JP2012191846A - 摩擦部材及び振動型駆動装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】高湿度の環境にさらされても摩擦力の低下を抑制できる摩擦部材及び振動型駆動装置を提供する。
【解決手段】超音波モータの振動子とロータとの接触部に用いる摩擦部材は、摩擦面に凹凸を有し、摩擦面は、クロム窒化物相を含む。
【選択図】図1

Description

本発明は、ステンレスの表面を硬化させる技術に関するものである。耐摩耗性の向上に加え、安定した摩擦力を要求される各種部材への応用が可能であると考えられる。
ステンレスなどにイオン窒化(プラズマ窒化ともいう)を施し、表面に鏡面加工を施して、ガラス用の成形型として使用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このガラス用の成形型は、硬さ、耐熱性のほか、鏡面加工性等に優れている。
この成形型には一種の耐熱材料であるステンレスが用いられている。使用する環境下で平滑な面を維持するために、耐酸化性や耐腐食性が要求されるためである。表面加工によって平滑な面に仕上げるのであれば、ステンレスの中でもオーステナイトをはじめとした単相の金属組織であることが望ましい。これは、金属組織の一部に被加工性が異なる部分が存在すると、優れた平滑性を得られないからである。よって、優れたガラス用の成形型を製造するためには、多結晶材より均一と考えられる金属組織をもつ非晶質材や単結晶材を用いたほうが好ましいと言える。
反対に、均一組織ではない材料を用いて、表面が鏡面のように平滑でないことが望まれる場合がある。
例えば、後述する超音波モータのステータとロータの接触部に用いられる摩擦部材は、水分による吸着が生じ難い程度に、その表面に適当な凹凸があった方がよい。表面に存在する微細な凸部が水膜を打破ることにより、相対する摩擦面における接触部(真実接触部)を確保でき、高湿度な条件においても摩擦力を維持できるためである。表面に微細な凸部を設ける方法としては、結晶粒界を存在させたり、結晶方位や大きさが大きく異なる結晶粒を存在させたりするやり方があげられる。特に、金属基材と硬さやエッチング性の大きく異なる化合物相を存在させることが効果的である。
そこで、超音波モータの摩擦部材としては、ある程度の大きさを備え、その上で金属基材と比較して摺動による摩耗が小さい化合物相を分散させた部材を用いることが望まれる。これは、摺動による金属基材の摩耗が生じた場合に、この化合物相が摩擦面で凸部として形成されるためである。
この化合物相を分散させた部材の例として、クロム炭化物を含有するステンレスを焼入れ処理により硬化させたものがある(例えば、特許文献2参照)。このクロム炭化物を含有するステンレスを超音波モータの摩擦部材として用いると、一定の条件下での耐摩耗性は優れていた。
特許第3011574号公報 特開2002−332859号公報
しかしながら、良好な耐摩耗性を維持するには、常に相手部材と接触する部分に酸化皮膜か、あるいは、焼き付きを生じにくい化合物相を存在させる必要があることがわかった。酸化皮膜は摺動による摩擦熱によって形成されるが、摩擦部材と相手部材の間に適度な面圧と相対速度がある場合にのみ、酸化皮膜が維持される。
また、焼き付きを生じにくい化合物相は、それ自身が金属基材よりも摩耗しにくいものでなければならない。摩擦により化合物相が先に摩耗してしまっては、この化合物相が真実接触部にならず、焼き付きに耐えるという効果が得られないためである。
上述したクロム炭化物を分散させたマルテンサイト系ステンレスの焼入れ材を用いた場合には、適当な摺動条件から外れると酸化皮膜が破れて金属新生面が露出し、この露出した部分にたちまち焼き付き現象が起きる。これは、いわゆるシビア摩耗と呼ばれる激しい摩耗となっていた。
これに対し、PVD(物理的蒸着法)処理により、クロム窒化物を膜状に形成させることで、その耐摩耗性を著しく向上させることが知られている。クロム窒化物が態磨耗性を向上させるために寄与しているのである。
ここで、金属基材中に化合物相を分散させる方法としては、粉末焼結を利用するやり方や、溶湯金属中にセラミック粉などを分散させた後に凝固させるやり方がある。しかしながら、これらの方法では気孔が残存し、また金属基材と化合物相との原子的整合性(界面接合性)が弱いため、表面硬化部材としての用途に必要な強度などの各特性は劣る傾向がある。
