以下、図1〜図9を参照し、本発明にかかる内燃機関の制御装置を具体化した一実施形態について説明する。
図1に示すように、内燃機関10の気筒には、ピストン11が往復動可能に収容されている。このピストン11の頂面と気筒の内周面とによって燃焼室12が区画形成されている。燃焼室12には、同燃焼室12に吸入空気を供給する吸気通路13と、同燃焼室12から排気が排出される排気通路14とが接続されている。
上述したピストン11には、その往復運動を回転運動に変換するクランク軸15がコネクティングロッド18を介して連結されている。また、内燃機関10の上部には、吸気バルブ31を開閉する吸気用カム軸32と、排気バルブ41を開閉する排気用の排気用カム軸42とが設けられている。吸気用カム軸32の先端には、吸気バルブ31のバルブタイミングを変更する可変動弁装置30が設けられている。この可変動弁装置30に設けられた吸気用カム軸32のスプロケット35、排気用カム軸42のスプロケット45、及びクランク軸15のスプロケット16は、タイミングチェーン17を介して駆動連結されている。これにより、クランク軸15が回転すると、この回転がタイミングチェーン17を介してスプロケット35,45に伝達されて吸気用カム軸32及び排気用カム軸42がそれぞれ回転する。
吸気バルブ31は、吸気用バルブスプリング34によって閉弁方向に付勢されている。この吸気用バルブスプリング34が吸気用カム軸32の回転に伴いこの吸気用カム軸32に設けられた吸気用カム33で押圧されて収縮及び復元することにより、吸気バルブ31が開閉される。
また、排気バルブ41は、排気用バルブスプリング44によって閉弁方向に付勢されている。この排気用バルブスプリング44が排気用カム軸42の回転に伴いこの排気用カム軸42に設けられた排気用カム43で押圧されて収縮及び復元することにより、排気バルブ41が開閉される。
一方、内燃機関10の下部には、作動油を貯留するオイルパン21が取り付けられるとともに、クランク軸15の回転力により駆動されてオイルパン21の作動油を組み上げるオイルポンプ20が設けられている。このオイルポンプ20により作動油が供給される作動油通路24には、上述した可変動弁装置30の各油室に対する作動油の給排状態を変更する油路制御弁(以下、「OCV(Oil Control Valve)」という)25が設けられている。なお、オイルパン21に貯留される作動油は、可変動弁装置30を駆動するための油圧を発生する作動油としての機能の他、内燃機関10の各部を潤滑するための潤滑油としての機能も併せ有している。
また、クランク軸15には、内燃機関10の始動時に同クランク軸15を強制回転(クランキング)させる機関始動装置としてのスタータ22が接続されている。このスタータ22には、バッテリ23から電力が供給される。なお、このスタータ22は、クランク軸15に設けられたリングギヤ(図示略)とスタータ22に設けられたピニオンギヤ(図示略)とが常時噛み合っている常時噛み合い式のスタータである。また、スタータ22は、ピニオンギヤがリングギヤに対して正回転方向に相対回転しようとするときのみスタータ22とクランク軸15との間でトルクを伝達するワンウェイクラッチを備えている。
内燃機関10には、同内燃機関10の運転状態を検出するための各種センサが設けられている。例えば、こうした各種センサとして、クランク角センサ81、カム角センサ82、エアフロメーター83、吸気温センサ84等がある。クランク角センサ81は、クランク軸15の近傍に設けられてクランク角CA及び機関回転速度NEを検出する。カム角センサ82は、吸気用カム軸32の近傍に設けられて同吸気用カム軸32の位置を検出する。エアフロメーター83は、吸気通路13に設けられて吸入空気量を検出する。吸気温センサ84は、吸気通路13に設けられて吸入空気の温度(吸気温Tair)を検出する。また、内燃機関10が搭載される車両には、内燃機関10の始動要求時に操作者により押動操作されるプッシュ式スタートスイッチ85が設けられている。このスタートスイッチ85は、押動操作されたときにスタート信号STSWを出力する。これら各種センサから出力される信号は、内燃機関10の各種装置を統括して制御する制御部80に取り込まれる。
制御部80は、演算ユニットをはじめ、各種制御プログラムや演算マップ、制御の実行に際して算出されるデータ等を記憶保持する記憶手段(記憶部)としての複数のメモリ80Aを備えている。なお、メモリ80Aの一部は、バッテリ23から常時電力が供給されることにより、機関停止中においてもその記憶された情報を保持するバックアップメモリとして機能する。そして、制御部80は、上述した各センサの検出結果に基づいて内燃機関10の運転状態を監視し、その運転状態に基づいて、OCV25の制御を通じて吸気バルブ31のバルブタイミングを制御するバルブタイミング可変制御、スタータ22による機関始動制御等の各種制御を実行する。
内燃機関10は、直列三気筒型であって、吸気用カム軸32には各気筒に対応した3つの吸気用カム33が設けられている。図2に示すように、これら3つの吸気用カム33は、吸気用カム軸32の端部側からみてカムノーズ33Aが吸気用カム軸32まわりに等間隔に配置されるように設けられている。すなわち、カムノーズ33Aの頂点は、吸気用カム軸32の中心軸周りに120°ごとに配置されている。
次に、図3を参照し、可変動弁装置30の構成について説明する。可変動弁装置30は、吸気バルブ31のバルブタイミングを変更する可変機構50と、バルブタイミングを最進角時期PAと最遅角時期PRとの間の中間時期(以下、「特定時期PM」という)に機械的にロックするロック機構51とを備えている。この特定時期PMは、機関始動可能なバルブタイミングであって、特に極低温始動時に機関始動可能なバルブタイミングが設定されている。同図3は、可変機構50からスプロケット35を取り外した状態で、スプロケット35側からカバー36側をみた可変機構50の内部構造を示している。
可変機構50のハウジング52、上述したスプロケット35及びカバー36は、図示しないボルトによって固定され、吸気用カム軸32の回転軸線周りに一体回転する。これらハウジング52、スプロケット35及びカバー36は、クランク軸15に駆動連結された第1の回転体として機能する。なお、吸気用カム軸32及びハウジング52は、図3に矢印で示す回転方向RCに回転するものとする。
ハウジング52には、その径方向内側に延びる3つの区画部54が設けられている。また、ハウジング52には、ハウジング52と同一の回転軸線周りに回転するベーンロータ53が回動可能に収容されている。ベーンロータ53は、吸気用カム軸32に一体回転可能に連結されるボス53Aと、ボス53Aの径方向外側に突出する3つのベーン53Bを有している。そして、ハウジング52の各区画部54とベーンロータ53のボス53Aによって収容室55が区画形成されるとともに、この収容室55は各ベーン53Bにより進角室56と遅角室57とにそれぞれ区画されている。なお、ベーンロータ53は、吸気用カム軸32に駆動連結された第2の回転体として機能する。
