JP2012180294A - テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の製造方法、半導体層形成用組成物、電子デバイスの製造方法、太陽電池及び太陽電池モジュール - Google Patents

テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の製造方法、半導体層形成用組成物、電子デバイスの製造方法、太陽電池及び太陽電池モジュール Download PDF

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Abstract

【課題】電子デバイスで好適に用いられるテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体の高純度製造法の提供。
【解決手段】テトラビシクロポルフィリン化合物とバナジル化合物の反応を65℃以上95℃以下の温度で行う。式(2)の錯体の製造方法。
Figure 2012180294

【選択図】なし

Description

本発明は、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の製造方法、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を含有する半導体層形成用組成物、電子デバイスの製造方法、太陽電池及び太陽電池モジュールに関する。
有機化合物を半導体材料として含む電子デバイスが注目されている。例えば、軽量化及び薄膜化がより容易である、有機化合物半導体系太陽電池が現在注目されている。有機化合物半導体系太陽電池においては、有機化合物を光電変換素子の構成要素として用いる。その中でも、光電変換素子を作製するのにテトラベンゾポルフィリンを用いる例が、特許文献1に記載されている。
テトラベンゾポルフィリンに対して中心金属や置換基を導入することは、長波長(600nm以上)の光を吸収できるp型半導体化合物を得る1つの方法である。しかしながらテトラベンゾポルフィリンはあらゆる溶媒に難溶又は不溶であることから、テトラベンゾポルフィリンに対して中心金属を直接導入することは極めて困難であった。同時に、半導体材料として用いられる高純度品を得るために必要な精製を行うこともまた困難であった。特許文献2及び非特許文献2には、テトラベンゾポルフィリンの前駆体であるテトラビシクロポルフィリンに亜鉛、銅などの金属を導入し、得られたテトラビシクロポルフィリン金属錯体を加熱することにより、対応するテトラベンゾポルフィリン金属錯体が得られることが報告されている。また非特許文献2には、このテトラベンゾポルフィリン金属錯体が700nm程度の波長の光に対して吸収特性を示すことが報告されている。
特許文献3には、p型半導体材料の例としてテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体が挙げられている。しかしながら、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体の具体的な製造方法については触れられていない。また、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体の特性も不明であった。一方で非特許文献1及び3には、オクタエチルポルフィリンにバナジル(V=O)を導入することにより、ポルフィリンバナジル錯体を合成する方法が記載されている。バナジルを導入する際には、非特許文献1では酢酸(沸点118℃)−ピリジン(沸点115℃)溶媒還流条件という高温条件が、非特許文献3ではN,N−ジメチルホルムアミド(沸点153℃)還流条件という高温条件が、それぞれ用いられている。
国際公開第2007/126102号 特開2003−304014号公報 特開2010−192891号公報
R.Bonnett et al. Tetrahedron 1978,34,379−385. S.Ito et al. Chem.Commun.,1998,1661−1662. 倉谷 聡、尾上 義明、西川 泰治 分析化学,1990,39,95−101.
光電変換素子、特に太陽電池においては、なるべく幅広い光、特に近赤外光をも利用できるように、長波長の光を吸収できる材料を用いることが理想的である。しかしながら本願発明者らの検討によれば、テトラベンゾポルフィリンをp型半導体材料とする有機薄膜光電変換素子は、720nm以上の長波長領域における光吸収がほとんどないため、長波長の太陽光を利用した発電能力は不十分であった。また、非特許文献1に記載のテトラベンゾポルフィリン亜鉛錯体、及びテトラベンゾポルフィリン銅錯体もまた、長波長領域における光吸収が不十分であることが見出された。
しかしながら、半導体材料としてのテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を製造することは困難であった。上述のように、半導体材料として用いられる高純度のテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を製造するためには、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体をまず製造することが有利である。しかしながら非特許文献1及び3に示されるように、ポルフィリン環にバナジルを導入するためには高温条件が必要とされる。本願発明者らがテトラビシクロポルフィリンにバナジルを導入するために高温条件を用いたところ、テトラビシクロポルフィリンがテトラベンゾポルフィリンに変化してしまい、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を得ることはできなかった。
本発明は、電子デバイスにおいて好適に用いられるテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を、高純度に得ることを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の製造方法を見出すことにより、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 下記一般式(2)で表されるテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の製造方法であって、
下記一般式(1)で表されるテトラビシクロポルフィリン化合物とバナジル化合物とを反応させる工程を含み、
前記反応を、65℃以上95℃以下の温度で行うことを特徴とする、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の製造方法。
Figure 2012180294
Figure 2012180294
(式(1)及び式(2)において、R〜Rはそれぞれ独立に1価の有機基を表し、RとR、RとR、RとR10、及びR11とR12の組のそれぞれについて、一方は以下の式(3)に示されるRであり、他方は式(3)に示されるRであり、R13〜R16は1価の有機基を表す。)
Figure 2012180294
[2] [1]に記載の製造方法により得られたテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を含有する半導体層形成用組成物。
[3] [2]に記載の半導体層形成用組成物を基材上に塗布する工程と、
前記塗布された半導体層形成用組成物に含まれている前記一般式(2)で表されるテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を、前記一般式(1)で表されるテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体へと変換する工程と、
を含むことを特徴とする、電子デバイスの製造方法。
[4] 前記電子デバイスが光電変換素子であることを特徴とする、[3]に記載の電子デバイスの製造方法。
[5] [4]に記載の製造方法により得られた光電変換素子を備えることを特徴とする太陽電池。
[6] [5]に記載の太陽電池を備えることを特徴とする太陽電池モジュール。
電子デバイスにおいて好適に用いられるテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を、高純度に得ることができる。
本発明の一実施例としての光電変換素子の構成を模式的に示す断面図である。 本発明の一実施例としての太陽電池の構成を模式的に示す断面図である。 本発明の一実施例としての太陽電池モジュールの構成を模式的に示す断面図である。 本発明の一実施例としての電界効果トランジスタの構成を模式的に示す断面図である。
以下に、本発明の実施例を詳細に説明する。以下で説明される実施例は、本発明の実施例の一例(代表例)にすぎず、以下の実施例に本発明が限定されるわけではない。
[1.本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体]
以下で、一般式(2)で表される化合物の製造方法について説明する。一般式(2)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物とバナジル化合物とを反応させることによって生成されうる。
Figure 2012180294
Figure 2012180294
式(1)及び式(2)において、R〜Rはそれぞれ独立に1価の有機基を表し、RとR、RとR、RとR10、及びR11とR12の組のそれぞれについて、一方は以下の式(3)に示されるRであり、他方は式(3)に示されるRであり、R13〜R16は1価の有機基を表す。
Figure 2012180294
本明細書においては、一般式(1)で表される化合物をテトラビシクロポルフィリンと呼び、一般式(2)で表される化合物をテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体と呼ぶ。以下で、一般式(1)で表されるテトラビシクロポルフィリンと、一般式(2)で表されるテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体とについて詳しく説明する。
<1.1 テトラビシクロポルフィリン(1)>
まず、一般式(1)で表されるテトラビシクロポルフィリンについて説明する。
Figure 2012180294
式(1)において、R〜Rは、それぞれ独立に1価の有機基を示す。R〜Rは、それぞれ異なる有機基であってもよいし、同じ有機基であってもよい。これらの有機基は1価の有機基であればよく、特には限定されない。
しかしながらR〜Rは、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキル基、アルケニル基若しくはアルキニル基;炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキル基を持つアルコキシ基;カルボキシル基;炭素数1〜20のアシル基;炭素数0〜20のアミノ基;ニトロ基;シアノ基;ハロゲン基;炭素数6〜30の芳香族炭化水素基;炭素数2〜30の複素環基;からなる群から選ばれることが好ましい。
アルキル基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、具体例としてはメチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、及びシクロヘキシル基などが挙げられる。
アルケニル基としては、炭素数2〜20のものが好ましく、具体例としてはビニル基、スチリル基、及びジフェニルビニル基などが挙げられる。
アルキニル基としては、炭素数2〜20のものが好ましく、具体例としてはメチルエチニル基、フェニルエチニル基、及びトリメチルシリルエチニル基などが挙げられる。
アルコキシ基としては、炭素数2〜20のものが好ましく、具体例としてはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、及びt−ブトキシ基などの、直鎖又は分岐鎖を有するアルコキシ基が挙げられる。
アシル基としては、炭素数2〜20のものが好ましく、具体例としてはアセチル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、i−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、i−ブチルカルボニル基、t−ブチルシカルボニル基、などが挙げられる。
アミノ基としては、炭素数0〜20のものが好ましく、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のアルキルアミノ基や、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、カルバゾイル基等のアリールアミノ基が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、これらは単環基に何ら限定されず、縮合多環式炭化水素基又は環縮合炭化水素基であってもよい。具体例としてはフェニル基などの単環基;ビフェニル基、フェナントリル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、ピレニル基、及びペリレニル基などの縮合多環式炭化水素基;ビフェニル基、及びターフェニル基などの環縮合炭化水素基などが挙げられる。芳香族炭化水素基として好ましくは、フェニル基又はナフチル基である。
複素環基としては、炭素数4〜30のものが好ましく、具体例としてはピリジル基、チエニル基、フリル基、オキサゾール基、チアゾール基、オキサジアゾール基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピラゾイル基、イミダゾイル基及びフェニルカルバゾイル基などが挙げられる。複素環基として好ましくは、ピリジル基、チエニル基、イミダゾイル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、又はフェナントリル基である。
芳香族炭化水素基、複素環基、及びアルキル基を含むこれらの置換基は、置換基上に更に置換基を有していてもよい。更に有してもよい置換基としては、アリール基、アリールアミノ基、アルキル基、ハロゲン基、カルボキシル基、シアノ基、アルコキシル基、アリールオキシ基、カルボニル基、オキシカルボニル基及び複素環基などが挙げられる。好ましくは、フルオロ基を含むハロゲン基、炭素数6〜16のアリール基、炭素数12〜30のアリールアミノ基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜10のオキシカルボニル基、シアノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜16のアリールオキシ基、炭素数2〜16のカルボニル基、又は炭素数2〜20の芳香族複素環基である。これらの中でも、フルオロ基は立体的に小さく、かつ電子吸引性により化合物のHOMOエネルギー準位を低くすることが考えられるため、フルオロ基を有することはより好ましい。中でも、R〜Rがフルオロ基で置換された炭素数1〜12のアルキル基であることが特に好ましい。
更に有してもよい置換基のうち、炭素数6〜16のアリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、ピレニル基、ペリレニル基、及びアントリル基などが挙げられる。炭素数12〜30のアリールアミノ基の例としては、ジフェニルアミノ基、カルバゾイル基、及びフェニルカルバゾイル基などが挙げられる。炭素数1〜12のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−ブチル基、及びt−ブチル基などが挙げられる。炭素数1〜10のオキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、及びエトキシカルボニル基などが挙げられる。炭素数1〜10のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、及びエトキシ基などが挙げられる。炭素数6〜16のアリールオキシ基の例としては、フェニルオキシ基などが挙げられる。炭素数2〜16のカルボニル基の例としては、アセチル基又はフェニルカルボニル基などが挙げられる。炭素数2〜20の芳香族複素環基の例としては、ピリジル基、チエニル基、オキサゾール基、オキサジアゾール基、フリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピラゾイル基、及びイミダゾイル基などが挙げられる。フルオロ基を有する炭素数1〜12のアルキル基の例としては、トリフルオロメチル基などが挙げられる。
式(1)において、RとR、RとR、RとR10、及びR11とR12の組のそれぞれは、以下の式(3)に示される有機基を表す。RとR、RとR、RとR10、及びR11とR12の組のそれぞれについて、一方は式(3)に示されるRであり、他方は式(3)に示されるRである。
Figure 2012180294
式(3)において、R13〜R16は1価の有機基を表す。ここで、1価の有機基には水素原子を含む。ここで、R13〜R16は、それぞれ異なる有機基であってもよいし、同じ有機基であってもよい。これらの有機基は1価の有機基であればよく、特には限定されない。例えば、R13〜R16は、R〜Rについて上で例示した有機基でありうる。R13〜R16は特に、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、及びシクロヘキシル基などが挙げられ、特に好ましくはメチル基又はエチル基である。
好ましい一例としては、R13〜R16が水素原子である場合が挙げられる。また他の好ましい例として、R13〜R16のうちの少なくとも1つが、水素以外の置換基を有する場合が挙げられる。具体的には、R13がメチル基であってもよいアルキル基などの置換基でありかつR14〜R16が水素原子である場合が挙げられる。また、R13及びR14がメチル基であってもよいアルキル基などの置換基でありかつR15及びR16が水素原子である場合も挙げられる。このような場合、本発明に係るテトラビシクロポルフィリン及び本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体は、より多くの異性体を有しうる。テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の異性体混合物は溶解度が高くなる可能性が高い。すなわち本発明に係るテトラビシクロポルフィリン及び本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体がより多くの異性体を有することは、溶液を調製することが容易となる点で好ましい。
<1.2 テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体(2)>
次に、一般式(2)で表されるテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体について説明する。
Figure 2012180294
式(2)において、R〜R16は式(1)と同様の基を表す。
<1.3 テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体(2)の製造方法>
本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の製造方法について、次に説明する。本発明にテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体は、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンを用いて合成することができる。本発明に係るテトラビシクロポルフィリンの合成方法に特に制限はない。例えば、Chem.Commun.1998,1661−1662.に記載されている以下の方法に従って、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンを合成することができる。当業者なら理解できるように、反応基質を適切に選択することにより、有機基R〜R及びR13〜R16を、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンに導入することができる。例えば、1,3−シクロヘキサジエンの代わりに、置換基が導入された1,3−シクロヘキサジエンを用いることができる。
Figure 2012180294
本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体は、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンと、バナジル化合物とを反応させることにより合成することができる。この際の反応温度は、65℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上であり、95℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下、特に好ましくは80℃以下である。温度が低すぎると、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の生成速度が非常に遅いか、又はテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体が生成しない。一方で温度が高すぎると、後述のようにテトラビシクロポルフィリン(又はテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体)が熱分解する。したがって、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を合成する際には、反応温度を以上の範囲に設定することが好ましい。
バナジル化合物としては特に制限は無いが、硫酸バナジル水和物、塩化バナジル水和物、バナジルアセチルアセトナトなどを用いることができる。その中でも、硫酸バナジル水和物が好ましい。硫酸バナジル水和物は、好ましい反応溶媒であるカルボン酸に対して溶解性が比較的高い。したがって硫酸バナジル水和物を用いることにより、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の収率を向上させることができる。
