JP2012103157A - ノッキング判定方法及び装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】ノックを定量的に判定できるとともに、聴感による評価と同等の結果を得ることができるノッキング判定方法及び装置を提供する。
【解決手段】ノッキング判定装置10は、エンジン音を検出するセンサ14と、その直前及び/又は直後の信号に基づく時間マスク処理と、近接する周波数域の信号に基づく周波数マスク処理とを行うことによって背景音のパワーを求め、背景音に対する比としてノック強度を算出し、算出したノック強度に基づいてノックの有無を判定するプロセッサ16と、を備える。
【選択図】図1

Description

本発明はノッキング判定方法及び装置に係り、特にエンジン試験装置においてエンジンのノッキングを判定するノッキング判定方法及び装置に関する。
ノッキング(またはノック)とは、エンジンのシリンダ内において未燃焼ガスが燃焼ガスにより圧縮されて自己着火し、急速に燃焼して共鳴する現象であり、ノッキングが発生すると、燃焼ガスが振動により熱伝播しやすくなり、エンジンが破損するおそれがある。ノッキングを抑制するには点火時期を遅くする必要があるが、点火時期を遅くすると燃費が低下するという問題があるため、ノッキングの発生を正確に計測して判定することが必要になる。
ノックの判定方法としては、聴感評価が広く用いられている(たとえば特許文献1参照)。これは試験者が実際にエンジンの運転音を聞き、その中の異音の大きさ及び発生頻度を聞き分け、ノック状態を評価する方法である。しかし、聴感評価は試験者や試験環境によるバラつきが大きく、再現性が低いという問題がある。特に、微弱な音、高周波の音、瞬間的な音を聞き取れるかどうかは、個人の聴力や経験によるところが大きく、熟練者でなければ正確に聞き分けることは難しい。そのため、聴感評価をできる人間は限られているのが現状である。また、聴感評価は、試験者によるので、自動ノック制御システムや自動適合計測システムに適用することができないという問題がある。
そこで近年では、ノック判定を定量的に行うため、筒内圧計測による手法が広く用いられている(たとえば特許文献2参照)。この手法は、筒内の圧力を計測し、その筒内圧力信号に様々な信号処理を施すことによって、ノックの判定を行う方法である。たとえば、取得した筒内圧力信号にフィルタをかけてノックの固有振動成分を取得し、さらにノックが発生するクランク角度範囲の波形を切り出し、その最大振幅や振幅の2乗平均、2乗積分などといった代表値を求め、これをノック指標とする。これにより、定量的なノック判定が行われる。
別の定量的なノック判定方法として、振動センサによる方法がある(たとえば特許文献3参照)。これは、実車に搭載されるシステムであり、振動センサをクランクケースに取り付けて振動を計測し、その振動計測信号に様々な信号処理を施すことによってノック判定を行う方法である。たとえば、振動計測信号をフィルタにかけてノックの固有振動成分を取得し、さらにノックが発生するクランク角度範囲の波形を切り出し、その絶対振幅の平均などの代表値を求め、これをノック指標とする。これにより、定量的なノック判定が行われる。
特開2003−232675 特開2000−110652 特許3054919号
しかしながら、上述した2つの手法は、その判定結果が聴感評価の結果と一致しないため、聴感評価による較正が必要になるという問題がある。たとえば、筒内圧計測による手法は、機械系の騒音が計測から除外されているため、計算結果が聴感評価の結果と合致せず、結局は聴感評価によってノック音の発生の閾値を決めることが必要となる。一方、振動センサによる手法は、振動の計測値に含まれる機械振動の成分が運転条件や個別のエンジンによって異なるため、ノック音の発生に相当する振幅値の閾値を条件毎に聴感評価によって較正する必要がある。
