以下図面を参照して、本発明の好適な実施形態の一例について説明する。本実施形態は、衛星測位システムの一種であるGPS(Global Positioning System)を利用した実施形態である。
1.原理
本実施形態の目的の1つは、GPS衛星から送出されるGPS衛星信号を受信した受信信号の信頼度判定を行うことにある。また、受信したGPS衛星信号の拡散符号の位相であるコード位相の検出に際し、検出したコード位相に含まれ得る誤差であるコード位相誤差を算出することも目的の1つである。
本実施形態における受信信号の信頼度判定方法は、受信信号がマルチパス信号の場合に有用である。従って、受信信号が明らかにマルチパス信号であると判断される場合や、マルチパス信号の可能性があると判断される場合は、本実施形態の信頼度判定方法を用いて受信信号の信頼度を判定すると効果的である。受信信号がマルチパス信号であるか否かの判定は、種々の公知の手法を適用可能である。本実施形態では、マルチパス信号の判定方法の一例についても併せて説明する。
1−1.マルチパス信号の判定
最初に、本実施形態におけるマルチパス信号の判定方法について説明する。GPS衛星から送出されるGPS衛星信号は、拡散符号の一種であるC/A(Coarse and Acquisition)コードによって、スペクトラム拡散方式として知られるCDMA(Code Division Multiple Access)方式によって変調された1.57542[GHz]の通信信号である。C/Aコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音符号であり、各GPS衛星に固有のコードである。
GPS衛星がGPS衛星信号を発信する際の周波数(規定キャリア周波数)は、1.57542[GHz]と予め定められているが、GPS衛星及びGPS受信機の移動により生ずるドップラーの影響等により、GPS受信機がGPS衛星信号を受信する際の周波数は、必ずしも規定キャリア周波数とは一致しない。そのため、GPS受信機は、GPS衛星信号の受信信号と装置内部で発生させた擬似的なC/AコードであるレプリカC/Aコードとの相関演算を、周波数方向及び位相方向のそれぞれについて行うことで、受信信号の中からGPS衛星信号を捕捉する。
周波数方向の相関演算は、受信したキャリア(搬送波)の信号である受信キャリア信号の周波数(以下、「受信周波数」と称す。)を特定するための演算(いわゆる周波数サーチ)である。また、位相方向の相関演算は、受信キャリア信号に含まれるC/Aコードである受信C/Aコードの位相(以下、「コード位相」と称す。)を特定するための演算(いわゆる位相サーチ)である。すなわち、GPS受信機は、キャリアを除去するためのキャリア除去用信号の周波数及びレプリカC/Aコードの位相を変化させながら、受信信号とレプリカC/Aコードとの相関演算を行う。そして、得られた相関値のピークを検出することで、受信周波数及びコード位相を特定する。
ところで、GPS衛星は常にその位置が変化しており、GPS衛星とGPS受信機との位置関係は常に変化している。キャリア除去用信号は受信キャリア信号の周波数と同一の周波数でなるが、受信キャリア信号の周波数はドップラー等の影響により変動する。また、GPS衛星とGPS受信機との間の距離が変化することで、コード位相も変動する。そのため、GPS受信機は、捕捉したGPS衛星信号を追尾(Tracking)する必要がある。
図1〜図3は、相関値が最大(ピーク)となる位相(以下、「ピーク位相」と称す。)の検出の説明図である。図1〜図3では、横軸をコード位相、縦軸を相関値として、C/Aコードの自己相関値の一例を示している。なお、以下の説明では、相関値というときは、相関値の大きさ(絶対値)を意味するものとする。
C/Aコードの自己相関値は、例えばピーク値を頂点とする左右対称の略三角形の形状で表される。つまり、ピーク位相から同じ量だけ位相が遅れた位相での相関値と進んだ位相での相関値とは等しくなる。そのため、現在追跡しているコード位相(以下、「Punctual位相」と称す。)に対して、一定量だけ進んだ位相(以下、「Early位相」と称す。)における相関値と、一定量だけ遅れた位相(以下、「Late位相」と称す。)における相関値とを用いれば、コード位相を特定できる。つまり、Late位相の相関値(以下、「Late相関値」と称す。)Plと、Early位相の相関値(以下、「Early相関値」と称す。)Peとが等しくなる位相をサーチすることで、Punctual位相を検出する(図2及び図3)。なお、一定量は、例えば“1/3チップ”とすることができる。
ところで、マルチパス環境では、GPS衛星から送信されるGPS衛星信号である直接波信号に、建物や地面等に反射した反射波や障害物を透過した透過波、障害物を回折した回折波等の間接波信号が重畳した信号(マルチパス信号)をGPS受信機が受信する。
図4は、マルチパス信号に対する相関結果の一例を示す図であり、直接波信号と、間接波信号と、この直接波信号と間接波信号とを合成した合成波信号(マルチパス信号)とのそれぞれの相関値のグラフの一例である。図4において、横軸はコード位相、縦軸は相関値を示す。間接波信号に対する相関値は、直接波信号に対する相関値と同様に略三角形の形状をなすが、間接波信号の相関値のピーク値(相関ピーク値)の大きさは、直接波信号の相関ピーク値よりも小さい。これは、GPS衛星から送出されたGPS衛星信号が、建物や地面に反射したり障害物を透過すること等によって、送出された時点における信号強度が、受信時には弱められていることによるものである。
また、間接波信号のピーク位相は、直接波信号のピーク位相よりも遅れている。これは、GPS衛星から送出されたGPS衛星信号が、建物や地面に反射したり、障害物を回折するなどによって、GPS衛星からGPS受信機までの伝播距離が長くなることによるものである。そして、マルチパス信号に対する相関値は、直接波信号の相関値と間接波信号の相関値との和となるため、三角形状が歪んでピーク値を中心とした左右対称とはならない。このため、図5に示すように、マルチパス信号におけるPunctual位相はピーク位相に一致しない。
本実施形態では、上記のピーク位相とPunctual位相との位相差のことを「コード位相誤差」と定義し、“ERR”と表記する。また、Punctual位相がピーク位相よりも遅れている場合のコード位相誤差の符号を「正」と定義し、Punctual位相がピーク位相よりも進んでいる場合のコード位相誤差の符号を「負」と定義する。コード位相誤差の正負は、直接波信号の位相と間接波信号の位相との位相差に起因する直接波信号と間接波信号との干渉の種類に応じて変化する。干渉の種類は、直接波信号及び間接波信号が強め合う状態である「増加的干渉」と、直接波信号及び間接波信号が弱め合う状態である「減殺的干渉」との2種類である。
図6及び図7は、それぞれ直接波信号と間接波信号とが同相及び逆相である場合の相関結果の一例を示す図である。ここでは、間接波信号の位相を“θ”として説明する。間接波信号が直接波信号と同位相でGPS受信機に到達した場合には(0≦θ≦π)、直接波信号と間接波信号とは互いに強め合う。そのため、図6に示すように、合成波信号の相関値は、直接波信号に対する相関値と間接波信号に対する相関値との合算値として表される。この場合は、Punctual位相がピーク位相に対して遅れ位相となるため、コード位相誤差ERRは正の値となる。
一方、間接波信号が直接波信号と逆位相でGPS受信機に到達した場合には(π<θ<2π)、直接波信号と間接波信号とは互いに弱め合う。そのため、図7に示すように、合成波信号の相関値は、直接波信号に対する相関値から間接波信号に対する相関値を減じた減算値として表される。この場合は、Punctual位相がピーク位相に対して進み位相となるため、コード位相誤差ERRは負の値となる。なお、間接波信号の相関値が直接波信号の相関値よりも大きい場合には相関値の減算値は負の値となるが、絶対値を計算しているために正の値として図示されている。
本実施形態では、マルチパス信号に対する上記の相関値の特性を考慮し、「PE値」と「ベクトル角θ」と呼ぶ2種類の指標値を用いてマルチパス信号の判定を行う。
図8は、PE値の算出方法の説明図であり、受信信号に対する相関結果の一例を示している。同図において、Punctual相関値Pp、Punctual位相から1チップ以上進んだ位相での相関値Pn、Punctual位相からNチップだけ進んだ位相での相関値Paから、次式(1)に従ってPE値を算出する。
PE=(Pp−Pn)/(Pa−Pn) ・・・(1)
但し、“N”は“0<N<1”を満たす値であり、例えば図8に示すように、“N=2/3”とすることができる。PE値は、相関値Pnに対するPunctual相関値Ppと、相関値Pnに対する相関値Paとの比率を表す。相関値Pnは、Punctual位相から1チップ以上離れた位相の相関値であるため、ノイズフロア(ノイズとみなす信号の相関値)に対する相関値であると言える。
本願発明者が実験を行った結果、このPE値とコード位相誤差ERRとの間には次のような関係があることが分かった。図9は、マルチパスの影響が“無し”の状態から“有り”の状態に変化させた場合の、受信信号のPE値とコード位相誤差ERRとの関係を示す図である。図9では、横軸を共通の時間軸として、実線がPE値の時間変化を示し、破線がコード位相誤差ERRの時間変化を示す。
マルチパスの影響が“無し”の状態では、GPS受信機における受信信号は直接波信号のみでなる。この場合、コード位相誤差ERRはほぼゼロであり、PE値は一定値である。これは、直接波信号の相関値のカーブの形状が時間経過によって変化しないためである。このマルチパスの影響が“無し”の状態、すなわち間接波信号が存在しない場合のPE値のことを「PEオフセット値」と定義し、“PEoffset”と表記する。PEオフセット値“PEoffset”は、後に「ΔPE値」と呼ぶ指標値を算出するために用いられる。
