JP2011241818A - 内燃機関用燃料噴射弁 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐熱性がよく、好適なデポジット付着防止機能を維持することができる内燃機関用燃料噴射弁を提供する。
【解決手段】燃料燃焼の際に発生するデポジットが作用するデポジット作用面の少なくとも一部に酸化マグネシウムが露出しており、且つ、その露出している酸化マグネシウムの表面を{001}面とする。{001}面は、剥離試験の結果を示す図7から分かるように、デポジットが完全に剥離している部分130が多い。このことからデポジットが仮に付着しても剥離しやすいと言えることから、デポジット付着防止機能が高い。また、酸化マグネシウムであることから当然に耐熱性もよい。
【選択図】図7
【解決手段】燃料燃焼の際に発生するデポジットが作用するデポジット作用面の少なくとも一部に酸化マグネシウムが露出しており、且つ、その露出している酸化マグネシウムの表面を{001}面とする。{001}面は、剥離試験の結果を示す図7から分かるように、デポジットが完全に剥離している部分130が多い。このことからデポジットが仮に付着しても剥離しやすいと言えることから、デポジット付着防止機能が高い。また、酸化マグネシウムであることから当然に耐熱性もよい。
【選択図】図7
Description
本発明は、内燃機関燃料噴射弁に関し、特に、燃料燃焼の際に発生するデポジットが付着する事を防止するデポジット付着防止機能を耐久性良く維持する内燃機関用燃料噴射弁に関する。
直噴ガソリンエンジンの燃料噴射弁はエンジン内筒に装着されているため高温度の燃焼ガスにさらされる。この状態では、燃料噴射弁の先端にガソリンの燃焼によって発生するデポジットが堆積しやすい。デポジットが堆積すると、噴霧されるガソリンの噴霧安定性が悪くなりエンジン内筒に設定された噴霧形状が崩れ、燃料の流量低下、及び混合気形成が悪化し燃焼が不安定になる。
デポジットの生成要因は燃焼室で発生したすす、及びガソリンが熱分解して生成したガム状物等の堆積物と考えられている。また、特許文献1の実施例で述べているように、燃料の高留分が燃料噴射弁表面に残留し、その残留物が核となって脱水素反応や重合反応を起こしてデポジットが生成すると考えられており、特に燃料噴射弁の周辺温度が160℃以上の場合に発生しやすいと報告されている。
そのため、デポジットを低減する方法としては特許文献1で述べてあるように噴射弁の先端温度を下げる工夫が数多く試みられている。また、デポジットを洗浄する目的でガソリン中に添加剤を混入する方法や燃料噴射弁の表面粗さを小さくする方法も試みられている(非特許文献1参照)。しかし、いずれも、有効にデポジットを低減することは困難である。また、上記特許文献1では、燃料噴射弁の表面を撥油性にし、デポジットの剥離を容易にし、燃料の流量低下を防止できるといった報告がなされている。この方法は撥油性のフルオロアルキル化合物を燃料噴射弁表面に反応固定し、表面を撥油性にする方法である。しかし、燃料噴射弁の先端部の温度が使用する燃料の90%蒸留温度を超えると、燃料噴射弁にはデポジットの堆積が進行する。そのため、燃料噴射弁の噴口の開口面積が低減し、流量低下が生じてしまう。
前述のように、燃料噴射弁の表面にフルオロアルキル化合物を反応固定し、デポジットの剥離性を向上する方法がある。しかし、この方法は、燃料噴射弁の先端部の温度を上げデポジットの生成量が多くなると効果がなくなってしまう。この理由は、フルオロアルキル化合物の分子鎖長が1nm以下と短いため、5〜12MPaの燃料圧力で燃料噴射弁表面に押し付けられたとき、デポジットが膜厚1nmのフルオロアルキル化合物からなる膜を突き破り、直接表面に接触したデポジットがその表面に固着されてしまうからだと考えられてきた。
これを解決するには、燃料噴射弁の表面を硬い高分子状のフッ素皮膜で覆う、あるいは鎖長が長いフッ素系化合物を用い厚い皮膜を反応固定することが考えられる。このようにすると、燃料であるガソリンで簡単にデポジットを洗浄することができ、デポジットの表面への固着付着を防止することができる。その結果、直噴ガソリンエンジンの燃焼が安定し、信頼性の高い直噴ガソリンエンジンを完成することができる。しかし、これを実現するためには、以下の解決すべき課題がある。
即ち、燃料圧力を5〜12MPa、燃料噴射弁の表面温度150〜200℃の条件で燃料噴射弁の表面に安定して存在が可能で、しかも低表面エネルギーを付与できる材料であることが必要である。安定して存在が可能であるためには、長時間ガソリンの燃焼にさらされるため不燃性であることが必要であり、さらに、酸化安定性,耐熱性及び耐ガソリン安定性が良好であること、および燃料噴射弁の表面への高い接着性も必要である。これら問題を解決することが課題となる。
これに対し、たとえば特許文献2では、ガソリン燃焼の際に発生するデポジットが直噴ガソリンエンジン用燃料噴射弁の表面に付着することを防止し、あるいは付着したデポジットが脱離し易くするために、不燃性のパーフルオロ化合物を用いている。また、このパーフルオロ化合物は、低表面エネルギーを付与するための材料としても最も優れ、また酸化安定性,耐熱性及びガソリン耐久性にも優れていると同文献は記述している。
ただし、これらのパーフルオロ化合物は低表面エネルギーであるため基板との接着性はきわめて悪いという課題があり、この課題を解決するために、特許文献2では、パーフルオロ化合物の末端に基板と反応固定するカップリング剤を結合している。また、パーフルオロポリエーテル化合物とすることにより厚みを作り、さらにこのパーフルオロポリエーテル化合物を基板に強力に接着するため、末端にアルコキシシランを結合させる事で、課題解決を図っている。
自動車技術会:学術講演会前刷り集976(1997−10)
燃料噴射弁のエンジンへの搭載方法や過給吸気の採用により、燃料噴射弁の表面温度は
300℃程度まで高温化するので、その条件で長時間使用すると、パーフルオロ化合物の耐熱温度が不足する可能性がある。そのため、例えばSiO2によって形成されている基板材料の構成原子:Siに対するフッ素原子の比率が低下している可能性があると本発明者は考えた。そこで、GC-MSを用いて高温下で検出できる原子を確認したところ、実際に、300℃程度の高温ではフッ素原子を検出することができた。この実験により、高温下においてフッ素比率の低下を確認した。
300℃程度まで高温化するので、その条件で長時間使用すると、パーフルオロ化合物の耐熱温度が不足する可能性がある。そのため、例えばSiO2によって形成されている基板材料の構成原子:Siに対するフッ素原子の比率が低下している可能性があると本発明者は考えた。そこで、GC-MSを用いて高温下で検出できる原子を確認したところ、実際に、300℃程度の高温ではフッ素原子を検出することができた。この実験により、高温下においてフッ素比率の低下を確認した。
300℃の高温下ともなると、上記フッ素比率の低下は基板との接合だけに特定すべきものではなく、分子自体も分解していることは以下のようにして容易に分かる。
加熱分解ガス分析(トラップGC/MS)を、アルキル基とフルオロアルキル基から構成される分子を基板材料:SiOに接合したサンプルで実施すると、260℃近傍からフッ素含有物質の発生が始まり、多種の物質が温度の変化に伴い変化し発生することが確認できる。このことから、フルオロアルキル基を含む材料自体が300℃の高温に耐えられるわけではなく分解を起こす事が分かる。すなわち、基板とコーティング材の結合に必ずしも問題があるわけではなく、分子内のどこかで結合が途切れ分解している事が上記多種の物質の発生で示唆されており、パーフルオロ化合物の耐久性は十分ではないといえる。
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、耐熱性がよく、好適なデポジット付着防止機能を維持することができる内燃機関用燃料噴射弁を提供することにある。
前記目的のため、本発明者は無機材料に着目した。無機材料であれば、高耐熱性の材料が種々存在するからである。さらに、本発明者は、同じ無機材料でも結晶面により吸着性が異なるのではないかと考えた。
ここで、物質の付着性(吸着性)、すなわち、ある物質が他の物質に付着(吸着)するかどうかを判断する指標として、表面自由エネルギ(表面張力)の差が知られている。表面自由エネルギは、種々の無機材料に対しても文献値が存在する。そのため、文献値から表面自由エネルギの差を算出することができる。
しかし、無機材料では、表面自由エネルギは結晶面別には記載されていない。したがって、文献値から、結晶面別に表面自由エネルギの差を求めることはできない。ここで、結晶面が互いに異なる種々の単結晶を作製して、結晶面別に表面自由エネルギを実験により求めることが考えられ得る。しかし、単結晶の作製には、高度な技術と長い製造時間が必要である。そのため、種々の結晶面の単結晶を作製して、実験により、結晶面別の表面自由エネルギを求めることは困難である。
そこで、本発明者は、量子力学による第一原理計算に着目した。第一原理計算は、実験によるデータを必要とせずに厳密に計算できる手法であり、既知の原子の情報から厳密に原子、分子、結晶を再現することができる。この第一原理計算は、電子レベルまで扱うために計算自体に膨大な時間を費やしてしまう問題があるが、近年、第一原理計算に、密度による汎関数を取り入れて計算を簡素化する計算手法が開発され、さらに、ここ十年前後のパソコンの性能向上もあって、電子レベルまで取り入れる第一原理計算の速度が速くなり、結晶界面における物質の相性(吸着性)を、エネルギという物性値の形や、原子もしくは分子の安定位置が結晶面に接触するか、離れているかという位置関係、分子内の一部の原子が分子から乖離して、結晶面の表面に移動するかどうかなど、さまざまなビジュアル的な形で、1週間から1ヶ月で得ることができるようになった。そこで、第一原理計算を利用して結晶面の吸着性を計算した。
ここで、表面の吸着は、多種多様な要因が絡んでくる場合があり、内部を構成する結晶およびその構成原子、原子配置、さらには表面原子が、表面の吸着に寄与する。そのため、表面を、内部の結晶を構成する原子や、配置、構成とは異なる構成とした場合、大雑把に分けて、内部結晶の構成の寄与が大きい場合と、表面原子が支配的な場合と、双方が同等に寄与する場合の3つの場合が考えられる。
これら3つの場合のうちの一つ、内部結晶の構成の寄与が大きい場合と、表面の構成が内部の結晶と同じ構成の結晶の場合において、表面の吸着性を制御するために、1つは、結晶の界面構造を特定の結晶面で構成することが考えられる。これにより、結晶を構成する原子は同じでも、結晶面という構成を特定することにより、物質の吸着の良否を制御することができる。
さらに1つは、結晶の構成(結晶面)は指定しないものの、内部の結晶を構成する原子と、表面原子を特定し、物質の吸着の良否を制御することが考えられる。また、これ以外に、結晶の構成(結晶面)を指定して、なおかつ表面原子をも指定して、物質の吸着の良否を制御することも考えられる。すなわち、扱う被吸着物質によって、指定する部位、種はさまざまである。
なお、上述において、表面の構成に関して表記した内容は、いずれも所望の材料を形成したときの構成を表しており、大気中で安定、且つ、規則的に何らかのガス、イオンが少量、もしくは一時的に吸着しやすい場合は、これらは上述の判断基準の表面材料とはみなさない。この一例として、大気中でのガスの物理吸着が容易に考えられ、後述する実験例のように超音波洗浄などの後に評価している理由は、このような大気中でのガスの物理吸着の影響を取り除き、物質固有の表面の吸着性を評価するためである。
これらの考えに基づき、第一原理計算によって、結晶面や結晶構造を種々準備して、HC物質の吸着性を計算したところ、被吸着物質側の物質が同じ物質でも、結晶面や結晶構造により吸着性が極端に異なるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づいて成されたものである。
すなわち、前記目的を達成するための請求項1に係る発明は、燃料燃焼の際に発生するデポジットが作用するデポジット作用面の少なくとも一部に、無機物質からなる複数もしくは1つの特定の結晶面が露出しており、かつ、その露出している特定の結晶面は、第一原理計算において、上記特定の結晶面上にHC物質を準備し、安定構造を計算により形成させた時に、上記HC物質内のH原子もしくはC原子が、前記結晶面上から離れて安定化する不活性な面で構成されている事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁である。
第一原理計算によれば、結晶面を実際に作成して行う実験と異なり、種々の結晶面に対するHC物質の吸着性を容易に求めることができる。しかも、後述するように、傾斜角試験、剥離試験の結果から、第一原理計算の結果は信頼できるものである。よって、請求項1のように、無機物質からなり、第一原理計算上でHC物質に対して不活性な結晶面がデポジット作用面の少なくとも一部に露出していると、耐熱性がよく、好適なデポジット付着防止機能を維持することができる。
前記結晶面を形成する材料としては、たとえば、請求項2記載のように、酸化マグネシウムを用いることができ、結晶面は、実質的に{111}面を含まないようにする。
後に詳述するが、第一原理計算による結晶面別の吸着性の計算結果から、酸化マグネシウムは、{111}面が最も剥離性能が悪いことが分かったからである。従って、結晶面が実質的に{111}面を含まないようにすれば、その結晶面は、{111}面よりは剥離性能の良い面であるといえる。そのため、良好な剥離特性が得られることになる。なお、請求項2における「実質的に」の意味は、後述する請求項4と同じである。
また、酸化マグネシウムであるので、当然に、耐熱性も良好である。耐熱性の良さに関しては、融点(2852℃)が非常に高く、岩塩型の構造が広い温度範囲で安定である事などから容易に分かる。
ここで耐熱性のために重要な事は、結晶構造が何かではなく、ある程度以上の広い温度範囲で、一つの結晶構造が安定である事である。
これを簡易的に調べる方法として、例えば酸化マグネシウムの場合、酸化マグネシウムと何か他の物質との相平衡図(状態図)を使用し、酸化マグネシウム:100%の位置で結晶構造の変化があるかどうかをみればよい。調べる領域は、使用する温度範囲で相変態がなければよい(一つの結晶構造が安定)。以上が狭義の耐熱性の良い事の判定基準である。
次に、広義的な耐熱性の良さについて説明する。酸化マグネシウムは600℃程度の低温で焼結した場合、水と反応して水酸化マグネシウムを生じたりするが、1000℃以上の高温で加熱されたものは、より密度が高く安定となる。すなわち形成する時の工程により安定性が異なるため、相変態の起こりにくい安定状態が形成できていれば、上記相平衡図による判断では、一つの結晶構造が安定ではなくても問題ない。
また、二次相転移のような析出、潜熱の発生を伴わない相変態で、なおかつ相転移前後の2つの相においてデポジットの良好な剥離特性をもっていれば、上記相転移が使用温度範囲内にあってもよい。
