JP2012201978A - 炭素鋼材およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高強度でありながら耐摩耗性も良好な炭素鋼材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る炭素鋼材1は、炭素を含む鉄鋼基材2と、前記鉄鋼基材2の表層に形成された片状黒鉛層3とを有する。前記片状黒鉛層3の厚さは200μmから1mmであるのが好ましく、炭素鋼材1の化学組成は、Alを0.1〜0.3質量%およびSiを1.5〜2.5質量%含有するのが好ましい。前記した炭素鋼材1は、所定の形状に成形した炭素を含む鉄鋼基材を700〜720℃で10〜20分熱処理し、その後水冷することで製造することができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、例えば、エンジンのシリンダライナなどの構造材として用いられる炭素鋼材およびその製造方法に関する。
従来から、エンジンのシリンダライナなどの構造材には、ねずみ鋳鉄が広く一般的に使用されている。ねずみ鋳鉄は、炭素(C)を多く含有し、その組織中には片状黒鉛が晶出している。そのため、ねずみ鋳鉄は固体潤滑作用が良好であり、相手部材とのなじみ性が良く、耐摩耗性や耐焼付き性が高いという特長を有している。
また、構造材には、低合金鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼なども多く使用されている。これらは、焼戻しマルテンサイト組織により高強度を発現することができ、さらに高硬度炭化物の析出によって耐摩耗性の向上を図ることができる。
さらに、特許文献1や非特許文献1に記載されているように、構造材には、組織中の黒鉛を球状化させた球状化黒鉛鋳鉄も使用されている。炭化物である黒鉛を球状化することによって靭性や延性の向上を図ることができる。
特開2000−319754号公報
多田周二ら著、「オーステンパ球状黒鉛鋳鋼の衝撃強度に及ぼす含有シリコン量およびオーステンパ条件の影響」日本機械学会論文集(A編)、60巻578号(1994−10)、論文No.94−0073、p.189−194
しかしながら、ねずみ鋳鉄で製造された構造材は、片状黒鉛の先端部における応力集中により亀裂が発生し易く、黒鉛が強度を分担しないため、強度が低くなるという問題がある。
また、低合金鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼で製造された構造材は、自己潤滑性に欠けるため耐摩耗性に劣り、油切れ等を生じると凝着摩耗が発生し、焼付き(スカッフィング)に発展するという問題がある。
そして、特許文献1や非特許文献1に記載された材料で製造された構造材は、組織中の黒鉛が球状化しているため片状黒鉛と比較してその表面積が小さくなる。その結果、片状黒鉛を有するねずみ鋳鉄で製造した構造材と比較して固体潤滑作用が発現され難く、耐摩耗性に劣るという問題がある。
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、高強度でありながら耐摩耗性も良好な炭素鋼材およびその製造方法を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、本発明に係る炭素鋼材は、片状黒鉛層が表層に形成されていることを特徴としている。
このような片状黒鉛層が表層に形成されているため、固体潤滑作用を得ることができ、耐摩耗性が向上する。また、片状黒鉛層は表層のみに形成されているため、炭素鋼材全体としての強度は低下しない。
本発明に係る炭素鋼材は、前記片状黒鉛層の厚さが、200μmから1mmであるのが好ましい。このようにすれば、確実に耐摩耗性を向上させ、かつ高強度を得ることができる。
本発明に係る炭素鋼材は、Alを0.1〜0.3質量%およびSiを1.5〜2.5質量%含有するのが好ましい。SiとAlをこのような範囲で含有させることにより、片状黒鉛層を確実に形成することができるので、耐摩耗性を向上させ、かつ高強度を確実に得ることができる。
本発明に係る炭素鋼材の製造方法は、所定の形状に成形した炭素を含む鉄鋼基材を700〜720℃で10〜20分熱処理し、その後水冷することを特徴としている。
所定の形状に成形した炭素を含む鉄鋼基材をこのような手順で処理することで、表層のみに片状黒鉛を濃化させることができる。つまり、表層に片状黒鉛層を形成させた炭素鋼材を製造することができる。
本発明に係る炭素鋼材の製造方法は、前記鉄鋼基材がAlを0.1〜0.3質量%およびSiを1.5〜2.5質量%含有するのが好ましい。
