JP2012257368A - 静電誘導型発電素子およびその製造方法 - Google Patents

静電誘導型発電素子およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】パターニングにより形成された膜から構成され、表面電位が安定でかつ均一なエレクトレットを具備する静電誘導型発電素子およびその製造方法の提供。
【解決手段】基板と、該基板上に形成されたパターン電極と、該パターン電極を被覆し、該パターン電極に対応するパターンで形成されたパターン膜に電荷を注入したエレクトレットとを備える静電誘導型発電素子であって、前記パターン膜が、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体(A)が溶解したコーティング液を用いて形成されたものであり、該含フッ素重合体(A)または該含フッ素重合体(A)の誘導体(A’)を含有し、前記パターン膜が、前記パターン電極の外周面を5μm以上の被覆厚さで覆っていることを特徴とする静電誘導型発電素子。
【選択図】なし

Description

本発明は、静電誘導型発電素子およびその製造方法に関する。
従来、静電誘導型振動発電装置、コンデンサーマイクロフォン等に用いられる素子として、絶縁材料膜に電荷を注入したエレクトレットを使用した静電誘導型変換素子が提案されている。
一般的に、静電誘導型振動発電装置を形成する静電誘導型発電素子としては、上面にエレクトレットが形成された電極(ベース電極)と、該ベース電極およびエレクトレットから所定間隔をあけて設置された対向電極とを備え、ベース電極および対向電極のいずれか一方が、ベース電極および対向電極の重なり面積が変化するように相対的に運動できるように構成されたものが用いられている。該静電誘導型発電素子においては、ベース電極または対向電極を相対的に運動させることで、エレクトレットに注入された電荷とは逆の電荷が対向電極に静電誘導され、ベース電極および対向電極に接続された外部負荷に電流が流れる。
上記絶縁材料膜を構成する絶縁材料(エレクトレット材料)としては、従来、主に、二酸化ケイ素等の無機材料が用いられている。また、有機系のエレクトレット材料として、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等の鎖状の高分子化合物、シクロオレフィンポリマー等の主鎖に脂肪族環構造を有する高分子化合物が使用されているほか、最近、エレクトレット材料として、主鎖に脂肪族環構造を有する高分子化合物、例えば主鎖に脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を用いることが提案されている。
絶縁材料膜としては、従来、導電性基板の表面全体を覆うフィルム状の膜が用いられていたが、近年、発電量の向上等を目的として、基板上にパターニングにより形成されたパターン膜を用いることが提案されている(たとえば特許文献1〜2)。
特開2010−136598号公報 特開2011−50212号公報
しかし、従来の技術では、パターニングにより形成された膜に電荷を注入してなるエレクトレット(パターニングエレクトレット)として、表面電位が安定でかつ均一なものを得ることは難しい。
たとえば特許文献1に記載の発明のように、エレクトレット材料としてポリテトラフルオロエチレン等の直鎖状の含フッ素重合体を用いる場合、溶液塗布による薄膜形成が難しく、微細なパターン膜を均一に形成することが困難である。すなわち、ポリテトラフルオロエチレン等の直鎖状の含フッ素重合体を用いてパターン膜を形成する場合、通常、パターン電極が形成された基板上に該直鎖状の含フッ素重合体のフィルムを貼り付け、または該含フッ素重合体の水性ディスパージョン(水分散液)を塗布して膜を形成し、パターニングを行う方法が用いられている。そのため、形成されるパターン膜は、溶液塗布による場合に比べて、基板およびパターン電極に対する密着性が低い、膜厚が厚い、均一性が低い等の問題がある。また、ポリテトラフルオロエチレン等の直鎖状の含フッ素重合体の膜は、微細加工性が低く、微細なパターン膜(たとえば幅500μm以下のライン状のパターン)の形成は困難である。
特許文献2に記載の発明においては、主鎖に脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を用いているため、溶液塗布により基板上に均一な薄膜を形成できる。また、該含フッ素重合体の膜は、微細加工性得にも優れる。しかし、パターニングエレクトレットの表面電位の安定化が不充分となるおそれがある。
また、パターニングエレクトレットを備えた静電誘導型変換素子においては、特許文献1および2に記載のように、パターン膜の下部に電極(ベース電極)が形成されており、ベース電極は通常、コロナ放電等の荷電プロセスにおいて、アースに接続される(接地される)。また、複数のパターン膜の間にガード電極が形成されているものも多い。ベース電極が接地されるため、荷電プロセスにおいて注入される電荷は膜形成部に誘導され、効率的にエレクトレット化することができる。しかし、電荷がベース電極に誘導されるため、形成されたエレクトレット膜の被覆厚さが薄い部分が、高電圧に耐えきれず絶縁破壊し、場合によっては膜の分解、減膜が生じることもある。このことが原因でパターニングエレクトレットの表面電位が安定化せず、表面電位が低下するだけでなく、静電誘導型変換素子内または静電誘導型変換素子間のバラツキが大きくなるという問題点がある。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、パターニングにより形成された膜から構成され、表面電位が安定でかつ均一なエレクトレットを具備する静電誘導型発電素子およびその製造方法を提供する。
本発明は、以下の[1]〜[4]の発明である。
[1]基板と、該基板上に形成されたパターン電極と、該パターン電極を被覆し、該パターン電極に対応するパターンで形成されたパターン膜に電荷を注入したエレクトレットとを備える静電誘導型発電素子であって、
前記パターン膜が、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体(A)が溶解したコーティング液を用いて形成されたものであり、該含フッ素重合体(A)または該含フッ素重合体(A)の誘導体(A’)を含有し、
前記パターン膜が、前記パターン電極の外周面を5μm以上の被覆厚さで覆っていることを特徴とする静電誘導型発電素子。
[2]前記含フッ素重合体(A)として、主鎖に脂肪族環を有すると共に、末端基としてカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する含フッ素重合体を含む、[1]に記載の静電誘導型発電素子。
[3]前記誘導体(A’)として、前記含フッ素重合体(A)と、アミノ基を有するシランカップリング剤との反応生成物を含む、[1]または[2]に記載の静電誘導型発電素子。
[4][1]〜[3]のいずれか一項に記載の静電誘導型発電素子を製造する方法であり、
基板上にパターン電極を形成する電極形成工程と、
前記パターン電極上に前記パターン膜を形成するパターン膜形成工程と、
前記パターン膜に電荷を注入してエレクトレットとする電荷注入工程と、
を有する、静電誘導型発電素子の製造方法。
本発明によれば、パターニングにより形成された膜から構成され、表面電位が安定でかつ均一なエレクトレットを具備する静電誘導型発電素子およびその製造方法を提供できる。
静電誘導型発電素子の一実施形態の構成の一部を示す概略斜視図である。 静電誘導型発電素子の製造方法の一実施形態を説明する概略工程図である。 電荷の注入に用いるコロナ荷電装置の概略構成図である。 実施例1で、ガラス基板上に形成した金属薄膜のパターニング後の形状を示す上面図である。 図4中の位置X−X’における部分断面図である。
<静電誘導型発電素子>
本発明の静電誘導型発電素子は、基板と、該基板上に形成されたパターン電極と、該パターン電極を被覆し、該パターン電極に対応するパターンで形成されたパターン膜に電荷を注入したエレクトレットとを備える。
以下、本発明の静電誘導型発電素子の構成を、図面を参照して説明する。なお、以下に記載する実施形態において図面を参照して説明する場合、前出の図面に示した構成に対応する構成には、同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
図1は、本発明の静電誘導型発電素子の一実施形態の構成の一部の概略斜視図である。
本実施形態の静電誘導型発電素子は、第一の基板11と、第一の基板11から一定間隔で略平行に配置された第二の基板21とを備え、第二の基板21は一定方向(図1中の矢印D方向)に振動(往復運動)するように構成されている。
第一の基板11の第二の基板21側の表面には、ライン状の電極(ベース電極)12が複数、所定の間隔を空けて、ラインの長手方向が第二の基板21の振動方向に交差するように配置されてなるパターン電極が形成されており、各電極12は、末端が配線(図示せず)で連絡され、該配線を介し、負荷(図示せず)に電気的に接続されている。複数の電極12はそれぞれ外周面がライン状のパターン膜に電荷を注入してなるエレクトレット13で覆われている。
第二の基板21の第一の基板11側の表面には、ライン状の電極(対向電極)22が複数、所定の間隔を空けて、ラインの長手方向が第二の基板21の振動方向に交差するように配置されてなるパターン電極が形成されており、各電極22は、末端が配線(図示せず)で連絡され、該配線を介し、負荷(図示せず)に電気的に接続されている。
かかる静電誘導型発電素子においては、詳細は後で説明するが、第二の基板21が振動すると、電極22とエレクトレット13(および電極12)との重なり面積が変化する。この電極22とエレクトレット13の相対運動によって交流電力が発電される。
