[濾過工程]
本発明の熱可塑性樹脂の製造方法における濾過工程では、熱可塑性樹脂(A)を含む溶液(B)を濾過する溶液濾過を行う。この溶液濾過は、溶液(B)を、濾過精度が15μm以上100μm以下の第1のフィルターユニットを通過させ、その後、濾過精度が5μm以下の第2のフィルターユニットをさらに通過させることにより実施する。これにより、ゲルをはじめとする異物の含有量が低減された樹脂(A)が得られる。なお、フィルターユニットの濾過精度とは、当該精度で示される粒径の粒子を95%以上の濾過効率で捕捉できる精度をいう。
この溶液濾過の具体的な実施方法および手順は、溶液(B)を、第1のフィルターユニットおよび第2のフィルターユニットをこの順に通過させる限り限定されない。例えば、溶液濾過が実施される溶液(B)の流路の上流側に第1のフィルターユニットを、下流側に第2のフィルターユニットを配置し、当該流路に溶液(B)を流せばよい。
この溶液濾過を実施するために必要な装置の構成は、溶液(B)を、第1のフィルターユニットおよび第2のフィルターユニットをこの順に通過させることができる限り、限定されない。
第1のフィルターユニットの濾過精度は、15μm以上100μm以下である。当該濾過精度は、15μmを超えることが好ましく、30μm以上100μm以下がより好ましく、40μm以上100μm以下がより好ましく、40μm以上60μm以下がさらに好ましい。これらの範囲において、第1および第2のフィルターユニットが目詰まりするまでの時間が特に長くなる。
第2のフィルターユニットの濾過精度は、5μm以下である。当該濾過精度の下限は特に限定されないが、例えば0.2μmであり、1μmが好ましく、2μmがより好ましく、3μmがさらに好ましい。
第1および第2のフィルターユニットの種類および構造は、それぞれのフィルターユニットにおいて上述の濾過精度が得られる限り限定されない。第1および第2のフィルターユニットは、例えば、公知のフィルターエレメントを備える、公知の種類のフィルターユニットである。具体的には、例えば、リーフディスクフィルター、キャンドルフィルター、パックディスクフィルター、円筒型フィルターである。なかでも、有効濾過面積が高いリーフディスクフィルターおよびキャンドルフィルターが好ましく、省スペース化の観点からは、キャンドルフィルターがより好ましい。第1および第2のフィルターユニットは、上記濾過精度が得られるとともに、目詰まりしていない状態で過度に大きな圧力損失が生じない限り、それぞれ、複数のフィルターエレメントを備えていてもよい。複数のフィルターエレメントを備える場合、各エレメントの濾過精度が互いに異なっていてもよい。
フィルターエレメントを構成する濾材は特に限定されない。例えば、ポリプロピレン、コットン、ポリエステル、ビスコースレーヨン、グラスファイバーなどの各種の繊維の不織布もしくはロービングヤーン巻回体、またはフェノール樹脂含浸セルロースからなる濾材、金属繊維の不織布を焼結した濾材、金属粉末を焼結した濾材、複数の金網を積層した濾材、これらの濾材を組み合わせたいわゆるハイブリッド型の濾材など、いずれの濾材も使用可能である。なかでも、耐久性および耐圧性に優れることから、金属繊維の不織布を焼結した濾材が好ましい。
第1および第2のフィルターユニットの濾過面積は、互いに異なっていてもよい。
第1および第2のフィルターユニットは、通常、溶液濾過が実施される溶液(B)の流路に対して脱着可能である。第1および第2のフィルターユニットは、当該流路に対して個別に脱着可能であることが好ましい。この場合、溶液濾過によりフィルターユニットが目詰まりした際に、あるいは後述する切り替えの際に、当該フィルターユニットを交換する作業性が向上する。また、第1および第2のフィルターユニットのうち、目詰まりしたフィルターユニットのみを交換することが可能であり、経済的である。
第1および第2のフィルターユニットは、溶液濾過が実施される溶液(B)の流路に、間隔をおいて配置されることが好ましい。もちろん、第1のフィルターユニットと第2のフィルターユニットとが直接接するように、具体的には、第1のフィルターユニットにおける溶液(B)の出口と、第2のフィルターユニットにおける溶液(B)の入口とを直結して両者を配置することも可能であるが、間隔をおいて配置することにより、それぞれのフィルターユニットを当該流路に対して個別に脱着することが容易となる。また、この場合、第1および第2のフィルターユニット間には、例えば、第1のフィルターユニットにおける溶液(B)の出口と、第2のフィルターユニットにおける溶液(B)の入口とをつなぐ配管が配置される。
溶液濾過時の溶液の温度は、溶液濾過を行っている間に溶媒が凍結あるいは沸騰しない限り特に限定されず、溶媒の種類によっても異なるが、樹脂(A)がアクリル樹脂の場合、例えば、室温〜150℃程度である。この温度範囲では、樹脂(A)に含まれるゲルの変形性は、一般に小さい。
本発明の熱可塑性樹脂の製造方法における溶液濾過の具体的な実施形態の例を説明する。
図1に、溶液濾過を実施するフィルターユニットの配置の一例を示す。図1に示す例では、溶液濾過が実施される溶液(B)の流路11に、1つの第1のフィルターユニット1と、1つの第2のフィルターユニット2とが直列に配置されている。第1のフィルターユニット1が、第2のフィルターユニット2に対して流路11の上流側に位置している。この例では、溶液(B)は、第1および第2のフィルターユニット1,2を順に通過して、溶液濾過が行われる。
図2に、溶液濾過を実施するフィルターユニットの配置の別の一例を示す。図2に示す例では、溶液濾過が実施される溶液(B)の流路11に、2つの第1のフィルターユニット1a,1bが互いに並列に配列された第1のフィルターユニット群3が配置されている。流路11における、第1のフィルターユニット群3の下流には、1つの第2のフィルターユニット2が配置されている。この例では、溶液(B)は、第1のフィルターユニット群3および第2のフィルターユニット2を順に通過して、溶液濾過が行われる。この例において、溶液(B)を、第1のフィルターユニット群3におけるいずれのフィルターユニットを通過させるかは、自由に選択できる。双方のフィルターユニットを通過させてもよい。この選択により、例えば、第1のフィルターユニット群3における溶液(B)の濾過面積の調整が可能となる。また、第1のフィルターユニット群3において溶液(B)を通過させる第1のフィルターユニットを切り替えながら、溶液濾過を実施してもよい。例えば、溶液(B)を、最初に一方のフィルターユニット1aを通過させておき、ゲルなどの異物によるフィルターユニット1aの目詰まりが進行した段階で、溶液(B)を通過させるフィルターユニットを、フィルターユニット1aから1bに切り替える。この切り替えにより、溶液(B)はフィルターユニット1bを通過するようになるが、その間に、フィルターユニット1aを、異物による目詰まりの程度が低い、好ましくは、異物による目詰まりのしていないフィルターユニットと交換することができる。この方法は、異物量が低減された熱可塑性樹脂の連続生産に好適である。必要に応じて、さらに切り替えを行い、同様にフィルターユニット1bを交換してもよい。