本発明に係るテトラビシクロポルフィリンの反応前の溶液における濃度は、特段の制限はないが、通常0.1mmol/L以上、好ましくは1mmol/L以上、より好ましくは5mmol/L以上であり、通常1mol/L以下、好ましくは100mmol/L以下、より好ましくは20mmol/L以下である。本発明に係るテトラビシクロポルフィリンの濃度をこの範囲にすることにより、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンよりよく溶解させることができ、さらに二量体などの会合体形成を避けることができるため、収率が向上しうる。
本発明に係るバナジル化合物の反応前の濃度は、特段の制限はないが、通常0.2mmol/L以上、好ましくは2mmol/L以上、より好ましくは10mmol/L以上であり、通常2mol/L以下、好ましくは200mmol/L以下、より好ましくは40mmol/L以下である。バナジル化合物の濃度をこの範囲にすることにより、バナジル化合物をよりよく溶解させることができるため、収率が向上しうる。
本発明に係るテトラビシクロポルフィリンに対するバナジル化合物の量は、特段の制限は無いが、通常0.5モル当量以上、好ましくは1.0モル当量以上、より好ましくは1.5モル当量以上であり、通常10モル当量以下、好ましくは5.0モル当量以下、より好ましくは3.0モル当量以下である。より多くのバナジル化合物を加えることにより、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンの会合を抑制することができる。このことは、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の収率を向上させることが可能となる点で好ましい。また、加えるバナジル化合物の量をより少なくすることにより、コストを抑えることができる。本明細書においてモル当量は次のように定義する。すなわち、aモルの化合物Aとbモルの化合物Bとについて、化合物Aに対する化合物Bのモル当量はb/aである。
さらに本発明に係るテトラビシクロポルフィリンとバナジル化合物との反応において、反応時間、反応溶媒、及び反応に用いる触媒を選択することにより、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の収率を上げることができる。
反応時間に特段の制限はないが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上であり、一方、通常360時間以下、好ましくは200時間以下である。反応時間を5時間以上200時間以下にすることにより、反応が十分に進まずに収率が低下すること、及びテトラビシクロポルフィリン(又はテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体)が熱分解することを避けることができる。
反応溶媒にも特段の制限はないが、例えば、酢酸などのカルボン酸を含む弱酸、スルホン酸、などの有機酸が挙げられる。その中でもカルボン酸が好ましく、より好ましくは酢酸(特に氷酢酸)である。カルボン酸に代表される有機酸を用いることは、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンとバナジル錯体との双方を充分溶解させることができ、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の収率を向上させることが可能となる点で好ましい。
本発明に係るテトラビシクロポルフィリンとバナジル化合物との反応においては、触媒を加えることは必須ではないが、触媒を加えることにより収率が向上しうる。触媒としては例えば塩を用いることができ、例えばカルボン酸ナトリウム及びカルボン酸カリウムなどのカルボン酸塩が挙げられる。その中でも弱酸と強塩基との塩、例えばカルボン酸ナトリウムが好ましく、より好ましくは酢酸ナトリウムである。特に酢酸のような酸を溶媒として用いる場合に、弱酸と強塩基との塩を用いることにより、溶液を弱酸性に維持することができる。また、塩を用いることによりバナジル化合物から生じるアニオンをトラップすることができる。すなわち、硫酸バナジルなどの強酸のバナジル塩をバナジル化合物として用いる場合に、弱酸と強塩基との塩は、反応によって生じた硫酸などの強酸をトラップすることができる。
本反応に用いる触媒量に特段の制限はないが、通常本発明に係るテトラビシクロポルフィリンに対して0.1モル当量以上、好ましくは1モル当量以上、より好ましくは5モル当量以上であり、通常100モル当量以下、好ましくは50モル当量以下、より好ましくは10モル当量以下である。反応溶液に対してより多くの触媒を加えることにより、反応溶液の緩衝作用及び酸のトラップ作用を維持しつつ、効率よく反応を進めることができる。また、触媒量を減らすことにより、コストを抑えることができる。
この反応において、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の収率は、通常5%以上、好ましくは7%以上、より好ましくは10%以上、特に好ましくは15%以上である。ここで収率は、反応前の本発明に係るテトラビシクロポルフィリンに対する、生成した本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体のモル比である。
以下に、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の合成方法の一例を示す。
Figure 2012180294
<1.4 テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の変換反応>
以下の式に示すように、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を加熱することにより、式(4)の化合物を得ることができる。以下では、式(4)の化合物を本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体と呼ぶ。
Figure 2012180294
加熱温度は変換反応が進むのであれば特段の制限は無いが、通常100℃以上、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上であり、一方、通常250℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。温度がより低い場合には反応をより長時間行うことが好ましく、150℃では3時間以上、180℃では10分以上、200℃では5分以上の反応を行うことが望ましい。より高温でより長時間反応を行うことにより、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体の収率を高めることができる。一方で、特にテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を基材に塗布してから変換反応を行う場合、より低温でより短時間の反応を行うことにより、加熱が基材に与える影響を減らすことができる。
テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体はp型半導体材料として用いることができ、例えば光電変換素子、電界効果トランジスタ(FET)などの電子デバイスに用いることができる。しかしながらテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体は結晶性が非常に高いため、溶解性が低いために精製が困難であり、すなわち純度を高めることが難しい。また、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体は溶解性が低いために成形することが困難である。例えば、電子デバイスに用いるためにテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体の膜を形成することは難しい。
一方で本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体は、立体的にかさ高いビシクロ構造を有するため、結晶性が悪い。また、ビシクロ構造を有する分子は溶解性が良好であることが多い。また、ビシクロ構造を有する分子の溶液を塗布した際には、結晶性の低い膜又はアモルファス膜が得られることが多い。このように、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の膜を形成することは、比較的容易である。
上述の変換反応を行うことにより、結晶性の悪い本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体は、分子構造の平面性が高いすなわち結晶性の良好な、本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体に変化する。したがって、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の膜を例えば塗布法によって形成した後に、上述の変換反応を行うことにより、結晶性の良好な本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体の膜を得ることができる。特にテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体の溶解性が低い場合に、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体をテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体に変換する方法は有利となる。このようにテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体は、p型半導体材料であるテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体の前駆体であり、以降簡略化のために単に「前駆体」と呼ぶことがある。
ところで、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体の用途によっては、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の一部のみを変換してもよい。テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の一部のみを変換することにより、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体の性質を調整することができる。この場合、上述した反応温度よりも低温あるいは短時間の加熱を行えばよい。また、変換反応を行う際には、ヒーターを用いた伝熱による加熱の他、炭酸ガスレーザー又は赤外線ランプを用いることができる。さらには、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体が吸収する波長の光を照射してもよい。この際、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の近傍に光を吸収する層を設け、光をこの層で吸収させることにより、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を加熱することも可能である。加熱反応における反応雰囲気は特に限定されないが、窒素又はアルゴンのような不活性ガス中、あるいは真空中が望ましい。
[2 本発明に係る半導体層形成用組成物]
本発明に係る半導体層形成用組成物は、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体と、溶媒とを含有する。本発明に係る半導体層形成用組成物が含有する本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体は、上記の方法に従って合成されうる。
本発明に係る半導体層形成用組成物を用いることにより、上述のように、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体の層を容易に作製することができる。具体的には、本発明に係る半導体層形成用組成物を用いて成膜を行う。例えば塗布法を用いることにより、本発明に係る半導体層形成用組成物の層を作製することができる。その後上述のように、本発明に係る半導体層形成用組成物に含まれるテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体をテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体へと変換することができる。特にテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体の溶解性が低い場合に、本発明に係る半導体層形成用組成物を用いることは有利である。
例えば、本発明に係る半導体層形成用組成物を基材上に塗布するなどの方法により、基材上に半導体層形成用組成物の層を形成する。そして本発明に係る半導体層形成用組成物に含まれるテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体をテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体へと変換することにより、電子デバイスに用いられる半導体層を形成することができる。
本発明に係る半導体層形成用組成物が含有する溶媒の種類としては、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を均一に溶解あるいは分散できるものであれば特に限定されない。例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン又はデカンなどの脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、クロロベンゼン又はオルトジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール又はプロパノールなどの低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン又はシクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル又は乳酸メチルなどのエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン又はトリクロロエチレンなどのハロゲン炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン又はジオキサンなどのエーテル類;ジメチルホルムアミド又はジメチルアセトアミドなどのアミド類などが挙げられる。その中でも好ましくは、トルエン又はキシレンなどの非ハロゲン系芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン又はデカンなどの非ハロゲン系炭化水素類;メタノール、エタノール又はプロパノールなどの非ハロゲン系低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン又はシクロヘキサノンなどの非ハロゲン系ケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル又は乳酸メチルなどの非ハロゲン系エステル類;ジエチルエーテル、ジ(n−プロピル)エーテル、ジ(i−プロピル)エーテル、ジ(n−ブチル)エーテル、テトラヒドロフラン又は1,4−ジオキサンなどの非ハロゲン系脂肪族エーテル類が挙げられ、特に好ましくはトルエン又はキシレンなどの非ハロゲン系芳香族炭化水素類;シクロペンタノン又はシクロヘキサノンなどの非ハロゲン系ケトン類;テトラヒドロフラン又は1,4−ジオキサンなどの非ハロゲン系脂肪族エーテル類;及びクロロホルムなどのハロゲン炭化水素類が挙げられる。なお、溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
本発明に係る半導体層形成用組成物は、2種類以上の本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を含有していてもよい。例えば本発明に係る半導体層形成用組成物は、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の異性体混合物を含有していてもよい。本発明に係る半導体層形成用組成物が含むテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の量に特に制限はないが、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上であり、通常10重量%以下、好ましくは1重量%以下である。含有量がこの範囲にあることにより、成膜がより容易となり、保存安定性が向上する傾向がある。本発明に係る半導体層形成用組成物はさらに、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体及び溶媒以外の物質を含んでいてもよい。
本発明に係る半導体層形成用組成物は、溶液状態における保存安定性が良好でありうる。保存安定性が良好であるとは、組成物を調製後25℃にて静置した場合に、通常1日経過後、好ましくは2日経過後、さらに好ましくは7日経過後、特に好ましくは20日経過後に、固体が析出しないことをいう。本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体は、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体よりも分子間相互作用が弱いものと考えられる。したがってテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を含有する半導体層形成用組成物は、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を含む組成物よりも保存安定性が高いものと考えられる。また、本発明に係る半導体層形成用組成物が本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の異性体混合物を含む場合、保存安定性が高くなりうるため、好ましい。この詳細なメカニズムは明確ではないが、異性体間の分子間相互作用は、同一分子間の分子間相互作用よりも通常弱いことが理由の1つと考えられる。すなわち、複数の異性体が溶液内に混在する場合には、分子が規則的に配列することが困難となるため、分子の凝集、及び溶媒分子との相互作用による結晶化などによる、固体成分の析出が起こりにくくなることが想定される。このために、本発明に係る半導体層形成用組成物が含有する本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体が、より多くの異性体を有しうることは好ましい。
[3 本発明に係る電子デバイス]
次に、本発明に係る化合物を半導体材料として、電子デバイス、例えば半導体に用いる方法について説明する。本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を利用して得られる電子デバイスとは、本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を有機半導体材料として用い、2個以上の電極を有し、その電極間に流れる電流や生じる電圧を、電気、光、磁気、又は化学物質などにより制御するデバイス、あるいは、印加した電圧や電流により、光や電場、磁場を発生させる装置である。例えば、電圧や電流の印加により電流や電圧を制御する素子、磁場の印加による電圧や電流を制御する素子、化学物質を作用させて電圧や電流を制御する素子が挙げられる。この制御としては、整流、スイッチング、増幅、発振が挙げられる。
現在シリコンなどで実現されている対応するデバイスとしては、抵抗器、整流器(ダイオード)、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)、増幅素子(トランジスタ)、メモリー素子、化学センサーなど、あるいはこれらの素子の組み合わせや集積化したデバイスが挙げられる。また、光により起電力を生じる太陽電池や、光電流を生じるフォトダイオード、フォトトランジスタなどの光素子も挙げることができる。本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体は、これらの電子デバイスにおいて、有機半導体として用いることができる。中でも、本発明に係る電子デバイスは、電界効果トランジスタ、太陽電池、又はエレクトロルミネッセンス素子であることが好ましい。なお、本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を有機半導体として使用する場合、本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体以外の有機半導体を併用してもよい。
本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を、電子デバイスにおいて有機半導体以外の用途で用いてもよい。例えば、本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を用いて電子デバイスの所望の位置に膜を形成し、その膜の導電率を分子構造あるいはドーピングなどで制御することにより、この膜を配線に用いたりコンデンサやFET中の絶縁層に用いたりすることもできる。
電子デバイスのより具体的な例は、S.M.Sze著、Physics of Semiconductor Devices、2nd Edition(Wiley Interscience 1981)に記載されているものを挙げることができる。
