JP2012219382A - ポリアクリロニトリル系炭素繊維の前駆体繊維束の製造方法及びそれによって得られるポリアクロロニトリル系炭素繊維の前駆体繊維束 - Google Patents

ポリアクリロニトリル系炭素繊維の前駆体繊維束の製造方法及びそれによって得られるポリアクロロニトリル系炭素繊維の前駆体繊維束 Download PDF

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Abstract

【課題】PAN系繊維束の高速製糸において、得られるPAN系繊維束の品質を維持または向上できるPAN系炭素繊維の前駆体繊維束の製造方法を提供する。
【解決手段】PAN系重合体を、凝固浴を用いる湿式紡糸又は乾湿式法により高速製糸するに際して、PAN系繊維束製造の凝固工程において、凝固延伸時の凝固繊維束の液中歪み速度が4.0×10−2〜10.0×10−2(秒−1)とすることを特徴とする。凝固延伸時の凝固液の温度は、10〜40℃とすることが好ましい。上記の構成により、高速下で充分な脱溶剤が行われたPAN繊維束は、公知の方法で乾燥、延伸がなされて、PAN系炭素繊維の前駆体繊維束となり、PAN前駆体繊維束中の平均残留金属不純物量が20ppm以下、そのCV値が7.5%以下のものが得られる。
【選択図】なし

Description

本発明は、ポリアクリロニトリル(以下、PANともいう)系炭素繊維の前駆体繊維として使用されるポリアクリロニトリル系繊維の繊維束の製造方法に関する。
炭素繊維、特にPAN系炭素繊維は、その優れた特性と環境適合性により、航空機産業、スポーツ・レジャー産業はもとより、近年では一般産業、建設業、水産業等、広く用途展開されている。
このPAN系炭素繊維は、次のようにして製造されるのが一般的である。まず、アクリロニトリルモノマーを重合させたPAN重合体を、湿式或いは乾湿式紡糸法で、凝固浴中に紡出(吐出)して凝固繊維束を得、引続いて洗浄や乾燥、延伸等を行い、PAN系繊維束を得る。次いで、このPAN系繊維束を空気中で200〜300℃に加熱して安定化させ、耐炎化処理が施されたPAN系酸化繊維束を得る。その後、このPAN系酸化繊維束を、不活性雰囲気中で1000〜1500℃に加熱して炭素化させ、表面処理、サイズ剤付与を施し、PAN系炭素繊維束を得る。
PAN系炭素繊維は、ここ数年来、需要は増加しており、この状況に柔軟に対応すべく供給体制が強化されている。このため、PAN系炭素繊維の製造に関しては、各工程について、生産性及び品質の向上が試みられている。その中でも、前駆体繊維であるPAN系繊維束の、製糸速度の向上或いは一度に紡糸する繊維束の数を増加させる(多錘化)による生産性の向上、及び、高速製造条件下での品質の維持や向上は、得られる炭素繊維の価格、品質に直接的に大きく影響するため、特に重要である(例えば、特許文献1、2参照)。
しかしながら、PAN系繊維束の製造において、いたずらに製糸速度を高める或いは多錘化することは、凝固工程や洗浄工程といった脱溶剤に関わる処理時間の短縮や処理負荷の増加を招き、その結果、製品であるPAN系炭素繊維の前駆体繊維束中に含まれる金属不純物が増大し、最終的にはPAN系炭素繊維の品位を著しく低下させる。そこで、高速に製糸してもPAN系繊維束の品質が維持または向上できる、PAN系炭素繊維の前駆体繊維束の製造方法の開発が望まれている。
特許第3808643号公報 特開2004−76208号公報
本発明の課題は、PAN系繊維束の高速製糸において、得られるPAN系繊維束の品質を維持または向上できるPAN系炭素繊維の前駆体繊維束の製造方法を提供することにある。
上記の課題は、以下に記載する本発明のPAN系炭素繊維の前駆体繊維束及びその製造方法によって解決される。
