JP2011256664A - 耐摩耗性シート及び海岸保全施設及び海岸保全構造体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】波浪の水域に敷設される耐摩耗性シートであって、基地の少なくとも一方に一体に形成したパイルとにより構成する。
【選択図】図1
Description
一般にこの種の潜堤構造物は、海底に基礎マウンドを造成し、その表面を防護シートで被覆した後に波力の作用箇所に消波ブロック等を積上げて構築している。
この防砂シートは、三次元網状構造体を構成する硬質樹脂製の連続線条体の剛性強度によって長繊維不織布層を保護するものである。
このようなことから、潜堤構造物を構築する際には、沿岸域における多様な生態系を保全できるよう、自然環境に十分配慮して慎重に実施する必要がある。
<1>特許文献1に記載の防砂シートでは、三次元網状構造体が連続線条体の交絡部を固着した高剛性の網体として製造される。
そのため、高剛性の三次元網状構造体が漂砂等に晒されると連続線条体が摩耗しやすく、防砂シートの耐摩耗性と耐久性に問題がある。
<2>特許文献1に記載の防砂シートは、個別に製造した三次元網状構造体と長繊維不織布層とを接着する必要があり、防砂シートの製造に多くの工数を要し製造コストが高くつく問題もある。
<3>潜堤構造物の表面に防砂シートを設置した場合、設置から時間が経過すると、防砂シートが摩耗してマウンドを構成する石材の吸い出しや、潜堤構造物本体の摩耗を招いて潜堤構造物本来の波浪制御機能が著しく低下する。
<4>潜堤構造物はその表面が平滑であり、海藻類や水棲生物の生息に適した構造にはなっていない。
そのため、潜堤構造物の建設で海底が荒らされると、海底環境の修復に極めて長い期間を要する。
さらに本発明の目的とするところは、波浪構造物の表面保護、波浪制御、漂砂制御、海洋生物環境の創出を行う耐摩耗性シート及び海岸保全施設及び海岸保全構造体を提供することにある。
さらに本願発明は、前記耐摩耗性シートにおいて、前記パイルが針葉状またはループ状であることを特徴とする。
さらに本願発明は、前記した何れかの耐摩耗性シートにおいて、パイルの高さHと径dの関係が20≦H/d≦500の範囲にあることを特徴とする。
さらに本願の海岸保全構造体の保護構造に係る発明は、コンクリート構造物や水底地盤の保護面にシートを敷設した海岸保全施設であって、前記した何れかの耐摩耗性シートを保護面に敷設したことを特徴とする。
さらに本願の海岸保全構造体に係る発明は、前記した何れかの耐摩耗性シートで形成した袋体と、該袋体に充填して封入した中詰材とにより構成することを特徴とする。
さらに本願の海岸保全構造体に係る発明は、前記した海岸保全構造体において、耐摩耗性シートの基地を多重構造としたことを特徴とする。
<1>耐摩耗性シートは基地の少なくとも一方に多数のパイル群を形成している。
パイル群により波圧の減衰作用と漂砂等の捕捉作用を効果的に発揮することができる。
<2>海岸保全施設の保護面を覆った耐摩耗性シートのパイル群が変形可能であるため、パイル群が漂砂等に対して摩耗や摩滅し難く、しかもパイル群のクッション機能と、パイル群に捕捉された砂の保護機能とにより、耐摩耗性シートを構成する基地を漂砂等による摩耗や摩滅から確実に保護できる。
したがって、海岸保全施設の波浪制御作用を長期に亘って保証できる。
<3>耐摩耗性シート製の袋体に中詰材を封入して形成した海岸保全構造体の表面が変形可能なパイル群で覆われているため、パイル群が漂砂等に対して摩耗や摩滅し難く、しかもパイル群のクッション機能と、パイル群に捕捉された砂の保護機能とにより、海岸保全構造体を漂砂等による摩耗や摩滅から確実に保護できる。
したがって、海岸保全構造体としての防護機能を長期に亘って持続できる。
<4>耐摩耗性シートの基地を多重構造にすると、外部の漂砂だけでなく内部の中詰材の移動に対しても袋体の耐摩耗性能と耐衝撃性能がさらに高まるので、海岸保全構造体の防護機能を長期に亘って保証できる。
<5>海岸保全構造体の中詰材に安価な海砂を使用できるので、海岸保全施設の製造コストが低廉となる。
<6>耐摩耗性シートはそのパイル群に植物プランクトンや海藻が付着しやすく、さらに、耐摩耗性シートの表面で食物連鎖を生じ、海藻類や各種の幼魚等の水棲生物の生息に適した構造となっている。
