JP2013063917A - 免疫蛋白質の産生促進剤 - Google Patents

免疫蛋白質の産生促進剤 Download PDF

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Abstract

【課題】免疫グロブリンやサイトカインなどに代表される免疫蛋白質の産生を促進させる新規な免疫蛋白質産生促進剤を提供する。
【解決手段】本発明に係る免疫蛋白質産生促進剤は、柑橘類の果皮抽出物を含有するものであり、当該果皮抽出物は、柑橘類の果皮をエタノールで抽出し、得られたエタノール抽出液を、オクタデシルシリル化シリカゲルカラムを用いた逆相高速液体クロマトグラフィーにより分画したとき、アセトニトリル濃度70%から90%の画分に出現する活性物質を含むものである。上記活性物質は、分子量が約378および約280の、二種類の物質を少なくとも含有する。
【選択図】なし

Description

本発明は、柑橘類の果皮抽出物を含有する免疫蛋白質産生促進剤に関し、詳細には、IgA抗体、IgG抗体、IgM抗体、IgD抗体、およびIgE抗体の免疫グロブリンなどの免疫蛋白質の産生を促進することが可能な免疫蛋白質の産生促進剤に関するものである。
本発明者らは、免疫賦活活性を有する生体機能調節因子の研究を長年の間、行なっており、種々の技術を開示している。例えば特許文献1には、柑橘類果皮の抽出液中に多く含まれるβ−クリプトキサンチンおよびオーラプテンが、免疫蛋白質の産生促進剤として有用であることを開示している。
また、特許文献2には、搾汁した温州ミカン果汁を遠心分離して得た上澄み液に所定の処理を施した抽出物が、ヒト型ハイブリドーマ細胞の抗体産生を促進する活性を有することを開示している。この方法によって得られる抽出物は、分子量が少なくとも1万以上のタンパク質であると推察され、産生効率が低いという問題がある。
特開2011−116735号公報 特開平6−98763号公報
本発明の目的は、免疫グロブリンやサイトカインなどに代表される免疫蛋白質の産生を促進させる新規な免疫蛋白質産生促進剤を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、柑橘類の果皮抽出物を含有する免疫蛋白質産生促進剤であって、前記抽出物は、柑橘類の果皮をエタノールで抽出し、得られたエタノール抽出液を、オクタデシルシリル化シリカゲル逆相カラム(ODS)を用いた高速液体クロマトグラフィー(High performance liquid chromatography、HPLC)により、下記条件で分画したとき、アセトニトリル濃度70%から90%の画分にカラムから溶出する物質であって、液体クロマトグラフ質量分析により測定した分子量が約378および約280である、二種類の活性物質を少なくとも含有するところに要旨を有するものである。
流速:0.5mL/分
検出:吸光度(210nm)
カラム温度:40℃
溶離液:アセトニトリル(20%→100%)
溶出条件:
(1)0〜5分:20%
(2)5〜20分:20%→70%
(3)20〜60分:70%→100%
本発明の好ましい実施形態において、上記抽出物として、上記エタノール抽出液のうちヘキサンに溶解するものを主に含有する抽出物を用いるものである。
本発明によれば、IgA、IgG、IgMなどの免疫グロブリンの産生能が著しく向上するため、本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、免疫蛋白質を用いた種々の医療用途に好適に用いられる。具体的には、例えば、免疫グロブリンやサイトカインを原料とする免疫グロブリン製剤、免疫疾患治療薬、免疫機能薬、免疫促進効果を有する健康食品(機能性食品)・サプリメント、健康維持を目的とした飲料、魚類用機能性飼料、家畜・家禽用機能性飼料などの用途に好ましく用いることができる。
本発明に用いられる抽出物は、柑橘類の果皮を原材料として得られるため、安全であり、当該抽出物を用いた飼料組成物は、例えば養殖魚などの魚類に広範囲に感染する魚病原菌やウイルスから、魚類を安全且つ有効に、予防または治療し得る魚類の感染防止剤としての使用が大いに期待される。
図1は、実施例1において、(HPLCによる分画その1)で得られた画分を用いたときの分析結果を示す図であり、図1(a)はHPLCの結果を、図1(b)はIgM産生量の結果を、それぞれ示す。 図2は、実施例1において、(HPLCによる分画その2)で得られた画分を用いたときの分析結果を示す図であり、図2(a)はHPLCの結果を、図2(b)はIgM産生量の結果を、それぞれ示す。 図3は、実施例1において、(HPLCによる分画その3)で得られた画分を用いたときの分析結果を示す図であり、図3(a)はHPLCの結果を、図3(b)はIgM産生量の結果を、それぞれ示す。 図4は、活性物質Aの質量分析結果を示す図である。 図5は、活性物質Bの質量分析結果を示す図である。 図6は、参考実験におけるHPLCの結果を示す図であり、図6(a)は、果皮抽出液の結果を、図6(b)は果皮抽出液+β−クリプトキサンチン(β−CRP)の結果を、それぞれ示す。 図7は、実施例2におけるヒラメ滑走細菌症に対する確認実験の結果を示す図であり、図7(a)は治療効果の結果を、図7(b)は予防効果の結果を、それぞれ示す。 図8は、実施例3におけるブリ類結節症に対する確認実験の結果を示す図であり、図8(a)は低濃度感染群における治療効果の結果を、図8(b)は低濃度感染群における予防効果の結果を、図8(c)は高濃度感染菌群における予防効果の結果を、それぞれ示す。 図9(a)は、実施例1で用いたエタノール抽出液のTLCによる分画結果を示す図であり、図9(b)は、サンプル濃度を種々変化させたときのIgM産生量の結果を示す図である。 図10は、実施例1で用いたエタノール抽出液、および柑橘類に含まれる種々の物質における、TLCによる分画結果を示す図である。 図11は、実施例4における、マダイRSIVウイルスに対する予防効果の結果を示す図である。
本発明者らは、新規な免疫蛋白質の産生促進剤を提供するため、検討を重ねてきた。その結果、柑橘類の果皮抽出液には、前述した特許文献1に記載の成分(β−クリプトキサンチンおよびオーラプテン)とも異なる、新規な活性成分が含まれており、当該活性成分を含む抽出物(詳細には、エタノール抽出後、逆相HPLCを行なったとき、所定の画分に出現する活性物質を含む抽出物;以下、単に「本発明に用いられる柑橘類の果皮抽出物」で代表させる場合がある。)が、優れた免疫蛋白質の産生促進作用を有することを見出し、本発明を完成した。
