JP2008231160A - 塑性加工用水系潤滑剤および潤滑被膜の形成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来よりも濡れ性に優れるとともに、油分が混入しても濡れ性が低下しにくく均一な潤滑被膜を形成できる潤滑被膜形成剤(塑性加工用水系潤滑剤)を提供する。また、油分が混入して劣化した潤滑被膜形成剤を再利用する潤滑被膜の形成方法を提供する。
【解決手段】本発明の塑性加工用水系潤滑剤は、固体潤滑剤と、該固体潤滑剤を分散する水と、該固体潤滑剤の表面を正に帯電させる陽イオン界面活性剤と、を含む。また、本発明の潤滑被膜の形成方法は、塑性加工用素材の表面または塑性加工用工具の表面に潤滑被膜を形成する方法であって、前記潤滑被膜の形成に供されて油分が混入した前記潤滑被膜形成剤の劣化液に陽イオン界面活性剤を添加して、前記固体潤滑剤の表面を正に帯電させてなる液を該潤滑被膜形成剤として再利用することを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、金属材料の塑性加工において、工具表面への被加工材の焼付き、摩耗、それに伴う被加工材の肌荒れや工具の寿命の低下などを抑制するために、工具と被加工材とが接触する面に形成される潤滑被膜の形成に用いられる潤滑被膜形成剤に関するものである。
金属材料の圧延、鍛造、押出し加工などの塑性加工では、工具と被加工材の焼付き防止のために、両者の接触面に潤滑剤を使用する。たとえば、熱間鍛造加工では、黒鉛粉末などの固体潤滑剤を水に分散させてなる水系潤滑剤が、工具や被加工材の表面に潤滑被膜を形成する潤滑被膜形成剤として多用されている。工具や被加工材の表面に水系潤滑剤を塗布してから乾燥することにより、工具と被加工材とが接触する面に固体潤滑剤からなる潤滑被膜を形成し、加工時の摩擦を低減する。このような潤滑被膜形成剤の具体例としては、たとえば、特許文献1に開示されている金属材料塑性加工用水系潤滑剤がある。
ところが、潤滑剤は、加工施設において循環されて使用されることが多いため、設備の潤滑油などの油分が潤滑剤に混入することがある。油分が混入した水系潤滑剤は、工具や被加工材の表面へ塗布される際の表面への濡れ性が低下し、その結果、均一な潤滑被膜が形成され難くなる。
水系潤滑剤と混入した油分とを分離除去する方法として、水面に浮上した油分(浮上油)を回収するオイルスキマーを用いた分離方法や、遠心分離による方法が考えられる。しかしながら、固体潤滑剤、たとえば黒鉛粉末を含む水系潤滑剤では、混入した油分は黒鉛粉末に付着しやすい。オイルスキマーや遠心分離では、黒鉛粉末に付着した油分を分離除去することは不可能である。したがって、油分が混入して濡れ性が低下した水系潤滑剤は、そのままでは使用することができない。
特開2000−309793号公報
本発明は、従来よりも濡れ性に優れるとともに、油分が混入しても濡れ性が低下しにくく均一な潤滑被膜を形成することが可能な潤滑被膜形成剤(塑性加工用水系潤滑剤)を提供することを目的とする。また、油分が混入して劣化した潤滑被膜形成剤を再利用する潤滑被膜の形成方法を提供することを目的とする。
本発明の塑性加工用水系潤滑剤は、固体潤滑剤と、該固体潤滑剤を分散する水と、該固体潤滑剤の表面を正に帯電させる陽イオン界面活性剤と、を含むことを特徴とする。
