JP2012072063A - 細胞の造腫瘍性試験方法及び腫瘍マーカー - Google Patents

細胞の造腫瘍性試験方法及び腫瘍マーカー Download PDF

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Abstract

【課題】検査用の動物を用いることなく、迅速に、かつ高感度に造腫瘍性試験を代替する方法を提供する。造腫瘍性試験を代替する方法やその方の分野で使用できる新規な形質転換のマーカーを提供する。
【解決手段】被検細胞中のヒトの染色体テロメア領域伸長因子テロメラーゼ(hTERT)遺伝子または低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(IPAS) 遺伝子のmRNAの発現を調べることを含む、被検細胞の造腫瘍性を試験する方法。低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(IPAS)に対する抗体。低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(IPAS)を腫瘍マーカーとして使用する方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、細胞移植治療に用いられる細胞の造腫瘍性を試験する方法に関する。より詳細には、ヒトの染色体テロメア領域伸長因子テロメラーゼ(以下、hTERT)の遺伝子または低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子IPAS(Inhibitory PAS protein) の遺伝子のmRNAの発現の有無を調べることによる、細胞の造腫瘍性を試験する方法に関する。さらに本発明は、新規な腫瘍マーカーIPASに関する。
現在、造腫瘍性試験に関しては、WHOやFDAの指針に従って行われている(非特許文献1)。その方法は、ヌードマウス等の皮下に治療に用いる移植細胞と同等の細胞を加え、細胞の腫瘍化を病理的に検査する方法である。これら従来の方法ではヌードマウス等の動物を用いるため、動物を飼育する特別な施設が必要であり、また、検査結果が出るまでに数カ月の日時を要し、迅速性に欠ける点が大いに問題であった。
細胞移植治療においては、移植後に形質転換する可能がある細胞を、その細胞集団から迅速かつ高感度に検出可能な方法の出現が望まれているが、今までのところ知られていない。ここで、形質転換とは、正常な細胞が無制限に分裂を行うような遺伝的性質に変わることを言う。また、間葉系幹細胞が移植後に腫瘍化を生じるとの報告がある(非特許文献2、3)ものの、その可能性は現在のところ否定されている (非特許文献4、5) 。
Points to Consider in the Characterization of Cell Lines Used to Produce Biologicals (PDF-279KB), http://www.fda.gov/cber/gdlns/ptccell.pdf Rosland GV, Svendsen A, Torsvik A, Sobala E, McCormack E, Immervoll H, Mysliwietz J, Tonn JC, Goldbrunner R, Lonning PE, Bjerkvig R, Schichor C. Long-term cultures of bone marrow-derived human mesenchymal stem cells frequently undergo spontaneous malignant transformation. Cancer Res. 69(13):5331-5339, 2009. Rubio D, Garcia-Castro J, Martin MC, de la Fuente R, Cigudosa JC, Lloyd AC, Bernad A. Spontaneous human adult stem cell transformation. Cancer Res. 65(8):3035-3039, 2005. Torsvik A, Rosland GV, Svendsen A, Molven A, Immervoll H, McCormack E, Lonning PE, Primon M, Sobala E, Tonn JC, Goldbrunner R, Schichor C, Mysliwietz J, Lah TT, Motaln H, Knappskog S, Bjerkvig R. Spontaneous malignant transformation of human mesenchymal stem cells reflects cross-contamination: putting the research field on track-letter. Cancer Res. 70(15):6393-6396, 2010. Bernardo ME, Zaffaroni N, Novara F, Cometa AM, Avanzini MA, Moretta A, Montagna D, Maccario R, Villa R, Daidone MG, Zuffardi O, Locatelli F. Human bone marrow derived mesenchymal stem cells do not undergo transformation after long-term in vitro culture and do not exhibit telomere maintenance mechanisms. Cancer Res. 67(19):9142-9149, 2007.
