以下、本発明に係る間接給電式溶接装置につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る間接給電式溶接装置30の要部側面図である。この間接給電式溶接装置30は、溶接電流が供給される第1溶接ガン32と、積層体34aに対して溶接を行うための第2溶接ガン36と、前記溶接電流を第1溶接ガン32から第2溶接ガン36に伝達する外部給電端子38とを有する。
第1溶接ガン32は、ガン本体40の下方に配設された略C字形状の固定アーム41を具備する、いわゆるC型のものである。この固定アーム41の下方先端には、ガン本体40に向かって延在する下電極42が設けられる。
ガン本体40には、上電極44が設けられたホルダ46を図1における上下方向に変位させるためのボールねじ機構(図示せず)が収容されている。具体的には、ホルダ46は、ガン本体40から突出し且つ前記下電極42に向かって延在する変位軸48の先端に取り付けられている。前記ボールねじ機構のボールねじは、この変位軸48を図1における上下方向に変位させることにより、ホルダ46を介して上電極44を変位させる。
本実施の形態において、上電極44の極性は正(+)であり、また、下電極42の極性は負(−)である。すなわち、上電極44・下電極42は、電源50(図3参照)の正極・負極に対して電気的に接続されている。
外部給電端子38は、導電端子52a、52bと、これら導電端子52a、52b間に介装された絶縁体54とを有する。この中の導電端子52aには上電極44が当接し、一方、導電端子52bには下電極42が当接する。外部給電端子38には、さらに、導電端子52aに電気的に接続された補助端子56が設けられる。
第2溶接ガン36は、第1アーム部材58と第2アーム部材60が組み合わされることによって略X字形状をなすガンアーム62を有する。第1アーム部材58と第2アーム部材60は、互いの交点を揺動中心として揺動可能であり、この揺動に伴ってガンアーム62が開閉動作する。
具体的には、第1アーム部材58の図1における右端部には、ガンアーム62を開閉する開閉機構としての開閉シリンダ64が設けられている。この開閉シリンダ64の開閉ロッド66は、図1における鉛直下方に延在し、第2アーム部材60の右端部に連結されている。従って、開閉ロッド66が図1の上下方向に沿って前進・後退動作することに伴い、第1アーム部材58と第2アーム部材60が互いに接近・離間する。その結果、ガンアーム62が閉動作・開動作する。
ここで、第1アーム部材58及び第2アーム部材60の各左端部は、鉛直下方・上方に向かうようにして折曲されており、このため、互いに対向する。この対向する部位には、第1溶接チップとしての上チップ68、第2溶接チップとしての下チップ70がそれぞれ設けられる。
要部を拡大した図2に示すように、上チップ68の胴部には、略平板形状の絶縁体からなるブラケット72が装着される。すなわち、該ブラケット72には、その直径が上チップ68の胴部の直径と略同等である貫通孔74が形成されており、この貫通孔74に上チップ68の胴部が通されて嵌合されている。
このブラケット72には、加圧部材として機能する補助電極76a、76bが上チップ68と平行に延在するように設けられる。これら補助電極76a、76bは、図1における下方から、電極本体78a、78b、直径方向外方に向かって突出形成された鍔部80a、80b、比較的小径な小径軸部82a、82b、端子部84a、84bがこの順序で設けられて構成される。
ブラケット72には、前記貫通孔74の近傍に別の貫通孔86a、86bが形成され、これら貫通孔86a、86bに、小径軸部82a、82bの各々が通される。
小径軸部82a、82bには、コイルスプリング88a、88bが通される。これらコイルスプリング88a、88bの下端・上端は、それぞれ、鍔部80a、80bの上端面、ブラケット72の下端面に着座する。このコイルスプリング88a、88bは、電極本体78a、78bが積層体34aに当接する際には圧縮され、その一方で、電極本体78a、78bが積層体34aから離間した際には伸張し、これにより、補助電極76a、76bをブラケット72から離間する方向に弾発付勢する。
後述するように、上チップ68と補助電極76a、76bの離間距離Z1、Z2(図3参照)は、金属板102aと、その直下の金属板104aとの間に適切な面圧の分布が得られるように設定される。
以上のように構成されたガンアーム62は、第1アーム部材58と第2アーム部材60の交点が治具90に支持されることによって固定される。また、上電極44と上チップ68が導電端子52a及びリード線92を介して電気的に接続されるとともに、下電極42と下チップ70が導電端子52b及びリード線94を介して電気的に接続される。さらに、補助電極76a、76bは、リード線96、ON/OFFスイッチ98、補助端子56及び導電端子52aを介して、下電極42に電気的に接続される。従って、上チップ68の極性は上電極44と同じく正(+)であり、一方、下チップ70及び補助電極76a、76bの極性は下電極42と同じく負(−)である。
