JP2012115255A - 種子被覆剤及び該種子被覆剤で被覆した種子 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明に係る種子被覆剤は、種子表面を被覆するのに用いる鉄粉と結合材を含む種子被覆剤であって、前記鉄粉は、粒子径が63μm以下の鉄粉の全鉄粉質量に対する質量比率が0%以上75%以下、かつ、粒子径が63μmを越え150μm以下の鉄粉の全鉄粉質量に対する質量比率が25%以上100%以下、かつ粒子径が150μmを越える鉄粉の全鉄粉質量に対する質量比率が0%以上50%以下であり、前記結合材は、その平均粒径が1〜150μmであることを特徴とするものである。
【選択図】 図1
Description
「稲種子に、鉄粉、並びに鉄粉に対する質量比で0.5〜2%の硫酸塩(但し、硫酸カルシウムは除く)及び/又は塩化物を加え、さらに水を添加して造粒し、水と酸素を供給して金属鉄粉の酸化反応によって生成した錆により、鉄粉を稲種子に付着、固化させた後、乾燥させることを特徴とする鉄粉被覆稲種子の製造法。」(特許文献1の請求項1参照)
しかしながら、稲種子は播種工程のみならず、輸送工程においても機械的な外力を受けることは前述の通りである。そして、輸送工程において稲種子が受ける機械的外力は、落下による衝撃の他、種子間もしくは種子と容器間で生じる滑りや転がりの摩擦力である。
したがって、鉄粉被覆を播種工程のみならず輸送工程での鉄粉被膜の剥離を防止するには、摩擦力に対する強度を有する被覆が必要となる。
しかしながら、種子の滑りや転がり摩擦応力に対して十分な強度で稲種子を被覆できる鉄粉や、鉄粉を被覆した種子を実現する技術はなかった。
しかし、微細な鉄粉を使用した場合には、鉄粉が空気中の酸素と急激に反応し、発熱によって鉄粉を被覆した種子がダメージを受ける可能性や、大量取扱時には火災を引き起こしたりする懸念もある。加えて、微細な鉄粉は粉塵を生じやすいため、清浄な作業環境を維持しにくいという問題もある。
しかしながら、特許文献1においては、上記のような造粒方法を用いた場合、鉄粉と結合材の凝集粒子が生成しやすい。
凝集粒子は、鉄粉の稲種子への付着の歩留まりの低下を招き、また被膜成分の均一性を阻害し、さらに被覆作業性の低下を来たすという種々の問題の原因となり、きわめて有害なものである。
また、稲種子に対してダメージを与える可能性が少なく、さらには取り扱いも容易な種子被覆剤及び該種子被覆剤を被覆した稲種子を得ることを目的としている。
<鉄粉についての検討>
発明者は稲種子の表面を観察して、如何なる鉄粉を用いることが剥離防止に効果的であるかについて検討した。
発明者が着目したのは、稲種子の表面の状態である。稲の種籾1の最外殻である籾殻3の表面には、図1に示すように、毛5が生えており、種籾1に鉄粉をコーティングする際には、毛5の弾性的作用によって毛5と毛5の間に配置された鉄粉が毛5に保持されることを通じて、付着力が高まると推察される。
「お米の微視的構造を見る(目崎孝昌 著)」の21ページにも示されているように、前記の毛5の生え方にも粗密がある。特に、毛5が密集した部位において鉄粉が毛5に保持されることによって付着力が高まると考えられるが、この部位における毛5の間隔は50〜150μmである。
このことから、発明者は、毛5による保持作用によって稲種子に強固に付着できる鉄粉の粒子径には適切な範囲があると考え、この保持作用を有効に発揮させるための鉄粉粒子径について検討したところ、粒子径が63μmを越え150μm以下のものが好ましいことを見出した。
このことから、粒子径が63μmを越え150μm以下のものをある程度含むことで、毛5による保持を期待でき、種子の転がりや滑りに伴う、被覆膜の剥離量を小さくできるとの知見を得た。
一般に粉体は、粒径が小さいほど被付着物に対する付着力が高い。したがって、稲種子表面に直接付着させるという意味では鉄粉の粒径は小さいことが好ましい。
稲種子の毛5の間をすり抜けて稲種子表面への直接付着が期待できる鉄粉粒径について検討したところ、45μm以下の鉄粉を所定の量含むことが好ましいとの知見を得た。
そして、毛5によって保持される鉄粉に加えて上記微粒径の鉄粉を含有することで、稲種子の表面には微粒径の鉄粉が付着し、その上方には毛5によって鉄粉が保持され、鉄粉が二重コーティングされることになり、種子の転がりや滑りに伴う、被覆膜の剥離量を小さくできるとの知見を得た。
もっとも、微粒径の鉄粉を多量に含むと前述の問題を生ずることから所定の量以下であることも必要である。
結合材については、凝集粒子発生の原因を検討した。その結果、凝集粒子の発生は、結合材の粒径に関連しているとの知見を得た。