GPS衛星信号のPRNコードに応じて相関値の三角形の傾斜の程度が異なるため、PEオフセット値は、GPS衛星毎に異なる。また、GPS衛星信号の信号強度に応じて相関値の三角形の高さが異なるため、PEオフセット値“PEoffset”は、GPS衛星信号の信号強度に応じても変化する。従って、PEオフセット値“PEoffset”は、GPS衛星の番号(PRN番号)、及び、GPS衛星信号の信号強度に依存する値であると言える。
一方、マルチパスの影響が“有り”の状態では、受信信号は、直接波信号に間接波信号が重畳されたマルチパス信号となる。この場合、コード位相誤差ERR及びPE値は、ともに時間経過に伴って変動する。これは、GPS衛星やGPS受信機が移動することによりGPS衛星信号とGPS受信機との相対的な位置関係が変化し、間接波信号が変動することで、マルチパス信号のカーブの相関値の形状が変化するためである。つまり、図8における相関値Pp,Paが変化するためである。このPE値の変動はsin波で近似可能であり、その振幅は、直接波信号と間接波信号との信号強度関係やキャリア周波数の差によって決まる。
図9から、PE値とコード位相誤差ERRとはほぼ同様な時間変動をすることがわかる。つまり、コード位相誤差ERRが増加するとPE値も増加し、逆に、コード位相誤差ERRが減少するとPE値も減少する。前述したように、直接波信号と間接波信号との干渉の種類が増加的干渉であれば、コード位相誤差ERRは正の値となり、減殺的干渉であれば、コード位相誤差ERRが負の値となる。従って、増加的干渉であればPE値は増加する方向に変化し、減殺的干渉であればPE値は減少する方向に変化する。
次に、「ベクトル角θ」を定義する。ベクトル角θは、次のように定義される。図10及び図11は、直接波信号の相関結果の一例を示す図である。図10は、直接波信号のコード位相に対する相関値のグラフを示し、図11は、図10における各コード位相の相関値Pを、横軸を相関値のQ成分(直交成分)、縦軸を相関値のI成分(同相成分)とするIQ座標平面にプロットした図である。但し、相関値“P=(I2+Q2)1/2”である。
図11を見ると、直接波信号の相関値Pは、IQ座標平面において、原点Oを通る略直線状に分布している。すなわち、コード位相CP0,CP4の相関値P0,P4は、I成分及びQ成分がともにゼロであり、IQ座標平面では原点Oにプロットされる。また、コード位相CP1〜CP3の相関値P1〜P3は、I成分及びQ成分がともにゼロでないため、原点Oから離れた位置にプロットされ、特に、相関値Pが最大となるコード位相(ピーク位相)CP2の相関値P2は、原点Oから最も遠い位置にプロットされる。
つまり、ピーク位相CP2から1チップ以上進んだ位相CP0から、ピーク位相CP2から1チップ以上遅れた位相CP4までの相関値Pは、IQ座標平面において、原点Oから離れるように移動し、ピーク位相で最も遠い位置に到達した後、再度、原点Oに戻るような略直線状の軌跡を描く。なお、この相関値Pが描く略直線状の軌跡は、同図ではQ軸に対して約45度の角度を成すこととしているが、直接波信号の搬送波の位相やIQ座標系のとり方等に応じて異なるものとなる。
図12及び図13は、図4及び図5に示した直接波信号に間接波信号を合成したマルチパス信号の相関結果である。図12は、マルチパス信号のコード位相に対する相関値のグラフを示し、図13は、図12における各コード位相の相関値をIQ座標平面にプロットした図である。
図13によれば、マルチパス信号の相関値Pは、IQ座標平面において閉曲線の軌跡を描くように分布する。すなわち、コード位相CP0は、相関値P0のI成分及びQ成分がともにゼロであり、IQ座標平面の原点Oにプロットされる。また、コード位相CP1〜CP4の相関値P1〜P4は、I成分及びQ成分がともにゼロでないため、原点Oから離れた位置にプロットされ、特に、ピーク位相CP2の相関値P2は、原点Oから最も遠い位置にプロットされる。つまり、マルチパス信号の相関値Pは、原点Oから離れるように移動し、ピーク位相で最も遠い位置に達した後、再度、原点Oに戻るような閉曲線の軌跡を描く。
また、マルチパス信号の相関値Pのうち、Early,Late相関値PのそれぞれをIQ座標平面にプロットすると、図14及び図15に示すようになる。図14は、マルチパス信号に対する相関値を示し、図15は、図14における各コード位相の相関値をIQ座標平面にプロットした図である。
図15において、原点OからEarly相関値Peの位置に向う位置ベクトルを「Early相関ベクトル」とし、Late相関値Plの位置に向う位置ベクトルを「Late相関ベクトル」とする。そして、このEarly相関ベクトルとLate相関ベクトルとの成す角度θを「ベクトル角」と定義する。なお、相関値Pl,Peは等しいため、IQ座標平面におけるEarly相関ベクトル及びLate相関ベクトルの大きさは等しい。
図16は、マルチパスの影響が“有り”の状態から“無し”の状態に変化させた場合の、ベクトル角θとコード位相誤差ERRとの関係を示す図である。図16では、横軸を共通の時刻として、実線がベクトル角θの時間変化を示し、破線がコード位相誤差ERRの時間変化を示す。
マルチパスの影響が“無し”の状態では、受信信号は直接波信号のみとなる。この場合、コード位相誤差ERRはゼロであり、ベクトル角θは一定値(理論上ではゼロ)となる。これは、図11に示したように、直接波信号の相関値Pは、IQ座標平面において、略直線状の軌跡を描くように分布するためである。なお、理論上では、直接波信号に対するEarly相関値とLate相関値とは等しいためにベクトル角θはゼロであるが、実際には、所定の位相幅で位相をずらしながら相関演算を行うことから、ハードウェアの性能に応じて決まる一定値となる。
一方、マルチパスの影響が“有り”の状態では、受信信号はマルチパス信号となり、コード位相誤差ERR及びベクトル角θは、ともに時間経過に従って変動する。このベクトル角θの変化は、sin波で近似可能であり、その振幅は、直接波信号と間接波信号との信号強度の関係や、搬送波周波数の差によって決まる。また、マルチパスの影響が“有り”の状態では、ベクトル角θとコード位相誤差ERRとの間には、コード位相誤差ERRが大きくなるほど、ベクトル角θは、マルチパスの影響が“無し”の状態(ゼロに近い一定値)に近づき、逆に、コード位相誤差ERRが小さくなるほど、ベクトル角θは大きくなるように変化する。
このようなPE値及びベクトル角θそれぞれとコード位相誤差ERRとの関係に基づいて、受信信号がマルチパス信号であるか否かを次のように判定する。すなわち、図17に示すように、PE値及びベクトル角θに対して判定範囲を定める。図17は、マルチパスの影響が“無し”の状態から“有り”の状態に変化させた場合の、コード位相誤差ERR、PE値及びベクトル角θそれぞれの時間変化を示す図であり、横軸を共通の時間軸として、破線がコード位相誤差ERRの時間変化を示し、実線がPE値の時間変化を示し、一点鎖線がベクトル角θの時間変化を示す。
図17に示すように、PE値に対する判定範囲B,Cを定める。この判定範囲B,Cは中心値が共通な範囲であり、この中心値は、受信信号が直接波信号のみでなる場合のPE値(すなわち、直接波信号に含まれるC/Aコードに応じた所定値)に等しい。また、判定範囲Cの幅は、判定範囲Bの幅より大きく定められている。
ところで、直接波信号に対するPE値は、当該直接波信号に含まれるGPS衛星信号のC/Aコードに応じて異なる。このため、判定範囲B,Cの中心値は、捕捉対象のGPS衛星に応じて異なる値となる。また、ベクトル角θに対する判定範囲Aを定める。この判定範囲Aの中心値は、受信信号が直接波信号でなる場合のベクトル角θの値に等しい。
そして、「条件A:PE値が判定範囲B外であり、且つ、ベクトル角θが判定範囲A外である」或いは「条件B:PE値が判定範囲C外である」の少なくとも一方の条件を満たすならば、受信信号はマルチパス信号であると判断し、何れも満たさないならば、マルチパス信号でないと判断する。これは、次の理由による。
マルチパスの影響が“無し”の状態では、PE値は、捕捉対象衛星に応じた一定値となり、また、ベクトル角θは一定値(理論上は、ゼロ)となる。つまり、「条件A」及び「条件B」がともに満たされず、マルチパス信号でないと判定される。
一方、マルチパスの影響が“有り”の状態では、PE値はコード位相誤差ERRに略一致した変化をする。また、ベクトル角θの絶対値は、コード位相誤差ERRの絶対値が大きくなるに従って小さくなるとともに、コード位相誤差ERRの絶対値が小さくなるに従って大きくなるように変化する。つまり、コード位相誤差ERRとベクトル角θとの関係から、マルチパス信号であっても「条件A」が満たされない場合がある。例えば、図17において、時刻t1,t3,t5のそれぞれの付近の期間は、「条件A」が満たされないが、コード位相誤差ERRの絶対値が大きい期間である。このため、「条件B」によって、ベクトル角θの値に関わらず、PE値がある程度大きい場合にはマルチパス信号であると判定する。
1−2.受信信号の信頼度判定
次に、受信信号の信頼度判定方法について説明する。「受信信号の信頼度」とは、GPS衛星信号の受信信号を位置算出に使用することが許容される程度のことを意味する。つまり、受信信号の信頼度が高いほど、当該受信信号を位置算出に使用することが許容される程度が高いということである。
コード位相誤差ERRの変化の幅(変化の振幅)が小さいほど、コード位相誤差の補正によって真のコード位相に近づけることが容易であると言えるため、受信信号の信頼度は高いと言える。本実施形態では、マルチパス信号に含まれる間接波の直接波に対する遅延距離の指標値として「ΔPL値」と呼ぶ指標値を定義し、このΔPL値を用いて受信信号の信頼度を判定する。ΔPL値は、PL値と呼ぶ指標値を用いて算出する。以下、「ΔPL値」の算出方法について説明する。