そこで、本発明の目的は、検査用の動物を用いることなく、迅速に、かつ高感度に造腫瘍性試験を代替する方法を提供することにある。さらに本発明は、前記造腫瘍性試験を代替する方法やその方の分野で使用できる新規な形質転換のマーカーを提供することにある。
本発明者らは、hTERT遺伝子またはIPAS遺伝子のmRNAの発現の有無を調べることにより、細胞集団に含まれる形質転換細胞の有無を高感度に検出でき、その結果、細胞の造腫瘍性を試験できることを見出して本発明を完成させた。さらに、本発明者らは、上記IPASが新規な腫瘍マーカーであることを見出して、本発明を完成させた。
本発明は以下のとおりである。
[1]
被検細胞中のヒトの染色体テロメア領域伸長因子テロメラーゼ(以下、hTERT)遺伝子または低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(以下、IPAS) 遺伝子のmRNAの発現を調べることを含む、前記被検細胞の造腫瘍性を試験する方法。
[2]
hTERT遺伝子のmRNAの発現を調べること、及びIPAS遺伝子のmRNAの発現を調べることで、被検細胞の造腫瘍性を試験する[1]に記載の方法。
[3]
被検細胞が間葉系幹細胞、骨髄細胞、臍帯血移植ドナー細胞、多能性幹細胞または形質転換細胞である[1]に記載の方法。
[4]
多能性幹細胞が、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞(人工多能性幹細胞)、またはMuse(ミューズ)細胞)である[2]に記載の方法。
[5]
形質転換細胞が、正常な細胞が無制限に分裂を行うような遺伝的性質を有するように変化した細胞である[2]に記載の方法。
[6]
被検細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNAを逆転写してcDNAを合成し、合成したcDNAを鋳型として、前記cDNAの存否を確認する[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
cDNAの存否の確認は、定量PCR法を用いて行う[6]に記載の方法。
[8]
被検細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNAの存否を定量RT-PCR法を用いて確認する[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[9]
低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(IPAS)を腫瘍マーカーとして使用する方法。
[10]
生体試料中のIPASの含有を検査することを含む、生体試料に含まれる腫瘍マーカーの検査方法である[9]に記載の方法。
[11]
生体試料が腫瘍、血清、培養細胞または培養上清である[9]または[10]に記載の方法。
[12]
細胞移植に用いる細胞が培養中に形質転換(癌化)することをモニターするための腫瘍マーカーの検査方法である[9]に記載の方法。
[13]
低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(IPAS)に対する抗体。
[14]
低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(IPAS)に対する抗体を用いて、生体試料中のIPASの含有を検査することを含む、生体試料に含まれる腫瘍マーカーの検査方法。
[15]
移植用の細胞の形質転換(癌化)を判定する方法としての[14]に記載の方法。
本発明によれば、検査用の動物を用いることなく、迅速に、かつ高精度に造腫瘍性試験を行える方法を提供することができる。
さらに本発明によれば、新規な腫瘍マーカーであるIPASが提供され、新規な腫瘍マーカーを用いた種々の技術を提供できる。
リアルタイムPCRによるhTERT及びIPAS遺伝子の発現解析の結果について、BioMark Real-Time PCR Analysis Version 2.0.6により作成したヒート・マップ(Heat Map view)を示す。 腫瘍細胞及び正常間葉系細胞について、TERT遺伝子及びいくつかのTERT発現調節因子遺伝子のmRNA発現レベル(GAPDH(Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)比)を示す。 リアルタイムPCRの結果に基づき、BioMark Real-Time PCR Analysis Version 2.0.6により作成したヒート・マップ(Heat Map view)を示す。
[造腫瘍性試験方法]