溶接対象である積層体34aにつき若干説明すると、この場合、積層体34aは、3枚の金属板100a、102a、104aが下方からこの順序で積層されることによって構成される。この中の金属板100a、102aの厚みはD1(例えば、約1mm〜約2mm)に設定され、金属板104aの厚みはD1に比して小寸法のD2(例えば、約0.5mm〜約0.7mm)に設定される。すなわち、金属板100a、102aの厚みは同一であり、金属板104aはこれら金属板100a、102aに比して薄肉である。すなわち、金属板104aの肉厚は、積層体34aを構成する3枚の金属板100a、102a、104a中で最小である。
金属板100a、102aは、例えば、いわゆるハイテン鋼であるJAC590、JAC780又はJAC980(いずれも日本鉄鋼連盟規格に規定される高性能高張力鋼板)からなる高抵抗ワークであり、金属板104aは、例えば、いわゆる軟鋼であるJAC270(日本鉄鋼連盟規格に規定される高性能絞り加工用鋼板)からなる低抵抗ワークである。金属板100a、102aは同一金属種であってもよいし、異種金属種であってもよい。
前記下チップ70及び前記上チップ68は、これら下チップ70及び上チップ68の間に溶接対象である積層体34aを挟持し、且つ該積層体34aに対して通電を行うものである。この際には、下チップ70が最下の金属板100aに当接するとともに、上チップ68及び補助電極76a、76bが最上の金属板104aに当接する。このことから諒解される通り、上チップ68と補助電極76a、76bはともに、積層体34a中の最上に位置する金属板104aに当接するものの、その極性は互いに逆である。
以上の構成において、前記開閉シリンダ64、電源50及びON/OFFスイッチ98は、制御手段としてのガンコントローラ106(図3参照)に電気的に接続されている。すなわち、開閉シリンダ64、電源50及びON/OFFスイッチ98の動作ないし付勢・滅勢は、ガンコントローラ106によって制御される。
本実施の形態に係る間接給電式溶接装置30は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、スポット溶接方法との関係で説明する。
積層体34aに対してスポット溶接を行う際、換言すれば、金属板100a、102a同士を接合するとともに金属板102a、104a同士を接合する際には、先ず、下チップ70と上チップ68の間に積層体34aが配置される。勿論、このときには開閉シリンダ64の開閉ロッド66は後退しており、このため、ガンアーム62は開状態である(図1参照)。
次に、ガンコントローラの作用下に開閉シリンダ64が付勢され、その結果、開閉ロッド66が前進動作する。これに追従して第1アーム部材58及び第2アーム部材60の各左端部が互いに接近する。すなわち、ガンアーム62が閉動作する。これにより、図4に示すように、下チップ70が金属板100aに当接するとともに、上チップ68が金属板104aに当接し、その結果、下チップ70と上チップ68の間に積層体34aが挟持される。同時に、補助電極76a、76bが金属板104aに当接する。図3には、このときの模式的な縦断面図が示されている。
ここで、上チップ68と補助電極76a、76bの離間距離Z1、Z2は、図5に示すように、金属板104aと金属板102aとの間の接触面に、上チップ68で押圧される箇所で面圧が最大となり、且つ補助電極76a、76bで押圧される箇所で、次に大きい面圧が得られるように設定される。なお、好適にはZ1=Z2である。
換言すれば、前記接触面には、上チップ68の加圧による面圧、及び補助電極76a、76bの加圧による面圧に比して面圧が小さくなる箇所が形成される。これにより、図5に示すような加圧力の分布が形成される。以下、この分布につき詳述する。
ガンコントローラ106は、金属板104aに対する上チップ68及び補助電極76a、76bの合計加圧力(F1+F2+F3)が、金属板100aに対する下チップ70の加圧力(F4)と均衡するように、開閉シリンダ64の推進力を制御する。この制御により、積層体34aに対する矢印Y1方向に沿って作用する加圧力(F1+F2+F3)と、矢印Y2方向に沿って作用する加圧力(F4)とが略同等となる。なお、F2=F3であることが好適である。
