第1の発明は、被加熱物を収納する加熱室と、マイクロ波を発生するマイクロ波発生手段と、マイクロ波を伝送する導波手段と、前記加熱室内にマイクロ波を放射するマイクロ波放射部を有しており、前記マイクロ波放射部が位置する前記導波手段内のマイクロ波の位相により、前記加熱室内に放射するマイクロ波の指向性を調整するとしたものである。
これによって、加熱室内のマイクロ波分布を変化させる制御因子が多くなり、筐体内部の構成部品により設置位置が制限され、導波手段が加熱室の内壁の中心に対して非対称に設置された場合でも、均一なマイクロ波加熱を実現し易くすることができる。
第2の発明は、特に、第1の発明において、前記導波手段内のマイクロ波の位相における概腹位置に前記マイクロ波放射部を設置することにより、前記加熱室内に放射するマイクロ波が前記導波手段内のマイクロ波の伝送および電界方向に対して直角方向に指向性を有するものである。
これによって、伝送および電界方向に対して直角方向に放射されるマイクロ波量を増加させることにより、均一および高効率なマイクロ波加熱を実現できる。
第3の発明は、特に、第1の発明において、前記導波手段内のマイクロ波の位相における概節位置に前記マイクロ波放射部を設置することにより、前記加熱室内に放射するマイクロ波が前記導波手段内のマイクロ波の伝送方向に指向性を有するものである。
これによって、伝送方向に放射されるマイクロ波量を増加させることにより、均一および高効率なマイクロ波加熱を実現できる。
第4の発明は、特に、第1〜3のいずれか1つの発明において、前記マイクロ波放射部を複数有するものである。
これによって、加熱室内のマイクロ波分布を調整すれば、広範囲において、より均一な加熱を実現するこが可能となる。
第5の発明は、特に、第4の発明において、少なくとも2つの前記マイクロ波放射部が、前記導波手段内のマイクロ波の概同位相にそれぞれ位置するとしたものである。
これによって、より均一な加熱を実現することが可能となる。
第6の発明は、特に、第4の発明において、少なくとも2つの前記マイクロ波放射部が、前記導波手段内のマイクロ波の異なる位相にそれぞれ位置するとしたものである。
これによって、より均一な加熱を実現することが可能となる。
第7の発明は、特に、第1〜6のいずれか1つの発明において、前記マイクロ波放射部が、円偏波を放射する形状となっているものである。
これによって、より均一な加熱を実現することが可能となる。
以下、本発明に係るマイクロ波加熱装置の好適な実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態のマイクロ波加熱装置においては電子レンジについて説明するが、電子レンジは例示であり、本発明のマイクロ波加熱装置は電子レンジに限定されるものではなく、誘電加熱を利用した加熱装置、生ゴミ処理機、あるいは半導体製造装置などのマイクロ波加熱装置を含むものである。また、本発明は、以下の実施の形態の具体的な構成に限定されるものではなく、同様の技術的思想に基づく構成が本発明に含まれる。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるマイクロ波加熱装置の横断面図である。図2(a)は、本発明の実施の形態1におけるマイクロ波加熱装置のマイクロ波放射部と被加熱物の上面図、(b)は本発明の実施の形態1におけるマイクロ波加熱装置のマイクロ波放射部と定在波の関係説明図である。
すなわち、加熱室101と導波手段103とマイクロ波放射部104と被加熱物105の位置関係、およびマイクロ波放射部104と導波手段103内に生じる定在波206の関係を説明するための図である。
図3は、本発明の実施の形態1におけるマイクロ波加熱装置の導波手段の電界と磁界と電流の関係説明図であり、導波手段103内に生じる電界301、磁界302、電流303の関係を説明するための図である。
図4は、マイクロ波放射部104の位置する導波手段103内のマイクロ波の位相により、放射されるマイクロ波の指向性が変化することを説明するための図であり、これらの結果は電磁界解析により求めた。図5(a)は、本発明の実施の形態1におけるマイクロ波加熱装置のマイクロ波放射部とマイクロ波加熱弱領域の上面図(b)本発明の実施の形態1におけるマイクロ波放射部と定在波の関係説明図である。
