JP2012003212A - 光学素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】接合膜を介して2つの光学部品同士を接合してなる、耐光性および寸法精度が高く、かつ光透過率の高い光学素子を提供すること。
【解決手段】本発明の光学素子5は、第1の光学部品2および第2の光学部品4と、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合し、有機基からなる脱離基とを含む、プラズマ重合により形成された、第1の光学部品2と第2の光学部品4とを接合する接合膜3とを有し、接合膜3の少なくとも一部の領域にエネルギーを付与し、接合膜3の少なくとも表面付近に存在する脱離基が前記Si骨格から脱離することにより、接合膜3に発現した接着性によって、第1の光学部品2と第2の光学部品3とが接合されており、この接合膜3の平均厚さが300nm以下であることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、光学素子に関するものである。
2つの部材(基板)同士を接合(接着)する際には、従来、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いて行う方法が多く用いられている。
接着剤は、部材の材質によらず、接着性を示すことができる。このため、種々の材料で構成された部材同士を、様々な組み合わせで接着することができる。
例えば、透過する光に位相差を生じさせる機能を有する光学素子として波長板が知られている。波長板は、水晶のような複屈折結晶の基板を2枚重ね合わせたものであり、基板間は接着剤を用いて接着される。
このように接着剤を用いて基板同士を接着する際には、液状またはペースト状の接着剤を接着面に塗布し、塗布された接着剤を介して基板同士を貼り合わせる。その後、熱または光の作用により接着剤が硬化して基板同士が接着される。
しかし、接着剤は、長期間の光照射に伴って接着剤を構成する樹脂成分が劣化し、変色、屈折率の変化、接着力の低下等の不具合を招くことが懸念されている。
また、塗布された接着剤層は、一般に数μm程度の厚さになり、製法上、それ以上薄くすることは困難である。このため、前述した不具合が発生した接着剤層は、波長板を透過する光にとって光学的に無視できる存在ではなくなり、波長板の光学特性の低下を招くこととなる。
例えば、特許文献1には、厚さ0.1〜2mm程度のポリウレタン樹脂からなる中間膜を介してガラス板同士を接着して得られたサンドウィッチ構造の合わせガラスが開示されているが、この合わせガラスは、中間膜が経時的に劣化し、それとともに光透過性が低下するおそれがある。
特開平5−270870号公報
本発明の目的は、接合膜を介して2つの光学部品同士を接合してなる、耐光性および寸法精度が高く、かつ光透過率の高い光学素子を提供することにある。
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の光学素子は、少なくとも一方が光透過性を有する第1の光学部品および第2の光学部品と、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合し、有機基からなる脱離基とを含む、プラズマ重合により形成された、前記第1の光学部品と前記第2の光学部品とを接合する接合膜とを有し、
前記接合膜の少なくとも一部の領域にエネルギーを付与し、前記接合膜の少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離することにより、前記接合膜に発現した接着性によって、前記第1の光学部品と前記第2の光学部品とが接合されており、
前記接合膜の平均厚さは、300nm以下であることを特徴とする。
これにより、接合膜を介して2つの光学部品同士を接合してなる、耐光性および寸法精度が高く、かつ光透過率の高い光学素子とすることができる。
本発明の光学素子では、当該光学素子を透過する光の波長は、200nm以上、830nm以下であることが好ましい。
かかる範囲の波長を有する光を透過させた際に、本発明の光学素子は、高い光透過率を維持するものとなる。
本発明の光学素子では、当該光学素子を透過させる光の密度は、35W/mm以下であることが好ましい。
これにより、接合膜の光透過率が、より確実に95%以上を維持するようになる。
本発明の光学素子では、当該光学素子を透過させる際の前記接合膜の温度は、0℃以上であることが好ましい。
これにより、接合膜の光透過率が、より確実に95%以上を維持するようになる。
本発明の光学素子では、当該光学素子に光を透過させた後の光透過率は、95%以上であることが好ましい。
このような光学素子は、高い光透過率を維持した光学素子と言うことができる。
本発明の光学素子では、当該光学素子に光を透過させる時間は、100時間以上であることが好ましい。
このような透過時間において、前記透過率の値が95%以上に維持される効果が顕著に認められる。
本発明の光学素子では、前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されていることが好ましい。
このようなポリオルガノシロキサンで構成された接合膜は、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜は、基材に対して特に強固に被着するとともに、他の被着体に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、基材と他の被着体とを強固に接合することができる。
本発明の光学素子では、前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものであることが好ましい。
オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする接合膜は、接着性に特に優れるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
本発明の光学素子では、前記プラズマ重合において、プラズマを発生させる際の高周波電力の出力は、100W以上、400W以下であることが好ましい。
前記出力をかかる範囲内とすることにより、高周波の出力が高過ぎて原料ガスに必要以上のプラズマエネルギーが付加されるのを防止しつつ、原材料の重合反応を進行させて、適切な範囲内でSi骨格の網目構造が形成された主骨格とすることができ、適度な結晶化度を有する接合膜を形成することができる。
本発明の光学素子では、前記接合膜は、このものを構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10原子%以上、90原子%以下のものであることが好ましい。
Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、接合膜はSi原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜自体が強固なものとなる。
本発明の光学素子では、前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7以上、7:3以下であることが好ましい。
Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜の安定性が高くなり、他の被着体に対してより強固に接合することができるようになる。
本発明の光学素子では、前記Si骨格の結晶化度は、45%以下であることが好ましい。
これにより、Si骨格は、ランダムな原子構造を含むものとなり、接合膜がより非晶質的な特性を示す。このため、Si骨格の特性が顕在化し、接合膜の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
本発明の光学素子では、前記接合膜は、Si−H結合を含んでいることが好ましい。
Si−H結合は、プラズマ重合法によってシランが重合反応する際に重合物中に生じるものであるが、このとき、Si−H結合がシロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格の原子構造の規則性が低下する。このようにして、プラズマ重合法によれば、結晶化度の低いSi骨格を効率よく形成することができる。
本発明の光学素子では、前記接合膜についての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピーク強度が0.001以上、0.2以下であることが好ましい。
Si−H結合のシロキサン結合に対する割合が前記範囲内であることにより、接合膜中の原子構造は、相対的に最もランダムなもの、すなわち接合膜の結晶化度が最適化されたものとなる。このため、Si−H結合のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対して前記範囲内にある場合、接合膜は、接合強度、耐薬品性および寸法精度において特に優れたものとなる。
本発明の光学素子では、前記脱離基は、アルキル基であることが好ましい。
アルキル基は化学的な安定性が高いため、脱離基としてアルキル基を含む接合膜は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
本発明の光学素子では、前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものであることが好ましい。
このため、従来、流動性を有する液状または粘液状の接着剤に比べて、接合膜の厚さや形状がほとんど変化しない。これにより、接合体の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間での接合が可能となる。
本発明の光学素子では、前記接合膜の屈折率は、1.35〜1.6であることが好ましい。
