JP2012193169A - カルボン酸エステルの製造方法 - Google Patents

カルボン酸エステルの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】従来困難であった水中に溶解した水溶性カルボン酸、特に酢酸と水溶性アルコールのエステル化反応により、効率的にエステルを製造する方法を提供する。
【解決手段】酸触媒の存在下で、メタノール、エタノール、1−プロパノール及び2−プロパノールから選ばれる少なくとも1種の水溶性アルコールと水溶性カルボン酸を含む水溶液とを、非水溶性有機溶媒を加えた二相系で反応させるカルボン酸エステルの製造方法。非水溶性有機溶媒としては生成物であるカルボン酸エステルとのヒルデブラントの溶解パラメーターの差が3以内のものが用いられ、酸触媒としてはろ過操作などにより分離できる固体酸触媒が好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、水中で脱水縮合反応を行なうカルボン酸エステルの製造方法に関する。さらに詳しくは、酸触媒を用いて、水中に溶解した水溶性アルコールと水溶性カルボン酸、特に酢酸を効率的にエステル化する方法に関する。
近年、環境へ配慮したグリーンケミストリーの観点から、水媒体中での有機化学反応が注目されている。水中での有機反応は、産業上も様々な利用可能性を秘めており、廃棄物削減やエネルギーの効率利用といった環境負荷低減につながる技術として開発が進められている。水中での有機反応技術の産業利用例として、化学プラント等から排出される工場排水への適用が期待される。排水からの有機物回収技術の開発は、グリーン・サステイナブルケミストリー(GSC)の観点から重要なテーマとなっている。工場排水に含まれる有機物の一般例として、酢酸やエタノールのような水溶性カルボン酸や水溶性アルコールが挙げられる。これら水溶性有機物を反応原料として、水中で目的生成物を得る技術の開発が期待される。また、その他の水中での有機反応技術の利用例として、水分を多量に含んだ未精製エタノールへの適用が挙げられる。現在、バイオエタノール製造プロセスでは濃縮・脱水(水分除去)工程のエネルギーコストが大きく、未精製のエタノール(水溶液)を反応原料として利用することができれば、製造コストを大幅に下げることが可能である。
代表的な有機反応であるエステル化反応は、一般的に水媒体存在下で行なうことは困難であると認識されている。カルボン酸とアルコールのエステル化反応は、可逆反応であるため、通常、生成する水を脱水剤の添加あるいは共沸により除去しながら反応するか、大過剰の反応基質を用いるなどの方法により反応平衡を生成物側に傾けることが必要であるからである。
水中においてエステル化反応を行なう方法としては、界面活性剤構造を有するブレンステッド酸を触媒として用いる方法が提案されている(J.Am.Chem.Soc.,123,10101〜10102(2001);非特許文献1、特開2003−55302号公報;特許文献1)。この方法では水中に形成したミセル内部で反応を進行させることにより、高収率でエステルを得ることができる。しかし、この反応に適用可能な基質は、親油性のカルボン酸とアルコールの組み合わせに限られており、親水性の高い酢酸またはエタノールを用いた場合には満足な結果は得られていない。
また、近年、触媒の回収の容易性や再利用の観点から、不均一系触媒が注目されている。例えば、ブレンステッド酸を高分子担体に固定化したエステル化触媒が提案されている(Adv.Synth.Cat.344,270〜273(2002);非特許文献2)。しかし、当該触媒においても適用可能な基質は、親油性のカルボン酸とアルコールの組み合わせに限られており、水溶性のカルボン酸とアルコールを用いたエステル化に適用することはできない。
このような固体酸触媒は、反応系からの分離が容易であり、回収後に再利用可能であることから、均一系触媒と比較してコスト削減や環境負荷低減につながる。とりわけ、水中でのエステル化反応においては、均一系触媒では反応後の水層に触媒が溶け込むという問題があるため、固体酸触媒の使用が望まれる。
その他の水中におけるエステル化反応として、触媒としてリパーゼを用い、水とヘプタンの二相系で行なう方法が提案されている(J.Mol.Catal.B:Enzyme 59,220〜224(2009);非特許文献3)。しかし、この方法は非水溶性のブタノールと各種カルボン酸との反応であり、水溶性アルコールと酢酸の組み合わせには適用されない。
