JP2012143227A - 家畜肉の風味向上剤及び風味向上方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】食品としての家畜肉の重要性に鑑み、その付加価値をできるだけ高め、国民のQOL向上に貢献するため、安全性が高く、簡便且つ効率的に家畜肉の風香味を向上させることが可能な成分を提供する。
【解決手段】安全性が高く、家畜への投与又は給与実績も高いビオチンを有効成分としてなる剤(例えば、家畜に対して、1日あたり0.07〜0.42mg/kg体重のビオチンが経口投与されるように構成された剤など)等を家畜に経口投与又は給与することで、家畜肉中のオレイン酸濃度を増加させ、その風香味を簡便且つ効率的に向上させる。
【選択図】なし

Description

本発明は、家畜肉の風味向上剤及び風味向上方法等に関する。詳細には、家畜に経口投与又は給与することにより、食肉となる家畜肉の風味を向上させる剤及び当該剤を用いた家畜肉の風味向上方法等に関する。
食肉のおいしさは、食感、味、香りなどが影響するとされているが、とりわけ黒毛和牛においてはホルスタイン種をはじめとした外国品種と比べて脂肪交雑が高いことから、そのおいしさには脂肪の風香味が重要な役割を果たしているといわれている。
牛肉を例に取ると、牛肉の脂肪中に含まれる脂肪酸の内、最も多いのは炭素数18の一価不飽和脂肪酸(C18:1)であるオレイン酸である。特に黒毛和牛においては、オレイン酸の含有量が50%程度なのに対し、外国品種では45%程度であり、黒毛和牛の方がオレイン酸の含有量が多いことが知られている。
1960年代後半から80年代にかけ、アメリカにおいて赤身肉に関する研究で「オレイン酸の割合が高いほどフレーバー(食べ物を口に入れた時に感じる香りと味)の望ましさが増す」という内容の報告が幾つかなされた。この研究報告がきっかけとなり、日本国内に於いて和牛肉でもオレイン酸含有量の高いものが美味しいのではないかと考えられて研究が始められ、これが近年注目を集めている(非特許文献1)。
そして、オレイン酸含有量が高いことを付加価値としたブランド牛が長野県、鳥取県、大分県などで誕生しており、また、従来の脂肪交雑などによる牛肉の格付けにオレイン酸含有率の基準が設けられ、「おいしい牛肉」を評価・認定する新しい仕組みが構築されてきている(非特許文献1)。
家畜肉中のオレイン酸を増加させる技術としては、今までに、例えばビール粕と大豆皮を混合して得られる主原料に、イースト菌を混合して得られるイースト培養液と水と糖分とを加えて混合し、嫌気性下でアルコール発酵させ二酸化炭素を抜気して得られるものを給与する方法が知られている(特許文献1)。また他にも、米油、好ましくは、米糠油、とくに、米胚芽油を肉牛に給与して、肉牛の脂肪中の不飽和脂肪酸(オレイン酸等)を増加させ、且つ、飽和脂肪酸を減少させる方法も知られている(特許文献2)。
しかし、当業界においては引き続き、簡便且つ効率的であり安全性も高い新たな肉質や肉の風味の改良剤等の開発が求められている。
一方、ビオチンは、D−[(+)−cis−ヘキサヒドロ−2−オキソ−1H−チエノ−(3,4)−イミダゾール−4−吉草酸]ともいい、ビタミンB群に分類される水溶性ビタミンの一種で、ビタミンB7(Vitamin B7)とも呼ばれる。
そして、ヒトに於いて、ビオチンは自己免疫疾患(易感染性、膠原病)や血糖値上昇(糖尿病)など、その他、ビオチン欠乏からくる多岐にわたる病状を、改善または治癒(緩解、寛解状態ではない)することを目的に使用されている。ウシに於いては、20mg/頭/日のビオチン給与により、蹄の硬度が増加して、蹄底潰瘍、蹄球びらん、白線解離、蹄葉炎等の発症が減少することが知られているが、ビオチンが家畜の肉質や肉の風味に及ぼす影響については全く知られていない。
特開2006−180860号公報 特開2009−225730号公報
肉牛ジャーナル、第24巻第8号(通巻第277号)、19−27(2011年)
本発明は、上述のような背景技術、及び、食品としての家畜肉の重要性に鑑み、その付加価値をできるだけ高め、国民のQOL向上に貢献するため、安全性が高く、簡便且つ効率的に家畜肉の風味を向上させることが可能な成分の提供を目的としてなされたものである。
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究の結果、家畜への一定量のビオチン投与又は給与が家畜肉中のオレイン酸含有量に影響を与える(家畜への一定量のビオチン投与又は給与により家畜肉中のオレイン酸濃度が増加する)ことを見出した。そして、これらの有用新知見に基づき、更に研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)ビオチンを有効成分としてなること、を特徴とする家畜肉の風味向上剤。
