JP2011245771A - 積層体およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】接着性および表面の滑り性に優れた樹脂層を有する積層体を提供する。
【解決手段】本発明の積層体は、ゴム基材上に、ポリオレフィン共重合体(A)を含有する樹脂層を有し、ポリオレフィン共重合体(A)はオレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1〜10モル%であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が下記式(I)で表される置換基であることを特徴とする。
−(CHNR (I)
(式中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、nは1〜5の整数を示す。)
【選択図】なし

Description

本発明は、接着性および表面の滑り性に優れた樹脂層をゴム基材上に有する積層体、および該積層体の製造方法に関する。
ゴムは、伸長性や弾力性に優れる材料であり、様々な用途で使用され、産業上必要不可欠な材料である。ゴム材料の重要な用途の一つとして、ラテックス手袋などに代表されるラテックス浸漬成形品(ラテックス皮膜)が挙げられる。一般に、ラテックス浸漬成形品の表面は粘着性を有しているため、滑り性に劣る場合がある。従って、そのまま手袋などで使用すると、装着が困難となるという問題や、物を放したりする際の作業性が低下するという問題があった。
このようなラテックス浸漬成形品の表面に、滑り性を付与するための手段として、タルクなどの粉体を散布したり、塩素化処理して表面を荒らしたりするなどの方法が知られている。しかし、粉体を散布する方法では、得られた手袋などを使用した場合に相手材料を汚染するという問題があった。一方、表面を塩素化処理する方法では効果の持続性が十分でなく、且つ塩素を使用するので、環境への負荷が大きいといった問題があった。
表面に粉体を散布したり、表面を塩素化処理したりする方法に代わる方法として、ラテックス浸漬成形品の表面に、滑り性付与成分としてアクリル系エマルション共重合体などをコーティングする方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1の場合は、ラテックス浸漬成形品である手袋を使用する場合に溶剤との接触があると、その滑り性付与成分が溶解したり、該滑り性付与成分から得られるコーティングが剥離したりして、滑り性付与効果が低下する場合があった。
また、ゴム材料を使用する際は、ゴム基材とプラスチックなどの他の材料とが複合される場合が多い。ゴム基材に複合される他の材料としては、例えば、合成繊維や熱可塑性樹脂フィルム、樹脂成形体などが上げられ、複合体としてゴムホース、パッキン、ガスケット、ダイヤフラムなどが挙げられる。ゴム基材と他の材料とは、強固に接着していることが必要とされる。
しかしながら、ゴム基材は、一般的に他の材料に対する密着性、接着性に乏しいという問題がある。かかる問題を解決するための検討が数多くなされている。例えば、特許文献2では、ゴム基材と、ポリエステル樹脂フィルムなどの他の材料とを複合するための、ポリアミドイミド系樹脂を含有する接着剤が提案されている。しかしながら、特許文献2の場合は、ゴム基材と、ポリエステル樹脂フィルムなどの特定の基材とのみに接着性が発現し、ゴム基材とポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂基材との接着性には劣る場合があった。
また、特許文献3では、ゴム基材とポリアミド樹脂フィルムとを、接着剤を用いずに複合することが提案されている。しかしながら、かかる場合も、ゴム基材とポリアミド樹脂以外の樹脂からなる基材との間では、十分な接着性が発現しないという問題があった。
また、本出願人は、特許文献4にて、ポリオレフィン樹脂基材やポリアミド樹脂基材、ポリエステル樹脂基材などとの接着性に優れた、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を提案している。しかしながら、この水性分散体をゴム基材上に塗布して樹脂層を形成した場合には、密着性や接着性に乏しく、また滑り性に劣る場合があった。
特表平10−508899号公報 特開2008−202016号公報 特開2003−181984号公報 特開2003−119328号公報
本発明は、上記のような問題に鑑み、表面の滑り性に優れ、且つ溶剤に曝されても滑り性の効果が持続し(すなわち、耐溶剤性に優れ)、さらには、ゴム基材と樹脂層との密着性に優れ、ゴム基材とポリオレフィン樹脂基材をはじめとする様々な基材との接着性に優れた積層体を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定構造のN−置換イミド単位を特定量含有するポリオレフィン共重合体からなる樹脂層が積層された積層体は、樹脂層表面の滑り性に優れ、且つ溶剤に接触してもその滑り性が持続することを見出した。さらに、該積層体は、ゴム基材と樹脂層との密着性、およびゴム基材とポリオレフィン樹脂基材をはじめとする様々な基材との接着性に優れることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ゴム基材上に、ポリオレフィン共重合体(A)を含有する樹脂層を有し、ポリオレフィン共重合体(A)はオレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1〜10モル%であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が下記式(I)で表される置換基であることを特徴とする積層体。
−(CHNR (I)
(式中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、nは1〜5の整数を示す。)
(2)ゴム基材上に、ポリオレフィン共重合体(B)を含有する樹脂層を有し、ポリオレフィン共重合体(B)はオレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1〜10モル%であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が下記式(II)で表される置換基であることを特徴とする積層体。
−(CH・X (II)
(式中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、Rは四級化反応により導入された四級化剤の残基、Xはアニオン性対イオン、nは1〜5の整数を示す。)
(3)樹脂層に含有されるポリオレフィン共重合体(A)が、不飽和カルボン酸単位を含有し、酸価が0.1〜50mgKOH/gであることを特徴とする(1)の積層体。
(4)樹脂層に含有されるポリオレフィン共重合体(B)が、不飽和カルボン酸単位を含有し、酸価が0.1〜50mgKOH/gであることを特徴とする(2)の積層体。
(5)樹脂層の厚みが、0.01〜20μmであることを特徴とする(1)〜(4)いずれかの積層体。
(6)樹脂層表面の動摩擦係数が0.9以下であることを特徴とする(1)〜(5)いずれかの積層体。
(7)ゴム基材を構成するゴムが、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、オレフィン系エラストマー、天然ゴムラテックス皮膜、合成ゴムラテックス皮膜から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)〜(6)の積層体。
(8)樹脂層が、ポリオレフィン共重合体(A)を水性媒体中に数平均粒子径1000nm以下に分散した水性分散体を、ゴム基材に塗布して得られた塗膜であることを特徴とする(1)、(3)、(5)、(6)または(7)いずれかに記載の積層体。
(9)樹脂層が、ポリオレフィン共重合体(B)を水性媒体中に数平均粒子径1000nm以下に分散した水性分散体を、ゴム基材に塗布して得られた塗膜であることを特徴とする(2)、(4)、(5)、(6)または(7)いずれかの積層体。
(10)(1)〜(9)いずれかの積層体を製造するに際し、ポリオレフィン共重合体が水性媒体中に数平均粒子径1000nm以下に分散された水性分散体を、ゴム基材の一部に塗布することで樹脂層を形成させることを特徴とする積層体の製造方法。
本発明の積層体は、樹脂層表面の滑り性に優れ、且つ積層体が溶剤に触れても滑り性の効果が低下しにくく、ゴム基材と樹脂層との密着性、およびポリオレフィン基材などの様々な基材とゴム基材との接着性(ヒートシール性)に優れるという効果を奏する。また、本発明の積層体の製造方法によれば、ゴム基材にポリオレフィン共重合体の水性分散体を塗布することで、樹脂層を薄く積層することが可能であるため、より滑り性に優れるという効果を奏する。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の積層体は、下記のポリオレフィン共重合体を含有する樹脂層を、ゴム基材上に有するものである。
<ポリオレフィン共重合体>
本発明に用いられるポリオレフィン共重合体は、ゴム基材との密着性、およびゴム基材と様々な基材との接着性を良好にしたり、水性分散化を容易にしたりする観点から、下記式(I)で表される置換基を有しているポリオレフィン共重合体(A)であるか、またはポリオレフィン共重合体(A)中の下記式(I)で表される置換基が、四級化剤で四級化されたものである下記式(II)で表される置換基を有しているポリオレフィン共重合体(B)であることが必要である。
ポリオレフィン共重合体(A)は、オレフィン系炭化水素単位と、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有する。さらに、該不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1〜10モル%であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が下記式(I)で表される置換基であるポリオレフィン共重合体である。
−(CHNR (I)
上記式(I)中、R、Rは、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基であり、炭素数1〜2のアルキル基が好ましい。また上記式(I)中、nは、1〜5の整数であって、2〜4の整数が好ましく、2〜3の整数がより好ましい。
なお、ポリオレフィン共重合体(A)は、後述する水性分散体の形態でゴム基材に積層することが可能であるが、水性分散体として利用する際は、含有する不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が下記式(I´)で表される置換基であってもかまわない。
−(CH・X (I´)
上記式(I´)中、R、R、nは、上記と同様のものを示す。Xはアニオン性対イオンを示す。アニオン性対イオンとは、N−置換基中のNと一組のイオン対を形成することが可能な組成物をいう。
