JP2011241461A - 溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板 - Google Patents

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朗 伊庭野
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喜臣 岡崎
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秀徳 名古
Tetsushi Deura
哲史 出浦
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Abstract

【課題】入熱量が100kJ/mm以上の溶接を行った場合のHAZ靭性に優れると共に、590MPa以上の高強度域において低降伏比(例えば80%以下)および良好な母材靭性を示す鋼板を提供する。
【解決手段】本発明は、C、Si、Mn、P、S、Al、Ti、Ca、N、REM、Zrの含有量を調整した鋼板であって、鋼中に存在する酸化物のうち、酸化物中の酸素を除く構成元素の合計に対する割合で、Ti>10%、Al<20%、5%<Ca<40%を含有すると共に、5%<REM<50%および/または5%<Zr<40%を含有し、さらにAl/(REM+Zr)<0.7の関係を満たす酸化物であって、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当たり300個以上であり、円相当直径が2μm以上のものが1mm2当たり100個以下であり、さらに鋼中に存在するTi含有窒化物の個数を調整することを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板である。
【選択図】なし

Description

本発明は、主に建築用構造物などに用いられる靭性に優れた高張力鋼板に関し、特に入熱量が100kJ/mm以上となるような大入熱溶接を行った際の溶接熱影響部(以下、「HAZ」と呼ぶ。)の靭性が改善されるとともに、母材靭性にも優れ、さらに低降伏比である590MPa以上の厚鋼板に関するものである。
主に建築構造物などに使用される鋼材に要求される特性として、特に良好な靭性が挙げられ、近年その要求レベルは益々厳しくなっている。前記用途に用いられる鋼材は、一般的に溶接によって接合されることが多いが、特にHAZは溶接時に熱影響を受けているため靭性が劣化しやすいという問題がある。この靭性劣化は、溶接時の入熱量が大きくなるほど顕著に現れ、HAZ靭性を劣化させないという観点からは溶接時の入熱量を極力抑えることも考えられるが、近年では溶接の作業効率高めるために溶接入熱量を100kJ/mm以上に高めた大入熱溶接法が指向される状況にある。
大入熱溶接を行った場合のHAZ靭性を高める技術として、高Ni鋼板が挙げられ、例えば特許文献1には2%程度のNiを添加することによって強度および靭性を向上させた鋼板が開示されている。しかし、Niは非常に高価な元素であるため工業的にはその添加量をできるだけ低く抑えることが好ましい。
また上記特許文献1のように高Niとすることなく、例えばNi量は1.5%程度以下とした上でHAZ靭性を高める技術についても種々検討されている。大入熱溶接は、HAZが高温のオーステナイト(γ)領域に長時間保持された後、徐冷されるため、加熱時のγ粒成長および徐冷過程での粗大フェライト(α)粒生成が生じ、組織の粗大化による靭性劣化が生じやすくなる。こうしたことから、大入熱溶接における組織粗大化を抑制する観点からHAZ靭性を高める技術が必要とされている。
大入熱溶接によるHAZ組織の粗大化を抑制してHAZ靭性を確保するための主な手段として、従来から酸化物、窒化物、硫化物等の介在物粒子によるγ粒成長ピン止め(以下、「γピン止め」と呼ぶ)、および前記介在物粒子を起点とする粒内α生成による組織の微細化等が提案されている。このような技術としては、例えば特許文献2〜4が挙げられる。特許文献2〜4では、鋼材中に微細なTi含有窒化物を分散析出させγピン止め粒子として作用させることによって、大入熱溶接を行ったときのHAZでのγ粒の粗大化を抑制し、HAZ靭性の劣化を抑制している。しかし、Ti含有窒化物は近年求められているような大入熱で溶接すると消失してしまう量が多く数密度を十分確保できないことがあり、安定したHAZ靭性を得ることは困難である。
これに対して、高温で安定な酸化物系介在物をγピン止め粒子として利用する技術も提案されている(例えば、特許文献5〜7)。しかし、酸化物系介在物はTi含有窒化物に比べて数密度が少なく、十分なピン止め効果を得ることは困難であるため、入熱量が100kJ/mm以上にも及ぶような大入熱溶接に対しては、なお一層の工夫が必要である。すなわち、特許文献5および6の技術では、Ti−REM−Ca−Al系酸化物や、REMやZrを含む酸化物を存在させることによって良好なHAZ靭性が得られるとは言うものの、想定した入熱量は低い水準にとどまっており、100kJ/mm以上の大入熱溶接で良好なHAZ靭性が得られているとはいえない。また、特許文献7の技術は、上記特許文献6と同様に、REMやZrを含む酸化物を利用するものであるが、HAZ靭性としてシャルピー吸収エネルギーの平均値を評価しているものの、材料の信頼性という観点では平均値のみならず最小値も高い水準に保障する必要がある。
また、特許文献8は酸化物系介在物とTi含有窒化物の両方をピン止め粒子として利用することでHAZ靭性を向上させる技術が開示されているが、近年の入熱量増大傾向を考慮すると、Ti含有窒化物によるピン止めを主体とした組織制御には限界があり、酸化物系介在物による組織制御を主体とした大入熱でのHAZ靭性向上技術を早急に確立する必要がある。
粒内α生成の起点として作用させるために酸化物系介在物を導入する技術としては、TiやREMを含む複合酸化物とMnSを利用した技術(例えば特許文献9)が提案されている他、介在物形状を制御することで粒内αの生成を促進する技術が提案されている(例えば特許文献10)。これらの技術では、粒内αの生成を促進させるために、粒内αと介在物との界面エネルギー(以下、「(粒内α/介在物)界面エネルギー」と示す。)の低い介在物が有効であると開示されている。しかしながら、特許文献9の技術では、そもそも想定している入熱量が小さく、特許文献10においてもシャルピー吸収エネルギーの平均値はある程度確保されているものの、最小値は十分な水準に達していないのが現状である。