上述の意味は、第三の物質が析出すればデポジットが吸着する可能性がある事、潜熱の発生がデポジットの吸着や界面反応を促進することが懸念される事、また、二次相転移以外すなわち一次相転移では、相転移温度前後において、急激な体積収縮を伴うために、構造が壊れる、もしくは構造の強度が弱くなる事が予想されるので、これらを除外し、なおかつ、使用温度範囲内においてデポジットの吸着を促進する結晶面を形成しなければ、本案に適した材料として採用できるという事を意味する。
なお、中カッコ「{ }」は、結晶学的に等価な面をまとめて示す記号であり、たとえば、面心立方構造の酸化マグネシウムにおいて、{100}面には、(100)面、(010)面、(001)面などが含まれる。また、当然のことではあるが、(200)、(0.500)のように距離に依存して数値を変えた表記も、結晶における方向性は変わらないので、上記中カッコによる表記に含まれることとする。
また、デポジット作用面とは、燃料燃焼によって生じたデポジットが作用する面であり、たとえば、インジェクタの噴口を形成する内壁面、その内壁に連続するノズル先端面、噴口内部のサックの表面、ニードル(特にその先端部分)の表面などがデポジット作用面である。
また、デポジット作用面であるかどうかは別として、上記コーティング材料:酸化マグネシウムは、燃料の存在する空間の壁面にコートされていてもよい。上述の燃料の存在する空間の壁面とは、シートに連なる面及び、ニードル先端に連続する上方の側面である。例として、後述の図12で説明すると、燃料の存在する空間16の壁面であり、ノズルボディー15の内面とニードル14の側面である。
また、請求項3のように、結晶面を形成する材料は酸化マグネシウムであり、その結晶面の少なくとも一部は{100}面であることが好ましい。
後に詳述するように、本発明者は、第一原理計算による結晶面別の吸着性の計算結果から、酸化マグネシウムは、{100}面が最も剥離性能が高いことが分かった。そのため、この請求項3のように、結晶面の少なくとも一部が{100}面であると、良好な剥離特性が得られることになる。また、請求項4のように、結晶面は、実質的に{100}面のみであることがより好ましい。
上述の実質的とは、{100}面だけが望ましいが、製法上100%要望どおりのものができるわけではないので、例えば{100 1 1}面のように、一部又は全体に、方向性に微小なずれがあっても問題ないための表記である。
区切りの判断方法は、面の{hkl}表記に基づいて原子を並べた時の、表面の原子配列に大差がなければよい。例えば、100原子中、数原子の配列が異なっても、面の活性/不活性に大差はない。また、仮に一部活性面が形成されていたとしても、不活性面と活性面とにまたがる部分に対するデポジットの反応は、活性面だけに反応する場合よりも起こりにくい。そのため、一部に活性面が形成されていても、周囲の不活性面の存在により、その活性面への反応は起こりにくい。さらに、仮に一部に形成された活性面にデポジットが反応したとしても、活性面と反応したデポジットは、周囲が反応/吸着せず露出しているので剥離しやすく、結果的に、一部に形成された活性面にはデポジットの付着は生じにくい。
また、微小にずれた方向性を持つ材料の反応性の判断が難しい時には、上述のずれた方向性を持つ材料の界面モデルを形成し、その上にHC分子を配置して準備したモデルで、構造を最適化(安定化)する計算を実施し、後述の実施例と同様に、HC内の原子の一部が、元の分子から離れ界面の原子に近いところまで移動し接触した状態で安定となるような界面を形成していなければよい。
また、後に詳述するが、酸化マグネシウムの{110}面のデポジット剥離特性は、{111}面ほどには悪くないが、{100}面より悪いことも分かった。そこで、請求項5のように、結晶面は、{111}面に加えて、{110}面も含まないこととしてもよい。
このようにすれば、剥離特性の悪い2種類の面({111}面および{110}面)を含んでいないことから、一層良好な剥離特性を有することになる。
また、前述の目的を達成するための請求項6記載の発明は、燃料燃焼の際に発生するデポジットが作用するデポジット作用面の少なくとも一部に露出している複数もしくは1つの特定の結晶面が、結晶構成原子のみでは余分な結合手が生じてしまう原子によって構成される結晶による結晶面であって、この結晶構成原子の表面において前記余分な結合手に安定化原子が結合していることで表面が安定化している安定化結晶面であり、かつその露出している上記安定化結晶面は、
第一原理計算において、上記安定化結晶面上にHC分子を準備し、安定構造を計算により形成させた時に、上記HC分子内のH原子もしくはC原子が、準備された時の分子から位置を離し上記安定化結晶面上により近くなるまで移動して安定化する事が起きない、不活性な面で構成されており、前記結晶構成原子によって形成される結晶は、
共有結合性結晶であって、結晶構成原子だけのモデルにおいて、原子を移動せず、且つ、各原子の結合手を0.5Å以上近隣の同原子種の結合よりも長くしない場合には3価〜5価のイオンとなる原子を含んで構成されており、
表面を安定化させるための前記安定化原子からなる成分を含む特定の雰囲気下で、上記結晶構成原子からなる安定化前の結晶の結晶面を削り、上記安定化原子からなる成分を含む特定の雰囲気条件下にさらして前記安定化結晶面を形成した事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁である。
第一原理計算において、上記安定化結晶面上にHC分子を準備し、安定構造を計算により形成させた時に、上記HC分子内のH原子もしくはC原子が、準備された時の分子から位置を離し上記安定化結晶面上により近くなるまで移動して安定化する事が起きない、不活性な面で構成されており、前記結晶構成原子によって形成される結晶は、
共有結合性結晶であって、結晶構成原子だけのモデルにおいて、原子を移動せず、且つ、各原子の結合手を0.5Å以上近隣の同原子種の結合よりも長くしない場合には3価〜5価のイオンとなる原子を含んで構成されており、
表面を安定化させるための前記安定化原子からなる成分を含む特定の雰囲気下で、上記結晶構成原子からなる安定化前の結晶の結晶面を削り、上記安定化原子からなる成分を含む特定の雰囲気条件下にさらして前記安定化結晶面を形成した事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁である。
すなわち、上記共有結合性結晶は、結晶内部の原子構成、配置では表面は安定化されず、製法および形成するときの環境により表面状態はまちまちで、活性度にも違いが現れる。
上記活性度の違いをなくし、所望の不活性な面を形成するために、安定化前の結晶の結晶面を削ることで、結晶内部の原子構成、配置の結晶面を切り出し、その時もしくは切り出した直後に、表面を安定化させるための安定化原子を結合させる目的で、その安定化原子からなる成分を含む特定の雰囲気条件下で結晶面を削り、上記安定化原子からなる成分を含む特定の雰囲気条件下にさらして、新たな安定化結晶面を形成する。
上述の結晶面を削る時の雰囲気と、表面を安定化させるために、削った表面をさらす雰囲気は同じであっても異なっても、目的に合っていればよい。また、デポジット作用面には、請求項1〜5に記載した不活性な結晶面だけ使用してもよく、上記の安定化結晶面だけ使用してもよく、さらには上記不活性な結晶面と上記安定化結晶面を併用してもよい。
また、ここで言う共有結合性とは、共有結合をしている場合に限定するわけではなく、共有結合をしやすい原子により構成されていることを意味する。
また、ここでの「原子を移動せず、且つ、各原子の結合手を0.5Å以上近隣の同原子種よりも長くしない」とは、これに続く「3価〜5価のイオンとなる」か否かを判断する上での架空の状態による簡易的方法である。実際には、表面の原子は移動して、結晶面構成内の原子同士もしくは界面に存在する原子、分子/もしくはその一部と結合して安定化する。そのときに、原子のイオン半径が数Åであること、分子内の位置による違いだけでの結合距離の違いが0.1ないし0.2Å程度である事から、0.5Åも離れていれば、結合する可能性はきわめて低いという、あくまでも暫定的な数値を使用した簡易的表記である。
厳密には、たとえば余った結合手同士を結合させたモデルで安定状態を第一原理計算で求め、同種の原子同士の結合距離と同等の結合距離かどうかを確認する方法がある。
共有結合性結晶も、前述の広義の耐熱性の条件を満たすことから、この請求項6のようにしても、耐熱性がよく、好適なデポジット付着防止機能を維持することができる。
請求項6の安定化結晶面は、例えば、請求項7のように、SiCの表面上に安定化原子を配置して構成したものである。
また、安定化原子としては、請求項8のように、窒素原子ではないことが好ましく、また、請求項9のように、水素原子だけもしくは酸素原子だけであるか、あるいは水素原子と酸素原子の双方で構成されていることが好ましい。
また、請求項10のように、前記無機物質を基材とし、該基材にフッ素化合物が結合されていてもよい。このようにすれば、無機物質とフッ素化合物という2種類の材料がデポジット付着防止材料として用いられることになることから、特に高いデポジット付着防止効果が期待できる。また、同じ程度の付着防止機能を発揮する場合には、従来よりもフッ素化合物の使用量を少なくすることができる。
また、請求項11のように、結晶面の少なくとも一部は、他のデポジット作用面に対して凸形状となっていることも好ましい。
このようにすれば、結晶面は全体としては、凹凸形状となる。このように、結晶面が凹凸形状となっていると、その凹凸形状によってもデポジットの付着が抑制できる。すなわち、凹凸形状という形状による機能と無機物質という材料による機能とにより、デポジット付着が防止できるので、高いデポジット付着防止効果を得ることができる。
また、デポジットを防止する目的を達成するための請求項12に係る発明は、燃料燃焼の際に発生するデポジットが作用するデポジット作用面の少なくとも一部に、無機物質からなる複数もしくは1つの特定の結晶面が露出しており、かつその露出している特定の結晶面は、第一原理計算において、上記特定の結晶面上にHC物質を準備し、安定構造を計算により形成させた時に、上記HC物質もしくはその内のH原子もしくはC原子が、前記結晶面上の構成原子と反応し、かつ反応後に上記結晶面から離れて安定化するという不活性前駆体結晶面で構成されている事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁である。
前述のとおり第一原理計算によれば、結晶面を実際に作成して行う実験と異なり、種々の結晶面に対するHC物質の吸着性を容易に求めることができる。そのため、上記HC物質もしくはその中のH原子、C原子が、上記結晶面と全く作用しないのか、あるいは、一時的に結晶面上の原子と反応するものの、その後解離して安定化するのかも判断可能である。一時的に結晶面上の原子と反応しても、その後解離して安定化すれば、デポジットの形成には至らない。すなわちデポジット防止効果を発揮する。これは計算だからこそ解る効果である。
結晶面上の原子と流れてくるガスや液体とが反応を起こすと、コーティング材料の構成原子、排出物あるいは噴出物の構成物質に変化が起こる事は、実際の物質を解析することでも容易に分かる。しかし、現在の解析技術のレベルの観察では、上記変化が、コーティング材料の結晶系まで破壊し、耐久性に影響を及ぼす変化の初期段階を意味するのか、表面上の原子だけが反応し、構造の安定性には影響しない変化であるのかまでは判断できない。
一方、第一原理計算では、同じ結晶材料でも最表面の露出原子を変えた場合のガスや液体との反応性を計算し安定構造を求めることで、上記判断が可能である。HC物質もしくはその内のH原子もしくはC原子が、結晶面上の構成原子と反応したとしても、反応後に結晶面から離れて安定化することが分かれば、コーティング材料全体の安定性、すなわち耐久性にまでは影響しないと判断できる。これは計算だからこそできる、計算特有の解析技術である。
請求項13のように、不活性前駆体結晶面として、CaF2{111}面、SrF2{001}面、SrF2{111}面のいずれか少なくとも1種を実質的に含ませることができる。もちろん、これらのうち、1種のみでもよいし、任意の2種でもよい。また、これら3種を併用してもよい。
Ca、Srは価数が2価のイオン価以外、価数の変化がなく安定的である。すなわち外部環境、雰囲気が変化しても、価数の変化を伴う変態/転移は起こりにくいため結晶構造の変化も起こりにくく、使用条件もしくは、使用条件よりもさらに過酷な条件下の耐久性にも優れた材料である。結果、想定外の変化が外部環境で仮に起こったとしても優れた機能を有する。
さらに、これらはいずれも、使用中に温度変化しても結晶構造が壊れないF含有化合物である。使用中に温度変化しても結晶構造が壊れないF含有化合物とは、以下に詳述する意味をもつ。
インジェクタの形状によっても異なるが、例えば、直噴インジェクタの先端のSUS材料の、予め設置した熱電対による測定温度が120℃のときに、コーティング材料が200℃もしくはそれ以下の耐熱温度の材料であると、融解あるいは分解してしまう。上記温度はインジェクタ使用時に概ね晒される温度なので、室温から上記温度条件、すなわち、200℃ないし250℃までの温度範囲では、当該コーティング材料は相転移を起こす材料であってはならない。
また、上記インジェクタの先端のSUS材料の測定温度が一時的にでも160℃にもなる場合、コーティング材料の部位の分解開始温度が280℃では、コーティング材料の全部もしくは一部構造が壊れてしまう。よって、コーティング材料は、300℃〜350℃で耐え得る材料でなければ構造を維持できない。
ここで注意を要するのは、上述のコーティング材料の溶融、破壊に関する記載は有機材料による経験的知見であることから、有機材料の分解に関する記載である。有機材料の分解温度は、例えば熱分析(DSC:示差走査型熱量計、DTA:示差熱分析)により測定したデータの発熱/吸熱開始温度を示す場合が多く、長時間その温度に維持した場合には全体が分解する事が多い。なぜなら、有機物質の分解温度は、原子-原子間の結合力によって定まるものであり、特別に分子-分子間に引力ないし斥力が働いたり架橋を形成したりしなければ、耐えうる温度は変化するわけではない。
これを無機材料に置き換えると、融点に一律置き換えられるわけではない。融点を越えても瞬間的であれば構造を維持する事がある。融点を越えても、結晶構造が安定的で、一時的に耐えることができれば問題ない。
次に結晶面の限定についてであるが、請求項13における実質的にとは、原子配列が同等であれば、方向が多少ずれていてもよい事を意味する。製法上100%要望どおりのものができるわけではないので、例えば{100 101 99}面は実質的に{111}面であるなど、一部又は全体に、方向性に微小なずれがあっても問題ないための表記である。
