神経障害は病的な神経状態であり、この神経状態は2つの極めて異なる種類の疾患に該当する。一方の種類の疾患は身体的疾患の意味範囲で神経損傷に基づく疾患である。他方の種類の疾患は、過敏な弱さ(例えば神経過敏症、神経衰弱症、ノイローゼ)の意味範囲での神経系に該当する。後者に挙げた意味はより歴史的に見ることができ、今日ではこれについてむしろ精神疾患の表現が利用されている。
身体的に引き起こされた神経障害は多様な原因を有することができ、例えば切除術又は事故の際の神経切断、動脈閉塞疾患又は糖尿病の際の血液灌流障害、神経について機械的に傷害する影響(外傷)、腫瘍、糖尿病による神経の代謝的(物質代謝による)障害又は損傷、ビタミン欠乏症、肝臓疾患、腎臓疾患、感染性疾患、例えば帯状ヘルペス、アルコール、重金属、医薬、環状炭化水素による中毒疾患、自己免疫疾患、特にギーランバレー症候群、及び中枢の、つまり脊髄又は脳に該当する障害又は損傷である。
この疾患原因に依存して、神経障害の治療のために多様な方法が提供される。現在適用される治療法アルゴリズムは、根本的な原因の治療、疾病症状の薬物学的及び薬物学的でない治療法並びに支持的心理治療法が考慮されている。
身体的神経障害の場合に痛みを引き起こすシステム自体が傷害されているか又は損傷しているため、頻繁に神経自身の痛み、いわゆる神経障害性の痛みが生じる。この痛みのタイプは、激しい電撃的な自発的痛み、突き刺すような痛みの発作及び痛み誘発された痛み(アロディニア、痛覚過敏)、さらには感覚異常及び感覚減退により特徴付けることができる。
神経障害性の痛みは、多様な原因により及び全くの侵害受容器の痛みの疾患症状の多様な展開により区別される。侵害受容器の痛みは、神経障害性の痛みとは反対に、組織の損傷又は炎症により引き起こされ、この場合、末梢及び中枢の神経構造は正常である。従って、侵害受容器の傷みの場合には、末梢及び中枢の神経系による痛み刺激の発生、伝達及び中枢での処理、いわゆる侵害受容は、完全に機能することができる。この侵害受容器の痛みには、例えば全ての慢性の炎症性痛み、内蔵性痛み、慢性の背中の痛みの多くの要素及び腫瘍の痛みのたいていの要素が属している。
疾患の原因、疾患の経過及び薬剤治療における差異のために、欧州医薬庁(EMEA)の欧州医薬委員会(CPMP)は、神経障害に基づく痛みの治療のための医薬の臨床的研究[Guideline on Clinical Medicinal Products intended for the Treatment of Neuropathic Pain, CPMP/EWP/252/03 Rev.1, 24 January 2007]及び侵害受容性の痛みの治療のための医薬の臨床的研究[Note for Guidance on Clinical Investigation of Medicinal Products for Treatment of Nociceptive Pain, CPMP/EWP/612/00, 21 November 2002]のために多様な公的なガイドラインを公布している。
痛みを伴う神経障害は患者の生活の質を著しく損ない、かつ健康経済学の重要な問題である。一般人口における痛みを伴う神経障害の罹患率は、欧州の6カ国における調査によると約5%と推測される[McDermott AM, Toelle TR, Rowbotham DJ, Schaefer CP, Dukes EM著: The burden of neuropathic pain: results from a cross-sectional survey. Eur J Pain 2006; 10(2): 127-135.]。ベルリンでの2007年6月7日〜10日の世界疼痛学会(IASP)の「Second International Congress on Neuropathic Pain」では、独国において脳梗塞を患う患者の8%、糖尿病患者の20%、多発性硬化症を患う患者の28%、腫瘍の痛みを患う患者の約33%、背中の痛みを患う患者の37%及び脊髄損傷を患う患者の67%で神経障害性の痛みが発生することが確認された。
神経障害の結果の痛みは、侵害受容器の痛みとは異なる薬剤治療を必要とする。従って、治療開始の前に神経障害性の痛みの存在が診断され、この痛みが医学的診察において頻繁に生じる侵害受容器の痛みとは区別されることが必要である。神経障害性の痛みの確実な診断のために、多くの有効な方法が提供されている[外観:Baron, R著: 神経障害性の痛みの診断及び治療(Detection of neuropathic pain syndroms), Deutsches Aerzteblatt 103, ノート 41, 2006, 2720-30]。これらの診断方法は、臨床的に方向を定めた診断[Dworkin RH, Backonja M, Rowbotham MC, Allen RR, Argoff CR, Bennett GJ et al.著: Advances in neuropathic pain: diagnosis, mechanisms, and treatment recommendations. Arch Neurol 2003; 60(11): 1524-34. Cruccu G, Anand P, Attal N, Garcia-Larrea L, Haanpaa M, Jorum E et al.著: EFNS guidelines on neuropathic pain assessment. Eur J Neurol 2004; 11(3): 153-62. Jensen TS, Baron R著: Translation of symptoms and signs into mechanisms in neuropathic pain. Pain 2003; 102(1-2):1-8]から簡単な質問票[Freynhagen R, Baron R, Gockel U, Toelle TR著: painDETECT - a new screening questionaire to identify neuropathic components in patients with back pain. Curr med Res Opin 2006; 22(10): 1911-20]にまで及んでいる。