ロック機構51は、互いに異なるベーン53Bにそれぞれ設けられた進角ロック機構60と遅角ロック機構70とを備えている。進角ロック機構60は、バルブタイミングが特定時期PMよりも進角側に変化する方向にハウジング52とベーンロータ53とが相対回転することを規制する機能を有している。一方、遅角ロック機構70は、バルブタイミングが特定時期PMよりも遅角する方向にハウジング52とベーンロータ53とが相対回転することを規制する機能を有している。また、進角ロック機構60及び遅角ロック機構70は、バルブタイミングを特定時期PMよりも遅角側から特定時期PMまで段階的に進角させるラチェット機能も併せ有している。そして、これら進角ロック機構60及び遅角ロック機構70の協働によりバルブタイミングが特定時期PMにロックされる。
次に、図4を参照し、ロック機構51の詳細な構成について説明する。以下では、吸気用カム軸32の軸方向において可変機構50のカバー36が配置される側を「先端側ZA」とし、スプロケット35が配置される側を「基端側ZB」とする。
進角ロック機構60は、ベーン53Bに設けられた円筒状の第1のロックピン61と、第1のロックピン61が嵌入又は抜脱する第1の凹部63とを備えている。この第1の凹部63は、カバー36に形成されている。
第1のロックピン61は、ベーン53Bに形成されたベーン孔66において先端側ZA及び基端側ZBに往復動するとともに、その一部がベーン53Bの外部に突出して第1の凹部63に嵌入する。ベーン孔66は、第1のロックピン61により、基端側ZBの第1のばね室68と、先端側ZAの第1の解除室67とに区画されている。第1のばね室68には、第1のロックピン61を先端側ZAに付勢する第1のばね62が収容されている。一方、第1の解除室67には、上述した作動油通路24(図1参照)を通じて作動油が供給される。この供給される作動油の圧力に基づく力により第1のロックピン61は基端側ZBに付勢される。
第1の凹部63は、カバー36においてその周方向に沿った円弧状をなしている。詳しくは、第1の凹部63は、相対的に深さが浅く形成された第1の上段部64と、相対的に深さが深く形成された第1の下段部65とから構成されている。第1の上段部64は、第1の下段部65よりも遅角側に形成されている。
遅角ロック機構70は、ベーン53Bに設けられた円筒状の第2のロックピン71と、第2のロックピン71が嵌入する第2の凹部73とを備えている。この第2の凹部73は、カバー36に形成されている。
第2のロックピン71は、ベーン53Bに形成されたベーン孔76において先端側ZA及び基端側ZBに往復動するとともに、ベーン53Bの外部に突出して第2の凹部73に嵌入する。ベーン孔76は、第2のロックピン71により、基端側ZBの第2のばね室78と、先端側ZAの第2の解除室77とに区画されている。第2のばね室78には、第2のロックピン71を先端側ZAに付勢する第2のばね72が収容されている。一方、第2の解除室77には、上述した作動油通路24(図1参照)を通じて作動油が供給される。この供給される作動油の圧力に基づく力により第2のロックピン71は基端側ZBに付勢される。
第2の凹部73は、カバー36においてその周方向に沿った円弧状をなしている。詳しくは、第2の凹部73は、相対的に深さが浅く形成された第2の上段部74と、相対的に深さが深く形成された第2の下段部75とから構成されている。第2の上段部74は、第2の下段部75よりも遅角側に形成されている。
第1のロックピン61、第2のロックピン71、第1の凹部63に形成された第1の上段部64及び第1の下段部65、並びに第2の凹部73に形成された第2の上段部74及び第2の下段部75は、吸気用カム軸32に作用する交番トルクによりバルブタイミングを特定時期PMにまで段階的に進角させるラチェット機能を有する。すなわち、第1の凹部63に形成された第1の上段部64及び第1の下段部65は、第1のロックピン61がこれら段部64,65に嵌入したときに同ロックピン61の遅角側への変位をそれぞれ規制する。一方、第2の凹部73に形成された第2の上段部74及び第2の下段部75は、第2のロックピン71が嵌入したときに同ロックピン71の遅角側への変位をそれぞれ規制する。さらに、第1のロックピン61が第1の下段部65に嵌入するとともに第2のロックピン71が第2の下段部75に嵌入したときには、第1の下段部65の進角側の内壁により第1のロックピン61の進角側への変位が規制される。また、併せて第2の下段部75の遅角側の内壁により第2のロックピン71の遅角側への変位が規制される。これにより、バルブタイミングが特定時期PMでロックされる。なお、図4には、ロック機構51がロック状態であって、バルブタイミングが特定時期PMでロックされた状態を示している。
次に、可変動弁装置30の作用について説明する。
機関運転に伴いクランク軸15が回転するとその駆動力がタイミングチェーン17を介して可変機構50のスプロケット35に伝達され、この可変機構50とともに、吸気用カム軸32が回転する。これにより、吸気バルブ31は吸気用カム軸32に設けられた吸気用カム33により開閉される。
また、可変機構50の進角室56及び遅角室57に対する作動油の供給又は排出がOCV25を通じて制御されると、進角室56及び遅角室57の油圧に基づき収容室55でベーン53Bが変位する。これにより、スプロケット35及びハウジング52に対するベーンロータ53の相対回転位置、すなわちクランク軸15に対する吸気用カム軸32の相対回転位置が変更され、吸気バルブ31のバルブタイミングが変更される。
具体的には、可変機構50の進角室56に対して作動油が供給される一方で遅角室57の作動油が排出されることにより、ベーンロータ53がハウジング52に対して進角側方向に相対回転すると、バルブタイミングが進角される。そして、ベーン53Bが遅角室57の進角側の内壁に接触すると、バルブタイミングは最進角時期PAとなる。また、遅角室57に対して作動油が供給される一方で進角室56の作動油が排出されることにより、ベーンロータ53がハウジング52に対して遅角側方向に相対回転すると、バルブタイミングは遅角される。そして、ベーン53Bが進角室56の遅角側の内壁に接触すると、バルブタイミングは最遅角時期PRとなる。
