以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における坂道発進補助装置100が搭載される車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
まず、車両1の概略構成について説明する。図1に示すように、車両1は、車体BFと、その車体BFを支持する複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の後輪2RL,2RR)を回転駆動する動力源3と、その動力源3の動力が入力軸4により入力される断続装置5と、その断続装置5により入力軸4と連係可能に構成される駆動軸6と、その駆動軸6の回転を前進段または後進段の回転要素に伝達する前後進切換装置7と、断続装置5から前後進切換装置7までの動力伝達経路に配設されるワンウェイクラッチ8とを主に備えて構成されている。車輪2は、図1に示すように、車両1の前方側(矢印F方向側)に位置する左右の前輪2FL,2FRと、車両1の後方側(矢印B方向側)に位置する左右の後輪2RL,2RRとを備えている。
断続装置5は、入力軸4と駆動軸6とを機械的あるいは電磁的に結合すると共に、その結合を解除するための装置である。駆動軸6は入力軸4と結合されて、入力軸4と同じ方向に回転される。本実施の形態では、断続装置5は自動クラッチ装置により構成されている。但し、断続装置5は自動クラッチ装置に限られず、他の装置を採用することは当然可能である。他の装置としては、例えば、運転者のクラッチペダルの操作により結合解除または結合される手動式のクラッチ装置が例示される。また、湿式クラッチ、乾式クラッチのいずれを用いることも可能である。
前後進切換装置7は、車両1の前後進を切換えるための歯車式の装置であり、本実施の形態では、前進段(1速段および2速段以上)の回転要素を備える選択歯車式の変速機(図示せず)に内蔵されている。この場合の変速機としては、例えば、湿式や乾式のクラッチを使ったセミオートマチックトランスミッション、デュアルクラッチトランスミッション、マニュアルトランスミッション等が挙げられる。前後進切換装置7は、アクセルペダルやブレーキペダルの操作状態や運転者による補助モード選択装置15(図2参照)の操作により、前進段または後進段の切換えが行われる。なお、運転者が切換レバー7aを操作することにより、前進段または後進段の切換えを任意に行うことが可能である。
ワンウェイクラッチ8は、断続装置5から前後進切換装置7までの動力伝達経路に配設され駆動軸6の一定方向の回転を許容すると共に、逆方向の回転を阻止するための装置である。本実施の形態では、ワンウェイクラッチ8は、駆動軸6の外周面と外輪8aの内周面との間に配設される複数のスプラグ8bを備え、外輪8aは前後進切換装置7の筐体に固定されている。出力軸9は、前後進切換装置7の出力を駆動輪に伝達するための部材であり、本実施の形態では、デファレンシャルギヤを介して左右の後輪2RL,2RRに連結されている。
制御装置20は、上述したように構成される車両1の各部を制御するための装置であり、例えば、アクセルペダルやブレーキペダルの操作状態等に応じて、動力源3、断続装置5、変速機(前後進切換装置7)を作動制御する。
次いで、図2を参照して、坂道発進補助装置100の詳細構成について説明する。図2は、坂道発進補助装置100の電気的構成を示したブロック図である。制御装置20は、図2に示すように、CPU21、ROM22及びRAM23を備え、それらがバスライン24を介して入出力ポート25に接続されている。また、入出力ポート25には、動力源3等の装置が接続されている。
CPU21は、バスライン24により接続された各部を制御する演算装置である。ROM22は、CPU21により実行される制御プログラム(例えば、図3、図6から図8に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。RAM23は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。
動力源3は、エンジン3aと、そのエンジン3aをCPU21からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。なお、動力源3はエンジン3aに限られず、他の動力源を用いることが可能である。他の動力源としては、例えば、電動モータ、油圧モータ等が挙げられる。エンジン及び電動モータを組み合わせて動力源とすることも可能である。
断続装置5は、動力源3の動力の前後進切換装置7への伝達または伝達解除をするための装置であり、互いに連結または開放されるクラッチ部材(図示せず)と、そのクラッチ部材をCPU21からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。なお、断続装置5は、クラッチ部材が締結または切断のいずれの状態にあるかを示す状態信号をCPU21に出力する出力回路(図示せず)を備えている。
前後進切換装置7は、車両1の前後進を切換えるための装置であり、前進段および後進段の回転要素72,73(図4(a)参照)と、それら回転要素72,73に連結して動力源3の動力を伝達する連結部材74(図4(a)参照)と、その連結部材74をCPU21からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを備えている。また、前後進切換装置7は連結部材74を操作可能に構成される切換レバー7aと、その切換レバー7aの位置を検出する位置センサ装置7bとを備えている。
位置センサ装置7bは、切換レバー7aの位置を検出する位置検出センサ(図示せず)と、その位置検出センサの検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。なお、運転者は、CPU21からの指令に基づく前後進切換装置7の駆動制御に関らず、切換レバー7aにより連結部材74を操作できる。
加速度センサ装置10は、車両1の加速度を検出すると共に、その検出結果をCPU21に出力するための装置であり、前後方向加速度センサ10a及び左右方向加速度センサ10bと、それら各加速度センサ10a,10bの検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
