JP2012100565A - 核酸測定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】核酸増幅の有無の判定を、簡便に、高精度に、かつ低コストで行う方法の提供。
【解決手段】酵素を用いた核酸増幅反応を、親水性増粘剤を含有する溶液中で行うことにより、当該反応で生成する不溶性物質の沈殿を防止する方法。生成する不溶性物質が安定化し、沈殿を防止できるため、反応が長時間に及ぶ場合や、反応後時間が経過した場合であっても、不溶性物質の濁度が増幅核酸量を正確に反映する。従って、増幅核酸量の(半)定量を、簡便、高精度、かつ低コストで行うことができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、増幅核酸量を測定する方法及び核酸増幅の有無を検出する方法に関する。
近年、遺伝子工学及び分子生物学等の研究分野、並びに感染症診断等の臨床分野において、核酸増幅方法の需要はますます高まっている。しかし、核酸が実際に増幅されたかを確認するのは一般に容易ではない。
核酸増幅の有無を確認する最も一般的な方法の一つは、増幅反応後の反応溶液をアガロースゲル電気泳動にかけ、エチジウムブロマイド等の蛍光インターカレーターを増幅産物に結合させて蛍光を観察するというものである。また、他にも、蛍光色素をはじめとする各種標識物質で標識したプライマーやヌクレオチドを用いて増幅反応を行い、増幅産物に取り込まれた標識を観察するという方法もある。
しかし、これらの方法では、蛍光を観察するためのUVランプと暗室が必要であったり、また、高価な標識プライマーやヌクレオチドを用意したりしなければならず、簡便さやコスト等の面で問題があった。
このような問題を解決することを目的に、核酸増幅反応に伴い生成する不溶性物質の濁度を測定して、増幅の有無を確認する方法も開発されている(特許文献1、非特許文献1)。しかしながら、当該方法では、不溶性物質が経時的に沈殿してしまうため、濁度も経時的に変化してしまうことから、時間の経過により正確な判定が難しくなっていた。
国際公開公報 WO01/83817
Mori et al., (2001) B.B.R.C., 289, 150-154
本発明は、核酸増幅の有無の判定を、簡便に、高精度に、かつ低コストで行うことを課題とする。
本発明者らは、驚くべき事に、酵素を用いた増幅反応を、親水性増粘剤を含有する溶液中で行うことにより、生成する不溶性物質の沈殿を防止できることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は例えば以下の項に記載の方法を包含する。
項1.
(A)親水性増粘剤を含有し、回転粘度計による測定で、24℃、回転速度1S−1時における応力が2.7〜10mPaである反応溶液中で、鎖置換型核酸合成酵素を用いた等温核酸増幅反応を行う工程、及び
(B)反応溶液の濁度を測定する工程
を含む、反応溶液の濁度を指標とした増幅核酸測定方法。
項2.
親水性増粘剤が、ポリエチレングリコール、デキストラン、及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の増幅核酸測定方法。
項3.
鎖置換型核酸合成酵素を用いた等温核酸増幅反応が、LAMP反応又はSMAP反応である、項1又は2に記載の増幅核酸測定方法。
項4.
親水性増粘剤が、分子量4000〜500000のポリエチレングリコールであり、当該ポリエチレングリコールの反応溶液中の濃度が0.1〜20g/100mlである、項2又は3に記載の増幅核酸測定方法。
項5.
(A)親水性増粘剤を含有し、回転粘度計による測定で、24℃、回転速度1S−1時における応力が2.7〜10mPaである反応溶液中で、鎖置換型核酸合成酵素を用いた等温核酸増幅反応を行う工程、及び
(B)反応溶液の濁度を測定する工程
を含む、反応溶液の濁度を指標とする核酸増幅判定方法。
項6.
親水性増粘剤が、ポリエチレングリコール、デキストラン、及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、項5に記載の核酸増幅判定方法
項7.
鎖置換型核酸合成酵素を用いた等温核酸増幅反応が、LAMP反応又はSMAP反応である、項5又は6に記載の核酸増幅判定方法。
項8.
親水性増粘剤が、分子量4000〜500000のポリエチレングリコールであり、当該ポリエチレングリコールの反応溶液中の濃度が0.1〜20g/100mlである、項6又は7に記載の核酸増幅判定方法。
項9.
親水性増粘剤を含有し、回転粘度計による測定で、24℃、回転速度1S−1時における応力が2.7〜10mPaである反応溶液中で、鎖置換型核酸合成酵素を用いた等温核酸増幅反応を行う工程を含む、核酸増幅反応で生成される不溶性物質の沈殿を防止する方法。
項10.
鎖置換型核酸合成酵素を用いた等温核酸増幅反応用の反応液に、回転粘度計による測定で、24℃、回転速度1S−1時における応力が2.7〜10mPaとなるよう親水性増粘剤を配合する工程を含む、核酸増幅反応で生成される不溶性物質の沈殿を防止する方法。
項11.