機関停止要求時には、バルブタイミングが特定時期PMになるようにOCV25を通じて進角室56及び遅角室57の油圧が制御される。そして、進角ロック機構60の第1の解除室67から作動油が排出されてこの第1の解除室67の油圧が解除油圧よりも低くなると、第1のばね62で付勢された第1のロックピン61が第1の凹部63(第1の下段部65)に嵌入する。併せて、遅角ロック機構70の第2の解除室77から作動油が排出されてこの第2の解除室77の油圧が解除油圧よりも低下すると、第2のばね72で付勢された第2のロックピン71が第2の凹部73(第2の下段部75)に嵌入する。これにより、第1のロックピン61の進角側への変位が第1の下段部65の進角側の内壁で規制されるとともに、第2のロックピン71の遅角側への変位が第2の下段部75の遅角側の内壁で規制されて、ロック機構51がロック状態になる。すなわち、バルブタイミングが特定時期PMにロックされる。以下、このようにロック機構51がロック状態に移行して機関停止することを「機関通常停止」という。
ここで、上述した機関通常停止の後に、内燃機関10の始動要求があったときには、ロック機構51がロック状態にあってバルブタイミングが特定時期PMにロックされた状態でクランキングが開始される。上述したように、この特定時期PMは機関始動可能なバルブタイミングに設定されているため、内燃機関10は良好に始動することができる。
そして、機関始動後に所定条件が成立すると、第1のロックピン61及び第2のロックピン71が第1の凹部63及び第2の凹部73からそれぞれ抜脱される。具体的には、進角ロック機構60の第1の解除室67に作動油が供給されてこの第1の解除室67の油圧が解除油圧よりも上昇すると、この油圧に基づく付勢力により第1のロックピン61は基端側ZBに移動して第1の凹部63から抜脱する。また、遅角ロック機構70の第2の解除室77に対しても作動油が供給されてこの第2の解除室77の油圧が解除油圧よりも上昇すると、この油圧に基づく付勢力により第2のロックピン71は基端側ZBに移動して第2の凹部73から抜脱する。これにより、ハウジング52とベーンロータ53との相対回転が許容される。その後、バルブタイミングが機関運転状態に適した所望の時期となるように、OCV25の制御が実行される。
一方、機関停止要求時においてロック機構51がロック状態に移行しなかったときには、特定時期PMとは異なる時期となった状態で内燃機関10の運転が停止する。以下、このようにロック機構51がロック状態に移行することなく機関停止することを「機関異常停止」という。
そして、こうした機関異常停止の後に、内燃機関10の始動要求があったときには、バルブタイミングが特定時期PMにない状態でクランキングが開始されることとなり、機関始動が不能となったり、機関始動に長期間を要したりする等、機関始動性の悪化を招くおそれがある。なお、こうした機関異常停止時には、内燃機関10の停止が完了するまでに、進角室56及び遅角室57の各油圧の低下に伴いバルブタイミングが遅角する方向に向かってベーンロータ53とスプロケット35とが相対回転するため、バルブタイミングが最遅角時期PRまで変化することが多い。
そこで、機関異常停止後の機関始動性を向上させるべく、本実施形態のロック機構51は、上述したラチェット機能を有している。すなわち、ロック機構51の第1の凹部63及び第2の凹部73に複数の段部64,65,74,75が形成されている。これにより、クランキング時に吸気用カム軸32に作用する交番トルクを利用して、バルブタイミングを最遅角時期PRから特定時期PMにまで進角させるようにしている。
次に、図5及び図6を参照し、機関始動時においてバルブタイミングが最遅角時期PRから特定時期PMまで進角する過程について説明する。図6(a)〜(d)は、バルブタイミングが最遅角時期PRから特定時期PMまで進角する過程について順に示したものである。なお、図6(a)〜(d)では、進角ロック機構60の動作状態と遅角ロック機構70の動作状態との関係を容易に把握できるよう、第1のロックピン61と第2のロックピン71とを同一のベーン53Bから互いに逆向きに突出するように示しているとともに、第1の凹部63と第2の凹部73とを軸方向に向き合うように示している。
ここで、機関運転中には、吸気用カム33による吸気バルブ31の開閉駆動に伴い、バルブタイミングが遅角側に変化する方向にベーンロータ53とハウジング52とを相対回転させようとする正トルクと、バルブタイミングが進角側に変化する方向にベーンロータ53とハウジング52とを相対回転させようとする負トルクとが吸気用カム軸32に対して交互に作用する。
すなわち、図5(c)の左図に示すように、バルブリフト量が増大する期間であるタイミングT1からタイミングT2までの期間では、吸気用カム軸32が回転方向RCに回転すると、吸気用カム33のカムノーズ33Aによりリフタ37を介して吸気用バルブスプリング34が押圧される。これにより、吸気用バルブスプリング34が収縮するため、正トルクF1が吸気用カム軸32に作用する。
一方、図5(c)の右図に示すように、バルブリフト量が減少する期間であるタイミングT2からタイミングT3までの期間では、収縮した吸気用バルブスプリング34が元の状態に復元するため、負トルクF2が吸気用カム軸32に対して作用する。
なお、図5(c)の中央図に示すように、吸気用バルブスプリング34が最も収縮するとともにカムノーズ33Aの頂点がリフタ37と接触しているタイミングT2では、正トルク及び負トルクのいずれも吸気用カム軸32に作用しない。
こうした交番トルクが、上述した機関異常停止後の機関始動時であって、進角室56及び遅角室57の各油室の油圧が十分に上昇していない状況のもとで、吸気用カム軸32に対して作用すると、ベーンロータ53及びハウジング52が相対回転する。すなわち、負トルクが作用する期間にはロックピン61,71はカバー36に対して進角側に変位し、正トルクが作用する期間にはロックピン61,71はカバー36に対して遅角側に変位する。
例えばバルブタイミングが最遅角時期PRにあるときに上述したような負トルクが吸気用カム軸32に作用すると、吸気用カム軸32に駆動連結されたベーンロータ53の回転速度がクランク軸15に駆動連結されたハウジング52の回転速度を一時的に上回る。これにより、ベーンロータ53がハウジング52に対して進角側方向に相対回転し、第1のロックピン61及び第2のロックピン71が進角側に変位する。そして、図6(a)に示すように、第1のロックピン61が第1の上段部64に嵌入可能な位置にあるときに、すなわち第1のロックピン61が第1の上段部64の基端側ZBに位置するときに、第1のロックピン61が第1の上段部64に嵌入する。この状態において正トルクが吸気用カム軸32に作用することによりバルブタイミングが遅角する方向にハウジング52とベーンロータ53とが相対回転しようとするときには、第1の上段部64の遅角側の内壁に第1のロックピン61が接触する。そのため、バルブタイミングが遅角する方向にハウジング52とベーンロータ53とが相対回転することが規制される。これにより、最遅角時期PRよりも進角側の第1遅角時期PX1において、バルブタイミングの遅角が規制される。