第一の基板11、第二の基板21を構成する材料としては、それぞれ、絶縁材料が好ましい。該絶縁材料の抵抗値としては体積固有抵抗値で1010Ωcm以上が好ましく、1012Ωcm以上が特に好ましい。
絶縁材料として具体的には、ガラス等の無機材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリカーボネート、アクリル樹脂等の有機高分子材料等が挙げられる。
本実施形態では、第一の基板11および第二の基板21は、それぞれ、表面が平滑な平板であり、その表面にそれぞれ電極12、電極22が形成されている。ただし本発明はこれに限定されず、第一の基板11、第二の基板21として、それぞれ、電極12に対応するパターンの凹凸が形成された基板を用いてもよい。該基板には、その他のパターンの凹凸が形成されていてもよい。
電極12および電極22を構成する材料としては、それぞれ、導電性を有するもの(導電性材料)であれば特に限定されない。該導電性材料としては、体積固有抵抗値が0.1Ωcm以下であるものが好ましく、0.01Ωcm以下であるものが特に好ましい。
導電性材料として具体的には、金、銀、銅、ニッケル、クロム、アルミニウム、チタン、タングステン、モリブデン、錫、コバルト、パラジウム、白金、これらのうちの少なくとも1種を主成分とする合金等が挙げられる。また、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)などの金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリピロール、PEDOT/PSS、カーボンナノチューブなどから成る有機導電膜も例示できる。
電極12および電極22は、それぞれ、単一の層からなるものであってもよく、複数の層からなるものであってもよく、組成に分布のある構造を形成していてもよい。
電極12および電極22の組成(材料、層構成等)は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
電極12および電極22の幅は、それぞれ、特に限定されないが、それらの幅が小さいほど、小さな相対運動によって運動エネルギから電気エネルギへの変換を行うことができ、変換効率が向上し、好ましい。そのため、電極12および電極22の幅は、それぞれ、1mm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、300μm以下が特に好ましい。該幅の下限は特に限定されないが、耐久性、生産性、エレクトレットとしての特性(表面電位の大きさ、およびその安定性)等を考慮すると、50μm以上が好ましく、100μm以上が特に好ましい。
電極12および電極22の厚さ(複数の層よりなる場合は合計の厚さ)は、それぞれ、10〜1,000nmが好ましく、100〜500nmが特に好ましい。該厚さが上記範囲内であると、導電性や生産性に優れる。
エレクトレット13は、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体(A)が溶解したコーティング液を用いて形成されたパターン膜に電荷を注入してなるものであり、該パターン膜には含フッ素重合体(A)または該含フッ素重合体(A)の誘導体(A’)が含まれる。該パターン膜は、含フッ素重合体(A)または誘導体(A’)を含有することにより、優れた電荷保持性能を有する。
含フッ素重合体(A)としては、上記効果に優れることから、主鎖に脂肪族環を有すると共に、末端基としてカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する含フッ素重合体が好ましい。
含フッ素重合体(A)について詳しくは後述する。
誘導体(A’)としては、たとえば、含フッ素重合体(A)と該含フッ素重合体(A)以外の他の成分との反応生成物が挙げられる。
前記反応生成物としては、たとえば含フッ素重合体(A)およびそれ以外の他の成分を溶媒に溶解したコーティング液を加熱(溶媒を揮発させて成膜する際のベーク、パターン膜の上面から側面にかけて連続的に湾曲する曲面を形成する際の熱処理等)した際に、各成分が反応して生成するものが挙げられる。
該反応生成物を含む場合、該パターン膜中には、前記反応生成物の形成に用いた含フッ素重合体(A)または他の成分の一部が未反応のまま残留していてもよい。
含フッ素重合体(A)と混合または反応させる他の成分としては、シランカップリング剤または多価極性化合物が好ましく、シランカップリング剤が特に好ましい。これにより、エレクトレット13が保持する電荷の熱安定性がさらに向上し、経時安定性等も向上する。該効果は、特に、含フッ素重合体(A)が、主鎖に脂肪族環を有すると共に、末端基としてカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する重合体である場合に顕著である。
誘導体(A’)の形成に用いられる、含フッ素重合体(A)以外の他の成分(シランカップリング剤、多価極性化合物等)については、詳しくは後で説明する。
本実施形態において、それぞれのエレクトレット13は、その上面から側面にかけて連続的に湾曲する曲率半径(以下、Rということがある。)が0.5μm以上の曲面を有することが好ましい。これにより、Rが0.5μm未満である場合に比べて、保持した電荷の熱安定性が向上する。該Rは、1.0μm以上がより好ましい。該Rの上限は特に限定されないが、パターンの形状を保持しやすい点から、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、4.0μm以下が特に好ましい。
ここで、「上面」は、エレクトレット13の表面のうち、基板11表面(水平面)に対して垂直方向の高さが最も高い位置における水平面と一致する面と定義され、「側面」は、エレクトレット13が基板11に対して立ち上がった部分(最も基板11に近い部分)から「上面」に達するまでの間で、基板11となす角が最大になる平面と定義される。
パターン膜13の上面から側面にかけてのRは、特開2011−50212号公報に記載の方法により測定できる。具体的には、以下の手順(1)〜(3)により測定できる。
(1)エレクトレット13(または電荷を注入する前のパターン膜)が形成された基板11を割断し、その断面写真を走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy(SEM )、たとえば日立ハイテクノロジーズ社製S−4300)にて撮影する(倍率:4,000倍)。
(2)次に、前記断面写真内に円を描き、該円を、エレクトレット13(または電荷を注入する前のパターン膜)の上面から側面にかけての曲面にフィッティングさせる。
(3)フィッティングさせた円の半径、すなわちRを測定する。
上記(2)において、フィッティングは、画像処理ソフトによりRを求めることのできる装置(例えばキーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX−900)に画像を取り込み、内臓のソフトを使用して写真内に真円を描き、その円の大きさをエレクトレット13(または電荷を注入する前のパターン膜)のパターン端部の曲面にフィッティングさせることにより行うことができる。また、Microsoft社製Excel、Word、PowerPoint、Adobe社製Photoshop、illustrator、 Autodesk社製 AutoCAD LTといったソフトの画面上に画像を貼り付け、続いてソフト上で写真内に真円を描き、その円の大きさをエレクトレット13(または電荷を注入する前のパターン膜)のパターン端部の曲面にフィッティングさせることにより行うこともできる。
上記(3)において、Rは、前記(2)において該断面写真に描いた円の半径と該断面写真中に表示されたスケール(1μm幅に相当する長さを表示)を比較することにより測定できる。
エレクトレット13は、電極12の外周面を5μm以上の被覆厚さで覆っている。
該被覆厚さが5μm以上であることにより、エレクトレット13の表面電位値が高く、また電荷保持の安定性(常温安定性、加熱時の安定性の両方)が高い。電荷保持の安定性が高いことで、エレクトレット13の表面電位の安定性が高い。また、静電誘導型変換素子内または静電誘導型変換素子間のバラツキが小さく均一性に優れる。
ここで、外周面とは、基板11に接していない面を示す。本実施形態においては、電極12の側面および上面(基板22側の面)が外周面である。すなわち、エレクトレット13は、幅方向の被覆厚さと高さ方向の被覆厚さdがともに5μm以上である。以下、単に「厚さ」という場合、高さ方向(基板11表面に対して垂直方向)の被覆厚さを示す。
なお、エレクトレット13の幅方向の被覆厚さが5μm以上であるとは、電極12の側面を被覆するエレクトレット13の膜の厚さの最小厚さが5μm以上であることをいう。つまり幅方向の被覆厚さは、図1中に符号WC1およびWC2で示される幅のうち、最も小さい幅である。WC1およびWC2の値が異なる場合は小さい方の幅が幅方向の被覆厚さであり、WC1およびWC2の値が同じである場合は、その幅が幅方向の被覆厚さである。WC1およびWC2が同じである場合、幅方向の被覆厚さは、(エレクトレット13の幅W−電極12の幅W)/2、つまりWC1およびWC2の平均値として表すことができる。
また、エレクトレット13の厚さdが5μm以上であるとは、電極12の上面を被覆するエレクトレット13の膜の厚さの最小厚さが5μm以上であることをいう。
エレクトレット13の幅方向の被覆厚さ(WC1およびWC2)は、5μm以上であり、5〜50μmが好ましく、5〜20μmが特に好ましい。
