JP2004283003A - バクテリオファージによる大腸菌の検出 - Google Patents

バクテリオファージによる大腸菌の検出 Download PDF

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Yasunori Tanji
保典 丹治
Hajime Unno
肇 海野
Masato Oda
全人 織田
Masatomo Morita
昌知 森田
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【課題】大腸菌を検出するための新規な方法の提供。
【解決手段】大腸菌の検出方法において、標識された外殻蛋白質を有するT系バクテリオファージを試料と接触せしめ、そして細胞表面に当該標識が結合した細菌等が該試料中に存在するか否かを判定することを特徴とする方法、並びに大腸菌の細胞表面に特異的に吸着する、標識された外殻蛋白質を有するT系バクテリオファージを含んでなる、大腸菌検出試薬。本発明によれば、大腸菌の細胞の表面に特異的に吸着したバクテリオファージの外殻蛋白質に結合した標識を直接検出するので、大腸菌を、短時間で、簡単に、高感度に、正確に検出する事が出来る。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、大腸菌の検出方法に関する。更に詳しくは、本発明は、宿主に対するバクテリオファージの特異性を利用した、大腸菌の検出方法及びそのための試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
衛生指標細菌として用いられている大腸菌群の中には、大腸菌以外の細菌が多く含まれ、必ずしもヒト由来糞便性大腸菌濃度を反映していない。また、大腸菌群の検出は培養法で行うため、通常検出までに1日以上を要する。
わが国における病原性大腸菌O157の検出件数は毎年増加しており、感染による死亡者も報告されている。この感染症による被害を最小限に抑えるためには、感染が疑われる患者の糞便中からの病原菌の迅速な検出と、感染源の迅速な特定が必要である。このため、従来から、病原性大腸菌O157の検出のための種々の方法が開発されている。
【0003】
例えば、病原性大腸菌固有の抗原に対する抗体を用いる方法が知られているが、精度の点で問題がある。また、病原性大腸菌のDNA中の、当該大腸菌に特異的な特定の領域、具体的にはベロ毒素(Vt1,Vt2)をコードする遺伝子領域をPCRにより増幅して、その存在を検出する方法が知られているが、この方法の実施には高度の技術が必要である上、死菌と、検出したい生菌とが区別できないという欠点がある。
【0004】
更に、特開2000−308486号公報、及び特開2002−45183号公報には、特定の細菌に対して特異的なバクテリオファージの遺伝子に標識を組みこんでおき、このファージを細菌細胞に感染させて、細菌細胞中で増加する標識を検出する方法が記載されている。しかしながら、この方法においては、バクテリオファージを細菌に感染させ、細菌の菌体内の標識を検出しなければならず、このために時間を要し、また検出すべきシグナル(蛍光)が微弱であって、感度が十分でないなどの問題点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、細菌に対するバクテリオファージの特異性を利用しながら、迅速で且つ高感度で大腸菌を検出できる方法を提供しようとするものである。
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決すべく種々検討した結果、大腸菌に対して特異的に感染するバクテリオファージの外殻蛋白質を標識しておき、このバクテリオファージを当該大腸菌の細胞表面に吸着させれば、細胞内の標識を検出する必要がなく、迅速に且つ高感度に大腸菌を検出できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
【課題を解決するための手段】
従って本発明は、大腸菌の検出方法において、標識された外殻蛋白質を有するT系バクテリオファージを試料と接触せしめ、そして細胞表面に当該標識が結合した細菌当該試料中に存在するか否かを判定することを特徴とする方法を提供する。
本発明はまた、大腸菌の細胞表面に特異的に吸着する、標識された外殻蛋白質を有するT系バクテリオファージを含んでなる、大腸菌検出試薬を提供する。
【0008】
上記のT系バクテリオファージの具体例としては、T4ファージ又は本発明者らがブタの糞便から単離したPP01株が挙げられる。また、前記外殻蛋白質としてはSOC(Small Outer Capsid)蛋白質が挙げられる。上記標識としては、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein;GFP)を、前記外殻蛋白質、例えばSOC蛋白質にペプチド結合により連結して使用するのが好ましい。このSOC蛋白質は、例えば配列番号:2又は配列番号:6に示すアミノ酸配列を有する。
【0009】
【発明の実施の形態】
細菌のみに感染するウイルスであるバクテリオファージは、特定の細菌にのみ感染するという高い宿主特異性を有している。この感染に当たっては、バクテリオファージは大腸菌の表面抗原に特異的に吸着し、しかる後に、バクテリオファージ中のDNAが菌体内に注入され、菌体内ではバクテリオファージのDNAが複製されるとともに、バクテリオファージの外殻蛋白質など、ファージ粒子の形成に必要な蛋白質が合成され、それらが集合してファージ粒子が形成され、細菌細胞が溶菌して多数のファージ粒子が放出されて、新たな感染サイクルが始まる。本発明は、上記のファージ感染サイクルの内、初期の、バクテリオファージが大腸菌の細胞表面に特異的に吸着される段階を利用する。