一方、請求項14では、結晶面は、実質的に、不活性前駆体結晶面のみで構成されるとしている。請求項14における「実質的に」とは、極少ない割合であれば、不活性前駆体結晶面以外の結晶面を、特定の結晶面として含んでいてもよいことを意味する。
上述の結晶面を限定する方法以外に、極一部の特別な無機物質については、結晶面を限定しなくても、デポジットを防止する効果が得られる(請求項15)。この特別な無機物質とは、第一原理計算において、上記特別な無機物質の結晶面上にHC物質を準備し、安定構造を計算により形成させた時に、上記HC物質内のH原子もしくはC原子が、前記結晶面上から離れて安定化する不活性な面を、{001}面、{110}面、{111}面の3種の面全てに有する材料である。
直交座標におけるベクトルの方向性では(001)、(110)、(111)が代表的である。ここで言う代表的なベクトルとは、x、y、z軸方向の対称性から等価とみなせるベクトルは全て一つに帰着すると考えて判断する。すなわち、(001)、(00 -1)、(010)、(0 -10)、(001)、(00 -1)はいずれも等価とみなす。その結果、結晶の代表的な面として、{001}面、{110}面、{111}面を考えるのも一つの方法である。
上記代表的な3つの結晶面において、上記HC物質内のH原子もしくはC原子が、前記結晶面上から離れて安定化すると、多結晶においてもデポジットもしくはデポジットの前駆体の結晶表面への吸着/付着は抑制される事が期待できる。
上記特別な無機物質としては、詳細は後に計算結果を用いて説明するが、請求項16記載のように、フルオロアパタイト、1族金属のフッ化物、フッ素を少なくとも表面にもつ不活性貴金属(たとえばフッ化金)、SrF2の少なくともいずれかを用いることができる。これらは、面に無関係にMgO{001}面の代わりとして使用できる。
また、同じ材料CaF2の中でも、{110}面は、MgO{001}面と同様に、HC物質が結晶面上から離れて安定化する事により、デポジット形成を抑制する。また、MgF2の{111}面および{001}面も、MgO{001}面と同様に、HC物質が結晶面上から離れて安定化する事により、デポジット形成を抑制する。よって、CaF2{110}面は、MgO{001}面の代わりに不活性な面として使用できる。また、MgF2{111}面および{001}面のいずれかもしくは双方をMgO{001}面の代わりに不活性な面として使用することもできる(請求項17)。
なお、MgOで{110}面は、上記CaF2{110}面と同様にHC物質が結晶面上から離れて安定化する。それにも関わらず、請求項5に係る発明において、より剥離性のよいコーティング材料とするためには、MgO{110}面は含まないことが好ましいと述べた。上記のように、HC物質が結晶面上から離れて安定化するかどうか、すなわち、剥離性のよいコーティング材料としての結晶面の良否は、後述の吸着エネルギーの違いで判断できる。
さらに、以上のように結晶面を限定したり、あるいは、材料を限定するだけでなく、請求項18のように、HC物質の反応性の違いを利用して 2種もしくはそれ以上の構成による、さらなる効果を狙う事も可能である。
すなわち、請求項18では、HC含有物質もしくはその改質物が流れ、それらの燃焼により発生するデポジットが作用するデポジット作用面の一部に、請求項12または請求項13に記載の不活性前駆体結晶面を配備し、かつ、デポジット作用面のうち、前記不活性前駆体結晶面よりも、HC含有物質もしくはその改質物の流れにおける下流側にあたるデポジット作用面に、請求項1〜請求項5、17のいずれか1項に記載の不活性な面、請求項6〜請求項11に記載の安定化結晶面、請求項15または16に記載の特別な無機物質の結晶面、の少なくとも1種を配備する。
上流側に配置する上記不活性前駆体結晶面では、デポジットは、表面上で反応しないか、もしくは表面上で反応しても解離する。反応しない場合とは、既に、デポジットと反応して不活性前駆体結晶面から不活性な結晶面へと変化している場合や反応しない構成原子が最表面となった不活性な結晶面を元々構成している場合である。一方、後者の場合、すなわち、デポジットが反応して解離する場合には、その結果として、一部の不飽和HC物質は不飽和結合部が減少することになり、ガス全体としては、不飽和結合HC物質に対する飽和結合HC物質の割合が多くなる。あるいは、上記不飽和HC物質の割合が減少しないとしても、少なくとも、結合部全体では不飽和結合部の割合が減少する。
不飽和HC物質よりも飽和HC物質の方が、上記不活性結晶面上での吸着エネルギーが高く、表面上への吸着は起こりにくい。よって、上記飽和結合の物質もしくは飽和した結合部の割合が多くなったガス/物質が下流側に流れると、デポジットの発生を抑制することができる。
なお、上述の改質物とは、流れてきたガス成分の中で、上流側に配置した不活性前駆体結晶面との反応により変化した物質のことを意味する。例えば、上流側でF含有物質のF原子とHC物質が反応した場合、F含有HC物質が改質物である。また上述のような上流側と下流側からなる構成は、全体を形成している必要はなく、デポジット作用面の一部でもよく、また、上流側と下流側からなる構成を、複数箇所に形成していてもよい。
また、デポジット作用面に配置した結晶面が不活性前駆体結晶面から構成されていたとしても、HC物質への作用が常に生じる必要はなく、HC物質が反応せずに流れても何ら問題ない。
上記不活性前駆体結晶面を不飽和結合をもつガスの雰囲気にさらせば、前記不飽和結合をもつガスと上記不活性前駆体結晶面とが反応するが、反応することができる状態が無限に継続する訳ではない。反応の結果、上記不活性前駆体結晶面は、不飽和結合をもつガスとは反応しなくなる。しかしながら、反応後は、不活性前駆体結晶面は、不活性な結晶面、すなわち、HC物質内のH原子もしくはC原子が吸着することなく結晶面上から離れて安定化する不活性な結晶面に変わる。特定の結晶面には、このようにして不活性化した結晶面を含んでいてもよい(請求項19)。
なお、上記不活性な面への変化は配備後に起こってもかまわないし、事前に不飽和結合をもつガスの雰囲気下にさらす事により不活性な面へ変化させておいてもよい。事前に変化させておけば、デポジット防止効果は薄れるものの、排出するガスが統一されるため、F含有ガスを回収すべき環境、規制下では、事前に不活性な面に変化させておく方法も一つの環境規制への対応策である。
<第一原理計算による計算手法>
まず、第一原理計算による計算手法について説明する。後に示す複数の計算結果は、いずれも、次に示す計算方法で計算した。
まず、第一原理計算による計算手法について説明する。後に示す複数の計算結果は、いずれも、次に示す計算方法で計算した。
第一原理計算には、アクセルリス(株)において販売されているマテリアルスタジオという計算ソフトを使用し、ビジュアライザーの中で可視的に原子を配置したり、結合を与えたりしてモデリングを行う。周期境界条件をつけるかどうかもここで決めることができ、周期境界条件により理論上無限につながった結晶を、指定の位置と方向で切り取ることで、上記無限につながった場合の結晶のときの原子配置のまま結晶界面を形成できる。
ここで注意すべき事は、上述のようにして形成した結晶界面は、切り取った状態における安定状態ではなく、あくまでも無限につながった結晶構造で安定であった原子/電子配置であることである。原子配置と結合を人為的に作成するだけでは、無限につながる結晶構造も安定状態ではない。界面構造を切り出す前に、上記マテリアルスタジオの中の、Castepという計算方法で、上記結晶構造の安定状態を計算して求める事もできる。後に本件で使用するDMol3との違いは、モデルの周期性から判断して、周期性の良いバルクの結晶の計算に適した逆空間での計算をする方法がCastepであり、実空間での計算をする方法がDMol3である。どちらも密度汎関数法による量子力学計算である。
結晶構造が全く分からない場合の方法を、最終手段として上記に簡単に述べたが、本件では、後に界面構造において安定状態を計算する。従って、界面構造を切り出す前の構造である無限の結晶構造では概ね原子の配列が分かればよく、Castepで結晶構造での厳密な安定構造の計算は必ずしも必要ない。例えばCaF2は、蛍石として知られており、化学大辞典;共立出版(株)により結晶構造の種類と格子定数が分かるので、これに基づいて原子を配置して、結晶構造を形成すればよい。また、計算ソフト内の代表的なモデルで、同様な結晶構造を有する材料の原子を置換して結晶構造を形成してもよい。
上述のようにして得た結晶構造から単結晶の方向を指示して結晶界面を切り出す。この無限の結晶構造で安定であった原子/電子配置のまま切り出した界面構造において、残っている結合部に自動的にHを与えることができ、また、Hが付くかどうかで、切り出しにより途切れた結合手があるかどうかが判定できる。
ここでも、Hが付くかどうかに関係なく、この時点では、あくまでも無限の結晶構造でのおおよその安定構造/もしくは無限の結晶構造でのおおよその安定構造にHを付与しただけであり、その後構造最適化計算に移行したり、表面の原子の置換をしたりした後に構造最適化計算をすることで、界面をもつ結晶構造の安定構造、安定配置を得る。
例を挙げて述べると、蛍石の結晶モデルから界面構造を切り出して、上記マテリアルスタジオの中のDMol3という計算方法での構造最適化計算に移行したのが、例えばCaF2であり、その中のCaをSr、Baに置換したのがSrF2、BaF2であり、SrF2、BaF2は置換後にさらに構造最適化計算をして、界面をもつ結晶構造の安定構造、安定配置を得る。
上述のように安定構造を求める方法を多岐にわたって述べたが、どの方法を使用しても、界面をもつ結晶構造の安定構造、安定状態としては、一義的に同一な構造に辿り着く。
ただし、原子の置換を伴うときは、置換する前後の原子のイオン半径の違いが極端に大きい場合、イオン半径に応じてモデルの格子定数の初期設定を変更する必要がある。
後に構造最適化計算をするモデルの初期状態なので、厳密に格子定数を設定する必要はなく、ビジュアル的に観て、原子の移動が容易になってしまうような大きな隙間が隣接原子間でできないようにする程度の設定でよい。
後に構造最適化計算をするモデルの初期状態なので、厳密に格子定数を設定する必要はなく、ビジュアル的に観て、原子の移動が容易になってしまうような大きな隙間が隣接原子間でできないようにする程度の設定でよい。
上述の途切れた結合手が残っていない場合は、上記マテリアルスタジオの中のDMol3という計算方法での計算に移行し、後に詳述する構造最適化計算をすることで、最安定な界面の構造を計算により求める。切り出しにより途切れた結合手が残っていなかった場合の多くや安定構造をバルクの結晶構造で求めた場合には、ここでは原子の移動は目視では変化が分からないほど微小な変化に止まる。
ただし、界面モデルの厚みについては、実在する物質よりも仮想的に薄くしてあるため、モデルの厚さ次第では原子同士が離れたり、移動したりして安定化する場合がある。このような場合は、モデルの厚さに問題があるため原子層を増加させて再度モデルを設計し直す。
ただし、界面モデルの厚みについては、実在する物質よりも仮想的に薄くしてあるため、モデルの厚さ次第では原子同士が離れたり、移動したりして安定化する場合がある。このような場合は、モデルの厚さに問題があるため原子層を増加させて再度モデルを設計し直す。
上述の流れにより求めた、最低限必要な原子層の数もしくはそれ以上の原子層の数のモデルを以下では使用している。例えば、後に使用する図1において、MgOの(001)面では、原子層の数で3層、MgOの(110)面では、原子層の数で5層、MgOの(111)面では、原子層の数で8層のモデルを使用している。なお、層の数が違うのは、上述の結晶構造の安定性維持のためと、安定性を維持したモデルの中でさらに層の数を増加させ、後に詳述する吸着エネルギーに大差がない層数の領域のモデルを使用しているためである。
次に、上述の切り出し後、残っている結合部にHが出た場合、すなわち結合部が残っていた場合、この時点で、Hの付いた原子、すなわち結合手が残っていた原子同士を指定して、その結合距離を表示させることができる。そのときの結合距離を目安に、残った結合手同士結合させたり、結合させずに、上述のままH原子を結合させたり、また、O原子やN原子他各種原子に置換して結合させたり、イオンとして扱うなど各種のパターンを形成することができる。
なお、ここで言う結合、置換、イオン化とは、あくまでも初期条件の設定ができるという意味であり、その後に構造最適化計算をさせる事により、上記初期条件の結合、置換、イオン化が実在できるかどうかを計算上、試験することができる。
すなわち、結合、置換、イオン化、いずれも実現不可能であれば、上記構造最適化計算が収束しなかったり、不適切な原子が離れて行ったり、ときには結晶構造が部分的に壊されたりとさまざまな形で、計算上到達する構造や計算の収束性に異変が生ずる。
構造最適化計算終了後の結合は、初期条件で結合していた部分が結合手としてビジュアル上残るため、結合距離が長く離されて安定化した場合は、結合しているかどうか判断する必要がある。
そのときの目安としては、同じ原子同士の他の結合との比較により判定すればよい。例えば、有機材料のFAS分子{CF3-(CF2)n-CH2-CH3}の分子内のC−C結合距離は、ばらつきはあるものの、±0.1Åに収まっていた事から(特開2011−021100号公報参照)、0.3ないし0.5Å以上離れて安定化したものは結合していない可能性が極めて高い。
次に、前に記載したDMol3の計算について説明する。この DMol3という計算方法は、前述のとおり量子力学の計算を密度汎関数法により簡略化した計算手法のうち、実空間を使った計算方法である。DMol3の中の計算手法には、構造最適化計算(Geometrical Optimization)とエネルギー計算があり、後者は与えたモデルで原子に関わる状態を固定して、その系でのエネルギーを計算するだけの手法であり、類似の計算ソフト、手法ではSingle point energyと呼ぶ場合もある。前者の構造最適化計算については、計算がやや煩雑であり、まずは上記エネルギー計算をし、そのとき同時に求まる電子状態から安定な移動方向に原子、電子を微小に変化させて再度エネルギー計算、そしてまた原子、電子の移動、と繰り返し計算をする事で安定状態を形成しながら、その安定状態でのエネルギーを求める手法である。今回は、この構造最適化計算を行っている。
なお、上記計算項目における設定項目:Functionalにおいては、一般勾配近似:GGAのPBEを使用した。またCoreについては、荷電子帯の全電子(All electron)について計算するのではなく、DFTsemi-core pseudopotentialを使用した。
以下の説明において使用する吸着エネルギーは、上記構造最適化計算のエネルギーを使用して以下の手順で求めた。計算評価する物質の特定結晶面の界面構造モデルの構造最適化計算を実施し、前に述べた構造の安定性の確認とそのエネルギー:V1を求め、それとは別に、各吸着物質(H2O、C3H6、C16H34)を単独で構造最適化計算してそのエネルギー:V2を求める。