即ち、本発明のPAN系炭素繊維の前駆体繊維束の製造方法は、前駆体繊維束として用いられるPAN系繊維束を製造するに際し、PAN系重合体を、湿式或いは乾湿式紡糸法で凝固浴中に紡出して凝固繊維束とする凝固工程において、凝固延伸時の凝固繊維束の液中歪み速度を4.0×10−2〜10.0×10−2(秒−1)とすることを特徴とするPAN系炭素繊維の前駆体繊維束の製造方法である。
前記製造方法において、凝固延伸時の凝固浴(凝固液)の温度は10〜40℃とすることが好ましい。
本発明の他の態様は、前記の製造方法によって得られるポリアクリロニトリル系炭素繊維の前駆体繊維束である。そして、その中でも、前駆体繊維束中の平均残留金属不純物量が20ppm以下で、そのCV値が7.5%以下である前駆体繊維束が好ましい。なお、残留金属不純物の値は、前記凝固繊維束を、公知の方法で充分に脱溶剤を行い、公知の方法で乾燥、延伸を行って得られた前駆体繊維束を測定して求めた値を意味する。
本発明によると、PAN系凝固繊維の延伸条件が歪み速度によって適正化され、凝固工程にて効率的な脱溶剤を実現することができる。そして、その結果、次工程である水洗工程での脱溶剤負荷を低減させ、水洗効率を向上させる効果も相まって、中間製品であるPAN系炭素繊維の前駆体繊維束中に含有される紡糸溶剤に由来する不純物を均一に低減させ、最終製品であるPAN系炭素繊維の品位を向上させることができる。
本発明のPAN系繊維束の製造方法は、凝固延伸時の液中歪み速度を適正化することにより、製糸の速度向上によって脱溶剤処理時間が短縮され、多錘化や太束化、太デニール化等による脱溶剤環境の悪化(高負荷)、といった状況下でさえも、従来以上に脱溶剤効率が向上する点に特徴がある。又、特別な装置類等、新たな設備投資を必要とせず、即効的であり非常にリーズナブルな方法といえる。
本発明は、PAN系重合体を、口金を用いて凝固浴中に湿式紡糸或いは乾湿式紡糸しそれを製糸化する、PAN系炭素繊維の前駆体繊維束であるPAN系繊維束の一連の製造工程の中の凝固工程に関するものである。本発明の態様の一つは、PAN系重合体を、湿式或いは乾湿式紡糸法で凝固浴中に紡出して凝固繊維束とする凝固工程において、凝固延伸時の凝固繊維束の液中歪み速度を4.0×10−2〜10.0×10−2(秒−1)とすることを特徴とするポリアクリロニトリル系炭素繊維の前駆体繊維束の製造方法である。
以下、PAN系繊維束の製造工程における、本発明の凝固工程の特徴について詳細に説明する。本発明においては、凝固工程(凝固延伸工程も含む)以外は、基本的に、後述するような公知の方法を用いればよい。
PAN系繊維束を製造するには、まず、後述するアクリロニトリルモノマーを主成分として重合して得られたPAN系重合体を溶剤に溶かし紡糸原液とした後、紡糸口金から凝固浴中に吐出して凝固繊維束を得る。凝固浴中に吐出された繊維束は凝固槽を通って、さらに、凝固延伸槽を通る。本発明においては、液中歪み速度が4.0×10−2〜10.0×10−2(秒−1)で延伸することが必要である。
ここでいう液中歪み速度は、凝固延伸工程での単位時間当たりの凝固繊維束の変形量(延伸倍率)を表した数値であり、凝固延伸槽の入側と出側での速度変化率を凝固繊維の変形量として、凝固延伸槽の凝固液中の繊維滞在時間で除した数値である。
液中歪み速度をかかる範囲に調整することで脱溶剤が促進され、効率的に脱溶剤処理を行うことができるため、脱溶剤処理時間を短縮し紡糸速度を向上させることや、一度に紡糸する繊維束の数を増加させ生産効率を向上させることができる。好ましくは、歪み速度を6.0×10−2(秒−1)以上とすると、脱溶剤がさらに効率的に促進され、繊維中に残留する溶剤を低減することができる。さらに好ましくは、歪み速度を約6.5×10−2(秒−1)以上とすることで、最も残留する溶剤の少ない、高品質なPAN系炭素繊維の前駆体繊維束が得られる。