また、本発明の潤滑被膜の形成方法は、固体潤滑剤と該固体潤滑剤を分散する水とを含む潤滑被膜形成剤を塑性加工用素材または塑性加工用工具の表面に塗布する塗布工程と、該塗布工程で塗布された該潤滑被膜形成剤を乾燥して該塑性加工用素材または該塑性加工用工具の表面に該固体潤滑剤からなる潤滑被膜を形成する乾燥工程と、からなる潤滑被膜の形成方法において、
前記潤滑被膜の形成に供されて油分が混入した前記潤滑被膜形成剤の劣化液に陽イオン界面活性剤を添加して、前記固体潤滑剤の表面を正に帯電させてなる液を該潤滑被膜形成剤として再利用することを特徴とする。
なお、本明細書において、「固体潤滑剤」とは、粉末状の他、水に分散してコロイド溶液となるコロイド粒子状も含む。また、「潤滑被膜形成剤」とは、固体潤滑剤と該固体潤滑剤を分散する水とを含む液剤であれば、陽イオン界面活性剤の有無を問わず、本発明の「塑性加工用水系潤滑剤」をも含む。
本発明の塑性加工用水系潤滑剤では、陽イオン界面活性剤により、固体潤滑剤の表面が正に帯電した状態にある。一般に、潤滑剤被膜が形成される工具や被加工材の表面の等電点は酸性側にあり、ほぼ中性の潤滑剤環境下では、その表面は負に帯電しやすい。そのため、表面が正に帯電した固体潤滑剤は、工具や被加工材の表面に付着しやすくなる。
また、固体潤滑剤は、本質的には親油性であるため、その表面には、潤滑剤被膜形成剤に混入した油分が付着しやすい。固体潤滑剤に油分が付着すると、水中での固体潤滑剤の分散性が低下するだけでなく、固体潤滑剤に油分が付着した状態で潤滑被膜形成剤を使用すると、潤滑被膜形成剤を工具や被加工材などの表面に塗布しても潤滑被膜形成剤が表面で弾かれ、固体潤滑剤が表面に付着し難くなる。そのため、均一な潤滑被膜が形成されず、塑性加工において所望の潤滑性が得られない。
本発明の塑性加工用水系潤滑剤において、陽イオン界面活性剤は、油分が塑性加工用水系潤滑剤に混入して固体潤滑剤に付着した状態であっても、油分と水との界面に吸着して作用すると考えられる。その結果、固体潤滑剤に油分が付着しても、固体潤滑剤の水中での分散性は低下しない。たとえば、油分が混入した状態で本発明の塑性加工用水系潤滑剤が貯槽に長期間蓄えられており、水中に分散していた固体潤滑剤が沈降しても、この塑性加工用水系潤滑剤を流動させることで、固体潤滑剤は容易に水中に分散する。さらに、前述のように、工具や被加工材の表面は負に帯電し易いため、陽イオン界面活性剤の吸着により正電荷を帯びた固体潤滑剤は、工具や被加工材の表面に付着しやすい。そして、陽イオン界面活性剤が十分な量添加されていれば、本発明の塑性加工用水系潤滑剤の濡れ性は、添加した陽イオン界面活性剤のはたらきにより、さらに油分が混入しても低下しにくい。
陽イオン界面活性剤は、潤滑剤にあらかじめ含有されていなくても、油分が混入した後に添加することでも効果が発揮される。すなわち、固体潤滑剤と該固体潤滑剤を分散する水とを含む潤滑被膜形成剤を用いる潤滑被膜の形成方法において油分が混入した潤滑被膜形成剤の劣化液に、陽イオン界面活性剤を添加する。潤滑被膜形成剤に混入して固体潤滑剤に付着した油分と水との界面で陽イオン界面活性剤が作用するため、固体潤滑剤に油分が付着した状態であっても、水中での分散性に優れる。さらに、一般に、工具(塑性加工用工具)や被加工材(塑性加工用素材)の表面は負に帯電し易いため、陽イオン界面活性剤の吸着により正電荷を帯びた固体潤滑剤は、工具や被加工材の表面に付着しやすくなる。その結果、劣化液は再生され、潤滑被膜形成剤として再利用可能となる。
以下に、本発明の塑性加工用水系潤滑剤および潤滑被膜の形成方法を実施するための最良の形態を説明する。
[塑性加工用水系潤滑剤]
本発明の塑性加工用水系潤滑剤は、固体潤滑剤と、水と、陽イオン界面活性剤と、を含む。