詳細には、本発明に用いられる柑橘類の果皮抽出物は、柑橘類の果皮をエタノールで抽出し、得られたエタノール抽出液を、オクタデシルシリル化シリカゲル(ODS)カラムを用いた逆相高速液体クロマトグラフィーにより、下記条件で分画したとき、アセトニトリル濃度70%から90%の画分に出現する物質であって、液体クロマトグラフ質量分析により測定した分子量が約378および約280である、二種類の活性物質を少なくとも含有するところに特徴がある。
流速:0.5mL/分
検出:吸光度(210nm)
カラム温度:40℃
溶離液:アセトニトリル(20%→100%)
溶出条件:
(1)0〜5分:20%
(2)5〜20分:20%→70%
(3)20〜60分:70%→100%
上述した柑橘類の果皮抽出物は、柑橘類の果皮をエタノールで抽出したエタノール抽出液のうち、ヘキサンに溶解するものを主に含有するものである。この点で、ヘキサンに溶解しない、β−クリプトキサンチンおよびオーラプテンとは、明瞭に相違している。このことは、例えば、後記する図1、図6、図10の結果などからも確認することができる。
以下、抽出工程を詳しく説明する。
まず、柑橘類の果皮に対し、エタノール、メタノール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサンなどの有機溶媒(低極性溶媒)を加え、約4〜30℃の温度で、約12〜48時間抽出して抽出液を得る。
詳細には、柑橘類の果皮乾燥物100質量部に対し、上記有機溶媒を、約200〜600質量部の割合で加えることが好ましい。後記する実施例では、温州ミカンの果皮乾燥物5gに100%エタノール25mLを加え、室温で12時間振とうした後、遠心(7000g×20分)することにより不溶物を除去して回収した抽出液を用いた。
本発明に用いられる柑橘類としては、例えば、夏みかん、甘夏、イヨカン、温州ミカン、はっさく、夏ダイダイ、ネーブル、柚子、かぼす、グレープフルーツ、すだち、レモン、ポンカン、キンカン、シークワーサーなどのミカン科植物が挙げられる。このうち好ましいのは、温州ミカン、夏みかん、イヨカン、ポンカン、キンカン、シークワーサーであり、より好ましくは温州ミカンである。
本発明では、上記柑橘類の果皮を用いるが、本発明の作用を損なわない範囲で、果皮のほか果肉を用いることもできる。但し、本発明の作用を有効に発揮させるためには、果皮のみを用いることが好ましい。具体的には、上記柑橘類の果皮(本発明の作用を損なわない範囲で果肉を含む)を凍結乾燥した後、できるだけ細かく粉砕してから、上記の抽出処理を行なうことが好ましい。
次に、上記のようにして得られた抽出液を、オクタデシルシリル化シリカゲル逆相カラム(ODS)を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、前述した条件で分画する。本発明の免疫蛋白質産生促進剤に用いられるのは、このようにして得られた各画分(フラクション)のうち、アセトニトリル濃度70%から90%の画分であり、本発明は、当該画分中に、所望とする作用効果を発揮し得る有効成分(活性物質本体を含む活性成分)が含まれることを突き止めたところに特徴がある。
詳細には、上記画分中には、少なくとも二種類の活性物質を含有しており、液体クロマトグラフ質量分析(Mass Spectrometry、MS)により測定した分子量(数平均分子量)は、それぞれ、約280および約378である。
以下、説明の便宜上、分子量が約280の活性物質を活性物質Aと呼び、分子量が約378の活性物質を活性物質Bと呼ぶ。これら活性物質AおよびBの同定方法は、後記する実施例の欄で詳述する。
これらのうち活性物質Aは、後記する図3(a)に示すHPLCチャートの「3」成分(=図3(b)のP3成分)に相当し、液体クロマトグラフ質量分析により分子量を算出すると、分子量は280.2257であった(図4を参照)。すなわち、図4に示すプロファイルにおいて、一番高いピーク上の数字(279.2257)に1を足した値が、活性物質Aの分子量になる。活性物質Aの詳細な構造は不明であるが、炭化水素の直鎖構造を有し、炭素の二重結合が2つ以上あり、酸素原子は含まない構造であることがわかる。
一方、活性物質Bは、後記する図3(a)に示すHPLCチャートの「6」成分(=図3(b)のP6成分)に相当し、液体クロマトグラフ質量分析により分子量を算出すると、分子量は378.2842であった(図5を参照)。すなわち、図5に示すプロファイルにおいて、一番高いピーク上の数字(379.2842)から1を引いた値が、活性物質Bの分子量になる。活性物質Bの詳細な構造は不明であるが、炭化水素の直鎖構造を有しており、炭素の二重結合も有しているが、ベンゼン環などの芳香環は含まない。酸素原子は有していても良い。
上記の構造解析結果より、上記活性物質AおよびBは、少なくとも前述した特許文献1に記載のヘスペリジン(フラボノイドの一種)でないことが確認された。また、柑橘類果皮のエタノール抽出物中に多く含まれるノビレチン(フラボノイドの一種)、リコペン(フラボノイドの一種)、β−カロテン(カロテノイドの一種)、リモネン(単環式モノテルペノイドの一種)でないことが判明した。このことは、後記する図10でも実証している(詳細は後述する)。
上記のほか、本発明者らの更なる実験結果によれば、以下のことが判明した。
(ア)後記する実施例で用いた、柑橘類果皮のエタノール抽出液(HPLCに付す前のもの)に等量のヘキサンを加え、ヘキサン相を薄膜クロマトグラフィー(Thin−Layer Chromatography、TLC)で分画した(展開溶媒として、ヘキサン:酢酸エチル=3:1の混合溶媒を使用)ところ、図9(b)に示すように、図9(a)の上方スポットに活性が認められた。よって、上記活性物質AおよびBを含む本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物は、エタノール抽出後、ヘキサンで抽出されるものであることが判明した。
図9(a)の上方スポット部分に、活性物質AおよびBを含む活性成分が存在することは、図9(b)より確認している。すなわち、上記の上方スポット部分を採取し、その成分をエタノールに溶解した後、図9(b)に示す様々な濃度となるようにエタノールで希釈して各サンプルを調製し、後記する実施例に記載の方法でIgM産生量を測定した。比較のため、柑橘類果皮のエタノール抽出液(HPLCに付す前のもの、図9(b)では「粗抽出物」と記載)についても、上記と同様にしてIgM量を測定すると共に、溶媒(エタノール、図9(b)では「コントロール」と記載)中のIgM産生量も測定した。