(1)ΔPL値の算出
図18は、PL値の算出方法の説明図であり、受信信号に対する相関結果の一例を示している。図18において、Punctual相関値Ppと、Punctual位相からMチップ遅れた位相での相関値Pbとを用いて、次式(2)に従ってPL値を算出する。
PL=Pb/Pp ・・・(2)
但し、“M”は“1≦M<2”を満たす値であり、例えば図18に示すように、“M=1.4”とすることができる。つまり、PL値は、Punctual位相から所定位相遅れた位相における相関値Pbと、Punctual相関値Ppとの比率を示す。
本願発明者が実験を行った結果、Punctual位相からの遅れが1チップ未満である位相や2チップ以上遅れた位相と比べると、1チップ以上2チップ未満遅れた位相において間接波信号の影響が大きく現れ、相関値の絶対値が大きくなる傾向があることが分かった。そのため、本実施形態では、所定位相として“1チップ以上2チップ未満”遅れた位相(1≦M<2)の相関値を用いてPL値を算出することとする。
図19〜図22は、PL値が示す意味を説明するための図である。図19は、GPS衛星から発信されたGPS衛星信号が建物に反射してGPS受信機に到達することで、GPS衛星信号を受信した信号がマルチパス信号となる場合を示している。最初に、直接波信号と間接波信号とが強め合う増加的干渉の場合に着目して説明する。図19では、マルチパス信号に含まれる間接波信号の直接波信号に対する遅延距離を「ΔL1」として説明する。
図20は、図19のマルチパス信号に対する相関結果の一例を示す図であり、直接波信号と、間接波信号と、合成波信号とのそれぞれの相関値のグラフを示している。図20において、Punctual相関値Pp1と、Punctual位相からM(=1.4)チップ遅れた位相における相関値Pb1とを用いてPL値を算出すると、PL1=Pb1/Pp1となる。
図21は、図19と同様に、GPS衛星から発信されたGPS衛星信号が建物に反射してGPS受信機に到達することで、GPS衛星信号の受信信号がマルチパス信号となる場合を示している。ここでも、直接波信号と間接波信号とが強め合う増加的干渉の場合に着目して説明する。図21では、図19と比べて、GPS衛星から発信されたGPS衛星信号が建物に反射してGPS受信機に到達するまでの時間(伝搬時間)が長くなっている。これにより、遅延距離「ΔL2」が、図19の遅延距離「ΔL1」と比べて長くなっている(ΔL2>ΔL1)。
図22は、図21のマルチパス信号に対する相関結果を示す図であり、直接波信号と、間接波信号と、合成波信号とのそれぞれの相関値のグラフを示している。図22では、Punctual相関値Pp2と、Punctual位相からM(=1.4)チップ遅れた位相における相関値Pb2とを用いてPL値を算出すると、PL2=Pb2/Pp2となる。
間接波信号のピーク位相は、直接波信号のピーク位相よりも遅れる。また、ΔL2>ΔL1であるため、図22における間接波信号のピーク位相の遅れは、図20における間接波信号のピーク位相の遅れよりも大きい。そのため、図22では、Punctual位相からM(=1.4)チップ離れた位相における間接波信号の影響が、図20の場合と比べて大きくなっており、相関値Pb2の大きさは、相関値Pb1よりも大きくなる。
これにより、Pp1に対するPb1の割合と、Pp2に対するPb2の割合とを比較すると、Pp2に対するPb2の割合の方が大きくなる。つまり、式(2)のPL値の定義式より、PL2>PL1となる。従って、ΔL2>ΔL1であればPL2>PL1となり、遅延距離ΔLが大きいほどPL値は大きくなる関係が成立する。つまり、遅延距離ΔLとPL値との間には正の相関があることが予想される。
上記の相関関係を証明するために、干渉の種類が増加的干渉である場合と減殺的干渉である場合とのそれぞれについて、遅延距離ΔLとPL値との関係を考察してみた。図23が、干渉の種類が増加的干渉である場合の考察結果であり、図24が、干渉の種類が減殺的干渉である場合の考察結果である。それぞれの場合について、遅延距離をΔL1〜ΔL4まで徐々に長くしていき、各遅延距離ΔLにおける相関値のグラフを描いてみた。各図において、(1)は遅延距離ΔL1の場合を示し、(2)は遅延距離ΔL2の場合を示し、(3)は遅延距離ΔL3の場合を示し、(4)は遅延距離ΔL4の場合を示す。なお、図23及び図24における遅延距離ΔL(ΔL1〜ΔL4)と、図19〜図22における遅延距離ΔL(ΔL1及びΔL2)とは、図示上無関係である。
干渉の種類が増加的干渉である場合は、直接波信号と間接波信号とは強め合う関係となる。従って、図23に示すように、合成波信号の相関値は、直接波信号の相関値と間接波信号の相関値との和として表される。遅延距離ΔLが長くなるにつれて、Punctual位相からM(=1.4)チップ遅れた位相における間接波信号の影響が大きくなることがわかる。具体的には、最初はほぼゼロであった相関値Pbが、遅延距離ΔLが長くなるにつれて、間接波信号に対する相関値の山を頂点に向かって登り始める。これにより、Punctual相関値Ppに対する相関値Pbの割合が徐々に増加し、PL値は増加していく。従って、増加的干渉の場合は、遅延距離ΔLとPL値とは正の相関を有することがわかる。
次に、干渉の種類が減殺的干渉である場合は、直接波信号と間接波信号とは弱め合う関係となる。従って、図24に示すように、合成波信号の相関値は、直接波信号の相関値と間接波信号の相関値との差分として表される。減殺的干渉の場合も、遅延距離ΔLが長くなるにつれて、相関値Pbが間接波信号に対する相関値の山を頂点に向かって登り始め、Punctual相関値Ppに対する相関値Pbの割合が徐々に増加し、PL値は増加していく。従って、減殺的干渉の場合も、遅延距離ΔLとPL値とは正の相関を有することがわかる。
次に、PL値とコード位相誤差ERRとの関係について説明する。図25は、マルチパスの影響が“無し”の状態から“有り”の状態に変化させてシミュレーション実験を行った場合の、受信信号のPL値とコード位相誤差ERRとの関係を示す図である。図25では、横軸を共通の時間軸として、実線がPL値の時間変化を示し、破線がコード位相誤差ERRの時間変化を示す。
この図を見ると、マルチパスの影響が“無し”の状態では、GPS受信機における受信信号は直接波信号のみでなる。この場合、コード位相誤差ERRはほぼゼロであり、PL値もゼロに近い所定値となる。これは、図18に示したように、受信信号が直接波信号のみでなる場合はPunctual位相から1チップ以上離れた位相での相関値はほぼゼロであり、式(2)のPL値の定義式において“Pb≒0”となるためである。このマルチパスの影響が“無し”の状態、すなわち間接波信号が存在しない場合のPL値のことを「PLオフセット値」と定義し、“PLoffset”と表記する。このPLオフセット値“PLoffset”は、後に「ΔPL値」と呼ぶ指標値を算出するために用いられる。
GPS衛星信号のPRNコードに応じて相関値の三角形の傾斜の程度が異なるため、PLオフセット値は、GPS衛星毎に異なる。また、GPS衛星信号の信号強度に応じて相関値の三角形の高さが異なるため、PLオフセット値“PLoffset”は、GPS衛星信号の信号強度に応じても変化する。すなわち、PLオフセット値“PLoffset”は、GPS衛星の番号(PRN番号)、及び、GPS衛星信号の信号強度に依存する値である。
一方、マルチパスの影響が“有り”の状態では、受信信号は、直接波信号に間接波信号が重畳されたマルチパス信号となる。この場合、コード位相誤差ERR及びPL値は、ともに時間経過に伴って変動する。PL値の変動はsin波で近似可能であり、その振幅は、直接波信号と間接波信号との信号強度や搬送距離の差によって決まる。
また、図25から、PL値とコード位相誤差ERRとは、ほぼ逆の時間変動をすることがわかる。つまり、コード位相誤差ERRが増加するとPL値は減少し、逆に、コード位相誤差ERRが減少するとPL値は増加する。前述したように、直接波信号と間接波信号との干渉の種類が増加的干渉である場合は、コード位相誤差ERRは正の値となり、減殺的干渉である場合は、コード位相誤差ERRは負の値となる。また、式(2)より、PL値はゼロ以上の値として算出される(PL≧0)。そして、増加的干渉の場合は、PL値は減少する方向に変化し、減殺的干渉の場合は、PL値は増加する方向に変化する。
このように、PL値は、直接波信号と間接波信号の干渉の種類(増加的干渉/減殺的干渉)によって増減の方向が変化する。その一方で、受信信号の信号強度は時々刻々と変化しており、PL値は、直接波信号と間接波信号の信号強度関係によって増減の大きさ(総体的な大きさ)が変化する。このため、PL値の変化を観測したとしても、その変化が、直接波信号と間接波信号の干渉の種類の違いに起因するものであるのか、信号強度の変化に起因するものであるのかを区別することができない。
そこで、本実施形態では、PL値からPLオフセット値“PLoffset”を減算した値を「ΔPL値」と定義し、このΔPL値を用いて受信信号の信頼度判定を行う。すなわち、「ΔPL=PL−PLoffset」の算出式に従ってΔPL値を算出する。図25のPL値の増減変化において、PL値が増加する方向に変化してPLオフセット値“PLoffset”よりも大きくなると(PL>PLoffset)、ΔPL値は正の値となる(ΔPL>0)。それに対して、PL値が減少する方向に変化してPLオフセット値“PLoffset”よりも小さくなると(PL<PLoffset)、ΔPL値は負の値となる(ΔPL<0)。ΔPL値は、マルチパス信号に含まれる間接波の直接波に対する遅延距離の指標値の一種である。