このような接合膜は、その屈折率が、水晶や石英ガラスの屈折率に近いため、接合膜を光路が貫通する本発明の光学素子に好適に用いられる。
本発明の光学素子を説明するための図(縦断面図)である。 本発明の光学素子が備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図である。 本発明の光学素子が備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。 接合膜が形成された第1の光学部品を用いた光学素子の製造方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。 接合膜が形成された第1の光学部品を用いた光学素子の製造方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。 接合膜が形成された第1の光学部品を用いた光学素子の製造方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。 接合膜が形成された第1の光学部品を用いた光学素子の製造方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。 本発明の光学素子を適用して得られた波長板(光学素子)を示す斜視図である。 波長板を透過する光透過率の経時変化を観察するための測定装置を説明するための図である。 lnk−n・ln(P/P)と1/Tとの関係を示す図である。 光透過率と光りの照射時間との関係を示す図である。
以下、本発明の光学素子を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<光学素子>
まず、本発明の光学素子について説明する。
図1は、本発明の光学素子を説明するための図(縦断面図)、図2は、本発明の光学素子が備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図、図3は、本発明の光学素子が備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。なお、以下の説明では、図1ないし図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図1に示す光学素子5は、2つの光学部品(第1の光学部品2および第2の光学部品4)と、これらの光学部品2、4間に設けられた接合膜3とを有しており、この接合膜3を介して、2つの光学部品2、4が接合されてなるものである。
この光学素子のうち、接合膜3は、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合し、有機基からなる脱離基とを含む、プラズマ重合により形成されたものである。
このような接合膜3は、エネルギーを付与することにより、接合膜3に存在する脱離基がSi骨格から脱離し、この脱離基の脱離によって、接合膜3のエネルギーを付与した領域に接着性が発現するというものである。
かかる特徴を有する接合膜3は、2つの光学部品2、4間を、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合可能である。そして、この接合膜3を用いることにより、第1の光学部品2と第2の光学部品とが強固に接合してなる信頼性の高い光学素子が得られる。
また、本発明の光学素子5では、接合膜3の平均厚さが300nm以下に設定されている。このような平均膜厚の接合膜3は、光学素子5に光が透過した際に、接合膜3の変質・劣化に起因する透過率の低下を的確に低減または防止することができるため、光学特性に優れたものとなる。
以下、光学素子5の各部の構成について詳述する。
光学部品2、4は、それぞれ、接合膜3を介して互いに貼り合わせることにより、光透過性を有する光学素子(積層光学素子)5を形成し得るものである。なお、具体的な積層光学素子5については、後に例示する。
第1の光学部品2の構成材料は、光透過性の材料であればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の各種樹脂材料や、ソーダガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス等のガラス材料、水晶、方解石、サファイア、CaF、BaF、MgF、LiF、KBr、KCl、NaCl、MgO、YVO、LiNbO等の結晶材料等が挙げられる。
これらの中でも、接合膜3との屈折率の整合性や密着性(接合性)の観点から、石英ガラス、水晶等の酸化ケイ素系材料が好ましく用いられる。酸化ケイ素系材料は、さらに、優れた透明性を有し、かつ耐熱性、耐光性、耐薬品性、機械的強度等の各種特性にも優れていることから、第1の光学部品2の構成材料として特に好適である。
一方、第2の光学部品4の構成材料としては、第1の光学部品2の構成材料で挙げたものと同様のものが挙げられ、第1の光学部品2の構成材料と第2の光学部品4の構成材料とは、同じでも互いに異なっていてもよい。
また、第1の光学部品2および第2の光学部品4は、その表面に、各種光学薄膜を成膜したものであってもよい。
接合膜3は、本実施形態では、以上のような第1の光学部品2および第2の光学部品4のほぼ全面に、ほぼ均一な厚さで300nm以下に設けられ、第1の光学部品2と第2の光学部品4との間に位置することで、これらの接合を担うものである。
この接合膜3は、前述したように、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与することにより、その領域の表面付近から脱離基303が脱離することに起因して、かかる領域に接着性が発現し、この接着性に基づいて、第1の光学部品2と第2の光学部品4とを接合する機能を有するものである。
このような接合膜3は、例えば、図2に示すように、プラズマ重合により第1の光学部品2上に形成されたものであり、シロキサン(Si−O)結合302を含む原子構造(アモルファス構造)を有するSi骨格301と、このSi骨格301に結合し、有機基からなる脱離基303とを有するものである。
かかる構成接合膜3は、シロキサン結合302を含む原子構造を有するSi骨格301の影響によって、変形し難い強固な膜となる。これは、Si骨格301の結晶性が低くなる(非晶質化する)ため、結晶粒界における転位やズレ等の欠陥が生じ難いためであると考えられる。このため、接合膜3自体が接合強度、耐薬品性、耐光性および寸法精度の高いものとなり、光学素子5において、接合強度、耐薬品性、耐光性および寸法精度が高いものが得られる。
このような接合膜3にエネルギーを付与すると、有機基で構成される脱離基303がSi骨格301から脱離し、図3に示すように、接合膜3の表面(上面)35および内部に、活性手304が生じる。そして、これにより、接合膜3表面に接着性が発現することから、かかる接着性に基づいて、第1の光学部品2と第2の光学部品4とが接合膜3を介して接合される。
なお、脱離基303とSi骨格301との結合エネルギーは、Si骨格301中のシロキサン結合302の結合エネルギーよりも小さい。このため、接合膜3は、このものがプラズマに曝された際に、Si骨格301が破壊されるのを防止しつつ、脱離基303とSi骨格301との結合を選択的に切断し、脱離基303を脱離させることができる。
また、このような接合膜3は、流動性を有しない固体状のものとなる。このため、従来、流動性を有する液状または粘液状の接着剤に比べて、接着層(接合膜3)の厚さや形状がほとんど変化しない。これにより、光学素子5の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。そのため、本発明のように、その平均膜厚が300nm以下のように薄い接合膜3であっても、優れた寸法精度で形成することができる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間での接合が可能となる。
なお、接合膜3においては、特に接合膜3を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10原子%以上90原子%以下程度であるのが好ましく、20原子%以上80原子%以下程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、接合膜3はSi原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜3自体が強固なものとなる。また、かかる接合膜3は、このものにエネルギーを付与した際に、第2の光学部品4に対して特に高い接合強度を示すものとなる。
また、接合膜3中のSi原子とO原子の存在比は、3:7以上7:3以下程度であるのが好ましく、4:6以上6:4以下程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜3の安定性が高くなり、第2の光学部品4に対してより強固に接合したものとなる。
また、プラズマ重合法により形成された接合膜3中のSi骨格301の結晶化度は、45%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましい。これにより、Si骨格301は、ランダムな原子構造を含むものとなり、接合膜3がより非晶質的な特性を示す。このため、前述したSi骨格301の特性が顕在化し、接合膜3の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
なお、Si骨格301の結晶化度は、一般的な結晶化度測定方法により測定することができ、具体的には、結晶部分における散乱X線の強度に基づいて測定する方法(X線法)、赤外線吸収の結晶化バンドの強度から求める方法(赤外線法)、核磁気共鳴吸収の微分曲線の下の面積に基づいて求める方法(核磁気共鳴吸収法)、結晶部分には化学試薬が浸透し難いことを利用した化学的方法等により測定することができる。