神経障害性の痛みの薬物療法のために、現在の治療ガイドライン[Baron R, Ludwig J, Binder A著: Therapie Tabellen Neurologie/Psychiatrie Nr. 29, Mai 2006, Neuropathische Schmerzen, Westermayer Verlag, Pentenried]により次の医薬が提供されている:抗抑鬱剤(例えばアミトリプチリン、ノルトリプチリン、デシプラミン、マプロチリン、ベンラファキシン、デュロキセチン、ブプロピオン)、抗痙攣剤(例えばカルバマゼピン、オキシカルバゼピン、ラモトリギン、ガバペンチン、プレガバリン)、オピオイド(例えばトラマドール、モルフィン、オキシコドン)、カンナビノイド(例えばテトラヒドロ−カンナビノール)、筋弛緩剤(例えばバクロフェン)、及びNMDA−(=N−メチル−D−アスパルタート−)アンタゴニスト(例えばデキストロメトルファン、ケタミン、メマンチン)、ラジカルスカベンジャー(例えばアルファ−リポ酸)が提供される。局所的に適用されるべき医薬のために、局所的鎮痛剤及び局部麻酔剤(例えばカプサイシン、リドカイン及びベンゾカイン)が挙げられる。
侵害受容性の痛みの薬物療法のために、オピオイド系鎮痛剤及び非オピオイド系鎮痛剤が使用される。非オピオイド系鎮痛剤には、特に、COX−2選択的インヒビターを含めた、鎮痛性、抗炎症性及び解熱作用を有する非ステロイド系鎮痛薬(NSAID)が挙げられる。NSAIDは痛みを伴う神経障害の治療のための現在の治療推奨基準及びEMEAの公的なガイドラインには採用されていない、それというのもこれらは有効でないことが判明しており、従って副作用が引き起こされるだけであるためである。これは、例えばイブプロフェン[Baron, R著: 神経障害性の痛みの診断及び治療(Detection of neuropathic pain syndroms), Deutsches Aerzteblatt 103, ノート41, 2006, 2720-30. Max, MB et al.著: Association of pain relief with drug side effects in postherpetic neuralgia: a single-dose Study of clonidine, codeine, ibuprofen, and placebo, Clin Pharmacol Ther. 1988;43(4), 363-71]並びにジクロフェナク、インドメタシン及びアスピリン[Hempenstall, K et al.著: Analgesic therapy in in postherpetic neuralgie: A quantitative systematic review. PLoS Med. 2005; 2(7), 1-27]についても通用する。
従って、現在において提供される鎮痛剤の中では今日の治療推奨基準に従いオピオイド系鎮痛剤だけが、痛みを伴う神経障害の治療のためにも侵害受容性の痛みの治療のためにも適している。他の全ての有効物質は、痛みの原因が異なるため及びその作用メカニズムに基づいて、痛みを伴う神経障害の治療のためだけ又は侵害受容性の痛みの治療だけに適している。従って、神経障害性の痛み及び侵害受容性の痛みからなる混合型の痛みの症候群は、原則として、該当する痛みのタイプに対してそれぞれ適した有効物質で別個に治療しなければならない。
公知のNSAIDのいくつかは不斉炭素原子を有し、従ってR型鏡像体として及びS型鏡像体として存在する。これには2−アリールプロピオン酸の種類の有効物質も属し、前記種類の有効物質は例えば公知の物質、例えばイブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン及びチアプロフェン酸が所属する。イブプロフェン及びケトプロフェンは、ラセミ化合物(50%S型鏡像体、50%R型鏡像体)としても、純粋なS型鏡像体としても治療に使用され、この場合、S型鏡像体だけが有効であると見なされる。ナプロキセンは、もっぱらS型鏡像体として医薬中に使用される。フルルビプロフェン及びチアプロフェン酸は、今までラセミ化合物としてだけ治療に使用されている。
先行技術によると、いくつかの2−アリールプロピオン酸は、以前の学問的知識に反してS型鏡像体として薬理学的に有効であるだけでなく、R型鏡像体として望ましい薬理学的効果、特に鎮痛効果が示されることが公知である、例えば、独国特許第4028906号明細書、欧州特許第0607128号明細書、米国特許第5200198号明細書及び米国特許第5206029号明細書参照。これらの文献は、侵害受容性の痛みにだけ取り組んでいる。