第1のフィルターユニット群3では、2つに限られず、3以上の第1のフィルターユニットが互いに並列に配列されていてもよい。この場合においても、溶液(B)を通過させるフィルターユニットの選択は自由である。
溶液(B)を通過させるフィルターユニットを切り替える理由は、当該フィルターユニットにおける目詰まりに限られない。これは、以降の例においても同様である。
異物により目詰まりの程度が低い(好ましくは、目詰まりのしていない)フィルターユニットは、例えば、未使用の新しいフィルターユニット、使用後に再生して目詰まりの程度を下げた再生品のフィルターユニットである。
図3に、溶液濾過を実施するフィルターユニットの配置の別の一例を示す。図3に示す例では、溶液濾過が実施される溶液(B)の流路11に、2つの第2のフィルターユニット2a,2bが互いに並列に配列された第2のフィルターユニット群4が配置されている。流路11における、第2のフィルターユニット群4の上流には、1つの第1のフィルターユニット1が配置されている。この例では、溶液(B)は、第1のフィルターユニット1および第2のフィルターユニット群4を順に通過して、溶液濾過が行われる。図2に示す例と同様に、この例において、溶液(B)を、第2のフィルターユニット群4におけるいずれのフィルターユニットを通過させるかは、自由に選択できる。双方のフィルターユニットを通過させてもよい。この選択により、例えば、第2のフィルターユニット群4における溶液(B)の濾過面積の調整が可能となる。また、第2のフィルターユニット群4において溶液(B)を通過させる第2のフィルターユニットを切り替えながら、溶液濾過を実施してもよい。例えば、溶液(B)を、最初に一方のフィルターユニット2aを通過させておき、ゲルなどの異物によるフィルターユニット2aの目詰まりが進行した段階で、溶液(B)を通過させるフィルターユニットを、フィルターユニット2aから2bに切り替える。この切り替えにより、溶液(B)はフィルターユニット2bを通過するようになるが、その間に、フィルターユニット2aを、異物による目詰まりの程度が低い、好ましくは、異物による目詰まりのしていないフィルターユニットと交換することができる。この方法は、異物量が低減された熱可塑性樹脂の連続生産に好適である。必要に応じて、さらに切り替えを行い、同様にフィルターユニット2bを交換してもよい。
第2のフィルターユニット群4では、2つに限られず、3以上の第2のフィルターユニットが互いに並列に配列されていてもよい。この場合においても、溶液(B)を通過させるフィルターユニットの選択は自由である。
図4に、溶液濾過を実施するフィルターユニットの配置の別の一例を示す。図4に示す例では、溶液濾過が実施される溶液(B)の流路11に、2つの第1のフィルターユニット1a,1bが互いに並列に配列された第1のフィルターユニット群3と、2つの第2のフィルターユニット2a,2bが互いに並列に配列された第2のフィルターユニット群4とが配置されている。流路11の上流側に第1のフィルターユニット群3が、下流側に第2のフィルターユニット群4が、それぞれ配置されている。この例では、溶液(B)は、第1のフィルターユニット群3および第2のフィルターユニット群4を順に通過して、溶液濾過が行われる。
第1のフィルターユニット1aにおける溶液(B)の出口と、第2のフィルターユニット2aにおける溶液(B)の入口とは、配管12aによって接続されており、第1のフィルターユニット1aを通過した溶液(B)は、続いて第2のフィルターユニット2aを通過する。第1のフィルターユニット1bにおける溶液(B)の出口と、第2のフィルターユニット2bにおける溶液(B)の入口とは、配管12bによって接続されており、第1のフィルターユニット1bを通過した溶液(B)は、続いて第2のフィルターユニット2bを通過する。図4に示す例では、溶液(B)の流路11について、フィルターユニット1aおよび2aを通過する経路11aと、フィルターユニット1bおよび2bを通過する経路11bとがある。すなわち、溶液濾過が実施される溶液(B)の流路が、第1および第2のフィルターユニットが配置された2以上の経路を有する。なお、溶液(B)の経路が2以上の経路を有する点は、図2〜6に示す他の例においても同様である。例えば、図2に示す例には、第1のフィルターユニット1aを溶液(B)が通過する経路と、第1のフィルターユニット1bを溶液(B)が通過する経路との2つの経路が、溶液濾過が実施される溶液(B)の流路に存在する。図2に示す例におけるフィルターユニットの切り替えは、この経路の切り替えに相当する。
図4に示す例では、溶液(B)を、経路11a,11bのいずれを通過させるかは、自由に選択できる。経路11a,11bの双方を通過させてもよい。この選択により、例えば、溶液(B)の濾過面積の調整が可能となる。また、溶液(B)を通過させる経路11a,11bを切り替えながら、溶液濾過を実施してもよい。例えば、溶液(B)を、最初に、経路11a(第1のフィルターユニット1aおよび第2のフィルターユニット2a)を通過させておき、ゲルなどの異物によるフィルターユニット1aおよび/または2aの目詰まりが進行した段階で、溶液(B)を通過させる経路を、経路11aから11bに切り替える。この切り替えにより、溶液(B)は第1のフィルターユニット1bおよび第2のフィルターユニット2bを通過するようになるが、その間に、切り替えによって溶液が通過しなくなったフィルターユニット1aおよび/または2aを、異物による目詰まりの程度が低い、好ましくは、異物による目詰まりのしていないフィルターユニットと交換することができる。第1のフィルターユニット1a,1bと、第2のフィルターユニット2a,2bとの間で濾過精度が異なることから、目詰まりによりフィルターユニットが使用できなくなるタイミングが異なることも多い。この方法では、第1および第2のフィルターユニットのうち、使用できなくなったフィルターユニットのみを個別に交換でき、後に、溶液(B)を通過させる経路を戻したときに、交換しなかったフィルターユニットをそのまま使用することができる。このように、図4に示す例は、異物量が低減された熱可塑性樹脂の連続生産にさらに適している。
図5に、溶液濾過を実施するフィルターユニットの配置の別の一例を示す。図5に示す例は、異物量が低減された熱可塑性樹脂の連続生産にとりわけ適している。当該例では、溶液濾過が実施される溶液(B)の流路11に、2つの第1のフィルターユニット1a,1bが互いに並列に配列された第1のフィルターユニット群3と、2つの第2のフィルターユニット2a,2bが互いに並列に配列された第2のフィルターユニット群4とが配置されている。流路11における上流側に第1のフィルターユニット群3が、下流側に第2のフィルターユニット群4が、それぞれ配置されている。この例では、溶液(B)は、第1のフィルターユニット群3および第2のフィルターユニット群4を順に通過して、溶液濾過が行われる。