(2)信頼度判定
遅延距離ΔLが長くなるほど、ΔPL値の総体的な大きさは大きくなる傾向がある。また、遅延距離ΔLとコード位相誤差ERRとの関係に着目すると、遅延距離ΔLが長くなるほど、コード位相誤差ERRの変化の振幅は小さくなる傾向がある。このことから、ΔPL値の総体的な大きさが大きくなるほど、コード位相誤差ERRの変化の振幅は小さくなると言える。コード位相誤差ERRの変化の振幅が小さいということは、コード位相を真値に近づけやすいということである。よって、ΔPL値が総体的に大きな値であるほど、コード位相誤差ERRの変化の振幅が小さく、受信信号の信頼度は高くなると言える。
そこで、本実施形態では、ΔPL値に対する閾値判定を行い、受信信号の信頼度を「高」と「低」の何れかに分類する。すなわち、ΔPL値が所定の信頼度判定用閾値以上(又は信頼度判定用閾値超)であるか、信頼度判定用閾値未満(又は信頼度判定用閾値以下)であるかを判定する。そして、前者の場合は受信信号の信頼度を「高」と判定し、後者の場合は受信信号の信頼度を「低」と判定する。
図26は、ΔPL値の変化傾向を計測した実験結果の一例を示すグラフである。ある1つのGPS衛星に着目し、遅延距離ΔLを“0.1〜1.0チップ”まで0.1チップ刻みで変化させて、各々の遅延距離ΔLにおけるΔPL値を調べる実験を行った。ここでは、直接波信号と間接波信号との位相差を“0°〜360°”まで10秒で一周するように変化させた場合のΔPL値の時間変化をプロットした。図26において、横軸は位相差(時間)を示し、縦軸はΔPL値を示す。
図26を見ると、ΔPL値は位相差に応じて上下に振動しており、遅延距離ΔLに関わらず、増減の変化傾向は同じであることがわかる。特徴的であるのは、ΔPL値が、全体的にバイアスがかかったような値となっていることである。遅延距離ΔLが長くなるほど、ΔPL値の値は総体的に大きくなる傾向がある。
図27は、GPS衛星毎にΔPL値の変化傾向を計測した実験結果の一例を示すグラフである。遅延距離ΔLを固定して、GPS衛星毎のΔPL値の変化傾向を調べる実験を行った。この実験では、PRN番号“17”、“26”、“28”の3つのGPS衛星を抽出してΔPL値を調べた。この実験でも、直接波信号と間接波信号との位相差を“0°〜360°”まで10秒で一周するように変化させた場合のΔPL値の時間変化をプロットした。図27において、横軸は位相差(時間)を示し、縦軸はΔPL値を示す。
この図を見ると、ΔPL値の増減の変化傾向は、GPS衛星に関わらず同じであることがわかる。しかし、GPS衛星に応じて、ΔPL値の増減変化の振幅が異なっていることもわかる。つまり、ΔPL値の増減のタイミングは各GPS衛星についてほぼ同じであるが、その増減変化の振幅は衛星毎に異なっている。そこで、全てのGPS衛星についてΔPL値の増減変化を調べる実験を行ったところ、ΔPL値の増減変化の振幅が、大きく3つのグループに分類可能であることがわかった。
図28〜図30は、各GPS衛星について計測したΔPL値を、その増減変化の振幅に応じてグループ分けした結果を示す図である。ΔPL値の振幅が大きい衛星グループを「第1の衛星グループ(ΔPL値の振幅 大)」、ΔPL値の振幅が中程度の衛星グループを「第2の衛星グループ(ΔPL値の振幅 中)」、ΔPL値の振幅が小さい衛星グループを「第3の衛星グループ(ΔPL値の振幅 小)」とし、それぞれの衛星グループの結果を図28〜図30に示す。これらの図において、横軸は位相差(時間)を示し、縦軸はΔPL値を示す。
これらの図を見ると、ΔPL値の最大値から最小値までの増減変化の幅(振幅の2倍)は、図28の第1の衛星グループではおよそ“35”となっている。また、図29の第2の衛星グループではおよそ“25〜35”となっており、図30の第3の衛星グループではおよそ“20以下”となっている。この結果から、衛星グループ間でΔPL値の増減変化の振幅が異なることがわかる。本願発明者は、このような結果が得られた理由を考察した。
C/AコードはGPS衛星(PRN番号)毎に固有のコードである。つまり、C/Aコードは1023チップでなるが、各チップの値(以下、「チップ値」と称す。)の変化パターンは、GPS衛星(PRN番号)毎に異なる。本願発明者は、この各C/Aコードのチップ値の変化パターンが、ΔPL値の増減変化の振幅と関連しているのではないかと推測した。そこで、C/Aコードのチップ値の変化パターンを調べてみた。
図31は、C/Aコードのチップ値の変化パターンを調べた実験結果の一例を示す図である。図31において、横軸は“1〜32”までのPRN番号を示す。また、縦軸は当該PRN番号のC/Aコードについて、同じチップ値が3回以上連続した回数(以下、単に「連続回数」と称す。)“S”を示す。このグラフを見ると、連続回数“S”はPRN番号毎に異なるものの、大きくは、“S>255”のグループと、“S=254又は255”のグループと、“S<254”のグループとに分類可能であることがわかる。
具体的には、PRN番号{7,10,15,17,18,21,24,30}は“S>255”のグループに属し、PRN番号{1,2,3,5,9,11,12,13,14,20,23,25,26,27,29,31,32}は“S=254又は255”のグループに属し、PRN番号{4,6,8,16,19,22,28}は“S<254”のグループに属する。この連続回数に応じて分類した3つのグループと、図28〜図30に示した第1〜第3の衛星グループとを比較すると、PRN番号“8”及び“24”を除いて同じ分類となっていることがわかる。このことから、C/Aコードの同じチップ値の連続回数とΔPL値の増減変化の振幅との間には関連性があることが予想される。
図32は、上記の関連性についての考察結果の説明図である。本願発明者は、C/Aコードの同じチップ値の連続回数が、受信C/AコードとレプリカC/Aコードとの相関演算に効いてくるものと考え、以下の結論を得た。図32では、受信C/AコードとPRN番号及びコード位相がぴったり一致したレプリカC/Aコードとの相関演算を行う場合について説明する。最上段にレプリカC/Aコードを示し、2段目に受信C/Aコードを示す。
GPS受信機がGPS衛星信号の信号処理を行う際には、受信回路内の前段部分において受信信号をフィルターに通過させて、高域の周波数の信号を減衰させることが一般的である。このフィルターの作用により、受信C/Aコードの形状は最上段のレプリカC/Aコードのような理想的なパルス波形とはならず、2段目に示すような角が取れた鈍った形状となる。この場合、受信C/AコードとレプリカC/Aコードとの相関演算を行うと、相関のロスが発生する。
相関演算を行う際には、例えば図33に示すように、受信C/Aコード及びレプリカC/Aコードを、それぞれC/Aコードのチップ周期の1/n(nは2以上の整数)のサンプリング間隔でサンプリングする。つまり、C/Aコードのコード長1023チップを、1チップの1/nの間隔(1/nチップ間隔)でサンプリングする。図33では、サンプルタイミングを下向きの矢印で示している。そして、各サンプルタイミングについて、受信C/Aコードのサンプリング値とレプリカC/Aコードのサンプリング値とを乗算し、これらの乗算結果を合算することで、相関値を算出する。
受信C/Aコードの位相とレプリカC/Aコードの位相とがぴったり一致していれば、受信C/Aコードのサンプリング値(1又は−1)と、レプリカC/Aコードのサンプリング値(1又は−1)との乗算により、各サンプルタイミングにおける乗算結果は“1=1×1又は(−1)×(−1)”となるはずである。しかし、受信C/Aコードの形状が鈍っているために、鈍った部分のサンプルタイミングにおいて乗算結果が“1”とはならない場合がある。このような相関のロスにより、最終的に得られる相関値は理想値よりも小さくなり得る。
相関のロスは、チップ値が“0”から“1”に立ち上がる部分と、“1”から“0”に立ち下がる部分とにおいて生ずる。この場合、同じチップ値の連続回数“S”が多ければ、それだけ相関のロスは少なくなる。例えば、図32において、連続回数“1回”のチップ部分では、当該チップの両側部分において相関のロスが生ずるため、当該チップ部分における相関のロスは大きくなる。それに対して、連続回数“2回”のチップ部分では、連続する2チップの両側部分で相関のロスは生ずるものの、中心部分では相関のロスは生じない。さらに、連続回数“3回”のチップ部分では、連続する3チップのうちの真ん中のチップでは相関のロスは全く生じない。
図34は、上記の相関のロスと相関値の形状との関係を示す図である。相関のロスが多くなると、最終的に得られる相関値はそれだけ小さくなる。そのため、相関のロスが少ない場合と比べて、相関のロスが多い場合は、相関ピーク値は小さくなる。また、相関のロスが多い場合は、各サンプルタイミングにおいて乗算結果が正確に求まらないことに加えて、位相ずれの許容量が大きくなる。つまり、レプリカC/Aコードの位相が受信C/Aコードの位相と多少ずれていても、ある程度広範なサンプルタイミングにおいて乗算結果が値を持ってしまう場合がある。その結果、相関ピークの山の幅(ピーク位相を中心とするコード位相幅)は、相関のロスが多いほど広くなる傾向がある。
PL値は、Punctual位相から所定位相遅れた位相における相関値Pbと、Punctual相関値Ppとの比率である。そのため、Punctual相関値Ppが小さく、相関値Pbが大きいほど、PL値は大きくなる。相関のロスが多いほど、Punctual相関値Ppは小さくなり、相関値Pbが大きくなるため、PL値は大きくなる。従って、相関のロスが少ない場合と比べて、相関のロスが多い場合の方がPL値は相対的に大きくなると考えられる。