上記式(I)または(I´)中、R、Rの炭素数、及びnの整数が、前記の範囲を下回ると、爆発の危険性のある原料を使用する必要があったり、樹脂がゲル化したりするため、ポリオレフィン共重合体を得るのが難しくなる。一方、前記の範囲を上回ると、得られる樹脂層の滑り性や耐溶剤性が低下する。
ポリオレフィン共重合体(B)は、ポリオレフィン共重合体(A)の含有する前記式(I)で表される置換基の一部または全てが、四級化されたものである。即ち、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1〜10モル%であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が下記式(II)で表される置換基であるポリオレフィン共重合体である。
−(CH・X (II)
上記式(II)中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基であり、炭素数1〜2のアルキル基が好ましい。Rは四級化反応により導入された四級化剤の残基であり、炭素数1〜12のアルキル基が好ましい。また前記式(II)中、nは1〜5の整数であって、2〜4の整数が好ましく、2〜3の整数が好ましい。そして、Xはアニオン性対イオンを示す。
四級化剤としては、前記式(I)で表される置換基を四級化して、前記式(II)で表される置換基とすることが可能なものであればよい。四級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸などのジアルキル硫酸類;メチルクロライド、エチルクロライド、ベンジルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、ベンジルブロマイド、メチルヨーダイド、エチルヨーダイド、ベンジルヨーダイドなどのハロゲン化アルキル類;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等のエポキシ類;メタンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸メチル等のアルキル又はアリールスルホン酸メチル類などが挙げられる。これらの中でも、ジアルキル硫酸類、ハロゲン化アルキル類が四級化の反応性に優れるため好ましく、ジアルキル硫酸類がより好ましい。これらは、単独で用いても2種類以上を併用しても構わない。
上記式(II)中、R、Rの炭素数、及びnの整数が前記の範囲を下回ると、爆発の危険性のある原料を使用する必要があったり、樹脂がゲル化したりするため、ポリオレフィン共重合体を得るのが難しくなる。一方、前記の範囲を上回ると得られる樹脂層の滑り性や耐溶剤性が低下する。
以下、「ポリオレフィン共重合体」とは、「ポリオレフィン共重合体(A)」と「ポリオレフィン共重合体(B)」とを総称したものである。上述のように、ポリオレフィン共重合体は、構成成分として、オレフィン系炭化水素単位と、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有するものである。
オレフィン系炭化水素単位としては、炭素数2〜6であるものが好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−へキセンなどのアルケン類や、ブタジエン、イソプレンなどのジエン類が挙げられる。これらの単位を複数有するものであってもよい。中でも、樹脂の製造のし易さ、各種材料に対する密着性などの点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンが好ましく、エチレン、プロピレンがより好ましい。
ポリオレフィン共重合体中、オレフィン系炭化水素単位の含有量は、65〜99.9モル%であることが好ましく、70〜99.9モル%がより好ましく、80〜99.9モル%がさらに好ましく、85〜99.9モル%が特に好ましい。オレフィン系炭化水素単位の含有量が65モル%未満であると、得られる樹脂層の滑り性や耐溶剤性が低下する場合がある。一方、99.9モル%を超えると、ゴム基材への密着性や、ゴム基材と様々な基材との接着性が悪化したり、ポリオレフィン共重合体の水性分散化が困難となったりする場合がある。
不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位について、以下に説明する。
上述のように、ポリオレフィン共重合体(A)中のN−置換基イミド単位を構成するN−置換基は、前記式(I)で表されるものである。その具体例としては、N,N−ジメチルアミノエチル基、N,N−ジメチルアミノプロピル基、N,N−ジメチルアミノブチル基、N,N−ジエチルアミノエチル基、N,N−ジエチルアミノプロピル基、N,N−ジエチルアミノブチル基などが挙げられる。中でも、ゴム基材との密着性や滑り性、耐溶剤性の観点から、N,N−ジメチルアミノプロピル基が好ましい。
また、上述のように、ポリオレフィン共重合体(B)のN−置換基は、前記式(II)で表されるものである。該置換基は、ポリオレフィン共重合体(A)で示した前記式(I)で表される置換基を四級化剤で四級化したものである。
不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位を与える不飽和カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。なかでも、オレフィン系炭化水素単位と共重合しやすいことから、無水マレイン酸が好ましい。
不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の具体例としては、ポリオレフィン共重合体(A)の場合は、N,N−ジメチルアミノエチルマレイミド、N,N−ジメチルアミノプロピルマレイミド、N,N−ジメチルアミノブチルマレイミド、N,N−ジエチルアミノエチルマレイミド、N,N−ジエチルアミノプロピルマレイミド、N,N−ジエチルアミノブチルマレイミドなどが挙げられる。これらの2種類以上が共重合されていてもよい。中でも、ゴム基材との密着性や滑り性、耐溶剤性の観点から、N,N−ジメチルアミノプロピルマレイミドが好ましい。一方、ポリオレフィン共重合体(B)の場合は、これらを四級化したものなどが挙げられ、それらは2種類以上が共重合されていてもよい。
ポリオレフィン共重合体における不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量は、0.1〜10モル%であることが必要であり、0.1〜5モル%であることが好ましく、0.1〜4モル%であることがより好ましく、0.1〜3モル%であることがさらに好ましく、0.1〜2モル%であることが特に好ましく、0.1〜1モル%であることが最も好ましい。不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%未満であると、ゴム基材への密着性や、ゴム基材と他の基材との接着性が不十分となる。また、ポリオレフィン共重合体を水性分散化することが困難となる。一方、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が10モル%を超えると、ゴム基材への密着性や、ゴム基材と他の基材との接着性が不十分となり、さらには滑り性や耐溶剤性が悪化する。
ポリオレフィン共重合体は、さらに構成成分として不飽和カルボン酸単位を含有していることが好ましい。不飽和カルボン酸単位を含有することで、ゴム基材への密着性や、ゴム基材と他の基材との接着性がより優れるものとなる。不飽和カルボン酸単位としては、無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン樹脂に共重合しやすい無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸が好ましく、特に無水マレイン酸、マレイン酸が好ましい。
ポリオレフィン共重合体における不飽和カルボン酸単位の含有量は、酸価を測定することで求めることができる。本発明において、ポリオレフィン共重合体の酸価(単位:mgKOH/g)は、以下のようにして求めることができる。すなわち、ポリオレフィン共重合体を、テトラヒドロフラン/トルエン/水を、質量比で20/4.8/0.2のように混合した溶媒に溶解し、クレゾールレッドを指示薬としてKOHで滴定を行い、溶液の色調が紫色に変色し、且つその色調が20秒間変化しなくなった時点のKOH消費量(mL)から求めることができる。このようにして求められたポリオレフィン共重合体の酸価は、0.1〜50mgKOH/gであることが好ましく、0.2〜40mgKOH/gがより好ましく、0.5〜30mgKOH/gがさらに好ましく、1.0〜20mgKOH/gが特に好ましい。ポリオレフィン共重合体の酸価が50mgKOH/gを超えた場合は、水性分散化が困難となる場合がある。一方、ポリオレフィン共重合体の酸価が0.1mgKOH/g未満の場合は、不飽和カルボン酸の含有量が少なすぎるため、ゴム基材への密着性や、ゴム基材と他の基材との接着性の向上効果が低くなる場合がある。
ポリオレフィン共重合体は、上記オレフィン系炭化水素単位、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位や不飽和カルボン酸単位以外のモノマー単位(以下、「その他のモノマー単位」と称する場合がある)を有するものであってもよい。
その他のモノマー単位としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステルならびにビニルエステルを塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコールなどが挙げられる。中でも、ゴム基材への密着性や、ゴム基材と他の基材との接着性がより向上する観点から、その他のモノマー単位は、(メタ)アクリル酸エステル単位を有していることが好ましい。
その他のモノマー単位が(メタ)アクリル酸エステル単位を有する場合において、該(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、0.1〜25モル%であることが好ましく、0.1〜20モル%がより好ましく、1〜15モル%がさらに好ましい。含有量が25モル%を超えると、得られる樹脂層の滑り性や耐溶剤性が悪化する場合があり、一方含有量が0,1モル%未満であると、ゴム基材への密着性、ゴム基材と他の基材との接着性向上の効果が乏しくなる場合がある。
ポリオレフィン共重合体の分子量としては、質量平均分子量で5000〜500000であることが好ましく、10000〜200000がより好ましく、15000〜100000がさらに好ましく、20000〜80000が特に好ましい。質量平均分子量が5000未満であると、ゴム基材への密着性や、ゴム基材と他の基材との接着性、得られる樹脂層の耐溶剤性が悪化する場合がある。また、質量平均分子量が500000を超える場合は加工性や水性分散化が困難となる場合がある。なお、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求められる。