該被覆厚さが5μm未満の場合は、前述の課題に記したとおり、荷電時に電荷がベース電極に誘導されるため、形成されたエレクトレット膜が、高電圧に耐えきれず絶縁破壊し、場合によっては膜の分解、減膜が生じることがある。このことが原因でパターニングエレクトレットの表面電位が安定化せず、表面電位が低下するだけでなく、静電誘導型変換素子内または静電誘導型変換素子間のバラツキが大きくなる。
該被覆厚さが50μmを超えると、発電効率が低下するおそれがある。特に、第一の基板11上の複数のエレクトレット13(および電極12)の間隙部分にガード電極を設ける場合、エレクトレット13とガード電極との距離が小さくなり、荷電してエレクトレットを製造する際に、ガード電極への放電が起こるおそれがある。
静電誘導型発電素子においては、エレクトレット13と対向する位置にある第二の電極22に反対の電荷が誘導された後、振動により対向電極の位置がエレクトレット13の位置からはずれた際に電流が流れる。その際、第一の基板11の対向電極と対向する位置の表面電位が0に近いほど発電効率が向上する。その表面電位を確実に0にするためにガード電極が設けられる。上記のようにガード電極への放電が起こった場合、エレクトレットの表面電位が低下し、発電効率の向上効果が充分に得られない。
エレクトレット13の厚さdは、上記と同様の理由から5μm以上であり、発電出力、加工しやすさ等を考慮すると、5〜100μmが好ましく、10〜20μmが特に好ましい。
本実施形態の静電誘導型発電素子においては、基板21を、図1中の矢印D方向に、略水平に往復運動(振動)させることにより発電を行うことができる。すなわち、該振動により、基板11に対する基板21の位置が相対的に変動し、これに伴い、エレクトレット13と、対向する位置にある電極22との重なり面積が変化する。エレクトレット13と電極22との重なり部分では、エレクトレット13に注入された電荷によって、電極22に、エレクトレット13に注入された電荷とは逆の極性を持つ電荷が静電誘導される。それに対して、エレクトレット13と電極22とが重ならない部分では先に誘導された電荷に対向する逆電荷が無くなり、外部負荷との間の電位差を打ち消すために負荷に電流が流れる。この繰り返しを電圧の波として取り出すことで電気エネルギが生じる。このようにして、運動エネルギが電気エネルギに変換される。
このときの最大発電出力Pmaxは、以下の数式で表される。
max=2πσnAf/{εε/d×(εg/d+1)}
[式中、σはエレクトレット13の表面電荷密度、nは極数(基板11の運動方向に配置された電極12の数(つまりエレクトレット13の数))、Aはエレクトレット13と電極22との最大重なり面積、fは電極22の往復運動の周波数、εは比誘電率、εは真空の誘電率、dはエレクトレット13の厚さ(高さ方向の被覆厚さ)、gはエレクトレット13と電極22との距離である。]
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、エレクトレットとして、特定の材料を用いて形成された、特定の被覆厚さを有するパターン膜に電荷を注入したものを備える以外は、公知の静電誘導型発電素子の構成を適宜採用できる。
たとえば上記実施形態では、電極12、エレクトレット13および電極22の形状としてライン状のものを示したが本発明はこれに限定されず、任意の形状、たとえば従来、静電誘導型発電素子に用いられているパターン電極の形状を適宜採用できる。ライン状以外の形状としては、たとえば櫛形状、リング状、市松模様状等が挙げられる。基板表面に形成されるパターン電極の数は、1つであってもよく、複数であってもよい。
また、本実施形態では、エレクトレット13がその上面から側面にかけて特定の曲面を有する例を示したが本発明はこれに限定されず、上面から側面にかけて曲面となっていなくてもよい(上面と側面との境界部分のRが0.5μm未満であってもよい)。
エレクトレット13を構成するパターン膜は、単一の組成の層からなるものであってもよく、それぞれ組成が異なる層が複数積層された多層構造であってもよい。
必要に応じて、エレクトレット13上に、他の層が積層されてもよい。積層可能な他の層としては、たとえば、保護層、無機物からなる層等が挙げられる。
他の層が積層された構造は、たとえばコーティング膜にパターニングしてパターンを形成する前に、該コーティング膜上に該他の層を形成することにより形成できる。
第一の基板11上、複数のエレクトレット13(および電極12)の間隙部分に、ガード電極を形成してもよい。ガード電極は通常接地されている。これにより、電極22(対向電極)がエレクトレット13に対向し、静電誘導が生じた後にガード電極と対向することで、電極22に生じる電位の変化が大きくなり、発電量を増大させることができる。ガード電極は、電極12と同様にして形成できる。
また、図1に示した実施形態では、パターン膜13(および電極12)と電極22との相対運動が、基板21の振動により実現されているが、これに限られるものではない。たとえば、第二の基板21ではなく第一の基板11を振動させてもよい。
<静電誘導型発電素子の製造方法>
本発明の静電誘導型発電素子の製造方法は、たとえば、
基板上にパターン電極を形成する電極形成工程と、
前記パターン電極上に前記パターン膜を形成するパターン膜形成工程と、
前記パターン膜に電荷を注入してエレクトレットとする電荷注入工程と、
を有する製造方法により製造できる。
(電極形成工程)
基板としては、前記基板11と同様のものが挙げられる。
パターン電極の形成方法としては、特に限定されず、公知の方法を利用できる。具体的には、たとえば基板上に導電性薄膜を形成し、該導電性薄膜をパターニングする方法が挙げられる。
導電性薄膜の形成方法としては、物理的蒸着法、無電解めっき法等が挙げられる。
物理蒸着法としては、スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
無電解めっき法とは、金属塩、還元剤等を含む無電解めっき液に、表面に触媒が付着した基板を浸漬し、還元剤から生じる電子の還元力によって、触媒が付着した基板表面において選択的に金属を析出させ、無電解めっき膜を形成する方法である。
無電解めっき液に含まれる金属塩としては、ニッケル塩(硫酸ニッケル、塩化ニッケル、次亜リン酸ニッケル等。)、第二銅塩(硫酸銅、塩化銅、ピロリン酸等。)、コバルト塩(硫酸コバルト、塩化コバルト等。)、貴金属塩(塩化白金酸、塩化金酸、ジニトロジアンミン白金、硝酸銀等。)等が挙げられる。
無電解めっき液に含まれる還元剤としては、次亜リン酸ナトリウム、ホルムアルデヒド、テトラヒドロほう酸ナトリウム、ジアルキルアミンボラン、ヒドラジン等が挙げられる。
無電解めっき法により導電性薄膜を形成する場合、導電性薄膜を形成する前に、予め、基板1の表面に触媒を付着させておくことが好ましい。
無電解めっき法に用いる触媒としては、金属微粒子、金属を担持した微粒子、コロイド、有機金属錯体等が挙げられる。
導電性薄膜のパターニングは、フォトリソグラフィー法とウェットエッチング法の組み合わせ、ナノメタルインク等を印刷することによる配線形成、等により実施できる。たとえばフォトリソグラフィー法とウェットエッチング法の組み合わせによるパターニングは、導電性薄膜上にフォトレジストを塗布してレジスト膜を形成した後、該レジスト膜に対し、露光、現像を行うことでパターン(レジストマスク)を形成し、該レジストマスクをマスクとして導電性薄膜をエッチングすることにより実施できる。導電性薄膜のエッチングは、たとえばエッチング液として導電性薄膜を溶解する液体(通常は酸性溶液)を用いたウェットエッチングにより実施できる。また、ナノメタルインク等を印刷する方法としてはスクリーン印刷法、インクジェット法またはマイクロコンタクトプリンティング法等を用いることができる。ナノメタルインクとは前述の導電性材料のナノ粒子を有機溶媒や水等に分散させたインクのことをいう。
(パターン膜形成工程)
本工程では、前記パターン電極上に前記パターン膜を形成する。つまり、前記パターン電極を被覆し、該パターン電極に対応するパターンで形成され、含フッ素重合体(A)または誘導体(A’)を含有し、パターン電極の外周面を5μm以上の被覆厚さで覆っているパターン膜を形成する。
パターン膜の形成方法としては、特に限定されず、公知のパターニング技術を利用できる。
具体例として、たとえば下記方法(Ia)〜(Ie)等が挙げられる。
方法(Ia):前記パターン電極が形成された基板上に、前記含フッ素重合体(A)を含むコーティング液を塗布し、ベークしてコーティング膜を形成し、該コーティング膜を、エッチングにより、前記パターン電極に対応するパターンにパターニングして前記パターン膜を形成する方法。
方法(Ib):電極付き基板上に、前記コーティング液を塗布し、ベークしてコーティング膜を形成し、該コーティング膜上に、パターン電極に対応するパターンでパターニングされたレジスト膜を形成し、該レジスト膜をマスクとして前記コーティング膜をドライエッチングして、該レジスト膜の形状を前記コーティング膜に転写する方法。
方法(Ic):電極付き基板上に、前記コーティング液を塗布し、ベークしてコーティング膜を形成し、該コーティング膜を、インプリント法により、前記パターン電極に対応するパターンにパターニングして前記パターン膜を形成する方法。
方法(Id):電極付き基板上に、前記コーティング液の印刷により、前記パターン電極を被覆し、該パターン電極に対応するパターンで形成されたパターン液層を形成し、乾燥して、パターン膜を形成する方法。
方法(Ie):電極付き基板表面に、前記パターン電極に対応する撥油・親油のパターニングを施した後、前記コーティング液のディップまたは印刷により、前記パターン電極を被覆し、該パターン電極に対応するパターンで形成されたパターン液層を形成し、乾燥して、パターン膜を形成する方法。
上記の中でも、本発明の効果に優れることから、方法(Ia)が好ましい。
