JP2012033904A - 有機半導体薄膜形成方法、半導体素子及び有機電界効果トランジスタ - Google Patents

有機半導体薄膜形成方法、半導体素子及び有機電界効果トランジスタ Download PDF

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Abstract

【課題】高い結晶性を有することで移動度の高い有機半導体薄膜を提供する。
【解決手段】高分子と有機半導体の混合溶液を基板上にスピンコートなどで塗布することにより、下層に高分子、上層に有機半導体が層分離した薄膜が形成される(図のa))。これに、有機半導体と高分子の両方を溶解できる溶媒を使用して溶媒蒸気アニールを行うことにより、有機半導体分子が高分子層の上を移動して有機半導体膜を再構成し、b)のように、粒界が少なく、また単結晶が大きく成長した有機半導体薄膜を得る。
【選択図】図3

Description

本発明は有機半導体デバイスなどに使用可能な有機半導体薄膜の形成方法に関し、特に結晶性が高い有機半導体薄膜を形成する方法に関する。本発明は更に、そのような方法で形成された有機半導体膜を利用した半導体素子及び有機電界効果トランジスタに関する。
有機半導体は、その溶解性を活かした溶液プロセスによって製膜可能であり、低コスト・低環境負荷プロセスの実現が期待される。その一方で、有機半導体は無機半導体と比較して低移動度である。これは、有機分子はファンデルワールス力で集合しているため分子間の相互作用が小さい点、また有機薄膜は一般的に多結晶性であり、特に粒界内部に分子のディスオーダーが多く存在する点などが原因である。そのため、有機半導体の移動度を向上させるには、結晶性が高くディスオーダーの少ない薄膜を形成する必要があった。
一般的な有機半導体薄膜は特に粒界内に分子のディスオーダーによる多くのトラップ準位が存在し、電荷輸送を妨げているという問題がある。本発明の課題は、有機半導体薄膜中の粒界と分子のディスオーダーを減少させ、より結晶性の高い有機半導体薄膜を形成したり、有機半導体単結晶そのものを基板上に直接形成することにある。なお、本願では薄膜中に形成された有機半導体単結晶も有機半導体薄膜の一部として取り扱う。
本発明の一側面によれば、以下のステップを含む有機半導体薄膜形成方法が与えられる。
(a) 高分子の層及び有機半導体の層からなる二層構造を基板上に形成する。
(b) 前記二層構造に対して前記高分子及び前記有機半導体が可溶な溶媒を使用して溶媒蒸気アニール処理を施す。
ここにおいて、前記溶媒に対する前記高分子の溶解度は1 mg/mL以上であってよい。
また、前記基板上に前記高分子の層が形成され、前記高分子層上に前記有機半導体の層が形成されてよい。
また、前記二層構造は層分離法により形成してよい。
また、前記基板上に前記有機半導体の層が形成され、前記有機半導体層の上に前記高分子の層が形成されてよい。
また、前記二層構造の形成は前記高分子の層及び前記有機半導体の層を個別に形成することにより行ってよい。
また、前記高分子の分子量は1000以上であってよい。
また、前記高分子はPMMA、PVP、PαMS、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、及びポリエチレングリコールからなる群から選ばれてよい。
また、前記溶媒蒸気アニールに使用される溶媒はトルエン、キシレン、テトラリン、デカリン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロホルム、THF、及びシクロヘキサンからなる群から選ばれてよい。
また、前記有機半導体はπ電子共役系の芳香族化合物、鎖式化合物、有機顔料、有機ケイ素化合物からなる群から選ばれてよい。
また、前記有機半導体は、C8-BTBT、C10-BTBT、C12-BTBT、及びTIPS-pentaceneからなる群から選ばれてよい。
また、前記高分子の層の厚さは10〜200 nmの範囲であってよい。
本発明の他の側面によれば、半導体として上述の何れかの方法で形成した有機半導体薄膜を使用する半導体素子が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、チャネルの材料として上述の何れかの方法で形成した有機半導体薄膜を使用する有機電界効果トランジスタが与えられる。
ここで、前記有機半導体薄膜中に形成された有機半導体の単一の単結晶上にソース及びドレインを配置してよい。
本発明によれば、溶媒蒸気アニールという簡単な処理を用いることで、高い結晶性を有する有機半導体薄膜を形成することができる。