前後方向加速度センサ10aは、車両1(車体フレームBF)の前後方向(図1矢印F−B方向)の加速度、いわゆる前後Gを検出するセンサであり、左右方向加速度センサ10bは、車両1(車体フレームBF)の左右方向(図1矢印L−R方向)の加速度、いわゆる横Gを検出するセンサである。なお、本実施の形態では、これら各加速度センサ10a,10bが圧電素子を利用した圧電型センサとして構成されている。
また、CPU21は、加速度センサ装置10から入力された各加速度センサ10a,10bの検出結果(前後G、横G)を時間積分して、2方向(前後方向および左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の走行速度を取得することができる。
アクセルペダルセンサ装置11は、アクセルペダル(図示せず)の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU21に出力するための装置であり、アクセルペダルの踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
ブレーキペダルセンサ装置12は、ブレーキペダル(図示せず)の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU21に出力するための装置であり、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
シフトポジションセンサ装置13は、動力が伝達されているギヤ段(シフトポジション)を検出すると共に、その検出結果をCPU21に出力するための装置であり、シフトポジションを検出するシフトポジションセンサ(図示せず)と、その検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。なお、本実施の形態では、シフトポジションセンサは、磁界を検出する磁気検出素子により構成されている。
傾斜角センサ装置14は、水平面に対する車両1の傾斜角を検出すると共に、その検出結果をCPU21に出力するための装置であり、車両1の前後方向(図1矢印F−B方向)の傾斜角を検出する傾斜角センサ14aと、その傾斜角センサ14aの検出結果を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。なお、本実施の形態では、静電容量型の傾斜角センサとして構成されている。
補助モード選択装置15は、発進補助の要否および坂道発進補助モードの種類を運転者に選択させるための装置であり、前進登坂スイッチ15a及び後進登坂スイッチ15bと、それらスイッチ15a,15bの操作状態を処理してCPU21に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。なお、補助モード選択装置15は、ボタンスイッチ、切換えスイッチ、音声認識手段を備えるもの等、適宜選択して採用することが可能である。
前進登坂スイッチ15aは、車両1が前進段で上り坂を上る途中で停止後、上り坂を前進段で発進するときに、車両1が後ろ向きに下降しないようにするための「前進登坂補助モード」を選択するためのスイッチである。前進登坂スイッチ15aがオンのときは、CPU21は、発進補助の要求があり「前進登坂補助モード」が選択されているものと判断する。
後進登坂スイッチ15bは、車両1が後進段で上り坂を上る途中で停止後、上り坂を後進段で発進するときに、車両1が前向きに下降しないようにするための「後進登坂補助モード」を選択するためのスイッチである。後進登坂スイッチ15bがオンのときは、CPU21は、発進補助の要求があり「後進登坂補助モード」が選択されているものと判断する。前進登坂スイッチ15a、後進登坂スイッチ15bのいずれもオフであるときは、CPU21は、発進補助の要求がないか或いは発進補助の要求が解除されたものと判断する。
報知装置16は、所定の条件が成立したと判断される場合に前進段または後進段を成立させるように運転者に報知するための装置である。本実施の形態では、運転者の視覚により識別可能な表示灯16a及び聴覚により識別可能な音声等を発生させる音声出力装置16bと、それら表示灯16a及び音声出力装置16bをCPU21からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。
図2に示す他の入出力装置30としては、例えば、GPSを利用して車両1の現在位置を取得すると共に、その取得した車両1の現在位置を道路に関する情報が記憶された地図データに対応付けて取得するナビゲーション装置などが例示される。ナビゲーション装置を用いることにより路面の勾配に関する情報を取得することができ、この情報に基づいて、水平面に対する車両1の傾斜角を推定することが可能である。
また、他の入出力装置30としては、シフトポジションを表示するシフトポジションインジケータも例示される。シフトポジションインジケータを備えることにより、運転者に安心感を与えることができると共に、操作感を向上できる。
次に図3(a)を参照して、前後進切換装置7の詳細構成について説明する。図3(a)は、前進段が成立した状態を示す前後進切換装置7の模式図である。前後進切換装置7は、駆動軸6(図1参照)の回転が伝達される回転軸71と、その回転軸71に固定される回転駆動部71aと、回転軸71に軸支される前進段の回転要素72及び後進段の回転要素73と、回転駆動部71aの外周に装着される連結部材74と、その連結部材74を支持する支持部材76とを備えている。
回転軸71は、動力源3の所定方向の回転動力が駆動軸6を介して伝達される部材である。回転駆動部71aは、回転軸71に固定される筒状の部材であり、回転軸71の回転動力が伝達される。回転駆動部71aの外周には回転軸71と平行して位置するスプライン(図示せず)が形成されている。
前進段の回転要素72は、ベアリングBを介して回転軸71に回転自在に軸支される部材であり、回転駆動部71aに並設されるクラッチギヤ72aと、そのクラッチギヤ72aに対し一体に固定され所定の歯数で形成される1段ギヤ72bとを備えている。
後進段の回転要素73は、ベアリングBを介して回転軸71に回転自在に軸支される部材であり、回転駆動部71aの回転要素72と反対側に並設されるクラッチギヤ73aと、そのクラッチギヤ73aに対し一体に固定され所定の歯数で形成される後段ギヤ72bとを備えている。なお、後段ギヤ72bはアイドラギヤ(図示せず)を介して回転軸71の回転動力を駆動輪(後輪2RL,2RR)に伝達する。これにより回転軸71の一定方向の回転に対し、逆方向の回転動力を駆動輪(後輪2RL,2RR)に伝達することができる。