固体潤滑剤は、水に分散できるものであれば特に限定はない。固体潤滑剤として一般的に用いられている黒色系固体潤滑剤および非黒色系固体潤滑剤は、本質的に親油性であり、その表面に油分が付着しやすいため、これらの中から選択できる。具体的には、黒鉛、二硫化モリブデン等の黒色系固体潤滑剤、窒化ホウ素、雲母、フッ化黒鉛、メラミンシアヌレート、ポリアミド等の水に不溶の粉末や水溶性ガラスやカルボン酸塩など水中でコロイド状で存在する白色系固体潤滑剤、が挙げられる。固体潤滑剤として、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
固体潤滑剤は、粉末状やコロイド粒子状であるのが望ましい。水への分散性や潤滑性の点から、固体潤滑剤の平均粒径は、粉末状であれば0.5〜5μm、コロイド粒子状であれば0.01〜0.1μmであるとよい。
水は、固体潤滑剤を分散する。本来、固体潤滑剤は親油性であるため、水に分散しにくいが、固体潤滑剤の表面を表面処理したり、分散剤や乳化剤を添加したり、などといった一般的な方法により水への分散性を付与するとよい。水に分散される固体潤滑剤は、塑性加工用水系潤滑剤全体を100重量%としたときに、1〜30重量%の割合で分散されるのが好ましい。本発明の塑性加工用水系潤滑剤は、前述の通り、陽イオン界面活性剤の添加効果により固体潤滑剤の付着性が向上するため、通常よりも固体潤滑剤が低濃度であってもよく、2重量%以上であれば、十分な潤滑被膜を形成することができる。20重量%以下であれば、被膜形成に必要な固体潤滑剤の分散性と潤滑剤自体の流動性が十分に得られる。
なお、固体潤滑剤を水に分散させたものは、「水系潤滑剤」として市販されており、たとえば、日本黒鉛工業株式会社製のプロハイト、日立粉末冶金株式会社製のヒタゾル、花野商事株式会社製のホワイトルブ等が好適である。
陽イオン界面活性剤は、固体潤滑剤の表面を正に帯電させる。本発明の塑性加工用水系潤滑剤に油分が混入した場合には、陽イオン界面活性剤は、混入した油分と水との界面で作用すると推測される。特に、油分が付着した固体潤滑剤には、水中で電離して陽イオン化した陽イオン界面活性剤本体の親油基が、固体潤滑剤に付着した油分に吸着すると考えられる。その結果、固体潤滑剤は正電荷を帯びる。
用いられる陽イオン界面活性剤の種類に特に限定はない。ただし、本発明の塑性加工用水系潤滑剤を熱間鍛造のような高温での加工に使用して塑性加工用水系潤滑剤の一部が燃焼しても、有害物質が発生しない陽イオン界面活性剤であるとよい。たとえば、塩素を含まない非塩素系の陽イオン界面活性剤であって、その中でも特に、スルホン基を有さないものが好ましい。陽イオン界面活性剤としては、対イオンとしてアジピン酸やプロピオン酸などのカルボン酸アニオンをもつ第4級アンモニウム塩やアミン塩が代表的であって、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、テトラアルキルアンモニウム塩などが使用可能である。具体的には、三洋化成工業株式会社製のオスモリンDA−50、第一工業製薬株式会社製のカチオーゲンES、ロンザ株式会社製のバーダップ26、日本油脂株式会社製のニッサンカチオンMA、ニッサンカチオンSA等が好適である。