鎖置換型核酸合成酵素を用いた等温核酸増幅反応用の反応液に、回転粘度計による測定で、24℃、回転速度1S−1時における応力が2.7〜10mPaとなるよう親水性増粘剤を配合する工程を含む、鎖置換型核酸合成酵素を用いた等温核酸増幅反応で生成される不溶性物質の沈殿が防止された反応液を製造する方法。
本発明によれば、酵素を用いた核酸増幅反応により生成する不溶性物質が安定化し、当該不溶性物質の沈殿を防止できる。このため、反応が長時間に及ぶ場合や、反応後時間が経過した場合であっても、不溶性物質の濁度が増幅核酸量をより正確に反映する。従って、反応時間や反応後経過時間に関係なく、当該不溶性物質の濁度を測定することで、核酸増幅の有無の判定、又は増幅核酸量の定量を、簡便に、高精度に、かつ低コストで行うことができる。また、濁度測定機器が無くとも、濁度測定を目視で行うことにより、核酸増幅の有無を確認することができる。従って、測定場所や測定時間の条件に拘束されずに、簡便に、かつ低コストに核酸増幅の有無を判定することができる。
PEG8000を1.6〜6.4 w/v %の濃度になるようにLAMP反応溶液に入れ、濁度を測定した結果を示す。 LAMP法による遺伝子増幅の経時的変化を、濁度を指標として測定した結果を示す。 LAMP法による遺伝子増幅後の、反応チューブ内の経時的観察結果を示す。 反応溶液にPEG8000及びEtBrを加え、LAMP法により遺伝子増幅した際の濁度の経時的変化を示す。 反応溶液にPEG8000及びカルセインを加え、LAMP法により遺伝子増幅をした後の観察結果を示す。 反応溶液に、PEG2000、PEG4000、PEG6000、PEG10000、PEG20000、又はPEG500000を加え、LAMP法により遺伝子増幅した際の濁度の経時的変化を示す。凡例に記載する数値は、各反応溶液中の各PEGの濃度(w/v%)である。 それぞれの濃度(w/v%)のPEG8000溶液を含んだ反応溶液を用いてLAMP法により遺伝子増幅を行い、2%アガロースゲルにて電気泳動した時の泳動像を示す。 それぞれの濃度(w/v%)のPEG4000溶液を含んだ反応溶液を用いてLAMP法により遺伝子増幅を行い、2%アガロースゲルにて電気泳動した時の泳動像を示す。 反応溶液に、デキストランを加え、LAMP法により遺伝子増幅した際の濁度の経時的変化を示す。凡例に記載する数値は、各反応溶液中のデキストランの分子量及び濃度(w/v%)である。 反応溶液に、カルボキシメチルセルロースを加え、LAMP法により遺伝子増幅した際の濁度の経時的変化を示す。凡例に記載する数値は、各反応溶液中のカルボキシメチルセルロースの濃度(w/v%)である。 LAMP反応溶液、およびLAMP反応溶液に2%PEG4000、4.8% PEG8000、2%Dextran、および0.16% CMCを加えた溶液の粘度を回転粘度計により測定した結果を示す。測定に使用した機器:デジタル粘度計DV-I+(米国ブルックフィールド社製)、スピンドル:LV1 (S61)、サンプル量:70 ml、サンプル容器:100 ml マイティーバイアル、液温:24℃ LAMP反応溶液、およびLAMP反応溶液に22%PEG4000を加えた溶液の粘度を回転粘度計により測定した結果を示す。測定に使用した機器および測定条件は、上記図9のときと同じである。
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
本発明は、親水性増粘剤を含有する特定粘度を有する反応溶液中で、酵素を用いた核酸増幅反応を行う工程、及び反応溶液の濁度を測定する工程を含む、増幅された核酸を測定する方法(増幅核酸測定方法)に係る。
本発明における、酵素を用いた核酸増幅反応は、反応の進行に伴って不溶性物質が生成される反応である。つまり、核酸増幅産物の副産物として不溶性物質が生成される反応である。なお、「酵素を用いた核酸増幅反応」とは、酵素の触媒能により核酸の増幅が進行する反応という意味である。
本発明における核酸増幅反応は、等温核酸増幅反応である。等温核酸増幅反応は、反応溶液を一定温度に保温するだけで核酸が増幅される反応である。等温核酸増幅反応では、核酸合成酵素、プライマーとなるポリヌクレオチド、核酸合成酵素の基質となるヌクレオチド(dNTP)、及びその他酵素活性に必要なイオン等を含有する反応溶液を、所定の温度(酵素活性が得られる温度:酵素の種類にもよるが通常37〜72℃程度)に保温するだけで、核酸増幅反応が進行し得、標的核酸が増幅される。このため、等温核酸増幅反応を行うのにサーマルサイクラーのような特殊な機器は必要とされず、有利である。さらに、PCR法のように核酸二重鎖を解離させるため高温にする必要がないため、酵素の失活が起こりにくい。このため、PCR法と比べ大量の増幅産物及び不溶性物質を得ることができる。
等温核酸増幅反応による核酸増幅法としては、種々のものが公知である。具体的には、SDA(Strand Displacement Amplification)法、NASBA(Nucleic Aci Sequence-based Amplification)法(TMA(Transcription Mediated Amplification)法とも呼ばれる)、LAMP(Loop mediated isothermal amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法、SMAP(SMart Amplification Process)法等が例示できる。これらの方法において進行する核酸増幅反応は、それぞれSDA反応、NASBA反応、LAMP反応、ICAN反応、SMAP反応と呼ばれる。これらの反応を、本発明の核酸増幅反応として好ましく用いることができる。特にLAMP法において進行する核酸増幅反応(LAMP反応)やSMAP法において進行する核酸増幅反応(SMAP反応)が好ましい。LAMP反応及びSMAP反応では、酵素の種類が1種類なので反応液が増粘することによる酵素反応の阻害が少なく、また、増幅産物が多量に得られるために、その副産物として生成される不溶性物質が検出しやすいからである。
