JP2012060913A - 新規なスチレンモノオキシゲナーゼ、その製造方法、およびこれを利用する光学活性なスチレンオキシドの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ロドコッカスsp.ST-5株およびST-10株においてスチレンの分解に関与しているスチレン代謝遺伝子を単離するため、ST-5株およびST-10株のゲノムDNAに対し、縮重PCRおよびTAIL-PCRを実施した。その結果本発明者らは、これらの株より、新規なスチレンモノオキシゲナーゼ(SMO)をコードする遺伝子を単離することに成功した。
【選択図】なし
Description
細菌によるスチレンの分解に関して、2つの異なる経路が報告されている。第一の経路は、ビニル側鎖の酸化を含む経路である。第二の経路は、芳香環の酸化を含む経路である(非特許文献11、12)。
スチレン→スチレンオキシド→フェニルアセトアルデヒド→2-フェニルエタノールおよびフェニル酢酸。
しかしながら、これらの株からスチレン分解に関与している遺伝子は見出されておらず、代謝機構の詳細は不明なままであった。
一方ST-10株については、3つのORFを見出すことに成功した。これらのORFのうち2つは、SMOおよびフラビンオキシドレダクターゼに対応する遺伝子であると判断された(図1および図2)。なお残りの1つについては、ロドコッカス属にのみホモログが見出される機能未知タンパク質と高い類似性を示した。
本発明者らは、これらの遺伝子によってコードされるポリペプチドの作用を明らかにして本発明を完成した。すなわち本発明は、新規なスチレンモノオキシゲナーゼをコードするDNA、該DNAによりコードされるスチレンモノオキシゲナーゼ、該スチレンモノオキシゲナーゼの製造方法、および該スチレンモノオキシゲナーゼを用いるスチレンの分解方法並びに光学活性なスチレンオキシドの製造方法などに関する。
〔1〕以下(a)から(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(a)配列番号:1または3に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含み、かつ下記(1)および(2)に記載の理化学的性質を有するスチレンモノオキシゲナーゼをコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号:1または3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ下記(1)および(2)に記載の理化学的性質を有するスチレンモノオキシゲナーゼをコードするポリヌクレオチド;および
(e)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有し、かつ下記(1)および(2)に記載の理化学的性質を有するスチレンモノオキシゲナーゼをコードするポリヌクレオチド;
(1)作用
FADH2(還元型FAD)を補酵素として、スチレンおよび3−クロロスチレンに作用し、それぞれ、光学活性なスチレンオキシドおよび光学活性な3−クロロスチレンオキシドを生成する。
(2)分子量
ゲル濾過におけるヒスチジンを含む分子量が59,000で、SDS-PAGEによる分子量が49,000、アミノ酸組成からの推定分子量が47,000のモノマー酵素である。
〔2〕ロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物由来である、〔1〕に記載のポリヌクレオチド。
〔3〕前記ロドコッカス属に属する微生物がRhodococcus opacus ST-5株またはRhodococcus erythropolis ST-10株である、〔2〕に記載のポリヌクレオチド。
〔4〕〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
〔5〕〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
〔6〕〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のポリヌクレオチド、または〔5〕に記載のベクターが導入された形質転換細胞。
〔7〕〔6〕に記載の形質転換細胞を培養し、その培養物から〔1〕に記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を回収する工程を含む、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の製造方法。
〔8〕〔4〕に記載のタンパク質をスチレンおよび/またはその類似体に作用させる工程、および生成される化合物を回収する工程を含む、光学活性なスチレンオキシドおよび/または光学活性なスチレン類似体の酸化物の製造方法。
〔9〕〔4〕に記載のタンパク質をスチレンおよび/またはその類似体に作用させる工程を含む、スチレンおよび/またはその類似体の分解方法。
スチレンは化学工業において重要な物質であり、ポリスチレンやスチレンブタジエンゴムなどの合成樹脂の原料として欠かせない。しかしながら、これらの合成高分子の製造において発生するスチレンガスやスチレン含有廃水は、しばしばヒトに対する毒性や環境汚染の観点から問題となっている。本発明のスチレンモノオキシゲナーゼは、このような問題の原因となるスチレンの分解や除去に有用である。
また本発明のスチレンモノオキシゲナーゼを用いることにより、医薬、農薬、電子材料等の種々の分野で必要とされる光学活性なスチレンオキシドを効率的且つ経済的に製造することができる。本発明のスチレンモノオキシゲナーゼは、このようにスチレンオキシドの製造においても有用である。
本発明のスチレンモノオキシゲナーゼは、以下の(1)および(2)の理化学的性状を有するタンパク質である。
(1)作用
FADH2(還元型FAD)を補酵素として、スチレンおよび3−クロロスチレンに作用し、それぞれ、光学活性なスチレンオキシドおよび光学活性な3−クロロスチレンオキシドを生成する。
(2)分子量
ゲル濾過におけるヒスチジンを含む分子量が59,000で、SDS-PAGEによる分子量が49,000、アミノ酸組成からの推定分子量が47,000のモノマー酵素である。