本明細書において「半導体」とは、固体状態におけるキャリア移動度の大きさによって定義される。キャリア移動度とは、周知であるように、電荷をどれだけ速く(又は多く)移動されることができるかという指標となるものである。具体的には、本明細書における「半導体」は、室温におけるキャリア移動度が1.0x10−7cm/V・s以上、好ましくは1.0x10−6cm/V・s以上、より好ましくは1.0x10−5cm/V・s以上であることが望ましい。なお、キャリア移動度は、例えば電界効果トランジスタのIV特性、タイムオブフライト法などにより測定できる。また本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を含む半導体膜の特性としては、室温におけるキャリア移動度が1.0x10−7cm/V・s以上、好ましくは1.0x10−6cm/V・s以上、より好ましくは1.0x10−5cm/V・s以上であることが望ましい。
<基板処理>
本発明に係る電子デバイスは、基板上に作製するが、基板に対する基板処理により、電子デバイスの特性を向上させることができる。これは、基板の親水性/疎水性を調整することにより製膜の際に得られる膜質を向上させられること、特に基板と半導体層の界面部分の特性を改良できることがその原理であると推定される。このような基板処理としては、ヘキサメチルジシラザン、シクロヘキセン、オクタデシルトリクロロシランなどを用いた疎水化処理、塩酸や硫酸、酢酸などの酸や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニアなどを用いたアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴンなどを用いたプラズマ処理、ラングミュアブロジェット膜の形成処理、及びその他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理、などが挙げられる。
<膜厚>
本発明に係る電子デバイスにはテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体が用いられ、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体は、例えば基板上に形成される。この化合物を膜状に形成して薄膜電子デバイスに用いる場合、膜厚が薄いと十分に光吸収ができなかったり短絡することが多くなる。また、膜厚が厚くなると膜厚方向の抵抗が増して特性が劣化する事が多い。この観点から、好ましい膜厚は1nmから10μmの範囲であり、より好ましくは10nmから500nmの範囲である。また、基板上に均一な膜を形成するのではなく、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を含む溶液を液滴として付着させてから変換反応を行うことにより電子デバイスを製造する場合でも、この付着物の厚さが上記範囲であることが好ましい。
<混合>
本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体が電子デバイスの製造において単独で有機半導体として使用できることはもちろんであるが、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を他の化合物と混合して用いることもできる。さらには、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体の層と、他の化合物の層との積層構造を、電子デバイスに用いることもできる。
<成膜>
上述の通り、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を溶媒に溶解した後に塗布し、その後上記で述べたように変換反応を行うことによって、本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を含む電子デバイスを作製することが出来る。塗布の方法としては、キャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティングなどのコーティング法や、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷などの印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法などのソフトリソグラフィーの手法など、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法を用いることができる。さらに、塗布に類似の技術として、水面上に形成した単分子膜を基板に移すことにより積層を行うラングミュア・ブロジェット法、液晶や融液状態の化合物を2枚の基板で挟む方法、及び液晶や融液状態の化合物を毛管現象により基板間に導入する方法、なども挙げられる。
塗布液の溶媒、即ち、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を溶解させる溶媒としては、例えば有機溶媒が挙げられる。中でも、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、及びハロゲン非含有芳香族系溶媒からなる群より選ばれる溶媒が好ましい。ケトン系溶媒の具体例を挙げると、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン、メシチルオキシド、ホロン、イソホロン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、ショウノウなどが挙げられる。これらの中で、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンが更に好ましい。
また、エステル系溶媒の具体例を挙げると、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸sec−ヘキシル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、酪酸エステル、イソ酪酸エステル、イソ吉草酸エステル、ステアリン酸エステル、安息香酸エステル、桂皮酸エチル、アビエチン酸エステル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、γ−ブチロラクトン、シュウ酸エステル、マロン酸エステル、マレイン酸エステル、酒石酸ジブチル、クエン酸トリブチル、セバシン酸エステル、フタル酸エステル、エチレングリコールモノアセタート、二酢酸エチレン、エチレングリコールエステル、ジエチレングリコールモノアセタート、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、モノブチリン、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、ホウ酸エステル、リン酸エステルなどが挙げられる。これらの中で、安息香酸エステル、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールエステル、ジエチレングリコールモノアセタートが更に好ましく、安息香酸エステルが特に好ましく、安息香酸エチルが最も好ましい。
さらに、ハロゲン非含有芳香族系溶媒の具体例を挙げると、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン、p−シメン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジペンチルベンゼン、ドデシルベンゼン、テトラリン、アニソール、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、メトキシトルエン、アニリン、ベラトロール、ニトロベンゼンなどが挙げられる。これらの中で、トルエン、キシレン、テトラリン、アニソールが更に好ましい。なお、1種の溶媒を単独で用いてもよく、2種以上の溶媒を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
さらに、本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体又はテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を、真空プロセスにより基板上に成膜して半導体デバイスを作製することもできる。この場合には、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体又はテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体をルツボや金属のボートに入れて真空中で加熱し、基板に付着させる真空蒸着法を用いることが出来る。この際、真空度としては、通常1×10−3Torr以下、好ましくは1×10−5Torr以下である。なお、1Torr=1.33322×10Paである。
また、真空度と、蒸着源である本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体又はテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の加熱温度と、を調節することにより、蒸着プロセスを制御することができる。例えばテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体がテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体に変換される温度よりも高い温度で蒸着を行うことにより、変換後のテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を基板上に蒸着することができる。また、この温度よりも低い温度で蒸着を行うことにより、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を基板に蒸着することができる。そして基板上のテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を加熱することにより、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体をテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体に変換することができる。このような方法を用いることにより、本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を高純度で含む半導体層を得ることができる。
また、蒸着時の基板温度によりデバイスの特性が変化するので、最適な温度を選択することが好ましい。この観点から、蒸着時の温度は0℃から200℃の範囲が好ましい。また、均一な膜を形成することにより高性能な電子デバイスを作製する観点、及び蒸着にかかる時間を抑える観点から、蒸着速度は通常0.01Å/秒以上、好ましくは0.1Å/秒以上、また、通常100Å/秒以下、好ましくは10Å/秒以下である。材料を蒸発させる方法としては、加熱の他、加速したアルゴンなどのイオンを衝突させるスパッタ法も用いることが出来る。なお、1Å=10−10mである。
さらに、作製された半導体層は、後処理により特性を改良することが可能である。例えば、加熱処理により、成膜時に生じた膜中の歪みを緩和することができ、デバイス特性の向上及びデバイス特性の安定化を図ることができる。さらに、酸素又は水素などの酸化性又は還元性の気体や液体に半導体層をさらすことにより、酸化又は還元による特性変化を誘起することもできる。このことは例えば、半導体膜中のキャリア密度を増加又は減少させる目的で利用することができる。
また、ドーピングと呼ばれる技術を用いることもできる。すなわち、微量の原子、原子団、分子、又は高分子などを加えることにより、デバイス特性を望ましいものに変化させることができる。例えば、酸素、水素、塩酸、硫酸及びスルホン酸などのブレンステッド酸、PF、AsF及びFeClなどのルイス酸、ヨウ素などのハロゲン原子、ナトリウム及びカリウムなどの金属原子などを、ドーピング材料として用いることができる。ドーピング処理は、これらのガスに接触させること、これらの溶液に浸すこと、又は電気化学的な処理を行うことにより達成できる。ドーピング処理を行うのは膜の形成後でなくてもよい。例えば、本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体又はテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の合成時にドーピング材料を添加してもよい。また、溶液を用いて半導体層を形成する場合にはこの溶液にドーピング材料を添加してもよい。さらに、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の層を形成してからテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体に変換する場合、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の層に対してドーピングを行うこともできる。さらには、本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体又はテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を蒸着する際にドーピング材料を共蒸着すること、半導体層を形成する際の雰囲気にドーピング材料を混合すこと、及びドーピング材料のイオンを真空中で加速して膜に衝突させること、などによってドーピングを行うことも可能である。
これらのドーピング処理により、キャリア密度の増加あるいは減少による電気伝導度の変化、キャリアの極性の変化(p型、n型)、及びフェルミ準位の変化などが引き起こされるため、半導体デバイスの作製においてドーピング処理はよく利用されている。ドーピング処理は電界効果トランジスタ(FET)を含む様々な電子デバイスの作成時に行うことができる。
<電極、配線及び保護層>
光電変換素子及びFETを含む電子デバイス作製の為の電極及び配線には、金、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル、コバルト、チタン、及び白金などの金属、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリジアセチレンなどのドーピングされていてもよい導電性高分子、シリコン、ゲルマニウム、及びガリウムヒ素などのドーピングされていてもよい半導体材料、フラーレン、カーボンナノチューブ、及びグラファイトなどの炭素材料、などを用いることができる。電極及び配線を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、及びゾルゲル法などを用いることができる。また、電極及び配線を形成する際にパターニングを行う場合、フォトレジストのパターニングとエッチング液又は反応性のプラズマを用いたエッチングとを組み合わせたフォトリソグラフィー法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、及び凸版印刷などの印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法などのソフトリソグラフィー法、これらの方法の組み合わせ、などを用いることができる。また、レーザーや電子線などのエネルギー線を照射することにより、材料を除去し又は材料の導電性を変化させることにより、直接パターンを作製することも可能である。
さらに電子デバイスには、半導体特性を改良するため、又は外気の影響を最小限にするために、保護膜を形成することができる。保護膜としては、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、及びポリカーボネート樹脂などを含むポリマー膜、酸化ケイ素、窒化ケイ素、及び酸化アルミニウムなどの無機酸化膜又は無機窒化膜などが挙げられる。ポリマー膜を形成する方法としては、ポリマー材料の溶液を塗布して乾燥させる方法、モノマーを塗布あるいは蒸着してから重合させる方法が挙げられる。また、ポリマー膜に対して架橋処理を行うこと、及び多層からなる膜を形成することも可能である。無機物膜を形成する方法としては、スパッタ法、蒸着法などの真空プロセスを用いた方法、及びゾルゲル法に代表される溶液プロセスを用いた方法などを用いることができる。半導体特性を改良するために、半導体に接するポリマー膜の材料は、ポリスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリベンジルメタクリレート、ポリアセナフチレン、ポリカーボネート樹脂などの芳香環を含むものが好ましくい。半導体に接するポリマー膜の上に、例えば窒化ケイ素や酸化ケイ素などの無機膜、及びアルミニウムやクロムなどの金属膜などの、ガスバリア性を有する膜をさらに積層することが好ましい。用途などに応じて、電子デバイスには上述した以外の層や部材を設けてもよい。
[4 本発明に係る電界効果トランジスタ(FET)]
本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を適用するのに好適な電子デバイスの例としては、電界効果トランジスタ(FET)が挙げられる。以下、本発明に係るFETについて詳細に説明する。本発明に係るFETは、本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を半導体層の材料として含む。
図4は、本発明に係るFETの構造の一例を模式的に示す図である。図4において、1が半導体層、2が絶縁体層、3及び4がソース電極及びドレイン電極、5がゲート電極、6が基板をそれぞれ示す。図4(A)〜(D)は、それぞれが本発明に係るFETの構造の一例を示す。以下、本発明に係るFETのこれらの実施例について説明する。
ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極の各電極には、例えば、白金、金、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウムなどの金属の他、InO、SnO、ITOなどの導電性の酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレンなどの導電性高分子、塩酸、硫酸、スルホン酸などのブレンステッド酸、PF、AsF、FeClなどのルイス酸、ヨウ素などのハロゲン原子、ナトリウム、カリウムなどの金属原子などのドーパントを上述のような導電性高分子に対して添加したもの、カーボンブラックや金属粒子などが分散されている導電性の複合材料などの、導電性を有する材料が用いられる。
また、絶縁体層に用いられる材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などのポリマー及びこれらの共重合体、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタンなどの酸化物、窒化ケイ素などの窒化物、チタン酸ストロンチウムやチタン酸バリウムなどの強誘電性酸化物、並びにこれらの酸化物、窒化物、及び強誘電性酸化物などの粒子が分散されているポリマーなどが挙げられる。
一般に絶縁膜の静電容量が大きくなるほどゲート電圧を低電圧で駆動できることになるので、有利になる。このことは、誘電率の大きな絶縁材料を用いるか、又は絶縁体層の厚さを薄くする事で実現できる。絶縁体層は、塗布法(スピンコーティングやブレードコーティング)、蒸着法、スパッタ法、スクリーン印刷やインクジェットなどの印刷法、アルミにアルマイトを形成するように金属上に酸化膜を形成する方法など、材料特性に合わせた方法で作製することができる。
またFETは、通常基板上に作製する。基板としては任意のものを用いることができ、例えば、ポリマーの板若しくはフィルム、ガラス、コーティングにより絶縁膜が形成された金属、及びポリマーと無機材料の複合材料などを用いることができる。さらに、基板に処理を施すことにより、FETの特性を向上させることができる。これは基板の親水性/疎水性を調整することにより、成膜される半導体層の膜質を向上させること、特に基板と半導体層との界面部分の特性を改良することによるものと推定される。このような基板処理としては、ヘキサメチルジシラザン、シクロヘキセン、オクタデシルトリクロロシランなどを用いた疎水化処理、塩酸、硫酸、及び酢酸などの酸を用いた酸処理、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、及びアンモニアなどを用いたアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴンなどを用いたプラズマ処理、ラングミュアブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体又は半導体の薄膜の形成処理、などが挙げられる。
本実施例に係るFETにおいて半導体層は、基板上に直接又は他の層を介して半導体を膜状に形成したものである。本実施例に係るFETにおいて半導体層1は、本実施例に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を含む。もっとも半導体層1は、本実施例に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体以外に、他の化合物(他の有機半導体など)を含有していてもよい。また半導体層1は、異なる材料を含み又は異なる成分を有する複数の層で形成される積層構造を有してもよい。
半導体層1の膜厚に制限は無く、例えば横型の電界効果トランジスタの場合、所定の膜厚以上であれば素子の特性は半導体層1の膜厚には依存しない。ただし、膜厚が厚くなりすぎると漏れ電流が増加してくることが多いため、半導体層の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは10nm以上であり、コストの観点からは通常10μm以下、好ましくは500nm以下である。また、半導体層1は基板上に形成された均一な膜である必要はない。例えば、塗布液(有機半導体を適切な溶媒に溶解させた溶液)を液滴として付着させることにより、半導体層1が形成されていてもよい。この場合付着物の厚さは、上記の範囲内であることが好ましい。
