JP2012186162A - エレクトロルミネッセンス素子及びその作製方法 - Google Patents

エレクトロルミネッセンス素子及びその作製方法 Download PDF

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Abstract

【課題】特定の波長に対して感度を持たせた素子を材料の選定を行うことなく容易に作製可能なエレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】順方向バイアス電圧を印加することによりp層とn層の接合部に拡散電流を発生させ、発生された拡散電流により生じるジュール熱に基づいて何れかの層の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させることを繰り返し、近接場光が発生した箇所では反転分布に基づき非断熱過程により複数段階で誘導放出させることにより、拡散電流を減少させてジュール熱を低下させることにより表面形状及び/又はドーパント分布を固定させる。
【選択図】図6

Description

本発明は、エレクトロルミネッセンス素子及びその作製方法に関し、特に赤外領域の光源として実用化する上で好適なエレクトロルミネッセンス素子及びその作製方法に関するものである。
近年、軽量・薄型の面発光型素子としてエレクトロルミネッセンス素子(以下、EL素子という)が注目されている。このEL素子は、電界印加時に、陽極より注入された正孔と陰極より注入された電子との再結合エネルギーにより蛍光性物質が発光する原理を利用した素子である。EL素子は、主としてモバイル機器等の各種機器のディスプレイの発光素子等に用いられる。
これらEL素子には、蛍光体粒子を有機高分子材料からなるバインダー中に分散させ発光層とする分散型EL素子や、薄膜発光層の両側あるいは片側に絶縁層を設けた薄膜型EL素子とがあるが、その大半は、GaAs、GaNを初めとする無機半導体で作製される。これら無機半導体は、効率よく発光させるために、また発光波長の調整のために、Inが添加される。このような無機半導体を得るためには、高価な結晶成長装置が必要になり、またシリコン素子よりもはるかに高価なIn等のレアマテリアルを添加物として使用する。このため、従来においてはEL素子を大量に作製することになれば、その分レアマテリアルの資源を浪費することになり、資源枯渇問題を引き起こす原因にもなる。
従って、近年においては、発光材料として有機化合物を用いた有機EL素子も普及してきている(例えば特許文献1参照。)。しかしながら、この有機EL素子は、発光材料として用いる有機化合物の寿命が短い等、解決すべき問題点も多く、やはり大出力、高信頼性が求められる分野においては、有機EL素子よりもむしろ無機半導体を発光材料として用いることが望ましいものといえる。そして、実際に、この無機半導体を発光材料として用いたEL素子を光通信に使用する場合、光損失の少ない近赤外光を発光させることがより望ましいものといえる。
特開平10−036829号公報
T. Kawazoe、 K. Kobayashi、 S. Takubo、 and M. Ohtsu、 J. Chem. Phys.、 Vol.122、 No.2、January 2005、 pp.024715 1-5
シリコンは、近赤外においてバンドギャップを持つ無機半導体であるが、あくまで間接型半導体であるため、近赤外EL素子としては望ましいものとはいえない。また、特に近年においてシリコンを微結晶化したポーラスシリコンによるEL素子が提案されているが、これらの発光効率もやはり1%に満たない。このため、あくまでシリコンを発光材料として用いるEL素子において近赤外における発光効率を向上させることが可能な技術が従来より望まれていた。これと同様に波長550nm領域では無機半導体化合物であるGaPが用いられているが、GaPもシリコンと同様に間接型半導体であるためそのEL素子としての発光効率は0.1%程度である。
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、シリコンなど間接型半導体を発光材料として用いるEL素子において発光効率を向上させることが可能なエレクトロルミネッセンス素子及びその作製方法を提供することにある。