国際公開第00/13684号パンフレットには、いくつかのR−(2)−アリールプロピオン酸、特にタレンフルビルが、鎮痛作用の用量よりも高い用量を適用することにより抗炎症性に作用し、その際、この作用様式としてmRNAのレベルに関してCOX−2の誘導を阻害することを示すことが記載されている。
欧州特許第1154766号明細書には、リューマチ疾患、喘息、ショック、炎症性腸疾患、放射線障害、動脈硬化症及び組織移植又は臓器移植後の拒絶反応の治療のための医薬の製造のための、R−(2)−アリールプロピオン酸、特にタレンフルビルの使用が特許請求されていて、その際、この作用は前記疾患において転写因子NF−kappaBの活性化の阻害に基づくとされている。
神経障害疾患(大腸直腸ガン)の治療のため並びに嚢胞性線維症及びアルツハイマー病の治療のための化学的予防有効物質としての、R−(2)−アリールプロピオン酸、特にタレンフルビルの他の適用も、国際公開第98/09603号パンフレットに記載されている。
欧州特許第1322305号明細書は、リュウマチの場合の慢性の破壊性の軟骨及び関節疾患の治療のための、R−(2)−アリールプロピオン酸、特にタレンフルビルの使用を特許請求している。
ケトプロフェンについて、R型ケトプロフェン又はモルフィンとS型ケトプロフェンからなる混合物の脊髄適用により、ラットにおいて触覚性アロディニアに関する阻害する効果が生じることが記載されている。このことから、前記物質の脊髄適用は神経障害性の痛みの治療のために適しうることが推論される[Ossipov MH, Jerussi TP, Ren K, Sun H, Porreca F著: Differential effects of spinal (R)-ketoprofen and (S)-ketoprofen against signs of neuropahtic pain and tonic nociception: evidence for a novel mechanism of action of (R)-ketoprofen against tactile allodynia. Pain. 2000 Aug;87(2):193-9]。この使用した痛みのモデルは、純粋な神経障害性の痛みを考慮しなかったが、むしろ侵害受容性の痛み又は侵害受容性の痛みと神経障害性の痛みとからなる混合型の痛みを考慮したことは明らかである。動物試験において選択された脊髄適用は、多大な手間のために、臨床的に限定的に適用可能であるだけである。この適用種類は、中枢の神経障害性の痛みの治療のためだけに許容されうる。末梢の神経障害性の痛みの治療は不可能であろう。この適用種類を継続して使用することは、多大な技術的手間、例えば埋め込み可能なポンプを用いて可能であるだけである。長時間治療のための治療の実地において通常の他の適用種類によるこの物質の薬理効果は記載されていない。この学問的開示の結果は、米国特許(US−B2)第6620851号明細書のための基礎であり、R(−)−ケトプロフェンを使用した神経障害性の痛み及び他の障害を治療する方法が特許請求されている。経口による投与形態が挙げられているが、その作用は証明されていない。経口投与された純粋なR−ケトプロフェンの有効性は、しかしながらラットに関してもヒトの場合でも証明されていない、それというのもこの両方の種類において経口投与によるR−ケトプロフェンはかなりの範囲においてS−ケトプロフェンに反転するためである。それにより、R−ケトプロフェンの場合により存在する作用をS−ケトプロフェンの強い作用から分離することはできない。R−ケトプロフェンからS−ケトプロフェンへのこの生物学的反転(Bioinversion)は、更に経口投与の場合に、S−ケトプロフェンの公知の不所望な作用を引き起こしかねず、それによりR−ケトプロフェンの場合により改善された適合性を失わせてしまう。
R−ケトプロフェンのために見られた作用を他のR−アリールプロピオン酸に転用することは、当業者にとって、今までの研究において見られた極めて多様な作用又は作用強度に基づき特に種から種へ及びアリールプロピオン酸からアリールプロピオン酸へ極めて異なる反転に基づき不可能である。その点では、R−アリールプロピオン酸はS型鏡像体とは異なり一貫した種類の有効物質として見なされない。
これは痛みを伴う神経障害の治療のために適した治療方法又は医薬のさらなる必要性を生じさせる。
独国特許第4028906号明細書
欧州特許第0607128号明細書
米国特許第5200198号明細書
米国特許第5206029号明細書
国際公開第00/13684号パンフレット
欧州特許第1154766号明細書
国際公開第98/09603号パンフレット
欧州特許第1322305号明細書
米国特許(US−B2)第6620851号明細書
Guideline on Clinical Medicinal Products intended for the Treatment of Neuropathic Pain, CPMP/EWP/252/03 Rev.1, 24 January 2007
Note for Guidance on Clinical Investigation of Medicinal Products for Treatment of Nociceptive Pain, CPMP/EWP/612/00, 21 November 2002
McDermott AM, Toelle TR, Rowbotham DJ, Schaefer CP, Dukes EM著: The burden of neuropathic pain: results from a cross-sectional survey. Eur J Pain 2006; 10(2): 127-135.