このうち、簡便性等の観点からX線法が好ましく用いられる。
また、Si骨格301の結晶化度を測定する際には、接合膜3に対して上述の測定方法を適用すればよいが、あらかじめ接合膜3に前処理を施しておくのが好ましい。この前処理としては、接合膜3にエネルギーを付与する処理(例えば、上述した接合膜3をプラズマに曝す処理や、接合膜に紫外線を照射する処理等)が挙げられる。このようなエネルギーの付与により、接合膜3中の脱離基303が脱離し、Si骨格301の結晶化度をより正確に測定することが可能になる。
また、接合膜3は、その構造中にSi−H結合を含んでいるのが好ましい。このSi−H結合は、プラズマ重合法によってシランが重合反応する際に重合物中に生じるものであるが、このとき、Si−H結合がシロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格301の原子構造の規則性が低下する。このようにして、プラズマ重合法によれば、結晶化度の低いSi骨格301が効率よく形成される。
一方、プラズマに曝す前の接合膜3中のSi−H結合の含有率が多ければ多いほど結晶化度が低くなるわけではない。具体的には、接合膜3の赤外光吸収スペクトルにおいて、Si−O−Si結合に帰属するピークの強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピークの強度は、0.001以上0.2以下程度であるのが好ましく、0.002以上0.05以下程度であるのがより好ましく、0.005以上0.02以下程度であるのがさらに好ましい。Si−H結合のシロキサン結合に対する割合が前記範囲内であることにより、接合膜3中の原子構造は、相対的に最もランダムなもの、すなわち接合膜3の結晶化度が最適化されたものとなる。このため、Si−H結合のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対して前記範囲内にある場合、接合膜3は、接合強度、耐薬品性および寸法精度において特に優れたものとなる。
また、Si骨格301に結合する脱離基303は、有機基で構成され、前述したように、Si骨格301から脱離することによって、接合膜3に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、接合膜3にエネルギーが付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないようSi骨格301に確実に結合しているものである必要がある。
なお、本発明のように、プラズマ重合法による接合膜3の成膜の際には、原料ガスの成分が重合して、接合膜3中に、シロキサン結合を含むSi骨格301と、それに結合した残基とが生成するが、例えばこの残基が脱離基303を構成する。
上記のことを満足する脱離基303すなわち有機基は、C原子を必須成分とし、その他、H原子、N原子、O原子、S原子、B原子、P原子およびハロゲン系原子のうちの少なくとも1種の原子を含有する原子団で構成されるものである。
このような有機基で構成される脱離基303は、特に、アルキル基であるのが好ましい。アルキル基は化学的な安定性が高いため、脱離基303としてアルキル基を含む接合膜3は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
上記のような特徴を有する接合膜3としては、例えば、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されるもの、すなわち、シロキサン結合を含む原子構造を有するSi骨格の網目構造を主骨格とし、このSi骨格に結合する有機基で構成される脱離基303を備えるものが挙げられる。
このようなポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、第1の光学部品2に対して特に強固に被着するとともに、第2の光学部品4に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、第1の光学部品2と第2の光学部品4とが強固に接合された光学素子5とすることができる。
また、ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性(非接着性)を示すが、エネルギーを付与されることにより、有機基で構成される脱離基303を容易に脱離させることができ、親水性に変化し、接着性を発現するが、この非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行えるという利点を有する。
なお、この撥水性(非接着性)は、主に、ポリオルガノシロキサン中に含まれた有機基(例えばアルキル基)による作用である。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、このものにエネルギーを付与することにより、表面35に接着性が発現するとともに、表面35以外の部分においては、前述した有機基による作用・効果が得られるという利点も有する。したがって、このような接合膜3は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなり、例えば、薬品類等に長期にわたって曝されるような光学素子5の組み立てに際して、有効に用いられるものとなる。
さらに、かかる構成の接合膜3は、本発明のように、その平均膜厚を300nm以下に設定した際に、光を長時間透過させたとしても、その変質・劣化が的確に低減または防止され、光透過率の低下が確実に抑制されたものとなる。
また、ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。すなわち、接合膜3が、オクタメチルトリシロキサンを原材料とするプラズマ重合法を用いて形成されたものであり、主骨格としてシロキサン結合を含む原子構造を有するSi骨格の網目構造を有し、脱離基303としてメチル基を有するものであるのが好ましい。
オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする接合膜3は、接着性に特に優れるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
さらに、オクタメチルトリシロキサンを原材料とするプラズマ重合法を用いて形成された接合膜3は、特に優れた耐候性および耐薬品性を有するものとなるため、前述した効果をより顕著に発揮するものとなる。
さて、以上のような接合膜3に、光を透過させると、このことに起因して、接合膜3の構成材料が変質・劣化し、その透過率が経時的に低下してしまうという問題がある。
そこで、本発明者は、かかる問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、接合膜3の膜厚を300nm以下に設定することにより、前記透過率の経時的な低下が的確に抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、後述する実施例で詳述するように、本発明者の検討により、光の透過による接合膜3の光透過率の劣化時間は、下記関係式(3−1)の関係が成り立つため、接合膜3の光透過率は、接合膜3の温度および接合膜3を透過させる光りの密度(出力)に応じて経時的に低下することが判った。
1/τ=1.903×10-4(P0/P)-1.29・exp(1.131×104/RT) [1/hr]…… 式(3−1)
しかしながら、本発明者によるさらなる検討により、光透過率の低下が、ある一定の光の透過時間を超えると、式(3−1)の関係式には従わず、ある一定の透過率で停止することが判ってきた。そして、この透過率の低下が停止する透過率の値は、接合膜3の厚さに依存し、この接合膜3の厚さを300nmとしたときに、前記透過率の値が95%となることを見出し、本発明を完成するに至った。
したがって、接合膜3の厚さを300nm以下に設定することにより、接合膜3に光を透過させた後の接合膜3の光透過率を、95%以上を維持することが可能となる。
なお、接合膜3の光透過率の低下に、影響を与える変数としては、まず、式(3−1)にあるように、接合膜3の温度、接合膜3を透過する光りの密度が考えられる。
ここで、後述する実施例では、接合膜3の透過率が、式(3−1)の関係式には従わず、ある一定の透過率で停止することの観察を、接合膜3の温度が30℃の時に、接合膜3を透過する光りの密度が31.6W/mmの時に求めており、接合膜3の温度が低いほど、接合膜3を透過する光りの密度が高いほど、接合膜3の光透過率の低下が顕著に認められることが判っている。
そのため、接合膜3の温度は、0℃以上であるのが好ましく、30℃以上、65℃以下程度であるのがより好ましい。
さらに、接合膜3を透過する光りの密度は、35W/mm以下であるのが好ましく、1.6W/mm以上、22.5W/mm以下程度であるのがより好ましい。
接合膜3の温度および接合膜3を透過する光りの密度が前記範囲内に設定される際に、接合膜3の光透過率が、より確実に95%以上を維持するようになる。
また、接合膜3の光透過率の低下に、影響を与えるその他の変数としては、接合膜3を透過する光りの波長が考えられるが、可視光であれば上記効果が得られると推察される。そのため、前記波長は、200nm以上、830nm以下程度であるのが好ましく、250nm以上、830nm以下程度であるのがより好ましく、405±5nm程度であるのがさらに好ましい。かかる範囲の波長において、接合膜3の光透過率が、より確実に95%以上を維持することができるようになる。
さらに、接合膜3に光りを透過させる時間は、100時間以上であるのが好ましく、1000以上、10000時間以下程度であるのがより好ましい。このような透過時間において、前記透過率の値が95%以上に維持される効果が顕著に認められる。
