JP2013060374A - ホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬およびホウレンソウケナガコナダニを防除する方法 - Google Patents

ホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬およびホウレンソウケナガコナダニを防除する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 土壌への定着性が非常に高く、使用にあたって特別な経験や手間を必要とせず、国内の生態系に対して悪影響を与える可能性が小さく、ホウレンソウケナガコナダニに対して、簡便、安定的かつ持続的に高い防除効果を得ることができるホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬およびホウレンソウケナガコナダニを防除する方法を提供する。
【解決手段】 付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻であってヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻とヤマウチアシボソトゲダニとを有効成分とするホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬。
【選択図】 図6

Description

本発明は、ホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬およびホウレンソウケナガコナダニを防除する方法に関する。
ホウレンソウケナガコナダニTyrophagus similis Volgin(以下、単に「ホウレンソウケナガコナダニ」という。)は、ホウレンソウの新芽部に侵入して食害することで縮葉や芯止まりなどの奇形症状を引き起こす害虫である。ホウレンソウケナガコナダニの被害は、全国のホウレンソウ栽培圃場、特に施設栽培の圃場において秋〜春期に発生しており(非特許文献1)、安定生産の重大な障害となっている。
従来、ホウレンソウケナガコナダニを防除する方法として、化学農薬の茎葉散布(非特許文献2または3)や、蒸気などの熱を利用した土壌消毒、燻蒸剤による土壌消毒(非特許文献4)が行われている。しかしながら、これらの防除方法では、その効果がホウレンソウあるいは土壌の表面にとどまり、土壌深部に農薬や消毒の効果が到達しないため、あるいは他の圃場からホウレンソウケナガコナダニが移動してくるため、1〜数回の作付けで効果が消失してしまうことから、多数回の農薬散布や消毒作業が必要となり、環境に負荷が掛かってしまう他、金銭的な負荷や労力が掛かってしまうことが問題となっている。
そこで、昨今、持続的な防除効果や環境負荷および労力の軽減が期待される生物農薬の研究開発が行われている。生物農薬は、一般に、害虫を補食する天敵(捕食性天敵)を有効成分とする農薬であり、ホウレンソウケナガコナダニに対しては、ククメリスカブリダニを有効成分とする生物農薬が開示されている(非特許文献5)。また、トゲダニ科Hypoaspis(Geolaelaps)aculeiferがホウレンソウケナガコナダニを捕食することが報告されている(非特許文献6)他、本発明者らにより、ヤマウチアシボソトゲダニHypoaspis(Euandrolaelaps)yamauchii Ishikawa(以下、単に「ヤマウチアシボソトゲダニ」という。)がホウレンソウケナガコナダニを捕食することが報告されている(非特許文献7)。
春日ら、日本ダニ学会誌、第9巻、第31−42頁、2000年 春日ら、日本応用動物昆虫学会誌、第46巻、第99−101頁、2002年 中尾、北日本病虫研報、第51巻、第219−222頁、2000年 松村ら、関西病虫研報、第47巻、第1−8頁、2005年 松村ら、農耕と園芸7月号、第28−34頁、2007年 春日ら、日本ダニ学会誌、第15巻(第2号)、第139−143頁、2006年 齊藤ら、北日本病虫研報、第61巻、第192−196頁、2010年
しかしながら、非特許文献5に記載のククメリスカブリダニは土壌への定着性が低く防除効果が不安定である。また、非特許文献6に記載のトゲダニ科Hypoaspis(Geolaelaps)aculeiferは捕食適温が30℃であり、ホウレンソウケナガコナダニの増殖適温である20〜25℃での捕食能力が低いことから、防除効果は不十分となってしまう。さらに、ククメリスカブリダニおよびトゲダニ科Hypoaspis(Geolaelaps)aculeiferはいずれも外来種であるため、国内の生態系に対して悪影響を与える虞がある。
一方、非特許文献7に記載のヤマウチアシボソトゲダニは、実験室内でホウレンソウケナガコナダニを餌として与えて飼育した場合に捕食性を有することが確認されているのみであって、土壌への定着性や捕食適温、飼育や増殖が容易であるか否か、捕食能力が防除に有効な程度に高いか否かなど、生物農薬としての実用性についてはこれまで全く不明であった。
特に、捕食性天敵は被食者密度が比較的低い圃場や、温湿度が居住空間として適していない圃場、物理的に居住空間として適していない圃場などには定着することができない場合が多く、生物農薬では、一般に、圃場での定着性を確保することが極めて重大な課題となる。実際、上述したククメリスカブリダニは、定着物である稲藁を圃場の周囲や通路に敷いて定着性を確保して防除効果を改善する試みがなされたが、稲藁には定着するものの、稲藁からホウレンソウまたは土壌へと移動してホウレンソウケナガコナダニを捕食する行動がほとんど見られず、防除効果はほとんど得られていない。その他、圃場での定着性が低い生物農薬では、圃場の害虫密度を定期的にモニタリングして散布するタイミングを見極める必要がある他、害虫以外の被食者や定着物を別途圃場に供給する必要があり、経験や手間、費用が掛かるという問題がある。
