JP2012012480A - プラスチックの耐摩耗性を向上させる潤滑被膜及びその被膜を形成するための塗料 - Google Patents

プラスチックの耐摩耗性を向上させる潤滑被膜及びその被膜を形成するための塗料 Download PDF

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Abstract

【課題】プラスチック製の摺動部材の耐摩耗性を向上させることのできる潤滑被膜を提供する。
【解決手段】本発明は、水溶性ウレタン樹脂と超高分子量ポリエチレン粒子とを含有する、プラスチック製の摺動部材用の潤滑被膜を提供する。
【選択図】なし

Description

本発明は、プラスチックの耐摩耗性を向上させる潤滑被膜及びその被膜を形成するための塗料に関するものである。
従来、プラスチックを摺動部材の材質として用いると、金属を摺動部材の材質として用いる場合に比べて、摺動部材の摩耗が進行しやすいことが知られている。そのような摺動部材の摩耗を防止する手段として、例えばグリースのような潤滑剤を摺動部材の摺動面に塗布することで、摩耗を防ぐ方法が一般になされている。しかしながら、グリースなどの従来の潤滑剤は、使用を開始してから比較的早い時期に摺動面から取り除かれてしまうため、その摩耗抑制効果は短期間に留まるという問題点がある。
また、プラスチック製の摺動部材が、特に過酷な荷重条件及び摺動速度条件下で使用される場合、例えばポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と表記する。)のような固体潤滑剤を含むグリースを使用し、摩耗を防止する手段が採用されている。しかしながら、PTFEを含むものであっても、グリースであるが故、やはりその耐摩耗効果は短期に留まる。
さらには、PTFE等の固体潤滑剤を含む塗料を摺動部材の表面上に塗布して潤滑被膜を形成することにより、長期的に摺動部材の耐摩耗性を高める手法も提案されている(例えば特許文献1参照)。
特開平10−9270号公報
ところが、本発明者らが詳細に検討を行ったところ、上述の従来の手法では耐摩耗性に更に改善の余地があることが判明した。特に、一般的に使用される固体潤滑剤(例えばPTFE)は、プラスチックよりも耐摩耗性に劣ることがあるため、その固体潤滑剤を含む潤滑被膜をプラスチックの表面上に形成しても、耐摩耗性を向上することが困難である場合も生じる。また、プラスチックの素材によっては、塗料中に含まれる有機溶媒によってケミカルクラックが発生する可能性がある。
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、プラスチック製の摺動部材の耐摩耗性を向上させることのできる潤滑被膜及びその被膜を形成するための塗料を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、潤滑被膜が特定の粒子を固体潤滑剤として含有し、かつ特定の樹脂を含有することにより、プラスチック製の摺動部材の耐摩耗性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、水溶性ウレタン樹脂と超高分子量ポリエチレン粒子とを含有する、プラスチック製の摺動部材用の潤滑被膜を提供する。また、本発明は、水溶性ウレタン樹脂と超高分子量ポリエチレン粒子とを含有する、プラスチック製の摺動部材に塗布するための塗料を提供する。
上記塗料をプラスチック製の摺動部材の表面に塗布して上記潤滑被膜を形成すると、その潤滑被膜は、摺動部材に優れた耐摩耗性を付与するものとなる。これは、それ自体が耐摩耗性に優れた超高分子量ポリエチレン粒子と、その超高分子量ポリエチレン粒子を結合すると共に摺動部材に密着する水溶性ウレタン樹脂を含むことで、摺動部材が相手部材との間で互いに摺動しても、潤滑被膜が摺動部材から剥離することなく耐摩耗性を維持することに起因する。また、その潤滑被膜は、一般的に塗膜が密着し難いポリアミド(ナイロン)系プラスチック製の摺動部材表面にも良好に密着することが可能である。また、超高分子量ポリエチレン粒子はPTFEと同等の摩擦係数を示し、潤滑被膜に非常に優れた耐摩耗性を付与することができる。ここで、「超高分子量ポリエチレン粒子」とは、190℃、21.6kgでのメルトマスフローレートが0.1g/10min未満のポリエチレンの固体粒子を意味する。
本発明の潤滑被膜及び塗料は、フッ素系樹脂粒子を更に含有すると好ましい。フッ素系樹脂粒子は、潤滑被膜の静摩擦係数を低減することができる。したがって、潤滑被膜がフッ素系樹脂粒子を含有すると、摺動部材が相手部材との間で摺動する際、両部材間の摩擦が軽減することにより、結果として潤滑被膜による摺動部材の耐摩耗性付与の効果が更に高くなる。