陽イオン界面活性剤の含有割合は、固体潤滑剤の表面を正に帯電できれば、特に限定はない。また、本発明の塑性加工用水系潤滑剤に油分が混入する場合には、混入する油分に吸着できる有効な陽イオン界面活性剤が、塑性加工用水系潤滑剤に含まれればよい。そのため、陽イオン界面活性剤の含有割合は、塑性加工用水系潤滑剤への油分の混入量に依存する。塑性加工用水系潤滑剤へ混入する油分100重量部に対して10〜20重量部の陽イオン界面活性剤が含まれれば、陽イオン界面活性剤が固体潤滑剤に付着した油分に吸着することで、塑性加工用水系潤滑剤の劣化が抑制される。
また、陽イオン界面活性剤は、固体潤滑剤を100重量部に対して1重量部以上さらには2重量部以上含まれるのが好ましい。1重量部以上含まれれば、本発明の塑性加工用水系潤滑剤に含まれる固体潤滑剤の付着性が確保される。また、たとえば、市販の水系潤滑剤のうち、特に白色系のものには、固体潤滑剤の分散性を高めるために陰イオン界面活性剤が配合されたものがある。陰イオン界面活性剤は、陽イオン界面活性剤の作用を打ち消す。そのため、固体潤滑剤を100重量部としたときに陽イオン界面活性剤が2重量部以上含まれるとよい。さらに望ましくは、固体潤滑剤を100重量部としたときに陽イオン界面活性剤が5重量部以上である。
また、陽イオン界面活性剤は、含有量が多い程たくさんの油分に作用するため、その含有割合に特に上限はない。あえて規定するならば、固体潤滑剤100重量部に対して50重量部以下さらには25重量部以下とするのが望ましく、コストの面から実用的である。しかし、上記の量を超えた陽イオン界面活性剤を含有する塑性加工用水系潤滑剤であっても、被加工材(塑性加工用素材)等の表面への濡れ性が低下したり、表面に形成される潤滑被膜の性能が低下したりすることはほとんど無い。
なお、前述のように、市販の水系潤滑剤、特に白色系のものには、固体潤滑剤の分散性を高める分散剤として界面活性剤を添加しているものがある。分散剤としての界面活性剤には、陰イオン界面活性剤または非イオン界面活性剤が主として用いられており、陽イオン界面活性剤が使用されている例は少ない。また、市販の水系潤滑剤に、分散剤として界面活性剤が添加されているとしても、界面活性剤は、固体潤滑剤の分散性が確保できる程度に添加されているのみであり、混入する油分に吸着させることや、固体潤滑剤の付着性を向上させることは想定されていないものである。
本発明の塑性加工用水系潤滑剤に混入する油分は、固体潤滑剤に付着して悪影響を及ぼす油性成分を含む液体などであれば、特に限定はない。主として、金属材料の加工現場で作動する各種装置に使用される潤滑油である。たとえば、各種装置の摺動部に用いられる潤滑油や作動油などの設備用潤滑油、被加工材(塑性加工用素材)の表面に残留した熱処理油、圧延油、防錆油などの金属加工油など、不水溶性の潤滑油が挙げられる。
本発明の塑性加工用水系潤滑剤は、塑性加工に用いられる工具および/または被加工材(塑性加工用素材)の表面に潤滑被膜を形成する潤滑被膜形成剤として使用される。工具や被加工材は金属材料からなり、具体的には、鉄または鋼、銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金、マグネシウムまたはマグネシウム合金などが挙げられる。金属材料の表面に塑性加工用水系潤滑剤を塗布後、乾燥して水分を蒸発させることで、固体潤滑剤からなる潤滑剤被膜が表面に形成される。なお、潤滑被膜が形成される金属材料の形状については、特に限定されない。
