JP2011225388A - 成形型及びその製造方法、並びに、光学素子及び光学機器の製造方法 - Google Patents

成形型及びその製造方法、並びに、光学素子及び光学機器の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】特にランタン系ガラスを成形する際に、成形されたガラスに割れや曇りを生じ難い成形型及びその製造方法を提供する。
【解決手段】成形型10は、成形面211、311を有する型母材21、31と、成形面211、311上に設けられた保護膜23、33と、を備える成形型10であって、保護膜23、33は、Ir及びReを、Irの含量に対するReの含量のモル比が2.5倍以下になる含量で含有し、成形型10は、ランタン系ガラスの成形に用いられる。
【選択図】図1

Description

本発明は、成形型及びその製造方法、並びに、光学素子及び光学機器の製造方法に関する。
従来、ガラス成形体の製造は、板ガラスから切り出したガラスを研磨加工し、ガラス成形体に近似した形状に研磨し、この研磨物を加熱成形することで行われてきた。しかし、レンズ等の光学素子を作製する場合、この方法ではガラス素材の研磨コストが嵩む。そこで、成形型を用いて原料ガラスをプレス成形することにより、レンズ等の光学素子を形成する方法が用いられている。
ここで、プレス成形に用いられる成形型の光学ガラスとの反応性を低減し、又は成形型の表面の耐久性を高める等の目的で、成形面に保護膜を設けた成形型が知られている。例えば、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選ばれる1種以上の元素を含む保護膜を有する成形型が開示されている(特許文献1参照)。また、保護膜と成形型との中間に、Zr、Ti、V、Cr、Mo、Nb、Pd及びAuからなる群より選ばれた少なくとも一種を含有する中間層を有する成形型が開示されている(特許文献2参照)。
特開2009−46320号公報 特開2007−269511号公報
しかしながら、特許文献1及び2で開示された成形型を用いてランタン系ガラスをプレス成形する場合、成形されたガラスに割れや曇りが生じ易い。割れや曇りが生じたガラスは、もはや光学素子として用いることができない。そればかりか、ガラスに割れが生じた場合、成形型に残留するガラスの破片を成形型から除去する必要が生じる。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、特にランタン系ガラスを成形する際に、成形されたガラスに割れや曇りが生じ難い成形型及びその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意試験研究を重ねた結果、成形型の成形面上に設ける保護膜のIr及びReの含量の比率を所定の範囲内にすることにより、成形されたガラスに割れや曇りが生じ難くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
(1) 成形面を有する型母材と、前記成形面上に設けられた保護膜と、を備える成形型であって、前記保護膜は、Ir及びReを、Irの含量に対するReの含量のモル比が2.5倍以下になる含量で含有し、前記成形型は、ランタン系ガラスの成形に用いられる成形型。
(2) Irの含量に対するReの含量のモル比は、0.5倍以上である(1)記載の成形型。
(3) 前記保護膜は、Rhを実質的に含有しない(1)又は(2)記載の成形型。
(4) 型母材の成形面上に、Ir及びReを、Irの含量に対するReの含量のモル比が2.5倍以下になる含量で含有する保護膜を形成する工程を有するランタン系ガラスの成形に用いられる成形型の製造方法。
(5) Irの含量に対するReの含量のモル比を、0.5倍以上にする(4)記載の成形型の製造方法。
(6) 前記保護膜にRhを実質的に含有させない(4)又は(5)記載の成形型の製造方法。
(7) (1)から(3)いずれか記載の成形型を用いてランタン系ガラスをプレス成形する工程を有する光学素子の製造方法。
(8) 前記ランタン系ガラスとして、B成分、La成分及びZnO成分と、Nb成分、Ta成分及びWO成分からなる群より選ばれる1種以上と、を含有するものを用いる(7)記載の光学素子の製造方法。
(9) 前記ランタン系ガラスとして、屈折率(nd)が1.75〜1.85及びアッベ数(νd)が35〜45の範囲の光学定数を有し、酸化物基準の質量%で、
SiO成分 0〜20%
成分 10〜30%
La成分 15〜40%
ZrO成分 0〜15%
Nb成分 0〜20%
Ta成分 0〜20%
WO成分 0〜20%
ZnO成分 10〜30%
LiO成分 0〜5%
の各成分を含有し、転移点(Tg)が500〜590℃、屈伏点(At)が530〜630℃であり、950℃、2時間の条件の失透試験にて失透が見られないものを用いる(8)記載の光学素子の製造方法。