AlとSiをこのような範囲で含有する鉄鋼基材を用いると、表層のみに片状黒鉛を濃化させ易くなる。つまり、表層に片状黒鉛層を形成させた炭素鋼材を製造し易くなる。
本発明によれば、高強度でありながら耐摩耗性も良好な炭素鋼材およびその製造方法を提供することができる。
本発明に係る炭素鋼材の構成を説明する断面図である。 供試材No.Aの反射電子像である。倍率は120倍であり、図中のスケールバーは100μmを示す。 供試材No.Bの反射電子像である。倍率は120倍であり、図中のスケールバーは100μmを示す。 供試材No.Cの反射電子像である。倍率は120倍であり、図中のスケールバーは100μmを示す。 供試材No.Dの反射電子像である。倍率は120倍であり、図中のスケールバーは100μmを示す。 供試材No.Gの光学顕微鏡像である。倍率は250倍であり、図中のスケールバーは100μmを示す。
次に、図1を参照して本発明の一実施形態に係る炭素鋼材について説明する。
図1に示すように、一実施形態に係る炭素鋼材1は、炭素(C)を含む鉄鋼基材2と、鉄鋼基材2の表層に形成された片状黒鉛層3とを有する。片状黒鉛は、強度は低いものの、被接触物に対する表面積が大きくなるため固体潤滑作用に優れ、摩擦係数の低減を図ることができる。そのため、本発明のように片状黒鉛を濃化させた片状黒鉛層3を表層のみに形成すれば、耐摩耗性を向上させることができる。また、内部の鉄鋼基材2には片状黒鉛が形成されていないため、強度を高く維持できる。
片状黒鉛層3の厚さは200μmから1mmとするのが好ましい。片状黒鉛層3の厚さがこの範囲にあると、良好な耐摩耗性と高強度を得ることができる。一方、片状黒鉛層3の厚さが200μm未満であると、片状黒鉛層3の厚さが薄過ぎるため、十分な耐摩耗性を得ることができないおそれがある。また、使用によって片状黒鉛層3の消失が早まるおそれもある。他方、片状黒鉛層3の厚さが1mmを超えると、片状黒鉛層3の厚さが厚過ぎるため片状黒鉛層3に亀裂が入り易かったり、欠損が生じ易かったりするおそれがある。かかる片状黒鉛層3の片状黒鉛は、本実施形態では、反射電子像で断面を撮像したときに、表面に対して斜め方向に析出されている。
Cは、黒鉛を析出させ、耐摩耗性を確保するために重要な元素である。Cは、例えば1.5質量%程度含有するのが好ましい。C量が1.5質量%よりも過度に少ないと、耐摩耗性を確保することができない。また、表層に十分な片状黒鉛を形成させることができない。一方、C量が1.5質量%を超えて過度に多いと靭性を低下させる。
従って、C量は1.5質量%程度とするのが好ましい。
一実施形態に係る炭素鋼材1は、Alを0.1〜0.3質量%およびSiを1.5〜2.5質量%含有するのが好ましい。また、その他の添加剤として、Mnを、例えば1.0質量%含有するのが好ましい。
Alは、黒鉛化を促進する元素である。また、脱酸剤として重要な元素であるとともに、AlNを析出し結晶粒を微細にする元素である。これらの効果を有効に得るため、Al量は0.1質量%以上とするのが好ましい。一方、0.3質量%を超えてAlを添加してもその効果は飽和する。また、Alの過剰添加は湯流れを悪くする。
従って、Al量は0.1〜0.3質量%とするのが好ましい。
Siは、Alと同様に黒鉛化を促進する元素である。Si量が1.5質量%未満であると当該効果を有効に得られないおそれがある。また、Si量が2.5質量%を超えると非金属介在物が増大するため靭性の低下などを招くおそれがある。
従って、Si量は1.5〜2.5質量%とするのが好ましい。
Mnは、黒鉛化を阻害する元素であるが、焼入れ性を向上させるとともに、鉄鋼基材2中のSと結合してMnSを形成し、Sを無害化する。Mn量が1.0質量%よりも過度に少ないと、Sの無害化を図ることができないおそれがある。一方、Mn量が1.0質量%を超えて過度に多いと、黒鉛の析出が阻害されるおそれがある。Mn量は0.8〜1.2質量%程度とするのが好ましく、1.0質量%程度とするのが好ましい。
鉄鋼基材2の化学組成の残部は、Feおよび不可避的不純物からなるのが好ましい。残部に含まれ得る不可避的不純物としては、例えば、P、S、O、Nなどが挙げられる。これらの不可避的不純物は、なるべく含有しないことが望ましいが、Pは0.04質量%以下、Sは0.01質量%以下、Oは0.003質量%以下、Nは0.01質量%以下であれば本発明の効果を阻害しない。そのため、これらの不可避的不純物について、それぞれ前記した程度の含有は許容される。
