JP2013066456A - 黄色ブドウ球細菌に結合するタンパク質及びそのタンパク質を利用した黄色ブドウ球細菌の測定方法。 - Google Patents

黄色ブドウ球細菌に結合するタンパク質及びそのタンパク質を利用した黄色ブドウ球細菌の測定方法。 Download PDF

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Abstract

【課題】黄色ブドウ球菌を簡便で、且つ、安価に測定するのに有用な分子を探索し、簡便で、且つ、安価に黄色ブドウ球菌を測定する方法を提供する。
【解決手段】特定な配列からなるアミノ酸配列を含む、黄色ブドウ球菌に吸着するタンパク質又はその変異体。
【選択図】なし

Description

黄色ブドウ球細菌に結合するタンパク質及びそのタンパク質を利用した黄色ブドウ球細菌の測定方法に関する。
黄色ブドウ球菌(S.aureus)は、通性嫌気性のグラム陽性球菌であり、ブドウの房のような複数の細菌が集団を形成する菌である。黄色ブドウ球菌は、他の細菌と比較して高濃度の食塩存在下でも増殖が可能であり、またカタラーゼ活性、ブドウ糖発酵性を持つなどの生化学的特徴を利用して分離・同定される。
また、黄色ブドウ球菌は、黄色ブドウ球菌は人体の皮膚表面、毛孔等に存在し、特に鼻腔内に存在する常在細菌として知られる。そして、黄色ブドウ球菌は、ヒトの皮膚に常在するブドウ球菌の中では比較的毒性が高く、健常者に対しても疾病を起こし得る細菌である。
近年、医療施設等でメチシリン、バンコマイシン等といった薬剤に対する耐性を獲得した黄色ブドウ球菌が次々と発見され、このような薬剤耐性菌による日和見感染が多発しており、疾病罹患患者のみならず医療従事者に対しても脅威となりつつある。そして、黄色ブドウ球菌を測定するためのキットが多数存在している。
ファージとは細菌に感染するウイルスであり、このようなファージが有する、細菌に結合するといった特徴を採用し、ファージそのもの又はファージを構成するタンパク質の一部を用いて大腸菌を測定する技術が開発されている(特許文献1〜3)。
特開2004−267099号公報 特表2005−523943号公報 特表2003−505105号公報
上述のように、黄色ブドウ球菌を測定するためのキットは多数存在しているものの、その多くは黄色ブドウ球菌に対して特異的に結合する抗体を用いたものである。このようなキットを用いて黄色ブドウ球菌を高い精度で測定するには、高度な技術、高価な機器、長期にわたる測定期間等を必要とするために、医療現場における使用には向いていない。また、高価な機器は黄色ブドウ球菌の測定以外の用途と併用することが殆どであり、黄色ブドウ球菌による汚染を避けるために、過度の努力が必要ともなる。
そこで、簡便で且つ安価に黄色ブドウ球菌を測定するためには、黄色ブドウ球菌を高い感度で測定できるような分子が必要となるが、黄色ブドウ球菌に対して吸着・感染する機構を有するファージの探索に着目してみると、大腸菌に吸着するファージの研究は進んでいるものの、黄色ブドウ球菌といった大腸菌以外の細菌に吸着するファージの研究は殆ど行われていない。
また、黄色ブドウ球菌を特異的に認識する上で、黄色ブドウ球菌細胞表層のどのような成分が重要であるかと言う知見もない。
本発明の主な目的は、黄色ブドウ球菌を簡便で、且つ、安価に測定するのに有用な分子を探索し、簡便で、且つ、安価に黄色ブドウ球菌を測定する方法を提供することである。さらに、本発明に主な目的は、黄色ブドウ球菌を特異的に測定する方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、黄色ブドウ球菌に吸着するファージを発見した。斯かるファージについて更に解析を行った結果、ファージの尾部が黄色ブドウ球菌と吸着する部位であることを見出し、その吸着部位が少なくともファージ尾部を構成するタンパク質のカルボキシル末端側に存在することを特定した。
更に、発明者らは、上述のタンパク質が、黄色ブドウ球菌のペプチドグリカン層に存在するテイコ酸と結合することも見出した。
また、発明者らは、斯かるタンパク質を用いることで、検体中に存在する黄色ブドウ球菌を高感度、簡便、短時間、且つ安価な方法にて測定が出来る方法を開発した。
本発明は、このような知見に基づいて完成したものであり、下記に示す態様を広く包含するものである。
項1 配列番号1〜7の何れかに示すアミノ酸配列を含む、黄色ブドウ球菌に吸着するタンパク質又はその変異体。
項2 上記項1に記載のタンパク質又はその変異体を認識する抗体。
項3 上記項1に記載のタンパク質又はその変異体のうちの少なくとも一種と、担体とを含む支持体。
項4 上記項3に記載の支持体を有する黄色ブドウ球菌測定キット。
項5 上記項1に記載するタンパク質又はその変異体をコードする核酸。
項6 上記項5に記載の核酸を含むベクター。
項7 上記項6に記載のベクターを保持する宿主。
項8 以下の工程A及びBを含む、上記項1に記載のタンパク質又はその変異体を製造する方法:
(A)上記項7に記載の宿主を培養する工程A。
(B)工程Aの後、上記項1に記載のタンパク質又はその変異体を含む画分を、該宿主又は培養液から回収する工程B。
項9 下記の工程1及び2を含む、試料中の黄色ブドウ球菌を検出する方法。
(1)上記項3に記載の支持体と前記試料とを混合して、前記黄色ブドウ球菌と該支持体との複合体を形成させる工程1、
(2)工程1の後、混合後の試料中の前記複合体を測定する工程2。
項10 上記工程1において、上記項3に記載の支持体と、前記黄色ブドウ球菌との複合体を、該黄色ブドウ球菌の細胞表面のテイコ酸を介して形成させる、上記項9に記載の方法。
項11 配列番号1〜7の何れかに示すアミノ酸配列を含む、黄色ブドウ球菌由来のテイコ酸に結合するタンパク質又はその変異体。
項12 上記項11に記載のタンパク質又はその変異体を認識する抗体。
項13 上記項11に記載のタンパク質又はその変異体のうちの少なくとも一種と、担体とを含む支持体。
項14 上記項13に記載の支持体を有する黄色ブドウ球菌由来のテイコ酸測定キット。
項15 上記項11に記載するタンパク質又はその変異体をコードする核酸。
項16 上記項15に記載の核酸を含むベクター。
項17 上記項16に記載のベクターを保持する宿主。
項19 以下の工程A及びBを含む、上記項11に記載のタンパク質又はその変異体を製造する方法:
(A)上記項17に記載の宿主を培養する工程A。
(B)工程Aの後、上記項11に記載のタンパク質又はその変異体を含む画分を、該宿主又は培養液から回収する工程B。
