JP2012047276A - すべり軸受とその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【効果】 油溝14の側面14B、底面14Aは固体潤滑剤含有樹脂コーティング19により被覆されているので、それらの箇所にキャビテーション・エロージョン(気泡や損傷)が生じることを抑制できる。
【選択図】 図3
Description
ところで、こうした構成を有する従来のすべり軸受がエンジン内に組み込まれると、上記油溝内を潤滑油が流通することに伴って次のような問題が生じていた。すなわち、油圧の変動によって上記油溝内を流通する潤滑油内で気泡が発生することは知られており、このような現象は一般に『キャビテーション』と称されている。このように、すべり軸受の油溝を流通する潤滑油に圧力変動による気泡が発生すると、該気泡は油溝の側面(特に側面に露出したアルミ合金層)に付着し(図6参照)、さらに、その気泡が付着した油溝の側面におけるアルミ合金層の表面に気泡による腐食が生じるという欠点があった(図7参照)。このような気泡による腐食は、一般に『キャビテーション・エロージョン』と称されている。
図7(a)、図7(b)は、従来のすべり軸受における油溝の側面に生じたキャビテーション・エロージョンを模式図として示したものである。より詳細には、図7(a)に示すように、油溝の側面として露出したアルミ合金層の箇所にキャビテーション・エロージョンが発生しやすくなっており、やがてその箇所は表面だけでなく内部にまでキャビテーション・エロージョンが進行する(図7(b)および実際の写真として図12(a)、図12(b)参照)。このようにして、すべり軸受の油溝にキャビテーション・エロージョンが生じると、やがて摺動面である内周面の一部が損傷することになり、それによってすべり軸受の寿命が短くなるという問題が生じる。
上記各半割り軸受の少なくとも一方は、上記油溝の内部全域が固体潤滑剤含有樹脂コーティングで被覆されていることを特徴とするものである。
また、請求項3に記載した本発明は、一対の半円筒状の半割り軸受を突き合せて円筒状に形成されるすべり軸受の製造方法であって、
板状をした一対の裏金の表面にそれぞれアルミ合金層を形成し、次に、それら一対の部材を上記アルミ合金層が内周側に位置するように成形して上記半円筒状の半割り軸受を製作し、次に、それら一対の半割り軸受の内周面に円周方向に沿って油溝を形成し、次に、各一対の半割り軸受における油溝の内部を含めた内周面の全域を固体潤滑剤含有樹脂コーティングで被覆することを特徴とするものである。
従来公知のように、シリンダブロックには潤滑油をクランクシャフト2とすべり軸受1との摺動部に供給する供給通路3が形成されており、クランクシャフト2には直径方向に潤滑油通路2Aが形成されている。そして、すべり軸受1がシリンダブロックとクランクキャップとの間に装着された状態において、クランクシャフト2が回転された際には、供給通路3を介してクランクシャフト2とすべり軸受1との摺動部に供給され、さらに潤滑油は上記潤滑油通路2Aを流通してから図示しないコンロッド軸受とクランクシャフト2との摺動部に供給されるようになっている。
両半割り軸受11、12は同じ構成となっているので、上方側半割り軸受11の構成について説明する。すなわち、図2〜図4に示すように、上方側半割り軸受11の内周面11Bには、軸方向中央位置に円周方向に沿って油溝14が形成されており、この油溝14の円周方向の中央位置に上記供給通路3からの潤滑油を流通させる油穴15が穿設されている。
ここで、上述した構成を有する上方側半割り軸受11の製造工程を説明すると、先ず、短冊状をした裏金17となる鉄系?の材料を準備し、その平板状の表面を所要厚さのアルミ合金層18で被覆し、次に、その状態の材料をアルミ合金層18が内周側となるように半円筒状に成形する。これにより、概略、上方側半割り軸受が形成される。その後に、当該半円筒状の部材の内周面に円周方向に沿って所要の深さと幅で上記油溝14を形成する。その後、例えば特開2001−304264号公報に開示されたような方法によって、該半円筒状の部材における油溝14の内部(底面14A、14B)を含めた内周面11Bの全域を固体潤滑剤含有樹脂コーティング19で被覆する。このようにして、上方側半割り軸受11が完成する。
このように本実施例においては、油溝14を形成した切削加工の後に、半円筒状の内周面11Bおよび油溝14の内部(底面14Aと側面14B)を固体潤滑剤含有樹脂コーティング19で被覆するようにしている。このような製造工程を経ることで、上方側半割り軸受11は、油溝14の内部全域、つまり側面14Bや底面14Bにアルミ合金層18および裏金17が露出しないように構成されている。
なお、下方側半割り軸受12は、油穴15がないことを除いて上記上方側半割り軸受11と同じ構成であるため、下方側半割軸受12の説明は省略する。