一方、4.0×10−2(秒−1)未満の場合には、効率的な脱溶剤が難しくなり、PAN系炭素繊維の前駆体繊維束中に含まれる紡糸溶剤に由来する不純物の量が上昇してしまい、焼成工程の工程安定性や、最終的にはPAN系炭素繊維の物性・品位、さらには後工程の工程安定性に悪影響を与える。従来、一般には、4.0×10−2(秒−1)以上では、デリケートな凝固繊維束にダメージが生じ、後の工程において単糸切れ(毛羽)や欠陥の原因となるため、安定生産やPAN系炭素繊維の品位・物性等に著しい悪影響を及ぼすと信じられてきた。しかし、本発明者はあえて歪み速度を常識外の数値にまで高めることにより、理由は定かではないが脱溶剤効率が向上し、逆に炭素繊維の品位が向上することを見出した。
もっとも、10.0×10−2(秒−1)を超える場合には、凝固繊維に切れが生じ、前駆体繊維の品質低下を招く要因になり、かつ、前駆体繊維の製糸工程の工程安定性も損なわれるという問題を防ぐことはできない。
凝固延伸時の凝固浴(凝固液)の温度は、10〜40℃であることが、効率的に脱溶剤処理を行うことができるため好ましく、凝固液の温度を20℃以上とすることがより好ましく、25℃以上とすることがさらに好ましい。また、凝固延伸時に凝固繊維が凝固浴に浸漬している滞在時間は30〜60秒であることが好ましい。
上記方法により充分な脱溶剤が行われた凝固繊維束は、公知の方法で水洗、乾燥、スチーム延伸がなされる。このようにして得られるPAN系炭素繊維の前駆体繊維束は、繊維中に残留する溶剤の少ない前駆体繊維束とすることが、強度の高い炭素繊維を得るために好ましい。例えば、紡糸溶媒として、塩化亜鉛などの金属塩を使用した場合、繊維中に残留する溶剤の量を示す平均残留金属不純物量が、20ppm以下であることが好ましい。また、繊維束間のばらつきを示す残留金属不純物量のCV値が、7.5%以下とすることが好ましい。平均残留金属不純物量やそのCV値は、その値が低い方が繊維中に残留する溶剤の量が少なく、均一に脱溶剤処理が行われたことを示すものである。
本発明において用いられるPAN系繊維の紡糸原液としては、PAN系炭素繊維製造用の紡糸原液であれば、従来公知のものが何ら制限なく使用できる。例えば、アクリロニトリルを90質量%以上、好ましくは94質量%以上含有する単量体を重合した共重合体からなる紡糸原液が挙げられる。アクリロニトリルと共重合する単量体としては、イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸等の公知の単量体が挙げられる。また、溶剤としては、PAN系重合体の良溶媒であれば、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどの有機溶媒、塩化亜鉛やロダン塩などの無機溶媒などを制限なく使用することができるが、溶液連続重合により工程の簡素化が可能で、かつ、重合速度が速く均質なポリマーが得られやすく、さらに、価格が安価で大量生産に向いている塩化亜鉛が特に好ましい。
紡糸方法としては、湿式紡糸方法又は乾湿式紡糸方法等公知の方法を用いることができる。湿式紡糸方法は直接凝固液に紡出する方法であり、乾湿式紡糸方法は、空気中にまず吐出させた後、3〜5mm程度の空間を有して凝固浴に投入し凝固させる方法である。最終的に得られる炭素繊維が表面に襞を形成し、樹脂との接着性が期待できるため、湿式紡糸方法がより好ましい。
凝固液としては、良溶媒からPAN系重合体を析出させる貧溶媒であれば制限なく使用することができるが、PAN系重合体の析出速度を適度に低下させると脱溶剤効率が向上する傾向にあるため、析出速度を調節するため良溶媒と貧溶媒の混合溶液を用いることが好ましく、良溶媒の水溶液を用いることがより好ましい。
上記紡糸原液を、紡糸口金から凝固液中に吐出し紡糸を行う際には、好ましくは紡糸原液を1つの紡糸口金に少なくとも3,000以上の孔を有する紡糸口金から紡出し、PAN系繊維束が3,000本以上のフィラメントで構成される、PAN系炭素繊維の前駆体繊維束とする。