方法(Ia)においては、パターニング後、さらに、形成されたパターン膜の角(上面と側面との連絡部分)を曲面とするための処理(曲面化処理)を行ってもよい。該曲面化処理方法としては、該パターン膜を熱処理する方法、該パターン膜をウェットエッチングする方法、該パターン膜上にポリマー溶液を塗布してポリマー膜を形成し、該ポリマー膜をドライエッチングする方法等が挙げられる。これらの中でも、熱処理する方法が好ましい。特に、コーティング液としてシランカップリング剤を含有するものを用いる場合、熱処理を行うことで、保持した電荷の熱安定性がさらに向上する。
上記方法(Ia)〜(Ie)や曲面化処理については、特開2011−50212号公報に記載の方法により実施できる。
以下、方法(Ia)により、前記図1に示した実施形態の静電誘導型発電素子を製造する場合を例に挙げて、本発明の製造方法をより詳細に説明する。ただし本発明の製造方法は本実施形態に限定されるものではない。
図2は、該実施形態を説明する概略工程図を示す。
まず、電極付き基板30(電極はここでは図示せず)上に、含フッ素重合体(A)を含むコーティング液を塗布し、ベークしてコーティング膜を形成し、該コーティング膜を、前記パターン電極に対応するパターンにパターニングして、角付きパターン膜31を形成する。その後、角付きパターン膜31を熱処理すると、該熱により軟化して、角付きパターン膜31の角31aおよび31bが取れ、曲面となり、パターン膜31’が得られる。
このとき、熱処理温度を調節することで、角31aおよび31bのRを所望の値に調節できる。
コーティング液の組成については、後述する。
コーティング液の塗布方法としては、スピンコート法、ロールコート法、キャスト法、ディッピング法、水上キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、ダイコート法、インクジェット法、スプレーコート法等が挙げられる。これらの中でもスピンコート法が好ましい。
コーティング膜を形成する際のベーク温度は、塗膜中の溶媒の少なくとも一部が蒸発してコーティング膜が成膜される温度であればよく、たとえば溶媒の沸点以上の温度でのベーク(高温ベーク)により行ってもよく、溶媒の沸点未満の温度でのベーク(低温ベーク)により行ってもよい。
ここで、溶媒として複数の溶媒を用いる場合の「溶媒の沸点」は、該複数の溶媒のうち、沸点が最も高い溶媒の沸点を意味するものとする。
上記のうち、高温ベークを行った場合は、パターンを形成した膜の構造が、その後の熱処理で崩れにくく、パターンが潰れてしまう可能性が低い利点を有する。また、コーティング液が、含フッ素重合体(A)として、主鎖に脂肪族環を有すると共に、末端基としてカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する重合体を含有し、さらに、アミノ基を有するシランカップリング剤を含有する場合には、高温ベークにより前記アルコキシカルボニル基とアミノ基の反応が促進され、形成したパターン膜をエレクトレット化した場合のエレクトレットの耐熱性が確保できるという利点も有する。
低温ベークを行った場合は、ベーク後のコーティング膜中に溶媒が残存することから、その後の熱処理により、角31aおよび31bが取れやすく、Rを大きくしやすい利点を有する。また、低温ベークした場合、高温ベークした場合よりも、その後の熱処理を低温で行っても、角31aおよび31bの形状について同等の変化を生じさせることができる等、プロセス上の利点もある。たとえば高温ベークによりコーティング膜を形成し、300℃程度の熱処理で所望のRとすることができたとすると、低温ベークによりコーティング膜を形成した場合、300℃未満の温度、たとえば270〜280℃程度の熱処理で同等のRとすることができる。
ベーク時間は、ベーク温度に応じて適宜設定すればよい。
ベーク時の雰囲気は、不活性ガス中でもよく、空気中でもよい。コーティング液が、含フッ素重合体(A)として、主鎖に脂肪族環を有すると共に、末端基としてカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する重合体を含有し、さらに、アミノ基を有するシランカップリング剤を含有する場合には、シランカップリング剤の縮合促進のため、空気中が好ましい。
ベーク時の雰囲気は、常圧でも減圧でもよく、形成した膜の平滑性を確保する観点から常圧が好ましい。
コーティング膜の厚さは、所望のエレクトレットの厚さ、コーティング膜中に残存する溶媒量等に応じて適宜設定すればよい。たとえばパターン膜を形成する際の熱処理、溶媒の揮発等による厚さの減少を考慮すると、エレクトレットの厚さをたとえば1〜200μm(好ましくは10〜20μm)とする場合は、コーティング膜の厚さを2〜220μm(好ましくは12〜25μm)とすることが好ましい。
方法(Ia)において、コーティング膜のパターニングは、エッチングにより行う。該エッチングは従来公知の方法により実施でき、特に限定されない。
具体例としては、前記コーティング膜上に、所定のパターンのマスクを形成し、エッチングする方法が挙げられる。
該マスクは、たとえば前記パターン電極と同様の方法により形成できる。ただしマスクを構成する材料は、コーティング膜に対し、ある程度のエッチング選択比を有するものであればよく、導電性材料でなくてもよい。たとえば該マスクとして、前記パターン電極に対応するパターンにパターニングされたレジスト膜を用いてもよい。レジスト膜のパターニングは、公知のリソグラフィー法により実施できる。
角付きパターン膜31に対する熱処理条件(温度、時間)は、所望のR、重合体(A)のガラス転移温度(Tg)、熱分解温度(Td)等を考慮して適宜設定すればよい。
熱処理温度は、通常、150〜400℃の範囲内、好ましくは200〜320℃の範囲内で設定される。該範囲内において、熱処理温度が高いほど、Rが大きくなる傾向がある。
熱処理は、含フッ素重合体(A)のTg+20℃以上、さらにはTg+40℃以上の温度で行うことが、Rを大きくすることができるため好ましい。該温度の上限は重合体(A)のTd未満の温度であればよい。含フッ素重合体(A)のTd−50℃以下の温度が好ましく、該Td−100℃以下の温度が特に好ましい。
熱処理時間は、熱処理温度によっても異なるが、通常、10分間〜24時間の範囲内であり、30分間〜1時間が好ましい。
熱処理時の雰囲気は不活性ガス中であっても空気中でもよい。
該熱処理は、含フッ素重合体(A)として、主鎖に脂肪族環を有すると共に、末端基としてカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する重合体を含有し、さらに、アミノ基を有するシランカップリング剤を含有する組成物をコーティング液として用い、かつ、前記コーティング膜を形成する際のベークを低温ベークで行った場合には、前記アルコキシカルボニル基とアミノ基の反応を促進し、パターンを形成した膜をエレクトレット化した場合のエレクトレットの耐熱性を確保するという効果も兼ね備えている。
(電荷注入工程)
上述のようにして形成されたパターン膜に電荷を注入することで、該パターン膜をエレクトレットとすることができる。
電荷の注入方法としては、一般的に絶縁体を帯電させる方法であれば手段を選ばずに用いることができる。たとえば、G.M.Sessler, Electrets Third Edition,pp20,Chapter2.2 “Charging and Polarizing Methods”(Laplacian Press, 1998)に記載のコロナ放電法、電子ビーム衝突法、イオンビーム衝突法、放射線照射法、光照射法、接触帯電法、液体接触帯電法等が適用可能である。本発明においては特にコロナ放電法、電子ビーム衝突法を用いることが好ましい。
コロナ放電法による電荷の注入方法の一例を、図3を用いて説明する。図3は、電荷の注入に用いるコロナ荷電装置の概略構成図である。
該コロナ荷電装置においては、コロナ針72と、電極73とが対向配置され、直流高圧電源装置71(たとえばHAR−20R5;松定プレシジョン製)により、コロナ針72と電極73との間に高電圧を印加できるようになっている。コロナ針72と電極73との間にはグリッド74が配置され、該グリッド74にはグリッド用電源75からグリッド電圧を印加できるようになっている。また、パターン膜に注入される電荷の安定を図るため、ホットプレート76によって、電荷注入工程中のパターン膜をガラス転移温度以上に加熱できるようになっている。符号77は電流計である。
該コロナ装置の電極73上に、パターン膜が形成された基板を戴置し、ホットプレート76によって加熱し、グリッド用電源75からグリッド74にグリッド電圧を印加するとともに、直流高圧電源装置71によりコロナ針72と電極73との間に高電圧を印加する。これにより、コロナ針72から放電した負イオンが、グリッド74で均一化された後、電極73上に戴置したガラス基板61表面のパターン膜上に降り注ぎ、電荷が注入される。
電荷の注入は、当該パターン膜の形成に用いた含フッ素重合体(A)(コーティング液に含まれる含フッ素重合体(A))のガラス転移温度(Tg)以上の温度条件で行うことが、注入後に保持される電荷の安定性の面から好ましく、特に該Tg+10℃以上、該Tg+20℃以下程度の温度条件で行うことが好ましい。
含フッ素重合体(A)のTgは、示差走査熱分析(DSC)により測定できる。
電荷を注入する際の印加電圧としては、前記パターン膜の絶縁破壊電圧以下であれば、高圧を印加することが好ましい。本発明においては、−6〜−30kVの高電圧が適用可能であり、特に−8〜−15kVの電圧印加が好ましい。
<含フッ素重合体(A)>
含フッ素重合体(A)は、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体である。該脂肪族環が、電荷保持性能の向上に寄与する。
ここで、「含フッ素重合体」は、その構造中にフッ素原子を有する重合体である。
「脂肪族環」とは、芳香族性を有さない環を示す。