上記超高分子量ポリエチレン粒子は、その平均粒子径が30μm以下であると好ましい。平均粒子径が30μm以下であることにより、潤滑被膜に好ましい平滑な状態を容易に付与することが可能となる。なお、超高分子量ポリエチレン粒子の平均粒子径は、コールターカウンター法により測定される。
プラスチック製の摺動部材に塗布するための本発明の塗料は、主溶媒として、水、又は、水とアルコールとの混合溶媒を含有すると好ましい。これにより、該塗料をプラスチック製の摺動部材の表面に塗布しても、その摺動部材のケミカルクラックなどによる破損をより効果的に抑制することが可能となる。ここで、「主溶媒」とは、塗料に含有される溶媒の全量に対して50質量%以上を占める溶媒を意味し、混合溶媒を構成する各溶媒の合計量が、塗料に含有される溶媒の全量に対して50質量%以上を占める場合、その混合溶媒は「主溶媒」である。
本発明によれば、プラスチック製の摺動部材の耐摩耗性を向上させることのできる潤滑被膜及びその被膜を形成するための塗料を提供することができる。
摺動試験における静摩擦係数の変化を示すグラフである。 摺動試験における静摩擦係数の変化を示すグラフである。 ギア試験における歯車温度の経時変化を示すグラフである。 ギア試験における歯車の摩耗量を示すグラフである。
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
本実施形態の塗料は、プラスチック製の摺動部材に塗布するための塗料であって、水溶性ウレタン樹脂と超高分子量ポリエチレン粒子とを含有するものである。また、本実施形態の潤滑被膜は、プラスチック製の摺動部材の表面上に形成されるものであって、水溶性ウレタン樹脂と超高分子量ポリエチレン粒子とを含有する。
本実施形態に係る水溶性ウレタン樹脂(水系ウレタン樹脂ともいう。)は、水溶性であるか、水性エマルジョンを形成可能であれば特に限定されず、公知のものであってもよい。水溶性ウレタン樹脂としては、例えば、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル/ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、アクリルエステル系ウレタン樹脂及びアクリル複合化ウレタン樹脂が挙げられる。これらの中では、摺動部材に対する密着性をより高める観点から、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル/ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂が好ましい。水溶性ウレタン樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
水溶性ウレタン樹脂は常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、アデカボンタイターHUX(商品名、ADEKA社製)シリーズ、エバファノール(商品名、日華化学社製)シリーズ、ネオステッカー(商品名、日華化学社製)が挙げられる。
本実施形態に係る水溶性ウレタン樹脂は、水溶性であるか、水性エマルジョンを形成可能であれば、その分子量は特に限定されないが、例えば、塗料の取り扱いやすさ、塗布性、潤滑被膜の強度の観点から、重量平均分子量で20万〜30万であると好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される。
本実施形態の塗料において、上記水溶性ウレタン樹脂の含有量は、本発明の目的を達成できる範囲であれば特に限定されない。例えば、水溶性、エマルジョン形成性及び摺動部材への塗布性の観点から、塗料の全量に対して、5〜50質量%であると好ましく、10〜25質量%であるとより好ましい。この含有量が上記下限値以上であることにより、水溶性ウレタン樹脂の上述の効果をより有効かつ確実に奏することが可能となり、上限値以下であることにより、水溶性ウレタン樹脂以外の塗料に含まれ得る各成分による効果が低減することを防ぐことができる。
本実施形態の潤滑被膜及び塗料は、摺動部材との密着性を高く維持すると共に耐摩耗性を高める観点から、超高分子量ポリエチレン粒子を含有する。超高分子量ポリエチレン粒子は、重量平均分子量が100万以上のポリエチレンからなる粒子である。超高分子量ポリエチレン粒子は、摺動部材の材質に用いられるポリアミドと比較して約5倍、ポリアセタールと比較して約16倍、フッ素樹脂と比較して約6倍の耐摩耗性(旭化成法、ドライサンド磨耗法)を有する。そのため、摺動部材がこれらの材質からなる場合、摺動部材の耐摩耗性を特に高めることができ、好適である。