以下に本発明について詳細に説明する。なお、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学及び分子生物学的技術であれば、Sambrook and Russell,“Molecular Cloning A LABORATORY MANUAL”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 2001; Ausubel, F. M. et al. “Current Protocols in Molecular Biology”, John Wiley & Sons, New York, .NY等の文献を参照すればよい。
本発明の黄色ブドウ球菌に吸着するタンパク質又はその変異体は、特に黄色ブドウ球菌を測定する方法として有用である。その際、斯かるタンパク質又はその変異体のうちの少なくとも一種と、担体とを含む支持体を用いることによって、試料中の黄色ブドウ球菌を高価な機器を用いることなく、高感度で短時間に測定することができるので、簡便で、且つ、安価に黄色ブドウ球菌の測定方法が提供される。
従って、本発明の黄色ブドウ球菌に吸着するタンパク質又はその変異体を用いた黄色ブドウ球菌の測定方法は、医療現場等で即座に黄色ブドウ球菌の測定が可能であるために非常に有用である。また、本発明の測定方法は、ディスポーザブル器具を用いて測定することも可能である。
また、本発明のタンパク質又はその変異体は、特に黄色ブドウ球菌に由来するテイコ酸の測定に有用である。
ORF16タンパク質と、その欠損変異体のアミノ酸1次構造を説明する模式図。 本発明のタンパク質又はその変異体の少なくとも一種と、担体とを含む支持体が、黄色ブドウ球菌と結合することによる凝集体の形成過程を説明する模式図。 試験例に示す、ビーズが結合したORF16タンパク質と黄色ブドウ球菌SA14株との複合体形成に関する凝集体の出現を示す写真像。 様々な試薬で処理した黄色ブドウ球菌に対するORF16結合ビーズによる凝集活性能の検討実験結果。 様々な試薬で処理した黄色ブドウ球菌に対するORF16結合の検討実験結果。 黄色ブドウ球菌に由来する成分と、ORF16タンパク質結合ビーズを用いた凝集活性実験。
<本発明のタンパク質又はその変異体>
本発明のタンパク質又はその変異体は、黄色ブドウ球菌に吸着する。また、本発明のタンパク質又はその変異体には、黄色ブドウ球菌に由来するテイコ酸に結合するものも包含される。
・黄色ブドウ球菌への吸着する本発明のタンパク質又はその変異体
本発明のタンパク質又はその変異体は、黄色ブドウ球菌に吸着する。ここで、『吸着』とは結合とほぼ同義である。結合の態様は特に限定はされず、例えば、疎水的結合等といった比較的弱い結合で、積極的に結合を解除する操作によって結合しない状態となるような態様の結合も含まれる。
中でも、上述の黄色ブドウ球菌に吸着するタンパク質又はその変異体は、黄色ブドウ球菌に対して特異的に結合することが特に好ましい。「特異的」とは、たとえば黄色ブドウ球菌以外の表皮ブドウ球菌、腐性ブドウ球菌、ミュータンス菌等といった結合候補が存在するときに、黄色ブドウ球菌を優先的に結合対象として認識し、結合することを意味する。
本発明のタンパク質又はその変異体と黄色ブドウ球菌との結合は、公知の方法によって確認することができ、例えば後述する<試験例>に記載の方法を、各種条件の点で適宜変更しつつ、採用すればよい。
本発明のタンパク質又はその変異体が吸着する黄色ブドウ球菌には、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)、バンコマイシン低度耐性黄色ブドウ球菌(VISA)等といった、薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌も含まれる。
これらの黄色ブドウ球菌の具体的な株としては、SA7株、SA14株、SA17株、SA21株、SA28株、SA32株、SA34株、SA39株、SA42株、MRSA13株、MRSA15株、MRSA24株、NCTC10442株、85/2082株、NYYC1042株、MR108株等が挙げられる。
上述のタンパク質の例として、配列番号1に示すアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。配列番号1に示すアミノ酸配列とは、黄色ブドウ球菌に吸着するファージの尾部を構成するタンパク質(以後、本発明においてORF16タンパク質と称することがある。)のカルボキシル末端のアミノ酸配列である。
ここで、『変異体』とは上述の黄色ブドウ球菌に対して吸着する能力を有する範囲の変異体に限られる。例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列を含む黄色ブドウ球菌に吸着するタンパク質の変異体としては、配列番号1に示すアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有し、且つ、黄色ブドウ球菌に吸着するタンパク質を挙げることができる。
アミノ酸配列の『同一性』とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対する同一のアミノ酸配列の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の同一性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。
アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。
若しくは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Karlin S, Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoring schemes”Proc.Natl Acad Sci USA.87:2264−2268(1990)、Karlin S,Altschul SF.”Applications and statistics for multiple high−scoring segments in molecular sequences.”Natl Acad Sci USA.90:5873−7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。BLASTXを用いる際のパラメーターとしては、例えば、score=50、wordlength=3とすればよい。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。