すなわち、このとき、F1<F4が成り立つ。従って、積層体34aが下チップ70と上チップ68から受ける力は、図3に模式的に示すように、上チップ68から下チップ70に向かうにつれて作用範囲が広くなる(大きくなる)ように分布する。このため、金属板102a、104aの接触面に作用する力は、金属板100a、102aの接触面に作用する力に比して小さくなる。なお、離間距離Z1、Z2が過度に小さいために上チップ68の加圧による面圧、及び補助電極76a、76bの加圧による面圧に比して面圧が小さくなる箇所が形成されない場合、このような分布が形成され難くなる。
図6は、補助電極76a、76bを用いずにF1=F4とした場合における積層体34aが下チップ70と上チップ68から受ける力の分布を模式的に示したものである。図5から諒解されるように、この場合、力は、上チップ68から下チップ70にわたって均等である。換言すれば、金属板102a、104aの接触面に作用する力と、金属板100a、102aの接触面に作用する力とが等しくなる。
図3及び図6には、金属板102a、104aの接触面に作用する力の範囲を太実線で示している。図3及び図6を対比して諒解される通り、力が作用する範囲は、F1<F4であるときの方がF1=F4であるときに比して狭い。このことは、F1<F4であるときには、F1=F4であるときに比して金属板104aが金属板102aに対して押圧される範囲が狭いこと、換言すれば、接触面積が小さいことを意味する。
本実施の形態では、図5に示すように上チップ68から下チップ70に至るまでの加圧力を分布させ、金属板102aに対する金属板104aの接触面積を小さくしたことに伴い、積層体34aから上チップ68に向かう反力が生じる。本実施の形態では、この反力を補助電極76a、76bで受けている。
以上の状態が形成された後、ガンコントローラ106が電源50に制御信号を送る。この制御信号を受けた電源50は、正極に接続された上電極44を出発し、下電極42を経由して負極に戻る溶接電流を供給する。
溶接電流は、上電極44から導電端子52a、リード線92及び上チップ68を経由して金属板104aに到達する。このため、図7及び図8に示すように、上チップ68から下チップ70に向かう電流i1が流れる。上記したように、下チップ70がリード線94、導電端子52b及び下電極42を介して電源50の負極に接続されているからである。
そして、この電流iに基づくジュール熱により、金属板100a、102aの間、及び金属板102a、104aの間がそれぞれ加熱され、加熱領域110、112が形成される。
上記したように、図3に示される金属板104aと金属板102aとの接触面積は、図6に示される金属板104aと金属板102aとの接触面積に比して小さい。このため、金属板102a、104aの接触面における接触抵抗及び電流密度は、図3に示される場合の方が図6に示される場合に比して、換言すれば、F1<F4であるときの方がF1=F4であるときに比して大きくなる。すなわち、F1<F4であるときには、F1=F4であるときに比してジュール熱の発生量、換言すれば、発熱量が大きくなる。従って、F1<F4であるときには、図7に示すように、金属板100a、102aの接触面に生成する加熱領域110と、金属板102a、104aの接触面に生成する加熱領域112とが略同等の大きさに成長する。
ここで、金属板104aには補助電極76a、76bも当接しており、この補助電極76a、76bの極性は負である。従って、上チップ68からは、上記した電流i1と同時に、補助電極76a、76bに向かう分岐電流i2が出発する(図7及び図8参照)。
このように、本実施の形態においては、金属板100a、102aには流れず金属板104aにのみ流れる分岐電流i2が発生する。この結果、上チップ68及び下チップ70のみを使用する一般的なスポット溶接に比して金属板104aの内部を通過する電流値が大きくなる。
従って、この場合、図9に示すように、金属板104aの内部に、前記加熱領域112とは別の加熱領域114が形成される。加熱領域114は、時間の経過とともに拡大し、加熱領域112と一体化する。金属板102a、104aの接触面には、このようにして一体化した加熱領域112、114の双方から熱が伝達される。
金属板100a、102aの接触面、金属板102a、104aの接触面は、前記加熱領域110、112、114によって加熱され、十分に温度上昇して溶融し始める。これにより形成された溶融部が冷却固化する結果、金属板100a、102aの間、金属板102a、104aの間にナゲット116、118がそれぞれ形成される。なお、図9においては、理解を容易にするためにナゲット116、118として示しているが、通電中は、液相である溶融部として存在する。以降の図面も同様である。