該脂肪族環は、環骨格が、炭素原子のみから構成される炭素環構造のものであってもよく、環骨格に、炭素原子以外の原子(ヘテロ原子)を含む複素環構造のものであってもよい。該ヘテロ原子としては酸素原子、窒素原子等が挙げられる。
該脂肪族環は、飽和であってもよく、不飽和であってもよい。
該脂肪族環の環骨格を構成する原子の数は、4〜7個が好ましく、5〜6個が特に好ましい。すなわち、脂肪族環は4〜7員環であることが好ましく、5〜6員環であることが特に好ましい。
該脂肪族環としては、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素環、該脂肪族炭化水素環における炭素原子の一部が酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子で置換された脂肪族複素環、前記脂肪族炭化水素環または脂肪族複素環における水素原子がフッ素原子で置換された含フッ素脂肪族環等が好ましい。
該脂肪族環は、置換基(ただしフッ素原子を除く)を有していてもよい。「置換基を有していてもよい」とは、該脂肪族環の環骨格を構成する炭素原子に結合した水素原子またはフッ素原子の一部または全部が置換基で置換されていてもよいことを意味する。
含フッ素重合体(A)は、上記の中でも、含フッ素脂肪族環または脂肪族炭化水素環を主鎖に有することが好ましい。
「主鎖に脂肪族環を有する」とは、脂肪族環の環骨格を構成する炭素原子のうち、少なくとも1つが、含フッ素重合体(A)の主鎖を構成する炭素原子であることを意味する。
例えば含フッ素重合体(A)が、重合性二重結合を有する単量体の重合により得られたものである場合、該重合に用いられた単量体が有する重合性二重結合に由来する炭素原子のうちの少なくとも1つが、前記主鎖を構成する炭素原子となる。たとえば含フッ素重合体(A)が、後述するような環状単量体を重合させて得た含フッ素重合体の場合は、該環状単量体が有する重合性二重結合を構成する2個の炭素原子が主鎖を構成する炭素原子となる。また、2個の重合性二重結合を有する単量体を環化重合させて得た含フッ素重合体の場合は、2個の重合性二重結合を構成する4個の炭素原子のうちの少なくとも2個が主鎖を構成する炭素原子となる。
含フッ素重合体(A)において、フッ素原子は、主鎖を構成する炭素原子に結合していてもよく、側鎖に結合していてもよい。低吸水率・低誘電率で絶縁破壊電圧が高く、体積抵抗率の高いエレクトレット化に適した重合体を得る観点から、少なくとも、主鎖を構成する炭素原子に結合したフッ素原子を有することが好ましい。すなわち、含フッ素重合体は、主鎖に含フッ素脂肪族環を有することが好ましい。
特に、該含フッ素脂肪族環が、骨格に1〜2個のエーテル性酸素原子を有する複素環構造の含フッ素脂肪族環であることが、単量体から重合体の生成が容易、重合体の入手が容易等の点から好ましい。
含フッ素重合体(A)は、反応性官能基を有することが好ましい。特に、含フッ素重合体(A)を、シランカップリング剤または多価極性化合物と配合して用いる場合は、含フッ素重合体(A)が、シランカップリング剤が有する官能基または多価極性化合物が有する極性官能基と反応し得る反応性官能基を有することが好ましい。
「反応性官能基」とは、加熱等を行った際に、当該含フッ素重合体(A)の分子間、または含フッ素重合体(A)とともに配合されている他の成分と反応して結合を形成し得る反応性を有する基を意味する。反応性官能基を有することで、本発明の効果が向上する。
シランカップリング剤または多価極性化合物との相互作用の強さ、重合体中への導入のしやすさを考慮すると、含フッ素重合体(A)が有する反応性官能基は、カルボキシ基、酸ハライド基、アルコキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、カーボネート基、スルホ基、ホスホノ基、ヒドロキシ基、チオール基、シラノール基およびアルコキシシリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
含フッ素重合体(A)は、上記の中でも、カルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有することが好ましい。
含フッ素重合体(A)の重量平均分子量は、5万以上が好ましく、15万以上がより好ましく、20万以上がさらに好ましく、25万以上が特に好ましい。該重量平均分子量が5万未満であると、製膜が難しい。また、20万以上であると、膜の耐熱性が向上し、エレクトレットとしての熱安定性が向上する。
一方、該重量平均分子量が大きすぎると、溶媒に溶けにくくなり、製膜プロセスが制限される等の問題が生じるおそれがある。したがって、含フッ素重合体(A)の重量平均分子量は、100万以下が好ましく、85万以下がより好ましく、65万以下がさらに好ましく、55万以下が特に好ましい。
含フッ素重合体(A)は、エレクトレットとしての電荷保持性能を考慮すると、比誘電率が1.8〜8.0であることが好ましく、1.8〜5.0がより好ましく、1.8〜3.0が特に好ましい。該比誘電率は、ASTM D150に準拠し、周波数1MHzにおいて測定される値である。
含フッ素重合体(A)は、体積固有抵抗が高く、絶縁破壊電圧が大きいことが好ましい。
含フッ素重合体(A)の体積固有抵抗は、1010〜1020Ωcmが好ましく、1016〜1019Ωcmが特に好ましい。該体積固有抵抗は、ASTM D257により測定される。
含フッ素重合体(A)の絶縁破壊電圧は、10〜25kV/mmが好ましく、15〜22kV/mmが特に好ましい。該絶縁破壊電圧は、ASTM D149により測定される。
含フッ素重合体(A)としては、絶縁性に悪影響を与える水を排除し、高い絶縁性を維持するために、疎水性の高いものが好ましい。
好ましい含フッ素重合体(A)として、下記含フッ素環状重合体(I)、含フッ素環状重合体(II)が挙げられる。
含フッ素環状重合体(I):環状含フッ素単量体に基づく単位を有する重合体。
含フッ素環状重合体(II):ジエン系含フッ素単量体の環化重合により形成される単位を有する重合体。
「環状重合体」とは環状構造を有する重合体を意味する。
「単位」は、重合体を構成する繰り返し単位を意味する。
以下、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」とも記す。他の式で表される単位、化合物等についても同様に記し、たとえば式(1−1)で表される単位を「単位(1−1)」とも記す。
含フッ素環状重合体(I)は、「環状含フッ素単量体」に基づく単位を有する。
「環状含フッ素単量体」とは、含フッ素脂肪族環を構成する炭素原子間に重合性二重結合を有する単量体、または、含フッ素脂肪族環を構成する炭素原子と含フッ素脂肪族環外の炭素原子との間に重合性二重結合を有する単量体である。
環状含フッ素単量体としては、下記の化合物(1)または化合物(2)が好ましい。
Figure 2012257368
[式中、X、X、X、X、YおよびYは、それぞれ独立に、フッ素原子、酸素原子が介在してもよいペルフルオロアルキル基、または酸素原子が介在してもよいペルフルオロアルコキシ基である。XおよびXは相互に結合して環を形成してもよい。]
、X、X、X、YおよびYにおけるペルフルオロアルキル基は、炭素数が1〜7であることが好ましく、炭素数が1〜4であることが特に好ましい。該ペルフルオロアルキル基は、直鎖状または分岐鎖状が好ましく、直鎖状が特に好ましい。具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等が挙げられ、特にトリフルオロメチル基が好ましい。
、X、X、X、YおよびYにおけるペルフルオロアルコキシ基としては、前記ペルフルオロアルキル基に酸素原子(−O−)が結合したものが挙げられ、トリフルオロメトキシ基が特に好ましい。
前記ペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルコキシ基の炭素数が2以上である場合、該ペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルコキシ基の炭素原子間に酸素原子(−O−)が介在してもよい。
式(1)中、Xは、フッ素原子であることが好ましい。
は、フッ素原子、トリフルオロメチル基、または炭素数1〜4のペルフルオロアルコキシ基であることが好ましく、フッ素原子またはトリフルオロメトキシ基であることが特に好ましい。
およびXは、それぞれ独立に、フッ素原子または炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基であることが好ましく、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であることが特に好ましい。
およびXは相互に結合して環を形成してもよい。前記環の環骨格を構成する原子の数は、4〜7個が好ましく、5〜6個が特に好ましい。
化合物(1)の好ましい具体例として、化合物(1−1)〜(1−5)が挙げられる。
Figure 2012257368
式(2)中、YおよびYは、それぞれ独立に、フッ素原子、炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基または炭素数1〜4のペルフルオロアルコキシ基が好ましく、フッ素原子またはトリフルオロメチル基が特に好ましい。
化合物(2)の好ましい具体例として、化合物(2−1)〜(2−2)が挙げられる。
Figure 2012257368
含フッ素環状重合体(I)は、上記環状含フッ素単量体により形成される単位のみから構成されてもよく、該単位と、それ以外の他の単位とを有する共重合体であってもよい。