ところで、建築用構造物に用いられる鋼材には、上記した通り高いHAZ靭性が要求される一方で、母材の強度、低降伏比、および母材靭性も要求される。例えば、強度については、近年では建築物が高層化、大スパン化するに伴い、590MPa以上の高張力鋼材を使用する動きが強まっている。例えば特許文献11では、微細な炭窒化物を分散させるとともに、フェライトを一定量以上確保することによって、引張強度が590MPa以上の鋼板で低降伏比を実現している。しかし、特許文献11に係る技術は、入熱量が100kJ/mm以上の大入熱溶接を施した場合のHAZ靭性に着目したものではない。また、特許文献12では酸化物系介在物を分散させるとともに、所定分率のフェライト相を導入することで590MPa以上の鋼板で低降伏比を実現しているが、対象としている入熱量が小さい。
以上の通り、入熱量が100kJ/mm以上の大入熱溶接を施した場合のHAZ靭性を確保するとともに、母材の強度と靭性を向上させ、さらに低降伏比を実現した技術は未だ提案されていない。
特開2006−118007号公報 特開2001−98340号公報 特開2004−218010号公報 特開昭61−253344号公報 特開2001−20031号公報 特開2007−100213号公報 特開2007−247005号公報 特開2008−223062号公報 特開平7−252586号公報 特開2008−223081号公報 特許第2901890号公報 特開2007−247004号公報
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、入熱量が100kJ/mm以上の溶接を行った場合のHAZ靭性に優れると共に、590MPa以上の高強度域において低降伏比(例えば80%未満)および良好な母材靭性を示す鋼板を提供することにある。
上記課題を解決した本発明とは、C:0.02〜0.15%(質量%の意味。以下、同じ。)、Si:0.01〜0.35%、Mn:1.0〜2.0%、P:0.030%以下(0%を含まない)、S:0.015%以下(0%を含まない)、Al:0.050%以下(0%を含まない)、Ti:0.010〜0.08%、Ca:0.0005〜0.010%、N:0.002〜0.0200%を含有するとともに、REM:0.0001〜0.020%および/またはZr:0.0001〜0.020%を含有し、残部は鉄および不可避不純物である鋼板であって、鋼中に存在する酸化物のうち、酸化物中の酸素を除く構成元素の合計に対する割合で、Ti>10%、Al<20%、5%<Ca<40%を含有するとともに、5%<REM<50%および/または5%<Zr<40%を含有し、さらにAl/(REM+Zr)<0.7の関係を満たす酸化物であって、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当たり300個以上であり、円相当直径が2μm以上のものが1mm2当たり100個以下であり、さらに、鋼中に存在するTi含有窒化物であって、円相当直径が100nm以下のものが1mm2当たり5×106個以上存在することを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板である。
なお、上記した円相当直径とは、各酸化物の面積と等しくなる円の直径を意味し、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察される酸化物を画像解析することによって求めることができる。
本発明の厚鋼板は、必要に応じて(a)Ni:1.5%以下(0%を含まない)、Cu:1.5%以下(0%を含まない)、Cr:1.5%以下(0%を含まない)、およびMo:1.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上、(b)Nb:0.1%以下(0%を含まない)および/またはV:0.1%以下(0%を含まない)、(c)B:0.005%以下(0%を含まない)を含有することも好ましい態様である。
本発明によれば、鋼板の化学組成が適切に制御され、所定の化学組成を有する酸化物をその大きさに応じて適切に分散させており、さらに微細なTi含有窒化物を所定以上確保しているため、100kJ/mm以上の大入熱溶接を行った場合でも良好なHAZ靭性を確保できるとともに、HAZ靭性のばらつきを抑制することができ、さらに低降伏比および良好な母材靭性を示す高強度厚鋼板を実現することができる。したがって、本発明の厚鋼板は高層建築物などの溶接構造物として好適である。
従来までの技術では、粒内αの生成には(粒内α/介在物)界面エネルギーを低くすることが有効であるとの考えに基づいた介在物制御が行われてきた。本発明者らは、酸化物系介在物の分散によって良好なHAZ靭性を確保するために検討を重ねた結果、粒内αの生成には、(粒内α/介在物)界面エネルギーだけでなく、粒内αとγとの界面エネルギー(以下、「(粒内α/γ)界面エネルギー」と示す。)を低減することが有効であることを見出し、先に出願している(特願2009−184779号。以下、「先願発明」と呼ぶ)。先願発明における酸化物系介在物の制御は、主に50〜60kJ/mmの入熱条件に対して検討されており、HAZの高温加熱で液体化しやすい介在物組成とすることによって、(粒内α/γ)界面エネルギーを低減し、粒内α生成を促進している。
本発明では、先願発明の酸化物系介在物の制御の思想を踏襲しつつ、より高い入熱量(100kJ/mm以上)を想定したHAZ靭性の向上を図るとともに、さらに高強度鋼(引張強度が590MPa以上)における母材靭性の向上および低降伏比を実現するために検討を重ねた。