補助電極76a、76bによる加圧力F2、F3を大きくするほど金属板102a、104a間のナゲット118を大きくすることができるが、加圧力F2、F3がある程度大きくなると、ナゲット118の大きさが飽和する傾向がある。換言すれば、加圧力F2、F3を過度に大きくしても、ナゲット118を一定の大きさ以上に成長させることは困難である。また、加圧力F2、F3を過度に大きくすると、加圧力F1、F2、F3の総和で加圧力F4と均衡させる関係上、加圧力F1を過度に小さくする必要がある。このため、金属板100a、102a間のナゲット116が小さくなる。
従って、上チップ68による加圧力F1と、補助電極76a、76bによる加圧力F2、F3との差は、ナゲット116、118を可及的に大きくし得るように設定することが好ましい。
また、分岐電流i2の割合を大きくするほど加熱領域114を大きくすることが可能であるが、分岐電流i2の割合を過度に大きくした場合、電流i1の電流値が小さくなるので、加熱領域110、112が小さくなる。このため、ナゲット118の大きさが飽和する一方、ナゲット116が小さくなる傾向がある。従って、分岐電流i2の割合は、ナゲット116が十分に成長する程度の電流i1が流れるように設定することが好ましい。
なお、電流i1と分岐電流i2の割合は、例えば、上記したように上チップ68と補助電極76a、76bとの離間距離Z1、Z2(図3参照)を変更することで調節することが可能である。電流i1と分岐電流i2の好適な割合は、例えば、70:30である。
溶融部が形成される間、金属板104aは、補助電極76a、76bで金属板102a側に押圧されている。この押圧により、低剛性の金属板104aが通電(加熱)に伴って反ること、すなわち、金属板102aから離間することが抑制される。このため、軟化した溶融部が金属板104aと金属板102aとの離間箇所からスパッタとして飛散することを防止することができる。
溶融部、ひいてはナゲット118は、通電が継続される限り、時間の経過とともに成長する。従って、通電を所定の時間継続することにより、ナゲット118を十分に成長させることができる。
この場合、金属板100a、102aに流れる電流i1の電流値は、一般的なスポット溶接に比して小さい。このため、金属板102a、104aの間の溶融部(ナゲット118)が大きく成長している間に金属板100a、102aの発熱量が過度に大きくなることが回避される。従って、スパッタが発生する懸念が払拭される。
この間、電流i1によって金属板100a、102aの間にもナゲット116となる溶融部が形成される。分岐電流i2が継続して流れるようにすると、分岐電流i2を停止した場合に比して電流i1の全通電量が少なくなるので、加熱領域110、ひいてはナゲット116が若干小さくなる傾向がある。
従って、ガンコントローラ106は、ナゲット116をさらに成長させる場合べく、図10及び図11に示すように、ON/OFFスイッチ98を開状態とする。これにより、補助電極76a、76bと補助端子56とが電気的に切断され、分岐電流i2が消失する。これにともなって、加熱領域114(図9参照)も消失する。
その一方で、上チップ68から下チップ70への通電が続行される。すなわち、金属板100a、102aにおいては、通常のスポット溶接時と同様の状態が形成される。分岐電流i2が消失することに伴って電流i1の電流値が大きくなっているので、抵抗が大きい金属板100a、102aではジュール熱による発熱量が増加する。その結果、加熱領域110が広がるとともにその温度が一層上昇する。金属板100a、102aの接触面は、この温度上昇した加熱領域110に加熱され、これにより、該接触面近傍の温度が十分に上昇して溶融し、溶融部(ナゲット116)の成長が促進される。
以降は、溶融部(ナゲット116)が十分に成長するまで、例えば、図11に示すように、ナゲット118となる溶融部と一体化するまで通電を継続すればよい。通電継続時間に対するナゲット116の成長の度合いは、テストピース等を用いたスポット溶接試験で予め確認しておけばよい。
ここで、金属板100a、102aの接触面は、金属板102a、104a同士の間にナゲット118を成長させる際に電流i1が通過することに伴って形成された加熱領域110によって予め加熱されている。このため、金属板100a、102a同士は、ナゲット116となる溶融部が成長する前になじみが向上している。従って、スパッタが発生し難い。
以上のように、本実施の形態によれば、金属板102a、104aの間のナゲット118を成長させる際、金属板100a、102aの間のナゲット116を成長させる際の双方でスパッタが発生することを回避することができる。
所定時間が経過して前記溶融部が十分成長した後、図12に示すように、通電を停止する。この通電停止は、上電極44を導電端子52aから離間させることで行うようにしてもよいし、上電極44に対する溶接電流の供給を停止することで行うようにしてもよい。
