JP2013000766A - 冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法、及び鋼板の変態率の制御方法 - Google Patents

冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法、及び鋼板の変態率の制御方法 Download PDF

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Abstract

【課題】熱間圧延プロセスにおける加熱設備、搬送装置、冷却装置などにおいて、鋼板の変態率を確実に求める。
【解決手段】本発明に係る鋼板Wにおける変態率の算出方法は、冷却又は加熱される鋼板Wの表面と外部とを行き来する熱量を予測する熱量予測工程と、冷却又は加熱される鋼板Wに生じる変態に伴って発生する熱量を、当該鋼板Wの過冷却の度合い又は過加熱の度合いに応じて予測する変態熱量予測工程と、熱量予測工程及び変態熱量予測工程が予測した熱量を用いつつ、鋼板Wと外部との熱収支を計算し鋼板Wの板温度を予測する板温度予測工程と、板温度予測工程が予測した板温度予測値を基に、鋼板Wの変態率を予測する変態率予測工程と、板温度予測工程が予測した板温度の予測値と実績値との差が減少するように、変態率予測工程で算出された変態率を修正する変態率修正工程と、を有する。
【選択図】図1

Description

本発明は、冷却又は加熱される鋼板における変態率を算出する方法、及びこの変態率の算出方法を利用し、鋼板の変態率を制御する方法に関する。
従来から、薄鋼板等の鋼板は、加熱装置で加熱された鋳片を複数の圧延機で連続的に圧延することで製造されており、最終圧延機の下流側には鋼板を巻き取るための巻き取り装置が設けられている。また、最終圧延機と巻き取り装置との間には、鋼板の温度を制御しつつ冷却を行う冷却装置が備えられ、加熱装置と圧延機との間には、搬送装置が備えられている。
加熱装置は、熱間圧延プロセス投入前の加熱炉や圧延機入側の誘導加熱手段などが該当し、鋳片を所定温度に加熱するものである。搬送装置は、例えば加熱装置で加熱された鋳片を圧延機に搬送する装置であったり、冷却装置で冷却された後の鋼板を下工程に搬送するものであって、搬送中の鋼板には自然冷却による温度低下が発生する。冷却装置は、圧延機で圧延後の鋼板に冷却水を吹き付けることで、所望の冷却速度で鋼板を冷却するものとなっている。
このように、鋼板の熱間圧延プロセスにおいては、鋼板を加熱したり冷却したりする装置・工程が多数あり、いずれの工程においても、正確な鋼板の温度(板温度)の予測や制御が不可欠である。
鋼板の板温度の予測や制御を行う技術は多く開発されており、例えば、特許文献1〜特許文献4に開示されたものがある。
特許文献1は、圧延材を冷却する冷却装置を制御するための冷却制御モデルを、操業の実績値に基づいて修正してゆく冷却制御モデルの学習方法において、前記冷却制御モデル内の熱伝達率と圧延材の板温度との非線形性関係を当該冷却制御モデルに反映させるべく、前記熱伝達率が補正パラメータを備えるものとし、該補正パラメータを板温度と学習パラメータとの関数で表現し、該学習パラメータの最適値を板温度の実績値を基に推定し、該推定結果を冷却制御モデルに適用する冷却制御モデルの学習方法を開示する。
特許文献2は、鋼板のAe3温度以上からの冷却工程で冷却終点温度を制御するに際して、それぞれの温度におけるオーステナイト相、フェライト相のエンタルピー(Hγ、Hα)をあらかじめ求めておき、目標温度パターンに対応して求めたオーステナイトの未変態分率(Xγ)から、Hsys=Hγ(Xγ)+Hα(1-Xγ)で定義される動的エンタルピー(Hsys)を求め、この動的エンタルピーの温度に対する傾きを動的比熱として用いて温度を予測する鋼板の冷却制御方法を開示する。
特許文献3は、熱間圧延機で圧延された金属の圧延材を、圧延機出側の搬送テーブルに設置された冷却手段で冷却し、巻取機前の巻取温度計で測定した圧延材の巻取温度を所定の温度目標値に制御する巻取温度制御装置において、前記圧延材が相変態を起こすことにより発生する変態発熱の量を予測して、その変態発熱の量を補償しながら、巻取温度を所定の温度目標値に一致させるように制御し、また、変態発熱の量を予測するための変態発熱モデルを学習する変態発熱モデル学習手段を備えた巻取温度制御装置を開示する。
特許文献4は、仕上圧延後の熱延鋼板を巻取装置までの間に多数配置された水冷装置よりなる冷却帯により冷却して巻取るに当り、前記冷却帯の前半部分において、予め熱延鋼板のγ→α変態が完了するまでの水冷および空冷パターンおよび各冷却時間を設定し、予測した材料速度を用いて前記冷却帯上での前記水冷および空冷区間の各冷却時間が確保されるのに必要な各水冷装置の開閉パターンを決定し、前記冷却帯の後半部分において、予測巻取温度が目標巻取温度となるような水冷および空冷パターンおよび各冷却時間を算出し、この水冷および空冷区間の各冷却時間が確保されるのに必要な各水冷装置の開閉パターンを決定し、これら決定した水冷および空冷パターンおよび各冷却時間に従った水冷装置の開閉パターンが実現されるように冷却装置の応答遅れを考慮して指令出力し、熱延鋼板のγ→α変態が完了するまでの温度履歴および巻取温度を一定に保つようにすることを特徴とする熱延鋼板の冷却制御方法を開示する。
特開2007−44715号公報 特開2006−193759号公報 特開2005−297015号公報 特開平6−238312号公報
前述した冷却装置を制御する制御部では、鋼板の搬送途中で計測された板温度の実績値を基に出側板温度の予測を行った上で、冷却制御を行っている。
しかしながら、板温度の予測誤差がフィードフォワード制御の精度を左右するなど、予測誤差が冷却制御に与える影響は大きい。係る状況を回避するために、制御部において予測結果の学習を行う手段が採用されることがあり、特許文献1は冷却装置を高精度に制御するための冷却制御モデルの学習方法を開示している。
特許文献1の技術は、冷却装置を高精度に制御するに際し非常に好適なものである。とはいえ、実際の現場で発生する全ての状況に柔軟に対応できるものとは言い難い。
例えば、実際の現場における冷却装置では、種々の要因により圧延速度が変化し、それに伴い冷却装置での搬送速度も変化する。搬送速度が変わると、鋼板の先端部と尾端部とで冷却時間が異なるようになり、ひいては鋼板の冷却温度履歴も変化するようになる。
冷却温度履歴が変化すると、鋼板の変態温度域も変化することは当業者間では知られており、より高精度の温度予測や冷却装置の制御を行うために、この変態温度域の変化を加味した板温度予測の技術、言い換えるならば、「鋼板の変態率」を予測し、それを反映させた板温度予測の技術が必要である。
係る観点に立ち、鋼板の変態を考慮した板温度予測の技術を開示するのが、特許文献2〜特許文献4である。
しかしながら、変態に伴う発熱のメカニズムは複雑であり、実際の現場において特許文献2〜特許文献4の技術を採用しようとしたとしても、変態率の推定や変態発熱量の推定は困難を極めるのが実情である。特に、変態発熱量が大きい高シリコン鋼や高炭素鋼ではその影響が大きい。
前述した特許文献2の技術は、変態による発熱温度域を固定し、変態熱を比熱換算してフェライト比熱を予め足しこんでいるため、発熱温度域が変化した場合など、上記したような実際の操業に柔軟に対応できないものとなっている。
特許文献3においては、発熱モデルとして温度に依存するモデルを与えているが、それがどのようにして求められるのか全く記述が無く、実際の操業に適用しようとしても困難を極める。
特許文献4においては、熱延鋼板のγ→α変態が完了するまでの温度履歴および巻取温度を一定に保つようにしているものの、実際の圧延時においては、γ→α変態が完了するまでの温度履歴が一定であることは少なく、鋼板の組成などによって変態温度域が異なることが常である。加えて、γ→α変態がどの時点で始まりどの時点で完了するかに関しても理論通りにはゆかず実際の圧延時においては不明なことが多い。それ故、特許文献4の技術を実際の操業に適用しようとしても変態発熱量の推定は困難を極める。