これらの結果を図9(b)に示す。図9(b)に示すように、上方スポットの画分は、粗抽出物に比べ、高いIgM産生促進作用を有する傾向が見られた。
(イ)また、上述した実験結果(活性物質AおよびBを含む本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物は、エタノール抽出後、ヘキサンに移行するものであること)は、上記活性成分AおよびBが、柑橘類に代表的に含まれるβ−クリプトキサンチン(カロテノイド類の一種)や、オーラプテン(クマリン類の一種)とも異なることを間接的に意味するものである。β−クリプトキサンチンやオーラプテンは、或る程度の極性を有するため、エタノール抽出後、ヘキサン相には移行しないからである。
このことは、図10の結果からも確認することができる。図10は、上記図9(a)において、柑橘類果皮中に含まれることが知られている種々の物質(図10中、2〜7に記載の各物質)について、同様のTLCによる分画を行なったときの結果を示すものである。図10より、本発明の活性物質は、ノビレチン、ヘスペリジン、リコペン、β−クリプトキサンチン、β−カロテン、リモネンとは全く異なる挙動を示すことが分かる。
以上の実験結果より、本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物中に含まれ、本発明の作用効果を発揮し得る活性物質AおよびBは、その詳細な構造は不明であるが、上述した種々の解析結果(質量分析、TLCによる移動度の比較、HPLCなど)によれば、少なくとも、これまでに報告されている柑橘類果皮に含まれる成分(ヘスペリジン、ノビレチン、リコペン、β−カロテン、リモネン、β−クリプトキサンチン、オーラプテン)とは異なることが充分裏付けられる。
次に、本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物による作用効果について説明する。上記の活性物質AおよびBを少なくとも活性成分として含有するものは、免疫蛋白質の産生促進剤として好適に用いることができる。
本明細書において、免疫蛋白質とは、IgA抗体、IgD抗体、IgE抗体、IgG抗体およびIgM抗体などの免疫グロブリン;インターロイキン(IL−1〜18など)、インターフェロン(IFN−α,β,γなど)、腫瘍壊死因子(TNF,TNFαなど)、コロニー刺激因子(G−CSF,M−CSF,EPO,SCFなど)、成長因子(EGF,FGF,IGF,NGF,PDGF,TGFなど)などのサイトカイン(リンフォカイン、モノカイン)を意味する。
本明細書において、「免疫蛋白質産生促進作用を有する」とは、免疫蛋白質を産生する能力を有する細胞(以下、「免疫蛋白質産生細胞」と呼ぶ。詳細は後述する。)数の増加、または免疫蛋白質産生細胞における免疫グロブリンやサイトカインなどの産生量の増加を意味する。
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物(厳密には、上記活性物質AおよびBを、活性成分として含む画分)のみから構成されていても良いし、医薬などに通常用いられる公知の担体を組み合わせて用いることもできる。具体的には、製剤学的に許容される充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、賦形剤、希釈剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などの担体が挙げられる。また、食品分野で慣用されている各種の栄養源、例えば糖質、脂質、蛋白質素材などを添加しても良い。更に、必要に応じて、他の医薬品と併用しても良い。
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤の形態は特に限定されず、例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤(懸濁剤、乳剤、注射剤など)、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、軟膏剤などが挙げられる。これら各形態への調製は、上述した慣用の担体を用い、常法に従って行なうことができる。
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤の投与形態は、その製剤形態に応じて適切に選択すれば良い。例えば錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤などの場合は経口投与の形態で用いられ、注射剤などの場合は静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与などの形態で用いられ、坐剤の場合は直腸内投与の形態で用いられる。
本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤の投与量は、一律に限定されず、被験者の年齢、性別、疾患の程度などに応じ、所望の効果が発揮されるように適宜調整すれば良い。
また、本発明に係る免疫蛋白質の産生促進剤は、家畜・家禽、魚類などの非ヒト動物用の飼料の形態で用いても良く、これにより、非ヒト動物の免疫蛋白質産生能が促進される。具体的には、例えば、非ヒト動物用の飼料中に本発明の免疫蛋白質産生促進剤を、非ヒト動物の症状などに応じ、適切な量だけ配合すれば良い。用いられる非ヒト動物用の飼料の組成は限定されず、例えば、市販品を用いることもできる。また、対象となる非ヒト動物も限定されず、例えば、豚、牛、馬、ヤギ、ウサギ、羊などの家畜類;鶏、ウズラ、七面鳥、アヒル、ガチョウなどの家禽類;タイ、ハマチ、ブリ、マグロ、コイ、エビ、アユ、ヒラメ、マハタなどの魚類・甲殻類などが代表的に例示される。
本発明によれば、上記免疫蛋白質の産生促進剤を用い、in vitroにおいて、免疫グロブリンやサイトカインに代表される免疫蛋白質の産生を促進することができる。具体的な方法は、例えば、前述した特許文献1に記載の方法を参照することができる。
すなわち、本発明では、本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物の存在下で、免疫蛋白質を産生する能力を有する細胞(後記する免疫蛋白質産生細胞)を培養すれば、当該抽出物を添加せずに培養した場合に比べ、上記免疫蛋白質産生細胞中の免疫グロブリンやサイトカインなどの産生が著しく向上する(後記する実施例を参照)。