すなわち、加熱室101と導波手段103とマイクロ波放射部104とマイクロ波加熱の弱領域501の位置関係およびマイクロ波放射部104と導波手段103内に生じる定在波206の関係を説明するための図である。
図1に示すように、本実施の形態のマイクロ波加熱装置である電子レンジは、被加熱物105を収納する加熱室101と、マイクロ波発生手段102と、マイクロ波発生手段102から供給されるマイクロ波を加熱室101へ伝送するための導波手段103と、加熱室101内にマイクロ波を放射するマイクロ波放射部104とを有している。
なお、マイクロ波発生手段102にはマグネトロン、導波手段103には矩形導波管、マイクロ波放射部104には導波手段103に設けた開口部を用いることでこの構成を容易に実現できる。
図2に示すように、加熱室101内にマイクロ波を放射する複数のマイクロ波放射部104を有している。さらに、導波手段における伝送方向の中心軸203が導波手段103を設置した加熱室の内壁の中心201を通らない位置関係となっている構成として説明を行なう。
なお、本発明において、導波手段における伝送方向の中心軸203が導波手段103を設置した加熱室の内壁の中心201を通らない位置関係となっている構成をオフセンタと呼ぶ。
以上のように構成されたマイクロ波加熱装置について、以下その動作、作用を説明する。
最初にマイクロ波加熱装置の概略動作について説明を行う。使用者により加熱室101内に被加熱物105が置かれ、加熱開始指示が行われると、マイクロ波加熱装置は、マイクロ波発生手段102であるマグネトロンから導波手段103内にマイクロ波を供給し、加熱室101と導波手段103とを接続しているマイクロ波放射部104を通じて、加熱室101内にマイクロ波を放射することで、マイクロ波加熱装置は被加熱物105の加熱を行なう。
次に、加熱室101の内壁形状502による、加熱室101内のマイクロ波分布の不均一性について説明する。
加熱室101内の内壁形状502は、非対称である場合が多く、誘電率の異なる多数の部品が取付けられている。具体例としては、主に以下の3点が挙げられる。1点目は、被加熱物105を取出すためのドア106およびドアガラス107が取付けてあることである。2点目は、被加熱物105を輻射加熱するために上面または底面にヒータ108が取付けてあることである。3点目は、被加熱物105を対流加熱するために背面裏側にヒータ108および対流ファン109を取付けるため、内壁形状502が複雑となっていることである。
上記のように、加熱室101の内壁形状502が非対称または誘電率の異なる部品が取付けられていると、加熱室101の内壁で反射して被加熱物105を加熱する反射波による加熱が不均一となる。
なお、本発明において、マイクロ波放射部104から放射され非加熱物を直接加熱するマイクロ波を直接波と呼び、加熱室101の内壁で反射したマイクロ波を反射波と呼ぶ。
次に、導波手段103と加熱室101の位置関係による、加熱室101内のマイクロ波分布の不均一性について説明する。
近年、マイクロ波加熱機能だけではなく、他の加熱方式(水蒸気加熱、輻射加熱、熱風加熱など)を有するマイクロ波加熱装置が登場している。このため、他の加熱機能の性能を確保するため、オフセンタとなる場合が多い。
このため、導波手段における伝送方向の中心軸203を対称軸にしてマイクロ波放射部104を配置したとしても加熱室101内に均一なマイクロ波分布を得ることは困難である。
具体例としては、主に以下の2点が挙げられる。1点目は、水蒸気加熱機能を有する場合であり、水蒸気加熱機能を実現するために水タンク110、ポンプ111、ヒータ108、加熱室101内へ水蒸気を噴出する噴出口112などを加熱室101内外に設置する必要があることである。
2点目は、輻射加熱機能を有する場合であり、上面または底面にヒータ108を設置す
る必要があることである。