さらに別の欠点として、筒内圧計測による手法は、高価な筒内圧センサが気筒の数だけ必要になり、コストがかかるという問題や、ノックの固有周波数や使用するフィルタについて事前の調査が必要となるという問題がある。一方、振動センサによる手法は、固有周波数やフィルタに関する調査が必要になるという問題がある。
本発明はこのような事情に鑑みて成されたものであり、ノックを定量的に判定できるとともに、聴感による評価と同等の結果を得ることができるノッキング判定方法及び装置を提供することを目的とする。
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、エンジン音を検出するセンサと、前記センサで得られた信号に対して、その直前及び/又は直後の信号に基づく時間マスク処理と、近接する周波数帯域の信号に基づく周波数マスク処理とを行うことによって背景音のパワーを求め、該背景音のパワーに対するパワー比をノック強度として算出する算出手段と、前記算出したノック強度に基づいてノックの有無を判定する判定手段と、を備えたことを特徴とするノッキング判定装置を提供する。
本発明によれば、人間の聴覚で行われる処理と同様に、時間マスク処理と周波数マスク処理を行うようにしたので、聴感評価と同等の結果を得ることができるとともに、信号処理による定量的なノック判定を行うことができる。
請求項2の発明は請求項1において、前記算出手段は、前記時間マスク処理を施した背景音のパワーと、前記周波数マスク処理を施した背景音のパワーとを求め、前記2つの背景音のパワーのうち大きい方を選択し、音全体のパワーを除算することによって、前記パワー比を算出することを特徴とする。本発明によれば、時間マスク処理を施した背景音のパワーと周波数マスク処理を施した背景音のパワーのうち大きい方を用いてパワー比を求めたり、パワー比が閾値を超える頻度を求めてノックの有無を判定したので、人間の聴覚に非常に近い結果を得ることができる。
請求項3の発明は請求項2において、前記算出手段は、前記センサで得られた信号を複数の周波数帯域に分けて抽出し、該周波数帯域ごとに前記パワー比を算出し、該算出したパワー比のうち最も大きい値を選択して前記ノック強度とすることを特徴とする。本発明によれば、最もパワー比の大きいものを選択することによって、人間の聴覚に非常に近い結果を得ることができる。
請求項4の発明は請求項1〜3のいずれか1において、前記ノック強度に対して残響音の強度を付加し、所定の周波数の振動を与えることによって、擬似ノック音の音声信号を作成する擬似ノック音生成手段を備えることを特徴とする。本発明によれば、ノック強度に残響を付加し、周波数振動を与えるので、聴感評価を行い易い擬似ノック音が生成される。したがって、個人差が生じることなく確実に聴感評価を行うことができる。また、定量的な評価と聴感評価を同時に行うことができるので、評価の信頼性を向上させることができる。
請求項5の発明は前記目的を達成するために、エンジン音を検出し、前記検出した信号を複数の周波数帯域に分けて抽出し、前記抽出した周波数帯域ごとに、直前及び/又は直後の信号に基づく時間マスク処理を行って背景音のパワーを求めるとともに、近接する周波数帯域の信号に基づく周波数マスク処理を行って背景音のパワーを求め、前記2つの背景音のパワーのうち大きい方を選択し、音全体のパワーを除算することによってパワー比を求め、前記周波数帯域ごとに求めたパワー比のうち、最も大きい値をノック強度として設定し、前記設定したノック強度に基づいて、ノックの有無を判定することを特徴とするノッキング判定方法を提供する。
本発明によれば、人間の聴覚で行われる処理と同様に、時間マスク処理と周波数マスク処理とを行うようにしたので、聴感評価と同等の結果を得ることができるとともに、信号処理による定量的なノック判定を行うことができる。
本実施の形態のノッキング判定装置の構成を模式的に示す図 本実施の形態のノッキング判定装置の制御フローの概略図 図2のノック強度算出フローとノック判定フローの詳細を示す図 周波数の抽出に関する説明図 信号波形とパワーの一例を示す図 遅延補正の説明図 聴感A特性の説明図 時間マスク効果の説明図 ノック判定の説明図 図2の擬似ノック音の出力フローの詳細を示す図 擬似ノック音の説明図