ゲル濾過カラムにおける分子量は、ヒスチジンタグを含む分子量である。アミノ酸配列から推定される、ヒスチジンタグが付加された状態における分子量は49.6 kDaである。これらから、本願のスチレンモノオキシゲナーゼはモノマーであると推測される。SDS-PAGEによるSMO分子量の分析方法、ゲル濾過におけるSMO分子量の分析方法は実施例に示した。
ST-5およびST-10 由来SMO の精製酵素と基質、補酵素類を50 mM MES緩衝液中に以下の濃度で添加し、反応液とする。次に、この反応液を30℃、2,500rpmで30分間インキュベーションする。反応終了後、反応液に500μlの酢酸エチルを添加し5分間ボルテックスを行う。15,000 rpm で5分間遠心し、分離した酢酸エチル相を新しいチューブに移す。再度500μl の酢酸エチルを水相に添加し、5分間ボルテックス後、再度遠心により酢酸エチル相を回収する。合計1000μl の回収した酢酸エチル相に適量の硫酸ナトリウムを添加し、2分間ボルテックスを行い、脱水処理を行う。脱水処理を行った抽出サンプルを、Hewllet Packerd HP6890 ガスクロマトグラフィーシステムを用いて、スチレンモノオキシゲナーゼ活性を分析することができる。
50 mM MES Buffer (pH 7.0)
20 mM ギ酸ナトリウム
100μM NADH
200μM FAD
1 U ギ酸脱水素酵素
10 U catalase
5 mM substrate(基質変換反応時は、10 mM の基質で反応を実施)
StyA 150μl (基質変換反応時は、StyAB 共発現菌体の菌体破砕液上清を使用)
StyB 100μl
total 1000μl
酢酸エチルにより抽出された試料1μl をVarian 社製 CP-Cyclodextrin-b-2,3,6-M-19-25 キャピラリーカラム(25 m, 内径0.25 mm)に注入する。 キャリアガス(99.999% 高純度ヘリウムガス)流速は2.8 ml/min、スプリット比は50、線形流速は46 cm/s とすることができる。検出はFID(水素炎イオン化検出器)を用いて行うことができる。気化室温度は250℃、検出器温度は250℃とすることができる。各物質の同定および定量は、各標準化合物を1 mM, 5 mM, 10 mM の濃度に調製したサンプルを同条件で分析し、その検出時間およびピーク面積から検量線を作成して求めることができる。
本発明のスチレンモノオキシゲナーゼの酵素活性は、好ましくは1U/mg以上、さらに好ましくは5U/mg以上、特に好ましくは10U/mg以上である。
各地で採取した土壌サンプルに滅菌水を添加し、ボルテックスを行う。懸濁液を無機塩培地(0.3(w/v)%(NH4)2SO4、0.3% KH2PO4、0.1% NaCl、0.02% MgSO4 7H2O、および1.5%寒天、pH7.0)に塗り広げ、スチレンガス雰囲気下で培養する。例えば30℃で3〜7日間培養し、生育したコロニーを4 ml のLB 培地に接種して培養する。得られた培養液のうち例えば10μlを再度無機塩培地に塗り広げ、スチレンガス雰囲気下、30℃で培養する。生育したコロニーを再度LB 培地で培養し、スチレン資化性菌としてストックすることができる。
これらの培地を用いて培養した菌体を回収し、無機塩培地(0.3(w/v)%(NH4)2SO4、0.3% KH2PO4、0.1% NaCl、0.02% MgSO4 7H2O、および1.5%寒天、pH7.0)に再度接種する。この菌体をスチレンガス雰囲気下において生育し回収することにより、高いSMO活性を有する菌体を得ることができる。
通常は、培養開始時のpHを2〜9、好ましくは4〜7に調節し、15〜40℃、好ましくは20〜35℃の温度条件下で培養することが望ましい。培養時間は通常は1日から7日、好ましくは1日から3日である。
なお、アミノ酸配列から推定されるST-5株由来のStyAの分子量は46,941 Daである。また、アミノ酸配列から推定されるST-10株由来のStyAの分子量は47,290 Daである。ST-5株由来のStyA、ST-10株由来のStyAいずれも、モノマーであると推定される。
ロドコッカスsp.ST-5株
(1)寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構
(2)連絡先:〒292−0818千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8
(3)受託番号:NITE P-974
(4)識別の表示:ST-5
(5)寄託日:2010年8月27日
ロドコッカスsp.ST-10株
(1)寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構
(2)連絡先:〒292−0818千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8
(3)受託番号:NITE P-975
(4)識別の表示:ST-10
(5)寄託日:2010年8月27日
本発明において、ポリヌクレオチドは、DNAおよびRNA等の天然のポリヌクレオチドに加え、人工的なヌクレオチド誘導体を含む人工的な分子であることもできる。また本発明のポリヌクレオチドは、DNA-RNAのキメラ分子であることもできる。また、本発明のポリヌクレオチドは、スチレンモノオキシゲナーゼをコードするコード鎖のみからなる一本鎖であっても、該コード鎖とその相補鎖とからなる二本鎖構造を持つものであってもよい。
コロニーハイブリダイゼーション、
プラークハイブリダイゼーション、
サザンブロット法
スクリーニングには、酵素生産株であるRhodococcus opacus、Rhodococcus erythropolisなどロドコッカス属の微生物、あるいはその他の生物種等の染色体DNA、またはcDNAライブラリーを利用することができる。
あるいはRACE法(Rapid Amplification of cDNA End;「PCR実験マニュアル」HBJ出版局,p25-33)によって本発明のポリヌクレオチドを得ることもできる。
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press(1989)、特にSection9.47-9.58)、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley&Sons(1987-1997)、特にSection6.3-6.4)、「DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach 2nd ed.」(Oxford University(1995)、特にSection2.10)等を参照することができる。
