JP2012143825A - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Abstract

【課題】硬質被覆層が高速断続切削加工ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】工具基体の表面に、下部層として少なくともTiCN層を含むTi化合物層、上部層としてZr含有κ−Al結晶粒とZr含有α−型Al結晶粒との混合相からなるZr含有Al層が形成された表面被覆切削工具において、下部層には、TiCN{110}結晶粒とTiCN{112}結晶粒が合計面積割合で60%以上形成され、また、TiCN{110}結晶粒の上方には上部層のZr含有κ−Al結晶粒が、また、TiCN{112}結晶粒の上方には上部層のZr含有α−Al結晶粒が夫々形成され、Zr含有α−Al結晶粒のうちの30%以上はAl{0001}結晶粒で構成され、Zr含有α−Al結晶粒のクラック密度はZr含有κ−Al結晶粒のそれよりも高い。
【選択図】 図1

Description

この発明は、特に各種の鋼や鋳鉄などの被削材の切削加工を、高熱発生を伴うとともに、切れ刃に対して、衝撃的かつ断続的負荷が作用する高速断続切削条件で行った場合にも、硬質被覆層が長期の使用にわたってすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層として、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層として、酸化アルミニウム層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆工具が良く知られている。
上記従来の被覆工具において、その工具性能の向上を図るため種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1に示すように、上記(b)の酸化アルミニウム層の形成に際し、Zrをドープすることによって、Zr含有κ型酸化アルミニウム(以下、Zr含有κ−Alで示す)相を主体とし、この中に、Zr含有α型酸化アルミニウム(以下、Zr含有α−Alで示す)相を混在させたZr含有Alを形成した被覆工具が知られており、この被覆工具によれば工具の長寿命化が図られることが知られている。
また、例えば、特許文献2に示すように、上記(b)の酸化アルミニウム層の形成に際し、高温強度と機械的・熱的にすぐれた耐衝撃性を有するZr含有κ−Al層と、すぐれた高温硬さと耐熱性を備える加熱変態α−Al層とを交互に積層することで上部層を形成すると、切れ刃に大きな負荷が作用する重切削加工において、耐チッピング性、耐摩耗性の向上が図られることが知られている。
特公昭61−15149号公報 特開2009−83008号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工はますます高速化される傾向にあるが、上記の従来被覆工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削に用いた場合には問題はないが、特にこれを、高い発熱を伴うとともに、切れ刃に断続的かつ衝撃的負荷が作用する高速断続切削条件に用いた場合には、硬質被覆層、特に、上部層のAl層内の残留応力の存在によって、耐衝撃性が十分ではなく、また、衝撃等によりクラックがいったん発生すると、層中の内部応力によってクラックの進展が促進されるために、チッピング、欠損が発生しやすくなり、その結果、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、硬質被覆層の高温強度及び耐衝撃性の向上を図るべく鋭意研究を行った結果、次のような知見を得た。
まず、本発明者等は、上部層のAl層内の残留応力を緩和することによって、耐チッピング性の向上を図るべく、このような硬質被覆層の層構造について検討を進めたところ、上部層としてZr含有κ−Al層を形成した場合に、加熱変態を利用すればκ−Al相の一部をα−Al相に変態させることができるが、加熱変態時の上部層内のα−Al相への変態は、Ti化合物層からなる下部層中のTiCN結晶粒の方位によって大きく影響されることを見出したのである。
より具体的に言えば、次のとおりである。
つまり、工具基体表面に、下部層(Ti化合物層)と上部層(Zr含有Al層)を化学蒸着により形成するにあたり、Ti化合物層の内の少なくとも一つの層であるTiCN層を特定の条件で形成すると、形成されたTiCN層には、TiCN{110}結晶粒とTiCN{112}結晶粒が形成される(なお、TiCN{110}結晶粒、TiCN{112}結晶粒については後記)こと。
そして、この下部層の上に、Zr含有Al層からなる上部層を蒸着形成し、その後、蒸着形成したZr含有Al層を加熱変態させると、上記TiCN{110}結晶粒の上方(直上または層厚方向延長線上)にはZr含有κ−Al結晶粒が形成されたままであるが、上記TiCN{112}結晶粒の上方(直上または層厚方向延長線上)のZr含有Al層は、加熱変態によってZr含有α−Al結晶粒が形成されること。