添付図面に従って、本発明に係るノッキング判定方法及び装置の好ましい実施形態について説明する。本発明のノッキング判定方法及び装置は、人間の聴感評価と同等のノック判定結果を得るための装置であり、その作用を効果的に説明するため、まずは人間の聴覚の働きについて説明する。
エンジン音を聴覚で感じる際、エンジン音は耳かいから外耳道を通り、鼓膜、耳小骨を振動させ、蝸牛に到達する。蝸牛は径が一定でない渦巻き状に形成されており、周波数毎に異なる部分で反応するので、エンジン音は周波数によって分割されて伝達される。その際、過去の音の残響によって現在の音が部分的にかき消される効果(時間マスク効果)と、隣の音域の音によって部分的にかき消される効果(周波数マスク効果)を受ける。時間マスク効果とは、人間の聴覚神経が励起された状態から沈静化するのにある程度の時間を要することにより、その間の聴覚が妨げられる効果であり、音が鳴り終えた直後だけでなく、音が鳴り始める直前にもマスク効果が発生する。一方、周波数マスク効果とは、近隣音域の音を聴覚する神経同士が近接して存在することによって、近隣周波数の聴覚が妨げられる効果である。
これら二つのマスク効果によってかき消されることなく残った音が聴覚神経を励起する。ここで、マスク効果による励起状態に相当する音を背景音と定義し、残った音を特異音とする。ノッキング音は、背景音に対して特異音が大きい場合に認識される。また、音域別にそれぞれ聴覚した音の中で特異性が最大の音が代表的に認識される。ここで、最も特異性が高い音が観測される周波数は、ノックの固有振動数に一致するとは限らず、実際のノック音では、一般にノッキングと表現されるようなカンカンという固有周波数の音よりも、広い周波数範囲を持つチリチリという撥音の方が支配的である。特にトレースノック状態においては、前者の音は殆ど観測されない。固有周波数の音はシリンダ内の定在波から発生し、撥音はシリンダ内の急激なステップ的圧力上昇から発生するものと考えられる。このようなノック音を聴くとき、特異性の高い音はより広い周波数範囲で観測される可能性がある。
観測者は、特に大きな異音を聞いたとき、それをノックと判断し、その発生頻度をカウントする。そして、ノック音の大きさと発生頻度から主観的に判断して、ノックが定常的に発生している状態か否か、もしくはノック状態のレベルがいくつかを評価している。
次に本実施の形態のノッキング判定装置10の構成について図1に基づいて説明する。図1に示すノッキング判定装置10はエンジン12のノッキングを判定する装置であり、主としてセンサ14、プロセッサ16、スピーカ18、表示器20で構成される。
センサ14は、エンジン音を検出するためのマイクであり、エンジン12の近傍に設置される。なお、センサ14はマイクに限定されるものではなく、音圧を求めることができるものであればよい。たとえば、単位換算を行う処理装置と組み合わせることにより、振動センサを用いてもよい。この場合、振動センサはエンジン12に直接取り付けるとよい。
センサ14はアンプ22及びAD変換24を介してプロセッサ16に接続される。センサ14の検出信号は、アンプ22で増幅され、AD変換24でデジタル信号に変換され、プロセッサ16に入力される。
プロセッサ16は、後述の各種信号処理を行う装置であり、表示器20に接続されている。表示器20は、プロセッサ16で求めたノック強度、ノック判定結果などをリアルタイムで表示する装置であり、必要に応じて計測条件等も表示される。なお、ノック強度やノック判定結果を記録媒体28に出力し、記録媒体28に記録してもよい。さらに、不図示のプリンタ等に出力し、印字するようにしてもよい。
プロセッサ16は、DA変換26を介してスピーカ18に接続される。スピーカ18は、プロセッサ16で生成した擬似ノック音信号を音として出力する装置であり、このスピーカ18から観測者に向けて擬似ノック音がリアルタイムで再生される。