特開2003−55302号公報
J.Am.Chem.Soc.,123,10101〜10102(2001) Adv.Synth.Cat.344,270〜273(2002) J.Mol.Catal.B:Enzyme 59,220〜224(2009)
本発明の課題は、従来困難であった水中に溶解した水溶性カルボン酸、特に酢酸と水溶性アルコールのエステル化反応により、効率的にカルボン酸エステルを製造する方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、酸触媒の存在下、水溶性カルボン酸と水溶性アルコールが溶解した水溶液に非水溶性の有機溶媒を加えて、二相系で反応させることにより、反応平衡を生成物側にずらすことができ、反応収率が大幅に向上することを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の[1]〜[10]に関する。
[1]酸触媒の存在下で、メタノール、エタノール、1−プロパノール及び2−プロパノールから選ばれる少なくとも1種の水溶性アルコールと水溶性カルボン酸を含む水溶液とを、非水溶性有機溶媒を加えた二相系で反応させることを特徴とするカルボン酸エステルの製造方法。
[2]水層(水溶性アルコール+水溶性カルボン酸を含む水溶液)に対する非水溶性有機溶媒の質量比が、0.2〜4.0である前項1に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[3]非水溶性有機溶媒と生成物であるカルボン酸エステルのヒルデブラントの溶解パラメーターの差が3以内である前項1または2に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[4]前記非水溶性有機溶媒が、トルエン、キシレン、メシチレン、ニトロベンゼン及びアニソールから選ばれる少なくとも1種である前項1〜3のいずれかに記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[5]前記非水溶性有機溶媒がトルエンである前項4に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[6]前記酸触媒が固体酸触媒である前項1〜5のいずれかに記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[7]前記固体酸触媒がスルホ基担持ポリマーである前項6に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[8]前記スルホ基担持ポリマーのスルホ基のローディング量が0.2〜5.0mmol/gである請求項7に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[9]前記水溶性アルコールがエタノールである前項1〜8のいずれかに記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[10]前記非水溶性有機溶媒として前記水溶性アルコールとカルボン酸のエステル化合物を使用する前項1〜9のいずれかに記載のカルボン酸エステルの製造方法。
本発明のカルボン酸エステルの製造方法によれば、水中に溶解した水溶性カルボン酸と水溶性アルコールとのエステル化反応が可能となり、工業排水等に溶け込んでいる有機物(水溶性アルコール及び/または水溶性カルボン酸)の回収技術に応用できる。
実施例16〜24の結果によるスルホ基ローディング量と酢酸エチル収率の関係を示すグラフである。
以下、本発明の好ましい実施の形態について具体的に説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、その実施の範囲内において様々な応用が可能である。
[二相系でのエステル化反応]
本発明では、酸触媒の存在下で水溶性アルコールと水溶性カルボン酸を含む水溶液に、非水溶性有機溶媒を加えて有機層と水層の2層として撹拌操作などにより両層を激しく接触させてエステル化反応を行なう。主に水層に分配している水溶性アルコールと水溶性カルボン酸は酸触媒によりエステル化され、生成したエステルは主に有機層に分配することから、有機溶媒を加えずに水層のみで反応した場合に比べて反応平衡を生成物側にずらすことができる。酸触媒が固体酸触媒の場合にはろ過操作などにより分離し、再利用することができる。