本発明は、被検細胞の造腫瘍性を試験する方法である。この方法は、被検細胞中のヒトの染色体テロメア領域伸長因子テロメラーゼ(hTERT)遺伝子または低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(IPAS)遺伝子のmRNAの発現の有無を調べることで、前記被検細胞の造腫瘍性を試験する方法である。
本発明において造腫瘍性試験の対象となる被検細胞は、特に制限はないが、例えば、細胞移植治療に用いられる細胞であって、造腫瘍性の確認を要する細胞であることができる。そのような細胞としては、例えば、間葉系幹細胞、骨髄細胞、臍帯血移植ドナー細胞、多能性幹細胞(例えば、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞(人工多能性幹細胞)、Muse(ミューズ)細胞)などを挙げることができる。さらに、造腫瘍性試験の対象となる被検細胞は、形質転換細胞であることもできる。形質転換細胞は、例えば、骨髄間質細胞にTERTを導入した細胞、網膜芽細胞腫、リンパ管腫、胎児性癌、Ewing肉腫などである。
テロメラーゼはテロメア配列の鋳型となるRNAと逆転写酵素、その他の制御サブユニットからなる複合体である。RNA構成要素はTERC(Telomere RNA Component, TRとも表記)、逆転写酵素はTERT(Telomere Reverse Transcriptaseと呼ばれる。このRNAの長さはテトラヒメナで159塩基長、ヒトで451塩基長、出芽酵母で約1,300塩基長と様々である。逆転写酵素の活性部位はRNA型トランスポゾンがコードするそれと相同性がある。過剰発現の実験から、テロメラーゼ活性自体はRNAと逆転写酵素の二つの構成因子で十分であることがわかっているが、テロメラーゼは生体内において巨大な複合体(1MDa以上)を形成しており、正常な機能には他の構成サブユニットも必要である。
ヒトのテロメラーゼは、TERT、TERC、ジスケリン(dyskerin)、TEP1などのサブユニットによって構成されており、それらは異なる染色体上の遺伝子座にコードされている。TERT翻訳産物(タンパク質)は、非翻訳RNAであるTERCと一緒に折りたたまれる。TERTは一本鎖テロメア反復配列を付加できるように染色体の周囲を覆う二股の構造をとる。TERTとテロメアの鋳型を含むTERCは隣接している。ヒトTERCでは鋳型配列領域は3'-CAAUCCCAAUC-5'であり、これを元にTERTはテロメアの3'側へ塩基を付加する(脊椎動物では6塩基配列5'-TTAGGG-3'(GGTTAG)を付加するが、他の生物では別の配列)。テロメラーゼは、この塩基付加を繰り返し、染色体のテロメアの伸長を行う。
ヒトの染色体テロメア領域伸長因子テロメラーゼ(hTERT)は、各種の癌で高率に活性が認められている。また、テロメラーゼ活性はテロメラーゼ触媒サブユニットである Telomerase Reverse Transcriptase(hTERT)によって調節されていると考えられている。ヒトのガン組織の多くではテロメラーゼの活性化がおきており、その観察される割合は肺ガンの80%から食道ガンの95%に及ぶ。但し、テロメラーゼ活性の制限要因であるTERTの発現が見られない腫瘍も観察されており、それらではALT(Alternative Lengthening of Telomeres)と呼ばれるテロメア長を維持する別の機構が見出されている。
本発明では、被検細胞中のhTERT遺伝子のmRNAの発現を検出することで、被検細胞の造腫瘍性を試験する。mRNAの発現の検出方法については後述する。
低酸素誘導性転写因子 /Hypoxia-inducible factor-1(HIF-1)は、低酸素によって活性化される転写因子であり、basic helix-loop-helix (bHLH)-Per-Arnt-Sim (PAS)型蛋白であるHIF-1αとβサブユニットからなるヘテロ二量体であり、各種解糖系酵素、グルコース輸送蛋白、血管内皮増殖因子(VEGF)、造血因子エリスロポイエチンなど、多くの遺伝子の発現を転写レベルで制御し、細胞から組織・個体にいたる全てのレベルの低酸素適応を制御する。低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(IPAS)は、低酸素誘導性転写因子HIF1を抑制する因子であり、内因性のHIF-1シグナル抑制分子である。 IPASは正常マウスにおいて、角膜上皮に豊富に存在し、角膜での血管新生の負の制御に密接に関わることが示されている。さらにIPASが腫瘍血管新生の抑制ツールとしても応用可能であることも明らかにされている。
本発明では、被検細胞中のIPAS遺伝子のmRNAの発現を検出することで、被検細胞の造腫瘍性を試験する。mRNAの発現の検出方法については後述する。