本発明の凝固工程の特徴については前述したとおりであり、紡糸された繊維束は凝固槽で凝固繊維束となり、さらに、凝固延伸槽で延伸される。本発明においては、凝固延伸槽の液中歪み速度を4.0×10−2〜10.0×10−2(秒−1)の範囲として延伸する。また、凝固液の温度は10〜40℃とすることが好ましい。凝固工程後、凝固繊維束はさらに公知の方法で水洗がなされる。
水洗された凝固繊維束には油剤付与工程にて油剤を付着させる。給油は浸漬給油、タッチローラー給油、スプレー給油など公知の方法により行うことができる。この油剤の付与の目的は、スチーム延伸前の乾燥工程及びスチーム延伸工程において、単繊維同士の融着防止を図ること、及び水洗された凝固繊維束の集束性を向上させることにある。
油剤付与工程における油剤の付着量は、絶乾状態における凝固繊維束100質量部に対し0.03〜0.40質量部であり、0.05〜0.35質量部が好ましく、0.06〜0.30質量部がより好ましい。0.03質量部未満であると、乾燥工程及びスチーム延伸工程において単繊維同士が融着しやすい。また、油剤付与後の凝固繊維束の集束性が悪く、乾燥工程及びスチーム延伸工程において前駆体繊維束が広がり、工程が安定しない。一方、0.40質量部を超えて付着させても、融着や集束性に対する効果は付着量に比例して増加しない。むしろ、最終的に得られる炭素繊維中に、油剤由来の不純物が混入して、炭素繊維の品質が悪くなる。
油剤としてはシリコーンを含有する油剤が、好ましく用いられる。シリコーンは、未変性シリコーン、変性シリコーンの何れでもよいが、変性シリコーンがより好ましい。変性シリコーンの中でもエポキシ変性シリコーン、エチレンオキサイド変性シリコーン、ポリシロキサン、アミノ変性シリコーンが好ましく、アミノ変性シリコーンが特に好ましい。シリコーンを含有する油剤は公知のものが多数市販されている。該油剤と親水基を持つ浸透性油剤とを組み合わせて用いることが好ましい。浸透性油剤は官能基として、スルフィン酸、スルホン酸、燐酸、カルボン酸やそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、その誘導体を有するものが好ましい。これらの浸透性油剤のうちでも、浸透しやすい燐酸アンモニウム若しくはその誘導体を用いるのが特に好ましい。
凝固繊維束の 乾燥工程においては、温度勾配をかけた幾層にも連なる部屋を有する熱風乾燥機で乾燥することが好ましい。乾燥温度については、70〜150℃で適宜調節して行うことが好ましく、80〜140℃で適宜調節して行うことが更に好ましい。乾燥時間については、1〜10分間が好ましい。
スチーム延伸工程における飽和スチーム圧力は、0.6〜0.8MPa(絶対圧)とすることが好ましい。延伸倍率は、製糸工程での全ての延伸処理を通してトータル延伸倍率を10〜15倍とすることが好ましい。
このようにして得られるPAN系炭素繊維前駆体繊維束の一度に紡糸された全繊維束の繊度を合わせたトータル繊度は、100,000dtex以上であることが好ましく、200,000dtex以上とすることがさらに好ましい。工業的には上限として2,000,000dtex以下であることが好ましい。このようにして、本発明のPAN系炭素繊維の前駆体繊維束が得られる。
このようにして得られたPAN系炭素繊維の前駆体繊維束を、以下に説明するような公知の方法で、予備熱処理、耐炎化処理、炭素化処理、表面酸化処理、サイジング処理等が施され、PAN系炭素繊維(繊維束)が得られる。
前記PAN系炭素繊維の前駆体繊維束は、そのまま引き続き耐炎化処理工程に移行してもよいが、その前に、加熱空気中170〜250℃、延伸比0.90〜1.10で100〜300秒熱処理(予備熱処理)されることが好ましい。予備熱処理された繊維束の密度は1.2g/cm以下とすることが好ましい。