a)は比較例1であるSiO2基板上にスピンコートしたdioctylbenzothienobenzothiophene (C8-BTBT)薄膜の偏光顕微鏡像。挿入図はC8-BTBTの分子構造。b)はa)に示すSiO2基板上にスピンコートしたC8-BTBT薄膜に対し、溶媒蒸気アニールを行った結果の偏光顕微鏡像。 a)は比較例2であるpoly(methyl methacrylate) (PMMA)上にスピンコートしたC8-BTBT薄膜の偏光顕微鏡像。b)はa)に示すPMMA上にスピンコートしたC8-BTBT薄膜に対し、溶媒蒸気アニールを行った結果の偏光顕微鏡像。 a)は本発明に従ってC8-BTBTとPMMAの混合溶液をスピンコートによって塗布することにより形成された層分離構造を持つC8-BTBT/PMMA薄膜の偏光顕微鏡像。b)はa)に示す層分離構造C8-BTBT/PMMA薄膜に対し、溶媒蒸気アニールを行ったものの偏光顕微鏡像。 a) C8-BTBTとPMMAの混合溶液の塗布により、2層分離構造を形成した薄膜の偏光顕微鏡像。中央部を引っ掻くことで上層のC8-BTBTのみを除去した。挿入図は2層分離構造の概念図。b) 各層の膜厚高さを示す表面形状の測定結果を示すグラフであり、a)中の矢印の向きに表面高さを測定したものである。 a)からf)は上記C8-BTBTとPMMAの2層分離構造を持つ薄膜に夫々3〜120分間溶媒蒸気アニールを施した結果を示す偏光顕微鏡像。g)は溶媒蒸気アニールで形成したC8-BTBT単結晶のAFM像。h)は同じく針状結晶の先端部を拡大したAFM像であり、結晶のファセット面が観察できる。i)はg)中のC8-BTBT単結晶を中央やや右よりの左上から右下への白線に沿って切断した場合の断面形状を示す図。 a)は作製した単結晶有機FETの模式図。b)は作製した単結晶有機FETのチャネル領域の顕微鏡像。単一の結晶を測定するために、残りの結晶はレーザーでパターン形成(切断)している(図中の点線部分)。c)は単結晶有機FETのドレイン電流−ゲート電圧特性を示すグラフ。 a)は作製した単結晶有機FETの移動度の分布を示すヒストグラム。b)は同じFETのしきい電圧の分布を示すヒストグラム。 a)は作製した単結晶有機FETのドレイン電流−ゲート電圧特性の温度依存性を示すグラフ。b)は同じFETの移動度としきい電圧の温度依存性を示すグラフ。 3種類の高分子基板上に真空昇華法により形成したC8-BTBT膜を3種類の溶媒を用いた溶媒蒸気アニール処理を約15時間施した結果の偏光顕微鏡写真。 PMMA膜の偏光顕微鏡写真及び形成された単結晶除去後のPMMA膜表面プロファイル図。(a)はスピンコーティング直後の偏光顕微鏡写真。(b)は溶媒蒸気アニール後の偏光顕微鏡写真であり、膨潤効果が現れている。(c)は形成された単結晶をシクロヘキサンですすぎ流した後の試料の偏光顕微鏡写真である。細長い領域(単結晶が形成された場所)の縁の濃色部分(元の偏光顕微鏡写真では青色)はすすぎによって除去されなかった部分であり、従ってこの部分はC8-BTBTではなく厚いPMMAであることがわかる。(d)及び(e)は試料上のC8-BTBT単結晶が除去された部分を横切る表面プロファイル走査結果である。(d)は薄い(33 nm)PMMA膜を、(e)は厚い(155nm)PMMA膜を使用した場合であり、PMMAがC8-BTBT結晶の縁をよじ登ること、また厚いPMMA膜では結晶が深く潜り込むことが示されている。 (a)から(f)は各種の厚さdのPMMA膜上のC8-BTBTを同じ条件でクロロホルムにより約15時間溶媒蒸気アニール処理した後の偏光顕微鏡写真。なお、dが10 nm未満の場合には単結晶は見られなかった。dが200 nmを越えると結晶サイズは一様にならなかったが、(e)及び(f)に示されるように、長さ1 mmを越える単結晶が生成された。(g)は生成された単結晶のサイズ及び結晶深度をPMMA膜厚dの関数として表したグラフであり、PMMA膜が厚いほど結晶が長く、また結晶深度が深くなるという一般的な傾向を表す。グラフ中の破線は傾向を見やすくするためのものである。 クロロホルムを使用して約15時間行った溶媒蒸気アニール処理の結果を示す偏光顕微鏡写真であり、試料として(a)はPMMA上のC10-BTBTを、(b)はPMMA上のC12-BTBTを、また(c)及び(d)はPαMS上のTIPS-pentaceneを使用した場合を示す。なお、(c)中の差込み図はTIPS-pentacene結晶を拡大した写真である。(d)に示すTIPS-pentaceneの大きな結晶は厚いPαMS層上に形成されたものである。図12中の写真は、単結晶周囲の高分子基板の局所的な変形(図12中では濃色に見える部分、元の偏光顕微鏡写真では青色)を示すために、直交偏光子を使用して背景を暗くする処理は行っていない。 Si/SiO2基板上にスピンコートしたTIPS-pentaceneを15時間溶媒蒸気アニール処理した結果の写真。(a)は偏光子を使用しなかった場合、(b)は偏光子を使用した場合の写真である。 (a)〜(d)はC10-BTBTトランジスタの光学顕微鏡写真。(e)はこのトランジスタの伝達特性を測定した結果を示すグラフであり、グラフ中で小さな丸(○)でプロットされたデータは左側の縦軸(Id/A)に、小さな正方形(□)でプロットされたデータは右側の縦軸(sqrt(Id)/A1/2)に対応する。
本発明は有機半導体膜の形成に当たって高分子と有機半導体との二層構造を形成し、これに対して溶媒蒸気アニール法を適用することにより、結晶性の良好な有機半導体膜を得るものである。有機半導体層の厚さは数10 nm程度が都合よく、これより厚くなると結晶が厚くなりすぎるなどの問題が生じる。ただし、100 nm以上でもプロセス自体は可能なので、必ずしも数10 nmを厚さの上限とするものではない。高分子層は10〜200 nm程度なら厚ければ厚いほど溶媒蒸気アニールの効果が高くなるが、あまり厚くなりすぎると逆に溶媒を取り込みすぎるため、結晶が流れてしまう等の問題が生じる。