次にプロセッサ16で行われる各種信号処理について図2に従って説明する。図2は、プロセッサ16の大まかな制御フローを示している。同図に示すように、プロセッサ16は、まず、ノック強度を算出する(ステップS1)。ここで、ノック強度とは、エンジン音の中でノックと認識される音の大きさを示す値であり、後述するように、背景として存在する音(以下、背景音)のパワーと特異的に変化する音(以下、特異音)のパワーとの比率で与えられる。
次に、算出したノック強度に基づいてノックの有無を判定する(ステップS2)。また、算出したノック強度に基づいて擬似ノック音の信号を生成し、スピーカ18から擬似ノック音を出力する(ステップS3)。以下に各フローを具体的に説明する。
上述のノック強度算出フロー(ステップS1)とノック判定フロー(ステップS2)の詳細を図3に示す。同図に示すように、プロセッサ16はまず、入力信号を複数の周波数帯域に分離する(ステップS11)。その際、複数のバンドパスフィルタを用いて分離するとよい。また、分離する周波数帯域のバンド幅やバンド数は、特に限定するものではないが、たとえば図4に示すように定義するとよい。すなわち、特異音の検出精度とプロセッサ16の演算負荷の兼ね合いからバンド幅を1/6Octaveに定義するとともに、そのバンド幅で4kHz ~20Hz範囲を15分割し、さらにその中間に位置してオーバーラップする14バンドを加え、計29バンドとして定義する。なお、約10kHz以上の高周波の音は人間にとって聞こえにくい音なので、場合によっては無視してもよい。
以下のステップS12からステップS18までの処理は、分離した周波数帯域ごとに行い、リアルタイムで同時に算出する。まず、分離した信号を2乗平均し、音のパワーを算出する(ステップS12)。算出した音のパワーの一例を図5に示す。図5の上段はある音の信号の波形であり、図5の下段はそれを2乗平均したパワー波形である。2乗平均を求めるにあたって平均幅は、平均化演算によってピークが消されないように、できるだけ小さく設定することが好ましく、たとえばバンド中心周波数の5波長分に設定される。
次に、ステップS11で分離した周波数帯域間での同期を取るため、遅延補正処理を行う(ステップS13)。上述したバンドパスフィルタは図6に示すように、それぞれ固有の遅延を持っており、入力信号の変動に対応する各バンドのパワーのピークはそれぞれ別の時刻に現れる。そこで、各バンドの信号に対してバンド別の補正遅延をかけることで、ピークの発生時刻を同期させる。
次に、聴感A特性をかける(ステップS14)。具体的には、図7に示すような特性の減衰率を掛けることによって、聴感に対応するパワーを求める。
次に、時間マスク効果を算出する(ステップS15)。時間マスク効果は音の時間変化から求めることができる。すなわち、音が大きくなるときは背景音のパワーが一定の一次遅れで追従するとして近似でき、音が小さくなるときは背景音のパワーが一定の減衰率で減衰するとして近似できる。そこで、以下の式1に基づいて背景音のパワーM[Pa]を算出する。
Figure 2012103157
上記の式1において、M:時間マスクのパワー[Pa]、M:背景音のパワー[Pa]、S:音のパワー[Pa]、n:サンプル番号、Δt:サンプリング時間[sec]、a:一次遅れ時定数[sec]、b:減衰率[sec−1]とする。ただし、M(n−1)>S(n)、且つ、M(n)<S(n)となった場合は、M(n)=S(n)とする。
上記の式1において、指数のa、bは実験等によって求めるとよい。その実験としては、たとえば60dBの音をT秒間発生させた後、80dBのパルス音を0.01秒間発生させた場合について、単独でパルス音を発生させた場合と比較し、何dBの単独パルス音と同じに聞こえるかを求める。また、60dBの音の発生を停止させた後、T秒後に60dBのパルス音を0.01秒間発生させた場合について、単独でパルス音を0.01秒間発生させた場合と比較し、何dBの単独パルス音と同じに聞こえるかを求める。以上の実験を、Tを変えながら繰り返し行い、マスク効果の変化を調べる。本発明者による試験では、音量や周波数が異なる場合について実験を行った結果、aは約0.005、bは約23.04を得た。ただし、この値は一例であり、特に限定するものではない。