タンパク質の同一性は、アミノ酸配列に関するデータベースを利用して検索することができる。例えばSWISS-PROT、PIR、DAD等のタンパク質のアミノ酸に配列情報を蓄積したデータベースを利用することができる。あるいはDNAの同一性は、塩基配列情報を蓄積したデータベースを利用して検索することができる。DDBJ、EMBLまたはGenBank等のDNAに関するデータベースが公知である。これらのデータベースにおいては、DNAの塩基配列を元に予想されたアミノ酸配列情報を利用することもできる。各種の配列情報は、これらのデータベース等を対象に、BLAST、FASTA等のプログラムを利用して検索することができる。ここに例示したデータベースは、いずれもインターネット(例えば、 http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)を通じて利用することができる。
(1)中性疎水性側鎖(アラニン、トリプトファン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン、ロイシン);
(2)中性極性側鎖(アスパラギン、グリシン、グルタミン、システイン、セリン、チロシン、トレオニン);
(3)塩基性側鎖(アルギニン、ヒスチジン、リシン);
(4)酸性側鎖(アスパラギン酸、グルタミン酸);
(5)脂肪族側鎖(アラニン、イソロイシン、グリシン、バリン、ロイシン);
(6)脂肪族水酸基側鎖(セリン、トレオニン);
(7)アミン含有側鎖(アスパラギン、アルギニン、グルタミン、ヒスチジン、リシン);
(8)芳香族側鎖(チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン);および
(9)硫黄含有側鎖(システイン、メチオニン)。
アフィニティークロマトグラフィー、
アニオンまたはカチオン交換等のイオン交換クロマトグラフィー、
逆相クロマトグラフィー、
吸着クロマトグラフィー、
ゲル濾過、
疎水性クロマトグラフィー、
ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー
本発明のポリヌクレオチドを公知の発現ベクターに挿入することにより、スチレンモノオキシゲナーゼ発現ベクターが提供される。即ち本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクターに関する。適当なベクターとして、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ等の種々のベクターを挙げることができる(Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press(1989); Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley&Sons(1987)参照)。本発明の好ましいベクターとしては、これに限定されるわけではないが、例えば、大腸菌における発現ベクターpETにスチレンモノオキシゲナーゼをコードする遺伝子を発現可能に挿入したE.coli.BL21(DE3)等が挙げられる。
本発明のベクターは、好ましくは、挿入された本発明のポリヌクレオチドの発現に必要とされる制御配列の全ての構成成分を含むものである。さらに、本発明のベクターは、該ベクターが導入された宿主細胞を選択するための選択マーカーを含むことができる。
(1)宿主ベクター系の開発されている細菌
・エシェリヒア(Escherichia)属
・バチルス(Bacillus)属
・シュードモナス(Pseudomonas)属
・セラチア(Serratia)属
・ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属
・コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属
・ストレプトコッカス(Streptococcus)属
・ラクトバチルス(Lactobacillus)属など
(2)宿主ベクター系の開発されている放線菌
・ロドコッカス(Rhodococcus)属
・ストレプトマイセス(Streptomyces)属など
(3)宿主ベクター系の開発されている酵母
・サッカロマイセス(Saccharomyces)属
・クライベロマイセス(Kluyveromyces)属
・シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属
・チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属
・ヤロウイア(Yarrowia)属
・トリコスポロン(Trichosporon)属
・ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属
・ピキア(Pichia)属
・キャンディダ(Candida)属など
(4)宿主ベクター系の開発されているカビ
・ノイロスポラ(Neurospora)属
・アスペルギルス(Aspergillus)属
・セファロスポリウム(Cephalosporium)属
・トリコデルマ(Trichoderma)属など
本発明は光学活性なスチレンオキシドおよび/または光学活性なスチレン類似体の酸化物の製造方法に関する。当該方法は、スチレンモノオキシゲナーゼにより、スチレンおよび/またはその類似体のビニル基がオキシラニル基に酸化されることを特徴とする。本発明のスチレンオキシドおよび/またはスチレン類似体の酸化物の製造方法は、スチレンモノオキシゲナーゼをスチレンおよび/またはその類似体に作用させる工程、および生成される酸化物を回収する工程を含む。
スチレンモノオキシゲナーゼを生成する形質転換体の微生物の処理物には、具体的には界面活性剤やトルエンなどの有機溶媒処理によって細胞膜の透過性を変化させた微生物、あるいはガラスビーズや酵素処理によって菌体を破砕した無細胞抽出液やそれを部分精製したもの、高度に精製したもの、各種固定化担体に固定化したものなどが含まれる。
・2-フルオロスチレン、3-フルオロスチレン、4−フルオロスチレン
・2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4−クロロスチレン