なお、ここでいう変異導入とは、置換、欠失、挿入等である。具体的な変異導入については、公知の方法を採用することができ、特に限定はされないが、例えば置換であれば保存的な置換技術を採用すればよい。「保存的な置換技術」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。
例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換技術にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ−分枝側鎖を有するアミノ酸残基、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
本発明の黄色ブドウ球菌に吸着するタンパク質の他の態様として、配列番号2〜7の何れかに示すアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。配列番号2〜7に示すアミノ酸配列は、図1に示すように配列番号1に示すアミノ酸配列を含むものである。また、これらのタンパク質の変異体も、本発明の黄色ブドウ球菌に吸着するタンパク質又の他の態様として含まれる。
このような配列番号2〜7に示すアミノ酸配列を含むタンパク質の変異体も、上述の配列番号1に示すアミノ酸配列を含むタンパク質の変異体と同様に定義される。
本発明の黄色ブドウ球菌に吸着するタンパク質又はその変異体は、溶液の状態としても、4℃で比較的安定であるため、このような温度で長期間保存することが可能である。なお、保存時には、アザイドといった防腐剤等を添加しても良い。また、当該タンパク質は、凍結乾燥して保存してもよい。
この様な本発明のタンパク質又は変異体は、装飾ブドウ球菌に吸着する能力を有することから、後述するような黄色ブドウ球菌の測定に特に有用に用いることが可能である。
・黄色ブドウ球菌由来のテイコ酸と結合する本発明のタンパク質又は変異体
上述した本発明のタンパク質又はその変異体は、黄色ブドウ球菌由来のテイコ酸にも結合する。
結合の態様は特に限定はされず、例えば、疎水的結合等といった比較的弱い結合で、積極的に結合を解除する操作によって結合しない状態となるような態様の結合も含まれる。
本発明のタンパク質又はその変異体と黄色ブドウ球菌由来のテイコ酸との結合は、公知の方法によって確認することができ、例えば後述する<試験例>に記載の方法を、各種条件の点で適宜変更しつつ、採用すればよい。
テイコ酸の由来となる黄色ブドウ球菌は、上述の通りである。
本発明のタンパク質又はペプチドが結合するテイコ酸は、黄色ブドウ球菌のペプチドグリカン層に存在するものである。より具体的には、ペプチドグリカン層に存在する糖鎖の中のNアセチルムラミン酸の6位に、自身のリン酸基を介して結合する糖鎖であり、具体的には、以下の化学式(1)にて示されるものが挙げられる。
Figure 2013066456
式(1)中、Rはそれぞれ同一又は異なって、α−又はβ−Nアセチルグルコサミンであり、共に4位と酸素原子が結合している。
式(1)中、Rはそれぞれ同一又は異なって、水素原子又はD−アラニンであり、当該D−アラニンのカルボキシル基と、酸素原子が結合している。
式(1)中、NHAcはアセチルアミノ基であり、NH基とアセチル基が結合していることを示す。
上述したテイコ酸は、脂質が結合したリポテイコ酸とは異なるものである。
<本発明の抗体>
本発明の抗体は、上述の本発明のタンパク質又はその変異体を認識する抗体である。
斯かる抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、これらの抗体を含む抗血清も本発明の抗体に含まれる。また、斯かる抗体は、放射性同位体、蛍光物質、発光物質等といった標識分子にて修飾が施された標識化抗体であってもよい。
本発明の抗体の入手方法は特に限定はされず、上述の本発明のタンパク質又はその変異体を基に、公知の方法を採用すれば、当業者であれば容易に本発明の抗体を入手することができる。また、標識化抗体も上述の抗体を基にして、公知の方法を採用すれば当業者は容易に製造できる。
本発明の抗体は、抗体が有する上述のタンパク質への特異的な結合能力を利用して、黄色ブドウ球菌に吸着するファージの検出に好適に使用される。また、黄色ブドウ球菌へのファージの吸着を阻害する効果も有する。
また、本発明の抗体は、黄色ブドウ球菌に由来するテイコ酸の検出に好適に使用される。テイコ酸とは、上記の黄色ブドウ球菌由来のテイコ酸との結合にて説明したとおりである。
<本発明の支持体>
本発明の支持体は、上述の本発明のタンパク質又はその変異体のうちの少なくとも一種と担体を含むものである。
本発明の支持体は、上記担体と上述の本発明のタンパク質又はその変異体とを結合させれば当業者であれば容易に入手できる。具体的なの結合方法は、公知の方法を採用すればよく、例えば、一般的にタンパク質に対する架橋剤として多用されているN−スクシンイミジルアミド、N−マレインイミド等の架橋剤を用いる方法が挙げられる。さらに、担体と上述のタンパク質またはその変異体との間には、当該タンパク質又はその変異体が黄色ブドウ球菌と吸着、及び/又は黄色ブドウ球菌に由来するテイコ酸との結合する機能を弱めない範囲において、適宜ペプチド等のリンカーを有していてもよい。
担体とは本発明のタンパク質又はその変異体の黄色ブドウ球菌への吸着能力、及び/又は黄色ブドウ球菌に由来するテイコ酸との結合能力を弱めない範囲であれば、特に限定はされないが、例えば、ラテックス粒子、シリカビーズ等が挙げられる。
これらの担体の中でも、上述の本発明のタンパク質又はその変異体の位置の少なくとも一種と共に用いて支持体とした際に、斯かる支持体だけでは凝集を起こさない傾向であり、当該タンパク質又はその変異体が黄色ブドウ球菌と吸着、及び/又は黄色ブドウ球菌に由来するテイコ酸と結合し、斯かる支持体と黄色ブドウ球菌、及び/又は黄色ブドウ球菌に由来するテイコ酸とが複合体を形成して凝集を起こすものが好ましい。このような働きを示す担体として、例えば、ラテックス粒子、シリカビーズ等が挙げられる。なお、当該ラテックス粒子としては、例えば、Polysciences社より販売されているPolybead等を採用すればよい。
担体の粒子径は、特に限定はされず、通常は0.1〜3.0μm程度とすればよい.
