしか必要としない。パワーの相対的な減少は、直ちに可視トラップ用の2個光子の吸収事象の速度W2における減少に移される。
従って、相当な損傷が発生する可能性は大幅に減少され、対象の素材に対してほとんど損傷を与えないことすら可能である。さらに、使用する光の波長を注意深く選択することによって(可視又は場合によっては紫外)、検査する材料の吸収ウィンドウ(absorption window)を使用して、光の吸収を減らしこれにより材料の損傷又は変形を軽減することができる。
従って、相当な損傷が発生する可能性は大幅に減少され、対象の素材に対してほとんど損傷を与えないことすら可能である。さらに、使用する光の波長を注意深く選択することによって(可視又は場合によっては紫外)、検査する材料の吸収ウィンドウ(absorption window)を使用して、光の吸収を減らしこれにより材料の損傷又は変形を軽減することができる。
トラッピングビームの波面を適当に成形することによって、光ピンセットのトラッピング効率をさらに一層増加させ、パワーについての要求事項をそれに応じて減少させることができる。例えば、輝度が光軸で消滅するドーナツモードのレーザビームから作られた光トラップは、ガウス形のTEM00モードで形成された従来の光ピンセットの軸方向のトラッピング力を得るために、極めて少ないパワーしか必要としないことが既に実証されてきた。波面を成形することによりトラッピング効率を改良でき、これにより、2個光子の吸収を減らすことができることは明白であるが、最適な波面のプロフィールについての研究は報告されていない。従って、トラッピング波面の特性をうまく処理することにより、さらに一層改良された技術を使用できるようになる。
時間平均したパワーは光ピンセットのトラッピング力を確立するが、そのピークパワーは2個光子の処理の割合を設定する。その結果、連続波の可視の光ピンセットは、パルスレーザによって作られたトラップよりも損傷を与えることが少ない。
局所的な照射及びこれによる2個光子を処理する割合は、前述したように、ただ1つのトラップではなく、複数の個別のトラップをシステムに与えることによってさらに一層減らすことができる。このため、トラッピング力をN個の光ピンセットの中の広がったサンプルに与えることにより、W2をN分の1に削減することになる。
光トラップを被験材料の感知領域から離して配置することに注意すれば、別個の感光性成分を有するシステム(生物学的又は他のシステム)を可視(又は場合によっては紫外)の光ピンセットを用いてさらにトラップすることができる。
さらに、多くの生体物質などのいくつかのサンプルは可視範囲の光を強く吸収するため、可視の光ピンセットを用いてトラップすることはできない。可視光をほとんど感じない多くのシステムについては、様々なステップを用いて有害な非線形の光学処理の割合を最小にすることができる。これらのステップには下記の内容が含まれるが、これらに限定されるものではない。
1.可視光の波長範囲を選択することにより、材料の種類による強い吸収特性に関係する光の波長を使用することを避けることができる。
2.パルスレーザではなく、連続波(CW)レーザによりトラップを作ることができる。
3.ただ1つの点ではなく複数の点において、広がったサンプルをトラップすることができる。
4.各トラップをできるだけ効率的に作ることができる。例えば、波面の成形を利用して、所望のトラッピング力を得るために必要なパワーを最小にすることができる。
1.可視光の波長範囲を選択することにより、材料の種類による強い吸収特性に関係する光の波長を使用することを避けることができる。
2.パルスレーザではなく、連続波(CW)レーザによりトラップを作ることができる。
3.ただ1つの点ではなく複数の点において、広がったサンプルをトラップすることができる。
4.各トラップをできるだけ効率的に作ることができる。例えば、波面の成形を利用して、所望のトラッピング力を得るために必要なパワーを最小にすることができる。