超高分子量ポリエチレン粒子は、常法により合成しても市販品を入手してもよい。超高分子量ポリエチレン粒子の市販品としては、例えば、サンファイン(商品名、旭化成ケミカルズ社製)シリーズ、ミペロン(商品名、三井化学社製)シリーズ、ハイゼックスミリオン(商品名、三井化学社製)シリーズ、ダイニーマ(商品名、DSM社製)、スペクトラ(商品名、ハネウェル社製)、GUR(商品名、ティコナ社製)が挙げられる。
超高分子量ポリエチレン粒子の重量平均分子量は上述のとおり100万以上であるが、本発明による効果をより有効かつ確実に奏する観点から、150万以上であると好ましく、200万以上であるとより好ましく、また、700万以下であると好ましい。
超高分子量ポリエチレン粒子の平均粒子径は、30μm以下であると好ましく、20μm以下であるとより好ましく、10μm以下であると更に好ましい。その平均粒子径が30μm以下であると、潤滑被膜の耐摩耗性を長期間、高いレベルで維持することが可能となる。なお、その平均粒子径の下限は特に限定されず、例えば、1μm以上であってもよい。
本実施形態の塗料及び潤滑被膜において、上記超高分子量ポリエチレン粒子の含有量は特に限定されないが、水溶性ウレタン樹脂100質量部に対して、1〜200質量部であると好ましく、50〜150質量部であるとより好ましく、75〜110質量部であると更に好ましい。この含有量が上記下限値以上であることにより、超高分子量ポリエチレン粒子の上述の効果をより有効かつ確実に奏することが可能となり、上限値以下であることにより、超高分子量ポリエチレン粒子以外の塗料に含まれ得る各成分による効果が低減することを防ぐことができると共に、塗料の塗布性を高く維持することが可能となる。
本実施形態の潤滑被膜が超高分子量ポリエチレン粒子を含むことにより、本発明の効果を奏する要因としては、下記の事項が考えられる。ただし、要因はこれに限定されない。すなわち、超高分子量ポリエチレン粒子は、エチレン鎖が非常に長く、これが粒子状になるとエチレン鎖が丸まって絡み合いやすくなる。さらに、エチレン鎖が丸まることにより、エチレン鎖の水素原子同士の距離が短くなり、水素原子間の相互作用が強くなる。これにより、超高分子量ポリエチレン粒子は粒子の強度が強くなり、摺動によるその粒子の破壊が抑制される。また、超高分子量ポリエチレン粒子は、その側鎖を有しないため、エチレン鎖が丸まると粒子の表面が滑らかになる。これらの結果、超高分子量ポリエチレン粒子を含む潤滑被膜は耐摩耗性に優れたものになると考えられる。
本実施形態の潤滑被膜及び塗料は、フッ素系樹脂粒子を更に含有すると好ましい。フッ素系樹脂粒子は、その静摩擦係数が低いため、摺動部材の耐摩耗性を更に向上することができる。フッ素系樹脂粒子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン粒子、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂粒子及びエチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー粒子などのテトラフルオロエチレンの単独重合体又は他のモノマーとの共重合体の粒子、パーフルオロエチレン−プロペンコポリマー粒子、ポリビニリデンフルオライド粒子及びエチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー粒子が挙げられる。これらの中では耐摩耗性をより高める観点及び入手の容易性の観点から、テトラフルオロエチレンの単独重合体又は他のモノマーとの共重合体の粒子が好ましく、ポリテトラフルオロエチレン粒子がより好ましい。
フッ素系樹脂粒子は常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては例えば、ルブロン(商品名、ダイキン工業社製)シリーズ、アルゴフロン(商品名、ソルベイソレクシス社製)シリーズ、フルオン(商品名、旭硝子社製)シリーズ、ダイニオン(商品名、住友スリーエム社製)シリーズが挙げられる。
フッ素系樹脂粒子の平均粒子径は、30μm以下であると好ましく、20μm以下であるとより好ましく、10μm以下であると更に好ましい。平均粒子径が30μm以下であることにより、潤滑塗膜に好ましい平滑な状態を容易に付与することが可能となる。なお、その平均粒子径の下限は特に限定されず、例えば、0.1μm以上であってもよい。