次に、上記構造最適化計算後の界面構造モデル上に、上記吸着物質の構造最適化計算後のモデルを配置し、再度構造最適化計算をかける。(エネルギー:V1+2)
以上の手順により、以下各図に示す吸着状態を求め、下記式により吸着エネルギーを求めた。
以上の手順により、以下各図に示す吸着状態を求め、下記式により吸着エネルギーを求めた。
吸着エネルギー=V1+2−V1−V2
すなわち、吸着エネルギーに、各モデル内の構造の要素は入っていない。
すなわち、吸着エネルギーに、各モデル内の構造の要素は入っていない。
<第一原理計算による吸着性の違い>
(1)水の吸着性の違い
次に、酸化マグネシウムの3つの面(001)面、(110)面、(111)面に対するH2Oの吸着性を、第一原理計算によってそれぞれ計算した結果を示す。
(1)水の吸着性の違い
次に、酸化マグネシウムの3つの面(001)面、(110)面、(111)面に対するH2Oの吸着性を、第一原理計算によってそれぞれ計算した結果を示す。
なお、無機物として酸化マグネシウムを選択した理由は、高融点(高耐熱性)で、構造相転移を低温で起こさない材料であるからである。この条件に適合する材料を相平衡図(状態図)の文献を用いて探し、酸化マグネシウムを選択した。
図1に、酸化マグネシウムの3つの面(001)面、(110)面、(111)面に対するH2Oの吸着性を、第一原理計算によってそれぞれ計算した結果を示す。なお、この計算結果は、H2OをMgOの各表面に配置し、その後、上述の構造最適化計算を行った結果である。また、図において、原子を囲む線(図全体を取り囲む線は除く)は周期境界条件を表している(以降の図においても同様である)。
図1(c)に示すように、(111)面の場合、H2OがH、H、Oに別れ個々にMgOのO原子表面に位置している。これは、(111)面はH2Oと反応することを意味している。また、図1(b)に示すように、(110)面の場合には、H2O分子が壊されてしまっており、OHとHとが別々にMgO表面に結合している。つまり、(111)面、(110)面は、ともに、MgO表面と反応すると言える。
一方、図1(a)に示すように、(001)面の場合、H2OがMgOから離れたところで安定となっている。これは、(001)面はH2Oと反応しないことを意味している。
(2)プロピレンの吸着性の違い
次に、図2に、酸化マグネシウムの3つの面(001)面、(110)面、(111)面に対するプロピレン(C3H6)の吸着性を、第一原理計算によってそれぞれ計算した結果を示す。プロピレンを選択したのは、炭化水素の中でもプロピレンは活性が高いことが知られているからである(特開2008-43943号公報の表6〜表9参照)。
次に、図2に、酸化マグネシウムの3つの面(001)面、(110)面、(111)面に対するプロピレン(C3H6)の吸着性を、第一原理計算によってそれぞれ計算した結果を示す。プロピレンを選択したのは、炭化水素の中でもプロピレンは活性が高いことが知られているからである(特開2008-43943号公報の表6〜表9参照)。
この計算結果も、H2Oの場合と同様に、C3H6をMgOの各表面に配置し、その後、上述の構造最適化計算を行った結果である。また、(111)面については、Mgが最表面となる場合と、Oが最表面となる場合とで結果が異なったことから、両方の計算結果を示している。
図2(a)に示すように、(001)面の場合、C3H6がMgOから離れたところで安定となっており、(001)面はC3H6と反応しないことが分かる。また、図2(b)に示すように、(110)面の場合もC3H6はMgO表面から離れている。
一方、(111)面は、Mgが最表面の場合には、(c)に示すようにC3H6はMgO表面から離れているが、Oが最表面の場合には、(d)−1に示すようにC3H6はMgO表面に結合している。しかも、隣接する単位系を表示させた図である(d)−2を見ると、Oが最表面の場合にはC3H6のH原子がMgOのO原子と結合していることが分かる。
(3)nヘキサデカンの吸着性の違い
次に、図3に、酸化マグネシウムの(001)面と(111)面に対するn−ヘキサデカン(C16H34)の吸着性を、第一原理計算によってそれぞれ計算した結果を示す。この計算結果も、C16H34をMgOの各表面に配置し、その後、上述の構造最適化計算を行った結果である。なお、C16H34は、実際の燃料組成の代表物質として選択した。
次に、図3に、酸化マグネシウムの(001)面と(111)面に対するn−ヘキサデカン(C16H34)の吸着性を、第一原理計算によってそれぞれ計算した結果を示す。この計算結果も、C16H34をMgOの各表面に配置し、その後、上述の構造最適化計算を行った結果である。なお、C16H34は、実際の燃料組成の代表物質として選択した。
C16H34も、C3H6の場合と同様の結果が得られた。すなわち、(001)面の場合、図3(a)に示すように、C16H34がMgOから離れたところで安定となっており、(001)面はC16H34と反応しないことが分かる。一方、(111)面には、図3(b)に示すように、C16H34はMgO表面に結合している。また、図3には、第一原理計算により算出した吸着エネルギー(単位:Ha)も示してある。当然のことながら、吸着エネルギーは、図に対応する値となり、(111)面に対する吸着エネルギーのほうが(001)面に対する値よりも低い値となった。
C16H34については、(110)面の計算を行っていないが、これは、C16H34のように多くの原子を含み大きいものについては結晶面のモデルも大きくする必要があり、計算に膨大な時間がかかるため、多数種類の条件で計算を行うことが困難であるためである。しかし、(1)、(2)から推定すると、(110)面は(001)面と(111)面の中間的な結果が得られると推定できる。
また、以下に、C16H34以外の種々のHC物質の吸着エネルギーをC16H34と対比して示す。この表に示されるように、C16H34以外のHC物質も、C16H34と同様、MgO(111)面に対する吸着エネルギーのほうが(001)面に対する値よりも低い値となった。
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MgO(001) MgO(111)
n−C7H16 −0.02 −0.63
C2H5OH −0.01 −0.25
isooctane −0.02 −0.43
C16H34 −0.05 −0.64
n−C3H6 −0.01 −0.48
n−C10H22 −0.02 −0.44
――――――――――――――――――――――――
(4)第一原理計算による計算結果のまとめ
以上のことから、同じ酸化マグネシウムであっても、表面が(001)面、(110)面、(111)面のいずれであるかで反応性が異なり、(111)面が最も活性であり、(110)面は準活性、(001)面は不活性であると言える。換言すれば、(001)面は最も剥離性がよく、(111)面は最も剥離性が悪く、(110)面はその中間的性質、ただし、(001)面よりは(111)面に近い性質(図1より)であると言える。
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MgO(001) MgO(111)
n−C7H16 −0.02 −0.63
C2H5OH −0.01 −0.25
isooctane −0.02 −0.43
C16H34 −0.05 −0.64
n−C3H6 −0.01 −0.48
n−C10H22 −0.02 −0.44
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(4)第一原理計算による計算結果のまとめ
以上のことから、同じ酸化マグネシウムであっても、表面が(001)面、(110)面、(111)面のいずれであるかで反応性が異なり、(111)面が最も活性であり、(110)面は準活性、(001)面は不活性であると言える。換言すれば、(001)面は最も剥離性がよく、(111)面は最も剥離性が悪く、(110)面はその中間的性質、ただし、(001)面よりは(111)面に近い性質(図1より)であると言える。
<傾斜角試験>
次に、傾斜角試験を実施した結果を図4、図5に示す。傾斜角試験にはMgO(001)面および(111)面単結晶を用いた。いずれも、タテホ化学工業株式会社製である。これらのMgO単結晶(10×10×1mmt)を研磨し、研磨面を水またはエタノールで超音波洗浄した後、水については2時間、エタノールについては1時間20分の乾燥の後、ヘキサデカンを2μl滴下した。なお、超音波洗浄において異なる2種類の液体を用いているのは、図4、図5の比較から分かるように、超音波洗浄に用いる液体が異なることにより傾斜角試験の結果が異なったためである。ただし、水とアルコールという性質の大きく異なる2種類の液体を用いても、傾向としては同じ傾向となったことから、傾斜角試験は、洗浄する液体が異なっても、同じ傾向の結果を示すと考えられる。
次に、傾斜角試験を実施した結果を図4、図5に示す。傾斜角試験にはMgO(001)面および(111)面単結晶を用いた。いずれも、タテホ化学工業株式会社製である。これらのMgO単結晶(10×10×1mmt)を研磨し、研磨面を水またはエタノールで超音波洗浄した後、水については2時間、エタノールについては1時間20分の乾燥の後、ヘキサデカンを2μl滴下した。なお、超音波洗浄において異なる2種類の液体を用いているのは、図4、図5の比較から分かるように、超音波洗浄に用いる液体が異なることにより傾斜角試験の結果が異なったためである。ただし、水とアルコールという性質の大きく異なる2種類の液体を用いても、傾向としては同じ傾向となったことから、傾斜角試験は、洗浄する液体が異なっても、同じ傾向の結果を示すと考えられる。
図4に水で超音波洗浄した場合の結果を示す。図4に示すように、水で超音波洗浄をした場合は、傾斜角を1度とした試験を2回行っているが、2回とも、(001)面はヘキサデカンが単結晶の端まで流れて転落したのに対し、(111)面はヘキサデカンが全く流れないという結果となった。
図5にエタノールで超音波洗浄した場合の結果を示す。図5に示すように、エタノールで超音波洗浄したMgOについては合計6回の傾斜角試験を行った。そのうち、破線で囲んだ3回(傾斜角0.5°、1°、1.5°)については、(001)面の方が(111)面よりも流れやすいという結果が得られた。他の3回については、(001)面と(111)面とで差は見られなかったが、破線で囲んだ3回とは反対の結果、すなわち、(111)面の方が(001)面よりも流れやすいとの結果は1回もなかった。
以上のように、傾斜角試験から、(001)面のほうが(111)面よりもヘキサデカンが流れやすいとの結果が得られた。この結果は、第一原理計算による計算結果と同じ結果であり、このことからも、第一原理計算による計算結果が信頼できるといえる。
<剥離試験>
次に、剥離試験について説明する。
(1)試験方法
ガスとガソリン燃料だけを出し入れすることができる閉じた空間を作成し、この空間の内部に、対象のサンプル(MgO(001)面またはMgO(111)面)を設置した。また、この空間には、暖めた燃料をインジェクタにより噴射することを可能とした。ガスは、実際の排ガスを模擬し、N2、O2と微量のSOx、NOxで構成した。
次に、剥離試験について説明する。
(1)試験方法
ガスとガソリン燃料だけを出し入れすることができる閉じた空間を作成し、この空間の内部に、対象のサンプル(MgO(001)面またはMgO(111)面)を設置した。また、この空間には、暖めた燃料をインジェクタにより噴射することを可能とした。ガスは、実際の排ガスを模擬し、N2、O2と微量のSOx、NOxで構成した。
このガスと共に上記閉じた空間をインジェクタの対象部位相当の温度(150〜250℃)に事前に暖めておき、インジェクタにより燃料を繰り返し噴いてデポジットを形成した。
次に、上記空間からデポジットが付着したサンプルを取り出し、デポジットの付着面に剛体をエポキシ系樹脂で接着し、これを、引っ張り試験材とした。図6にこの引っ張り試験材110の概略図を示す。図6に示すように、サンプル(すなわちMgO)112の一方の表面にはデポジット114が全体的に形成されており、剛体116は、デポジット114が形成されている部分の中央付近に固定した。また、この剛体116には、その中心部分に孔117が形成されている。
この引っ張り試験材110を引っ張り試験機(図示せず)に固定し、引っ張り試験機の治具120を孔117に引っ掛け、図6の矢印方向に引っ張った。
(2)試験結果
MgO(001)面とMgO(111)面とで、引っ張り強度には大差はなかった。しかし、剥離後の表面状態には大きな違いがあった。その表面状態を図7、図8に示す。
MgO(001)面とMgO(111)面とで、引っ張り強度には大差はなかった。しかし、剥離後の表面状態には大きな違いがあった。その表面状態を図7、図8に示す。
図7は、MgO(001)面の試験結果を示す図であり、(a)は、剛体116が固定されていた部分の剥離試験後の表面を示す図であり、4つの写真(図)を組み合わせて示した。(b)はその断面を模式的に示す図である。この図において、符号130はデポジット114が完全に剥離している部分の一部を示し、符号132はデポジット残存部分の一部を示し、符号134は結晶破壊部分(MgO結晶が壊れてはがされている部分)を示している。
図7から、MgO(001)面の場合、デポジット114が完全に剥離している部分が多くある一方、結晶破壊部分134はほとんどないことが分かり、デポジット114の剥離性が良好であると言える。
図8は、MgO(111)面の試験結果を示す図であり、(a)は、剛体116が固定されていた部分の剥離試験後の表面を示す図であり、全体が同様な状態であった。(b)はその断面を模式的に示す図である。また、符号は図7と同じ意味である。図8から、MgO(111)面の場合、デポジット114が完全に剥離している部分はほとんどなく、デポジット114が多く残っており、また、結晶破壊部分134と完全に剥離している部分とが点状に混在していることが分かる。このことから、デポジット114の剥離性は悪いと言える。
このように剥離試験の試験結果では、MgO(001)面は剥離性が良く、同じMgOでも(111)面は剥離性が悪いという結果となり、第一原理計算の計算結果とよく一致する。
<デポジット付着防止機能が高い結晶面>
以上、説明した計算結果および実験結果から、同じMgOでも、(001)面はデポジット付着防止機能が高く、(111)面はデポジット付着防止機能が低く、(110)面はデポジット付着防止機能が中程度((001)面よりは(111)面に近い)と言える。
以上、説明した計算結果および実験結果から、同じMgOでも、(001)面はデポジット付着防止機能が高く、(111)面はデポジット付着防止機能が低く、(110)面はデポジット付着防止機能が中程度((001)面よりは(111)面に近い)と言える。