別の方法として、析出により窒素化合物相を形成させるというやり方がある。しかし、この方法で析出する化合物相は極めて小さく、安定した摩擦力を発生させるためにはほとんど寄与しない上、ステンレス中に固溶していたクロム元素と結合して安定相として析出するので、耐食性を著しく低下させてしまう。クロム不動態皮膜の形成に必要な固溶クロム量が減少して、いわゆる鋭敏化を起こすためである。また、金属基材中に化合物相を析出させた後、安定な化合物相として粒成長させるには、窒化温度よりさらに高い温度が必要であって、この温度にさらされたステンレスは硬度が低下して、表面硬化部材の用途としては不適切なものとなってしまう。
このように、摩擦部材の凸部を形成するために適した窒素化合物相が分散した素材を製造することは従来の方法では困難であった。このような材料は、まず溶湯において必要な組成を確保することが難しく、次にたとえ規定の組成に元素割合が制御できても希望する化合物相が生成しないことも多かった。さらに、圧延などの塑性加工の過程で素材が破壊されてしまう可能性も低くはなかった。
本発明の目的は、高湿度の環境にさらされても摩擦力の低下を抑制できる摩擦部材及び振動型駆動装置を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明は、超音波モータの振動子とロータとの接触部に用いる摩擦部材であって、前記摩擦部材は、摩擦面に凹凸を有し、前記摩擦面は、クロム窒化物相を含むことを特徴とする。
本発明によれば、摩擦面に凹凸を有するとともにクロム窒化物相を含む摩擦部材を振動子とロータとの接触部に用いるので、高湿度の環境にさらされても摩擦力の低下を抑制することができる。
本発明の一実施の形態に係る表面硬化部材からなる摩擦部材の断面のEPMA分析結果を示す図である。 本発明における他の一実施の形態に係る表面硬化部材からなる摩擦部材の断面のEPMA分析結果を示す図である。 各摩擦部材のしゅう動面におけるAFM測定の結果を示す図である。 各摩擦部材超音波モータにおける起動時に発生するトルクの時間推移を示す図である。 本発明の一実施の形態に係る表面硬化部材からなる摩擦部材の外形を示す斜視図である。 超音波モータの構成を示す縦断面図である。 図6の超音波モータの振動モードを模式的に示す図である。 円環型超音波モータの構成を示す縦断面図と、振動子の斜視図である。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
まず、本発明の表面硬化部材が摩擦部材として適用される振動型駆動装置である超音波モータの構成について図6および図7を参照しながら説明する。図6は超音波モータの構成を示す縦断面図である。図7は図6の超音波モータの振動モードを模式的に示す図である。
超音波モータは、図6に示すように、弾性体1と、弾性体2と、電気−機械エネルギ変換素子である積層圧電素子3と、ロータ7と、ギア8とを備える。各弾性体1,2、積層圧電素子3、ロータ7およびギア8は、シャフト4に挿通されている。シャフト4の両端部には、それぞれナット5,11に螺合するねじ部が形成され、中間部には、フランジ部4aが形成されている。積層圧電素子3は、各弾性体1,2間に配置され、各弾性体1,2および積層圧電素子3は、シャフト4の一方の端部に螺合されているナット5とシャフト4のフランジ部4aとの間で所定の挟持力が付与されるように狭持固定されている。弾性体1の端部には、耐摩耗性を有するリング状の摩擦部材6が設けられている。摩擦部材6の詳細については、後述する。
ロータ7は、その一方の端面が弾性体1に設けられた摩擦部材6に接触するように配置されている。ロータ7の一方の端面は、摩擦部材6との接触幅が小さく、かつ適度なバネ性を有するように形成されている。ロータ7の他方の端面には、モータ出力を外部に伝達するためのギア8の凸部と係合可能な凹部が形成されている。ギア8は、超音波モータを取り付けるためのフランジ10の下部に回転可能に嵌合されるとともに、フランジ10によりシャフト4のスラスト方向へ移動しないように固定されている。ギア8とロータ7との間には、ロータ7を摩擦部材6に対して押し付けるための加圧バネ15が設けられている。
ここで、図7(a)に示すように、弾性体1、弾性体2、積層圧電素子3、シャフト4、摩擦部材6およびナット5は、互いに協働して、棒状の振動子を構成する。積層圧電素子3においては、電極(図示せず)が2つの電極群にグループ化されており、それぞれの電極群には、電源(図示せず)から位相の異なる交流電界が印加される。積層圧電素子3の電極群に上記交流電界が印加されると、振動子には、互いに直交する2つの曲げ振動が励振される。