溶媒蒸気アニール処理を行う以上、当該処理で使用する溶媒に対して有機半導体は当然溶解する必要があるが、高分子も同じ溶媒に対して溶解性を有するものを使用する必要がある。具体的には本発明において溶媒蒸気アニール処理に使用する溶媒に対する高分子の溶解度は1 mg/mL以上であることが好ましい。
高分子層−有機半導体の二層構造を作製するに当たっては適切な方法を適宜使用すればよく、特定の方法に限定する必要はない。非限定的な例示を行えば、基板上に高分子膜をスピンコートし、その上に真空昇華法等によって有機半導体膜を蒸着することで二層構造を実現しても良い。
あるいは、層分離法を使用することにより、この二層構造を一段階で形成することもできる。ここで層分離法による二層構造作成法を説明すれば、最初に高分子と半導体の層分離構造を形成する。具体的には、分子量が1000程度以上の高分子と、低分子有機半導体を同時に溶媒に溶解させ、基板上にスピンコートなどの方法で塗布すると、両者の分子量の違いによって、高分子リッチな層と低分子半導体リッチな層に分離する。このような層分離プロセスで形成される両層の界面は非常にスムースになる。
なお、層分離法による上記二層構造の形成については、例えば、非特許文献3ではTIPS-Pentaceneとpoly(a-methylstylene)を混合して塗布することで生じる層分離現象を利用して、有機FETの特性と均一性を向上したことが報告されている。
二層構造に形成された薄膜に対して溶媒蒸気アニールを行うと、有機半導体分子は高分子層の上を移動して薄膜が再構成される。その結果、粒界の少ない薄膜や、有機半導体単結晶を基板の上に形成することができる。
ここで、溶媒蒸気アニールについて説明する。溶媒蒸気アニールは試料を溶媒の蒸気で飽和した環境に曝すことによって行われる。その結果起こる機能材料の再構成はデポジットされた層の部分的な再溶解に起因するのであるが、これが分子再配置の誘因となって材料のモルフォロジーを改善する。
たとえば、非特許文献1においては、Triethylsilylethynyl anthradithiophene (TES ADT)薄膜に対して溶媒蒸気アニールを行うことで、薄膜が結晶化して有機FETの特性が向上したことが報告されている。また、非特許文献2でも、同じく溶媒蒸気アニールによる有機薄膜の結晶化と有機FETへの応用が説明されている。
一般に、蒸気中の溶媒濃度が高い方が好ましい。これを達成するためには、溶解性が高く、蒸気圧の高い溶媒を使用したり、温度調節を行うことで達成することができる(非特許文献11、15、16)。しかしながら、溶媒蒸気アニールは溶媒−基板間、分子−溶媒間、また分子−基板間の複雑な相互作用であり(非特許文献16)、その解析には多くの困難を伴う。これまで無機基板上での蒸気アニールについては重要な研究がなされてきたが、有機物基板上についてはそのような研究は非常に遅れていた。
本願発明者は、溶媒蒸気アニール処理において、有機物基板として作用する層(具体的には高分子の層。以下高分子基板とも称する)がこの溶媒に良好な溶解性を有する場合に分子の運動性を劇的に増大させ、これによってC8-BTBT等の有機半導体の単結晶形成が促進されることを見いだした。すなわち、本願発明者の検討の結果、有機半導体膜の結晶性と溶媒−高分子基板間の親和性との相関性が見いだされた。本発明における結晶化プロセスにおいては、溶媒蒸気アニール処理を行う溶媒への高分子基板の溶解度は、無機質である不溶性の基板の場合には決定的な要因であった極性や沸点(非特許文献14、15を参照)よりも重要である。この一般的な方法は、混和性のある任意の高分子基板と溶媒蒸気アニール処理溶媒とを使用して基板上に直接的に有機単結晶を作製するために使用可能である。
なお、以下に説明する実施例においては、有機半導体としてC8-BTBTを中心に説明しているが、本発明の効果はC8-BTBTに限られるものではなく、実験5及び実験6の結果から判るように、すべての低分子系有機半導体に対して発揮される。例えば、π電子共役系の芳香族化合物、鎖式化合物、有機顔料、有機ケイ素化合物等が挙げられる。より具体的には、アセン系(TIPS-pentacene等)、チオフェン系、ペリレン系、フラーレン系、ポルフィリン系等の材料が挙げられる。有機半導体層と重ねて形成する高分子層の材料に関しても、溶媒蒸気アニールに使用する溶媒に可溶であり分子量が1000程度以上であれば、その種類は問わない。個別の物質を挙げれば、もちろんこれに限定する意図は全くないが、例えばPMMA、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、poly(4-vinylphenol) (PVP)、α-methyl polystyrene (PαMS)等が使用できる。溶媒蒸気アニールに用いる溶媒に関しても、種類によって効果の大小はあるが、その種類を問わない。溶媒蒸気アニールに用いる溶媒としては、有機半導体と高分子材料分子双方が当該溶媒に可溶であることが条件なので、具体的にはトルエン、キシレン、テトラリン、デカリン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロホルム、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン等が挙げられる。また、以下の実施例ではトップコンタクト型構造を有する有機FETを例に挙げたが、本発明の効果はチャネル領域の結晶性向上であり、従って本質的に有機デバイスの種類や構造は効果の有無に関係しない。