[5 本発明に係る光電変換素子]
本発明に係る光電変換素子は、以下に詳しく説明するように、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を含む。本発明に係る光電変換素子は、長波長の光、特に720nm以上の光を、より効率的に電気へと変換することができる。
本発明に係る光電変換素子は、少なくとも1対の電極と、電極間に配置された活性層とを有する。そして、活性層には、本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を含む。以下で、本発明に係る光電変換素子の一実施例を説明する。図1に、本発明の一実施例である光電変換素子110を示す。図1は一般的な有機薄膜太陽電池に用いられる光電変換素子を表すが、本発明に係る光電変換素子は図1の構造に限られるわけではない。図1に係る光電変換素子110は、電極101,107と、活性層103,104,105とを有する。さらに本実施例に係る光電変換素子は、図1に示されるように、基板100と、バッファ層102,106とを有してもよい。図1においては、電極101は正極であり、電極106は負極である。もちろん、本発明の他の実施例において、正極と負極とが逆であってもよい。以下、これらの各部について説明する。
<5.1 活性層>
光電変換素子110の活性層はp型半導体材料とn型半導体材料とを含む。ここで、p型半導体材料には、少なくとも本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を含む。光が活性層に吸収されると、p型半導体とn型半導体との界面で電気が発生し、発生した電気が電極から取り出される。活性層の構造としては、p型半導体層とn型半導体層とが積層された薄膜積層型構造、p型半導体とn型半導体とが混合したバルクヘテロ接合型構造、p型半導体とn型半導体とが混合した層(i層)をp型半導体層とn型半導体層との間に有する構造、などが挙げられる。中でも、i層をp型半導体層とn型半導体層との間に有する構造は、光によって電気が発生する部分を厚くできることから好ましい。本実施例の光電変換素子110の活性層はi層を有する構造であり、具体的には活性層はp型半導体層103と、i層104と、n型半導体層105とによって構成されている。また、i層中にナノ構造を有することが、混合接合層から発生する電子とホールとを輸送するためのルートが供給されることにより、光電流が増大することから特に好ましい。
活性層の膜厚は特に限定されないが、活性層の膜厚は10〜1000nmが好ましく、50〜200nmがさらに好ましい。活性層の厚さが10nm以上であることで層の均一性が保たれるため、短絡を起こしにくくなる。又、活性層の厚さが1000nm以下であることにより、内部抵抗を小さくすることができ、さらに電極間の距離が近いことにより電荷の拡散を良好にすることができる。活性層のp型半導体層、i層、n型半導体層各層の厚みにも制限はないが、通常3nm以上、中でも10nm以上、また、通常200nm以下、中でも100nm以下とすることが好ましい。層厚を厚くすることにより、膜の均一性が高まる傾向がある。また、層厚を薄くすることで透過率が向上し、直列抵抗が低下する傾向がある。
活性層の形成方法に特に制限はないが、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法等の湿式塗布法等により形成することが好ましい。特にi層104は、p型半導体材料(又はp型半導体材料前駆体)とn型半導体材料とを含む溶液を塗布することによって生成されうる。溶媒の種類は、半導体材料を均一に溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチルなどのエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレンなどのハロゲン炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類等から選択することができる。
以下に、p型半導体層103及びi層104を構成するp型半導体材料、並びにn型半導体層105及びi層104を構成するn型半導体材料について説明する。
<5.1.1 p型半導体材料>
本実施例に係るp型半導体材料は、少なくとも本発明に係るテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を含む。したがって、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を含む層を形成し、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体をテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体に変換することにより、p型半導体層103を形成することができる。例えば、本発明に係る半導体層形成用組成物(テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を含む)を塗布することにより、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を含む層を形成する。その後加熱処理を行うことにより、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体を含むp型半導体層103を形成することができる。
同様に、本発明に係るテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体とn型半導体層を含む層を形成し、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体をテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体に変換することにより、i層104を形成することができる。p型半導体材料は、テトラベンゾポルフィリンバナジル錯体のみで構成されていてもよいし、他の化合物を含んでいてもよい。
<5.1.2 n型半導体化合物>
本実施例に係るn型半導体材料は、特に限定されない。例えば、フラーレン化合物、8−ヒドロキシキノリンアルミニウムに代表されるキノリノール誘導体金属錯体、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド及びペリレンテトラカルボン酸ジイミドなどの縮合環テトラカルボン酸ジイミド類、ターピリジン金属錯体、トロポロン金属錯体、フラボノール金属錯体、ペリノン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ビススチリル誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、ビピリジン誘導体、アントラセン、ピレン、ナフタセン、及びペンタセンなど縮合多環芳香族の全フッ化物、単層カーボンナノチューブ、ポリキノリン、ポリピリジン、ポリアニリン、ポリ(ベンゾビスイミダゾベンゾフェナントロリン)、ホウ素ポリマー、並びにシアノ置換されたポリフェニレンビニレンなどが挙げられる。n型半導体材料は、一種類の化合物で構成されていてもよいし、二種類以上の化合物で構成されていてもよい。
本実施例に係るn型半導体材料は、好ましくはフラーレン化合物である。本実施例に係るフラーレン化合物としては、より好ましくは、C60フラーレン化合物、又はC70フラーレン化合物である。特に好ましくは、互いに異なっていてもよい炭素数1〜50の有機基を2個有するC60フラーレン化合物又はC70フラーレン化合物である。また、2個の有機基が連結して環を形成していてもよい。互いに異なっていてもよい炭素数1〜50の有機基を2個有するC60フラーレン誘導体の具体例としては、ケイ素原子に芳香環基が結合しているシリルアルキル基を有機基として有するフラーレンが挙げられる。また、2個の有機基が連結して環を形成している場合の具体例としては、環がインデン類であるフラーレン、環がキノジメタン類であるフラーレン、PC61BM、PC71BMなどが挙げられる。フラーレン化合物の具体的構造としては、以下のようなものが挙げられる。
Figure 2012180294
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<5.2 電極>
本実施例に係る電極は、光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有するものである。本実施例の電極は、一対の正極101と負極107とで構成される。電極の材料は、導電性を有するものであれば特に限定されるものではない。しかしながら正極101は、正孔の捕集に適した電極であることが好ましい。また、負極107は、電子の捕集に適した電極であることが好ましい。一対の電極は、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であっても構わない。透光性があるとは、太陽光が40%以上透過する程度のものである。又、透明電極の太陽光線透過率が70%以上であることが、透明電極を透過させて活性層に光を到達させるためには、好ましい。なお、光の透過率は、通常の分光光度計で測定可能できる。
正孔の捕集に適した電極とは、一般には仕事関数が負極電極よりも高い値を有する導電性材料で、活性層で発生した正孔をスムーズに取り出す機能を有する電極である。正孔の捕集に適した電極の材料を挙げると、例えば、酸化ニッケル、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、インジウムージルコニウム酸化物(IZO)、酸化チタン、酸化インジウム、酸化亜鉛などの導電性金属酸化物、金、白金、銀、クロム、コバルトなどの金属あるいはその合金が挙げられる。
これらの物質は高い仕事関数を有するため、好ましく、さらに、ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルフォン酸をドーピングしたPEDOT/PSSで代表されるような導電性高分子材料を活性層との間に積層することができるため、好ましい。このような導電性高分子を積層した場合には、その導電性高分子材料の仕事関数が高いことから、上記のような高い仕事関数の材料でなくとも、AlやMgなどの負極に適した金属も広く用いることが可能である。ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルフォン酸をドーピングしたPEDOT/PSSや、ポリピロール及びポリアニリンなどにヨウ素などのドーピングした導電性高分子材料を、正孔の捕集に適した電極の材料として使用することもできる。
また、正極101が透明電極である場合には、ITO、酸化亜鉛、酸化錫などの透光性がある導電性金属酸化物を用いることが好ましく、特にITOが好ましい。正極101の膜厚は特に制限は無いが、通常10nm以上、好ましくは20nm以上、より好ましくは50nm以上であり、一方、通常10μm以下、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは300nm以下、特に好ましくは100nm以下である。正極101の膜厚を10nm以上により厚くすることにより、シート抵抗が抑えられて性能が向上する。正極101の膜厚を10μm以下により薄くすることにより、光透過率が低下せずに効率よく光を電気に変換することができ、かつコストを抑えることができる。透明電極に用いる場合には、光透過率とシート抵抗を両立する膜厚を選ぶ必要がある。正極101のシート抵抗は特段の制限はないが、電流を増加させる観点から、通常1Ω/□以上、一方、1000Ω/□以下、好ましくは500Ω/□以下、さらに好ましくは100Ω/□以下である。
正極101の形成方法は、蒸着、スパッタなどの真空成膜方法、ナノ粒子や前駆体を含有するインクを塗布して成膜する方法などがある。
電子の捕集に適した電極とは、一般には仕事関数が正孔の捕集に適した電極よりも高い値を有する導電性材料であり、活性層で発生した電子をスムーズに取り出す機能を有する。
電子の捕集に適した電極の材料を挙げると、例えば、白金、金、銀、銅、鉄、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム及びマグネシウムなどの金属及びその合金、フッ化リチウム、フッ化セシウムなどの無機塩、酸化ニッケル,酸化アルミニウム、酸化リチウム及び酸化セシウムのような金属酸化物などが挙げられる。これらの材料は低い仕事関数を有する材料のため、好ましい。またチタニアのようなn型半導体で導電性を有する材料を活性層との間に積層する場合には、正孔の捕集に適した高い仕事関数を有する材料も用いることができる。電極保護の観点から、電子の捕集に適した電極の材料として好ましくは、白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウム、カルシウム及びインジウムなどの金属、又はこれら金属を用いた合金である。
負極107の膜厚は特に制限は無いが、通常10nm以上、好ましくは20nm以上下、より好ましくは50nm以上である。一方、通常10μm以下、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは300nm以下、特に好ましくは100nm以下である。透明電極に用いる場合には、光透過率とシート抵抗を両立する膜厚を選ぶ必要がある。負極107の膜厚を10nm以上により厚くすることにより、シート抵抗が抑えられて性能が向上する。負極107の膜厚を10μm以下により薄くすることにより、光透過率が低下せずに効率よく光を電気に変換することができ、かつコストを抑えることができる。
負極107のシート抵抗は特に制限は無いが、電流を増加させる観点から好ましくは1000Ω/□であり、より好ましくは500Ω/□以下、さらに好ましくは100Ω/□以下である。下限に制限は無いが、通常は1Ω/□以上である。負極160の形成方法は、蒸着、スパッタなどの真空成膜方法、ナノ粒子や前駆体を含有するインクを塗布して成膜する方法などがある。
さらに、正極101及びは負極107は2層以上で構成される積層構造を有してもよい。また、正極101及び負極107の表面に対して表面処理を行うことにより特性(電気特性やぬれ特性など)を改良してもよい。
<5.3 基板>
本実施例に係る光電変換素子110は、通常は支持体となる基板100を有する。すなわち、基板100上に、電極101、活性層103,104,105、及び電極107が形成される。基板100の材料(基板材料)は本実施例の効果を著しく損なわない限り任意である。基板材料の好適な例を挙げると、石英、ガラス、サファイア、チタニアなどの無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル、ポリエチレンなどのポリオレフィン、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン、エポキシ樹脂などの有機材料;紙、合成紙などの紙材料;ステンレス、チタン、アルミニウムなどの金属に、絶縁性を付与するために表面をコートあるいはラミネートしたものなどの複合材料などが挙げられる。ガラスとしてはソーダガラスや青板ガラスや無アルカリガラスなどが挙げられる。ガラスの材質については、ガラスからの溶出イオンが少ない方がよいので無アルカリガラスの方が好ましい。
基板の形状に制限はなく、例えば、板、フィルム、シートなどの形状を用いることができる。基板の厚みに制限はない。ただし、通常5μm以上、中でも20μm以上、また、通常20mm以下、中でも10mm以下に形成することが好ましい。基板が薄すぎると光電変換素子の強度が不足する可能性があり、基板が厚すぎるとコストが高くなったり重量が重くなりすぎたりする可能性がある。又、基板がガラスの場合は、薄すぎると機械的強度が低下し、割れやすくなるため、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.1mm以上である。また、厚すぎると重量が重くなるため、好ましくは1cm以下であり、0.5cm以下がより好ましい。
<5.4 バッファ層>
本実施例の光電変換素子110はさらに、1以上のバッファ層を有してもよい。バッファ層は、正孔取り出し層102及び電子取り出し層106に分類することができる。電子取り出し層106は、活性層105と電極(負極)107との間に設けることができる。また、正孔取り出し層102は、活性層103と電極(正極)101との間に設けることができる。
<5.4.1 正孔取り出し層>
正孔取り出し層102の材料は、活性層103から正極101への正孔の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。具体的には、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミンなどの導電性有機化合物などが挙げられる。また、Au、In、Ag、Pdなどの金属などの薄膜も使用することができる。さらに、金属などの薄膜は、単独で形成してもよく、上記の有機材料と組み合わせて用いることもできる。
正孔取り出し層102の膜厚は特に限定はないが、通常2nm以上である。一方、通常40nm以下、好ましくは20nm以下である。正孔取り出し層102の膜厚が2nm以上であることで正孔の取り出し効率を向上する機能が十分に発揮され、正孔取り出し層102の膜厚が40nm以下であることで、正孔が取り出し易くなり、光電変換効率が向上する。
<5.4.2 電子取り出し層>
電子取り出し層106の材料は、活性層105から負極107へ電子の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されないが、大きくわけて無機化合物と有機化合物が挙げられる。電子取り出し層としては、どちらかの材料を単層で用いてもよいし、これらの材料を積層させて用いてもよい。
電子取り出し層106の材料として用いられる無機化合物としては、Li、Na、K、Csなどのアルカリ金属の塩、又は酸化チタン(TiO)や酸化亜鉛(ZnO)のようなn型の酸化物半導体が望ましい。アルカリ金属塩としては、LiF、NaF、KF、CsFのようなフッ化物塩が望ましい。このような材料の動作機構は不明であるが、Alなどの電子取り出し電極(カソード)と組み合わされてカソードの仕事関数を小さくし、太陽電池素子内部に印加される電圧を上げる事が考えられる。
アルカリ金属塩は真空蒸着、スパッタなどの真空成膜によって成膜可能であるが、中でも抵抗加熱による真空蒸着によって形成するのが望ましい。これは、下地の有機層へのダメージを小さくできるからである。膜厚は、通常0.1nm以上、一方、通常50nm以下、好ましくは、20nm以下である。薄すぎると、電子取り出し層の効果が十分に発揮されず、厚すぎると、直列抵抗成分として作用する為に、素子の特性を損なう傾向がある。
酸化チタンTiOxの成膜には、スパッタ法などの真空成膜も利用できるが、塗布法での成膜が望ましい。例えば、Adv. Mater. 18, 572(2006)に記載のゾルゲル法によって形成できる。膜厚は、通常0.1nm以上、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは1nm以上であり、一方、通常1μm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である。薄すぎると、電子取り出し層の効果が十分に発揮されず、厚すぎると、直列抵抗成分として作用する為に、素子の特性を損なう傾向がある。
酸化亜鉛ZnOの成膜にも、スパッタ法などの真空成膜も利用できるが、塗布法での成膜が望ましい。例えば、Sol−Gel Science、C.J.Brinker、G.W.Scherer著、Academic Press(1990)に記載のゾルゲル法によって形成できる。膜厚は、通常0.1nm以上、好ましくは2nm以上、より好ましくは5nm以上であり、一方、通常1μm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下が好ましい。薄すぎると、電子取り出し層の効果が十分に発揮されず、厚すぎると、直列抵抗成分として作用する為に、素子の特性を損なう傾向がある。
電子取り出し層として用いられる有機化合物材料としては、具体的には、バソキュプロイン(BCP)又は、バソフェナントレン(Bphen)、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、ホスフィンオキシド化合物、ホスフィンスルフィド化合物が挙げられる。
その中でも好ましくは、アリール基で置換されたホスフィンオキシド化合物、アリール基で置換されたホスフィンスルフィド化合物であり、より好ましくは、トリアリールホスフィンオキシド化合物、トリアリールホスフィンスルフィド化合物、ジアリールホスフィンオキシドユニットを2つ以上有する芳香族炭化水素化合物、ジアリールホスフィンスルフィドユニットを2つ以上有する芳香族炭化水素化合物、フッ素原子もしくはパーフルオロアルキル基で置換されたトリアリールホスフィンオキシド化合物、ジアリールホスフィンオキシドユニットを2つ以上有する芳香族炭化水素化合物である。上記材料に対してアルカリ金属又はアルカリ土類金属をドープしてもよい。
電子取り出し層106の膜厚は特に限定はないが、通常0.01nm以上である。一方、通常40nm以下、好ましくは20nm以下である。電子取り出し層106の膜厚が0.01nm以上であることで電子の取り出し効率を向上する機能が十分に発揮され、電子取り出し層106の膜厚が40nm以下であることで、電子が取り出し易くなり、光電変換効率が向上する。
電子取り出し層で使用される化合物のガラス転移温度としては、特に限定はないが、70℃以上が好ましく、さらに好ましくは80℃以上である。上限は特に限定はないが、通常200℃以下、好ましくは190℃以下である。ガラス転移温度が低すぎると、太陽電池素子に用いた場合、使用温度範囲でバッファ層材料がアモルファス状態と結晶状態に変化し、状態が変化することによりバッファ層としての安定性がなくなる。ガラス転移温度が低すぎると、太陽電池素子に用いた場合、使用温度範囲でバッファ層材料が結晶状態になりやすく、バッファ層の欠陥ができる可能性がある。ガラス転移温度は公知の方法で測定すれば良く、例えばDSC法が挙げられる。