[反応基質]
水溶性アルコール:
本発明で用いる水溶性アルコールは、メタノール、エタノール、1−プロパノール及び2−プロパノールから選択される。これらの中でも、エタノールが好ましい。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
水溶性カルボン酸:
水溶性カルボン酸は水と任意の割合で混ざり合うカルボン酸を意味する。水溶性カルボン酸の具体例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸(ブタン酸)が挙げられる。これらの中でも工業的に多量に使用されている酢酸に適用するのが有効である。
水溶性アルコールと水溶性カルボン酸の組み合わせとしては、酢酸とエタノールが好ましい。
また、本発明で用いる水層は、これら水溶性アルコール及び水溶性カルボン酸を含んだ水溶液であれば、他の有機成分を含んでいてよい。この水層に使用できる水溶液の例として、水溶性アルコール及び/または水溶性カルボン酸を含んだ工場排水が挙げられる。工場排水はそのまま、あるいは抽出、蒸留等の手法により、有機成分を濃縮した水溶液を用いることもできる。水溶性アルコールまたは水溶性カルボン酸の一方しか含有していない場合は他方を水溶液に追加してエステル化反応に供することになる。
[非水溶性有機溶媒]
本発明において、非水溶性有機溶媒とは20℃における水への溶解度が10g/L以下であるものをいう。
本発明で使用する非水溶性有機溶媒は、水と混和せずに2層に分離することに加えて、水溶性アルコール及び水溶性カルボン酸と反応しないことが必要である。そのような有機溶媒の例としては、飽和及び不飽和の脂肪族炭化水素、飽和及び不飽和の脂環族炭化水素、芳香族化合物、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、エステル類などが挙げられる。これらの中でも、20℃における水への溶解度が10g/L以下であるものが好ましい。具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、デセン、ドデセン、ペンチン、ヘキシン、ヘプチン、オクチン、デシン、ドデシンなどの飽和及び不飽和の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロペンテン、シクロヘキセン、デカリンなどの飽和及び不飽和の脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、n−オクチルベンゼン、ニトロベンゼン、テトラリン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、アニソールなどの芳香族化合物、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、ジブチルエーテル、ジベンジルエーテルなどのエーテル類が挙げられる。さらに好ましくは、20℃における水への溶解度が5g/L以下のものであり、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、デセン、ドデセン、ペンチン、ヘキシン、ヘプチン、オクチン、デシン、ドデシン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロペンテン、シクロヘキセン、デカリン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、n−オクチルベンゼン、ニトロベンゼン、テトラリン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、アニソール、四塩化炭素、ジブチルエーテル、ジベンジルエーテルなどが挙げられる。
また、本発明では、生成したエステルを主に有機層に分配して反応平衡が生成物側に移行するように非水溶性有機溶媒として、生成するエステルの溶解性が高いものを使用することが好ましい。