図5に示す例は、図4に示す例と以下の点で異なる。流路11における、第1のフィルターユニット群3と第2のフィルターユニット群4とをつなぐ部分が、第1のフィルターユニット1a,1bの下流側で一度合流した後、再び分岐して第2のフィルターユニット2a,2bに接続された構成を有する。
この例において、溶液(B)を、第1および第2のフィルターユニット群3,4におけるいずれのフィルターユニットを通過させるかは、自由に選択できる。各フィルターユニット群において、双方のフィルターユニットを通過させてもよい。この選択により、例えば、それぞれのフィルターユニット群における溶液(B)の濾過面積の調整が可能となる。また、第1のフィルターユニット群3および/または第2のフィルターユニット群4において溶液(B)を通過させるフィルターユニットを切り替えながら、溶液濾過を実施してもよい。例えば、溶液(B)を、最初に、それぞれのフィルターユニット群における一方のフィルターユニット1a,2aを通過させておき、ゲルなどの異物によるフィルターユニット1aおよび/または2aの目詰まりが進行した段階で、溶液(B)を通過させるフィルターユニットを、それぞれのフィルターユニット群における他方のフィルターユニット1bおよび/または2bに切り替える。この切り替えにより、溶液(B)は他方のフィルターユニットを通過するようになるが、その間に、切り替えによって溶液が通過しなくなったフィルターユニットを、異物による目詰まりの程度が低い、好ましくは、異物による目詰まりのしていないフィルターユニットと交換することができる。第1のフィルターユニット1a,1bと、第2のフィルターユニット2a,2bとの間で濾過精度が異なることから、目詰まりによりフィルターユニットが使用できなくなるタイミングが異なることも多い。この方法では、第1および第2のフィルターユニット1a,1b,2a,2bのうち、使用できなくなったフィルターユニットのみを個別に交換でき、その時点でさらなる使用が可能なフィルターユニットをそのまま使用することができる。各フィルターユニット群におけるフィルターユニットの切り替えは、自由に行うことができる。
図5に示す例では、溶液濾過が実施される溶液(B)の流路11が、第1および第2のフィルターユニットが配置された2以上の、具体的には4つの、経路を有する。すなわち、フィルターユニット1aおよび2a、フィルターユニット1aおよび1b、フィルターユニット1bおよび2a、ならびにフィルターユニット1bおよび2bの各組み合わせにより成り立つ4つの経路である。図5に示す例において、溶液(B)が通過するフィルターユニットを切り替えながら溶液濾過を実施することは、溶液(B)を流す経路を切り替えながら溶液濾過を実施することに相当する。
図6に、溶液濾過を実施するフィルターユニットの配置の別の一例を示す。図6に示す例は、流路11における、第1のフィルターユニット群3と第2のフィルターユニット群4とをつなぐ部分の形状が異なる以外、図5に示す例と同様である。
図2〜6に示す例において、溶液(B)を通過させるフィルターユニットの切り替えおよび溶液(B)を流す経路の切り替えのタイミングは、例えば、当該フィルターユニット(当該経路に配置されたフィルターユニット)を通過する際に溶液(B)に生じる圧力損失に基づいて決定できる。もちろん、他の項目に基づいて決定してもよい。圧力損失に基づく具体的な決定の方法は限定されず、例えば、圧力損失が一定の値以上になったときに切り替えてもよいし、圧力損失の上昇の程度が一定のレベル以上になったときに切り替えてもよい。
圧力損失は、フィルターユニットの入口圧と出口圧との差から求めることができる。溶液濾過を安定して行うためには、圧力損失は、第1および第2のフィルターユニットの合計で、3MPa以下が好ましく、2MPa以下が好ましい。圧力損失の下限は特に限定されないが、例えば0.1MPa以上である。圧力損失が過小になると、溶液(B)がフィルターユニットを通過する際に、当該ユニット内の流路に偏りが生じやすくなり、ゲルの除去が不均一になることがある。一方、圧力損失が過大になると、溶液(B)がフィルターユニットを通過する際にゲルが変形し、当該フィルターユニットにおけるゲルの除去率が低下することがある。
切り替えによって溶液(B)が通過しなくなったフィルターユニットは、例えば、より目詰まりの程度が小さい(より圧力損失が小さい)、すなわち、溶液(B)が通過しなくなった時点における交換対象の当該フィルターユニットよりも、溶液(B)が通過する際に生じる圧力損失が小さいフィルターユニットと交換すればよい。このフィルターユニットは、上述のように、例えば、未使用の新しいフィルターユニット、使用後に再生して目詰まりの程度を下げた再生品のフィルターユニットである。このとき、溶液(B)を当該交換対象のフィルターユニットとは異なるフィルターユニットを通過させる(当該交換対象のフィルターユニットが配置されていない経路に流す)ことにより、溶液濾過の実施を継続した状態で、交換を行うことが好ましい。
なお、フィルターユニットの切り替え(経路の切り替え)およびフィルターユニットの交換によって、永遠に熱可塑性樹脂の連続生産ができるわけではない。重合バッチが繰り返されるたびに、反応容器内で生成する1バッチあたりのゲルの数が次第に増大していくため、ある程度重合バッチを繰り返した段階で、通常、反応容器の洗浄が必要となる。
溶液濾過では、溶液(B)を、第1および第2のフィルターユニット以外の他のフィルターユニットをさらに通過させてもよい。各フィルターユニットにおいて発生する溶液(B)に対する圧力損失を考慮すると、溶液濾過において、溶液(B)を第1および第2のフィルターユニットのみを通過させることが好ましい。濾過精度が第1のフィルターユニットよりも小さく、溶液(B)に対して生じる圧力損失が小さい他のフィルターユニットは、溶液濾過が実施される溶液(B)の流路の任意の場所に配置できる。
溶液濾過では、熱可塑性樹脂(A)を含む溶液(B)を濾過するが、溶液(B)は、樹脂として、熱可塑性樹脂(A)のみを含んでいてもよいし、樹脂(A)以外の他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。後者の場合、溶液(B)は、樹脂(A)を含む樹脂組成物の溶液である。溶液(B)は、本発明の効果が得られる限り、必要に応じて、樹脂以外の任意の材料を含んでいてもよい。
溶液濾過する溶液(B)は、樹脂(A)を含む、溶液濾過可能な溶液である限り限定されない。溶液(B)は、例えば、樹脂(A)または樹脂(A)を含む樹脂組成物を溶解する溶媒に、樹脂(A)または当該樹脂組成物を溶解した溶液である。溶媒は、樹脂(A)の種類または当該樹脂組成物の組成に応じて、適宜、選択できる。溶液(B)は、例えば、樹脂(A)が溶液重合により形成した樹脂である場合に、当該重合により生成した、樹脂(A)を含む重合溶液、または当該重合溶液を含む溶液である。溶液濾過は、樹脂(A)の重合に引き続いて、一体的に実施することができる。