[6 本発明に係る太陽電池]
本発明に係る光電変換素子は、太陽電池素子として使用されることが好ましい。特に、本発明に係る光電変換素子は、太陽電池(又は太陽電池モジュール)における太陽電池素子として使用されることが好ましい。さらに、本発明に係る光電変換素子は、薄膜太陽電池における太陽電池素子として使用されることが好ましい。本発明に係る光電変換素子を含む太陽電池は、任意の方法を用いて作製することができる。例えば周知の技術に従って、本発明に係る光電変換素子の表面を適切な保護材で覆うことにより、太陽電池を作製することができる。
以下に、本発明に係る光電変換素子を含む太陽電池について、その好適な実施例の一例を説明する。図2は本発明に係る一実施例としての薄膜太陽電池の構成を模式的に示す断面図である。図2に示される薄膜太陽電池は、本発明に係る太陽電池の一例に過ぎない。本発明に係る太陽電池が、図2に示されるのとは異なる構成をとりうることは、当業者には明らかであろう。例えば、図2に示される構成要素の一部は存在しなくてもよいし、同種の働きを有する別の要素で置き換えられてもよい。また、さらなる構成要素が、図2に示される太陽電池に対して追加されてもよい。
図2に示すように、本実施例の薄膜太陽電池14は、耐候性保護フィルム1と、紫外線カットフィルム2と、ガスバリアフィルム3と、ゲッター材フィルム4と、封止材5と、太陽電池素子6と、封止材7と、ゲッター材フィルム8と、ガスバリアフィルム9と、バックシート10とをこの順に備えている。そして、耐候性保護フィルム1が形成された側(図中下方)から光が照射されて、太陽電池素子6が発電するようになっている。なお、後述するバックシート10としてアルミ箔の両面にフッ素系樹脂フィルムを接着したシートなど防水性の高いシートを用いる場合は、用途によりゲッター材フィルム8及びガスバリアフィルム9の少なくとも一方は用いなくてもよい。
<2.1 耐候性保護フィルム1>
耐候性保護フィルム1は天候変化から太陽電池素子6を保護するフィルムである。太陽電池素子6の構成部品のなかには、温度変化、湿度変化、自然光、風雨による侵食などにより劣化するものがある。そこで、耐候性保護フィルム1で太陽電池素子6を覆うことにより、太陽電池素子6などを天候変化などから保護し、発電能力を高く維持するようにしている。
耐候性保護フィルム1は、薄膜太陽電池14の最表層に位置するため、耐候性、耐熱性、透明性、撥水性、耐汚染性及び機械強度などの、薄膜太陽電池14の表面被覆材として好適な性能を備え、しかもそれを屋外暴露において長期間維持する性質を有することが好ましい。
また、耐候性保護フィルム1は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%が特に好ましい。光の透過率を高くすることにより、薄膜太陽電池14の発電効率を高めることができる。
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せられることが多いため、耐候性保護フィルム1も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、耐候性保護フィルム1の構成材料の融点は、通常100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい、また、通常350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。融点を高くすることで薄膜太陽電池14の使用時に耐候性保護フィルム1が融解・劣化する可能性を低減できる。
耐候性保護フィルム1を構成する材料は、天候変化から太陽電池素子6を保護することができるものであれば任意である。その材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、AS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリル系樹脂、各種ナイロンなどのポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド−イミド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、シリコン系樹脂及びポリカーボネート樹脂などが挙げられる。中でもフッ素系樹脂が好ましく、その具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、4−フッ化エチレン−パークロロアルコキシ共重合体(PFA)、4−フッ化エチレン−6−フッ化プロピレン共重合体(FEP)、2−エチレン−4−フッ化エチレン共重合体(ETFE)、ポリ3−フッ化塩化エチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリフッ化ビニル(PVF)などが挙げられる。
なお、耐候性保護フィルム1は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、耐候性保護フィルム1は単層フィルムにより形成されていてもよいが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
耐候性保護フィルム1の厚みは特に規定されないが、通常10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。また、通常200μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。厚みを10μm以上となるようにより厚くすることにより機械的強度が高まる傾向があり、200μm以下となるようにより薄くすることで柔軟性が高まる傾向がある。
また耐候性保護フィルム1には、他のフィルムとの接着性の改良のために、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を行なってもよい。
耐候性保護フィルム1は、薄膜太陽電池14においてできるだけ外側に設けることが好ましい。薄膜太陽電池14の構成部材のうちより多くのものを保護できるようにするためである。
<2.2 紫外線カットフィルム2>
紫外線カットフィルム2は紫外線の透過を防止するフィルムである。薄膜太陽電池14の構成部品のなかには紫外線により劣化するものがある。また、ガスバリアフィルム3,9などは種類によっては紫外線により劣化するものがある。そこで、紫外線カットフィルム2を薄膜太陽電池14の受光部分に設け、紫外線カットフィルム2で太陽電池素子6の受光面を覆うことにより、太陽電池素子6及び必要に応じてガスバリアフィルム3,9などを紫外線から保護し、発電能力を高く維持することができるようになっている。
紫外線カットフィルム2に要求される紫外線の透過抑制能力の程度は、紫外線(例えば、波長300nm)の透過率が50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、10%以下が特に好ましい。紫外線の透過を抑えることにより、薄膜太陽電池14の劣化を防ぐことができる。
また、紫外線カットフィルム2は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上が特に好ましい。透過率が高いことにより、より多くの太陽光を電気へと変換することができる。
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せられることが多いため、紫外線カットフィルム2も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、紫外線カットフィルム2の構成材料の融点は、通常100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。また、通常350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、300℃以下が特に好ましい。融点を100℃以上とすることにより、薄膜太陽電池14の使用時に紫外線カットフィルム2が融解するのを防ぐことができる。
また、紫外線カットフィルム2は、柔軟性が高く、隣接するフィルムとの接着性が良好であり、水蒸気や酸素をカットしうるものが好ましい。紫外線カットフィルム2を構成する材料は、紫外線の強度を弱めることができるものであれば任意である。その材料の例を挙げると、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系及びエステル系の樹脂に紫外線吸収剤を配合して成膜したフィルムなどが挙げられる。
また、紫外線吸収剤を樹脂中に分散又は溶解させたものの層(以下、適宜「紫外線吸収層」という)を基材フィルム上に形成したフィルムを用いてもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系及びシアノアクリレート系のものを用いることができる。中でもベンゾフェノン系及びベンゾトリアゾール系が好ましい。この例としては、ベンゾフェノン系及びベンゾトリアゾール系の種々の芳香族系有機化合物などが挙げられる。なお、紫外線吸収剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
前記したように、紫外線吸収フィルムとしては紫外線吸収層を基材フィルム上に形成したフィルムを用いることもできる。このようなフィルムは、例えば、紫外線吸収剤を含む塗布液を基材フィルム上に塗布し、乾燥させることで作製できる。基材フィルムの材質は特に限定されないが、耐熱性、柔軟性のバランスが良好なフィルムが得られる点で、例えばポリエステルが挙げられる。
塗布は任意の方法で行うことができる。例えば、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法及びカーテンコート法などが挙げられる。また、これらの方法は1種を単独で行なってもよく、2種以上を任意に組み合わせて行うこともできる。
塗布液に用いる溶剤は、紫外線吸収剤を均一に溶解又は分散できるものであれば特に限定されない。例えば液状の樹脂を溶剤として用いることができ、例えば、ポリエステル系、アクリル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリカーボネート系及びポリスチレン系などの各種合成樹脂などが挙げられる。また、例えば、ゼラチン及びセルロース誘導体などの天然高分子、水並びに水とエタノールなどのアルコール混合溶液なども溶剤として用いることができる。さらに、溶剤として有機溶剤を使用してもよい。有機溶剤を使用すれば、色素や樹脂を溶解又は分散させることが可能となり、塗工性を向上させることが可能となる。なお、溶剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
塗布液にはさらに界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤の使用により、紫外線吸収色素の樹脂への分散性が向上する。これにより、紫外線吸収層において、微小な泡によるヌケ、異物などの付着による凹み、乾燥工程でのハジキなどの発生が抑制される。界面活性剤としては、公知の界面活性剤(カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤)を用いることができる。中でも、シリコン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤が好ましい。なお、界面活性剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
なお、塗布液を基材フィルムに塗布した後の乾燥は、例えば、熱風乾燥及び赤外線ヒーターによる乾燥など、公知の乾燥方法が採用できる。中でも、乾燥速度が速い熱風乾燥が好適である。紫外線カットフィルム2の具体的な商品の例を挙げると、カットエース(MKVプラスティック株式会社)などが挙げられる。なお、紫外線カットフィルム2は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、紫外線カットフィルム2は単層フィルムにより形成されていてもよいが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
紫外線カットフィルム2の厚みは特に規定されないが、通常5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましい。また、通常200μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。厚みを5μm以上に厚くするほど紫外線の吸収が高まりかつ機械的強度が高まり、200μm以下に薄くするほど可視光の透過率を増加させかつ柔軟性が増す。
紫外線カットフィルム2は、太陽電池素子6の受光面の少なくとも一部を覆う位置に設ければよいが、好ましくは太陽電池素子6の受光面の全てを覆う位置に設ける。ただし、太陽電池素子6の受光面を覆う位置以外の位置にも紫外線カットフィルム2が設けられていてもよい。
<2.3 ガスバリアフィルム3>
ガスバリアフィルム3は水及び酸素の透過を防止するフィルムである。太陽電池素子6は湿気及び酸素に弱い傾向があり、特に、ZnO:Alなどの透明電極や、太陽電池素子の活性層が水分及び酸素により劣化することがある。そこで、ガスバリアフィルム3で太陽電池素子6を被覆することにより、太陽電池素子6を水及び酸素から保護し、発電能力を高く維持することができる。
ガスバリアフィルム3に要求される防湿能力の程度は、例えば、単位面積(1m)の1日あたりの水蒸気透過率が、1×10−1g/m/day以下であることが好ましく、1×10−2g/m/day以下であることがより好ましく、1×10−3g/m/day以下であることが更に好ましく、1×10−4g/m/day以下であることが中でも好ましく、1×10−5g/m/day以下であることがとりわけ好ましく、1×10−6g/m/day以下であることが特に好ましい。水蒸気が透過しなければしないほど、水分と反応することによる太陽電池素子6の劣化、特に活性層及び電極の劣化が抑えられるので、発電効率が上がると共に寿命が延びる。
ガスバリアフィルム3に要求される酸素透過性の程度は、例えば、単位面積(1m)の1日あたりの酸素透過率が、1×10−1cc/m/day/atm以下であることが好ましく、1×10−2cc/m/day/atm以下であることがより好ましく、1×10−3cc/m/day/atm以下であることが更に好ましく、1×10−4cc/m/day/atm以下であることが中でも好ましく、1×10−5cc/m/day/atm以下であることがとりわけ好ましく、1×10−6cc/m/day/atm以下であることが特に好ましい。酸素が透過しなければしないほど、酸素と反応することによる太陽電池素子6の劣化、特に活性層及び電極の劣化が抑えられるので、発電効率が上がると共に寿命が延びる。
従来はこのように高い防湿及び酸素遮断能力を有するガスバリアフィルム3の実装が困難であったため、有機太陽電池素子のように優れた太陽電池素子を備えた太陽電池を実現することが困難であったが、このようなガスバリアフィルム3を適用することにより、有機太陽電池素子の優れた性質を活かした薄膜太陽電池14を実現することが容易となる。
また、ガスバリアフィルム3は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率は、通常60%以上が好ましく、好ましくは70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、80%以上が中でも好ましく、85%以上がとりわけ好ましく、とりわけ好ましくは90%以上が特に好ましく、95%以上が中でも特に好ましく、97%以上が最も好ましい。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せられることが多いため、ガスバリアフィルム3も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、ガスバリアフィルム3の構成材料の融点は、通常100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。また、通常350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。融点を100℃以上とすることで薄膜太陽電池14の使用時にガスバリアフィルム3が融解・劣化する可能性を低減できる。
ガスバリアフィルム3の具体的な構成は、太陽電池素子6を水から保護できる限り任意である。ただし、ガスバリアフィルム3を透過しうる水蒸気や酸素の量を少なくできるフィルムほど製造コストが高くなるため、これらの点を総合的に勘案して適切なものを使用することが好ましい。
以下、ガスバリアフィルム3の構成について、例を挙げて説明する。ガスバリアフィルム3の構成として好ましいものは2例が挙げられる。一つ目の例は、プラスチックフィルム基材に無機バリア層を配置したフィルムである。この際、無機バリア層は、プラスチックフィルム基材の片面のみに形成してもよいし、プラスチックフィルム基材の両面に形成してもよい。両面に形成するときは、両面に形成する無機バリア層の数が、それぞれ一致していていもよく、異なっていてもよい。
二つ目の例は、プラスチックフィルム基材に、無機バリア層とポリマー層とが互いに隣接して配置された2層からなるユニット層が形成されたフィルムである。この際、無機バリア層とポリマー層とが互いに隣接して配置された2層からなるユニット層を1単位として、1単位のユニット層を、プラスチックフィルム基材上に形成してもよい(無機バリア層1層とポリマー層1層とを合わせて1単位のユニット層と呼ぶ)また、2単位以上のユニット層をプラスチックフィルム基材上に形成してもよく、例えば2〜5単位のユニット層を積層してもよい。
ユニット層は、プラスチックフィルム基材の片面のみに形成してもよいし、プラスチックフィルム基材の両面に形成してもよい。両面に形成するときは、両面に形成する無機バリア層及びポリマー層の数が、それぞれ一致していていもよく、異なっていてもよい。また、プラスチックフィルム基材上にユニット層を形成する場合、無機バリア層を形成してからその上にポリマー層を形成してもよいし、ポリマー層を形成してから無機バリア層を形成してもよい。
(プラスチックフィルム基材)
ガスバリアフィルム3に使用されるプラスチックフィルム基材は、上記の無機バリア層及びポリマー層を保持しうるフィルムであれば特に制限はなく、ガスバリアフィルム3の使用目的などから適宜選択することができる。
プラスチックフィルム基材の材料の例を挙げると、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂及びアクリロイル化合物が挙げられる。また、スピロビインダン及びスピロビクロマンを含む縮合ポリマーを用いるのも好ましい。ポリエステル樹脂の中でも、二軸延伸を施したポリエチレンテレフタレート(PET)及び同じく二軸延伸したポリエチレンナフタレート(PEN)は、熱的寸度安定性に優れるため、プラスチックフィルム基材として好ましく用いられる。なおプラスチックフィルム基材の材料は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
プラスチックフィルム基材の厚みは特に規定されないが、通常10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、好ましくは20μm以上がさらに好ましい。また、通常200μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。厚みを厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まる傾向にある。
プラスチックフィルム基材は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率は、通常60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、80%以上が中でも好ましく、85%以上がとりわけ好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上がその中でも特に好ましく、97%以上が最も好ましい。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
プラスチックフィルム基材には、無機バリア層との密着性向上のため、アンカーコート剤の層(アンカーコート層)を形成してもよい。通常、アンカーコート層はアンカーコート剤を塗布して形成される。アンカーコート剤としては、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂及びイソシアネート含有樹脂並びにこれらの共重合体などが挙げられる。中でも、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂の1種類以上と、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂及びイソシアネート基含有樹脂の1種類以上とを組み合わせたものが好ましい。なお、アンカーコート剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
アンカーコート層の厚さは、通常0.005μm以上が好ましく、0.01μm以上がより好ましく、通常5μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。この範囲の上限値以下の厚さであれば滑り性が良好であり、アンカーコート層自体の内部応力によるプラスチックフィルム基材からの剥離もほとんどない。また、この範囲の下限値以上の厚さであれば、均一な厚さを保つことができ好ましい。
また、プラスチックフィルム基材へのアンカーコート剤の塗布性、接着性を改良するため、アンカーコート剤の塗布前に、プラスチックフィルム基材に通常の化学処理、放電処理などの表面処理を施してもよい。
(無機バリア層)
