JP2012061481A - アルミニウム合金板材のプラズマ溶接方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】被溶接材として厚さが0.5〜3mmのアルミニウム合金板材1を複数用い、タングステン電極11とアルミニウム合金板材1との間にプラズマアークを発生させる直流正極性プラズマ溶接法によって突き合わせ端部1a、1a同士を溶接する方法であり、プラズマガスPGとしてヘリウム濃度が75体積%以上とされたヘリウム−アルゴン混合ガスを用い、タングステン電極11と被溶接材であるアルミニウム合金板材1との間の距離を2mm以下とし、直流正極性プラズマ溶接時における次式{60×(EI/Vt)}で表される単位板厚あたりの入熱量Qhiを、2500(J/cm2)以上10000(J/cm2)未満の範囲とする。
【選択図】図1
Description
そして、プラズマ溶接機10は、タングステン電極11に溶接電流を印加しながら、図示略のガス供給手段により、タングテン電極11とプラズマノズル12との間にプラズマガスPGを供給するとともに、プラズマノズル12とシールドキャップ13との間にシールドガスSGを供給する。これにより、タングステン電極11と、被溶接材であるアルミニウム合金板材1との間にアークAを発生させ、複数のアルミニウム合金板材1の突き合わせ端部1a,1aの間を溶接する。ここで、アーク(プラズマアーク)A発生の順序について説明すると、まず、パイロットアーク電源15からの電流がタングステン電極11とプラズマノズル12間に印加されて予備プラズマが生じる。その後、メイン電源14からの電流がタングステン電極11とアルミニウム合金板材1との間に印加されることにより、定常的なプラズマアーク(アークA)がタングステン電極11とアルミニウム合金板材との間に発生する。
(1)直流逆極性:直流でタングステン電極をプラス、母材をマイナスとする形態。マイナス側である母材の表面にアークの発生しやすい陰極点が形成され、ここにアークが集中して母材表面の酸化膜が除去される。これはクリーニング作用と呼ばれ、母材の表面皮膜の除去に有効となる。しかしながら、アーク中の電子がタングステン電極に高速で衝突するため、電極の損傷が非常に激しく、長時間の溶接が非常に困難になるという欠点があるため、実用的にはほとんど用いられていない。
(2)直流正極性:直流でタングステン電極をマイナス、母材をプラスとする形態。アーク中の電子は母材側に衝突するため、母材の溶け込み量が大きく、また、電極の損傷は少ないという利点があることから、鉄鋼材料の分野で好適に用いられている。しかしながら、上記(1)に示す逆極性で得られるクリーニング作用を持たないため、アルミニウム合金材料の溶接に適用した場合には、母材表面の酸化皮膜を除去することができないことから、ブローホール欠陥が低減できないという欠点がある。
(3)交流:数十Hzの周期で極性がプラスとマイナスに交互に反転する交流溶接であり、上記(1)に示す逆極性アークと、上記(2)に示す正極性アークの中間的な特徴を備える。即ち、逆極性アークによるクリーニング作用と、正極性アークによる深溶け込みの効果をそれぞれ備える。
しかしながら、特許文献4に記載の直流プラズマ溶接を用いた方法は、被溶接材として板厚が10mm以上の金属材料を用い、さらに、ルートギャップを2mm以上とした条件で溶接を行うものである。特許文献4に記載の直流プラズマ溶接条件を、厚さが3mm以下の薄板であるアルミニウム合金板材に適用した場合には、上記同様、母材表面の酸化皮膜を除去することができず、ブローホール欠陥が低減できないという問題がある。
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
Qhi = 60×(EI/Vt) ・・・・・(1)
{但し、上記(1)式において、Qhi:入熱量(J/cm2)、E:溶接電圧(V)、I:溶接電流(A)、V:溶接速度(cm/min)、t:板厚(cm)を示す。}
そして、本発明においては、プラズマガスPGとして、ヘリウム濃度が75体積%以上とされたヘリウム−アルゴン混合ガスを用い、タングステン電極11とアルミニウム合金板材1との間の距離hを2mm以下とし、下記(1)式で表される単位板厚あたりの入熱量Qhiを2500(J/cm2)以上10000(J/cm2)未満の範囲としてアルミニウム合金板材1をプラズマ溶接する。