本実施形態の塗料及び潤滑被膜において、上記フッ素系樹脂粒子の含有量は特に限定されないが、水溶性ウレタン樹脂100質量部に対して、1〜200質量部であると好ましく、10〜70質量部であるとより好ましく、20〜50質量部であると更に好ましい。この含有量が上記下限値以上であることにより、フッ素系樹脂粒子の上述の効果をより有効かつ確実に奏することが可能となり、上限値以下であることにより、フッ素系樹脂粒子以外の塗料に含まれ得る各成分による効果が低減することを防ぐことができると共に、塗料の塗布性を高く維持することが可能となる。
本実施形態の塗料は、環境上の観点、及び手動部材のケミカルクラックを抑制する観点から、主溶媒として、水、又は、水とアルコールとの混合溶媒を含有すると好ましい。アルコールとしては特に限定されず、例えば、エタノール、イソプロパノール、ブチルセロソルブ、エチレングリコールが挙げられる。これらのアルコールは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
主溶媒として水とアルコールとの混合溶媒を用いる場合、その混合溶媒におけるアルコールの含有量は、混合溶媒の全量に対して、35質量%以下であると好ましく、25質量%以下であるとより好ましい。また、本実施形態の塗料における主溶媒の含有量は、溶媒の全体量に対して50質量%以上であり、好ましくは100質量%、すなわち溶媒の全量が、水、又は、水とアルコールとの混合溶媒である。
本実施形態の塗料は、本発明の目的達成を阻害しない範囲で、上記主溶媒以外の溶媒を含有してもよい。
また、本実施形態の塗料及び潤滑被膜は、本発明の目的達成を阻害しない範囲で、潤滑被膜及びそれを形成するための塗料に用いられる各種の添加剤が含まれてもよい。そのような添加剤としては、例えば、界面活性剤、充填剤、レベリング剤などが挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界活性剤、両性界面活性剤及び陽イオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルフェニルエーテル及びポリエチレングリコールが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル塩、スルホン酸塩及びリン酸エステル塩が挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルアミンオキシドが挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸アミン塩、第四級アンモニウム塩が挙げられる。
充填剤としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、コロイダルシリカ、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、窒化ケイ素、タルク、マイカ及びカーボンブラックが挙げられる。
また、増粘剤としては、例えば、無機系増粘剤及び有機系増粘剤が挙げられる。無機系増粘剤としては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サボナイト及びヘクトライトに代表される微粒シリカが挙げられる。有機系増粘剤としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム及びポリビニルアルコールが挙げられる。
本実施形態の塗料は、上記各成分を任意の方法によって混合撹拌して得られる。また、本実施形態の潤滑被膜は、上記本実施形態の塗料を摺動部材の表面上に塗布してから溶媒を除去し(乾燥し)、更に必要に応じて加熱することによって得られるものである。
塗料の摺動部材への塗布方法は公知の塗布方法であればよく、例えば、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、フローコート法などが挙げられ、スプレーコート法が好ましい。また、溶媒の除去(乾燥)処理は、塗料中の溶媒を揮発させるための処理であり、その処理温度及び処理時間は、溶媒を揮発除去でき、かつ、塗料中の各成分を不必要に変性させない範囲であれば特に限定されない。
なお、プラスチック製の摺動部材への潤滑塗膜の形成に際し、所望の膜厚を得るために、塗料を塗布して、更に必要に応じて乾燥処理を施した後、更に塗料の塗布、並びに必要に応じて乾燥処理を繰り返してもよい。もちろん、それらの各処理は各一回のみであってもよい。
本実施形態の潤滑被膜の膜厚(平均膜厚)は、本発明の上記効果を奏する範囲であれば特に限定されないが、10〜30μmであると好ましい。膜厚が上記下限値を下回ると、本発明による耐摩耗性の効果が十分に発揮され難くなる傾向にあり、上記上限値を超えると、摺動部材の寸法に対して潤滑被膜を形成した製品の寸法が大きくなりすぎるため、実用的でなくなる傾向にある。