なお、炭素鋼材1の化学組成は、前記したもの以外にも、一般的に、P、Cu、Ni、Co、B、Ti、Zr、Ca、Mg、REM(希土類元素)などが黒鉛化を促進する元素として知られているので、これらを含有させることもできる。
また、過度の黒鉛化を抑制するため、一般的に、S、O、N、Cr、Mo、V、Nbなどが黒鉛化を阻害する元素として知られているので、これらを含有させることもできる。
ここで、P、S、O、Nについては、これらの目的のために含有させる場合であっても前記した含有量以下とするのが好ましい。
本発明を適用できる炭素鋼は前記した化学組成のものに限定されない。本発明は、約0.7質量%以上の高炭素鋼のいずれを用いた構造材であっても適用することができる。
次に、本発明の一実施形態に係る炭素鋼材の製造方法について説明する。
一実施形態に係る炭素鋼材1の製造方法は、所定の形状に成形した炭素を含む鉄鋼基材2を700〜720℃で10〜20分熱処理し、その後水冷するというものである。ここで、鉄鋼基材2は、Alを0.1〜0.3質量%およびSiを1.5〜2.5質量%含有するのが好ましい。なお、AlとSiをこの範囲で含有すると好ましいことは既に述べたとおりであるので、その説明を省略する。
所定の形状への成形は、適宜の方法、例えば、鋳造や鍛造などの他、圧延、押出しなどの展伸加工や、剪断、曲げなどの成形加工によって行うことができる。また、所定の形状への成形後、前記した熱処理前であれば、必要に応じて、固溶化処理などを行うことができる。一方、前記した熱処理後は、焼鈍しなどの熱処理を行わないのが好ましいが、700℃未満の熱処理、例えば、600〜700℃未満で行うひずみ取り焼鈍しなどであれば行うことができる。
前記した熱処理が700〜720℃であれば、表層に片状黒鉛を濃化させた片状黒鉛層3を形成することができる。これは、フェライト(α−Fe)中のCの殆どはセメンタイト(Fe3C)として析出するため、Fe3CをCに分解するには700℃以上の高温に加熱すればよいと考えられるからである。つまり、表層部ほど体積膨張による拘束が少なく、弾性ひずみエネルギーの増加も小さく済むので、内部に比べ表層部の黒鉛化が促進される。そのため、熱処理条件、特に熱処理の温度を特定の範囲に制御することで、表層の炭化物のみを選択的に片状黒鉛化して濃化させ、片状黒鉛層3を形成させる。熱処理の時間が過度に長くなければ内部の鉄鋼基材2は黒鉛化しないミクロ組織のままであるから、強度も維持される。結果的に、高強度でありながら耐摩耗性も良好な、前記した炭素鋼材1を製造することができる。なお、黒鉛化を促進する観点からは、前記したように、AlやSiなどの黒鉛化を促進する元素をそれぞれ前記した範囲で添加するのが好ましいといえる。
前記した理由から、熱処理が700℃未満であると、表層に片状黒鉛層3を形成することができない。一方、熱処理が720℃を超えると、球状化した黒鉛が全体的に均等に析出してしまう。そのため、耐摩耗性に劣るおそれがある。
従って、熱処理は700〜720℃とする。
熱処理を行う手段は特に限定されない。例えば、電気炉やガス炉、高周波誘導加熱炉などによって行うことができる。
熱処理の時間は、熱処理を行う手段の能力に応じて適宜に設定し得るものであり、炭素鉱材1の表層に片状黒鉛を濃化させて片状黒鉛層3を形成できる範囲で適宜に設定することができる。例えば、10〜20分程度とすることができる。電気炉の場合は、例えば、15分などとすることができるが、これよりも加熱能力の高い高周波誘導加熱炉などでは、さらに短い時間で同等の厚さの片状黒鉛層3を形成することも可能である。
なお、電気炉の場合、熱処理の時間が10分未満であると、たとえ、720℃であっても片状黒鉛層3を十分に形成することができない。一方、熱処理の時間が20分を超えると、球状化した黒鉛が全体的に均等に析出してしまう。そのため、耐摩耗性および強度に劣るおそれがある。
熱処理の加熱速度は50℃/h以上とするのが好ましい。加熱速度が50℃/h未満であると、加熱速度が小さ過ぎるため700〜720℃の温度領域に保持される時間が20分を超えるおそれがあり、球状化した黒鉛が全体的に均等に析出してしまう。そのため、耐摩耗性に劣るおそれがある。電気炉を用いた場合、熱処理の加熱速度は、例えば、200℃/hとするのがよい。
次に、実施例と比較例を対比して本発明の効果について説明する。
表1に示すNo.1〜4の化学組成のインゴットを高周波真空溶解炉にて溶製した。サイズは、150×50×20mmとした。また、インゴットNo.1〜4のA1変態点を多元系状態図計算ソフトのThermo−Calcにて導出した。化学組成とともに表1に示す。