Qhi = 60×(EI/Vt) ・・・・・(1)
但し、上記(1)式において、Qhi:入熱量(J/cm2)、E:溶接電圧(V)、I:溶接電流(A)、V:溶接速度(cm/min)、t:板厚(cm)を示す。
本発明が適用可能なアルミニウム合金板材としては、特に限定されず、自動車用部品や各種機械部品等の分野において一般的に用いられている、アルミニウム合金材料からなる薄板をプラズマ溶接するにあたり、何ら制限なく適用することが可能である。
本発明が適用可能なアルミニウム合金板材の化学成分組成及び金属組織については、特に限定されるものではない。例えば、自動車部品分野等において一般的に用いられるような、強度特性等を考慮しながら決定された成分及び組織を有するアルミニウム合金板材を、何ら制限無く適用することが可能である。
本発明が適用される、被溶接材であるアルミニウム合金板材1の厚さは、例えば、自動車部品等の分野で用いられる薄板において一般的な肉厚である0.5〜3mmの範囲である。板厚が上記範囲よりも薄いアルミニウム合金板材は、構造体として用いるには、強度並びに剛性の点で不十分である。また、板厚が薄いことから、アーク電流やアーク長のゆらぎにより、瞬時に溶け落ちや穴あき欠陥が生成してしまうという問題がある。従って、板厚が0.5mm未満のアルミニウム合金板材は、本発明の適用対象外とする。
本発明においては、アルミニウム合金板材1のプラズマ溶接に用いる電源の種類として、直流正極性を採用している。この直流正極性は、タングステン電極11側がマイナスで、被溶接材のアルミニウム合金板材1側がプラスとなる組み合わせであるが、この場合、マイナス極(タングステン電極)から出た電子が、高速でアルミニウム合金材料に衝突し、多量の熱が発生するので、上述した3種類(直流逆極性、直流正極性、交流)の電源形態の中で、最も発熱量が大きなものとなる。また、これに加えて、直流電源を採用することにより、非常に安定したプラズマアークが得られる。
本発明においては、プラズマガスPGとして、ヘリウム濃度が75体積%以上とされたヘリウム−アルゴン混合ガスを用い、直流正極性プラズマ溶接を行う。従来、アルミニウム合金材料をプラズマ溶接する際には、アルゴンガスからなるプラズマガスが一般的に用いられていたが、本発明においては、上述したようなヘリウムを主成分とする混合ガスを用いる。
ヘリウムガスは軽元素からなるガスであることから、その性質上、熱的ピンチ効果により、アークは収縮される傾向にあることから電流密度も高く、アルゴンガスのみを用いた場合に比べて、アーク電圧が2倍程度と非常に高い。従って、アルゴンガスのみからなるプラズマガスを用いた場合に比べ、非常に高いエネルギーを有するアークが得られる。
本発明においては、直流正極性プラズマ溶接を行うにあたり、タングステン電極11と、被溶接材であるアルミニウム合金板材1との間の距離h(図1中の符号hを参照)を2mm以下に規定する。
本発明においては、直流正極性プラズマ溶接時における、下記(1)式で表される単位板厚あたりの入熱量Qhiを、2500(J/cm2)以上10000(J/cm2)未満の範囲に規定する。
Qhi = 60×(EI/Vt) ・・・・・(1)
但し、上記(1)式において、Qhi:入熱量(J/cm2)、E:溶接電圧(V)、I:溶接電流(A)、V:溶接速度(cm/min)、t:板厚(cm)を示す。
一般に、溶接入熱Q(J/cm)は、溶接電圧E(V)、溶接電流I(A)、溶接速度V(cm/min)の各々から導き出される、単位長さあたりの電気エネルギーとして定義され、次式{Q=(60×EI)/V}で表される。そして、(1)式で表されるように、溶接入熱Qを板厚t(cm)で除することにより、単位板厚あたりの入熱量Qhi{60×(EI/Vt)}が導き出される。
被溶接材として幅25mm、長さ200mm、厚さ1.2mmのアルミニウム合金板材(JIS A6022P−T4)を2枚用意し、それぞれのアルミニウム合金板材の長辺同士を突き合わせて溶接することより、幅50mm、長さ200mmの溶接体とした。