図1に、本発明の被覆工具の硬質被覆層の縦断面概略模式図を示すが、図1に示されるとおり、TiCN層(下部層)のTiCN{110}結晶粒とTiCN{112}結晶粒の形成された位置に対応したZr含有Al層(上部層)の位置に、Zr含有κ−Al結晶粒とZr含有α−Al結晶粒が形成され、さらに、該Zr含有κ−Al結晶粒とZr含有α−Al結晶粒は、Zr含有Al層(上部層)の層厚方向に沿って隣接して形成されること(言い換えれば、層厚方向に直交する面で見た場合、Zr含有κ−Al結晶粒とZr含有α−Al結晶粒とが交互に形成されること)。
また、上記Zr含有α−Al結晶粒の30%以上は、Al{0001}結晶粒(なお、Al{0001}結晶粒については後記)であって、高硬度、耐熱性を備えるが、その一方、Zr含有α−Al結晶粒にはクラック密度50個/μm以上のクラックが形成されているため、α−Al結晶粒に発生する残留応力の緩和が図られること。
そして、上記の層構造からなる硬質被覆層を蒸着形成した被覆工具は、特に、その上部層が、耐衝撃性に優れたZr含有κ−Al結晶粒と、高温硬さと耐熱性に優れ、しかも、高クラック密度のZr含有α−Al結晶粒によって形成されていることから、上部層の耐衝撃性、高温硬さ、耐熱性が維持されたままで、残留応力の緩和が図られているため、高い発熱を伴うとともに、切れ刃に対して断続的かつ衝撃的負荷が作用する高速断続切削条件に用いた場合であっても、チッピング、欠損の発生が抑制され、長期の使用にわたって、すぐれた切削性能が発揮されることを、本発明者らは見出したのである。
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有し、かつ、化学蒸着形成された少なくとも1層のTiの炭窒化物層を含むTi化合物層、
(b)上部層は、2〜15μmの平均層厚を有し、Zr含有κ型酸化アルミニウム結晶粒とZr含有α型酸化アルミニウム結晶粒との混合相からなるZr含有酸化アルミニウム層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、
(c)上記(a)の下部層のうちの少なくとも1層のTiの炭窒化物層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体の断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、上記工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線と{112}面の法線がなす傾斜角をそれぞれ測定し、傾斜角度数分布グラフを作成した場合、前記測定傾斜角のうちの{110}面の法線に対して0〜10度の範囲内の傾斜角を有する結晶粒(TiCN{110}結晶粒で示す)と{112}面の法線に対して0〜10度の範囲内の傾斜角を有する結晶粒(TiCN{112}結晶粒で示す)のそれぞれの度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上を占め、
(d)上記(b)のZr含有酸化アルミニウム層のうち、Zr含有κ型酸化アルミニウム結晶粒は、上記TiCN{110}結晶粒の形成されている位置の直上または層厚方向延長線上に形成され、また、Zr含有α型酸化アルミニウム結晶粒は、上記TiCN{112}結晶粒の形成されている位置の直上または層厚方向延長線上に形成されている結果、Zr含有κ型酸化アルミニウム結晶粒とZr含有α型酸化アルミニウム結晶粒は、層厚方向に沿って隣接して形成されており、
(e)上記Zr含有α型酸化アルミニウム結晶粒について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体の断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{0001}面の法線がなす傾斜角を測定し、傾斜角度数分布グラフを作成した場合、前記測定傾斜角のうちの0〜10度の範囲内の傾斜角を有する結晶粒(Al{0001}結晶粒という)の度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の30%以上を占める、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 上記Zr含有酸化アルミニウム層からなる上部層にはクラックが形成されており、上部層の縦断面において観察したZr含有α型酸化アルミニウム結晶粒に形成されたクラック密度は50個/μm以上であり、Zr含有κ型酸化アルミニウム結晶粒に形成されたクラック密度より高いことを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 上記Zr含有酸化アルミニウム層からなる上部層の縦断面における、Zr含有α型酸化アルミニウム結晶粒の占める面積割合は、30〜70%であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4) 上記下部層のうちの少なくとも1層のTiの炭窒化物層において、TiCN{110}結晶粒の占める面積割合が、該Tiの炭窒化物層の縦断面の全面積の20〜40%であり、また、TiCN{112}結晶粒の占める面積割合が、該Tiの炭窒化物層の縦断面の40〜60%であることを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