励振される一方の曲げ振動は、図7(b)に示す、紙面に平行な方向の振動である。他方の曲げ振動は、紙面に垂直な方向の振動である。上記印加される交流電界の位相を調整することにより、2つの曲げ振動間にπ/2(rad)の時間的な位相差を与えることができる。その結果、上記振動子の曲げ振動は、振動子の軸周り(シャフト4の軸周り)に回転する。よって、ロータ7に接触する弾性体1の端面には楕円運動が生じ、摩擦部材6に押圧されたロータ7が摩擦駆動されるため、ロータ7、ギア8、加圧バネ15が一体に回転する。そして、ギア8の回転駆動力が、モータ出力として外部ギア(図示せず)へ伝達される。
本発明の表面硬化部材が摩擦部材として適用される振動型駆動装置として、上記超音波モータの他に、例えば円環型超音波モータがある。この円環型超音波モータについて図8を参照しながら説明する。図8(a)は円環型超音波モータの構成を示す縦断面図、図8(b)は振動子の斜視図である。
円環型超音波モータは、図8(a)に示すように、ハウジング30を備える。ハウジング30には、出力軸28が複数の軸受31を介して回転可能に支持されている。出力軸28には、ギヤ(図示せず)などを介して、本超音波モータを駆動源とする各種装置、機器などの作動装置の駆動機構が接続される。
また、ハウジング30には、環状の弾性体21がネジ32で固定されている。環状の弾性体21は、出力軸28と同軸上に配置されている。弾性体21の一方の面には、環状の移動体27と接触する摩擦部材26が設けられている。また、弾性体21の他方の面には、電気−機械エネルギ変換素子としての円環状の圧電素子23が貼り付けられている。
具体的には、弾性体21は、金属材料の切削加工あるいは粉末焼結などの型成形によって円環状に製作される。弾性体21の一方の面(表面)には、図8(b)に示すように、軸方向へ突出する複数のくし歯状の突起が形成されおり、該複数の突起の上面には、摩擦部材26が接着されている。また、弾性体21の他方の面(裏面)に貼り付けられている圧電素子23には、複数の電極22が設けられている。弾性体21と圧電素子23と摩擦部材26とは、互いに協働して振動子を構成する。
移動体27は、その一方の面が摩擦部材26と対向しかつ出力軸28と同軸上になるように配置されている。移動体27は、出力軸28に固着されている加圧ばね部材35に支持されている。加圧ばね部材35は、移動体27を摩擦部材26に加圧接触させるばね力を発生する。
ここで、圧電素子23の電極に交流電界が印加されると、上記振動子が励振され、摩擦部材26に加圧接触する移動体27が出力軸28と一体に回転駆動される。これにより、モータ出力は、外部の駆動機構へ伝達される。
本実施の形態においては、本発明の表面硬化部材が摩擦部材として適用される超音波モータとして、棒型および円環型超音波モータが例示されている。しかし、これらに限定されることはなく、振動体の形状、励起する振動の次数、振動の形態などに応じて構成される各種のタイプの超音波モータに対して、本発明の表面硬化部材が摩擦部材として適用可能であると考えられる。
次に、上述した超音波モータの摩擦部材を形成する表面硬化部材の金属組織について図1乃至図3を参照しながら説明を行う。
本発明の第1の実施例では、予め化合物相が基材中に分散しているステンレスを窒化処理することで、この化合物相を窒化物相に変化させたもので構成された摩擦部材を用いた。具体的には、クロム炭化物を分散させたマルテンサイト系ステンレスを窒化処理したものを摩擦部材とした。窒化処理後のステンレスの摩耗量は窒化処理しないステンレスの摩耗量に比較して減少しており、後述するように比較的安定した摩擦力を発生するようになった。
そこで、その窒化層を分析すると、元々存在していたクロム炭化物がクロム窒化物に相変化していることがわかった。
この相変化を利用する方法では、予め、ある一定の体積を別の相で金属基材中に分散させてあるため、その変化は比較的低い温度で起こるはずである。金属基材の結晶格子を歪ませて、そこへ溶質元素を拡散濃縮させ、ある大きさの化合物相を形成させる析出過程および成長過程で必要とされる熱エネルギと比較すると、小さな熱エネルギで済むと考えられるためである。
図1は本実施例に係る表面硬化部材であって、第1の素材であるマルテンサイト系ステンレス(JIS SUS440A)にイオン窒化処理した摩擦部材の断面のEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)マッピングを示す図である。6つのマッピング図(分布図)があるが、上段は左から順にCP(反射電子)像、炭素元素のマッピング図、窒素元素のマッピング図である。また、下段は左から順にクロム元素のマッピング図、鉄元素のマッピング図、モリブデン元素のマッピング図である。これらの図はすべて同じ場所を観察または分析したものである。