・2-ブロモスチレン、3-ブロモスチレン、4−ブロモスチレン
あるいは、本発明におけるスチレン類似体のその他の例として、以下の化合物を挙げることもできる。
・インデン
・p-アミノスチレン
・p-メトキシスチレン
・trans-β-メチルスチレン
・4-ビニル-1-クロロヘキセン
・N,N-ジメチル-1-ナフチルアミン
・桂皮アルデヒド
このようなスチレン類似体を本発明のスチレンモノオキシゲナーゼと接触させることによって酸化することにより、スチレン類似体の酸化物を得ることができる。具体的には、例えば2−フルオロスチレンを本発明のスチレンモノオキシゲナーゼによって酸化することにより、2−フルオロスチレンオキシドを得ることができる。あるいは、例えばインデンを本発明のスチレンモノオキシゲナーゼによって酸化することにより、インデンオキシドを得ることができる。
あるいは、フラビンオキシドレダクターゼをコードするDNAでトランスフェクトされた微生物やその処理物を、本発明の酸化反応のための反応系に添加することも可能である。
また、基質は反応開始時に一括して添加することも可能であるが、反応液中の基質濃度が高くなりすぎないように連続的、もしくは非連続的に添加することが望ましい。基質濃度は、例えば0.01g/Lから500g/L、好ましくは0.1g/Lから100g/L、より好ましくは0.5g/Lから10g/Lとすることができるがこれらに限定されない。
さらに本発明は、本発明のスチレンモノオキシゲナーゼをスチレンまたはその類似体と接触させる工程を含む、スチレンまたはその類似体の分解方法に関する。上述のように本発明のスチレンモノオキシゲナーゼは、スチレンまたはその誘導体のビニル基をオキシラニル基に酸化する。従って本発明のスチレンモノオキシゲナーゼは、スチレンまたはその類似体を分解することができる。
本発明において分解とは、元の化合物がこれとは異なる化合物に変換されることを意味する。変換としては、例えば酸化などが挙げられる。従って本発明において分解方法は、酸化する方法と表現することもできる。あるいは、スチレンまたはその類似体の量あるいは濃度を減少させる方法と表現することもできる。
スチレン類似体ついては上述のものが挙げられる。またスチレンモノオキシゲナーゼと基質との接触の形態についても既に述べた。
なお本明細書において引用された全ての文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
材料および方法
(1)細菌株およびベクター
スチレン同化細菌ST-5株およびST-10株を、スチレン代謝遺伝子の単離のための染色体DNAの起源として使用した。これらの微生物は、以前はコリネバクテリウム(Corynebacterium)sp.ST-5株およびST-10株として同定されていた(Itoh, N., K. Yoshida, and K. Okada. 1996. Isolation and identification of styrene-degrading Corynebacterium strains, and their styrene metabolism. Biosci. Biotech. Biochem. 60:1826-1830.)。最近、Makinoらによって、ST-10株はロドコッカスsp.ST-10株として再同定された(Makino, Y., K. Inoue, T. Dairi, and N. Itoh. 2005. Engineering of phenylacetaldehyde reductase for efficient substrate conversion in concentrated 2-propanol. Appl. Environ. Microbiol. 71:4713-4720)。本発明者らも、Makinoらによって記載された方法により、ST-5株の再同定を実施した。結果は、ST-5株がロドコッカスの典型的な特性を有することを示した。従って、本発明者らは、この微生物がロドコッカスsp.ST-5株として同定されるべきであるとの結論を下した。大腸菌JM109株およびプラスミドベクターpGEM-T Easy(Plomega)をDNA操作において使用した。
ロドコッカスsp.ST-5株およびST-10株を、30℃で2日間、振とうしながら、PY培地(0.5%酵母抽出物、0.5%バクトペプトン、pH7.0)中で培養した。10μlの培養液を、寒天プレート(0.3(w/v)%(NH4)2SO4、0.3% KH2PO4、0.1% NaCl、0.02% MgSO4 7H2O、および1.5%寒天、pH7.0)へ播き、スチレン雰囲気下において30℃で4日間培養した(Itoh, N., K. Yoshida, and K. Okada. 1996. Isolation and identification of styrene-degrading Corynebacterium strains, and their styrene metabolism. Biosci. Biotech. Biochem. 60:1826-1830)。
DNA操作には標準的な技術を使用した(Sambrook, J., and W. D. Russell. 2001. "Molecular cloning, a laboratory manual" 3rd ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press.)。採集されたST-5株 およびST-10株 の細胞をリゾチームにより処理した後、Eulbergら(Eulberg, D., L. A. Golovleva, and M. Schlomann. 1997. Characterization of catechol catabolic genes from Rhodococcus erythropolis 1CP. J. Bacteriol. 179:370-381)によって記載された方法によってゲノムDNAを調製した。調製されたゲノムDNAを、PCRの鋳型およびサザンブロット分析に使用した。