PL値が大きくなると、ΔPL値も大きくなる傾向がある。そのため、相関のロスが多いほど、ΔPL値は大きくなる傾向がある。ΔPL値は直接波信号と間接波信号との位相差によって変動するが、相関のロスが多いほどΔPL値の最大値が高くなり、ΔPL値の増減変化の振幅も大きくなると考えられる。先に述べたように、相関のロスが多くなるのは、C/Aコードの同じチップ値の連続回数が少ない場合である。よって、C/Aコードの同じチップ値の連続回数が少ない衛星グループほどΔPL値の変化の振幅は大きくなり、同じチップ値の連続回数が多い衛星グループほどΔPL値の変化の振幅は小さくなると考えられる。
ここまで衛星グループとΔPL値の増減変化の振幅との関係性について考察した。このように衛星グループ毎にΔPL値の振幅が異なるため、ΔPL値を衛星グループ間で区別(差別化)するためには、信頼度判定用閾値を衛星グループ毎に設定する必要がある。信頼度判定用閾値は、各衛星グループについて観測されたΔPL値の増減変化の振幅に基づいて、適切な値を選択・設定すればよい。
また、ΔPL値は増減変化するため、ΔPL値が増加する方向に変化する場合と、減少する方向に変化する場合とで、異なる閾値を設定することが適切である。例えば、ΔPL値の最大値と最小値に着目して考えると分かり易い。同じ位相差で考えた場合に、衛星グループ間でΔPL値の最大値同士を区別するためには、ΔPL値の振幅が大きい衛星グループほど閾値を大きく設定することが必要となる。それに対して、同じ位相差で考えた場合に、衛星グループ間でΔPL値の最小値同士を区別するためには、ΔPL値の振幅が大きい衛星グループほど閾値を小さく設定することが必要となる。
そこで、本実施形態では、直接波信号と間接波信号との干渉の種類に応じて、ΔPL値に対する閾値条件を変更する。干渉の種類に応じてΔPL値の増減の方向が変化するためである。干渉の種類が増加的干渉である場合は、ΔPL値は減少する方向に変化する。それに対して、干渉の種類が減殺的干渉である場合は、ΔPL値は増加する方向に変化する。
本実施形態では、直接波信号と間接波信号との干渉の種類を、式(1)のPE値からPEオフセット値を減算した「ΔPE値」と呼ぶ指標値を用いて検出する。すなわち、「ΔPE=PE−PEoffset」の算出式に従ってΔPE値を算出する。ここでは図示及び詳細な説明を省略するが、干渉の種類が増加的干渉である場合は、ΔPE値は正の値となる。それに対して、干渉の種類が減殺的干渉である場合は、ΔPE値は負の値となる。
以上をまとめると、ΔPE値が正の場合は(ΔPE≧0)、干渉の種類が増加的干渉であり、ΔPL値は減少する方向に変化する。そのため、ΔPL値の変化の振幅が大きい衛星グループほど信頼度判定用閾値を小さく設定する(第1の閾値条件)。これは、干渉の種類が増加的干渉である場合の閾値条件(第1の閾値条件)を、ΔPL値の変化の振幅と信頼度判定用閾値とが負の相関を有するように定めておくことに相当する。
それに対して、ΔPE値が負の場合は(ΔPE<0)、干渉の種類が減殺的干渉であり、ΔPL値は増加する方向に変化する。そのため、ΔPL値の変化の振幅が大きい衛星グループほど信頼度判定用閾値を大きく設定する(第2の閾値条件)。これは、干渉の種類が減殺的干渉である場合の閾値条件(第2の閾値条件)を、ΔPL値の変化の振幅と信頼度判定用閾値とが正の相関を有するように定めておくことに相当する。
1−3.コード位相誤差の算出
次に、コード位相の算出方法について説明する。ΔPL値が大きいほど受信信号の信頼度は高くなり、受信信号の信頼度が高いほど、コード位相誤差ERRの変化の振幅は小さくなる。つまり、受信信号の信頼度は、コード位相誤差ERRの振幅の大きさと関係がある。また、直接波信号と間接波信号とが強め合う場合は(増加的干渉)、コード位相誤差ERRが正の値となり、直接波信号と間接波信号とが弱め合う場合は(減殺的干渉)、コード位相誤差ERRが負となる。つまり、直接波信号と間接波信号との干渉の種類は、コード位相誤差ERRの正負の符号と関係がある。
本願発明者は、これらの知見に基づいて、(a)直接波信号と間接波信号との干渉の種類、(b)受信信号の信頼度、の2つの要素に基づいて、それぞれ算出方法を変えてコード位相誤差ERRを算出することが適切であると判断した。(a)直接波信号と間接波信号との干渉の種類はΔPE値に基づいて判定することができ、(b)受信信号の信頼度はΔPL値に基づいて判定することができる。
より具体的には、(A)ΔPE値の符号が「正」&受信信号の信頼度が「高」、(B)ΔPE値の符号が「正」&受信信号の信頼度が「低」、(C)ΔPE値の符号が「負」&受信信号の信頼度が「高」、(D)ΔPE値の符号が「負」&受信信号の信頼度が「低」、の4種類のパターンそれぞれについて、コード位相誤差ERRを算出するためのモデル式を用意する。例えば、次式(3)〜(6)のような誤差モデル式を用意する。
ERR=a1・ΔPE+b1(ΔPE≧0、且つ、受信信号の信頼度 高)・・(3)
ERR=a2・ΔPE+b2(ΔPE≧0、且つ、受信信号の信頼度 低)・・(4)
ERR=a3・ΔPE+b3(ΔPE<0、且つ、受信信号の信頼度 高)・・(5)
ERR=a4・ΔPE+b4(ΔPE<0、且つ、受信信号の信頼度 低)・・(6)
但し、「a1」〜「a4」、「b1」〜「b4」は、それぞれの誤差モデル式に応じた係数である。これらの誤差モデル式は、ΔPE値及びコード位相誤差ERRのサンプルデータに対して、例えば最小二乗法を適用するなどして求めておくことができる。
そして、ΔPE値の正負及び受信信号の信頼度に基づいて、誤差モデル式を択一的に選択してコード位相誤差ERRを算出する。すなわち、選択した誤差モデル式にΔPE値を代入することで、コード位相誤差ERRを算出する。コード位相誤差ERRを算出したならば、相関演算により取得したコード位相からコード位相誤差ERRを減算することで、コード位相誤差ERRを補正する。
このようにして算出したコード位相は、誤差が補正された正確性の高いコード位相となる。従って、当該コード位相を用いてGPS衛星とGPS受信機間の擬似距離を算出し、位置算出計算に利用することで、位置算出の正確性を向上させることができる。
2.実験結果
図35〜図37は、上記の原理に従ってコード位相誤差ERRを算出した実験結果の一例を示す図である。原理で述べた第1〜第3の衛星グループそれぞれについて実験を行った。図35に第1の衛星グループについて算出したコード位相誤差ERRを、図36に第2の衛星グループについて算出したコード位相誤差ERRを、図37に第3の衛星グループについて算出したコード位相誤差ERRをそれぞれ示す。遅延距離ΔLを“0.2チップ〜1.0チップ”まで0.1チップ刻みで変化させて、各遅延距離ΔLにおけるコード位相誤差ERRの変化を観測した。コード位相誤差ERRの真値を三角形のプロットで示し、算出したコード位相誤差ERRの推定値を矩形のプロットで示す。
これらの図を見ると、遅延距離ΔLが“0.2チップ”の場合は、推定値の真値に対する追従性はさほど良くないが、遅延距離ΔLが“0.3チップ以上”になると、推定値の真値に対する追従性が良くなっていることがわかる。特に、各衛星グループについて、遅延距離ΔLが“1.0チップ”の場合は推定値が真値とほぼ一致しており、非常に良好な結果が得られていることがわかる。アーバンキャニオン環境のように周囲が高層ビル等の高い建物に囲まれた環境では、遅延距離ΔLは長くなる傾向にある。そのため、本実施形態のコード位相誤差算出方法は、マルチパス環境において有用であることがわかる。
3.実施例
次に、上記の原理に従って、マルチパス信号の判定、受信信号の信頼度判定及びコード位相誤差の算出を行って位置を算出する位置算出装置の実施例について説明する。ここでは、位置算出装置を具備した電子機器の一種である携帯型電話機を例に挙げて説明する。
3−1.携帯型電話機の機能構成
図38は、本実施例における携帯型電話機1の機能構成の一例を示すブロック図である。携帯型電話機1は、GPSアンテナ5と、GPS受信部10と、ホスト処理部30と、操作部40と、表示部50と、携帯電話用アンテナ60と、携帯電話用無線通信回路部70と、記憶部80と、時計部90とを備えて構成される。
GPSアンテナ5は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナであり、受信信号をGPS受信部10に出力する。
GPS受信部10は、GPSアンテナ5から出力された信号に基づいて携帯型電話機1の位置を計測する位置算出回路或いは位置算出装置であり、いわゆるGPS受信装置に相当する機能ブロックである。GPS受信部10は、RF受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とを備えて構成される。なお、RF受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
RF受信回路部11は、RF信号の受信回路である。回路構成としては、例えば、GPSアンテナ5から出力されたRF信号をA/D変換器でデジタル信号に変換し、デジタル信号を処理する受信回路を構成してもよい。また、GPSアンテナ5から出力されたRF信号をアナログ信号のまま信号処理し、最終的にA/D変換することでデジタル信号をベースバンド処理回路部20に出力する構成としてもよい。
後者の場合には、例えば、次のようにRF受信回路部11を構成することができる。すなわち、所定の発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ5から出力されたRF信号に乗算することで、RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジタル信号に変換して、ベースバンド処理回路部20に出力する。