但し、一般にポリオレフィン共重合体は、溶剤に対して難溶であるため、分子量測定が困難となる場合がある。その様な場合においては、質量平均分子量にかえて、溶融樹脂の流動性を示すメルトフローレート値が分子量の目安とされる。本発明において、メルトフローレート値は、JIS K7210:1999に従って測定されるものである。ポリオレフィン共重合体のメルトフローレート値は、0.1〜2000g/10分であることが好ましく、0.5〜1000g/10分であることがよりに好ましく、1〜500g/10分であることがさらに好ましく、2〜200g/10分であることが特に好ましい。メルトフローレート値が、2000g/10分を超えると、ゴム基材への密着性やゴム基材と他の基材との接着性、得られる樹脂層の耐溶剤性が悪化する場合がある。また、メルトフローレート値が0.1g/10分未満の場合は加工性や水性分散化が困難となる場合がある。
<ポリオレフィン共重合体の製造方法>
ポリオレフィン共重合体(A)の製造方法について説明する。
ポリオレフィン共重合体(A)の製造方法は、例えば、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位とを構成成分とする共重合体と、前記式(I)で表される置換基を有する1級アミンとをイミド化反応させる方法が挙げられる。かかる方法によれば、原料を入手し易く、きわめて特殊な装置を用いることなくポリオレフィン共重合体(A)を得ることが可能である。
以下、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位とを構成成分とする共重合体と、前記式(I)で表される置換基を有する1級アミンとをイミド化反応させる方法について詳しく説明する。
イミド化反応においては、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位とを構成成分として有する共重合体(以下、「無水物含有共重合体」と称する場合がある)を、原料樹脂として用いる。無水物含有共重合体を構成するオレフィン系炭化水素単位や、不飽和カルボン酸無水物単位の種類や含有量、分子量などは、該無水物含有共重合体をイミド化反応に付して得られたポリオレフィン共重合体組成が、本発明に用いられるポリオレフィン共重合体の構成を満足するものであれば特に制限されない。また、無水物含有共重合体は、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位以外のモノマー単位(その他のモノマー単位)を有するものであってもよい。
無水物含有共重合体の具体例としては、エチレン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸グラフト共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸プロピル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸ブチル−無水マレイン酸三元共重合体などのエチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体、プロピレン−無水マレイン酸グラフト共重合体、プロピレン−ブテン−無水マレイン酸グラフト共重合体、プロピレン−ブテン−エチレン−無水マレイン酸グラフト共重合体などが挙げられる。
これらの中でも、無水物含有共重合体をイミド化した後に得られる、ポリオレフィン共重合体を水性分散体とした場合に得られる塗膜のゴム基材への密着性、ゴム基材と他の基材との接着性をより向上させる観点から、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸プロピル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸ブチル−無水マレイン酸三元共重合体などのエチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体が好ましい。
無水物含有共重合体は、市販品も好適に使用することができる。例えば、アルケマ社製「ボンダイン」、「ロタダー」、「オレバック」、日本ポリエチレン社製「レクスパールET」、「アドテクス」、日油社製「モディパ」、三洋化成社製「ユーメックス」、三井化学社製「アドマー」、日本製紙ケミカル社製「アウローレン」などが挙げられる。
上記無水物含有共重合体と、下記式(III)で表されるアミノ化合物(以下、「アミノ化合物」と称する場合がある)とを、イミド化反応させることによってポリオレフィン共重合体(A)が得られる。下記式(III)で表されるアミノ化合物は、前記式(I)で表される置換基を有する1級アミンである。
N−(CHNR (III)
上記式(III)中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基であり、炭素数1〜2のアルキル基が好ましい。炭素数6以上の場合は、得られる樹脂層の滑り性や耐溶剤性が低下する場合がある。またR、Rのどちらか一方または両方が水素であると、ポリオレフィン共重合体の製造が困難となる場合がある。
また、上記式(III)中、nは1〜5の整数であって、2〜4の整数が好ましく、2〜3の整数がより好ましい。nの範囲が上記を下回ると、取り扱いの際に爆発の危険性がある場合がある。一方、nの範囲が上記を上回ると、得られる樹脂層の滑り性や耐溶剤性が低下する場合がある。
上述のような上記式(III)で表されるアミノ化合物は、分子内の1級アミンが無水物含有共重合体のカルボン酸無水物とイミド結合する。それにより、前記式(I)で表される置換基を有するN−置換不飽和カルボン酸イミドを生成することが可能となる。
前記式(III)で表されるアミノ化合物としては、N,N−ジアルキルアミノアルキルアミンが挙げられる。中でも、ゴム基材との密着性や滑り性、耐溶剤性の観点から、N,N−ジメチルアミノエチルアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N,N−ジメチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノエチルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルアミン、N,N−ジエチルアミノブチルアミンなどが好ましく、N,N−ジメチルアミノプロピルアミンがより好ましい。
イミド化反応の際の反応温度は、50〜300℃が好ましく、70〜250℃がより好ましく、90〜200℃がさらに好ましく、100〜170℃が特に好ましい。反応温度が50℃未満の場合はイミド化反応速度が遅すぎる場合がある。一方、300℃を超える温度は、イミド化反応には必要とされず、また、着色を生じる場合がある。イミド化反応に要する時間は特に限定されず、例えば、30秒〜1時間が好ましく、1〜45分がより好ましい。なお、イミド化反応は反応性が高いため、反応を促進するための触媒の添加は通常必要としない。また、イミド化反応を速やかに進行させるために、イミド化反応の際は、無水物含有共重合体とアミノ化合物を撹拌などの方法で混ぜ合わせることが好ましい。
また、無水物含有共重合体と、アミノ化合物とをイミド化反応させる場合において、無水物含有共重合体中に含有する不飽和カルボン酸無水物単位のすべてをイミド化せずに、その一部を不飽和カルボン酸単位として残すことが好ましい。不飽和カルボン酸無水物単位のすべてをイミド化しないことにより、不飽和カルボン酸単位を含有するポリオレフィン共重合体を得ることができる。このようなポリオレフィン共重合体を水性分散体としたときに得られる塗膜は、ゴム基材への密着性や、ゴム基材と他の基材との接着性により優れる。イミド化されずにポリオレフィン共重合体に含有される不飽和カルボン酸単位の含有量は、イミド化反応におけるアミノ化合物添加量などによって調整することが可能である。
イミド化反応におけるアミノ化合物の添加量は、無水物含有共重合体中の不飽和カルボン酸無水物単位のモル数に対して、通常、0.2〜10倍当量モル程度の範囲であればよい。含有する不飽和カルボン酸無水物単位のすべてをイミド化せずに、その一部を不飽和カルボン酸無水物単位して残す観点から、0.3〜2倍当量モルが好ましく、0.4〜1.5倍当量モルがより好ましく、0.4〜1倍当量モルがさらに好ましく、0.4〜0.9倍当量が特に好ましく、0.4〜0.8倍当量が最も好ましい。
次にイミド化反応の具体的な方法について説明する。ただしこれらの方法に限定されるものではない。
イミド化反応は、公知の装置、方法で行うことができる。例えば、無水物含有共重合体とアミノ化合物とを、反応容器内で加熱、撹拌する方法や、押出し機で連続的に加熱、撹拌する方法などが挙げられる。
無水物含有共重合体とアミノ化合物を反応容器内で加熱、撹拌する方法としては、撹拌翼と必要に応じて凝縮器を備えた反応容器を用いる方法が挙げられる。イミド化反応の際は反応容器が耐圧性であれば密閉してもよく、反応容器が耐圧性でなければ加熱によって発生した蒸気を、凝縮器を介して反応容器内に還流してもよい。原料である無水物含有共重合体とアミノ化合物は、反応前に一括して反応容器内に投入してもよいし、予め無水物含有共重合体だけを投入しておいて、加熱後、アミノ化合物を投入し、攪拌してもよい。撹拌翼の形状は限定されるものではない。また、撹拌速度も限定されるものではないが、通常200rpmを超えるような高速回転は必要としないため、200rpm以下が一般的である。また、攪拌は間欠であってもよい。また、ポリオレフィン共重合体の酸化を抑えるために、反応容器内のガスを窒素ガスに置換してもよい。
さらに、イミド化反応においては、均一性向上の観点から、無水物含有共重合体とアミノ化合物とを50〜300℃に加熱し、無水物含有共重合体を溶融させることが好ましい。また、無水物含有共重合体の溶融粘度が高く撹拌機の負荷が大きい場合や、撹拌効率が悪い場合は、溶媒を加えてもよい。該溶媒としては、撹拌効率を上げる点で無水物含有共重合体を溶解するようなものが好ましいが、水のように無水物含有共重合体に対して溶解性がないものであってもよい。だたし、溶媒として、不揮発性であるもの、高沸点のもの、および原料の無水物含有共重合体やアミノ化合物と反応性のあるものは好ましくない。なお、溶媒の沸点は、後述の溶媒を除去する工程において、溶媒を除去しやすくするため、150℃以下が好ましい。上記の溶媒の好適な具体例としては、トルエンやキシレンなどが挙げられる。溶媒の投入量は状況によって適宜選択すればよいが、原料である樹脂の合計量100質量部に対して100質量部程度であれば攪拌効率を十分向上させることができる。
このようにイミド化反応をした後は、反応容器内の未反応アミノ化合物や溶媒を除く工程を設けることが望ましい。未反応アミノ化合物や溶媒を除く方法としては、反応容器内を加熱撹拌し、必要に応じて減圧にして、発生した蒸気を、凝縮器を介して反応容器の外に留去する方法が好ましい。この際の反応容器内の温度は、アミノ化合物や溶媒の沸点より高めに設定することが好ましい。