そして、この状態で、吸気用カム軸32に対してさらに作用する交番トルクに基づき、第2のロックピン71が第2の上段部74に嵌入し(図6(b))、第1のロックピン61が第1の下段部65に嵌入し(図6(c))、第2のロックピン71が第2の下段部75に嵌入する(図6(d))。これにより、バルブタイミングの遅角が第2遅角時期PX2、第3遅角時期PX3、特定時期PMで順に規制され、バルブタイミングが特定時期PMでロックされた状態に移行する。
図7(a)には、図7(c)の実線に示すようにクランキングを継続して実行した「通常時」におけるハウジング52の回転速度及びベーンロータ53の回転速度の推移を示している。同図7(a)のタイミングT2からタイミングT3の破線に示すように、バルブリフト量の減少期間であって負トルクが吸気用カム軸32に作用する期間には、吸気用カム軸32に駆動連結されたベーンロータ53の回転速度がクランク軸15に駆動連結されたハウジング52の回転速度を一時的に上回る。これにより、ベーンロータ53がハウジング52に対して進角側方向に相対回転する。このときの両回転体の相対回転量は、同図7(a)の斜線で示す範囲で示される。しかし、この相対回転量が十分ではない場合には、たとえ吸気用カム軸32に対して負トルクが作用する場合であっても、ベーンロータ53がハウジング52に対して十分に進角側方向に相対回転しないため、ロックピン61,71が段部64,65,74,75に嵌入可能な位置まで変位しなくなる。そして、ロックピン61,71が段部64,65,74,75に嵌入可能な位置まで変位しない場合には、ロックピン61,71を段部64,65,74,75に嵌入させることができず、ラチェット機能を通じてバルブタイミングを特定時期PMまで進角させることが困難になる。また、ロックピン61,71が段部64,65,74,75に嵌入可能な位置にまで変位した場合であっても、こうした嵌入可能な位置にある期間が、ロックピン61,71が段部64,65,74,75に向けて変位しこれに嵌入するのに要する期間よりも短い場合には、やはりロックピン61,71を段部64,65,74,75に嵌入させることができない。
そこで、本実施形態では、ベーンロータ53とハウジング52との相対回転量を増大すべく、図7(b)、(c)に示すように、「クランキング速度変更処理」が実行される。具体的には、「クランキング速度変更処理」として、同図7(c)の二点鎖線で示すように、カムノーズ33Aの頂点がリフタ37と接触するタイミングT2を過ぎた時点でクランキングが停止される。すなわち、カムノーズ33Aの頂点がリフタ37を通過した時点でクランキングが停止される。これにより、クランク軸15に駆動連結されたハウジング52の回転速度が低下して吸気用カム軸32に駆動連結されたベーンロータ53の回転速度との相対差を増大させることができる。そのため、同図7(b)の斜線で示される「クランキング速度低下時」のベーンロータ53とハウジング52との相対回転量は、図7(a)の斜線で示される「通常時」のベーンロータ53とハウジング52との相対回転量よりも大きくなる。
ここで、吸気用カム軸32に駆動連結されたベーンロータ53は、収縮した吸気用バルブスプリング34が復元する際に吸気用カム33に作用する押圧力によりその回転速度が上昇する。したがって、クランキング速度の停止時期が、吸気用バルブスプリング34が復元する期間であるバルブリフト量の減少期間において早く設定されるほど、ベーンロータ53の回転速度とハウジング52の回転速度との相対差が大きくなる。そして、これら回転速度の相対差が大きくなることにより、同図7の斜線で示されるベーンロータ53とハウジング52との相対回転量も大きくなる。そこで、本実施形態では、カムノーズ33Aの頂点がリフタ37を通過した時点であって、吸気用カム軸32に作用するトルクが正トルクから負トルクに切り替わったとき、すなわち、バルブリフト量の減少期間に切り替わったときにクランキングが停止される。
なお、図7(a)、(b)のタイミングT1からタイミングT2に示すように、バルブリフト量の増大期間であって正トルクが吸気用カム軸32に作用する期間には、ハウジング52に対するベーンロータ53の遅角側への相対回転は、進角室56の遅角側の内壁(最遅角時期PRにある場合)またはラチェット機能(第1遅角時期PX1、第2遅角時期PX2、第3遅角時期PX3にある場合)により規制される。したがって、吸気用カム軸32に駆動連結されたベーンロータ53は、クランク軸15に駆動連結されたハウジング52と同一の回転速度で回転する。
次に、図8を参照し、内燃機関10の始動時に実行される「始動時処理」の処理手順について説明する。同図に示す一連の処理は、制御部80により一定周期をもって繰り返し実行される。
本処理が開始されると、まず、処理回数カウンタCが「0」であるか否かが判定される(ステップS100)。この処理回数カウンタCの初期値は「0」であって、後述する「クランキング速度変更処理」が1回実行されると「1」インクリメントされる。
ここで、処理回数カウンタCが「0」である旨判定される場合には(ステップS100:YES)、始動要求があるか否かが判定される(ステップS101)。具体的には、操作者による押動操作に伴いプッシュ式スタートスイッチ85からスタート信号STSWが出力されたときに始動要求がある旨判定される。そして、始動要求がない旨判定される場合には(ステップS101:NO)、本処理は終了される。
一方、始動要求がある旨判定される場合には(ステップS101:YES)、極低温始動時であるか否かが判定される(ステップS102)。具体的には、吸気温センサ84により検出される吸気温Tairが摂氏マイナス30度以下であるとき(Tair≦−30℃)に極低温始動時である旨判定される。
ここで、吸気温の極低温時であって内燃機関10の温度が低い冷間始動時である場合には、作動油の温度が低くその粘性が高くなるため、吸気用カム軸32に作用する交番トルクによりベーンロータ53とハウジング52とが相対回転する際に生じる作動油の抵抗力も増大するようになる。その結果、負トルクが吸気用カム軸32に作用したときに生じるベーンロータ53とハウジング52との相対回転量が小さくなり、クランキングの実行中にバルブタイミングを特定時期PMまで変更してロック機構51をロック状態に移行させ難くなる。また、冷間始動時には、噴射燃料の気化が促進されず燃焼し難い状態にあるため、クランキング開始から内燃機関10が完爆状態に移行するまでの期間が長くなる。したがって、こうした冷間始動時においてクランキング開始時にロック機構51がロック状態ではなくバルブタイミングが特定時期PMにない場合には、機関始動性の悪化がより顕著なものとなる。