さらに、開閉シリンダ64が付勢されて開閉ロッド66が後退する。これにより、ガンアーム62が開く。これに追従し、図13に示すように、上チップ68及び下チップ70が互いに離間する方向に変位して積層体34aから離間する。同時に、補助電極76a、76bが金属板104aから離間する。この際、補助電極76a、76bは、コイルスプリング88a、88b(図2参照)から弾発付勢され、元の位置に戻る。
なお、溶接の開始から終了するに至るまでの上記した動作は全て、ガンコントローラ106の制御作用下に営まれる。
このようにして通電が停止されることに伴い、金属板100a、102aの発熱も終了する。時間の経過とともに溶融部が冷却固化し、これにより、ナゲット116を介して金属板100a、102aが互いに接合される。
以上のようにして、積層体34aを構成する金属板100a、102a同士、金属板102a、104a同士が接合され、製品としての接合品が得られるに至る。
この接合品においては、金属板100a、102a同士の接合強度と同様に、金属板102a、104a同士の接合強度も優れる。上記したように金属板104aに分岐電流i2が流されたことに伴って、金属板102a、104aの間のナゲット116が十分に成長しているからである。
以上のように、本実施の形態によれば、スパッタが生成することを回避しつつ、金属板102a、104aの間に、金属板100a、102aの間のナゲット116と略同程度の大きさのナゲット118を成長させることができ、これにより、金属板102a、104a同士の接合強度が優れた成形品を得ることができる。
しかも、間接給電式溶接装置30は、既存の間接給電式溶接装置における上チップ68に対し、補助電極76a、76bが設けられたブラケット72を装着することで構成することが可能である。従って、補助電極76a、76bを設けることに伴って間接給電式溶接装置30の構成が複雑化したり、大型化したりすることを回避することができる。このため、溶接対象が複雑な形状のものであったとしても、補助電極76a、76b及び上チップ68を溶接対象に干渉させることなく所定の溶接箇所に配置させることができる。
なお、溶接対象は積層体34aに特に限定されるものではなく、金属板の個数、素材、厚みが種々相違する様々な積層体を溶接対象とすることが可能である。以下、この点につき具体例を挙げて説明する。
図14に示す積層体34bは、厚みが最小である金属板102bを、金属板100b、104bで挟むようにして形成される。例えば、金属板100bは、ハイテン鋼からなる高抵抗ワークであり、金属板102b、104bは、軟鋼からなる低抵抗ワークである。
上チップ68と下チップ70のみで積層体34bに対してスポット溶接を行う場合、金属板100b、102bの接触面が優先的に溶融する。金属板100bが高抵抗ワークであるために、金属板100b、102bの接触抵抗が金属板102b、104bの接触抵抗よりも大きいからである。従って、金属板102b、104bの接触面にナゲットを十分に成長させるべく上チップ68から下チップ70への通電を継続すると、金属板100b、102bの接触面からスパッタが発生する懸念がある。
これに対し、補助電極76a、76bを用いる第2実施形態によれば、図11に示すように、金属板100b、102bの接触面、及び金属板102b、104bの接触面の双方に加熱領域120、122が形成される。上記の積層体34aにおける場合と同様に、分岐電流i2が金属板104b内を流れることにより、金属板102b、104bの接触面が十分に加熱されるからである。
これにより、図15に示すナゲット124、126が形成される。分岐電流i2を消失させた後に電流i1を継続して流すことにより、例えば、図16に示すように、金属板100b、102bの接触面、及び金属板102b、104bの接触面の双方に跨るようにして十分に成長したナゲット128を形成することができる。
積層体34a、34bに対するスポット溶接に関する以上の説明から諒解されるように、補助電極76a、76bを用いることにより、加熱領域、ひいてはナゲットを、該補助電極76a、76bを当接させた側に近接するように移動させることができる。
なお、金属板100bがハイテン鋼、金属板102b、104bが軟鋼である組み合わせに特に限定されるものではないことは勿論である。
次に、図17に、ハイテン鋼からなる金属板100cに対してハイテン鋼からなる金属板102cが積層された積層体34cに対し、補助電極76a、76bを用いてスポット溶接を行う場合を示す。
補助電極76a、76bを用いない場合、金属板100c、102cがともに高抵抗ワークであるので、通電の際、接触面近傍に発生するジュール熱が大きくなる。このため、接触面近傍に形成された溶融部が比較的短時間で大きく成長し、その結果、溶融部が飛散し易く(スパッタが発生し易く)なる。