(2)肉の風味向上が、家畜肉中(例えば、筋肉内脂肪(サシ)中や赤身肉中など)のオレイン酸濃度(オレイン酸含有量)の増加であること、を特徴とする(1)に記載の剤。
(3)家畜に対して、1日あたり0.07〜0.42mg/kg体重(例えば、肉牛に対し1日あたり50〜400mg/頭など)のビオチンが経口投与されるように用いられること、を特徴とする(1)又は(2)に記載の剤。
(4)家畜が、牛、豚、羊、馬、山羊、から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の剤。
(5)該有効成分が、精製物、粗製物、含有物から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つに記載の剤。
(6)ビオチンを有効成分として家畜に経口投与又は給与すること、を特徴とする家畜肉の風味向上方法。
(7)ビオチンを有効成分として家畜に経口投与又は給与すること、を特徴とする家畜肉中(例えば、筋肉内脂肪(サシ)中や赤身肉中など)のオレイン酸濃度(オレイン酸含有量)を増加させる方法。
(8)家畜に対して、1日あたり0.07〜0.42mg/kg体重(例えば、肉牛に対し1日あたり50〜400mg/頭など)のビオチンを経口投与又は給与すること、を特徴とする(6)又は(7)に記載の方法。
(9)家畜が、牛、豚、羊、馬、山羊、から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする(6)〜(8)のいずれか1つに記載の方法。
(10)(6)〜(9)のいずれか1つに記載の方法によって飼養された家畜より得られた、風味が向上した家畜肉。
本発明によれば、安全性の高い成分であるビオチンを単独の有効成分とするだけで、家畜肉中(例えば、筋肉内脂肪(サシ)中や赤身肉中など)のオレイン酸濃度を増加させ、その風味を向上させる剤を提供することが可能となる。つまり、本発明により、家畜肉中(例えば、筋肉内脂肪(サシ)中や赤身肉中など)のオレイン酸含有量を簡便且つ効率的に高め、食肉の風味向上及び品質・付加価値の向上に高く貢献することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明においては、家畜肉の風味向上剤の有効成分としてビオチンを使用する。ビオチンは純品乾燥物が使用できることはもちろんのこと、その粗精製物(ペースト化物、希釈物、乳化物、懸濁物など)も使用可能である。また、デンプンやデキストリン等の賦形剤を加えて顆粒化したり、タブレットにしたりして製剤化したものも使用可能である。さらには、ルーメンで分解されないように油脂等でコーティングしたものも使用可能である。
ビオチンは、これを有効成分として、そのまま飼料添加物、飼料、飼料組成物、動物医薬、促進剤(増強剤)、その他の剤として使用することができる。また、ビオチンは、常用される飼料成分を添加、混合して、飼料添加物、飼料、飼料組成物を提供することも可能である。そのうえ、ビオチンを有効成分とする動物医薬製剤も提供することができる。この場合は、動物医薬製剤の常法にしたがって製剤化すればよい。
本有効成分は、種々の形態で経口投与され、その投与形態としては例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロッブ剤等による経口投与などをあげることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの動物医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。
なお、このようにして製剤化したものは、飼料組成物として使用することも充分可能であって、それ自体を飼料として直接家畜に給与することもできるし、飼料添加剤として他の飼料原料に添加、混合して用いることも可能である。
ビオチンの投与又は給与量としては、動物の体重1kgあたり0.01〜1mg/日(好ましくは、動物の体重1kgあたり0.07〜0.42mg/日)で、出荷前30〜90日より毎日連続して投与又は給与するのが好ましい。ビオチンの投与又は給与量が当該範囲より多い場合には、その効果という点において特段の問題はないが、当該範囲より少ない場合には、本発明の効果が十分発揮されない恐れがあるため好ましくない。例えば、肉牛(体重500〜1000kg程度)を例とすると、1日あたり50〜400mg/頭、好ましくは100〜300mg/頭が好適な投与又は給与量として示される。この本発明におけるビオチン投与又は給与量は、従来肉牛に飼料等に混合されて与えられていたビオチンの一般的な量と比較すると2〜20倍程度である(非常に多い)のが特徴である。