以下に等温核酸増幅反応法の例としてLAMP法の概要を説明する。すなわち、LAMP法は増幅対象となる塩基配列の末端にループ構造を形成し、そこを起点としてポリメラーゼによる伸長反応が起きると同時に、ループ内の領域にハイブリダイズしたプライマーが、鎖置換反応により核酸鎖を伸長しながら先の伸長反応の産物を1本鎖に解離させていくという核酸増幅法である。生成した1本鎖核酸はその末端に自己相補性領域を持つため、末端にループを形成し新たな伸長反応が始まる。これら一連の反応がLAMP反応である。LAMP法では一定温度で反応が進行するため、上に述べた反応は同時に並行して起こる。また、一定温度で進行するためポリメラーゼの失活が起こりにくいことから、大量の増幅産物を得ることができる。LAMP法では、通常50〜70℃程度、好ましくは60〜70℃程度の一定温度で反応が進行する。
より具体的なLAMP法の一例として、以下の工程:
(I)ポリヌクレオチド鎖上の標的領域の3’末端から当該ポリヌクレオチド鎖の3’末端方向に向かって順に第1の任意配列F1c、第2の任意配列F2c及び第3の任意配列F3cをそれぞれ選択し、標的領域の5’末端から当該ヌクレオチド鎖の5’末端方向に向かって順に第4の任意配列R1、第5の任意配列R2及び第6の任意配列R3をそれぞれ選択し、
(II)前記F2cに対し相補的な配列F2及び該F2の5’側に前記F1cと同一の配列を含むプライマー(FIP)、前記F3cに対し相補的な配列F3を含むプライマー(F3)、前記R2と同一の配列及び該配列の5’側に前記R1に対し相補的な配列R1cを含むプライマー(BIP)、並びに前記R3と同一の配列を含むプライマー(B3)をそれぞれ調製し、
(III)前記ヌクレオチド鎖を鋳型として、鎖置換型ポリメラーゼ、前記プライマー、基質及び緩衝液を含む反応溶液内で核酸合成反応を行う
方法が挙げられる。
LAMP法については、例えば上記特許文献1やNotomi T. et al. Nucleic Acid Res. Vol.28, No.12, e63, (2000)、あるいは栄研化学株式会社のホームページ(http://loopamp.eiken.co.jp/lamp/)等に詳細に記載されている。
なお、プライマーとして、上記FIP、F3、BIP、B3に加えて、合成起点を有効に利用したループプライマー(LF、LB)を追加することにより、増幅効率を高め、感度を向上させ、反応時間を短縮させることもできる(Nagamine et al., (2002) Mol. Cell. Probes, 16, 223-229)。LFおよびLBは、FIPおよびBIPがハイブリダイズするループ内の領域以外のループ領域(すなわち、相補鎖となるループ領域)の配列にハイブリダイズし、鎖置換反応により核酸鎖を伸長しながら先の伸長反応の産物を1本鎖に解離させていくことができる。よって、LFおよびLBを用いることで、LAMP反応で得られる全てのループ構造からの伸長反応が可能となり、爆発的な核酸増幅反応が起こすことができる。
また、SMAP法については、例えばYasumasa Mitani, Alexander Lezhava, et al. Nature Methods (2007), Vol.4, No.3, 257-262.、あるいは株式会社ダナフォームのホームページ(http://www.dnaform.jp/smartamp/smartamp/index.html)等に詳細に記載されている。
また、SDA法は、ある塩基配列の3’側に相補的なプライマーを合成起点として相補鎖合成を行なうときに、5’側に2本鎖の領域が有るとその2本鎖を置換しながら相補鎖の合成を行なうDNAポリメラーゼを利用する方法である。5’側の2本鎖部分が新たに合成された相補鎖によって置換(displacement)されることからSDA法と呼ばれている。SDA法では、プライマーとしてアニールさせた配列に予め制限酵素認識配列を挿入しておくことによって、温度変化の工程を省略することができる。すなわち、制限酵素によってもたらされるニックが相補鎖合成の起点となる3’-OH基を与え、そこから差置換合成をおこなうことによって先に合成された相補鎖が1本鎖として遊離して、次の相補鎖合成の鋳型として再利用されることを特徴としている。SDA法については例えばPro.N.A.S. Vol.89, 392-396 (1992)等に詳細に記載されている。
また、NASBA法は、標的RNAを鋳型としてT7プロモーターを付加したプローブでDNAポリメラーゼによるDNA合成を行ない、これを更に第2のプローブで2本鎖とし、生成する2本鎖DNAを鋳型としてT7RNAポリメラーゼによる転写を行なわせて多量のRNAを増幅する反応である。NASBA法については例えばNature Vol.350, 91-92, (1991)等に詳細に記載されている。
また、ICAN 法は、RNA-DNAキメラプライマー,鎖置換活性と鋳型交換活性を有するDNAポリメラーゼ,RNaseHを用いる等温の核酸増幅方法である。キメラプライマーが鋳型と結合した後,DNAポリメラーゼにより相補鎖が合成される。その後,RNaseHがキメラプライマー由来のRNA部分を切断し,切断部分から鎖置換反応と鋳型交換反応を伴った伸長反応が起こる。この反応が繰り返し起こることにより核酸が増幅される。ICAN法については例えばWO00/056877パンフレット、WO02/016639パンフレット等に詳細に記載されている。