Baron, R著: Detection of neuropathic pain syndroms, Deutsches Aerzteblatt 103, ノート 41, 2006, 2720-30.
Dworkin RH, Backonja M, Rowbotham MC, Allen RR, Argoff CR, Bennett GJ et al.著: Advances in neuropathic pain: diagnosis, mechanisms, and treatment recommendations. Arch Neurol 2003; 60(11): 1524-34.
Cruccu G, Anand P, Attal N, Garcia-Larrea L, Haanpaa M, Jorum E et al.著: EFNS guidelines on neuropathic pain assessment. Eur J Neurol 2004; 11(3): 153-62.
Jensen TS, Baron R著: Translation of symptoms and signs into mechanisms in neuropathic pain. Pain 2003; 102(1-2):1-8.
Freynhagen R, Baron R, Gockel U, Toelle TR著: painDETECT - a new screening questionaire to identify neuropathic components in patients with back pain. Curr med Res Opin 2006; 22(10): 1911-20.
Baron R, Ludwig J, Binder A著: Therapie Tabellen Neurologie/Psychiatrie Nr. 29, Mai 2006, Neuropathische Schmerzen, Westermayer Verlag, Pentenried
Max, MB et al.著: Association of pain relief with drug side effects in postherpetic neuralgia: a single-dose Study of clonidine, codeine, ibuprofen, and placebo, Clin Pharmacol Ther. 1988;43(4), 363-71
Hempenstall, K et al.著: Analgesic therapy in in postherpetic neuralgie: A quantitative systematic review. PLoS Med. 2005; 2(7), 1-27
Ossipov MH, Jerussi TP, Ren K, Sun H, Porreca F著: Differential effects of spinal (R)-ketoprofen and (S)-ketoprofen against signs of neuropahtic pain and tonic nociception: evidence for a novel mechanism of action of (R)-ketoprofen against tactile allodynia. Pain. 2000 Aug;87(2):193-9
NSAIDは侵害受容性の痛み及び炎症性疾患の治療の場合に広範囲に適用されるにもかかわらず、このNSAIDは今までの研究において痛みを伴う神経障害の治療の場合に有効でないことが明らかであり、従って神経障害の場合の痛みの治療のための治療アルゴリズムに含まれていない。
意外にも、本発明の範囲内で、ラセミ化合物として市販されているNSAIDフルルビプロフェンのR型鏡像体であるタレンフルビルは、痛みを伴う神経障害の治療の際に痛みを和らげる作用があることが見出された。痛みを伴う神経障害の場合のタレンフルビルのこの作用は選択的であり、フルルビプロフェンのS型鏡像体により引き起こされなかった。
本発明の範囲内で実施された薬理試験は、痛みを伴う神経障害のための薬理学的に認められたモデルにおいてタレンフルビルの用量依存性の作用を示す。この作用強度は十分な投与の場合に、対照物質としてのガバペンチン25mg/kg体重の作用強度の範囲内にある。S−フルルビプロフェンは、このモデルにおいて有意な作用を示さない。
タレンフルビル(又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体)を含有する医薬は、本発明の範囲内で、冒頭に記載した痛みを伴う神経障害又は神経障害性の痛みの全ての形態において、単独での治療として又は他の医薬又は治療方法と組み合わせて使用することができる。この用量は、公知の有効物質についての現在の治療ガイドラインに基づいて行うことが好ましい。これは、この投与が個別に有効性及び副作用に依存して行われるべきであることを意味する。