連続波(CW)レーザを用いてトラップを作り、強い吸収に関係する波長を避けるという考え方は、一般的に全ての光ピンセットのシステムに適用することができる。しかしながら、複数の点で広がったサンプルをトラップし、各トラップの効率を最大にすることは、従来の光ピンセットのシステムで実行するには困難であるが、ホログラフィック光ピンセットの意図した用途の範囲では首尾良く行うことができる。特に、ホログラフィック光ピンセット(「HOT」)は任意の数Nの光トラップを任意の位置に作り、広がった生物学的サンプル(又は他の極めて光に敏感な材料)を複数の点でトラップすることができる。1つのピンセットを望ましいトラップのアレイの間に素早くスキャンすることによって、これらの複数のトラッピングパターンの最も簡単なものを作ることもできる。パワーの全てをサンプルの1つの点に加える必要がないため、このことは生物学的なサンプル又は他の極めて光に敏感な材料に対しては特に有用である。その代わりパワーを多数の点に分配することによって、サンプルに対する全体的な損傷は、「針のむしろ」と同様な方法で著しく削減される。しかしながら、所望の時間平均したトラッピング力をN個のスキャンされたトラップのそれぞれの中で実現するには、各トラップ内にN倍のピークパワーか必要とされる。その結果、非破壊的にトラッピング材料に来る場合、HOTはスキャンされたピンセットに対して本来の利点を有する。
HOTは、スキャン式ピンセットシステムができるよりも複雑で連続的に展開するトラップのパターンを作ることもできる。光ピンセットの操作が生物学的な又は極めて光に敏感な材料を移動又は分類する意図がある場合、このことは利点になるであろう。
ホログラフィック光ピンセットは、トラップのアレイを作り上げる個々のビームの波面を調整したり、各ビームをトラッピングシステムの収束用光学素子の中に正確に向けることもできる。その結果、HOTシステムで形成された光ピンセットは、所望のトラッピング力を得るために必要なパワーの大きさを動的に最小にすることができる。
上記の定性的な実施例の指針を使用して、可視光を使用する光トラッピングによって生物学的システム(又は他の極めて光に敏感な材料)に対して加えられた放射又は他の光による損傷の割合を最小にすることができる。これらの指針に従うことによって、特定の用途に対する損傷の割合を許容できるほど小さくすることができる。従って、HOTシステムで可視光を使用することにより、生物学的システムの用途に対して少なくともいくつかの利点が得られる。
光の効率。光ピンセットを形成するために適当な顕微鏡の対物レンズは、一般に、可視及び紫外の波長を使用するように最適化され、赤外光を透過するために使用する場合には数々の欠点がある。このため、可視光を用いるトラッピングには、従来の光学素子に対して設計された特性による最適な利点がある。赤外のシステムは対照的に、より高価な特殊用途の光学素子を使う必要があり、そうしない場合は可視のトラッピングシステムに対する赤外のシステムの潜在的な利点をいくらか減らしてしまうような光学収差が発生する。
安定性。人の視覚系には、可視のトラッピングシステムからの迷光がユーザの視力を損傷する可能性を低減する、目を保護する瞬目反射が含まれる。赤外光では、そのような反射はユーザの視力を保護しない。
位置合わせの容易さ。肉眼で見える光学縦列の位置合わせは、赤外の場合よりもはるかに容易である。
2個光子処理の有用性。2個光子の処理は、例えば、光学的なはさみ及びメスを作る上でいくつかの生物学的用途では有用である。可視の光トラップの損傷を最小にする構成を作る同じ光学縦列をリアルタイムで再構成して、2個光子の吸収に対して最適化された個々のビームを、パワー利用の効率を最大にして作り出すことができる。このため、同じシステムは、光トラップの1つ又はマトリックスを励起する1つのレーザを用いてそのサンプル内でトラップ、切断、及び一般に光化学による変形を引き起こすことができる。
加熱の低減。赤外システムは、恐らく、可視のシステムが行うよりもかなりの程度まで、水の直接吸収によりそれらのサンプルを加熱する。この過渡の加熱は、生体システムに対する赤外のトラッピング経験の中で報告されたいくつかの損傷を説明することができる。
改良されたトラッピング精度。光ピンセットのトラッピング体積は、光の波長と共に変化する。このため、可視光は赤外光よりも正確に局部的な領域をトラップすることができる。
改良されたトラッキング精度。光トラップは、例えば、遠距離電磁界の中にトラップされた粒子によって散乱された光の時間発展(time evolution)により、トラップされた対象物の動きを追跡するために使用されることもある。そのようなトラッキング技術の分解能は光の波長と共に変化するため、赤外光よりも可視光で形成されたトラップにより改良される。