また、マイクロ波加熱装置の筐体内に設置されているインバータ、マグネトロン、制御基盤などからの発熱量は多く、十分に冷却をしなければ、正常な動作ができない部品または焼損する部品がある。よって、十分な冷却性能を確保するために冷却風路113の設置位置が優先され、オフセンタとなる場合が多い。
以上のことより、マイクロ波放射部104から放射されるマイクロ波に指向性を持たせなければ、被加熱物105を均一にマイクロ波加熱することは困難である。
従来は、マイクロ波放射部104が、単一または導波手段における伝送方向の中心軸203が対称軸となるように配置していたため、導波手段103がオフセンタの場合は、加熱室101内のマイクロ波分布が加熱室の内壁の中心201に対して非対称となり、被加熱物105を均一に加熱することができなかった。
次に、マイクロ波放射部104から放射されるマイクロ波の指向性を調整する構成について説明する。
図2の(b)に示すように、導波手段103として矩形導波管を用いている場合、マイクロ波発生手段102から発生した進行波と導波管の終端202で反射した反射波が互いに干渉し、導波管内に定在波206が生じる。マイクロ波放射部104の位置する定在波206の位相によって、マイクロ波放射部104の有する指向性は変化する。指向性が変化する原理については以下で説明する。
図3を用いて、定在波206における電界301・磁界302・電流303の関係について説明する。進行波は電界301と磁界302の方向は90°ずれており、位相は同一である。これに対し、定在波206は電界301と磁界302の方向は90°ずれており、位相はπ/2ずれている。よって、定在波206が発生している矩形導波管内の電界301と磁界302の関係は図4のようになる。これは、定在波206の場合は、進行波が導波管の終端202で反射する際に、電界301の位相が180°ずれることが主な原因である。なお、電流303は導波手段103の表面を磁界302に直交する方向に流れる。
定在波206が発生している矩形導波管内の電界方向207に垂直な面にマイクロ波放射部104を設置した場合の、マイクロ波の指向性についての原理説明を行なう。
図3に示すように導波管内の定在波206について、概腹位置208と概節位置209にマイクロ波放射部104が置かれた場合について考える。マイクロ波放射部104における電流303の伝送方向205成分と伝送および電界方向に対して直角方向204成分を考えた場合、概腹位置に置かれたマイクロ波放射部104における電流303には伝送および電界方向に対して直角方向204成分が多い。
電流303の流れる方向と電界301が拡がる方向は同一であるので、放射されるマイクロ波は、伝送および電界方向に対して直角方向204に指向性を持つ。
また、概節位置に置かれたマイクロ波放射部104における電流303には伝送方向205成分が多い。このため、放射されるマイクロ波は、伝送方向205に指向性を持つ。
次に、マイクロ波放射部104直下の定在波206の位相と放射されるマイクロ波の指向性の関係を図4に示す。
なお、図4は本発明の実施の形態1におけるマイクロ波加熱装置の導波手段内に生じる定在波の位相と指向性の関係説明図であり、電磁界解析によって求めたものである。図4(a)は、導波管の終端からマイクロ波放射部104の距離を変えることにより、マイクロ波放射部104直下の導波管内の定在波の位相を変えた図、(b)は、位相が約0°(概腹位置)の場合は、上述の原理説明と同様に伝送方向205にマイクロ波の指向性を有することを示す図である。
定在波206の腹位置を位相0°とし、節位置を180°として、位相約0°から約180°まで約45°刻みで、マイクロ波放射部104から放射されるマイクロ波の分布を電磁界解析により求めた。
なお、図4の(a)に示すように、本解析では導波管の終端202からマイクロ波放射部104の距離を変えることにより、マイクロ波放射部104の位置する導波管内の定在波206の位相を変えている。
図4の(a)のように位相が約0°(概腹位置208)の場合は、上述の原理説明と同様に伝送および電界方向に対して直角方向204の指向性を有する。