以下に、この発明の被覆工具の硬質被覆層について、詳細に説明する。
下部層:
下部層のTi化合物層は、Tiの炭化物(TiC)層、窒化物(TiN)層、炭窒化物(TiCN)層、炭酸化物(TiCO)層および炭窒酸化物(TiCNO)層のうちの1層または2層以上で構成するが、Ti化合物層のうちの少なくとも1層は、TiCN層で構成する。
そして、このTiCN層としては、
(イ)結晶粒の{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜10度の範囲内に測定傾斜角が存在する結晶粒(以下、これをTiCN{110}結晶粒という)の度数の合計、
(ロ)結晶粒の{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜10度の範囲内に測定傾斜角が存在する結晶粒(以下、これをTiCN{112}結晶粒という)の度数の合計、
上記(イ)および(ロ)の度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占めるTiCN層(以下、改質TiCN層という)で構成する。
上記の改質TiCN層、即ち、TiCN{110}結晶粒およびTiCN{112}結晶粒のそれぞれの度数の合計が、度数全体の60%以上の割合を占めるTiCN層は、例えば、以下の条件の化学蒸着によって形成することができる。
即ち、
第一段階として、
反応ガス組成(体積%):TiCl:0.2〜1%、CHCN:0.01〜0.05%、C:0.05〜0.1%、N:10〜30%、H:残り、
反応雰囲気温度:700〜780℃、
反応雰囲気圧力:25〜45kPa、
という条件で30分間化学蒸着し、その後
第二段階として、
反応ガス組成(体積%):TiCl:2〜4%、CHCN:0.4〜2%、N:10〜30%、Ar 1〜5%、H:残り、
反応雰囲気温度:700〜780℃、
反応雰囲気圧力:25〜45kPa、
という条件の化学蒸着により、TiCN{110}結晶粒およびTiCN{112}結晶粒のそれぞれの度数の合計が、度数全体の60%以上の割合を占める改質TiCN層を形成することができる。
例えば、上記の条件を外れ、TiCN{110}結晶粒およびTiCN{112}結晶粒のそれぞれの度数の合計が、度数全体の60%未満となった場合には、上部層としてZr含有酸化アルミニウム層を形成し、これを加熱変態させたとしても、所定量のZr含有κ−Al結晶粒、Zr含有α−Al結晶粒が形成されないため、上部層に所定の特性を付与することができない。
したがって、この発明では、TiCN{110}結晶粒およびTiCN{112}結晶粒のそれぞれの度数の合計は、度数全体の60%以上と定めた。
なお、TiCN{110}結晶粒およびTiCN{112}結晶粒のそれぞれの度数については、TiCN{110}結晶粒は、20〜40%、また、TiCN{112}結晶粒は、40〜60%であることが望ましい。
具体的には、TiCN{110}結晶粒の度数割合は、以下のとおりにして求める。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、改質TiCN層が被覆されている工具基体の断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、上記工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成し、該傾斜角度分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する結晶粒(TiCN{110}結晶粒)の度数を求め、一方、測定傾斜角範囲0〜45度の範囲内にある全度数を求め、全度数に占める前記TiCN{110}結晶粒の度数の割合を算出することによって、TiCN{110}結晶粒の度数割合を求めることができる。
また、TiCN{112}結晶粒の度数割合についても、上記と同様であるが、次の様にして求める。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、改質TiCN層が被覆されている工具基体の断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、上記工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成し、該傾斜角度分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する結晶粒(TiCN{112}結晶粒)の度数を求め、一方、測定傾斜角範囲0〜45度の範囲内にある全度数を求め、全度数に占める前記TiCN{112}結晶粒の度数の割合を算出することによって、TiCN{112}結晶粒の度数割合を求めることができる。
少なくとも上記改質TiCNを含むTi化合物層からなる下部層は、Zr含有Al層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層が高温強度向上に寄与するほか、工具基体とZr含有Al層のいずれにも強固に密着し、硬質被覆層の工具基体に対する密着性を向上させる作用を有する。