ここで、一般的に2成分系溶液の溶解度の目安として、ヒルデブラントの溶解パラメーター(δ)が用いられる。ヒルデブラントの溶解パラメーター(δ)とは、式(1)に示すように単位体積あたりの液体が蒸発するために必要な蒸発熱の平方根で定義される値であり、ある2成分において、溶解パラメーターの値の差が小さいほど溶解度が大きくなることが経験的に知られている。
δ :溶解パラメーター(MPa1/2
ΔH:モル蒸発熱(J/mol)
R :気体定数8.3145(J/K・mol)
Vm:モル体積(m3/mol)
T :絶対温度(K)
したがって、本発明では、生成するエステルと使用する非水溶性有機溶媒の溶解パラメーターの差が3以内であることが好ましい。例えば、酢酸エチルの場合、25℃における溶解パラメーター(18.6)に対して、差が3以内である非水溶性有機溶媒としては、シクロペンタン(17.8)、シクロヘキサン(16.8)、デカリン(18.0)、ベンゼン(18.7)、トルエン(18.2)、キシレン(18.0)、メシチレン(18.0)、ニトロベンゼン(20.5)、テトラリン(19.4)、クロロベンゼン(19.4)、ジクロロベンゼン(20.5)、アニソール(19.5)、四塩化炭素(17.6)、ジブチルエーテル(16.0)、ジベンジルエーテル(19.2)などが挙げられる。
これら溶解パラメーターの差が3以内である非水溶性有機溶媒の中でも生成物のエステルの分配が有機層に著しく偏るトルエン、キシレン、メシチレン、ニトロベンゼン、アニソールがさらに好ましく、トルエンが最も好ましい。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、非水溶性有機溶媒として、前記水溶性アルコールと水溶性カルボン酸のエステルを用いれば、エステル化反応の生成物と溶媒が同じとなり、分離の工程を省略することができる。
[触媒]
本発明では均一系あるいは不均一系の酸触媒を用いる。均一系触媒の例としては、硫酸、塩酸、燐酸のような無機酸やメタンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸のような有機酸が挙げられる。また、触媒の水層への溶け込み及び反応系からの分離の容易さを考慮すると、不均一系触媒である固体酸触媒を使用することがより好ましい。
固体酸触媒は、固体表面にブレンステッド酸あるいはルイス酸の酸点を有すものであれば、特に制限されることなく、一般的な固体酸が使用可能である。固体酸触媒としては、強酸性イオン交換樹脂に代表されるスルホ基担持ポリマー、ゼオライト、アルミナ、シリカゲル、ZrO2やTiO2等の金属酸化物、SiO2−Al23等の複合酸化物、担持ヘテロポリ酸、担持希土類金属塩などが挙げられる。これらの中でも、反応速度や取り扱いの容易さから、強酸性イオン交換樹脂等のスルホ基担持ポリマーが好ましい。
スルホ基担持ポリマーとは、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸などのスルホ基含有モノマーに由来するモノマー単位を含むポリマーやポリマー主鎖にスルホ基が化学的に結合しているポリマーである。製造方法としては、これらスルホ基含有モノマーを単独で、あるいは他のモノマーと共重合させることで直接合成するか、ポリマー主鎖形成後に高分子反応でスルホ基を導入する方法がある。スルホ基担持ポリマーの具体例としては、陽イオン交換樹脂として用いられるジビニルベンゼン架橋のポリスチレンスルホン酸が挙げられる。
スルホ基担持ポリマー中のスルホ基のローディング量(触媒ポリマー1gあたりのスルホ基担持量)は、特に制限はなく、任意のローディング量を選ぶことができるが、触媒活性の観点から0.2〜5.0mmol/gの範囲が好ましい。スルホ基ローディング量が低いほどエステル化の触媒活性が向上することが分かっており、ローディング量が5.0mmol/gを超えると十分な触媒活性が得られないことがある。また、ローディング量が0.2mmol/gよりも低いと反応に必要な触媒体積が大きくなりすぎて工業的には望ましくない。均一系触媒であるメタンスルホン酸よりも高い触媒活性が得られる0.2〜3.5mmol/gがより好ましく、0.2〜1.5mmol/gが最も好ましい。
これらの固体酸触媒は、1種類のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、触媒表面の酸点の量及び固体形状については、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択すればよい。