本発明における等温核酸増幅反応には、鎖置換型核酸合成酵素が用いられる。当該酵素は、鋳型となる核酸に相補的な核酸鎖を合成していく過程で、伸長方向に2本鎖領域があった場合その鎖を解離しながら、相補鎖合成を継続できる核酸合成酵素である。このような酵素としては、特に制限はされず、適宜公知のものを選択して使用し得る。このような酵素として、例えば、BstDNAポリメラーゼ、Bca(exo−)DNAポリメラーゼ、E.coliDNA ポリメラーゼIのクレノウフラグメント、Vent DNAポリメラーゼ、Vent(Exo−)DNAポリメラーゼ(Vent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、DeepVent DNAポリメラーゼ、Deep Vent(Exo−)DNAポリメラーゼ(Deep Vent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、Φ29ファージDNAポリメラーゼ、MS−2ファージDNAポリメラーゼ、Z−Taq DNAポリメラーゼ(以上タカラバイオ)、KODDNAポリメラーゼ(東洋紡績)、Csa DNAポリメラーゼ (ニッポンジーン)、96-7 DNAポリメラーゼ(ニッポンジーン)等が例示できる。これらの酵素は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明における核酸増幅反応では、DNA又はRNAを鋳型として核酸増幅が行われる。RNAを鋳型とする場合は、逆転写酵素によりRNAと相補的なDNA(cDNA)を製造し、当該cDNAを増幅する場合が多い。つまり、通常、本発明の核酸増幅反応では、増幅対象(ターゲット)となる核酸はDNA又はRNAであり、増幅産物はDNAである。
本発明における核酸増幅反応では、不溶性物質が生成される。当該不溶性物質は、核酸増幅反応の進行に伴って副産物として生成され、生成量が核酸増幅量と相関するものが好ましい。
特に、不溶性物質としては、ピロリン酸塩が好適である。ピロリン酸は、酵素を用いた核酸増幅反応において、ヌクレオチドが核酸鎖の末端に取り込まれる際に生成するため、生成量が核酸増幅量と相関するからである。上に例示した酵素は、全て核酸増幅反応時にピロリン酸を生成する。なお、ここでの「ピロリン酸」は「ピロリン酸イオン」と同義として用いている。(つまり、溶液中ではピロリン酸はピロリン酸イオンとして存在することがあるが、当該ピロリン酸イオンについてもピロリン酸と表記する。)
ピロリン酸塩としては、例えばピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸バリウム、ピロリン酸鉛等のピロリン酸金属塩が挙げられる。これらピロリン酸金属塩は、核酸増幅のための反応溶液中に含まれる金属イオンと、核酸増幅反応に伴って生成されるピロリン酸とが結合して産生される。ピロリン酸金属塩としては、特にピロリン酸マグネシウムが好ましい。通常、核酸増幅酵素であるポリメラーゼがマグネシウムイオンを必要とするため、核酸増幅のための反応溶液中にマグネシウムイオンを含めることに特に問題がないからである。
また、ピロリン酸は加水分解されリン酸として存在することがある。よって、核酸増幅反応によって、ピロリン酸塩のみならずリン酸塩も生成され得る。このようなリン酸塩としては、例えばリン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸バリウム、リン酸鉛等のリン酸金属塩が挙げられる。
ピロリン酸塩およびリン酸塩は、核酸増幅反応の進行に伴って副産物として生成され、一定の溶解度積を超えると不溶性物質として析出する。この不溶性物質の生成量が核酸増幅量と相関する。つまり、核酸増幅量が増えるにつれ、不溶性物質生成量も増える。このため不溶性物質の生成量を測定することにより、核酸増幅反応の進行をモニターすることができる。より詳細には、不溶性物質が成長して一定以上の大きさになり液との比重差が小さければ反応液が濁るため、液の濁度を測定することで核酸増幅反応の進行をモニターすることができる。つまり、反応溶液の濁度を測定し、これを指標とすることで、増幅した核酸を測定することができる。より詳細には、反応溶液の濁度が高いほど増幅した核酸量が多いという指標を基にして反応溶液中の核酸量を測定(定量)できる。
反応溶液の濁度の測定は、公知の方法で行い得る。例えば、散乱光強度測定や、吸光度測定により行い得る。散乱光強度測定は、溶液に当たった光の散乱光強度を測定する方法であり、濁度が大きいほど散乱光も比例して大きくなる。散乱光強度測定は、例えばLoopamp(登録商標)リアルタイム濁度測定装置RT-160C(栄研化学株式会社)を用いて行い得る。
また、濁度測定機器が無い場合でも、濁度測定を目視で行うことにより、核酸増幅の有無を判定することができる。つまり、濁りがある場合に、核酸増幅が有ると判定できる。
なお、従来は、核酸増幅反応に伴って不溶性物質が生成されたとしても、すぐに凝集して(すなわち不溶性物質の粒子同士が結合し成長して)沈殿となり、濁度が低くなってしまうため、反応が長時間に及ぶ場合、又は反応終了後長時間経過した場合は、反応液濁度が正確に核酸増幅量を表していないという問題があった。一方、本発明は、親水性増粘剤を反応溶液に加えて反応溶液を特定の粘度を有するようにすれば、不溶性物質の早期の沈殿を抑制できることを見出してなされたものである。反応溶液が特定の粘度となるよう親水性増粘剤を加えることにより、核酸増幅反応に影響を与えることなく、不溶性物質が沈殿するのを抑制することができる。
本発明では、粘度が2.7〜10mPa・s、好ましくは3〜9.1mPa・sとなるよう、親水性増粘剤を加えた反応溶液を用いる。言い換えれば、本願発明に用いる反応溶液は、回転粘度計による測定で回転速度1S−1時における応力が2.7〜10mPa、好ましくは3〜9.1mPaである。