本発明の塑性加工用水系潤滑剤を金属材料の表面に塗布する方法としては、浸漬塗布、刷毛塗り、スプレー塗布などの一般的な方法であれば特に限定はないが、加熱された金属材料の表面に塗布する場合には、エアスプレーによる塗布または噴流塗布が好適である。固体潤滑剤を含む潤滑被膜形成剤では、固体潤滑剤が沈降しやすくノズル付近で目詰まりを起こすことがあるが、本発明の塑性加工用水系潤滑剤を使用すれば、固体潤滑剤の分散性が高まることで沈降しても再分散しやすく、たとえ油分が混入してもその効果は保持される。また、塗布された塑性加工用水系潤滑剤を乾燥する方法にも特に限定はない。
なお、本発明の塑性加工用水系潤滑剤により形成される潤滑被膜を用いる塑性加工は、鍛造加工、押出し加工、圧延加工、引抜き加工、線引き加工、転造加工、プレス加工、せん断加工、曲げ加工、深絞り加工などの一般的な塑性加工であればよい。本発明の塑性加工用水系潤滑剤は、水性であって燃焼性がほとんどないため、1150℃以上の高温で行われる鉄鋼材料の熱間加工や、600〜900℃で行われる温間加工、また、450〜500℃で行われるアルミニウム材料の熱間加工などに好適である。
本発明の塑性加工用水系潤滑剤を調製する場合には、水に所定量の固体潤滑剤および陽イオン界面活性剤を混合して水中に固体潤滑剤を分散させればよいが、たとえば、固体潤滑剤を水に分散させてなる市販の水系潤滑剤に、所定の量の陽イオン界面活性剤を混合すれば、固体潤滑剤の分散状態に影響がない。
[潤滑被膜の形成方法]
本発明の潤滑被膜の形成方法は、各種塑性加工に供される塑性加工用素材の表面または塑性加工用工具の表面に潤滑被膜を形成する方法であって、主として、塗布工程と、乾燥工程と、からなる。
潤滑被膜が形成される塑性加工用素材および塑性加工用工具の形状に特に限定はない。また、それらの材質も、金属材料であればその種類を問うものではなく、たとえば、鉄または鋼、銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金、マグネシウムまたはマグネシウム合金などのいずれであってもよい。
塗布工程は、潤滑被膜形成剤を塑性加工用素材または塑性加工用工具の表面に塗布する工程である。潤滑被膜形成剤としては、固体潤滑剤と、固体潤滑剤を分散する水と、を含む潤滑剤組成物を使用することができる。したがって、潤滑被膜形成剤としては、市販の「水系潤滑剤」の他、既に説明した本発明の塑性加工用水系潤滑剤のようにあらかじめ陽イオン界面活性剤を含有する潤滑被膜形成剤を使用してもよい。
潤滑被膜形成剤を塑性加工用素材や塑性加工用工具の表面に塗布する方法としては、浸漬塗布、刷毛塗り、スプレー塗布などの一般的な方法であれば特に限定はない。
乾燥工程は、塗布工程で塗布された潤滑被膜形成剤を乾燥して塑性加工用素材または塑性加工用工具の表面に固体潤滑剤からなる潤滑被膜を形成する工程である。塗布された潤滑被膜形成剤から水分を蒸発させて乾燥することで、塑性加工用素材や塑性加工用工具の表面に固体潤滑剤からなる潤滑被膜が形成される。乾燥方法に特に限定はなく、乾燥機を使用してもよいし、自然乾燥であってもよい。
表面に潤滑被膜が形成された塑性加工用素材および塑性加工用工具は、鍛造加工、押出し加工、圧延加工、引抜き加工、線引き加工、転造加工、プレス加工、せん断加工、曲げ加工、深絞り加工などの塑性加工に供される。このとき、塑性加工用素材と塑性加工用工具との接触面のうち、少なくとも一方に潤滑被膜が形成されていればよい。なお、本発明の潤滑被膜の形成方法で用いられる潤滑被膜形成剤は、水性であって燃焼性がほとんどないため、たとえば1150℃以上の高温で行われる鉄鋼材料の熱間加工に好適である。
本発明の潤滑被膜の形成方法では、潤滑被膜の形成に供されて油分が混入した潤滑被膜形成剤の劣化液に陽イオン界面活性剤を添加する。