本発明の支持体は、凍結乾燥して保存してもよい。当該支持体の使用時には、適当な溶液に溶解して使用することも可能である。従って、例えば、後述するような<本発明のキット>の構成物品として好適に用いることができ、さらに後述するような<本発明の測定方法>にも好適に用いることができる。
<本発明のキット>
本発明のキットは、黄色ブドウ球菌を測定するためのものである。また、本発明のキットには、黄色ブドウ球菌に由来するテイコ酸を測定するものも含まれる。特に、後述する<本発明の測定方法>に、特に好適に用いることができる。斯かるキットには、上述の本発明の支持体を構成物品として含む。
例えば、本発明のキットを用いて、黄色ブドウ球菌を定量的に測定するのであれば、異なる所定量の黄色ブドウ球菌を含む標準物質を本発明のキットの構成物品として含んでいることが好ましい。
同様に、本発明のキットを用いて、黄色ブドウ球菌に由来するテイコ酸を定量的に測定するのであれば、異なる所定量の黄色ブドウ球菌に由来するテイコ酸を含む標準物質を、本発明のキットの構成成分として含んでいることが好ましい。
その他、黄色ブドウ球菌、及び/又は黄色ブドウ球菌に由来するテイコ酸の測定に用いるバッファー、希釈液、密着シール、トレイ、プレート等が本発明にのキットの構成物品として含まれていても良い。
<本発明の核酸>
本発明の核酸は、上述の本発明のタンパク質又はその変異体をコードする核酸である。このような核酸は、当該タンパク質又はその変異体のアミノ酸配列を基に、in silico技術を用いることで決定される。また、後述する<宿主>との相性を踏まえたコドンを適宜選択することが好ましい。
このような核酸はリボヌクレオチドであっても、デオキシヌクレオチドであってもよく、二本鎖の形状であっても一本鎖の形状であってもよい。
本発明の核酸は、上述の本発明のタンパク質又はその変異体の製造に特に好適に用いることができる。したがって、本発明の核酸には、特に製造時に当該タンパク質を検出すること等を目的として、各種タグポリペプチドをコードする核酸が付加されていてもよい。
具体的なタグポリペプチドとして、Hisタグ、FLAGタグ、HAタグ、mycタグ、MBPタグ、GSTタグ、GFPタグ、Zタグ、ストレプタグ等が挙げられる。
これらのタグポリペプチドは、単独で付加されていても、二種以上を組み合わせて付加されていてもよい。なお、上記の核酸は、上述した本発明のタンパク質又はその変異体をコードする核酸の内部に挿入される形で付加されていても、3′末端側に付加されていても、の5′末端側付加されていてもよい。
このような本発明の核酸は、公知の方法を用いて製造することができ、例えば適当なプライマーを用意してPCRによって得る方法や、核酸合成装置を用いて化学的に合成する方法などが挙げられる。
<本発明のベクター>
本発明のベクターは、上述の本発明のタンパク質又はその変異体をコードする核酸を含むベクターである。斯かるベクターには、上述の核酸以外に斯かる核酸がコードするアミノ酸を好適に発現させるために各種の機能的な塩基配列を含んでいてもよい。
このような機能的な塩基配列としては、例えば、上述の本発明のタンパク質又はその変異体の発現を制御するためのプロモーター配列、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列等が挙げられる。これらの配列は、後述する<本発明の宿主>にて記載する宿主にて、効率的に機能するものを適宜採用すればよい。
本発明のベクターは、上述の本発明のタンパク質又はその変異体の製造に特に好適に用いることができる。
<本発明の宿主>
本発明の宿主は、上述の本発明のタンパク質またはその変異体をコードする核酸を含むベクターを保持する宿主である。
「ベクターを保持する」とは、宿主内に上述のベクターそのものがそのままの形状にて存在する態様、宿主のゲノムDNAにベクターの核酸が取り込まれて存在する態様等が挙げられる。
本発明の宿主は、一般的にタンパク質を製造するのに好適な公知の宿主を適宜採用すればよく、例えば、大腸菌、酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞等が挙げられる。
本発明の宿主は、上述の宿主に上述の本発明にのベクターを導入すればよい。具体的な導入方法は、特に限定はされず、公知の方法を用いればよい。例えば、塩化カルシウム法や塩化ルビジウム法で作成したコンピテントセルを用いる方法、エレクトロポーレーション法等を宿主等の性質に合わせて適宜選択すればよい。
本発明の宿主は、上述の本発明のタンパク質又はその変異体の製造に特に好適に用いることができる。
<本発明の製造方法>
本発明の製造方法は、下記の工程A及びBを含む、本発明のタンパク質又はその変異体を製造方法である。
(A)上述の本発明の宿主を培養する工程A。
(B)工程Aの後、本発明のタンパク質又はその変異体を含む画分を、該宿主又は培養液から回収する工程B。
工程Aについて
本発明の製造方法における工程Aは、上述の本発明の宿主を培養する工程である。
宿主の培養方法は、宿主の性質によって区々ではあり、宿主に最適化した公知の方法をそのまま採用すればよい。