なお、本実施の形態は、直前の音によるマスク効果(Post-Masking)のみを求め、直後の音によるマスク効果(Pre-Masking)を行わない例である。ただし、これに限定するものではなく、直後の音によるマスク効果を扱うようにしてもよい。
次に周波数マスク効果を算出する(ステップS16)。周波数マスク効果の算出方法は、たとえばラウドネスの計算用チャートを利用する。このチャートの利用に関しては、対象となる条件を限定するとよい。たとえば解析対象の周波数範囲を4kHz〜20kHz、音量の範囲を40〜100dBに限定し、計測室は反響があるものとする。このような前提において、背景音のパワーは周波数差(対数スケール)が開くに連れて一定の減衰率で減衰すると近似し、より低い周波数に対しては、マスク効果は無いものとして扱う。そこで、以下の式2に基づいて背景音のパワーM[Pa]を算出する。
Figure 2012103157
上記の式2において、M:周波数マスクのパワー[Pa]、M:背景音のパワー[Pa]、f:周波数[Hz]、f0:マスク効果の原因となる周波数[Hz]、c:オクターブ差に対する減衰率とする。ただし、最低周波数のバンドにおいては、M=0とする。また、指数のcは、dBスケールにおける減衰量を24dB/ Octaveと近似し、c =5.5215とする。
次に背景音のパワーを算出する(ステップS17)。具体的には、ステップS15で求めた時間マスクによる背景音のパワーと、ステップS16で求めた周波数マスクによる背景音のパワーのうち、大きい方を背景音のパワーとして設定する。なお、求めた背景音のパワーを隣接する周波数帯域での周波数マスク効果の算出に利用するとよい。
次に、求めた背景音のパワーを用いて音全体のパワーを除算し、パワー比を算出する(ステップS18)。具体的には、マスク効果を算出する前の音全体のパワーを、ステップS17で求めた背景音のパワーで割り、結果が1より小さかった場合は1に補正する。このようにして求めたパワー比の一例を図8に示す。図8の上段は、音全体のパワーの時間波形と背景音のパワーの時間波形を示しており、図8の下段はパワー比の時間波形を示している。なお、以上のステップS12からステップS18までの処理は、それぞれの周波数帯域で同時に算出する。これにより、全ての周波数帯域でパワー比が算出される。
次に、それぞれの周波数帯域で求めたパワー比のなかで、最大値を取得する(ステップS19)。これをノック強度とする。ノック強度とは、背景音を1に規格化したときの、音のパワー波形を意味している。
次に、求めたノック強度をdBスケールに換算する(ステップS20)。dBスケールは、1を基準として算出する。これは、特異音のdB音量そのものに相当する。以下、ノック強度のdB換算値をノックdB強度という。なお、図3の制御フローでは省略したが、ノック強度またはノックdB強度を必要に応じて表示器20に出力して表示するとよい。
次に、ノックdB強度を閾値と比較する(ステップS21)。ここで、閾値とは試験者の聴感的な判断基準に相当し、個人差はあるが、典型的にはおよそ10dBとする。ただし例外として、聴感的にノック音と区別のつかないな何らかの音が機械系から発生している場合には、その音よりも大きなノック音が発生しないと人間には判別ができないので、ノック判定の閾値もより大きく設定する必要がある。また、聴感に基づいて閾値の再設定を行う際は、後述の擬似ノック音を参照するとよい。なお、センサ14の設置位置や種類(たとえば指向性マイク等)を閾値と合わせて変更するようにしてもよい。
このように設定した閾値をノックdB強度が上回っている場合、瞬間的なノック状態と判定する。図9は、トレースノック状態におけるノックdB強度の時間波形と、ノック発生の判定結果を示している。同図に丸で示した部分は、ノックdB強度が閾値を超えており、瞬間的なノック状態と判断できる。