一方、極低温始動時ではなく、内燃機関10の温度が比較的高い場合には、たとえロック機構51がロック状態になくバルブタイミングが特定時期PMにロックされていない場合であっても、機関始動を完了させることができる可能性が高いと判断することができる。これは、内燃機関10の温度が比較的高く作動油の粘性が低い時には、クランキング時に吸気用カム軸32に作用する負トルクにより生じるベーンロータ53とハウジング52との相対回転量も比較的大きくなるため、ラチェット機能を通じて比較的良好にバルブタイミングを進角させて特定時期PMにまで移行させることができる可能性が高いと判断することができるためである。さらに、内燃機関10の温度が比較的高い場合には、燃焼室12における噴射燃料の気化が比較的良好に行われて、燃焼しやすい状況にあると判断することができるためである。
そこで、上記ステップS102の判定処理において極低温始動時でない旨判定される場合には(ステップS102:NO)、ロック機構51のロック状態であるか否かに関わらず、ステップS103以下の処理が実行されず、通常の機関始動が実行される(ステップS111)。すなわち、スタータ22によるクランキングが実行されて本処理は終了される。
一方、上記ステップS102の判定処理において極低温始動時である旨判定される場合には(ステップS102:YES)、まず、ロック機構51がロック状態にあるか否かが判定される。すなわち、スタータ22によるクランキングが実行された後(ステップS103)、所定期間Tαが経過するまでに内燃機関10が完爆状態に移行したか否かが判定される(ステップS104)。具体的には、クランク角センサ81により検出される機関回転速度NEが完爆回転速度NSに達した場合に(NE≧NS)、完爆状態に移行した旨判定される。なお、「完爆」とは、内燃機関10のクランク軸15が自律回転可能な状態に達したことを示す。また、「完爆回転速度NS」とは、クランク軸15が自律回転可能な状態に達したと判断することのできる機関回転速度NEとして予め設定された値である(例えば400rpm)。上述した所定期間Tαは、クランキング開始時にバルブタイミングが特定時期PMにない可能性が高いと判断することのできる期間が予め設定されている(例えば5秒)。
そして、所定期間Tαが経過するまでに内燃機関10が完爆状態に移行した旨判定される場合には(ステップS104:YES)、ロック機構51がロック状態にあって、良好に機関始動が完了したと判断することができる。そのため、スタータ22が停止されてクランキングが停止される(ステップS109)。続いて、処理回数カウンタCが初期値である「0」に戻されて、または「0」のまま維持されて(ステップS110)本処理は終了される。
一方、所定期間Tαが経過するまでに完爆状態に移行しなかった旨判定される場合には(ステップS104:NO)、ロック機構51がロック状態になくバルブタイミングが特定時期PMにない状態であると判断することができる。
そこで、処理回数カウンタCが第2の所定回数Nβに達しているか(C=Nβ)否かが判定される(ステップS105)。すなわち、本ステップの判定処理実行時よりも前に、「クランキング速度変更処理」がすでに第2の所定回数Nβ実行されたか否かが判定される。そして、「クランキング速度変更処理」の実行回数が第2の所定回数Nβ未満である旨(C<Nβ)判定される場合には(ステップS105:NO)、「クランキング速度変更処理」として、スタータ22によるクランキングの停止及び再開が第1の所定回数Nα繰り返して実行される(ステップS106)。すなわち、スタータ22を一旦停止して再び駆動する動作が1セットとされ、このセットが第1の所定回数Nα連続して実行される。この第1の所定回数Nαは、クランキング開始時にロック機構51がロック状態になく、バルブタイミングが最遅角時期PRにある場合に、ラチェット機能を通じてバルブタイミングを特定時期PMにまで進角するためにクランキングを停止する回数として適切な回数が予め設定されている。本実施形態では、第1の凹部63及び第2の凹部73に4つの段部64,65,74,75が形成されており、4段階で特定時期PMまで進角される。また、上述したように、クランキングを一旦停止すると、吸気用カム軸32に駆動連結されたベーンロータ53の回転速度と、クランク軸15に駆動連結されたハウジング52の回転速度との相対差が大きくなることにより、ベーンロータ53とハウジング52との相対回転量を増大させることができる。こうして相対回転量が増大することにより、ロックピン61,71を段部64,65,74,75に嵌入させることのできる可能性が高まる。そこで、例えば第1の所定回数Nαとして、4回に設定される。これにより、1回のクランキング停止に伴いロックピン61,71が段部64,65,74,75に嵌入可能であって1段階進角することが可能な場合には、こうしたクランキング停止が4回実行される「クランキング速度変更処理」が1回実行されることにより、バルブタイミングが特定時期PMにまで進角される。
なお、スタータ22によるクランキングを一旦停止する時期は、上述したように、カムノーズ33Aの頂点がリフタ37を通過した時点に設定される。具体的には、制御部80は、クランク角センサ81及びカム角センサ82から出力される信号により吸気用カム軸32の位置を把握し、この把握した吸気用カム軸32の位置に基づきスタータ22の停止時期を制御する。
こうして「クランキング速度変更処理」が実行されると、処理回数カウンタCが更新されて「1」インクリメントされ(ステップS107)、本処理は一旦終了される。
そして、ステップS100からの処理が再び実行されると、処理回数カウンタCが「0」ではないため、ステップS100の判定処理が否定判定される(ステップS100:NO)。これにより、ステップS103に移行してクランキングが実行される(ステップS103)。ここでは、スタータ22によるクランキングがすでに実行されているため、このクランキングが続行される。そして、ステップS103に移行した後、所定期間Tαが経過するまでに内燃機関10が完爆状態に移行したか否かが再び判定される(ステップS104)。ここで、内燃機関10が完爆状態に移行しなかった旨判定される場合には(ステップS104:NO)、処理回数カウンタCが第2の所定回数Nβに達するまで、上述したステップS106の「クランキング速度変更処理」が繰り返し実行される。この第2の所定回数Nβは、クランキング開始時にロック機構がロック状態にない場合であっても、ラチェット機能を通じてロック機構をロック状態に移行させることができると考えられる「クランキング速度変更処理」の実行回数や、バッテリ23の負荷等を考慮して予め設定されている。
ところで、ステップS105の判定処理において、処理回数カウンタCが第2の所定回数Nβに達した旨(C=Nβ)判定される場合には(ステップS105:YES)、スタータ22によるクランキングが長期間継続されることによりバッテリ23の負荷が増大している虞があると判断される。そこで、機関始動が中止される(ステップS108)。すなわち、たとえ内燃機関10が完爆状態に移行していない場合であっても、スタータ22によるクランキング操作が強制終了される。これにより、クランキングが停止されるとともに(ステップS109)、処理回数カウンタCが初期値である「0」に戻されて(ステップS110)、本処理は終了される。