本発明に係るエレクトロルミネッセンス素子は、上述した課題を解決するために、p層及びn層を含む半導体層を備えるエレクトロルミネッセンス素子において、順方向バイアス電圧を印加することにより上記p層と上記n層の接合部に拡散電流を発生させ、上記発生された拡散電流により生じるジュール熱に基づいて何れか1以上の上記層の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させることを繰り返すとともに、上記順方向バイアス電圧により伝導帯と価電子帯に反転分布を生じさせ、上記変化後の表面形状及び/又はドーパント分布に基づいて近接場光が発生した箇所では、上記反転分布を形成している上記伝導帯中の電子を非断熱過程に基づいて複数段階で誘導放出させることにより、上記拡散電流を減少させて上記ジュール熱を低下させることにより、表面形状及び/又はドーパント分布を固定させるとともに、上記誘導放出により発光させることを特徴とする。
本発明に係るエレクトロルミネッセンス素子の作製方法は、p層及びn層を含む半導体層を備えるエレクトロルミネッセンス素子の作製方法において、順方向バイアス電圧を印加することにより上記p層と上記n層の接合部に拡散電流を発生させ、上記発生された拡散電流により生じるジュール熱に基づいて何れか1以上の上記層の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させることを繰り返すとともに、上記順方向バイアス電圧により伝導帯と価電子帯に反転分布を生じさせ、上記変化後の表面形状及び/又はドーパント分布に基づいて近接場光が発生した箇所では、上記反転分布を形成している上記伝導帯中の電子を非断熱過程に基づいて複数段階で誘導放出させることにより、上記拡散電流を減少させて上記ジュール熱を低下させることにより、表面形状及び/又はドーパント分布を固定させることを特徴とする。
上述した構成からなる本発明によれば、シリコンを発光材料として用いるEL素子において近赤外における発光効率を向上させることが可能なエレクトロルミネッセンス素子を提供することが可能となる。
本発明を適用したEL素子の構成例を示す図である。 n層とp層からなる半導体層の接合部のエネルギーバンド図である。 (a)は、ジュール熱発生前におけるn層とp層の接合部の微視的な形状の例を示す図であり、(b)は、ジュール熱を発生させた後におけるn層とp層の接合部の微視的な形状の例を示す図である。 非断熱過程を説明するための、原子同士の結合をバネで置き換えたモデルを示す図である。 n層とp層からなる半導体層の接合部に形成された反転分布について説明するための図である。 非断熱過程に基づく多段階誘導放出について説明するための図である。 非断熱過程を継続して生じさせた場合におけるメカニズムについて説明するための図である。 n層としてのシリコン基板に対して、p層としてのホウ素の深さ方向に対する濃度分布を示す図である。 本発明を適用したEL素子における電圧−電流特性を示す図である。 n層をエピタキシャル成長させ、p層をイオン注入する例について説明するための図である。 イオン注入装置の構成例を示す図である。 インプラントされたp層と、エピタキシャル膜としてのn層との間で形成されるpn接合構造の模式図である。 深さ方向Tに向けて、ドーパント分布の濃淡を順次形成させる例を示す図である。
以下、本発明を適用したエレクトロルミネッセンス素子(以下、EL素子という。)及びその作製方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明を適用したEL素子1の構成を示している。このEL素子1は、N型半導体層(n層)13、n層13との間でpn接合を構成するP型半導体層(p層)14、n層13とp層14との間に形成される接合層35とを備えている。このn層13〜p層14までを半導体層30という。p層14には、電源2が接続されており、使用時には、p層14側が正電圧、n層13側が負電圧となるように順方向にバイアス電圧が負荷されることになる。
n層13は、いわゆるシリコン等の基板等で構成されるがこれに限定されるものではなく、他の間接型半導体であってもよい。ここで代表的な間接型無機化合物にはSi以外に,GaP,AlGaAs(混晶比に依存)、AlP、AlAs, Ge, SiC, PbS, PbTe, TIO2, GaS, AlSb,, C(ダイヤモンド), BNなどがあり、本手法はそのすべてに応用可能である。
p層14は、例えばホウ素等をp型ドーパントとして高密度、高エネルギーでインプラントしたものとして構成される。このp層14は、例えば700KeV、表面から500nm付近においてそのドーピング密度は1019とされていてもよい。