以上のことに加え、特許文献2〜特許文献4には、「鋼板の変態率」を予測しそれに基づいて高精度の温度予測を行う技術思想の開示はなく、変態温度域の変化を予測する、すなわち「鋼板の変態率」を算出する具体的な手法の開示すら見当たらない。現状では、実用に耐えうる変態率の算出方法は開発されていないのが実情である。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、熱間圧延プロセスにおける加熱設備、搬送装置、冷却装置での温度予測に非常に好適な技術であって、冷却又は加熱時における鋼板の変態率を確実に求める方法を提案することを目的とする。加えて、この変態率の算出方法を利用しつつ、例えば冷却終了時における鋼板の変態率を確実に制御する方法を提案することを目的とする。
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係る変態率の算出方法は、熱間圧延プロセスにて冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法であって、冷却又は加熱される鋼板の表面と外部とを行き来する熱量を予測する熱量予測工程と、冷却又は加熱される鋼板に生じる変態に伴って発生する熱量を、当該鋼板の過冷却の度合い又は過加熱の度合いに応じて予測する変態熱量予測工程と、前記した熱量予測工程及び変態熱量予測工程が予測した熱量を用いつつ、前記鋼板と外部との熱収支を計算し鋼板の板温度を予測する板温度予測工程と、前記した板温度予測工程が予測した板温度の予測値を基に、鋼板の変態率を予測する変態率予測工程と、前記した板温度予測工程が予測した板温度の予測値と実績値との差が小さくなるように、前記した変態率予測工程で算出された変態率を修正する変態率修正工程と、を有することを特徴とする。
この算出方法によれば、変態率予測工程が予測した変態率を、変態率修正工程が板温度の予測値と実績値との差が小さくなるように修正するため、冷却又は加熱時における鋼板の変態率を正確に求めることができるようになる。加えて、得られた正確な変態率を用いることで、的確な鋼板の冷却制御などが可能となる。
なお、変態により発生する熱量とは、具体的には、変態発熱量又は変態熱速度のことであり、本発明における変態とは、A3やA1,Ar’,Ar”変態などの鉄の同素変態や、Acm変態などのセメンタイト変態、鉄の同素変態とセメンタイト変態が同時に起こるパーライト変態やベイナイト変態、A2やA0変態などが該当する。
上記した各変態の詳細は、以下の通りである。
・A3変態:α鉄〜γ鉄の変態(加熱時はAc3、冷却時はAr3)
・A2変態:鉄の磁気変態
・A1変態:オーステナイト〜パーライトの変態
(加熱時はAc1、冷却時はAr1)
・Ar’変態:過冷時のオーステナイト→微細パーライトの変態
・Ar”変態:過冷時のオーステナイト→マルテンサイトの変態
・A0変態:セメンタイトの磁気変態
好ましくは、前記した変態率修正工程は、オーステナイト比熱がフェライト比熱よりも低い温度域において、過冷却の度合い又は過加熱の度合いが大きいほど、変態(特にA3変態)により発生する熱量が大きくなるように変更するとよい。
詳しくは、前記した変態熱量予測工程は、変態により発生する熱量に温度依存性があるとし、この変態により発生する熱量を鋼板のフェライト比熱とオーステナイト比熱の差の温度積分により算出するとよい。
また、前記した変態率修正工程は、当該工程で修正された変態率の予測値が0以下又は1以上になった場合に、変態率の予測値を0又は1として出力するとよい。
また、前記鋼板の温度を測定する温度測定点が、上流側及び下流側の2箇所に配備された場合において、前記した変態率予測工程が、下流側の温度測定点における鋼板の状態が未変態(変態率≒0)又は変態完了(変態率≒1)となっていると予測した際に、前記した熱量予測工程は、下流側の温度測定点における板温度の予測値と実績値との差が少なくなるように、鋼板の表面と外部とを行き来する熱量を修正し、前記した板温度予測工程は、前述した熱量予測工程で修正された熱量を基に、上流側の温度測定点における板温度の予測値を算出し、前記した変態率修正工程は、上流側の温度測定点における板温度の予測値と実績値との差が少なくなるように、変態率予測工程が算出した上流側の温度測定点における変態率を修正するとよい。
さらに、前記鋼板の温度を測定する温度測定点が上流側及び下流側の2箇所に配備された場合において、前記した変態率予測工程が、上流側及び下流側の温度測定点における鋼板の状態が変態中(0<変態率<1)となっていると予測した際に、前記した熱量予測工程は、上流側の温度測定点における板温度の予測値と実績値との差及び下流側の温度測定点における板温度の予測値と実績値との差が少なくなるように、鋼板の表面と外部とを行き来する熱量を修正すると共に、前記した変態率修正工程は、上流側の温度測定点における板温度の予測値と実績値との差及び下流側の温度測定点における板温度の予測値と実績値との差が少なくなるように、変態率予測工程が算出した変態率を修正するとよい。
好ましくは、前記した変態率修正工程において変態率予測曲線を使用し、該変態率予測曲線を1又は2以上の自由度で操作するとよい。
さらには、前記した変態率修正工程は、変態率予測曲線の開始曲線と終了曲線とを個別又は同時に時間軸方向にシフトする操作、変態率予測曲線の開始曲線と終了曲線とを個別又は同時に温度軸方向にシフトする操作、変態率予測曲線の開始曲線と終了曲線とを個別又は同時に所定の直線方向又は曲線方向に沿ってシフトする操作、のいずれか1つ以上を行うとよい。
なお、前記した変態率予測曲線はCCT曲線又はTTT曲線である。
一方、本発明に係る鋼板の変態率の制御方法は、上記した鋼板における変態率の算出方法を用いて、鋼板冷却終了時の変態率を算出する変態率算出工程と、前記した変態率算出工程で算出された変態率と鋼板冷却終了時における変態率の目標値とを比較して、算出された変態率が目標値より小さな場合には、冷却が徐冷となるように冷却条件を修正し、算出された変態率が目標値より大きい場合には、冷却が急冷となるように冷却条件を修正する冷却条件変更工程と、を有していることを特徴とする。
好ましくは、前記した冷却条件変更工程は、算出された変態率が目標値より小さな場合には、空冷による暖冷却時間を延長する又は暖冷却温度をノーズ温度に近づけるように冷却条件を修正し、算出された変態率が目標値より大きい場合には、空冷による暖冷却時間を短縮する又は暖冷却温度をノーズ温度から遠ざけるように冷却条件を修正するとよい。
本発明に係る冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法によれば、熱間圧延プロセスにおける加熱設備、搬送装置、冷却装置などにおいて、鋼板の変態率を確実に求めることができる。また、本発明に係る鋼板の変態率の制御方法によれば、例えば冷却終了時における鋼板の変態率を確実に制御することが可能となる。
本発明の温度予測方法を適用可能な冷却装置を模式的に示した図である。 板温度と熱伝達率との変化を示した図である(水冷時)。 板温度と熱伝達率との変化を示した図である(空冷時)。 フェライトとオーステナイトの比熱の変化を示した図である。 高温域で変態した場合の比熱を示した図である。 低温域で変態した場合の比熱を示した図である。 高温域で変態した場合の抜熱量を示した図である。 低温域で変態した場合の抜熱量予測値を示した図である(従来例)。 第1実施形態で予測される見かけ上の比熱を示した図である。 第1実施形態における抜熱量予測値を示した図である(低温域で変態した場合)。 第1実施形態における発熱量予測値を示した図である。 第1実施形態の制御ブロック図である。 TTT線図とそれに基づく変態率や発熱量の変化を示した図である。 CCT線図とそれに基づく変態率や発熱量の変化を示した図である。 第2実施形態における発熱量予測値を示した図である。 第3実施形態における発熱量予測値を示した図である。 第4実施形態における発熱量予測値を示した図である。 TTT線図を修正する様子を示した図である(時間方向に修正)。 CCT線図を修正する様子を示した図である(冷却速度方向に修正)。 CCT線図を修正する様子を示した図である(時間方向に修正)。 CCT線図を修正する様々な手法を示した図である。 第7実施形態の制御ブロック図である。 冷却温度曲線を修正する様子を示した図である(第8実施形態)。 第8実施形態の制御ブロック図である。 CCT線図を修正する様子を示した図である(第9実施形態、2自由度)。 CCT線図を修正する様子を示した図である(第9実施形態、4自由度)。 予測された変態率に基づいて冷却装置の冷却条件を修正し、板温度の目標値を変更する制御の制御ブロック図を示したものである(第10実施形態)。 PI制御又はIP制御又はI制御による温度履歴曲線の修正を行う制御ブロック図を示したものである(第10実施形態)。 温度履歴曲線が修正される様子を示した図である(第10実施形態)。