これに対し、補助電極76a、76bを用いる本実施の形態によれば、図17に示すように、金属板100c、102cの接触面に加熱領域130が形成されるとともに、金属板100c、102cの接触面よりも上方、換言すれば、金属板102cにおける補助電極76a、76bに近接する側に加熱領域132が形成される。分岐電流i2が金属板102c内を流れることにより、該金属板102c内が十分に加熱されるからである。すなわち、この場合においても、加熱領域、ひいてはナゲット(図18参照)を、該補助電極76a、76bを当接させた側に近接するように移動させることができる。
そして、その結果、金属板100c、102cの接触面が軟化してシール性が向上する。従って、図18に示すように十分に成長したナゲット134を形成するべく電流i1を継続して流しても、スパッタが発生し難くなる。
以上の他、4枚以上の金属板で積層体を構成するようにしてもよいことは勿論である。
また、ON/OFFスイッチ98の開閉に代え、図19に示すように、補助電極76a、76bを金属板104a(最外のワーク)から離間させることによって、分岐電流i2を消失させるようにしてもよい。この場合、補助電極76a、76bを変位させることが可能な変位機構(例えば、エアシリンダ等)をブラケット72に設け、この変位機構の作用下に、補助電極76a、76bを金属板104aから離間する方向に上昇させればよい。変位機構は、ガンコントローラ106によって制御することが可能である。
さらに、ON/OFFスイッチ98に代替し、図20及び図21に示すように、切替スイッチ136を設けるようにしてもよい。この場合、切替スイッチ136は、補助電極76a、76bと補助端子56間の電流経路(図20参照)、又は、下チップ70と補助端子56間の電流経路(図21参照)のいずれかを形成する。そして、溶接の初期段階では、図20に示すように、上電極44に供給された溶接電流は、上チップ68、金属板104a、補助電極76a、76b、切替スイッチ136、補助端子56、及び導電端子52bを経由して下電極42に向かう。
すなわち、初期段階では、電流が積層体34aの厚み方向に沿って流れることはなく、このため、金属板104aの内部、ひいては金属板102a、104aの接触面近傍が加熱されるに留まる。
次に、所定時間が経過した後、図21に示すように、切替スイッチ136が切り替えられる。これに伴って、下チップ70と補助端子56間に電流経路が形成される。従って、上電極44に供給された溶接電流は、上チップ68から積層体34aの厚み方向に沿って流れ、下チップ70を通過した後、補助端子56、及び導電端子52bを経由して下電極42に向かう。
この際、金属板100a、102aの接触面近傍、及び金属板102a、104aの接触面近傍に溶融部、ひいてはナゲットが成長する。金属板100a、102aの接触抵抗が大きいので、互いの接触面近傍に大きなジュール熱が発生して十分に加熱されるからである。また、金属板102a、104aは接触抵抗が小さいものの、互いの接触面近傍が既に加熱されているので、該接触面近傍に溶融部が生成することが容易であるからである。
以上のように、溶接の初期段階とそれ以降とで電流の流れ方向を変更することによっても、隣接する金属板同士の間に、十分に成長したナゲットを形成することができる。従って、接合強度に優れた溶接品が得られる。
なお、上記した実施の形態においては、上チップ68から補助電極76a、76bに向かう分岐電流i2を流すようにしているが、補助電極76a、76bと電源50とを電気的に絶縁し、分岐電流i2を発生させることなくスポット溶接を行うようにしてもよい。この場合、補助電極76a、76bは、単なる加圧部材として機能する。
この場合にも、上チップ68から下チップ70に至るまでの加圧力が図3に示すように分布するので、補助電極76a、76bによる押圧を行わない場合(図4参照)に比して、金属板104aと金属板102aとの接触面積が大きくなる。このため、金属板102a、104aの接触面における接触抵抗及び電流密度が大きくなるので、ジュール熱の発生量、換言すれば、発熱量が大きくなる。従って、金属板102a、104aの接触面において、十分な大きさの加熱領域、ひいてはナゲットが成長する。
なお、上チップ68及び補助電極76a、76b(加圧部材)と積層体との間に、第1サポートチップ及びサポート加圧部材を配設するとともに、下チップ70と積層体との間に、第2サポートチップを配設するようにしてもよい。以下、この実施形態につき、積層体34aに対して溶接を行う場合を例示して説明する。
図22は、上サポートチップ150(第1サポートチップ)、サポート加圧部材152a、152b及び下サポートチップ153(第2サポートチップ)を具備する間接給電式溶接装置の要部正面図である。この間接給電式溶接装置では、上チップ68の胴部にブラケット154が装着される。すなわち、該ブラケット154には、その直径が上チップ68の胴部の直径と略同等である貫通孔155が形成されており、この貫通孔155に上チップ68の胴部が通されて嵌合されている。