このようなEL素子1を作製する際には、p層及びn層に順方向バイアス電圧を印加する。その結果、以下のメカニズムに基づいて、本発明所期のEL素子1を作製することが可能となる。
図2は、n層13〜p層14からなる半導体層30のエネルギーバンド図を示している。順方向バイアス電圧が負荷されると、p層14中の正孔がn層13側へと移動し、n層13中の電子がp層14側へと移動していく。その結果、接合層35は空乏化することなく互いの電子と正孔が打ち消しあうことで拡散電流が流れる。その結果、順方向バイアス電圧が高い場合にこの電子の移動に伴うジュール熱が発生する。このジュール熱の特に大きな発生部位は、大きな電位差を生じる接合層35やn層13やp層14の表面等である。また、この順方向バイアス電圧をより高くしていくことにより、かかる接合層35においてアバランシェ降伏を起こし、一気に電流が流れていくことになる。その結果、ジュール熱による発熱が、かかるアバランシェ降伏により促進されることになる。
このジュール熱が発生する結果、接合層35やn層13やp層14における流動性が増加し、その表面形状及び/又はドーパントの分布が変化することになる。上述した順方向バイアス電圧を負荷し続けることにより、かかる表面形状及び/又はドーパントの分布変化が継続して生じることになる。
図3(a)は、かかるジュール熱発生前におけるn層13とp層14の接合部35の微視的な形状の例である。n層13とp層14の接合界面には、ナノオーダーの微細な凹凸が形成されている。
図3(b)は、ジュール熱を発生させた後におけるn層13とp層14の接合部35の微視的な形状の例である。ジュール熱が発生することにより、このn層13とp層14の接合部35の流動性が増加する結果、n層13やp層14等の表面形状やドーパントの分布がランダムに変化することになる。かかる表面形状やドーパントの分布の変化が繰り返して起こる結果、例えば、ある特有の微細形状Aがこのn層13とp層14との界面において形成される。この微細形状Aは、入射された光に基づいて近接場光が発生する上でより適した形状である。この微細形状Aを形成させるための条件は確定されるものではなく、ジュール熱の発生に伴うn層13やp層14等の表面形状やドーパントのランダムな変化の結果、ある確率の下で偶然に形成されるものである。なお、この近接場光は、n層13とp層14との界面に発生する場合に限定されるものではなく、EL素子1を構成する何れか1以上の層の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させるものであればよい。
このような微細形状Aが形成されたときに、上述した順方向バイアス電圧を更に負荷し続けると、当該微細形状Aの主として角部において近接場光が発生する。ここでいう、近接場光は、仮想的な電磁場の意味も含まれていることから、仮想的な電磁場が形成されていることが近接場光の発生を意味するものとして解される。この近接場光の発生は、特に誘導光が無い状態の下であっても、順方向電流注入時には注入された電荷の自然放出およびそれを元とした誘導放出によって発生することになる。この近接場光が発生することにより以下に説明する非断熱過程が生じる。ちなみに、この近接場光の発生位置は、当該微細形状Aに対応したn層13とp層14の界面のみならず、他の箇所で発生することも当然起こりえる。
この非断熱過程とは、図4に示すように、原子同士の結合をバネで置き換えたモデルで考えることができる。一般に伝搬光の波長は分子の寸法に比べると遥かに大きいため、分子レベルでは空間的には一様な電場とみなせる。その結果、図4(a)に示すように、バネで隣り合う電子は同振幅、同位相で振動させられる。感光性樹脂膜12の原子核は重いため、この電子の振動には追従できず、伝搬光では分子振動は極めて起こりにくい。このように伝搬光では、分子振動が電子の励起過程に関わることを無視することができるため、この過程を断熱過程という(非特許文献1参照。)。
一方、近接場光の空間的な電場勾配は非常に急峻に低下する。このため近接場光では隣り合う電子に異なる振動を与えることになり、図4(b)に示すように、この異なる電子の振動により重い原子核も振動させられる。近接場光が分子振動を起こすことは、エネルギーが分子振動の形態を取ることに相当するため、近接場光では、振動準位を介した励起過程(非断熱過程)が可能となる。このように原子核の振動準位を介した励起過程は、通常の光学応答である断熱過程に対し、原子核が応答し動くため、非断熱過程という(非特許文献1参照。)。