潤滑被膜形成剤は、潤滑被膜の形成に使用されることで、油分が混入して劣化する。油分は、たとえば、塗布工程において浸漬塗布する場合には、塑性加工用素材や塑性加工用工具を貯槽内の潤滑被膜形成剤に直接浸漬すると、前の工程において塑性加工用素材に付着した金属加工油や塑性加工装置に使用され塑性加工用工具に付着した潤滑油などが油分として潤滑被膜形成剤に混入する。また、塗布工程に供される潤滑被膜形成剤は、循環使用してもよい。たとえば、塑性加工用素材の表面へ刷毛やスプレーによって塗布された潤滑被膜形成剤のうち、表面に残留せずに流れ落ちた余分の液剤を回収し、再び塗布工程にて使用してもよい。そのため、塑性加工用素材に付着している潤滑油などの油分が、回収後の液剤に混入し易い。また、循環使用されると、潤滑被膜の形成作業の傍で作動している装置に供給される潤滑油が潤滑被膜形成剤に混入することもある。
潤滑被膜形成剤に油分が混入すると、塑性加工用素材や塑性加工用工具の表面への濡れ性が低下した劣化液となる。そこへ、陽イオン界面活性剤を添加すると、陽イオン界面活性剤が、混入した油分と水との界面に吸着すると考えられる。その結果、劣化液は再生され、濡れ性に優れた潤滑被膜形成剤として再利用可能となる。なお、陽イオン界面活性剤が添加された劣化液は、既に詳説した本発明の塑性加工用水系潤滑剤である。
陽イオン界面活性剤は、潤滑被膜形成剤を長期に使用しているうちに、油分の混入により濡れ性が低下してきた時点で、添加すればよい。また、潤滑被膜形成剤全体を100重量%としたときに、少なくとも0.2重量%の陽イオン界面活性剤を添加し、望ましい濡れ性を確保した上で使用を開始し、混入する油分が増加して濡れ性が低下してきたら、陽イオン界面活性剤をさらに追加して添加してもよい。
また、本発明の潤滑被膜の形成方法は、潤滑被膜形成剤の再生方法として捉えることもできる。すなわち、潤滑被膜の形成に使用して油分が混入して汚染された潤滑被膜形成剤(劣化液)に陽イオン界面活性剤を添加することで、潤滑被膜形成剤を再利用可能ならしめる。
以上、本発明の塑性加工用水系潤滑剤および潤滑被膜の形成方法の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
水系黒色潤滑剤として日本黒鉛株式会社製プロハイトAS−6を、水系白色潤滑剤として花野商事株式会社製ホワイトルブ8Fを準備した。これらの原液を水で希釈し、希釈液とした。いずれかの希釈液に、必要に応じて、一般の工業用潤滑油を混合し、劣化液を作製した。また、劣化液に、必要に応じて、陽イオン界面活性剤(三洋化成工業株式会社製オスモリンDA−50)または非イオン界面活性剤(日新化学工業株式会社製オルフィンPD001)を添加して、組成の異なる潤滑被膜形成剤を調製した。なお、使用した水系黒色潤滑剤は、黒色系固体潤滑剤として黒鉛粉末を含み、水、黒色系固体潤滑剤および少量の接着成分からなり界面活性剤を含まない。また、水系白色潤滑剤は、白色系固体潤滑剤として水溶性ガラスおよび水溶性カルボン酸塩を含み、水および白色系固体潤滑剤からなる。
得られた潤滑被膜形成剤(100wt%)の組成を表1に示す。表1において、黒色系、白色系それぞれの固体潤滑剤の配合量は、水系黒色潤滑剤および水系白色潤滑剤の乾燥固形成分の重量から算出した。また、固体潤滑剤と界面活性剤との重量比(固体潤滑剤を100とする)も示す。
[潤滑被膜形成剤の評価]
作製した潤滑被膜形成剤を評価するために、潤滑被膜形成剤の濡れ性(試験1)と、潤滑被膜形成剤を用いて形成した潤滑被膜の性能(試験2)と、をそれぞれ評価した。以下に、評価方法を説明する。