ここで注意すべきこととして、本発明における溶媒蒸気アニール処理には、処理対象の二層構造の向きは影響しないという点がある。以下で説明する実施例からも判るように、二層構造の表面を下向きにして溶媒蒸気を与える実験(例えば、[実験条件等]の中の「○結晶成長と測定」におけるペトリ皿のカバーへの試料の貼付け態様を参照)と当該表面をその反対の上向きにして溶媒蒸気を与える実験(例えば、同じ箇所中の動画撮影のための試料設置態様を参照)の両者を行ったが、結果は同じであった。また、具体的には説明しないが、試料を縦置き(つまり、溶媒蒸気に曝される表面が垂直になるように置く)にした場合でも溶媒蒸気アニールの結果への影響はないことが確認された。
更には、溶媒蒸気アニール処理対象の二層構造における高分子層と有機半導体層の順序は処理結果には影響しないことがわかった。即ち、以下の実験では基板側に高分子膜を、その上に有機半導体膜を形成することで、試料表面に有機半導体が現れている状態で溶媒蒸気アニール処理を行った。しかし、この積層順序を逆にして、先ず有機半導体膜を基板上に先ず形成し、その上に溶媒蒸気アニール処理に使用する溶媒に可溶の高分子の膜を形成したものに対して溶媒蒸気アニール処理を施すと、驚くべきことに処理中にこの積層順序が逆転し、基板側には高分子膜が、表面側には結晶性の良好な(大きな単結晶が成長した)有機半導体膜が形成されている二層構造が得られた。この現象は、溶媒蒸気アニールとともに、当該処理によって与えられた溶媒が引き起こす層分離が並行して作用した結果であると考えられる。
[実験1]
以下に示すようにして、従来技術の方法(比較例1及び2)及び本発明の方法に従って有機半導体薄膜を製膜し、これらの膜を比較した。
高ドープシリコンウエハの表面に、50 nmのシリコン酸化膜を形成したものを基板として用いて、その上に本発明の実施例に従って有機半導体薄膜を形成した。ここで、実験2において高ドープシリコンはゲート電極、シリコン酸化膜はゲート絶縁層として働く。C8-BTBT(日本化薬株式会社)およびPMMA(米国のSigma-Aldrich Corporation)を1:1の割合でクロロベンゼンに溶解させ、2 wt%の溶液とした。この溶液を基板上にスピンコートすることにより、分子量の違いによってC8-BTBTとPMMAが層分離し、下層にPMMA、上層にC8-BTBTの2層構造を形成した。その偏光顕微鏡写真を図3のa)に示す。更に基板を室温のクロロホルムの蒸気によって120分間溶媒蒸気アニールすると、C8-BTBTが基板上で自己組織化的に集合し、図3のb)に示すように、針状の単結晶を形成した。
これに対して、比較例2として、同じ基板に対して同量のC8-BTBTを溶解したクロロベンゼン溶液を上と同じ条件でスピンコートすることにより形成されたC8-BTBT単層膜の偏光顕微鏡写真を図1のa)に示す。更に、この基板を上と同じ条件下でクロロホルムの蒸気によって120分間溶媒蒸気アニールした結果の偏光顕微鏡写真を図1のb)に示す。
更に、比較例2として、同じ基板に対して先ずPMMA薄膜をスピンコートによって形成し、その上に比較例1と同じ条件でC8-BTBT薄膜を形成した。この偏光顕微鏡写真を図2のa)に示す。その後、上と同じ条件下でクロロホルムの蒸気によって120分間溶媒蒸気アニールした結果の偏光顕微鏡写真を図2のb)に示す。
本発明に従った実験例と比較例1,2、とりわけ夫々の120分間の溶媒蒸気アニール後の偏光顕微鏡を比較すると、比較例1,2における有機半導体結晶は本発明によるものよりもはるかに小さいことがわかる(図3のb)の写真の倍率が図1のb)及び図2のb)のそれのほぼ半分であることに注意されたい)。本発明の方法による有機半導体結晶の方がはるかに大きいだけではなく、これらの写真を比較すれば直ちにわかるように、結晶の形状も本発明によるものの方がはるかに整っており、その内部のディスオーダーが少ないことを示している。
図4のa)に示す偏光顕微鏡写真は、図3のb)と同じ方法によって形成した有機半導体膜の表面の中央部を掻き取ることによって下層のPMMAが現れている様子を示している。また、この写真の左側の部分には薄膜の形成を行っていないため、基板表面のSiO2が露出している。この表面の表面高さを図中の白い破線矢印で示す線に沿って測定した結果を図3のb)に示す。特にC8-BTBTを掻き取った領域(すなわちPMMAが露出している領域)は、この処理の性質上、表面の荒れが大きいが、それでもC8-BTBT層とPMMA層の厚さが夫々約50 nm、約50〜60 nmであることが判る。
更に、本発明に従って有機半導体薄膜を形成する場合の溶媒蒸気アニール時間を変化させた場合に形成される有機半導体薄膜がどのように変化するかを調べた。図3の場合と同じ条件で、溶媒蒸気アニール時間を3分間、5分間、15分間、25分間、40分間、120分間とした結果の有機半導体薄膜の偏光顕微鏡写真を図5のa)〜f)に夫々示す。これらの写真から判るように、この範囲では120分間の溶媒蒸気アニールを行った有機半導体薄膜が、より大きな有機半導体単結晶が出来上がり、またその単結晶の形状が整っている点で、最良であることがわかった。
また、図5のg)は溶媒蒸気アニールで形成したC8-BTBT単結晶のAFM像であり、同図のh)は同じく針状結晶の先端部を拡大したAFM像であり、結晶のファセット面が観察できる。図5のi)は同図のg)中のC8-BTBT単結晶を中央やや右よりの左上から右下への白線に沿って切断した場合の断面形状を示す。