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、土壌への定着性が非常に高く、使用にあたって特別な経験や手間を必要とせず、国内の生態系に対して悪影響を与える可能性が小さく、ホウレンソウケナガコナダニに対して、簡便、安定的かつ持続的に高い防除効果を得ることができるホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬およびホウレンソウケナガコナダニを防除する方法を提供することを目的としている。
本発明者は、鋭意検討の結果、国内在来種であるヤマウチアシボソトゲダニが、ホウレンソウを食害しないコナダニ科ケナガコナダニTyrophagus putrescentiae(以下「ケナガコナダニ」という。)を餌として与えることにより簡便に飼育し、増殖させることができること、ホウレンソウケナガコナダニの増殖適温下でホウレンソウケナガコナダニの幼虫を大量に捕食し、ホウレンソウケナガコナダニの増殖を効率的に抑制すること、絶食耐久性が高く取り扱いが容易であること、籾殻などの穀物殻に定着することができること、特に、付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻と併せて散布することにより、土壌表面に長期間存在させて土壌への定着性を確保することができ、持続的にホウレンソウケナガコナダニを防除することができることを見出し、下記の各発明を完成した。
(1)付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻であってヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻とヤマウチアシボソトゲダニとを有効成分とするホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬。
(2)付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻が発酵または炭化させた穀物殻である、(1)に記載のホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬。
(3)穀物殻が籾殻である、(1)または(2)に記載のホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬。
(4)ホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を製造する方法であって、ケナガコナダニを増殖させる工程と、少なくとも前記増殖させたケナガコナダニとヤマウチアシボソトゲダニと付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻であってヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻とを合わせる工程と、前記ヤマウチアシボソトゲダニを増殖させる工程とを有する前記方法。
(5)ホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を製造する方法であって、ケナガコナダニを増殖させる工程と、少なくとも前記増殖させたケナガコナダニとヤマウチアシボソトゲダニとヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻とを合わせる工程と、前記ヤマウチアシボソトゲダニを増殖させる工程と、前記増殖させたヤマウチアシボソトゲダニを採集する工程と、少なくとも前記採集したヤマウチアシボソトゲダニと付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻であってヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻とを合わせる工程とを有する前記方法。
(6)ケナガコナダニを増殖させる工程が小麦ふすまおよび/または乾燥ビール酵母の存在下でケナガコナダニを増殖させる工程である、(4)または(5)に記載の方法。
(7)ホウレンソウケナガコナダニを防除する方法であって、少なくとも付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻であってヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻とヤマウチアシボソトゲダニとを散布する工程を有する前記方法。
(8)付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻が発酵または炭化させた穀物殻である、(4)から(7)のいずれかに記載の方法。
(9)穀物殻が籾殻である、(4)から(8)のいずれかに記載の方法。
本発明に係るホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬やホウレンソウケナガコナダニを防除する方法によれば、国内の生態系に対する悪影響を懸念することなく、簡便、安定的かつ持続的にホウレンソウケナガコナダニを防除することができ、特に、ホウレンソウケナガコナダニの被害が深刻となる春期や秋期において効率的に防除することができる。また、ホウレンソウケナガコナダニを防除する効果が持続的に得られることから、農薬を散布する回数を減らすことができ、環境負荷の低減や労力の軽減を図ることができる。さらに、化学合成成分を用いる必要がないことから、有機農業においてもホウレンソウケナガコナダニを防除することができる。