予備熱処理された繊維束は、引き続き加熱空気中、ローラー又は支持ガイドに接触させつつ、200〜300℃で耐炎化処理される。この耐炎化処理により、前駆体繊維がPAN系繊維の場合、PAN系繊維の環化反応を生じさせ、酸素結合量を増加させて不融化、難燃化させてPAN系耐炎化繊維(OPF)が得られる。耐炎化処理においては、前駆体繊維を耐炎化炉内に長時間滞留させる必要がある。また、生産効率から炉内の前駆体繊維の走行速度は上げることが好ましい。そのため、前駆体繊維は一旦耐炎化炉の外部に出た後、折り返して耐炎化炉に繰り返し通過させる方法が採られる。それでも、炉内を走行する前駆体繊維は長いものとなり、炉内で撓んでしまう。すると、前駆体繊維は下方を走行する繊維や炉底等に接触し易くなり、糸切れや汚染などの運転トラブルを生じやすくなる。このことから、前駆体繊維は炉内で撓まないようにローラー又は支持ガイドに接触させつつ耐炎化処理することが好ましい。しかし、上述したように、予備熱処理していない従来の前駆体繊維は構造が不安定であるため、ローラー又は支持ガイドに接触すると、最終的に得られる炭素繊維の強度が低下する傾向にある。
これに対し、予備熱処理を施し前駆体繊維は、予備熱処理していない前駆体繊維ほどは均一な加熱を必要としない。そのため、耐炎化炉内を、ローラー又は支持ガイドに接触させつつ、耐炎化処理しても、所望の性能の炭素繊維製造用耐炎化繊維を得ることができる。耐炎化炉内におけるローラー又は支持ガイドの間隔は1〜10mが好ましく、2〜4mがより好ましい。この耐炎化処理は、一般的に、延伸倍率0.85〜1.30の範囲で延伸されることが好ましい。この耐炎化処理により、密度1.3〜1.5g/cmの耐炎化繊維が得られる。耐炎化時の張力は、上記延伸倍率の範囲を超えない限り特に限定されない。なお、耐炎化工程の工程安定化のため、前述の前駆体繊維に公知のプロセスオイルを付与することも有効である。
上記耐炎化繊維は、従来の公知の方法を採用して炭素化することができる。例えば、窒素雰囲気下300〜800℃の焼成炉(第一炭素化炉)で徐々に温度勾配をかけ、耐炎化繊維の張力を制御して緊張下で1段目の炭素化(第一炭素化)をする。
より炭素化を進め且つグラファイト化(炭素の高結晶化)を進める為に、窒素等の不活性ガス雰囲気下で昇温し、焼成炉(第二炭素化炉)で徐々に温度勾配をかけ、第一炭素化繊維の張力を制御して弛緩条件で焼成する。焼成温度については、第二炭素化炉で温度勾配をかけていき、最高温度領域で、好ましくは800〜2500℃、より好ましくは1200〜2100℃がよい。炉内の高温部での滞留時間が長くなると、グラファイト化が進み過ぎ、脆性化した炭素繊維が得られることになるので好ましくない。
上記第二炭素化処理繊維は、引き続き表面酸化処理を施す。表面酸化処理には気相、液相処理も用いることができるが、工程管理の簡便さと生産性を高める点から、液相処理が好ましい。液相処理のうちでも、液の安全性・安定性の面から、電解液を用いる電解処理が好ましい。電解酸化処理に用いられる電解液としては、硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機水酸化物、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩類などが挙げられる。
上記表面酸化処理後の繊維は、必要に応じ、引き続いてサイジング処理を施す。サイジング方法は、従来の公知の方法で行うことができ、サイジング剤は、用途に即して適宜組成を変更して使用し、均一付着させた後に、乾燥することが好ましい。
本発明によるPAN系炭素繊維の前駆体繊維束であるPAN系繊維束の製造方法は、凝固延伸時の液中歪み速度を適正化することにより、製糸の速度向上によって脱溶剤処理時間が短縮され、多錘化や太束化、太デニール化等による脱溶剤環境の悪化(高負荷)、といった状況下でさえも、従来以上に脱溶剤効率が向上する点に特徴がある。又、特別な装置類等、新たな設備投資を必要とせず、即効的であり非常にリーズナブルな方法といえる。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、評価、各物性の測定は次の方法によった。