ここでの粘度は、液温が約20〜25℃の条件下、回転粘度計により回転速度1S−1で測定をした値である。回転粘度計としては、デジタル粘度計DV-I+(米国ブルックフィールド社製)を用いる。スピンドルは、スピンドルLV1 (S61)を用いる。
親水性増粘剤を、核酸増幅反応のための反応溶液に加えることで、当該反応溶液は増粘させることができる。反応溶液の粘度を上述の範囲とすることで、不溶性物質の沈降を効果的に防止できる。
本発明に用いる親水性増粘剤は、反応液に加えた際、核酸増幅反応を阻害することなく、かつ核酸増幅反応により生成する不溶性物質の沈殿を抑制するものである。当該効果を奏するものであれば、特に制限されない。具体的には、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギニン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、デキストラン、食品用増粘剤(例えばガラクトマンナン、ペクチン、キサンタンガム、タマリンドガム、キサンタンガム、カラギーナン等)、親水性アエロジル等が例示できる。中でもポリエチレングリコール、デキストラン、カルボキシメチルセルロースが好ましく、ポリエチレングリコールが特に好ましい。なお、親水性増粘剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、親水性増粘剤として用いられる物質であっても、不溶性物質を凝集させる性質を有するもの(すなわち、凝集効果を奏するもの)は、不溶性物質の沈殿を促進するため、本発明に用いる親水性増粘剤としては好ましくない。例えば、凝集剤としても利用されている、カルボキシメチルデキストラン、ポリアクリル酸は、凝集効果を有するため、本発明に用いるには不適である。
親水性増粘剤としてポリエチレングリコールを用いる場合、特に制限されないが、その分子量は4000〜500000程度であることがより好ましい。分子量が4000以上であれば沈殿防止効果がより効率的に発揮される。また、分子量が500000以下であれば反応溶液に容易に溶解し得る。また、デキストランを用いる場合、特に制限されないが、その分子量は40000〜90000程度であることが好ましい。なお、以下ポリエチレングリコールをPEGとも表記する。また、PEGの後に分子量を記載することがある。例えば、PEG8000は平均分子量(average molecular weight)が8000程度のポリエチレングリコールを示す。
反応溶液における親水性増粘剤の濃度は、反応溶液が上記の粘度を満たすのであれば、特に制限はされないが、0.01w/v%以上(好ましくは0.05〜30w/v%、より好ましくは0.1〜14w/v%)の濃度となるように反応溶液に溶解させるのが好ましい。
特に親水性増粘剤としてPEGを用いる場合は、その分子量が4000〜500000であり、反応溶液中の濃度が0.1w/v%以上(好ましくは0.3〜30w/v%、より好ましくは0.4〜14w/v%)の濃度となるのが好ましい。
また、デキストランを用いる場合は、1〜15w/v%(好ましくは1.5〜10w/v%、より好ましくは2〜7.2w/v%)程度の濃度となるように反応溶液に溶解させるのが好ましい。
また、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いる場合は、0.01〜0.8w/v%程度(好ましくは0.1〜0.5w/v%、より好ましくは0.16〜0.24w/v%)の濃度となるように反応溶液に溶解させるのが好ましい。
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
また、以下特に断らない場合は、反応溶液中に溶解させる親水性増粘剤の配合量を示す「%」は「w/v%」(すなわち「溶質g/溶液100ml」)を示す。
LAMP法おける生成ピロリン酸塩の濁度の検討
<試薬の調整>
λDNAの有する配列を増幅ターゲット配列として、LAMP法により増幅した。増幅反応を行う反応溶液には、親水性増粘剤としてPEG、デキストラン、又はカルボキシメチルセルロースを加えた。以下に反応溶液組成、並びにターゲット配列及びプライマー配列を示す。
〔LAMP反応溶液組成:25μL中〕
・20 mM Tris-HCl pH 8.8
・10 mM KCl
・10mM (NH4)2SO4
・4 mM MgSO4
・0.1% TritonX-100
・0.4 mM dNTP
・8 U Bst DNA ポリメラーゼ(New England Biolabs)
・プライマー:1600 nM Inner F、1600 nM Inner R、800 nM Loop F、800 nM Loop R、400 nM Outer F、400 nM Outer R
・ターゲット:1 x 104分子のλDNA(New England Biolabs)
・各種親水性増粘剤

なお、Inner FはFIPに、Inner RはBIPに、Loop FはLFに、Loop RはLBに、Outer FはF3に、Outer RはB3に、それぞれ相当する。
ターゲットは熱変性したもの(すなわち熱変性させたλDNA)を用いた。反応溶液を反応チューブに入れ、65℃で1.5時間保温することでLAMP反応を行った。生成する不溶性物質(ピロリン酸マグネシウム)の濁度は、Loopamp(登録商標)リアルタイム濁度測定装置RT-160C(栄研化学株式会社)を用いて行った。当該装置は、検体(反応溶液)に当たった光の散乱光の強度から検体の濁度をリアルタイムで測定し、表示する装置である。当該装置は、反応溶液が入った反応チューブを側面より測定する。親水性増粘剤を含めない反応溶液により通常のLAMP反応を行うと、析出したピロリン酸マグネシウムは重力により自然沈降するため、当該装置で測定される濁度は時間の経過と共に低下する。