ただし、たとえば、(100)面など、(001)面と結晶学的に等価な面は、当然、
(001)面と同等のデポジット付着防止機能であると考えられる。本明細書でも、一般的な表記方法と同様に、(100)面と等価な面を{100}面と表す。
(001)面と同等のデポジット付着防止機能であると考えられる。本明細書でも、一般的な表記方法と同様に、(100)面と等価な面を{100}面と表す。
上記表記方法を用いると、{100}面はデポジット付着防止機能が高く、{111}面はデポジット付着防止機能が低く、{110}面はデポジット付着防止機能が中程度({001}面よりは{111}面に近い)と言える。
さらには、ミラー指数(hkl)のうちの1つが1である{001}面が最もデポジット付着防止機能が高く、3つとも1である{111}面が最もデポジット付着防止機能が低く、ミラー指数がこれら2つの中間となっており、(hkl)のうちの2つが1である{110面}が{001}面と{111}面の中間の性質を有することから、格子定数がその他の値であったとしても、ミラー指数に基づいて比例計算することにより、種々のミラー指数に対するデポジット付着防止機能を推定することができると考えられる。
これらのことから、MgOを燃料噴射弁のデポジット作用面に設けることで好適なデポジット付着防止機能を発揮するためには、そのMgOは{100}面となっていればよいと言える。ここで最も好ましいのは、MgOは実質的に{100}面のみである場合である。なお、「実質的に」とは、面とx、y、z軸との交点が実質的に1(たとえば0.99など)であるものも含む意味である。
なお、実質的に{100}面のみでなければデポジット付着防止機能として不十分かどうかは、要求仕様によっても異なる。少なくとも、MgOとして{100}面があれば、その部分については良好なデポジット付着防止機能を発揮するのであるから、少なくとも{100}面があればよい。
また、別の言い方をすれば、{111}面はデポジット付着防止機能が低いのであるから、この{111}面を含まないMgOを用いることでも、デポジット付着防止機能が良好となる。
さらに、{110}面も{100}面よりはデポジット付着防止機能が低いのであるから、{111}面を含まないのみならず、{110}面も含まないようにすると、デポジット付着防止機能がさらに良好となる。
<MgOの固定形態>
MgOは、デポジット作用面の全面に設けることとしてもよく、また、デポジット作用面の一部に設けることとしてもよい。いずれの場合にも、MgOは基板材料(SiO2など)の上に設けることとしてもよいし、基板材料に代えて用いてもよい(MgOを基板材料として用いてもよい)。また、MgOは一部固溶することで燃料噴射弁の作用面に固定してもよいし、接着によって固定してもよい。一部固溶するには、絶対温度において共晶点の0.7〜0.8倍程度の温度で共晶が始まることから、界面のみ共晶となる程度の時間だけ、共晶点の0.7〜0.8倍程度の温度を維持すればよい。また、反応時間短縮のため0.8倍程度を超え1倍未満の温度を瞬間的にかけてもよい。以上の固溶方法は例示に過ぎず、形成方法を限定する記述ではない。
MgOは、デポジット作用面の全面に設けることとしてもよく、また、デポジット作用面の一部に設けることとしてもよい。いずれの場合にも、MgOは基板材料(SiO2など)の上に設けることとしてもよいし、基板材料に代えて用いてもよい(MgOを基板材料として用いてもよい)。また、MgOは一部固溶することで燃料噴射弁の作用面に固定してもよいし、接着によって固定してもよい。一部固溶するには、絶対温度において共晶点の0.7〜0.8倍程度の温度で共晶が始まることから、界面のみ共晶となる程度の時間だけ、共晶点の0.7〜0.8倍程度の温度を維持すればよい。また、反応時間短縮のため0.8倍程度を超え1倍未満の温度を瞬間的にかけてもよい。以上の固溶方法は例示に過ぎず、形成方法を限定する記述ではない。
また、図9に示すように、MgO(001)面単結晶を基板材料140として、その基板材料140にフッ素化合物142を結合させてもよい。このフッ素化合物142には、従来のコーティング材料であるFAS(フルオロアルキルシラン)等を用いてもよい。
また、MgO表面は連続する平面である必要はなく、図10に示すように、基板材料(SiO2等)150の上に島状にMgO(001)面単結晶(以下、単に単結晶)152を形成し、単結晶152と単結晶152との間に空間を形成してもよい。この場合、単結晶152の露出部分がデポジット作用面となることはもちろんのこと、基板材料150の露出部(単結晶152が形成されていない部分)もデポジット作用面となる。そのため、デポジット作用面は、外観上は全体として凹凸形状となり、デポジット作用面の一部である単結晶152は、他のデポジット作用面である基板材料150の露出部に対して凸形状となっていることになる。すなわち、デポジットが作用する面が凹凸形状を形成しており、上記凹凸形状もまたデポジットが吸着しにくい部位を形成する。
<インジェクタの構成>
次に、本実施形態のMgO単結晶によりコーティング層25が形成されたインジェクタ(内燃機関用燃料噴射弁)11の構造を、図11、12を用いて説明する。図11はインジェクタ11の先端部分切り欠き側面図であり、図12はノズル先端部の断面図である。
次に、本実施形態のMgO単結晶によりコーティング層25が形成されたインジェクタ(内燃機関用燃料噴射弁)11の構造を、図11、12を用いて説明する。図11はインジェクタ11の先端部分切り欠き側面図であり、図12はノズル先端部の断面図である。
インジェクタ11は、噴射制御用電磁弁部12と燃料噴射ノズル13とからなる。噴射制御用電磁弁部12は、そのハウジング10の内部に、励磁コイル(図示せず)と、励磁コイルに通電されたとき発生する電磁吸引力により吸引移動する可動片(図示せず)とを収容する。
インジェクタ11は、往復動可能な前記可動片に連結されるノズルニードル14と、このノズルニードル14を軸方向に摺動可能に収容するノズルボディ15とを備える。このノズルボディ15は、ノズルニードル14を軸方向に摺動可能に案内する案内孔、ノズルニードル14の当接可能なシート面、噴孔を有する。
インジェクタ11は、さらにノズルボディ15を備え、また、図示しないが、スプリング、可動鉄心、固定鉄心、電磁コイルを備える。スプリングはノズルニードル14を閉弁方向に付勢するものであり、可動鉄心はノズルニードル14に固定される筒状部材であり、固定鉄心は、可動鉄心と同軸上に可動鉄心に対して配置される。電磁コイルは、固定鉄心の外周に設けられ、固定鉄心および可動鉄心に磁束を形成することにより可動鉄心およびノズルニードル14をスプリングの付勢力に抗して開弁方向に移動させる。
燃料噴射ノズル13の一部を構成するノズルボディ15の内部には軸方向に延びる空間部16が形成され、この空間部16にノズルニードル14が収容されている。インジェクタ11の燃料導入口17から導入された燃料はノズルボディ15の内部の空間部16に充満されている。またノズルニードル14は、図示しないスプリングにより弁閉側に付勢されている。
ノズルニードル14の円環状の当接部18とノズルボディ15の円錐斜面状のシート面19との当接時に弁閉状態(図12に示す状態)となり、その状態からノズルニードル14の当接部18がシート面19からリフトすると、当接部18とシート面19との間に隙間ができ、この隙間より燃料が燃料溜り室5と噴孔20とを通って燃焼室21内に噴射される。
このインジェクタ11は、エンジンヘッド6の内部の燃焼室21と外部とを連通する燃料噴射ノズル用取付孔22に外部から挿入されて、エンジンヘッド6にねじ結合されている。ただし、上述のねじ結合は一例にすぎず、例えば、(図11で、17の下にある)部品の上方ないし外周から、バネで押さえつけた形で構成し、さらに上から被せられる金属の部材により、押さえつけたバネとともに固定していてもよい。ノズルボディ15の先端部に形成されるノズル先端面23は円錐斜面状に形成されており、その先端部が噴孔20の出口側内壁面に連通している。
そして、燃料噴射ノズル13のノズル先端面23と噴孔20の内壁とに本発明のコーティング材料を使用したコーティング層25が形成されている。このコーティング層25は、噴孔20の内壁からノズル先端面23まで連続し、噴孔20の内壁を被覆するコーティング層251と、ノズル先端面23を被覆するコーティング層252とからなる。
なお、ノズルボディ15のシート面19にコーティング層は形成されない。シート面19は精密加工により寸法精度が精密に形成されているから、このような精密加工された部分にコーティング層が形成されないため、弁閉時におけるノズルニードル14の当接部18とシート面19との油密確保がされている。
このインジェクタ11は次のように作動する。燃料噴射ノズル13の作動時、シート面19からノズルニードル14がシート面19より離間すると、空間部16に充満する燃料が当接部18とシート面19との円環状の隙間、燃料溜り室(すなわちサック)5、噴孔20を通して燃焼室21内に噴射される(弁開状態)。その後、ノズルニードル14の当接部18がシート面19に着座したとき、噴孔20からの燃料の噴射が遮断される(弁閉状態)。エンジンの停止時、噴孔20の後垂れ燃料などの燃料が一時的にノズル先端部に残存するが、この残存燃料はコーティング層251、252の表面には付着しにくい。これはコーティング層251、252の表面が油の付着しにくい撥油性のコーティング層となっているからである。仮に燃料が付着したとしてもエンジン始動時の次回噴射によりこの付着燃料がコーティング層251、252の表面から剥離し易い。
エンジンの停止直前、インジェクタの最終の弁開動作直後に噴孔20の内壁のコーティング層251からノズル先端面23のコーティング層252に沿って流れる流速の遅い燃料は揮発し易い。またコーティング層251、252が形成されているためコーティング層251、252の燃料付着量は少なく、付着燃料が熱等により変質し生成するデポジットの量は少ない。このためエンジンを再始動するときの噴射量の低下や噴射特性への影響は小さい。また撥油性のコーティング層251、252であるから表面エネルギーが金属面に比べ小さいため、生成されたデポジットの付着力が弱く例えば噴孔20の内壁に生成したデポジットは次回以降の燃料噴射時に燃料の液圧によって取り除かれ、デポジットが成長し難い。
<界面の結合手が多い材料>
SiやCは4価であり、界面の構成は製法により様々である。また、界面の構成が異なればその界面の活性/不活性が変化する可能性がある。そこで、SiおよびCからなる物質の一例であるSiCにおいて、面の種類と最表面の構成原子を変えて、表面の活性を計算した。結果を以下に示す。
SiやCは4価であり、界面の構成は製法により様々である。また、界面の構成が異なればその界面の活性/不活性が変化する可能性がある。そこで、SiおよびCからなる物質の一例であるSiCにおいて、面の種類と最表面の構成原子を変えて、表面の活性を計算した。結果を以下に示す。
SiおよびCは上述のとおり4価であることから、SiCの最表面の安定構造は原子配列が歪んだ構成となることが容易に予想できる。なぜなら、SiCの結晶を途中でカットすると、SiCの結合手が余り、近隣のSiもしくはCの結合手同士の結合だけでは結合できないため、原子を移動させて構成する必要があるからである。
そこで、上述の原子の移動をさせないで、H原子やO原子で表面の結合手を飽和させた場合の、HCの結合エネルギを比較した。(図13〜図15)
図13に示すのは、SiCの{001}面、{111}面の最表面にH原子を配置したときのC16H34の吸着状態である。図13(b)に示す{001}面においても、C16H34は、一部、SiC表面に近づいている部分があるものの、H原子のところ全てに引き寄せられているわけではない。つまり、図13(a)、(b)の比較から、SiCの場合には、結晶面による違いは分子の形状から多少みられるが、MgOの面の違いほど顕著には、吸着の違いはみられず、どちらもHCの吸着は起こりにくいことが分かる。
図13に示すのは、SiCの{001}面、{111}面の最表面にH原子を配置したときのC16H34の吸着状態である。図13(b)に示す{001}面においても、C16H34は、一部、SiC表面に近づいている部分があるものの、H原子のところ全てに引き寄せられているわけではない。つまり、図13(a)、(b)の比較から、SiCの場合には、結晶面による違いは分子の形状から多少みられるが、MgOの面の違いほど顕著には、吸着の違いはみられず、どちらもHCの吸着は起こりにくいことが分かる。
次に図14に示すのは、SiCの{001}面、{111}面の最表面の多くをO原子で置換したときのC16H34の吸着状態である。H原子を配置したときと同様に、C16H34の吸着に顕著な違いは観られず、どちらもHCの吸着は起こりにくい。
ここで、最表面に配置、置換と表記したが、実用上は大きな違いはない。H原子を配置したければ、H2雰囲気中、O原子を配置したければO2雰囲気中、H原子とO原子双方配置したければH2とO2の混合気内で、切断、研磨など、SiCの表面を出す処置をし、不安定な表面状態を所望のガス中に終始さらせばよい。
これに対し、図15に示したのは、SiCの{001}面にN原子を一部配置したモデル上でのC16H34の吸着状態である。計算前の配置に比べ、明らかに表面のN原子近傍だけに近接しており、HCの吸着が比較的起こりやすく、HC吸着を避けたい本案件には不向きである。
次に吸着エネルギーで比較すると、H原子を配置した場合、{001}面で、−0.047Ha、{111}面で、−0.048Haであり、大差はない。
O原子を配置した場合は、{001}面で、−0.049Ha、さらにO原子の配置を変えて求めると、−0.061Haであり、一方、{111}面では、−0.053Haであった。結晶面の違いよりもO原子の配置換えによる変化の方が大きいので、表面原子の方が寄与が大きい。但し、いずれも小数点以下2桁目の数値から始まる値であり、上述のMgO{111}面ほどの安定性はなく、むしろ、MgO{001}面のような不安定な吸着、もしくは吸着性に乏しい結果である。一方、SiCの{001}面にN原子を一部配置したモデル上でのC16H34の吸着エネルギーは、−0.12Haであり、上述のO原子を配置したモデル、同H原子を配置したモデルよりも吸着エネルギーが低く、やや吸着しやすい状態であった。これらのことから、吸着を避けるためには、吸着エネルギーは−0.1Ha以上であることが好ましいといえる。
なお、SiC結晶面の実際の製法においては、真空などで純粋にSiCだけで構成すると、表面に一部非晶質を形成したり、部分的に原子配列の歪んだ構成となることが予想されるので、上記SiC形成後、所定の雰囲気下で表面の一部を削り、その雰囲気下で熱処理をすることにより所望の表面構成を形成するという方法が一例として挙げられる。