[反応様式]
本発明で用いる水溶性アルコールと水溶性カルボン酸との物質量比は、水溶性アルコール/水溶性カルボン酸のモル比で、0.1〜10の範囲が好ましく、目的に合わせて適宜選択される。反応後に残存する未反応の水溶性アルコール及び水溶性カルボン酸を減らす観点から、水溶性アルコール/水溶性カルボン酸の比は0.5〜2の範囲がさらに好ましく、1が最も好ましい。
水層中の水溶性アルコールと水溶性カルボン酸の濃度は、水溶性アルコールと水溶性カルボン酸の濃度の合計が5〜90質量%が好ましく、30〜90質量%がさらに好ましい。濃度が90質量%より大きくなると、有機溶媒を加えて反応平衡をずらす本発明の利点が薄くなる。また、5質量%より低いと、反応速度が遅くなり、現実的ではない。
非水溶性有機溶媒の量は、有機溶媒/水層の質量比で0.1〜10の範囲が好ましく、0.2〜4.0の範囲がさらに好ましく、0.6〜2.0の範囲が最も好ましい。0.1より小さいと好ましい収率が得られず、10より大きいと多量の有機溶媒が必要となり好ましくない。
本発明で用いる酸触媒の使用量(固体酸触媒の場合は、酸点の総量)は、反応させようとする水溶性アルコールと水溶性カルボン酸のいずれか少ない方の基質に対して、0.1〜100モル%であることが好ましく、1〜20モル%がさらに好ましい。1モル%より少ない量で行なうと好ましい反応速度が得られず、20モル%より多い量では触媒にかかるコストが増大し経済的に好ましくない。
エステル化の反応温度には特に制限はなく、目的に応じた反応温度を設定することができるが、20〜120℃の範囲が好ましく、25〜110℃の範囲がさらに好ましい。温度が低すぎると反応速度が遅く、120℃を超えるとエネルギーコストがかかり好ましくない。
また、反応時間にも特に制限はない。目的に応じた反応時間を選択することができる。反応時間は、温度、触媒量、触媒活性により異なるが、好ましくは10分〜100時間の範囲、さらに好ましくは10分〜24時間の範囲、さらに好ましくは10分〜10時間の範囲である。
固体酸触媒など不均一系の触媒を用いる場合、触媒を固定床に固定してもよく、流動床として反応してもよい。簡便には不均一触媒を粒子状とし、有機層と水層中に分散させ、激しく撹拌して反応を行なうことができる。
固体酸触媒を用いる場合、反応系からの触媒の分離方法は、特に制限されることなく、一般的な固液分離方法が適用できる。例えば、ろ過分離、遠心分離、沈降分離などがあり、分離効率、所要時間、触媒形状などを考慮して適切な方法を選択できる。固液分離により回収した触媒は、そのまま、あるいは再生処理を施した上で再び反応系に戻して再利用することができる。
生成したエステルの回収方法は、特に制限されることなく種々の方法が選択できる。生成したエステルは、有機層に主に分配することから、有機層と水層を公知の方法(例えば静置分離法)で分離し、有機層から蒸留などの方法によりエステルを回収することができる。
以下、固体酸触媒の合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
固体酸触媒の合成例1:PS−SO3H触媒(PS−SO3H−1)の合成
ポリスチレンビーズ(10.0g,Advanced ChemTech社製ポリスチレン,200〜400メッシュ,1%ジビニルベンゼン(DVB))のジクロロメタン(100mL)分散液に、0℃でクロロスルホン酸(1.75g,15.0mmol)をゆっくりと加え、6時間撹拌した。その後、酢酸(50mL)を加え、室温でさらに1時間撹拌した。得られた樹脂をろ過で回収し、水、水/テトラヒドロフラン(THF)、THF、及びジクロロメタンで洗浄した後、真空乾燥して目的のPS−SO3H触媒(11.0g)を得た。燃焼−イオンクロマトグラフ法により、含有硫黄原子を定量することで、スルホ基のローディング量(触媒1gあたりのスルホ基担持量)を求めたところ、1.12mmol/gであった。この触媒をPS−SO3H−1とする。
固体酸触媒の合成例2:PS−SO3H触媒(PS−SO3H−2〜6)の合成