本実施形態において、潤滑被膜を形成する対象となるプラスチック製の摺動部材としては、例えば、歯車、滑り軸、滑り軸受け、レールが挙げられる。また、摺動部材を構成するプラスチックの材質としては、例えばポリアミド、ポリアセタール、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイドが挙げられる。これらの中では、本実施形態の潤滑被膜による耐摩耗性及び密着性の効果をより有効に奏する観点から、ポリアミド、ポリアセタール及びフッ素樹脂が好ましい。
本実施形態の塗料及び潤滑被膜によると、そこに含有される超高分子量ポリエチレン粒子及び水溶性ウレタン樹脂の作用により、潤滑被膜が耐摩耗性に優れたものとなる。また、その潤滑被膜は、水溶性ウレタン樹脂の作用により、多種多様なプラスチック製の摺動部材に対する密着性にも優れたものとなる。これは、水溶性ウレタン樹脂が分子内に有する官能基の電気陰性度に基づくものと考えられるが、要因はこれに限定されない。さらに、その潤滑被膜は、超高分子量ポリエチレン粒子を含有することにより、潤滑被膜の耐摩耗性を更に高めることができ、しかもその効果をより長期に亘って維持することが可能となる。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(塗料の調製)
(実施例1)
まず、超高分子量ポリエチレン粒子(商品名「ミペロン」、三井化学社製、JIS K 6936−1適合品、分子量200万以上、平均粒子径10μm以下)を、イオン交換水、ブチルセロソルブ及び界面活性剤である高分子ポリカルボン酸ナトリウム塩(商品名「ポリスターOM」、日油社製)を混合した溶液の入った容器に投入して、粒子が均一に分散するまで十分に撹拌して分散液を得た。次いで、ポリテトラフルオロエチレン粒子(商品名「ルブロン」、ダイキン工業社製、平均粒子径10μm以下)を、イオン交換水、ブチルセロソルブ及び界面活性剤である高分子ポリカルボン酸ナトリウム塩(商品名「ポリスターOM」、日油社製)を混合した溶液の入った別の容器に投入して、粒子が均一に分散するまで十分に撹拌して別の分散液を得た。
次いで、上述の2種類の分散液を混合し、そこに、さらに、水溶性ウレタン樹脂であるポリエーテル/ポリエステル系ウレタン樹脂(商品名「HUX−370」、ADEKA社製)とレベリング剤であるスルホン酸塩(商品名「フタージェント110」、ネオス社製)を投入して十分に混合撹拌して、塗料を得た。得られた塗料中の各成分の配合割合は、ポリエーテル/ポリエステル系ウレタン樹脂11.4質量%、超高分子量ポリエチレン粒子10.2質量%、ポリテトラフルオロエチレン粒子3.4質量%、イオン交換水57.8質量%、ブチルセロソルブ15.7質量%、高分子ポリカルボン酸ナトリウム塩1.5質量%、及びスルホン酸塩0.1質量%であった。
(実施例2)
水溶性ウレタン樹脂を、上記ポリエーテル/ポリエステル系ウレタン樹脂から、ポリカーボネート系ウレタン樹脂(商品名「エバファノールHA−50C」、日華化学社製)に変更した以外は実施例1と同様にして塗料を得た。
(比較例1)
(グリースの調製)
まず、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子35質量%、メラミンシアヌレート(MCA)25質量%、及び基油としてポリアルファオレフィンを40質量%準備した。これを混合し、ロールミーリングにより十分に混練することにより、グリースを得た。
(比較例2)
超高分子量ポリエチレン粒子を含まずポリテトラフルオロエチレン粒子を含む市販の塗料(商品名「ゾルベスト309」、エスティーティー社製))を準備した。この塗料中の各成分の配合割合は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子6.4質量%、エポキシ樹脂17.3質量%、メチルエチルケトン(MEK)38.3質量%、キシレン5.8質量%、トルエン2.9質量%、シクロヘキサノン4.8質量%、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAC)24.6質量%であった。
(摺動試験)
(試験2A、2B、2F及び2G)
