JP2013032578A - ターゲット及び硬質被膜被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Cr1-x-y-zAlx[Ni1-aZra]yMzで表される組成を有し、相対密度が95%以上であり、切削工具用硬質被膜を形成するために用いられるターゲット。但し、Mは、Ti、Nb、Si、B、W及びVから選ばれる少なくとも1種の元素、0.5≦x≦0.8、0.01≦y≦0.35、0≦z≦0.2、0.51≦x+y+z<1、0.2≦a≦0.5。基材と、基材の表面に形成された、上記ターゲットを用いて形成された窒化物、炭化物又は炭窒化物を含む硬質被膜とを備えた硬質被膜被覆切削工具。
【選択図】図3
Description
例えば、特許文献1には、基材表面にCr−Al−Ni−N系被膜が形成された表面被覆切削工具が開示されている。
同文献には、被膜中にNiが含まれていると、被膜の耐摩耗性と耐酸化性とが飛躍的に向上する点が記載されている。
一方、Cr−Al−N系被膜にNiを添加すると、ある程度の硬さを保ったまま、膜の密着性を向上させることができる。しかしながら、Cr−Al−Ni−N系被膜であっても、耐摩耗性と密着性(耐久性)とを高度に両立させることは困難である。
Cr1-x-y-zAlx[Ni1-aZra]yMzで表される組成を有し、相対密度が95%以上であり、切削工具用硬質被膜を形成するために用いられるものからなる。
但し、
Mは、Ti、Nb、Si、B、W及びVから選ばれる少なくとも1種の元素、
0.5≦x≦0.8、0.01≦y≦0.35、0≦z≦0.2、
0.51≦x+y+z<1、0.2≦a≦0.5。
基材と、
前記基材の表面に形成された、請求項1に記載のターゲットを用いて形成された窒化物、炭化物又は炭窒化物を含む硬質被膜と
を備えている。
これは、
(a)被膜にNiを添加することによって、被膜の靱性が向上するため、及び、
(b)従来のCr−Al−Ni系被膜に比べ、被膜中に熱伝導率の高いZr(C、N)が形成されるため、
と考えられる。
さらに、Cr−Al−(Zr、Ni)−(C、N)系被膜に元素Mを添加すると、被膜の耐摩耗性及び密着性がさらに向上する。
[1. ターゲット]
本発明に係るターゲットは、
Cr1-x-y-zAlx[Ni1-aZra]yMzで表される組成を有し、相対密度が95%以上であり、切削工具用硬質被膜を形成するために用いられるものからなる。
但し、
Mは、Ti、Nb、Si、B、W及びVから選ばれる少なくとも1種の元素、
0.5≦x≦0.8、0.01≦y≦0.35、0≦z≦0.2、
0.51≦x+y+z<1、0.2≦a≦0.5。
(1)Cr量(1−x−y−z):
Crは、被膜の硬度及び耐摩耗性を向上させる効果がある。Cr量は、さらに好ましくは、0.2以上である。
一方、Cr量が過剰になると、被膜強度及び耐剥離性が低下する。従って、Cr量は、0.49以下である必要がある。Cr量は、さらに好ましくは、0.3以下である。
Alは、被膜の硬度及び耐酸化性を向上させる効果がある。このような効果を得るためには、Al量は、0.5以上である必要がある。Al量は、さらに好ましくは、0.55以上である。
一方、Al量が過剰になると、被膜硬度及び耐摩耗性が低下する。従って、Al量は、0.8以下である必要がある。Al量は、さらに好ましくは、0.70以下である。
Niは、被膜の硬度を低下させるが、耐摩耗性を向上させる効果がある。これは、被膜中に、比較的低硬度なNi窒化物が生成され、これが切削加工時の負荷応力を軽減し、割れや剥離を低減させるためと考えられる。
また、ZrによるNiの一部置換は、被膜の硬度を向上させ、かつ、耐摩耗性をさらに向上させる効果がある。本発明者らは、Zrの窒化物や炭化物は、CrやTi等の窒化物や炭化物に比べて、硬度は同等で熱伝導率が高い、との知見を得ている。ZrによるNiの一部置換によって被膜の硬度や耐摩耗性が向上するのは、被膜中にZrの窒化物や炭化物が生成するためと考えられる。
一方、Zr+Ni量が過剰になると、かえって耐摩耗性が低下する。これは、被膜全体が軟化するためと考えられる。従って、Zr+Ni量は、0.35以下である必要がある。Zr+Ni量は、さらに好ましくは、0.15以下である。