イミド化反応後、得られたポリオレフィン共重合体を反応容器より払いだす際は、取り扱いのし易い10mm以下のペレットとすることが好ましい。
押出し機を用いてイミド化反応を行う場合は、無水物含有共重合体とアミノ化合物を押出し機で連続的に加熱、撹拌することが好ましい。このような押出し機としては、ホッパーと液注入装置を備えた押出し機を用いることが好ましい。また押出し機は、2軸押出し機であることが好ましい。すなわち、樹脂の温度が50〜300℃になるように加熱された押出し機に、ホッパーより無水物含有共重合体を定量的に供給し、さらにバレル途中に設けられた液注ノズルからアミノ化合物を定量的に投入することでイミド化反応できる。スクリューの回転速度は限定されず、通常20〜200rpmの範囲であればよい。このように押出し機内でイミド化反応をした後は、上述の反応容器を用いてイミド化反応を行う場合と同様に、未反応アミノ化合物を除く工程を設けることが望ましい。未反応アミノ化合物を除く方法としては、押出し機のバレル後半に設けられたベントより押出し機内を減圧にして、発生した蒸気を、凝縮器を介して押出し機の外に留去する方法が好ましい。
以上の様な方法で得られたポリオレフィン共重合体(A)は、必要に応じてさらに未反応アミノ化合物を除く工程を設けてもよい。未反応アミノ化合物を除く方法としては、得られたポリオレフィン共重合体を加熱乾燥する方法、得られたポリオレフィン共重合体を加熱真空乾燥する方法、得られたポリオレフィン共重合体を抽出する方法などが挙げられる。
次に、ポリオレフィン共重合体(B)の製造方法について説明する。ポリオレフィン共重合体(B)は、上述のように、ポリオレフィン共重合体(A)の前記式(I)で表される置換基の一部または全てを前記した四級化剤で四級化したものである。
四級化剤の添加量としては、ポリオレフィン共重合体(A)の含有する前記式(I)で表される置換基のモル数に対して、0.5〜5倍当量モルが好ましく、0.6〜2倍当量モルがより好ましく、0.8〜1.5倍当量モルがさらに好ましく、0.9〜1.0倍当量モルが特に好ましい。四級化剤の含有量が0.5倍当量モル未満の場合は得られたポリオレフィン共重合体(B)の水性分散化が困難となる場合があり、5倍当量モルを超えた場合は添加の効果が飽和する場合がある。
四級化剤を用いた四級化の方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、ポリオレフィン共重合体(A)と四級化剤とを、反応容器内で加熱、撹拌する方法や、押出し機で連続的に加熱、撹拌する方法などが挙げられる。四級化に好ましい反応温度は通常30〜200℃の範囲であり、好ましい反応時間は通常1分以上である。このような反応条件の下で、ポリオレフィン共重合体(A)と、四級化剤とを混ぜ合わせることで、前記式(I)で表される置換基の一部または全てを四級化し、前記式(II)で表される置換基を有するポリオレフィン共重合体(B)を得ることができる。
<添加剤>
このようにして得られたポリオレフィン共重合体は、単独でゴム基材上に樹脂層として積層されてもかまわないが、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、例えば、本発明に用いられるポリオレフィン共重合体以外の他の樹脂、無機微粒子あるいは架橋剤等、またはその水性分散体や水溶液等を、ポリオレフィン共重合体に添加、混合することができる。
上述したポリオレフィン共重合体以外の他の樹脂(以下、「他の樹脂」と称する場合がある)は、特に限定されない。例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル共重合体、エチレン−アミノアクリルアミド共重合体、エチレン−アミノアクリレート共重合体、ポリ塩化ビリニデン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−アミノアルキルマレイミド共重合体、スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン系エラストマー、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンイミン、UV硬化型樹脂等や、それらの水性分散体又はそれらの水溶液を挙げることができる。これらは、単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
上述した無機微粒子としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、などの金属微粒子や金属酸化物、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ゼオライト、カオリナイト、ハロイサイト、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、雲母、タルク、擬ベーマイト、アルミナ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化イットリウムなどの無機粒子が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
無機微粒子の平均粒子径は、分散安定性の面から0.0005〜100μmが好ましく、0.005〜10μmがより好ましい。
架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤;アミノ基、アクリル酸エステルやカルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物;多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができる。具体的には、ヒドラジド化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤、有機過酸化物等が挙げられる。
中でも、本発明に用いられるポリオレフィン共重合体が構成成分として不飽和カルボン酸単位を含有している場合は、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する架橋剤との反応性などに優れるため、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する架橋剤がより好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。架橋剤を、ポリオレフィン共重合体に添加することで、得られる樹脂層は、より優れた耐溶剤性などの性能を備えることが可能となる。
架橋剤の添加量は、架橋構造を十分に形成させる観点から、ポリオレフィン共重合体100質量部に対して架橋剤の固形分0.01〜300質量部の範囲が好ましく、0.1〜100質量部の範囲がより好ましく、0.2〜50質量部の範囲が特に好ましく、0.5〜30質量部の範囲がさらに好ましい。
さらに、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、触媒、光触媒、UV硬化剤、帯電防止剤等の各種薬剤、顔料あるいは染料、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどを添加してもよい。また、必要であれば、発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の有機もしくは無機の化合物をポリオレフィン共重合体に添加することも可能である。
上記のような他の樹脂、無機粒子、架橋剤、各種薬剤、顔料あるいは染料などの添加剤は単独で用いてもよいし、あるいは2種類以上、組み合わせて用いてもよい。またこれら添加剤を、ポリオレフィン共重合体に添加する方法は、ドライブレンドや溶融混合などの方法であっても良いし、ポリオレフィン共重合体を後述する水性分散体の形態としてから、該水性分散体中に添加混合する方法でもかまわない。
このようにして得られた、ポリオレフィン共重合体、またはポリオレフィン共重合体と必要に応じてその他の成分を含有してなる樹脂組成物を、ゴム基材上に積層して樹脂層を形成することで本発明の積層体とすることが可能である。
ゴム基材に樹脂層を積層する方法は、例えば、以下のような方法が挙げられる。
(a)あらかじめポリオレフィン共重合体をフィルムやシート状に加工した後に、ゴム基材と貼り合わせる方法
(b)ゴム基材上にポリオレフィン共重合体を押出す方法
(c)あらかじめポリオレフィン共重合体を別の基材に積層した後に、該積層体をゴム基材と貼り合わせる方法
(d)あらかじめポリオレフィン共重合体を水性分散体に加工した後に、ゴム基材に塗布する方法
これらの方法の中でも、ポリオレフィン共重合体を容易にゴム基材に積層することが可能であり、且つ樹脂層を薄く積層することが可能であることから、(d)の方法を採用することが好ましい。樹脂層を薄くすることで、樹脂層表面の滑り性をより向上させることができる。
本発明に使用されるポリオレフィン共重合体は、ゴム基材との優れた密着性を有する。さらに、該ポリオレフィン共重合体を含有する樹脂層がゴム基材に積層された積層体は、ポリオレフィン樹脂基材などの様々な種類の基材との接着性に優れる。これら密着性や接着性の向上効果は、樹脂層の厚みが薄膜であっても十分な効果を得ることが可能である。
<水性分散体>
次に、ポリオレフィン共重合体の水性分散体について説明する。本発明に用いられる水性分散体は、ポリオレフィン共重合体(A)が水性媒体中に分散した水性分散体(M)と、ポリオレフィン共重合体(B)が水性媒体中に分散した水性分散体(N)である。
なお、本発明における水性媒体とは、水、又は水と有機溶媒との混合液をいう。本発明においては、水性媒体を用いて分散体を得ているため、環境への影響、作業者や作業環境への安全性を向上させることができる。
まず、本発明に用いられる水性分散体(M)について説明する。
水性分散体(M)は、酸を含有することが好ましいものである。水性分散体(M)が含有するポリオレフィン共重合体(A)は、前記式(I)で表される置換基の一部または全てが、酸で中和されていることが好ましい。置換基が酸で中和されることによってポリオレフィン共重合体にアミノカチオンが生成し、アミノカチオン間の電気反発力によってポリオレフィン共重合体が微粒子化され、かつ微粒子間の凝集が解れる。その結果、水性分散体に安定性が付与され、酸性域で安定な水性分散体とすることができる。
つまり、ポリオレフィン共重合体(A)中の不飽和カルボン酸無水物由来のN−置換イミド単位のN−置換基が、前記式(I´)で表される置換基となることで、ポリオレフィン共重合体(A)を、水性分散体(M)中に分散させることができる。
前記式(I´)で表される置換基としては、N,N−ジメチルアミノエチル基、N,N−ジメチルアミノプロピル基、N,N−ジメチルアミノブチル基、N,N−ジエチルアミノエチル基、N,N−ジエチルアミノプロピル基、N,N−ジエチルアミノブチル基などが中和されたものが挙げられる。中でも、ゴム基材との密着性や滑り性、耐溶剤性の観点から、N,N−ジメチルアミノプロピル基が中和されたものが好ましい。