前記鉄粉は、粒子径が63μm以下の鉄粉の全鉄粉質量に対する質量比率が0%以上75%以下、かつ、粒子径が63μmを越え150μm以下の鉄粉の全鉄粉質量に対する質量比率が25%以上100%以下、かつ粒子径が150μmを越える鉄粉の全鉄粉質量に対する質量比率が0%以上50%以下であり、
前記結合材は、その平均粒径が1〜150μmであることを特徴とするものである。
鉄粉と結合材は、種子の被覆作業の前に混合されて混合物として存在してもよいし、種子の被覆を行う前は別個に存在し、被覆の際に種子と共に混合されるようにしてもよい。
以下、種子被覆剤を構成する鉄粉、結合材について詳細に説明する。
粒子径が63μmを越え150μm以下の鉄粉の全鉄粉質量に対する質量比率を25%以上としたのは、粒子径が63μmを越え150μm以下の鉄粉は種子表面の毛によって保持される確率が高く、このような粒子径のものを25%以上含むことで、毛による保持が期待でき、播種工程のみならず輸送工程においても鉄粉の脱落が少ない被覆が実現できるからである。粒子径が63μmを越え150μm以下の鉄粉の質量比率は30%以上とすることが好ましく、50%以上とすることがより好ましい。
粒子径が45μm以下の鉄粉は、種子の表面にある毛の間をすり抜け、種子の表面に直接付着する付着力が強いことから、所定の量を含有することで、前述した二重被覆が実現される。
結合材は、硫酸塩及び/又は塩化物から構成される。硫酸塩とは、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム及びこれらの水和物である。また、塩化物とは、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びこれらの水和物である。
結合材の種子被覆剤の全体に含有される質量比率は、0.1〜80質量%が好ましい。結合材の含有比率が0.1質量%以上であれば被膜の強度が低下することがなく、実用に適するからである。
また、結合材の含有比率が80質量%以下であれば、結合材が凝集することがなく作業性が低下しないばかりでなく、本来の目的である被覆種子の比重を高める効果が得られるからである。
なお、結合材の種子被覆剤の全体に含有される質量比率のより好ましい範囲としては、0.5〜35質量%である。この範囲にすることで、被覆の強度を高くして、かつ結合材の凝集を防止するのにより好ましいからである。
結合材の平均粒径は、1〜150μmとする。結合材の平均粒径が1μm未満では、被覆作業時に発生する凝集粒子が多くなり作業性が著しく低下するからである。一方、結合材の平均粒径が150μmを超えると、鉄粉の付着力が低下しコーティング被膜の強度が低下するからである。
例えば「鉄コーティング炭水直播マニュアル2010(独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター 編)」に示されているように、手作業での被覆(コーティング)をはじめ、従来から公知の混合機を用いる方法等いずれを使用してもよい。
混合機としては、例えば、攪拌翼型ミキサー(たとえばヘンシェルミキサー等)や容器回転型ミキサー(たとえばV型ミキサー,ダブルコーンミキサー、傾斜回転型パン型混合機、回転クワ型混合機等)が使用できる。
また、上記の鉄コーティング炭水直播マニュアル2010に示されているように、鉄粉コーティングに際して、結合材を使用する。
鉄粉による種子被覆の具体的な方法としては、鉄粉と結合材と種子を上記の混合機中に投入して、水スプレーしながら混合機を回転させるようにすればよい。
本発明に係る種子被覆剤を構成する鉄粉の効果を確認するために、本発明の発明例として種々の粒度分布の鉄粉である発明例1〜9を用いて稲種子の被覆を行った。また、比較例として、本発明の粒度分布の範囲を外れる粒度分布の鉄粉である比較例1〜4を用いて稲種子の被覆を行った。なお、結合材としては、平均粒径51μmの焼石膏を用いた。
鉄粉の被覆(コーティング)は、前述した「鉄コーティング炭水直播マニュアル2010」に記載された方法に準じて行った。具体的には以下の通りである。
鉄粉が被覆(コーティング)された種子の転がり摩擦や滑り摩擦に対するコーティング被膜の強度評価方法は確立されていない。
そこで、JPMA P 11−1992 「金属圧粉体のラトラ値測定方法」に記載された試験方法に準じて被膜強度を調査した。なお、本試験方法をラトラ試験と称することとする。
したがって、本方法を適用すれば、転がり摩擦力と滑り摩擦力が複合的に負荷された場合の、コーティング被膜の強度を評価することができる。
表2に鉄粉の粒度分布とラトラ試験での重量減少率を示す。なお、重量減少率は以下の計算式から求めた。