Niと同族元素であるFe、Ru、Os、Co、Rh、Irにおいても、被膜の靱性が向上する。しかしながら、Zrとの組み合わせにおいて、複数の化合物(Ni5Zr、Ni7Zr2、Ni3Zr、Ni21Zr8、Ni10Zr7、Ni11Zr9、NiZr、NiZr2)を形成するNiが、製造する上で最も適していることを確認した。すなわち、合金試料を作製する上で、ZrとNiとの配合を簡便に行うことができる。
ZrによるNiの置換量(a値)は、被膜の耐摩耗性に影響を与える。一般に、a値が大きくなるほど、被膜の耐摩耗性が向上する。これは、Zrの窒化物や炭化物による放熱作用が増大するためと考えられる。このような効果を得るためには、a値は、0.2以上である必要がある。a値は、さらに好ましくは、0.35以上である。
一方、a値が過剰になると、Niによる負荷応力軽減効果が小さくなり、かえって耐摩耗性が低下する。また、必要以上のZrの添加は、高コスト化を招く。従って、a値は、0.5以下が好ましい。
Mは、任意元素であり、Ti、Nb、Si、B、W及びVから選ばれる少なくとも1種の元素からなる。これらの内、Tiは、CrNよりも高硬度のTiAlNを析出させる効果がある。Nbは、軟質なAlNの析出を抑制することで、被膜中のAl量を増加させ、被膜を高硬度化させる効果がある。Si及びBは、AlNを微細化及び分散させると考えられ、結果として高硬度化の効果がある。Vは、ドライ切削中における潤滑効果があると考えられる。さらに、Wは、高融点元素であり、ターゲットに含有させることでドロプレットを抑制する効果、及び、被膜の高硬度化や耐酸化性を向上させる効果があると考えられる。
一方、元素Mの含有量が過剰になると、製造上硬さを確保する観点からAlを相対的に少なくせざるを得ないため、かえって耐摩耗性が低下する。従って、M量は、0.20以下である必要がある。M量は、さらに好ましくは、0.10以下である。
一般に、ターゲットの相対密度が低い場合、開気孔中に含まれるガス等の不純物が成膜時に雰囲気中に放出され、被膜性能を劣化させる。また、ターゲットの相対密度が低くなるほど、ターゲットの消耗が不均一となり、ターゲットの強度も低下する。従って、ターゲットの相対密度は、95%以上である必要がある。ターゲットの相対密度は、さらに好ましくは、98%以上である。
本発明に係るターゲットは、切削工具用硬質被膜を形成するために用いられる。
本発明が適用される切削工具は、特に限定されるものではなく、あらゆる切削工具に対して適用することができる。切削工具としては、具体的には、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型チップ、エンドミル用刃先交換型チップ、フライス加工用刃先交換型チップ、旋削加工用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切り工具、リーマ、タップなどがある。
ターゲットは、成分元素を含む粉末を混合し、混合粉を冷間〜熱間において加圧することにより製造することができる。
原料粉末は、成分元素を含む純金属、合金又は化合物のいずれであっても良い。但し、Zrは、製造上、単体での取扱が難しいので、ZrNi化合物を用いるのが好ましい。
成形方法としては、例えば、冷間静水圧成型(CIP)法、熱間静水圧成形(HIP)法、熱間押出法、超高圧ホットプレス法などがある。ZrNi化合物を用いた場合、ターゲット材は、これらの成形方法で容易に製造できる。成形条件は、特に限定されるものではなく、所定の相対密度が得られる条件であればよい。
本発明に係る硬質被膜被覆切削工具は、基材と、硬質被膜とを備えている。
基材は、特に限定されるものではなく、切削工具として一般に用いられる、あらゆる材料を用いることができる。
基材としては、具体的には、
(1)WC−Co系合金、WC−TiC−Co系合金、WC−TaC−Co系合金、WC−TiC−TaC−Co系合金などの超硬合金、
(2)TiC−Mo2C−Ni、TiC−TiN−WC−Mo2C−Niなどのサーメット、
(3)高速度鋼、
(4)TiC、SiC、Si3N4、AlN、Al2O3、立方晶BN、ダイヤモンド、Al2O3−TiCなどのセラミックス、
などがある。
硬質被膜は、本発明に係るターゲットを用いて、窒素及び/又は炭素共存下において基材表面に形成されたものからなる。そのため、硬質被膜は、成膜時の雰囲気中に含まれる窒素濃度及び炭素濃度に応じて、ターゲットを構成する金属元素の窒化物、炭化物又は炭窒化物を含む。
成膜条件は、特に限定されるものではなく、目的とする硬質被膜が効率よく形成されるように、ターゲット組成や成膜雰囲気に応じて、最適な条件を選択すればよい。