無機バリア層は通常は金属酸化物、窒化物又は酸化窒化物により形成される層である。なお、無機バリア層を形成する金属酸化物、窒化物及び酸化窒化物は、1種でもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。金属酸化物としては、例えば、Si、Al、Mg、In、Ni、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce及びTaなどの酸化物、窒化物並びに酸化窒化物などが挙げられる。中でも、高いバリア性と高透明性とを両立させるために、酸化アルミニウム又は酸化ケイ素を含むことが好ましく、特に水分の透過性、光線透過性の観点から、酸化ケイ素を含むことが好ましい。
各々の金属原子と酸素原子との比率も任意であるが、無機バリア層の透明度を向上させ着色を防ぐためには、酸素原子の比率が酸化物の化学量論的な比率から極端に少なくないことが好ましい。一方、無機バリア層の緻密性を向上させバリア性を高くするためには、酸素原子を少なくすることが好ましい。この観点から、例えば金属酸化物としてSiOを用いる場合には前記xの値は1.5〜1.8が特に好ましい。また、例えば金属酸化物としてAlOを用いる場合には前記xの値は1.0〜1.4が特に好ましい。
また、2種以上の金属酸化物より無機バリア層を構成する場合、金属酸化物としては酸化アルミニウム及び酸化ケイ素を含むことが好ましい。中でも無機バリア層が酸化アルミニウム及び酸化ケイ素からなる場合、無機バリア層中のアルミニウムとケイ素との比率は任意に設定することができる。しかしながら、高いバリア性と高い透明性とを両立するためには、Si/Alの比率は、通常1/9以上が好ましく、2/8以上がより好ましい。また、通常9/1以下が好ましく、2/8以下がより好ましい。
無機バリア層の厚みを厚くするとバリア性が高まる傾向にあるが、曲げた際にクラックを生じにくくし割れを防ぐためには、厚みを薄くすることが好ましい。そこで無機バリア層の適正な厚みとしては、通常5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。また、通常1000nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。
無機バリア層の成膜方法に制限は無いが、一般的にスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法及びプラズマCVD法などで行うことができる。例えばスパッタリング法では1種類又は複数の金属ターゲットと酸素ガスを原料とし、プラズマを用いた反応性スパッタ方式で形成することができる。
(ポリマー層)
ポリマー層にはいずれのポリマーでも使用することができ、例えば真空チャンバー内で成膜できるものも用いることができる。なお、ポリマー層を構成するポリマーは、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
前記ポリマー層を形成するためには、多種多様な化合物を用いることができる。ここでは例として、以下の(i)〜(vii)のようなモノマーを用いてポリマー層を形成する場合について説明する。なお、モノマーは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(i)例えば、ヘキサメチルジシロキサンなどのシロキサンが挙げられる。ヘキサメチルジシロキサンを用いる場合のポリマー層の形成方法の例を挙げると、RF電極を用いた平行平板型のプラズマ装置にヘキサメチルジシロキサンを蒸気として導入し、プラズマ中で重合反応を起こさせ、プラスチックフィルム基材上に堆積させることでポリマー層をポリシロキサン薄膜として形成できる。
(ii)例えば、ジパラキシリレンなどのパラキシリレンが挙げられる。ジパラキシリレンを用いる場合のポリマー層の形成方法の例を挙げると、まず高真空中でジパラキシリレンの蒸気を650℃〜700℃で加熱することで熱分解させて熱ラジカルを発生させる。そして、そのラジカルモノマー蒸気をチャンバー内に導いて、プラスチックフィルム基材へ吸着させると同時にラジカル重合反応を進行させてポリパラキシリレンを堆積させることでポリマー層を形成できる。
(iii)例えば、二種のモノマーを交互に繰り返し付加重合させることができるモノマーが挙げられる。これにより得られるポリマーは重付加ポリマーである。重付加ポリマーとしては、例えば、ポリウレタン(ジイソシアナート/グリコール)、ポリ尿素(ジイソシアナート/ジアミン)、ポリチオ尿素(ジチオイソシアナート/ジアミン)、ポリチオエーテルウレタン(ビスエチレンウレタン/ジチオール)、ポリイミン(ビスエポキシ/第一アミン)、ポリペプチドアミド(ビスアゾラクトン/ジアミン)及びポリアミド(ジオレフィン/ジアミド)などが挙げられる。
(iv)例えば、アクリレートモノマーが挙げられる。アクリレートモノマーには、単官能、2官能及び多官能のアクリレートモノマーがあるが、いずれを用いてもよい。ただし、適切な蒸発速度、硬化度、硬化速度などを得るために、前記のアクリレートモノマーを2種以上組み合わせて併用することが好ましい。また、単官能アクリレートモノマーとしては、例えば、脂肪族アクリレートモノマー、脂環式アクリレートモノマー、エーテル系アクリレートモノマー、環状エーテル系アクリレートモノマー、芳香族系アクリレートモノマー、水酸基含有アクリレートモノマー及びカルボキシ基含有アクリレートモノマーなどがあるが、いずれも用いることができる。
(v)例えば、エポキシ系及びオキセタン系などの、光カチオン硬化ポリマーが得られるモノマーが挙げられる。エポキシ系モノマーとしては、例えば、脂環式エポキシ系モノマー、2官能性モノマー及び多官能性オリゴマーなどが挙げられる。また、オキセタン系モノマーとしては、例えば、単官能オキセタン、2官能オキセタン及びシルセスキオキサン構造を有するオキセタンなどが挙げられる。
(vi)例えば、酢酸ビニルが挙げられる。モノマーとして酢酸ビニルを用いると、その重合体をケン化することでポリビニルアルコールが得られ、このポリビニルアルコールをポリマーとして使用できる。
(vii)例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸及び無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸などが挙げられる。これらは、エチレンとの共重合体を構成させ、該共重合体をポリマーとして使用できる。さらに、これらの混合物、グリシジルエーテル化合物を混合した混合物、及びエポキシ化合物との混合物もポリマーとして用いることができる。
前記のモノマーを重合してポリマーを生成させる際、モノマーの重合方法に制限は無い。ただし、通常は、モノマーを含む組成物を塗布又は蒸着して成膜した後で重合を行うようにする。重合方法の例を挙げると、熱重合開始剤を用いたときはヒーターなどによる接触加熱;赤外線及びマイクロ波などの放射加熱;などにより重合を開始させる。また、光重合開始剤を用いたときは活性エネルギー線を照射して重合を開始させる。
活性エネルギー線を照射する場合には様々な光源を使用することができ、例えば、水銀アークランプ、キセノンアークランプ、蛍光ランプ、炭素アークランプ、タングステンーハロゲン輻射ランプ及び日光による照射光などを用いることができる。また、電子線照射や大気圧プラズマ処理を行うこともできる。
ポリマー層の形成方法は、例えば、塗布法及び真空成膜法などが挙げられる。塗布法でポリマー層を形成する場合、例えば、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、カーテンフローコート、スプレーコート及びバーコートなどの方法を用いることができる。また、ポリマー層形成用の塗布液をミスト状で塗布するようにしてもよい。この場合の液滴の平均粒径は適切な範囲に調整すればよく、例えば重合性モノマーを含有する塗布液をミスト状でプラスチックフィルム基材上に成膜して形成する場合には、液滴の平均粒径は5μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。液滴の平均粒径を小さくすることにより、均一なポリマー層を形成することができる。他方、真空成膜法でポリマー層を形成する場合、例えば、蒸着及びプラズマCVDなどの成膜方法が挙げられる。
ポリマー層の厚みについては特に限定はないが、通常10nm以上が好ましい。また、通常5000nm以下が好ましく、2000nm以下がより好ましく、1000nm以下が特に好ましい。ポリマー層の厚みを10nm以上とすることで、厚みの均一性が得やすくなり無機バリア層の構造欠陥を効率よくポリマー層で埋めることができ、バリア性が向上する傾向にある。また、ポリマー層の厚みを5000nm以下とすることで、曲げなどの外力によりポリマー層自身がクラックを発生しにくくなるためバリア性が向上しうる。
中でも好適なガスバリアフィルム3としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)などの基材フィルムにSiOを真空蒸着したフィルムなどが挙げられる。なお、ガスバリアフィルム3は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、ガスバリアフィルム3は単層フィルムにより形成されていてもよいが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
ガスバリアフィルム3の厚みは特に規定されないが、通常5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましい。また、通常200μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。厚みを5μm以上とすることでガスバリア性が高まる傾向にあり、200μm以下とすることで柔軟性が高まり、また可視光の透過率が向上する傾向にある。
ガスバリアフィルム3は、太陽電池素子6を被覆して湿気及び酸素から保護できればその形成位置に制限は無いが、太陽電池素子6の正面(受光面側の面。図2では下側の面)及び背面(受光面とは反対側の面。図2では上側の面)を覆うことが好ましい。薄膜太陽電池14においてはその正面及び背面が他の面よりも大面積に形成されることが多いためである。本実施例ではガスバリアフィルム3が太陽電池素子6の正面を覆い、後述するガスバリアフィルム9が太陽電池素子6の背面を覆うようになっている。
なお、後述するバックシート10としてアルミ箔の両面にフッ素系樹脂フィルムを接着したシートなど防水性の高いシートを用いる場合は、用途によりゲッター材フィルム8及びガスバリアフィルム9のうちの少なくとも1つを用いなくてもよい。
<2.4 ゲッター材フィルム4>
ゲッター材フィルム4は水分及び酸素のうちの少なくとも1つを吸収するフィルムである。太陽電池素子6の構成部品のなかには前記のように水分で劣化するものがあり、また、酸素によって劣化するものもある。そこで、ゲッター材フィルム4で太陽電池素子6を覆うことにより、太陽電池素子6などを水分及び酸素のうちの少なくとも1つから保護し、発電能力を高く維持するようにしている。
ここで、ゲッター材フィルム4は前記のようなガスバリアフィルム3とは異なり、水分の透過を妨げるものではなく、水分を吸収するものである。水分を吸収するフィルムを用いることにより、ガスバリアフィルム3などで太陽電池素子6を被覆した場合に、ガスバリアフィルム3,9に挟まれる空間に僅かに浸入する水分をゲッター材フィルム4が捕捉して水分による太陽電池素子6への影響を排除できる。
ゲッター材フィルム4の水分吸収能力の程度は、通常0.1mg/cm以上が好ましく、0.5mg/cm以上がより好ましく、1mg/cm以上がさらに好ましい。この数値が高いほど水分吸収能力が高く太陽電池素子6の劣化を抑制しうる。また、上限に制限は無いが、通常10mg/cm以下である。
また、ゲッター材フィルム4が酸素を吸収することにより、ガスバリアフィルム3,9などで太陽電池素子6を被覆した場合に、ガスバリアフィルム3,9に挟まれる空間に僅かに浸入する酸素をゲッター材フィルム4が捕捉し、酸素による太陽電池素子6への影響を排除できる。
さらに、ゲッター材フィルム4は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率は、通常60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、80%以上が中でも好ましく、85%以上がとりわけ好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上がその中でも特に好ましく、97%以上が最も好ましい。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せされることが多いため、ゲッター材フィルム4も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、ゲッター材フィルム4の構成材料の融点は、通常100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上でがさらに好ましい。また、通常350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。融点を高くすることで薄膜太陽電池14の使用時にゲッター材フィルム4が融解・劣化する可能性を低減できる。
ゲッター材フィルム4を構成する材料は、水分及び酸素のうちの少なくとも1つを吸収することができるものであれば任意である。その材料としては、例えば、水分を吸収する物質として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、シリカゲル、ゼオライト系化合物、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム及び硫酸ニッケルなどの硫酸塩、並びにアルミニウム金属錯体及びアルミニウムオキシドオクチレートなどの有機金属化合物などが挙げられる。
具体的には、アルカリ土類金属としては、Ca、Sr及びBaなどが挙げられる。アルカリ土類金属の酸化物としては、CaO、SrO及びBaOなどが挙げられる。その他にZr−Al−BaO及びアルミニウム金属錯体なども挙げられる。具体的な商品名を挙げると、例えば、OleDry(双葉電子社製)などが挙げられる。
酸素を吸収する物質としては、活性炭、シリカゲル、活性アルミナ、モレキュラーシーブ、酸化マグネシウム及び酸化鉄などが挙げられる。またFe、Mn及びZn並びにこれら金属の硫酸塩、塩化物塩及び硝酸塩などの無機塩も挙げられる。
なお、ゲッター材フィルム4は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、ゲッター材フィルム4は単層フィルムにより形成されていてもよいが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
ゲッター材フィルム4の厚みは特に規定されないが、通常5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましい。また、通常200μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。厚みを厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まる傾向にある。
ゲッター材フィルム4は、ガスバリアフィルム3,9に挟まれる空間内であればその形成位置に制限は無いが、太陽電池素子6の正面(受光面側の面。図2では下側の面)及び背面(受光面とは反対側の面。図2では上側の面)を覆うことが好ましい。薄膜太陽電池14においてはその正面及び背面が他の面よりも大面積に形成されることが多いため、これらの面を介して水分及び酸素が浸入する傾向があるからである。この観点から、ゲッター材フィルム4はガスバリアフィルム3と太陽電池素子6との間に設けることが好ましい。本実施例ではゲッター材フィルム4が太陽電池素子6の正面を覆い、後述するゲッター材フィルム8が太陽電池素子6の背面を覆い、ゲッター材フィルム4,8がそれぞれ太陽電池素子6とガスバリアフィルム3,9との間に位置するようになっている。
なお、後述するバックシート10としてアルミ箔の両面にフッ素系樹脂フィルムを接着したシートなど防水性の高いシートを用いる場合は、用途によりゲッター材フィルム8及びガスバリアフィルム9のうちの少なくとも1つを用いなくてもよい。
ゲッター材フィルム4は吸水剤又は乾燥剤の種類に応じて任意の方法で形成することができるが、例えば、吸水剤又は乾燥剤を分散したフィルムを粘着剤で添付する方法、吸水剤又は乾燥剤の溶液をスピンコート法、インクジェット法、ディスペンサー法などで塗布する方法などを用いることができる。また真空蒸着法、スパッタリング法などの成膜法を使用してもよい。
吸水剤又は乾燥剤のためのフィルムとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂及びポリカーボネート系樹脂などを用いることができる。中でも、ポリエチレン系樹脂、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂及びポリカーボネート系樹脂のフィルムが好ましい。なお、前記樹脂は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
<2.5 封止材5>
封止材5は、太陽電池素子6を補強するフィルムである。太陽電池素子6は薄いため通常は強度が弱く、ひいては薄膜太陽電池の強度が弱くなる傾向があるが、封止材5により強度を高く維持することが可能である。また、封止材5は、薄膜太陽電池14の強度保持の観点から強度が高いことが好ましい。具体的強度については、封止材5以外の耐候性保護フィルム1又はバックシート10の強度とも関係することになり一概には規定しにくいが、薄膜太陽電池14全体が良好な曲げ加工性を有し、折り曲げ部分の剥離を生じないような強度を有するのが好ましい。
また、封止材5は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360〜830nm)の光の透過率は、通常60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、80%以上が中でも好ましく、85%以上がとりわけ好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上がその中でも特に好ましく、97%以上が最も好ましい。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せられることが多いため、封止材5も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、封止材5の構成材料の融点は、通常100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。また、通常350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。融点を高くすることで薄膜太陽電池14の使用時に封止材5が融解・劣化する可能性を低減できる。
封止材5の厚みは特に規定されないが、通常100μm以上が好ましく、150μm以上がより好ましく、200μm以上がさらに好ましい。また、通常700μm以下が好ましく、600μm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましい。厚みを厚くすることで薄膜太陽電池14全体の強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まりまた可視光の透過率が向上する傾向にある。
封止材5を構成する材料としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂組成物をフィルムにしたもの(EVAフィルム)などを用いることができる。耐候性の向上のため、通常は、EVAフィルムには架橋剤を配合して架橋構造を構成させる。この架橋剤としては、一般に、100℃以上でラジカルを発生する有機過酸化物が用いられる。このような有機過酸化物としては、例えば、2,5−ジメチルヘキサン;2,5−ジハイドロペルオキシド;2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン;3−ジ−t−ブチルペルオキシドなどを用いることができる。封止材5として用いるためにより好適な耐候性、透明性、接着力、及び強度を得るためには、これらの有機過酸化物の配合量は、EVA樹脂100重量部に対して、通常5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましく、通常1重量部以上が好ましい。なお、架橋剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
このEVA樹脂組成物には、接着力向上の目的で、シランカップリング剤を含有させてもよい。この目的に供されるシランカップリング剤としては、例えば、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン;ビニルトリクロロシラン;ビニルトリエトキシシラン;ビニル−トリス−(β−メトキシエトキシ)シラン;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン;β−(3,4−エトキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどを挙げることができる。封止材5として用いるためにより好適な耐候性、透明性、接着力、及び強度を得るためには、これらのシランカップリング剤の配合量は、EVA樹脂100重量部に対して、通常5重量部以下が好ましく、2重量部以下がより好ましく、通常0.1重量部以上が好ましい。なお、シランカップリング剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
更に、EVA樹脂のゲル分率を向上させ、耐久性を向上するために、EVA樹脂組成物に架橋助剤を含有させてもよい。この目的に供される架橋助剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレートなどの3官能の架橋助剤、及びアリルイソシアネートなどの単官能の架橋助剤、などが挙げられる。