以下、本発明に係る変態率の算出方法及び鋼板の変態率の制御方法を適用可能な圧延装置を、薄鋼板の熱間連続圧延装置を例示して説明する。
図1は、熱間連続圧延装置1の圧延機2(最終圧延機)から冷却装置3、巻き取り装置4に至るまでの装置構成を示した図である。なお、鋼板W(圧延材)の移送方向において、巻き取り装置4側を下流側、その圧延機2側を上流側と呼ぶ。
圧延機2は、鋼板Wを圧下する一対のワークロール5,5を有すると共に、このワークロール5,5を背後から支持する一対のバックアップロール6,6を供えている。
圧延機2の下流側には、冷却装置3が備えられている。冷却装置3は、複数の冷却バンク7を鋼板Wの上下(表裏)面に備え、この冷却バンク7が鋼板W移送方向に複数個連なるように配置される構成となっている。冷却バンク7には、鋼板Wに向けて冷却水を吹き付けて鋼板Wの温度を下げる複数の冷却ノズルが備えられ、各冷却ノズルには冷却水の流量をオン・オフ制御可能な冷却バルブが設けられている。この冷却バルブを開状態にすると冷却水が冷却ノズルから噴出するため、開状態の冷却バルブ数を変更することで、冷却ノズルから鋼板Wに吹き付けられる冷却水の量が変わり、板温度の温度降下量が変化する。
冷却バルブの開閉は、鋼板Wの制御対象ポイントが冷却装置3に投入される前に事前に決定しておく初期設定計算により決定される初期設定値と、板温度実測値などに基づきオンラインでバルブ開閉を変更するオンライン制御修正量によって、制御対象ポイントに噴射される冷却バルブが最終的に決定される。
冷却装置3で所定の板温度まで冷却された鋼板Wは、巻き取り装置4によりコイル状に巻き取られる。
圧延機2の出側、即ち冷却装置3の入側には、鋼板Wの温度を計測可能な入側温度計8が配置されている。さらに、冷却装置3の中途部には、鋼板Wの温度を計測可能な中間温度計9が設けられており、圧延装置1の出側と巻き取り装置4との間には、出側温度計10が設けられている。
上述した入側温度計8、中間温度計9、出側温度計10での板温度、ワークロール5,5の周速(通板速度)等の様々な実績値は、熱間連続圧延装置1を制御する制御部11に入力されるようになっている。
制御部11は冷却装置3を制御可能となっており、本発明に係る鋼板Wの変態率の算出方法を実行すると共に、算出された変態率を基に出側温度計10の位置における板温度の予測を行って、例えば、出側温度計10での鋼板Wの板温度が目標温度になるように、各冷却バンク7おいて開閉する冷却バルブの本数等を決定し冷却バルブを開閉するように動作する。加えて、冷却終了時における鋼板Wの変態率を確実に制御する方法も実行可能となっている。制御部11は、プロコン等で構成されており、本発明の温度予測方法は、プロコンで実行されるソフトウエアという形で実現されている。
以下、制御部11で行われる冷却又は加熱される鋼板Wにおける変態率の算出方法、及び鋼板Wの変態率の制御方法の詳細について、第1実施形態〜第10実施形態に亘り説明を行う。
[第1実施形態]
第1実施形態(実施例1)の変態率の算出方法は、熱量予測工程、変態熱量予測工程、板温度予測工程、変態率予測工程、変態率修正工程を有している。
熱量予測工程は、冷却又は加熱される鋼板Wの表面と外部とを行き来する熱量を予測する。
変態熱量予測工程は、冷却又は加熱される鋼板Wに生じる変態に伴って発生する熱量(変態発熱量又は変態熱速度)を、鋼板Wの過冷却の度合い又は過加熱の度合いに応じて予測する。
板温度予測工程は、熱量予測工程及び変態熱量予測工程が予測した熱量を用いつつ、鋼板Wと外部との熱収支を計算し鋼板Wの温度(板温度)を予測する。
変態率予測工程は、板温度予測工程が予測した板温度の予測値を基に、鋼板Wの変態率を予測する。
変態率修正工程は、板温度予測工程が予測した板温度の予測値と実績値との差が減少するように、変態率予測工程で算出された変態率を修正する。
図12は、第1実施形態における制御ブロック図であり、この制御ブロックは、制御部11内にプログラムの形で実現されている。図12に示す如く、制御部11内には、表面を行き来する熱量予測部、単位変態率あたりの変態熱量予測部、鋼板温度予測部、変態率予測部、変態率予測部の修正部が設けられている。
前述した熱量予測工程は「表面を行き来する熱量予測部」で実行され、変態熱量予測工程は「単位変態率あたりの変態熱量予測部」、板温度予測工程は「鋼板温度予測部」、変態率予測工程は「変態率予測部」、変態率修正工程は「変態率予測部の修正部」で実行される。
以下、図1に示す冷却装置3における鋼板Wの冷却プロセスを念頭に置きつつ、第1実施形態の変態率の算出方法について、その詳細を説明する。
まず、鋼板Wの温度状態をモデル化した温度予測モデル(熱量予測工程や板温度予測工程で用いられる温度予測モデル)に関して説明する。
温度予測モデルは、様々なものが採用可能である。例えば精緻なモデルとして、熱伝達による鋼板W表面からの熱流束、鋼板Wの変態発熱に加え、厚み方向の温度分布を考慮した式(1a)〜式(1c)を考えることができる。
なお、以降の説明において、式(1a)〜式(1c)等をまとめて呼ぶ際には、式(1)と表現し、他の式番でも同様とする。
ただし、熱伝達率αd,αuは、空冷や水冷などワークロール5,5から抜熱時などの状況毎に変化する。図2に示す如く、水冷時には鋼板Wの表面温度や水量によっても変化することが知られている。
輻射による放熱については、熱伝達とは別に記述することも可能であるが、輻射による上下面の熱流束QRu(0,t),QRd(0,t)をT(0,t)−Tu(t),T(h,t)−Td(t)で除したものをそれぞれ上下面の熱伝達率αd,αuに加算し、熱伝達に含めることができる(図3参照)。それ故、ここではαd,αuに輻射による熱流束も加算し、表現を簡易にしておくこととする。このような仮定は熱量予測工程にて行われる。
また、熱伝達率は、冷却バルブのON/OFFや水量によって変化するものの、冷却バルブのON/OFFや水量が決定(冷却条件が決定)すれば、熱伝達率の関数系が決定される。
一方、温度予測モデルとして、厚み方向の温度分布を考慮しない簡易なモデル(式(2)を採用することもできる。
温度予測モデルとして、さらに簡易な式:「冷却時間Δtの間に冷却バルブ1本あたりΔTだけ温度降下する、すなわち、温度降下量ΔT=一定量(K/冷却バルブ本数)」を採用することも可能である。
以降、第1実施形態では、板温度予測工程で用いられる温度予測モデルとして、厚み方向の温度分布を考慮しない簡易なモデルを考えることとする。この式を基に、板温度の降下量ΔTを求めるためには、式(2)を積分することで得られる式(3)を利用するとよい。
式(3)や他の温度予測モデルを見るとわかるように、鋼板Wの変態に伴い発生する変態熱速度qや変態発熱量Qはq/cやQ/cの形(cは比熱)で式の中に存在し、温度予測の精度に直接影響を与えており、変態発熱の影響を高精度に見積もることが鋼板Wの温度予測及び温度制御にとって非常に重要であることがわかる。
しかしながら、特許文献2に示した如く、変態による発熱温度域を固定した上で変態発熱の算出を行う従来技術はあったものの、発熱温度域が変化するなど実際の状況に即しつつ正確に変態発熱を求めたものはなかった。そこで、第1実施形態では、より正確に変態発熱量を求める技術を開示する。