まず、溶接の前処理としてワイヤブラシによる一般的な酸化膜除去を行った後、交流プラズマ溶接法を用いて溶接を行った。この際の溶接速度は1.2m/minとし、板厚方向において完全に溶け込む溶接条件とした。また、プラズマガスとして、アルゴンガス、アルゴン−ヘリウム混合ガス、ヘリウムガスをそれぞれ用い、タングステン電極とアルミニウム合金板材との間の距離(電極間距離)を1mmから5mmまで変化させて溶接を行った。この際の入熱量Qhiは3300〜7900(J/cm2)の範囲であった。
被溶接材として幅25mm、長さ200mm、厚さ1.2mmのアルミニウム合金板材(JIS A6022P−T4)を2枚用意し、それぞれのアルミニウム合金板材の長辺同士を突き合わせて溶接することより、幅50mm、長さ200mmの溶接体とした。
まず、溶接の前処理としてワイヤブラシによる一般的な酸化膜除去を行った後、直流正極性プラズマ溶接法を用いて溶接を行った。この際の溶接速度は1m/minとし、板厚方向において完全に溶け込む溶接条件とした。また、プラズマガスとして、アルゴンガス、アルゴン−ヘリウム混合ガス、ヘリウムガスをそれぞれ用い、タングステン電極とアルミニウム合金板材との間の距離(電極間距離)を0.5mmから5mmまで変化させて溶接を行った。この際の入熱量Qhiは3000〜7900(J/cm2)の範囲であった。
被溶接材として板厚が0.5mm〜4mmの範囲のJIS A6022P−T4、JIS A3004P−H32、JIS A5182P−Oの3種類のアルミニウム合金板材を用意した(下記表1に示す各成分も参照)。これらを、各々、幅25mm、長さ200mmの寸法に切り出し、それぞれの被溶接材の長辺同士を突き合わせ溶接することにより、幅50mm、長さ200mmの溶接体とした。
まず、溶接の前処理としてワイヤブラシによる一般的な酸化膜除去を行った後、直流正極性プラズマ溶接法を用いて溶接を行った。この際、プラズマガスとしてヘリウムガスを用い、タングステン電極とアルミニウム合金板材との間の距離(電極間距離)を0.5mmから3mmまで変化させて溶接を行った。また、溶接速度は0.4〜1.5m/minまで変化させた。この際の入熱量Qhiは2200〜10300(J/cm2)の範囲であった。
上記実施例における溶接結果の評価は、溶接部の表裏面の目視観察と、溶接部の断面の光学顕微鏡観察により行った。
まず、溶接部の表裏面の状態を目視検査によって行った。表面の検査では、ビード表面におけるピット状の欠陥発生の有無、ビードの溶け落ち(垂れ落ち)の有無を検査し、また、裏面の検査では、ビード裏面に裏波が出ない溶け込み不足の有無を観察した。そして、観察後に、上記不具合が見られる場合を不合格とし、表面が平滑で上記各欠陥が認められなかった場合を合格とし、結果を表2〜表4の各々に記した。
溶接部を溶接進行方向と直角に切断し、研磨・エッチングによって溶接部断面のマクロ組織を現出した後、目視及び光学顕微鏡観察により、溶接部内におけるブローホールや割れの発生の有無を観察した。そして、これらの欠陥が認められなかった場合を合格とし、また、見られた場合を不合格とし、結果を表2〜表4の各々に記した。
表裏面観察及び断面観察の結果、いずれも合格の場合を合格(○)とし、少なくともいずれかが不合格の場合を不合格(×)とし、結果を表2〜表4の各々に記した。
<比較例>
(実施例1)
実施例1における比較例1〜9は、交流プラズマ溶接の場合の結果である。表2に示すように、これら比較例1〜9は、プラズマガスをヘリウムとした場合でもピット並びにブローホールが観察され、全て不合格であった。また、タングステン電極とアルミニウム合金板材との間の距離を種々変化させた場合でも、結果は同様で改善することができず、不合格となった。
これら比較例1〜9は、何れも溶接電源に交流を用いたために、上記結果となったものと考えられる。なお、比較例4の接合体の断面観察で見られたブローホールの例を、図4に示す(図中の符号Bを参照)。
実施例2における比較例10〜14は、電源を直流正極性とし、プラズマガスをアルゴンとした場合の結果である。表3に示すように、比較例10〜14は、電極間距離を種々変化させた場合でも、ピット並びにブローホールが観察され、上記同様、不合格であった。
これら比較例10〜14は、何れもプラズマガスにアルゴンを用いたため、上記結果となったものと考えられる。