ベースバンド処理回路部20は、RF受信回路部11から出力された受信信号に対して相関処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉し、GPS衛星信号から取り出した衛星軌道データや時刻データ等に基づいて、所定の位置算出計算を行って携帯型電話機1の位置(位置座標)を算出する処理回路ブロックである。
本実施形態において、ベースバンド処理回路部20は、GPS衛星信号を受信した受信信号とレプリカコードとの相関演算を行う相関演算部や、相関演算部から出力される相関値に基づいて受信信号の信頼度を所定の判定基準に従って判定する判定部や、その判定基準をGPS衛星に応じて変更する変更部として機能する。ベースバンド処理回路部20は、受信信号信頼度判定装置であるとも言える。
ホスト処理部30は、記憶部80に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯型電話機1の各部を統括的に制御するプロセッサーである。ホスト処理部30は、ベースバンド処理回路部20から取得した位置座標をもとに、表示部50に現在位置を指し示した地図を表示させたり、その位置座標を各種のアプリケーション処理に利用する。
操作部40は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたキーやボタンの信号をホスト処理部30に出力する。この操作部40の操作により、通話要求やメール送受信要求、位置算出要求等の各種指示入力がなされる。
表示部50は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、ホスト処理部30から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部50には、位置表示画面や時刻情報等が表示される。
携帯電話用アンテナ60は、携帯型電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
携帯電話用無線通信回路部70は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで、通話やメールの送受信等を実現する。
記憶部80は、ホスト処理部30が携帯型電話機1を制御するためのシステムプログラムや、各種アプリケーション処理を実行するための各種プログラムやデータ等を記憶する記憶装置である。
時計部90は、携帯型電話機1の内部時計であり、水晶発振器等の発振回路を備えて構成される。時計部90の計時時刻は、ベースバンド処理回路部20及びホスト処理部30に随時出力される。
3−2.ベースバンド処理回路部の回路構成
図39は、ベースバンド処理回路部20の回路構成の一例を示す図であり、本実施例に係わる回路ブロックを中心に記載した図である。ベースバンド処理回路部20は、例えば、乗算部21と、キャリア除去用信号発生部22と、相関演算部23と、レプリカコード発生部24と、処理部25と、記憶部27とを備えて構成される。
乗算部21は、キャリア除去用信号発生部22により生成・発生されたキャリア除去用信号をI相及びQ相の受信信号である受信IQ信号に乗算することで、受信IQ信号から搬送波(キャリア)を除去する回路部であり、乗算器等を有して構成される。
なお、受信信号のIQ成分の分離(IQ分離)を行う回路ブロックについては図示を省略するが、例えば、RF受信回路部11において受信信号をIF信号にダウンコンバージョンする際に、位相が90度異なる局部発振信号を受信信号に乗算することでIQ分離を行うこととすればよい。また、RF受信回路部11から出力される信号がIF信号である場合には、IF周波数のキャリア除去用信号を生成すればよい。このように、RF受信回路部11が受信信号をIF信号にダウンコンバージョンする場合も、本実施形態を実質的に同一に適用可能である。
キャリア除去用信号発生部22は、GPS衛星信号のキャリア信号の周波数と同一の周波数のキャリア除去用信号を生成する回路であり、キャリアNCO(Numerical Controlled Oscillator)等の発振器を有して構成される。受信IQ信号がIF信号である場合には、IF周波数の信号を生成する。キャリア除去用信号発生部22は、I相の受信信号に対するI相キャリア除去用信号と、Q相の受信信号に対するQ相キャリア除去用信号とを生成して、乗算部21にそれぞれ出力する。Q相キャリア除去用信号は、I相キャリア除去用信号と位相が90度異なる信号である。
キャリア除去用信号発生部22により発生されたキャリア除去用信号が乗算部21において受信IQ信号に乗算されることで、受信IQ信号の復調(検波)が行われ、キャリアが除去された受信コード信号が生成・出力される。すなわち、乗算部21において、I相の受信信号にI相のキャリア除去用信号を乗算されることで、I相の受信コード信号が生成されるとともに、Q相の受信信号にQ相のキャリア除去用信号が乗算されることでQ相の受信コード信号が生成される。乗算部21及びキャリア除去用信号発生部22は、復調部(検波部)であるとも言える。
相関演算部23は、乗算部21から出力されたI相及びQ相の受信コード信号と、レプリカコード発生部24により生成・発生されたレプリカC/Aコードとの相関演算を行う回路部であり、複数の相関器(コリレーター)等を有して構成される。相関演算部23は、I相及びQ相の受信コード信号それぞれに対して、レプリカコード発生部24により生成された3種類のレプリカC/Aコードとの相関演算を行って、Early,Punctual,Lateの3種類の相関値を得る。
レプリカコード発生部24は、C/Aコードを模擬したレプリカであるレプリカC/Aコードを生成・発生する回路部であり、コードNCO等の発振器を有して構成される。レプリカコード発生部24は、処理部25から指示されたPRN番号(衛星番号)に応じて、Early,Punctual,Lateの3種類のレプリカC/Aコードを生成・発生して、相関演算部23に出力する。
処理部25は、ベースバンド処理回路部20の各機能部を統括的に制御する制御装置及び演算装置であり、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーを有して構成される。処理部25は、主要な機能部として、衛星信号捕捉部251と、位置算出部253とを有する。
衛星信号捕捉部251は、相関演算部23から出力される周波数方向及び位相方向の相関演算結果に対するピーク判定を行って、受信信号の周波数(受信周波数)及び受信したC/Aコードの位相(コード位相)をメジャメント情報として検出する。メジャメント情報は、主として位置算出等に利用される。
位置算出部253は、衛星信号捕捉部251により各捕捉衛星について検出・取得されたメジャメント情報を用いて、擬似距離を利用した公知の位置算出計算を行って携帯型電話機1の位置を算出する。そして、算出した位置をホスト処理部30に出力する。
記憶部27は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置(メモリー)によって構成され、ベースバンド処理回路部20のシステムプログラムや、衛星信号捕捉機能、位置算出機能等の各種機能を実現するための各種プログラム、データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
図39に示すように、記憶部27には、プログラムとして、処理部25により読み出され、ベースバンド処理(図46参照)として実行されるベースバンド処理プログラム271が記憶されている。ベースバンド処理プログラム271は、マルチパス信号判定プログラム2711と、マルチパス信号信頼度判定プログラム2713と、コード位相誤差算出プログラム2715とをサブルーチンとして含む。
また、記憶部27には、データとして、衛星軌道データ272と、フラグ判定範囲テーブル273と、オフセット値テーブル274と、衛星グループテーブル275と、信頼度判定用閾値テーブル276と、コード位相誤差モデル式テーブル277と、捕捉対象衛星別データベース278とが記憶される。
衛星軌道データ272は、全てのGPS衛星の概略の衛星軌道情報を記憶したアルマナックや、各GPS衛星それぞれについて詳細な衛星軌道情報を記憶したエフェメリス等のデータである。この衛星軌道データ272は、GPS衛星から受信したGPS衛星信号をデコードすることで取得する他、例えば携帯型電話機1の基地局やアシストサーバーからアシストデータとして取得する。
図40は、フラグ判定範囲テーブル273のテーブル構成の一例を示す図である。フラグ判定範囲テーブル273には、各GPS衛星と対応付けて、判定範囲A〜Cそれぞれの中心値と、この中心値を基準とした正方向及び負方向それぞれへの幅とが対応付けて記憶されている。このフラグ判定範囲テーブル273は、マルチパス信号判定処理において、判定対象とする受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定するために使用される。
図41は、オフセット値テーブル274のデータ構成の一例を示す図である。オフセット値テーブル274には、各GPS衛星2741と対応付けて、GPS衛星信号を受信した信号の信号強度2743別に、PEオフセット値2745及びPLオフセット値2747が記憶されている。これらのオフセット値は、ΔPE値及びΔPL値を算出するために使用される。
図42は、衛星グループテーブル275のテーブル構成の一例を示す図である。衛星グループテーブル275には、衛星グループ2751と、当該衛星グループに属するGPS衛星の衛星番号2753とが対応付けて記憶されている。この衛星グループテーブル275は、捕捉対象衛星が何れの衛星グループに属するかの判定に使用される。