第1実施形態にて採用される「変態熱速度qや変態発熱量Qを正確に求める手法」、言い換えるならば「鋼板Wの変態発熱量又は変態熱速度を、鋼板Wの過冷却の度合い又は過加熱の度合いに応じて修正しつつ変態熱速度qや変態発熱量Qを算出する」ことは、変態熱量予測工程で行われる処理であって、冷却あるいは加熱時の温度予測に不可欠な比熱cのみを使用するものであり、特に、鋼板Wの過冷却又は過加熱の状況下で起こる変態での「比熱cの変化」を基に、変態熱速度qや変態発熱量Qを正確に予測するものである。これにより、温度予測あるいは温度制御精度を飛躍的に向上させることができるようになる。
具体的には、巻き取り温度を制御する上で最も重要なA3(Ar3)変態を例にとり、説明を行う。
まず、図4には、A3変態前後における、最も一般的な鋼種(S45C)におけるフェライトとオーステナイトの比熱(実線にて示され且つ上側に位置する線)と、オーステナイトステンレス鋼の比熱(破線で示され且つ下側に位置する線)とを示す。
図4から明らかなように、高温域では一般的な鋼種のオーステナイトとオーステナイトステンレス鋼の比熱がほぼ一致し、低温域では一般的な鋼種のフェライトとオーステナイトステンレス鋼の比熱がほぼ一致しているように見える。
また、図5に、変態発熱を含めた見かけ上の比熱を示す。この図は、図4のA2変態温度TA2以下の箇所を拡大した図であり、高温域で変態した場合の見かけ上の比熱を示している。この図から判るように、一般的に冷却時には冷却速度が緩やかな場合、変態温度域は高くなる。一方、冷却速度が速い場合、変態温度域は低温側に移動する。
しかしながら、特許文献2などの従来技術では、高温域での変態発熱量も低温域での変態発熱量も同一としているため、見かけ上の比熱における変態発熱量による増分は同じになる。すなわち、図5の高温域での見かけ上の比熱をもとに、低温域での見かけ上の比熱を従来技術で算出すると図6のような見かけ上の比熱が得られる。従来技術では図5,6の変態発熱による見かけ上の比熱の増分1、増分2は等しくなる。
しかしながら、従来技術では、高温域で変態する(緩冷する)場合と低温域で変態(急冷する)場合とで不合理が発生する。たとえば温度T0から温度T1に冷却するために必要な抜熱量は見かけ上の比熱の区間[T0,T1]での積分値に相当し、図7,図8に示すように抜熱量1,2が大きく異なってしまう。T0からT1に冷却する際に、冷却速度が異なる(急冷か緩冷か)だけで、必要な抜熱量(エネルギ)が異なるのは不条理である。なお、図8に示すように、抜熱量1と抜熱量2の熱量差は2つの変態温度域(高温域と低温域)の間の比熱の温度積分値に相当する。
上記した不条理を解消すべく、まず、第1実施形態では、ある温度TAにおける単位変態率当たりの変態発熱量Qn(TA)が分かっているものとする。ここで任意の温度Tの関数を式(4)のように考える。
式(4)におけるTは、過冷却時での変態開始温度であり、TAは平衡状態での変態開始温度である。したがって、φ(T)は、鋼板Wの過冷却の度合い又は過加熱の度合いに応じて変態発熱量を修正するためのファクタと考えることができる。ゆえに、φ(T)を用いることで、温度T時の単位変態率当たりの変態発熱量Qn(T)を予測することができる。
式(4)を用いた単位変態率当たりの変態発熱量Qn(T)の予測値Q’n(T)を式(5)で与える。
式(5)から温度TA における予測値Q’n(TA)は式(6)で与えられることとなる。
ここで、定数項a,bが式(7)を満足していれば、Qn(TA)に予測値Q’n(TA)を一致させることができる。
また、式(5)で単位変態率当たりの変態発熱量予測値Q’n(TA)を与えた場合、任意の温度T2とT3に対して、T2時の予測値Q’n(T2)とT3時の予測値Q’n(T3)の差(T2とT3の間での発熱量の修正量の差)は、式(8)で表される。
式(8)から明らかなように、T2とT3の間での発熱量修正量の差Q’n(T2)−Q’n(T3)は、cα−cγのT2〜T3の積分値となっている。これは、変態前の比熱と変態後の比熱との差を温度区間T2〜T3で積分した積分値であり、その積分値に応じて単位変態率当たりの変態発熱量予測値Q’n(T)を増加減させている。
なお、式(7)を満たすように定数項を与えた場合、式(9)のように、既知の単位変態率当たりの変態発熱量Qn(TA)に対して、係る積分値(あるいは積分値+定数項)で修正し、単位変態率当たりの変態発熱量予測値を与えていると見ることもできる。
式(5)から変態率当たりの変態発熱量の予測値が与られた場合、温度予測モデルすなわち式(1)〜式(3)の変態発熱量Q、変態熱速度q、変態発熱量Qによる温度変化量Q/cは、式(10a)〜式(10c)で与えられる。
なお、変態率G(T,t)は、鋼板WのCCT線図やTTT線図あるいは材質予測モデルから算出可能であって、式(11a),式(11b)からg(T,t)やΔG(T,t)を計算することができる。変態率G(T,t)を求める処理は変態率予測工程で行われる。
図9に、第1実施形態の手法で得られた「変態率当たりの変態発熱量の予測値」を基にした見かけ上の比熱の変化を示す。図9の「比熱の差の積分による増分」は、図8の「抜熱量2と抜熱量1の熱量差」と一致し、熱収支の観点から非常に妥当な発熱量予測値を得ることができたと考えられる。
第1実施形態を使用して、冷却装置3での鋼板Wの巻取り温度(CT)を予測したところ、冷却温度履歴に依存しない温度予測が可能になったことを、本願出願人らは確認している。
また、式(5)による過冷却度あるいは過加熱度に応じた変態発熱量の修正は、過冷却の度合い(過冷却度)、あるいは過加熱の度合い(過加熱度)が異なる温度(例えばT2とT3)間の変態発熱量の差が、cα−cγのT2〜T3の積分値と一致し、変態前の比熱と変態後の比熱との差を温度区間T2〜T3で積分した積分値に応じて増加減するように修正していることになる。
ところで、ここまでの説明においては、ある温度TAにおいて単位変態率当たりの変態発熱量Qn(TA)が分かっているものとしてきたが、分かっていなくても変態発熱量予測値Q’n(TA)が与えられていれば、式(7)の代わりに式(12)を使用することにより、全く同様の議論が成立する。その場合、図9の「比熱の差の積分による増分」は、図8の「抜熱量2と抜熱量1の熱量差」と一致し、熱収支の観点から非常に妥当な発熱量予測値を得ることができる。
なお、式(7)で定数項を与えた場合、式(9)は、式(13)のようになる。
要は、ある温度TAに対して式(4)で与えられる関数φ(T)を用い、式(5)で変態発熱量予測値を与えれば、定数項a,bに関係なく(a,bが0でも)、図9の「比熱の差の積分による増分」は、図8の「抜熱量2と抜熱量1の熱量差」と一致し、熱収支の観点での不条理を解消することができる。
ただし、a,bは過冷却度あるいは過加熱度に関係のない定数項であり、定数項a、bが式(7)を満たしていない場合、全温度域において変態発熱量予測値のオフセット誤差として現れる。定数項a,bをなるべく適切に設定しようとすれば、式(7)を満たすように与えればよい。
また、鋼板Wの比熱cを知るためには、鋼板Wを緩冷却あるいは緩加熱しながら実際に測定するとよく、A3変態温度TA3前後での見かけ上の比熱から変態発熱量Qn(TA3)を算出することができる。したがって上述のTAの代わりにTA3を使用すれば、A3変態温度TA3以下の任意の温度Tでの発熱量予測値Q’n(T)は式(14a)〜式(14c)で与えられ、図11に示されるような温度の関数となる。
ここで、Qn(TA3)はA3変態に伴う変態潜熱であり、TA3でのエントロピ変化ΔSA3による熱量でΔSA3×TA3で与えられる。
ところで、上記では、式(4)で示されるように、変態前の結晶構造あるいは磁性における比熱(cγ(T))と、変態後の結晶構造あるいは磁性における比熱(cα(T))との差を随時積分し、発熱量予測値Q’n(T)を算出する手順を述べたが、それら比熱は、鋼種毎に(温度依存特性を含め)固定しており、毎回計算する必要はない。