なお、特に断りのない限り、以下の検討における核酸増幅反応はここで述べた条件で行った。
〔親水性増粘剤〕
今回使用した親水性増粘剤の会社名、商品番号、品名を下記に記す。
PEG2000:nacalai tesqu、28220-15、 ポリエチレングリコール#2000
PEG4000: nacalai tesqu、05577-04、 50w/v%ポリエチレングリコール#4000
PEG6000:Wako、169-22945、ポリエチレングリコール6000
PEG8000:Sigma-Aldrich、P2139、ポリエチレングリコール8000
PEG10000:Sigma-Aldrich 、92897、ポリエチレングリコール10000
PEG20000:nacalai tesqu、05578-94、 30w/v%ポリエチレングリコール#20000
PEG500000:Wako、160-18521、ポリエチレングリコール500000
Dex40000:Wako(049-22331) デキストラン40000
Dex60000-90000:Wako(049-00552) デキストラン60000-90000
CMC:Wako、033-08991、カルボキシメチルセルロースナトリウム

〔ターゲット配列及びプライマー配列〕
ターゲット配列:λDNA(Enterobacteria phage lambdaゲノムDNA)由来
GGAGATATGGTAGAGCCGCAGACACGTCGTATGCAGGAACGTGCTGCGGCTGGCTGGTGAACTTCCGATAGTGCGGGTGTTGAATGATTTCCAGTTGCTACCGATTTTACATATTTTTTGCATGAGAGAATTTGTACCACCTCCCACCGACCATCTATGACTGTACGCCACTGTCCCTAGGACTGCTATGTGCCGGAGCGGACATTACA(配列番号1)

プライマー
F3: GGAGATATGGTAGAGCCGCAG(配列番号2)
B3: TGTAATGTCCGCTCCGGCAC (配列番号3)
FIP: CGGTAGCAACTGGAAATCATCACGTCGTATGCAGGAACGTGC(配列番号4)
BIP: TGCATGAGAGAATTTGTACCCCTAGGGACAGTGGCGTACAG(配列番号5)
LF: CCCGCACTATCGGAAGTTCAC(配列番号6)
LB: CCTCCCACCGACCATCTATG(配列番号7)
<PEG濃度の検討>
上記LAMP反応溶液に、親水性増粘剤としてポリエチレングリコール8000(Sigma-Aldrich、商品番号P2139)(PEG8000)を1.6%、3.2 %、4.8 %、6.4 %となるようにそれぞれ加え、反応させ、ピロリン酸マグネシウムの濁度を測定した。測定はLoopamp(登録商標)リアルタイム濁度測定装置RT-160Cを使用した。結果を図1に示す。
PEG8000を1.6%又は3.2%加えた反応溶液では、PEG8000を加えない反応溶液に比べて濁度は低下が抑制された。さらに、PEG8000を4.8%以上加えた反応溶液では、ほとんど濁度の低下は見られなかった(図1)。このことから、PEG8000を加えた反応溶液では濁度の低下が抑えられること、及び、反応溶液の濁度の低下はPEG8000の濃度依存的に改善され、特にPEG8000が4.8%以上含まれることで濁度の低下はほぼ完全に抑えられることがわかった。
<濁度の安定性の検討>
LAMP反応では、基質であるdNTP量を増やすことによりDNA合成量を増やすことができる。これはすなわち、ピロリン酸マグネシウムの析出量を増やし濁度を増大させることにつながる。濁度が増えれば機器による濁度測定及び目視での確認がしやすくなり、結果として測定精度を上げ、誤判定を防ぐことができる。そこで、上述したLAMP反応溶液組成において、MgSO4の濃度を8 mM、dNTPの濃度を1.4 mMとして反応を行い、上述の方法と同様にして濁度を測定して、濁度の安定性を検討した。なお、当該反応では親水性増粘剤としてPEG8000を4.8 %反応溶液に加えた。
結果を図2aに示す。PEG8000非存在下では35分をピークに濁度の減少が見られたのに対して、PEG8000存在下では濁度の減少が見られなかった。このことから、LAMP反応にPEG8000を加えることにより濁度が安定し(すなわち不溶性物質の沈殿が抑制され)、濁度測定(目視による濁度の確認を含む)が容易にできるようになることがわかった。
さらに、反応終了後、反応チューブ内の反応溶液を混和した後、チューブ内の濁度変化を経時的に観察した(図2b)。
この結果、PEG8000が入っているチューブ(DNA(+)PEG8000(+))では、混和後2時間経過した後でも溶液の混濁が見られ、24時間後のチューブでもその傾向が見られた。これに対して、PEG8000が入っていないチューブ(DNA(+)PEG8000(−))では、沈殿が見られ溶液が徐々に透明になった。24時間後ではさらに沈殿が進み、溶液は、核酸増幅反応が陰性のチューブ(DNA(−)PEG8000(−))と同程度に、ほぼ透明となった。
これらの結果から、核酸増幅反応後、長時間経過した後でも濁度測定を容易に行うことができることがわかった。
<PEGがDNA標識試薬に与える影響の検討>