[試験1]
試験容器として、無色透明のペットボトル(容量:500ml)を準備した。潤滑被膜形成剤を容器の半分まで入れキャップを閉じた。その容器を十分に振ったあと静置し、数分後の上半分の壁面の状態を目視で観察した。観察結果を表1に記号で示す。なお、表1において、×は壁面がほとんど濡れなかった、△は壁面が部分的に濡れた、○は壁面全体が濡れた、◎は壁面全体が均一に濡れた状態である。
[試験2]
図1に示す回転圧縮式摩擦試験装置により、潤滑被膜形成剤を用いて形成した潤滑被膜の性能を評価した。回転圧縮式摩擦試験装置は、工具鋼(SKH51)製のパンチ1と炭素鋼(S45C)製のビレット(塑性加工用素材)2と試料台3とからなる。
パンチ1は直径23mmの円柱形状で、その一端部に直径19mmの空洞部をもつ円筒部10を有する。パンチ1は、200℃に加熱してから、円筒部10の先端部をいずれかの潤滑被膜形成剤に浸漬した。潤滑被膜形成剤から引き上げた後、乾燥させて、先端部の表面に潤滑被膜Fを形成した。得られた潤滑被膜の状態を目視で観察した。結果を表1に示す。
次に、先端部に潤滑被膜Fを形成されたパンチ1を装置にセットし、速度0.4m/秒で回転させた。一方、電気炉中で1025℃に事前加熱した直径30mm、高さ30mmの円柱形状であるビレット2を試料台3上に載置し、直ちに、回転しているパンチ1をすべり速度0.4m/秒、接触面圧200MPaとなるようにビレット2に押付けた。このとき、パンチ1の潤滑剤被膜Fはビレット2の端面に接触し、押しつけられることで端面が変形され、表面部に環状溝2aが形成された。押付け開始から0.8秒後に、ビレット2からパンチ1を脱離させた。
押付け開始から0.2秒後の摩擦係数および焼付きの有無を表1に示す。なお、摩擦係数は、パンチ1の回転トルクと押付け荷重から算出した値である。
Figure 2008231160
試験1において、サンプルNo.01〜No.08の潤滑被膜形成剤は、潤滑油の有無に関わらず、試験容器の壁面全体が潤滑被膜形成剤で均一に濡れた。たとえば、黒鉛粉末を含むNo.01〜05の潤滑被膜形成剤では、容器の壁面が黒鉛で均一に黒く染まり、容器の下部に溜まった潤滑被膜形成剤の液面が視認できない程度であった。白色系固体潤滑剤を含むNo.06〜No.08では、容器の壁面が一旦濡れた後ゆっくりと液が流れ落ちて透明になった。また、陽イオン界面活性剤の含有量の異なる、No.02と03、No.04と05、をそれぞれ比較すると、いずれも、陽イオン界面活性剤を多く含むNo.03No.05の均一性が勝った。
一方、陽イオン界面活性剤が添加されていない潤滑被膜形成剤であって、潤滑油が混入していないNo.C1では容器壁面がある程度濡れたものの、潤滑油が混入した劣化液であるNo.C2およびC3では潤滑被膜形成剤は弾かれ容器壁面がほとんど濡れなかった。また、劣化液に非イオン界面活性剤を混合したNo.C4およびC5の潤滑被膜形成剤は、容器壁面に部分的に濡れが確認されたが、濡れ性の改善には至らなかった。
また、No.01とNo.C1の潤滑被膜形成剤の結果から、劣化液でなくても、陽イオン界面活性剤を添加することで、濡れ性が向上することがわかった。
さらに、各試験容器を静置したまま1週間放置すると、全ての容器で固体潤滑剤の沈降が確認された。No.01〜05の潤滑被膜形成剤の入った容器を軽く振ったところ、沈降は解消され、固体潤滑剤の粒子が再分散する様子が確認できた。一方、No.C1〜C5の潤滑被膜形成剤の入った容器では、軽く容器を振った程度では沈降が解消されない程に固体潤滑剤がパッキングしていた。