Cr−Al−Niのターゲット材を用いて被膜を形成すると、被膜硬度の低下が認められたが、切削試験では摩耗量が少ないことが実験からわかった。これは、Niを添加すると、Cr−Al−N系被膜中に、比較的低硬度なNi窒化物が生成することによるものと考えられる。Cr−Al−N系被膜は、非常に被膜硬度が高いため、例えば、切削工具等に被覆して使用する際、被加工材と接触する時の負荷応力で割れて、剥離してしまい、本来の優れた特性を発揮できない場合があると考えられる。しかし、内部に比較的低硬度なNi窒化物を含有させることで、負荷応力が緩和され、割れや剥離の抑制ができ、切削試験での工具の摩耗を低減できたと考えられる。
そして、この負荷応力の緩和は、Niが窒素とNi4N化合物を形成することにより作用している、と考えられる。すなわち、Fe、Co等の元素は、窒化物を形成する際、FeN、CoNとして存在するが、本発明の場合には、Niの介在量が多くなることにより、負荷応力の緩和、つまり、さらなる靱性の向上にも寄与するものと推察される。
[1. 試料の作製]
成分元素を含む粉末を成形することにより、Cr−Al−(Zr、Ni)−Mターゲットを作製した。Zr源には、ZrNi化合物粉末を用いた。相対密度は、98%であった。
次に、作製したCr−Al−(Zr、Ni)−Mターゲット及びPVD装置を用いて、R0.5のラジアス超硬エンドミル(φ6mm)に被膜をコーティングした。PVDコーティング条件は、以下の通りである。
コーティング時間: 20min
コーティング温度: 500℃
バイアス電圧: 100V
ガス圧力: 3.0Pa
アーク電流: 100A
ガス流量: 窒化膜の場合 N2=300ccm
炭窒化膜の場合 N2=200ccm、CH4=100ccm
マシニングセンターを用いて、エンドミルの切削試験を行った。切削条件は、以下の通りである。
切削方法: 高速仕上げ加工
被削材: JIS SKD61 (HRC45)
工具: 超硬ラジアスエンドミル(2枚羽)
切り込み: 軸方向0.3mm、径方向0.3mm
主軸回転数: 5000rpm(加工部位での周速:約100m/min)
テーブル送り速度: 400mm/min
切削油: 無し、ドライ切削(エアーブロー)
表1に、結果を示す。なお、表1には、ターゲット組成を併せて示した。被膜の組成は、通常、ターゲット組成にほぼ一致する。また、図2に、Cr0.3Al0.6[Ni1-aZra]0.1のZr量(a値)と切削距離10mでのラジアスエンドミルのR部の最大摩耗量との関係を示す。さらに、図3に、Cr0.4-yAl0.6[Ni0.5Zr0.5]yのZr+Ni量(y値)と切削距離10mでのラジアスエンドミルのR部の最大摩耗量との関係を示す。
(1)y=0.1の場合、Zr量(a値)が大きくなるほど、最大摩耗量が少なくなる。また、a≧0.2とすると、最大摩耗量が120μm以下となる。
(2)a=0.5の場合、Zr+Ni量(y値)が0.01〜0.35のときに、最大摩耗量が120μm以下になる。
(3)元素Mを添加すると、最大摩耗量は、いずれも100μm以下になる。
これに対し、実施例では、最大摩耗量が120μm以下であり、十分な耐摩耗性及び密着性を備えていることが確認できた。
なお、ZrNi化合物以外の生成可能なZr−X化合物(X=Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir)を用いた試験を行ったが、製造上適用可能なZr/X比の観点から、a=0.2とした組成しか製造できなかった。
本発明に係る硬質被膜被覆切削工具は、各種切削加工に用いることができる。
Claims (2)
- Cr1-x-y-zAlx[Ni1-aZra]yMzで表される組成を有し、相対密度が95%以上であり、切削工具用硬質被膜を形成するために用いられるターゲット。
但し、
Mは、Ti、Nb、Si、B、W及びVから選ばれる少なくとも1種の元素、
0.5≦x≦0.8、0.01≦y≦0.35、0≦z≦0.2、
0.51≦x+y+z<1、0.2≦a≦0.5。 - 基材と、
前記基材の表面に形成された、請求項1に記載のターゲットを用いて形成された窒化物、炭化物又は炭窒化物を含む硬質被膜と
を備えた硬質被膜被覆切削工具。
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