(10) (1)から(3)いずれか記載の成形型を用いてランタン系ガラスをプレス成形し、得られる光学素子を用いる光学機器の製造方法。
(11) 前記ランタン系ガラスとして、B成分、La成分及びZnO成分と、Nb成分、Ta成分及びWO成分からなる群より選ばれる1種以上と、を含有するものを用いる(10)記載の光学機器の製造方法。
(12) 前記ランタン系ガラスとして、屈折率(nd)が1.75〜1.85及びアッベ数(νd)が35〜45の範囲の光学定数を有し、酸化物基準の質量%で、
SiO成分 0〜20%
成分 10〜30%
La成分 15〜40%
ZrO成分 0〜15%
Nb成分 0〜20%
Ta成分 0〜20%
WO成分 0〜20%
ZnO成分 10〜30%
LiO成分 0〜5%
の各成分を含有し、転移点(Tg)が500〜590℃、屈伏点(At)が530〜630℃であり、950℃、2時間の条件の失透試験にて失透が見られないものを用いる(11)記載の光学機器の製造方法。
本発明によれば、成形型の成形面上に設ける保護膜のIr及びReの含量の比率を所定の範囲内にすることにより、特にランタン系ガラスを成形する際に、成形されたガラスに割れや傷、曇りが生じ難い成形型及びその製造方法を提供できる。
本発明の一実施形態に係る成形型の断面図である。
本発明の成形型は、成形面を有する型母材と、前記成形面上に設けられた保護膜と、を備える成形型であって、前記保護膜は、Ir及びReを、Irの含量に対するReの含量のモル比が2.5倍以下になる含量で含有し、前記成形型は、ランタン系ガラスの成形に用いられる。
以下、本発明の成形型及びその製造方法、並びに、光学素子及び光学機器の製造方法について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
<実施形態>
本発明の一実施形態は、ガラスGを押圧する下型20及び上型30を備える成形型10である。図1は、本発明の第1実施形態に係る成形型の断面図である。
〔下型及び上型〕
成形型10は、図1に示すように、下型20及び上型30を有する。このうち、下型20の上側の面は、上側にガラスGが設置される成形面211を有する。また、上型30の下側の面は、下型20の成形面211に対向し、この成形面211に接近及び離隔してガラスGを押圧する成形面311を有する。ここで、下型20は、成形面211を有する型母材21と、成形面211の表面に設けられる保護膜23と、から構成される。また、上型30は、成形面311を有する型母材31と、成形面311の表面に設けられる保護膜33と、から構成される。
(保護膜)
成形型10に設けられる保護膜23、33は、少なくともIr及びReを、Irの含量に対するReの含量のモル比(Re/Ir)が2.5倍以下になる含量で含有する。これにより、成形されたガラスGへの曇りを生じ難くすることができる。また、高価なReの含量が低減されるため、保護膜23、33の材料コストを低減できる。ここで、Irの含量に対するReの含量のモル比は、2.5倍以下であることが好ましく、2.3倍以下であることがより好ましく、2.2倍以下であることが最も好ましい。
一方で、Irの含量に対するReの含量のモル比(Re/Ir)の下限は、0.5倍であることが好ましい。これにより、成形されたガラスGへの割れや傷を生じ難くすることができる。このとき、ガラスGへの割れや傷を生じ難くできる理由は、下型20及び上型30によって押圧されたガラスGを冷却する際に、ガラスGと保護膜23、33の間の熱膨張率差に起因してこれらの間に摩擦が生じたとしても、摩擦によってガラスGの表面に生じる応力が低減されるためであると推察される。また、保護膜23、33の機械的強度が高められるため、この成形型10を繰返してガラスGの成形に用いたとしても、成形されるガラスGを高精度で所望の表面状態にすることができる。すなわち、特にガラスGの成形された面を光学素子の光学面として用いる成形方法(精密プレス成形)で光学素子を量産する場合にも、この成形型10を好ましく用いることができる。ここで、Irの含量に対するReの含量のモル比は、0.6倍以上であることがより好ましく、0.65倍以上であることが最も好ましい。
このほか、保護膜23、33は、耐熱性及び/又は化学的耐久性を高めるために、例えばOs、Pd、Pt、Au、Ru、Ta及びWからなる群より選択される1種以上を含有してもよい。これらの金属とIr及びReを合わせた含有量の合計は、モル分率で60%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、99%より多いことが最も好ましい。これにより、保護膜23、33の耐熱性及び化学的耐久性が高められるため、保護膜23、33の長寿命化を図ることができる。
上記以外の成分も、保護膜23、33の特性を損なわない範囲で必要に応じて添加してもよい。但し、保護膜23、33は、Rhを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、成形されたガラスGへの割れや傷をより生じ難くすることができる。これは、保護膜23、33とガラスGとの間に生じる摩擦がより低減され易くなるためであると推察される。