そのため、潜堤構造物等の建設で海底が荒らされた場合は、従来工法と比べて海底環境の修復期間を大幅に短縮できる。
図1に本発明に係る耐摩耗性シート10の一例を示す。
耐摩耗性シート10は、可撓性を有する基地11と、基地11の片面に植毛したパイル12とにより構成する。
耐摩耗性シート10は、後述するように海底面や潜堤等の波浪構造物に敷設された場合に、通過する波や流れのエネルギーを多数のパイル12群の弾性変形により減衰するとともに、多数のパイル12群が漂砂による基地11の摩耗から保護するように構成されている。
基地11は耐久性、耐摩耗性、耐衝撃性に優れた素材で形成したものである。
基地11の素材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン等の熱可塑性樹脂の長繊維を用いることができる。
特に耐久性と耐候性に優れたポリエステルの長繊維を用いることが望ましい。
また2種以上の繊維を組み合わせた混繊や複数の成分からなる合成繊維等を用いた長繊維不織布や長繊維織布を使用してもよい。
基地11の目合は大きし過ぎると波や流れの減衰効果が低下するおそれがあるが、水生植物の定着を考慮して選択する。
例えば、アマモに対しては、種子から生じた芽や根が基地11を貫通して絡み付くことができる程度に基地11の目合をできるだけ小さく設定する。
パイル12は漂砂の捕捉機能、消波機能及び波圧(波力)の減衰機能を併有した可撓性を有する針葉状物であり、基地11の片面に植設する。
パイル12の素材は特に限定されないが、漂砂や波力等の外力に対して塑性変形せずに前後左右方向へ向けて弾性変形し、且つ元の形状に復元できる弾性と剛性を有する素材であればよく、例えば合成繊維製のモノフィラメントまたはマルチフィラメントを使用できる。
図2(A)のパイル12はモノフィラメントまたはマルチフィラメントのループ先端をカットすることで形成でき、また図4(B)のパイル12はモノフィラメントまたはマルチフィラメントのループ先端をカットしないことで形成できる。
モノフィラメントまたはマルチフィラメントによるループ(輪奈)の形成方法は編み物において周知であるのでその説明を省略する。
パイル12の径が太くなると縫製がし難くなる。
またパイル12の自立性を高めるために、基端部から先端部へかけて径が徐々に縮小した先細形状に形成する場合もある。
パイル12の延伸長さが500mmを越えると自立性が損なわれてパイル12が倒れてしまい、パイル12の延伸長さが1mm以下であると防護機能を発揮できなくなる。
上記H/dが20より小さいとパイル12の剛性が増して耐摩耗性シート10が摩耗し易くなり、また上記H/dが500より大きいとパイル12の自立が困難となって耐摩耗性シート10による漂砂の制御機能が著しく低下するといった難点がある。
そのため、上記H/dは上記した範囲が好ましい。
<4.1>試験装置
ロサンジェルス試験機を用いて耐摩耗性シートの耐摩耗性試験を行った。
ロサンジェルス試験機の諸元は、ドラム径φ600mm、長さ900mm、シート貼り付け箇所が内面に2箇所(600×500)あり、ドラム回転速度はインバーターにより切り替えが可能となっている。
パイルのあるものと無いものを比較検討することとした。
パイル無しのシートは一般的に土木工事に使用するシートとして、ポリエステル製の土木シートを用いた。
パイルを有する耐摩耗性シート10は2〜3kN/13cmの強度を有するシート(基地11)に3段階(5mm、10mm、70mm)の高さでパイル12を形成したシートを用いた。
試験条件は以下に示すとおりで、基本的に国土交通省が行った試験と同じ条件で行うものとした。
実際の海底ではありえない状態ではあるが、最も厳しいと考えられる水なしの状態で試験を行った。
(1)砂の量:10kg
(2)運転時間:50時間、100時間、200時間
(3)回転速度:1.2m/s
試験ケースは以下に示すとおりである。
評価は所定の運転時間経過後に、シートを取り出し、次の評価を行った。
(1)目視(マイクロスコープ)による評価
50時間、100時間、200時間経過後のシート表面の摩耗状況をマイクロスコープにより観察する。
200時間後に、JIS−L一1096に準拠した引張試験を実施する。
試料幅:3cm
つかみ間隔:20cm
引張速度:20%min
パイルなしシート(ケース1)は、試験前は糸が縦方向・横方向ともしっかりと束なった状態で組織を構成している。