なお、上述したように、光透過率の低下が停止する光透過率の値は、接合膜3の厚さに依存するため、接合膜3の厚さを100nmとしたときには、本発明者の検討により、前記透過率の値が97%程度となると推察される。
<光学素子の製造方法>
以上のような光学素子5は、第1の光学部品2および第2の光学部品4の少なくとも一方に接合膜3を形成し、この接合膜3にエネルギーを付与することで接着性を発現させた後、接合膜3を介して第1の光学部品2と第2の光学部品4とを接合することで得ることができる。
以下では、まず、プラズマ重合を用いて、第1の光学部品2上に接合膜3を成膜する方法について説明する。
このような接合膜3は、強電界中に、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスを供給することにより、原料ガス中の分子を重合させ、重合物を第1の光学部品2上に堆積させることにより得ることができる。以下、かかる方法について詳述する。
まず、上述した第1の光学部品2を用意し、次いで、第1の光学部品2を、プラズマ重合装置が備えるチャンバー内に収納して封止状態とした後、チャンバー内を減圧状態とする。
次に、チャンバー内に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを供給することにより、チャンバー内に混合ガスを充填する。
次に、チャンバー内に設けられた一対の電極間に、高周波電圧を印加することにより、プラズマを発生させる。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、この重合物が第1の光学部品2上に付着・堆積する。これにより、プラズマ重合膜からなる接合膜3が第1の光学部品2に形成される。
また、プラズマの作用により、第1の光学部品2の表面が活性化・清浄化される。このため、原料ガスの重合物が第1の光学部品2の表面に堆積し易くなり、接合膜3の安定した成膜が可能になる。このようにプラズマ重合法によれば、第1の光学部品2の構成材料によらず、第1の光学部品2上に接合膜3が確実に成膜される。
原料ガス(原材料を含有するガス)としては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられ、これらのうち、特に、オクタメチルトリシロキサンであるのが好ましい。
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜、すなわち接合膜3は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、すなわちポリオルガノシロキサンで構成されることとなる。
さらに、オルガノシロキサンを原材料とするプラズマ重合法を用いて形成された接合膜3では、脱離基303が脱離することにより生じる活性手の量が特に適切な量に設定される。その結果、かかる構成の接合膜3を備える光学素子5において、接合膜3は第2の光学部品4に対してより優れた接着性をもって接合したものとなる。
なお、プラズマ重合の際、一対の電極間に印加する高周波の周波数は、特に限定されないが、1kHz以上100MHz以下程度であるのが好ましく、10MHz以上60MHz以下程度であるのがより好ましい。
また、高周波電力の出力は、特に限定されないが、100W以上400W以下程度であるのが好ましく、200W以上300W以下程度であるのがより好ましい。前記出力をかかる範囲内とすることにより、高周波の出力が高過ぎて原料ガスに必要以上のプラズマエネルギーが付加されるのを防止しつつ、原材料の重合反応を進行させて、適切な範囲内でSi骨格301の網目構造が形成された主骨格とすることができ、適度な結晶化度を有する接合膜3を形成することができる。
すなわち、高周波電力の出力が前記下限値を下回った場合、原料ガス中の分子に重合反応を生じさせることができず、第1の光学部品2上に接合膜3を形成することができないおそれがある。一方、高周波電力の出力が前記上限値を上回った場合、原料ガスが分解する等して、脱離基303となり得る構造がSi骨格301から分離してしまい、得られる接合膜3において脱離基303の含有率が低くなったり、Si骨格301のランダム性が低下する(規則性が高くなる)おそれがある。その結果、得られた接合膜3は、第2の光学部品4に対して、優れた接着性を発揮し得ないものとなるおそれがある。
また、成膜時のチャンバー内の圧力は、133.3×10−5Pa以上1333Pa以下(1×10−5Torr以上10Torr以下)程度であるのが好ましく、133.3×10−4Pa以上133.3Pa以下(1×10−4Torr以上1Torr以下)程度であるのがより好ましい。
原料ガスのチャンバー内への流量は、0.5sccm以上200sccm以下程度であるのが好ましく、1sccm以上100sccm以下程度であるのがより好ましい。一方、キャリアガス流量は、5sccm以上750sccm以下程度であるのが好ましく、10sccm以上500sccm以下程度であるのがより好ましい。
処理時間(成膜時間)は、1分以上10分以下程度であるのが好ましく、2分以上7分以下程度であるのがより好ましい。
また、接合膜3の成膜時における第1の光学部品2の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25℃以上100℃以下程度であるのがより好ましい。
以上のようにして、第1の光学部品2上に接合膜3が形成される。
なお、このプラズマ重合により形成された接合膜3は、その厚さを、300nm以下に設定したとき比較的高い透光性を有したものとなる。そして、接合膜3の形成条件(プラズマ重合の際の条件や原料ガスの組成等)を適宜設定することにより、接合膜3の屈折率を調整することができる。具体的には、プラズマ重合の際の高周波電力の出力を高めることにより、接合膜3の屈折率を高めることができ、反対に、プラズマ重合の際の高周波電力の出力を低くすることにより、接合膜3の屈折率を低くすることができる。
具体的には、上述したように、オルガノシロキサンを含有するガスを原料ガスとするプラズマ重合法を用いた場合、屈折率の範囲が1.35以上1.6以下程度の接合膜3が得られる。このような接合膜3は、その屈折率が、水晶や石英ガラスの屈折率に近いため、本発明の光学素子に好適に適用される。また、接合膜3の屈折率を調整することができるので、所望の屈折率の接合膜3を作製することができる。
また、接合膜3は、水晶や石英ガラスの熱膨張率に近いため、接合膜3と光学部品2、4との熱膨張率差が小さくなり、光学素子5の接合後の変形を抑制することができる。
次いで、上述したような接合膜3が形成された第1の光学部品2を用いた光学素子5の製造方法について説明する。
(第1実施形態)
まず、接合膜3が形成された第1の光学部品2を用いた光学素子5の製造方法の第1実施形態について説明する。
図4および図5は、接合膜が形成された第1の光学部品を用いた光学素子の製造方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図4および図5中の上側を「上」、下側を「下」という。
本実施形態にかかる接合方法は、接合膜3が形成された第1の光学部品2を用意する工程と、接合膜3にエネルギーを付与して、接合膜3中から脱離基を脱離させることにより、接合膜を活性化させる工程と、第2の光学部品4を用意し、接合膜3と第2の光学部品4とが密着するように、これらを貼り合わせ、光学素子5を得る工程とを有する。
以下、各工程について順次説明する。
[1]まず、上述したような接合膜3が形成された第1の光学部品2を用意する(図4(a)参照)。
[2]次いで、図4(b)に示すように、接合膜3の表面35にエネルギーを付与する。
エネルギーを付与すると、接合膜3の表面では、脱離基303がSi骨格301から脱離する。そして、脱離基303が脱離した後には活性手が生じるため、接合膜3に、第2の光学部品4との安定した接着性が発現する。その結果、接合膜3は、化学的結合に基づいて第2の光学部品4と安定して強固に接合可能なものとなる。
ここで、エネルギーを付与する前の接合膜3は、図2に示すように、Si骨格301と脱離基303とを有している。かかる接合膜3にエネルギーが付与されると、特に表面付近の脱離基303(本実施形態では、メチル基)がSi骨格301から脱離する。これにより、図3に示すように、接合膜3の表面35に活性手304が生じ、活性化される。その結果、接合膜3の表面に接着性が発現する。
なお、接合膜3を「活性化させる」とは、接合膜3の表面35および内部の脱離基303が脱離して、Si骨格301において終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
したがって、活性手304とは、未結合手(ダングリングボンド)、または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。このような活性手304によれば、第2の光学部品4に対して、特に強固な接合が可能となる。
接合膜3にエネルギーを付与する方法としては、例えば、接合膜3にエネルギー線を照射する方法、または、接合膜3をプラズマに曝す方法等が挙げられる。
このうち、接合膜3に照射するエネルギー線としては、例えば、紫外線、レーザー光のような光、X線、γ線、電子線、イオンビームのような粒子線等、またはこれらのエネルギー線を組み合わせたものが挙げられる。
これらのエネルギー線の中でも、特に、波長126〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましい。かかる紫外線によれば、付与されるエネルギー量が最適化されるので、接合膜3中のSi骨格301が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、Si骨格301と脱離基303との間の結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜3の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜3に接着性を発現させることができる。