予め、図11に示されるような温度の関数あるいはテーブルを求めておき、関数値あるいはテーブル値に定数項を加えたものを用い、Q’n(T)を算出したり、関数値あるいはテーブル値が直接Q’n(T)となるように、関数やテーブルを持っておいてもよい。その上で、温度予測あるいは温度制御を行う都度、関数やテーブルを参照し、Q’n(T)を算出してもよい。
さて、上記してきた第1実施形態での温度予測方法においては、「変態がどの時点で始まりどの時点で完了するかが確実にわかる」もの、及び「現時点での変態率が確実に分かる」ものとして理論が構築されてきている。すなわち、変態率G(T,t)は、鋼板WのCCT線図やTTT線図あるいは材質予測モデルから算出可能であったり、式(11a),式(11b)からΔG(T,t)を計算することができるとしている。
しかしながら、実際には、材質予測モデルを用い実際の現場における鋼板Wの変態率などを高精度に算出することは困難を極める。また、変態発熱量を予測するモデルに比べ、表面を行き来する熱量などを算出熱収支モデルの精度が高いことが過去の実績よりわかっている。それ故、変態域での温度予測誤差は、その殆どが変態発熱量の予測値に起因するの誤差と考えてよい。
式(14)のような変態発熱モデルQ’n(T)を考えた場合、このモデルは物理的な不整合のない高精度なものであるため、変態発熱量(=単位変態率当たりの変態発熱量×変態率)の誤差は、ほぼ変態率の誤差となる。それ故、第1実施形態では、変態温度域での温度予測誤差は変態率予測誤差によって発生すると考え、板温度予測工程が予測した板温度の予測値と実績値との差が減少するように、変態率予測工程で算出された変態率を修正するようにする。この処理は、変態率修正工程で実行される。
以下、変態率修正工程で行われる処理の詳細について説明する。
まず、近似ではあるが式(3),式(10)から冷却時間Δtでの変態率増分ΔGを求めると、式(15)のようになる。
ここで、変態率増分の予測値がΔG'となったときの温度降下量をΔT’とすると、
となる。
実際の変態率増分ΔGは、式(17)を基に、予測値ΔG'と温度降下量誤差ΔT−ΔT’から近似計算できることになる。
式(17)は、あくまで近似式であり、正確には変態率が異なると温度履歴や鋼板Wの表面を行き来する熱量なども変化するため、式(17)で求められたΔGを予測値ΔG'として再度温度予測を行っても若干の温度降下量の誤差が発生する。しかしながら、発生した温度降下量誤差について再度同様の計算を行い予測値ΔG'の修正することを数回繰り返すれば、温度降下量誤差がほぼ0となる予測値ΔG''を得ることができる。
このΔG''を最終的な修正後の予測値ΔG'としてもよいが、ΔG''は計測誤差や他の誤差要因によって変動している可能性があるため、ΔG''(t)は板長手方向にあるいは時間に沿って多数計算することが可能であることを利用し、ΔG''(t)を平滑化し、平滑化したΔG''(t)を最終的な修正後の予測値ΔG'(t)とした方がノイズや他の誤差の影響を受けにくい変態率増分の予測値ΔG''(t)を得ることができる。
なお、平滑化処理に関しては、変態率増分の予測値ΔG''(t)そのものを平滑化するのではなく、ΔG''(t)とΔG'(t)のオフセット誤差やゲイン比率を平滑化し、ΔG'(t)に平滑化されたオフセット誤差を足しこむ、あるいはゲイン比率を積算することでΔG'(t)を修正してもよい。
例えば、式(17)からΔG''(t)とΔG'(t)とのオフセット誤差Eoffsetは、式(18)で表される。
ここで、1より小さな正の係数aを用いて、次回のオフセット誤差Eoffsetを式(19)の如く求めることができる。
あるいは、式(19)のa・c(T)/Qn'(T)を新たにaとして、式(20)のような学習に用いる式を得ることができる。
この式(20)を基に、オフセット誤差Eoffsetを学習し、ΔG'(t)にEoffsetを足しこむことでΔG'(t)を修正すればよい。
以上の手法で、変態率修正工程において、変態率の増分の予測値ΔG'(t)を求めることができる。
図13,図14には、第1実施形態の技術を適用した場合の結果が示されている。
図13は、A3変態に対するTTT線図とそれに伴う変態率、変態率の変化速度(図中では変態速度)、従来技術および本実施例による発熱量予測値を示す。
今、温度TAでの変態率当たりの変態熱、温度TAでの変態熱の総和、温度TAでの変態熱の発熱パターン(熱量と時間の関係)などが与えられているとする。
変態率当たりの変態熱量は、変態率が1(完全に変態が終了した)となった場合の変態熱の総和に相当し、図13の温度TAでの変態熱の総和(図中の発熱量の時間積分)と一致する。また、変態熱の発熱パターン(熱量と時間の関係は)は変態率の変化速度のパターンと一致し、その時間積分は変態熱の総和や変態率当たりの変態熱と一致し、さらに変態率の変化速度に変態率当たりの変態熱を乗じた値とも一致している。すなわち、温度TAでの変態率当たりの変態熱あるいは変態熱の総和あるいは発熱パターンは等価であり、いずれか一つが与えられれば他は算出可能である。
従来技術では、変態率当たりの変態熱あるいは変態熱の総和を温度に依存しない固定値としている。このため、温度TAでの値と温度Tでの値は同じである。すなわち、TAでの変態熱の総和(図中の発熱量の時間積分・面積)とTでの変態熱の総和(図中の発熱量の時間積分・面積)とは同じである。
また、変態率当たりの変態熱が同じため(変態率当たりの変態熱を変態率の変化速度にかけたものが熱量)変態率の変化速度のパターンと同じ形で発熱パターンが与えられる。さらに、TAでの発熱パターンの時間軸(横軸)を伸ばし、面積が変わらないように縦軸を縮めたものがTでの発熱パターンとして与え、発熱パターンを一致させている。
一方、第1実施形態は、過冷却あるいは過加熱度に応じて変態率当たりの変態熱(変態熱の総和)を修正するため、発熱パターン(変態率の変化速度パターンと同じ)は継承しつつ、その面積を(過冷却あるいは過加熱度に応じて変化する)変態率当たりの変態熱によって修正し、図13に示すようにTでの変態熱を与えることにより、温度予測あるいは温度制御を高精度化することを可能とする。
図14に、A3変態に対するCCT線図とそれに伴う変態率、変態率の変化速度(図中では変態速度)、従来技術および本実施例による発熱量予測値を示す。今、冷却速度VAでの変態率当たりの変態熱、冷却速度VAでの変態熱の総和などが与えられているとする。この場合であっても、TTT線図と同様に冷却速度VAでの変態率当たりの変態熱、変態熱の総和は等価である。
[第2実施形態]
第2実施形態(実施例2)は、前述した第1実施形態の変形例であって、両実施形態の間には、若干の相違点があるだけである。それ故、その相違点だけ述べることとし、同一な構成については説明を省略する。
すなわち、第1実施形態では、比熱の差cα−cγの積分値によって、関数φ(t)あるいは発熱量予測値Q’n(T)を定めたが、第2実施形態では、厳密に積分値で与えず、例えば、第1実施形態の発熱量予測値を区間線形近似した関数(図15参照)やテーブルを与え、それらから関数φ(t)や発熱量予測値Q’n(T)を求めるようにしてもよい。このような近似を行ったとしても、従来技術よりも格段に高精度の温度予測が行えることを、本願出願人らは確認している。
[第3実施形態]
第2実施形態における発熱量予測値Q’n(T)の線形近似の際には、過冷却度あるいは過加熱度が大きいほどQ’n(T)を発熱方向に増加するように曲線(関数又はテーブル)を与えていた。
しかしながら、第3実施形態(実施例3)では、図16のように、過冷却度が増加する領域において発熱がより減少する(吸熱方向に向かう)ように曲線を与えることとしている。この実施形態であっても第2実施形態とほぼ同等の効果を得ることができることを本願出願人は確認している。
[第4実施形態]
第4実施形態(実施例4)では、図17に示す如く、フェライト比熱cα>オーステナイト比熱cγの区間においては、過冷却度あるいは過加熱度が大きいほどQ’n(T)を発熱方向に向かうように曲線(関数又はテーブル)を与えている。逆に、cα<cγの区間においては、過冷却度あるいは過加熱度が大きいほどQ’n(T)を吸熱方向に向くように曲線を与えている。