上記の作用に加えて、例えばSFガスを用いたエッチング処理を行うことで、この発明において所定量形成されたTiCN{110}結晶粒は、その結晶面の表面性状が変化し、例えば、凹凸がκ-Al核と整合性よく形成されるため、上部層のZr含有κ-Al結晶粒との付着強度が高いと考えられ、その凹凸部に形成されたZr含有κ-Al結晶粒は成膜後、加熱処理を行っても、Ti結晶の結晶面とκ-Al核が整合性よく形成されているため、Zr含有κ-Alは熱変態することなく、TiCN{110}結晶粒上にZr含有κAl形成されると考えられる。
また、この発明において所定量形成されたTiCN{112}結晶粒は、例えばSF6ガスを用いたエッチング処理を行うと、TiCN{110}結晶粒の場合と異なり、その結晶面の表面性状に変化が起こらず、TiCN{112}結晶粒上に形成したZr含有κ-Al結晶粒が形成し、上部層のZr含有Al層に加熱変態処理を施した場合に、TiCN{112}結晶粒上のZr含有κ-Al結晶粒はZr含有α-Al結晶粒に熱変態する。
また、下部層の平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方、その平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速断続切削ではチッピング、欠損を発生しやすくなることから、その平均層厚は3〜20μmと定めた。
上部層:
まず、上記所定量のTiCN{110}結晶粒、TiCN{112}結晶粒を有する少なくとも1層の改質TiCN層を含む下部層の表面に、
例えば、SFガスを0.01〜1容量%添加したHガス雰囲気下で、温度700〜800℃×1〜5分間処理し、
その後、例えば、通常の化学蒸着装置により、
反応ガス組成(容量%):AlCl:3〜6%、ZrCl:0.6〜1.8%、CO:6〜10%、HCl:1.0〜3.0%、H2S:0.1〜0.18%、H2:残り、
反応雰囲気温度:880〜980 ℃、
反応雰囲気圧力:5〜8 kPa、
の条件で、Zr含有Al層を蒸着形成する。
このZr含有Al層は、化学蒸着した状態でκ型の結晶(Zr含有κ−Al結晶粒)構造を有し、高温強度にすぐれ、また、機械的・熱的にすぐれた耐衝撃性を具備する。
なお、ここで蒸着形成したZr含有Al層を、
組成式:(Al1−XZr
で表した場合、Alとの合量に占めるZrの含有割合(Zr/(Al+Zr)の値)は、原子比で、0.0001≦X≦0.003を満足することが望ましい。
ついで、加熱変態処理を施すことにより、上記Zr含有κ−Al結晶粒の一部を、Zr含有α−Al結晶粒に変態させる。
具体的な加熱変態処理の方法は、例えば、以下に示すとおりである。
まず、Zr含有Al層として、上記の蒸着条件でZr含有κ−Al結晶粒を形成した後、
SFガスを0.01〜1容量%添加したHガス雰囲気下で、温度900〜1000℃×10〜30分間処理し、
次いで、Hガス雰囲気下で、温度1020〜1060℃×60〜300分間加熱処理することにより、
Zr含有κ−Al結晶粒の一部(即ち、下部層の改質TiCN層のTiCN{112}結晶粒の形成されている位置の直上または層厚方向延長線上に形成されているZr含有κ−Al結晶粒)を、Zr含有α−Al結晶粒に変態させる。
上記の加熱変態処理を施すことによって、下部層の改質TiCN層のTiCN{110}結晶粒の形成されている位置の直上または層厚方向延長線上にZr含有κ−Al結晶粒が形成され、また、TiCN{112}結晶粒の形成されている位置の直上または層厚方向延長線上にZr含有α−Al結晶粒が形成され、またその結果、Zr含有κ−Al結晶粒とZr含有α−Al結晶粒が、層厚方向に沿って隣接して形成されている硬質被覆層の層構造が形成される。
図1に、このような層構造の縦断面概略模式図を示す。
さらに、上記のZr含有α−Al結晶粒について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、その断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{0001}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜10度の範囲内の傾斜角を有する結晶粒(Al{0001}結晶粒)の該傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の30%以上の割合を占めるZr含有α−Al結晶粒が形成される。
この発明では、上記Al{0001}結晶粒の存在割合が30%未満となると、上部層全体としての高硬度、耐摩耗性が低下傾向を示すようになることから、この発明では、上記Al{0001}結晶粒が30%以上存在するような層構造とすることによって、上部層の高硬度、耐摩耗性を担保する。