凝固繊維束の液中歪み速度(ε)(秒−1)は下記式から計算した。
ε=X/T
但し、
X=(V−V)/V
V=(V+V)/2、
T=L/V、
ここで、
X:液中滞在時間中の凝固繊維束変形量、
:凝固延伸工程の入側のローラー速度(m/秒)、
:凝固延伸工程の出側のローラー速度(m/秒)、
V:凝固繊維束の液中平均移動速度(m/秒)、
T:凝固繊維束の液中滞在時間(秒)、
L:ローラー間距離(m)
平均残留金属不純物量は、JIS・K・0121に従って、フレーム原子吸光分析法にて測定した。すなわち、PAN系炭素繊維の前駆体繊維試料5〜10gを700℃で灰化し、残渣を溶媒で溶解し、希釈した後フレーム原子吸光光度法により、金属含有量を測定した。特に、Zn分は、試料中の塩化亜鉛が揮発損失を起こさないように、500℃以下で灰化し、残渣を塩酸で溶解し、希釈したあとフレーム原子吸光光度法により、亜鉛含有量を測定した。
炭素繊維引張強度は、JIS・R・7608に従って、引張強度を測定した。試験の数は、5回とし、それを平均して炭素繊維強度とした。
炭素繊維擦過毛羽量は、炭素繊維束をピンガイドに擦過させ、ウレタンフォームにて毛羽を捕捉することで、擦過による毛羽の発生量を計量し求めた。表面が梨地処理された、直径2mmの硬化クロムめっきのステンレス製のピンを12mm間隔で、かつ、その表面を炭素繊維束が120°の接触角で接触しながら通過し得るように、ジグザグに5本配置した。このステンレス製ピン間に炭素繊維束をジグザグに掛け、200gのテンションをかけて通し、擦過後の炭素繊維束をウレタンフォーム(寸法:幅31mm×長さ63mm×8mm、重さ:約0.25g)2枚の間に挟み、125gの重りをウレタンフォーム全面に負荷するようにのせ、炭素繊維束を50ft/分(約15m/分)の通過速度で、2分間通過させたときの、ウレタンフォームで捕捉された毛羽量を計量し、測定長で割り返した値を、炭素繊維擦過毛羽量とした。
炭素繊維蓄積毛羽量は、後工程での工程安定性を評価するために、複数のピンガイドに所定長さの炭素繊維束を30本並べて通過させ、各ピンガイドに蓄積した毛羽量の総重量を計量した。計量した蓄積毛羽総量を、ピンガイドを通過させた炭素繊維束の総重量で割り返した値を、炭素繊維蓄積毛羽量とした。尚、炭素繊維の測定長は300mであり、通過速度は5m/分である。
[実施例1〜5、比較例1、2]
塩化亜鉛水溶液を溶媒とする溶液重合法により、アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル4質量%、イタコン酸1質量%とからなる重合度が1.6、ポリマー濃度7.5質量%の紡糸原液を得た。得られた紡糸原液を、1つの紡糸口金に12,000の孔を有する紡糸口金から、25質量%塩化亜鉛水溶液中に吐出させ、PAN系繊維束が12,000本のフィラメントで構成される、PAN系繊維を凝固させた。
凝固工程において、凝固延伸時の凝固浴の温度を30℃とし、凝固延伸槽の入側のローラー速度を一定として、液中歪み速度が表1に示す値となるように凝固延伸工程出側のローラー速度を調節して延伸を行った。その後、凝固・水洗・乾燥・スチーム延伸処理を行い、トータル延伸倍率を12倍として、PAN系炭素繊維前駆体繊維を得た。この際のトータル繊度は200,000dtexであった。平均残留金属不純物量とそのCV値は表1に示した。
このPAN系炭素繊維の前駆体繊維束を、引き続き加熱空気中200℃、延伸比1.0で180秒熱処理(予備熱処理)し、密度1.18g/cmの繊維束を得た。この繊維束を、熱風循環式耐炎化炉の最高温度域を250℃に設定した加熱空気中、炉内のガイドで支持しつつ通過させ、延伸倍率を0.9〜1.1の範囲内で制御して耐炎化処理し、密度1.36g/cmの耐炎化繊維を得た。この耐炎化繊維を、第一炭素化炉の不活性雰囲気中300〜800℃の温度域を通過させて第一炭素化処理を施した。