まず、HAZ靭性の向上という観点から検討すると、入熱量が100kJ/mm以上の溶接では、従来の入熱条件と比較してHAZの高温での保持時間が長く、かつ冷却速度が遅くなる。このような高い入熱量で溶接した場合、酸化物系介在物に与える影響として主に以下の二つが挙げられる。第一に、高温での保持時間が長くなると、酸化物系介在物が液体化しやすくなり粒内α生成を促進する方向に作用する。第二に、冷却速度が遅くなることは、一度液体化した酸化物系介在物が再び固化し結晶化するまでに酸化物系介在物中での相分離が促進されることとなり、高い(粒内α/介在物)界面エネルギーを有する表面積の割合が増加し、粒内αの生成を阻害する方向に作用する。従って、入熱量が100kJ/mm以上の場合にHAZの粒内αの生成を促進して高いHAZ靭性を確保するためには、従来とは異なる適切な酸化物系介在物の制御が必要である。特に100kJ/mm以上の入熱量では、上記した相分離によって粒内αの生成を阻害する作用の影響が大きくなるため、粒内αの生成を十分に促進できる介在物の制御が必須であると考えた。
次に、母材靭性の向上および低降伏比の観点から検討する。上記した通り酸化物系介在物は粒内α生成の起点となることでHAZ靭性の向上に寄与することができるとともに、核生成サイトが多くなると、比較的高温でベイナイト変態するため、比較的低降伏比となる。一方で酸化物系介在物そのものが破壊の起点となり母材靭性を低下させるという不具合もある。またその不具合の影響度は、強度クラスが増すほど大きくなることが一般的に知られている。従って、高強度鋼に酸化物系介在物を導入するにあたっては、母材靭性を低下させないための工夫が必要である。母材靭性を向上させる手段としては、鋼材の熱処理を工夫することで鋼材組織の微細化を行うことが挙げられる。しかし、熱処理は工程を煩雑にするため工業的には好ましくない。従って、母材靭性の向上も酸化物系介在物による粒内α生成を促進することによって行うのが好ましいと考えられる。但し、母材組織はHAZ組織と比較して旧γ粒径が小さい。組織のサイズは、常に粒内からのα生成と旧γ粒界からのα生成とのバランスによって決まるため、旧γ粒径が小さい場合とはすなわち、粒界からのα生成の勢力が相対的に大きくなっているといえる。そのため、粒内α生成による組織微細化効果は、母材においてはその効果が発揮されにくい。従って、酸化物系介在物制御による粒内αの生成を促進し、母材組織を微細化するためには、介在物組成を高度に制御する必要がある。
以上のように、HAZ靭性の向上、低降伏比の実現および母材靭性の向上という観点から酸化物系介在物の制御を試みた。その結果、酸化物中の酸素を除く構成元素の合計に対する質量割合で、Ti>10%、Al<20%(0%を含まない)、5%<Ca<40%を含有するとともに、5%<REM<50%および/または5%<Zr<40%を含有し、さらにAl/(REM+Zr)<0.7の関係を満たす酸化物(以下、「本発明の酸化物」と呼ぶ場合がある。)は、HAZの高温加熱において液体化すると共に、その後の冷却過程で粒内α生成に有利な結晶構造を有して結晶化するため、(粒内α/γ)界面エネルギーの低減に加えて、一層低い(粒内α/介在物)界面エネルギーを実現することができ、その結果粒内αの生成が活発に促進されることを見出した。さらにこのように高度に組成が制御された本発明の酸化物は、母材における粒内α生成促進により母材組織を微細化して母材靭性を確保できるとともに、低降伏比を実現することができ、HAZ靭性、降伏比、および母材靭性のいずれの特性もバランス良く確保することができることが判明した。
酸化物の組成が上記範囲を外れると、HAZにおける酸化物の液体化および結晶化が進行せず、粒内αの生成が促進されなくなる。
また、上記組成範囲を満足する酸化物の個数について、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当たり300個以上存在するようにする。円相当直径が2μm未満の酸化物が不足すると、HAZ高温加熱による液体化が十分に進行せず粒内α生成量が減少し、HAZ靭性が却って低下する。また円相当直径が2μm未満の上記酸化物の個数が300個未満であると粒内α生成の起点が不足するため、やはり粒内αの生成量が確保できず、十分なHAZ靭性を得ることができない。上記酸化物のうち、円相当直径が2μm未満のものの1mm2当たりの個数は、好ましくは350個以上であり、より好ましくは400個以上である。
上記組成を満足する酸化物のうち、円相当直径が2μm以上のものは、脆性破壊を助長しHAZ靭性を劣化させるので、できるだけ少ないほうが良い。そこで、円相当直径が2μm以上の前記酸化物が1mm2当たり100個以下となるようにすれば、HAZ靭性が平均値だけでなく最小値も高い水準を確保することができ、安定して優れたHAZ靭性を実現することができる。円相当直径が2μm以上の前記酸化物の1mm2当たりの個数は、好ましくは85個以下であり、より好ましくは70個以下である。
なお、本発明の酸化物は、酸化物中のTi、Al、Ca、REM、Zrが酸素を除く構成元素の合計に対して上記のように所定範囲となっていればよく、酸素を除く構成元素にはこれら元素の他、SiやMn等の他の元素を含むことは当然に許容される。また、本発明の酸化物は通常、酸素以外の上記元素を含んだ複合酸化物の形態で存在している。さらに上記Al/(REM+Zr)の値の算出に際し、酸化物がREMまたはZrを含んでいない場合にはその含有量を0として計算すれば良い。
以上の通り、本発明の厚鋼板は、組成が適切に制御された酸化物の個数が、サイズに応じて適切に調整されているため、HAZ靭性が平均値のみならず最小値も所定以上に高められており、かつ母材靭性にも優れている。
本発明では、上記酸化物の制御に加えてさらに補助的に微細なTi含有窒化物によってHAZの旧γ粒のピン止めを行う点にも特徴を有している。本発明におけるTi含有窒化物は、TiNを含むことは勿論のこと、TiNのTiの一部(原子比で50%以下程度)を他の窒化物形成元素(例えば、Nb、Zr、V等)で置換した窒化物も包含する趣旨である。溶接の入熱前において比較すると、Ti含有窒化物は微細分散することにより、その数密度は酸化物系介在物と比較して非常に多く確保することが可能であるため、大入熱溶接によってTi含有窒化物の多くが消失しても、まだなおTi含有窒化物を残存させ数密度を確保することができ、この残存した微細なTi含有窒化物によって旧γ粒ピン止め効果を有効に発揮させることができる。HAZ靭性のばらつきを小さくするため、すなわちHAZの平均値のみならず最小値も高水準に保つために、Ti含有窒化物は円相当直径が100nm以下のものを1mm2当たり5×106個以上とする。1mm2当たり5×106個未満であれば、有効なピン止め効果を発揮することができないためである。円相当直径が100nm以下のTi含有窒化物の個数は、1mm2当たり、好ましくは5.4×106個以上であり、より好ましくは6.5×106個以上である。本発明で対象とするTi含有窒化物の円相当直径の下限は特に限定されないが、後記する実施例で用いるTEMの測定限界から、円相当直径の下限は10nm程度である。