痛みを伴う神経障害又は神経障害性の痛みの治療の際に、有効性とは少なくとも30%〜50%の痛みの低減であると解釈される。これは、有利に高い一日量での2〜4週間の治療期間の後に初めて評価されるのが好ましい。その後に、この用量を多くするか又は少なくすることができるか又は公知の有効物質との組み合わせ療法を始めることができる。
フルルビプロフェンラセミ化合物の望ましくない医薬作用が主にS型鏡像体によって引き起こされているため、本発明の範囲内で、タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体をエナンチオマー純粋の形で又はほぼエナンチオマー純粋な形で使用するか又は投与することが特に有利である。同様に、タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体50%とS−フルルビプロフェン又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体50%とからなる相応するラセミ化合物の形と比べて、タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体が濃縮されているタレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体の形が適している。タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体のエナンチオマー過剰率が、相応するS型鏡像体と比較して高ければそれだけ、例えば痛みを伴う神経障害の治療の際に、不所望な医薬作用のできる限り低い頻度及び重度で、望ましい鎮痛作用を達成するために、製造された医薬はより高く投与することができる。
タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体がS−フルルビプロフェン又はそれぞれのS−フルルビプロフェンのその薬学的に許容される塩もしくは誘導体に対するモル比で60:40以上である、タレンフルビルの形又はその薬学的に許容される又は誘導体の形が特に適している。前記モル比が95:5以上である場合が特に有利であり、その際、95:5から高いモル比は本発明の範囲内で「ほぼエナンチオマー純粋」である。前記モル比が98:2以上、≧99.5:0.5又は≧99.9:0.1である場合が特に有利であり、その際、98:2から高いモル比は本発明の範囲内で「エナンチオマー純粋」である。
本発明による使用により製造された医薬及び医薬組成物又は本発明による使用のための医薬及び医薬組成物は、タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体を、有利にエナンチオマー純粋の又はエナンチオマー過剰の前記の適した形で含有する。
有効物質であるタレンフルビルの製造において技術的に是認できる場合、現代の分析法を用いてS−フルルビプロフェン又は相応するS−フルルビプロフェン塩もしくはその誘導体が検出されない純粋なタレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体を、本発明による方法において又は本発明の医薬又は医薬組成物の製造のために使用することが好ましい。
タレンフルビルは、たいていは他のR−NSAIDとは反対に、ヒトに適用した場合に、生体内においてR型からS型への反転は示さないか、又は場合により極端に低い反転を示す。したがって、高い治療的用量の投与後にも、タレンフルビルからS−フルルビプロフェンへの反転によりヒトの生体内でS−フルルビプロフェンの毒性濃度が生じる危険性はない。ヒトの生体内でのタレンフルビルの高いエナンチオマー安定性に基づいて、痛みを伴う神経障害又は神経障害性の痛みの本発明による治療の場合に特に有効な利益−危険性の比率を達成しうるために、できる限り十分なエナンチオマー純粋な有効物質を有する医薬を製造することが好ましい。エナンチオマー純粋な又はほぼエナンチオマー純粋なタレンフルビルは、医薬有効物質のために国際的な医薬等の品質管理基準(GMP)に従った多くの商業的有効物質供給元から得ることができる。
本発明の明細書及び特許請求の範囲に記載された、適当な一日量、一回量及び有効物質濃度についての全ての記載は、タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体のエナンチオマー純度又は使用された形の過剰率の度合いに従って場合により付加的に存在するS−フルルビプロフェン又はそれぞれの薬学的に許容される塩もしくは誘導体のS型鏡像体の割合を含めたタレンフルビル又はそのそれぞれの薬学的に許容される塩もしくは誘導体に関する。
毒性が低いために、投与される一日量は広い範囲で患者の個人的な所与性に合わせることができる。全身的適用の場合に、つまり投与された用量が生体内での血液循環を使用する場合に、この一日量は、少なくとも1mg/kg体重であるのが好ましく、50mg/kg以上にまで向上させることができる。全身的適用のために有利な用量は、2〜30mg/kg体重、特に有利に3〜25mg/kg体重、特に有利に5〜20mg/kg体重、もっとも有利に10〜20mg/kg体重の一日量である。