被検細胞中のhTERT遺伝子のmRNAの発現の検出、及びIPAS遺伝子のmRNAの発現の検出には、定量PCR法(Quantitative polymerase chain reaction, Q-PCR)を用いることができる。
定量PCR法は、その産物を迅速に定量できるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の改良型であり、DNA、cDNAまたはRNAの増幅が行われる前の総量を間接的に測る方法である。定量PCR法は、通常は目的の遺伝子配列が存在するかどうか、または何コピー存在するのかを確かめる目的で利用される。定量PCR法には、主に、アガロースゲル電気泳動法、SYBRグリーン(二重鎖DNA染色)法、蛍光プローブ法の3種類の方法が知られている。本発明ではSYBRグリーン(二重鎖DNA染色)法、蛍光プローブ法が、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応を使いリアルタイムに分析が可能であることから好ましい。
リアルタイムPCR(Real-time PCR)は、定量PCR法(Q-PCR)のひとつであり、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) による増幅を経時的(リアルタイム)に測定することで、増幅率に基づいて鋳型となるDNAの定量を行なう方法である。DNAの定量は、蛍光色素を用いて行われ、二種類の方法がある。二本鎖DNAに特異的に挿入(インターカレート)して蛍光を発する色素(SYBR green)を用いる方法と、増幅するDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドに蛍光色素を結合させたプローブを用いる方法である。前者はあらゆる配列に対して同じ試薬を用いることができ汎用性が高いが、プライマー二量体のような非特異的な二本鎖DNAも計測してしまう欠点がある。後者は特異的な配列をもつ蛍光プローブを作成する必要があるが、任意の配列を特異的に定量できる利点がある。本発明では、増幅するDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドに蛍光色素を結合させたプローブを用いる方法が好ましい。
本発明の造腫瘍性試験方法では、被検細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNAを逆転写してcDNAを合成し、合成したcDNAを鋳型として、前記cDNAの存否を確認する。cDNAの存否の確認方法として、上記定量PCR法を用いることができる。あるいは、被検細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNAを定量RT-PCR (quantitative RT-PCR)法に供して、被検細胞中に存在する目的遺伝子であるhTERT及びIPASのmRNAの発現の有無を確認することもできる。定量RT-PCRは、リアルタイムPCRは逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)と組み合わせた方法である、少量のmRNAの定量に適していることから、本発明の方法では好ましく利用できる。
hTERT遺伝子のmRNA及びIPAS遺伝子のmRNAの発現を定量PCR法で検出するために用いるプライマーやプローブは、実施例で具体的に説明する。
被検細胞の造腫瘍性を試験するために候補となり得る因子等としては、hTERT及びIPAS以外にも種々の可能性があり得る。本発明者からは、hTERT及びIPAS以外の生体内物質についても、造腫瘍性試験の指標と成り得るかを検討した(表1及び図1参照)。その結果、16種類の生体内物質について検討し、hTERT及びIPASのみが、造腫瘍性試験として実用可能なレベルの精度を示すことを見出した。
[腫瘍マーカーとしての使用方法]
本発明は、低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(IPAS)を腫瘍マーカーとして用いる方法に関する。IPASを腫瘍マーカーとして用いる方法としては、具体的には、生体試料中のIPASの含有を検査することを含む、生体試料(例えば、腫瘍、血清、培養細胞、培養上清など)に含まれる腫瘍マーカーの検査方法を挙げることができる。また、再生医療(細胞移植)において用いる細胞が培養中に形質転換(癌化)することをモニターするための腫瘍マーカーの検査方法を挙げることもできる。