本明細書において、「免疫蛋白質産生細胞」とは、好ましくは免疫グロブリンやサイトカインの免疫蛋白質を産生する能力を有する細胞であり、例えば、リンパ球(B細胞、T細胞、NK細胞)やマクロファージなどの白血球;上記リンパ球(特にB細胞)と自立増殖能を有する多発性骨髄腫やリンパ腫などのミエローマ細胞との融合細胞(リンパ球ハイブリドーマ)などが代表的に例示される。後者のリンパ球ハイブリドーマは、例えばセンダイウイルスを用いた細胞融合法、ポリエチレングリコール法、または電気パルスによる電気融合など、慣用方法に従って調製することができる。好ましいリンパ球ハイブリドーマとしては、後記する実施例で用いた、ヒト骨髄腫細胞株とリンパ球(B細胞)とを細胞融合させたヒト型ハイブリドーマHB4C5細胞が挙げられる。HB4C5細胞を使用すると、当該細胞から分泌されるIgMを指標として、免疫蛋白質産生能を容易に測定することができる。
これらの白血球またはリンパ球ハイブリドーマは、単一種類のものに限定されず、2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、これらの白血球およびリンパ球ハイブリドーマの由来は特に制限されないが、本発明ではヒト由来の免疫蛋白質の産生を促進するという観点から、好ましくはヒト由来である。
本発明では、これらの白血球またはリンパ球ハイブリドーマに代表される免疫蛋白質産生細胞を、本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物を含有する培地中で培養する。
ここで、上記の培地は、上記の免疫蛋白質産生細胞の培養に通常使用されるものであれば特に限定されず、例えば、EagleのMEM培地、McCoyの5A培地または7A培地、HamのF10培地またはF12培地、199培地、EDRF培地、RPMI1640培地などや、これらの改良型培地などが挙げられる。これらの培地は、市販品を用いることができる。
本発明では、本発明による作用を損なわない限り、上記の培地中に、ウシ血清等の血清を添加しても良い。ただし、血清成分による免疫蛋白質の産生を促進するという観点からは、血清を添加しない無血清培地の使用が好ましい。
本発明で使用する上記培地には、インスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム等の各種添加剤を適宜添加することもできる。例えば、EDRF培地に、上記のインスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、及び亜セレン酸ナトリウム(以下、ITESと呼ぶ場合がある。)を添加すると、血清の影響を受けずに活性を測定できるという利点があることから、後記するハイブリドーマを用いた培養実験では、上記のITESを所定の濃度で添加したEDRF培地(ITES−EDRF培地)を使用している。
培地中に添加する免疫蛋白質の産生促進剤(本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物を含むもの)の量は、前述したように、所望の効果を発揮することができる程度に適宜調整すれば良いが、例えば、培養する白血球またはリンパ球ハイブリドーマの量が培地1mLあたり1×104〜5×105cellsである場合、培地1mLあたり、おおむね、0.1〜10,000ng/mL、好ましくは10〜5,000ng/mL、より好ましくは10〜1,000ng/mLの範囲で添加することが望ましい。
培養時の温度は、免疫蛋白質を産生できる温度であれば特に制限されず、おおむね、30〜45℃の範囲である。好ましくは35〜42℃であり、より好ましくは36〜38℃である。また、湿度も特に制限されず、相対湿度は、おおむね、80〜100%の範囲であり、好ましくは90〜100%、より好ましくは95〜100%である。
また、培養に当たり、炭酸ガスを1〜10体積%程度の割合で含む空気の雰囲気下で培養することが好ましい。炭酸ガスの好ましい濃度は、おおむね、3〜8体積%の範囲である。
培養時間は、上記免疫蛋白質の産生促進剤の免疫グロブリン産生効率によっても相違するが、おおむね、5時間〜2週間の範囲である。
このようにして培地中に免疫蛋白質を効率よく産生した後は、定法に従い、培地から固液分離して免疫蛋白質を単離し、必要に応じてアフィニティクロマトグラフィー等の液体クロマトグラフ法等を用いて精製することにより、所望の免疫蛋白質を取得することができる。
このようにして得られる免疫蛋白質、好ましくは前述する免疫グロブリンやサイトカイン(リンフォカイン、モノカイン)、より好ましくは免疫グロブリンは、例えば、免疫疾患治療薬、免疫機能検査薬の有効成分として広く用いることができる。
更に、本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物を含むものは、上述した免疫蛋白質の産生促進剤として好適に用いられる他、魚病の感染予防剤または感染治療剤(以下、これらをまとめて、感染防除剤と呼ぶ場合がある。)としても好適に用いられ得ることが大いに期待される。後記する実施例では、柑橘類果皮のエタノール抽出液(HPLCに付す前のもの)における、魚病の感染予防効果および感染治療効果を確認したが、これらの実験結果は、本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物が、魚病の感染予防効果および感染治療効果を発揮することを、充分示唆するものである。
このような作用効果を有効に発揮させるための魚類への投与量は、使用する柑橘類の種類や抽出条件、感染した魚類の種類、感染症の種類、感染症状の程度などによっても相違するが、おおむね、柑橘類果皮100gを500mLのエタノールで抽出したエタノール抽出液を、魚類の体重1kg当たり、おおむね、50〜5,000mg/kg魚類体重/日となるように投与することが好ましい。
また、上記柑橘類果皮抽出物への魚類への投与手段(給餌方法)は特に限定されず、飼料に直接混入して飼料組成物の形態で投与しても良いし、飼育水中に直接混入して投与しても良い。
本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物は、細菌性魚病のほか、ウイルス性魚病の感染予防または感染治療に好適に用いられる。
細菌性魚病としては、例えば、滑走細菌症や類結節症などが挙げられる。これらは、養殖魚などに毎年大きな被害を出している代表的な感染症であり、死亡率も高く、現状では抗生物質による治療に頼っているのが実情である。