様々な生物学的また非生物学的な材料を変化する波長、レーザの種類及び実験条件により前述した方法で操作することも可能である。使用される特定のパラメータは、操作すべき材料並びに光に敏感な光学的、化学的、機械的及び電気的な状態に依存する。より詳細には、例えば、可視範囲のある種の波長における材料の吸収特性は、操作に使用されるレーザビームの波長に対してかなりの影響を有することがある。例えば、ある種の緑のレーザ光はある材料とは首尾良く使用することができるが、別の材料(ある種の植物の葉緑体など)とはうまく行かないことがある。電子素子などの非生物学的な材料については、素子の構成要素が強い吸収を示さない可視光の波長を選択することができる。
可視のスペクトル部分が、約400nmから約700nmの範囲にあると考えられていることが多いことにも注意されたい。しかしながら、本発明のより広い態様によれば、より広い範囲の波長を使用することができる。例えば、水に対する透明性のウィンドウは、約200nmと約800nmとの間であり、ある種の状態では、より大きな範囲の波長さえも使用することができる。
下記の非限定的な実施例は、生体の生物学的サンプルを操作するための可視の光ピンセットの有効性を具体的に説明する。特に、周波数倍増したNd:YVO4レーザのλ=532nmの光を使用する長期にわたるトラッピングを実証する。
実施例I
多数の酵母セル(フライシュマンの酵母(Fleischman's Yeast)のパッケージからの一般的な品種)を培養基の中でトラップし、連続的な照射を行う間に数世代の発芽を観察した。これらの試験の間は、酵母セルをトラップするために、周波数倍増したNd:YVO4レーザからの波長が532nmの光を使用した。酵母は室温の水溶液の中にS.セレビシエ(S. cerevisiae)の様々な菌株を含んでいた。個々のセルは、約1mWの連続波のレーザ光によりトラップされた。1つの例証では、16個のセルが4x4のアレイに閉じ込められた。これらの16個のセルの約半分に発芽娘セルが現れ、6時間後にコロニーを形成した。
多数の酵母セル(フライシュマンの酵母(Fleischman's Yeast)のパッケージからの一般的な品種)を培養基の中でトラップし、連続的な照射を行う間に数世代の発芽を観察した。これらの試験の間は、酵母セルをトラップするために、周波数倍増したNd:YVO4レーザからの波長が532nmの光を使用した。酵母は室温の水溶液の中にS.セレビシエ(S. cerevisiae)の様々な菌株を含んでいた。個々のセルは、約1mWの連続波のレーザ光によりトラップされた。1つの例証では、16個のセルが4x4のアレイに閉じ込められた。これらの16個のセルの約半分に発芽娘セルが現れ、6時間後にコロニーを形成した。
実施例II
周波数倍増したNd:YVO4レーザからの波長が532nmの光を使用して、複数の頬上皮セルをトラップした。綿棒で採取されたセルが室温の水溶液の中に浮遊され、ガラスのカバースリップ上に付着された。光ピンセットは最大10分間様々なセルの核及び空胞に向けられた。浮遊したセルをその培養基から外すためにセル膜の領域が十分強くトラップされたとき、目視検査で分かるように、その内部突起は著しく影響されたようには見えなかった。ピンセットが消えた後は、正常なセルの機能が回復したと思われた。
周波数倍増したNd:YVO4レーザからの波長が532nmの光を使用して、複数の頬上皮セルをトラップした。綿棒で採取されたセルが室温の水溶液の中に浮遊され、ガラスのカバースリップ上に付着された。光ピンセットは最大10分間様々なセルの核及び空胞に向けられた。浮遊したセルをその培養基から外すためにセル膜の領域が十分強くトラップされたとき、目視検査で分かるように、その内部突起は著しく影響されたようには見えなかった。ピンセットが消えた後は、正常なセルの機能が回復したと思われた。
実施例III
周波数倍増したNd:YVO4レーザからの波長が532nmの光を使用して、小麦の下かんセルをトラップした。セルは固体培地の中で得られ、室温で光トラップが行われる前に、ガラスのカバースリップ上に付着された。連続的に光トラッピングをしても、セル壁を破壊する程十分ではなかった。照射されたセルの目視検査では、頬上皮セルの場合に得られたものと定性的に同様の結果が得られた。
周波数倍増したNd:YVO4レーザからの波長が532nmの光を使用して、小麦の下かんセルをトラップした。セルは固体培地の中で得られ、室温で光トラップが行われる前に、ガラスのカバースリップ上に付着された。連続的に光トラッピングをしても、セル壁を破壊する程十分ではなかった。照射されたセルの目視検査では、頬上皮セルの場合に得られたものと定性的に同様の結果が得られた。
本発明の好ましい実施形態を図示し説明してきたが、様々な変更及び修正を、下記の特許請求の範囲の中で記載されるその広い態様の中で本発明から逸脱せずに行うことができることは当業者には明白であろう。