試験2においては、No.01、No.06およびNo.C1の潤滑被膜形成剤では、パンチ1の先端部の表面に潤滑被膜が均一に形成された。そして、摩擦係数は0.1近傍の低い値を示し、パンチ1とビレット2との接触面は共に平滑で焼付きは全く認められなかった。すなわち、陽イオン界面活性剤を含有した潤滑被膜形成剤を用いて形成された潤滑被膜であっても、摩擦係数は低い値を示し、焼付きの発生も無かった。また、潤滑油が混入した劣化液(No.02〜05、No.07およびNo.08)であっても、陽イオン界面活性剤の添加により再生された潤滑被膜形成剤を用いて形成された潤滑被膜は、低い摩擦係数を示すとともに焼付きの発生も無かった。
一方、No.C4およびC5の潤滑被膜形成剤では、潤滑被膜Fは均一でなく、部分的にパンチ1の金属表面が露出した。そのため、摩擦係数は高く(0.22)、パンチ1とビレット2との接触面は共に肌荒れを起こしており、焼付きの発生が確認された。
なお、本実施例では、No.02〜05、No.07およびNo.08の潤滑被膜形成剤において、水系潤滑剤の希釈液に潤滑油を混入させた劣化液に、陽イオン界面活性剤を添加しているが、希釈液に陽イオン界面活性剤を添加した後に潤滑油を混入させた場合であっても、試験結果に大きな変化はなかった。
回転圧縮式摩擦試験装置の断面図である。
符号の説明
1:パンチ F:潤滑被膜
2:ビレット 2a:環状溝
3:試料台

Claims (8)

  1. 固体潤滑剤と、該固体潤滑剤を分散する水と、該固体潤滑剤の表面を正に帯電させる陽イオン界面活性剤と、を含むことを特徴とする塑性加工用水系潤滑剤。
  2. 前記固体潤滑剤を100重量部としたときに前記陽イオン界面活性剤を1重量部以上含む請求項1記載の塑性加工用水系潤滑剤。
  3. 前記固体潤滑剤を100重量部としたときに前記陽イオン界面活性剤を2重量部以上含む請求項1記載の塑性加工用水系潤滑剤。
  4. 前記固体潤滑剤は、黒鉛粉末である請求項1記載の塑性加工用水系潤滑剤。
  5. 固体潤滑剤と該固体潤滑剤を分散する水とを含む潤滑被膜形成剤を塑性加工用素材または塑性加工用工具の表面に塗布する塗布工程と、該塗布工程で塗布された該潤滑被膜形成剤を乾燥して該塑性加工用素材または該塑性加工用工具の表面に該固体潤滑剤からなる潤滑被膜を形成する乾燥工程と、からなる潤滑被膜の形成方法において、
    前記潤滑被膜の形成に供されて油分が混入した前記潤滑被膜形成剤の劣化液に陽イオン界面活性剤を添加して、前記固体潤滑剤の表面を正に帯電させてなる液を該潤滑被膜形成剤として再利用することを特徴とする潤滑被膜の形成方法。
  6. 前記潤滑被膜形成剤は、あらかじめ前記陽イオン界面活性剤を含有する請求項5記載の潤滑被膜の形成方法。
  7. 前記塗布工程に供される前記潤滑被膜形成剤を循環使用する請求項5記載の潤滑被膜の形成方法。
  8. 前記油分は、前記塑性加工用素材または前記塑性加工用工具に付着した潤滑油である請求項5記載の潤滑被膜の形成方法。
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WO2018216559A1 (ja) * 2017-05-25 2018-11-29 三菱重工業株式会社 加工機用液剤

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