LAMP反応による増幅の有無の確認には、濁度による検出以外にも臭化エチジウム(EtBr) やサイバーグリーン等DNA鎖にインターカレートすることにより蛍光を発する試薬を用いる方法や、カルセインのような蛍光標識剤を用いる方法も報告されている。カルセインが含まれたLAMP法用のプレミックスも市販されている(栄研化学株式会社)。当該プレミックスにおける、カルセインを用いて核酸増幅を検出する方法の概要は次の通りである。LAMP反応のための反応溶液に、マンガンイオンと結合したカルセインを含ませておく。マンガンイオンと結合したカルセインは消光している。しかし、核酸増幅反応が進むとこのマンガンイオンはピロリン酸イオンによってカルセインから奪われ、ピロリン酸マンガンが生成する。その結果、カルセインはフリーとなり、消光していた蛍光を発するようになる。核酸増幅が起こった場合は、紫外線照射装置を用いて紫外線を照射すれば蛍光が増強されるため、LAMP反応後その蛍光を目視で確認することにより標的核酸配列の有無を確認することができる。
PEG8000を加えた反応溶液で核酸増幅を行った場合、このような公知の核酸増幅有無確認方法に悪影響を及ぼさないかを検討した。
まず、PEG8000がEtBrに与える影響について検討した。LAMP反応溶液に終濃度0.5 mg/lの濃度でEtBrを添加し反応を行った。増幅した核酸の測定はStepOne (Applied Biosystems社製)を用いて行った。結果を図3aに示す。図3aのグラフの縦軸は、蛍光強度(Rn)を表しているが、反応開始前の蛍光強度を「0」にするベースライン補正を行っている(従って「ΔRn」と標記する)。
図3aからわかるように、PEG8000存在下でもEtBrの蛍光によるシグナルを検出することができた。すなわち、PEG8000はEtBrによる増幅測定に影響を及ぼさないことが明らかとなった。
次に、マンガンイオンと結合して消光したカルセインが入っている市販のLoopamp蛍光・目視検出試薬LMP221(栄研化学株式会社)を用い、LAMP反応を行ってPEG8000による影響について検討を行った。当該試薬は反応溶液に1μL加えた。
その結果、PEG8000の存在下でもカルセインによるDNA増幅が確認できた(図3b)。この蛍光強度はPEG8000非存在下、増幅したサンプルのものと変わらなかった。このことから、PEG8000はカルセインによる増幅の確認に影響を及ぼさないことが明らかとなった。
<PEG分子量の検討>
PEG8000以外の分子量のPEGであっても生成する不溶性物質の安定化に寄与するかを検討するため、PEG8000のかわりにPEG2000、PEG4000、PEG6000、PEG10000、PEG20000、又はPEG500000の5種類のPEGを用いて、上述のようにしてLAMP法により核酸増幅を行い、濁度を測定した。各種PEGの配合割合も変化させて検討した(図4)。その結果、いずれの分子量のPEGであっても、PEG未使用に比べて沈殿の生成が抑制された。特に、PEG4000、PEG6000、PEG10000、PEG20000を用いた場合では、いずれの濃度でもPEG未使用に比べて濁度の低下はほぼ抑えられた(図4)。
以上のことから、PEGはその分子量にかかわらず、LAMP反応で生成するピロリン酸マグネシウムが沈殿するのを防止できることがわかった。また、特に、用いるPEGの分子量は、4000〜500000程度が好ましいこともわかった。
<PEG濃度がLAMPの特異的な増幅に与える影響の検討>
LAMP反応溶液にPEG8000の様々な濃度(0%、4.8%、9.6%、14.4%、19.2%)を加え、90分の増幅後、2%アガロースゲル電気泳動を行なった(図5)。この結果、19.2%の濃度でも特異的な増幅が起きていることが確認できた。次に、LAMP反応溶液にPEG4000の様々な濃度(0%、22%、24%、26%)を加え、60分の増幅後、2%アガロースゲル電気泳動を行なった(図6)。この結果、22%の濃度では特異的な増幅が行なわれたが、24%以上では特異的な増幅が起こらないことが確認できた。
以上のことから、高濃度のPEGを溶解した反応溶液(すなわち、比較的高粘度の反応溶液)を用いると、LAMP法による特異的な増幅を阻害する場合があることが分かった。
<他の親水性増粘剤の検討>
ポリエチレングリコールと同様にニュートニアン性を示す増粘剤としてデキストランが挙げられる。そこで、デキストランにおいても濁度の低下が抑えられるかを検討した。LAMP反応溶液に分子量40000のデキストランを2.4%、4.8%、7.2%となるように、また、分子量60000-90000のデキストランを2.0%、4.0%、6.0%となるようにそれぞれ加えた。測定はLoopampリアルタイム濁度測定装置RT-160Cを使用した。結果を図7に示す。LAMP反応の立ち上がり時間はいずれのデキストランの有無にかかわらずあまり変化がなかった。すなわちデキストランは、LAMP反応に影響を及ぼさないことがわかった。
また、デキストラン非存在下では著しい濁度の低下(45分時の濁度と90分時の濁度の比では57%の低下) が見られたのに対して、デキストラン存在下では濁度の低下は見られなかった。以上より、ポリエチレングリコールだけでなくデキストランにおいても濁度の低下を抑制する作用があることがわかった。
さらに、チキソトロピック性を示す増粘剤としてカルボキシメチルセルロース (CMC) についても検討を行った。LAMP反応溶液組成を、MgSO4の濃度を8 mM、および dNTPの濃度を1.4 mMにした以外は、上述と同様に反応を行った。結果を図8に示す。LAMP反応の立ち上がり時間は、いずれのCMC濃度であってもあまり変化がなかった。すなわちCMCは、LAMP反応に影響を及ぼさないことがわかった。さらに、CMCの存在により濁度低下が抑制されること、抑制効果は濃度依存的に大きくなること、がわかった。
以上のことより、濁度の安定化(沈殿の防止)には、反応溶液の粘性を高めることが重要であることがわかった。また、ニュートニアン性を示す増粘剤であるPEG、デキストラン、又はチキソトロピック性を示す増粘剤であるCMCを反応溶液に加えても核酸増幅反応に悪影響は及ぼさないことがわかった。
<粘度の測定>
〔粘度測定用溶液組成〕