このうち滑走細菌症は、滑走細菌(Flexibacter maritimus)によって引き起こされる感染症であり、ヒラメ、タイ、ブリ、サケ科の魚類で被害が報告されている。症状としては、稚魚では口唇部や尾ひれに糜爛(びらん)、壊死、崩壊などがみられ、幼魚や成魚では頭部、躯幹、ひれ、えらなどに発赤や出血、ときには潰瘍がみられる。
また、類結節症は、類結節症原因菌(Photobacterium damuselae subsp. piscicida)によって引き起こされる感染症であり、ブリ、カンパチ、マダイ、ヒラメなどに発病する感染症である。近年の養殖魚種の拡大に伴い、類結節症原因菌による感染症は広がりつつあり、感染後の死亡率はほぼ100%である。
また、ウイルス性魚病としては、例えば、イリドウイルスによる感染症が挙げられる。ウイルスによる感染は、細菌による感染に比べ、感染の伝播および病気の進行が格段に速く、大量死を招く恐れがあるなど深刻な被害をもたらすにもかかわらず、有効な防除手段がないのが現状であるが、特に、マダイイリドウイルスによる感染は、海産養殖魚に甚大な被害をもたらしたことが報告されており、大きな社会問題となっている。
後記する実施例では、代表的に上記3種類の魚病に対する予防作用および治療作用を確認したが、適用可能な感染症の種類は上記に限定されない。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
実施例1:本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物の同定方法、および免疫蛋白質産生促進作用の検討
(エタノール抽出液の調製)
温州ミカンの果皮のみを乾燥させた果皮乾燥物5gに100%エタノール25mLを加え、室温で12時間振とうした後、遠心(7000g×20分)することにより不純物を除去し、エタノール抽出液を得た。
(HPLCによる分画その1)
次いで上記のエタノール抽出液を、下記条件で逆相HPLCに付した結果、図1(a)のチャートが得られた。
カラム:資生堂CAPCELL Pack C18 5μm)ODSカラム(4.6mmID(内径)×150mmカラム長)
流速:0.5mL/分
検出:吸光度OD(210nm)
カラム温度:40℃
溶離液:アセトニトリル(AcN、20%→100%)
溶出条件:図1(a)に示すとおり
(1)0〜10分:20%
(2)10〜50分:20%→100%
(3)50〜90分:100%
次に、10分ごとに得られる溶出液[図1(a)の横軸における、フラクションF1〜F9]を分画し、それらが、ヒト型ハイブリドーマHB4C5細胞のIgM産生に及ぼす影響を、以下の実験方法で検討した。
詳細には、10μg/mLインスリン、20μg/mLトランスフェリン、20μMエタノールアミン、25nM亜セレン酸ナトリウムを添加したITES−ERDF培地(極東製薬社製)を用意し、これに、上記の各画分を、それぞれ1%の濃度となるように添加すると共に、HB4C5細胞を5×104cells/mLの濃度で接種し、37℃、炭酸ガス体積5%−空気95体積%の雰囲気下、湿度100%の条件下にて6時間培養した。培養後、培地中に生成した免疫グロブリン(IgM)の量を、抗ヒトIgMおよびペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgMを用いた酵素抗体法(ELISA法)によって測定した。同様の実験を3回繰り返して行い(n=3)、平均値±標準偏差(SD)を算出した。
比較のため、上記画分の代わりにエタノールを添加して上記と同様の培養を行い、IgMの産生量を測定した(対照群、図1(b)では「Cont.」と記載)。
更に参考のため、HPLCに付す前の、エタノール抽出液を添加して上記と同様の培養を行い、IgMの産生量を測定した(図1(b)では「Extract」と記載)。
これらの結果を図1(b)に示す。
また、図1(b)において、IgM産生量≒1.8ng/mLの横線ラインは、対照群(図1(b)中、Cont.)の平均値を示している。
図1(b)に示すように、フラクションF4〜F6では、対照群の平均値を遥かに超える量のIgM産生量が認められた。これに対し、他のフラクションでは、対照群とほぼ同程度のIgM産生量しか見られなかった。
なお、保持時間の結果から、フラクションF8にはβ−クリプトキサンチン(β−CRP)が溶出していると考えられるが、図1(b)に示すように、対照群と同程度のIgM産生量しか認められなかった。これは、F8中に含まれるβ−クリプトキサンチンの量が極く少量であり、IgM産生活性を示す程の濃度でなかったためと推察される。
以上の実験結果から、柑橘類果皮のエタノール抽出液中における、免疫蛋白質産生促進作用を示す活性物質本体(免疫促進物質の主体)は、上述したフラクションF4〜F6に含まれることが確認された。
(HPLCによる分画その2)
上記のフラクションF4〜F6は、アセトニトリル濃度が60〜100%のときに溶出したため、これらのフラクションを用い、より時間をかけて溶出させてHPLCを行い、活性物質本体の更なる精製を行なった。
具体的には、上記のフラクションF4〜F6を集めて前述したHPLCに付すに当たり、アセトニトリル濃度が60%→100%に変化する部分を、前述したHPLC条件よりも3倍の時間をかけて溶出させた。
溶出条件:図2(a)に示すとおり
(1)0〜10分:20%
(2)10〜20分:20%→60%
(3)20〜80分:60%→100%
(4)80〜130分:100%
次に、このようにして得られた各フラクション[10分ごとに得られる溶出液であって、図2(a)の横軸における、フラクションF1〜F8]を分画し、前述した方法と同様にして、ヒト型ハイブリドーマHB4C5細胞のIgM産生に及ぼす影響を調べた。
これらの結果を図2(b)に示す。図2(b)において、「Extract」および「Cont.」とは、前述した図1(b)と同じ意味である。
また、図2(b)において、IgM産生量≒3.7ng/mLの横線ラインは、対照群(図2(b)中、Cont.)の平均値を示している。
図2(b)に示すように、フラクションF4〜F7(アセトニトリル濃度が80〜100%のときに溶出した画分)では、対照群の平均値に比べ、遥かに高いIgM産生促進活性が認められた。
(HPLCによる分画その3)
次に、溶出ピークごとにカラム溶出液を回収し、前述した方法と同様にして、ヒト型ハイブリドーマHB4C5細胞のIgM産生に及ぼす影響を調べた。詳細には、上記図2(a)において、IgM産生活性が認められたフラクションF4〜F7を集め、以下の条件で逆相HPLCに付した。
溶出条件:図3(a)に示すとおり
(1)0〜10分:20%アセトニトリル
(2)10〜20分:20%→60%