ヤマウチアシボソトゲダニの雌成虫にホウレンソウケナガコナダニの卵、幼虫、第1若虫、第3若虫および成虫を与えた場合(20℃条件下;第3若虫のみ15℃、20℃、25℃および30℃条件下)の、それぞれについての捕食頭数の最小、最大、平均および標準偏差を示す図である。 ヤマウチアシボソトゲダニの雌成虫にホウレンソウケナガコナダニの成虫および幼虫を併せ与えた場合の、与えた頭数、残存した頭数および生存率を示す図である。 21日間絶食させた後のヤマウチアシボソトゲダニについて、15℃、20℃、25℃および30℃における生存頭数、捕食を行った頭数、産卵を行った頭数および1頭当たりの産卵数を示す図である。 籾殻、籾殻くん炭または発酵籾殻を含む培地においてヤマウチアシボソトゲダニを放飼した場合の、35日経過後の平均頭数、標準偏差ならびにカビまたは微少節足動物の発生を示す図である。 ホウレンソウケナガコナダニを混和した土壌に処理a〜dを施した場合の、ホウレンソウケナガコナダニおよびヤマウチアシボソトゲダニの平均頭数および標準偏差を示す図である。 発酵籾殻およびヤマウチアシボソトゲダニを併せてホウレンソウ圃場に散布した場合、ならびに散布しなかった場合の、7日後、15日後および22日後に当該ホウレンソウ圃場に生息するホウレンソウケナガコナダニの平均密度および補正密度指数を示す図である。
以下、ホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬、その製造方法およびホウレンソウケナガコナダニを防除する方法について詳細に説明する。本発明に係るホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬は、付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻とヤマウチアシボソトゲダニとを有効成分とする。
ヤマウチアシボソトゲダニは、トゲダニ科に属する既知の種であり、これまでに坑道や洞窟など比較的冷涼な場所で発見されている(石川、Journal of the Speleological Society of Japan、第7巻、第88−100頁、1982年)他、北海道上川郡比布町の農場における堆肥の中からも発見されている。本発明におけるヤマウチアシボソトゲダニは、いずれの場所で採集したものでもよく、野外から採集した後、累代飼育したものでもよい。また、ヤマウチアシボソトゲダニの生育ステージや性別も特に限定されず、例えば、卵、幼虫、若虫、成虫などのそれぞれ雌雄いずれでもよいが、成虫の雌である場合は、ホウレンソウケナガコナダニに対する防除効果がさらに期待できる。
本発明におけるヤマウチアシボソトゲダニを飼育、増殖させる方法は特に限定されないが、例えば、ケナガコナダニを給餌することにより簡便に飼育、増殖させることができる。具体的には、まず、ケナガコナダニを小麦ふすまや乾燥ビール酵母に接種して増殖させる。続いて、籾殻などのヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻にヤマウチアシボソトゲダニを接種し、ここに、増殖させたケナガコナダニを小麦ふすまや乾燥ビール酵母ごと定期的に加えることにより給餌して、比較的低温(例えば20〜25℃)、高湿度、暗黒条件下で一定期間静置すればよい。給餌の頻度や量、静置期間などは、ヤマウチアシボソトゲダニの必要量や穀物殻の種類などに応じて適宜設定することができる。
本発明における「ヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻」としては、例えば、籾殻やソバ殻、大麦や小麦、ライ麦、カラス麦、エン麦、ハト麦など麦類の殻、ヒエ、アワ、コキビ、茶キビ、カナリーシードなどの殻、ソバ殻、とうもろこしの皮、大豆や小豆、エンドウ、レンズ豆などの豆類の皮、ゴマの皮、マツの実の殻などを挙げることができる。ここで、本発明における穀物は広義の穀物を意味するのであり、例えば、イネ科植物の種子のほか、マメ科やタデ科などの種子、ナッツ類なども含む。なお、本明細書実施例においては、好適な穀物殻として籾殻を用いている。
本発明において、「定着」とは、生物がそこで生活したり、繁殖したりするようになることをいい、「定着物」は「住処」と交換可能に用いられる。また、本発明において、「土壌への定着性」という場合は、土壌そのものを定着物として定着する性質や能力をいう場合の他、土壌以外の何らかの定着物を介して土壌中や土壌表面に定着する性質や能力をいう場合が含まれる。
本発明において、ヤマウチアシボソトゲダニは、付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻と併せて土壌に散布することにより、当該散布された穀物殻を定着物として定着し、その結果として土壌への定着性を有する。
本発明における穀物殻について、ヤマウチアシボソトゲダニが定着可能であるか否かは、常法に従い確認することができる。そのような方法としては、例えば、穀物殻にヤマウチアシボソトゲダニを接種し、上述したヤマウチアシボソトゲダニを飼育、増殖させる方法に準じて一定期間静置した後、ツルグレン装置などを用いてヤマウチアシボソトゲダニを採集してその数を数える方法を挙げることができる。その結果、接種した数よりもヤマウチアシボソトゲダニの数が維持されている場合や増加している場合は、その穀物殻は定着可能と判断される。
穀物殻に付着した穀物は、後述する実施例で示すように、ホウレンソウケナガコナダニの餌となり、その生存や増殖に資する虞がある。このため、本発明に係るホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬が有効成分とするヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻においては、付着した穀物を除去処理および/または分解処理する必要がある。ここで、除去処理や分解処理の方法は特に限定されないが、例えば、発酵や炭化、超音波洗浄、酵素分解などを挙げることができ、このうち、発酵または炭化が好ましい。すなわち、本発明における「付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻」としては、「発酵または炭化させた穀物殻」が好ましい。なお、本発明においては、「付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻」であることが特徴であり、除去処理および/または分解処理してもなお、穀物が残存してしまう場合もあり得る。