ただし、該含フッ素環状重合体(I)中、環状含フッ素単量体に基づく単位の割合は、該含フッ素環状重合体(I)を構成する全繰り返し単位の合計に対し、20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、100モル%であってもよい。
該他の単量体としては、上記環状含フッ素単量体と共重合可能なものであればよく、特に限定されない。具体的には、ジエン系含フッ素単量体、側鎖に反応性官能基を有する単量体、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)等が挙げられる。ジエン系含フッ素単量体としては、後述する含フッ素環状重合体(II)の説明で挙げるものと同様のものが挙げられる。側鎖に反応性官能基を有する単量体としては、重合性二重結合および反応性官能基を有する単量体が挙げられる。重合性二重結合としては、CF=CF−、CF=CH−、CH=CF−、CFH=CF−、CFH=CH−、CF=C−、CF=CF−等が挙げられる。反応性官能基としては、後述する含フッ素環状重合体(II)の説明で挙げるものと同様のものが挙げられる。
なお環状含フッ素単量体とジエン系含フッ素単量体との共重合により得られる重合体は含フッ素環状重合体(I)として考える。
含フッ素環状重合体(II)は、ジエン系含フッ素単量体の環化重合により形成される単位を有する。
「ジエン系含フッ素単量体」とは、2個の重合性二重結合およびフッ素原子を有する単量体である。該重合性二重結合としては、特に限定されないが、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基が好ましい。
ジエン系含フッ素単量体としては、下記化合物(3)が好ましい。
CF=CF−Q−CF=CF ・・・(3)。
式(3)中、Qは、エーテル性酸素原子を有していてもよく、フッ素原子の一部がフッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜5、好ましくは1〜3の、分岐を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。該フッ素以外のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
Qはエーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。その場合、該ペルフルオロアルキレン基におけるエーテル性酸素原子は、該基の一方の末端に存在していてもよく、該基の両末端に存在していてもよく、該基の炭素原子間に存在していてもよい。環化重合性の点から、該基の一方の末端に存在していることが好ましい。
化合物(3)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
CF=CFOCFCF=CF
CF=CFOCF(CF)CF=CF
CF=CFOCFCFCF=CF
CF=CFOCFCF(CF)CF=CF
CF=CFOCF(CF)CFCF=CF
CF=CFOCFClCFCF=CF
CF=CFOCClCFCF=CF
CF=CFOCFOCF=CF
CF=CFOC(CFOCF=CF
CF=CFOCFCF(OCF)CF=CF
CF=CFCFCF=CF
CF=CFCFCFCF=CF
CF=CFCFOCFCF=CF
化合物(3)の環化重合により形成される単位としては、下記単位(3−1)〜(3−4)等が挙げられる。
Figure 2012257368
含フッ素重合体は、前述した単量体を重合させることにより合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
主鎖にエーテル製酸素原子を含む含フッ素脂肪族環を有し、主鎖の末端にカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する含フッ素重合体の市販品としては、CYTOP(登録商標、旭硝子社製)が挙げられる。
<コーティング液>
本発明において、前記パターン膜の形成に用いられるコーティング液は、前記重合体(A)を溶媒に溶解してなるもの、または含フッ素重合体(A)と含フッ素該重合体(A)以外の他の成分とを、溶媒に溶解してなるものである。
溶媒としては、該コーティング液に含まれる各成分を溶解するものであればよく、少なくとも含フッ素重合体(A)を溶解する溶媒が用いられる。
他の成分を含む場合、前記含フッ素重合体(A)を溶解する溶媒が、該他の成分を溶解するものであれば、該溶媒単独で均一な溶液とすることができる。また、該他の成分を溶解する他の溶媒を併用してもよい。
該他の成分としては、上述したとおり、シランカップリング剤または多価極性化合物を含有することが好ましく、シランカップリング剤を含有することが特に好ましい。これにより、形成されるエレクトレットが保持する電荷の熱安定性がさらに向上し、経時安定性等も向上する。該効果は、特に、含フッ素重合体(A)が、主鎖に脂肪族環を有すると共に、末端基としてカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する重合体である場合に顕著である。これは、含フッ素重合体(A)とシランカップリング剤がナノ相分離を引き起こし、シランカップリング剤由来のナノクラスタ構造が形成され、当該ナノクラスタ構造が、エレクトレットにおける電荷を蓄える部位として機能するためであると推察される。
コーティング液は、各成分を含む組成物を予め調製し、これを溶媒に溶解して得てもよく、各成分をそれぞれ溶媒に溶解し、各溶液を混合して得てもよい。
各成分を含む組成物を予め調製する場合の該組成物の製造方法としては、固体と固体、または固体と液体を混練、共融押し出し法等により混合してもよく、それぞれを可溶な溶媒に溶解した各溶液を混合してもよい。これらの中でも、各溶液を混合することがより好ましい。
たとえば含フッ素重合体(A)とシランカップリング剤とを併用する場合、コーティング液は、含フッ素重合体(A)を非プロトン性含フッ素溶媒に溶解した含フッ素重合体(A)溶液と、シランカップリング剤をプロトン性含フッ素溶媒に溶解したシランカップリング剤溶液とを各々調製し、含フッ素重合体(A)溶液と、シランカップリング剤溶液とを混合することによって得ることが好ましい。非プロトン性含フッ素溶媒およびプロトン性含フッ素溶媒についてはそれぞれ後述する。
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤としては、特に限定されず、従来公知または周知のものを含めて広範囲にわたって利用できる。
シランカップリング剤としては、アミノ基を有するシランカップリング剤が好ましい。
入手の容易性等を考慮すると、特に好ましいシランカップリング剤は、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、およびN−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、から選択される1以上である。
シランカップリング剤の含有量は、含フッ素重合体(A)とシランカップリング剤との合計量に対して、0.1〜20質量%が好ましく、0.3〜10質量%がより好ましく、0.5〜5質量%が特に好ましい。上記範囲にあると、含フッ素重合体(A)と均一に混合でき、各成分を溶媒に溶解してコーティング液とした際、相分離を起こしにくい。
[多価極性化合物]
多価極性化合物は、極性官能基を2個以上有する分子量が50〜2,000の化合物(ただし前記シランカップリング剤は除く。)である。
「極性官能基」とは、下記の(1a)および(1b)の何れか一方または両方の特性を有する官能基である。
(1a)電気陰性度の異なる2種類以上の原子を含み、当該官能基中に分極による極性を有する。
(1b)当該官能基と結合した炭素との電気陰性度の差により分極を生じさせる。
上記特性(1a)のみを有する極性官能基の具体例としては、ヒドロキシフェニル基等が挙げられる。
上記特性(1b)のみを有する極性官能基の具体例としては、1級アミノ基(−NH)、2級アミノ基(−NH−)、ヒドロキシ基、チオール基等が挙げられる。
上記特性(1a)および(1b)の両方を有する極性官能基の具体例としては、スルホ基、ホスホノ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、酸ハライド基、ホルミル基、イソシアナート基、シアノ基、カルボニルオキシ基(−C(O)−O−)カーボネート基(−O−C(O)−O−)等が挙げられる。
多価極性化合物の分子量は50〜2,000であり、100〜2,000が好ましい。多価極性化合物の分子量が上記範囲の下限値以上であると、揮発しにくくなり、製膜後に膜中に残存させることができる。多価極性化合物の分子量が上記範囲の上限値以下であると、含フッ素重合体(A)と層分離しやすくなり、相溶性に問題が生じ易い。
多価極性化合物としては、ペンタン−1,5−ジアミン、ヘキサン−1,6−ジアミン、シクロヘキサン−1,2−ジアミン、シクロヘキサン−1,3−ジアミン、シクロヘキサン−1,4−ジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,4−ジアミノベンゼン、トリアミノメチルアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、トリス(3−アミノプロピル)アミン、シクロヘキサン−1,3,5−トリアミン、シクロヘキサン−1,2,4−トリアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、2,4,6−トリアミノトルエン、1,3,5−トリス(2−アミノエチル)ベンゼン、1,2,4−トリス(2−アミノエチル)ベンゼン、2,4,6−トリス(2−アミノエチル)トルエン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンおよびポリエチレンイミンからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、トリス(2−アミノエチル)アミン、トリス(3−アミノプロピル)アミン、シクロヘキサン−1,3−ジアミン、ヘキサン−1,6−ジアミン、ジエチレントリアミンおよびポリエチレンイミンからなる群から選ばれる少なくとも1種が最も好ましい。