ここで本発明にかかる「腫瘍マーカー」とは「腫瘍を検出するために用いられるマーカー」を意味する。本発明のマーカーは、被検体由来の血清や血しょうをはじめとする体液を試料として用い、当該試料中のIPASの濃度を測定し、健常者の体液試料中の濃度と比較することによって被検体中の腫瘍を検出することができるものである。より具体的には、被検体由来試料中のIPASの濃度が、健常者由来試料中のそれらより高ければ被検体中に腫瘍が存在すると判断できる。また本発明のマーカーは血清腫瘍マーカーとしても使用できるため、熟練を要する病理形態学的診断を行うことなく、血清や血しょう等を試料として用いた簡便な検査のみで被検体中の腫瘍を検出することができ、多数の検体を効率よく検査することができるという効果を享受することができる。特に本発明のマーカーは、例えば、肉腫、悪性胚細胞腫瘍、肝癌、膵癌、大腸癌、乳癌、前立腺癌などの検出に好ましく用いられ得る。なお、前出の「腫瘍マーカー」とは、その有無や濃度、変異の状況などを検出することによって、被検体中に腫瘍(癌)が存在するかどうかを判定し得る物質のことを意味する。
ここで「IPAS」は、その遺伝子が既にクローニングされており、そのcDNA(mRNA)の塩基配列がGenBankに登録されている(Accession No. NM_022462.3、NM_152794.2、NM_152795.2)。IPASのアミノ酸配列を配列番号1に示し、IPAS遺伝子であるcDNAの塩基配列を配列番号2に示す。なお、IPASのアミノ酸配列はこれに限定されるものではなく、配列番号1に示されるアミノ酸は列を有するIPASの変異体も含まれる。すなわちIPASをコードするIPAS遺伝子の起源や、突然変異によって生じ得る変異タンパク質も、本発明の説明におけるIPASに含まれる。換言すれば、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有する変異タンパク質も、本発明の説明におけるIPASに含まれる。上記「1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加された」とは、特に限定されるものではないが、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、及び/又は付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されるものであることを意味する。なお、IPASの機能については、これまで特定されておらず、またIPASの血清中の濃度と、腫瘍との関連性については一切知られていない。
[IPASに対する抗体]
本発明は、低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(IPAS)に対する抗体を包含する。IPASに対する抗体は、IPASに対して特異的に結合するものである。抗原であるIPASは上記アミノ酸配列または塩基配列に基づいて、常法により調製できる。
さらに、IPASを抗原とする抗体は、公知の方法により調製でき、その作製方法は特に限定されるものではない。例えば、HarLowら、「Antibodies:A laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988)」、岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)等の方法を用いて作製することができる。また、上記抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよく、またIPASに特異的に結合し得る完全な抗体分子のみならず、例えば、FabおよびF(ab’)2フラグメントのような抗体フラグメントであってもよい。FabおよびF(ab’)2フラグメントは完全な抗体のFc部分を欠いており、循環によってさらに迅速に除去され、そして完全な抗体の非特異的組織結合をほとんど有し得ないため(Wahlら、J.Nucl.Med.24:316−325(1983))、好ましく用いることができる。
[IPASに対する抗体を用いる腫瘍マーカーの検査方法]
本発明は、IPASに対する抗体を用いて、生体試料中のIPASの含有を検査することを含む、生体試料に含まれる腫瘍マーカーの検査方法を包含する。
検査工程において、被検体由来試料中のIPASの濃度を測定する場合、IPASと特異的に相互作用する物質、例えば、IPASに特異的な抗体(「抗IPAS 抗体」という)を用い、ウェスタンブロット法、ELISA法(固相酵素免疫検定法)、免疫沈降法、免疫組織化学法、抗体アレイ法などの公知の方法を適宜採用の上、適用すればよい。上記の測定法の内、より感度が高く、簡便であるという点から、ELISA法が好ましい。なお、これらの測定法の具体的な条件は、当業者が適宜設定し得る事項である。