この一日量は、薬学的調製物及び適用形態の放出動力学に依存して、1〜5、有利に1〜4単位に分けることが好ましく、一日1回〜5回、有利に一日4回の適用が行われる。
この全身的適用のために、公知の全ての適用経路、例えば経口、経口的、筋肉内、静脈内、腹膜腔内、バッカル、舌下、点鼻、経皮、吸入及び直腸の適用経路を挙げることができ、このために公知の薬学的調製物を使用することができる。
固体の形態で投与される経口又は直腸用の調製物は、有利に一回量の形として、タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体を30mg〜1800mg、有利に50mg〜1200mg、特に有利に100〜1000mg、更に特に有利に200〜800mg含有する。坐剤のために、この一回量は固体の経口調製物と同様に配分される。
有利に一回量の形態での全体の一日量を含む腸管外投与のための溶液又は懸濁液は、しかしながら、治療的必要に応じて、一日数回の適用のためのより低い用量の一回量の形としても調製することができる。
経口用の飲用調製物の場合には、全体の一日量は、1800mgを上回る場合であっても、一回で服用することができる。経口適用のための溶液又は懸濁液は、典型的な治療期間のために、例えば1週間又は数週間もしくは1か月又は数ヶ月の間に必要な量を含むことができ、その際、一日量又は一回量は部分量の量り分けにより得られる。
全身的適用の他に、タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体を、痛みを伴う神経障害又は神経障害性の痛みの局所的治療のために使用することができる。このために、局所的に投与されるべき薬学的調製物を、疾患の体の部位の皮膚に適用する。この適用経路のために、局所薬の場合に公知の全ての薬学的調製物、例えば軟膏、クリーム、乳剤、ゲル、プラスターが適している。
局所的適用のために、タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体の0.5g/100g〜25g/100g調製物、有利に1g/100g〜20g/100g調製物、特に有利に1g/100g〜15g/100g調製物、殊に有利に1.5g/100g〜10g/100g調製物、最も有利に5g/100g〜10g/100g調製物の濃度を有する調製物が適している。
本発明による医薬又は医薬組成物の薬学的調製物は、それぞれの所望の技術及び薬学的技術において公知の形に製造することができる。これには、例えば錠剤、カプセル剤、糖衣錠剤、顆粒剤、経口適用のための非滅菌の溶液及び懸濁液、ナノペレット、腸管外投与のための滅菌溶液及び懸濁液、坐剤、エアゾール剤、軟膏、クリーム、乳剤及びリポソーム調製物が属する。
本発明により使用可能な経口の薬学的調製物及び筋肉内又は腹膜腔内に投与されるべき調製物は、急速に放出する配合物の形でも、調節されて放出する配合物の形でも製造できかつ治療的に使用できる。特に、経口の調製物の場合には、服用頻度の低減のため、患者のコンプライアンスの改善のため及び相容性の改善のために、遅延放出する薬学的調製物を使用することが考えられる。この放出は、連続的に又は複数の時間的にずらされた個々の放出を介して拍動的に制御することができる。筋肉内又は腹膜腔内に適用する調製物の場合の適用頻度を低減するために、有効物質の遅延放出のために薬学的技術において公知の調製物、例えば結晶サスペンション及び生分解性助剤を使用することができる。
本発明の有利な実施態様の場合には、タレンフルビル又はその薬学的に認容性の塩もしくは誘導体は本発明による方法、使用及び医薬又は医薬組成物の範囲内で、長時間にわたり、有利に数週間又は数ヶ月にわたり、例えば3ヶ月以上、6ヶ月以上又は12ヶ月以上にわたり適用されるか又は投与される。
本発明による医薬又は医薬組成物は、有効物質としてタレンフルビル又はその薬学的に認容性の塩もしくは誘導体の他に、場合により他の有効物質並びに1種又は数種の薬学的に認容性の助剤を有することができる。
薬学的に許容される誘導体の概念は、タレンフルビルと薬学的に許容される無機又は有機塩基とから塩生成により、アルコール性並びにフェノール性の化合物とからエステル生成により又はアミンからアミド生成により製造された誘導体に関する。これには、特に、金属塩、例えばアルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム及び亜鉛との金属塩、又は有機塩、例えばリシン、N,N′−ジベンジルメチレンジアミン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン、トロメタミン、アルギニン及び1〜6個のC原子を有するアルキルアミンとの有機塩、又はエステル、例えば1〜8個のC原子を有する脂肪族又はイソ脂肪族アルコールとのエステルが数えられる。タレンフルビルは、本発明の範囲内で遊離酸としても使用することができる。