例えば、表面を上述のO原子にしたい場合は、酸素雰囲気下において、上述の非晶質部位もしくは原子配列の歪んだ部分を削り、酸素雰囲気下にさらす事で、表面に酸素原子を結合させ配置する。この時、酸素原子の結合を促進するために、温度を上げる、すなわち熱処理する方法がある。
<フッ素含有無機化合物に対するHC分子の吸着性>
次に、フッ素含有無機化合物に対するHC分子の吸着性を説明する。
(1)2族のフッ素化合物に対するHC分子の吸着性
CaF2、MgF2、SrF2、BaF2の種々の面でのHC分子の吸着の違いをみると同時に、上記最表面の原子がF原子の場合と他の原子(Ca、Mg、Sr、Ba)の場合の違いをみるために、第一原理計算を行なった。
<フッ素含有無機化合物に対するHC分子の吸着性>
次に、フッ素含有無機化合物に対するHC分子の吸着性を説明する。
(1)2族のフッ素化合物に対するHC分子の吸着性
CaF2、MgF2、SrF2、BaF2の種々の面でのHC分子の吸着の違いをみると同時に、上記最表面の原子がF原子の場合と他の原子(Ca、Mg、Sr、Ba)の場合の違いをみるために、第一原理計算を行なった。
計算結果の説明の前に、まず、計算に用いたモデルについて説明する。代表例としてCaF2、SrF2、BaF2を図16〜図18に示す。図16〜図18に示すモデルにおいて、{111}面、{001}面は、一方の表面(図上側の表面)は、F原子ではない側の原子(Ca、Sr、Ba)が表面の原子となっており、他方の表面(図下側の表面)はF原子が表面の原子となっているモデルである。
燃料噴射弁にコーティングされている状態では、現実には、露出している面は、一つの面であり、このモデルのように、上下の2面が露出していることはない。しかし、2種の表面での吸着性を一度の計算で観られるように、便宜上、上下双方に表面を持つモデルとした。
図16〜図18はいずれも、与えた配置すなわち初期状態からエネルギーの低い安定状態に導くという構造最適化計算の結果である。
図16にCaF2、図17にSrF2、図18にBaF2のそれぞれの{111}面、{001}面の計算結果を示す。図16(a)から分かるように、CaF2の{111}面では、表面がCa原子からなる結晶面(図上側)の場合、表面に配置したC3H6は結晶面から離れた状態で安定となった。これは、吸着力が物理吸着よりも強い吸着である化学吸着は起こらない事を意味する。なお、C3H6が結晶面に化学吸着する場合には、結晶面と吸着したC3H6と結晶面とが化学反応を起こすことになる。
なお、ここでは物理吸着の強さの序列までは言及しない場合もある。計算精度を考慮しても明らかに吸着エネルギーがマイナスになる場合、HC分子が結晶面から離れていても物理吸着が起こる可能性が十分ある。しかし、物理吸着の強弱を正確に判定するほどの精度は本計算技術の現状では得られていない場合がある。物理吸着は、化学吸着よりも吸着エネルギーが大きい。すなわち物理吸着は、化学吸着よりも吸着が弱い、もしくは化学吸着よりも吸着の安定性が低いために、ゼロに近いマイナスの値をとるべきものである。ゼロに近い故に、エネルギーの大小までは判定が難しく本計算では正確に物理吸着の序列までは求まらないことが多々あり、あくまでも参考指標までに止めた説明をする。
上記理由と、参考指標かどうかの基準を以下に詳述しておく。すなわち、詳細な比較を記述していなくても、吸着エネルギーがあれば、以下の基準で判定することができる事とする。
上述の物理吸着の強弱の判定の難しさは、物理吸着の吸着エネルギーがゼロに近い事により、物理吸着の吸着エネルギーが、たまたま現状で発明者が認識している計算誤差(0.002〜0.003Ha;Haはエネルギーの単位でハートリーであり、以下用いる吸着エネルギーは全てこの単位である。)と同等の桁の差である場合があることに原因がある。
上述の物理吸着の強弱の判定の難しさは、物理吸着の吸着エネルギーがゼロに近い事により、物理吸着の吸着エネルギーが、たまたま現状で発明者が認識している計算誤差(0.002〜0.003Ha;Haはエネルギーの単位でハートリーであり、以下用いる吸着エネルギーは全てこの単位である。)と同等の桁の差である場合があることに原因がある。
上述の計算誤差としては、同じ構成の材料を、初期配置を変えて構造最適化計算をした場合の吸着エネルギーの差と、1ステップ毎の変化率を表す計算パラメータ(ミキシング)を変えることで、収束にかかるステップの変えて構造最適化計算をした場合の吸着エネルギーの差の、2つの吸着エネルギーの差において、経験上最も大きな値を採用している。
統計学的な手法で、計算値のサンプルを増加させて、上記採用値よりも信頼性の高い計算誤差を求めた結果その誤差が小さくなるようであれば、その信頼性の高い計算誤差で判断してもよい。
すなわち、本発明においては、計算誤差のデータが信頼性を得る程多くのデータから算出した値ではないので、異なる条件での同一モデルでの計算結果の差の最大値を採用している。
上記信頼性という表記は、田口玄一著、品質工学講座;日本規格協会や、その他、多変量解析、あるいは、データに対するカーブフィットの相関係数とその信頼性に関わる文献に記載されている。カーブフィットにおいては、上記計算誤差に対応する数値が残差という言葉で表記されている場合もある。
吸着エネルギーは、吸着状態の安定性を示す指標であり、マイナスの場合は安定で、プラスになる場合は不安定を意味する。また、不安定とは、結晶面にガスが流れて来たとき、物質間の相互作用によってガスと結晶面は接近せずに、離れて存在した方が安定である事を意味する。これまでに説明した、吸着エネルギーと安定性の関係、物理吸着と化学吸着の安定性の序列、物理吸着の判断の正確性は、以下全てにおいて言える事である。なお、吸着する/しないという表現は、本明細書では、特に表記のない場合は、化学吸着するかどうかだけを意味する。
次に、図16(a)に示すCaF2{111}面のモデルの下側(最表面がフッ素原子の場合)における安定状態を説明する。初期には、C3H6がCaF2表面のフッ素原子に化学吸着した。しかし、その後、この図16(a)に示しているように、Fと結合する事で結合状態が飽和した分子となってCaF2から解離し安定状態となった。すなわち吸着は一時的なもので、後に離れるので、表面へ付着して残るわけではない。
また、残された結晶面では、CaF2表面のフッ素原子は減るものの、表面にはCa原子が露出するだけである。表面にCa原子が露出しても、同図16(a)の上側に示す安定状態のとおり、Ca原子にC3H6は化学吸着しない。すなわち、CaF2{111}面には、C3H6は吸着しない。
次に、図16(b)に示すCaF2{001}面を説明する。CaF2{001}面では、最表面がCa原子である場合(図上側表面)、{111}面と異なり、C3H6が吸着したまま安定状態となった。一方、最表面がFの場合(図下側表面)は{111}面のときと同様に、C3H6がCaF2最表面のF原子に吸着した後、F原子と結合したF含有HC分子がCaF2表面から脱離した。なお、本明細書では、単にHC分子というときは、特に明記する場合を除き、Fを含有しないHC分子を意味する。
最表面のF原子が脱離するとCaF2表面はCa原子となる。しかし、{001}面においては、最表面がCaのときにはC3H6が吸着したまま安定状態となる。よって、CaF2{001}面の場合、表面原子がCa原子であっても、また、F原子であっても、表面に付着物が残る。以上のことから、デポジットの抑制を目的とするコーティング材料には、表面にHC分子が吸着したまま残らないCaF2{111}面は好適であるが、CaF2{001}面は好ましくない。
次に図17を説明する。図17(a)、(b)に、SrF2の{111}面、{001}面、でのC3H6の安定状態をそれぞれ示す。図17(a)、(b)に示す構成は、図16中のCa原子をSr原子に置き換えた事以外は全て同じである。
SrF2は、以下に詳述するように、{111}面と{001}面は同様な結果となった。すなわち、図17(a)、(b)の上側に示す、表面がSr原子の場合には、C3H6は吸着しなかった。一方、図17(a)、(b)の下側に示す、表面がF原子の場合には、C3H6はF原子に一時的に吸着し、その後、結合が飽和しているF含有HC分子となって脱離し安定状態となった。
当然のことではあるが、図16(a)に示すCaF2{111}面のときと同様に、フッ素原子を表面から奪われたSrF2の結晶面も、表面にSr原子が露出する事になるが、図17の図中上側のとおり、表面にSr原子が露出しても、C3H6は吸着しない。なお、上述の一時的な吸着は、図中の安定状態を求めるための計算途中のモデルの変化の観察から知り得た事である。(図17のSrF2に限らず、図16のCaF2、図18のBaF2全てに共通する。)以上、SrF2では{111}面、{001}面のいずれでも、C3H6が結晶表面に吸着したまま安定状態にはならない。よって、SrF2は、{111}面でも、また、{001}面でも、デポジット抑制のコーティング材料に適している。
次は、MgF2について述べる。MgF2{111}面、{001}面では、同様な計算において、C3H6分子が、各々の結晶面から離れて安定化した。(図は、結晶構造以外、すなわち、HC分子の吸着性に関しては、MgO、CaF2などと同様なので省略する。)よって、MgF2{111}面およびMgF2{001}面は、化学吸着の発生しにくいコーティング剤として使用でき、デポジット防止効果を発揮できる。なお、MgF2{111}面およびMgF2{001}面の双方をコーティング剤として使用してもよく、いずれか一方をコーティング剤として使用してもよい。また、これらを、デポジット防止効果を発揮できる他の構造と同時に使用してもよい。
次に図18を説明する。図18(a)、(b)に、BaF2の{111}面、{001}面でのC3H6の安定状態をそれぞれ示す。この図18から分かるように、BaF2では、{111}面、{001}面共に、表面がBaの場合(図上面)にC3H6が吸着してしまうので、デポジットを抑制するコーティング材料には適さない。
図16、図17に示したデポジット抑制に適したコーティング材料の中で、CaF2{111}面、SrF2{111}面、SrF2{001}面は、フッ素を最表面にもつ場合、フッ素に一時的にC3H6が吸着し、結合を飽和させてF含有HC分子となり脱離した。
このとき形成されるF含有HC分子を、前述のMgO{001}面、MgO{111}面に配置して安定構造を求め、そのときの吸着エネルギーを求めて、安定的に吸着するかどうかを試した(図19)。
MgO{001}面では、C3H6の時と同様に、F含有HC分子は結晶表面から離れた位置で安定状態を示し、吸着エネルギーは−0.00205 Ha(ハートリー)であった。同結晶面での、Fを含まない、元のC3H6での吸着エネルギーは−0.013Haであり、桁が違う事から、Fを含有するHC分子は、MgO{001}面に吸着しにくい可能性が高い。
前にも述べたとおり、表面に接することなく安定状態を形成するのは物理吸着であり、計算により精度よく比較する事はできない場合が多いが、上記MgO{001}面でのC3H6とF含有HCの吸着エネルギーの違いのように、桁違いの数値が出る場合は明らかに比較して予測することができる。
また、MgO{111}面では、F含有HC分子の吸着エネルギーは0.00169 Haで、正の値であり、計算誤差を加味しても正の値である可能性が高い事から、結晶表面に吸着した状態よりも、MgO{111}結晶表面とF含有HC分子とが離れて別々に存在していた方が安定である可能性が高い事を示している。
MgO{111}面でのC3H6の吸着エネルギーは−0.358 Haであり、フッ素を含有する分子に変わる事で吸着エネルギーが高くなることが示された。また、安定状態においてC3H6はMgO{111}面の構成原子に接して吸着する、すなわち化学吸着をする事が分かっているので、C3H6はフッ素原子を含有する分子に変わることで、MgO{111}面への化学吸着が抑制され吸着しにくくなる事が示された。
HCガス(上述のC3H6)にフッ素原子が結合し加わると、他の結晶面(上述のMgO結晶面)への吸着が抑制される事が分かったので、これを利用する方法として図20のような構成が考えられる。
図20に示すように、MgO結晶面に対して、燃料であるガスの流れの上流側に不活性前駆体結晶面を配置する。この不活性前駆体結晶面とは、HC分子が結晶表面に一時的に吸着し、その結晶表面のフッ素原子と結合し、その後、F含有HC分子となって解離する反応を起こす結晶面である。別の表現をすれば、HC分子に対してF原子を供給するが、F原子を供給した後の状態では不活性となる結晶面である。この図20では、不活性前駆体結晶面として、CaF2{111}面を例示している。不活性前駆体結晶面の他の例としては、既に述べた範囲では、SrF2{111}面、SrF2{001}面がある。
MgO結晶面の上流側において、CaF2{111}面からHC分子にフッ素原子が供給されるので、下流側に位置するMgO結晶面に到達する前に、HC分子はフッ素含有HC分子(F含有HC分子)に変化する。MgO{001}面は、既に述べたように不活性であり、もちろん、飽和基に対する活性は不飽和基に対する活性よりも低い。よって、不飽和基がなくなっているフッ素含有HC分子は、MgO結晶面に対する吸着が抑制されるため、デポジットの形成は抑制される。
CaF2{111}面に代表される不活性前駆体結晶面は、不飽和HC分子に対してフッ素原子を供給可能であるが、フッ素原子を供給できるのはその表面だけであるので、フッ素原子の供給量にも限りがある。そこで、下流側の結晶面は、フッ素を含有するHC分子だけの吸着を抑制する結晶面ではなく、MgO{001}面のように、フッ素を含有せず、且つ、不飽和結合を有するHC分子の吸着も抑制する結晶面で構成する事が望ましいのである。
あるいは、フッ素を供給できる上記不活性前駆体結晶面を一部もしくは全体に使用して、不飽和HC分子にフッ素原子を結合させる空間、言わばフッ素供給室を形成し、燃料であるガスにフッ素原子を供給することで、そのガスの不飽和結合にフッ素原子を結合させて飽和結合に変化させた後、例えばMgO結晶面の存在する流路に流す構成にしてもよい。すなわち、図20に示した構成になっている事には限定しない。
また、上記フッ素供給室を交換する事が可能なシステムを作製したり、一時的に何らかの物質を流す事でフッ素を再度結合させて、限りなくF原子を供給できるようにし、その下流部に、例えばMgO結晶面のようなF含有HC分子を吸着させない構成/システムを形成してもよい。このときのMgO結晶面は{001}面に限定するわけではない。F含有HC分子を吸着しなければよいのであるから、HC分子が吸着するような結晶面でも何ら問題ない。
また、本明細書全体において、結晶面という記載は、単結晶に限定するものではなく、{001}面、{111}面、{110}面などの代表的な面が、デポジットの抑制に寄与する面であれば、多結晶でもよい。またデポジット抑制に寄与する方位が限定されても、単結晶の一つの塊である必要は無く、複数に分かれていても良いし、単結晶の粉でも、デポジットを抑制することができる面であることによるデポジット抑制機能が発揮できる範囲であれば、単結晶の粉を用いてもよい。なお、粉を用いる場合には、種々の基材と混ぜる、或いは、その基材表面に接着する等して、その粉を用いる。