多価極性化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。たとえば、極性官能基を2個有する化合物と、極性官能基を3個以上有する化合物とを混合して用いてもよい。
多価極性化合物の含有量は、含フッ素重合体(A)の含有量の0.01〜30質量%であることが好ましく、0.05〜10質量%であることが特に好ましい。該含有量が上記範囲の下限値以上であると、多価極性化合物を配合することによる効果が充分に得られ、エレクトレットとして充分な電荷の熱安定性、経時安定性等を確保できる。該含有量が範囲の上限値以下であると、含フッ素重合体(A)との混和性が良好であり、コーティング液中での分布が均一となる。
[溶媒]
コーティング液は、少なくとも含フッ素重合体(A)を溶解する溶媒を含有する。該溶媒としては、使用する含フッ素重合体(A)に応じて適宜選択すればよく、たとえば、含フッ素重合体(A)として前記含フッ素重合体を用いる場合は、含フッ素有機溶媒を用いることができる。
含フッ素有機溶媒としては、非プロトン性含フッ素溶媒が好ましい。「非プロトン性含フッ素溶媒」とは、プロトン供与性を有さない含フッ素溶媒である。
非プロトン性含フッ素溶媒としては、たとえば、1,4−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等のポリフルオロ芳香族化合物、ペルフルオロトリブチルアミン等のポリフルオロトリアルキルアミン化合物、ペルフルオロデカリン等のポリフルオロシクロアルカン化合物、ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)等のポリフルオロ環状エーテル化合物、ペルフルオロポリエーテル、ポリフルオロアルカン化合物、ハイドロフルオロエーテル(HFE)などを用いることができる。
含フッ素有機溶媒としては、溶解度が大きく、良溶媒であることから、非プロトン性含フッ素溶媒のみを用いることが好ましい。
また、含フッ素有機溶媒の沸点は、65〜220℃が好ましい。含フッ素有機溶媒の沸点が100℃以上であれば、コーティングの際に均一な膜を形成しやすい。
シランカップリング剤または多価極性化合物を溶解する溶媒としては、プロトン性含フッ素溶媒が好ましい。「プロトン性含フッ素溶媒」とは、プロトン供与性を有する含フッ素溶媒である。
プロトン性含フッ素溶媒としては、たとえば、2−(ペルフルオロオクチル)エタノールなどの含フッ素アルコール、含フッ素カルボン酸、含フッ素カルボン酸のアミド、含フッ素スルホン酸などを用いることができる。
コーティング液の調製に用いる溶媒は、水分含量が少ないことが好ましい。該水分含量は、100ppm以下が好ましく、20ppm以下が特に好ましい。
コーティング液における含フッ素重合体(A)の濃度は、0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜20質量%が特に好ましい。
コーティング液の固形分濃度は、形成しようとする膜厚に応じて適宜設定すればよい。通常、0.1〜30質量%であり、0.5〜20質量%が好ましい。
なお固形分は、質量を測定したコーティング液を常圧下200℃で1時間加熱することで、溶媒を留去し、残存する固形分の質量を測定して算出する。
本発明の静電誘導型発電素子が備えるエレクトレットは、特定の従来のエレクトレットに比べて、保持した電荷の熱安定性に優れる。そのため、発電時の耐久性に優れる。また、該エレクトレットは、特定の材料を含有するものであるため、電荷保持性能も高く、大きな発電出力が得られる。
特に、エレクトレットが、主鎖に脂肪族環を有すると共に、末端基としてカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する重合体と、アミノ基を有するシランカップリング剤との反応生成物を含むものであると、上記熱安定性がさらに向上する。また、該エレクトレットは、パターン電極および基板に対する密着性にも優れる。
エレクトレットに保持される電荷の熱安定性に優れることから、本発明の静電誘導型発電素子は、高温(たとえば80〜120℃)条件下における特性の劣化が生じにくい等の特徴がある。
また、含フッ素重合体(A)が、従来使用されていた材料であるポリテトラフルオロエチレン等の直鎖状の含フッ素重合体より高い絶縁破壊強度を有する。たとえばテフロン(登録商標)AFの絶縁破壊強度が5kV/0.1mmであるのに対し、主鎖に含フッ素脂肪族環を有する重合体であるCYTOP(登録商標)の絶縁破壊強度は11kV/0.1mmである。また、エレクトレットを構成するパターン膜がコーティング液を用いて形成されたものであることから、膜厚の均一性に優れており、ピンホールなどの不均一部が存在しない。そのため、電荷の注入時における前述の絶縁破壊を防止・抑制することができる。電荷を注入する荷電プロセスにおいては、第一の電極12(ベース電極)が接地されるため、注入される電荷が膜形成部に誘導され、効率的にエレクトレット化することができる。しかし、電荷が第一の電極12に誘導されるため、形成されたエレクトレット膜の被覆厚さが薄い部分が、高電圧に耐えきれず絶縁破壊し、場合によっては膜の分解、減膜が生じることがある。これに対して、エレクトレット13が第一の電極12の外周面を5μm以上の被覆厚さで均一に覆うことにより、前述の絶縁破壊を防止・抑制することができる。そのため、パターニングエレクトレットの表面電位の低下を防止するだけでなく、静電誘導型変換素子内または静電誘導型変換素子間のバラツキを低減でき、静電誘導型変換素子性能の安定性を確保できる。
また、上記のように絶縁破壊が防止・抑制されるため、エレクトレットへの電荷注入量を増加でき、これによって、該エレクトレットを備えた発電素子の発電量を向上させることができる。
以下に、上記実施形態の具体例を実施例として説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の各例において、体積固有抵抗値は、ASTM D257により測定された値である。
絶縁破壊電圧は、ASTM D149により測定された値である。
比誘電率は、ASTM D150に準拠し、周波数1MHzにおいて測定された値である。
固有粘度[η](30℃)(単位:dl/g)は、30℃で、ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)を溶媒として、ウベローデ型粘度計により測定された値である。
ペルフルオロブテニルビニルエーテルの重合体の重量平均分子量(Mw)は、日本化学会誌,2001,NO.12,P.661に記載の[η]とMwとの関係式([η]=1.7×10−4×Mw0.60)を用い、上記で測定した固有粘度より算出した値である。
また、以下の各例で、膜厚の測定は浜松ホトニクス社製光干渉式膜厚測定装置C10178を用いて行った。
<製造例1:コーティング液M1の調製>
(1)重合体溶液の調製:
ペルフルオロブテニルビニルエーテル(CF=CFOCFCFCF=CF)の45g、イオン交換水の240g、メタノールの7g、および重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネート粉末(((CHCHOCOO))の0.1gを、内容積500mLの耐圧ガラス製オートクレーブに入れた。系内を窒素で3回置換した後、40℃で23時間懸濁重合を行った。その結果、重合体B1の39gを得た。
該重合体B1の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、モノマーに存在した二重結合に起因する1,660cm−1,1,840cm−1付近の吸収はなかった。
該重合体B1を、空気中にて250℃で8時間熱処理した後、水中に浸漬して、末端基として−COOH基を有する重合体B2を得た。
該重合体B2の圧縮成形フィルムの赤外線吸収スペクトルを測定した結果、−COOH基に由来する1,775、1,810cm−1の特性吸収が認められた。
該重合体B2の固有粘度[η](30℃)は0.32dl/gであり、その結果から定量される該重合体B2の重量平均分子量(Mw)は287,000であった。
重合体B2の体積固有抵抗値は>1017Ωcm、絶縁破壊電圧は19kV/mm、比誘電率は2.1であった。
重合体B2について示差走査熱分析(DSC)を行ったところ、重合体B2のガラス転移温度(Tg)は108℃であった。
ペルフルオロトリブチルアミンに、上記重合体B2を9質量%の濃度で溶解させ、重合体溶液P1を得た。
(2)シランカップリング剤の配合:
上記重合体溶液P1の76.3gと、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシランの0.3gとを、2−(ペルフルオロヘキシル)エタノールの4.4gに溶解したシランカップリング剤溶液とを混合した。これにより均一なコーティング液M1が得られた。
<実施例1>
[エレクトレットの製造、および静電誘導型発電素子の発電試験]
厚さ0.7mmのパイレックス(登録商標)製のガラス基板上に、小型真空蒸着装置(アルバック社製「VPC−060」)を用いて蒸着を行い、Cr/Au/Cr(各層の厚さ:50nm/200nm/50nm)の順で積層された3層構造の金属薄膜を形成した。該金属薄膜に、フォトレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製「AZP−4400」)を、約3μmの膜厚で塗布し、図4に示すパターンを有するフォトマスクを介して露光、現像を行った。続いてCr/Au/Crの各層をウェットエッチングすることにより、図4に示すパターンをパターニングして、ベース電極62a、ガード電極62b、配線63a、63bおよび外部端子接続部位64a、64bを形成した。