styA遺伝子およびstyC遺伝子をコードする部分断片を、縮重PCRにより増幅した。styAおよびstyCの増幅のために使用されたプライマーを表1に示した。これらのオリゴヌクレオチドプライマーは、それぞれ、スチレンモノオキシゲナーゼおよびスチレンオキシドイソメラーゼにおいて保存されている部分アミノ酸配列に基づき設計された。スチレン代謝に関与している遺伝子の全長を入手するために、明らかになったstyA遺伝子またはstyC遺伝子の部分塩基配列を用いて、TAIL(thermal asymmetric interlaced)PCRを実施した。TAIL-PCRは、Liu らによって報告された方法(Liu, Y. G., and R. F. Whittier. 1995. Thermal asymmetric interlaced PCR: automatable amplification and sequencing of insert end fragments from P1 and YAC clones for chromosome walking. Genomics 25:674-681)に従い実施された。TAIL-PCRのために使用されたアダプタープライマーおよび既知配列特異的プライマーを表1に示した。一次および二次のPCR産物を希釈し、それぞれ二次および三次のPCRのための鋳型として使用した。増幅された断片は、アガロースゲル電気泳動による分離および抽出により精製された。精製された断片を、pGEM-T Easyへとクローニングし、キャピラリーDNAシーケンサー310(Applied Biosystems,Tokyo,Japan)を使用して塩基配列を決定した。
ロドコッカスsp.ST-10株のゲノムDNAを、いくつかの制限酵素により消化し、アガロースゲル電気泳動によって分離した。分離されたDNAを、Hybond N+ナイロンメンブラン(GE Healthcare UK Ltd,Buckinghamshire,UK)へ転写し、80℃で2時間ベーキングした。ST-10株由来のスチレンモノオキシゲナーゼ遺伝子断片(1.2 kbp)、およびST-5株由来のスチレンオキシドイソメラーゼ遺伝子断片(0.6 kbp)をPCRにより増幅し、プローブとしてハイブリダイゼーションのために使用した。各断片を、Random Primer DNA Labeling Kit Ver.2(TaKaRa,Shiga,Japan)を使用してα-32P-dCTPにより標識した。標識操作は製品プロトコルに従って行った。プレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションを、5×SSC、0.1%SDS、5×デンハルツ液、40%ホルムアミドからなるハイブリダイゼーション緩衝液において実施した。標識されたプローブDNA 1ngをメンブランに添加し、45℃で一夜インキュベートした。メンブランを、45℃で10分間2×SSC緩衝液により2回洗浄し、次いで、45℃で10分間、0.1%SDSを含有している2×SSCにより2回洗浄した。メンブランにハイブリダイズした標識DNAの検出は、BAS-3000画像分析装置(Fujifilm,Tokyo,Japan)を使用して行った。
スチレン雰囲気下でプレート培養した菌体を、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)2mlに懸濁し、遠心分離(8000×g、20分)によって収集した。収集した菌体を同緩衝液に再懸濁した。次いで、菌体懸濁液(OD600=1)4mlおよび各基質50mgからなる反応混合物を使用して、静止菌体反応を実施した。反応混合物を22ml のバイアルに添加後シリコンセプタムを用いて密栓し、30℃、20時間、170rpmでインキュベーションした。インキュベーション後、反応混合物に酢酸エチル2mlを添加・混合し、反応生成物を抽出した。抽出産物をガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)および高速液体クロマトグラフィ(HPLC)によって分析した。
静止菌体反応による生成物のGC-MS分析は、GC-17AガスクロマトグラフィーシステムおよびShimadzu QP-5000質量分析計を使用して実施された。酢酸エチルにより抽出された試料1μlを、HP-1MSキャピラリーカラム(J & W Scientific Inc.;30m×内径0.25mm、フィルム幅0.25μm)に注入した。キャリアガス(He)流速は1.7ml/min(100kPa)、スプリット比は26、線形速度は47.4cm/sであった。カラムオーブンの温度プログラムは:50℃、5分間;10℃/minで220℃まで上昇; 220℃、5分間で行った。質量スペクトルは、電子衝撃イオン源(EI、200℃)を使用して、1.5kVで取得した。各反応中間体の同定は、標準化合物の保持時間および質量電荷比(m/z)との比較によって行った。
静止菌体反応による生成物のHPLC分析は、移動相Aとして10mM酢酸アンモニウム、移動相Bとしてアセトニトリルを用い、流速0.5ml/分、カラム温度は40℃で分析を行った。試料(10μl)を注入した後、移動相Bを8分間10%に維持し、次いで20分かけて90%に増加させ、10分間維持した。254nmで生成物をモニタリングした。
フェニルアセチル-CoAリガーゼの反応生成物の同定は、Shimadzu Prominence GE HPLCシステムを使用して実施された。分析にはCadenza CD-C18カラム(Imtakt,Kyoto,Japan)を用いた。移動相には10% (v/v)イソプロピルアルコールを含有する0.2M KPB(pH4.5)を用いた。移動相の流速は0.5ml/分、カラムは40℃に維持された。254nmで生成物をモニタリングした。
ガス状スチレンを単一炭素源として培養された菌体から、無細胞粗抽出物を入手した。採集された菌体を、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、2回洗浄した。菌体を、10%グリセロールを含有している50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に再懸濁した。菌体懸濁液は、各1分間の超音波処理を5回行い、遠心分離(16,000×g、10分、4℃)した。上清を同緩衝液に対して透析し、酵素アッセイのために使用した。フェニルアセチル-CoAリガーゼ(PCL)活性を、以前に報告された方法(Martinez-Blanco, H., A. Reglero, L. B. Rodriguez-Aparicio, and J. M. Luengo. 1990. Purification and biochemical characterization of phenylacetyl-CoA ligase from Pseudomonas putida. J. Biol. Chem. 265:7084-7090)に従って測定した。