連結部材74は、回転駆動部71aと回転要素72,73との間を移動し、回転駆動部71aと回転要素72,73との連結または連結解除をするための部材であり、回転駆動部71aの外周に装着されるスリーブ74aと、そのスリーブ74aに動作荷重を入力するシフトフォーク74bとを備えている。
スリーブ74aは、前後進の切換え動作荷重(手動操作力やアクチュエータ駆動力)が入力される筒状の部材であり、回転駆動部71aの外周に形成されたスプラインと噛み合うスプライン(図示せず)が内周に形成されている。これによりスリーブ74aを回転駆動部71aと一体に回転させ、且つ、軸方向に移動可能にできる。軸方向に移動したスリーブがクラッチギヤ72a,73aにそれぞれ噛み合うことで、回転駆動部71aの回転動力が、スリーブ74a及びクラッチギヤ72a,73aを介して1段ギヤ72b、後段ギヤ73bに伝達される。
シフトフォーク74bは、軸方向に移動させる動作荷重をスリーブ74aに入力するための部材であり、先端がスリーブ74aの外周に装着され、基部がフォークロッド75に移動自在に支持されている。
支持部材76は、シフトフォーク74bを軸方向に移動可能に支持すると共に、前後進の切換え要求に応じて切換え動作荷重(手動操作力や電動機、油圧、空気圧等のアクチュエータ駆動力)が入力され、軸方向に移動される部材である。支持部材76は軸方向に移動されることにより、前進段、後進段または中立の位置に移動される。本実施の形態では、支持部材76は、フォークロッド75が貫装されフォークロッド75を摺動可能な筒状のカラー76a,76bを両端に有する筐体状に形成され、カラー76a,76bの内側にシフトフォーク74bの基部が収装される。
付勢部材77は、カラー76a,76bとシフトフォーク74bとの間に収装され、シフトフォーク74bに付勢力を付与するための部材であり、本実施の形態ではコイルばねで形成されている。第1付勢部材77aはシフトフォーク74bをカラー76aと離間する方向に付勢する部材であり、第2付勢部材77bはシフトフォーク74bをカラー76bと離間する方向に付勢する部材である。
第1付勢部材77a、第2付勢部材77bのばね定数は、切換え動作時に、クラッチギヤ72a,73aからスリーブ74aを抜くことができる程度の付勢力をシフトフォーク74bに付与可能なように設定されている。なお、第1付勢部材77a、第2付勢部材77bによる付勢力では、切換え動作時にクラッチギヤ72a,73aとスリーブ74aとがトルク伝達状態で噛み合うときに、クラッチギヤ72a,73aからスリーブ74aを抜くことはできない。
次に図3(b)、図3(c)及び図4を参照して、坂道に車両1を停止させた後、発進させるときの前後進切換装置7の動作について説明する。まず、図3を参照して、車両1が前進段で上り坂を上る途中で停止後、上り坂を後進段で(下り方向に)発進するときの動作について説明する。図3(b)は後進段への切換え要求があったときの状態を示す前後進切換装置7の模式図であり、図3(c)は後進段が成立した状態を示す前後進切換装置7の模式図である。
図3(a)に示すように、支持部材76が前進段の位置にあって前進段が成立した状態では、車輪2(図1参照)を介して一定方向と逆方向の回転が駆動軸6に伝達される。その結果、ワンウェイクラッチ8により駆動軸6の逆方向の回転が阻止されると共に、前進段の回転要素72がトルク伝達状態でスリーブ74aと噛み合うため、車輪2の回転が阻止され、制動解除したときに車両1が上り坂を下ることが阻止される。これにより運転者に安心感を与えることができる。なお、上り坂を前進段で(上り方向に)発進する場合は、前進段が成立しているので、アクセルペダル(図示せず)を操作し、断続装置5が締結されることにより発進(前進)が可能である。
一方、この停車した状態(前後進切換装置7により前進段が成立する状態)で、運転者により切換レバー7a(図1及び図2参照)が操作され、後進段への切換え要求があると、支持部材76が軸方向(図3左方向)の後進段の位置まで移動される(図3(b)参照)。このときは、カラー76aにより第1付勢部材77aが圧縮され、シフトフォーク74bに付勢力(図3(b)左方向)が付与される。しかし、クラッチギヤ72aとスリーブ74aとがトルク伝達状態で噛み合っているため、シフトフォーク74bは移動できず、後進段への切換え及び成立が待機される。
運転者によりアクセルペダル(図示せず)が操作され、車両1を発進させる発進要求があると、その発進要求に応じて断続装置5が締結され、動力源3の回転動力が駆動軸6に伝達され、駆動軸6が一定方向に回転される。その駆動軸6の一定方向へのわずかな回転により、クラッチギヤ72aとスリーブ74aとの噛み合いが解除され、第1付勢部材77aによる付勢力により、シフトフォーク74b及びスリーブ74aが軸方向(図3(c)左方向)に移動する(図3(c)参照)。スリーブ74aがクラッチギヤ73aに噛み合うことで、後進段が成立し、車両1はスムーズに発進(後進)する。
以上のように坂道発進補助装置100の前後進切換装置7は第1付勢部材77aを備えているので、運転者は煩雑な操作を行う必要がなく、後進段への切換え要求および車両1の発進要求により、後進段を成立させて車両1を発進(後進)させることができる。これにより運転者に違和感を与え難くできる。
次に図4を参照して、車両1が後進段で上り坂を上る途中で停止後、上り坂を前進段で(下り方向に)発進するときの動作について説明する。図4(a)は後進段が成立した状態を示す前後進切換装置7の模式図であり、図4(b)は前進段への切換え要求があったときの状態を示す前後進切換装置7の模式図であり、図4(c)は前進段が成立した状態を示す前後進切換装置7の模式図である。
図4(a)に示すように、支持部材76が後進段の位置にあって後進段が成立した状態では、車輪2(図1参照)を介して一定方向と逆方向の回転が駆動軸6に伝達される。その結果、ワンウェイクラッチ8により駆動軸6の逆方向の回転が阻止されると共に、後進段の回転要素73がトルク伝達状態でスリーブ74aと噛み合うため、車輪2の回転が阻止され、制動解除したときに車両1が上り坂を下ることが阻止される。これにより運転者に安心感を与えることができる。なお、上り坂を後進段で(上り方向に)発進する場合は、後進段が成立しているので、アクセルペダル(図示せず)を操作し、断続装置5が締結されることにより発進(後進)が可能である。