化学組成が適切に制御された本発明の酸化物を、サイズごとに上記のように調整するためには、溶製時および鋳造時の条件を適切に制御することが好ましい。すなわち(i)溶製時における溶鋼中の溶存酸素量、(ii)酸化物形成元素(Ti、Al、Ca、REM、Zr)の添加順序および(iii)前記酸化物形成元素のうち、Ti添加からCa添加までの時間、(iv)最後の酸化物形成元素(Ca)を添加してから鋳込み開始までの時間、さらに(v)鋳造時における所定の温度範囲での冷却時間を適切に制御することが有効である。更に、本発明の酸化物のうち円相当直径が2μm未満のものを所定以上確保するためには、上記(i)〜(v)に加えて、(vi)酸化物系形成元素の添加量を相互に制御することも重要である。以下、(i)〜(vi)について詳述する。
(i)溶製時における溶鋼中の溶存酸素量について
まず、溶製に際してMnおよびSiを用いた脱酸により溶存酸素量を0.002〜0.01%とするのが好ましい。溶存酸素量が0.002%未満であると、本発明の酸化物を必要量確保することができず、一方、0.01%を超えると粗大酸化物が形成されて靭性に悪影響を及ぼす。溶存酸素量はより好ましくは0.0025%以上、0.008%以下である。
(ii)酸化物形成元素の添加順序について
Al、Ti、REM、Zr、Caの酸化物形成元素をAl→Ti→(REM、Zr)→Caの順に添加するのが良い。これ以外の順序で添加すると、粒内α生成の起点として好適な組成を有する酸化物が必要量確保できなくなる。特にCaは、脱酸力が極めて強いため、TiやAlに先立って添加すると、TiやAlと結びつく酸素が全てなくなってしまうことがあり、上記した所望の組成を有する酸化物を形成させることができない。なお、REMおよびZrをいずれも添加する場合、REMおよびZrの添加順序はどちらが先であっても良いし、同時に添加してもよい。
(iii)前記酸化物形成元素のうち、Ti添加からCa添加までの時間
前記酸化物形成元素のうち、Ti添加からCa添加までの時間t1(分)は3〜20分とするのが良い。t1が3分よりも短くなると、Ca添加に先立って添加した元素による酸化物生成が十分進行せず、粒内α生成の起点となる適切な組成の酸化物を必要量得られなくなる。またt1が20分を超えると、Ca添加までに酸化物の生成が過剰に進行し、酸化物の組成が所望のものとならず、粒内α生成の起点となり得る適切な組成の酸化物を必要量得られなくなる。t1(分)は、より好ましくは5分以上、15分以下である。
(iv)最後の酸化物形成元素(Ca)を添加してから鋳込み開始までの時間
Caを添加してから鋳込み開始までの時間t2(分)は、下記式(1)、(2)でそれぞれ表されるta、tbとの関係でta<t2<tbとなるように制御することが好ましい。
ta=4−10×[Ca]/([Ti]+2[Al]+5[REM]+2[Zr]+0.01)…(1)
tb=25−40×[Ca]/([Ti]+2[Al]+5[REM]+2[Zr]+0.01)…(2)
上記式(1)、(2)において、[Ca]、[Ti]、[Al]、[REM]および[Zr]は、夫々Ca、Ti、Al、REMおよびZrの溶鋼への添加量(質量%)を示す。なお、上記[Ca]、[Ti]、[Al]、[REM]および[Zr]は、得られた鋼材中のCa量、Ti量、Al量、REM量およびZr量と必ずしも一致するわけではない。これは、これらの元素が蒸発したり、スラグ中に含まれて除去されたりする場合があるためである。
Caを添加してから鋳込み開示までの時間t2(分)は、Ca添加前に生成した他の酸化物からCaが酸素を奪って酸化物を形成するのに要する時間であり、この時間がta以下になると、Ca添加後のCa含有酸化物の形成反応が十分に進行せず、粒内α生成の起点となり得る適切な組成を有する酸化物を確保できなくなる。またt2がtb以上になると、Ca添加後のCa含有酸化物の形成反応が過剰に進行し、これもまた粒内α生成の起点となるための適切な組成を有する酸化物を確保できなくなる。生産性の観点から実質的には、t2は上記範囲を満足し、かつできるだけ短時間であることが好ましい。なお、上記式(1)、(2)は、上記元素の酸化物形成能を考慮し、数多くの実験から求められた式である。
(v)鋳造時における所定の温度範囲での冷却時間について
鋳造時の1500〜1450℃における冷却時間t3(秒)は300秒以下とすることが好ましい。t3が300秒を超えると粗大な酸化物、すなわち円相当直径2μm以上の酸化物の生成量が増加し、HAZ靭性が劣化することになる。t3はより好ましくは280秒以下である。t3の下限は特に限定されないが、通常190秒程度である。
(vi)酸化物系形成元素の添加量を相互に制御することについて
Ca添加量は、下記式(3)、(4)により求められるA値、B値との関係でA≦[Ca]≦Bの範囲に調整するのが好ましい。下記式(3)、(4)で規定されるA値およびB値は、数多くの実験から求められた式である。
A=2.25×[Of]・・・(3)
B=[Of]×[Ti]/(0.25×[REM]+0.12×[Zr])・・・(4)
上記式(3)、(4)において、[Of]はCa添加前の溶存酸素量(質量%)、[Ti],[REM]および[Zr]は、夫々Ti,REMおよびZrの溶鋼への添加量(質量%)を示す。
Ca添加量がA値未満であると、添加したCaの大部分がCaの単独酸化物として消費されるため、粒内α生成の起点となるための適切な組成を有する酸化物を確保できなくなる。一方、Ca添加量がB値を超えると、酸化物中のTiの比率が小さくなり、これもやはり粒内α生成の起点となるための適切な組成を有する酸化物を確保できなくなる。
さらにAl添加量、REM添加量およびZr添加量は[Al]/([REM]+[Zr])<1.0となるように制御すれば良い。[Al]/([REM]+[Zr])の値が1.0以上となると、酸化物中のAlの割合が高くなり、その結果(粒内α/介在物)界面エネルギーの高い介在物が増加し、粒内α生成能が低下してしまう。[Al]/([REM]+[Zr])の値は、より好ましくは0.9以下である。