本発明の場合には、タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくはその誘導体は、組み合わせずに又は痛みを伴う神経障害又は神経障害性の痛みの治療のために適した他の有効物質と固定した組み合わせで投与することができる。
痛みを伴う神経障害又は神経障害性の痛みの薬剤投与による組み合わせ療法のために、タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体は、前記適用症において有効な物質と組み合わせた固定した組み合わせの形で使用することができる。全身的な組み合わせ療法のために、有利に抗抑鬱剤、抗痙攣剤、オピオイド、カンナビノイド及び筋弛緩剤の有効物質群からなる物質が挙げられる。局所的な組み合わせ療法のために、タレンフルビルと局所的鎮痛剤又は局部麻酔剤からなる組み合わせを使用することができる。タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体と他の有効物質とからなる固定された組み合わせ物を有する医薬を製造する場合に、その用量は、タレンフルビル(又は使用されたその薬学的に許容される塩もしくは誘導体)が上記の用量で及び組み合わせ有効物質は該当する個々の有効物質のための治療的に通常の用量で使用されるように選択される。
本発明の場合に、タレンフルビルは、従って痛みを伴う神経障害の治療のためだけでなく、存在する損傷に基づいて痛みを伴う神経障害及び侵害受容性の痛みから構成される痛みの治療のためにも適している。この混合型の痛みは、狭い局所に限定された身体領域において同時に痛みを生じる組織損傷及び痛みを生じる末梢又は中枢の神経損傷が存在する場合に生じる。この痛みのタイプはまさに、実際には頻繁に適切には治療されない、それというのも公知の非オピオイド性鎮痛剤は侵害受容性の痛みにだけ有効であり、痛みを伴う神経障害の場合には有効でないためであり、痛みを伴う神経障害の治療のためにたいてい使用される有効物質は、この痛みのタイプの場合にだけ有効であり、侵害受容性の痛みには有効でないためである。混合型の痛みの場合に、タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体は、侵害受容性の痛みの場合の公知の痛みを緩和する作用により、並びに痛みを伴う神経障害の場合の本発明により見出された作用によって同時に有効である。タレンフルビル及びその薬学的に許容される塩及び誘導体は、オピオイド有効物質と同様であるが、公知の中毒の可能性及び呼吸抑制の可能性なしに、公知の侵害受容性の並びに以前に知られていない神経障害性の痛みの能力を提供する。この痛みの組み合わせは、今まで他の非オピオイド性物質について記載されておらず、従って今までに知られていない高度な治療的利用を表す。その優れた相容性に基づき、タレンフルビル(又はその薬学的に許容される塩及び誘導体)は、混合型の痛みの場合に初めから高い用量で使用することができる。痛みを伴う神経障害の場合及び侵害受容性の痛みの場合の比較可能な広い作用スペクトルをオピオイド系鎮痛剤も示すが、しかしながらこのオピオイド系鎮痛剤はその副作用の可能性のために厳しい適応基準で使用されている。頻繁に生じる混合型の痛みは、背中の痛み及び腫瘍による痛みであり、その治療のためにタレンフルビル(又はその薬学的に許容される塩及び誘導体)は識別診断とは無関係に有利な医薬であろう。
タレンフルビル(又はその薬学的に許容される塩及び誘導体)と組み合わされる、例えば全身適用する医薬として製造され及び固定した組み合わせとして医学的に使用することができる他の有効物質として、痛みを伴う神経障害の治療のために使用される全ての有効物質、例えば抗抑鬱剤(アミトリプチリン、ノルトリプチリン;デシプラミン、マプロチリン、ベンラファキシン、デュロキセチン、ブプロピオン)、抗痙攣剤(カルバマゼピン、オキシカルバゼピン、ラモトリギン、ガバペンチン、プレガバリン)、オピオイド(トラマドール、モルフィン、オキシコドン)、カンナビノイド(テトラヒドロ−カンナビノール)、筋弛緩剤(バクロフェン)、NMDAアンタゴニスト(デキストロメトルファン、ケタミン、メマンチン)、又はラジカルスカベンジャー(アルファ−リポ酸)が適している。局所的に適用される医薬のために、タレンフルビル又はその薬学的に許容される塩もしくは誘導体のための組み合わせ有効物質として、局所的鎮痛剤(例えばカプサイシン、リドカイン及びベンゾカイン)が挙げられる。
薬学的に許容される助剤とは、本発明の場合に、調製物に応じて、担持剤、例えばデンプン、糖、微結晶性セルロース、希釈剤、造粒助剤、滑剤、結合剤、崩壊促進剤などであると解釈される。タレンフルビルを含む医薬のための特に有利な薬学的調製物は、欧州特許第0607128号明細書、欧州特許第0641200号明細書及び欧州特許第0615440号明細書に記載されている。