工程Bについて
本発明の製造方法における工程Bは、工程Aの後、前記宿主又はその培養液から、本発明のタンパク質又はその変異体を回収する工程である。
本発明のタンパク質又はその変異体が宿主外に分泌されるものであれば、その培養液をそのまま当該画分として回収すればよい。また、宿主内に蓄積されるのであれば宿主を公知の界面活性剤にて化学的手段よる破砕及び/又は超音波処理、フレンチプレス法等の物理的手段による破砕後の破砕液を当該画分として回収すればよい。
工程Bの後、上述の本発明のタンパク質又はその変異体を含む画分を、適宜精製工程に供してもよい。具体的な精製方法は特に限定されないが、公知の方法を採用すればよい。
例えば、上述の本発明のタンパク質又はその変異体を含む画分を塩化セシウム、スクロース、グリセロール、OptiPrep、Percol等の成分を各種濃度又は線形グラジエント濃度勾配にて含有する緩衝液と、超遠心分離処理を採用した密度勾配遠心分離法に供して、本発明に係るタンパク質又はその変異体以外の成分を除去する方法;上述の画分に熱処理を与えて、主に夾雑タンパク質等を変性させて、本発明のタンパク質又はその変異体以外の成分を除去する方法;上述の画分に対して硫酸アンモニウム、エタノール酢酸、アセトン等を作用させて、主に夾雑タンパク質を変性させることによって、本発明に係るタンパク質又はその変異体以外の成分を除去する方法;上述の画分に対して硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコールを加えて沈殿を生じさせる事で、本発明のタンパク質又はその変異体以外の成分を除去する方法;上述の画分に対してクロマトグラフィー法を採用して、本発明のタンパク質又はその変異体以外の成分を除去する方法等が挙げられ、これらの方法は単独で採用しても、二種類以上を組み合わせて採用しても良い。
上述したクロマトグラフィーの具体的な種類は、特に限定されないが、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、サイズ排除ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー等を挙げることができ、これらのクロマトグラフィーは単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明のタンパク質又はその変異体をコードする核酸が、上述したタグポリペプチドをコードする核酸を含む場合には、当該タグポリペプチドとの相互作用に基づいたアフィニティカラムを用いることが好ましい。
例えば、タグポリペプチドがFLAGタグ、HAタグ、mycタグ等である場合には場合、それぞれ抗FLAG抗体、抗HA抗体、抗myc抗体等といった、タグポリペプチドに対して特異的に結合する抗体を担持するポリマーを含むアフィニティクロマトグラフィーを用いることが好ましい。このようなアフィニティクロマトグラフィーを用いる場合の溶出液としては、当該ペプチドを高濃度で含有する緩衝液、又はGlysin−HCl緩衝液のような、pHが1〜5程度の酸性緩衝液を用いることが好ましい。
また、タグポリペプチドがMBPタグである場合には、マルトース等といった糖類を担持するポリマーを含むアフィニティクロマトグラフィーを用いることが好ましい。このようなアフィニティクロマトグラフィーを用いる場合の溶出液としては、糖類を高濃度で含む緩衝液を用いることが好ましい。
さらに、タグポリペプチドがHisタグである場合には、ヒスチジン残基とキレート結合が可能となるニッケル、コバルト等の金属錯体を担持するポリマーを採用したアフィニティクロマトグラフィーを用いることが好ましい。このようなアフィニティクロマトグラフィーを用いる場合の溶出液としては、イミダゾールを高濃度で含有する緩衝液を用いることが好ましい。
上述したタグポリペプチドは、本発明のタンパク質又は変異体を精製した後に適当なプロテアーゼ等を用いて切断除去してもよい。
<本発明の測定方法>
本発明の黄色ブドウ球菌を測定する方法は、下記の工程1及び2を含む、試料中の黄色ブドウ球菌を測定する方法である。
(1)上述の本発明の支持体と、黄色ブドウ球菌を含む試料とを混合して、前記黄色ブドウ球菌と該支持体との複合体を形成させる工程1、
(2)工程1の後、混合後の試料中の前記複合体を測定する工程2。
本発明の測定方法において、検出対象とする黄色ブドウ球菌は、<本発明のタンパク質>の欄にて前述した黄色ブドウ球菌である。
本発明の測定方法において、黄色ブドウ球菌を含む試料とは、特に限定はされないが、例えば、黄色ブドウ球菌への感染が疑われる生体から採取されるものであり、黄色ブドウ球菌を含む任意の体液(例えば、血液、血清、血漿、尿、鼻汁液、唾液、粘液質、胃液、精液、涙、汗など)、皮膚、毛髪、細胞(特に、有核細胞)、生検、鼻腔スワブ、口腔スワブ又は組織標本等が挙げられる。
本発明の黄色ブドウ球菌を測定する方法には、定性的に測定する方法も、定量的に測定する方法も含まれる。ここで、『定性的に測定する』とは、試料中に黄色ブドウ球菌が存在するか否かといった、試料中の黄色ブドウ球菌の存在の有無を判断する方法である。