また、上述した順方向バイアス電圧を印加させ続けることにより、伝導帯における電子密度n1が、下位準位にある正孔密度n2と比較して圧倒的に高くなる。その結果、伝導帯と下位準位との間で、図5に示すように、かかる電子密度の差異に基づく反転分布が接合部35に形成される。次に図6(a)に示すように、この形成された反転分布により、伝導帯中の電子を近接場光による非断熱過程に基づいて、伝導帯中の電子を、バンドギャップの中間に位置する振動準位に仮想的に遷移させることができる。この電子が非断熱過程に基づいて振動準位に遷移できたのは、その箇所において近接場光が発生していたため実現できたものである。この近接場光は、ジュール熱による流動によってある確率の下で生じた微細形状A(又はそのドーパントの変化)によって生じたものである。振動準位に遷移した電子は、この近接場光によって仮想的に生じた仮想場を廻り、その後振動準位から伝導帯へと戻ることになる。この伝導帯に戻った電子は、拡散電流によるジュール熱に寄与する。
このように近接場光が単に発生した段階では、伝導帯中の電子を振動準位に仮想的に遷移させて再度伝導帯に戻ることを繰り返すこととなる。伝導帯に戻った電子は、ジュール熱に寄与することとなり、ジュール熱は下がることなく表面形状及び/又はドーパントの分布変化が継続して生じることになる。
またジュール熱による表面形状及び/又はドーパントの分布変化が生じた結果、更に近接場光の発生態様が変化した場合には、ある確率の下で図6(b)に示すように、伝導帯中の電子を近接場光による非断熱過程に基づいて、伝導帯中の電子を、バンドギャップの中間に位置する振動準位に仮想的に遷移させてそこから電子を放出させることによる発光させる。また、かかる近接場光に基づいて伝導帯中の電子を複数段階で誘導放出させることにより発光させる。
その結果、このEL素子1から係る電子の放出による発光を実現することが可能となる。当該微細形状Aにおいては引き続き近接場光が発生するため、非断熱過程を生じさせることが可能となる。この非断熱過程による誘導放出においては、振動準位を介し電子を放出させる。このとき、バンドギャップ幅に相当する吸収端波長よりも長波長である波長の光でも伝導帯中の電子を多段階で遷移させて放出させることができ、その結果伝導体中の電子を減少させることが可能となる。
このような非断熱過程による多段階の誘導放出が生じることにより、伝導帯における電子密度n1が減少する。その結果、かかる近接場光が発生する微細形状Aについては、n層13へと移動する電子の量は減少することになり、拡散電流が低下し、当該微細形状Aについてはジュール熱が低下することになる。即ち、誘導放出は、電子や正孔のエネルギーを奪うものとなり、接合部35やn層13やp層14の流動性が低下する。その結果、この微細形状Aについては、表面形状及び/又はドーパントの分布の変化が抑制されることになる。微細形状Aはそのまま変化することなく固定されることになる。
また、図6(b)に示すように発光が生じた場合、その発光に基づいて、表面形状及び/又はドーパントの分布による近接場光が発生しやすくなる。その発生した近接場光により、さらに各部における非断熱過程が生じやすくなり、微細構造Aの固定化並びに発光が促進されることとなる。
また、上述の如き順方向バイアス電圧を印加し続けることにより、上述したメカニズムが継続的に生じる。図7(a)に示すように、微細形状Aは、そのまま近接場光が発生し続けて、上述した非断熱過程による誘導放出が継続して生じる結果、温度が低下し、かかる形状の状態でそのまま固定され続ける。また、微細形状A以外の箇所は、近接場光が発生しないため冷却されることなく、そのままジュール熱が発生することにより、このn層13とp層14の接合部35の流動性が増加する結果、n層13やp層14等の表面形状やドーパントの分布がランダムに変化する。このランダムな変化の結果、図7(a)に示すように微細形状Aとほぼ同一形状の微細形状Bが形成される場合もある。かかる場合に光を入射させると、当該微細形状Bにおいて近接場光が発生することになる。そして、この微細形状Bについても同様に非断熱過程による誘導放出が生じる結果、温度が低下し、かかる形状の状態でそのまま固定され続ける。即ち、EL素子1において近接場光が好適に発生する領域が微細形状Aのみならず微細形状Bの分も増加したことになる。