これら比較例15〜18は、何れもプラズマガスにアルゴンが高濃度のものを用いたため、上記結果となったものである。
比較例19〜21では、何れも電極間距離が長過ぎるためにアークが広がり、エネルギー密度が低下したため、上記結果となったものである。なお、比較例19における表面観察で、ビード表面に見られたピットの例を図5に示す(図中の符号Pを参照)。
これら比較例22〜24は、何れも電極間距離が長すぎてアークが広がり、エネルギー密度が低下したため、上記結果となったものである。
実施例3における比較例25、30は、電源を直流正極性とし、プラズマガスにヘリウムを用い、電極間距離を1mmとした場合の結果である。表4に示すように、比較例25、30は、ビードの裏面観察の結果が不合格であった。なお、比較例25、30では、断面検査は実施しなかった。
これら比較例25、30が不合格となった理由としては、入熱量が本発明で規定する下限値の2500(J/cm2)を下回っていたため、溶け込みが不十分であったためである。
これら比較例26、27が不合格となった理由としては、入熱量が本発明で規定する範囲の上限(10000(J/cm2)未満)を上回っていたため、溶け落ち(穴あき)が発生したためである。
比較例28が不合格となった理由としては、電極間距離が長すぎてアークが広がり、エネルギー密度が低下したためである。
比較例29が不合格となった理由としては、電極間距離が長すぎてアークが広がり、エネルギー密度が低下したためである。
比較例31が不合格となった理由としては、上述のように、板厚が本発明の対象であるアルミニウム合金板材の上限を超えており、投入した総入熱量が過大となったためである。
(実施例2)
実施例2における本発明例1〜3は、電源を直流正極性とし、プラズマガスに75体積%ヘリウム/25体積%アルゴンの混合ガスを用い、電極間距離をそれぞれ0.5mm、1mm、2mmとした場合の結果である。表3に示すように、本発明例1〜3は、表裏面状態、断面状態ともに欠陥は観察されず、総合評価は合格であった。
実施例3における本発明例7〜9は、電源を直流正極性とし、プラズマガスにヘリウムを用い、電極間距離をそれぞれ、1mm、1mm、2mmとした場合の結果である。表4に示すように、本発明例7〜9は、裏面状態、断面状態ともに欠陥は観察されず、総合評価は合格であった。
1a…突き合わせ端部、
10…プラズマ溶接機、
11…タングステン電極、
12…プラズマノズル、
13…シールドキャップ、
14…メイン電源部、
15…パイロットアーク電源、
PG…プラズマガス、
SG…サイドシールドガス、
A…アーク、
h…タングステン電極とアルミニウム合金板材との間の距離、
Qhi…単位板厚あたりの入熱量、
E…溶接電圧、
I…溶接電流、
V…溶接速度、
t…板厚、
Claims (1)
- 被溶接材として厚さtが0.5〜3mmのアルミニウム合金板材を複数用い、隣接する前記アルミニウム合金板材の端部同士を突き合わせ、タングステン電極と該タングステン電極を包囲するプラズマノズルとの間にプラズマガスを供給するとともに、前記プラズマノズルと該プラズマノズルを包囲するシールドキャップとの間にシールドガスを供給し、前記タングステン電極と前記アルミニウム合金板材との間にプラズマアークを発生させる直流正極性プラズマ溶接法により、前記アルミニウム合金板材の突き合わせ端部同士を溶接するアルミニウム合金板材のプラズマ溶接方法であって、
前記プラズマガスとして、ヘリウム濃度が75体積%以上とされたヘリウム−アルゴン混合ガスを用い、
前記タングステン電極と、被溶接材である前記アルミニウム合金板材との間の距離を2mm以下とし、
直流正極性プラズマ溶接時における、下記(1)式で表される単位板厚あたりの入熱量Qhiを、2500(J/cm2)以上10000(J/cm2)未満の範囲とすることを特徴とするアルミニウム合金板材のプラズマ溶接方法。
Qhi = 60×(EI/Vt) ・・・・・(1)
{但し、上記(1)式において、Qhi:入熱量(J/cm2)、E:溶接電圧(V)、I:溶接電流(A)、V:溶接速度(cm/min)、t:板厚(cm)を示す。}
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