(3)20〜60分:60%→100%
(4)60〜90分:100%
その結果、図3(a)に示すように、15本のピーク[図3(a)中、1〜15のピーク]を示すチャートが得られた。次いで、前述した方法と同様にして、各ピークにおけるIgM産生活性を測定した。
これらの結果を図3(b)に示す。図3(b)において、「Extract」および「Cont.」とは、前述した図1(b)と同じ意味である。
また、図3(b)において、IgM産生量≒8.4ng/mLの横線ラインは、対照群(図3(b)中、Cont.)の平均値を示している。
図3(b)に示すように、ピークP1、P2、P3、P6では、対照群(エタノール抽出液)に比べ、遥かに高いIgM産生促進活性が認められた。
次いで、上記のようにして得られたピーク3およびピーク6について、液体クロマトグラフ質量分析を行なった。これらの結果は、前述した図4(ピーク3)および図5(ピーク6)に示したとおりである。
(参考実験)
以下では、上記活性物質AおよびBが、β−クリプトキサンチン(温州ミカン果皮中の代表的な成分であり、前述した特許文献2に記載の成分;β−CRP)であるかどうかを、HPLCにより検討した。
詳細には、上記のようにして調製した温州ミカン果皮のエタノール抽出液について、資生堂CAPCELL Pack C18 5μmODSカラム(4.6mmID×150mmカラム長)を用いて吸光度を450nmで検出したこと以外は前述した実施例1と同様にしてHPLCを行なった結果、図6(a)のチャートが得られた。
一方、上記のエタノール抽出液1mLにβ−CRPを0.5mL添加し、上記と同様にしてHPLCを行なった。その結果を図6(b)に示す。
図6(a)と図6(b)を対比すると、アセトニトリル(AcN)濃度が100%に達してから20分以上経過した後に認められるピーク(各図において、○で示した部分)が、図6(a)に比べて図6(b)では大きくなったことから、当該ピーク部分にβ−CRPが溶出していることが分かる。また、これらの結果より、上記のエタノール抽出液には、β−CRPは殆ど含まれないことも確認された。
以下の実施例2、実施例3、および実施例4では、実施例1で用いた、温州ミカン果皮のエタノール抽出液(HPLCによる分画を行なう前のもの)を用い、ヒラメ滑走細菌症に対する防御効果(治療効果および予防効果、実施例2)、ブリ類結節症に対する防御効果(治療効果および予防効果、実施例3)、およびマダイイリドウイルスによる感染症に対する防除効果(予防効果、実施例4)を調べた。これらの実施例は、直接的に、本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物(活性物質AおよびBを少なくとも活性成分として含有する抽出物)による効果を調べたものではないが、上記抽出物が、間接的にしろ、魚病の感染予防効果および感染治療効果を奏することを示すデータとして掲げたものである。
実施例2:ヒラメ滑走細菌症に対する感染防御効果
1.実験方法
(1)供試魚
治療効果の確認実験には、ヒラメ(平均体重9.1g±標準偏差3.55g)を、一実験群(1区)当たり29〜30尾ずつ使用した。以下の実験に入る前に、ヒラメは、200L水槽に収容し、3日間馴致した。実験中、ヒラメを入れた水槽には絶えず給水し、水を循環させた。
また、予防効果の確認実験には、ヒラメ(平均体重14.6g±標準偏差4.93g)を、一実験群(1区)当たり34〜35尾ずつ使用した。本実施例では、まず治療効果の確認実験を行なってから、予防効果の確認実験を行なったため、予防効果の確認実験に供したヒラメの体重は、治療効果の確認実験に用いたヒラメに比べて増加している。
(2)供試菌
本実施例では、滑走細菌(Flexibacter maritimus)050603株を使用した。詳細には、−80℃に凍結保存しておいた上記菌株を融解し、その100μLを採取し、50mL三角フラスコに入れた20mLのZoBell培地(滑走細菌用培地)に接種して24時間振とうしながら前培養を行った。このようにして得られた前培養菌液100μLを、新鮮な300mLのZoBell培地が入った500mL三角フラスコに接種し、48時間振とうして本培養を行った。このようにして得られた培養物を、滑走細菌感染用菌液として使用した。
(3)使用した柑橘類の果皮抽出物
本実施例では、前述した実施例1に用いたエタノール抽出液を実験に用いた。詳細には、温州ミカンの果皮のみを乾燥させた果皮乾燥物100gに100%エタノール500mLを加え、室温で12時間振とうした後、遠心(7000g×20分)することにより不純物を除去し、回収した抽出液を用いた。
(4)魚への投与量
試験飼料として、市販の餌ペレット1kgに対して、上記のようにして得られたエタノール抽出液を、10mL[エタノールの比重(約0.8g/mL)を掛けると、抽出物量換算で約8g]、または100mL[エタノールの比重(約0.8g/mL)を掛けると、抽出物量換算で約80g]浸み込ませたものを用い、魚に自由摂取させた。いずれの場合も、1日の摂取量は魚体重の約3%であり、計算上、魚へのエタノール抽出液量はそれぞれ、約0.3mL/kg魚体重/日(10mL浸み込ませた群)、または約3mL/kg魚体重/日(100mL浸み込ませた群)であり、抽出物量換算で算出すると、約0.24g/kg魚体重/日、または約2.4g/kg魚体重/日である。
以下では、0.24g/kg魚体重/日の抽出物含有餌ペレットを低濃度餌ペレット、0.24g/kg魚体重/日の投与群を低濃度投与群と呼び、一方、2.4g/kg魚体重/日の抽出物含有餌ペレットを高濃度餌ペレット、2.4g/kg魚体重/日の投与群を高濃度投与群と呼ぶ。
(5)細菌感染実験
上記抽出液による滑走細菌症に対する治療効果を確認するため、ヒラメに、上記の各餌ペレットを給餌させると同時(給餌直後、投与開始1日目)に、以下の方法で供試菌(滑走細菌)に感染させ、治療効果を検討した。
また、上記抽出液による滑走細菌症に対する予防効果を確認するため、ヒラメに、上記の各餌ペレットを1週間連続して給餌させた後(投与開始1日目〜7日目)に、投与7日目に以下の方法で供試菌(滑走細菌)に感染させ、予防効果を検討した。
滑走細菌の感染方法は以下のとおりである。まず、水槽の水位を200Lから50Lまで下げた後、これに上記の滑走細菌感染用菌液300mLを入れ、水槽中への給水を一旦止め、止水状態で30分間感染させた。30分後、この水槽にヒラメを収容したまま、再び給水を開始し、水槽の水位を200L(実験期間中、常に一定)とした。なお、飼育7日目の感染作業の翌日である投与開始8日目からは、通常の餌ペレット(上記抽出液の混入なし)を与えて飼育した後、感染後の生存数を毎日測定した。