一方、この状態(前後進切換装置7により後進段が成立する状態)で、運転者により切換レバー7a(図1及び図2参照)が操作され、前進段(1速段)への切換え要求があると、支持部材76が軸方向(図4右方向)の前進段の位置まで移動される(図4(b)参照)。このときは、カラー76bにより第2付勢部材77bが圧縮され、シフトフォーク74bに付勢力(図4(b)右方向)が付与される。しかし、クラッチギヤ73aとスリーブ74aとがトルク伝達状態で噛み合っているため、シフトフォーク74bは移動できず、1速段への切換え及び成立が待機される。
運転者によりアクセルペダル(図示せず)が操作され、車両1を発進させる発進要求があると、その発進要求に応じて動力源3の回転動力が駆動軸6に伝達され、駆動軸6が一定方向に回転される。その駆動軸6の一定方向へのわずかな回転により、クラッチギヤ73aとスリーブ74aとの噛み合いが解除され、第2付勢部材77bによる付勢力により、シフトフォーク74b及びスリーブ74aが軸方向(図4(c)右方向)に移動する(図4(c)参照)。スリーブ74aがクラッチギヤ72aに噛み合うことで、1速段が成立し、車両1はスムーズに発進(前進)する。
以上のように坂道発進補助装置100の前後進切換装置7は第2付勢部材77bを備えているので、運転者は煩雑な操作を行う必要がなく、前進段(1速段)への切換え要求および車両1の発進要求により、前進段を成立させて車両1を発進(前進)させることができる。これにより運転者に違和感を与え難くできる。
また、支持部材76の移動に伴い付勢力を発生する第1付勢部材77a及び第2付勢部材77bを備え、それらの付勢力により前進段(1速段)または後進段の切換えが機械的に行われるので、前進段または後進段の切換え及び成立を待機する制御を省略できる。その結果、電磁ノイズ等の外的影響を受け難くすることができ、坂道発進補助装置100の信頼性を向上できる。
次いで図5を参照して発進補助処理について説明する。図5は発進補助処理を示すフローチャートである。この処理は、坂道発進補助装置100の電源が投入されている間、CPU21によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、車両1の坂道発進を補助するための処理である。
CPU21は発進補助処理に関し、まず、車両1の走行速度を取得し(S1)、車両1の走行速度が所定の走行速度以下であるか否かを判断する(S2)。なお、S2の処理では、S1の処理で取得した車両1の走行速度と、その走行速度に対応してROM22に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、車両1が停止していると判断される値)とを比較して、車両1の現在の走行速度が所定の走行速度以下であるか否かを判断する。
その結果、車両1の走行速度が所定の走行速度以下であると判断される場合には(S2:Yes)、次に、ブレーキペダルセンサ装置12で検出されるブレーキペダルの操作量(踏み込み量)を取得し(S3)、取得したブレーキペダルの操作量が所定の操作量以上であるか否かを判断する(S4)。なお、S4の処理では、S3の処理で取得したブレーキペダルの操作量に対応してROM22に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、車両1が停止するために必要と判断される値)とを比較して、現在のブレーキペダルの操作量が所定の操作量以上であるか否かを判断する。
その結果、ブレーキペダルの操作量が所定の操作量以上であると判断される場合には(S4:Yes)、車両1は所定の停止状態にあると判断されるので、次に断続装置5が切断状態であるか否かを判断する(S5)。断続装置5が切断状態であると判断される場合には(S5:Yes)、次に車両1の前後方向の傾斜角を取得し(S6)、車両1の前後方向の傾斜角が所定の上り傾斜角以上であるか否かを判断する(S7)。上り傾斜角とは、重力方向に対して前輪2FL,2FRが上、後輪2RL,2RRが下に位置する相対関係にあるときの車両1の水平面に対する傾斜角をいう。なお、S7の処理では、S6の処理で取得した車両1の傾斜角に対応してROM22に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、制動解除すると車両1が路面を下り方向に移動するおそれのある傾斜角)とを比較して、現在の傾斜角が所定の上り傾斜角以上であるか否かを判断する。
一方、S2,S4,S5の処理の結果、車両1の走行速度が所定の走行速度より大きいと判断されるか(S2:No)、ブレーキペダルの操作量が所定の操作量より小さいと判断されるか(S4:No)或いは断続装置5が締結状態にあると判断される場合には(S5:No)、車両1は所定の停止状態にない(走行中である)と判断されるので、この発進補助処理を終了する。
S7の処理の結果、車両1の前後方向の傾斜角が所定の上り傾斜角以上であると判断される場合には(S7:Yes)、次に「前進登板補助モード」が選択されているか否か、即ち前進登坂スイッチ15a(図2参照)がオンであるか否かを判断する(S8)。「前進登板補助モード」が選択されている、即ち前進登坂スイッチ15aがオンであると判断される場合には(S8:Yes)、支持部材76(図3参照)が前進段の位置にあるか否かを判断する(S9)。一方、S8の処理の結果、前進登坂スイッチ15aがオフであると判断される場合には(S8:No)、運転者は発進補助を要求していないか或いは発進補助の要求が解除されているので、この発進補助処理を終了する。
S9の処理の結果、支持部材76が前進段の位置にあると判断される場合には(S9:Yes)、この状態で制動解除してもワンウェイクラッチ8により駆動軸6がロックされ、車両1が路面を下り方向に移動するおそれがないので、この発進補助処理を終了する。一方、S9の処理の結果、支持部材76が前進段の位置にないと判断される場合には(S9:No)、CPU21は切換レバー7a(図2参照)が後進段の位置にあるか否かを判断する(S10)。