保護膜23、33の厚さは、保護膜の組成や機械的強度に応じて適宜設定されるが、平均して50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることが最も好ましい。これにより、ガラスへの傷や割れを生じ難くすることができる。これは、保護膜23、33の形成が不十分な領域によるガラスとの摩擦が低減されるためであると推察される。それとともに、Irの含量に対するReの含量のモル比が所望の範囲内にある膜が剥離し難くなると推察されるため、成形されたガラスGへの曇りをより生じ難くすることができる。一方、保護膜23、33の厚さは、3000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることがより好ましく、1000nm以下であることが最も好ましい。これにより、保護膜23、33の形成に要する貴金属の量が低減されるため、保護膜23、33の材料コストを低減できる。
(型母材)
下型20及び上型30の型母材21、31は、保護膜23、33の形成された成形面211、311を有する。ここで、型母材21、31の材質は、ガラスGの硬さやガラス転移点(Tg)等に応じて適宜設定されるが、その熱膨張係数が、保護膜23、33の熱膨張係数と略等しい材質であることが好ましい。これにより、保護膜23、33の形成された型母材21、31を加熱及び冷却した際に、保護膜23、33が型母材21、31から剥離し難くなる。そのため、保護膜23、33の長寿命化を図ることができる。なお、保護膜23、33は、成形面211、311を覆うように設けられていればよく、必ずしも下型20及び上型30が当接する当接面213、313に設けられている必要はない。
一方で、型母材21、31は、熱膨張係数がガラスGの熱膨張係数以下であるような材質であることが好ましい。これにより、ガラスGをプレスした後で冷却する際に、型母材21、31がガラスGに比べて収縮し難くなる。そのため、ガラスGへの傷や割れをより低減でき、且つ、保護膜23、33の剥離や型母材21、31の破損を低減して成形型10の長寿命化を図ることができる。これは、ガラスGから型母材21、31に向かって作用する応力が低減されるためであると推測される。
このような部材として、例えばタングステンカーバイト(WC)やシリコンカーバイト(SiC)等の超硬部材を用いることができる。これにより、型母材21、31に傷が入り難くなるため、特にガラスGの成形面を光学素子の光学面として用いるような場合(精密プレス成形)であっても、ガラスGに高精度で所望の表面状態をもたらすことができる。また、ガラスGを押圧する際の大きな圧力に耐えられるため、型母材21、31の長寿命化を図ることができる。
なお、型母材21、31やその成形面211、311の形状は、押圧により作製されるガラス成形体の形状に応じて適宜設定される。
(中間膜)
保護膜23、33と型母材21、31との間には、図示しない中間膜を設けてもよい。これにより、保護膜23、33が剥離した場合にも型母材21、31が露出し難くなる。そのため、型母材21、31の成形面211、311への傷を低減でき、型母材21、31の長寿命化を図ることができる。また、保護膜23、33と型母材21、31とが直接接触しなくなるため、密着強度が弱くなるような保護膜23、33と型母材21、31の組み合わせであっても、保護膜23、33の剥離を低減できる。ここで、保護膜23、33は、中間膜の外側にある最外膜(すなわち、ガラスGと直接接触する膜)を指す。
なお、本発明の中間膜は、単独の膜であってもよく、複数の膜であってもよい。特に、中間膜を複数の膜で形成することにより、成形面211、311への傷をより低減でき、且つより幅広い保護膜23、33と型母材21、31の組み合わせを用いることができる。
〔胴型〕
成形型10は、下型20及び上型30の一部と当接し且つこれらの側面を包囲するように、図示しない胴型を有してもよい。これにより、下型20及び上型30の接近及び離隔の軌道が規定されるので、成形面211と成形面311との位置関係を一定に保つことができる。従って、所望の形状を有するガラスGの成形体を安定的に作製できる。
胴型の材質は、ガラスGを押圧する際の熱に耐え且つ変形し難い材質であれば特に限定されないが、熱伝導率の低い材料で形成することが好ましい。これにより、成型工程における熱効率を高めることができる。このような部材として、例えばタングステンカーバイト(WC)やシリコンカーバイト(SiC)等の超硬部材を用いることができる。これにより、胴型に傷が入り難くなるため、所望の形状を有するガラスGの成形体を、より安定的に作製できる。
〔成形型の製造方法〕
成形型の製造方法は、型母材21、31の成形面211、311上に、Ir及びReを、Irの含量に対するReの含量のモル比が2.5倍以下になる含量で含有する保護膜23、33を形成する工程を有する。