具体的には、ブラケット154には、2個のアクチュエータ156a、156bが設けられ、これらアクチュエータ156a、156bを構成するチューブ158a、158bからは、加圧部材として機能する補助電極76a、76bが上チップ68と平行に延在するようにして突出している。これら補助電極76a、76bは、前記アクチュエータ156a、156bの作用下に、下チップ70に対して接近又は離間する方向に変位する。すなわち、アクチュエータ156a、156bは、補助電極76a、76bを変位させるための変位機構であり、且つ補助電極76a、76bに加圧力を発生させて制御する加圧力発生/制御機構である。
そして、積層体34aの金属板104aと上チップ68、補助電極76a、76bとの間には、上サポートチップ150、サポート加圧部材152a、152bが配設される。これら上サポートチップ150、サポート加圧部材152a、152bは、図示しない開閉機構に支持された第1開閉ブラケット160に設けられる。この第1開閉ブラケット160は、絶縁体からなる。
上サポートチップ150、サポート加圧部材152a、152bの上端部には、それぞれ、幅広且つ長尺な押圧部材162、164、166が設けられる。押圧部材162、164、166はいずれも導電体である。
図23から諒解されるように、上チップ68、補助電極76a、76bの下端部は、押圧部材162、164、166の各一端部における上面に当接する。一方、上サポートチップ150、サポート加圧部材152a、152bは、押圧部材162、164、166の他端部の下面から突出するように設けられる。
一方、下サポートチップ153は、前記開閉機構に支持された第2開閉ブラケット167に設けられ、且つ下チップ70と、積層体34aの金属板100aとの間に配設される。なお、第2開閉ブラケット167も絶縁体からなる。
図23に示される構成に準拠し、下チップ70の上端部は、下サポートチップ153の下端部に設けられた押圧部材168の一端部における下面に当接する。一方、下サポートチップ153は、押圧部材168の他端部の上面から突出するように設けられる。
この構成の利点につき説明する。
例えば、図24に示すような垂直壁部170を有する成形済ワーク172を含んだ積層体34dに対し、図25に示す角度で溶接を行わざるを得ない場合がある。この場合、図25から諒解されるように、上チップ68、補助電極76a、76bのみでは、補助電極76aが垂直壁部170に干渉したり、積層体34dに対する補助電極76bの当接が不完全になったりする等の不具合が起こる懸念がある。
これに対し、上サポートチップ150、サポート加圧部材152a、152b及び下サポートチップ153を採用した実施の形態によれば、図23に示すように、押圧部材162、164、166、168の長さ方向寸法等を適切に設定することによって、サポート加圧部材152aが垂直壁部170に干渉することを回避し得るとともに、サポート加圧部材152bを積層体34dに十分に当接させることが可能となる。
この間接給電式溶接装置で積層体34a(図22参照)に対して溶接を行うに際しては、先ず、第1開閉ブラケット160及び第2開閉ブラケット167が閉じられる。これにより、溶接箇所近傍に対して、上サポートチップ150、サポート加圧部材152a、152b、及び下サポートチップ153が配置される。その後、上記と同様に、開閉シリンダ64の作用下にガンアーム62が閉じられ、上チップ68と下チップ70が互いに接近する。最終的に、上チップ68、下チップ70が、押圧部材164、168の各一端部上面に当接する。
その一方で、ガンコントローラの作用下にアクチュエータ156a、156bが付勢され、これに対応して、補助電極76a、76bが積層体34aに接近するように下降する。補助電極76a、76bは、押圧部材162、166の一端部上面に当接する。補助電極76a、76bの押圧部材162、166への当接は、上チップ68、下チップ70が押圧部材164、168に当接するのと同時であってもよいし、上チップ68、下チップ70が押圧部材164、168に当接する前又は後であってもよい。
勿論、アクチュエータ156a、156bの推進力及び開閉シリンダ64の駆動力は、金属板104aに対する上チップ68及び補助電極76a、76bの合計加圧力(F1’+F2’+F3’)が、金属板100aに対する下サポートチップ153の加圧力(F4’)と均衡するように制御される。この制御により、積層体34aに対する矢印Y1方向に沿って作用する加圧力(F1’+F2’+F3’)と、矢印Y2方向に沿って作用する加圧力(F4’)とが略同等となり、図3及び図4と同様の加圧力の分布が形成される。