さらに、上記のZr含有κ−Al結晶粒とZr含有α−Al結晶粒からなる上部層の縦断面を、透過型電子顕微鏡で観察すると、Zr含有κ−Al結晶粒、Zr含有α−Al結晶粒のいずれにもクラックが観察される。同じく透過型電子顕微鏡を用いて、Zr含有κ−Al結晶粒、Zr含有α−Al結晶粒に形成されているクラック数は1×1μmの正方形のエリアにおいて対角線及び正方形の向かい合う各辺中点を結ぶ線を引き、それら線とクラックが交わる箇所を計測し、これらの計測数をZr含有κ−Al結晶粒、Zr含有α−Al結晶粒で10箇所行い、その平均値を平均クラック数個/μmとする。Zr含有κ−Al結晶粒における平均クラック数は5〜10個/μmであるのに対して、Zr含有α−Al結晶粒では平均クラック数は50個/μmであって、Zr含有κ−Al結晶粒におけるクラック密度は、Zr含有κ型酸化アルミニウム結晶粒のそれより高いことがわかる。
この発明における上部層の耐衝撃性と高強度は、主としてZr含有κ−Al結晶粒のよってもたらされ、また、高硬度、耐摩耗性は主としてZr含有α−Al結晶粒によってもたらされるが、Zr含有α−Al結晶粒が、高クラック密度を有することにより、Zr含有α−Al結晶粒の残留内部応力が緩和され、これが、上部層の耐衝撃性をより一段と向上させる。
ただ、上部層において、Zr含有α−Al結晶粒の占める面積割合が30%未満となると、高速断続切削加工における耐摩耗性が低下傾向を示すようになり、一方、面積割合が70%を超えるようになると、高速断続切削加工において耐チッピング性、耐欠損性が低下傾向を示すようになることから、高硬度、高強度と優れた耐衝撃性を相兼ね備えるためには、上部層の縦断面で観察したZr含有α−Al結晶粒の占める面積割合が、30〜70%であることが望ましい。
ここで、Zr含有α-Al結晶粒の占める面積割合は、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、その断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、その回折パターンよりZr含有α-Al結晶粒をマッピングし、工具基体と水平方向に50μmと上部層の所定膜厚から成る測定エリアに対する前記マッピングエリアの割合を算出した。
また、上記の面積割合のZr含有α−Al結晶粒を形成するためには、下部層の改質TiCN層におけるTiCN{110}結晶粒の占める面積割合が、改質TiCN層の縦断面の全面積の20〜40%であり、また、TiCN{112}結晶粒の占める面積割合が、同縦断面の全面積の40〜60%であることが望ましい。
ここで、TiCN{110}結晶粒の面積割合は、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、その断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、上記工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす角度差10°以内の結晶粒をマッピングし、そのマッピングエリアを測定エリアに対する割合で算出した。
TiCN{112}結晶粒の面積割合も前記と同様に、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、その断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、上記工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす角度差10°以内の結晶粒をマッピングし、工具基体と水平方向に50μmと改質TiCN層の所定膜厚から成る測定エリアに対する前記マッピングエリアの割合を算出した。
上記Zr含有κ−Al結晶粒とZr含有α−Al結晶粒からなる上部層は、通常のκ型Al層のもつ高強度、耐衝撃性、また、通常のα型Al層のもつ高硬度、耐熱性に加えて、上部層内における残留内部応力が緩和されていることから、より一段と優れた耐衝撃性を備え、その結果、高熱発生を伴い、しかも、断続的・衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工において、一段とすぐれた耐チッピング性、耐欠損性を発揮する。
ただ、上部層の平均層厚が2μm未満では、所望のすぐれた耐摩耗性を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚は2〜15μmと定めた。
本発明の被覆工具は、各種の鋼や鋳鉄などの切削を、高熱発生を伴い、しかも、切れ刃に対して断続的・衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工条件で行った場合でも、硬質被覆層、特に上部層が、高硬度と耐熱性に加え、すぐれた高温強度、耐衝撃性を有することから、硬質被覆層が、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性を備え、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮し、使用寿命の一層の延命化を可能とするものである。