位相を約45°ずらしていくことによって、マイクロ波の指向性は、反時計回りに推移していき、位相が約180°(概節位置209)の場合に伝送方向205にマイクロ波の指向性を有する。これも上述の原理説明と一致している。
上記の技術を応用することにより、狙った方向に指向性を有するマイクロ波放射部104を設置することができ、加熱室101内の不均一なマイクロ波分布を改善することが可能となる。
次に、図4に示した解析結果の解析条件を以下に記載する。
本解析では、矩形導波管を用いてマイクロ波発生装置であるマグネトロンから発生したマイクロ波を伝送し、導波管の伝送方向205には磁界302成分のみが存在して、電界301成分のない伝送モードであるH波(TE波;電気的横波伝送 Transverse Electric Wave)におけるTE10モードという伝送モードにより、マイクロ波が伝送されている場合を想定している。
なお、TE10モード以外の伝送モードがマイクロ波加熱装置の導波手段103に適用されることは殆どない。なお、導波管の伝送および電界方向に対して直角方向204の寸法の上限および下限は、マイクロ波の周波数と、導波管の電界方向207の寸法によって決定される。
本解析における矩形導波管は、電界方向207の寸法が30mm、伝送および電界方向に対して直角方向204の寸法が100mmとなっており、解析に用いたマイクロ波の周波数は2.46GHzとした。
また、放射方向を90°変えるために必要なマイクロ波放射部104の移動距離は、管内定在波206の約半波長分であり、解析に用いたマイクロ波の周波数は2.46GHzであるので、放射方向を90°変えるために必要なマイクロ波放射部104の移動距離は、約60mmとなる。
また、図2に示すように、マイクロ波放射部104の形状は2本のスリットを各スリッ
トの中央で直交させ、伝送方向205に対してスリットを45°傾けた構成となっている。
また、マイクロ波放射部104の数は1個、各スリットの長さは55mm、図4の(b)における指向性の表示データは実効放射電力である。
上記のオフセンタによる直接波・反射波の不均一性および加熱室101の内壁形状502・ドアガラス107などによる反射波の不均一性により、加熱室101内のマイクロ波分布が不均一になっている場合に、上述のマイクロ波放射部104の位置する導波手段103内のマイクロ波の位相により、放射するマイクロ波の指向性を調整し、加熱室101内のマイクロ波分布を改善する方法の一例を説明する。
まず、図2のように導波手段103が加熱室の内壁の中心201に対して、伝送および電界方向に対して直角方向204にオフセンタとなっている場合について考える。
従来のマイクロ波加熱を用いると、マイクロ波放射部104からの距離が長くなるに従って、被加熱物105の加熱が弱くなる傾向がある。よって、図2に示したような位置に置かれた被加熱物105においては、マイクロ波加熱は弱く、低効率な加熱となってしまう。
そこで、 上述のマイクロ波放射部104の位置する導波手段103内のマイクロ波の位相と指向性の関係を利用して、概腹位置208にマイクロ波放射部104を設置することにより、伝送および電界方向に対して直角方向204に放射されるマイクロ波量を増加させることにより、均一および高効率なマイクロ波加熱を実現できる。
また、図5のように加熱室101の内壁形状502・ドアガラス107などの影響による反射波の不均一性により、指向性のないマイクロ波放射部104を用いると、導波手段103の伝送および電界方向に対して直角方向204にマイクロ波加熱の弱領域501が生じる場合を考える。
この場合も上記のオフセンタの場合と同様に、概腹位置208にマイクロ波放射部104を設置することにより、伝送および電界方向に対して直角方向204に放射されるマイクロ波量を増加させることにより、均一および高効率なマイクロ波加熱を実現できる。
(実施の形態2)
図6の(a)は、本発明の実施の形態2におけるマイクロ波加熱装置のマイクロ波放射部と被加熱物の上面図(b)本発明の実施の形態2におけるマイクロ波加熱装置のマイクロ波加熱装置のマイクロ波放射部と定在波の関係説明図である。