かかる処理が繰り返し実行されると、理想的には図7(b)に示すように、n層13とp層14との界面において微細形状Aと同一の形状が数多く形成されることになる。これは、順方向バイアス電圧が印加された場合に近接場光が好適に発生する微細形状Aと同一の形状が数多く作り出されたEL素子1として構成することが可能となる。その結果、発光効率を飛躍的に向上させることが可能となる。
なお、この微細形状Aは、あくまで表面形状に依拠したものであるが、これに限定されるものではなく、ジュール熱の発生に伴うn層13やp層14等のドーパントの変化の結果、表面形状が変化していなくても、近接場光が好適に発生する条件になる場合がある。かかるn層13やp層14等のドーパントが近接場光が好適に発生可能なように変化した場合においても、上述した微細形状Aの形成と同様な効果が得られる。即ち、拡散電流を減少させてジュール熱を低下させることにより、ドーパント分布を固定させることを繰り返し実行することになる。
図8は、本発明を適用したEL素子の作製方法において、n層13としてのシリコン基板に対して、p層14としてのホウ素の深さ方向に対する濃度分布を示している。図8(a)は、n層13としてのシリコン基板に対してp層14としてのホウ素をインプラントした直後におけるホウ素の深さ方向の濃度分布を示しており、また図8(b)は、順方向バイアス電圧を負荷して、ドーパントとしてのホウ素を流動させて更に固定した後のホウ素の濃度分布を示している。この図8から、拡散電流によるジュール熱により、流動を起こした結果、近接場光を発生させる上で好適なドーパント分布に変化したことが示されている。この図中の11Boron, 12BoronはそれぞれBの同位体を意味するものである。
次に、上述した本発明を適用した作製方法に基づいて作製されたEL素子1による動作について説明をする。
上述したようにEL素子1は、その作製の段階において、順方向バイアス電圧が負荷された場合に近接場光が好適に発生する、例えば微細構造A、B等を始めとした領域が広く形成されている。このようなEL素子1に対して、順方向バイアス電圧を印加するようにしてもよい。その結果、既に好適に近接場光を発生し得る形状が作り込まれていることから、図7(b)に示すように、近接場光が多くの領域において発生する。そして、図6(b)に示すように、その発生した近接場光による非断熱過程により、伝導帯にある電子が多段階で誘導放出されて発光することになる。このとき、順方向バイアス電圧の強度を更に増大させるとアバランシェ降伏が生じて更に発光量が大きくなる。
図9は、本発明を適用したEL素子1における電圧−電流特性を示している。この電流特性においてバイアス電圧を徐々に増加させて100V超に至るまでは殆ど電流が流れないが、100Vを超えると極めて良好な微分負性抵抗の特性が表れていることが示されている。また順方向バイアス電圧によるジュール熱発生は通常の抵抗特性を示すPN接合においても発生するので、負性抵抗の出現は本手法にとって必須では無いが、この実施例ではドーパントの不均一が電気素子としても機能するような分布となったので優れた整流素子としても機能する可能性を示唆するものであり、図9は、その電気特性の傾向を示したものである。
上述したように、本発明では、順方向バイアス電圧を印加することによりp層14とn層13の接合部に拡散電流を発生させ、発生された拡散電流により生じるジュール熱に基づいてEL素子1を構成する何れか1以上の層の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させることを繰り返し実行する。
そして、変化後の表面形状及び/又はドーパント分布に基づいて近接場光が発生した箇所では、伝導帯中の電子を非断熱過程に基づいて複数段階で誘導放出させることにより、拡散電流を減少させてジュール熱を低下させて、表面形状及び/又はドーパント分布を固定させる。
また変化後の表面形状及び/又はドーパント分布に基づいて近接場光が発生しない箇所では、或いは近接場光が発生しても単に仮想場ができているだけに発光させる上で好適な条件を満たさない箇所においては、拡散電流を発生させ続けて当該表面形状及び/又は当該ドーパント分布を変化させることを、近接場光による非断熱過程で発光するまで繰り返す。
これにより、本発明では、接合部35のバンドギャップ幅に対応した吸収端波長より長波長である光を放出させることができる。仮に、n層13がシリコンであれば、そのシリコンによる発光波長としての近赤外域の光をも発光させることが可能となる。