[熱可塑性樹脂(A)]
樹脂(A)の種類は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂である。アクリル樹脂は、光学用アクリル樹脂、すなわち、光学フィルムなどの光学部材に使用可能な光学特性を発現するアクリル樹脂であることが好ましい。樹脂(A)が光学用アクリル樹脂である場合、透明性に優れる熱可塑性樹脂成形体、より具体的な例としては、透明性に優れる光学フィルム、を製造できる。
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位((メタ)アクリル酸エステル単位)を有する樹脂である。アクリル樹脂における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率は、通常、50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上である。アクリル樹脂は、主鎖に環構造を有していてもよい。当該環構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体と環構造を有する単量体とを共重合する、あるいは(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体群を重合した後に環化反応を進行させることによって、アクリル樹脂の主鎖に導入される。樹脂が主鎖に環構造を有する場合、(メタ)アクリル酸エステル単位および当該環構造の含有率の合計が50モル%以上であれば、当該樹脂はアクリル樹脂である。
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルの各単量体に由来する構成単位である。アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸メチル単位を有することが好ましく、この場合、最終的に得られた樹脂成形体の光学特性および熱安定性が向上する。アクリル樹脂は、2種以上の(メタ)アクリル酸エステル単位を有していてもよい。
樹脂(A)の重量平均分子量は、例えば1000〜300000であり、5000〜250000が好ましく、10000〜200000がより好ましく、50000〜200000がさらに好ましい。
以下、アクリル樹脂である樹脂(A)について説明する。
樹脂(A)は主鎖に環構造を有することが好ましく、この場合、樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)が向上する。主鎖に環構造を有する樹脂(A)のTgは、例えば、110℃以上であり、環構造の種類および含有率によっては、120℃以上、さらには130℃以上となる。このような高Tgの樹脂(A)を用いることにより、耐熱性に優れる熱可塑性樹脂成形体が得られる。当該成形体は、例えば、光学フィルムとして画像表示装置における発熱部近傍への配置が容易となるなど、光学部材としての用途に好適である。
なお、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂は、重合時にゲルが生成しやすい。このため、樹脂(A)が主鎖に環構造を有するアクリル樹脂である場合に、本発明の効果はより顕著となる。具体的には、従来の濾過方法による熱可塑性樹脂の製造方法では、多く生成するゲルによってフィルターが容易に目詰まりし、短時間の連続生産しかできないところ、本発明の製造方法によって、より長時間の熱可塑性樹脂の連続生産が可能となる。
樹脂(A)が主鎖に有していてもよい環構造の種類は特に限定されない。環構造は、例えば、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造、無水マレイン酸構造、N−置換マレイミド構造およびラクトン環構造から選ばれる少なくとも1種である。
樹脂(A)のTgを向上させる高い作用を有することから、環構造は、グルタルイミド構造、無水グルタル酸構造およびラクトン環構造から選ばれる少なくとも1種が好ましい。光学特性に優れる熱可塑性樹脂成形体が得られることから、環構造はラクトン環構造がより好ましい。すなわち、樹脂(A)は、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂であることがより好ましい。
樹脂(A)の重合工程において、最初に主鎖の骨格を形成した後に、環化反応により当該骨格中に環構造を形成する場合、樹脂間の架橋によるゲルが生じやすい。このため、当該場合には、本発明の効果がより顕著となる。このような製造工程で形成される樹脂(A)は、例えば、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂である。
以下の式(1)に、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造を示す。
式(1)におけるR1およびR2は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X1は、酸素原子または窒素原子である。X1が酸素原子のときR3は存在せず、X1が窒素原子のとき、R3は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
X1が窒素原子のとき、式(1)に示される環構造はグルタルイミド構造である。X1が酸素原子のとき、式(1)に示される環構造は無水グルタル酸構造である。
以下の式(2)に、N−置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造を示す。
式(2)におけるR4およびR5は、互いに独立して、水素原子またはメチル基であり、X2は、酸素原子または窒素原子である。X2が酸素原子のときR6は存在せず、X2が窒素原子のとき、R6は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基である。
X2が窒素原子のとき、式(2)に示される環構造はN−置換マレイミド構造である。X2が酸素原子のとき、式(2)に示される環構造は無水マレイン酸構造である。
樹脂(A)が主鎖に有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば4〜8員環であってもよいが、環構造としての安定性に優れることから、5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は、例えば、特開2004-168882号公報に開示されている構造である。前駆体(前駆体を環化縮合反応させることで、ラクトン環構造を主鎖に有する樹脂(A)が得られる)の重合収率が高いこと、前駆体の環化縮合反応により、高いラクトン環含有率を有する樹脂(A)が得られること、メタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体を前駆体にできること、などの理由から、ラクトン環構造は、以下の式(3)に示される構造が好ましい。