すなわち、加熱室101と導波手段103とマイクロ波放射部104と被加熱物105の位置関係を示した図であり、導波手段103がオフセンタとなっていることを示している。また、図6の(b)は、マイクロ波放射部104の位置と導波手段103内の定在波206の位相の関係を示した図である。
図7の(a)は、本実施の形態における加熱室101と導波手段103とマイクロ波放射部104と被加熱物105の位置関係を示した図であり、加熱室101の内壁形状502・ドアガラス107などによる反射波の不均一性により、マイクロ波加熱の弱領域501が生じていることを示している。また、図7の(b)は、マイクロ波放射部104の位置と導波手段103内の定在波206の位相の関係を示した図である。
なお、図面において、(実施の形態1)と同一動作を示す部分は同一番号を付与している。また、(実施の形態2)における基本的な動作は(実施の形態1)と同様であるとして、以下その動作、作用を説明する。
(実施の形態1)と同様に図6および図7に示したように、オフセンタによる直接波・反射波の不均一性および加熱室101の内壁形状502・ドアガラス107などによる反射波の不均一性により、加熱室101内のマイクロ波分布が不均一になっている場合に、上述のマイクロ波放射部104の位置する導波手段103内のマイクロ波の位相により、放射するマイクロ波の指向性を調整し、加熱室101内のマイクロ波分布を改善する方法の一例を説明する。
まず、図6のように導波手段103が加熱室の内壁の中心201に対して、伝送方向205に偏った配置となっている場合について考える。
従来のマイクロ波加熱を用いると、マイクロ波放射部104からの距離が長くなるに従って、被加熱物105の加熱が弱くなる傾向がある。よって、図6に示したような位置に置かれた被加熱物105においては、マイクロ波加熱は弱く、低効率な加熱となってしまう。
そこで、 上述のマイクロ波放射部104の位置する導波手段103内のマイクロ波の位相と指向性の関係を利用して、概節位置209にマイクロ波放射部104を設置することにより、伝送方向205に放射されるマイクロ波量を増加させることにより、均一および高効率なマイクロ波加熱を実現できる。
また、図7のように加熱室101の内壁形状502・ドアガラス107などの影響による反射波の不均一性により、導波手段103の伝送および電界方向に対して直角方向204にマイクロ波加熱の弱領域501が生じる場合を考える。
この場合も上記のオフセンタの場合と同様に、概節位置209にマイクロ波放射部104を設置することにより、伝送方向205に放射されるマイクロ波量を増加させることにより、均一および高効率なマイクロ波加熱を実現できる。
(実施の形態3)
図8の(a)は、本発明の実施の形態3における加熱室101と導波手段103とマイクロ波放射部104と被加熱物105の位置関係を示した図である。図8の(b)は、マイクロ波放射部104の位置と導波手段103内の定在波206の位相の関係を示した図である。
図9は、本実施の形態におけるマイクロ波放射部104から放射される直接波の分布を電磁界解析により求めたものであり、指向性の表示データは実効放射電力である。なお、マイクロ波放射部104の数は2個であること以外は、(実施の形態1)の解析条件と同じである。
図面において、(実施の形態1)または(実施の形態2)と同一動作を示す部分は同一番号を付与している。また、(実施の形態3)における基本的な動作は(実施の形態1)および(実施の形態2)と同様であるとして、以下その動作、作用を説明する。
まず、複数のマイクロ波放射部104を有するマイクロ波加熱装置の利点について説明する。
単一のマイクロ波放射部104から放射されるマイクロ波には放射角があるため、単一
のマイクロ波放射部104で強く加熱できる範囲には限界があり、マイクロ波放射部104上が強く加熱される傾向があるため、不均一なマイクロ波加熱となってしまうことが多い。
特に、加熱室101の底面にマイクロ波放射部104が設置されている場合においては、被加熱物105がマイクロ波放射部104に対して近距離に置かれることが多く、マイクロ波が十分に拡がらず、マイクロ波の集中が顕著となる。