スチレンおよびスチレンオキシドはNacalai Tesque Inc.(Kyoto,Japan)より購入した。フェニルアセトアルデヒドはToyotama International Inc.(Tokyo,Japan)より供給された。その他の化学物質は、全て、Wako Pure Chemical Industries Ltd.(Osaka,Japan)より購入した。
代謝遺伝子を単離し解析するため、本発明者らは、データベース上に登録されたスチレンモノオキシゲナーゼおよびスチレンオキシドイソメラーゼのアミノ酸配列から高度に保存されている領域を選択し、縮重PCR用のオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。ST-5株のゲノムDNAを鋳型として縮重PCRを行い、styCの一部をコードする260bpのサイズの断片を入手することができた。しかし、styAに対応する断片は増幅されなかった。他方、ST-10株のゲノムDNAを鋳型として縮重PCRを行った場合には、styAをコードする部分断片が増幅されたが、styCをコードする遺伝子は増幅されなかった。これらの断片から推定されたアミノ酸配列は、シュードモナスのスチレン分解酵素と有意な類似性を示した。
スチレン代謝遺伝子の全長を入手するため、本発明者らは、ST-5株およびST-10株のゲノムDNAに対してTAIL-PCRを実施した。TAIL-PCRのため使用されたプライマーを表1に示した。その結果、本発明者らは、それぞれST-5株の染色体の約4.7kbpの領域およびST-10株の4.2kbpの領域のヌクレオチド配列を決定することができた。ST-5株およびST-10株の決定された染色体領域には、それぞれ、4つおよび3つのオープンリーディングフレーム(ORF)が存在した(図1および図2)。推定アミノ酸配列がシュードモナスのstyABCDと類似性を示したため、これらの遺伝子がスチレン代謝遺伝子であると推定した。ST-5株は、SMO、フラビンオキシドレダクターゼ、SOI、およびフェニルアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(PAD)に対応する4つの連続する遺伝子を有していた。他方、ST-10株はSMOおよびフラビンオキシドレダクターゼに対応する2つの遺伝子を有していた。styBの下流に存在したorf3は、ロドコッカス・ジョスティ(jostii)RHA1のようなロドコッカス属にのみホモログが見出される機能未知タンパク質に対して高い類似性を示した。さらに、転写ターミネーターとして作用することが予測されるステムループ構造が、ST-5株のstyCおよびST-10株のstyBの下流にそれぞれ存在した(図1)。
SOI遺伝子の存在を確認するため、本発明者らは、ST-10株の染色体に対してサザンブロット解析を実施した。ST-10株のstyA遺伝子およびST-5株のstyC遺伝子に対応する各々1.2kbpおよび0.8kbpのプローブを、α-32P-dCTPにより標識し、様々な制限酵素により消化されたST-10株ゲノムDNAにハイブリダイズさせた。その結果、styA遺伝子に対応するプローブにハイブリダイズする有意な断片を見出すことができたが、styC遺伝子をプローブとして使用した場合には、検出可能なシグナルは見出されなかった。
ST-5株およびST-10株に由来するstyA遺伝子は427および428アミノ酸残基をコードし、推定アミノ酸配列は、シュードモナスsp.Y2由来のSMOの配列との有意な類似性を示した(60.6%および60.4%)(表2)。
ST-5株およびST-10株を用いて静止菌体反応を行い、生成した中間体をGC-MSによって同定した。スチレンを基質としたとき、ST-10株の反応生成物としてスチレンオキシドが検出されたが、フェニルアセトアルデヒドは検出されなかった。対照的に、ST-5株は反応生成物としてフェニルアセトアルデヒドのみを蓄積した。これらの結果は、ST-5株およびST-10株のそれぞれの遺伝子発現の差異によることが示唆された。ST-5株においては、スチレンが、StyA、StyB、およびStyCの作用によってフェニルアセトアルデヒドに変換されるが、ST-10株ではStyCを欠くために、スチレンオキシドをフェニルアセトアルデヒドに変換することができず、反応生成物中に蓄積されたと推測される。
フェニル酢酸の分解経路を同定するため、ST-5株およびST-10株のフェニルアセチル-CoAリガーゼ(PCL)活性を測定した。基質としてフェニル酢酸、CoA、ATPを含む緩衝液にST-5株およびST-10株の無細胞粗抽出物を添加し、反応生成物をHPLCにより分析した。いずれの株についても、無細胞粗抽出物の存在下で、フェニルアセチル-CoAに対応するピークが8.1分の位置に検出された(図4)。これらの結果は、いずれの株もPCL活性を有し、シュードモナス属細菌で報告されているフェニル酢酸(PAA)分解経路と同様の経路を介してフェニル酢酸を分解し得ることを示す。
ロドコッカスsp.ST-5株およびST-10株(以前はコリネバクテリアsp.)が、ガス状スチレンおよびスチレンオキシドを単一炭素源として資化できること、またこれらの菌株がシュードモナスと同様のスチレン代謝経路を有し、スチレンおよびスチレンオキシドを資化していることが示唆されていた(Itoh, N., K. Yoshida, and K. Okada. 1996. Isolation and identification of styrene-degrading Corynebacterium strains, and their styrene metabolism. Biosci. Biotech. Biochem. 60:1826-1830)。
ST-5株およびST-10株における推定スチレン代謝経路を図5に示した。スチレンはまずSMOによってスチレンオキシドへと酸化され、続いてSOIによってフェニルアセトアルデヒドへと変換される。ST-10株においてはSOIを欠落しているため、この反応は自発的な化学変換によって起きていると推測される。次いで、フェニルアセトアルデヒドはPAD活性によりフェニル酢酸へと酸化され、PAA分解経路により分解される。本発明者らは、ST-5株およびST-10株のゲノム中にスチレン分解遺伝子群が存在することを確認した。ST-10株のスチレン代謝経路はSOIを欠落した不完全なものであるが、ST-10株はスチレンおよびスチレンオキシドを資化することができる。