いずれの確認実験においても、比較のため、通常の餌ペレット(上記抽出液果の混入なし)を与えて、同様の実験を行なった(コントロール群)。
2.実験結果
(1)抽出液含有餌ペレットの投与開始1日目に感染を行った場合(治療効果の検討)
図7(a)に、治療効果の結果を示す。横軸は感染後日数であり、縦軸はヒラメの生存率(%)である。図7(a)において、感染後日数0日は、投与開始1日目を意味する。
図7(a)に示すように、感染10日後のヒラメの生存率は、低濃度投与群(0.24g/kg魚体重/日)で63%(19尾/30尾)、高濃度投与群(2.4g/kg魚体重/日)で76%(22尾/29尾)であり、いずれも、コントロール群(50%、15尾/30尾)に比べて上昇した。コントロール群と比較すると、高濃度投与群で有意差が認められた(p<0.05)。
(2)抽出液含有餌ペレットを7日間投与後に感染を行った場合(予防効果の検討)
図7(b)に、予防効果の確認実験の結果を示す。横軸は感染後日数であり、縦軸はヒラメの生存率(%)である。図7(b)において、感染後日数0日は、投与開始7日目を意味する。
図7(b)に示すように、感染10日後の生存率は、低濃度投与群(0.24g/kg魚体重/日)で89%(31尾/35尾)、高濃度投与群(2.4g/kg魚体重/日)で76%(26尾/34尾)であり、いずれも、コントロール群(71%、24尾/34尾)に比べて上昇した。コントロール群と比較すると、低濃度投与群で有意差が認められた(P<0.05)。
3.考察
上記のとおり、治療効果の確認実験では、高濃度投与群において有意な効果が認められたことから、上記のミカン果皮抽出物を2.4g/kg魚体重/日の割合で投与すると、滑走細菌症からヒラメを効果的に治療できると考えられる。これに対し、予防効果の確認実験では、低濃度投与群(0.24g/kg魚体重/日)において有意な効果が認められた。これらの実験結果から、本発明の感染防除剤の投与量を適切に調整することにより、所望とする治療効果および予防効果の両方が得られることが大いに期待される。
実施例3:ブリ類結節症に対する感染防御効果
1.実験方法
(1)供試魚
治療効果の確認実験には、ブリ(平均体重19.1g)を、一実験群(1区)当たり49〜50尾ずつ使用した。以下の実験に入る前に、ブリは、200L水槽に収容し、3日間馴致した。実験中、ブリを入れた水槽には絶えず給水し、水を循環させた。
また、予防効果の確認実験には、ブリ(平均体重78.0g)を、一実験群(1区)当たり20〜21尾ずつ使用した。本実施例では、まず治療効果の確認実験を行なってから、予防効果の確認実験を行なったため、予防効果の確認実験に供したブリの体重は、治療効果の確認実験に用いたブリに比べて増加している。
(2)供試菌
本実施例では、類結節症原因菌(Photobacterium damuselae subsp.piscicida)O-82352M株を使用した。詳細には、−80℃に凍結保存しておいた上記菌株を融解し、その100μLを採取し、50mL三角フラスコに入れた少量のブレインハートインヒュージョン培地(BHI、NaClを2%に調製)に接種して24時間振とうしながら前培養を行った。このようにして得られた前培養菌液0.75μLを、300mLのBHI培地(類結節症原因菌用培地)が入った500mL三角フラスコに接種し、24時間振とうして本培養を行ったものを、類結節症原因菌感染用菌原液とした(菌濃度:約7.9×107CFU/mL)。
感染に当たっては、上記の菌原液を海水で希釈し、治療効果確認実験における感染実験には2.4×105CFU/mLの菌濃度とした液に、一方、予防効果確認実験における感染実験には2.4×105CFU/mLおよび1.9×106CFU/mLの菌濃度とした液に、ブリを10分間浸漬して感染を行った。
以下では、2.4×105CFU/mLの菌液濃度で感染させたものを低濃度感染群、1.9×106CFU/mLの菌液濃度で感染させたものを高濃度感染群と呼ぶ。
(3)使用した柑橘類の果皮抽出物
前述した実施例1と同様にして、エタノール抽出液を調製した。
(4)魚への投与量
前述した実施例1と同様にして、0.24g/kg魚体重/日の抽出物含有餌ペレット(低濃度餌ペレット)および2.4g/kg魚体重/日の抽出物含有餌ペレット(高濃度餌ペレット)を調製し、各餌ペレットを、ブリに自由摂取させた。
(5)細菌感染実験
前述した実施例2において、治療効果の確認実験および予防効果の確認実験に用いた類結節症原因菌の菌液濃度(感染時の濃度)を上記のように変更したこと以外は前述した実施例2と同様にして、類結節症に対する治療効果および予防効果の確認実験を行なった。
2.実験結果
(1)抽出液含有餌ペレットの投与開始1日目に感染を行った場合(治療効果の検討)
図8(a)に、低濃度感染群における治療効果の結果を示す。横軸は感染後日数であり、縦軸はブリの生存率(%)である。
図8(a)に示すように、感染10日後のブリの生存率は、低濃度投与群(0.24g/kg魚体重/日)で16.0%(8尾/50尾)、高濃度投与群(2.4g/kg魚体重/日)で32.7%(16尾/49尾)であり、高濃度投与群ではコントロール群(20.4%、10尾/49尾)に比べて生存率が上昇した。
(2)抽出液含有餌ペレットを7日間投与後に感染を行った場合(予防効果の検討)
図8(b)に、低濃度感染群における予防効果の結果を示し、図8(c)に、高濃度感染群における予防効果の結果を示す。いずれの図も、横軸は感染後日数であり、縦軸はブリの生存率(%)である。
低濃度感染群の場合、図8(b)に示すように、感染10日後の生存率は、高濃度投与群(2.4g/kg魚体重/日)で95%(19尾/20尾)、低濃度投与群(0.24g/kg魚体重/日)で86%(18尾/21尾)であり、いずれも、コントロール群(65%、13尾/20尾)に比べて顕著に上昇した。コントロール群と比較すると、低濃度投与群および高濃度投与群の両方において有意差が認められた(P<0.05)。
一方、高濃度感染群の場合、図8(c)に示すように、感染10日後の生存率は、高濃度投与群(2.4g/kg魚体重/日)で50%(10尾/20尾)、低濃度投与群(0.24g/kg魚体重/日)で10%(2尾/20尾)、コントロール群で20%(4尾/20尾)であり、高濃度投与群は、コントロール群に比べて生存率が著しく上昇し、有意差が認められた(P<0.05)。
3.考察