図43は、信頼度判定用閾値テーブル276のテーブル構成の一例を示す図である。信頼度判定用閾値テーブル276には、衛星グループ2761と、ΔPE値≧0の場合の第1の信頼度判定用閾値2763と、ΔPE値<0の場合の第2の信頼度判定用閾値2765とが対応付けて記憶されている。
具体的には、衛星グループ2761として、ΔPL値の変化の振幅に応じて、第1の衛星グループと、第2の衛星グループと、第3の衛星グループとが定められている。また、ΔPE値≧0の場合の第1の信頼度判定用閾値2763として、第1の衛星グループには“θp1”が、第2の衛星グループには“θp2”が、第3の衛星グループには“θp3”がそれぞれ定められている。ΔPE値≧0となるのは、直接波信号と間接波信号の干渉の種類が増加的干渉となる場合であり、この場合、ΔPL値は減少する方向に変化する。そのため、大小関係が“θp1<θp2<θp3”となるように閾値が定められている。
また、ΔPE値<0の場合の第2の信頼度判定用閾値2765として、第1の衛星グループには“θm1”が、第2の衛星グループには“θm2”が、第3の衛星グループには“θm3”がそれぞれ定められている。ΔPE値<0となるのは、直接波信号と間接波信号の干渉の種類が減殺的干渉となる場合であり、この場合、ΔPL値は増加する方向に変化する。そのため、大小関係が“θm1>θm2>θm3”となるように閾値が定められている。
図44は、コード位相誤差モデル式テーブル277のテーブル構成の一例を示す図である。コード位相誤差モデル式テーブル277には、ΔPE値2771と、マルチパス信号の信頼度2773と、コード位相誤差モデル式2775とが対応付けて記憶されている。ΔPE値の正負及びマルチパス信号の信頼度の高低の4通りの組合せに応じて、4種類のコード位相誤差モデル式が定められている。
図45は、捕捉対象衛星別データベースのデータ構成の一例を示す図である。捕捉対象衛星データベース278は、各捕捉対象衛星についてのデータである捕捉対象衛星データ279(279−1,279−2,279−3,・・・)が蓄積記憶されたデータベースである。
捕捉対象衛星データ279には、当該捕捉対象衛星に関する識別情報や各種の諸量が記憶される。具体的には、例えば、衛星番号2791と、当該捕捉対象衛星が属する衛星グループ2792と、IQ相関値データ2793と、メジャメント情報2794と、ベクトル角2795と、PE値2796と、ΔPE値2797と、PL値2798と、ΔPL値2799とが記憶される。この捕捉対象衛星データ279は、ベースバンド処理において随時更新される。
3−3.処理の流れ
図46は、ベースバンド処理回路部20の処理部25が、記憶部27のベースバンド処理プログラム271に従って実行するベースバンド処理の流れを示すフローチャートである。
最初に、衛星信号捕捉部251は、捕捉対象衛星判定処理を行う(ステップA1)。具体的には、時計部90で計時されている現在時刻において、所与の基準位置の天空に位置するGPS衛星を、記憶部27に記憶された衛星軌道データ272を用いて判定して、捕捉対象衛星に決定する。基準位置は、例えば、電源投入後の初回の位置算出の場合は、いわゆるサーバーアシストによってアシストサーバーから取得した位置とし、2回目以降の位置算出の場合は、最新の算出位置とする等の方法で設定できる。
次いで、衛星信号捕捉部251は、ステップA1で判定した各捕捉対象衛星それぞれについて、ループAの処理を実行する(ステップA3〜A21)。ループAの処理では、衛星信号捕捉部251は、当該捕捉対象衛星からのGPS衛星信号の捕捉を試行する(ステップA5)。すなわち、キャリア除去用信号発生部22及びレプリカコード発生部24に対して、RF受信回路部11から出力される受信IQ信号に対するキャリア除去及び相関演算を行わせるように制御する。
次いで、衛星信号捕捉部251は、相関演算部23から出力される当該捕捉対象衛星のI相相関値及びQ相相関値をもとにメジャメント情報を算出して記憶部27に記憶させる(ステップA7)。すなわち、相関値がピーク相関値をとる受信周波数及びコード位相を検出して、当該捕捉対象衛星のメジャメント情報とする。ここでメジャメント情報として取得されるコード位相は、先に述べたピーク相関値に一致しているとみなしたPunctual位相であり、コード位相誤差ERRを含み得るコード位相である。
次いで、衛星信号捕捉部251は、当該捕捉対象衛星からの受信信号の信号強度を計測する(ステップA9)。信号強度は、例えばC/N(Carrier to Noise ratio)比として計測することができる。そして、衛星信号捕捉部251は、記憶部27に記憶されたマルチパス信号判定プログラム2711に従ってマルチパス信号判定処理を行う(ステップA11)。
図47は、マルチパス信号判定処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、衛星信号捕捉部251は、フラグF1〜F3の全てを「0」に初期設定する(ステップB1)。そして、相関演算部23から出力される当該捕捉対象衛星の相関演算結果を用いてPE値を算出する(ステップB3)。また、相関演算部23から出力されるEarly相関値及びLate相関値をもとに、ベクトル角θを算出する(ステップB5)。
次いで、衛星信号捕捉部251は、記憶部27のフラグ判定範囲テーブル273を参照して、算出したPE値を所定の判定範囲B,Cそれぞれと比較し、PE値が判定範囲B外ならば(ステップB7:Yes)、フラグF2を「1」に設定するとともに(ステップB9)、判定範囲C外ならば(ステップB11:Yes)、フラグF3を「1」に設定する(ステップB13)。また、算出したベクトル角θを所定の判定範囲Aと比較し、判定範囲A外ならば(ステップB15:YES)、フラグF1を「1」に設定する(ステップB17)。
そして、衛星信号捕捉部251は、フラグF1〜F3の設定値をもとに、当該捕捉対象衛星からの受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定する。すなわち、「条件A:フラグF1,F2がともに「1」である」或いは「条件B:フラグF3が「1」である」の少なくとも一方を満たすならば(ステップB19:Yes)、受信信号はマルチパス信号であると判定し(ステップB21)、ともに満たさないならば(ステップB19:No)、マルチパス信号でないと判定する(ステップB23)。そして、衛星信号捕捉部251は、マルチパス信号判定処理を終了する。
図46のベースバンド処理に戻って、マルチパス信号判定処理を行った後、衛星信号捕捉部251は、当該捕捉対象衛星からの受信信号がマルチパス信号であると判定したならば(ステップA13:Yes)、記憶部27に記憶されたマルチパス信号信頼度判定プログラム2713に従ってマルチパス信号信頼度判定処理を行う(ステップA15)。
図48は、マルチパス信号信頼度判定処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、衛星信号捕捉部251は、記憶部27のオフセット値テーブル274を参照し、当該捕捉対象衛星の衛星番号2741及びステップA9で計測した当該捕捉対象衛星の信号強度2743に対応するPEオフセット値2745を読み出す(ステップC1)。そして、ステップB3で算出したPE値からPEオフセット値2745を減算することで、ΔPE値を算出する(ステップC3)。
次いで、衛星信号捕捉部251は、記憶部27の衛星グループテーブル275を参照し、当該捕捉対象衛星の衛星番号2753に対応する衛星グループ2751を判定する(ステップC5)。そして、記憶部27の信頼度判定用閾値テーブル276を参照し、判定した衛星グループ2751とステップC3で算出したΔPE値とに基づいて、信頼度判定用閾値を決定する(ステップC7)。
その後、衛星信号捕捉部251は、当該捕捉対象衛星の相関値を用いてPL値を算出する(ステップC9)。そして、記憶部27のオフセット値テーブル274を参照し、当該捕捉対象衛星の衛星番号2741及びステップA9で計測した当該捕捉対象衛星の信号強度2743に対応するPLオフセット値2747を読み出す(ステップC11)。そして、PL値からPLオフセット値2747を減算することで、ΔPL値を算出する(ステップC13)。
次いで、衛星信号捕捉部251は、ステップC13で算出したΔPL値に対して、ステップC7で決定した信頼度判定用閾値を用いた閾値判定を行って、受信したマルチパス信号の信頼度を判定する(ステップC15)。そして、衛星信号捕捉部251は、マルチパス信号信頼度判定処理を終了する。
図46のベースバンド処理に戻って、マルチパス信号信頼度判定処理を行った後、衛星信号捕捉部251は、記憶部27に記憶されたコード位相誤差算出プログラム2715に従ってコード位相誤差算出処理を行う(ステップA17)。
図49は、コード位相誤差算出処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、衛星信号捕捉部251は、記憶部27のコード位相誤差モデル式テーブル277を参照し、ステップC3で算出したΔPE値2771と、マルチパス信号信頼度判定処理で判定したマルチパス信号信頼度2773とに対応するコード位相誤差モデル式2775を選択する(ステップD1)。
次いで、衛星信号捕捉部251は、ステップD1で選択したコード位相誤差モデル式2775にΔPE値を代入することで、コード位相誤差ERRを算出する(ステップD3)。そして、衛星信号捕捉部251は、コード位相誤差算出処理を終了する。
図46のベースバンド処理に戻って、コード位相誤差算出処理を行った後、衛星信号捕捉部251は、ステップA7で算出したメジャメント情報に含まれるコード位相からコード位相誤差算出処理で算出したコード位相誤差ERRを減算することで、コード位相を補正する(ステップA19)。そして、衛星信号捕捉部251は、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。