また、紫外線によれば、広い範囲をムラなく短時間に処理することができるので、脱離基303の脱離を効率よく行わせることができる。さらに、紫外線には、例えば、UVランプ等の簡単な設備で発生させることができるという利点もある。
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、160〜200nm程度とされる。
また、UVランプを用いる場合、その出力は、接合膜3の面積に応じて異なるが、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。なお、この場合、UVランプと接合膜3との離間距離は、3〜3000mm程度とするのが好ましく、10〜1000mm程度とするのがより好ましい。
また、紫外線を照射する時間は、接合膜3の表面35付近の脱離基303を脱離し得る程度の時間、すなわち、接合膜3の内部の脱離基303を多量に脱離させない程度の時間とするのが好ましい。具体的には、紫外線の光量、接合膜3の構成材料等に応じて若干異なるものの、0.5〜30分程度であるのが好ましく、1〜10分程度であるのがより好ましい。
また、紫外線は、時間的に連続して照射されてもよいが、間欠的(パルス状)に照射されてもよい。
一方、レーザー光としては、例えば、エキシマレーザー(フェムト秒レーザー)、Nd−YAGレーザー、Arレーザー、COレーザー、He−Neレーザー等が挙げられる。
また、接合膜3に対するエネルギー線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよく、具体的には、大気、酸素のような酸化性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧(真空)雰囲気等が挙げられるが、特に不活性ガス雰囲気または減圧(真空)雰囲気で行うのが好ましい。これにより、接合膜3が酸化し、変質・劣化するのを防止することができる。
さらに、この雰囲気は、好ましくは乾燥した雰囲気とされる。これにより、紫外線の照射によって切断された化学結合の切断跡に、雰囲気中の水蒸気が吸着するのを防止し、接合膜3の組成の意図しない変化を防止することができる。
具体的には、雰囲気の露点が−10℃以下であるのが好ましく、−20℃以下であるのがより好ましい。
また、エネルギー線を照射する方法によれば、付与するエネルギーの大きさを、精度よく簡単に調整することができる。このため、接合膜3から脱離する脱離基303の脱離量を調整することが可能となる。その結果、光学素子5の接合強度を容易に制御することができる。
すなわち、脱離基303の脱離量を多くすることにより、接合膜3の表面35および内部に、より多くの活性手が生じるため、接合膜3に発現する接着性をより高めることができる。一方、脱離基303の脱離量を少なくすることにより、接合膜3の表面35および内部に生じる活性手を少なくし、接合膜3に発現する接着性を抑えることができる。
なお、付与するエネルギーの大きさを調整するためには、例えば、エネルギー線の種類、エネルギー線の出力、エネルギー線の照射時間等の条件を調整すればよい。
一方、接合膜3をプラズマに曝す方法によれば、接合膜3の表面35付近に選択的にエネルギーを付与することができるので、接合膜3から脱離基303が脱離することが防止される。これにより、接合膜3の表面35には、接着性が確実に発現するとともに、内部では脱離基303の脱離に伴って接合膜3の組成、体積等が変化してしまうのを防止することができる。
この場合、接合膜3を曝すプラズマとして大気圧プラズマを用いるのが好ましい。大気圧プラズマによれば、減圧手段等の高価な設備を用いることなく、容易にプラズマ処理を行うことができる。また、このプラズマ処理には、接合膜3の近傍でプラズマを発生させるダイレクトプラズマ方式の他、被処理物とプラズマ発生部とが離間したリモートプラズマ方式またはダウンフロープラズマ方式による処理も好ましく用いられる。ダイレクトプラズマ方式によれば、接合膜3の近傍でプラズマを発生させるため、プラズマ処理を効率よくかつ均一に行うことができる。また、被処理物とプラズマ発生部とが離間している場合、被処理物とプラズマ発生部とが干渉しないため、被処理物をイオン損傷から避けることができる。
また、プラズマを発生させるガスとしては、Ar、He、H、N、O等が挙げられ、これらの2種以上を混合して用いることもできる。このうち、接合膜3の酸化等を考慮した場合には、Ar、He等の不活性ガスが好ましく用いられる。
電極間に印加する電圧の周波数は、特に限定されないが、好ましくは10〜50MHz程度とされ、より好ましくは10〜40MHz程度とされる。
また、工程[2]におけるエネルギーの付与方法としては、上述した方法の他に、加熱、加圧、オゾンに曝す等の方法が挙げられる。
[3]次に、第2の光学部品4を用意し、図4(c)に示すように、活性化させた接合膜3と第2の光学部品4とが接触するように、接合膜3を介して第1の光学部品2と第2の光学部品4とを重ね合わせる。これにより、接合膜3の表面35に発現した接着性に基づいて、接合膜3と第2の光学部品4とが接合し、図5(d)に示すような光学素子(本発明の光学素子)5が得られる。
また、このような第2の光学部品4の接合膜3との接合に供される領域には、第2の光学部品4の構成材料に応じて、接合を行う前に、あらかじめ、第2の光学部品4と接合膜3との密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。これにより、接合膜3と第2の光学部品4との接合強度をより高めることができる。
かかる表面処理としては、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。このような処理を施すことにより、第2の光学部品4の表面を清浄化するとともに、活性化させることができる。その結果、接合膜3の第2の光学部品4に対する密着強度を確実に高めることができる。
また、第2の光学部品4の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、光学素子5と第2の光学部品4との接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる第2の光学部品4の構成材料には、前述した第1の光学部品2の構成材料のうち、各種ガラス系材料等を用いることができる。
このようにして得られた光学素子5では、従来の接合方法で用いられていた接着剤のように、主にアンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、共有結合のような短時間で生じる強固な化学的結合に基づいて、接合膜3と第2の光学部品4とが接合されている。このため、光学素子5は短時間で形成することができ、かつ、接合ムラ等も生じ難いものとなる。
また、このような光学素子5を用いて得られた光学素子5を得る方法によれば、従来の固体接合のように、高温(例えば、700℃以上)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された第1の光学部品2および第2の光学部品4をも、接合に供することができる。
また、接合膜3を介して第1の光学部品2と第2の光学部品4とを接合しているため、第1の光学部品2と第2の光学部品4との構成材料の組み合わせに制約がないという利点もある。
以上のことから、本発明によれば、第1の光学部品2および第2の光学部品4の各構成材料の選択の幅をそれぞれ広げることができる。
また、固体接合では、接合層を介していないため、第1の光学部品2と第2の光学部品4との間の熱膨張率に大きな差がある場合、その差に基づく応力が接合界面に集中し易く、剥離等が生じるおそれがあったが、光学素子(本発明の光学素子)5では、接合膜3によって応力の集中が緩和され、剥離を防止することができる。
また、本実施形態では、接合に供される第1の光学部品2および第2の光学部品4のうち、一方のみ(本実施形態では、第1の光学部品2)に接合膜3が設けられている。第1の光学部品2上に接合膜3を形成する際に、接合膜3の形成方法によっては、第1の光学部品2が比較的長時間にわたってプラズマに曝されることになるが、本実施形態では、第2の光学部品4は、プラズマに曝されることはない。したがって、例えば、第2の光学部品4のプラズマに対する耐久性が著しく低い場合であっても、本実施形態にかかる方法によれば、第1の光学部品2と第2の光学部品4とを接合膜3を介して強固に接合することができる。したがって、第2の光学部品4を構成する材料は、プラズマに対する耐久性をあまり考慮することなく、幅広い材料から選択することが可能になるという利点もある。
ここで、本工程において、接合膜3と第2の光学部品4とが接合されるメカニズムについて説明する。
例えば、第2の光学部品4の接合膜3との接合に供される領域に、水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、接合膜3と第2の光学部品4とが接触するように、これらを貼り合わせたとき、接合膜3の表面35に存在する水酸基と、第2の光学部品4の前記領域に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、接合膜3と第2の光学部品4とが接合されると推察される。
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合する。その結果、接合膜3と第2の光学部品4との接触界面では、水酸基が結合していた結合手同士が酸素原子を介して結合する。これにより、接合膜3と第2の光学部品4とがより強固に接合されると推察される。