このような方法は、例えば、黄色ブドウ球菌に感染した生体内から採取した鼻水や血液等の試料中に含まれる黄色ブドウ球菌の量に対応する実測値を、所定の値と比較して高い値であれば、試料中に黄色ブドウ球菌が存在すると判断し、逆に低い値であれば存在し無いと判断する方法が挙げられる。ここで、実測値の求め方は、下記の工程2の欄にて詳述する。
他の『定性的に測定する』方法としては、目視によって試料中の黄色ブドウ球菌の存在の有無を判断する方法も挙げられる。この具体的な方法については、下記の工程2の欄にて詳述する。
また、『定量的に測定する』とは、試料中の黄色ブドウ球菌の具体的な存在量を測定することを意味する。
例えば、予め各種の量が規定された黄色ブドウ球菌の標準物質の実測値と、斯かる各種標準物質中の黄色ブドウ球菌の量を基にして2者の関係を示す検量線を作成し、黄色ブドウ球菌を含むと考えられる試料の実測値と該検量線を基にして、試料中の黄色ブドウ球菌の具体的な量を算出する方法が挙げられる。なお、実測値の求め方は、下記の工程2の欄にて詳述する。
工程1について
本発明の黄色ブドウ球菌を測定する方法における工程1は、上述の本発明の支持体と、黄色ブドウ球菌を含む試料とを混合して、前記黄色ブドウ球菌と該支持体との複合体を形成する工程である。混合に係る操作には、振とうする操作が含まれていてよく、ピペッティング操作が含まれていてもよい。
複合体の形成にかかる時間は、特に限定されず、前記支持体、特に支持体中に含まれる本発明のタンパク質又はその変異体と試料中の黄色ブドウ球菌が接触して、前記複合体が形成されればよく、通常は45〜60秒程度とすればよい。また、複合体形成時の温度も特に限定はされないが、通常は室温程度であればよい。
工程1において、形成される複合体とは、図2に示すように、前記少なくとも1つ以上の本発明のタンパク質又はその変異体を有する支持体に複数の黄色ブドウ球菌が結合することで、前記担体と黄色ブドウ球菌が連鎖的に結合し、凝集体となる。
なお、複合体の形成は、黄色ブドウ球菌の細胞表面に存在するテイコ酸を介して形成されていることが好ましい。
工程2について
本発明の黄色ブドウ球菌を測定する方法における工程2は、工程1の後、混合後の試料中の前記複合体を測定する工程である。
具体的な測定方法は特に限定はされないが、例えば、上述のように黄色ブドウ球菌を『定性的に測定』する場合には、試料中の複合体の凝集を目視で測定すればよい。また、黄色ブドウ球菌を測定する方法としては、試料に対してレーザー光等といった光を当てて、試料全体の濁度、光の散乱度等を実測値として測定すればよい。この場合、それぞれある一定以上の濁度、散乱度等が実測値として得られた試料中には、黄色ブドウ球菌が存在すると判断することができる。
また、上述のように黄色ブドウ球菌を『定量的に測定』する場合も、試料に対してレーザー光等といった光を当てて得られる濁度又は光散乱度を実測し、その値を基に実測値と黄色ブドウ球菌の存在量との関係における検量線を作成し、試料の実測値を基に試料中の黄色ブドウ球菌の量を算出すればよい。
以下に本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明が以下に示す試験例に限定されないのは言うまでも無い。
なお、本発明には黄色ブドウ球菌に由来するテイコ酸を測定する方法も包含される。具体的には、上述した本発明のペプチド又はその変異体、それと担体とを含む支持体、若しくはそれを認識する抗体を用いて、公知の方法と適宜組み合わせることによって測定できる。公知の方法としては、例えば、上記タンパク質又はその変異体を用い、ビアコア等の分子間相互作用測定装置を利用した測定方法、上記支持体を用い、その凝集を利用した比色法による定量、上記抗体利用し、ELASA等の免疫測定法による定量が挙げられる。
<試験例>
培地、試薬、及び菌株
本実施例にて使用した培地及び試薬は全てベクトンディッキンソンアンドカンパニー(Sparks,MD)及びナカライテスク (Kyoto,Japan)からそれぞれ購入して用いた。菌株の入手先等は表1に示す通りである。
Figure 2013066456
<実験例1:黄色ブドウ球菌に対するファージの単離>
黄色ブドウ球菌に対するファージは、高知県高知市及び安芸市の下水処理場における流入水から、公知の方法を用いて単離・精製を行った。ここで、2種類の黄色ブドウ球菌に対するファージが得られ、それぞれをS13′、S24−1と命名した。
なお、得られた2種類のファージは、尾部を保有する形態であるPodoviridaeファミリーに属するファージであった。
これらのファージの解析を行ったところ、共に19kbp程度のゲノムサイズを有するものの、構造タンパク質に違いがあり、またS13′は、黄色ブドウ球菌の89株中74株を宿主とし(83.1%)、S24−1では同じ89株中85株を宿主とした(95.5%)。詳細な結果を、表2に示す。
Figure 2013066456
これら2種類のファージのゲノムを、さらに詳細に解析したところ、ORF16の領域において、相同性が明らかに欠いていることを見出した。
<実験例2:ORF16について>