なお、本発明は、ビオチンの有効性(生理機能)を黒毛和牛を用いて直接確認した点に大きな特徴を有するものである。具体的にはビオチンを出荷前3ヶ月間黒毛和牛に経口投与した後屠畜して筋肉(ネック部位)を採取・分析を行って生理作用を実際に且つ直接確認した点、しかも、ビオチンの単用(ビオチン以外に家畜肉の風味向上作用を有する成分を併用しない、あるいは、ビオチンのみを有効成分とすること)で有効であることを実際に確認した点においてきわめて特徴的である。
更に言い換えれば、本発明では、ビオチンが家畜肉中(例えば、筋肉内脂肪(サシ)中や赤身肉中)のオレイン酸濃度を増加させるという新しい用途があることをはじめて見出したものであって、つまり、本発明は家畜肉の風味向上剤というビオチンの新規用途発明であるということも出来る。
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
27ヵ月齢の黒毛和牛を12頭(平均体重700kg)供試した。対照区(ビオチン無投与区)とビオチン投与区を設定し、1試験区当たり6頭ずつに振り分けた。
ビオチン投与区における1日あたりのビオチン投与量が170〜240mg/頭(約0.3mg/kg体重)となるように飼養メニューを設定し(表1に詳細を示した)、ビオチン粉末(10g、ビオチン2%含有)は肥育後期用配合飼料にトップドレスして(飼料に振りかけて)給与する方法を用い、3ヶ月間の給与試験を行った。なお、試験に使用した肥育後期用配合飼料の成分は表2に示した。
Figure 2012143227
Figure 2012143227
そして、投与期間終了時に屠畜し、枝肉成績の解析とネック部位の筋肉を採取して肉中の脂肪酸組成の測定を行った。その結果、枝肉成績(枝肉重量(kg)、ロース芯面積(cm)、バラの厚さ(cm)、脂肪交雑(BMS)、肉色沢(BCS))は対照区とビオチン投与区の間で大きな変化は見られなかったが(表3)、ネック中のオレイン酸含量は、対照区と比べてビオチン投与区で有意に増加した(表4)。なお、表4中のa、bは、異符号間で有意差あり(p<0.05)であることを示す。
Figure 2012143227
Figure 2012143227
以上のことから、ビオチンを肉牛に投与又は給与することによって、枝肉成績に悪影響を及ぼすことなく肉牛の筋肉中の脂肪酸組成を変化させることができ、特に、オレイン酸濃度を顕著に高められることが確認された。なお、当該肉を食肉として官能評価した結果でも、食肉の風味が向上していることが確認された。
なお、本発明を要約すれば次のとおりである。
すなわち、本発明は、食品としての家畜肉の重要性に鑑み、その付加価値をできるだけ高め、国民のQOL向上に貢献するため、安全性が高く、簡便且つ効率的に家畜肉の風香味を向上させることが可能な成分を提供することを目的とする。
そして、安全性が高く、家畜への投与又は給与実績も高いビオチンを有効成分としてなる剤(例えば、家畜に対して、1日あたり0.07〜0.42mg/kg体重のビオチンが経口投与されるように構成された剤など)等を家畜に経口投与又は給与することで、家畜肉中(例えば、筋肉内脂肪中(オレイン酸含有量))のオレイン酸濃度を増加させ、その風香味を簡便且つ効率的に向上させる。

Claims (10)

  1. ビオチンを有効成分としてなること、を特徴とする家畜肉の風味向上剤。
  2. 肉の風味向上が、家畜肉中のオレイン酸濃度の増加であること、を特徴とする請求項1に記載の剤。
  3. 家畜に対して、1日あたり0.07〜0.42mg/kg体重のビオチンが経口投与されるように用いられること、を特徴とする請求項1又は2に記載の剤。
  4. 家畜が、牛、豚、羊、馬、山羊、から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。
  5. 該有効成分が、精製物、粗製物、含有物から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の剤。
  6. ビオチンを有効成分として家畜に経口投与又は給与すること、を特徴とする家畜肉の風味向上方法。
  7. ビオチンを有効成分として家畜に経口投与又は給与すること、を特徴とする家畜肉中のオレイン酸濃度を増加させる方法。
  8. 家畜に対して、1日あたり0.07〜0.42mg/kg体重のビオチンを経口投与又は給与すること、を特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
  9. 家畜が、牛、豚、羊、馬、山羊、から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
  10. 請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法によって飼養された家畜より得られた、風味が向上した家畜肉。
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