水性分散体(M)における酸の含有量は、ポリオレフィン共重合体(A)に含有される前記式(I´)で表される置換基のモル数に対して0.5〜5倍当量モルが好ましく、0.8〜3倍当量モルがより好ましく、1〜2.5倍当量モルがさらに好ましい。酸の含有量が0.5倍当量モル未満の場合は水性分散体の形態を安定して保てない場合がある。一方、5倍当量モルを超えた場合は水性分散体が着色したり、塗膜を得る際の乾燥時間が長くなったりする場合がある。
中和に用いる酸としては、前記式(I)で表される置換基を中和することが可能なものであって、酸解離定数(pKa)が−9〜8であるものが好ましく、pKaが−9〜7であるものがより好ましく、pKaが−5〜6であるものがさらに好ましく、pKaが0〜5であるものが特に好ましい。酸解離定数(pKa)が8を超えると、置換基が中和されにくくなり、水性分散化することが困難となる場合がある。酸解離定数が−9未満であると、水性分散体を得る際の作業性が困難となる場合がある。
また、酸は揮発性であることが好ましい。具体的には、沸点が20〜250℃であることが好ましく、30〜200℃がより好ましく、50〜150℃がさらに好ましく、50〜120℃が特に好ましい。酸が不揮発性であると、ポリオレフィン共重合体を水性分散体とした場合に得られる塗膜に酸が残留し、得られる樹脂層のゴム基材に対する密着性や、耐水性が低下する傾向にある。また、酸の沸点が低すぎると水性分散化の際に揮発する割合が多くなり中和の効率が高まらない場合がある。
上記のような酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、乳酸、クエン酸などの有機酸;塩酸、硫酸、リン酸、硝酸などの無機酸が挙げられる。これらは単独で用いても2種類以上を併用しても構わない。中でも、置換基の中和に優れることから有機酸が好ましく、その中でもギ酸、酢酸がさらに好ましい。
次に、本発明に用いられる水性分散体(N)について説明する。水性分散体(N)は、ポリオレフィン共重合体(B)が水性媒体中に分散したものである。ポリオレフィン共重合体(B)は、含有する前記式(II)で表される置換基が四級化されていることにより、既にアミノカチオンを有するため、酸を含有しなくても、酸性域で安定な分散体を得ることができる。
水性分散体(M)と水性分散体(N)とを比べた場合、水性分散体(N)は含有するポリオレフィン共重合体(B)が四級化された置換基を有するため、水性分散化が容易となり、製造し易い。しかしながら、水性分散体(N)は四級化された置換基を有するポリオレフィン共重合体(B)が分散したものであるため、水性分散体より得られる塗膜(樹脂層)の耐水性に劣る傾向がある。よって、水性分散体とした場合に得られる塗膜の性能の面からは、ポリオレフィン共重合体(A)が分散した水性分散体(M)のほうが好ましい。
以下、「水性分散体」とは、「水性分散体(N)」、「水性分散体(M)」を総称するものである。
本発明に用いられる水性分散体中のポリオレフィン共重合体の数平均粒子径は1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、90nm以下であることが特に好ましく、80nm以下であることが最も好ましい。数平均粒子径が1000nmを超えた場合は、水性分散体の保存安定性が低下したり、塗布した際の造膜性に劣るため塗膜が不均一となったりする場合がある。なお、数平均粒子径の測定方法は、実施例において詳述する。
さらに、水性分散体中のポリオレフィン共重合体の体積平均粒子径は、水性分散体の保存安定性、水性分散体を塗布した際の造膜性に優れる観点から、1000nm以下であることが好ましく、中でも500nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、90nm以下であることが特に好ましい。なお、体積平均粒子径は、動的光散乱法により測定される。
粒子径の分布度(体積平均粒子径/数平均粒子径)は、水性分散体の保存安定性や水性分散体を塗布した際の濡れ性の観点から、1〜3が好ましく、1〜2.5がより好ましく、1〜2がさらに好ましい。粒子径の分布度が3を超えると、水性分散体の保存安定性が低下する場合がある。一方、粒子径の分布度が1未満であると、水性分散体を塗布した際の濡れ性が低下する場合がある。
本発明に用いられる水性分散体のpHは、特に限定されないが、pH2〜6であることが好ましい。
また、本発明に用いられる水性分散体は、不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有していないことが好ましい。不揮発性水性分散化助剤は、水性分散体から得られる塗膜に残存し、塗膜を可塑化したり親水化したりする。そのため、積層体とした際の樹脂層表面の滑り性や耐溶剤性、ゴム基材への密着性、ゴム基材と他の基材との接着性などを悪化させる。
ここで「不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有しない」とは、不揮発性水性分散化助剤を積極的には系に添加しないことにより、ポリオレフィン共重合体成分100質量部に対して不揮発性水性分散化助剤の含有量が0.1質量部未満であることを言う。好ましくは、不揮発性水性分散化助剤の含有量が0質量部である。また、不揮発性とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で300℃以上の高沸点であることを指す。
本発明において不揮発性水性分散化助剤とは、水性分散化において、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される不揮発性の薬剤や化合物を指す。具体的には、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高アミノ変性化合物、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、カチオン性乳化剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩などの第四級アンモニウム塩類やアルキルアミン塩類などが挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高アミノ変性化合物、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、アミノ変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、アミノ基含有ポリエチレンワックス、アミノ基含有ポリプロピレンワックス、アミノ基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下のアミノ変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
ポリオレフィン共重合体の水性分散体における水性媒体は、上述のように、水、又は水と有機溶媒との混合液を示す。水性媒体としては、ポリオレフィン共重合体の水性分散化において、分散化を促進させる効果を有するため、水と有機溶媒の混合液を用いることが好ましい。
有機溶媒としては、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上であることが好ましく、100g/L以上であることがより好ましく、600g/L以上であることがさらに好ましい。このような有機溶媒を添加することで、不揮発性水性分散化助剤を実質的に添加しなくても、ポリオレフィン共重合体の水性媒体への分散化を促進し、ポリオレフィン共重合体の粒子径を小さくすることができる。
有機溶媒の沸点は30〜250℃であることが好ましい。有機溶媒の沸点が30℃未満の場合は、水性分散化時に揮発する割合が多くなり、分散化の効率が十分に向上しない場合がある。沸点が250℃を超える場合は、水性分散体から得られる塗膜に残留しやすく、得られる樹脂層の耐水性や耐溶剤性が低下する場合がある。
20℃における水に対する溶解性が50g/L以上で、かつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体;さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられる。なお、これら有機溶媒は、単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
上記の中でも、水性分散化の促進効果が高く、しかも後述する方法で水性媒体中から有機溶媒を除去し易いという点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランが特に好ましい。
水性媒体中における有機溶剤の含有量は、50質量%以下が好ましく、1〜40質量%であることがより好ましく、2〜35質量%がさらに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。有機溶剤の含有量が50質量%を超える場合には、水性分散化の促進効果が変らないかもしくは低下する場合がある。
水性分散化の際に添加された上記のような有機溶媒は、水性分散化された後に、水性分散体から除くことができる。例えば、ストリッピングと呼ばれる脱溶剤操作で、その一部を水性分散体から除くことができる。このようなストリッピングによって有機溶媒の含有量は必要に応じて0.1質量%以下まで低減することが可能である。有機溶媒の含有量が0.1質量%以下となっても、水性分散体の性能は影響を受けない。ストリッピングの方法としては、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶媒を留去する方法を挙げることができる。また、水性媒体が留去されることにより、水性分散体中の樹脂固形分濃度が高くなるため、樹脂固形分濃度を後述する好ましい範囲に調整することが可能である。
水性分散体(M)に含まれるポリオレフィン共重合体(A)の固形分濃度もしくは、水性分散体(N)に含まれるポリオレフィン共重合体(B)の固形分濃度は、特に限定されないが、水性分散体を塗布した際の厚みを良好に保持することができる点から、水性分散体の0.5〜60質量%の範囲で用いることができる。
本発明に用いられる水性分散体の粘度は、水性分散体が塗布できるものであれば得に限定されないが、塗布のし易さの観点から、B型粘度計で20℃条件下にて測定した場合には、通常100000mPa・S以下であるものが好ましい。
<水性分散体の製造方法>
次に、本発明に用いられる水性分散体の製造方法について説明する。
水性分散体(M)を得るための製造方法は、ポリオレフィン共重合体(A)と、水性媒体と、酸とを80〜250℃で攪拌するものである。より具体的には、水性分散体(M)を得る際には、密閉可能な容器中で、ポリオレフィン共重合体(A)と水性媒体と、酸とを、80〜250℃で攪拌することにより、前記式(I´)で表される置換基を有するポリオレフィン共重合体(A)を分散化させることができる。