上述のORF16領域が、2種類のファージ間の宿主域の違いに関与すると判断し、大腸菌(BL21株)を用いてS24−1のORF16遺伝子を発現させた。分子量77.4kDa、アミノ酸数642aa、等電点が6.4のタンパク質であることが明らかとなった。
また、当該タンパク質(以後、ORF16タンパク質と呼ぶことがある)に対する抗ウサギ血清を用いた実験により、ORF16タンパク質がS24−1の構造タンパク質であることが判明した。
そして、当該抗ウサギ血清を用いた実験により、ORF16タンパク質はS24−1の尾部に存在する領域であること(免疫電子顕微鏡像)、及びORF16タンパク質はS24−1と黄色ブドウ球菌との吸着が阻害されること(中和活性)も明らかとなった。
<実験例3:ORF16タンパク質の黄色ブドウ球菌との結合部位>
従ってORF16タンパク質は、S24−1の尾部に存在する黄色ブドウ球菌に対する結合部位であることが明らかとなった。より詳細にORF16タンパク質中の黄色ブドウ球菌に対する結合部位を明らかにするために、ORF16タンパク質及びその欠損変異体の黄色ブドウ球菌との結合実験を行った。各種欠損変異体は、図1に示すORF16F1、F3、F5、及びORF16R1〜5である。
具体的には、ORF16タンパク質及びその各種欠損変異体を、上述のように大腸菌BL21株を用いて発現し、精製したものを、過剰量の黄色ブドウ球菌SA14株と1分間インキュベートし、その後のサンプルをSDS−PAGE法によって確認して、当該タンパク質及びその変異体のバンド消失が消失したものを、黄色ブドウ球菌を結合したと判定した。なお、作成したORF16タンパク質及びそれらの欠損変異体は、全て溶解性を有するタンパク質であった。
また、陰性対照実験として、菌体を含まないもの及び黄色ブドウ球菌に代わりに腸球菌(E.feacalis)EF24株を用いた実験も行った。結果を表3に示す。
Figure 2013066456
以上の結果から、ORF16タンパク質、そのN末端側の100アミノ酸残基を欠失させたORF16F1、そのN末端側の302アミノ酸残基を欠失させたORF16F3、及びそのN末端側の504アミノ酸残基を欠失させたORF16F5では、黄色ブドウ球菌に結合するものの、ORF16タンパク質の中でも、少なくともC末端側の101アミノ酸を欠失させたORF16R1〜5では、黄色ブドウ球菌には結合しないという結果が得られた。
従って、ORF16のC末端側の101アミノ酸の領域(図1におけるORF16XX)が、黄色ブドウ球菌に結合する領域であることが判明した。このような配列は、本発明において配列番号1にて示される配列である。
<実験例4:黄色ブドウ球菌の検出>
上述のORF16タンパク質及びその各種欠損変異体をビーズに結合させた。具体的には、アフィニティビーズキット(品名アフィニティビーズ:住友ベークライト社)を用い、マニュアルに沿った方法にて結合させた。
25μLのビーズを結合させたORF16タンパク質(10mg/mL)と、25μLの黄色ブドウ球菌SA14株(595nmの吸光度が0.1の濃度に希釈したもの。)と96ウェルプレートにて1分間インキュベートした。なお、ORF16タンパク質は、PBSにて2倍希釈、4倍希釈したものも同時に実験に供し、陰性対照として、BSAとビーズを結合したもの、ビーズのみのものを用いた。
また、黄色ブドウ球菌もPBSとTBSにて2倍希釈、4倍希釈したものも同時に実験に供し、陰性対照として腸球菌EF24株を用いた。結果を図3に示す。
ビーズが結合したORF16タンパク質と黄色ブドウ球菌SA14をインキュベートしたものは、凝集体が生じていることが目視にて確認できる。一方で、BSAとビーズを結合したものや、ビーズのみのもの、さらに腸球菌を用いたものでは、一切凝集体を目視にて確認することはできなかった。
以上の結果かから、ビーズが結合したORF16タンパク質は、黄色ブドウ球菌を高い特異性で、目視にて測定できることが明らかとなった。
また、凝集体出現の程度は、ビーズが結合したORF16タンパク質及び黄色ブドウ球菌の希釈の程度に従って減少していることも明らかとなった。従って、ビーズが結合したORF16タンパク質を用いることにより、黄色ブドウ球菌の定量的な測定も可能となる。
次いで、黄色ブドウ球菌のどのような成分に対して上記ORF16タンパク質又はその変異体が結合するのかを検討した。
<実験例5:ORF16タンパク質の黄色ブドウ球菌の認識部位の探索>
上述のORF16タンパク質が結合したビーズを準備した。これに対して、下記の表4の「処理方法」に示す方法によって、黄色ブドウ球菌(SA14株)を処理したものを、ウェル中で混合し、凝集が見られるかどうかを検討した。実験条件及び結果を、表4及び図4に示す。
Figure 2013066456
表4中、ウェルNo.2〜5は、黄色ブドウ球菌の細胞壁構成成分のうち、タンパク質を変性又は分解させて、それを破壊する目的で行った処理である。ウェルNo.6〜8は、黄色ブドウ球菌の細胞壁構成成分のうち、リポテイコ酸を破壊する目的で行った処理である。そして、ウェルNo.9及び10は、テイコ酸を破壊する目的で行った処理である。