よって、マイクロ波放射部104の数を増やすことにより、加熱室101内のマイクロ波分布を調整すれば、広範囲において、より均一な加熱を実現するこが可能となる。
また、各々のマイクロ波放射部104の位置する導波手段103内のマイクロ波の位相を調整することにより、各々のマイクロ波放射部104から放射されるマイクロ波の指向性を調整すると供に、各々のマイクロ波放射部104から放射されるマイクロ波の相互干渉を利用して、単一のマイクロ波放射部104では実現できないマイクロ波分布を得ることが可能となり、均一加熱を実現することが可能となる。
次に、図8に示したように導波手段103内の定在波206の位相における概腹位置208に2個のマイクロ波放射部104を伝送方向205に並べて設置した際の加熱室101内への直接波の実効放射電力の分布が図9のようになる理由を説明する。
(実施の形態1)の図4で説明したように、概腹位置208に設置されたマイクロ波放射部104からは、伝送および電界方向に対して直角方向204に指向性を持ったマイクロ波が放射される。
本実施の形態では、概腹位置208に2個のマイクロ波放射部104が設置されており、各々のマイクロ波放射部104からそれぞれ伝送および電界方向に対して直角方向204に指向性を持ったマイクロ波が放射され、加熱室101内で相互干渉する。
任意の点でのマイクロ波の相互干渉は、各々のマイクロ波放射部104からの距離によって決定される。放射されるマイクロ波に指向性がない場合、任意の点までの各々のマイクロ波放射部104から距離の差がマイクロ波の加熱室101内での波長の1/2の偶数倍(0を含む)の時、マイクロ波は強め合い、奇数倍の時は弱め合う。
なお、一般的なマイクロ波加熱装置用いられるマイクロ波の周波数2.45GHzの場合、加熱室101内などの空気中での波長は、約120mmである。
しかしながら、概腹位置208に設置されたマイクロ波放射部104は、上述の指向性を有しているため、図8の(a)に示したように概腹位置208にある2個のマイクロ波放射部104を伝送方向205へ並べて設置した位置関係では、マイクロ波の相互干渉が直接波の分布に明瞭な影響を及ぼすことはなく、図9に示したように両方のマイクロ波放射部104から伝送および電界方向に対して直角方向204に指向性を持った実効放射電力の分布となる。
図9に示すような実効放射電力の分布の場合、図8の(a)に示したように、マイクロ波放射部104を中心として、実効放射電力の強い四隅に被加熱物105を置くことで、均一加熱が可能となる。
(実施の形態4)
図10の(a)は、本発明の実施の形態4における加熱室101と導波手段103とマ
イクロ波放射部104と被加熱物105の位置関係を示した図である。図10の(b)は、マイクロ波放射部104の位置と導波手段103内の定在波206の位相の関係を示した図である。
図11は、本実施の形態におけるマイクロ波放射部104から放射される直接波の分布を電磁界解析により求めたものであり、マイクロ波分布を実効放射電力で表示している。
図面において、(実施の形態1)〜(実施の形態3)と同一動作を示す部分は同一番号を付与している。また、(実施の形態4)における基本的な動作および電磁界解析の条件は(実施の形態1)〜(実施の形態3)と同様であるとして、以下その動作、作用を説明する。
まず、図10に示したように導波手段103内の定在波206の位相における概節位置209に2個のマイクロ波放射部104を、伝送方向205と伝送および電界方向に対して直角方向204に距離を有するように設置した際の加熱室101内への直接波の実効放射電力の分布が、図11のようになる理由を説明する。
(実施の形態1)の図4で説明したように、概節位置209に設置されたマイクロ波放射部104からは、伝送方向205に指向性を持ったマイクロ波が放射される。
本実施の形態では、概節位置209に2個のマイクロ波放射部104が設置されており、各々のマイクロ波放射部104からそれぞれ伝送方向205に指向性を持ったマイクロ波が放射され、加熱室101内で相互干渉する。