式(3)において、R7、R8およびR9は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
式(3)における有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基または上記芳香族炭化水素基における水素原子の1つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
ラクトン環構造は、分子鎖内に水酸基およびエステル基を有する前駆体を脱アルコール環化縮合反応させて形成できる。式(3)に示すラクトン環は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)との共重合体を形成した後、当該共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させて形成できる。なお、このとき、R7はH、R8およびR9はCH3である。
樹脂(A)が主鎖に環構造を有する場合、樹脂(A)における環構造の含有率は特に限定されないが、通常、5〜90重量%であり、好ましくは10〜70重量%、より好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。環構造の含有率が過度に小さくなると、樹脂(A)が主鎖に環構造を有することに基づく効果が得られにくい。一方、環構造の含有率が過度に大きくなると、樹脂(A)および樹脂(A)を含む樹脂組成物の成形性、ハンドリング性が低下する。
樹脂(A)がラクトン環構造を有する場合、樹脂(A)におけるラクトン環構造の含有率は、ダイナミックTG法により、以下のようにして求めることができる。最初に、ラクトン環構造を有する樹脂(A)に対してダイナミックTG測定を実施し、150℃から300℃の間の重量減少率を測定して、得られた値を実測重量減少率(X)とする。150℃は、樹脂(A)に残存する水酸基およびエステル基が環化縮合反応を開始する温度であり、300℃は、樹脂(A)の熱分解が始まる温度である。これとは別に、前駆体である重合体に含まれる全ての水酸基が脱アルコール反応を起こしてラクトン環が形成されたと仮定して、その反応による重量減少率(即ち、前駆体の脱アルコール環化縮合反応率が100%であったと仮定した重量減少率)を算出し、理論重量減少率(Y)とする。具体的には、理論重量減少率(Y)は、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率から求めることができる。なお、前駆体の組成は、必要に応じて樹脂(A)の組成から導くことが可能である。次に、式[1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))]×100(%)により、樹脂(A)の脱アルコール反応率を求める。樹脂(A)では、求めた脱アルコール反応率の分だけラクトン環構造が形成されていると考えられる。そこで、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率に、求めた脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環構造の重量に換算することで、樹脂(A)におけるラクトン環構造の含有率を求めることができる。
樹脂(A)における環構造の含有率は、赤外分光、近赤外分光、ラマン分光、核磁気共鳴、熱分解ガスクロマトグラフィまたは質量分析などの各種の分析手法を、樹脂(A)が含有する環構造の種類に応じて適宜適用して求めてもよい。
樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位および(メタ)アクリル酸単位以外の構成単位を有していてもよい。このような構成単位は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、メタリルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸、などの単量体に由来する構成単位である。樹脂(A)は、これらの構成単位を2種以上有していてもよい。
樹脂(A)は、紫外線吸収能を有する構成単位(UVA単位)を有していてもよい。この場合、最終的に得られた熱可塑性樹脂成形体の紫外線吸収能が向上する。
主鎖に環構造を有する樹脂(A)をはじめ、樹脂(A)は公知の方法により形成できる。主鎖にラクトン環構造を有する樹脂(A)は、例えば、特開2006-96960号公報、特開2006-171464号公報、特開2007-63541号公報に記載の方法により製造できる。主鎖にN−置換マレイミド構造を有する樹脂(A)、無水グルタル酸構造を有する樹脂(A)およびグルタルイミド構造を有する樹脂(A)は、例えば、特開2007-31537号公報、国際公開第2007/26659号パンフレット、国際公開第2005/108438号パンフレットに記載の方法により製造できる。主鎖に無水マレイン酸構造を有する樹脂(A)は、例えば、特開昭57-153008号公報に記載の方法により製造できる。
一例として、主鎖にラクトン環構造を有する樹脂(A)の形成方法を説明する。
ラクトン環構造を主鎖に有する樹脂(A)は、例えば、水酸基とエステル基とを分子鎖内に有する重合体(前駆体)(a)を任意の触媒存在下で加熱し、脱アルコールを伴うラクトン環化縮合反応を進行させて形成できる。
重合体(a)は、例えば、以下の式(4)に示される単量体を含む単量体群の重合により形成できる。
上記式(4)において、R10およびR11は、互いに独立して、水素原子または式(3)における有機残基と同様の基である。
式(4)に示される単量体は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルである。なかでも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、高い透明性および耐熱性を有する熱可塑性樹脂成形体が得られることから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)が特に好ましい。
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、上記式(4)に示される単量体を2種以上含んでいてもよい。
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、上記式(4)に示される単量体以外の単量体を含んでいてもよい。この単量体は、式(4)により示される単量体と共重合できる限り特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸エステルである。
(メタ)アクリル酸エステルは、式(4)に示される単量体以外の単量体であって、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;である。なかでも、高い透明性および耐熱性を有する熱可塑性樹脂成形体が実現できることから、メタクリル酸メチル(MMA)が特に好ましい。
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、これら(メタ)アクリル酸エステルを2種以上含んでいてもよい。
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどの単量体を、1種または2種以上含んでいてもよい。
[本発明の製造方法]
本発明の熱可塑性樹脂の製造方法において、濾過工程を経た溶液(B)は、さらに任意の工程を経て、異物量が低減された熱可塑性樹脂(A)となる。異物量が低減された樹脂(A)が得られる限り、濾過工程後の工程は限定されず、公知の工程および公知の工程の組み合わせであってもよい。本発明の効果が得られる限り、本発明の熱可塑性樹脂の製造方法は、任意の工程を濾過工程前に含んでいてもよい。濾過工程後の工程は、例えば、溶液(B)の溶媒を揮発させる工程である。
本発明の熱可塑性樹脂の製造方法により得た熱可塑性樹脂の用途は限定されない。当該熱可塑性樹脂は、ゲルをはじめとする異物の含有量が少なく、光学フィルムなどの光学部材としての用途に好適である。熱可塑性樹脂から光学部材を得る方法は限定されず、公知の方法を適用できる。当該方法は、光学部材が光学フィルムである場合、各種のフィルム形成手法である。具体的には、例えば、溶融押出成形法、キャスト成形法である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法において、濾過工程を経た溶液(B)は、さらに任意の工程を経て、樹脂(A)を含む、異物量が低減された樹脂組成物となる。この樹脂組成物が得られる限り、濾過工程後の工程は限定されず、公知の工程および公知の工程の組み合わせであってもよい。本発明の効果が得られる限り、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、任意の工程を濾過工程前に含んでいてもよい。濾過工程後の工程は、例えば、溶液(B)の溶媒を揮発させる工程、樹脂(A)と他の熱可塑性樹脂とを混合する工程である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法の例は、以下のとおりである:
(1)樹脂として樹脂(A)のみを含む溶液(B)を溶液濾過し、溶液濾過を経た溶液(B)から当該溶液(B)の溶媒を揮発させて、樹脂(A)を得る。次に、得られた樹脂(A)に他の熱可塑性樹脂を混合して、樹脂(A)と他の熱可塑性樹脂とが混合した熱可塑性樹脂組成物を得る。樹脂(A)と他の熱可塑性樹脂とを混合する方法は限定されない;
(2)樹脂として樹脂(A)のみを含む溶液(B)を溶液濾過し、溶液濾過を経た溶液(B)に、他の熱可塑性樹脂の溶液を加え、両者を混合する。次に、得られた混合溶液から当該混合溶液の溶媒を揮発させて、樹脂(A)と他の熱可塑性樹脂とが混合した熱可塑性樹脂組成物を得る。溶液(B)と他の熱可塑性樹脂の溶液とを混合する方法は限定されない;
(3)樹脂(A)と他の熱可塑性樹脂とを含む溶液(B)を溶液濾過し(樹脂(A)と他の熱可塑性樹脂とが混合した樹脂組成物を含む溶液(B)を溶液濾過し)、濾過工程を経た溶液(B)から当該溶液(B)の溶媒を揮発させて、樹脂(A)と他の熱可塑性樹脂とが混合した熱可塑性樹脂組成物を得る。樹脂(A)と他の熱可塑性樹脂とを含む溶液(B)を得る方法は限定されない。
これらの例において、他の熱可塑性樹脂が、上述した溶液濾過を経た熱可塑性樹脂であることが好ましい。他の熱可塑性樹脂は、例えば、ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルおよびポリアリレート;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリブタジエン系ゴムを配合したABS樹脂、アクリルゴムを配合したASA樹脂などのゴム質重合体;である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法により得た樹脂組成物の用途は限定されない。当該樹脂組成物は、ゲルをはじめとする異物の含有量が少なく、光学フィルムなどの光学部材としての用途に好適である。熱可塑性樹脂組成物から光学部材を得る方法は限定されず、公知の方法を適用できる。当該方法は、光学部材が光学フィルムである場合、各種のフィルム形成手法である。具体的には、例えば、溶融押出成形法、キャスト成形法である。
光学部材が樹脂組成物からなる場合、組成物の組成を変化させることによって、光線透過特性、複屈折特性、位相差特性などの光学特性、あるいは耐熱性、紫外線吸収特性など、各種の物理特性の制御が可能となる。
熱可塑性樹脂組成物は、その用途に応じて、樹脂(A)以外の任意の材料、例えば、樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂;紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、耐電防止剤、可塑剤、流動化剤、着色剤、染料、難燃剤、フィラーなどの添加剤;を含んでいてもよい。これらの材料は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法における任意の時点において樹脂(A)と混合することができる。混合の際に樹脂(A)および当該材料の加熱が必要である場合には、加熱により生成したゲルをできるだけ除去するために、混合後にさらなる濾過を行うことが好ましい。当該濾過の手法は限定されず、例えば、上述した溶液濾過に限られない溶液濾過、および/または溶融濾過である。
樹脂(A)は、熱可塑性樹脂組成物における主成分であることが好ましい。本発明の製造方法では、樹脂(A)に対して溶液濾過を実施するため、この場合、本発明の効果がより顕著となる。なお、主成分とは、最も含有率が大きな成分をいい、通常、当該含有率は50重量%以上である。
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法において、溶液濾過を経た溶液(B)は、溶融押出成形工程を含むさらに任意の工程を経て、熱可塑性樹脂(A)または熱可塑性樹脂(A)を含む樹脂組成物により構成される、異物量が低減された熱可塑性樹脂成形体となる。溶融押出成形工程の詳細は特に限定されず、公知の方法を適用できる。溶融押出成形に使用する装置についても同様に、公知の装置を使用できる。