図4中、符号61はガラス基板を示す。
金属薄膜のウェットエッチングの際、Crのエッチングには日進化成社製「クロムエッチングTW液」を、Auのエッチングには関東化学社製「AURUM−302」を用いた。
図4に示すように、各ベース電極62aの一端が、それぞれ配線63aを介して外部端子接続部位64aに連絡され、各ガード電極62bの一端が、それぞれ配線63bを介して外部端子接続部位64bに連絡された構成とした。
図5に、図4中の位置X−X’における部分断面図を示す。
本製造例では、ベース電極62aの幅Wは280μm、電極間隔Wは25μm、ガード電極62bの幅Wは300μmとした。
次に、上記ガラス基板61上に、前記コーティング液M1を、毎分1,000回転で20秒間スピンコートし、100℃で10分間のプリベークを行った。このスピンコートからプリベークまでの一連の操作を3回繰り返して厚さ15μmの塗膜を形成した後、280℃で60分間ベークしてコーティング膜を得た。
該コーティング膜上に、蒸着により厚さ約200nmのCu層を形成した。このCu層上にフォトレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製「AZP−4400」)を約3μmの膜厚で塗布し、エレクトレット膜用のパターンを有するフォトマスクを介して露光、現像を行った。続いて、過酸化水素水/酢酸/水の1/1/10混合液によりウェットエッチングを行い、ベース電極62a上方部分のみを残すようにCu層をパターニングして、ライン状のCu層が等間隔に配置されたマスクを形成した。このとき、各ラインの幅は300μmとした。
次に、酸素プラズマによるドライエッチングを、100WのRFパワーで60〜70分間行い、コーティング膜をパターニングした。これにより、各ベース電極62a上に、幅300μmのライン状の角付きパターン膜が形成された。幅方向の被覆厚さは5μmであった。
その後、前述と同様のウェットエッチングによりCu層を剥離し、角付きパターン膜の上面を露出させた。パターン膜の厚さdは15μmであった。
次に、上記のようにして得られた角付きパターン膜を、250℃で1時間熱処理した。得られたパターン膜(熱処理パターン膜)についてSEMで断面を観察したところ、上面から側面にかけて連続的に湾曲した曲面となっていた。該曲面のRは2.8μmであった。また、熱処理パターン膜の幅方向の被覆厚さWC1およびWC2は10μm、厚さdは15μmであった。
次に、上記熱処理パターン膜に、図3に概略構成を示すコロナ荷電装置を用い、以下の手順でコロナ放電処理して電荷を注入し、エレクトレットとした。
該コロナ装置の電極73上に、上記パターン膜が形成されたガラス基板61を戴置し、ホットプレート76によって加熱し、グリッド用電源75からグリッド74にグリッド電圧を印加するとともに、直流高圧電源装置71によりコロナ針72と電極73との間に高電圧を印加した。
本製造例においては、ホットプレート76による熱処理パターン膜の加熱温度を、用いた重合体(重合体B2)のガラス転移温度(108℃)より12℃高い120℃とした。
そして、空気中で、コロナ針72と電極73との間に−8kVの高電圧を10分間印加した。また、その間のグリッド電圧は、−1,100Vとした。
電荷注入後にエレクトレットを観察したところ、膜の絶縁破壊は生じていなかった。
得られたエレクトレットについて、電荷を注入した直後の表面電位を、以下の手順で測定したところ、−750Vであった。
表面電位計(model279;モンローエレクトロニクス製)を用い、エレクトレット上の9点の測定点(パターン膜の中心から3mm間隔で6mm角の正方形上で測定)の表面電位を測定した平均値である(以降において同じ)。
また、上記測定における9点の測定点の値のバラツキは±10%以内に抑えられていた(最大値:−770V、最小値:−700V)。基板上に均等に分布した複数の測定点間の表面電位のバラツキが少ないことから、エレクトレット内の表面電位の均一性が高いことが確認できた。
続いて、得られたエレクトレットを用いて、静電誘導型発電素子として適用した場合を想定した発電試験を行った。本発電試験は国際公開第2008/114489号に記載の実施例4の方法に従って行った。
前記のエレクトレットに対して、図1に示すような対向基板(表面に電極22が形成された第二の基板21、電極22の幅:300μm、電極間隔:15μm)を、エレクトレットとの間隔が100μmとなるように平行に配置し、加速度1G、振動周波数20Hz、振幅1.2mmの振動を与えた。その間、外部負荷を通して電圧変化を測定し、発電量を計測したところ120μWの発電が可能であることを確認した。
本結果から、本製造例で得られたエレクトレットが静電誘導型発電素子として適用できることがわかった。
[熱安定性試験]
得られたエレクトレットについて、センサー電源用の静電誘導型発電素子を想定して、100℃における熱安定性を以下の手順で評価した。
エレクトレットが形成されたガラス基板61を、恒温層内にて100℃で保管した。保管開始から所定時間(0時間(h)、300時間(h))経過した時、該基板61を装置から取り出して常温(20〜25℃)に戻し、前記と同様の手順で表面電位を測定した。
測定結果から、下記式により表面電位残存率(%)を算出した。その結果、表面電位残存率は95%であった。
表面電位残存率(%)=300h経過後に測定された表面電位(V)/保管開始時(0h経過後)に測定された表面電位(V)×100
<比較例1>
前記実施例1において、パターン膜の幅方向の被覆厚さWC1およびWC2を3μmとした以外は実施例1と同様の手順で熱処理パターン膜を形成し、電荷を注入してエレクトレットを得た。該熱処理パターン膜の角のRは2.5μmであった。
得られたエレクトレットについて、電荷を注入した直後の表面電位を、実施例1と同様の手順で測定したところ、−200Vであり、実施例1に比べて大幅に低かった。また、9点の測定点の値のバラツキは±10%よりも大きな値になった(最大値:−400V、最小値:−50V)。また、電荷注入後にエレクトレットを観察したところ、膜の絶縁破壊が生じていた。
また、得られたエレクトレットについて、実施例1と同様の手順で熱安定性試験を行ったところ、表面電位残存率は60%であった。
<比較例2>
前記実施例1において、パターン膜の厚さdを3μmとした以外は実施例1と同様の手順で角付きパターン膜を形成し、電荷を注入してエレクトレットを得た。該角付きパターン膜の角のRは0.2μmであった。電荷注入後にエレクトレットを観察したところ、膜の絶縁破壊が生じていた。
また、得られたエレクトレットについて、実施例1と同様の手順で熱安定性試験を行ったところ、表面電位残存率は45%であった。
本発明の静電誘導型発電素子が備えるエレクトレットは、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体(A)または該含フッ素重合体(A)の誘導体(A’)を含有することから電荷保持性能に優れる。
また、該エレクトレットは、パターン電極の外周面を5μm以上の被覆厚さで覆っていることから、高温条件下でも表面電位の減少および絶縁破壊の発生が抑制されるなど、安定性に優れている。
また、該エレクトレットは、含フッ素重合体(A)が溶解したコーティング液を用いて形成したパターン膜から構成されることから膜厚が均一である。そのため、表面電位のバラツキも少ない。
11…第一の基板、12…電極、13…パターン膜、21…第二の基板、22…電極、30…電極付き基板、31…角付きパターン膜、31a,31b…角、31’…パターン膜、61…ガラス基板、62a…ベース電極、62b…ガード電極、63a,63b…配線、64a,64b…外部端子接続部位、71…直流高圧電源装置、72…コロナ針、73…電極、74…グリッド、75…グリッド用電源、76…ホットプレート、77…電流計

Claims (4)

  1. 基板と、該基板上に形成されたパターン電極と、該パターン電極を被覆し、該パターン電極に対応するパターンで形成されたパターン膜に電荷を注入したエレクトレットとを備える静電誘導型発電素子であって、
    前記パターン膜が、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体(A)が溶解したコーティング液を用いて形成されたものであり、該含フッ素重合体(A)または該含フッ素重合体(A)の誘導体(A’)を含有し、
    前記パターン膜が、前記パターン電極の外周面を5μm以上の被覆厚さで覆っていることを特徴とする静電誘導型発電素子。
  2. 前記含フッ素重合体(A)として、主鎖に脂肪族環を有すると共に、末端基としてカルボキシ基またはアルコキシカルボニル基を有する含フッ素重合体を含む、請求項1に記載の静電誘導型発電素子。
  3. 前記誘導体(A’)として、前記含フッ素重合体(A)と、アミノ基を有するシランカップリング剤との反応生成物を含む、請求項1または2に記載の静電誘導型発電素子。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の静電誘導型発電素子を製造する方法であり、
    基板上にパターン電極を形成する電極形成工程と、
    前記パターン電極上に前記パターン膜を形成するパターン膜形成工程と、
    前記パターン膜に電荷を注入してエレクトレットとする電荷注入工程と、
    を有する、静電誘導型発電素子の製造方法。
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