本発明における「付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻であってヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻」としては、例えば、発酵籾殻や籾殻くん炭、発酵ソバ殻(ソバ殻堆肥)、ソバ殻くん炭などを挙げることができる。
本発明に係るホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬には、本発明に係るホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬の特徴を損なわない限り、付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻およびヤマウチアシボソトゲダニ以外のものが含まれてもよく、例えば、ヤマウチアシボソトゲダニの食餌となるケナガコナダニやケナガコナダニの増殖培地である小麦ふすま、乾燥ビール酵母などが含まれていてもよい。
次に、本第一実施形態におけるホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を製造する方法について説明する。本発明に係るホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を製造する方法は、下記(i)、(ii)および(iii)の工程を有する;
(i)ケナガコナダニを増殖させる工程(ケナガコナダニ増殖工程)、
(ii)少なくとも前記増殖させたケナガコナダニとヤマウチアシボソトゲダニと付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻であってヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻とを合わせる工程(第一合一工程)、
(iii)前記ヤマウチアシボソトゲダニを増殖させる工程(ヤマウチアシボソトゲダニ増殖工程)。
なお、本第一実施形態におけるホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を製造する方法の発明特定事項のうち、上述したホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬の各構成と同等または相当する発明特定事項については、再度の説明を省略する。
(i)のケナガコナダニ増殖工程において、ケナガコナダニは常法に従い増殖させることができ、そのような方法としては、例えば、適当な培地にケナガコナダニを接種して、10〜30℃、高湿度、暗黒条件下で静置する方法を挙げることができる。なお、この場合の培地は、小麦ふすまや乾燥ビール酵母を含むことが好ましい。
(iii)のヤマウチアシボソトゲダニ増殖工程において、ヤマウチアシボソトゲダニを増殖させる際の条件は特に限定されないが、例えば、上述したホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬におけるヤマウチアシボソトゲダニを飼育、増殖させる方法と同様の条件を挙げることができる。
次に、本第二実施形態におけるホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を製造する方法について説明する。本発明に係るホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を製造する方法は、下記(i)、(iv)、(v)、(vi)および(vii)の工程を有する;
(i)ケナガコナダニを増殖させる工程(ケナガコナダニ増殖工程)、
(iv)少なくとも前記増殖させたケナガコナダニとヤマウチアシボソトゲダニとヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻とを合わせる工程(第二合一工程)、
(v)前記ヤマウチアシボソトゲダニを増殖させる工程(第二ヤマウチアシボソトゲダニ増殖工程)、
(vi)前記増殖させたヤマウチアシボソトゲダニを採集する工程(採集工程)、
(vii)少なくとも前記採集したヤマウチアシボソトゲダニと付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻であってヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻とを合わせる工程(第三合一工程)。
なお、本第二実施形態におけるホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を製造する方法の発明特定事項のうち、上述したホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬および第一実施形態におけるホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を製造する方法の各構成および各発明特定事項と同等または相当する発明特定事項については、再度の説明を省略する。
(v)の第二ヤマウチアシボソトゲダニ増殖工程において、ヤマウチアシボソトゲダニを増殖させる際の条件は特に限定されないが、例えば、上述したホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬におけるヤマウチアシボソトゲダニを飼育、増殖させる方法と同様の条件を挙げることができる。
(vi)の採集工程において、ヤマウチアシボソトゲダニを採集する方法は常法に従い行うことができ、そのような方法としては、例えば、増殖させたヤマウチアシボソトゲダニをツルグレン装置に供して採集する方法を挙げることができる。