【0010】
本発明の方法に用いるバクテリオファージとしては、大腸菌に特徴的な抗原を認識して当該大腸菌に特異的に吸着するバクテリオファージであれば特に限定されないが、T4ファージ又は本発明者らが、大腸菌O157:H7株に感染するファージを環境中からスクリーニングした結果、ブタの糞便から単離した、PP01株が具体例として挙げられる。
【0011】
本発明の方法においては、大腸菌の細胞表面に吸着されたバクテリオファージを、外部から検出する必要があるので、ファージの外殻蛋白質を標識しておく必要があり、この外殻蛋白質として、Small Outer Capsid(SOC)蛋白質を修飾するのが好ましい。バクテリオファージPP01株のSOC蛋白質は配列番号:2にT4ファージのSOC蛋白質は配列番号:6に、それぞれ示す。なお、PP01−SOCのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を、配列番号:1にT4−SOCのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を、配列番号:5に、それぞれ示す。
【0012】
本発明において使用する標識としては、バクテリオファージの外殻蛋白質を標識できるものであればよいが、簡単に検出でき、且つバクテリオファージの外殻蛋白質に簡単に結合させることができるものとして、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein;GFP)が挙げられる。この前記標識が、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein;GFP)は、前記SOC蛋白質の、例えばN−末端又はC−末端ペプチド結合により連結される。このためには、バクテリオファージにSOC蛋白質をコードするDNAとGFPをコードするDNAとを読み枠を合わせて連結すればよい。なお、GFPをコードするDNAのヌクレオチド配列を配列番号:3に示し、そしてGFPのアミノ酸配列を配列番号:4に示す。
【0013】
本発明の方法を実施するに当たっては、糞便、食品、又はその他の検体から、常法に従って細菌を分離する。細菌の分離、培養は本発明の特徴を構成するものではなく、任意の方法を用いることが出来る。
【0014】
本発明に使用するバクテリオファージは、常法に従って調製することが出来る。例えば、バクテリオファージPP01株など、病原性大腸菌O157の細胞表面に特異的に吸着するファージを、その宿主、例えば大腸菌O157:H7株(ATCC 43888)の培養物に添加した後、その大腸菌を常法に従って培養することにより溶菌し、溶菌物を遠心分離して不溶物を除去すれば、バクテリオファージ粒子を含む液が得られる。
【0015】
検出試験は、例えば次のようにして行う事が出来る。被験細菌を、ファージを吸着させるのに適した、例えばLB培地に懸濁し、その少量、例えは50μLを取る。次に、適当に希釈したファージ液を、例えば1:1の容量比で前記菌体懸濁液に加え、混合する。この混合液を約25℃にて、例えば約10分間放置し、ファージを培養菌体の表面に吸着させる。この操作において、被懸細菌中に大腸菌O157が含まれておれば、その細胞表面に、標識されたバクテリオファージが吸着する。
【0016】
次に、上記の細菌懸濁液を遠心分離して、細菌細胞を得る事により、未吸着バクテリオファージを除去し、さらに細胞を洗浄することにより、非特異的に付着しているバクテリオファージを除去する。
【0017】
バクテリオファージの吸着を介して細菌表面に固定された標識は、標識の種類に応じて選択された検出方法により検出される。標識が緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein;GFP)である場合、460〜490nmの波長の励起紫外線を細菌細胞に照射し、その際発生する510〜550nmの波長の紫外線を検出又は測定する。この検出・測定は、例えば蛍光顕微鏡での観察、フローサイトメトリーなど、定法に従って行う事ができる。
【0018】
【実施例】
次に実施例により、本発明を更に具体的に説明する。
実施例1GFP 導入ファージ液の調製
GFP導入ファージを大腸菌 O157:H7 ATCC43888 に感染させ、感染菌体を LB 培地中で振盪培養(28℃, 120rpm)することにより、GFP 導入ファージを増殖させた。ファージの感染は、対数増殖期前期の大腸菌培養液に GFP 導入ファージを MOI (Multiplicity of infection) = 0.01 [PFU/CFU] となるように添加することで行った。
【0019】
ファージ添加から約6時間の振盪培養後、クロロホルム2.5ml を添加し、4℃恒温下に1時間放置することで、未溶菌菌体を溶菌させた。クロロホルム処理後、菌体破砕物の除去を目的に、遠心分離(9500xg, 10min, 4℃)を行い、ファージを含む遠心上清を回収した。この遠心上清250ml に PEG6000 25g および NaCl 10g を溶解させた後に、4℃恒温下に一晩放置した。一晩静置後、遠心分離(16000xg, 60min, 4℃)を行い、沈殿としてファージを収集した。
【0020】
この沈殿を SM 10ml 中に懸濁した後、クロロホルム20ml を加え、4℃恒温下に6時間静置した後に遠心分離(10000xg, 20min, 4℃)を行い、PEG6000 を除去した。遠心分離後回収した水層について、セシウムクロライド密度勾配(1.7, 1.5 および 1.45g/cm3)中で遠心分離(111000xg, 2hr, 4℃)を行い、ファージを濃縮した。回収したファージ濃縮液について、SM 中で一晩透析を行い、CsCl を除去した。