なお、前記工程[2]で活性化された接合膜3の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[2]の終了後、できるだけ早く本工程[3]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[2]の終了後、60分以内に本工程[3]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、接合膜3の表面が十分な活性状態を維持しているので、本工程で接合膜3と第2の光学部品4とを貼り合わせたとき、これらの間に十分な接合強度を得ることができる。
換言すれば、活性化させる前の接合膜3は、Si骨格301を有する接合膜であるため、化学的に比較的安定であり、耐候性に優れている。このため、活性化させる前の接合膜3は、長期にわたる保存に適したものとなる。したがって、そのような接合膜3を備えた第1の光学部品2を多量に製造または購入して保存しておき、本工程の貼り合わせを行う直前に、必要な個数のみに前記工程[2]に記載したエネルギーの付与を行うようにすれば、光学素子5の製造効率の観点から有効である。
以上のようにして、図5(d)に示す光学素子(本発明の光学素子)5を得ることができる。
なお、図5(d)では、第1の光学部品2に設けられた接合膜3の全面を覆うように第2の光学部品4を重ね合わせているが、これらの相対的な位置は、互いにずれていてもよい。すなわち、接合膜3から第2の光学部品4がはみ出るように、第1の光学部品2と第2の光学部品4とが重ね合わされていてもよい。
このようにして得られた光学素子5は、接合膜3を介した第1の光学部品2と第2の光学部品4との間の接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度を有する光学素子5は、その剥離を十分に防止し得るものとなり、耐久性に優れた光学素子ということができる。また、本発明の光学素子5によれば、第1の光学部品2と第2の光学部品4とが上記のような大きな接合強度で接合された光学素子5を効率よく作製することができる。
なお、従来のシリコン直接接合のような固体接合では、接合に供される表面を活性化させても、その活性状態は、大気中で数秒〜数十秒程度の極めて短時間しか維持することができなかった。このため、表面の活性化を行った後、接合する2つの基板を貼り合わせる等の作業に要する時間を、十分に確保することができないという問題があった。
これに対し、本発明によれば、Si骨格301を有する接合膜3を用いて接合を行っているため、数分以上の比較的長時間にわたって活性状態を維持することができる。このため、貼り合わせ作業に要する時間を十分に確保することができ、接合作業の効率化を高めることができる。
なお、光学素子5を得た後、この光学素子5に対して、必要に応じ、以下の2つの工程([4A]および[4B])のうちの少なくとも1つの工程(光学素子5の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、光学素子5の接合強度のさらなる向上を図ることができる。
[4A]図5(e)に示すように、得られた光学素子5を、第1の光学部品2と第2の光学部品4とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、第1の光学部品2の表面および第2の光学部品4の表面に、それぞれ接合膜3の表面がより近接し、これにより、未結合の活性手が第2の光学部品4との間において化学結合を形成することから、光学素子5における接合強度をより高めることができる。
また、光学素子5を加圧することにより、光学素子5中の接合界面に残存していた隙間を押し潰して、接合面積をさらに広げることができる。これにより、光学素子5における接合強度をさらに高めることができる。
このとき、光学素子5を加圧する際の圧力は、光学素子5が損傷を受けない程度の圧力で、できるだけ高い方が好ましい。これにより、この圧力に比例して光学素子5における接合強度を高めることができる。
なお、この圧力は、第1の光学部品2および第2の光学部品4の各構成材料や各厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、第1の光学部品2および第2の光学部品4の各構成材料や各厚さ等に応じて若干異なるものの、0.2〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、光学素子5の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、第1の光学部品2および第2の光学部品4の各構成材料によっては、第1の光学部品2および第2の光学部品4に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、光学素子5を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
[4B]図5(e)に示すように、得られた光学素子5を加熱する。
これにより、未結合の活性手が第2の光学部品4との間において化学結合を形成することから、光学素子5における接合強度をより高めることができる。
このとき、光学素子5を加熱する際の温度は、室温より高く、光学素子5の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25〜100℃程度とされ、より好ましくは50〜100℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、光学素子5が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
なお、前記工程[4A]、[4B]は、本実施形態では、光学素子5を得た後、すなわち前記工程[3]の後に行うこととしたが、前記工程[3]とほぼ同時に行うようにしてもよい。換言すれば、前記工程[3]おける接合膜3を介した第1の光学部品2と第2の光学部品4との貼り合わせを、加圧および加熱のうちの少なくとも一方の処理を施しつつ行うようにしてもよい。
さらに、前記工程[4A]、[4B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、図5(e)に示すように、光学素子5を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、光学素子5の接合強度を特に高めることができる。
以上のような工程を行うことにより、光学素子5における接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
(第2実施形態)
次いで、接合膜3が形成された第1の光学部品2を用いた光学素子5の製造方法の第2実施形態について説明する。
図6および図7は、接合膜が形成された第1の光学部品を用いた光学素子の製造方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図6および図7中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、第2実施形態にかかる接合方法について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかる製造方法では、第2の光学部品にも第1の光学部品と同様に接合膜を形成するようにした以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態にかかる接合方法は、接合膜31が形成された第1の光学部品2と、接合膜32が形成された第2の光学部品4とを用意する工程と、それぞれの光学部品2、4に形成された各接合膜31、32にエネルギーを付与して、各接合膜31、32を活性化させる工程と、各接合膜31、32同士が密着するように、これらを介して2つの光学部品2、4を貼り合わせ、光学素子5aを得る工程とを有する。
以下、本実施形態にかかる製造方法の各工程について順次説明する。
[1]まず、前記第1実施形態と同様にして、接合膜31が形成された第1の光学部品2と、接合膜32が形成された第2の光学部品4とを用意する(図6(a)参照)。
このように、本実施形態では、第1の光学部品2に接合膜31を形成するばかりでなく、第2の光学部品4にも接合膜32を形成する。
[2]次に、図6(b)に示すように、2枚の光学部品2、4に設けられた各接合膜31、32にエネルギーを付与する。各接合膜31、32にエネルギーを付与すると、各接合膜31、32では、図2に示す脱離基303がSi骨格301から脱離する。そして、脱離基303が脱離した後には、図3に示すように、各接合膜31、32の表面35および内部に活性手304が生じ、各接合膜31、32が活性化される。これにより、各接合膜31、32にそれぞれ接着性が発現する。
このような状態の2つの光学部品2、4は、それぞれ接合膜31、32を介して互いに接着可能なものとなる。
なお、各接合膜31、32にエネルギーを付与する方法としては、前記第1実施形態と同様の方法を用いることができる。
ここで、接合膜31、32を「活性化させる」とは、前述したように、各接合膜31、32の表面351、352および内部の脱離基303が脱離して、Si骨格301に終端化されていない結合手(未結合手)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
したがって、活性手304とは、未結合手または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。