水性分散体(N)を得るための製造方法は、ポリオレフィン共重合体(B)と、水性媒体とを80〜250℃で攪拌するものである。より具体的には、水性分散体(N)を得る際にも、密閉可能な容器中で、ポリオレフィン共重合体(B)と、水性媒体とを80〜250℃で攪拌することにより、ポリオレフィン重合体(B)を分散化することができる。
このような密閉可能な容器としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入されたポリオレフィン共重合体や水性媒体や酸を、適度に攪拌できるものであればよい。そのような装置としては、固/液攪拌装置や乳化機を使用することができ、耐圧性であることがさらに好ましい。
これらの水性分散体の製造方法において、攪拌の方法、攪拌の回転速度は特に限定されない。本発明においては、ポリオレフィン共重合体が水性媒体中で浮遊状態となる程度の低速の攪拌でも、十分に水性化が達成されるため、高速攪拌(例えば、1000rpm以上の攪拌)は必須ではない。このため、簡便な装置でも水性分散体の製造が可能である。
前記のような容器に、ポリオレフィン共重合体(A)と水性媒体と酸を、又はポリオレフィン共重合体(B)と水性媒体とを投入し、次いで、槽内の温度を80〜250℃、好ましくは90〜200℃、さらに好ましくは100〜190℃の温度に保ちつつ、5〜180分間攪拌を続けることによりポリオレフィン共重合体を十分に分散化させることができる。槽内の温度が80℃未満であると、ポリオレフィン共重合体の分散効果が低く、250℃を超えても水性分散化の効果はそれ以上向上しない場合がある。その後、例えば、攪拌下で40℃以下に冷却することにより、水性分散体を得ることができる。
このような方法によれば、不揮発性水性化助剤を実質的に添加しなくとも、ポリオレフィン共重合体を良好に水性分散体とすることができる。
本発明に用いられるポリオレフィン共重合体は、水性分散化がきわめて良好であり、水性媒体中には未分散樹脂がほとんどまたは全く残存することがない。しかしながら、容器内の異物や少量の未分散樹脂を除くために、水性分散体を払い出す際は、濾過工程を設けてもよい。濾過方法は限定されないが、例えば、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(例えば、空気圧0.5MPa)する方法が挙げられる。このような濾過工程を設けることで、異物や未分散樹脂が存在した場合であっても除去することができ、水性分散体を以降の工程で、問題なく使用することができる。
このようなポリオレフィン共重合体の水性分散体は、造膜性(塗膜形成性)に優れており、基材に塗布後、各種乾燥工程に付されることによって、塗膜を形成することができる。すなわち、本発明の樹脂層を形成することができる。
次に、ポリオレフィン共重合体の水性分散体を基材へ塗布する方法について説明する。本発明に用いられるポリオレフィン共重合体の水性分散体は、造膜性に優れており、公知の成膜方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により、ゴム基材や各種基材の表面に均一に塗布することができる。これらの塗布方法は基材の形状や厚みなどによって適宜選択すればよいが、基材の形状が複雑であったりした場合には、スプレーコーティングや浸漬コーティングを採用することが好ましい。
塗布の後には、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥又は乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂層(塗膜)を基材表面に密着させて積層体を形成することができる。加熱処理のための装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間は、被コーティング物である基材の特性や添加剤の種類、配合量等により適宜選択される。経済性を考慮した場合、加熱温度としては、30〜250℃が好ましく、60〜200℃がより好ましく、80〜180℃が特に好ましい。加熱時間としては、経済性の観点から、1秒〜20分が好ましく、5秒〜15分がより好ましく、5秒〜10分が特に好ましい。
また、形成される樹脂層の厚さは、その用途によって適宜選択されるが、特に膜厚にする必要はなく、厚さ0.01〜20μmが好ましく、0.05〜10μmがより好ましく、0.1〜5μmが特に好ましく、0.1〜3μmがさらに好ましく、0.1〜2が最も好ましい。0.01μm未満の場合は薄すぎて本発明の効果が得にくい場合がある。一方、20μmを超えると、樹脂層表面の滑り性の効果がやや悪化する場合がある。
なお、塗膜の厚さを調節するためには、コーティングに用いる装置やその使用条件を適宜選択することや、目的とする塗膜の厚さに適した固形分濃度の水性分散体を使用することが好ましい。このときの濃度は、水性分散体の調製時の仕込み組成により調節することができる。また、得られた水性分散体を適宜希釈、あるいは濃縮して調節してもよい。
本発明の積層体において形成される樹脂層は、上述のような組成に由来して、表面の滑り性に優れている。滑り性の指標となる樹脂層表面の動摩擦係数は0.9以下であることが好ましく、0.7以下がより好ましく、0.5以下が特に好ましく、0.4以下がさらに好ましく、0.3以下が最も好ましい。動摩擦係数が0.9以上であると、得られる積層体同士や、積層体と他の基材とを重ねた際に、滑り性が不足するためまとわり付があり、ロールに巻き取る作業が困難になったり、手袋成形品などでは装着性や物を放したりする作業性が悪化する場合がある。
また樹脂層は耐溶剤性に優れるため、溶剤との接触があっても、樹脂層の溶解や基材からの剥がれが起こりにくく前記滑りの効果が持続される。このような耐溶剤性は、本発明の樹脂層をアセトンなどの溶剤に浸漬し、浸漬後の樹脂層表面の動的摩擦係数を測定することで評価することができる。溶剤浸漬後の動摩擦係数は浸漬前と同様で、0.9以下であることが好ましく、0.7以下がより好ましく、0.5以下が特に好ましく、0.4以下がさらに好ましく、0.3以下が最も好ましい。
<ゴム基材>
本発明に用いられるゴム基材は、一般にゴムと称されるものであり、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM,ANM)、エピクロロヒドリンゴム(CO,ECO)、オレフィン系エラストマー(TPO)、天然ゴムラテックス皮膜、合成ゴムラテックス皮膜などが挙げられる。これらは使用用途によって適宜選択することが可能である。
これらゴムは、加硫されたものであってもよく、水素添加されたものであってもよく、またはカーボンブラック、シリカ、水酸化アルミ等の充填剤や加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤などの添加剤が添加されたものであってもよい。
これらの中でも、ポリオレフィン共重合体との密着性や接着性の観点から、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、オレフィン系エラストマー(TPO)、天然ゴムラテックス皮膜が好ましく、天然ゴム(NR)エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、オレフィン系エラストマー(TPO)、天然ゴムラテックス皮膜がさらに好ましい。
ゴム基材の形状は、特に限定されず、ラテックス浸漬成形品、シート、チューブ、押出し成形品、射出成形品などの形状のものを用いることが可能である。ゴム基材の厚みは、使用する用途によって必要とされる厚みに調整されるものであり、樹脂層の積層が容易な厚みであることが好ましく、具体的には、20μm以上が好ましい。
天然ゴムラテックス皮膜としては、公知のものを用いることが可能である。例えば、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックスや、脱蛋白天然ゴムラテックスを原料とし、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等の加硫配合剤や、感熱化剤、アノード凝着剤、老化防止剤、充填剤、可塑剤、軟化剤、分散剤、補強剤等の公知の添加剤が配合されたものが挙げられる。これら添加剤の添加量は、その製造方法や必要とされる物性などにより適宜調整可能である。
また天然ゴムラテックス皮膜の製造方法としては、加硫系配合剤、感熱化剤、アノード凝着剤等を必要に応じて配合した天然ゴムラテックスに、所定の成形品を得るための型を浸漬し、型の表面に形成された皮膜を、常法に従って乾燥や加硫(架橋)させればよい。
天然ゴムラテックス皮膜の厚みとしては、使用する用途によって必要とされる厚みに調整すればよいが、通常、皮膜の厚みは20〜1000μmであることが好ましく、50〜700μがより好ましい。
<積層体>
次に、本発明の積層体について説明する。本発明の積層体は、ゴム基材に、本発明に用いられるポリオレフィン共重合体を含有する樹脂層が形成されているものである。中でも、ポリオレフィン共重合体の水性分散体をゴム基材に塗布し、乾燥させることにより樹脂層(塗膜)が形成されたものであることが好ましい。
さらに本発明の積層体は、樹脂層が形成されていないゴム基材表面や、樹脂層表面に、その他の基材が積層されてあってもかまわない。その他の基材の種類や形状、厚みは特に限定されない。
また、本発明の積層体は、樹脂層面に各種基材を貼り合わせ、加熱圧着(ヒートシール)する際の、貼り合わせ基材との接着性(ヒートシール性)に優れている。貼り合わせ基材としては、公知の基材を用いることが可能であり、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸などのポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、これらの樹脂の混合物、ゴム、金属、ガラス、木材、紙、合成紙などが挙げられる。これらの中でも、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂基材が接着性に優れ好ましい。またこれらの基材は、フィルム、シート、繊維、不職布など用途によって必要な形態のものを用いることが可能である。
積層体と貼り合わされる基材との接着性は、積層体と基材間を剥離するために必要な強度を、引張試験機などを用いて測定することで測定可能である。剥離強度としては、1.0N/15mm以上が好ましく、2.0N/15mm以上がより好ましく、3.0N/15mm以上がさらに好ましく、4.0N/15mmが特に好ましく、5.0N/15mm以上が最も好ましい。
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
各種の特性について、以下の方法で測定または評価した。
1.ポリオレフィン共重合体の特性
(1)ポリオレフィン共重合体の構成
H−NMR分析機(日本電子社製、「ECA500、500MHz」)を用いて求めた。テトラクロロエタン(d)を溶媒とし、120℃で測定した。