また、本発明を適用したEL素子1の作製方法では、特に大掛かりな装置を必要とすることなく、希望の波長に対して感度の優れた素子を安価で作成することが可能となる。
この波長帯は上記のSi,GaP,AlGaAs(混晶比に依存)、AlP、AlAs, Ge, SiC, PbS, PbTe, TIO2, GaS, AlSb, C(ダイヤモンド), BNなど用いる間接遷移型無機材料の種類を変更することによっても紫外から赤外光まで広く対応可能である。
なお、半導体層30は、例えば以下の方法により作製されていてもよい。
先ず図10(a)に示すように、n層13をいわゆるエピタキシャル成長させることにより、基板18上に結晶を成長させて成膜させる。このエピタキシャル成長では、基板18となる結晶の上に結晶成長を行い、下地の基板18の結晶面にそろえてn層13の結晶を配列させるものであるが、その具体的な手法としては、例えば有機金属気相成長法(MOCVD)、分子線エピタキシー法、(MBE)、原子層エピタキシ(ALE)等を用いてもよい。n層13を所望の膜厚まで成長させた後、エピタキシャル成長を停止させる。
次に、このエピタキシャル成長させたn層13を有する基板18を装置から取り出し、イオン注入を行うためのイオン注入装置内に固定する。図11は、このイオン注入装置50の構成を示している。イオン注入装置50は、イオン源51からある電圧で引き出されたイオンビームIOを分析磁石52によって所望の種類のイオンだけを選択し、分析磁石52を通過した後のイオンビームIOを静電加速管53に通過させることによって、所望のエネルギーにするとともに偏向させて所定の入射角度でターゲット54に入射させるものである。イオン源51には、p層14を構成するイオンを使う。
このときイオンの加速エネルギーは10〜1000keVの範囲で使用される。この加速エネルギーが大きいほど、イオンを深さ方向Wに深く打ち込むことが可能となる。このため、深さ方向にドーパント分布の濃淡を形成させたい場合には、この打ち込むべきイオンの加速エネルギーを調節することにより、自在に実現することが可能となる。
本発明では、ターゲット54に相当する位置に、n層13を積層させた基板18を配設する。そして、イオン注入装置50を用いることによりイオンインプラントを行う。その結果、n層13内において図10(b)に示すような、p層14を構成する多くのイオン58が打ち込まれた状態となる。このp層14を構成するイオン58がインプラントされた領域が、p層14として機能することとなる。これに対して、エピタキシャル成長させたn層13中において、このp層14を構成するイオン58がインプラントされていない領域に関しては、そのままn層13としての機能を担うこととなる。その結果、pn接合の界面は、このインプラントされたp層14と、イオンの打ち込みが到達しなかったエピタキシャル膜としてのn層13との界面において形成されることとなる。
図12は、このようにインプラントされたp層14と、エピタキシャル膜としてのn層13との間で形成されるpn接合構造を模式的に示したものである。エピタキシャル膜としてのn層13の表面は非常に平滑な面で構成されるが、このようなn層13にp層を構成するイオンを打ち込むことにより、例えば図12(a)に示すようにそのn層13とp層14との界面において多数の凹凸が形成されやすくなる。このためn層13に加えp層14もエピタキシャル成長させる場合と比較して、pn接合体の作成時において、上述した微細形状Aと同一の形状が既に出来ている可能性が飛躍的に向上することとなる。かかる状態の下で順方向バイアス電圧が印加された場合に、元々微細形状Aと同一の形状が数多く作り出されていることから、これらが近接場光の発生の起点となる。そして近接場光が当初から多くの箇所に発生することとなり、当初から発光効率の向上を期待することができる。また、当初から多くの近接場光が発生させることでその後順方向バイアスの電圧を印加し続けることにより、元々微細形状Aとなっていない箇所においてもジュール熱による流動が進展し、その結果微細形状Aが形成された場合には、近接場光による非断熱過程に基づく複数段階での誘導放出を起こさせ、発光効率が順次上昇していくことになる。そして最終的に得られるエレクトロルミネッセンス素子の発光効率は、p層14をイオンインプラントしないでこれもエピタキシャル膜で構成した場合と比較しても飛躍的に向上させることが可能となる。