(1)Rhodococcus sp. ST-5株 およびST-10株 由来styAB の大腸菌による異種宿主発現系構築および組換え酵素の発現・精製
Rhodococcus sp. ST-5株 およびST-10株 両株由来のstyAB 遺伝子を大腸菌Escherichia coli において異種宿主発現させるため、以下の手順により発現用プラスミドを構築した。発現には大腸菌株E. coli BL21 (DE3)を用いた。
1. ST-5株 およびST-10株 のstyAB の末端配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー(表3)を作成し、ST-5株 およびST-10株 ゲノムDNA に対してPCRを実施した。この際N-末端およびC-末端に制限酵素サイト(Bam HI, Hind III) を付加した。
2. 増幅した約1.8 kbp の増幅断片をpGEM-T Easy vector (plomega) にクローニングし、内部配列を確認した。
3. Bam HI、Hind III 処理によりstyAB 断片を切り出し、アガロースゲル電気泳動により精製した。精製したstyAB 断片を同制限酵素によりあらかじめ処理したpET-21 (b) にライゲーションし、E. coli DH5αに導入した。
4. 抗生物質プレート上で形質転換体を選抜した。プラスミドを抽出精製し、E. coli BL21 (DE3) にエレクトロポレーション法により導入した。さらに、組換えタンパク発現を効率化させるためにシャペロン発現ベクターpG-KJE8 を重ねて導入した。
5. 形質転換体を抗生物質プレート上で選抜し、以後発現実験へ用いた。
なお、上記と同様の手法により、styAを単体で発現させるコンストラクトも作成した。
発現プラスミド構築に使用したプライマー配列を表3に、構築したプラスミドを図6に示した。
1. 精製したヒスチジンタグを含むStyA サンプルを2x SDS-PAGE サンプルバッファー(100 mM Tris-HCl, 20% グリセロール, 4% SDS, 0.05% ブロモフェノールブルー)に溶解した。
2. 10% ポリアクリルアミドゲルに、タンパク量にして5μg相当の上記サンプルをアプライした。
3. 150 V, 40 mAで 100 分間 泳動した。
4. 泳動したゲルをSDS-PAGE染色液(50% メタノール、10% 酢酸、0.25% クマジーブルー)に浸し、40分間振とうしながら染色を行った。
5. 染色したゲルを脱色液(30% メタノール、10% 酢酸)に浸し、適宜脱色液を交換しながら脱色を行った。
6. 得られたバンドの泳動度から、精製したStyA の分子量は約49.0 kDaであると推定した。分子量の算出には、サンプルと同時に流した分子量マーカー(Prestained APRO-Marker) を指標として用いた。
1. 分析システムとしてShimadzu LC-10 HPLC システムを、分析カラムとしてGE ヘルスケア社製Superdex 200 10/300 GL を用いた。
2. 移動相として100 mM KPB, 200 mM NaCl pH 7.0 を用い、流速0.4 ml/min で分離を行った。
3. ヒスチジンタグを含む精製StyA サンプル 100μl (500μg タンパク相当) を分析サンプルとしてアプライし、35.3 min に単一ピークとして溶出した。
4. 同様に、標準試料 (オリエンタル酵母社MW-Marker (HPLC)) を分析した。
5. 標準試料の分子量および溶出時間を以下に示す。
酵母グルタミン酸脱水素酵素 290 kDa 26.9 min
豚心筋乳酸脱水素酵素 142 kDa 31.3 min
酵母エノラーゼ 67 kDa 34.3 min
酵母ミオキナーゼ 32 kDa 39.1 min
馬心筋チトクロームc 12.4 kDa 43.0 min
6. 上記の標準試料の各タンパクの溶出時間および分子量を用いて検量線を作成した。得られた検量線に対して精製StyAの溶出時間35.3 min をプロットした結果、StyA の分子量は59.2 kDa に相当すると推測された。
1. 発現プラスミドを含む形質転換体を、4 mlのLB medium (50μg/ml アンピシリン、20μg/ml クロラムフェニコール)で37℃、170 rpm で培養した。
2. 前培養液1 ml を100 ml LB medium (50μg/ml アンピシリン、20μg/ml クロラムフェニコール、0.5 mg/ml アラビノース、5 ng/ml テトラサイクリン)に植菌し、37℃、250 rpm で培養した。
3. OD600 が0.5 になったらIPTG を終濃度0.1 mM になるように添加し、18℃、250 rpm、24時間誘導した。
4. 菌体を遠心(18000 rpm, 4℃,10 min)により回収し、50 mM KPB (pH 7.0), 10% glycerol に懸濁、洗浄した。
5. 再度遠心により菌体を回収し、Ni-Sepharose カラムBinding Buffer (50 mM KPB, 10% glycerol, 500 mM NaCl, 10 mM imidazole, pH 7.5 )に再懸濁した。
6. 超音波破砕により菌体を破砕し、遠心(18,000 rpm, 4℃, 20 min x2回)により上清を回収した。
7. Ni-Sepharose カラムBinding Buffer で平衡化したNi-Sepharose High performance カラムに、上記の菌体破砕液上清をアプライし、目的の組換えタンパクを吸着させた。
8. カラム体積の10倍量のBinding Buffer でカラムを洗浄後、Elution Buffer (50 mM KPB, 10% glycerol, 500 mM NaCl, 500 mM imidazole, pH 7.5) により吸着させた目的タンパクを溶出させた。
9. 得られた精製タンパク溶液を透析し、50 mM KPB, 10% glycerol, pH 7.0 に置換した。
10. 透析したタンパク溶液を各種イオン交換クロマトグラフィー(DEAE-Sepharose, Resource Q, MonoQ) を用いて最終精製し、目的タンパク質の精製サンプルを得た。