本発明に係るホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を製造する方法には、本発明に係るホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を製造する方法の特徴を損なわない限り、他の工程を有してもよく、例えば、ケナガコナダニまたはヤマウチアシボソトゲダニの採集工程、攪拌工程、殺菌工程、穀物殻の消毒や洗浄、発酵、炭化などの工程などを有してもよい。
次に、ホウレンソウケナガコナダニを防除する方法について説明する。本発明に係るホウレンソウケナガコナダニを防除する方法は、下記(viii)の工程を有する;
(viii)少なくとも付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻であってヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻とヤマウチアシボソトゲダニとを散布する工程(散布工程)。
なお、ホウレンソウケナガコナダニを防除する方法の発明特定事項のうち、上述したホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬およびホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を製造する方法の各構成および各発明特定事項と同等または相当する発明特定事項については、再度の説明を省略する。
(viii)の散布工程において、付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻とヤマウチアシボソトゲダニとは別個に散布してもよく、予め合わせたものを散布してもよい。後者の場合は、例えば、付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻を増殖培地としてヤマウチアシボソトゲダニを増殖させて、その増殖培地ごと散布する態様を挙げることができる。なお、散布する量や時期、頻度は、播種時期、ホウレンソウの生育状況、天気、気温、圃場内のホウレンソウケナガコナダニの密度などに応じて適宜設定することができる。
本発明に係るホウレンソウケナガコナダニを防除する方法には、本発明に係るホウレンソウケナガコナダニを防除する方法の特徴を損なわない限り、他の工程を有してもよく、例えば、土壌の耕起工程や土壌消毒工程、ホウレンソウケナガコナダニの密度測定工程、ヤマウチアシボソトゲダニの増殖工程、穀物殻の消毒や洗浄、発酵、炭化などの工程などを有してもよい。
以下、本発明に係るホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬およびホウレンソウケナガコナダニを防除する方法について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
<実施例1>ホウレンソウケナガコナダニの各世代に対するヤマウチアシボソトゲダニの捕食性の検討
(1)ヤマウチアシボソトゲダニの飼育
容積比が籾殻:水道水:アーゼロンゆうき(日本ライフ社)=100:10:1となるように籾殻、水道水およびアーゼロンゆうきをビニール袋に入れて混和した後、ビニール袋の口を緩く閉じ、20℃で約2か月間静置することにより籾殻を発酵させ、発酵籾殻を含む培地(発酵籾殻培地)を調製した。また、上川農業試験場内のガラス温室から採集して累代飼育したケナガコナダニを小麦ふすまに接種し、20℃、湿度99%、暗黒条件下で十分に増殖させることにより、ケナガコナダニを含む小麦ふすまを調製した。
シール容器内に水を張り、120×75mmの腰高シャーレを置いた後、約300mLの発酵籾殻培地を入れ、ここに、北海道上川郡比布町において採集したヤマウチアシボソトゲダニの個体群を接種し、20℃、湿度99%、暗黒条件下で累代飼育を行った。飼育中、7日間に1回の頻度で、ケナガコナダニを含む約15mLの小麦ふすまを食餌として与えた。
(2)ホウレンソウケナガコナダニの飼育
奈良県農業総合センターの松村美小夜氏より供与された累代飼育系統のホウレンソウケナガコナダニTyrophagus similis Volgin(以下「ホウレンソウケナガコナダニ」という。)を粉末乾燥ビール酵母(クッキング用ビール酵母;アサヒフードアンドヘルスケア社)に接種し、20℃、湿度97%、暗黒条件下で飼育した。
(3)捕食性の検討
[3−1]調査準備
先ず、Kasuga S.ら、Jpn.J.Appl.Entomol.Zool.、第50巻、第1号、第19−23頁、2006年に記載の方法に従い、飼育容器を作成した。具体的には、分析用濾紙を墨汁で染色し風乾させて得た76mm×26mmの黒色濾紙を、直径8mmの穴をあけた76mm×26mm、厚さ3mmのアクリル板2枚で挟んだ後、76mm×26mm、厚さ0.9〜1.2mmのスライドグラスを蓋として重ね、両端をバインダークリップで止めることにより飼育容器を作成した。この飼育容器の黒色濾紙を蒸留水で軽く湿らせてから、本実施例1(1)で累代飼育したヤマウチアシボソトゲダニのうち、雌成虫を採取して各穴につき1頭ずつ放飼し、20℃、湿度99%、暗黒条件下で24時間静置して絶食させた。
[3−2]生育ステージ別の選好性について
本実施例1(3)[3−1]のヤマウチアシボソトゲダニの雌成虫に、小筆を用いて、本実施例1(2)のホウレンソウケナガコナダニの卵、幼虫、第1若虫、第3若虫および成虫をそれぞれ与え、20℃、湿度99%、暗黒条件下で24時間静置した後、捕食されたホウレンソウケナガコナダニの頭数を数えた。この工程を8〜10反復行うことにより、捕食されたホウレンソウケナガコナダニの最小頭数、最大頭数、平均捕食頭数および標準偏差を算出した。その結果を図1に示す。
また、本実施例1(3)[3−1]のヤマウチアシボソトゲダニの雌成虫に、小筆を用いて、本実施例1(2)のホウレンソウケナガコナダニの成虫および幼虫を、ヤマウチアシボソトゲダニの成虫:ホウレンソウケナガコナダニの幼虫=10〜11頭:18〜20頭の割合で混在する状態となるように与え、20℃、湿度99%、暗黒条件下で24時間静置した後、残存したホウレンソウケナガコナダニの頭数を数えた。この工程を6反復行うことにより、ホウレンソウケナガコナダニの生存率を算出した。その結果を図2に示す。