(2)ポリオレフィン共重合体の酸価(不飽和カルボン酸の含有量)
溶媒としてアセトンを用いて、ポリオレフィン共重合体をソックスレイ抽出した後、乾燥した。該ポリオレフィン共重合体0.25gを、30mlのテトラヒドロフラン/トルエン/水の混合溶剤(質量比で20/4.8/0.2)に投入し、完全に溶解するまでホットスターラーで、液温80℃で加熱撹拌した。加熱攪拌の際に発生した蒸気は、ジムロートを介して還流させた。溶解後、液温を60〜70℃まで冷まし、指示薬(KOHで中和したクレゾールレッド0.1質量%水溶液)を1〜2滴滴下した。次いで、液温を60〜70℃に保った状態で撹拌しつつ、0.1モル/LのKOHメタノール溶液を滴下し、ポリオレフィン共重合体溶液の色調が紫色に変色し、且つその色調が20秒間変化しなくなった時点のKOHメタノール溶液の滴定量(mL)から、ポリオレフィン共重合体の酸価(mgKOH/g)を求めた。なお、ポリオレフィン共重合体を添加していない30mlのテトラヒドロフラン/トルエン/水の混合溶剤(質量比で20/4.8/0.2)を用いて、同様の操作をして得た値をブランクとした。測定はn=3で行い、測定値は3回の平均値とした。酸価は以下の式により求めた。
酸価(mgKOH/g)={[滴定量(mL)]−[ブランク滴定量(mL)]}×56.1×0.1×(0.1モル/LのKOHメタノール溶液の補正値)÷[0.25(mg)]
(3)質量平均分子量測定
GPC装置(東ソー社製、「型式HLC−8020GPC」、カラム:TSK−GEL)を用い、40℃で質量平均分子量を測定した。溶離液として、オルトジクロロベンゼンを用いた。TSK標準ポリスチレン換算より求めた。なお、トリクロロベンゼンに溶解せず、質量平均分子量を測定できない場合は、下記(4)のメルトフローレート値を分子量の指標とした。
(4)ポリオレフィン共重合体のメルトフローレート値(MFR)
JIS K7210:1999記載の方法(190℃、20.2N荷重)に従って測定した。
2.水性分散体の特性
(1)水性分散体中のポリオレフィン共重合体の数平均粒子径
水性分散体の数平均粒子径(nm)をマイクロトラック粒度分布計(日機装株式会社製、「UPA150、MODEL No.9340」)を用い、動的光散乱法により求めた。粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
3.積層体の特性
(1)樹脂層の密着性
積層体の樹脂層面に、JIS K 5400に記載されている碁盤目剥離試験の方法に準じ、碁盤目を付けた試験片を作製し、セロハンテープ(ニチバン社製、「TF−12」)を碁盤目上に貼り付けた後、セロハンテープを90°方向に速やかに剥離させ、碁盤目100升中、樹脂層が剥離しなかった升数にて評価した。
(2)樹脂層表面の滑り性(動摩擦係数)
JIS K 7125に準じて、試験片としての積層体を用いた。さらに、該積層体に使用したゴム基材と同一のゴム基材を準備した。試験片としての積層体表面の樹脂層と、新たに準備したゴム基材との間の動摩擦係数を測定した。測定は、表面性試験機(新東科学社製、「HEIDON−14」)を用いて、荷重200g、引張速度100mm/分、24℃温度下の条件で行った。
(3)樹脂層の耐溶剤性
積層体をアセトンに1分間浸漬した後、50℃で1時間乾燥し、得られた積層体を試験片として使用して、上記3.(2)と同様の方法により動摩擦係数を測定した。
(4)接着性
積層体の樹脂層面に、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)(東セロ社製、厚み50μm)またはポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)(ユニチカ社製、厚み50μm)を貼り合せて、ヒートプレス機(プレス圧:0.2MPa、プレス時間:10秒間)にて120℃でプレスしてサンプルを得た。
このようにして得られたサンプルを、15mm幅で切り出し、室温で1日放置した後、引張試験機(インテスコ株式会社製、「インテスコ精密万能材料試験機2020型」)を用い、室温、引張速度200mm/分、T型剥離で剥離強度を測定した。測定はn=5で行い、測定値は5回の平均値とした。
原料に用いた樹脂について、以下に示す。
LX4110:アルケマ社製、「ボンダインLX4110」
HX8290:アルケマ社製、「ボンダインHX8290」
E−A−MAH1:英国特許2091745号明細書、米国特許4617366号明細書および米国特許644044号明細書に記載された方法に従って、エチレン、アクリル酸エチル、および無水マレイン酸を高圧ラジカル重合して製造した。
E−A−MAH2:前記E−A−MAH1と同様の方法で製造した。
E−A−MAH3:前記E−A−MAH1と同様の方法で製造した。
E−A−A:高圧ラジカル重合で得られたエチレン−アクリル酸エチル共重合体を、特開昭60−79008号公報に記載された方法に従って加水分解処理および、熱減成処理して製造した。
UM1001:三洋化成社製、「ユーメックス1001」
原料に用いた樹脂の特性を、表1にまとめて示す。
Figure 2011245771
なお、表1中の略語は、以下のものを示す。
MAH:無水マレイン酸
AA:アクリル酸
EA:エチルアクリレート
<ポリオレフィン共重合体、および水性分散体の製造>
製造例1
温度計、撹拌機、液注器、ジムロートを備えた1リットルのセパラブルフラスコに、無水物含有共重合体(原料樹脂)として「LX4110」を250g、トルエンを500g仕込み、撹拌機を100prmで回転させた状態で、フラスコを170℃のオイルバスに投入した。数分後トルエンの沸騰が確認されたが、発生した蒸気はジムロートを介してフラスコ内に還流させた。さらに数分後、「LX4110」が完全に溶解したのを確認した後、アミノ化合物としてN,N−ジメチルアミノプロピルアミン〔HN−(CH−N(CH〕(以下、DMAPAとする)を、「LX4110」のカルボン酸無水物単位のモル数に対して1.3倍当量モル添加した。添加後のフラスコ内の温度は116℃であり、この状態を保持しイミド化反応を行った。30分後にジムロートの取り付け方向を換えて、さらに徐々に減圧し、フラスコ内のトルエンと未反応アミノ化合物を留去により除去した。フラスコ内からトルエンと未反応アミノ化合物の蒸気が発生しなくなるのを確認して、さらに10分間4kPa(abs)の減圧を保持したところで放圧し、撹拌機を止め、フラスコをオイルバスから取り出し、フラスコ内のポリオレフィン共重合体を得た。ここまでの工程は、ポリオレフィン共重合体の製造である。
以下の工程は、水性分散体の製造である。撹拌機及びヒーターを備えた密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、上記製造工程で得られたポリオレフィン共重合体を140g(20質量%)、酸としてギ酸をポリオレフィン共重合体中の前記式(I)で表される置換基のモル数に対して2.0倍当量モル、水性媒体中の有機溶媒としてn−プロパノールを245g(35質量%)、さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込んだ。次いで、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したまま冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体を得た。得られた水性分散体を、以下<E−1>と称す。
製造例2〜7
無水物含有共重合体(原料樹脂)の種類、アミノ化合物の添加量を、表2のポリオレフィン共重合体の製造に示したように変更した以外は、製造例1のポリオレフィン共重合体の製造と同様の操作を行って、ポリオレフィン共重合体を得た。
次いで、使用するポリオレフィン共重合体を、各製造例で得られたポリオレフィン共重合体に変更した以外は、製造例1の水性分散体の製造と同様の操作をおこなって、水性分散体<E−2>〜<E−7>を得た。
製造例8
温度計、撹拌機、液注器、ジムロートを備えた0.5リットルのセパラブルフラスコに、製造例2で得られたポリオレフィン共重合体を150g、トルエンを100g仕込み、撹拌機を100prmで回転させた状態で、フラスコを150℃のオイルバスに投入した。数分後トルエンの沸騰が確認されたが、発生した蒸気はジムロートを介してフラスコ内に還流させた。さらに数分後、ポリオレフィン共重合体が完全に溶解したのを確認した。次いで、四級化剤として硫酸ジエチル(以下、DESとする)をポリオレフィン共重合体の含有する式(I)で表される置換基のモル数に対して1倍当量モル添加した。添加後のフラスコ内の温度は109℃であり、この状態を保持し四級化反応を行った。30分後にジムロートの取り付け方向を換えて、さらに徐々に減圧し、フラスコ内のトルエンと未反応DESを留去により除去した。フラスコ内から蒸気が発生しなくなるのを確認して、さらに10分間4kPa(abs)の減圧を保持したところで放圧し、撹拌機を止め、フラスコをオイルバスから取り出し、フラスコ内の四級化されたポリオレフィン共重合体を得た。ここまでの工程は、ポリオレフィン共重合体(B)の製造である。
以下の工程は、水性分散体の製造である。撹拌機及びヒーターを備えた、密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、上記ポリオレフィン共重合体(B)の製造で得られたポリオレフィン共重合体を140g(20質量%)、水性媒体中の有機溶媒としてn−プロパノールを175g(25質量%)さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込み、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したまま冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体<E−8>を得た。
製造例9
温度計、撹拌機、ジムロートを備えた1リットルのセパラブルフラスコに、原料樹脂の「E−A−A」を150g、触媒としてパラトルエンスルホン酸を1g、キシレンを400g、さらにアミノ化合物としてDMAPAを、原料樹脂「E−A−A」のアクリル酸のモル数に対して1.2倍当量モル仕込み、撹拌機を100prmで回転させた状態で、フラスコを170℃のオイルバスに投入した。10分後にはフラスコ内の「E−A−A」は完全に溶解しており、フラスコ内の温度は145℃であった。この状態を保持し、17時間後にジムロートの取り付け方向を換えて、さらに徐々に減圧し、フラスコ内のキシレンと未反応アミノ化合物を留去により除去した。フラスコ内からキシレンと未反応アミノ化合物の蒸気が発生しなくなるのを確認して、さらに10分間4kPa(abs)の減圧を保持したところで、放圧し撹拌機を止め、フラスコをオイルバスから取り出し、フラスコ内のポリオレフィン共重合体を得た。ここまでの工程は、ポリオレフィン共重合体の製造である。