[実験2]
実験1で本発明の方法に従って形成した有機半導体薄膜を使用して、有機半導体素子の例として有機電界効果トランジスタ(FET)を作製し、その特性を評価した。
すなわち、図3のb)と同じ条件で形成された有機半導体薄膜上に、さらにソース・ドレイン電極として15 nmの酸化モリブデンと50 nmの金を真空蒸着し、電極間に2つ以上の結晶が存在する場合はレーザーでパターンする(切断する)ことにより、単一の結晶をチャネルとする有機FETを形成した。実験1において個々の単結晶が非常に大きくまた夫々良好な結晶性を有していることから、複数の結晶が直列に接続された形態のチャネルであっても従来の有機半導体膜を使用して作製した有機FETよりも良好な特性を示すことが予測される。しかし、単一の単結晶からなるチャネルの方が、結晶粒界がないためにより良好な特性を示すはずなので、このような構成の有機FETで測定を行った。なお、レーザーで切断を行うことによって複数の単結晶が並列に並ばないようにしたのは、単一の有機半導体単結晶チャネルの特性を測定しようとしたからである。
このようにして作製した有機FETの模式図を図6のa)に示す。また、実際に形成された有機FETのソース電極とドレイン電極との間のチャネル領域領域の顕微鏡写真を図6のb)に示す。この顕微鏡写真で左側の白の破線で囲まれた部分がレーザーによって切断された結晶を示している。また、その右側に斜めに走っている帯状部がC8-BTBTの単結晶である。また、図6のc)は単結晶有機FETのドレイン電流−ゲート電圧特性を示すグラフである。ここで、このグラフ上の左右方向の矢印は、その根元のカーブの縦軸の目盛りがグラフの左右どちら側にあるかを示す。
作製した有機FETの電気測定を真空中にて行った結果、平均で3.0 cm2/V s、最高で9.1 cm2/V sの移動度を得た。いくつかの素子について移動度の温度依存性を評価した結果、300 Kで3 cm2/V s程度の移動度であったものが80 Kにおいて9 cm2/V s程度まで上昇という通常の有機半導体とは逆の温度特性を示し、バンド的な伝導によるキャリア輸送を示唆した。図7のa)は作製した単結晶有機FETの300 Kにおける移動度の分布を示すヒストグラム、同図b)は同じFETのしきい電圧の分布を示すヒストグラムである。また、図8のa)は作製した単結晶有機FETのドレイン電流−ゲート電圧特性の温度依存性を示すグラフ、同図b)は同じFETの移動度としきい電圧の温度依存性を示すグラフである。図8のb)において、白丸と黒丸は夫々温度下降過程、温度上昇過程で測定された移動度、白い正方形と黒い正方形はそれぞれ温度下降過程、温度上昇過程で測定された閾値電圧を表す。図8のb)において閾値電圧が温度に対して一定であることから、結晶中の電荷輸送を妨げるトラップ準位が非常に少ないことがわかる。
[実験3]
以下では、良好な結晶性を有する有機半導体膜を形成する条件、とりわけ溶媒蒸気アニール処理についての条件を更に検討するために行った実験の結果を説明する。なお、実験3以降の詳細な条件については本明細書の末尾近くで別途説明する。
基板として働く3種類の高分子層上にC8-BTBT層を設けたものに3種類の溶媒による溶媒蒸気アニール処理を施した場合の、9通りの組合せの夫々のC8-BTBTの単結晶化の程度を図9に示す。
図9に示す実験においては、PVP、PMMA及びPαMSの3種類の高分子を使用し、各々の高分子層上に真空昇華法によりC8-BTBT膜を形成した。このようにして形成された高分子−C8-BTBT二層構造の試料に対して、THF、クロロホルム及びシクロヘキサンの3種類の有機溶媒によって溶媒蒸気アニール処理を施した。図9に示す写真は、夫々その列方向(つまり上側)に位置する高分子を使用した二層構造の試料に対してその行方向(つまり左側)に位置する溶媒による溶媒蒸気アニール処理を15時間行った結果を示す偏光顕微鏡写真である。例えば、図中の(d)はPVP基板上にC8-BTBT膜を形成した試料をクロロホルム蒸気で15時間溶媒蒸気アニール処理した結果を示す。
ここで使用した3種類の高分子の基板は全てその表面が疎水性であり、また3種類の溶媒全てが、40 ℃以上に昇温したときC8-BTBTを良く溶解する(約1.5 wt%)。従って、溶媒の蒸気圧と相対極性度(relative polarity)(表1の極性指数に対応)、並びに溶媒に対する高分子の溶解性が、溶媒蒸気アニールによる単結晶化の有無を左右する要因として検討すべきものとして残された。図9から明らかなように、組合せ(a)、(b)、(c)、(e)、(f)及び(i)では溶媒蒸気アニールを行うことによってC8-BTBTの単結晶の成長が観測されたが、それ以外の組合せでは単結晶の成長は見られなかった。これらの結果を、上に挙げた単結晶化が起こるか否かに影響する要因の候補と共に整理したものを表1に示す。