[3−3]異なる温度条件下における捕食量について
本実施例1(3)[3−1]のヤマウチアシボソトゲダニの雌成虫に、小筆を用いて、本実施例1(2)のホウレンソウケナガコナダニの第3若虫を与え、温度15、20、25および30℃、湿度99%、暗黒条件下で24時間静置した後、捕食されたホウレンソウケナガコナダニの頭数を数えた。この工程を10反復行うことにより、捕食されたホウレンソウケナガコナダニの最小頭数、最大頭数、平均捕食頭数および標準偏差を算出した。また、平均捕食頭数について、Tukey−Kramer法を用いて各温度条件の間の有意差検定を行った。これらの結果を図1に示す。なお、図1では、各温度条件の間の有意差をアルファベット(a、ab、bc、またはc)で示しており、各温度条件の間でアルファベットが異なる場合は有意差がある(p<0.05)ことを意味し、アルファベットが同じ場合は有意差がない(p≧0.05)ことを意味している。例えば、aの場合は、bcおよびcとは有意差があるがabとは有意差がないことを意味し、bcの場合はaとは有意差があるがabおよびcとは有意差がないことを意味する。
生育ステージ別の選好性については、図1に示すように、ホウレンソウケナガコナダニの卵がヤマウチアシボソトゲダニの雌成虫に捕食されなかったのに対して、ホウレンソウケナガコナダニの幼虫、第1若虫、第3若虫および成虫はヤマウチアシボソトゲダニの雌成虫に捕食された。20℃における平均捕食頭数は幼虫が78.4頭と最も多く、第1若虫が20.9頭、第3若虫が16.1頭、成虫が4.5頭というように、ホウレンソウケナガコナダニの生育ステージが上がるごとに少なくなった。なお、幼虫、第1若虫、第3若虫および成虫に対しては、ヤマウチアシボソトゲダニのほとんどの個体が放飼直後から捕食を開始した(データは図示しない)。また、図2に示すように、成虫および幼虫を混在して与えた場合の成虫の生存率は20〜80%であったのに対し、幼虫の生存率は0〜15%であった。
これらの結果から、ヤマウチアシボソトゲダニはホウレンソウケナガコナダニの生育ステージのうち、幼虫、第1若虫、第3若虫および成虫はいずれも捕食すること、特に幼虫に対する捕食性が高く、大量に捕食することが明らかになった。すなわち、ヤマウチアシボソトゲダニはホウレンソウケナガコナダニの増殖を効率的に抑制することができることが示された。
また、異なる温度条件下における捕食量については、図1に示すように、平均捕食頭数は20℃>25℃>15℃>30℃の順であった。平均捕食頭数が最も多かった20℃と25℃との間では有意差は見られなかったが、20℃と15℃、および20℃と30℃との間では有意差が見られた。なお、同一の温度条件下においてもヤマウチアシボソトゲダニの個体によって捕食量に差異が見られた(データは図示しない)。
これらの結果から、ヤマウチアシボソトゲダニはホウレンソウケナガコナダニを、少なくとも15℃〜30℃において捕食すること、特に20〜25℃においては大量に捕食することが明らかになった。すなわち、ヤマウチアシボソトゲダニの捕食適温は、ホウレンソウケナガコナダニの増殖適温である25℃ (春日ら、日本ダニ学会誌、第9巻、第31−42頁、2000年)と至近であることが示され、施設栽培ホウレンソウにおいてホウレンソウケナガコナダニの被害が深刻となる春期および秋期において、ヤマウチアシボソトゲダニはホウレンソウケナガコナダニの増殖を効率的に抑制して被害を低減できることが示された。
<実施例2>ヤマウチアシボソトゲダニの絶食耐久性の検討
実施例1(3)[3−1]の飼育容器の黒色濾紙を蒸留水で軽く湿らせてから、実施例1(1)で飼育したヤマウチアシボソトゲダニの雌成虫を各穴につき1頭ずつ放飼し、15、20、25および30℃、湿度99%、暗黒条件下で21日間静置して絶食させた後、生存頭数を数えた。また、絶食開始から21日後に、生存しているヤマウチアシボソトゲダニに、小筆を用いて、実施例1(2)で飼育したホウレンソウケナガコナダニの成虫を与え、20℃、湿度99%、暗黒条件下で96時間静置した後、捕食を行ったヤマウチアシボソトゲダニの頭数、産卵を行ったヤマウチアシボソトゲダニの頭数および1頭あたりの平均産卵数を算出した。この工程を6反復行った。その結果を図3に示す。
図3に示すように、15、20および25℃では、絶食後、6頭全てが生存しており、全ての個体で捕食行動が確認された。また、15℃では平均1.0個、20℃では平均1.7個、25℃では平均2.3個の産卵が確認された。これに対し、30℃では、絶食後、6頭のうち3頭が生存しており、生存していた3頭のうち2頭で捕食行動が確認された。また、産卵は確認されなかった。
これらの結果から、ヤマウチアシボソトゲダニは21日間以上という長期間の絶食にも耐えて生存することができ、その後給餌することにより正常に捕食および産卵することができることが明らかになった。すなわち、ヤマウチアシボソトゲダニは、食餌を頻繁に与える必要がなく、流通過程や保管過程における取り扱いが容易であることや、ホウレンソウケナガコナダニ密度が比較的低い耕起直後などの圃場へ散布しても、飢餓による死滅の可能性は小さく、散布するタイミングを選ばないことから使用過程における取り扱いが容易であることが示された。
<実施例3>ヤマウチアシボソトゲダニの定着物の検討
籾殻、籾殻くん炭および発酵籾殻をそれぞれ含むA〜Fの培地を、下記に記載の方法により作成した。
A培地:使用直前に籾殻:水道水=10:1(容積比)の割合で混和した。
B培地:使用直前に籾殻くん炭:水道水=4:1(容積比)の割合で混和した。
C培地:使用直前に籾殻:水道水:アーゼロンゆうき(日本ライフ社)=100:10:1(容積比)の割合で混和した。
D培地:籾殻:水道水:アーゼロンゆうき(日本ライフ社)=100:10:1(容積比)の割合で混和した後、気温約20〜40℃のガラス温室で1ヶ月間静置することにより籾殻を発酵させた。