なお、(実施の形態3)で説明したように、任意の点でのマイクロ波の相互干渉は、マイクロ波放射部104の有する指向性と各々のマイクロ波放射部104からの距離とマイクロ波の波長によって決定される。
上述のように概節位置209に2個のマイクロ波放射部104を設置した場合、両方のマイクロ波放射部104は伝送方向205への指向性を有している。
図10の(a)に示したように概節位置209にある2個のマイクロ波放射部104を伝送方向205と伝送および電界方向に対して直角方向204に距離を有するように設置した位置関係では、図11に示すようにマイクロ波放射部104間の中央でマイクロ波が強め合い実効放射電力が強くなり、伝送方向205に指向性を持った実効放射電力の分布となる。
図11に示すような実効放射電力の分布の場合、図10の(a)に示したように、実効放射電力の強い伝送方向205に複数の被加熱物105を置くことで、均一加熱が可能となる。
(実施の形態5)
図12の(a)は、本発明の実施の形態5における加熱室101と導波手段103とマイクロ波放射部104と被加熱物105の位置関係を示した図である。また、図12の(b)は、マイクロ波放射部104の位置と導波手段103内の定在波206の位相の関係を示した図である。
図13は、本実施の形態におけるマイクロ波放射部104から放射される直接波の分布を電磁界解析により求めたものであり、マイクロ波分布を実効放射電力で表示している。
図14は、円偏波を放射するマイクロ波放射部104の形状の例を示した図である。
図面において、(実施の形態1)〜(実施の形態4)と同一動作を示す部分は同一番号を付与している。また、(実施の形態5)における基本的な動作および電磁界解析の条件は(実施の形態1)〜(実施の形態4)と同様であるとして、以下その動作、作用を説明する。
まず、円偏波の特徴および円偏波を用いたマイクロは加熱の利点について説明する。
円偏波とは、移動通信および衛星通信の分野で広く用いられている技術である。身近な使用例としては、ETC(Electronic Toll Collection System)「ノンストップ自動料金収受システム」などが挙げられる。円偏波は、電界301の偏波面が電波の進行方向に対して時間に応じて回転するマイクロ波であり、円偏波を形成すると電界301の方向が時間に応じて変化し続けるので、加熱室101内に放射されるマイクロ波の放射角度も変化し続け、時間的に電界強度の大きさが変化しないという特徴を有している。
前記の特徴により、従来のマイクロ波加熱装置に用いられている直線偏波によるマイクロ波加熱と比較して、広範囲にわたってマイクロ波が分散放射されて、被加熱物105を均一に加熱することができるようになる。特に、円偏波の周方向に対して均一加熱の傾向が強い。
なお、円偏波は回転方向から右旋偏波(CW:clockwise)と左旋偏波(CCW:counter clockwise)の2種類に分類されるが、加熱性能に違いはない。
よって、従来の直線偏波を用いたマイクロ波加熱装置によるマイクロ波加熱で問題とされていた、直接波と反射波の干渉によって生じる加熱室101内に定在波を緩和することが可能となり、より均一なマイクロ波加熱を実現することができる。
円偏波に対して、導波手段103内のマイクロ波は電場および磁場の振動方向が一定方向である直線偏波である。上記の直線偏波を加熱室101内に放射する従来のマイクロ波加熱装置においては、マイクロ波分布の不均一さを低減するために、被加熱物105を載置するテーブルを回転させる構造、導波手段103から加熱室101へマイクロ波を放射するアンテナを回転させる構造、または導波手段103内に位相器を設置しなければならなかった。
しかし、テーブル、アンテナを回転させる機構および位相器を設置しても、加熱室101内において十分均一なマイクロ波加熱を実現するには不十分である。さらに、回転機構および位相器を設置することにより、マイクロ波加熱装置の構造の複雑化、構造の制限または信頼性の低下が課題となる。