以下の工程は、水性分散体の製造である。撹拌機及びヒーターを備えた、密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、上記ポリオレフィン共重合体の製造で得られたポリオレフィン共重合体を140g(20質量%)、酸として塩酸をポリオレフィン共重合体のジメチルアミノプロピルアクリルアミド単位のモル数に対して1.0倍当量モル、さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込み、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したまま冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体<E−9>を得た。
製造例10
特公昭53−6194号公報に記載された方法に従って高圧ラジカル重合してエチレン−ジエチルアミノエチルアクリレート共重合体(以下、E−Aと称す)を製造した。
次に、撹拌機及びヒーターを備えた、密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、上記「E−A」を140g(20質量%)、酸として塩酸を得られた「E−A」のジエチルアミノエチルアクリレート単位のモル数に対して1.0倍当量モル、さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込み、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したまま冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体<E−10>を得た。
製造例11
撹拌機及びヒーターを備えた、密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、樹脂として無水物含有共重合体「HX−8290」を140g(20質量%)、中和剤としてトリエチルアミンを、「HX−8290」の無水マレイン酸単位のモル数に対して2.0倍当量モル、水性媒体中の有機溶媒としてn−プロパノールを140g(20質量%)、さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込み、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したまま冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体<E−11>を得た。
製造例1〜8で得られたポリオレフィン共重合体とそれからなる水性分散体<E−1>〜<E−8>の特性を表2に、製造例9〜11で得られたポリオレフィン共重合体とそれからなる水性分散体<E−9>〜<E−11>の特性を表3に示す。
Figure 2011245771
Figure 2011245771
なお、表2、3中の略語は、以下のものを示す。
DMAPA:ジメチルアミノプロピルアミン
DMAPMI:ジメチルアミノプロピルマレイミド
DMAPAA:ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
DMAEA:ジメチルアミノエチルアクリレート
EA:エチルアクリレート
MAH:無水マレイン酸
実施例1
ゴム基材として、天然ゴムラテックスへの浸漬成形により得られた、天然ゴムラテックスシート(厚み50μm)を用い、このゴム基材に水性分散体<E−1>を、乾燥後の塗膜の厚みが3μmとなるように塗布し、90℃で3分間乾燥させ、ゴム基材上に樹脂層を形成させた積層体を得た。
実施例2〜8
水性分散体の種類、樹脂層の厚みを表4に示したように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って積層体を得た。
実施例9〜31
ゴム基材と、水性分散体の種類、樹脂層の厚みを表4に示したように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って積層体を得た。なお、ゴム基材は厚み1mmの各種ゴムシートを用いた。
比較例1
ゴム基材として、天然ゴムラテックスへの浸漬成形により得られた、天然ゴムラテックスシート(厚み50μm)を用いた。この基材に対して樹脂層を積層せずに評価に付した。
比較例2
ゴム基材として、天然ゴムラテックスへの浸漬成形により得られた、天然ゴムラテックスシート(厚み50μm)を用い、このゴム基材に水性分散体<E−6>を、乾燥後の塗膜の厚みが3μmとなるように塗布し、90℃で3分間乾燥させ、ゴム基材上に樹脂層を形成させた積層体を得た。
比較例3〜5
水性分散体の種類を、表5に示したように変更した以外は比較例2と同様の操作を行って積層体を得た。
比較例6〜25
ゴム基材と、水性分散体の種類を、表5に示したように変更した以外は実施例1と同様の操作を行って積層体を得た。なお、ゴム基材は厚み1mmの各種ゴムシートを用いた。
実施例1〜31で得られた積層体の評価結果を表4に、比較例1〜25で得られた積層体の評価結果を表5に示した。
Figure 2011245771
Figure 2011245771
実施例1〜31の結果より、オレフィン系炭化水素単位と、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1〜10モル%であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が式(I)または(II)で表される置換基であるポリオレフィン共重合体を含有する樹脂層が、ゴム基材に積層された積層体は、樹脂層がゴム基材との密着性に優れ、且つ積層体の樹脂層表面において滑り性、耐溶剤性、接着性に優れることが確認された。
実施例1〜3では天然ゴムラテックス皮膜に対して、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位およびアクリル酸エステル単位の含有量が、より好ましい範囲であったため、樹脂層表面の滑り性、密着性、接着性により優れていた。
実施例8では、樹脂層の厚みを薄くすることで、滑り性がより向上することが確認できた。
実施例9〜31の結果より、各種ゴム基材においても樹脂層がゴム基材との密着性に優れ、樹脂層の滑り性、耐溶剤性、接着性に優れることが確認された。
特に、実施例5、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31では、樹脂層に含有するポリオレフィン共重合体が不飽和カルボン酸を含有していたため、より接着性に優れていた。
それに対して比較例1では樹脂層を設けていなかったので、滑り性や接着性に劣った。比較例2、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24では樹脂層に含有するポリオレフィン共重合体の不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が多すぎたため、評価結果に劣るものであった。
比較例3〜5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25では、樹脂層に含有するポリオレフィン共重合体が本発明に規定する、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位を有していなかったため、評価結果に劣るものであった。

Claims (10)

  1. ゴム基材上に、ポリオレフィン共重合体(A)を含有する樹脂層を有し、ポリオレフィン共重合体(A)はオレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1〜10モル%であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が下記式(I)で表される置換基であることを特徴とする積層体。
    −(CHNR (I)
    (式中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、nは1〜5の整数を示す。)
  2. ゴム基材上に、ポリオレフィン共重合体(B)を含有する樹脂層を有し、ポリオレフィン共重合体(B)はオレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1〜10モル%であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が下記式(II)で表される置換基であることを特徴とする積層体。
    −(CH・X (II)
    (式中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、Rは四級化反応により導入された四級化剤の残基、Xはアニオン性対イオン、nは1〜5の整数を示す。)
  3. 樹脂層に含有されるポリオレフィン共重合体(A)が、不飽和カルボン酸単位を含有し、酸価が0.1〜50mgKOH/gであることを特徴とする請求項1記載の積層体。
  4. 樹脂層に含有されるポリオレフィン共重合体(B)が、不飽和カルボン酸単位を含有し、酸価が0.1〜50mgKOH/gであることを特徴とする請求項2記載の積層体。
  5. 樹脂層の厚みが、0.01〜20μmであることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の積層体。
  6. 樹脂層表面の動摩擦係数が0.9以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の積層体。
  7. ゴム基材を構成するゴムが、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、オレフィン系エラストマー、天然ゴムラテックス皮膜、合成ゴムラテックス皮膜から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の積層体。
  8. 樹脂層が、ポリオレフィン共重合体(A)を水性媒体中に数平均粒子径1000nm以下に分散した水性分散体を、ゴム基材に塗布して得られた塗膜であることを特徴とする請求項1、3、5、6または7いずれかに記載の積層体。
  9. 樹脂層が、ポリオレフィン共重合体(B)を水性媒体中に数平均粒子径1000nm以下に分散した水性分散体を、ゴム基材に塗布して得られた塗膜であることを特徴とする請求項2、4、5、6または7いずれかに記載の積層体。
  10. 請求項1〜9いずれかに記載の積層体を製造するに際し、ポリオレフィン共重合体が水性媒体中に数平均粒子径1000nm以下に分散された水性分散体を、ゴム基材の一部に塗布することで樹脂層を形成させることを特徴とする積層体の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2013124267A (ja) * 2011-12-13 2013-06-24 Seiko Pmc Corp カチオン変性ポリオレフィン水性エマルションおよびその製造方法

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