ここでELISA法は、上記被検体試料に含まれるタンパク質をマルチウェルプレート(「マイクロタイタープレート」ともいう)に固定し、その後、抗IPAS抗体によって、IPAS濃度を検出する方法である。例えば、IPASに結合した抗体を、アルカリフォスファターゼまたはペルオキシダーゼ結合抗IgG抗体などを2次抗体として用いて検出すればよい。またELISA法は、サンドイッチ法であってもよい。
他方、ウェスタンブロット法は、被検体由来試料をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動で分離させた後、ニトロセルロース膜などに転写し、抗IPAS抗体によって、IPAS濃度を検出する方法である。IPASに結合した抗体を、例えば、125I−標識プロテインA、ペルオキシダーゼ結合抗IgG抗体などを2次抗体として用いて検出すればよい。IPAS濃度は、例えば、デンシトメーター等を用いて得られるシグナル強度を確認することにより測定され得る。すなわち、シグナル強度が強いほどIPAS濃度が高いと判断され、検量線を用いて濃度が測定され得る。
本発明の検出方法の一実施形態は、上記のようにして測定された被検体由来試料中のIPASの濃度が、健常者由来試料中のこれらの濃度に比して高いかどうかを指標として被検体試料中の腫瘍を検出する。ここで、被検体由来試料中のIPASの濃度と、健常者由来試料中のこれらとの比較は、被検体由来試料と同時に健常者由来試料について上記測定工程を実施し、これによって得られた濃度とを比較することによって実施され得る。この時、被検体由来試料中のIPASの濃度が健常者由来試料中のこれらの濃度に比して高いかどうかは、両者を比較して相対的に判断すればよい。また、被検体由来試料中のIPASの濃度と、健常者由来試料中のこれらとの比較は、あらかじめ測定された健常者由来試料中のIPASの濃度と、被検体由来試料について測定されたこれらの濃度とを比較することによって実施されてもよい。さらに、被検体中の腫瘍の有無を判断し得る境界値(カットオフ値)をあらかじめ設定しておいて、被検体由来試料中の濃度が当該境界値より高いかどうかで被検体由来試料中の腫瘍の有無を判断してもよい。
ここで、上記境界値は、用いられる試料によって変動し得るために限定されるものではない。なお、本発明の検出方法においては、被検体由来試料中のIPASの濃度が上記境界値よりそれぞれ高ければ、被検体中に腫瘍が存在すると判断することができる。また逆に被検体由来試料中のIPASの濃度が上記境界値よりそれぞれ低ければ被検体中に腫瘍が存在しないと判断することができる。
(実施例1)
以下、正常細胞と腫瘍細胞との間で、定量PCR法により、注目する遺伝子の発現量の差異について調べた。
正常細胞(骨髄、皮質骨、爪、海綿骨)、腫瘍細胞1(胎児性がん)、腫瘍細胞2(Ewing肉腫)、TERT導入細胞(UE6E7T-11)、形質転換細胞11(網膜芽細胞腫)、21(リンパ管腫)から、TRIZOL(インビトロジェン)を用いてトータルRNAを抽出し(1mlのTRIzol Reagentをプレートに直接加え、細胞ライセートを数回ピペッティングした。チューブに移し、室温で5分間インキュベートする。200μlのクロロホルムを加え、15秒間力強く振った。室温で2〜3分間インキュベートする。4℃で15分間、12,000g以下で遠心した。上層にある水層を新しいチューブに移し、200μlのSP水と200μlのクロロホルムを加えた。クロロホルム抽出した(6〜8と同じ操作)。上層にある水層を新しいチューブに移し、500μlのイソプロパノールを加えボルテックスした。室温で10分間インキュベートし、4℃で15分間、12,000g以下で遠心した。上清を捨て、1mlのエタノールでリンスした。4℃で5分間、7,500g以下で遠心した。乾燥後、RNase-free waterに溶かす。)、cDNA合成を行った。cDNA合成には、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit (Applied Biosystems Cat. No. 4368813)を用いた。逆転写反応の組成は、以下の通りである。
10×RTバッファー 2.0μL
25×dNTPミックス(100mM) 0.8μL
10×RTランダム・プライマー 2.0μL
RNaseインヒビター 1.0μL
MultiScribe Reverse
Transcriptase(逆転写酵素) 1.0μL
RNA(RNaseフリー水中) 13.2μL(444.4ng)
(反応液総量:20μL)
逆転写反応は、25℃で10分間、37℃で120分間、85℃で5分間、反応液をインキュベートすることにより行った。その後、4℃で保存した。