また、上述の不活性前駆体結晶面:例えばCaF2{111}面と、F含有HC分子、HC分子双方の吸着を抑制する結晶面:例えばMgO{001}面とを複数配置してもよい。また、それらの結晶面は、交互である必要もなく、一部に交互ではない配置があってもデポジット抑制機能さえ維持されればよい。
例えば、上記2種類の結晶面の配置例として、温度勾配があるときに、温度によってデポジットが形成され易いところの前に、不活性前駆体結晶面を特に多数配備するなどして、より吸着しにくい性状を持つF含有HC分子を多く生成させて、デポジット抑制効果をさらに機能させていてもよい。また、温度に限らず、湿度でも、圧力でも、流れの速度でも、環境に関わる諸条件によって、上記2種類の結晶面を配置する場所を使い分けてもよい。
また、不活性前駆体結晶面も、F含有HC分子、HC分子双方の吸着を抑制する結晶面も、いずれも一種類に限定する必要はない。不活性前駆体結晶面だけが多種の材料で構成されていてもよいし、F含有HC分子、HC分子双方の吸着を抑制する結晶面だけが多種の材料で構成されてもよいし、両結晶面それぞれが多種の材料で構成されていてもよい。
また、不活性前駆体結晶面と、F含有HC分子、HC分子双方の吸着を抑制する結晶面という2種類の結晶面から構成される部位と、HC分子の吸着を抑制する結晶面だけから構成される部位とが混在していてもよい。なお、後者の部位を構成する結晶面は、機能がHC分子の吸着を抑制するという1つの機能であることを述べているのであり、機能が1つであれば、具体的な構成は、1種でも、また、複数種類でもよい。
また、環境への配慮から、毒激性をもつ材料に変化し得る、或いは変化させ得るフッ素原子やフッ素化合物を出さない、或いは、減らすようにするため、次の構成として、CaF2{111}面、SrF2の各面からのフッ素(F)の供給を抑制、あるいは、なくすようにしてもよい。すなわち、上記各結晶面を、例えば、不飽和HC環境下に予め晒すなどして、結晶面の最表面がフッ素原子ではない方の原子(Ca原子、Sr原子)となるようにしてから、所望の位置に配置してもよい。図21は、この一例として、不飽和HC分子、たとえば、C3H6で予め表面処理することで、表面をCaとしたCaF2{111}面を説明する図である。上記表面処理を行うことで、MgO{001}面のような機能として使用することができる。なお、当然のことではあるが、MgO{001}面と同じ機能であっても、上記表面処理を行なった不活性前駆体結晶面を、MgO{001}面などの異なる種類の面とともに併用する事も本発明の範囲内である。
なお、CaF2、SrF2等、F原子を無機化合物結晶の計算においてもHC分子としてC3H6を使用したのは、CH4、C2H6、C3H8などに比べて吸着エネルギーが低く、吸着の有無を判別し易いためである。
なお、上述の中で使用した「吸着エネルギー」とは、下記の式で定義される。
「吸着エネルギー」=「全体(界面モデル+表面分子)のエネルギー」
−「界面モデルだけのエネルギー」−「表面分子だけのエネルギー」
上記式の右辺の各エネルギーは、指定したモデルで第一原理計算にかけて算出したエネルギーであり、上記第一原理計算では、構造最適化計算を実施した。近似、計算手法などは、本明細書では、全て同じ手法を用いている。
「吸着エネルギー」=「全体(界面モデル+表面分子)のエネルギー」
−「界面モデルだけのエネルギー」−「表面分子だけのエネルギー」
上記式の右辺の各エネルギーは、指定したモデルで第一原理計算にかけて算出したエネルギーであり、上記第一原理計算では、構造最適化計算を実施した。近似、計算手法などは、本明細書では、全て同じ手法を用いている。
これまでは、{111}面と{001}面について説明した。次は{110}面について説明する。次に説明する計算結果から、デポジットを抑制するための結晶面として、CaF2、SrF2の{110}面を一部ないし全体に用いることができる。
図22にCaF2、SrF2の{110}面の計算結果を示す。なお、この計算は、面が異なる以外は、図16、図17と同じである。CaF2{110}面、SrF2{110}面では、表面にCa(あるいはSr)とFとがともに露出しており、{111}面や{001}面のように、表面原子の相違による2種類の面は存在しない。よって、図上側の面にのみ、C3H6を配置して計算を行なった。
計算の結果、CaF2{110}面、SrF2{110}面では、C3H6は吸着しない状態が安定であった。また、C3H6は、CaF2{111}面でのように一時吸着してフッ素原子で結合を飽和させて解離することもなかった。よって、CaF2{110}面、SrF2{110}面は、MgO{001}面と同様に、表面にHCが吸着しないコーティング材料として効果を発揮する。なお、これらCaF2{110}面、SrF2{110}面の使用形態としては、MgO{001}面の代用でもよいし、MgO{001}面との併用でもよく、その他上述のごとく配置方法など多様な利用方法がある。
以下、一部重複して述べるが、C3H6のような不飽和結合のHCが一時的に吸着してフッ素原子で結合を飽和させて解離する結晶面、すなわち、不活性前駆体結晶面に、MgO{001}面と同様の効果を発揮することを説明したCaF2{110}面、SrF2{110}面を混在させてあっても良い。これらが混在していても、不活性前駆体結晶面のF原子の提供に対し悪く影響はせず、また、不活性前駆体結晶面と、CaF2{110}面やSrF2{110}面を併用することで、不活性前駆体結晶面の位置を一部の位置に限定することもできる。不活性前駆体結晶面の位置を一部の位置に限定すれば、F原子へのHCの一時的な吸着位置を制御することが可能となる。これにより、例えば、F含有HC分子の流路を別経路として、F含有HC分子を回収するなど、何らかの副次的な効果を得ることも可能となる。さらに、不活性前駆体結晶面としてのCaF2{111}面と、CaF2{110}面とを混在させた方が作成が容易である等の作成上の事情があれば、HCの吸着を抑制するコーティング材料の作製を容易にするために、不活性前駆体結晶面とCaF2{110}面、SrF2{110}面とを混在させてもよい。
不活性前駆体結晶面は、既に述べた範囲では、CaF2{111}面、SrF2{111}面、SrF2{001}面がある。これらと、CaF2{110}面、SrF2{110}面とを混在させてもよいことは、すなわち、単結晶の表面に部分的な面の違いができてもよいことを意味する。単結晶の部分的な面の違いができてもよいことから、単結晶作製の一例である、結晶の核を液面に漬けてゆっくりと引き上げて結晶成長を一方向に絞る方法の中の引き上げる速度をやや高速化でき生産効率を上げるという効果も考えられる。なお、結晶の核とは、種結晶など、作製する単結晶の結晶成長の方向性のきっかけを作る元の材料を指す。
また、SrF2では、図17に示したとおり、{001}面と{111}面とに、吸着の有無という観点からは大差は無い。表面がSr原子で構成されている事により吸着しないか、表面がフッ素原子で構成されている事により、一時的にC3H6が吸着して結合をF原子で飽和させて解離するかのどちらかであり、C3H6が表面上に吸着してそのまま残るという事は起こっていない。加えて、図22に示したとおり、SrF2{110}面の状態ではC3H6は吸着していない。さらには、{110}面のSr原子とF原子の配置は、結晶面の切断場所を原子レベルの移動量だけシフトさせても表面構成は変わらない。以上のことから、SrF2の代表的な結晶面である、{001}面、{110}面、{111}面は、いずれにおいてもC3H6が表面上に吸着して残存する事が起こらない。
さらには結晶面の方位を細かく変えても、性状として、{001}面と{110}面の間、もしくは{110}面と{111}面の間にあると考えれば、SrF2は、HC分子が吸着して残存する結晶面が、計算上一つも現れない特別な結晶である。この結晶に限って言えば、多結晶であっても、単結晶の粉をばら撒いて固めた表面であっても、表面へHCの吸着が起こらない事がわかる。強いて言うのであれば、多結晶や単結晶の粉においては結晶粒子界面における原子配置は不安定化し、表面構成が元の構成と変わることが起こり得るので、その不安定に表面構成される結晶粒子界面だけが、唯一悪さする可能性が残る。但し、その反面、小さい粒子の固まりとした事で、最前面に突出する結晶面と、結晶と結晶との粒界による窪みとから、表面上に凹凸ができる。この凹凸によりHC吸着を抑制する効果が考えられる。前者の悪い点と後者の良い点を総じて考えれば、他の材料よりも吸着は起こりにくく、デポジット抑制効果があると考えられる。
次に、2族元素のフッ素化合物の他の例として、Fを含有するアパタイト、すなわちフルオロアパタイト(Ca5(PO4)3F)の吸着性を説明する。フルオロアパタイトの{111}面、{001}面の上にC3H6をそれぞれ配置して安定構造を計算させたのが図23(a)、(b)である。なお、{111}面は、最表面の原子を上面と下面とで変えた構成として計算を行なった。どちらの安定構造でもC3H6の吸着は起こっておらず、SrF2と同様に、結晶面を変えても吸着が起こらない特別な材料である事が分かる。なお、フルオロアパタイト{110}面の計算結果の図は省略したが、{001}面、{111}面と同様に、C3H6の化学吸着は起こらず、{110}面最表面の原子からC3H6が離れた状態で安定化した。
(2)1族のフッ素化合物に対するHC分子の吸着性
1族のフッ素化合物として、LiF、NaF、CsFを検討した。図24(a)、(b)は、それぞれ、LiF{001}面、LiF{110}面の計算結果を示す。図24(a)、(b)から分かるように、LiF{001}面、LiF{110}面は、いずれも、C3H6は吸着しない状態が安定であった。また、C3H6は、一時吸着してフッ素原子で結合を飽和させて解離することもなかった。すなわち、図22に示したCaF2{110}面、SrF2{110}面と同様の結果となった。
1族のフッ素化合物として、LiF、NaF、CsFを検討した。図24(a)、(b)は、それぞれ、LiF{001}面、LiF{110}面の計算結果を示す。図24(a)、(b)から分かるように、LiF{001}面、LiF{110}面は、いずれも、C3H6は吸着しない状態が安定であった。また、C3H6は、一時吸着してフッ素原子で結合を飽和させて解離することもなかった。すなわち、図22に示したCaF2{110}面、SrF2{110}面と同様の結果となった。
図25(a)、(b)は、それぞれ、NaF{001}面、NaF{110}面の計算結果を示す。図25(a)、(b)から分かるように、NaF{001}面、NaF{110}面も、LiF{001}面、{110}面と同様、C3H6は吸着しない状態が安定であった。また、C3H6は、一時吸着してフッ素原子で結合を飽和させて解離することもなかった。
図26は、CsFの計算結果を示す図であり、(a)はCsF{111}面(最表面がF原子)、(b)はCsF{111}面(最表面がCs原子)、(c)はCsF{100}面、(d)はCsF{110}面の計算結果を示す。これらの図から分かるように、CsFも、いずれの面でも、C3H6は吸着しない状態が安定であった。また、C3H6は、一時吸着してフッ素原子で結合を飽和させて解離することもなかった。ただし、CsF{111}面は、C3H6分子と結晶面との距離が比較的近く、CsF{100}面やCsF{110}面ほどには、デポジット抑制効果が得られない可能性もある。また、図27に示すように、CsF{111}面は、CsF{100}面、CsF{110}面よりも、吸着エネルギーが低く、このことからも、CsF{111}面は、CsF{100}面やCsF{110}面ほどには、デポジット抑制効果が得られない可能性がある。
図27は、これまでに説明した1族、2族の吸着エネルギーをまとめた表である。この表に吸着エネルギーを示している面は、全て、C3H6が結晶面に吸着しなかった面である。この表から分かるように、C3H6が結晶面に吸着しなかった面は、上記CsF{111}面を除いて、いずれも、同程度の吸着エネルギーであった。また、上述において採用した1族、2族のフッ素化合物は、いずれも少なくとも500℃ないし800℃を超える高融点を有する材料である。融点の詳細については、化学大辞典;共立出版(株)で調べれば明らかである。
(3)貴金属のフッ素化合物に対するHC分子の吸着性
次に、フッ素を含有する貴金属の例として、フッ化金を図28に示す。フッ化金は化学大辞典(共立出版)でも構造が明らかでない事が記載されているので、以下の手順で計算した。
(3)貴金属のフッ素化合物に対するHC分子の吸着性
次に、フッ素を含有する貴金属の例として、フッ化金を図28に示す。フッ化金は化学大辞典(共立出版)でも構造が明らかでない事が記載されているので、以下の手順で計算した。
図28(a)のように、金の{111}面の上下表面にF2分子を二つずつ配置する構成を初期配置とした。そして、初期配置から、構造最適化計算をして安定状態を得た(図28(b))。この安定状態では、上下双方とも、一方のF2分子はF原子2つに解離して金表面に吸着し、他方のF2分子は分子のまま吸着しなかった。この安定状態において、一方の表面は、解離したF原子2つだけを残してF2分子は削除し、他方の表面は安定状態をそのまま残した。このようにして得られた表面に、C3H6をそれぞれ配置した状態を、再度、初期配置とし(図28(c))、構造最適化計算を実施した。その結果が図28(d)である。なお、図28(d)の右図は、同図(d)左図を図上側から見た図である。図28(d)から分かるように、表面上の構成において移動はあるものの、C3H6の吸着状態の変化は現れなかった。すなわち、Au上にFが安定状態を形成してもHCは吸着しないことが分かる。
なお、図28(b)では、F2分子からF原子2つに解離したときに、F原子−F原子間の結合がビジュアル的には観られるが、これは元の結合した原子同士の間の結合が残っている事を示すものではなく、計算ソフトの機能に、結合の有無の変化をビジュアル上反映する機能がないだけである。
図29には、これまでに説明してきたフッ素含有化合物のデポジット抑制効果のまとめを示す。同図において、単なる「○」は、HC分子が一時的に吸着することもなく、HC分子が結晶面から離れて安定化したことを示す。この場合、当然、デポジット抑制効果がある結晶面といえる。また、「○」の下に不活性前駆体結晶面と記しているのは、既に説明した不活性前駆体結晶面であることを意味する。この不活性前駆体結晶面も、既に説明したように、デポジット抑制効果がある結晶面である。
ただし、上述はあくまでも、より良好なデポジット抑制効果を得るための構成を書いたものであり、MgO{110}面が、デポジット抑制効果を持たないという意味ではない。前述のとおり、HC分子では、化学吸着を起こすわけではなく、物理吸着に止まるからである。