以上の状態が形成された後、ガンコントローラ106が電源50に制御信号を送る。この制御信号を受けた電源50は、正極に接続された上電極44を出発し、下電極42を経由して負極に戻る溶接電流を供給する。
溶接電流は、上電極44から導電端子52a、リード線92、上チップ68、押圧部材164、上サポートチップ150を経由して金属板104aに到達し、金属板102a、100a、下サポートチップ153及び押圧部材168を通過して下チップ70に至る。同時に、金属板104aの内部を伝わってサポート加圧部材152a、152bに到達し、さらに、押圧部材162、166から補助電極76a、76bに向かう電流が発生する。すなわち、図26に示すように、上サポートチップ150(上チップ68)から下サポートチップ153(下チップ70)に向かう電流i1、及び、上サポートチップ150(上チップ68)からサポート加圧部材152a、152b(補助電極76a、76b)に向かう分岐電流i2が流れる。
そして、これら電流i1、分岐電流i2に基づくジュール熱により、金属板100a、102aの間、及び金属板102a、104aの間がそれぞれ加熱され、加熱領域174、176が形成される。
この場合においても、金属板104aと金属板102aとの接触面近傍に十分なジュール熱が発生する。この場合、上チップ68と下チップ70のみで積層体34aを挟持する場合(図5参照)に比して、金属板104aと金属板102aの接触面積が小さくなるために接触抵抗が大きくなるからである。従って、金属板100a、102aの接触面近傍に生成するナゲット178と、金属板102a、104aの接触面近傍に生成するナゲット180とが略同等の大きさに成長する。
溶接が終了した後、ガンアーム62が開いて上チップ68、補助電極76a、76b及び下チップ70が、上サポートチップ150、サポート加圧部材152a、152b及び下サポートチップ153からそれぞれ離間する。さらに、第1開閉ブラケット160、167が開いて上サポートチップ150、サポート加圧部材152a、152b及び下サポートチップ153が積層体34aから離間する。このようにして積層体34aから離間した上サポートチップ150、サポート加圧部材152a、152b及び下サポートチップ153を元の位置に戻すためには、例えば、コイルスプリング等を設ければよい。
この実施の形態においても、サポート加圧部材152a、152bに対して通電を行うことなく、上チップ68と下チップ70間のみに通電を行って溶接を施すようにしてもよい。サポート加圧部材152a、152bに対して通電を行わないようにするには、例えば、サポート加圧部材152a、152bを絶縁体で構成したり、補助電極76a、76bに通電を行わないようにしたりすればよい。
上記した2つの実施の形態においては、金属板104aに当接した上チップ68から、金属板100aに当接した下チップ70に向かう電流を流すようにしているが、図27に示すように、その逆方向に電流が流れるようにしてもよい。この場合にも、金属板104aに当接した補助電極76a、76bの極性を上チップ68と逆にする。すなわち、下電極42を電源50の正極に電気的に接続することで下チップ70及び補助電極76a、76bの極性を正(+)とする一方、上電極44を電源50の負極に電気的に接続することで上チップ68の極性を負(−)とする。これにより、下チップ70から上チップ68に向かう電流i1と、補助電極76a、76bから上チップ68に向かう分岐電流i2とが発生する。
勿論、上サポートチップ150及びサポート加圧部材152a、152b(図22及び図26参照)を用いるときも同様に、サポート加圧部材152a、152bから上サポートチップ150に向かう電流を生じさせるようにしてもよい。
また、図28に示すように、分岐電流i2を、上チップ68が接触した金属板104aのみならず、該金属板104aの直下に位置する金属板102aにも流れるようにしてもよい。
さらに、上チップ68から補助電極76a、76bへの通電、又は上サポートチップ150からサポート加圧部材152a、152bへの通電を停止した後、補助電極76a、76b又はサポート加圧部材152a、152bによる積層体への加圧を続行するようにしてもよい。この場合、例えば、金属板102a、104aの接触面積が大きくなった状態が保たれる。従って、電流i1を流している状況においても、金属板102a、104a間のナゲットを容易に成長させることができる。
いずれの場合においても、補助電極76a、76bは、上記した2本の長尺棒状の補助電極76a、76bに特に限定されるものではない。例えば、1本又は3本以上の長尺棒状体であってもよい。3本以上を用いる場合は、上記の2本の場合と同様に、複数本の補助電極を最外の金属板に対して同時に当接又は離間させるようにしてもよい。また、補助電極は、下チップ70又は上チップ68を囲繞する円環形状体のものであってもよい。