この第一炭素化処理繊維を、第二炭素化炉の不活性雰囲気中800〜2000℃の温度域を通過させて第二炭素化処理を施した。次いで、この第二炭素化処理繊維を、硫酸アンモニウム水溶液を電解液として用い、炭素繊維1g当り30クーロンの電気量で表面処理を施した。引き続き公知の方法で、サイジング剤を施し、乾燥して、表1に示す諸物性のPAN系炭素繊維束を得た。
[比較例3]
前駆体繊維束の製糸する際のトータル繊度を150,000dtexとした以外は、比較例1と同様な条件でPAN系炭素繊維束を製造し、その結果を表1に示した。
[比較例4]
製糸速度を比較例1の1.25倍とするため、前駆体繊維束の凝固延伸槽の入側および出側のローラー速度を変更した以外は、比較例1と同様な条件でPAN系炭素繊維束を製造し、その結果を表1に示した。
凝固延伸時の凝固繊維束の液中歪み速度を4.0×10−2〜10.0×10−2(秒−1)の範囲とした実施例1〜5ではいずれも効率よくPAN系炭素繊維の前駆体繊維中に残留する金属不純物量を減少させることができた。また、得られた前駆体繊維を用いて製造した炭素繊維は、後工程の工程通過性を示す毛羽量が低く、また十分な強度を有する炭素繊維であった。
一方、比較例1では、液中歪み速度が低すぎたため脱溶剤効率が低く、十分に前駆体繊維中に残留する金属不純物量を減少させることができなかった。そのため、得られた前駆体繊維を用いて製造した炭素繊維は、擦過毛羽量が高く品質の悪いものであった。
一方、比較例2では、液中歪み速度を上げすぎた結果、脱溶剤が充分にできておらず、また、凝固延伸時に凝固繊維束に無理な負荷がかかり繊維がダメージを受けたことで、炭素繊維引張強度が低下してしまった。
また、比較例1に対してトータル繊度を減少させた比較例3では、一度に紡糸される繊維束の数が減少し、凝固・水洗工程での工程負荷が減少したことにより、PAN系炭素繊維の前駆体繊維中に残留する金属不純物量は減少した。しかし、金属不純物量のばらつきは実施例と比べて大きかった。そのため、液中歪み速度が低い比較例3ではトータル繊度を減少させてさえ、得られた前駆体繊維を用いて製造した炭素繊維は、実施例と比べ擦過毛羽量が高く品質の悪いものであった。
比較例4は、比較例1と液中歪み速度を同じになるようにして製糸速度のみ向上させたものである。単純に製糸工程の速度のみを向上させた場合では、脱溶剤効率が改善しないまま、凝固液滞在時間が短縮されるため脱溶剤が不十分であるため、PAN系前駆体繊維に残留する金属不純物量が増加し、得られる炭素繊維の品質および強度が低下する。
Figure 2012219382
本発明によれば、PAN系炭素繊維の前駆体繊維束の製造において、品質を維持もしくは向上させた製糸高速化と多錘化が可能である。そのため、PAN系炭素繊維の低価格化、品質向上が期待できる。

Claims (4)

  1. ポリアクリロニトリル系炭素繊維の前駆体繊維束として用いられるポリアクリロニトリル系繊維束を製造するに際し、ポリアクリロニトリル系重合体を、湿式或いは乾湿式紡糸法で凝固浴中に紡出して凝固繊維束とする凝固工程において、凝固延伸時の凝固繊維束の液中歪み速度を4.0×10−2〜10.0×10−2(秒−1)とすることを特徴とするポリアクリロニトリル系炭素繊維の前駆体繊維束の製造方法。
  2. 凝固延伸時の凝固浴の温度が10〜40℃である請求項1に記載のポリアクリロニトリル系炭素繊維の前駆体繊維束の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の製造方法によって得られるポリアクリロニトリル系炭素繊維の前駆体繊維束。
  4. 前駆体繊維束中の平均残留金属不純物量が20ppm以下で、そのCV値が7.5%以下である請求項3に記載のポリアクリロニトリル系炭素繊維の前駆体繊維束。
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