表1に示したインゴットNo.1〜4をそれぞれ15×15×40mmに加工し、電気炉内にて、表2に示すNo.A〜Gの供試材を、表2に示す熱処理温度で等温保持後、水冷した。保持温度は(A1変態点+40)℃、730℃、700℃、680℃の4通りとした。熱処理の保持時間は15minとした。
熱処理を行った供試材No.A〜Gの表面に対して垂直な方向に切断した切断面を、1μmのダイヤモンドペーストにて鏡面研磨した後、表層のミクロ組織を反射電子像(倍率120倍)にて観察した(供試材No.Gのみ光学顕微鏡(倍率250倍))。反射電子像および光学顕微鏡で観察した結果を、熱処理温度とともに表2に示す。また、これらのうち、供試材No.A〜D、Gを代表例として、その反射電子像または光学顕微鏡像を図2〜6にそれぞれ示した。なお、図2は供試材No.Aの反射電子像であり、図3は供試材No.Bの反射電子像であり、図4は供試材No.Cの反射電子像であり、図5は供試材No.Dの反射電子像であり、図6は供試材No.Gの光学顕微鏡像である。
表2および図2に示すように、供試材No.Aについて反射電子像で確認した結果、内部の鉄鋼基材は黒鉛化せず、表層のみに片状黒鉛が濃化していた。
他方、表2および図3〜6に示すように、供試材No.B〜Gは、反射電子像または光学顕微鏡で確認した結果、表層のみに片状黒鉛が濃化するものはなかった。
次に、内部の鉄鋼基材は黒鉛化せず、表層のみに片状黒鉛が濃化していた供試材No.Aと、供試材No.Hに係るねずみ鋳鉄(FC250)と、供試材No.Iに係るマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS420J2)とを用いて、硬さ試験および摩擦係数の測定を行った。
供試材No.Aの硬さ試験は、JIS Z2243「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠し、荷重196N(20kgf)にて実施した。なお、硬さの測定は任意の3箇所について行った。
供試材No.H、Iの硬さは、文献(JIS G5501「ねずみ鋳鉄品」、JIS G4305「冷間圧延ステンレス鋼及び鋼帯」)に記載のHB、HRCをHVに換算した値とした。
供試材No.Aおよび供試材No.Hの摩擦係数の測定は、HEIDON表面性測定機にて、試験速度100mm/min、試験荷重9.8kN(1000kgf)、摺動距離20mm、大気中、室温、無潤滑の条件で実施した。相手材は、ねずみ鋳鉄(FC250)とし、試験材、相手材ともに摺動面の算術平均粗さRaを機械加工で5μm程度に仕上げた。静摩擦係数は、試験波形の最初に現れるピークの値とし、動摩擦係数は、波形が安定している範囲(2〜12秒)の平均値とした。なお、供試材No.Iの摩擦係数は未計測である。硬さ(HV)および摩擦係数(静摩擦係数、動摩擦係数)を表3に示す。
表3に示すとおり、供試材No.Aは、マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS420J2)である供試材No.Iと同等の硬さを有し、高強度であることがわかった。また、供試材No.Aの静摩擦係数および動摩擦係数は、ねずみ鋳鉄(FC250)である供試材No.Hには若干及ばないものの十分に低い値であった。従って、内部の鉄鋼基材は黒鉛化せず、表層のみに片状黒鉛が濃化している供試材No.Aは、本発明の効果を奏する実施例であるということができる。
1 炭素鋼材
2 鉄鋼基材
3 片状黒鉛層

Claims (5)

  1. 炭素を含む鉄鋼基材と、
    前記鉄鋼基材の表層に形成された片状黒鉛層と、を有する
    ことを特徴とする炭素鋼材。
  2. 請求項1に記載の炭素鋼材であって、
    前記片状黒鉛層の厚さが、200μmから1mmである
    ことを特徴とする炭素鋼材。
  3. 請求項1または請求項2に記載の炭素鋼材であって、
    Alを0.1〜0.3質量%およびSiを1.5〜2.5質量%含有する
    ことを特徴とする炭素鋼材。
  4. 請求項1に記載の炭素鋼材を製造するための製造方法であって、
    所定の形状に成形した炭素を含む鉄鋼基材を700〜720℃で10〜20分熱処理し、その後水冷する
    ことを特徴とする炭素鋼材の製造方法。
  5. 請求項4に記載の炭素鋼材の製造方法であって、
    前記鉄鋼基材がAlを0.1〜0.3質量%およびSiを1.5〜2.5質量%含有する
    ことを特徴とする炭素鋼材の製造方法。
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