また上記酸化物を得るための好ましい条件に加えて、本発明のTi含有窒化物を所定以上確保するためには、(vii)添加Si量と、Siよりも脱酸能の高い元素の合計添加量を調整するとともに、(viii)Ca添加から鋳込み開始までの時間を、上記した(iv)の要件に加えてさらに厳しく制御することが好ましい。
(vii)添加Si量と、Siよりも脱酸能の高い元素の合計添加量の調整について
本発明のTi含有窒化物を所定量確保するためには、Tiの活量を上昇させる固溶Si量を鋼材中に確保することが有効である。Si量は脱酸前(Ca、Ti、Al、REMおよびZrによる脱酸)から添加されており、製鋼工程で一定量酸化されるため、前記した固溶Si量を確保するためには、添加Si量を0.01%以上とするとともに、酸化された状態のSiを還元するためにSiよりも脱酸能の高い元素、すなわちAl、Ti、Ca、REM、Zrの添加量の合計を0.020%以上とすることが有効である。添加Si量はより好ましくは0.02%以上であり、さらに好ましくは0.10%以上である。Al、Ti、Ca、REM、Zrの添加量の合計はより好ましくは0.025%以上であり、さらに好ましくは0.030%以上である。
(viii)Ca添加から鋳込み開始までの時間について
Ca添加から鋳込み開始までの時間t2(分)は、本発明の酸化物を必要量確保するためにta<t2<tbとすることが好ましい旨を上記(iv)で説明したが、Ti含有窒化物を所定以上確保する観点からはさらに下記式(5)で表されるtxとの関係で、ta<tx<t2<tbの関係を満たすように制御することが有効である。
tx=6−([Si]/([Ti]+2[Al]+5[Ca]+5[REM]+2[Zr]+0.01))・・・(5)
Siは脱酸前から添加されており、脱酸直前まで酸化された状態にある。固溶Si量を所定以上確保するためには、Siより酸素との親和力の大きい強脱酸元素によって、酸化されたSiを十分な時間還元する必要があるためt2>txとするのが好ましい。一方で、本発明の酸化物(粒内α生成の起点となるように適切に成分調整された酸化物)との両立を図るため、Si酸化物の還元に要する時間は所定以下にする必要があり、t2<tbとする。
次に、本発明の厚鋼板における化学成分について説明する。本発明の厚鋼板は上記した酸化物およびTi含有窒化物によってHAZ靭性および母材靭性を向上させることができるが、これらに加えて夫々の化学成分を適切に調整することによって、本発明で目標とする高度なHAZ靭性と母材靭性を達成することができ、さらに低降伏比を実現することができる。なお、以下に説明する成分のうち、上記した酸化物中に含まれる元素(Ti、Al、Ca、REM、Zr)の含有量は酸化物中に含まれる量も含めた値である。
C:0.02〜0.15%
Cは、鋼板の強度を確保するために欠くことのできない元素である。C含有量が0.02%未満では鋼板の強度が確保できない。C量は好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.04%以上である。一方、C量が過剰になると硬質な島状マルテンサイト(MA)が多く生成して母材の靭性の劣化を招くこととなる。従って、C量は0.15%以下と定めた。C量は好ましくは0.12%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
Si:0.01〜0.35%
Siは、固溶強化によって鋼板の強度を確保するのに有用な元素であるとともに、Ti含有窒化物の数密度を確保するためにも必要な元素である。そこでSi量を0.01%以上と定めた。Si量は、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.08%以上である。一方、Si量が過剰になると、硬質な島状マルテンサイト(MA)が多く生成して母材の靭性劣化を招くことになる。従って、Si量を0.35%以下と定めた。Si量は好ましくは0.32%以下であり、より好ましくは0.30%以下、さらに好ましくは0.25%以下である。
Mn:1.0〜2.0%
Mnは、鋼板の強度を確保する上で有用な元素であり、こうした効果を有効に発揮させるため、Mn量を1.0%以上と定めた。Mn量は、好ましくは1.3%以上であり、より好ましくは1.4%以上である。一方、Mn量が過剰になるとHAZの強度が上昇しすぎて靭性が劣化する。そこでMn量は2.0%以下と定めた。Mn量は好ましくは1.8%以下であり、より好ましくは1.6%以下である。
P:0.030%以下(0%を含まない)
Pは、不純物元素であり、粒界破壊を起こしやすく靭性に悪影響を及ぼすため、その量はできるだけ少ないことが好ましい。母材およびHAZの靭性を確保するという観点からはP量は0.030%以下であり、より好ましくは0.020%以下であり、さらに好ましくは0.010%以下である。P量の下限は特に限定されないが、工業的に鋼中のP量を0%にすることは困難である。
S:0.015%以下(0%を含まない)
Sは、MnSを形成して母材の靭性を劣化させる不純物であり、その量はできるだけ少ないことが好ましい。母材靭性を確保するという観点から、S量は0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下であり、さらに好ましくは0.008%以下である。S量の下限値は特に限定されないが、工業的に鋼中のS量を0%にすることは困難である。
Al:0.050%以下(0%を含まない)
Alは、上記した通り、Ti、Ca、およびREM、Zrの添加に先立って添加することによって、粒内α生成に有効な酸化物を形成できるため有用な元素である。こうした作用を有効に発揮させるため、Al量は0.003%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.005%以上であり、さらに好ましくは0.010%以上である。一方、Al量が過剰になると粗大な酸化物が生成して母材およびHAZの靭性が劣化する。そこで、Al量は0.050%以下と定めた。Al量は好ましくは0.04%以下であり、さらに好ましくは0.03%以下である。
Ti:0.010〜0.08%