なお、ステップA13において受信信号がマルチパス信号ではないと判定した場合は(ステップA13;No)、衛星信号捕捉部251は、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。つまり、受信信号がマルチパス信号ではないと判定された捕捉対象衛星については、コード位相を補正せずに、そのまま位置算出計算に利用する。
全ての捕捉対象衛星についてステップA5〜A19の処理を行った後、衛星信号捕捉部251は、ループAの処理を終了する(ステップA21)。その後、位置算出部253は、捕捉した各衛星のメジャメント情報を用いて位置算出計算を実行する(ステップA23)。具体的には、受信信号がマルチパス信号であると判定された捕捉衛星については、ステップA19で補正されたコード位相を用いて擬似距離を算出し、受信信号がマルチパス信号でないと判定された捕捉衛星については、ステップA7で算出されたコード位相を用いて擬似距離を算出する。そして、擬似距離を用いて、最小二乗法やカルマンフィルターを利用した収束計算を行って、携帯型電話機1の位置を算出する。
その後、位置算出部253は、算出した位置を出力位置としてホスト処理部30に出力する(ステップA25)。そして、処理を終了するか否かを判断し(ステップA27)、終了しないならば(ステップA27:No)、ステップA1に戻る。また、終了するならば(ステップA27:Yes)、ベースバンド処理を終了する。
4.作用効果
本実施形態によれば、GPS衛星信号を受信した受信信号とレプリカコードとの相関演算を行う。そして、相関演算で求められたピーク位相におけるピーク相関値(第1の相関値)と、ピーク位相から所定位相遅れた位相における相関値(第2の相関値)とを用いて、マルチパス信号に含まれる間接波信号の直接波信号に対する遅延距離の指標値であるΔPL値を算出する。そして、所定の信頼度判定用閾値に対するΔPL値の高低を判定基準として、受信信号の信頼度を判定する。この際、信頼度判定用閾値を予め定められた衛星グループに応じて変更する。
マルチパス信号において、間接波信号は、GPS衛星からGPS受信機までの伝播距離が直接波信号に比べて長いため、直接波信号に対して遅れた信号となる。そのため、受信信号がマルチパス信号であれば、ピーク位相から遅れた位相において間接波信号の影響が現れ、相関値がある程度大きな値となる。そのため、ΔPL値を算出することで、間接波信号が直接波信号に及ぼす影響の程度を判断することができ、受信信号の良し悪しを判定できる。
また、間接波信号が直接波信号に及ぼす影響の程度はGPS衛星によって異なり得る。そのため、本実施形態では、直接波信号と間接波信号との位相差を変化させてΔPL値を算出した場合のΔPL値の増減の変化の振幅に応じてGPS衛星を3つの衛星グループに分類した。そして、衛星グループ毎に信頼度判定用閾値を変更することとした。これにより、受信信号の信頼度をより適確に判定することができる。
5.変形例
なお、本発明の適用可能な実施形態は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは勿論である。
5−1.受信信号の信頼度の用途
上記の実施形態で判定した受信信号の信頼度の用途は、コード位相誤差の算出に限られない。例えば、受信信号の信頼度に基づいて、位置算出に不適な衛星である測位不適衛星を判定することとしてもよい。例えば、受信信号の信頼度が「低」と判定されたGPS衛星を測位不適衛星と判定する。そして、測位不適衛星から受信したGPS衛星信号は位置算出に利用せずに、測位不適衛星と判定されなかったGPS衛星から受信したGPS衛星信号のみを利用して位置算出を行うこととしてもよい。この場合も、位置算出の正確性を向上させることができる。
5−2.受信信号の信頼度の設定
また、上記の実施形態では、ΔPL値が信頼度判定用閾値以上か未満かに応じて、信頼度を「高」又は「低」に振り分けるものとして説明したが、信頼度をより細かく振り分けることとしてもよい。ΔPL値が大きいほど受信信号の信頼度が高いため、信頼度判定用閾値を段階的に設定しておくことで、段階的な受信信号の信頼度判定を実現することができる。
なお、この場合についても、受信信号の信頼度に応じた複数種類のコード位相誤差モデル式を定めておき、受信信号の信頼度に応じたコード位相誤差モデル式を選択して、コード位相誤差ERRを算出すればよい。また、上記のように受信信号の信頼度に基づいて測位不適衛星を判定する手法を適用する場合も、受信信号の信頼度が低い衛星から順に測位不適衛星を選択することとすればよい。
5−3.信頼度判定用閾値の設定
上記の実施形態では、衛星グループ毎に信頼度判定用閾値を定めておくものとして説明したが、衛星グループ毎ではなく、衛星毎に信頼度判定用閾値を定めておくこととしてもよい。
具体的には、上記の実施形態では、ΔPL値の増減変化の振幅に応じて3つの衛星グループに衛星を分類したが、厳密にはΔPL値の増減変化の振幅は衛星毎に異なるものである。そのため、各衛星のΔPL値の増減変化の振幅をより細かく分類し、各々の衛星毎に信頼度判定用閾値を設定して受信信号の信頼度判定を行うことも可能である。なお、衛星グループに分類する場合も、必ずしも3つの衛星グループである必要はなく、衛星グループの数は適宜設定変更可能である。
5−4.PE値及びPL値の算出方法
上記の実施形態で説明したPE値及びPL値の算出方法を次のようにすることも可能である。図50は、変形例におけるPE値の算出方法の説明図である。図8では、Punctual相関値Pp、Punctual位相から1チップ以上進んだ位相での相関値Pn、Punctual位相からNチップだけ進んだコード位相での相関値Paを用いてPE値を算出したが、相関値Pnを用いずに、次式(7)に従ってPE値を算出することにしてもよい。
PE=Pp/Pa ・・・(7)
図51は、変形例におけるPL値の算出方法の説明図である。図18では、Punctual相関値Ppと、Punctual位相からMチップ遅れた位相での相関値Pbとを用いてPL値を算出したが、Punctual位相から1チップ未満遅れた位相での相関値Pmを併用して、次式(8)に従ってPL値を算出することにしてもよい。
PL=(Pm−Pb)/(Pp−Pb) ・・・(8)
5−5.指標値
上記の実施形態では、ΔPL値をマルチパス信号に含まれる間接波信号の直接波信号に対する遅延距離の指標値として用い、ΔPE値を直接波信号と間接波信号との干渉の種類の指標値として用いた。しかし、実際には、PL値及びPE値も、ΔPL値及びΔPE値とそれぞれ同様の時間変動を示す場合が多い。そのため、PL値をマルチパス信号に含まれる間接波信号の直接波信号に対する遅延距離の指標値として用い、PE値を直接波信号と間接波信号との干渉の種類の指標値として用いることも可能である。
5−6.コード位相誤差モデル式
上記の実施形態では、ΔPE値とコード位相誤差ERRとの関係を示すコード位相誤差モデル式を1次関数で近似するものとして説明したが、2次以上の関数や指数関数、対数関数等の各種関数を用いて近似することも可能である。
5−7.マルチパス信号の判定
上記の実施形態のマルチパス信号判定方法はあくまでも一例であり、他の公知の手法を適用することも当然可能である。何れの手法を用いるにせよ、マルチパス信号であると判定された受信信号に対して、上記の実施形態の受信信号信頼度判定方法及びコード位相誤差算出方法を適用することで、上記の実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、マルチパス信号の判定は、受信信号の信頼度を判定する前に行ってもよいし、受信信号の信頼度を判定した後に行ってもよい。前者の場合には、最初に受信信号のマルチパス判定を行い、受信信号がマルチパス信号であると判定された場合は、受信信号の信頼度判定を行う。他方、受信信号がマルチパス信号ではないと判定された場合は、受信信号の信頼度判定は行わない。
後者の場合には、最初に受信信号の信頼度判定を行い、その後に、受信信号のマルチパス判定を行う。そして、受信信号がマルチパス信号であると判定された場合は、前もって算出しておいた信頼度を採択する。他方、受信信号がマルチパス信号ではないと判定された場合は、前もって算出しておいた信頼度は削除するなどして、採択しないようする。
5−8.電子機器
上記の実施例では、電子機器の一種である携帯型電話機に本発明を適用した場合について説明したが、他には、カーナビゲーション装置や携帯型ナビゲーション装置、パソコン、PDA(Personal Digital Assistants)、腕時計といった他の電子機器についても同様に適用することが可能である。
5−9.衛星測位システム
また、上記の実施形態では、衛星測位システムとしてGPSを利用した場合を説明したが、例えば、GPSと同じCDMA方式を用いたGALILEOといった他の衛星測位システムにも同様に適用可能なのは勿論である。さらには、衛星測位システムに限らず、直接スペクトラム拡散方式により変調された信号が送出されるシステム、例えばIEEE802.11b規格の無線LANの無線信号を測位用信号として用いるシステムにも適用可能である。
5−10.処理の主体
また、上記の実施例では、ベースバンド処理回路部の処理部が各種の処理を行うものとして説明したが、電子機器のプロセッサーであるホスト処理部が各種の処理を行うことにしてもよい。また、マルチパス信号の判定、受信信号の信頼度判定及びコード位相誤差算出はベースバンド処理回路部の処理部が行い、位置算出はホスト処理部が行うといったように、2つの処理部で処理を分担することとしてもよい。