S10の処理の結果、切換レバー7aが後進段の位置にあると判断される場合には(S10:Yes)、運転者により切換レバー7aが操作されており、発進補助の要求に関らず車両1を後進させたいという意思が運転者にあるため、この発進補助処理を終了する。一方、S10の処理の結果、切換レバー7aが後進段の位置にないと判断される場合には(S10:No)、この状態で車両1の発進時に制動解除すると、車両1が路面を下り方向に移動するおそれがある。そこでCPU21は前後進切換装置7を作動させて支持部材76を前進段の位置に移動させ(S11)、この発進補助処理を終了する。支持部材76を前進段の位置に移動させることで1速段を成立させ、発進時に車両1が路面を下り方向に移動することを防止する。
これに対し、S7の処理の結果、車両1の前後方向の傾斜角が所定の上り傾斜角より小さいと判断される場合には(S7:No)、次に車両1の前後方向の傾斜角が所定の下り傾斜角以上であるか否かを判断する(S12)。下り傾斜角とは、重力方向に対して前輪2FL,2FRが下、後輪2RL,2RRが上に位置する相対関係にあるときの車両1の水平面に対する傾斜角をいう。なお、S12の処理では、S6の処理で取得した車両1の傾斜角に対応してROM22に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、制動解除すると車両1が路面を下り方向に移動するおそれのある傾斜角)とを比較して、現在の傾斜角が所定の下り傾斜角以上であるか否かを判断する。
S12の処理の結果、車両1の前後方向の傾斜角が所定の下り傾斜角以上であると判断される場合には(S12:Yes)、次に「後進登板補助モード」が選択されているか否か、即ち後進登坂スイッチ15b(図2参照)がオンであるか否かを判断する(S13)。「後進登板補助モード」が選択されている、即ち後進登坂スイッチ15bがオンであると判断される場合には(S13:Yes)、支持部材76が後進段の位置にあるか否かを判断する(S14)。一方、S13の処理の結果、後進登坂スイッチ15bがオフであると判断される場合には(S13:No)、運転者は発進補助を要求していないか或いは発進補助の要求が解除されているので、この発進補助処理を終了する。
S14の処理の結果、支持部材76が後進段の位置にあると判断される場合には(S14:Yes)、この状態で制動解除してもワンウェイクラッチ8により駆動軸6がロックされ、車両1が路面を下り方向に移動するおそれがないので、この発進補助処理を終了する。一方、S14の処理の結果、支持部材76が後進段の位置にないと判断される場合には(S14:No)、CPU21は切換レバー7aが前進段の位置にあるか否かを判断する(S15)。
S15の処理の結果、切換レバー7aが前進段の位置にあると判断される場合には(S15:Yes)、運転者により切換レバー7aが操作されており、発進補助の要求に関らず車両1を前進させたいという意思が運転者にあるため、この発進補助処理を終了する。一方、S15の処理の結果、切換レバー7aが前進段の位置にないと判断される場合には(S15:No)、この状態で車両1の発進時に制動解除すると、車両1が路面を下り方向に移動するおそれがある。そこでCPU21は前後進切換装置7を作動させて支持部材76を後進段の位置に移動させ(S16)、この発進補助処理を終了する。支持部材76を後進段の位置に移動させることで後進段を成立させ、発進時に車両1が路面を下り方向に移動することを防止する。
以上の発進補助処理(図5参照)では、車両1の走行状態に関する情報(車両1の走行速度、ブレーキペダルの操作量)に基づいて、車両1が所定の停止状態にあるか判断される。判断の結果、車両が所定の停止状態にある場合に、前後進切換装置7を作動させて前進段(1速段)または後進段が成立する。そのため、運転者に特別な操作を要求しなくても、発進時に車両1が下降することを防止でき、運転者に安心感を与えることができる。
また、車両1は補助モード選択装置15を備えており、運転者により補助モード選択装置15が操作されて各スイッチ15a,15bがオンの場合であって、車両1が所定の停止状態にあると判断される場合に、発進補助機能(発進時にワンウェイクラッチ8をロックして車両1の下降を防止する機能)が発揮される。また、補助モード選択装置15の各スイッチ15a,15bをオフにすることで、発進補助機能の付与を解除できる。運転者の要求に応じて発進補助機能を付与できるので、発進補助機能に違和感を覚える運転者に違和感を与え難くできる。
また、補助モード選択装置15の各スイッチ15a,15bがオンに設定された場合であっても、切換レバー7bの操作による運転者の意思を優先して、切換レバー7bの操作に応じて車両1が前進または後進されるので、運転者に違和感を与えることなく操作感を向上できる。
また、車両1は傾斜角センサ装置14を備えており、傾斜角センサ装置14により検出された傾斜角に基づいて車両が所定の傾斜状態にあると判断され、且つ、車両が所定の停止状態にあると判断される場合に発進補助機能が付与されるので、所定の傾斜状態にない平坦な路面で発進補助機能が付与されることを防止できる。
さらに、傾斜角センサ装置14により検出される上り傾斜角、下り傾斜角に応じ、坂道で停止した車両1が前後どちらに下降するおそれがあるかを判別して発進補助機能が付与される。これにより、坂道発進時に車両1が下降することを確実に防止することができ、運転者に深い安心感を与えることができる。
なお、図5に示すフローチャート(発進補助処理)において、請求項3又は4に記載の走行状態取得手段としてはS1,S3の処理が、停止状態判断手段としては、S2,S4,S5の処理がそれぞれ該当する。なお、図示していないが、断続装置5の状態信号を取得する処理が走行状態取得手段に該当する。図5に示すフローチャート(発進補助処理)において、請求項4記載の発進補助手段としてはS11,S16の処理が、請求項5記載の補助要求取得手段としてはS8,S13の処理が、請求項6記載の傾斜状態情報取得手段としてはS6の処理が、傾斜状態判断手段としてはS7,S12の処理がそれぞれ該当する。また、請求項1記載の待機手段としては、支持部材76に収装された第1付勢部材77a及び第2付勢部材77bがそれぞれ該当する。
なお、本実施の形態では説明を省略したが、図5に示すフローチャート(発進補助処理)において、S11,S16の処理に代えて、CPU21(図2参照)は報知装置16を作動させて、前進段または後進段を成立させるように運転者に報知する処理を行うことは可能である。具体的には、S11の処理に代えて、表示灯16a及び音声出力装置16bを作動させて運転者に1速段を成立させるよう促し、S16の処理に代えて、表示灯16a及び音声出力装置16bを作動させて運転者に後進段を成立させるよう促す。