Tiは、Alの添加後、REM、ZrおよびCaの添加に先立って添加することによって、粒内αの生成に有効な酸化物を形成してHAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果を有効に発揮させるため、Ti量は0.010%以上と定めた。Ti量は、好ましくは0.012%以上であり、より好ましくは0.015%以上である。一方、Ti量が過剰になると粗大な酸化物が多く生成してHAZ靭性が劣化する。そこでTi量は0.08%以下と定めた。Ti量は好ましくは0.060%以下であり、より好ましくは0.040%以下である。
Ca:0.0005〜0.010%
Caは、Tiを添加してから3〜20分の間に添加することによって、粒内α生成に有効な酸化物を形成してHAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果を有効に発揮させるため、Ca量は0.0005%以上と定めた。Ca量は、好ましくは0.0008%以上であり、より好ましくは0.0010%以上である。一方、Ca量が過剰になると粗大な酸化物が生成して母材およびHAZ靭性が劣化する。そこでCa量は0.010%以下と定めた。Ca量は、好ましくは0.008%以下であり、より好ましくは0.007%以下である。
N:0.002〜0.0200%
Nは、高温で溶け残るTi含有窒化物を形成することによって母材およびHAZの靭性を確保する上で有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるため、N量は0.002%以上と定めた。N量は、好ましくは0.003%以上であり、より好ましくは0.004%以上である。一方、N量が過剰になると、固溶N量が増大して歪時効によって母材およびHAZの靭性が劣化する。そこでN量は0.0200%以下と定めた。N量は、好ましくは0.018%以下であり、より好ましくは0.013%以下である。
REM:0.0001〜0.020%および/またはZr:0.0001〜0.020%
REM(希土類元素)およびZrは、Tiの添加後であってCaの添加に先立って添加することによって、粒内α生成に有効な酸化物を形成してHAZ靭性を向上させるのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させるため、REM量およびZr量はいずれも0.0001%以上と定めた。REM量およびZr量はいずれも、好ましくは0.0005%以上であり、より好ましくは0.0010%以上である。一方、これら元素の含有量が過剰になると、酸化物が粗大になって母材およびHAZ靭性を劣化させる。そこでREM量およびZr量はいずれも0.020%以下と定めた。REM量およびZr量はいずれも、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。なお、本発明においてREM(希土類元素)とは、ランタノイド元素(LaからLuまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味である。
本発明の厚鋼板の基本成分は上記の通りであり、残部は実質的に鉄である。但し、原料、資材、製造設備等の状況によって不可避的に持ち込まれる元素が混入することは当然に許容される。また、必要に応じて下記の元素を含有させることも有効であり、さらに鋼板の特性を向上させることができる。
Ni:1.5%以下(0%を含まない)、Cu:1.5%以下(0%を含まない)、Cr:1.5%以下(0%を含まない)、およびMo:1.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上
Ni、Cu、CrおよびMoは、いずれも鋼板の高強度化に有効な元素である。そこでNi、Cu、CrおよびMo量は、いずれも0.05%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.10%以上である。しかし、コストの観点からNi量は1.5%以下とすることが好ましく、より好ましくは1.2%以下である。また、Cu、CrおよびMoは、これら元素の含有量が過剰になると、強度の過大な上昇を招き、母材およびHAZの靭性が劣化するためいずれも1.5%以下とすることが好ましく、より好ましくは1.2%以下である。
Nb:0.1%以下(0%を含まない)および/またはV:0.1%以下(0%を含まない)
NbおよびVは、炭窒化物として析出し、γ粒粗大化を抑制することで母材靭性を向上させるのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させるため、Nb量およびV量はいずれも0.002%以上とするのが好ましい。Nb量およびV量はいずれも、より好ましくは0.005%以上であり、さらに好ましくは0.008%以上である。一方、これら元素が過剰になると、HAZ組織の粗大化を招き、HAZ靭性が劣化する。そこでNb量およびV量はいずれもは0.1%以下が好ましく、より好ましくは0.08%以下であり、さらに好ましくは0.05%以下である。
B:0.005%以下(0%を含まない)
Bは、粗大な粒界αの生成を抑制することで、母材およびHAZの靭性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果を有効に発揮させるため、B量は0.0010%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.0015%以上である。一方、B量が過剰になるとオーステナイト粒界でのBNの析出を招き、母材およびHAZの靭性が劣化する。そこでB量は0.005%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.004%以下であり、さらに好ましくは0.003%以下である。
本発明の鋼板を製造するにあたって、上記した(i)〜(viii)の要件以外の製造条件は特に限定されないが、溶製・鋳造の後に、得られた鋳片を加熱して熱間圧延し、熱間圧延後焼入れし、さらにオーステナイト・フェライト二相域で加熱した後、焼入れ焼戻し処理を行うことが推奨される。