図4はウェル中における凝集を確認するために撮影した写真像である。ここで、ORF16タンパク質が結合したビーズを含まないウェルNo.11共に、ウェルNo.9及び10においても凝集が見られなかった。ウェルNo.9及び10に示すようなNaOHやHFによる処理は、細胞壁のペプチドグリカン層に結合しているテイコ酸を遊離させることが知られている。従って、この実験結果から、ORF16タンパク質は黄色ブドウ球菌のペプチドグリカン層に存在するテイコ酸に結合することが示唆された。
<実験例6:ORF16タンパク質と黄色ブドウ球菌構成成分との結合>
黄色ブドウ球菌(SA14株)を下記の表5に示す条件で処理し、その上清とペレットを遠心分離法に供することによって準備した。
Figure 2013066456
表5に示す、それぞれのサンプルと、上述の方法にて作製したORF16タンパク質とを混合し、それをORF16タンパク質に対する抗体を用いたウェスタンブロッティング法に供して、両者の結合を確認する実験を行った。結果を図5に示す。
サンプルNo.8及び9において、上清側にORF16が結合していることを示すバンドが観察された。以上の実験結果からも、ORF16タンパク質は、黄色ブドウ球菌のペプチドグリカン層に存在するテイコ酸に結合することが示唆された。
<実験例6:ORF16タンパク質と黄色ブドウ球菌構成成分との結合>
テイコ酸(WTAs)、リポテイコ酸(LTAs)、及びペプチドグリカン(Peptideglycan)を調整した。
テイコ酸の調整方法は、以下の通りである。黄色ブドウ球菌(SA14株)を一晩 液体培養後、遠心によりペレットにした。得られた菌ペレットを液1(50mMのMES,pH6.5)で洗浄し、15分超音波処理を行った。その後、液2(4%のSDS;50mMのMES,pH6.5)に懸濁し、1時間熱処理を行った。次に、液3(2%のNaCl;50mMのMES,pH6.5)で1回洗浄、液1で5回洗浄した。proteinase K(Takara Bio)を用い、50℃で一晩処理した後、0.1MのNaOHで2日間(室温)処理を行った。HClでpH7.0に中和し、20mMのTris−HCl(pH7.0)で透析を行った。最後に、遠心濃縮器で濃縮を行い、水に対して透析し、凍結乾燥してテイコ酸を作製した。
リポテイコ酸はSigma−Aldrichより購入した。
ペプチドグリカンの調整方法は、以下の通りである。黄色ブドウ球菌(SA14)を一晩、液体で培養後、遠心によりペレットにした。得られた菌ペレットを50mMのTris−HCl(pH7.0)で洗浄後、4%のSDSで40分熱処理を行った。水で5回洗浄後、菌体をガラスビーズでホモジェネートし、菌体を破壊した。ついでDNaseとRNase(3h,37℃)、トリプシン(一晩,37℃)で処理後、1%のSDSで熱処理した。水で洗浄2回、8MのLiClで洗浄1回、100mMのEDTAで1回洗浄、水で2回洗浄した。凍結乾燥したサンプルを、49%のHFを用いて2日間(4℃)で処理後、水で5回洗浄を行った。そして、アルカリホスファターゼ(16h,37℃)で処理し、熱処理したものを更に水で5回洗浄しサンプルを調整した。
上述のテイコ酸、リポテイコ酸、及びペプチドグリカンと、上述のORF16タンパク質結合ビーズとをウェル中で混合し、凝集が生じるかどうかを、目視によって評価した。その結果を図6に示す。
WTAs(テイコ酸)に対してのみ、ORF16タンパク質結合ビーズが凝集することが観察された。従って、ORF16タンパク質は、黄色ブドウ球菌細胞表層に存在するテイコ酸にのみ結合することが明らかとなった。
これらの実験例から、ORF16タンパク質、中でもORF16タンパク質のC末端側の101アミノ酸の領域(図1におけるORF16XX;配列番号1)が、黄色ブドウ球菌細胞表層のテイコ酸に結合することが明らかとなった。

Claims (9)

  1. 配列番号1〜7の何れかに示すアミノ酸配列を含む、黄色ブドウ球菌に吸着するタンパク質又はその変異体。
  2. 請求項1に記載のタンパク質又はその変異体を認識する抗体。
  3. 請求項1に記載のタンパク質又はその変異体のうちの少なくとも一種と、担体とを含む支持体。
  4. 請求項3に記載の支持体を有する黄色ブドウ球菌測定キット。
  5. 請求項1に記載のタンパク質又はその変異体をコードする核酸。
  6. 上記請求項5に記載の核酸を含むベクター。
  7. 上記請求項6に記載のベクターを保持する宿主。
  8. 以下の工程A及びBを含む、請求項1に記載のタンパク質又はその変異体を製造する方法:
    (A)請求項7に記載の宿主を培養する工程A。
    (B)工程Aの後、請求項1又は2に記載のタンパク質又はその変異体を含む画分を、該宿主又は培養液から回収する工程B。
  9. 下記の工程1及び2を含む、試料中の黄色ブドウ球菌を検出する方法。
    (1)請求項3に記載の支持体と、前記試料とを混合して、前記黄色ブドウ球菌と、該支持体の複合体を形成する工程1、
    (2)工程1の後、混合後の試料中の前記複合体を測定する工程2。
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