次に、円偏波を発生するマイクロ波放射部104の形状について説明する。特にここでは、少なくとも2本以上のスリットにより構成されるマイクロ波放射部104について述べる。
形状の例を示した図14(a)〜(f)のように、2本以上のスリットにより構成されており、このうちの少なくとも1本のスリットの長辺601をマイクロ波の伝送方向205に対して傾いた形状となっていれば良い。よって、図14の(e)および(f)のように交差していない形状や、図8の(d)のように3本のスリットにより構成されている形
状でも良い。
なお、図14に示すように2本のスリットにより構成されている円偏波を放射するマイクロ波放射部104の最良な形状の条件としては以下の3点が挙げられる。
1点目は、各スリットの長辺601の長さは導波手段103内を伝送されているマイクロ波の管内波長の1/4以上であることである。
2点目は、2本のスリットはお互いに直交していることおよび伝送方向205に対して各スリットの長辺が45°傾いていることである。
3点目は、導波手段103の伝送方向205に平行かつマイクロ波放射部104の中心を通る直線を軸として、電界301の分布が軸対照とならないことである。例えば、特許文献2で示されているように、TE10モードでマイクロ波を伝送している場合においては、導波手段における伝送方向の中心軸203を対称軸として電界301が分布しているので、マイクロ波放射部104の形状が、導波手段における伝送方向の中心軸203に対して軸対照とならないように配置することが条件となる。
次に、図12に示したように導波手段103内の定在波206の位相における概節位置209に2個のマイクロ波放射部104を伝送方向205に並べて配置し、前記の概節位置209のマイクロ波放射部104の伝送方向205の中間に、伝送および電界方向に対して直角方向204に距離を有するように、概腹位置208に1個のマイクロ波放射部104を設置した際の加熱室101内への直接波の実効放射電力の分布が、図13のようになる理由を説明する。
(実施の形態1)の図4で説明したように、概節位置209に設置されたマイクロ波放射部104からは、伝送方向205に指向性を持ったマイクロ波が放射され、概腹位置208に設置されたマイクロ波放射部104からは、伝送および電界方向に対して直角方向204に指向性を持ったマイクロ波が放射される。
本実施の形態では、概節位置209に2個、概腹位置208に1個のマイクロ波放射部104がそれぞれ設置されており、各々のマイクロ波放射部104からそれぞれに指向性を持ったマイクロ波と伝送および電界方向に対して直角方向204に指向性を持ったマイクロ波が放射され、加熱室101内で相互干渉する。
なお、(実施の形態3)で説明したように、任意の点でのマイクロ波の相互干渉は、マイクロ波放射部104の有する指向性と各々のマイクロ波放射部104からの距離とマイクロ波の波長によって決定される。
図12の(a)に示したように概節位置209に2個のマイクロ波放射部104を設置していることから、伝送方向205へマイクロ波を放射させることが可能となる。さらに、概腹位置208に1個のマイクロ波放射部104を設置していることから、伝送および電界方向に対して直角方向204へマイクロ波を放射させることが可能となる。
概節位置209と概腹位置208に設置されたマイクロ波放射部104から放射されるマイクロ波の指向性はほぼ直角方向であるため、マイクロ波の相互干渉が直接波の分布に明瞭な影響を及ぼすことはなく、3個のマイクロ波放射部104の中央を中心に円周方向に均一にマイクロ波を放射させることが可能となる。
なお、実効放射電力の分布は、マイクロ波放射部104の中央を中心から遠ざかるに従
って弱くなる傾向がある。
よって、図13に示すようにマイクロ波放射部104間の中央で実効放射電力が強く、3個のマイクロ波放射部104の中央を中心に円周方向に均一な指向性を持った実効放射電力の分布となる。
図13に示すような実効放射電力の分布の場合、3個のマイクロ波放射部104の中央から同距離に複数の被加熱物105を置くことによって、各被加熱物105を比較した場合に、均一加熱が可能となる。