そして、各図の左稜線が摩擦部材の表面に相当する部位であって、イオン窒化処理によって表面から窒素を拡散して窒化層を形成させている。また、それぞれの図において、左側が窒化された窒化層で約30μの層厚があり、右側が窒化が及んでいない本来のステンレス母材である。窒素元素のマッピング図では、その右側が黒くつぶれているが、これは窒素が到達しておらず、その部分からは窒素元素が検出されなかったためである。
炭素元素のマッピング図とクロム元素のマッピング図において、それぞれの右側に位置するステンレス母材を見ると、炭素元素の存在する範囲とクロム元素の存在する範囲が一致していることがわかる。これは、高炭素マルテンサイト系ステンレス中にクロム炭化物が存在していることを示している。そして、その大きさが数ミクロンであることもわかる。
ところが、各図の左側に位置する窒化層部分を見ると、クロムは母材部分とそれほど変わらず存在しているものの、炭素元素はほとんど見られなくなっている。これに対し、窒素元素のマッピング図を見ると、その窒化層部分には窒素元素がクロム元素の範囲と一致して存在している。このことは、つまり、ステンレス中に分散していたクロム炭化物がクロム窒化物に相変化したことを示している。
図2は本発明における第2の実施例に係る表面硬化部材であって、第2の素材であるチタン、イオウ含有のオーステナイト系ステンレスにイオン窒化処理した摩擦部材の断面のEPMAマッピングを示す図である。
試料はやや左に傾いているが、各図の上面の稜線部が表面の位置であり、窒化層は上部から約30μの厚さがある。
上段の左側の図はCP像を示しており、数μ大で点在しているものは、材料を切削しやすくために与えられたチタン炭硫化物相、チタン硫化物相、あるいは、硬質の窒化チタン相である。その右隣は炭素元素のマッピング図で、CP像の各点在相の範囲と略一致しているので、チタン硫化物相、あるいは、窒化チタン相の各相は、炭素を含んだチタン炭硫化物相及び炭窒化チタン相になっているものが多いことがわかる。
一方、炭素元素分布、左下のイオウ元素分布及びその隣のチタン元素分布を比べると、母材領域では各元素の範囲が完全に一致しており、快削成分であるチタン炭硫化相が分布していることがわかる。
それに対して、窒化層の領域では窒素元素とチタン元素の範囲が略一致しており、反対にイオウ元素はその範囲で希釈している。このことは、チタン炭硫化物相が窒化チタン相ないし炭窒化チタン相に変化したことを示している。
このように、被切削性を向上させるためにチタン炭硫化物を分散晶出させたステンレスに窒化処理を施すと、チタン炭硫化物相が窒化チタン相ないし炭窒化チタン相に変化することがわかった。このチタン炭硫化物相は2000Hv以上の硬さとなり、アブレッシブ摩耗しにくい上、化学的反応作用を伴う化学摩耗も生じにくいことが知られている。つまり、切削加工時には削りやすくしておきながらも、切削後には耐磨耗性を向上させることができる。
なお、ステンレスに予め分散させておく相は何でも良いというものではなく、窒化処理条件に応じて、窒素との結合が容易な、所謂、窒化物形成元素を含む相であることが望まれる。今回の比較素材であるオーステナイト系快削ステンレスであるJIS SUS303は、マンガン硫化物が分散しているが、これを切削後に窒化しても、マンガン硫化物相は窒化物相に変化することなくそのまま残留した。この化合物相は脆いため、靭性や耐摩耗性を要求する表面硬化部材には好ましくない。その上、マンガン硫化物は片状に存在しやすく、ステンレス材料自体の特性に強い異方性を与えてしまう。また、耐食性についても該化合物が存在しないステンレスとの比較ではかなり劣化してしまう。
下記表1に第1の素材、第2の素材、そして市販のJIS SUS303の組成(重量%)が記載されている。
そして図3には、下記表1に示す各素材の窒化処理後の摩擦面の凹凸状態を示すAFM(原子間力顕微鏡)図、および、その一部断面形状を示している。
図5は本発明の一実施の形態に係る表面硬化部材からなる摩擦部材の外形を示す斜視図である。それぞれの素材を図5に示すようにリング状に各素材を加工した後、イオン窒化処理してから接着、ラップ加工を経て、図6に示す棒状超音波モータに組み付け、1時間の耐久試験後にその摩擦摺動面を測定したものが図3である。
この結果、本実施の形態で使用した第2の素材、第1の素材、市販のSUS303の順に表面凹凸が大きいことがわかる。