20 mM Tris-HCl pH 8.8
10 mM KCl
10mM (NH4)2SO4
4 mM MgSO4
0.1% TritonX-100
2% Glycerol

上記測定用溶液組成 (−)、上記測定用溶液組成に2%になるようにPEG4000を加えたもの (2%PEG4000)、上記測定用溶液組成に4.8%になるようにPEG8000を加えたもの (4.8% PEG8000)、上記測定用溶液組成に2%になるようにDex60000-90000を加えたもの (2%Dextran)、上記測定用溶液組成に0.16%になるようにCMCを加えたもの (0.16% CMC)、および、上記測定用溶液組成に22%になるようにPEG8000加えたもの (22% PEG8000) の粘度を回転粘度計によって測定した。なお、当該測定用溶液には、Glycerolが終濃度2%となるように加えた。これは、上記LAMP反応溶液に加えられているBst DNA polymeraseが50%の濃度のGlycerol溶液中に存在しており、上記反応溶液組成ではこれを8U(1μL)用いていたため、これと同様の条件となるよう測定用溶液を調整するために加えたものである。測定に使用した機器は、デジタル粘度計DV-I+(米国ブルックフィールド社製)であり、スピンドルLV1 (S61) を用いて70 ml のサンプル量を測定した (サンプル容器:100 ml マイティーバイアル)。このときの液温は24℃であった。測定結果を表1に示す。
Figure 2012100565
表1を基にグラフを描くと図9、図10になる。
<粘度条件の検討>
親水性増粘剤を加えていない反応溶液の粘度は、上記測定条件において回転速度1S−1のとき応力が2.6mPaであった。上記の検討で確認されたように、親水性増粘剤の添加量を増加させることにより不溶性物質の沈殿抑制効果が高まる傾向があるため、回転速度1S−1のとき応力が約2.7mPa以上の反応溶液であれば、反応溶液の濁度低下を抑制する効果が生まれると考えられた。
また、PEG4000を2%の濃度になるように加えた反応溶液は、図4に示した通り、濁度の低下が好ましく抑制されている。具体的には、濁度が最大に達した時点から15分後において、濁度が最大濁度の88%以上を維持している。当該反応溶液は、回転速度1S−1のとき応力が3mPaであった。従って、回転速度1S−1のとき応力が3mPa以上の反応溶液であれば、反応溶液の濁度の低下がより好ましく抑制されると考えられた。
さらに、上述した検討から、PEG4000を22%の濃度になるように加えた反応溶液では特異的な増幅が行なわれ、24%以上では特異的な増幅が起こらないことが分かっている。PEG4000を22%の濃度になるように加えた反応溶液は、回転速度1S−1のとき応力が9.1mPaであった。従って、回転速度1S−1のとき応力が約10mPa以下の反応溶液であれば、核酸増幅反応を阻害する可能性が低いと考えられた。また、回転速度1S−1のとき応力が9.1mPa以下の反応溶液であれば、核酸増幅反応を阻害することなく反応溶液の濁度の低下がより好ましく抑制されると考えられた。
〔配列番号:2〕
LAMP反応用プライマー。
〔配列番号:3〕
LAMP反応用プライマー。
〔配列番号:4〕
LAMP反応用プライマー。
〔配列番号:5〕
LAMP反応用プライマー。
〔配列番号:6〕
LAMP反応用プライマー。
〔配列番号:7〕
LAMP反応用プライマー。

Claims (8)

  1. (A)親水性増粘剤を含有し、回転粘度計による測定で、24℃、回転速度1S−1時における応力が2.7〜10mPaである反応溶液中で、鎖置換型核酸合成酵素を用いた等温核酸増幅反応を行う工程、及び
    (B)反応溶液の濁度を測定する工程
    を含む、反応溶液の濁度を指標とした増幅核酸測定方法。
  2. 親水性増粘剤が、ポリエチレングリコール、デキストラン、及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の増幅核酸測定方法。
  3. 鎖置換型核酸合成酵素を用いた等温核酸増幅反応が、LAMP反応又はSMAP反応である、請求項1又は2に記載の増幅核酸測定方法。
  4. 親水性増粘剤が、分子量4000〜500000のポリエチレングリコールであり、当該ポリエチレングリコールの反応溶液中の濃度が0.1〜20g/100mlである、請求項2又は3に記載の増幅核酸測定方法。
  5. (A)親水性増粘剤を含有し、回転粘度計による測定で、24℃、回転速度1S−1時における応力が2.7〜10mPaである反応溶液中で、鎖置換型核酸合成酵素を用いた等温核酸増幅反応を行う工程、及び
    (B)反応溶液の濁度を測定する工程
    を含む、反応溶液の濁度を指標とする核酸増幅判定方法。
  6. 親水性増粘剤が、ポリエチレングリコール、デキストラン、及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の核酸増幅判定方法。
  7. 鎖置換型核酸合成酵素を用いた等温核酸増幅反応が、LAMP反応又はSMAP反応である、請求項5又は6に記載の核酸増幅判定方法。
  8. 親水性増粘剤が、分子量4000〜500000のポリエチレングリコールであり、当該ポリエチレングリコールの反応溶液中の濃度が0.1〜20g/100mlである、請求項6又は7に記載の核酸増幅判定方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2015116136A (ja) * 2013-12-17 2015-06-25 東ソー株式会社 核酸増幅方法および当該方法を利用した核酸増幅試薬

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