これにより、前進段(1速段)または後進段を成立させるように運転者が操作しなければ発進補助機能が付与されないようにできる。その結果、発進補助機能を付与するか否かを、運転者は技量や好みに応じて選択できるので、運転者の操作感を向上できる。なお、図5に示すフローチャート(発進補助処理)において、S11,S16の処理に代えて行うこれらの処理が、請求項3記載の報知手段に該当する。
次に図6から図8を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、待機手段が、支持部材76、第1付勢部材77a及び第2付勢部材77b(弾性体)を備えて構成される場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、待機手段がソフトウェアにより構成される場合について説明する。
まず、図6を参照して第2実施の形態における坂道発進補助装置200について説明する。なお、坂道発進補助装置200は、第1実施の形態で説明した車両1に、坂道発進補助装置100に代えて搭載されるものとする。また、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図6は第2実施の形態における坂道発進補助装置200の電気的構成を示したブロック図である。図6に示すように、坂道発進補助装置200の制御装置120は、CPU21、ROM22及びRAM23を備え、それらがバスライン24を介して入出力ポート25に接続されている。RAM23には、前進フラグ23a、後進フラグ23bが設けられている。
前進フラグ23aは、車両1が前進段で上り坂を上る途中で停止したときに車両1が後ろ向きに下降しないようにする発進補助機能が付与されているか否かを示すフラグである。車両1がこの状態にある場合に、前進フラグ23aはオンに切り替えられ、この状態にない場合にオフに切り替えられる。
後進フラグ23bは、車両1が後進段で上り坂を上る途中で停止したときに車両1が前向きに下降しないようにする発進補助機能が付与されているか否かを示すフラグである。車両1がこの状態にある場合に、後進フラグ23bはオンに切り替えられ、この状態にない場合にオフに切り替えられる。
前後進切換装置170は、第1付勢部材77a及び第2付勢部材77b(図4及び図5参照)が省略されており、アクチュエータ駆動力による支持部材76の移動にリンクして連結部材74が移動する以外は前後進切換装置7と同様の構成であるので、詳細な説明を省略する。なお、支持部材76は、運転者の切換レバー7aの操作に基づいてアクチュエータ(図示せず)を駆動させ、そのアクチュエータの駆動力により移動させることもできる。
次いで図7を参照して発進補助処理について説明する。図7は発進補助処理を示すフローチャートである。この処理は、坂道発進補助装置200の電源が投入されている間、CPU21によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、車両1の坂道発進を補助するための処理である。
CPU21は発進補助処理に関し、まず、車両1の走行速度を取得し(S21)、車両1の走行速度が所定の走行速度以下であるか否かを判断する(S22)。その結果、車両1の走行速度が所定の走行速度より大きいと判断される場合(S22:No)、車両1は所定の停止状態にない(走行中である)と判断されるので、この発進補助処理を終了する。
一方、車両1の走行速度が所定の走行速度以下であると判断される場合には(S22:Yes)、次に断続装置5が切断状態か否かを判断する(S23)。断続装置5が切断状態にある場合には(S23:Yes)、車両1は所定の停止状態にあると判断されるので、次に車両1の前後方向の傾斜角を取得し(S24)、車両1の前後方向の傾斜角が所定の上り傾斜角以上であるか否かを判断する(S25)。その結果、車両1の前後方向の傾斜角が所定の上り傾斜角以上であると判断される場合には(S25:Yes)、次に「前進登板補助モード」が選択されているか否か、即ち前進登坂スイッチ15a(図6参照)がオンであるか否かを判断する(S26)。
S26の処理の結果、「前進登板補助モード」が選択されている、即ち前進登坂スイッチ15a(図6参照)がオンであると判断される場合には(S26:Yes)、アクチュエータ(図示せず)を作動させて前後進切換装置170により1速段を成立させ(S27)、前進フラグ23aをオンして(S28)、この発進補助処理を終了する。一方、「前進登板補助モード」が選択されていない、即ち前進登坂スイッチ15aがオフであると判断される場合には(S26:No)、前進フラグ23a及び後進フラグ23bをオフして(S29)、この発進補助処理を終了する。
これに対し、S25の処理の結果、車両1の前後方向の傾斜角が所定の上り傾斜角より小さいと判断される場合には(S25:No)、次に車両1の前後方向の傾斜角が所定の下り傾斜角以上であるか否かを判断する(S30)。その結果、車両1の前後方向の傾斜角が所定の下り傾斜角以上であると判断される場合には(S30:Yes)、次に「後進登板補助モード」が選択されているか否か、即ち後進登坂スイッチ15b(図6参照)がオンであるか否かを判断する(S31)。
S31の処理の結果、「後進登板補助モード」が選択されている、即ち後進登坂スイッチ15bがオンであると判断される場合には(S31:Yes)、アクチュエータ(図示せず)を作動させて前後進切換装置170により後進段を成立させ(S32)、後進フラグ23bをオンして(S33)、この発進補助処理を終了する。一方、「後進登板補助モード」が選択されていない、即ち後進登坂スイッチ15bがオフであると判断される場合には(S31:No)、前進フラグ23a及び後進フラグ23bをオフして(S34)、この発進補助処理を終了する。
次に図8を参照して坂道発進補助処理について説明する。図8は坂道発進補助処理を示すフローチャートである。この処理は、坂道発進補助装置200の電源が投入されている間、CPU21によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、車両1の特定の坂道発進を補助するための処理である。