一方、図4は各摩擦部材を使用した棒状超音波モータにおいて、その起動時の発生トルクの時間推移を示している。まず、トルク−回転数測定(T−N測定)の段階で数十秒回転させるわけであるが、その測定によりモータの発生トルクを求めておき、この値を100%に相当するものとした。その後、各モータ(摩擦部材3種×各6ヶ)を温度298K(25℃)、湿度50%の環境下に2時間以上放置し、最初に起動する瞬間に発生するトルクの上記発生トルクに対する比率を示している。これによると、摩擦部に水分が介在しトルクが回復するまでに若干の時間を要することがわかる。
先のT−N測定直後にこの測定をすれば、最初からほぼ100%のトルクを発生するので、湿度下に放置しておくことで摩擦面に水分が吸着し、それが摩擦力を低下させていると思われる。
この実験では、上述した第2の素材、第1の素材、SUS303の順に発生トルクの回復が速いことがわかる。これは、図3の測定結果である摩擦面の表面凹凸の結果に対応している。
図6に示す摩擦部材を形成するため、まず、上述した表1に表される組成(重量%)を有する鋼塊が真空誘導炉にて製造される。次いで、この鋼塊が1473Kの温度で2時間保持された後に、熱間加工により直径60mmの丸棒が製造される。そして、この丸棒は、1373Kの温度で熱間圧延され、直径15mmの丸棒に仕上げられる。さらに、上記丸棒を切削加工することによって、図5に示すような、所定の寸法を有するリング状の摩擦部材6が形成される。
ここでは、摩擦部材6は、外径10mm、内径7.2mm、厚さ0.5mmの各寸法を有するものとする。
そして、摩擦部材6との比較のために、表1に記載された市販のSUS303から、摩擦部材6と同一の寸法を有する摩擦部材(以下、比較用摩擦部材という)が形成される。
形成された摩擦部材6は、本実施の形態で使用した第1の素材については743Kで5時間イオン窒化処理し、本実施の形態で使用した第2の素材および市販SUS303については823Kの温度で2時間イオン窒化処理した。
マルテンサイト系ステンレスについては、773K以上では耐食性が著しく低下し、温度313K(40°C)、湿度90%で200時間放置すると、若干錆びの発生が見られたからである。一方、オーステナイト系ステンレスについては、773K以下では実用的な窒化層の厚さが得られないからである。
また、各摩擦部材に対応するサンプルがそれぞれ樹脂に埋め込まれ、その断面についてビッカース硬さ試験が行われた。この試験により、両者は、ともに、表面から20μmmの深さの位置において、1200Hvの十分な硬さを維持し、硬さに関しては、それぞれの組成による差は認められないという結果が得られた。
また、ここでは、イオン窒化処理の場合に摩擦部材6の相変化が確認されているが、ガス窒化処理、塩浴窒化処理などの他の窒化処理でも同様の効果を期待することができると推測される。
また、本実施の形態においては、図6に示す超音波モータの摩擦部材6を形成する場合の表面硬化部材について説明したが、図8に示す円環型超音波モータの摩擦部材26も、同様の表面硬化部材により形成することができ、また、同様の効果を得ることができる。
1,2,21 弾性体
6,26 摩擦部材
7 ロータ
27 移動体

Claims (9)

  1. 超音波モータの振動子とロータとの接触部に用いる摩擦部材であって、
    前記摩擦部材は、摩擦面に凹凸を有し、
    前記摩擦面は、クロム窒化物相を含むことを特徴とする摩擦部材。
  2. 前記振動子は、電気−機械エネルギ変換素子を有することを特徴とする請求項1に記載の摩擦部材。
  3. 前記電気−機械エネルギ変換素子は、積層圧電素子であることを特徴とする請求項2に記載の摩擦部材。
  4. 前記積層圧電素子は、2つの電極群を有することを特徴とする請求項3に記載の摩擦部材。
  5. 前記振動子は、前記2つの電極群に位相の異なる交流電界が印加されることにより、互いに直交する2つの曲げ振動が励振されることを特徴とする請求項4に記載の摩擦部材。
  6. 摩擦部材と電気−機械エネルギ変換素子を有する振動子と、前記摩擦部材に接触し、前記振動子に励振される振動によって駆動される移動子と、を備え、
    前記摩擦部材は、摩擦面に凹凸を有し、クロム窒化物を含むことを特徴とする振動型駆動装置。
  7. 前記電気−機械エネルギ変換素子は、積層圧電素子であることを特徴とする請求項6に記載の振動型駆動装置。
  8. 前記積層圧電素子は、2つの電極群を有することを特徴とする請求項7に記載の振動型駆動装置。
  9. 前記振動子は、前記2つの電極群に位相の異なる交流電界が印加されることにより、互いに直交する2つの曲げ振動が励振されることを特徴とする請求項8に記載の振動型駆動装置。
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