封止材5として用いるためにより好適な耐久性、耐候性、透明性、及び強度を得るためには、これらの架橋助剤の配合量は、EVA樹脂100重量部に対して、通常10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましい。また、通常1重量部以上が好ましい。なお、架橋助剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
更に、EVA樹脂の安定性を向上する目的で、EVA樹脂組成物に、例えばハイドロキノン;ハイドロキノンモノメチルエーテル;p−ベンゾキノン;メチルハイドロキノンなどを含有させてもよい。封止材5として用いるためにより好適な安定性、耐候性、透明性、及び強度を得るためには、これらの配合量は、EVA樹脂100重量部に対して、通常5重量部以下が好ましい。
しかし、EVA樹脂の架橋処理には1〜2時間程度の比較的長時間を要するため、薄膜太陽電池14の生産速度及び生産効率を低下させる原因となる場合がある。また、長期間使用の際には、EVA樹脂組成物の分解ガス(酢酸ガス)又はEVA樹脂自体が有する酢酸ビニル基が、太陽電池素子6に悪影響を与えて発電効率を低下させる場合がある。そこで、封止材5としては、EVAフィルムの他に、プロピレン・エチレン・α−オレフィン共重合体からなる共重合体のフィルムを用いることもできる。この共重合体としては、例えば、下記成分1及び成分2が配合された熱可塑性樹脂組成物が挙げられる。
・成分1:プロピレン系重合体が、通常0重量部以上が好ましく、10重量部以上がより好ましい。また、通常70重量部以下が好ましく、50重量部以下がより好ましい。
・成分2:軟質プロピレン系共重合体が、30重量部以上が好ましく、50重量部以上がより好ましい。また、通常100重量部以下が好ましく、90重量部以下がより好ましい。
なお、成分1及び成分2の合計量は100重量部である。上記のように、成分1及び成分2が好ましい範囲にあると、封止材5のシートへの成形性が良好であるとともに、得られる封止材5の耐熱性、透明性及び柔軟性が良好となり、薄膜太陽電池14に好適である。
上記の成分1及び成分2が配合された熱可塑性樹脂組成物は、メルトフローレート(ASTM D 1238、230度、荷重2.16g)が、通常0.0001g/10分以上であることが好ましい。また、通常1000g/10分以下が好ましく、900g/10分以下がより好ましく、800g/10分以下がさらに好ましい。メルトフローレートがこの範囲にあると、シートへの成形がより容易となる。
成分1及び成分2が配合された熱可塑性樹脂組成物の融点は、通常100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。また通常140℃以下が好ましく、135℃以下がより好ましい。融点がこの範囲にあると、シートへの成形がより容易となる。
また成分1及び成分2が配合された熱可塑性樹脂組成物の密度は、0.98g/cm以下が好ましく、0.95g/cm以下がより好ましく、0.94g/cm以下がさらに好ましい。密度がこの範囲にあることにより、例えば機械的強度を含めた封止材5の物性を、より適したものにすることができる。
この封止材5においては、上記成分1及び成分2に、プラスチックなどに対する接着促進剤としてカップリング剤を配合することが可能である。カップリング剤は、シラン系、チタネート系及びクロム系の各カップリング剤が好ましく用いられ、特にシラン系のカップリング剤(シランカップリング剤)が好適に用いられる。
上記シランカップリング剤としては公知のものが使用でき、特に制限はないが、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシーエトキシシラン)、γ−グリシドキシプロピルートリピルトリーメトキシシラン及びγ−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。なお、カップリング剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、熱可塑性樹脂組成物(成分1及び成分2の合計量)100重量部に対する、上記シランカップリング剤の含有量は通常0.1重量部以上が好ましく、また、通常5重量部以下が好ましく、3重量部以下含むことがより好ましい。含有量をこの範囲とすることにより、封止材5として用いるためにより好適な耐候性、透明性、接着力、及び強度を得ることができる。
また、上記カップリング剤は、有機過酸化物を用いて、当該熱可塑性樹脂組成物にグラフト反応させてもよい。この場合、熱可塑性樹脂組成物(成分1及び成分2の合計量)100重量部に対して、上記カップリング剤を0.1〜5重量部含むことが好ましい。シラングラフト化された熱可塑性樹脂組成物を用いても、ガラス、プラスチックに対して、シランカップリング剤ブレンドと同等以上の接着性が得られる。
有機過酸化物を用いる場合、有機過酸化物は、熱可塑性樹脂組成物(成分1及び成分2の合計量)100重量部に対して、通常0.001重量部以上が好ましく、0.01重量部以上がより好ましい。また、通常5重量部以下が好ましく、3重量部以下がより好ましい。含有量をこの範囲とすることにより、封止材5として用いるためにより好適な耐候性、透明性、接着力、及び強度を得ることができる。
また、封止材5としてエチレン・α−オレフィン共重合体からなる共重合体を用いることもできる。この共重合体としては、下記に示す成分A及び成分Bからなる封止材用樹脂組成物と基材とを積層してなる、ホットタック性が5〜25℃のラミネートフィルムが例示される。
・成分A:エチレン系樹脂。
・成分B:以下の(a)〜(d)の性状を有するエチレンとα−オレフィンとの共重合体。
(a)密度が0.86〜0.935g/cm
(b)メルトフローレート(MFR)が1〜50g/10分。
(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが1つであり;該ピーク温度が100℃以下である。
(d)温度上昇溶離分別(TREF)による積分溶出量が、90℃のとき90%以上である。
成分Aと成分Bとの配合割合(成分A/成分B)は、重量比で、通常50/50以上が好ましく、55/45以上がより好ましく、60/40以上がさらに好ましい。また、通常99/1以下が好ましく、90/10以下がより好ましく、85/15以下がさらに好ましい。成分Bの配合量を多くすることで透明性やヒートシール性が高まる傾向にあり、成分Bの配合量を少なくすることでフィルムの作業性が高まる傾向にある。
成分Aと成分Bを配合して生成される封止材用樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、通常2g/10分以上が好ましく、3g/10分以上がより好ましく、通常50g/10分以下が好ましく、40g/10分以下がより好ましい。なおMFRの測定と評価は、JIS K7210(190℃、2.16kg荷重)に準拠する方法によって実施することができる。メルトフローレートがこの範囲にあることにより、樹脂組成物の成形をより容易にすることができる。
封止材用樹脂組成物の融点は、50℃以上が好ましく、55℃以上がより好ましく、また、通常300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。融点を高くすることで薄膜太陽電池14の使用時に融解・劣化する可能性を低減できる。
封止材用樹脂組成物の密度は、0.80g/cm以上が好ましく、0.85g/cm以上がより好ましく、また、0.98g/cm以下が好ましく、0.95g/cm以下がより好ましく、0.94g/cm以下がさらに好ましい。密度がこの範囲にあることにより、例えば耐熱性及び機械的強度を含めた封止材5の物性を、より適したものにすることができる。なお、密度の測定と評価は、JIS K7112に準拠する方法によって実施することができる。
さらに、エチレン・α−オレフィン共重合体を用いた封止材5において、前記プロピレン・エチレン・α−オレフィン共重合体を用いた場合と同様に、カップリング剤を用いることが可能である。
上述した封止材5は、材料由来の分解ガスを発生することがないため、太陽電池素子6への悪影響がなく、良好な耐熱性、機械強度、柔軟性(太陽電池封止性)及び透明性を有する。また、材料の架橋工程を必要としないため、シート成形時及び薄膜太陽電池100の製造時間が大きく短縮できるとともに、使用後の薄膜太陽電池14のリサイクルも容易となる。
なお、封止材5は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、封止材5は単層フィルムにより形成されていてもよいが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
封止材5の厚みは、通常2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、通常500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。厚みを厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まりまた光線透過率が高まる傾向にある。
封止材5を設ける位置に制限は無いが、通常は太陽電池素子6を挟み込むように設ける。太陽電池素子6を確実に保護するためである。本実施例では、太陽電池素子6の正面及び背面にそれぞれ封止材5及び封止材7を設けるようにしている。
<2.6 太陽電池素子6>
太陽電池素子6としては、本発明に係る光電変換素子を用いることができる。
(太陽電池素子同士の接続)
太陽電池素子6は、薄膜太陽電池14の1個あたり1個だけを設けてもよいが、通常は2個以上の太陽電池素子6を設ける。具体的な太陽電池素子6の個数は任意に設定することができる。太陽電池素子6を複数設ける場合、太陽電池素子6はアレイ状に並べて設けられることが多い。複数の太陽電池素子を用いる場合、本発明に係る光電変換素子と、他の任意の光電変換素子を併用することもできる。
太陽電池素子6を複数設ける場合、通常は、太陽電池素子6同士は電気的に接続され、接続された一群の太陽電池素子6から生じた電気を端子(図示せず)から取り出すようになっている。この際、電圧を高めるため、通常は太陽電池素子は直列に接続される。もっとも、太陽電池素子の接続方法は任意であり、並列に接続されてもよい。
このように太陽電池素子6同士を接続する場合には、太陽電池素子6間の距離は小さいことが好ましく、ひいては、太陽電池素子6と太陽電池素子6との間の隙間は狭いことが好ましい。太陽電池素子6の受光面積を広くして受光量を増加させ、薄膜太陽電池14の発電量を増加させるためである。
<2.7 封止材7>
封止材7は、上述した封止材5と同様のフィルムであり、配設位置が異なる他は封止材5と同様のものを同様に用いることができる。また、太陽電池素子6の受光面側にない構成部材は必ずしも可視光を透過させる必要がない。したがって図2に示す薄膜太陽電池14において、封止材7としては可視光を透過させない材料を用いることもできる。
<2.8 ゲッター材フィルム8>
ゲッター材フィルム8は、上述したゲッター材フィルム4と同様のフィルムであり、配設位置が異なる他はゲッター材フィルム4と同様のものを同様に必要に応じて用いることができる。また、太陽電池素子6の受光面側にない構成部材は必ずしも可視光を透過させる必要がない。したがって図2に示す薄膜太陽電池14において、ゲッター材フィルム8としては可視光を透過させない材料を用いることもできる。また、ゲッター材フィルム8として、使用する水分吸収剤若しくは酸素吸収剤をゲッター材フィルム4よりも多く含有するフィルムを用いることも可能となる。このような吸収剤としては、水分吸収剤としてCaO、BaO、Zr−Al−BaOが挙げられる。また、酸素吸収剤として活性炭、モレキュラーシーブなどが挙げられる。
<2.9 ガスバリアフィルム9>
ガスバリアフィルム9は、上述したガスバリアフィルム3と同様のフィルムであり、配設位置が異なる他はガスバリアフィルム3と同様のものを同様に必要に応じて用いることができる。また、太陽電池素子6の受光面側にない構成部材は必ずしも可視光を透過させる必要がない。したがって図2に示す薄膜太陽電池14において、ガスバリアフィルム9としては可視光を透過させない材料を用いることもできる。
<2.10 バックシート10>
バックシート10は、上述した耐候性保護フィルム1と同様のフィルムであり、配設位置が異なる他は耐候性保護フィルム1と同様のものを同様に用いることができる。また、このバックシート10が水及び酸素を透過させ難いものであれば、バックシート10をガスバリア層として機能させることも可能である。
また、太陽電池素子6の受光面側にない構成部材は必ずしも可視光を透過させる必要がない。したがって図2に示す薄膜太陽電池14において、バックシート10としては可視光を透過させない材料を用いることもできる。例えば、バックシート10として、以下に説明するもの(i)〜(iv)を用いることが特に好ましい。
(i)バックシート10としては、強度に優れ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性に優れた各種の樹脂のフィルム又はシートを使用することができる。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリルースチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、各種のナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂並びにセルロース系樹脂、その他などの各種の樹脂のシートを使用することができる。
これらの樹脂のシートの中でも、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂のシートを使用することが好ましい。なお、これらは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(ii)バックシート10としては、金属薄膜を用いることもできる。例えば、腐蝕防止処理を施したアルミニウム金属箔又はステンレス製薄膜などが挙げられる。なお、金属薄膜の材料として、1種の金属のみを用いてもよく、2種以上の金属を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(iii)バックシート10としては、例えばアルミ箔の両面にフッ素系樹脂フィルムを接着した防水性の高いシートを用いてもよい。フッ素系樹脂としては、例えば、一弗化エチレン(商品名:テドラー,デュポン社製)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとエチレンとのコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレンとプロピレンとのコポリマー、フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)及びフッ化ビニル系樹脂(PVF)などが挙げられる。なお、1種のフッ素系樹脂をバックシート10に用いてもよく、2種以上のフッ素系樹脂を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(iv)バックシート10としては、例えば、基材フィルムの片面あるは両面に、無機酸化物の蒸着膜を設け、更に、上記の無機酸化物の蒸着膜を設けた基材フィルムの両面に、耐熱性のポリプロピレン系樹脂フィルムを積層したものを用いてもよい。なお、通常は、基材フィルムにポリプロピレン系樹脂フィルムを積層する場合には、ラミネート用接着剤で張り合わせることで積層する。無機酸化物の蒸着膜を設けることで、水分、酸素などの浸入を防止する防湿性に優れたバックシート10を実現することができる。
(基材フィルム)
基材フィルムとしては、基本的には、無機酸化物の蒸着膜などとの密接着性に優れ、強度に優れ、耐候性、耐熱性、耐水性及び耐光性に優れた各種の樹脂のフィルムを使用することができる。
例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリルースチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、各種のナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂、並びにその他の各種の樹脂のフィルムを使用することができる。中でも、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂のフィルムを使用することが好ましい。
上記のような各種の樹脂のフィルムのなかでも、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)及びフッ化ビニル系樹脂(PVF)などのフッ素系樹脂のフィルムを使用することがより好ましい。更に、このフッ素系樹脂のフィルムの中でも、特に、ポリフッ化ビニル系樹脂(PVF)、テトラフルオロエチレンとエチレンとのコポリマー(ETFE)、又はテトラフルオロエチレンとプロピレンとのコポリマーを含むフッ素系樹脂のフィルムが、強度などの観点から特に好ましい。なお、基材フィルムには1種の成分を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、上記のような各種の樹脂のフィルムのなかでも、シクロペンタジエン及びその誘導体、シクロヘキサジエン及びその誘導体などの環状ポリオレフィン系樹脂のフィルムを使用することもより好ましい。
基材フィルムの膜厚としては、通常12μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、また、通常300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。膜厚を厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まる傾向にある。
(無機酸化物の蒸着膜)
無機酸化物の蒸着膜としては、金属の酸化物を蒸着した薄膜であれば、任意のものを使用可能である。例えば、ケイ素(Si)又はアルミニウム(Al)の酸化物の蒸着膜を使用することができる。この際、酸化ケイ素としては例えばSiO(x=1.0〜2.0)を用いることができ、酸化アルミニウムとしては例えばAlO(x=0.5〜1.5)を用いることができる。なお、蒸着膜には1種類の無機酸化物が蒸着されていてもよいし、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で併用されていてもよい。
無機酸化物の蒸着膜の膜厚としては、通常50Å以上が好ましく、100Å以上がより好ましい。また、通常4000Å以下が好ましく、1000Å以下がより好ましい。膜厚を厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まる傾向にある。
蒸着膜の作製方法としては、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法及び光化学気相成長法などの化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)などを用いることができる。具体的には例えば、有機ケイ素化合物などの蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとしてアルゴンガス及びヘリウムガスなどの不活性ガスを使用し、更に、酸素供給ガスとして酸素ガスなどを使用し、低温プラズマ発生装置などを利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いることにより、基材フィルムの一方の面に酸化ケイ素などの無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。
(ポリプロピレン系樹脂フィルム)
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレンの単独重合体、又はプロピレンと他のモノマー(例えばα−オレフィンなど)との共重合体を使用することができる。また、ポリプロピレン系樹脂としては、アイソタクチック重合体を用いることもできる。バックシート10として用いるためにより適した耐候性及び強度を得るためには、ポリプロピレン系樹脂の融点は通常164℃〜170℃が好ましく、比重は通常0.90〜0.91が好ましく、分子量は通常10万〜20万が好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、その結晶性により性質が大きく支配されるが、アイソタクチックの高いポリマーは、引っ張り強さ、衝撃強度に優れ、耐熱性、耐屈曲疲労強度を良好であり、かつ、加工性は極めて良好なものである。
(接着剤)
基材フィルムにポリプロピレン系樹脂フィルムを積層する場合には、通常はラミネート用接着剤を用いる。これにより、基材フィルムとポリプロピレン系樹脂フィルムとはラミネート用接着剤層を介して積層されることになる。
ラミネート用接着剤層を構成する接着剤としては、例えば、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリアクリル酸エステル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレン共重合体系接着剤、セルロース系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、アミノ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、反応型(メタ)アクリル系接着剤及びシリコン系接着剤などが挙げられる。なお、1種の接着剤を用いてもよく、2種以上の接着剤を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
上記の接着剤の組成系は、水性型、溶液型、エマルジョン型及び分散型などのうちのいずれの形態でもよい。また、その形状は、フィルム・シート状、粉末状及び固形状などのいずれの形態でもよい。さらに、接着機構については、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、又は熱圧型などのうちのいずれの形態でもよい。