次に、一定時間内に瞬時的なノック状態にあった時間をカウントし、ノック頻度を求め(ステップS22)、そのノック頻度を閾値と比較する(ステップS23)。この閾値は聴感に基づいて任意に決定する。ノック頻度が閾値を上回っているとき、定常的なノック状態にあると判定する。この結果は、人間による聴感評価の結果に相当し、以上によってノック判定が終了する。求めたノック判定の結果は必要に応じて表示器16に出力するとよい。なお、本実施の形態では、パワー比が閾値を超える頻度によってノックの有無を判定したが、ノック判定の方法はこれに限定するものではなく、ノック強度を利用した様々な判定方法が可能である。たとえば、ノック強度の4乗平均値などの統計量を閾値と比較してノック判定を行ってもよい。
次に、図10に示す擬似ノック音の出力フローを行う。擬似ノック音の出力フローでは、まず、ノック強度を増幅する(ステップS31)。たとえば増幅率をdとして、ノック強度をd乗する。これはノックdB強度をd倍することに等しい。増幅率dは、出力する擬似ノック音が聞き取りやすくなるような値を任意に設定すればよく、たとえばd=4に設定される。これにより、ノック強度を増幅したパワー波形が得られる。
次に、増幅したノック強度について一定の減衰率で減衰する残響を付加する(ステップS32)。具体的には、以下の式3で示す演算処理を行う。
Figure 2012103157
上記の式3において、R:残響を付加した信号、K:増幅されたノック強度、n:サンプル信号、Δt:サンプリング時間[sec]、r:残響の減衰率[sec−1]とする。ただし、R(n-1)>K(n)且つR(n)<K(n)となった場合は、R(n)=K(n)とする。
残響を付与することによって、擬似ノック音のパワー信号が得られる。たとえば図11の中段のノック強度を増幅して残響を付与することによって、図11の上段で示す信号が得られる。これにより、瞬間的な音がより持続して聞こえるパワー波形となるので、出力した音が聞き取りやすくなる。なお、残響が小さすぎると効果が得られず、大きすぎると別時刻のノック音の聴覚を妨げるので、残響率rは数百程度の適切な値、たとえばr=500に設定する。
次にパワー波形の平方根を取り、実効値を求めた後(ステップS33)、正弦波を乗算する処理を行う(ステップS34)。その際、正弦波としては、実効値1でノックの代表的な周波数(例えば5kHz)を持つ正弦波を掛けるとよい。たとえば以下の式4で示す演算処理を行う。
Figure 2012103157
上記の式4において、T:擬似ノック音、E:擬似ノック音の実効値、f:擬似ノック音の周波数[Hz]、n:サンプル番号、Δt:サンプリング時間[sec]とする。なお、本実施の形態では、f=5000とする。
これにより、図11の下段に示すような音信号が得られる。その結果、可聴限界近くの高周波帯域で発生する特異音であっても、標準的な周波数に変換される。したがって、音として出力した際に、より聞き取りやすくなる。
次に出力音量に相当するゲインをかける(ステップS35)。このようにして生成した擬似ノック音信号が図1のスピーカ18から、擬似ノック音として出力される。この擬似ノック音は、ノック強度を増幅、残響付加、周波数変換した信号である。したがって、元のノック音が微弱な音、高周波の音、瞬間的な音であっても、擬似ノック音として聞こえやすい音に変換されて出力される。
次に上記の如く構成されたノック判定装置10の作用について説明する。
上述したように本実施の形態では、センサ14が検出した信号を複数の周波数帯域に分離し、その分離した周波数帯域ごとに直前の信号に基づく時間マスク処理を行って背景音のパワーを算出するとともに、近接の周波数帯域に基づく周波数マスク処理を行って背景音のパワーを算出し、さらに、二つの背景音のパワーのうち大きいものを選択し、音全体のパワーを選択の背景音のパワーで割ってパワー比を算出している。そして、複数の周波数帯域で求めたパワー比のうち最大のものをノック強度とし、その大きさ及び頻度が閾値を超えるか否かによってノックの有無を判定している。このように時間マスク処理と周波数マスク処理とを行ってノックの有無を判定することによって、聴感評価と同等の結果を得ることができる。また、ノック強度という数値に換算してノックの有無を判定するので、ノック判定を定量的に行うことができる。