次に、図9を参照し、吸気バルブ31のバルブリフト量及び吸気用カム軸32に作用するトルク(カムトルク)の推移と、上述した「クランキング速度変更処理」が実行されたときのクランキング及びクランキング速度の推移、並びにバルブタイミングの推移について説明する。なお、同図9には、吸気用カム軸32に設けられた3つの吸気用カム33により開閉駆動される吸気バルブ31の開弁期間が240°CAである場合を例に、バルブリフト量及びカムトルクの推移をそれぞれ示している。また、先の図8のステップS106に示した「クランキング速度変更処理」の第1の所定回数Nαが「4回」であるときの例を示している。
バルブタイミングが最遅角時期PRにあるときに機関始動が実行されて、クランキングが開始されると、同図9に示すように、バルブリフト量が増大する期間には、吸気用カム軸32に正トルクが作用する(例えばタイミングT1からタイミングT2の期間)。そして、バルブリフト量が減少する期間には吸気用カム軸32に負トルクが作用するため、カムノーズ33Aの頂点がリフタ37に接触するタイミングT2を過ぎたときから、クランキングが停止される。換言すると、吸気用カム軸32に作用するトルクが正トルクから負トルクに切り替わったときにクランキングが停止される。そして、クランキングが停止されてから所定期間ΔTの経過後にスタータ22が再び駆動されてクランキングが再開される。なお、ラチェット機能を通じたバルブタイミングの進角効果は、クランク軸15に駆動連結されたハウジング52の回転速度と吸気用カム軸32に駆動連結されたベーンロータ53の回転速度との相対差が大きくなるほどこれら両回転体の相対回転量が大きくなるため、高くなる傾向がある。そこで、上述した所定期間ΔTは、同図9に示すように、クランキング速度を一旦「0」にまで低下させた上で再び上昇させることができる好適な期間が設定される。
上述したタイミングT2をすぎた時点で実行されたクランキングの停止により、最遅角時期PRにあったバルブタイミングが第1遅角時期PX1にまで進角される。さらに、カムノーズ33Aの頂点がリフタ37に再び接触したタイミングT3を過ぎた時点で停止され、これによりバルブタイミングが第2遅角時期PX2にまで進角される。同様に、タイミングT4を過ぎた時点、及びタイミングT5を過ぎた時点においてクランキングがそれぞれ停止され、これにより、バルブタイミングが特定時期PMにまで進角される。
こうしてステップS106で実行される「クランキング速度変更処理」が終了すると、再び実行される「始動時処理」のステップS104において内燃機関10が完爆状態に移行したか否かが判定される。同図9に示すように、バルブタイミングが特定時期PMにまで移行することにより機関始動が良好に完了した場合には、ステップS104において肯定判定がなされるため、「始動時処理」が終了される。一方、「クランキング速度変更処理」が実行された場合であっても、内燃機関10が完爆状態に移行しなかった旨判定される場合には、ステップS104において否定判定がなされるため、図9に示す「クランキング速度変更処理」が第2の所定回数Nβに達するまで繰り返し実行される。
以上説明した本実施形態によれば、以下の作用効果を得ることができる。
(1)ロック機構がロック状態ではない旨判定されるときに(ステップS104:NO)、スタータ22によるクランキング操作に際してそのクランキング速度を低下させる「クランキング速度変更処理」が実行される(ステップS106)。このため、吸気用カム軸32に駆動連結されたベーンロータ53の回転速度がクランク軸15に駆動連結されたハウジング52の回転速度を上回るときに、それら回転速度の相対差を増大させることができる。これにより、バルブタイミングが進角する方向へのベーンロータ53及びハウジング52の相対回転量が大きくなるため、ロックピン61,71が段部64,65,74,75に嵌入しやすくなる。したがって、クランキング開始時にロック機構51がロック状態になく、バルブタイミングが特定時期PMにない場合であっても、ロック機構51のラチェット機能を通じてバルブタイミングを特定時期PMに迅速に進角させることができるようになる。
(2)「クランキング速度変更処理」により、クランキング中においてクランキング速度の低下が複数回実行されるため(ステップS106)、吸気用カム軸32に駆動連結されたベーンロータ53の回転速度がクランク軸15に駆動連結されたハウジング52の回転速度を上回る機会を多くすることができる。これにより、ロックピン61,71を複数の段部64,65,74,75に順次嵌入させることが容易になり、バルブタイミングを特定時期PMまでより迅速に進角させることができるようになる。
(3)スタータ22によるクランキング操作はプッシュ式スタートスイッチ85が押動操作されたことを条件に実行される。これに対し、オン位置、オフ位置、始動位置、アクセサリ位置といった4種の位置が操作者によるイグニッションキーの操作により選択され、同イグニッションキーの操作位置が始動位置に保持されていることを条件にスタータ22によるクランキング操作がなされる内燃機関では、上述した「クランキング速度変更処理」の実行中にイグニッションキーの操作位置が始動位置からオン位置に戻されると、これに合わせてスタータ22によるクランキング操作も停止されることとなる。このため、「クランキング速度変更処理」の実行期間を十分に確保することができず、ロック機構51のラチェット機能を十分に発揮することができなくなる虞がある。この点、本実施形態では、操作者によりプッシュ式スタートスイッチ85が一度押圧操作されると、クランキングが自動制御されるため、「クランキング速度変更処理」の実行期間を十分に確保することができるようになる。
(4)内燃機関10が完爆状態に移行しないまま「クランキング速度変更処理」が第2の所定回数Nβ実行された旨判定されるときに(ステップS105:YES)スタータ22によるクランキング操作が強制終了されるため(ステップS108)、スタータ22の動力源であるバッテリ23に対する負荷を軽減することができるようになる。
(5)常時噛み合い式のスタータ22が使用されているため、スタータ22に設けられたピニオンギヤとクランク軸15に設けられたリングギヤとの噛み合い動作が「クランキング速度変更処理」に伴うクランキングの停止及び再開の都度実行されることはない。したがって、スタータに設けられたピニオンギヤとクランク軸15に設けられたリングギヤとがクランキングの実行時にのみ噛み合うべくこれらギヤの噛み合いと離間とが繰り返されるスタータが使用された場合と比較して、ギヤの摩耗を抑制することができる。