[3]次に、図6(c)に示すように、接着性が発現した各接合膜31、32同士が密着するように、接合膜31、32を介して、光学部品2、4同士を貼り合わせ、光学素子(本発明の光学素子)5aを得る。
この際、本発明では、前記工程[2]で示したように、各接合膜31、32にエネルギーを付与することにより接着性が発現している。そのため、これら接合膜31、32は、互いの接合膜に対して優れた接着性を有するものであることから、得られた光学素子5aは優れた接着強度を備えるものとなる。
ここで、本工程において、接合膜31、32を介して光学部品2、4同士を接合するが、この接合は、以下のような2つのメカニズム(i)、(ii)の双方または一方に基づくものであると推察される。
(i)例えば、各接合膜31、32の表面351、352に水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、各接合膜31、32同士が密着するように、2つの光学部品2、4同士を貼り合わせたとき、各光学部品2、4に設けられた接合膜31、32の表面351、352に存在する水酸基同士が、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、接合膜31、32同士が接合されると推察される。
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合する。その結果、接合膜31、32同士の間では、水酸基が結合していた結合手同士が酸素原子を介して結合する。これにより、接合膜31、32を介して2つの光学部品2、4同士がより強固に接合されると推察される。
(ii)2枚の光学素子5同士を貼り合わせると、各接合膜31、32の表面351、352や内部に生じた終端化されていない結合手(未結合手)同士が再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成される。これにより、各接合膜31、32を構成するそれぞれの母材(Si骨格301)同士が直接接合して、各接合膜31、32同士が一体化する。
以上のような(i)または(ii)のメカニズムにより、図6(d)に示すような光学素子5aが得られる。
なお、光学素子5aを得た後、この光学素子5aに対して、必要に応じ、前記第1実施形態の工程[4A]および[4B]のうちの少なくとも一方の工程を行うようにしてもよい。
例えば、図7(e)に示すように、光学素子5aを加圧しつつ、加熱することにより、光学素子5aの各光学部品2、4同士がより近接する。これにより、各接合膜31、32の界面における水酸基の脱水縮合や未結合手同士の再結合が促進される。そして、各接合膜31、32同士の一体化がより進行する。その結果、図7(f)に示すように、ほぼ完全に一体化された接合膜30を有する光学素子5a’が得られる。
なお、本実施形態では、第1の光学部品2と第2の光学部品4との間に2層の接合膜31、32を設ける場合について説明したが、3層以上の接合膜を設けるようにしてもよい。この場合も、接合膜の平均厚さの総和は、300nm以下とされる。
上記のような前記各実施形態にかかる製造方法により、種々の光学部品同士が接合膜を介して接合された光学素子を得ることができる。
以上のような本発明の光学素子は、2つの光学部品同士が接合膜を介して接合された各種の光学素子に適用することができる。
具体的には、接合膜を介した接合に供された光学部品を備える光学素子としては、例えば、偏光フィルタのような光学フィルタ、光ピックアップのような光学レンズ(複合レンズ)、プリズム、回折格子等が挙げられる。
<波長板>
ここでは、本発明の光学素子を波長板に適用した場合の実施形態について説明する。
図8は、本発明の光学素子を適用して得られた波長板(光学素子)を示す斜視図である。
図8に示す波長板9は、透過する光に1/2波長分の位相差を与える「1/2波長板」であって、2枚の複屈折性を有する結晶板91、92を、それぞれの光学軸が直交するように接着してなるものである。複屈折性を有する材料としては、例えば、水晶、方解石、MgF、YVO、TiO、LiNbO等の無機材料や、ポリカーボネート等の有機材料が挙げられる。
このような波長板9を光が透過するとき、光学軸に平行な偏光成分と垂直な偏光成分とに光が分離される。そして、分離された光は、各結晶板91、92の複屈折性に伴う屈折率差に基づいて一方に遅延が生じ、前述した位相差が生じることとなる。
ところで、波長板9によって透過光に与えられる位相差の精度や波長板9の透過率は、各結晶板91、92の板厚の精度に依存しているため、各結晶板91、92の板厚は高精度に制御されている必要がある。
それに加え、結晶板91と結晶板92との間隙も透過光の位相に影響を及ぼすため、結晶板91と結晶板92との間隙は、離間距離が厳密に制御されており、かつ離間距離が変化しないように強固に接着されている必要がある。
さらに、結晶板91と結晶板92とを透過する透過光透過率が減衰することなく、高い状態を維持する必要がある。
そこで、本発明では、波長板9に本発明の光学素子を適用することとした。これにより、接合膜を介して結晶板91と結晶板92とが強固に接合された波長板9を容易に得ることができる。
また、この接合膜は、プラズマ重合法という気相成膜法で広い領域を一度に成膜することが可能であるため、均一に成膜することができ、かつ膜厚の精度が高い。このため、結晶板91と結晶板92との間の平行度が高く、波面収差等の各種収差の少ない波長板9が得られる。
さらに、この接合膜は、波長板9を透過する光の波長以下であり、非常に薄いものであるため、波長板9を透過する光に及ぼす影響を抑えることができる。
なお、波長板9は、1/2波長板の他に、1/4波長板、1/8波長板等であってもよい。
以上、本発明の光学素子を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、前記実施形態における光学素子は、2つの光学部品の双方が光透過性を有したものであるが、本発明の光学素子はかかる構成に限定されず、一方のみが光透過性を有しており、他方の光学部品と接合膜との接合界面で光を反射させるような光学素子であってもよい。
また、前記実施形態では、各光学部品の表面の全面に接合膜を形成したが、一部のみに形成するようにしてもよい。この場合、接合領域を適宜調整することにより、接合界面における応力集中を緩和することができ、光学素子の変形または接合界面の剥離等の不具合を防止することができる。また、2つの光学部品同士の間に隙間ができるため、例えばこの隙間に空気等のガスを流すことによって、光学部品を強制冷却することが可能になる。
さらには、前記各実施形態では、接合膜の全面にエネルギーを付与して接着性を発現させるようにしたが、一部のみに接着性が発現されていてもよい。この場合も、接合領域を適宜調整することにより、接合界面における応力集中を緩和することができ、光学素子の変形または接合界面の剥離等の不具合を防止することができる。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.波長板(光学素子)の製造
(実施例)
<1>まず、第1の光学部品として、縦20mm×横20mm×平均厚さ2mmの水晶基板を用意し、また第2の光学部品として、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmの水晶基板を用意した。なお、これらの水晶基板は、いずれも光学研磨を施したものである。
<2>次に、第1の光学部品および第2の光学部品の双方に酸素プラズマによる表面処理を施した後、プラズマ重合法を用いて、第1の光学部品の一方の面上に、平均厚さ300nmのプラズマ重合膜を成膜した。なお、プラズマ重合法に用いたプラズマ重合装置における成膜条件は以下に示す通りである。
<成膜条件>
・原料ガスの組成 :オクタメチルトリシロキサン
・原料ガスの流量 :50sccm
・キャリアガスの組成:アルゴン
・キャリアガスの流量:100sccm
・高周波電力の出力 :100W
・高周波出力密度 :25W/cm
・チャンバー内圧力 :1Pa(低真空)
・処理時間 :3分
・基板温度 :50℃
このようにして成膜されたプラズマ重合膜は、オクタメチルトリシロキサン(原料ガス)の重合物で構成されており、シロキサン結合を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格と、アルキル基(脱離基)とを含むものである。また、プラズマ重合膜の結晶化度を赤外線吸収法により測定した。その結果、プラズマ重合膜の結晶化度は、測定箇所によって若干バラツキがあるものの、30%以下であった。
<3>次に、得られたプラズマ重合膜に対してプラズマ処理を施した。これにより、プラズマ重合膜(接合膜)を活性化させて、その表面に活性手を生成させることにより接着性を発現させた。なお、プラズマ処理は、前記工程<2>で用いたプラズマ重合装置を用いて行い、以下に示す条件とした。
<プラズマ処理条件>
・処理ガス :酸素ガス
・ガス供給速度:20sccm
・高周波電力の出力 :50W
・チャンバー内圧力 :4Pa(低真空)
・チャンバー内温度 :60℃
・処理時間 :0.5分
・電極間距離 :40mm
<4>次に、プラズマ処理を施してから1分後に、第1の光学部品に設けられたプラズマ重合膜と第2の光学部品とが互いに接触するようにして積層体とし、この状態で積層体を3MPaで加圧しつつ、80℃で加熱し、15分間維持することで、波長板を得た。
(比較例)
第1の光学部品と第2の光学部品とを接合するための平均厚さ300nmの接合膜を、光(UV)硬化性樹脂(アーデル社製、「型番フォトボンド20」)を用いて形成したこと以外は、前記実施例と同様にして光学素子を得た。
以上のような実施例および比較例の波長板を、以下に示す評価に応じて複数個作製した。
2.波長板の透過率の測定
実施例の波長板に波長405nmの光を照射し、この照射による光透過率の経時変化を観察した。