上記合成例1において、クロロスルホン酸の使用量をそれぞれ3.0mmol、10.0mmol、20.0mmol、50.0mmol、80.0mmolに変えて同様に合成することで、スルホ基のローディング量がそれぞれ0.22mmol/g、0.74mmol/g、1.41mmol/g、2.77mmol/g、4.09mmol/gであるPS−SO3H触媒を得た。これら触媒をそれぞれPS−SO3H−2〜6とする。
固体酸触媒の合成例3:C6−ALPS−SO3H触媒(C6−ALPS−SO3H−1)の合成
工程1
二硫化炭素(400mL)と塩化アルミニウム(30g、230mmol)の混合液にポリスチレンビーズ(20.0g,Advanced ChemTech社製ポリスチレン,200〜400メッシュ,1%DVB)製Polystyrene,200−400mesh,1%DVB)及びヘキサノイルクロリド(31.0g、230mmol)を加えた。室温で24時間撹拌した後、0℃で1N塩酸を加えて、さらに室温で12時間撹拌した。得られた樹脂をろ過で回収し、水、水/THF、THF、及びジクロロメタンで洗浄した後、真空乾燥して目的物(23.1g)を得た。
工程2
ジエチルエーテル(460mL)に水素化アルミニウムリチウム(9.07g、239mmol)及び塩化アルミニウム(30.4g、228mmol)を0℃で加えた。室温で工程1で得られた生成物を全量(23.1g)加え、24時間還流させた。その後、0℃で1N塩酸を加えた後、室温で24時間撹拌した。反応液を減圧濃縮してジエチルエーテル(Et2O)を留去した後、THFと2N塩酸を加えて、さらに室温で24時間撹拌した。得られた樹脂をろ過で回収し、水、水/THF、THF、及びジクロロメタンで洗浄した後、真空乾燥して目的物を得た。
工程3
工程2で得られた生成物(5.0g)のジクロロメタン(80mL)分散液に、0℃でクロロスルホン酸(1.75g,15.0mmol)をゆっくりと加え、6時間撹拌した。その後、酢酸(80mL)を加え、室温でさらに1時間撹拌した。得られた樹脂をろ過で回収し、水、水/THF、THF、及びジクロロメタンで洗浄した後、真空乾燥して目的のC6−ALPS−SO3H触媒(6.0g)を得た。燃焼−イオンクロマトグラフ法により、含有硫黄原子を定量することで、スルホ基のローディング量(触媒1gあたりのスルホ基担持量)を求めたところ、2.01mmol/gであった。この触媒をC6−ALPS−SO3H−1とする。
固体酸触媒の合成例4:C12−ALPS−SO3H触媒(C12−ALPS−SO3H−1)の合成
上記合成例3において、工程1のヘキサノイルクロリドをラウロイルクロリドに変えて同様に合成した。燃焼−イオンクロマトグラフ法により求めたスルホ基のローディング量は、1.50mmol/gであった。この触媒をC12−ALPS−SO3H−1とする。
固体酸触媒の合成例5:C18−ALPS−SO3H触媒(C18−ALPS−SO3H−1〜3)の合成
上記合成例3において、工程1のヘキサノイルクロリドをステアロイルクロリドに変え、工程3のクロロスルホン酸をそれぞれ3.5mmol、6.0mmol、15.0mmol使用することで、スルホ基のローディング量がそれぞれ0.60mmol/g、1.00mmol/g、1.81mmol/gであるC18−ALPS−SO3H触媒を得た。これら触媒をそれぞれC18−ALPS−SO3H−1〜3とする。
実施例1:
50質量%酢酸水溶液(酢酸100mmol、6.0g含有)12gにエタノール(100mmol、4.61g)を溶かした水溶液16.6g、濃硫酸(0.56mL、10mmol)、トルエン(24.0g)を200mLガラス製フラスコに加え、オイルバスで40℃に加熱し、有機層と水層の二相系で24時間撹拌してエステル化反応を行なった。生成物である酢酸エチルの25℃におけるヒルデブラントの溶解パラメーター(18.6)の値に近いトルエン(18.2)を非水溶性有機溶媒として用いた。反応終了後、分液漏斗で有機層と水層に分離し、有機層及び水層をガスクロマトグラフィーで分析したところ、酢酸エチルの収率は67%であった。生成した酢酸エチルの内、98%は有機層に存在し、硫酸はそのほとんどが水層に存在していた。
実施例2:
触媒として前記PS−SO3H−1(4.46g、スルホ基換算で5mmol相当)を使用したこと以外は実施例1と同様に行なった。反応終了後、触媒をろ過で分離した後、ろ液を分液漏斗で有機層と水層に分離し、有機層及び水層をガスクロマトグラフィーで分析したところ、酢酸エチルの収率は67%であった。
実施例3:
触媒として前記C6−ALPS−SO3H−1(2.49g、スルホ基換算で5mmol相当)を使用したこと以外は実施例1と同様に行なった。反応終了後、触媒をろ過で分離した後、ろ液を分液漏斗で有機層と水層に分離し、有機層及び水層をガスクロマトグラフィーで分析したところ、酢酸エチルの収率は64%であった。
実施例4:
触媒として前記C12−ALPS−SO3H−1(3.33g、スルホ基換算で5mmol相当)を使用したこと以外は実施例1と同様に行なった。反応終了後、触媒をろ過で分離した後、ろ液を分液漏斗で有機層と水層に分離し、有機層及び水層をガスクロマトグラフィーで分析したところ、酢酸エチルの収率は63%であった。
比較例1:
50質量%酢酸水溶液(酢酸100mmol、6.0g含有)12gにエタノール(100mmol、4.61g)を溶かした水溶液16.6g、濃硫酸(0.56mL、10mmol)を100mLガラス製フラスコに加え、オイルバスで40℃に加熱し、24時間撹拌してエステル化反応を行なった。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析し、生成した酢酸エチルを定量したところ、収率29%であった。
比較例2:
50質量%酢酸水溶液(酢酸100mmol、6.0g含有)12gにエタノール(100mmol、4.61g)を溶かした水溶液16.6g、前記PS−SO3H−1(4.46g、スルホ基換算で5mmol相当)を100mLガラス製フラスコに加え、オイルバスで40℃に加熱し、24時間撹拌してエステル化反応を行なった。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析し、生成した酢酸エチルを定量したところ、収率28%であった。
比較例3:
50質量%酢酸水溶液(酢酸100mmol、6.0g含有)12gにエタノール(100mmol、4.61g)を溶かした水溶液、ドデシルベンゼンスルホン酸(3.27g、10mmol)を100mLガラス製フラスコに加え、オイルバスで40℃に加熱し、4時間撹拌してエステル化反応を行なった。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析し、生成した酢酸エチルを定量したところ、収率28%であった。エステル化収率は、比較例1の硫酸触媒の場合と同程度であった。
上記反応条件で反応が平衡に達しているか確認するために、逆反応として酢酸エチルの加水分解を行った。酢酸エチル(100mmol、10.6g)、蒸留水(6.0g)、ドデシルベンゼンスルホン酸(3.27g、10mmol)を100mLガラス製フラスコに加え、オイルバスで40℃に加熱し、4時間撹拌した。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析し、残存した酢酸エチルを定量したところ、残存率は30%であった。以上のことから、有機溶媒を加えない条件における酢酸エチルの平衡収率は、30%程度であることが分かった。
実施例5〜15:
50質量%酢酸水溶液(酢酸25mmol、1.5g含有)3.0gにエタノール(25mmol、1.15g)を溶かした水溶液4.2g、メタンスルホン酸(0.12g、1.25mmol)、表2に記載した各種非水溶性有機溶媒をガラス製フラスコに加え、オイルバスで40℃に加熱し、有機層と水層の二相系で72時間撹拌してエステル化反応を行なった。反応終了後、分液漏斗で有機層と水層に分離し、有機層及び水層をそれぞれガスクロマトグラフィーで分析して酢酸エチルを定量した。有機溶媒の種類について検討した結果を表2に示す。各有機溶媒のヒルデブラント溶解パラメーターの値を表に示したが、酢酸エチル(18.6)との差が3を超えるヘキサン(14.9)を用いると、他の有機溶媒に比べて酢酸エチルが水層にも溶け込むようになるためやや低収率であった。
実施例16〜23:
50質量%酢酸水溶液(酢酸25mmol、1.5g含有)3.0gにエタノール(25mmol、1.15g)を溶かした水溶液4.2g、前記合成例で製造した各種ポリスチレンスルホン酸型触媒(スルホ基換算で1.25mmol相当)、トルエン(6.0g)をガラス製フラスコに加え、オイルバスで40℃に加熱し、有機層と水層の二相系で4時間撹拌してエステル化反応を行なった。反応終了後、触媒をろ過で分離した後、分液漏斗で有機層と水層に分離し、有機層及び水層をそれぞれガスクロマトグラフィーで分析することにより酢酸エチル収率を求めた。各種ポリスチレンスルホン酸型触媒の検討結果を表3及び図1に示す。反応時間が4時間では平衡状態に達していないため、エステル化収率は各触媒の触媒活性の大小を示す。図1のグラフは、スルホ基のローディング量が小さいほど、触媒活性が高くなることを示しており、長鎖アルキル基を導入することで疎水性を向上させたC18−ALPS−SO3Hが最も高活性であった。これら低ローディング量のポリスチレンスルホン酸型触媒は、均一系触媒であるメタンスルホン酸よりも高活性である。
実施例24:
触媒としてメタンスルホン酸(0.12g、1.25mmol)を使用した以外は実施例16〜23と同様に行った。反応終了後、分液漏斗で有機層と水層に分離し、有機層及び水層をそれぞれガスクロマトグラフィーで分析することで酢酸エチル収率を求めたところ37%であった。結果を表3及び図1に示す。
比較例4:
50質量%酢酸水溶液(酢酸25mmol、1.5g含有)3.0gにエタノール(25mmol、1.15g)を溶かした水溶液4.2g、PS−SO3H−2(スルホ基換算で1.25mmol相当)をガラス製フラスコに加え、オイルバスで40℃に加熱し、4時間撹拌してエステル化反応を行なった。反応終了後、触媒をろ過で分離した後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析し、生成した酢酸エチルを定量したところ、収率36%であった。結果を表3及び図1に示す。
比較例5:
触媒としてポリスチレンスルホン酸型触媒を加える代わりにスルホ化前のポリスチレンビーズ(Advanced ChemTech社製ポリスチレン,200〜400メッシュ,1%ジビニルベンゼン(DVB))を1.0g加えた以外は実施例16〜23と同様に行った。反応終了後、分液漏斗で有機層と水層に分離し、有機層及び水層をそれぞれガスクロマトグラフィーで分析することにより酢酸エチル収率を求めたところ0.4%であった。結果を表3に示す。

Claims (10)

  1. 酸触媒の存在下で、メタノール、エタノール、1−プロパノール及び2−プロパノールから選ばれる少なくとも1種の水溶性アルコールと水溶性カルボン酸を含む水溶液とを、非水溶性有機溶媒を加えた二相系で反応させることを特徴とするカルボン酸エステルの製造方法。
  2. 水層(水溶性アルコール+水溶性カルボン酸を含む水溶液)に対する非水溶性有機溶媒の質量比が、0.2〜4.0である請求項1に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
  3. 非水溶性有機溶媒と生成物であるカルボン酸エステルのヒルデブラントの溶解パラメーターの差が3以内である請求項1または2に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
  4. 前記非水溶性有機溶媒が、トルエン、キシレン、メシチレン、ニトロベンゼン及びアニソールから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のカルボン酸エステルの製造方法。
  5. 前記非水溶性有機溶媒がトルエンである請求項4に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
  6. 前記酸触媒が固体酸触媒である請求項1〜5のいずれかに記載のカルボン酸エステルの製造方法。
  7. 前記固体酸触媒がスルホ基担持ポリマーである請求項6に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
  8. 前記スルホ基担持ポリマーのスルホ基のローディング量が0.2〜5.0mmol/gである請求項7に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
  9. 前記水溶性アルコールがエタノールである請求項1〜8のいずれかに記載のカルボン酸エステルの製造方法。
  10. 前記非水溶性有機溶媒として前記水溶性アルコールとカルボン酸のエステル化合物を使用する請求項1〜9のいずれかに記載のカルボン酸エステルの製造方法。
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