上記のとおり、治療効果の確認実験では、低濃度投与群において生存率の上昇が認められた。一方、予防効果の確認実験では、低濃度感染群では高濃度投与群および低濃度投与群の両方に有意な効果が認められ、高濃度感染群では高濃度投与群で有意な効果が認められた。これらの実験結果から、本発明の感染防除剤の投与量を適切に調整することにより、所望とする治療効果および予防効果の両方が得られることが大いに期待される。
4.総合考察
以上の結果を総合的に勘案すると、本実施例に用いたミカン果皮抽出物を、おおむね、10〜100mg/kg(魚体重)程度の割合で魚に投与すると、ヒラメ滑走細菌症およびブリ類結節症の双方に対して治療効果および予防効果が発揮され得ることが確認された。この実験結果は、本実施例で用いた魚病以外の、他の細菌性感染症の予防または治療に、本発明の上記抽出物が効果的に用いられることを強く示唆するものである。
実施例4:マダイイリドウイルスによる感染症に対する感染予防効果
1.実験方法
(1)供試魚
マダイイリドウイルス(red sea bream iridovirus、RSIV)に感染した経歴のないマダイ当歳魚(平均体重約20g)を、一実験群(1区)当たり40尾ずつ使用した。マダイは、200LのFRP製水槽4連付き循環水槽システムのうち3水槽を使用して飼育した。実験期間中の水温は、約28〜30℃の範囲に制御した。
(2)供試菌
本実施例では、マダイイリドウイルスとしてRSIV U−6株を使用した。詳細には、細胞培養用小フラスコに単層を形成させたGF(Grow Factor、細胞成長因子)細胞に、上記のウイルス原液を200μL接種して培養し、ウイルス増殖により細胞変性効果が全体に広がったことを確認した培養物を、使用時まで−80℃で凍結保存した(ウイルス力価2.7×105TCID50)。
(3)使用した柑橘類の果皮抽出物
前述した実施例1と同様にして、エタノール抽出液を調製した。
(4)魚への投与量
試験飼料として、市販のEP飼料100gに対して、上記のようにして得られたエタノール抽出液を、10mL(エタノール抽出物量換算で約8g、高濃度投与群、2.4g/kg魚体重/日)、または1mL(エタノール抽出物量換算で約0.8g、低濃度投与群、0.24g/kg魚体重/日)浸み込ませたものを用いた。比較のため、通常のEP飼料(上記抽出液果の混入なし)も用いた(コントロール群)。いずれの群も、7日分で約100gの飼料を毎日1回、自由摂食により投与した。
(5)ウイルス感染実験
上記抽出液によるマダイイリドウイルス(RSIV)に対する予防効果を確認するため、マダイに、上記の各飼料を1週間(7日間)連続して給餌させた後(投与開始1日目〜7日目)、投与10日目に、以下の浸漬感染法によりウイルスに感染させ、予防効果を検討した。本実施例では、前述した実施例2や実施例3と異なり、投与10日目にウイルスの感染を行なったが、これは、台風接近の影響のため、投与7日目に感染実験を行なうことができなかったためである。
詳細には、上記のようにして得られたRSIVウイルス液(ウイルス力価2.7×105TCID50)を海水で10万倍希釈したウイルス海水液50Lを用意し、通気しながら、各実験群のマダイを30分間浸漬処理して感染させた。次いで、感染後のマダイを、上記の各飼育水槽に戻し、通常の餌ペレット(上記抽出液果の混入なし)を毎日与えて飼育し、感染後の死亡数(22日まで)を毎日測定し、各実験群の生存率を測定した。各実験群の生存率の結果は、F検定により有意差を検討した。
なお、マダイは、飼育中に共食いによる死亡が良く見られるが、上記生存率(%)[={(母数−死亡数)/母数}×100]の算出に当たっては、母数および死亡数ともに、共食いによる死亡または共食いによる死亡が疑われるが死亡原因が特定できないものは除いて計算した。
2.実験結果
図11に、RSIVウイルスに対する予防効果の結果を示す。横軸は感染後日数であり、縦軸はマダイの生存率(%)である。図11において、感染後日数0日は、投与開始10日目を意味する。
図11に示すように、マダイの死亡は感染後8日目から始まり、10日後には、すべての実験群で生存率は50%以下に減少したが、感染後16日目には死亡が終息した。最終的な生存率(感染後22日目の生存率)は、低濃度投与群(0.24g/kg魚体重/日)で8.1%(3尾/37尾)、高濃度投与群(2.4g/kg魚体重/日)で30.6%(11尾/36尾)、コントロール群で10.8%(4尾/37尾)であったり、高濃度投与群では、コントロール群に比べて生存率が高くなる傾向が認められた。
また、ウイルスにより死亡したマダイを解剖したところ、RSIV病に特徴的な脾臓の腫大が多くの個体で観察され、鰓の褪色斑および肝臓の出血を示す個体も認められた。
3.考察
上記の実験結果から、本発明の感染防除剤の投与量を適切に調整して投与することにより、細菌のみならずウイルスによる感染症に対しても所望とする予防効果が得られ、更には治療効果も得られることが大いに期待される。なお、上記の実験では、イリドウイルスによる感染症に対する防除効果を調べたが、それ以外の、他のウイルス性感染症の予防または治療に、本発明の上記抽出物が効果的に用いられることを強く示唆するものである。
4.総合考察
上記の実施例では、柑橘類果皮のエタノール抽出液を用いたときにおける、魚病の感染予防効果および感染治療効果を調べたが、これらの実験結果は、上記の活性物質AおよびBを少なくとも活性成分として含有する、本発明に用いられる柑橘類果皮の抽出物においても、上記効果を奏することを強く示唆するものである。

Claims (2)

  1. 柑橘類の果皮抽出物を含有する、免疫蛋白質の産生促進剤であって、
    前記抽出物は、柑橘類の果皮をエタノールで抽出し、得られたエタノール抽出液を、オクタデシルシリル化シリカゲルカラムを用いた逆相高速液体クロマトグラフィーにより、下記条件で分画したとき、アセトニトリル濃度70%から90%の画分に出現する物質であって、
    液体クロマトグラフ質量分析により測定した分子量が約378および約280である、二種類の活性物質を少なくとも含有することを特徴とする免疫蛋白質の産生促進剤。
    流速:0.5mL/分
    検出:吸光度(210nm)
    カラム温度:40℃
    溶離液:アセトニトリル(20%→100%)
    溶出条件:
    (1)0〜5分:20%
    (2)5〜20分:20%→70%
    (3)20〜60分:70%→100%
  2. 前記抽出物として、前記エタノール抽出液のうちヘキサンに溶解するものを主に含有する抽出物を用いる請求項1に記載の免疫蛋白質の産生促進剤。
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