また、これまでの説明では、ある結晶面がHC物質に対して不活性かどうかを第一原理計算上で推定していたが、これに限らず、他の計算方法により、無機物質からなる結晶面がHC物質に対して不活性かどうかを推定してもよい。また、計算ではなく、実験により、無機物質からなる結晶面がHC物質に対して不活性化どうかを決定してもよい。そして、何らかの方法によりHC物質に対して不活性であることが分かった結晶面をデポジット作用面の一部に用いれば、デポジット付着防止効果が得られる。なお、結晶面は、当然、複数種類を用いてもよい。
さらに、これまでの説明では、結晶面の構成に着目しており、第一原理計算によって、デポジット抑制効果のある結晶面を決定していた。しかしこれに限らず、デポジットに加わる応力に基づいて、デポジット抑制効果のある燃料噴射弁を設計してもよい。以下、具体的に説明する。
燃料噴射弁の噴口部において、燃料の流れにおける上流側(たとえば入り口)の断面(流れ方向に垂直な断面)中心から、燃料の下流側(たとえば出口)の断面中心への方向を角度零度の軸とする。上流側の断面における噴口部の端(内壁部)から、下流側の断面における噴口部の端(内壁部)への角度が、噴口通路の外部方向に40°以下で傾いて構成される噴口部を考える。
すなわち噴口部は出口方向に向かい広がっている形状でその広がる傾斜角が40°以下であるか、もしくは噴口部が出口方向に向かい狭くなっているか、狭くも広くもない形状で考える。この噴口部の上記上流側から下流側への壁面近傍において、一義的に形成される対流に伴って発生する応力が、付着物の高さが噴口の径に対し10%に到達したときの限界強度よりも大きくなるように燃料噴射弁を設計する。なお、一義的に形成される対流とは、流体力学的により計算される対流を意味し、たとえば、ナビエ-ストークス方程式を用いて求める。また、限界強度を算出する際の付着物は、その全部でも、また、一部でもよい。噴口の径という表記をしたが、円形に限定するわけではない。楕円でもよく、円形、楕円形に何らかの変化を加えた形でもよく、多角形でもよい。
計算により安定状態を求めた結果、HCの一部もしくは全体が表面上に接して吸着する状態となったとき、すなわち化学吸着をしたときには、付着物の付着強度が強く、燃料の流れにより付着物が流される効果は期待できない。
HC物質がコーティング材料から離れて安定化するときには物理吸着しか起こらず、燃料の流れに伴い、付着物は滞在せず流されていく事が期待できる。結果、噴口部分に付着物の堆積が起こりにくい。仮に堆積したとしても、てこの原理によりせん断応力が大きくなっていく。そして、ある程度の高さに到達すると、付着強度を上回り、付着物の堆積層は壊される。その結果、噴口部分が閉ざされにくくなり、あるいは閉ざされても少量で済むために大きな影響を与えない。
上記噴口部分での付着物の影響回避の限界を以下に詳述する。例えば、付着物が燃料噴射を阻害することによって、エンジン出力の低下が発生し、同時に排気性能の低下が発生する。両者を比較すると、より厳しい条件である排気性能では、A/F制御がなされており、概ね10%まではA/F制御で許容される。
上述の付着物の高さが噴口の径の10%に到達しようとするときに、燃料の対流に伴って発生する応力が、堆積した付着物の限界強度を超える構成となっていれば、付着物が発生しても、A/F制御でカバーできる範囲に常時おさまる。よって、何ら問題なく燃料噴射を継続することができる。
なお上述では、コーティング材料での吸着性に言及して効果を説明しているが、コーティング材料の改善、選択だけに限定するわけではなく、例えば、40°を超える極度な傾斜を形成することで、燃料はデポジットの影響を概ね受けずに通り抜けていく。このようにして問題を起こさないようにすることもできる。また、インジェクタ/もしくはそのノズルの材質を変えることで、付着強度を低下させてもよい。また、ノズルの表面に微細な凹凸をつけるか、もしくは表面を平滑度合いを従来よりも上げるなどの何らかの処置を施してもよい。
具体的一例を以下に説明する。上記入り口側の燃料の流出速度が120m/sec.であるときに、上記上流から上記下流側への壁面近傍において、一義的に形成される対流に伴って発生するせん断応力をP=5.5kPa(粘性係数0.003kg/(m・s))とする。また、堆積しても噴射弁の機能が損なわれないという条件下での、デポジット付着物の高さの最大値をt=10μmとする(ノズルの口径は100μm)。デポジットの付着形態を長方形の梁に例えると、長方形断面の断面係数より、デポジットを破断できる応力はσ=6×P×L/tで示される。ここで、Lはデポジットの入口−出口方向長さを示す。
デポジット付着中、最もデポジットが破断し難い形態をデポジット高さと同等長さL=tとし、その際に破断するために必要な応力は33kPaとなる。これは、ノズル径100μm程度での具体例である。この計算式に基づいて算出されるせん断応力の元で耐えるような付着をデポジットがしないように設計すればよい。その一案として、上述のごとくデポジットとの結合力が弱いコーティング材料を表面に選定し施すことが挙げられる。
本発明において、第一原理計算で表記したが、第一原理計算を採用した理由は、電子状態まで入れた厳密な計算結果を得られることによる。すなわち、第一原理という言葉には拘束されず、量子力学的に電子状態を含めて計算し厳密な計算ができればよく、現状においては、上記目的を達成するのが第一原理計算であることに起因する表記である。また密度汎関数法は、上記第一原理計算を速く完了する一手段であり、密度汎関数法には拘らない。
さらには、他の計算手法と組み合わせてもよい。例えば、分子動力学でおおよその構造を求める計算をし、その計算結果のモデルやその計算途中のモデルを第一原理計算に当てはめて、厳密な計算をしてもよい。すなわち、最終的に計算して求める計算手法が量子力学的な電子状態を含めた計算、例えば、第一原理計算であれば本発明に含まれる。
1:基板、 5:燃料溜り室、 6:エンジンヘッド、 10:ハウジング、 11:インジェクタ、 12:噴射制御用電磁弁部、 13:燃料噴射ノズル、 14:ノズルニードル、 15:ノズルボディ、 16:空間部、 17:燃料導入口、 18:当接部、 19:シート面、 20:噴孔、 21:燃焼室、 22:燃料噴射ノズル用取付孔、 23:ノズル先端面、 25:コーティング層110:引っ張り試験材、 112:サンプル、 114:デポジット、 116:剛体、 117:孔、 120:治具、 130:完全に剥離している部分、 132:デポジット残存部分、 134:結晶剥離部分、 140:基板材料、 142:フッ素化合物、 150:基板材料、 152:MgO(001)面単結晶、 251:コーティング層、 252:コーティング層
Claims (19)
- 燃料燃焼の際に発生するデポジットが作用するデポジット作用面の少なくとも一部に、無機物質からなる複数もしくは1つの特定の結晶面が露出しており、かつその露出している特定の結晶面は、
第一原理計算において、上記特定の結晶面上にHC物質を準備し、安定構造を計算により形成させた時に、上記HC物質内のH原子もしくはC原子が、前記結晶面上から離れて安定化する不活性な面で構成されている事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 請求項1において、
前記結晶面を形成する材料は酸化マグネシウムであり、その結晶面が、実質的に{111}面を含まない事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 請求項1または2において、
前記結晶面を形成する材料は酸化マグネシウムであり、その結晶面の少なくとも一部は{100}面であることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 請求項3において、
前記結晶面は、実質的に{100}面のみであることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 請求項2において、
前記露出している酸化マグネシウムの表面は、{111}面に加えて、{110}面も含まないことを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 燃料燃焼の際に発生するデポジットが作用するデポジット作用面の少なくとも一部に露出している複数もしくは1つの特定の結晶面が、結晶構成原子のみでは余分な結合手が生じてしまう原子によって構成される結晶による結晶面であって、この結晶構成原子の表面において前記余分な結合手に安定化原子が結合していることで表面が安定化している安定化結晶面であり、かつその露出している上記安定化結晶面は、
第一原理計算において、上記安定化結晶面上にHC分子を準備し、安定構造を計算により形成させた時に、上記HC分子内のH原子もしくはC原子が、準備された時の分子から位置を離し上記安定化結晶面上により近くなるまで移動して安定化する事が起きない、不活性な面で構成されており、なおかつ吸着エネルギーは−0.1Ha以上であり、前記結晶構成原子によって形成される結晶は、
共有結合性結晶であって、結晶構成原子だけのモデルにおいて、原子を移動せず、且つ、各原子の結合手を0.5Å以上近隣の同原子種の結合よりも長くしない場合には3価〜5価のイオンとなる原子を含んで構成されており、
表面を安定化させるための前記安定化原子からなる成分を含む特定の雰囲気下で、上記結晶構成原子からなる安定化前の結晶の結晶面を削り、上記安定化原子からなる成分を含む特定の雰囲気条件下にさらして前記安定化結晶面を形成した事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 燃料燃焼の際に発生するデポジットが作用するデポジット作用面の少なくとも一部に、SiCの表面上に安定化原子を配置して構成した安定化結晶面がある事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。
- 請求項7において、
前記安定化原子は、窒素原子ではない事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 請求項7及び8において、
前記安定化原子は、水素原子だけもしくは酸素原子だけであるか、あるいは水素原子と酸素原子の双方で構成されている事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 請求項1〜9のいずれか1項において、
前記無機物質を基材とし、該基材にフッ素化合物が結合されていることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 請求項1〜10のいずれか1項において、
前記結晶面の少なくとも一部は、前記結晶面のうちの他の部分に対して凸形状となっていることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 燃料燃焼の際に発生するデポジットが作用するデポジット作用面の少なくとも一部に、無機物質からなる複数もしくは1つの特定の結晶面が露出しており、かつその露出している特定の結晶面は、
第一原理計算において、上記特定の結晶面上にHC物質を準備し、安定構造を計算により形成させた時に、上記HC物質もしくはその内のH原子もしくはC原子が、前記結晶面上の構成原子と反応し、かつ反応後に上記結晶面から離れて安定化するという不活性前駆体結晶面を含んでいる事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 請求項12において、
前記不活性前駆体結晶面として、CaF2{111}面、SrF2{001}面、SrF2{111}面のいずれか少なくとも1種を実質的に含むことを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 請求項13において、
前記結晶面は、実質的に、前記不活性前駆体結晶面のみで構成されることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 燃料燃焼の際に発生するデポジットが作用するデポジット作用面の少なくとも一部は、特別な無機物質からなり、その特別な無機物質は、
第一原理計算において、上記特別な無機物質の結晶面上にHC物質を準備し、安定構造を計算により形成させた時に、上記HC物質内のH原子もしくはC原子が、前記結晶面上から離れて安定化する不活性な面を、{001}面、{110}面、{111}面の3種の面全てに有する事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 請求項15において、
前記特別な無機物質が、フルオロアパタイト、1族金属のフッ化物、フッ素を少なくとも表面にもつ不活性貴金属、SrF2の少なくともいずれかである事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 請求項1において、
前記不活性な面を形成する材料はCaF2であり、その不活性な面が、実質的に{110}面だけで構成されている、または、
前記不活性な面を形成する材料がMgF2であり、その不活性な面が、実質的に{111}面および{001}面のいずれかもしくは双方で構成されている事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - HC含有物質もしくはその改質物が流れ、それらの燃焼により発生するデポジットが作用するデポジット作用面の一部に、請求項12または請求項13に記載の不活性前駆体結晶面を配備し、
かつ、前記デポジット作用面のうち、前記不活性前駆体結晶面よりも、前記HC含有物質もしくはその改質物の流れにおける下流側にあたるデポジット作用面に、請求項1〜請求項5、17のいずれか1項に記載の不活性な面、請求項6〜請求項11に記載の安定化結晶面、請求項15または16に記載の特別な無機物質の結晶面、の少なくとも1種を配備した事を特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。 - 燃料燃焼の際に発生するデポジットが作用するデポジット作用面の少なくとも一部に、無機物質からなる複数もしくは1つの特定の結晶面が露出しており、かつその露出している特定の結晶面は、
第一原理計算において、上記特定の結晶面上にHC物質を準備し、安定構造を計算により形成させた時に、上記HC物質もしくはその内のH原子もしくはC原子が、前記結晶面上の構成原子と反応し、かつ反応後に上記結晶面から離れて安定化するという不活性前駆体結晶面が不飽和結合をもつ物質の雰囲気内に晒されて不活性化した結晶面を含んでいることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。
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