CPU21は坂道発進補助処理に関し、まず、アクセルペダルセンサ装置11(図2参照)により検出されるアクセルペダルの操作量を取得する(S41)。次いで、前進フラグ23aがオンであるか否かを判断し(S42)、前進フラグ23aがオンであると判断される場合には(S42:Yes)、後進段への切換え要求(運転者による切換レバー7a(図6参照)の操作)があるか否かを判断する(S43)。その結果、後進段への切換え要求があると判断される場合には(S43:Yes)、アクチュエータ(図示せず)を作動させて前後進切換装置170により後進段を成立させる(S44)。次いで、アクセルペダルの操作量が所定の操作量以上であるか否かを判断する(S45)。なお、S45の処理では、S41の処理で取得したアクセルペダルの操作量に対応してROM22に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、車両1が発進するために必要と判断される値)とを比較して、現在のアクセルペダルの操作量が所定の操作量以上であるか否かを判断する。
その結果、アクセルペダルの操作量が所定の操作量以上であると判断される場合には(S45:Yes)、断続装置5を締結した後(S46)、前進フラグ23aをオフして(S47)、この坂道発進補助処理を終了する。即ち、車両1を発進させる発進要求があり、S45の処理においてアクセルペダルの操作量が所定の操作量以上であると判断される場合には(S45:Yes)、その発進要求に応じて断続装置5が締結され、動力源3の回転動力が駆動軸6に伝達され、駆動軸6が一定方向に回転される。その駆動軸6の一定方向へのわずかな回転により、クラッチギヤ72aとスリーブ74aとの噛み合いが解除される。そこで、後進段への切換え要求に応じてアクチュエータ(図示せず)を作動させると、アクチュエータの軽微な駆動力でスリーブ74aを移動できる。その結果、前後進切換装置170により後進段を成立させ、車両1をスムーズに発進(後進)させることができる。
これに対し、アクセルペダルの操作量が所定の操作量より小さいと判断される場合には(S45:No)、車両1に発進要求はなく所定の停止状態にあると判断されるため、S46及びS47の処理をスキップして、この坂道発進補助処理を終了する。これにより、断続装置5の切断状態が維持され、動力源3と駆動軸6との連係を待機させることができる。また、後進段への切換え要求がないと判断される場合には(S43:No)、S44からS47の処理をスキップして、この坂道発進補助処理を終了する。これにより車両1を1速段でスムーズに発進(登坂)させることができる。
一方、S42の処理の結果、前進フラグ23aがオフであると判断される場合には(S42:No)、後進フラグ23bがオンであるか否かを判断する(S48)。その結果、後進フラグ23bがオンであると判断される場合には(S47:Yes)、1速段への切換え要求(運転者による切換レバー7a(図6参照)の操作)があるか否かを判断する(S49)。その結果、1速段への切換え要求があると判断される場合には(S49:Yes)、アクチュエータ(図示せず)を作動させて前後進切換装置170により1速段を成立させる(S50)。次いで、次にアクセルペダルの操作量が所定の操作量以上であるか否かを判断する(S51)。
その結果、アクセルペダルの操作量が所定の操作量以上であると判断される場合には(S51:Yes)、断続装置5を締結した後(S52)、後進フラグ23bをオフして(S53)、この坂道発進補助処理を終了する。即ち、車両1を発進させる発進要求があり、S51の処理においてアクセルペダルの操作量が所定の操作量以上であると判断される場合には(S51:Yes)、その発進要求に応じて断続装置5が締結され、動力源3の回転動力が駆動軸6に伝達され、駆動軸6が一定方向に回転される。その駆動軸6の一定方向へのわずかな回転により、クラッチギヤ73aとスリーブ74aとの噛み合いが解除される。そこで、1速段への切換え要求に応じてアクチュエータ(図示せず)を作動させると、アクチュエータの軽微な駆動力でスリーブ74aを移動できる。その結果、前後進切換装置170により1速段を成立させ、車両1をスムーズに発進(前進)させることができる。
これに対し、アクセルペダルの操作量が所定の操作量より小さいと判断される場合には(S51:No)、車両1に発進要求はなく所定の停止状態にあると判断されるため、S52及びS53の処理をスキップして、この坂道発進補助処理を終了する。これにより、断続装置5の切断状態が維持され、動力源3と駆動軸6との連係を待機させることができる。また、1速段への切換え要求がないと判断される場合には(S49:No)、S50からS53の処理をスキップして、この坂道発進補助処理を終了する。これにより車両1を後進段でスムーズに発進(降坂)させることができる。
以上のように坂道発進補助装置200は、アクセルペダルの操作量が所定の操作量以上になる(発進要求がある)まで前後進切換装置170の作動を待機させる。発進要求があるとクラッチギヤ72a,73aとスリーブ74aとの噛み合いが解除されるので、アクチュエータの軽微な駆動力で1速段または後進段を成立させることができる。これにより、運転者は煩雑な操作を行う必要がなく、1速段または後進段への切換え要求および車両1の発進要求を行うことで、車両1を発進させることができる。これにより運転者に違和感を与え難くできる。
また、前後進切換装置170のアクチュエータは軽微な駆動荷重を発生するものであればよいので、アクチュエータを小型・軽量化できる。さらに、クラッチギヤ72a,73aとスリーブ74aとの噛み合いが解除されたときにアクチュエータを駆動させるので、アクチュエータの負荷を小さくできると共に、消費電力を低下できる。
なお、図7に示すフローチャート(発進補助処理)において、請求項3又は4に記載の走行状態取得手段としてはS21の処理が、停止状態判断手段としては、S22,S23の処理がそれぞれ該当する。なお、図示していないが、断続装置5の状態信号を取得する処理が走行状態取得手段に該当する。図7に示すフローチャート(発進補助処理)において、請求項4記載の発進補助手段としてはS27,S32の処理が、請求項5記載の補助要求取得手段としてはS26,S31の処理が、請求項6記載の傾斜状態情報取得手段としてはS24の処理が、傾斜状態判断手段としてはS25,S30の処理がそれぞれ該当する。図8に示すフローチャート(坂道発進補助処理)において、請求項1記載の待機手段としてはS45,S51の処理がそれぞれ該当する。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