(6)吸気用カム軸32の位置に基づき、クランキングの停止時期が決定される。詳しくは、カムノーズ33Aの頂点がリフタ37を通過した時点であって、吸気用カム軸32に作用するトルクが正トルクから負トルクに切り替わったとき、すなわち、バルブリフト量の減少期間に切り替わったときにクランキングが停止される。したがって、クランキングの停止に伴うベーンロータ53とハウジング52との相対回転量をより大きくすることができ、ラチェット機能を通じてバルブタイミングをより迅速に特定時期PMに進角することができるようになる。
(7)極低温始動時であることを条件に(ステップS102:YES)、ロック機構51がロック状態にあるか否かを判定すべく始動不良が発生したか否かが判定されるとともに(ステップS104)、「クランキング速度変更処理」が実行される(ステップS106)。したがって、作動油の粘性が高いためにラチェット機能を通じてバルブタイミングを迅速に変更し難く、また噴射燃料の気化が促進されず燃焼し難いといった機関始動性の悪化が発生しやすい状況において、これを好適に抑制することができるようになる。
(その他の実施形態)
なお、この発明にかかる内燃機関の制御装置は、上述した実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、この実施形態を適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
・上記実施形態で示した第1の所定回数Nα、第2の所定回数Nβ及び所定期間Tα等は、それぞれ一例であって、適宜変更することができる。また、吸気温や、内燃機関10の温度に基づき、これらの値を可変設定するようにしてもよい。例えば、吸気温や機関温度が低いときには作動油の粘性が高くなることを考慮し、温度が低いときほど第1の所定回数Nαを多く設定するといった態様を採用することもできる。
・上記実施形態では、吸気温センサ84により検出される吸気温Tairが摂氏マイナス30度以下である(Tair≦−30℃)ときに極低温始動時である旨判定される(ステップS102)例を示した。しかし、極低温始動時である旨判定する態様としては、この例に限られず適宜変更することができる。例えば、エアフロメーター83に吸気温を検出するセンサを内蔵するとともに、このエアフロメーター83により吸気温Tairを検出するようにしてもよい。
・また、極低温始動時である旨判定する際の吸気温Tairの閾値(上記実施形態では摂氏マイナス30度)についても変更することができる。この閾値としては、内燃機関10の特性等を考慮して設定するようにすればよい。
・さらに、上記実施形態で示したような吸気温が低温であることを条件とする態様に代わり、内燃機関10が低温であることを条件とする態様を採用することもできる。例えば、内燃機関10の冷却水温の温度が所定温度以下であることを条件として、始動不良が発生したか否かを判定するとともに(ステップS104)、始動不良が発生した旨判定されるとき、すなわちロック機構51がロック状態にないと判断されるときに(ステップS104:NO)、ステップS106に示した「クランキング速度変更処理」を実行するようにしてもよい。この場合であっても上記各作用効果を奏することができる。なお、たとえ吸気温が低温であっても、内燃機関10の停止後、再度始動されるまでの期間が比較的短い場合には、内燃機関10の温度が比較的高く維持されている。そして、こうした温間始動時には、作動油の粘度が比較的低く、ベーンロータ53とハウジング52との相対回転が良好に生じることや、噴射燃料の気化が促進されること等により、たとえ機関異常停止後の機関始動であっても、比較的良好に機関始動が完了する可能性がある。したがって、内燃機関10の温度に基づいて「クランキング速度変更処理」の実行機会を適切に判断することができる。
・上記実施形態では、極低温始動時であることを条件に(ステップS102:YES)、始動不良が発生したか否かが判定されるとともに(ステップS104)、「クランキング速度変更処理」が実行される(ステップS106)例を示した。しかし、極低温始動時であるか否かに関わらず、始動不良が発生した旨判定されるとき、すなわちロック機構51がロック状態にないと判断されるときに(ステップS104:NO)、ステップS106に示した「クランキング速度変更処理」を実行するようにしてもよい。この場合であっても、上記(1)〜(6)に示した各作用効果を奏することができる。
・上記実施形態では、常時噛み合い式のスタータ22が設けられる例を示した。しかし、スタータに設けられたピニオンギヤとクランク軸15に設けられたリングギヤとがクランキングの実行時にのみ噛み合い、機関回転速度が上昇したときにはこれらギヤの噛み合いが解除されるタイプのスタータを採用するようにしてもよい。この場合であっても、上記(1)〜(4)、(6)、及び(7)に示した各作用効果を奏することができる。
・上記実施形態では、プッシュ式スタートスイッチ85が押動操作されたことを条件にクランキング操作が実行される例を示した。これに対し、操作者によりイグニッションキーが始動位置に保持されていることを条件にクランキング操作が実行される態様を採用してもよい。この場合であっても、上記(1)、(2)、及び(4)〜(7)に示した各作用効果を奏することができる。
・上記実施形態では、クランキング時に内燃機関10が完爆状態に移行するか否かに基づいて、クランキング開始時にロック機構51がロック状態にあるか否かが判定される例を示した(ステップS104)。しかし、ロック機構51がロック状態に移行したか否かを機関停止時に判定するとともに、この判定結果を制御部80のメモリ80Aに記憶し、次の機関始動時においてメモリ80Aを参照することによりロック機構51がロック状態にあるか否かを判定するようにしてもよい。
・また、ロック機構51がロック状態にあるか否かを検出することのできるセンサを設けるとともに、このセンサの検出結果に基づきロック機構51がロック状態にあるか否かを判定するようにしてもよい。
・上記実施形態では、吸気用カム軸32の位置に基づいてクランキング速度の低下時期が決定される例を示した。しかし、吸気用カム軸32の位置に関係なくスタータ22の停止及び再駆動を実行し、これによりクランキング速度の低下及び上昇を実行するようにしてもよい。この場合には、「クランキング速度変更処理」におけるクランキングの停止及び再開の回数(上述した第1の所定回数Nα)を増加させるなど、第1の所定回数Nαを適宜変更するようにしてもよい。この場合であっても、上記(1)〜(5)、及び(7)に示した各作用効果を奏することができる。