合成した各cDNA試料について、TaqMan(登録商標)Universal Master Mix, No AmpErase(登録商標)UNG(Applied Biosystems Cat. No. 4326614)を用いて、リアルタイムPCRを行い、各試料における注目する各遺伝子のmRNA発現量を調べた。リアルタイムPCRによる発現解析には、48.48 Dynamic Arrayを採用したBioMark(商標)Real-Time PCRシステム(Fluidigm社)を使用した。PCR反応のサイクル条件は、50℃で2分間、95℃で10分間、次いで、95℃で15秒間及び60℃で1分間を40サイクルとした。
解析システムとして、Fluidigm IFC controller(Fluidigm社)及びFluidigm BioMark (Fluidigm社)を用い、解析ソフトとして、BioMark Data Collection Version 2.0.6 (Fluidigm社)及びBioMark Real-Time PCR Analysis Version 2.0.6(Fluidigm社)を用いた。リアルタイムPCR及びデータの解析については、Fluidigm社によって提供される各マニュアルに従って行った。
表1に、リアルタイムPCRによりmRNA発現量を調べた遺伝子群、及びそれらのNCBIのアクセション番号を示す。尚、リアルタイムPCRに用いたプローブは、Applied Biosystems社よって提供されたものである。
上記リアルタイムPCRによるhTERT及びIPAS遺伝子の発現解析の結果を図1に示す。定量RT-PCR(qRT-PCR: quantitative RT-PCR)は、BioMark Real-Time PCR Analysis Version 2.0.6により行い、作成したヒート・マップ(Heat Map view)を図1に示す。縦軸のそれぞれのRunは、細胞種類の違いであり、それぞれの番号が個々の細胞に対応する。横軸は、遺伝子発現を調べた遺伝子の名前である。解析した細胞は、TERT導入細胞(UE6E7T-11細胞)、正常細胞(A13を除く検体は正常骨髄由来細胞の検体であり、A13は爪由来正常細胞の検体である)、胎児性癌(B1:NCR-G1, B2:NCR-G2、B3:NCR-G3, B4:NCR-G4)、Ewing肉腫(C1:NCR-EW2, C2:NCR-EW3)、網膜芽細胞腫(D1, D2, D3は患者に由来する腫瘍検体番号)、リンパ管腫(E1, E2, E3は患者に由来する腫瘍検体番号)である。図1に示す通り、正常細胞ではTERT遺伝子及びIPAS遺伝子の発現が確認されなかったが、腫瘍細胞1及び2では、これら二つの遺伝子の発現が確認された。
また、TERTおよびTERT発現調節因子群の発現解析を図1と同様にリアルタイムPCRで行った結果を図2に示す。間葉系細胞(hMSCs)と腫瘍細胞(Tumors)にて、TERT遺伝子とTERT発現調節遺伝子群(c-myc, SIP1, SIRT1, Ets1)の発現を定量RT-PCRにて定量した。それぞれの遺伝子発現量は、GAPDH発現量との比で表わす相対値(GAPDH比)で示した。TERT遺伝子は、間葉系細胞と腫瘍細胞にて明確な差異を示した。
(実施例2)
実施例1に記載の逆転写反応及びリアルタイムPCR法について、TERT遺伝子のmRNA検出感度について評価した。逆転写反応液に添加したRNA試料について、各細胞のRNA量の持込み量を以下に説明の通り変化させた以外は、実施例1に記載の通り逆転写反応及びリアルタイムPCR反応を行った。
TERT発現細胞(UE6E7T−11)から抽出したRNAと、TERT非発現細胞である間葉系細胞(Yub621)から抽出したRNAとを、表2に示す各割合で逆転写反応液に添加した。また、逆転写反応液の組成は以下の通りである。
RNaseフリー水 3.2μL
10×RTバッファー 2.0μL
25×dNTPミックス(100mM) 0.8μL
10×RTランダム・プライマー 2.0μL
RNaseインヒビター 1.0μL
MultiScribe Reverse
Transcriptase(逆転写酵素) 1.0μL
RNA(UE6E7T−11) 5.0μL
RNA(Yub621) 5.0μL
(反応液総量:20μL)
本実施例では、1細胞当たりのRNA量を50pgと仮定した。表2に示す通り、各混合比における総RNA量444.4ngを逆転写反応液に添加し(反応液総量:20μL)、cDNAの合成後、逆転写産物を2倍希釈し(総量:40μL)、そのうち2.25μL(RNA換算で25ng)をリアルタイムPCRに用いた。リアルタイムPCRの反応液に50pgRNA(1細胞)に相当するcDNAを持ち込む場合、逆転写反応液には50pgの17.8倍の890pgのRNAが必要になる。すなわち、表2において、UE6E7T−11の細胞数、Yub621の細胞数とは、各細胞について50pgRNAに相当するcDNAがリアルタイムPCR反応液に持ち込まれる場合を細胞数1として、換算した値である。