例えば、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法及びその他などのコート法、並びに印刷法などの、任意の方法を用いて、上記の接着剤をフィルムにコーティングすることができる。バックシート10として用いるためにより適した強度及び接着力を得るためには、接着剤のコーティング量が、乾燥状態で0.1g/m〜10g/mであることが好ましい。
<2.11 薄膜太陽電池の寸法>
本実施例の薄膜太陽電池14は、通常、膜状の薄い部材である。このように膜状の部材として薄膜太陽電池14を形成することにより、薄膜太陽電池14を建材、自動車、インテリアなどに容易に設置できるようになっている。薄膜太陽電池14は、軽く、割れにくく、従って安全性の高い太陽電池が得られる。また、薄膜太陽電池14は曲面にも設置可能であるため、更に多くの用途に使用しうる。本実施例の薄膜太陽電池14は薄くて軽いため輸送や保管など流通面でも好ましい。更に、膜状であるためロール・トゥ・ロール式の製造が可能であり大幅なコストカットが可能である。
薄膜太陽電池14の具体的な寸法に制限は無いが、その厚みは、機械的強度を増す観点から、通常300μm以上が好ましく、500μm以上がより好ましく、700μm以上がさらに好ましい。また、柔軟性を増す観点から、通常3000μm以下が好ましく、2000μm以下がより好ましく、1500μm以下がさらに好ましい。
<2.12 薄膜太陽電池の製造方法>
本実施例の薄膜太陽電池14の製造方法に制限は無い。一例として、耐候性保護フィルム1とバックシート10との間に、1個又は2個以上の太陽電池素子6を直列又は並列接続したものを、紫外線カットフィルム2、ガスバリアフィルム3,9、ゲッター材フィルム4,8及び封止材5,7と共に、一般的な真空ラミネート装置でラミネートすることで製造できる。
この際、ラミネートを十分なものとして密着性を増す観点から、加熱温度は通常130℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましい。また、太陽電池素子6を含む薄膜太陽電池14の各部の劣化を防ぐ観点から、通常180℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましい。また、ラミネートを十分なものとして密着性を増す観点から、加熱時間は通常10分以上が好ましく、20分以上がより好ましい。また、太陽電池素子6を含む薄膜太陽電池14の各部の劣化を防ぐ観点から、加熱時間は通常100分以下が好ましく、90分以下がより好ましい。圧力は通常0.001MPa以上が好ましく、0.01MPa以上がより好ましい。また、通常0.2MPa以下が好ましく、0.1MPa以下がより好ましい。圧力をこの範囲とすることで封止を確実に行うことができる。また、端部から封止材5,7がはみ出すこと、及び過加圧による膜厚低減を抑え、寸法安定性を確保しうる。
<2.13 薄膜太陽電池の用途>
上述した薄膜太陽電池14の用途に制限はなく、任意の用途に用いることができる。例えば、図3に模式的に示すように、薄膜太陽電池14を備える太陽電池モジュール13を用意し、これを使用場所に設置して用いればよい。ここで薄膜太陽電池14は、何らかの基材12上に配置されてもよい。具体例を挙げると、基材12として建材用板材を使用する場合、この板材の表面に薄膜太陽電池14を設けることにより、太陽電池モジュール13として太陽電池パネルを作製することができる。この太陽電池パネルは、建物の外壁などに設置することができる。もっとも、本発明における太陽電池モジュールが基材12を備える必要はない。シート状である薄膜太陽電池14そのものを、太陽電池モジュールとして用いることもできる。
基材12は太陽電池素子6を支持する支持部材である。基材12を形成する材料としては、例えば、ガラス、サファイア及びチタニアなどの無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂、塩化ビニル、ポリエチレン、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート及びポリノルボルネンなどの有機材料;紙及び合成紙などの紙材料;ステンレス、チタン及びアルミニウムなどの金属に、絶縁性を付与するために表面をコート又はラミネートしたものなどの複合材料;などが挙げられる。
なお、基材12としては、1種の材料を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、これら有機材料又は紙材料に炭素繊維を含ませ、機械的強度を補強させてもよい。基材の形状はどのようなものでもよく、剛体であってもよいし、例えばシートのように柔軟性を有してもよい。
本発明に係る薄膜太陽電池を適用する分野の例としては、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、インテリア用太陽電池、鉄道用太陽電池、船舶用太陽電池、飛行機用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池及び玩具用太陽電池などが挙げられる。具体例として以下のようなものを挙げることができる。
(I.建築用途)
(I−1 ハウス屋根材)
基材として屋根用板材などを使用する場合、この板材の表面に薄膜太陽電池を設けて太陽電池モジュールである太陽電池パネルを作製し、この太陽電池パネルをハウスの屋根の上に設置すればよい。また、基材として瓦を直接用いることもできる。本発明に係る太陽電池が柔軟性を有するという特性を生かし、瓦の曲線に密着させることができるので好適である。
(I−2 屋上)
ビルの屋上に薄膜太陽電池を取り付けることもできる。基材上に薄膜太陽電池を設けた太陽電池モジュールを用意し、これをビルの屋上に設置することもできる。この時基材とともに防水シートを併用し、防水性を付与することが好ましい。さらに、本発明に係る薄膜太陽電池が柔軟性を有するという特性を生かし、平面ではない屋根、例えば折半屋根に密着させることもできる。この場合も防水シートを併用するのが好ましい。
(I−3 トップライト)
エントランスや吹き抜け部分に外装として本発明に係る薄膜太陽電池を用いることもできる。何らかのデザイン処理を施されたエントランスなどは曲線が用いられている場合が多く、そのような場合において本発明に係る薄膜太陽電池の柔軟性が生かされる。またエントランスなどにはシースルー部材が用いられる場合がある。このような場合、環境対策が重要視される時代において、有機太陽電池の緑色系の色合いによって意匠的な美観も得られるので好適である。
(I−4 壁)
基材として建材用板材を使用した場合、この板材の表面に薄膜太陽電池を設けて太陽電池モジュールとして太陽電池パネルを作製し、この太陽電池パネルを建物の外壁などに設置して使用すればよい。また、カーテンウオールに設置することもできる。その他、スパンドレル及び方立などへの取り付けも可能である。この場合、基材の形状に制限はないが、通常は板材を使用する。また、基材の材料及び寸法などは、その使用環境に応じて任意に設定すればよい。このような基材の例を挙げると、アルポリック(登録商標;三菱樹脂製)などが挙げられる。
(I−5 窓)
本発明に係る薄膜太陽電池は、シースルーの窓に使用することもできる。環境対策が重要視される時代において、有機太陽電池の緑色系の色合いによって意匠的な美観も得られるので好適である。
(I−6 その他)
本発明に係る薄膜太陽電池は、建築の外装として、ひさし、ルーバー、手摺などにも使用できる。このような場合においても、本発明に係る薄膜太陽電池の柔軟性が、これらの用途にとって好適である。
(II 内装)
本発明に係る薄膜太陽電池はブラインドのスラットに取り付けることもできる。本発明に係る薄膜太陽電池は軽量であり、柔軟性に富むことから、このような用途で用いること可能となる。また、有機太陽電池素子がシースルーであるという特性のために、本発明に係る薄膜太陽電池は内装用の窓としても使用することができる。
(III 野菜工場)
蛍光灯などの照明光を活用する植物工場の設置件数は増えているが、照明に掛かる電気代や光源の交換費用などによって栽培コストを引き下げにくいというのが現状である。そこで本発明に係る薄膜太陽電池を野菜工場に設置し、LED又は蛍光灯と組み合わせた照明システムを構築することができる。このとき蛍光灯よりも寿命が長いLEDと本発明に係る太陽電池を組み合わせた照明システムを用いることで、照明に要するコストを現状に比べて30%程度減らせることができるので好適である。また、野菜などを一定温度で輸送するリーファー・コンテナ(reefer container)の屋根及び側壁などに本発明に係る太陽電池を用いることもできる。
(IV 道路資材・土木)
本発明に係る薄膜太陽電池は、駐車場の外壁、高速道路の遮音壁及び浄水場の外壁などにも用いることができる。
(V 自動車)
本発明に係る薄膜太陽電池は、自動車のボンネット、ルーフ、トランクリッド、ドア、フロントフェンダー、リアフェンダー、ピラー、バンパー及びバックミラーなどの表面に用いることができる。得られた電力は走行用モータ、モータ駆動用バッテリー、電装品及び電装品用バッテリーのいずれにも供給することができる。太陽電池パネルにおける発電状況と、走行用モータ、モータ駆動用バッテリー、電装品及び電装品用バッテリーにおける電力使用状況とを考慮して、電力供給源を薄膜太陽電池とするか、その他の電池又は発電機とするか、これらの双方とするかを選択する制御手段を、さらに設置してもよい。こうして、得られた電力を適正かつ効率的に使用することができる。
本発明に係る薄膜太陽電池を自動車に用いる場合、基材12の形状に制限はないが、通常は板材を使用する。また、基材12の材料及び寸法などは、その使用環境に応じて任意に設定すればよい。このような基材12の例を挙げると、アルポリック(登録商標;三菱樹脂製)などが挙げられる。
以下、本発明の実施例を示して本発明について更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]Tetrakis(bicyclo[2.2.2]octadiene)vanazylporphyrin(VOCP)の合成
Figure 2012180294
[実施例1−1]化合物CPの合成
Figure 2012180294
特開2003−304014号公報の段落[0060]〜[0066]の記載に従って、Tetrakis(bicyclo[2.2.2]octadiene)porphyrin(以下、化合物CPと呼ぶ)を合成した。質量分析(FAB−MS法)により、目的物の質量と一致するm/z:623[M+1]を検出した。
H NMR(400MHz,CDCl) δ:10.40(m,4H), 7.20(m,8H), 5.81(m,8H), 2.24(m, 8H),and −4.80(br s, 2H).
[実施例1−2]化合物VOCPの合成
Figure 2012180294
反応容器に化合物CP(520mg、0.836mmol)、硫酸バナジルn水和物(496mg、1.67mmol)、酢酸ナトリウム(550mg、6.70mmol)、及び氷酢酸(80mL)を入れ、反応容器内の気体をアルゴンで置換した。反応容器を75℃に保ちながら130時間反応を行った。反応終了後、水を加え、クロロホルムで生成物を抽出し、有機層を炭酸水素ナトリウム水溶液、水、及び飽和食塩水で順に洗浄した。無水硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥し、その後有機層を濃縮した。得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン=3:2)で精製し、再沈殿(メタノール+水)することで目的物Tetrakis(bicyclo[2.2.2]octadiene)vanazylporphyrin(以下、化合物VOCPと呼ぶ)を19%収率で得た。質量分析(MALDI−TOF法)により、目的物の質量と一致するm/z:688.50[M+H]を検出した。
[実施例1−3]
反応温度を70℃とした以外は実施例1−2と同様の条件で反応を行った。130時間後、化合物VOCPが9%得られたことが確認された。
[実施例1−4]
反応温度を80℃とした以外は実施例1−2と同様の条件で反応を行った。140時間後、化合物VOCPが12%得られたことが確認された。
[比較例1−5]
反応温度を60℃とした以外は実施例1−2と同様の条件で反応を行った。120時間後、未反応の化合物CPが回収された。反応溶液に対して各種の分析を行ったが、化合物VOCPは痕跡量しか検出されなかった。
[比較例1−6]
反応温度を118℃(酢酸還流条件)とした以外は同様の条件で反応を行った。3時間後、化合物CPの熱変換反応(脱エチレン)によって得られる化合物BP(後述)の沈殿のみが確認された。反応溶液に対して各種分析を行ったが、化合物VOCP及び化合物VOBP(後述)はまったく検出されなかった。
[実施例2]Tetrabenzovanazylporphyrin(VOBP)の合成
Figure 2012180294
化合物VOCP(0.0050g、 0.00723mmol)をマイクロチューブに入れ、このマイクロチューブをナス型フラスコの中にいれた。真空ポンプで減圧し、さらにクーゲルロール中で220℃、10分間加熱した。色が完全に変化したことを確認した後、反応容器を室温まで戻した。ナス型フラスコからマイクロチューブを取り出し、目的物Tetrabenzovanazylporphyrin(VOBP)を得た。熱分析の結果、変換開始温度は161.0℃であった。
Tetrabenzovanazylporphyrin(VOBP):
元素組成(分子量): C3620OV (575.51);
外観: 青色粉末;
質量分析(MALDI−TOF−MS):575[M];
[実施例3]化合物VOBPのトランジスタ特性測定
膜厚300nmの酸化膜を形成したn型シリコン(Si)基板(Sbドープ、抵抗率0.02Ω・cm以下、住友金属工業社製)上に、フォトリソグラフィーで長さ(L)10μm、幅(W)500μmのギャップを有する金属極を、ソース電極及びドレイン電極として形成した。また、ソース電極及びドレイン電極とは異なる位置の酸化膜を削り取ってむき出しになったSi部分にクロムを蒸着して、この蒸着部分をシリコン基板に電圧を印加するためのゲート電極として利用した。
化合物VOCPの10mmol/Lクロロホルム溶液を調製し、この溶液を電極を設けたシリコン基板上にスピンコートすることにより、膜を良好に生成した。膜が形成された基板を210℃で20分間加熱処理をすることによって、化合物VOCPを化合物VOBPへと変換した。こうして、電極を形成したシリコン基板上に化合物VOBPの膜を作製することにより、FET(電界効果トランジスタ)素子作製した。得られたFET素子を、Agilent社製半導体パラメータアナライザー4155Cを用いて評価した。化合物VOBPはFET特性を示し、その飽和移動度は、4.7E−4[cm/V・s]であった。
[実施例4]化合物VOBPを用いた太陽電池の作製
[実施例4−1]C60(QM)の合成
Figure 2012180294
窒素雰囲気下、500mL三口ナスフラスコに、フラーレンC60(500mg、0.694mmol)、ヨウ化テトラn−ブチルアンモニウム(TBAI;1.28g、3.47mmol、5当量)、及びトルエン(230mL)を入れた。減圧脱気後、α、α’−ジブロモ−o−キシレン(916mg、3.47mmol、5当量)を加えて加熱還流した。10時間後、室温に戻し、シリカゲルろ過カラム(溶媒:トルエン)に供し、溶液を濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(二硫化炭素:ヘキサン=1:2)に供した後、GPC精製(クロロホルム)を行うことにより、収率47%(304mg、0.328mmol)でフラーレン化合物C60(QM)を得た。質量分析(APCI法、negative)により、目的物の質量と一致するm/z:928[M]を検出した。
[実施例4−2]POPyの合成
Figure 2012180294
窒素雰囲気下、1−ブロモピレン(東京化成:14g、50mmol)を脱水テトラヒドロフラン(関東化学:200mL)に溶かし、−78℃に冷却した後、n−ブチルリチウム(関東化学:33mL、1.6M)をゆっくり滴下し、−78℃を保持したまま、30分撹拌した。つづいて、ジクロロフェニルホスフィン(東京化成:4.3g、9.0mmol)を滴下し、十分攪拌した後、室温まで昇温し、さらに1.5時間撹拌した。得られた反応溶液にメタノール(純正化学)30mLを加え、得られた粗精製物をろ過し、ベンゼンを用いて再結晶することにより、10.7gの中間生成物PPyを得た。
得られた化合物PPyをテトラヒドロフラン(純正化学)350mL、ジクロロメタン(関東化学)300mL、及びアセトン(関東化学)100mLの混合溶媒に溶かし、過酸化水素水(和光純薬:30%溶液10mL)を加え、室温で30分間撹拌した。反応溶液に水30mLを加え600mLまで濃縮後、ろ過することにより、目的物POPyを7.5g得た。
[実施例4−3]化合物VOCPを用いた太陽電池の作成
ITO電極がパターニングされたガラス基板上に、正孔取り出し層としてポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)水性分散液(エイチ・シー・スタルク社製 商品名「CLEVIOUSTM PVP AI4083」)をスピンコートにより塗布した。塗布後の基板に対し、120℃のホットプレート上で大気中10分間、加熱処理を施した。正孔取り出し層の膜厚は約30nmであった。
正孔取り出し層を成膜した基板を、まず窒素雰囲気下で180℃で3分間加熱処理した。そして、実施例1−2に従って合成した化合物VOCPを0.5重量%含むクロロホルム:モノクロロベンゼン=1:2(重量比)混合溶液を調製してろ過し、加熱処理後の基板上に1500rpmでスピンコートすることにより塗布した。塗布後の基板を窒素雰囲気下で180℃20分間加熱処理することにより、正孔取り出し層の上に約25nmのp型半導体層を形成した。上述のように、加熱処理によって化合物VOCPは化合物VOBPへと変換される。
次に、実施例4−1に従って合成したフラーレン化合物C60(QM)を1.0重量%含むトルエン溶液を調製してろ過した。p型半導体層を成膜した基板上に、得られたろ液を窒素雰囲気下で3000rpmでスピンコートし、120℃で5分間加熱処理を施した。これによって、p型半導体層の上にn型半導体層を形成した。
次に、真空蒸着装置内に配置されたメタルボートに実施例4−2に従って合成したPOPyを入れ、加熱することにより、n型半導体層上を成膜した基板上にPOPyを膜厚6nmになるまで蒸着した。こうして、n型半導体層上にバッファ層を形成した。
更に、バッファ層を成膜した基板上に、真空蒸着により厚さ80nmのアルミニウム電極を設けた。以上のようにして光電変換素子を作製した。
ガラス板を封止板として用いて封止した光電変換素子に、ITO電極側から光を照射し、分光計器製PEC−S20を用いて、ITO電極とアルミニウム電極との間における外部量子効率を測定した。本実施例では、入射光の波長を720nm〜800nmとして、それぞれの波長について量子効率を測定した。測定結果を表1に示す。
[比較例4−4]化合物CPを用いた太陽電池の作成
実施例1−1に従って合成した化合物CPを、化合物VOCPの代わりに用いたこと以外は、実施例4−3と同様に光電変換素子を作製した。下式に示すように、加熱処理によって化合物CPは化合物BPへと変換される。作製した光電変換素子について、実施例4−3と同様に量子効率を測定した。測定結果を表1に示す。
Figure 2012180294
Figure 2012180294
表1に示すように、720nm以上の長波長領域において、化合物VOBPを用いた光電変換素子の外部量子効率は、化合物BPを用いた光電変換素子よりも高いことがわかる。このことは、化合物VOBPを用いた光電変換素子は、化合物BPを用いた光電変換素子よりも、720nm以上の光を電気に変換する効率が高いことを示す。
100 基板
101 電極
102 バッファー層
103 p型半導体層
104 p型半導体、n型半導体混合層
105 n型半導体層
106 バッファー層
107 電極
1 耐候性保護フィルム
2 紫外線カットフィルム
3,9 ガスバリアフィルム
4,8 ゲッター材フィルム
5,7 封止材
6 太陽電池素子
10 バックシート
12 基材
13 太陽電池モジュール
14 薄膜太陽電池

Claims (6)

  1. 下記一般式(2)で表されるテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の製造方法であって、
    下記一般式(1)で表されるテトラビシクロポルフィリン化合物とバナジル化合物とを反応させる工程を含み、
    前記反応を、65℃以上95℃以下の温度で行うことを特徴とする、テトラビシクロポルフィリンバナジル錯体の製造方法。
    Figure 2012180294
    Figure 2012180294
    (式(1)及び式(2)において、R〜Rはそれぞれ独立に1価の有機基を表し、RとR、RとR、RとR10、及びR11とR12の組のそれぞれについて、一方は以下の式(3)に示されるRであり、他方は式(3)に示されるRであり、R13〜R16は1価の有機基を表す。)
    Figure 2012180294
  2. 請求項1に記載の製造方法により得られたテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を含有する半導体層形成用組成物。
  3. 請求項2に記載の半導体層形成用組成物を基材上に塗布する工程と、
    前記塗布された半導体層形成用組成物に含まれている前記一般式(2)で表されるテトラビシクロポルフィリンバナジル錯体を、前記一般式(1)で表されるテトラベンゾポルフィリンバナジル錯体へと変換する工程と、
    を含むことを特徴とする、電子デバイスの製造方法。
  4. 前記電子デバイスが光電変換素子であることを特徴とする、請求項3に記載の電子デバイスの製造方法。
  5. 請求項4に記載の製造方法により得られた光電変換素子を備えることを特徴とする太陽電池。
  6. 請求項5に記載の太陽電池を備えることを特徴とする太陽電池モジュール。
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