このような近似を行うことで、第1実施形態の結果(図11)に近づけることができ、第2実施形態及び第3実施形態よりも高精度な発熱量予測値Q’n(T)が得られ、温度予測あるいは温度制御精度の向上が期待できる。
[第5実施形態]
第5実施形態(実施例5)と第1実施形態とで大きく異なる点は、変態率修正工程が、当該工程で修正された変態率予測値が0以下又は1以上になった場合に、変態率予測値を0又は1として出力することである。第5実施形態の他の構成は、第1実施形態と略同じであるため、説明を省略する。
以下、本実施形態を詳しく説明する。
第1実施形態〜第4実施形態の方法を用いて変態率を算出した(変態率の変化量の予測値ΔG'(t)を算出した)場合、変態率が0以下あるいは1以上になることがある。変態率は必ず0から1の範囲の値でなければならず、0〜1の範囲を外れることは物理的におかしいと考えられる。この状況は「変態率の予測誤差のみによって板温度の予測誤差が発生する」といった仮定に過ちがあることに起因し、実際には表面を行き来する熱量の予測値などにも誤差が存在し、その誤差によって変態率が0以下あるいは1以上になってしまうと考えるのが妥当である。
したがって、修正後の変態率が0以下あるいは1以上の場合、変態率修正工程にて、変態率の予測値を0あるいは1とした上で、「それでも発生する鋼板Wの温度予測誤差は、鋼板Wの表面を行き来する熱量予測誤差によって発生する」と仮定し、表面を行き来する熱量の予測値を、熱量予測工程にて再計算する。行き来する熱量の修正方法は既に幾つか存在し、特開2007−44715号公報などに開示されている熱伝達率を学習する手法などを用いればよい。
第5実施形態で重要なことは、変態率の予測値を0あるいは1と固定しているため、本実施形態の手法で得られた板温度は、変態熱量の予測誤差の影響を受けていないという点である。このように、変態率の予測値を0あるいは1と固定した際には、第1実施形態、第2実施形態で説明したように、「単位変態率あたりの変態熱量をフェライトとオーステナイト比熱の差の積分によって変化させる」あるいは「オーステナイト比熱がフェライト比熱よりも低い温度域で、過冷却度(過冷度)あるいは過加熱度が高いほど単位変態率当たり熱量を発熱方向に変更する」ということが非常に重要な処理となる。
[第6実施形態]
前述した如く、変態率修正工程は、変態率予測工程で算出された変態率を修正するものである。
第6実施形態(実施例6)の変態率修正工程は、第1実施形態などの変態率修正工程とは異なり、変態率予測部において使用する変態率予測曲線(CCT線図又はTTT線図)を1自由度で操作し修正を行う。
すなわち、変態率修正工程は、変態率予測曲線の開始曲線と終了曲線とを個別又は同時に時間軸方向にシフトする操作、変態率予測曲線の開始曲線と終了曲線とを個別又は同時に温度軸方向にシフトする操作、変態率予測曲線の開始曲線と終了曲線とを個別又は同時に所定の直線方向又は曲線方向(言い換えれば、任意の方向)に沿ってシフトする操作、のいずれか1つ以上を行う。
詳しくは、図18に示すように、変態率修正工程は、TTT曲線を時間方向にシフトするように修正する。例えば、第1実施形態〜第4実施形態によって板温度Tでの変態率予測値G'が与えられた場合、時間方向にTTT曲線をずらすのであれば、図18に示すように、修正前の曲線から変態率がG'となる時刻t'を求め、その時刻t'とG'に対応する時間差t−t'だけ時間方向にずらすとよい。
図19は、変態率修正工程が、CCT曲線を冷却速度方向にシフトし修正する例である。同様に時間差t−t'を求め、その時間に対応する距離だけ冷却速度方向にCCT曲線をずらせばよい。
図20は、変態率修正工程が、CCT曲線で時間方向に線図を修正する例である。図18と同様に開始曲線及び終了曲線を時間差t−t'だけ時間方向にずらした例であるが、冷却速度方向に以外に曲線をずらすと、開始終了曲線と変態率G'となる曲線の位置関係がずれてしまい、変態率はG'から少しずれてしまう。
とはいえ、修正前に比べれば、変態率の予測誤差はかなり低減されており、また、式(19)や式(20)のように平滑化するのであれば、全く問題ないことを本願出願人らは確認している。すなわち、時間差t−t'に1より小さな正の係数aを乗じて少しずつ修正すればよい。
図21は、CCT曲線を各種方向にずらす場合を示した概念図である。今、変態率がG'となる曲線を求めれば、CCT曲線がG'の曲線に重なるようにCCT曲線をシフトするとよい。ただし、図20で述べたように、冷却速度方向に以外に曲線をずらすと、開始終了曲線と変態率がG'となる曲線の位置関係がずれるので、若干誤差が発生するが、少しずつ修正すれば全く問題がない。仮に1回で誤差のない修正を行いたい場合は、ポリヘドロンなどの非線形最適化手法によって誤差のない修正量を得ることができる。
以上のように、変態率予測曲線を種々の方向にシフトさせて修正することで、温度予測誤差を0にすることが可能である。本実施形態では、開始・終了曲線を同時に移動する例を示したが、開始曲線のみ、あるいは終了曲線のみを移動することも可能で、修正においては、ポリヘドロンなどの非線形最適化手法を用いれば誤差のない補正量を得ることができる。
[第7実施形態]
第7実施形態(実施例7)では、熱間連続圧延装置1の冷却装置3〜巻き取り装置4の間のある地点において「鋼板Wの変態率が略1(変態完了)」となったり、冷却装置3〜巻き取り装置4のある地点まで「鋼板Wの変態率が略0(未変態)」となる場合に関し、より正確に鋼板Wの変態率を求める方法を述べる。
すなわち、第7実施形態における変態率の算出方法は、図22の制御ブロックに示すように、鋼板Wの温度を測定する測定点が2箇所P1,P2配備されると共に、温度測定点P2は温度測定点P1より下流側に位置する場合において、変態率予測工程が、温度測定点P2における鋼板Wの状態が未変態(変態率≒0)又は変態完了(変態率≒1)となっていると予測した際に、熱量予測工程は、温度測定点P2における板温度の予測値T2と実績値との差が少なくなるように、鋼板Wの表面と外部とを行き来する熱量を修正し、板温度予測工程は、熱量予測工程で修正された熱量を基に、温度測定点P1における板温度の予測値T1を算出し、変態率修正工程は、温度測定点P1における板温度の予測値T1と実績値との差が少なくなるように、変態率予測工程が算出した温度測定点P1における変態率を修正する処理を行う。
なお、制御ブロック図中の計測値分配部は、温度測定点P2における鋼板Wの変態状態を確認する部分であり、変態状態が未変態(変態率≒0)又は変態完了(変態率≒1)となっていると予想される場合は、第7実施形態の処理を行うようにする。
鋼板Wの変態率が0あるいは1の状態で温度計測される場所P2は、殆どの鋼種の鋼板Wで存在し、図1に示す中間温度計9の設置位置のいずれかが場所P2に相当する。場所P2において、低炭素鋼などの変態温度域が高い材料は巻取り時に変態が完了しており変態率は1となる。またハイカーボン鋼などは変態温度域が低く変態までの潜伏時間も長いため、上流の中間温度計9ではほとんど変態しておらず変態率は0である。このように変態率が既知の状態での温度計測値を用いて表面を行き来する熱量予測値を修正すると共に、変態域での温度計測値を用いて変態率の予測値を修正すれば、表面を行き来する熱量予測値と変態熱量予測値(=単位変態率当たりの変態熱量予測値×変態率予測値)ともに精度アップし、高精度な板温度予測が可能である。
また、第7実施形態では、特許文献3のように板長手方向で同一ポイント同士を比較することはしなくても、変態率(当然変態熱量も)や表面を行き来する熱量などを高精度予測可能である。しかし板長手方向で熱伝達率が大きく変動する場合、それによる熱伝達率予測誤差によって予測精度が悪化することがある。そのような場合、板長手方向の同一ポイント同士で比較することによって精度アップさせることができる。