次の実施例は、本発明を詳細に説明するが、しかしながら本発明はこの具体的に記載された実施態様に制限されるものではない。他に記載がない限り、部及び%の全体の表示は本発明の範囲内で、組成物/混合物の質量又は全質量に対する。
神経障害の場合の臨床的痛みの症状の本質的な要素を示す動物モデルとして、絞扼性神経損傷モデル(CCIモデル)[Bennet GJ, Xie YK著: A peripheral mononeuropathy in rat that produces disorders of pain sensation like those seen in man. Pain 1988, 33:87-107]及び坐骨神経損傷モデル(SNIモデル)[Decosterd I, Woolf CJ著: Spared Nerve injury: an animal model of persistent peripherel neuropathic pain. Pain 2000, 87:149-158]を使用した。両方のモデルの場合に、実験動物に手術により限定的な神経障害を与える。動物の痛みの挙動に基づいて、痛みを伴う神経障害の場合に物質の有効性を定量的に測定することができる。この試験は、ラットに関する公開されたモデルに従って実施した。ラットにおいて、タレンフルビルの単独の作用を測定することができる、それというのも、ヒトと同様にラットでは、タレンフルビルが実際にS−フルルビプロフェンに反転しないためである。これは、たいていの他の実験動物種にとっては当てはまらない。
第1の試験シリーズの場合に、前記実験動物に手術によりSNIモデルに従い又はCCIモデルに従い神経損傷を与えた。手術後の10日〜21日目から、それぞれ12匹の動物のグループは、一日に二回腹膜腔内に試験物質が投与された。SNIモデルによる試験の場合に適用あたり、それぞれ体重1kgに対して、2.5;4.5又は9mgのタレンフルビル(RF2.5、RF4.5及びRF9として表す)、4.5mgのS−フルルビプロフェン(SF4.5)、純粋な賦形剤(賦形剤−対照として表す)又は25mgのガバペンチン(Gaba25−参照物質として表す)を投与した。痛みを伴う神経障害に対して典型的な挙動パラメータを測定した、つまり機械的アロディニアをフォンフレー知覚テスター(von Frey Aestesiometer)によって、寒冷アロディニアをアセトン試験によって及び寒冷痛覚過敏を2℃に冷却したプレートによって測定した。CCIモデルによる試験の場合には、1グループあたり、4.5又は9mg/kg体重のタレンフルビル(Rf4.5及びRF9)、9mg/kg体重のS−フルルビプロフェン(SF9)又は賦形剤を投与した。同様に機械的/静的アロディニアをフォンフレーハール試験(von Frey Haar Test)によって、寒冷アロディニアをアセトン試験によって及び寒冷痛覚過敏を2℃に冷却したプレートによって測定した。
この試験シリーズからの結果を、図1a、1b及び1cに示す。前記アロディニアの有意な低下は、一日二回の4.5及び9mg/kgのタレンフルビルによって達成された。S−フルルビプロフェンは、有意な効果は示さなかった。4.5mg/kgより高い用量のS−フルルビプロフェンの一日二回の試験は、約1週間の治療期間から胃腸管出血のために個別の動物の場合に不可能であった。正の対照としての神経障害の際に使用されるガバペンチンは、タレンフルビルに対して有意な差を示さなかった。
他の試験シリーズにおいて、前記動物はSNIモデルによる神経損傷の後に、手術後の第1日からすでに2週間にわたり一日二回で9mg/kg体重のタレンフルビル又は賦形剤を腹膜腔内に投与された。機械的動的なアロディニアをフォンフレー知覚テスターによって、同側性並びに対側性の側に関して測定し、並びに寒冷アロディニアを10℃に冷却したプレートによって同側性だけで測定した。
この試験シリーズの結果は図2にまとめられている。タレンフルビル(RF9−同側性)は、機械的アロディニアの場合でも寒冷アロディニアの場合でも、全体の2週間の治療期間の間に、同側性の側に関して、賦形剤(賦形剤−同側性)と比較して有意に異なる効果を示す。対側性の側に関して、タレンフルビル(RF9−対側性)及び賦形剤(賦形剤−対側性)は異ならない。治療の完了後に、痛みを緩和する効果はタレンフルビルで治療したグループにおいてゆっくりと低下し、治療後の8日目には賦形剤グループの痛みの強度に達する。
上記の試験シリーズを評価するために、損傷されていないラットに関する他の試験シリーズにおいて、1回で9mg/kg体重のタレンフルビル(RF9)又は賦形剤を腹膜腔内に投与し、投与後6時間までに機械的アロディニアをフォンフレー知覚テスターにより並びに熱刺激をハーグレーブスモデル(Hargreaves Modell)により測定した。図3に示した結果は、タレンフルビルで治療されたグループと賦形剤で治療されたグループとの間で有意な差異は示さない。このことは、実施例1及び2においてタレンフルビルに対して測定された効果は、もっぱら痛みを伴う神経障害の場合の作用に起因することを意味する。