E培地:籾殻:水道水:アーゼロンゆうき(日本ライフ社)=100:10:1(容積比)の割合で混和した後、気温約20〜40℃のガラス温室で2ヶ月間静置することにより籾殻を発酵させた。
F培地:籾殻:水道水:アーゼロンゆうき(日本ライフ社)=100:10:1(容積比)の割合で混和した後、気温約20〜40℃のガラス温室で12ヶ月間静置することにより籾殻を発酵させた。
シール容器内に水を張り、120×75mmの腰高シャーレを置いた後、A培地、B培地、C培地、D培地、E培地およびF培地を400mLずつ入れ、それぞれに実施例1(1)で累代飼育したヤマウチアシボソトゲダニの成虫20頭を放飼し、20℃、湿度99%、暗黒条件下で35日間静置した。実施例1(1)のケナガコナダニを含む約15mLの小麦ふすまを食餌として、静置開始から7日後および14日後に各培地へ加えることにより与えた。
静置開始から7日間経過毎に、カビや微小節足動物の発生の有無を観察した。また、静置開始から35日間経過後に、各培地の全量をツルグレン装置に供して24時間分離を行い、得られたヤマウチアシボソトゲダニの数を数えた。この工程を3反復行うことにより、平均頭数および標準偏差を算出した。その結果を図4に示す。
図4に示すように、カビや微小節足動物の発生の有無については、A培地では青カビおよびハエ類の発生が、C培地では青カビの発生が確認された。これに対し、B培地、D培地、E培地およびF培地では、カビの発生はほとんど確認されず、ハエ類の発生は皆無であった。また、ヤマウチアシボソトゲダニの平均頭数は、A培地およびC培地では約700頭であり、B培地では約100頭、D培地、E培地およびF培地では、約200頭であった。
これらの結果から、籾殻、籾殻くん炭および発酵籾殻のいずれを含む培地においても、ヤマウチアシボソトゲダニが増殖することが明らかになった。すなわち、籾殻はヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻であることが示された。なお、ヤマウチアシボソトゲダニの増殖量が、籾殻>籾殻くん炭または発酵籾殻であった理由として、籾殻に付着していた穀物がケナガコナダニの餌となってケナガコナダニが増殖し、結果としてヤマウチアシボソトゲダニが十分量の餌を得ることができ、その分増殖できたためと考えられる。
<実施例4>ヤマウチアシボソトゲダニおよび穀物殻のホウレンソウケナガコナダニに対する防除効果(室内試験)
60mm×50mm×10mmのアクリルケースに、ピートモス培土(無肥料)25mLを入れ、実施例1(2)のホウレンソウケナガコナダニを含む粉末乾燥ビール酵母50mg(成虫、若虫および幼虫計約1000頭相当)を混和することにより土壌サンプルを作成した。この土壌サンプルに下記a、b、cおよびdの処理をそれぞれ行い、170mm×120mmのチャック袋に入れて20℃で8日間静置した後、土壌の全量をツルグレン装置に供して24時間分離を行い、得られたホウレンソウケナガコナダニおよびヤマウチアシボソトゲダニの数をそれぞれ数えた。この工程を3反復行うことにより、平均頭数および標準偏差を算出した後、平均頭数についてグラフに表した。その結果を図5に示す。
処理a:実施例3のA培地10mLを加えるという処理。
処理b:実施例3のF培地10mLを加えるという処理。
処理c:実施例3のF培地10mLを加え、実施例1(1)のヤマウチアシボソトゲダニの成虫20頭を放飼するという処理。
処理d:実施例3のB培地10mLを加え、実施例1(1)のヤマウチアシボソトゲダニの成虫20頭を放飼するという処理。
図5に示すように、処理aを行った場合は、処理bを行った場合と比較して、ホウレンソウケナガコナダニの頭数が顕著に大きかった。この結果から、籾殻は、発酵籾殻と比較してホウレンソウケナガコナダニの生存に適することが明らかになった。これは、籾殻に付着した米がホウレンソウケナガコナダニの餌となってホウレンソウケナガコナダニの生存や増殖に資するのに対し、付着した米が発酵により除去処理ないし分解処理された発酵籾殻は、ホウレンソウケナガコナダニの生存や増殖に資するところがないためと考えられる。
すなわち、ホウレンソウケナガコナダニの防除のため、ヤマウチアシボソトゲダニと共に土壌に散布すべきヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻は、付着した穀物を除去処理および/または分解処理したものが最適であることが示された。
また、処理cおよび処理dを行った場合はいずれも、処理aおよび処理bを行った場合と比較して、ホウレンソウケナガコナダニの頭数が顕著に少なかった。この結果から、ヤマウチアシボソトゲダニを発酵籾殻または籾殻くん炭と共に土壌に加えると、ホウレンソウケナガコナダニの密度を抑制することができることが明らかとなった。すなわち、付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻とヤマウチアシボソトゲダニとを散布すると、ホウレンソウケナガコナダニを防除することができることが示された。
<実施例5>ヤマウチアシボソトゲダニおよび発酵籾殻のホウレンソウケナガコナダニに対する防除効果(圃場試験)
(1)ホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬の製造
容量200Lのプラスチック容器に籾殻100Lを入れ、水道水10Lおよびアーゼロンゆうき(日本ライフ社)1Lを混和した後、農業用ビニールを被せて20〜30℃で約1か月間静置して籾殻を発酵させた。その後、アーゼロンゆうき(日本ライフ社)1Lと水道水6Lとを再び加えて切り返し、同温度条件下でさらに1ヶ月間静置することにより籾殻を発酵させ、発酵籾殻を含む培地(発酵籾殻大容量培地)を作成した。この発酵籾殻大容量培地が入ったプラスチック容器に、実施例1(1)のヤマウチアシボソトゲダニを含む発酵籾殻培地を5%(容積比)の割合で加え、ベニヤ板で蓋をして20〜25℃、湿度90〜95%の条件下で1ヶ月間静置することによりヤマウチアシボソトゲダニを増殖させた。静置の間、7日間に1回の頻度で、実施例1(1)のケナガコナダニを含む約300mLの小麦ふすまを食餌として与えた。こうして増殖させたヤマウチアシボソトゲダニを含む発酵籾殻大容量培地をホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬とした。なお、増殖させた後のヤマウチアシボソトゲダニ頭数を数えると、1容器あたり約35000頭であり、大量に増殖させることができたことが確認された。