TERT遺伝子の発現解析を目的として、各サンプルについて、リアルタイムPCRの結果に基づき、BioMark Real-Time PCR Analysis Version 2.0.6により作成したヒート・マップ(Heat Map view)を図3に示す。図3においては、TERT遺伝子を発現する細胞(骨髄由来不死化細胞UE6E7T-11)と、TERT遺伝子を発現しない細胞(骨髄由来正常細胞Yub621)を混合させ、TERT遺伝子の発現量を定量することにより、本法の検出感度を検討した。一定の割合を混合させたサンプルにおいて、それぞれ12回の検討を行い、12個のパネルで発現量を示した。発現量は、定量RT-PCR(qRT-PCR)の増幅サイクル数によって決定され、上図に示した色で表した。1000個に1個の割合(0.1%)でTERT遺伝子を発現する細胞を混合されることにより、12回のうち過半数(7回)にて発現を検出できた。本実験では、1サンプル中に20コピー(0.5個のTERT遺伝子発現細胞に相当)のTERT遺伝子RNAが存在することで、「発現あり」と判定可能である。図3に示す結果から、本実施例では、TERT発現細胞(UE6E7T−11)0.5個及び間葉系細胞(Yub621)499.5個の混合物において、TERT発現細胞の有無を確認することができた。
すなわち、本発明の方法によれば、腫瘍化細胞と正常細胞との混合試料において、1000個の細胞中に含まれる1個の腫瘍化細胞の有無を検出することが可能であり、高い検出感度が実証された。
本発明は、細胞移植治療など細胞に関する技術分野に有用である。

Claims (15)

  1. 被検細胞中のヒトの染色体テロメア領域伸長因子テロメラーゼ(以下、hTERT)遺伝子または低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(以下、IPAS)遺伝子のmRNAの発現を調べることを含む、前記被検細胞の造腫瘍性を試験する方法。
  2. hTERT遺伝子のmRNAの発現を調べること、及びIPAS遺伝子のmRNAの発現を調べることで、被検細胞の造腫瘍性を試験する請求項1に記載の方法。
  3. 被検細胞が間葉系幹細胞、骨髄細胞、臍帯血移植ドナー細胞、多能性幹細胞または形質転換細胞である請求項1に記載の方法。
  4. 多能性幹細胞が、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞(人工多能性幹細胞)、またはMuse(ミューズ)細胞)である請求項2に記載の方法。
  5. 形質転換細胞が、正常な細胞が無制限に分裂を行うような遺伝的性質を有するように変化した細胞である請求項2に記載の方法。
  6. 被検細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNAを逆転写してcDNAを合成し、合成したcDNAを鋳型として、前記cDNAの存否を確認する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. cDNAの存否の確認は、定量PCR法を用いて行う請求項6に記載の方法。
  8. 被検細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNAの存否を定量RT-PCR法を用いて確認する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  9. 低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(IPAS)を腫瘍マーカーとして使用する方法。
  10. 生体試料中のIPASの含有を検査することを含む、生体試料に含まれる腫瘍マーカーの検査方法である請求項9に記載の方法。
  11. 生体試料が腫瘍、血清、培養細胞または培養上清である請求項9または10に記載の方法。
  12. 細胞移植に用いる細胞が培養中に形質転換(癌化)することをモニターするための腫瘍マーカーの検査方法である請求項9に記載の方法。
  13. 低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(IPAS)に対する抗体。
  14. 低酸素誘導性転写因子HIF1抑制因子(IPAS)に対する抗体を用いて、生体試料中のIPASの含有を検査することを含む、生体試料に含まれる腫瘍マーカーの検査方法。
  15. 移植用の細胞の形質転換(癌化)を判定する方法としての請求項14に記載の方法。
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