ST-5およびST-10 由来SMO の活性測定は、カラム精製した組換え酵素を用いて行った。各精製酵素、基質、補酵素を50 mM MES緩衝液中に以下の濃度で添加し、反応混合液とした。
反応混合液組成
50 mM MES Buffer (pH 7.0)
20 mM ギ酸ナトリウム
100μM NADH
200μM FAD
1 U ギ酸脱水素酵素
10 U catalase
5 mM substrate(基質変換反応時は、10 mM の基質で反応を実施)
StyA 150μl (基質変換反応時は、StyAB 共発現菌体の菌体破砕液上清を使用)
StyB 100μl
total 1000μl
この反応混合液を30℃、2,500rpmで30分間インキュベーションした。反応終了後、反応混合液に500μlの酢酸エチルを添加し5分間ボルテックスを行った。15,000 rpm で5分間遠心し、分離した酢酸エチル相を新しいチューブに移した。再度500μl の酢酸エチルを水相に添加し、5分間ボルテックス後、再度遠心により酢酸エチル相を回収した。合計1000μl の回収した酢酸エチル相に適量の硫酸ナトリウムを添加し、2分間ボルテックスを行い、脱水処理を行った。脱水処理を行った抽出サンプルを、Hewllet Packerd HP6890 ガスクロマトグラフィーシステムを用いて分析した。
1 U は、1分間に1μmol の基質を産物に変換する酵素活性と定義した。
ST-5 およびST-10 由来SMOの反応産物の測定は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。上記反応条件にて反応し、酢酸エチルで抽出した反応産物をHewllet Packard HP6890 ガスクロマトグラフィーシステムを用いて分析した。酢酸エチルにより抽出された試料1μl をVarian 社製CP-Cyclodextrin-b-2,3,6-M-19-25 キャピラリーカラム(25 m, 内径0.25 mm)に注入した。キャリアガス(99.999% 高純度ヘリウムガス)流速は2.8 ml/min、スプリット比は50、線形流速は46 cm/s であった。検出はFID(水素炎イオン化検出器)を用いた。気化室温度は250℃、検出器温度は250℃で行った。
カラムオーブンの温度プログラムは、定温プログラムを用いて行った。各分析サンプルに対するカラムオーブン温度および各物質の検出時間は表4に示した。
各物質の同定および定量は、各標準化合物を1 mM, 5 mM, 10 mM の濃度に調製したサンプルを同条件で分析し、その検出時間およびピーク面積から検量線を作成して求めた。
ST-5およびST-10由来SMOは、スチレンをはじめ様々な基質に対してエポキシ化活性を示した(表5)。その基質特異性は、スチレンを100としたときに、4−フルオロスチレン に対しておよそ2倍の活性を示した。また、生成物の鏡像体過剰率(e.e.)はスチレンや4−クロロスチレン、4−ブロモスチレン、4−フルオロスチレンに対してはやや低いものの、2−クロロスチレンや3−クロロスチレンに対しては99.9%以上の値を示し、その絶対配置は(S)-体であった。
Claims (9)
- 以下(a)から(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;
(a)配列番号:1または3に記載の塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含み、かつ下記(1)および(2)に記載の理化学的性質を有するスチレンモノオキシゲナーゼをコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号:1または3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ下記(1)および(2)に記載の理化学的性質を有するスチレンモノオキシゲナーゼをコードするポリヌクレオチド;および
(e)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有し、かつ下記(1)および(2)に記載の理化学的性質を有するスチレンモノオキシゲナーゼをコードするポリヌクレオチド;
(1)作用
FADH2(還元型FAD)を補酵素として、スチレンおよび3−クロロスチレンに作用し、それぞれ、光学活性なスチレンオキシドおよび光学活性な3−クロロスチレンオキシドを生成する。
(2)分子量
ゲル濾過におけるヒスチジンを含む分子量が59,000で、SDS-PAGEによる分子量が49,000、アミノ酸組成からの推定分子量が47,000のモノマー酵素である。 - ロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物由来である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
- 前記ロドコッカス属に属する微生物がRhodococcus opacus ST-5株またはRhodococcus erythropolis ST-10株である、請求項2に記載のポリヌクレオチド。
- 請求項1から3のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
- 請求項1から3のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
- 請求項1から3のいずれかに記載のポリヌクレオチド、または請求項5に記載のベクターが導入された形質転換細胞。
- 請求項6に記載の形質転換細胞を培養し、その培養物から請求項1に記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を回収する工程を含む、請求項1から3のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の製造方法。
- 請求項4に記載のタンパク質をスチレンおよび/またはその類似体に作用させる工程、および生成される化合物を回収する工程を含む、光学活性なスチレンオキシドおよび/または光学活性なスチレン類似体の酸化物の製造方法。
- 請求項4に記載のタンパク質をスチレンおよび/またはその類似体に作用させる工程を含む、スチレンおよび/またはその類似体の分解方法。
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