・上記実施形態では、カムノーズ33Aの頂点がリフタ37を通過した時点でスタータ22を停止させる例を示した。しかし、こうしたクランキング速度を低下させる時期については変更することもできる。例えば、カムノーズ33Aの頂点がリフタ37に接触した時点、すなわち吸気用バルブスプリング34が最も収縮している時点で(先の図7に示したタイミングT2)スタータ22を停止させることにより、クランキング速度の低下を開始する態様を採用してもよい。この場合であっても、吸気用カム軸32が有する慣性力により吸気用カム軸32が回転方向RCに回転するため、バルブリフト量の減少期間であって吸気用カム軸32に対して負トルクが作用する期間において、吸気用カム軸32に駆動連結されたベーンロータ53の回転速度とクランク軸15に駆動連結されたハウジング52の回転速度との相対差を大きくすることができる。さらに、こうして吸気用カム軸32に作用する慣性力を考慮することにより、カムノーズ33Aの頂点がリフタ37に接触する以前にスタータ22を停止させる態様も採用することができる。すなわち、たとえバルブリフト量の増大期間であって吸気用カム軸32に対して正トルクが作用する期間においてスタータ22を停止した場合であっても、吸気用カム軸32が有する慣性力によりカムノーズ33Aの頂点がリフタ37に接触してこれを通過することができる場合には、カムノーズ33Aの頂点がリフタ37に接触する以前にスタータ22を停止させることもできる。
・上記実施形態では、「クランキング速度変更処理」において、スタータ22を停止させることによりクランキング速度を低下させる例を示した。これに対し、クランキング速度を可変設定することのできるスタータを設けるとともに、このスタータを停止せずクランキング速度を低下させるようにしてもよい。例えばクランキング速度を半分の速度に低下させるといった態様を採用することもできる。この場合であっても、吸気用カム軸32に駆動連結されたベーンロータ53の回転速度とクランク軸15に駆動連結されたハウジング52の回転速度の相対差を、クランキング速度を低下させる前と比較して大きくすることができるため、上述した各作用効果を奏することができる。ただし、両回転体の回転速度の相対差を増大させることにより相対回転量を大きくする上では、「クランキング速度変更処理」に伴うクランキング速度の低下勾配は急であるとともに、低下度合いも大きく設定されることが好ましい。したがって、上記実施形態で示したように、クランキングを停止してクランキング速度を「0」にまで低下させることにより相対回転量をより増大させることができ、上記(1)に示した作用効果を好適に得ることができる。
・本発明にかかる制御装置の適用対象となる内燃機関は、上記実施形態で例示した直列三気筒型の内燃機関に限られるものではない。すなわち、V型の気筒配列とした内燃機関の他、例えば、図10に示すように、直列四気筒型の内燃機関の制御装置として具体化することもできる。この場合には、カムノーズ133Aの頂点は、カム軸132の中心軸周りに90°ごとに配置される。したがって、先の図9に示したように、240°CAごとにクランキングを停止する上記実施形態の実行態様に代わり、カムノーズ133Aの位置を考慮して180°CAごとにクランキングを停止することにより、上記各作用効果を奏することができる。
・上記実施形態で示したロック機構51の構成については一例であって、適宜変更することができる。例えば、上記実施形態では、進角ロック機構60及び遅角ロック機構70は、特定時期PMよりも遅角側にあるバルブタイミングを進角させるラチェット機能を有する例を示した。これに対し、特定時期PMよりも進角側にあるバルブタイミングを遅角させる機能も併せて有するように進角ロック機構60及び遅角ロック機構70を構成するようにしてもよい。
・また、上記各実施形態では、ロック機構51が進角ロック機構60と遅角ロック機構70とにより構成される例を示した。これに対し、単一のロック機構によりロック機構51が構成されていてもよい。この場合であっても、深さが異なる複数の段部が単一のロック機構の凹部に形成されることにより、このロック機構は、バルブタイミングを自律的に変更することのできるラチェット機能を有することが可能である。したがって、上述した各作用効果を奏することができる。
・上記実施形態では、凹部63,73がカバー36に形成された例を示したが、これら凹部63,73をスプロケット35に形成するようにしてもよい。
・上記実施形態では、第1のロックピン61及び第2のロックピン71がいずれもベーンロータ53に設けられる一方、第1の凹部63及び第2の凹部73がいずれもカバー36に設けられる例を示した。これに対し、ピン61,71がいずれもカバー36に設けられる一方、凹部63,73がいずれもベーンロータ53に設けられる構成を採用してもよい。また、ピン61,71が互いに異なる回転体に設けられる構成を採用してもよい。例えば、第1のロックピン61はベーンロータ53に設けられるとともに第1の凹部63がカバー36に設けられる一方、第2のロックピン71はカバー36に設けられるとともに第2の凹部73がベーンロータ53に設けられるようにしてもよい。
・また、上記実施形態では、ベーンロータ53に設けられたロックピン61,71が先端側ZA及び基端側ZBに往復動するとともに、これらロックピン61,71がそれぞれ嵌入する凹部63,73がカバー36に形成された例を示した。これに対し、ベーンロータ53の外周面から突出する態様でロックピンを設ける一方、このロックピンが嵌入する凹部をハウジング52の内周面に設ける構成を採用してもよい。
・上記実施形態では、スプロケット35がクランク軸15に駆動連結され、ベーンロータ53が吸気用カム軸32に駆動連結された例を示した。しかし、スプロケット35が吸気用カム軸32に駆動連結され、ベーンロータ53がクランク軸15に駆動連結される態様にて可変動弁装置30を構成することもできる。この場合であっても、上述した各作用効果を奏することができる。
・上記実施形態では、吸気バルブ31のバルブタイミングを変更する可変動弁装置30を備える内燃機関の制御装置として具体化した例を示したが、排気バルブ41のバルブタイミングを変更する可変動弁装置を備える内燃機関の制御装置として本発明を具体化することも可能である。また、吸気バルブ31のバルブタイミングを変更する可変動弁装置、及び排気バルブ41のバルブタイミングを変更する可変動弁装置のいずれも備える内燃機関の制御装置として本発明を具体化することも可能である。
・上記実施形態では、バルブタイミングが特定時期よりも遅角側にあるときに、これを段階的に特定時期まで進角させる場合について説明したが、バルブタイミングが特定時期よりも進角側にあるときにこれを段階的に特定時期まで遅角させる場合にあっても、上述したようにクランキング速度の低下及び上昇を連続して複数回実行することにより、同バルブタイミングを特定時期にまで迅速に遅角させることができる。
・車両駆動源として内燃機関の他、電動発電機(モータジェネレータ)を備えるハイブリッド車両にあっては、内燃機関の始動操作がこの電動発電機を通じて行われることとなる。上記実施形態において説明した一連の制御は、こうした電動発電機によって内燃機関の始動操作が行われる場合であっても適用することができる。なお、本発明において適用可能な機関始動装置は内燃機関を停止状態から完爆状態に移行させることが可能なものであれば、上述したスタータや電動発電機に限定されない。