また、本実施の形態は、ノック強度を増幅し、残響を付加し、実効値を求めた後、正弦波を乗算することによって、擬似ノック音の信号を生成し、これをスピーカ18から音として出力している。このように出力した擬似ノック音は、背景音に対するパワー比であるノック強度に基づいて出力されるので、ノック音が強調されている。また、ノック強度に残響を付加するようにしたので、瞬間的なノック音が聞きやすい音に変換されている。さらに、所定の周波数の正弦波を乗算しているので、聞きやすい周波数に変換されている。したがって、本実施の形態によれば、非常に聞き取りやすく変換された擬似ノック音が出力されるので、聴感に基づいて簡単且つ精度良く聴感評価を行うことができる。
また、本実施の形態によれば、ノック強度による定量的な評価と、擬似ノック音による聴感評価とを同時に行うので、定量的なノック評価の信頼性を確認しつつ、ノック判定を行うことができる。
なお、上述した実施形態は、擬似ノック音を発生させるようにしたが、これに限定するものではなく、ノック強度の算出とノック強度によるノック判定のみを行うようにしてもよい。
10…ノック判定装置、12…エンジン、14…センサ、16…プロセッサ、18…スピーカ、20…表示器、22…アンプ、24…AD変換、26…DA変換、28…記録媒体

Claims (5)

  1. エンジン音を検出するセンサと、
    前記センサで得られた信号に対して、その直前及び/又は直後の信号に基づく時間マスク処理と、近接する周波数帯域の信号に基づく周波数マスク処理とを行うことによって背景音のパワーを求め、該背景音のパワーに対するパワー比をノック強度として算出する算出手段と、
    前記算出したノック強度に基づいてノックの有無を判定する判定手段と、
    を備えたことを特徴とするノッキング判定装置。
  2. 前記算出手段は、前記時間マスク処理を施した背景音のパワーと、前記周波数マスク処理を施した背景音のパワーとを求め、前記2つの背景音のパワーのうち大きい方を選択し、音全体のパワーを除算することによって、前記パワー比を算出することを特徴とする請求項1に記載のノッキング判定装置。
  3. 前記算出手段は、前記センサで得られた信号を複数の周波数帯域に分けて抽出し、該周波数帯域ごとに前記パワー比を算出し、該算出したパワー比のうち最も大きい値を選択して前記ノック強度とすることを特徴とする請求項2に記載のノッキング判定装置。
  4. 前記ノック強度に対して残響音の強度を付加し、所定の周波数の振動を与えることによって、擬似ノック音の音声信号を作成する擬似ノック音生成手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のノッキング判定装置。
  5. エンジン音を検出し、
    前記検出した信号を複数の周波数帯域に分けて抽出し、
    前記抽出した周波数帯域ごとに、直前及び/又は直後の信号に基づく時間マスク処理を行って背景音のパワーを求めるとともに、近接する周波数帯域の信号に基づく周波数マスク処理を行って背景音のパワーを求め、
    前記2つの背景音のパワーのうち大きい方を選択し、音全体のパワーを除算することによってパワー比を求め、
    前記周波数帯域ごとに求めたパワー比のうち、最も大きい値をノック強度として設定し、
    前記設定したノック強度に基づいて、ノックの有無を判定することを特徴とするノッキング判定方法。
JP2010252806A 2010-11-11 2010-11-11 ノッキング判定方法及び装置 Active JP5557286B2 (ja)

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