表1において、図9との対応を取りやすくするため、溶媒及び高分子の配列順は図9と同じになっている。表中、セクションAは溶媒の蒸気圧及び極性指数(polarity index)を示す。セクションBは9通りの高分子−溶媒の組合せ毎に溶媒蒸気アニーリング処理後にC8-BTBT単結晶の成長が見られたか否かを夫々○、×で示す(単結晶のサイズは問わず、単結晶が観測されれば○とした)。セクションCは、同じく9通りの組合せ毎に溶媒に高分子が可溶か否かを夫々Y、nで示す。例えば、表1のセクションBには、PVPを基板として使用した場合には、溶媒としてTHFを使用したとき単結晶が観測されたが、クロロホルムあるいはシクロヘキサンを使用したときには単結晶が見られなかったことが示されている。
表1において、セクションAとセクションBとを比較したとき、単結晶形成の有無と溶媒の蒸気圧あるいは極性指標との間には相関は認められなかった。なお、表1のセクションBで、PVP列が溶媒の蒸気圧の順番に関連していると見えるかもしれない。つまり、PVP列中ではその一番上にある、最大の蒸気圧を示す溶媒THFだけで単結晶が見られる。しかし、この規則性は、表1のクロロホルム、シクロヘキサンの行では成り立たない。例えば、クロロホルムはPMMAとPαMSとに対しては単結晶ができるという同じ結果を与えるが、PVPの場合にはこれらと同じ結果にはなっていない。極性の要因について検討しても、溶媒の蒸気圧と同様な不一致が現れる。例えば、PαMS基板については、非極性溶媒であるシクロヘキサンで溶媒蒸気アニール処理することで、極性溶媒であるTHF及びクロロホルムと同じくC8-BTBTの単結晶をもたらす。従って、溶媒の蒸気圧と極性の何れも、溶媒蒸気アニール処理による単結晶成長に当たって支配的な要因であるとは認められない。
これに対して、表1のセクションBとセクションCとを比較することにより、溶媒蒸気アニール処理における単結晶形成は、基板を構成する高分子の溶媒への溶解性に強く関連していることが判る。つまり、基板を構成する高分子が蒸気として与えられる溶媒に可溶である全ての場合に単結晶成長が見られ、他方、不溶である場合には単結晶が見られない。この相関関係により、溶媒蒸気アニール処理に使用される溶媒に可溶である基板は、恐らくはその流動性が増すために再結晶化を助けることが示唆される。溶媒蒸気アニールの研究から、溶媒の薄い層(厚さ数10 nm)が基板上に凝結し、これが表面における分子の移動の媒体となることが明らかになった(非特許文献16参照)。本願発明者が溶媒蒸気アニール処理中の試料表面を撮影した実時間動画を検討したところ、基板としてPMMAを使用した試料は早くも2分以内にC8-BTBT膜の溶解・再構成が明確に観察されたが、裸の(つまり、高分子で被覆されていない)Si/SiO2基板上にC8-BTBTを設けた試料では1時間経過した後でも再構成は全く見られなかった。これらの観察結果から、可溶のPMMAが存在することにより、PMMAがない場合に比べてクロロホルム(他の多くの溶媒でも同様だが、ここではクロロホルムを例に挙げて説明する)の取り込み量が劇的に増加することが明確に示された。高分子層に取り込まれたクロロホルムがC8-BTBT分子の表面における移動度を大幅に増大させることで、C8-BTBTが自己組織化的に再結晶化が促進された。長時間の溶媒蒸気アニール処理を行うことで、C8-BTBT結晶の平均サイズはOstwald熟成により増大し続ける(非特許文献20参照)。このプロセスは、系が熱平衡に達するまで数日間にわたって継続することがあり、溶媒蒸気アニールを行った時間に依存して結晶サイズがより大きくなる。
有機半導体結晶成長に必要とされるところの、溶媒蒸気アニールに使用される溶媒に対する高分子の溶解度の下限を確認する実験を更に行った。具体的には、高分子に対して溶媒をマイクロピペットを用いて滴下し、高分子を完全に溶解するために必要とした溶媒の量を見積もった。例えばPVPとTHFとの組み合わせでは、PVP 53.4 mgに対してTHFを50uLずつ滴下していき、9回目ですべて溶解したため、400〜450μLの溶媒が必要であることがわかった。溶解度はポリマーの重量/溶媒の量なので、53.4×1000/450から53.4×1000/400の間ということになり、結局この場合の溶解度は118.7〜133.5 mg/mLと計算された。この実験を3種類の高分子(PVP、PMMA、PαMS)と3種類の溶媒(THF、クロロホルム、シクロヘキサン)の9通りの組合せについて行った。その測定結果を表2に示す。また、このようにして測定した溶解度と、当該高分子−溶媒組合せの場合に溶媒蒸気アニールでC8-BTBT単結晶成長が見られたか否かの実験結果とを比較対照するため、C8-BTBT単結晶成長の有無を○/×で表2の右端カラムに示す。
なお、表2の滴下液滴数の右側に「+」記号を付している箇所(100+、50+)は、当該数値で表される回数の溶媒の滴下を行っても高分子を完全に溶解させることができなかったことを示す。また、「μL」、「mL」は夫々「マイクロリットル」、「ミリリットル」を表す。
表2に示される結果から、単結晶成長を起こすために必要とされる高分子の溶解度(溶媒蒸気アニールに使用される溶媒に対する溶解度)は1 mg/mL以上、より好ましくは4 mg/mL以上、更に好ましくは7 mg/mL以上であると見積もることができる。
[実験4]