上記各実施の形態では、左右の後輪2RL,2RRを駆動輪とする車両1について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、左右の前輪2FL,2FRを駆動輪とする車両や前後輪を駆動輪とする車両に適用することは当然可能である。
上記各実施の形態では、断続装置5に連結された駆動軸6にワンウェイクラッチ8が配設される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、駆動軸6に常時噛み合いしている軸上や、前後進切換装置7,170による前進段や後進段の切換えに関わらず一定方向に回転されるものであれば、他の回転体を駆動軸として採用し、そこにワンウェイクラッチを配設することは当然可能である。他の回転体としては、変速機の入力軸やカウンタ軸等が例示される。また、外輪8aが前後進切換装置7,170の筐体(非回転要素)に固定された場合について説明したが、これに限られるものではなく、車両1のケーシング等の他の非回転要素に固定することは当然可能である。
上記各実施の形態では、ワンウェイクラッチ8がスプラグタイプの場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他のワンウェイクラッチ、例えばローラタイプ、ラチェットタイプを採用することは当然可能である。
また、上記各実施の形態では、ワンウェイクラッチ8の外輪8aが前後進切換装置7,170の筐体に固定され、外輪8aの内周面と駆動軸6の外周面との間にスプラグ8bが配設される場合について説明したが、これに限られるものではない。外輪8aを駆動軸6と結合して回転可能に構成し、外輪8aの内側に配設されてスプラグ8bが係合される外周面を有する内輪を非回転要素に固定することは当然可能である。この場合も駆動軸6の一方向の回転を許容し、逆方向の回転を阻止できるからである。
上記各実施の形態では、発進補助処理(図5及び図7参照)において、車両1が所定の停止状態にあるか否かを車両1の走行速度、ブレーキペダルの操作量、断続装置5の状態により判断する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の状態量を採用することは当然可能である。他の状態量としては、駆動軸6の回転数、車輪2(車軸)の回転数、出力軸9の回転数が例示される。
上記各実施の形態では、傾斜角センサ装置14により車両1の傾斜角を検出する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の検出機構を採用することは当然可能である。他の検出機構としては、例えば、前後方向加速度センサ10aによる代用、車輪2を車体BFに懸架する各懸架装置の伸縮量を検出するサスストロークセンサ装置、ナビゲーション装置による路面情報等が例示される。これらのときは傾斜角センサ装置14を省略することが可能である。
上記各実施の形態では、発進補助処理(図5及び図7参照)において、前進登坂の停車時に1速段を成立させる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。積雪のある路面や凍結した路面等のような低μ路面では、発進時に車輪2に滑りが生じることを防止するために、1速段よりトルクの小さな2速段を成立させるようにすることは可能である。この場合、1速段または2速段以上を選択するスイッチを車両1に設け、運転者に1速段または2速段以上を選択させれば良い。
上記第2実施の形態では、車両1を発進させる発進要求があるか否かをアクセルペダルの操作量により判断する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の因子を採用することは当然可能である。他の因子としては、断続装置5の作動量、断続装置5に締結または切断を指令する作動信号、断続装置5の締結または切断の状態をCPU21に出力する状態信号が例示される。
上記第1実施の形態では説明を省略したが、前後進切換装置7が内蔵された変速機として、マニュアルトランスミッションを採用することは当然可能である。この場合、図5に示すフローチャート(発進補助処理)において、S11,S16の処理に代えて、CPU21(図2参照)は報知装置16を作動させて、前進段または後進段を成立させるように運転者に報知する処理を行う。これにより坂道発進補助装置100は坂道発進を補助することが可能である。
上記各実施の形態では説明を省略したが、車両1の停止時に動力源3(エンジン3a)を停止させてアイドルストップを行うことは当然可能である。また、上記各実施の形態のいずれかの一部または全部を他の実施の形態の一部または全部と組み合わせても良い。また、上記各実施の形態のうちの一部の構成を省略しても良い。例えば、第1実施の形態における発進補助処理(図5参照)を全て省略しても良い。この場合、運転者のシフト操作により発進補助機能を付与することができると共に、前後進切換装置7が備える第1付勢部材77a及び第2付勢部材77bにより、車両1をスムーズに発進させることができる。また、第2付勢部材77bを省略して、前進段から後進段に切換えるときの操作性を第1付勢部材77aにより向上させるようにしても良い。
上記各実施の形態では、待機手段が2つの機能を有する場合について説明した。一つの機能は、前後進切換装置7,170により前進段が成立する状態で後進段への切換え要求があると、前後進切換装置7,170による後進段への切換え及び成立が待機され、後進段への切換え要求に応じて前後進切換装置7,170により後進段を成立させる機能である(以下「第1待機手段」と称す)。もう一つの機能は、前後進切換装置7,170により後進段が成立する状態で前進段への切換え要求があると、前後進切換装置7,170による前進段への切換え及び成立が待機され、前進段への切換え要求に応じて前後進切換装置7,170により前進段を成立させる機能である(以下「第2待機手段」と称す)。しかし、第1待機手段および第2待機手段を備える坂道発進補助装置100,200に限るものではなく、ユーザーの要求等に応じて、坂道発進補助装置100,200が第1待機手段、第2待機手段の一方を有するようにすることは当然可能である。これにより、坂道発進補助装置100,200の装置構成等を簡素化できる。