熱間圧延後の焼入れは、熱間圧延直後に行う直接焼入れ(DQ)の他、熱間圧延材を用いてオフラインで再加熱して焼入れ(RQ)を行ってもよい。なお、上記DQ処理の場合には、やり直しがきかないことから、上記RQ処理の場合よりも、焼入れ開始温度の厳格な温度管理が要求される。
また、上記オーステナイト・フェライト二相域で加熱して焼入れ(例えばRQ)した後は、フェライト変態開始温度(Ac1点)以下の温度で焼戻し、鋼材の強度を調整することが好ましい。
本発明の厚鋼板とはJIS2402で定義されるように板厚が3.0mm以上であるものを指す。本発明の厚鋼板は、板厚が50mm以上となるような鋼板に対して、入熱量が100kJ/mm以上の大入熱溶接を行った場合にその効果が最も有効に発揮されるが、3.0mm以上、50mm未満の板厚の鋼板を排除するものではない。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
表1、2に示す各種成分組成(Si、Al、Ti、REM、Zr、Caは除く)の鋼を、真空溶解炉(VIF:50kg)にて、表3、4に示す条件(溶鋼中の溶存酸素量、Al、Ti、REM、Zr、Caの添加順、Ti添加からCa添加までの時間t1、Ca添加から鋳込み開始までの時間t2、およびSi、Al、Ti、REM、Zr、Caの添加量)で溶製し、表1、2に示す化学成分組成の溶鋼とし、該溶鋼を鋳造時の1500〜1450℃における冷却時間t3を表3、4に示す条件となるようにして鋳造して鋳片を得た(断面形状:120mm×120mm)。該鋳片を加熱して熱間圧延を行い、板厚50mmの熱間圧延板とした。
なお、表1、2中、「−」は元素が添加されていないことを示す。表3、4において、[REM]はCeを50%程度とLaを25%程度含有するミッシュメタルの形態で添加した。表3、4おける「添加順」は、Al→Ti→(REM、Zr)→Caである場合は「○」で示し、それ以外の場合は全て「×」で示した。Ca添加から鋳込み開始までの時間t2は、ta<tx<t2<tbを満たす場合は「○」、それ以外は「×」で示した。また、表3、4中、添加Ca量がA≦[Ca]≦Bの要件を満たす場合はCa添加量の横に「○」と示した。なお、No.32はCa無添加の例であるため、表4における添加順、t1、t2の欄は「−」で示した。
さらに、上記熱間圧延板をオーステナイト−・フェライト二相域まで加熱して焼入れを行った後に、で500℃焼戻しを行った。
Figure 2011241461
Figure 2011241461
Figure 2011241461
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上記のようにして得られた各鋼板について、下記の要領で酸化物の個数密度、Ti含有窒化物の個数密度、引張強度、降伏比、母材靭性およびHAZ靭性を測定した。
(1)酸化物の個数密度の測定
円相当直径2μm未満の酸化物
各鋼板の表面から深さt/4位置(t:板厚)から試験片を切り出し(試験片の軸心がt/4の位置を通るように採取)、圧延方向および板厚方向に平行な断面を、CarlZeiss社製の電解放射式走査電子顕微鏡「SUPRA35(商品名)」を用いて、観察倍率:5000倍、観察視野:0.0024mm2、観察箇所20箇所で観察した。そして、画像解析によってその視野中の各酸化物の面積を測定し、この面積から各酸化物の円相当直径を算出した。なお、各酸化物が上記した本発明の酸化物の組成を満足するものであるか否かは、EDX(エネルギー分散型X線検出器)によって判別した。そして、本発明の酸化物の組成を満足し、円相当直径が2μm未満となる酸化物の個数(N1)を、1mm2当たりに換算して求めた。
円相当直径2μm以上の酸化物
観察倍率を1000倍とし、観察視野を0.06mm2としたこと以外は、円相当直径2μm未満の酸化物の個数密度の測定と同様にして、本発明の酸化物の組成を満足し、円相当直径2μm以上である酸化物の個数(N2)を、1mm2当たりに換算して求めた。
(2)Ti含有窒化物の個数密度の測定
各鋼板のt/4位置(t:板厚)を、透過型電子顕微鏡(TEM)で、観察倍率:6万倍、観察視野:2μm×2μm、観察箇所5箇所の条件で観察した。そして、画像解析によって、その視野中の各Ti含有窒化物の面積を測定し、その面積から各Ti含有窒化物の円相当直径を算出した。なお、EDXで分析した際に、TiとNのピークが検出されるものをTi含有窒化物とした。そして、円相当直径が100nm以下となるTi含有窒化物の個数(N3)を、1mm2当たりに換算して求めた。
(3)母材の粒内α生成率の測定
各鋼板の表面から深さt/4位置(t:板厚)から試験片を切り出し(試験片の軸心がt/4の位置を通るように採取)、圧延方向および板厚方向に平行な断面を光学顕微鏡を用いて、観察倍率:400倍、観察視野:0.04mm2、観察箇所:20箇所の条件で観察した。2μm以上の介在物について、介在物を一端とするラス状αの中心軸が介在物周囲のαの中心軸と15°以上の角をなす場合、その介在物は粒内αの起点となるものと判断し、(粒内α生成の起点となる介在物数)/(全介在物数)を粒内α生成率とした。
(4)引張強度および降伏比
各鋼板のt/4位置(t:板厚)から、圧延方向に対して直角の方向にJIS Z2201の4号試験片を採取して、JIS Z2241に従って引張試験を行い、引張強度TS、降伏強度YSをそれぞれ測定し、降伏比YR=YS/TSを算出した。そして、TSが590MPa以上、YRが80%未満のものを、機械的特性に優れると評価した。
(5)母材靭性の測定
各鋼板のt/4位置(t:板厚)からシャルピー衝撃試験片(JIS Z2201の4号試験片)を採取し(試験片の軸心が圧延方向t/4位置を通るように採取)、0℃でシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギー(vE0)を測定した。測定は3本の試験片について行い、その平均値を各鋼板の母材靭性とした。vE0が200J以上のものを、母材靭性に優れると評価した。
(6)HAZ靭性の測定