溶媒吸収量の増大以外に、PMMA等の高分子膜上でのC8-BTBT結晶化は、溶媒蒸気中でのPMMAの膨潤に依存している(非特許文献19参照)。図10のa)はスピンコーティングしたままの状態のPMMA膜、b)は溶媒蒸気アニール後のPMMA膜を示す位相差顕微鏡写真である。これらの写真から、クロロホルムによる溶媒蒸気アニールで処理された純粋なPMMA膜は、とりわけ基板の縁及び欠陥の周囲で大幅な膨潤を起こすことが判った。従って、溶媒蒸気アニール処理中、PMMA鎖は大きく弛緩して、その上のC8-BTBT分子と共に局所的な分布の再配置が行われ、恐らくは分子の移動及びπ−π相互作用によりもたらされる再結晶化を支援する。溶媒蒸気アニールによって単結晶が成長した試料をシクロヘキサンですすぐことでこれらの単結晶を除去すると、図10のc)の偏光顕微鏡写真に示されるように、PMMA膜上の除去された単結晶の縁の周囲の部分に高さの偏倚が見られた。更に、図10のd)に示す表面プロファイルスキャンの結果から、溶媒蒸気アニール処理中にPMMAが膨潤し、毛細管力によって膨潤したPMMAが結晶の縁を上昇したことが判った。その結果、溶解したC8-BTBT分子もまたPMMA表面と共にC8-BTBT単結晶の縁を上昇し、一般にはこの単結晶の厚みを大きくする。とりわけ、より厚いPMMA膜を使用すると、恐らくはより大きな膨潤及び上昇作用により、図10のe)に示すように、C8-BTBT単結晶はPMMA膜中に深く潜り込むことが判った。
一般に、同じ溶媒蒸気アニール処理条件の下では、図11に示すように、PMMA基板が厚いほど出来上がる単結晶が長くなり、また結晶深度が大きくなる。この結果から、次の結論が導き出される。すなわち、厚いPMMA層は凝結してC8-BTBT分子を溶解したクロロホルムをより多く吸収し、より大きく膨潤する。従って、熱平衡に到達するまでに、同じ量のC8-BTBT分子はより長い距離を移動し、再結晶時間がより長くなる(非特許文献16参照)。よって、C8-BTBT単結晶生成のプロセス全体は、PMMAの溶媒取込と膨潤の結果である。PMMAを更に厚くすると、図4のe)及びf)に示すように、特に長い(1 mmよりも長い)結晶が得られることがあった。しかし、一方では、溶媒アニール処理過程を撮影した動画の観察により、凝結したクロロホルムの量が増大すると、分子を溶解しすぎるため安定した結晶化が妨げられる効果が観測されることもあった。
[実験5]
高分子基板の溶解性がいつでも結晶形成を改善するかどうかを更に検証するため、他の3種類の有機半導体分子、具体的にはC10-BTBT、C12-BTBT(非特許文献18参照)及び6,13-bis(triisopropyl-silylethynyl) pentacene(TIPS-pentacene)(非特許文献21参照)、を使って結晶形成の追加の実験を行った。C10-BTBTとC12-BTBTはCn-BTBT類に属しているがC8-BTBTに比べてアルキル鎖が長く、従ってクロロホルムへの溶解度が低い。TIPS-pentaceneは溶解度が高くまたFET移動度が高いため、広範な研究がなされてきた。図12に示すように、PMMAあるいはPαMS膜上で溶媒蒸気アニールを行うことによって、単結晶の成長が見られた。これに対して、図13に示すように、裸のSiO2基板上の有機半導体に対して溶媒蒸気アニールを行っても、このような単結晶は得られなかった。これらの有機半導体分子を用いた場合には、C8-BTBTに比較してかなり小さな単結晶しか得られなかった。これは、クロロホルムに対する溶解度がC8-BTBTに比べて低いためと考えられる。
[実験6]
実験5により作製されたC10-BTBT単結晶を用いてボトムゲート/トップコンタクト型トランジスタを作製した。このようにして作製されたトランジスタを図14に示す。このトランジスタの伝達特性を測定したところ、電界効果移動度μFET=6.0 cm2V-1s-1を得た。
実験5及び実験6の結果は、本発明の方法が一般の有機半導体の結晶化に適用できる高い可能性を示している。原理上、本発明の方法は、高分子基板上の他の有機半導体についても、溶媒蒸気アニールに使用する溶媒に対して基板と有機半導体の両者が可溶である限り、適用することができる。
[実験条件等]
実験3以降の実験は以下のようにして行った。
○基板の準備
特段の記載のない限り、全ての実験プロセスは大気中で行った。Si/SiO2層は、脱イオン水、アセトン、及びイソプロパノール中で順番に夫々5分間の超音波洗浄を施し、UVオゾンで5分間処理することで清浄化した。この基板上への高分子コーティングは、多様な濃度の、PMMA(Fluka、Mw: 10,000)のクロロベンゼンまたはアニソール溶液、PVP(Sigma-Aldrich Corporation製、Mw: 25,000)のクロロホルム溶液、またはPαMS(Fluka、Mw: 10,000)のトルエン溶液をSi/SiO2層の上にスピンコートすることによって行い、40 nm〜210 nmの厚さの高分子膜を形成した。
○結晶成長と測定