なお、光透過率の経時変化は、波長板に光を照射する照射部と、光が照射された後の波長板の光透過率を測定する測定部とを有する測定装置を用いて行った。
すなわち、図9に示す測定装置は、レーザー集光ユニットと1:1結像レンズとを備える照射部と、LED(発光部)とCCDカメラ(観測部)とを備える測定部と、波長板を照射部と測定部との間を移動させる自動ステージとを有している。そして、照射部において、レーザー集光ユニット(日亜化学社製、「LDX8」)から発光された波長405nmの光を、光ファイバ(Φ200μm)を介して、1:1結像レンズを透過させることにより、自動ステージ上に配置された波長板に照射した。その後、波長板を、自動ステージ上を移動させ、測定部において、LEDから発光された光の輝度を、波長板を介してCCDカメラにより測定した。そして、波長板への光の照射前に予め測定された光の輝度と、照射後に測定された光の輝度とを比較することにより、光透過率を求めた。
なお、レーザー集光ユニットから発光する光の波長および光の密度の調整は、レーザー集光ユニットに設けられたレーザードライバを用いて行った。
また、1:1結像レンズによる波長板が備える接合膜への光の集光は、1:1結像レンズに設けられたマイクロメーターを用いて行い、その焦点位置管理精度は±50μmであり、光の照射焦点径は光ファイバーコアと同様にΦ200μmであった。
さらに、CCDカメラによる焦点(照射)位置の位置検索およびその焦点は、CCDカメラに設けられたマイクロメーターを用いて行った。
なお、前記レーザードライバおよび前記マイクロメーターは、それぞれ、制御部に接続されており、これらの制御は、制御部により自動的に行われる。
3.評価
3.1 接合膜の透過率に影響を与えると考えられる変数の検討
ここで、上記のように波長板に照射する光りの波長を405nmとし、波長板が備える接合膜の平均厚さを300nmとしたとき、接合膜の透過率に影響を与えると考えられる変数として波長板の温度および照射する光りの密度(出力)が挙げられると、本発明者は推察し、下記式(1)で表わすことができると考えた。
k=(1/τ)=k(P/P)・exp(−E/RT) …… 式(1)
なお、式(1)中、τは規格化した劣化時間(分)、Pは照射する光りの密度(W/W)、Pは31.6(W/mm)、Tは基板の温度(絶対温度)、kは頻度因子(1/s)、nは照射する光りの密度に関する補正係数、Eは活性化エネルギー(J/mol)、Rは8.314(J/mol/K)とする。
したがって、上記式(1)から、下記式(2)の関係式を求めることができる。
lnk−n・ln(P/P)=lnk−E/R・1/T …… 式(2)
この関係式(2)は、一次関数であることから、y軸をlnk−nln(P/P)とし、x軸を1/Tとし、波長板の温度と照射する光りの密度とを変数として、実施例および比較例の波長板についてそれぞれ図10に示すようなグラフを得た。
すなわち、実施例の波長板について、それぞれ、波長板の温度を30、40、50、65℃、照射する光りの密度を10.0、22.5、31.6W/mmに変化させたときに、光透過率が99%まで低下するまでの時間を測定することで、図10(a)に示すようなグラフを得た。また、比較例の波長板について、それぞれ、波長板の温度を30、40、50、65℃、照射する光りの密度を1.6、3.0、5.1、10.9、14.2、22.5、31.6mWに変化させたときに、光透過率が99%まで低下するまでの時間を測定することで、図10(b)に示すようなグラフを得た。なお、実施例の波長板においては、この時間の測定を2つの波長板について行った。
そして、図10に示すように、得られた実施例および比較例の波長板におけるデータがそれぞれ、一次線形性を有していたことから、最小二乗法を用いて、実施例および比較例の波長板について、k、n、Eを求めた。
すなわち、実施例の波長板については、下記関係式(3−1)が成立し、比較例の波長板については、下記関係式(3−2)が成立することが判った。
1/τ=1.903×10-4(P0/P)-1.29・exp(1.131×104/RT) [1/hr]…… 式(3−1)
1/τ=1.412×103(P0/P)-1.15・exp(-2.92×104/RT) [1/min]…… 式(3−2)
以上の関係式(3−1)および関係式(3−2)から、光透過率が99%まで低下する際には、実施例の波長板では、波長板の温度が低く、かつ照射する光りの密度が高いほど、低下する時間が短くなり、比較例の波長板では、波長板の温度が高く、かつ照射する光りの密度が高いほど、低下する時間が短くなることが判った。
3.2 接合膜の透過率の時間的変化に関する検討
上記のように実施例の波長板では、光透過率が99%まで低下するまでの時間が、上記関係式(3−1)の関係が成り立つことから、実施例の波長板における透過率の時間的変化を、波長板の温度を30℃、照射する光りの密度を31.6W/mmとしたときに観察した。
これらは、波長板の使用環境下における温度が30℃以上、4倍速の密度が3.18W/mm以下であることから、これらの値に基づいて設定した。
その結果を、図11に示す。
図11から明らかなように、実施例の波長板(接合膜)では、100時間程度の照射時間まで、上記で求めた関係式(3−1)に沿って、測定された透過率が減少していくが、照射時間が100時間を超えたあたりから、関係式(3−1)に沿って透過率が減少することなく、高い透過率を維持し、最終的には、300時間を超えたあたりで、95%程度となり、その後さらに光りを照射しても、95%の透過率が維持される結果となった。
以上のことから、波長板の温度を30℃以上、波長板に照射する光りの密度を31.6W/mm以下とする際には、この波長板が備える接合膜の平均膜厚を300nm以下に設定することにより、長時間にわたって、光を照射した際の透過率を95%以上に維持し得ること、すなわち、光の透過度の減衰率を5%以下に制限し得ることが判った。
なお、このような光の透過度の減衰率と、接合膜の膜厚とは比例関係にあることから、接合膜の平均膜厚を100nm以下に設定した際には、前記透過率を97%以上に維持することが可能になると推察される。
2……第1の光学部品 3、30、31、32……接合膜 301……Si骨格 302……シロキサン結合 303……脱離基 304……活性手 35、351、352……表面 4……第2の光学部品 5、5a……光学素子 9……波長板 91、92……結晶板

Claims (17)

  1. 少なくとも一方が光透過性を有する第1の光学部品および第2の光学部品と、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合し、有機基からなる脱離基とを含む、プラズマ重合により形成された、前記第1の光学部品と前記第2の光学部品とを接合する接合膜とを有し、
    前記接合膜の少なくとも一部の領域にエネルギーを付与し、前記接合膜の少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離することにより、前記接合膜に発現した接着性によって、前記第1の光学部品と前記第2の光学部品とが接合されており、
    前記接合膜の平均厚さは、300nm以下であることを特徴とする光学素子。
  2. 当該光学素子を透過する光の波長は、200nm以上、830nm以下である請求項1に記載の光学素子。
  3. 当該光学素子を透過させる光の密度は、35W/mm以下である請求項1または2に記載の光学素子。
  4. 当該光学素子を透過させる際の前記接合膜の温度は、0℃以上である請求項1ないし3のいずれかに記載の光学素子。
  5. 当該光学素子に光を透過させた後の光透過率は、95%以上である請求項1ないし4のいずれかに記載の光学素子。
  6. 当該光学素子に光を透過させる時間は、100時間以上である請求項1ないし5のいずれかに記載の光学素子。
  7. 前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の光学素子。
  8. 前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものである請求項7に記載の光学素子。
  9. 前記プラズマ重合において、プラズマを発生させる際の高周波電力の出力は、100W以上、400W以下である請求項1ないし8のいずれかに記載の光学素子。
  10. 前記接合膜は、このものを構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10原子%以上、90原子%以下のものである請求項1ないし9のいずれかに記載の光学素子。
  11. 前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7以上、7:3以下である請求項1ないし10のいずれかに記載の光学素子。
  12. 前記Si骨格の結晶化度は、45%以下である請求項1ないし11のいずれかに記載の光学素子。
  13. 前記接合膜は、Si−H結合を含んでいる請求項1ないし12のいずれかに記載の光学素子。
  14. 前記接合膜についての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピーク強度が0.001以上、0.2以下である請求項13に記載の光学素子。
  15. 前記脱離基は、アルキル基である請求項1ないし14のいずれかに記載の光学素子。
  16. 前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものである請求項1ないし15のいずれかに記載の光学素子。
  17. 前記接合膜の屈折率は、1.35〜1.6である請求項1ないし16のいずれかに記載の光学素子。
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