このような本実施例の上方側半割り軸受11によれば、図4に示すように、油溝14の側面14Bにアルミ合金層18や裏金17は露出しておらず、しかも底面14Aと側面14Bは固体潤滑剤含有樹脂コーティング19で被覆されたことで、油溝14の表面粗さは小さくなっている。より詳細には、図8(a)に示すように、固体潤滑剤含有樹脂コーティングで油溝内を被覆していない従来のすべり軸受と、図8(b)に示すように上述した油溝14内を固体潤滑剤含有樹脂コーティング19で被覆した本実施例の上方側半割り軸受11においては、油溝の表面粗さは次のように異なっている。つまり、図8(a)に示す従来のすべり軸受では、油溝の底面および側面の粗さはRz100程度となっている。これに対して、図8(b)に示す本実施例においては、油溝14の両側面14Bの表面粗さはRz40となっており、底面14Bの粗さはRz25となっている。従来のものと比較すると、明らかに本実施例の方が油溝14の底面14A及び両側面14Bの表面粗さが小さくなっている。
すなわち、図9の左方側のデータは耐キャビテーション性に関して行った従来品と本実施例に対する試験結果を示している。なお、この図9の試験は、アルミ合金の表面を固体潤滑剤含有樹脂コーティングで被覆した本実施例と対応するサンプルと、アルミ合金の表面を露出させた従来技術に対応するサンプルとを用意して、それらのサンプルに対して行った耐キャビテーション性の試験である。すなわち、媒体としての水の中に回転テーブルが配置されたキャビテーション試験機を用いて上記2種類のサンプルに対して耐キャビテーション試験を行った。より詳細には、各サンプルを載置した回転テーブルを回転させるとともに、超音波ホーンによりサンプルに対して超音波を作用させたものである。試験条件は図9の右側に記載したとおりである。
この図9の左側に示す試験結果からも明らかなように、アルミ合金を固体潤滑剤含有樹脂コーティングで被覆したサンプル(本実施例)の方が、固体潤滑剤含有樹脂コーティングで被覆されていないサンプル(従来品)よりも試験後における重量の減少量が小さくなっている。換言すると、固体潤滑剤含有樹脂コーティングがないサンプルの場合(従来品)には、キャビテーションによる重量の減少が多くなっていると理解することができる。
また、図9の左下に示した試験後の外観からも明らかなように、固体潤滑剤含有樹脂コーティングで被覆したサンプル(本実施例)の方が、固体潤滑剤含有樹脂コーティングがないサンプル(従来品)よりも外観上の変化が少なかった。
このように、図9に示した試験結果からも本実施例の方が従来品よりも明らかに耐キャビテーション性が良好であるといえる。
他方、図10(a)は本実施例のすべり軸受1を使用前の新品の時に内方側から撮影した写真である。そして、図10(b)は、図10(a)に示したすべり軸受の耐久試験を終了後の要部を示している。この図10(b)において楕円で囲んで矢印でしめした範囲は、上記図11のXの枠内と対応する部分の拡大図である。この図10(b)の楕円で囲んだ範囲が白く変色しており、そこに僅かにキャビテーション・エロージョンが生じている。このように、図11の従来品と比較すると、本実施例のすべり軸受1の方が耐キャビテーション性が良好である。
以上のように、本実施例によれば、すべり軸受1にキャビテーション・エロージョンが発生することを抑制することができ、ひいては、従来と比較して寿命が長いすべり軸受1を提供することができる。
さらに、上述した実施例においては、油溝14の断面形状は概略V字状になっているが、断面半円状であっても良いし、その他の断面形状であっても良い。
12‥下方側半割り軸受 13‥摺動面
11A、12A‥‥ 接合面 14‥油溝
14A‥‥底面 14B‥側面
19‥固体潤滑剤含有樹脂コーティング
Claims (3)
- 半円筒状をした一対の半割り軸受を突き合せて円筒状に形成されるとともに、摺動面となる上記各半割り軸受の内周面に円周方向に沿った油溝が形成されており、さらに上記各半割り軸受の内周面は固体潤滑剤含有樹脂コーティングで被覆されているすべり軸受において、
上記各半割り軸受の少なくとも一方は、上記油溝の内部全域が固体潤滑剤含有樹脂コーティングで被覆されていることを特徴とするすべり軸受。 - 上記各半割り軸受は、基材となる裏金と、該裏金の表面を被覆したアルミ合金層と、さらに、上記油溝の内部およびアルミ合金層の表面を被覆した上記固体潤滑剤含有樹脂コーティングとから構成されることを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。
- 一対の半円筒状の半割り軸受を突き合せて円筒状に形成されるすべり軸受の製造方法であって、
板状をした一対の裏金の表面にそれぞれアルミ合金層を形成し、次に、それら一対の部材を上記アルミ合金層が内周側に位置するように成形して上記半円筒状の半割り軸受を製作し、次に、それら一対の半割り軸受の内周面に円周方向に沿って油溝を形成し、次に、各一対の半割り軸受における油溝の内部を含めた内周面の全域を固体潤滑剤含有樹脂コーティングで被覆することを特徴とするすべり軸受の製造方法。
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