C8-BTBT(日本化薬株式会社製)を各種の基板上に真空蒸着(40 nm、0.3 Å/s、<3×10-4 Par)またはスピンコート(1〜2 wt%クロロベンゼン又はアニソール溶液、2000 rpm、40秒間)した。TIPS-pentacene(Sigma-Aldrich Corporation製)膜はトルエン溶液のスピンコーティングにより形成した。溶媒蒸気アニール処理については、クロロホルムが半分入ったペトリ皿を覆うペトリ皿カバーに、試料の上面を下に向けた状態でテープで貼り付けた。同一の溶媒を使用した実験間での比較のため、全ての試料を同じサイズとして一つのペトリ皿内に収容することで、同じ蒸気圧の下での実験となるようにした(非特許文献22参照)。溶媒蒸気アニール処理中の蒸気圧が溶媒表面と試料との間の距離の影響を受けることがあるため、実験開始時にこの距離が試料間でほぼ同一となるようにした。各種の厚さのPMMA上での単結晶の成長を比較するため、各種の濃度のPMMA溶液をスピンコートして180 ℃で2分間アニールし、その後、これらのPMMA膜の上に同じC8-BTBT溶液(1 w%のアニソール溶液)をスピンコートした。実時間の動画撮影のため、試料をペトリ皿底部のガラススライド上に設置し、これを石英片(フルウチ化学製、0.3 mm厚さ)で覆った後、この構成全体を顕微鏡下に置いた。動画撮影と結晶長測定は、VHX-1000ディジタル顕微鏡(株式会社キーエンス製)により行った。結晶深度測定はP-16+スタイラスプロファイラ(KLA-Tencor)を使用し、図11(g)のグラフ中の各ドットは10回を越える測定結果の値を平均したものである。
○FETの製造と測定
50 nmのSiO2層を有する高ドープn型(100)シリコンウエハーを上述のように清浄化し、PMMAおよびC8-BTBTの各層を形成後、溶媒蒸気アニールによって単結晶を得た。ソース電極及びドレイン電極は、真空中(< 4×10-4 Par)でシャドーマスクを介して酸化モリブデンと金とを蒸着(15/50 nm、0.4 Å/s)することによって作製した。FETの特性測定は、Agilent 4156C半導体パラメーターアナライザーを使用して大気中で行った。チャネル長(L)及び幅(W)の測定は、カラー三次元レーザー走査顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK9510)を使用して行った。μFET及びVthは、飽和領域の伝達特性から、Id=(W/(2L))CiμFET(Vg-Vth)2によって求めた。キャパシタンス−電圧測定によって測定した絶縁層のCi(単位面積当たりのキャパシタンス)は、C10-BTBT試料の場合、50 Hzにおいて40 nFcm-2であった。
以上説明したように、従来に比べてキャリアの移動度の高い有機半導体膜、及びそれを利用した有機半導体素子を提供することができるので、有機FET、有機LED、太陽電池を含む広い応用分野での有機半導体の実用化を促進することができる。
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Claims (15)

  1. 以下のステップを含む有機半導体薄膜形成方法。
    (a) 高分子の層及び有機半導体の層からなる二層構造を基板上に形成する。
    (b) 前記二層構造に対して前記高分子及び前記有機半導体が可溶な溶媒を使用して溶媒蒸気アニール処理を施す。
  2. 前記溶媒に対する前記高分子の溶解度は1 mg/mL以上である、請求項1に記載の有機半導体薄膜形成方法。
  3. 前記基板上に前記高分子の層が形成され、前記高分子層上に前記有機半導体の層が形成される、請求項1または2に記載の有機半導体薄膜形成方法。
  4. 前記二層構造は層分離法により形成する、請求項1から3の何れかに記載の有機半導体薄膜形成方法。
  5. 前記基板上に前記有機半導体の層が形成され、前記有機半導体層の上に前記高分子の層が形成される、請求項1または2に記載の有機半導体薄膜形成方法。
  6. 前記二層構造の形成は前記高分子の層及び前記有機半導体の層を個別に形成することにより行う、請求項1、2、3及び5の何れかに記載の有機半導体薄膜形成方法。
  7. 前記高分子の分子量は1000以上である、請求項1から6の何れかに記載の有機半導体薄膜形成方法。
  8. 前記高分子はPMMA、PVP、PαMS、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、及びポリエチレングリコールからなる群から選ばれる、請求項1から7の何れかに記載の有機半導体薄膜形成方法。
  9. 前記溶媒蒸気アニールに使用される溶媒はトルエン、キシレン、テトラリン、デカリン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロホルム、THF、及びシクロヘキサンからなる群から選ばれる、請求項1から8の何れかに記載の有機半導体薄膜形成方法。
  10. 前記有機半導体はπ電子共役系の芳香族化合物、鎖式化合物、有機顔料、有機ケイ素化合物からなる群から選ばれる有機半導体である、請求項1から9の何れかに記載の有機半導体薄膜形成方法。
  11. 前記有機半導体は、C8-BTBT、C10-BTBT、C12-BTBT、及びTIPS-pentaceneからなる群から選ばれる、請求項10に記載の有機半導体薄膜形成方法。
  12. 前記高分子の層の厚さは10〜200 nmの範囲である、請求項1から11の何れかに記載の有機半導体薄膜形成方法。
  13. 半導体として請求項1から12の何れかに記載の方法で形成した有機半導体薄膜を使用する、半導体素子。
  14. チャネルの材料として請求項1から12の何れかに記載の方法で形成した有機半導体薄膜を使用する、有機電界効果トランジスタ。
  15. 前記有機半導体薄膜中に形成された有機半導体の単一の単結晶上にソース及びドレインを配置した、請求項14に記載の有機電界効果トランジスタ。
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