ポリアセタール(試験2B、商品名「ジュラコンM−25」、ポリプラスチックス社製)製又はポリアミド(試験2A、2F及び2G、商品名「UBEナイロン2026B」、ナイロン66、宇部興産社製)製の直方体形状のブロック部材(16mm×10mm×6mm)と、円環状のリング部材(材質:SAE4620 STEEL、硬度:HRC58〜63、外径:35mm、厚さ:8.7mm)とを準備した。上述のようにして得られた塗料を、ブロック部材の表面上に、スプレーコート法により塗布した。塗布後、100℃で30分乾燥して、上記ブロック部材の表面上に厚さ15μmの潤滑被膜を得た。次いで、リング部材をその軸を中心にして回動可能なように摺動試験機に取り付け、そのリング部材の外周面と接触するように、潤滑被膜が形成されたブロック部材を摺動試験機に設置して固定した。そして、リング部材を90°の角度で往復回転するように回動させることにより、その外周面をブロック部材の一表面(6mm×1mm)に対して摺動させて、静摩擦係数を測定した。摺動条件は下記のとおりとした。測定した静摩擦係数の結果を図1及び2に示す。
・使用試験機:FALEX No.1 BLOCK ON RING試験機(FALEX社製)
・直接荷重:44.5N(面圧:0.73MPa)
・接触面積:約6mmの線接触
・往復速度:70cpm
・摺動回数:最大10000回
試験後のブロック部材について、表面粗さ測定機により、その摩耗体積を測定した。摩耗体積は、摩耗により生じた凹部について、その開口幅Wと、その深さDと、線接触の長さ6mmとの積により算出した。結果を表1に示す。
(試験2C)
上述のようにして得られたグリースを、SAE4620 STEEL製の上記リング部材の表面上に0.02g塗布して、上記ブロック部材に潤滑被膜を形成しない以外は上記と同様にして、静摩擦係数を測定し、摩耗体積を算出した。測定した静摩擦係数の結果を図1に、摩耗体積の結果を表1に示す。
試験後のブロック部材について、表面粗さ測定機(サーフコム130A、東京精密社製)により、その摩耗体積(摩耗による減少分の体積)を測定した。摩耗体積は、摩耗により生じた凹部について、その開口幅Wと、深さDと、線接触の長さ6mmとの積により算出した。結果を表1に示す。
(試験2D及び2E)
潤滑被膜を形成していない上記ブロック部材(ポリアセタール製:試験2D、ポリアミド製:試験2E)を用いた以外は上記と同様にして、静摩擦係数を測定し、摩耗体積を算出した。測定した静摩擦係数の結果を図1に、摩耗体積の結果を表1に示す。なお、試験2Eにおいては、摺動回数が4000回〜5000回の間において、静摩擦係数が急上昇し摺動が困難になったため、その時点で試験を中止し、摩耗体積を測定した。
(ギア試験)
(試験3A及び3B)
上述のようにして得られた実施例1の塗料を、ポリアセタール(試験3A、商品名「ジュラコンM−25」、ポリプラスチックス社製)製又はポリアミド(試験3B、商品名「UBEナイロン2026B」、ナイロン66、宇部興産社製)製の歯車(歯数:31)の表面上に、スプレーコート法により塗布した。塗布後、100℃で30分乾燥して、上記歯車の表面上に厚さ15μmの潤滑被膜を得た。次いで、その歯車を動力吸収式歯車強度試験機の所定位置にセットして、下記条件によりギア試験を行い、そのときの歯車温度を測定した。結果を図3に示す。また、試験前後での歯車の質量を測定して、その差分を算出することで、試験後の歯車の摩耗量を導出した。結果を図4に示す。
・歯車のピッチ円周速度:1m/秒(616rpm、被動)
・歯面荷重:3MPa(15N、1.53kgf)
・トルク:23.2N・cm(2.37kgf・cm)
・時間:81時間(積算回転数:30万回転)
(試験3C及び3D)
潤滑被膜を形成していない上記歯車(ポリアセタール製:試験3C、ポリアミド製:試験3D)を用いた以外は上記と同様にして、ギア試験を行い、そのときの歯車温度を測定し、試験後の歯車の摩耗量を導出した。結果を図3及び4に示す。試験3C及び3Dとも、摺動不良に基づく摩擦発熱による歯車温度の上昇が認められた。

Claims (7)

  1. 水溶性ウレタン樹脂と超高分子量ポリエチレン粒子とを含有する、プラスチック製の摺動部材用の潤滑被膜。
  2. フッ素系樹脂粒子を更に含有する、請求項1に記載の潤滑被膜。
  3. 前記超高分子量ポリエチレン粒子の平均粒子径は30μm以下である、請求項1又は2に記載の潤滑被膜。
  4. 水溶性ウレタン樹脂と超高分子量ポリエチレン粒子とを含有する、プラスチック製の摺動部材に塗布するための塗料。
  5. 主溶媒として、水、又は、水とアルコールとの混合溶媒を含有する、請求項4に記載の塗料。
  6. フッ素系樹脂粒子を更に含有する、請求項4又は5に記載の塗料。
  7. 前記超高分子量ポリエチレン粒子の平均粒子径は30μm以下である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の塗料。
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