この精度アップの手順は、まず変態率が既知の状態での温度計測値を用いて表面を行き来する熱量予測値を修正し、その修正を受けて変態域での温度計測値を用いて変態率の予測値を修正すれば、長手による熱伝達率の変動の影響を受けることなく、変態率を高精度に予測することができる。当然、板長手方向の同一ポイント同士で比較するためには、鋼板Wの長手方向での切板位置のトラッキングを行う必要がある。
[第8実施形態]
次に、第8実施形態(実施例8)について述べることとする。
第7実施形態では、明らかに変態率が既知な状態とそうでない状態に区分し、表面を行き来する熱量予測値と変態熱量予測値の修正を行った。その一方で、変態率が既知な状態が存在しない場合でも、表面を行き来する熱量予測値と変態熱量予測値の修正が可能である。第8実施形態は、この状況に対応可能なものである。
すなわち、第8実施形態の鋼板Wにおける変態率の算出方法は、図24の制御ブロック図に示す如く、鋼板Wの温度を測定する測定点が2箇所P1,P2配備されると共に、温度測定点P2は温度測定点P1より下流側に位置する場合において、変態率予測工程が、温度測定点P1,P2における鋼板Wの状態が変態中(0<変態率<1)となっていると予測した際に、熱量予測工程は、温度測定点P1における板温度の予測値T1と実績値との差及び温度測定点P2における板温度の予測値T2と実績値との差が少なくなるように、鋼板Wの表面と外部とを行き来する熱量を修正し、変態率修正工程は、温度測定点P1における板温度の予測値T1と実績値との差及び温度測定点P2における板温度の予測値T2と実績値との差が少なくなるように、変態率予測工程が算出した変態率を修正するものとなっている。
この技術を用いることで、図23に示すように、時間t1,t2で計測された温度計測値T1,T2が得られた場合、表面を行き来する熱量予測値と変態熱量予測値の修正することで、様々なT1,T2に対して、板温度予測値を一致させることが可能である。
ただし、様々なT1,T2に対して板温度予測値を一致させるように、表面を行き来する熱量予測値と変態熱量予測値の修正量を導出するには、非線形計算が必要で、ポリヘドロンなどの非線形最適化手法を使用する必要がある。またT1,T2が物理的にありえない(ここで仮定しているモデルと合致しない)場合、T1,T2のどちらかが極端に高いあるいは低いときなどは、板温度予測値を一致させることは不可能であり、非線形最適化手法を使用すると誤差が最小になる修正量を算出できる。モデルと合致しない場合とは、仮定しているCCT線図やTTT線図の形状が実際と全く異なる、あるいは温度計や設備が故障している、などが考えられる。
さらに、図23に示した種々の修正方向について、冷却前の圧延材の粒径が小さいとCCTやTTT線図が左側に、大きいと右側にシフトするため、時間方向の修正が有効である。また変態温度TA3に敏感な元素を添加している鋼種では、変態温度域が上下にずれることがあり、開始曲線の温度方向の修正が有効である。また元のCCT線図やTTT線図の精度が高く、あまり修正したくない場合は、一番近い点への修正が有効である。また、冷速方向の修正はCCT線図で比較的容易に修正量を求めることが可能で、実機への実装を行う上で有効である。
一方、前述した特許文献3では2つの温度計測データを用いて、変態熱量のみを修正しているが、第8実施形態や前述の第7実施形態では、2つの温度計測データから変態熱量(変態率)と表面を行き来する熱量の2つを同時に最適化が可能であり、さらに高精度な板温度予測及び変態率予測が可能となっている。
[第9実施形態]
第9実施形態は、第6実施形態の変形例であり、第9実施形態での変態率修正工程は、変態率予測部において使用する変態率予測曲線(CCT線図又はTTT線図)を2以上の自由度で操作するものとなっている。
例えば、実際の圧延においては、温度計測データ毎に修正後の変態率予測値を算出可能で、時間の経過に伴い複数の計測データから複数の修正後の変態率予測値を算出可能である。加えて同じ鋼種層別のデータを複数使用しても、複数の修正後の変態率予測値を算出可能である。
これら複数のデータを使用すれば、第6実施形態のように自由度を1に制限することなく、よりダイナミックに変態率予測部を修正することが可能である。
図25に示す如く、簡単のため2つの修正後の変態率予測値で開始と終了曲線を個別に修正する例について述べる。
図25では、開始曲線と終了曲線を冷却方向に個別に修正している。まず、温度計測値T1,T2に対する修正後の変態率G'(T1,t1),G'(T2,t2)が与えられた場合、変態率の曲線を左右方向に移動・圧縮伸張することでG'(T1,t1),G'(T2,t2)と変態率曲線を一致させることができる。そうして移動・圧縮伸張して修正された変態率曲線から、変態開始時間t'sと終了時間t'eを求め、t'sとt'eに一致する冷却速度上の点(図中の白丸)に開始曲線と終了曲線を冷却方向に個別に修正している。開始曲線と終了曲線を個別に一つの方向に修正しているため、修正の自由度は2で、データ2点を使っているため2自由度の修正が可能である。
図26は、さらに異なる冷却速度のデータ2つを加えた場合である。
図26中の白丸は4点(開始曲線に対して2点、終了曲線に対して2点)となり、修正方向を指定することなく、開始曲線と終了曲線の位置が一意に定まる。開始曲線と終了曲線を時間方向と温度方向に修正しているため、修正の自由度は4で、データ4点を使っているため4自由度の修正が可能である。更にデータ8点を使用すると、開始曲線と終了曲線の時間方向と温度方向への圧縮伸張の修正も可能となる。
また、第5実施形態のように変態率に加え表面を行き来する熱量も同時に修正しようとすれば、修正の自由度が一つ増えるため、必要となるデータ数も1つ増える。
このようにデータを増やすことで、開始曲線と終了曲線のシフト及び圧縮伸張によって実機に近い変態率モデルを得ることが可能である。但し実操業において、冷却速度が大きく異なるデータを得ることは難しく、データを増やしても似たようなデータばかりだと情報量が足りず、上記のような修正が困難な場合がある。そのような場合は、データをなるべく多く使用して、非線形最適化手法などで修正量を決定するとともに、それでも情報量が足りない場合には、修正の自由度を制限する必要がある。先にも述べたが、一般に実操業では冷却速度が大きく異なることは少ないため、最低限、開始終了曲線を個別に1方向に修正するだけでも、大きく精度改善される。
[第10実施形態]
以上述べた第1実施形態〜第9実施形態の技術を用いることで、温度計測位置における変態率を高精度に予測することが可能となる。第10実施形態では、予測された変態率を用いて、中間温度及び巻取り温度などの目標値を修正することにより、鋼板Wの変態率を制御する技術を開示する。
すなわち、図27の制御ブロックで示されるように、本実施形態に係る鋼板Wの変態率の制御方法は、第1実施形態〜第9実施形態のいずれかに記載された鋼板Wにおける変態率の算出方法を用いて、鋼板Wの冷却終了時の変態率を算出する変態率算出工程と、変態率算出工程で算出された変態率と鋼板冷却終了時における変態率の目標値とを比較し、算出された変態率が目標値より小さな場合には、冷却装置3における冷却状態が徐冷となるように冷却装置3の冷却条件を修正し、算出された変態率が目標値より大きい場合には、冷却装置3における冷却が急冷となるように冷却装置3の冷却条件を修正する冷却条件変更工程と、を有している。
この冷却条件変更工程は、図27の温度目標値修正部で行われ、算出された変態率が目標値より小さな場合には、空冷による暖冷却時間を延長する又は暖冷却温度をノーズ温度に近づけるように冷却条件を修正し、算出された変態率が目標値より大きい場合には、空冷による暖冷却時間を短縮する又は暖冷却温度をノーズ温度から遠ざけるように冷却条件を修正するものとなっている。
図27の温度目標値修正部では、変態率予測値に基づいて目標の温度履歴(すなわち冷却条件)を修正し、例えば、図28のように所定の温度計での変態率目標値と予測値の誤差に対して、PI制御やIP制御などの積分制御系を構成し、温度履歴修正量を出力する。ここではI制御が重要であるため、I制御のみでもよい。