このパイルなしシート(ケース1)を各々、50時間、100時間、200時間経過後に目視観察した。
50時間、100時間経過すると、時間とともに主に縦方向(ドラム回転方向)の組織が損傷していた。
200時間後では表面の糸は、そのほとんど擦り切れていた。
砂の微粒子が基地11に付着しているものの、基地11を構成している糸はほとんど損傷していなかった。
また切れているパイル12の本数は経過時間とともに増えていた。
ケース1〜3の引張試験の結果を以下に示す。
一方、パイルのある耐摩耗性シート10については、ケース2では200時間後では若干強度が低下するものの、強度保持率は85%以上となった。
ケース3においては、97.7%とほとんど低下が見られなかった。
目視による評価および引張試験結果より、パイルを有する耐摩耗性シート10は耐摩耗性に優れることが確認できた。
図9は耐摩耗性シート10の使用例を示したもので、本例では既述した耐摩耗性シート10を単独で海岸保全施設の保護面30に敷設した形態を示す。
ここで保護面30とは、コンクリート構造物や水底地盤を含むものである。
耐摩耗性シート10の基地11側を保護面30に設置する。耐摩耗性シート10の設置にあたり、ピンを打設したり重錘を取付ける等して耐摩耗性シート10が剥がれないようにする。
このようにして海岸保全施設に敷設した耐摩耗性シート10はつぎ作用を発揮する。
保護面30の表面が耐摩耗性シート10の多数のパイル12で覆われ、多数のパイル12は自立性を損ないない程度の弾性が付与されている。
そのため、漂砂が密集した多数のパイル12の間に張り込んで捕捉される。捕捉した砂はパイル12の根元に入り込み保護層を形成する。
そのため、漂砂がパイル12に直接触れても、パイル12の弾性変形により砂との摩擦が極めて小さくなるために、長期間経過してもパイル12が摩耗や摩滅を起こし難い。
仮にパイル12を剛性だけを有する素材で形成した場合には、パイル12がまったく変形しないために、漂砂の衝突によりパイル12の摩耗や摩滅の進行度合いが極めて大きくなる。
保護面30を覆う耐摩耗性シート10の表面に多数のパイル12群が直立状態で存在する。
そのため、耐摩耗性シート10の貫通方向またはシートと平行に向けて波圧(波力)が作用すると、多数のパイル12群が弾性変形し、パイル12群の変形抵抗によりこれらの波圧(波力)が効果的に減衰される。
さらに多数のパイル12群の根元に堆積した砂層が基地11の表面を保護する。
したがって、台風等で大きなエネルギーを保有した漂砂、砂利、鋭利な浮遊物等が耐摩耗性シート10に衝突しても、パイル12群と堆積砂と基地11による複数の保護層が保護面30を保護する。
耐摩耗性シート10を構成する基地11が多数のパイル12群と体積砂で被覆されているため、基地11の摩耗や摩滅を確実に防止できる。
耐摩耗性シート10の表面を覆う多数のパイル12群は、植物プランクトンや海藻が付着しやすいために、それを食べる動物プランクトン、動物プランクトンを食べる小魚といったように、耐摩耗性シート10の表面で食物連鎖を生じる。
さらに耐摩耗性シート10を構成するパイル12群の長さや基地11の目合が水生植物の生息環境に配慮した構造になっていて、アマモ等の種子から生じた芽や根が基地11を貫通して絡み付き、水生植物が定着する。
このように耐摩耗性シート10で覆った保護面30は海藻類や各種の幼魚等の水棲生物の生息に適した構造となっているため、潜堤構造物の建設で海底が荒らされた場合、従来工法と比べて海底環境の修復期間を大幅に短縮できる。
図10,11は耐摩耗性シート10で筒状に形成した袋体21と、袋体21に充填して封入した中詰材22とにより海岸保全構造体20を構成する場合について説明する。
図10は海岸保全構造体20を海岸線の破砕帯に沿って敷設した形態を示す。
海岸保全構造体20の断面形状は特に制約はないが、横長楕円形が安定した形状である。
また図示を省略するが、海岸保全構造体20を多段に積上げて設置してもよい。
袋体21の一部には中詰材22を充填するための開口が設けられていて、中詰材22の充填後に開口部を閉鎖できるようになっている。
袋体21を構成する耐摩耗性シート10の基本構成は既述した実施例1と同様であるが、本例では内部に充填する中詰材22による耐摩耗性を考慮して、基地11を内基地11aと外基地11bとからなる積層シートで構成する。