またn層13にp層を構成するイオンを打ち込むことにより、例えば図12(b)に示すようにそのn層13とp層14との界面においてドーパント分布の濃淡が形成されやすくなる。このためn層13に加えp層14もエピタキシャル成長させる場合と比較して、pn接合体の作成時において、近接場光を発生させる上で好適なドーパント分布が既に出来ている可能性が飛躍的に向上することとなる。かかる状態の下で順方向バイアス電圧が印加された場合に、元々近接場光を発生させる上で好適なドーパント分布が数多く作り出されていることから、これらが近接場光の発生の起点となる。そして近接場光が当初から多くの箇所に発生することとなり、当初から発光効率の向上を期待することができる。また、当初から多くの近接場光が発生させることでその後順方向バイアスの電圧を印加し続けることにより、元々近接場光を発生させる上で好適なドーパント分布となっていない箇所においてもジュール熱による流動が進展し、その結果、近接場光を発生させる上で好適なドーパント分布が形成された場合には、近接場光による非断熱過程に基づく複数段階での誘導放出を起こさせ、発光効率が順次上昇していくことになる。そして最終的に得られるエレクトロルミネッセンス素子の発光効率は、p層14をイオンインプラントしないでこれもエピタキシャル膜で構成した場合と比較しても飛躍的に向上させることが可能となる。
なお、本発明では、Siからなるn層13をエピタキシャル成長させた場合には、ホウ素イオン又はインジウムイオンをイオン注入してp層14を構成するようにしてもよい。また、SiCからなるn層13に対してAlイオンをイオン注入するようにしてもよい。
なお、本発明は、例えば図13に示すように深さ方向Tに向けて、ドーパント分布の濃淡を順次形成させるようにしてもよい。このとき、ドーパントの濃度の分布は、深さ方向Tに向けてランダム又はある特有の周期を持って変化させている。
このような深さ方向Tへのドーパント濃度の分布を持たせるためには、イオン注入の加速度を打ち込む深さ方向に断続的に異ならせる。例えば、30keVの加速エネルギーで打ち込みを行うことでp層の表面から深さ100nmにドーパント濃度を大きくすることができる。70keVの加速エネルギーで打ち込みを行うことで深さ150nmにドーパント濃度を大きくすることができる。330keVの加速エネルギーで打ち込みを行うことで深さ300nmにドーパント濃度を大きくすることができる。700keVの加速エネルギーで打ち込みを行うことで深さ500nmにドーパント濃度を大きくすることができる。
このように深さ方向Tに向けて連続ではなく、あくまで断続的に加速エネルギーを互いに異ならせることにより、深さ方向Tにドーパント分布の濃淡を順次形成させることが可能となる。
このような深さ方向Tに向けてドーパント分布の濃淡を順次形成させることにより、当該深さ方向Tにおいても近接場光の発生点を多層的に形成させることが可能となる。その結果、図13に示すように、深さ方向Tにおいてドーパントの濃度の高いところは、p層14として機能し、深さ方向Tにおいてドーパントの濃度の低いところは、n層13として機能することとなるため、pn接合界面が深さ方向Tに向けて多段階に亘って形成されることになる。その結果、かかるpn接合界面が深さ方向Tに向けて多段階に形成される分、近接場光の発生の起点となる特有のドーパントの分布の発生確率が増加することとなる。
そして近接場光が当初から深さ方向Tに向けて多段階に亘り発生することとなり、当初から発光効率の向上を期待することができる。また、当初から深さ方向Tに向けて多段階に亘り近接場光が発生させることでその後順方向バイアスの電圧を印加し続けることにより、ジュール熱による流動が進展する。そして、同様に近接場光を発生させる上で好適なドーパント分布が形成された場合には、近接場光による非断熱過程に基づく複数段階での誘導放出を起こさせ、発光効率が順次上昇していくことになる。
なお、上述した実施の形態では、あくまでn層13をエピタキシャル成長させ、その後p層14を構成するイオンをイオンインプラントする場合について説明をしたが、これに限定されるものではない。即ち、p層14をエピタキシャル成長させ、その後n層13を構成するイオンをイオンインプラントするようにしてもよく、かかる場合においても同様のメカニズムを以って発光効率を向上させることができることは勿論である。
1 EL素子
2 電源
13 n層
14 p層
30 半導体層
35 接合部
18 基板
50 イオン注入装置
51 イオン源
52 分析磁石