重量減少率=(ラトラ試験で剥離した被膜の質量)/(試験前の種子質量)×100(%)
したがって、重量減少率が小さいほど、被膜の強度が高いと判定することができる。
他方、上記の粒度分布の範囲を外れる比較例1〜4では、ラトラ試験での重量減少率が4%以上である。
このことから、鉄粉の粒度分布を本発明の範囲内にすることで重量減少率を大幅に抑制できることが実証された。
なお、表2において比較例1〜4における粒度分布が本発明の範囲を外れる数字には下線を付してある。
次に結合材の平均粒径の効果を確認するための実験を行った。結合材としては、焼石膏を用い、表3に示すように複数の平均粒径のものを準備した。また、鉄粉としては、上記の実験に用いた発明例1で用いたもの、すなわち45μm以下が23.6%、45μm超60μm以下が14.6%、63μm超150μm以下が59.5%、150μm超が2.3%の粒度分布の鉄粉を用いた。
稲種子への被覆方法は、上記の「鉄粉粒径についての効果確認」の際に行ったのと同様の方法で行った。
被覆作業時、すなわち鉄粉、焼石膏及び稲種子を傾斜回転型パン型混合機に投入して混合している際に発生した凝集粒子の発生状態を目視確認して評価した。
また、被覆作業が完了して鉄粉により被覆された稲種子について、ラトラ試験によって被膜強度を調査した。
結果を表3に示す。
また、被覆強度に関しては、焼石膏の平均粒径が0.6μmではラトラ試験での重量減少率が5.8%と大きくなっているが、焼石膏の平均粒径が1.2〜145μmの範囲では重量減少率が4%未満で許容範囲内となっており、焼石膏の平均粒径が203μmでは重量減少率が15.2%と極めて大きくなっていることが確認された。
次に結合材として塩化カリウムを用い、結合材の平均粒径の効果を確認するための実験を行った。表4に示すように複数の平均粒径のものを準備した。また、鉄粉としては、上記の実験に用いた発明例1で用いたもの、すなわち45μm以下が23.6%、45μm超60μm以下が14.6%、63μm超150μm以下が59.5%、150μm超が2.3%の粒度分布の鉄粉を用いた。
稲種子への被覆方法は、上記の「鉄粉粒径についての効果確認」の際に行ったのと同様の方法で行った。
被覆作業時、すなわち鉄粉、塩化カリウム及び稲種子を傾斜回転型パン型混合機に投入して混合している際に発生した凝集粒子の発生状態を目視確認して評価した。
また、被覆作業が完了して鉄粉により被覆された稲種子について、ラトラ試験によって被膜強度を調査した。
結果を表4に示す。
また、被覆強度に関しては、塩化カリウムの平均粒径が0.5μmではラトラ試験での重量減少率が4.3%と大きくなっているが、塩化カリウムの平均粒径が1.5〜140μmの範囲では重量減少率が4%未満で許容範囲内となっており、塩化カリウムの平均粒径が250μmでは重量減少率が10.3%と極めて大きくなっていることが確認された。
そして、結合材の平均粒径の好ましい範囲としては、1〜150μmであることも確認された。
なお、上記の結合材の中でも焼石膏は、植物や人体に及ぼす悪影響が非常に小さく、安価かつ入手が容易であるため、特に好適である。
3 籾殻
5 毛
Claims (7)
- 種子表面を被覆するのに用いる鉄粉と結合材を含む種子被覆剤であって、
前記鉄粉は、粒子径が63μm以下の鉄粉の全鉄粉質量に対する質量比率が0%以上75%以下、かつ、粒子径が63μmを越え150μm以下の鉄粉の全鉄粉質量に対する質量比率が25%以上100%以下、かつ粒子径が150μmを越える鉄粉の全鉄粉質量に対する質量比率が0%以上50%以下であり、
前記結合材は、その平均粒径が1〜150μmであることを特徴とする種子被覆剤。 - 前記結合材は、硫酸塩及び/又は塩化物を含むことを特徴とする請求項1記載の種子被覆剤。
- 粒子径が63μmを越え150μm以下の鉄粉の質量比率が50%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の種子被覆用鉄粉。
- 前記鉄粉は、粒子径が45μm以下の鉄粉の全鉄粉質量に対する質量比率が、0%以上30%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の種子被覆剤。
- 前記鉄粉が還元法もしくはアトマイズ法で製造されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の種子被覆剤。
- 請求項1乃至5のいずれか一項に記載の種子被覆剤を種子に被覆してなることを特徴とする種子。
- 種子が稲種子であることを特徴とする請求項6記載の種子。
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