内基地11aは袋体21の製作時や設置時に破断しないだけの強度(耐衝撃性)を有し、外基地11bは耐摩耗性に優れた素材で形成する。
中詰材22は海岸保全構造体20に重量を付与する重錘で、例えば砂、砂利、金属粒、廃棄物から生成した粒体等が使用可能である。
中詰材22として海砂を用いれば、現地海底から吸い上げた海砂を水と一緒にメッシュ状の袋体21内へ放出するだけで、水のみが自然排水するので袋体21内へ中詰材22を低コストで充填できる。
海岸保全構造体20の作用は既述した実施例1の作用に加えてつぎの作用を発揮する。
海岸保全構造体20はその表面を多数のパイル12が覆い、多数のパイル12によって漂砂を捕捉したり、波圧(波力)を減衰できる。
殊に海岸保全構造体20は中詰材22により重量物と化している。そのため、潜堤構造物10に向けて極めて大きな波圧(波力)が繰り返し作用しても、その自重により海岸保全構造体20が移動しない。
したがって、海岸浸食を効果的に抑止できる。
耐摩耗性シート10で製作した袋体21は、基地11の表面を多数のパイル12群で保護している。しかも基地11を二層構造とし、パイル12側の外基地11bを耐摩耗性に優れた素材で形成している。
したがって、海岸保全構造体20に対して外部から砂が繰り返し衝突しても基地11は摩耗や摩滅を生じ難い。
海岸保全構造体20の浸水に伴い、中詰材22が袋体21内で移動する。
袋体21を構成する基地11の裏側を耐摩耗性に優れた素材の内基地11aで補強している。
そのため、袋体21内で中詰材22が移動しても基地11は摩耗や摩滅を生じ難い。
図12は基地11を多重構造にした実施例2の変形例に係る耐摩耗性シート10の断面図を示したものである。
本例では基地11が内基地11aと外基地11bに加え、内基地11aの内側に保護シート11cを一体に積層した三重構造で構成している。
保護シート11cは内基地11aを保護するための耐摩耗性及び引張強度に優れたシートで、例えば安価な不織布を使用できる。
また図示を省略するが、内基地11aと外基地11bの間にも保護シート11cを介装して四重構造とする場合もある。
また敷設した海岸保全構造体に大波が作用したときには、袋体内で中詰材が激しく移動する。
本例では、上記したような袋体に強大な張力が作用しても、保護シート11cが基地11全体の引張強度を高めて袋体の破断を効果的に防止でき、さらに袋体の内部で中詰材が激しく移動しても、保護シート11cが基地11の耐摩耗性と耐久性を高めて袋体の内側の摩滅防止性能が高くなるといった利点があるため、海岸保全構造体を大径化する場合に有利である。
さらにまた本例では、内基地11aが保護シート11cで保護されるため、内基地11aに安価な低強度素材を使用できるといった利点もある。
前記実施例2では海岸保全構造体20を露出した形態で海岸に設置した形態を説明したが、海岸保全構造体20を水没させて潜堤等の波浪構造物として使用していもよい。
11・・・(耐摩耗性シートの)基地
12・・・(耐摩耗性シートの)パイル
20・・・海岸保全構造体
21・・・袋体
22・・・中詰材
Claims (6)
- 波浪の水域に敷設される耐摩耗性シートであって、
基地と
基地の少なくとも一方に一体に形成したパイルとにより構成することを特徴とする、
耐摩耗性シート。 - 請求項1において、前記パイルがモノフィラメントまたはマルチフィラメントからなり、針葉状またはループ状であることを特徴とする、耐摩耗性シート。
- 請求項1または請求項2において、パイルの高さHと径dの関係が20≦H/d≦500の範囲にあることを特徴とする、耐摩耗性シート。
- コンクリート構造物や水底地盤の保護面にシートを敷設した海岸保全施設であって、
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の耐摩耗性シートを保護面に敷設したことを特徴とする、海岸保全施設。 - 請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の耐摩耗性シートで形成した袋体と、該袋体に充填して封入した中詰材とにより構成することを特徴とする、海岸保全構造体。
- 請求項5において、耐摩耗性シートの基地を多重構造としたことを特徴とする、海岸保全構造体。
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