熱可塑性樹脂(A)または熱可塑性樹脂(A)を含む樹脂組成物を溶融押出成形する際に、樹脂(A)または当該樹脂組成物を溶融濾過してもよい。
本発明の各製造方法は、本発明の効果が得られる限り、上述した工程以外の任意の工程を含んでいてもよい。
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法により得た成形体の形状は特に限定されず、例えば、ペレットまたはフィルムである。
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法により得た成形体は、樹脂(A)がアクリル樹脂であるとき、このアクリル樹脂を主成分とする樹脂組成物からなるアクリルフィルムであってもよい。
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法により得た成形体の用途は特に限定されないが、当該成形体は、ゲルをはじめとする異物の含有量が少ない、すなわち、光学的欠点が少ないため、光学部材として好適である。
光学部材は特に限定されず、例えば、光学フィルムである。光学フィルムは、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどの画像表示装置に用いられる複屈折フィルム、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、画素部(発光部)保護フィルム、偏光子保護フィルム、紫外線吸収フィルムである。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
最初に、本実施例において作製した樹脂の評価方法を説明する。
[ガラス転移温度(Tg)]
樹脂のTgは、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
[重量平均分子量]
樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
システム:東ソー製GPCシステム HLC−8220
測定側カラム構成
・ガードカラム:東ソー製、TSKguardcolumn SuperHZ-L
・分離カラム:東ソー製、TSKgel SuperHZM-M 2本直列接続
リファレンス側カラム構成
・リファレンスカラム:東ソー製、TSKgel SuperH-RC
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
展開溶媒の流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
カラム温度:40℃
(実施例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応容器に、40重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、10重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、および重合溶媒として50重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.05重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、0.10重量部の上記t−アミルパーオキシイソノナノエートを2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.05重量部のリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-8)を加え、約90〜110℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。一連の反応によって主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂が形成されたことを、実施例1で最終的に形成した樹脂ペレットの組成を別途、核磁気共鳴(NMR)および赤外分光(IR)を用いて分析することにより、確認した。
次に、当該アクリル樹脂が溶解している環化縮合反応後の重合溶液を、反応容器からバッファータンクに移動させた。これら重合反応および環化縮合反応の進行ならびにバッファータンクへの重合溶液の移動を1バッチとして、連続的にバッチを繰り返し、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂の形成を連続的に進行させた。なお、1バッチを終了した後の反応容器、すなわち、重合溶液をバッファータンクに移動させ、空になった反応容器には、その内部を洗浄することなく、再び上記単量体および重合溶媒を仕込み、同じ重合反応および環化縮合反応を進行させた。1バッチに要する時間は、およそ10時間であった。なお、バッファータンクでは重合溶液を、溶液濾過の温度である85℃に保持した。
反応容器における連続的なアクリル樹脂の形成と同時に、形成された当該アクリル樹脂が溶解している、バッファータンク内の重合溶液を連続的に溶液濾過した。溶液濾過は、当該重合溶液を、濾過精度15μmの第1のフィルターユニットを通過させた後、さらに濾過精度5μmの第2のフィルターユニットを通過させることにより、実施した。第1および第2のフィルターユニットには、SUS316Lの焼結繊維からなるキャンドルフィルターを用いた。濾過面積は、第1および第2のフィルターユニットともに、0.42m2とした。なお、以降の全てのフィルターユニットについて、これと同じ濾過面積とした。第1および第2のフィルターユニットは、図1に示すように、1つずつ、重合溶液の流路11に直列に配置した。重合溶液の流路は、第1および第2のフィルターユニット以外に、配管、当該配管を介して重合溶液をフィルターユニットに送り込むギヤポンプ、およびバルブなどにより構成した。バッファータンクから排出された重合溶液は、ギヤポンプによって加圧され、配管を介して第1および第2のフィルターユニットを順に通過し、溶液濾過された。第1および第2のフィルターユニットを通過する際の重合溶液の温度は、85℃に保持した。第1および第2のフィルターユニットを通過する重合溶液の量(処理速度)は、52kg/時とした。別途求めた、85℃における当該重合溶液の粘度は、25Pa・秒であった。溶液濾過を開始した時点における、第1および第2のフィルターユニットで発生した重合溶液の圧力損失は、双方のフィルターユニットの合計で1.0MPaであった。当該圧力損失が2.5MPaとなった時点で溶液濾過を中止し、溶液濾過の開始から当該中止までの時間(連続濾過時間)を評価したところ、528時間であった。