本発明被覆工具の硬質被覆層の縦断面模式図を示す。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有する表1に示される粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG160412に規定するスローアウエイチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Eをそれぞれ作製した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有する表2に示される粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG160412のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜eを作製した。
ついで、これらの工具基体A〜Eおよび工具基体a〜eのそれぞれを、通常の化学蒸着装置に装入し、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件および表4に示される改質TiCN層の形成条件にて、表7に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
ついで、表5に示される蒸着条件にて、目標層厚のZr含有Al層を上部層として蒸着形成し、
ついで、表6に示される加熱変態条件で、上部層の一部をZr含有α−Al結晶粒に変態させることにより、表7に示される本発明被覆工具1〜16をそれぞれ製造した。
上記本発明被覆工具1〜16の改質TiCN層、Zr含有Al層については、電界放出型走査電子顕微鏡および電子後方散乱回折像装置を用いて、傾斜角度数分布グラフをそれぞれ作成した。
即ち、上記の改質TiCN層についての傾斜角度数分布グラフは、改質TiCN層の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、工具基体表面の法線に対して、まず、前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成し、該傾斜角度数分布グラフから、0〜10度の範囲内の傾斜角を有する結晶粒(TiCN{110}結晶粒)の度数割合を求めた。
また、上記と同様に、結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成し、該傾斜角度数分布グラフから、0〜10度の範囲内の傾斜角を有する結晶粒(TiCN{112}結晶粒)の度数割合を求めた。
これらの値を表8に示した。
同様に、上部層(Zr含有Al層)のZr含有α−Al結晶粒についての傾斜角度数分布グラフは、上記上部層の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{0001}の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成し、該傾斜角度数分布グラフから、0〜10度の範囲内の傾斜角を有する結晶粒(Al{0001}結晶粒)の度数割合を求めた。
これらの値を表8に示した。
また、本発明被覆工具1〜16の改質TiCN層、Zr含有Al層について、電界放出型走査電子顕微鏡および電子後方散乱回折像装置を用いてTiCN{110}結晶粒、TiCN{112}結晶粒の面積割合、Zr含有α−Al結晶粒の面積割合、透過電子顕微鏡を用いてZr含有κ−Al結晶粒およびZr含有α−Al結晶粒に形成されたクラック密度を測定した。
これらの値を表8に示した。
比較の目的で、上記工具基体A〜D,a〜dに対して、表3に示される条件にて、表9に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
ついで、表5に示される蒸着条件にて、表9に示される目標層厚のZr含有Al層を上部層として蒸着形成し、
ついで、表6に示される加熱変態条件で、上部層の一部をZr含有α−Al結晶粒に変態させることにより、表9に示す比較被覆工具1〜8を製造した。
さらに比較の目的で、上記工具基体A〜C,E,a,b,d,eに対して、表3に示される条件および表4に示される改質TiCN層の形成条件にて、表9に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
ついで、表3に示される条件にて、目標層厚のα型Al層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成することにより、表9に示す比較被覆工具9〜16を製造した。
ついで、上記の比較被覆工具1〜16について、本発明被覆工具1〜16の場合と同様にして、電界放出型走査電子顕微鏡および電子後方散乱回折像装置を用いて、傾斜角度数分布グラフをそれぞれ作成し、TiCN{110}結晶粒、TiCN{112}結晶粒およびAl{0001}結晶粒の度数割合を求めた。
また、下部層におけるTiCN{110}結晶粒およびTiCN{112}結晶粒の占めるそれぞれの面積割合、その合計面積割合を求めた。
さらに、上部層のZr含有α−Al結晶粒の占める面積割合を求め、透過電子顕微鏡を用いてZr含有κ−Al結晶粒およびZr含有α−Al結晶粒のクラック数を測定した。
表10に、これらの値を示した。