53 静電加速管

Claims (10)

  1. p層及びn層を含む半導体層を備えるエレクトロルミネッセンス素子において、
    順方向バイアス電圧を印加することにより上記p層と上記n層の接合部に拡散電流を発生させ、上記発生された拡散電流により生じるジュール熱に基づいて何れか1以上の上記層の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させることを繰り返すとともに、上記順方向バイアス電圧により伝導帯と価電子帯に反転分布を生じさせ、
    上記変化後の表面形状及び/又はドーパント分布に基づいて近接場光が発生した箇所では、上記反転分布を形成している上記伝導帯中の電子を非断熱過程に基づいて複数段階で誘導放出させることにより、上記拡散電流を減少させて上記ジュール熱を低下させることにより、表面形状及び/又はドーパント分布を固定させるとともに、上記誘導放出により発光させること
    を特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
  2. 上記発生した近接場光による非断熱過程に基づいて、
    上記伝導帯中の電子を振動準位に仮想的に遷移させて再度伝導帯に戻ることにより上記拡散電流によるジュール熱に寄与する仮想遷移パターンと、
    上記伝導帯中の電子を振動準位に仮想的に遷移されてなる電子を発光させ、或いは上記伝導帯中の電子を複数段階で誘導放出させることにより発光させる発光パターンとを有すること
    を特徴とする請求項1記載のエレクトロルミネッセンス素子。
  3. 上記p層は、シリコン基板であり、上記n層は、そのシリコン基板にインプラントされたホウ素であること
    を特徴とする請求項1又は2記載のエレクトロルミネッセンス素子。
  4. p層及びn層を含む半導体層を備えるエレクトロルミネッセンス素子の作製方法において、
    順方向バイアス電圧を印加することにより上記p層と上記n層の接合部に拡散電流を発生させ、上記発生された拡散電流により生じるジュール熱に基づいて何れか1以上の上記層の表面形状及び/又はドーパント分布を変化させることを繰り返すとともに、上記順方向バイアス電圧により伝導帯と価電子帯に反転分布を生じさせ、
    上記変化後の表面形状及び/又はドーパント分布に基づいて近接場光が発生した箇所では、上記反転分布を形成している上記伝導帯中の電子を非断熱過程に基づいて複数段階で誘導放出させることにより、上記拡散電流を減少させて上記ジュール熱を低下させることにより、表面形状及び/又はドーパント分布を固定させること
    を特徴とするエレクトロルミネッセンス素子の作製方法。
  5. 基板上にエピタキシャル成長させたn層に対して、p層を構成するイオンをイオン注入することにより、上記半導体層を作製し、
    作製した上記半導体層に上記順方向バイアスの電圧を印加すること
    を特徴とする請求項4記載のエレクトロルミネッセンス素子の作製方法。
  6. 基板上にエピタキシャル成長させたp層に対して、n層を構成するイオンをイオン注入することにより、上記半導体層を作製し、
    作製した上記半導体層に上記順方向バイアスの電圧を印加すること
    を特徴とする請求項4記載のエレクトロルミネッセンス素子の作製方法。
  7. 上記イオン注入を通じて、上記n層と上記p層との間に凹凸の表面形状又はドーパント分布の濃淡を形成させ、当該凹凸の表面形状又はドーパント分布の濃淡に基づいて上記近接場光の発生の起点とすること
    を特徴とする請求項5又は6記載のエレクトロルミネッセンス素子の作製方法。
  8. 上記イオン注入の加速度を打ち込む深さ方向に断続的に異ならせることにより、当該深さ方向にドーパント分布の濃淡を順次形成させること
    を特徴とする請求項5〜7のうち何れか1項記載のエレクトロルミネッセンス素子の作製方法。
  9. Siからなるn層に対してホウ素イオン又はインジウムイオンをイオン注入し、又はSiCからなるn層に対してAlイオンをイオン注入すること
    を特徴とする請求項4記載のエレクトロルミネッセンス素子の作製方法。
  10. 請求項4〜8のうち何れか1項記載の作製方法により作製されたことを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
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