なお、溶液濾過後の重合溶液は、以下のように処理した。当該重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度120rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=42mm、L/D=42)に、24kg/時(樹脂量換算)の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を0.234kg/時の投入速度で第1ベントの後から投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、7重量部の酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ製、イルガノックス1010を3.5重量部と、ADEKA製、アデカスタブAO−412Sを3.5重量部)と、失活剤として9重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、ニッカオクチクス亜鉛18重量%)とを、トルエン84重量部に溶解させた溶液を用いた。脱揮完了後、押出機内に残された熱溶融状態にある樹脂を当該押出機の先端からポリマーフィルタにより溶融濾過しながら排出し、ペレタイザーによりペレット化して、ラクトン環構造を主鎖に有するアクリル樹脂の透明なペレットを得た。当該アクリル樹脂のTgは132℃、重量平均分子量は14.7万であった。
(実施例2)
第1のフィルターユニットの濾過精度を40μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、連続濾過時間を評価した。連続濾過時間は543時間であった。
(実施例3)
第1のフィルターユニットの濾過精度を60μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、連続濾過時間を評価した。連続濾過時間は581時間であった。
(実施例4)
第1のフィルターユニットの濾過精度を100μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、連続濾過時間を評価した。連続濾過時間は543時間であった。なお、溶液濾過を開始した時点における、第1および第2のフィルターユニットで発生した重合溶液の圧力損失は、双方のフィルターユニットの合計で0.9MPaであったが、連続濾過時間は、実施例1と同様に、当該圧力損失が2.5MPaに上昇するまでの時間とした。
(比較例1)
図7に示すように、バッファータンク内の重合溶液を連続的に溶液濾過するにあたって、当該溶液の流路11に1つのフィルターユニット21(濾過精度5μm)を配置した以外は、実施例1と同様にして、連続濾過時間を評価した。連続濾過時間は371時間であった。なお、溶液濾過を開始した時点における当該フィルターユニット21で発生した重合溶液の圧力損失は0.8MPaであったが、連続濾過時間は、実施例1と同様に、当該圧力損失が2.5MPaに上昇するまでの時間とした。
実施例1〜4および比較例1の結果を、以下の表1にまとめる。
表1に示すように、濾過精度5μmのフィルターユニットのみで溶液濾過を行った比較例1に比べて、実施例1〜4では、連続濾過時間が大きく向上した。フィルターユニットを通過する重合溶液の処理速度を52kg/時に設定したため、例えば、実施例3と比較例1とでは、連続的に濾過できた重合溶液の量の差は、およそ11tであった。
(実施例5)
実施例1と同様に作製した重合溶液に対して、図4に示すように第1のフィルターユニット1a,1bおよび第2のフィルターユニット2a,2bを配置した流路11を用いて溶液濾過を実施した。当該流路11は、濾過対象の重合溶液が第1のフィルターユニット1a(濾過精度100μm)および第2のフィルターユニット2a(濾過精度5μm)を順に通過する第1の経路11aと、第1のフィルターユニット1b(濾過精度60μm)および第2のフィルターユニット2b(濾過精度5μm)を順に通過する第2の経路11bとを有する。溶液濾過は、まず、第1の経路11aに重合溶液を流すことにより開始した。次に、第1の経路11aにおける第1および第2のフィルターユニット1a,2aで発生した重合溶液の圧力損失が、双方のフィルターユニットの合計で2.5MPaとなった時点で、重合溶液を流す経路を第1の経路11aから第2の経路11bに切り替えた。そして、溶液濾過の開始から、第2の経路11bにおける第1および第2のフィルターユニット1b,2bで発生した重合溶液の圧力損失が、双方のフィルターユニットの合計で2.5MPaとなるまでの時間を連続濾過時間として評価した。連続濾過時間は751時間(溶液濾過の開始から経路の切り替えまでは543時間。経路の切り替えから終了までは207時間)であった。なお、実施例5におけるその他の溶液濾過の条件は、実施例1と同様とした。
(比較例2)
実施例1ど同様に作製した重合溶液に対して、図8に示すように、濾過精度5μmのフィルターユニットを2つ、互いに並列に配置した流路11を用いて溶液濾過を実施した。当該流路11は、濾過対象の重合溶液がフィルターユニット21aを通過する第1の経路22aと、濾過対象の重合溶液がフィルターユニット21bを通過する第2の経路22bとを有する。溶液濾過は、まず、第1の経路21aに重合溶液を流すことにより開始した。次に、第1の経路21aにおけるフィルターユニット21aで発生した重合溶液の圧力損失が2.5MPaとなった時点で、重合溶液を流す経路を第1の経路22aから第2の経路22bに切り替えた。そして、溶液濾過の開始から、第2の経路22bにおけるフィルターユニット21bで発生した重合溶液の圧力損失が2.5MPaとなるまでの時間を、連続濾過時間として評価した。連続濾過時間は397時間(溶液濾過の開始から経路の切り替えまでは371時間。経路の切り替えから終了までは26時間)であった。なお、比較例2におけるその他の溶液濾過の条件は、実施例1と同様とした。
実施例5および比較例2の評価結果を、以下の表2にまとめる。
表2に示すように、濾過精度5μmのフィルターユニットのみで溶液濾過を行った比較例2に比べて、実施例5では、連続濾過時間が大きく向上した。フィルターユニットを通過する重合溶液の処理速度を52kg/時に設定したため、実施例5と比較例2とでは、連続的に濾過できた重合溶液の量の差は、およそ18.4tであった。
また、比較例2において、経路を切り替えた後の第2の経路を用いた連続濾過時間は26時間であり、経路を切り替える前の第1の経路を用いた連続濾過時間(371時間)の約7%と、非常に小さくなった。これは、重合バッチが繰り返されることにより、反応容器におけるゲルの生成量が著しく増大したためと考えられる。このように、ゲルの生成量が増大した状況にも拘わらず、しかも、経路を切り替えるタイミングが比較例2に比べて170時間以上も遅かったにも拘わらず、実施例5では、経路を切り替えた後の第2の経路を用いた連続濾過時間は207時間であり、経路を切り替える前の第1の経路を用いた連続濾過時間(543時間)の38%強を確保できた。