つぎに、上記の本発明被覆工具1〜16、比較被覆工具1〜16について、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・S30Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:480m/min、
切り込み:1.0mm、
送り:0.2mm/rev、
切削時間:8分、
の条件(切削条件Aという)での炭素鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は300m/min)、
被削材:JIS・SCM415の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:450m/min、
切り込み:1.2mm、
送り:0.2mm/rev、
切削時間:8分、
の条件(切削条件Bという)での合金鋼の湿式高速断続切削試験(通常の切削速度は300m/min)、
被削材:JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:400m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.15mm/rev、
切削時間:8分、
の条件(切削条件Cという)での鋳鉄の乾式断続高切り込み切削試験(通常の切削速度は300m/min)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表11に示した。
表7〜11から、本発明被覆工具1〜16は、上部層のAl{0001}結晶粒の度数割合が30%以上を占め、さらに、Zr含有α−Al結晶粒におけるクラック密度は50個/μm以上であることから、高熱発生を伴い、しかも、切れ刃に対して断続的・衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工条件で行った場合でも、硬質被覆層、特に上部層が、高硬度と耐熱性に加え、すぐれた高温強度、耐衝撃性を有し、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性を備えることがわかる。
これに対して、比較被覆工具1〜8では、上部層におけるZr含有α−Al結晶粒の面積割合が小さく、Al{0001}結晶粒の度数割合が小さいため、高速断続切削加工においては、耐摩耗性が劣り、また、比較被覆工具9〜16では、上部層がほとんどZr含有α−Al結晶粒で構成されており、耐チッピング性および耐欠損性が劣ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、特に、高熱発生を伴い、切れ刃に断続的・衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工でもすぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、改質TiCN層が被覆されている工具基体の断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、上記工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成し、該傾斜角度分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する結晶粒(TiCN{110}結晶粒)の度数を求め、一方、測定傾斜角範囲0〜45度の範囲内にある全度数を求め、全度数に占める前記TiCN{110}結晶粒の度数の割合を算出することによって、TiCN{110}結晶粒の度数割合を求めることができる。
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、改質TiCN層が被覆されている工具基体の断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、上記工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成し、該傾斜角度分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する結晶粒(TiCN{112}結晶粒)の度数を求め、一方、測定傾斜角範囲0〜45度の範囲内にある全度数を求め、全度数に占める前記TiCN{112}結晶粒の度数の割合を算出することによって、TiCN{112}結晶粒の度数割合を求めることができる。
上記の作用に加えて、例えばSFガスを用いたエッチング処理を行うことで、この発明において所定量形成されたTiCN{110}結晶粒は、その結晶面の表面性状が変化し、例えば、凹凸がκ-Al核と整合性よく形成されるため、上部層のZr含有κ-Al結晶粒との付着強度が高いと考えられ、その凹凸部に形成されたZr含有κ-Al結晶粒は成膜後、加熱処理を行っても、Ti結晶の結晶面とκ-Al核が整合性よく形成されているため、Zr含有κ-Alは熱変態することなく、TiCN{110}結晶粒上にZr含有κ−Al 結晶粒が形成されると考えられる。