(2)圃場試験
20011年6月1日に播種した施設栽培ホウレンソウ圃場(上川農業試験場内)において、18mの区画を2つ設定し、散布区および無散布区とした。2011年6月6日に、散布区にのみ、本実施例5(1)のホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を2.7L(150L/10ha相当)散布した。播種時、散布直前、散布から7日後、15日後および22日後に、散布区および無散布区から土壌を100mLずつ採集し、ツルグレン装置に供して24時間分離を行い、得られたホウレンソウケナガコナダニの数を数えて土壌100mL当たりの密度を算出した。土壌の採取を3反復行って平均密度を算出した後、下記の式を用いて補正密度指数を算出し、グラフに表した。その結果を図6に示す。なお、補正密度指数とは、当該散布前の土壌におけるホウレンソウケナガコナダニの密度の違いを考慮し、各調査時点の無散布区の密度を100とした場合の、散布区におけるホウレンソウケナガコナダニの発生割合を示すものである(「農薬委託試験実施の手引き」日本植物防疫協会)。
補正密度指数=(散布区の7日後、15日後または22日後の平均密度/散布区の散布直前の平均密度)×(無散布区の散布直前の平均密度/無散布区の7日後、15日後または22日後の平均密度)×100
図6に示すように、散布区では、無散布区と比較して、7日後、15日後および22日後のいずれの時点においてもホウレンソウケナガコナダニの補正密度指数が低い結果となった。また、土壌表面の発酵籾殻には、ホウレンソウの収穫期に至るまで、ヤマウチアシボソトゲダニの成虫が確認された(データは図示しない)。これらの結果から、発酵籾殻とヤマウチアシボソトゲダニとを含むホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬をホウレンソウ圃場に散布すると、ヤマウチアシボソトゲダニは土壌表面に長期間存在して、ホウレンソウケナガコナダニの密度を抑制することができることが明らかになった。すなわち、付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻とヤマウチアシボソトゲダニとを有効成分とするホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬は、土壌への定着性を有し、安定的かつ持続的にホウレンソウケナガコナダニを防除することができることが示された。
(3)比較試験
本実施例5(1)の生物農薬をツルグレン装置に供して24時間分離を行い、発酵籾殻大容量培地とヤマウチアシボソトゲダニとを分離して、ヤマウチアシボソトゲダニを採集した。続いて、ホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬を当該採集したヤマウチアシボソトゲダニに代え、本実施例5(2)に記載の方法に従い圃場試験を行い、ホウレンソウケナガコナダニの平均密度および補正密度指数を算出した。
その結果、散布区では、ヤマウチアシボソトゲダニはホウレンソウケナガコナダニをすべて捕食する前に散布区外へ逃げてしまったため、22日後の補正密度指数はほぼ100となった。これらの結果から、発酵籾殻を併せて散布せずに、ヤマウチアシボソトゲダニのみをホウレンソウ圃場に散布すると、ヤマウチアシボソトゲダニは速やかにいなくなってしまい、ホウレンソウケナガコナダニの密度を持続的に抑制することができないことが明らかになった。すなわち、付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻を併せて散布せず、ヤマウチアシボソトゲダニのみを散布した場合は、土壌への定着性がなく、ホウレンソウケナガコナダニに対する持続的な防除効果が得られないことが示された。

Claims (6)

  1. 付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻であってヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻とヤマウチアシボソトゲダニとを有効成分とするホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬。
  2. 付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻が発酵または炭化させた穀物殻である、請求項1に記載のホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬。
  3. 穀物殻が籾殻である、請求項1または請求項2に記載のホウレンソウケナガコナダニ防除用生物農薬。
  4. ホウレンソウケナガコナダニを防除する方法であって、
    少なくとも付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻であってヤマウチアシボソトゲダニが定着可能な穀物殻とヤマウチアシボソトゲダニとを散布する工程
    を有する前記方法。
  5. 付着した穀物を除去処理および/または分解処理した穀物殻が発酵または炭化させた穀物殻である、請求項4に記載の方法。
  6. 穀物殻が籾殻である、請求項4または請求項5に記載の方法。
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