各鋼板のt/4位置(t:板厚)からシャルピー衝撃試験片(JIS Z2201の4号試験片)を採取し(試験片の軸心が圧延方向t/4位置を通るように採取)、再現HAZ熱サイクルVノッチシャルピー衝撃試験を行った。再現HAZ熱サイクル条件は、1400℃での保持時間:45秒、800〜500℃までの冷却時間:800℃とし、入熱量100kJ/mmのエレクトロスラグ溶接におけるボンド部の熱履歴を模擬した。熱サイクルを与えた試験片について、0℃での吸収エネルギー(vE0)を測定した。測定は3本の試験片について行い、その平均値と最小値を求めた。そしてvE0の平均値が100J以上であり、最小値が70J以上であるものをHAZ靭性に優れると評価した。
結果を表5、6に示す。
Figure 2011241461
Figure 2011241461
No.1〜22、46〜53は、本発明で規定する要件を満足する例であり、化学成分組成、酸化物およびTi含有窒化物が適切に制御されているため、HAZ靭性に優れる(平均値および最小値ともに優れる)とともに、母材靭性にも優れ、機械特性にも優れている(高強度および低降伏比)。
一方、No.23〜45は成分組成、または好ましい製造条件を満たしていないため母材靭性およびHAZ靭性が低下した例である。
No.23はC量が多かったために硬質な島状マルテンサイト(MA)が多く生成して、母材靭性およびHAZ靭性が劣化した。また、C量が多かったことにより焼入性が高くなり、比較的低温で形成されるベイナイト組織が主体となるためYRが高くなった。No.24はSi量が少なかったため、Tiの活量を上昇させることができず、Ti含有窒化物が減少し、母材靭性およびHAZ靭性が劣化した。No.25はSi量が多かったため、硬質な島状マルテンサイト(MA)が多く生成して、母材靭性およびHAZ靭性が劣化した。No.26はMn量が多かったため強度が上昇しすぎて、母材靭性およびHAZ靭性が劣化した。また、Mn量が多かったことにより焼入性が高くなり、比較的低温で形成されるベイナイト組織が主体となるためYRが高くなった。No.27、28はそれぞれ、P量、S量が多かったため母材靭性およびHAZ靭性が劣化した。No.29は、Al量が多かったため粗大な酸化物が形成して、母材靭性およびHAZ靭性が劣化した。No.30はTi量が少なかったため、酸化物のうち円相当直径2μm未満のものの個数およびTi含有窒化物の個数が確保できず、母材靭性およびHAZ靭性が劣化した。No.31はTi量が多かった例であり、酸化物のうち円相当直径2μm以上のものの個数が多くなり、母材靭性およびHAZ靭性が劣化した。No.32はCa量が少なかったために、酸化物のうち円相当直径2μm未満のものの個数を確保することができず、母材靭性およびHAZ靭性が劣化した。No.33はCa量が多かったため、円相当直径2μm未満のものおよび2μm以下のものを、いずれも適切な個数に調整することができず、母材靭性およびHAZ靭性が劣化した。No.34はN量が多かったため、歪時効によって母材およびHAZの靭性が劣化した。No.35、36はそれぞれREM量、Zr量が多かったため、酸化物のうち円相当直径2μm以上のものの個数が多くなり、母材靭性およびHAZ靭性が劣化した。No.37、38はそれぞれ、Cu量、Cr量が多かったため、強度が上がりすぎて母材靭性およびHAZ靭性が劣化した。また、Cu量、Cr量が多かったことにより焼入性が高くなり、比較的低温で形成されるベイナイト組織が主体となるためYRが高くなった。
No.39は、Al、Ti、REM、Zr、Caの添加順序が好ましくなく、No.41、42はTi添加からCa添加までの時間t1が適切でなく、No.42、43はCaを添加してから鋳込み開示までの時間t2が適切でなかったため、円相当直径2μm未満の酸化物の個数が確保できず、母材およびHAZの靭性が劣化した。No.44は鋳造時の1500〜1450℃における冷却時間t3が長かったため、円相当直径2μm以上の酸化物の個数が多くなり、母材およびHAZの靭性が劣化した。No.45は、Ca添加から鋳込み開始までの時間t2がtx以下であったため、Ti含有窒化物の個数を確保することができず、母材およびHAZの靭性が劣化した。
本発明の厚鋼板は、小入熱〜中入熱溶接はもとより100kJ/mm以上となるような大入熱溶接においても溶接熱影響部の靭性劣化を防ぐことができ、例えば橋梁、高層建造物、また船舶などの構造物の材料として好適に用いることができる。

Claims (4)

  1. C :0.02〜0.15%(質量%の意味。以下、同じ。)、
    Si:0.01〜0.35%、
    Mn:1.0〜2.0%、
    P :0.030%以下(0%を含まない)、
    S :0.015%以下(0%を含まない)、
    Al:0.050%以下(0%を含まない)、
    Ti:0.010〜0.08%、
    Ca:0.0005〜0.010%、
    N :0.002〜0.0200%を含有するとともに、
    REM:0.0001〜0.020%および/またはZr:0.0001〜0.020%を含有し、残部は鉄および不可避不純物である鋼板であって、
    鋼中に存在する酸化物のうち、酸化物中の酸素を除く構成元素の合計に対する割合で、Ti>10%、Al<20%、5%<Ca<40%を含有するとともに、5%<REM<50%および/または5%<Zr<40%を含有し、さらにAl/(REM+Zr)<0.7の関係を満たす酸化物であって、円相当直径が2μm未満のものが1mm2当たり300個以上であり、円相当直径が2μm以上のものが1mm2当たり100個以下であり、
    さらに、鋼中に存在するTi含有窒化物であって、円相当直径が100nm以下のものが1mm2当たり5×106個以上存在することを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
  2. さらに、Ni:1.5%以下(0%を含まない)、Cu:1.5%以下(0%を含まない)、Cr:1.5%以下(0%を含まない)、およびMo:1.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1に記載の厚鋼板。
  3. さらに、Nb:0.1%以下(0%を含まない)および/またはV:0.1%以下(0%を含まない)を含有する請求項1または2に記載の厚鋼板。
  4. さらに、B:0.005%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の厚鋼板。
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