また、この発明において所定量形成されたTiCN{112}結晶粒は、例えばSF ガスを用いたエッチング処理を行うと、TiCN{110}結晶粒の場合と異なり、その結晶面の表面性状に変化が起こらず、TiCN{112}結晶粒上に形成したZr含有κ-Al結晶粒が形成し、上部層のZr含有Al層に加熱変態処理を施した場合に、TiCN{112}結晶粒上のZr含有κ-Al結晶粒はZr含有α-Al結晶粒に熱変態する。



同様に、上部層(Zr含有Al層)のZr含有α−Al結晶粒についての傾斜角度数分布グラフは、上記上部層の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{0001}の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成し、該傾斜角度数分布グラフから、0〜10度の範囲内の傾斜角を有する結晶粒(Al{0001}結晶粒)の度数割合を求めた。
これらの値を表8に示した。

Claims (4)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
    (a)下部層は、3〜20μmの合計平均層厚を有し、かつ、化学蒸着形成された少なくとも1層のTiの炭窒化物層を含むTi化合物層、
    (b)上部層は、2〜15μmの平均層厚を有し、Zr含有κ型酸化アルミニウム結晶粒とZr含有α型酸化アルミニウム結晶粒との混合相からなるZr含有酸化アルミニウム層、
    上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、
    (c)上記(a)の下部層のうちの少なくとも1層のTiの炭窒化物層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体の断面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、上記工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{110}面の法線と{112}面の法線がなす傾斜角をそれぞれ測定し、傾斜角度数分布グラフを作成した場合、前記測定傾斜角のうちの{110}面の法線に対して0〜10度の範囲内の傾斜角を有する結晶粒(TiCN{110}結晶粒で示す)と{112}面の法線に対して0〜10度の範囲内の傾斜角を有する結晶粒(TiCN{112}結晶粒で示す)のそれぞれの度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上を占め、
    (d)上記(b)のZr含有酸化アルミニウム層のうち、Zr含有κ型酸化アルミニウム結晶粒は、上記TiCN{110}結晶粒の形成されている位置の直上または層厚方向延長線上に形成され、また、Zr含有α型酸化アルミニウム結晶粒は、上記TiCN{112}結晶粒の形成されている位置の直上または層厚方向延長線上に形成されている結果、Zr含有κ型酸化アルミニウム結晶粒とZr含有α型酸化アルミニウム結晶粒は、層厚方向に沿って隣接して形成されており、
    (e)上記Zr含有α型酸化アルミニウム結晶粒について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、上記工具基体の断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、上記工具基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{0001}面の法線がなす傾斜角を測定し、傾斜角度数分布グラフを作成した場合、前記測定傾斜角のうちの0〜10度の範囲内の傾斜角を有する結晶粒(Al{0001}結晶粒という)の度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の30%以上を占める、
    ことを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 上記Zr含有酸化アルミニウム層からなる上部層にはクラックが形成されており、上部層の縦断面において観察したZr含有α型酸化アルミニウム結晶粒に形成されたクラック密度は50個/μm以上であり、Zr含有κ型酸化アルミニウム結晶粒に形成されたクラック密度より高いことを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 上記Zr含有酸化アルミニウム層からなる上部層の縦断面における、Zr含有α型酸化アルミニウム結晶粒の占める面積割合は、30〜70%であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 上記下部層のうちの少なくとも1層のTiの炭窒化物層において、TiCN{110}結晶粒の占める面積割合が、該Tiの炭窒化物層の縦断面の20〜40%であり、また、TiCN{112}結晶粒の占める面積割合が、該Tiの炭窒化物層の縦断面の40〜60%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
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