なお、図29に示すように、温度履歴の修正方法は種々存在する。図29には、CCT線図と目標の温度履歴を実線で示している。今、空冷(あるいは暖冷)途中にある鋼板Wに対応する中間温度計9(MT)と巻取り温度計10(CT)での変態率を制御したいとする。計測された温度MT,CTでの変態率を増加させたい場合、各温度計9,10の設置位置よりも上流にある矢印修正ポイントにおいて「増」の方向、すなわち「空冷(あるいは暖冷)区間を増加」あるいは「空冷(あるいは暖冷)温度をノーズ温度に近づける」よう温度履歴を修正するとよい。
計測された温度MT,CTでの変態率を減少させたい場合、図29の矢印「減」の方向、すなわち「空冷(あるいは暖冷)区間を減少」あるいは「空冷(あるいは暖冷)温度をノーズ温度から遠ざける」よう温度履歴を修正すればよい。
温度履歴の修正量は、図28に示すPI制御やIP制御などの積分制御系で算出された値を用いるとよいが、変態率目標値と変態率予測値のテーブルなどで設定された修正量を与えてもよい。
また、図29に示した修正ポイント以外にも修正ポイントは多数考えることが可能である。例えば「暖冷区間の冷却速度」を早くすると変態率は減少する。また図中では「強冷区間の冷却速度」を増加減することで暖冷区間を増加減させているが、暖冷区間に入るか入らないかが重要であり、入らないようにする冷却パターンは無数に作成することが可能である。
以上述べた、鋼板Wの変態率を制御する技術により、圧延後における鋼板Wの変態率、特に冷却停止時の鋼板Wの変態率を確実に制御することが可能となる。
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。また、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
1 熱間連続圧延装置
2 圧延機(最終圧延機)
3 冷却装置
4 巻き取り装置
5 ワークロール
6 バックアップロール
7 冷却バンク
8 入側温度計
9 中間温度計
10 出側温度計
11 制御部
W 鋼板

Claims (11)

  1. 熱間圧延プロセスにて冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法であって、
    冷却又は加熱される鋼板の表面と外部とを行き来する熱量を予測する熱量予測工程と、
    冷却又は加熱される鋼板に生じる変態に伴って発生する熱量を、当該鋼板の過冷却の度合い又は過加熱の度合いに応じて予測する変態熱量予測工程と、
    前記した熱量予測工程及び変態熱量予測工程が予測した熱量を用いつつ、前記鋼板と外部との熱収支を計算し鋼板の板温度を予測する板温度予測工程と、
    前記した板温度予測工程が予測した板温度の予測値を基に、鋼板の変態率を予測する変態率予測工程と、
    前記した板温度予測工程が予測した板温度の予測値と実績値との差が小さくなるように、前記した変態率予測工程で算出された変態率を修正する変態率修正工程と、
    を有することを特徴とする冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法。
  2. 前記した変態率修正工程は、オーステナイト比熱がフェライト比熱よりも低い温度域において、過冷却の度合い又は過加熱の度合いが大きいほど、変態により発生する熱量が大きくなるように変更することを特徴とする請求項1に記載の冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法。
  3. 前記した変態熱量予測工程は、変態により発生する熱量に温度依存性があるとし、この変態により発生する熱量を鋼板のフェライト比熱とオーステナイト比熱の差の温度積分により算出することを特徴とする請求項2に記載の冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法。
  4. 前記した変態率修正工程は、当該工程で修正された変態率の予測値が0以下又は1以上になった場合に、変態率の予測値を0又は1として出力することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法。
  5. 前記鋼板の温度を測定する温度測定点が、上流側及び下流側の2箇所に配備された場合において、
    前記した変態率予測工程が、下流側の温度測定点における鋼板の状態が未変態(変態率≒0)又は変態完了(変態率≒1)となっていると予測した際に、
    前記した熱量予測工程は、下流側の温度測定点における板温度の予測値と実績値との差が少なくなるように、鋼板の表面と外部とを行き来する熱量を修正し、
    前記した板温度予測工程は、前述した熱量予測工程で修正された熱量を基に、上流側の温度測定点における板温度の予測値を算出し、
    前記した変態率修正工程は、上流側の温度測定点における板温度の予測値と実績値との差が少なくなるように、変態率予測工程が算出した上流側の温度測定点における変態率を修正する
    ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法。
  6. 前記鋼板の温度を測定する温度測定点が上流側及び下流側の2箇所に配備された場合において、
    前記した変態率予測工程が、上流側及び下流側の温度測定点における鋼板の状態が変態中(0<変態率<1)となっていると予測した際に、
    前記した熱量予測工程は、上流側の温度測定点における板温度の予測値と実績値との差及び下流側の温度測定点における板温度の予測値と実績値との差が少なくなるように、鋼板の表面と外部とを行き来する熱量を修正すると共に、
    前記した変態率修正工程は、上流側の温度測定点における板温度の予測値と実績値との差及び下流側の温度測定点における板温度の予測値と実績値との差が少なくなるように、変態率予測工程が算出した変態率を修正する
    ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法。
  7. 前記した変態率修正工程において変態率予測曲線を使用し、該変態率予測曲線を1又は2以上の自由度で操作することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法。
  8. 前記した変態率修正工程は、変態率予測曲線の開始曲線と終了曲線とを個別又は同時に時間軸方向にシフトする操作、変態率予測曲線の開始曲線と終了曲線とを個別又は同時に温度軸方向にシフトする操作、変態率予測曲線の開始曲線と終了曲線とを個別又は同時に所定の直線方向又は曲線方向に沿ってシフトする操作、のいずれか1つ以上を行うことを特徴とする請求項7に記載の冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法。
  9. 前記した変態率予測曲線がCCT曲線又はTTT曲線であることを特徴とする請求項7又は8に記載の冷却又は加熱される鋼板における変態率の算出方法。
  10. 請求項1〜9のいずれかに記載された鋼板における変態率の算出方法を用いて、鋼板冷却終了時の変態率を算出する変態率算出工程と、
    前記した変態率算出工程で算出された変態率と鋼板冷却終了時における変態率の目標値とを比較して、算出された変態率が目標値より小さな場合には、冷却が徐冷となるように冷却条件を修正し、算出された変態率が目標値より大きい場合には、冷却が急冷となるように冷却条件を修正する冷却条件変更工程と、
    を有していることを特徴とする鋼板の変態率の制御方法。
  11. 前記した冷却条件変更工程は、
    算出された変態率が目標値より小さな場合には、空冷による暖冷却時間を延長する又は暖冷却温度をノーズ温度に近づけるように冷却条件を修正し、
    算出された変態率が目標値より大きい場合には、空冷による暖冷却時間を短縮する又は暖冷却温度をノーズ温度から遠ざけるように冷却条件を修正する
    ことを特徴とする請求項10に記載の鋼板の変態率の制御方法。
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