Claims (14)
- 複数Nのホログラフィック光トラップを生み出すためにビームが収束されたレーザ光を用いて1つの広がった生体物質を操作する方法であって、
前記ビームが収束されたレーザ光に対する連続波レーザ光を提供するステップと、
可視光の波長から紫外線の波長の範囲内から選択され、且つ操作されるべき前記生体物質の強い吸収特性に関係する波長を使用することを避ける波長λを有する前記ビームが収束された連続波レーザ光から前記複数Nのホログラフィック光トラップを生み出すステップと、
前記可視光の波長から紫外線の波長の範囲内の波長λを有する連続波レーザ光と前記複数Nの光トラップによってトラップされるような大きさの前記広がった生体物質との組み合わせを利用するステップとを備え、
前記ホログラフィック光トラップのパワーPは、前記ビームが収束された連続波レーザ光で形成され、それにより前記広がった生体物質を複数の点でトラップするために前記複数Nのホログラフィック光トラップを生み出し、それにより前記Nのトラップのレーザ光のエネルギーを前記生体物質の複数の点に広げることを特徴とする方法。 - 前記複数Nのホログラフィック光トラップの各々を形成するために使用される前記パワーレベルPを制御するステップであって、それにより前記生体物質を操作している間前記生体物質への損傷を軽減する、ステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記ビームが収束された連続波レーザ光が約400nmから約700nmまでの波長範囲の光を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記波長λは、前記レーザ光の吸収を減らすために前記操作されている生体物質の吸収係数ウィンドウに相当する値に合わせて調整されるようになっており、それにより前記生体物質への損傷又は変形を軽減することを特徴とする請求項3に記載の方法。
- 所定のトラッピング力を得るために必要なパワーPが成形されていないビームが収束された連続波レーザ光よりも減少されるような、前記ビームが収束された連続波レーザ光の波面を成形するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記ビームが成形された連続波レーザ光がドーナッツモードを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
- 前記複数Nのホログラフィック光トラップが、前記連続波レーザ光と相互作用する回折光学素子から発生することを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記複数Nのホログラフィック光トラップの各々のパワーレベルPは、前記連続波レーザ光に位相変調のパターンを加えることによって制御されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記複数Nのホログラフィック光トラップが前記成形されたビームの連続波レーザ光により形成され、それにより前記生体物質のサンプルを複数の点においてトラップするために成形された波面を有する前記複数Nのホログラフィック光トラップを作り出すことを特徴とする請求項5に記載の方法。
- 前記複数Nのホログラフィック光トラップの選択された部分のトラッピング効率が、形成されていない連続波レーザ光と比して増加されるように、ビームが収束された連続波レーザ光の波面を成形するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記収束されたビームの連続波レーザ光が、前記生体物質による吸収を最小化するように計算された形状から成ることを特徴とする請求項10に記載の方法。
- 前記生体物質が、生体細胞、生きている生体物質、および物体を含む生体膜を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- トラッピングする前記複数の点の各々は、前記生体物質の生物学的に敏感でない位置にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記複数Nの光トラップのパワーP及び位置は、前記生体物質の遺伝暗号の変更を軽減するように制御されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
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