【0021】
実施例2病原性大腸菌 O157 の検出
大腸菌 O157:H7 (ATCC43888) および大腸菌 K−12 (W3110) を、それぞれ LB 培地 2ml に播種し、振盪培養(37℃, 120rpm)を行った。1.5時間の振盪培養後、培養液(10 CFU/ml)100μlを採取し、大腸菌O157:H7 のみの懸濁液、大腸菌K−12 のみの懸濁液、および両者を体積比 1:1 で混合した大腸菌懸濁液を調製した。それぞれの懸濁液について、遠心分離(17400xg, 1min, 4℃)を行い、集菌した。集菌した菌体ペレットを LB中に懸濁させた。
【0022】
懸濁後、室温下に10分間静置した後、MOI が 100 [PFU/CFU]となるように、GFP 導入ファージライセイト(10 PFU/ml)100μl を添加した。ファージ添加後、室温にて10分間反応させた後、遠心分離(17400xg, 1min, 4℃)を行い、未吸着ファージを含む上清を除去した。遠心後の菌体ペレットをLB の5倍希釈液100μl で洗浄した後、PBS液10μl に懸濁した。この懸濁液について、落射型蛍光顕微鏡を用い、GFP 蛍光(励起波長:460−490nm、蛍光波長:510−550nm)を観察した。
【0023】
結果を、図1のA〜Cに示す。この図において、上段は通常の光学観察した結果を示し、下段は蛍光検出した結果を示す。Aは、大腸菌O157:H7 のみの懸濁液の結果を示し、Cは、大腸菌K−12 のみの懸濁液の結果を示し、そしてBは、両大腸菌懸濁液を体積比56:44で混合した混合大腸菌懸濁液の結果をしめす。A及びBにおいては、蛍光染色された細胞が観察されるのに対して、Cにおいては、蛍光染色された細菌が観察されず、本発明の方法で病原性大腸菌O157が特異的に検出される事が確認された。
実施例3大腸菌 K12 W3110 )の検出
図2はT4ファージのSOC蛋白質にGFPを融合し、大腸菌K12(W3110)に感染させたときの光学顕微鏡写真(A)と蛍光顕微鏡写真(B)である。大腸菌O157:H7 同様、本組換えファージにより、ヒト由来大腸菌K12株を蛍光顕微鏡で検出できることが確認できた。
【0024】
【発明の効果】
本発明によれば、大腸菌を、短時間で、簡単に、高感度に、正確に検出する事が出来る。
【0025】
【配列表】
Figure 2004283003
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Figure 2004283003
Figure 2004283003
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【図面の簡単な説明】
【図1】図1は実施例2の結果を示し、Aは、大腸菌O157:H7 のみの懸濁液中の細菌を本発明の方法により検出した結果を示す、生物の形態を示す図面代用写真である。Bは、大腸菌O157:H7及び大腸菌K−12の両者を含む懸濁液中の細菌を本発明の方法により検出した結果を示す、生物の形態を示す図面代用写真である。Cは、大腸菌K−12 のみの懸濁液中の細菌を本発明の方法により検出した結果を示す、生物の形態を示す図面代用写真である。
【図2】図2は実施例3の結果を示す、生物の形態を示す図面代用写真である。

Claims (10)

  1. 大腸菌の検出方法において、標識された外殻蛋白質を有するT系バクテリオファージを試料と接触せしめ、そして細胞表面に当該標識が結合した細菌が該試料中に存在するか否かを判定することを特徴とする方法。
  2. 前記T系バクテリオファージの中に病原性大腸菌特異的ファージであるPP01株を含む、請求項1記載の方法。
  3. 前記外殻蛋白質が、SOC(Small Outer Capsid)蛋白質である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記標識が、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein;GFP)であり、このGFPが前記SOC蛋白質にペプチド結合により連結されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記SOC(Small Outer Capsid)蛋白質が、配列番号:2又は配列番号:6に示すアミノ酸配列を有する、請求項3又は4に記載の方法。
  6. 大腸菌の細胞表面に特異的に吸着する、標識された外殻蛋白質を有するT系バクテリオファージを含んでなる、大腸菌検出試薬。
  7. 前記T系バクテリオファージの中にPP01株を含む、請求項6記載の試薬。
  8. 前記外殻蛋白質が、SOC(Small Outer Capsid)蛋白質である、請求項6又は7に記載の試薬。
  9. 前記標識が、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein;GFP)であり、このGFPが前記SOC蛋白質にペプチド結合により連結されている、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
  10. 前記SOC(Small Outer Capsid)蛋白質が、配列番号:2又は配列番号:6に示すアミノ酸配列を有する、請求項8又は9に記載の試薬。
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