保護膜23、33を形成する手段は、薄膜状の金属含有膜を形成できる手段の中から適宜選択されるが、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンプレーティング法等のプラズマを用いた物理蒸着の手段を用いることが好ましい。このような物理蒸着では、プラズマによって保護膜の材料の微粒子が形成されるため、特にIr(沸点4428℃)やRe(沸点5596℃)のように融点及び沸点の高い金属に他の沸点の低い金属を加えるような場合であっても、所望の組成の金属膜を形成することができる。
このとき、形成される保護膜23、33のIrの含量に対するReの含量のモル比が2.5倍以下になるように、より好ましくは0.5倍以上2.5倍以下の範囲内になるように、Ir及びReの原料からの供給量を調整する。
ここで、物理蒸着の手段を用いる場合、Irの含量に対するReの含量のモル比を調整する手段は、Ir、Re等の原料を粉末化して保護膜23、33の組成に近い組成のターゲットを形成してスパッタ装置内に配置し、このターゲットに向けて放電を行ってプラズマを発生させてもよい。これにより、1回プラズマを発生させるだけで保護膜23、33の組成に近い組成の微粒子が発生するため、プラズマを発生させる回数及び保護膜23、33の厚さを低減できることで、保護膜23、33の生産コストを低減できる。
また、Irの含量に対するReの含量のモル比を調整する手段として、Ir、Re等の原料をそのままターゲットとして各々スパッタ装置内に配置し、これらのターゲットの各々に向けて放電を行ってプラズマを発生させてもよい。このとき、成膜する保護膜23、33の各成分の含有量に応じて、放電に用いる電源のパルス幅及び/又は印加電圧を調整しながら、各ターゲットに向けて放電することが好ましい。これにより、電源のパルス幅及び印加電圧に応じた量の原料の微粒子がターゲットから発生するため、保護膜23、33に含まれる各成分の含有量をスパッタ装置内で微調整することが可能になる。
ここで、保護膜23、33を形成する際、保護膜23、33は成形面211、311の全面を覆うようにする。これにより、成形されるガラスGに生じる傷を低減できる。これは、保護膜23、33によって、成形面211、311の全面でガラスGとの摩擦が小さくなるためであると推察される。
なお、保護膜23、33は、成形面211、311を覆うように形成すればよく、必ずしも下型20及び上型30が当接する当接面213、313に形成する必要はない。しかしながら、成形面211、311のみならず当接面213、313をも覆うように保護膜23、33を形成することにより、下型20及び上型30が当接する際の型母材21、31への傷が低減されるため、成形されるガラスGの寸法精度を高めつつ、型母材21、31の長寿命化を図ることができる。
〔光学素子の作製〕
この成形型10を用いて、ガラスGをプレスして光学素子を製造する。ここで用いるプレス成形装置は、ガラスGを加熱してプレス成形することが可能な装置である限り特に限定されないが、例えば成形型10の下型11及び上型12の間にガラスGを供給する機構と、成形型10に供給されたガラスGを加熱して軟化する機構と、軟化したガラスGを押圧する機構と、押圧したガラスGを冷却する機構と、を備えたプレス成形装置を用いることが好ましい。これにより、ガラスGが軟化した後で押圧され、その後冷却されるため、ガラスGの成形を円滑に行うことができ、例えば光学素子の生産性を高めることができる。
成形型10に供給するガラスGは、少なくともランタン系ガラスを用いることができる。ランタン系ガラスは、高屈折率(屈折率(nd)=1.75〜1.85)及び比較的低い分散(アッベ数(νd)=35〜45)を有するため、カメラ用のレンズやプロジェクタ用のミラー及びプリズム等の光学素子に好ましく用いられるガラスであるが、プレス成形時に割れ易く、傷が入り易く、且つ成形後のガラスに曇りが生じ易い欠点があった。この点、ランタン系ガラスの成形型10として用いることにより、ガラスGに生じる割れや傷、曇りを低減することができる。このとき、特にガラスGへの割れや傷を生じ難くできる理由は、下型20及び上型30によって押圧されたガラスGを冷却する際に、ガラスGと保護膜23、33の間の熱膨張率差に起因してこれらの間に摩擦が生じたとしても、摩擦によってガラスGの表面に生じる応力が低減されるためであると推察される。
ここで、ガラスGとして用いられるランタン系ガラスは、B成分、La成分及びZnO成分と、Nb成分、Ta成分及びWO成分からなる群より選ばれる1種以上と、を含有するものを用いることが好ましい。これにより、ガラスGの安定性が高められることで、プレス成形時におけるガラス成分の結晶化による失透が低減される。そのため、保護膜23、33への傷の形成を低減でき、保護膜23、33の長寿命化を図ることができる。これは、失透したガラスGの結晶化された部分と保護膜23、33との接触による傷の形成が低減されるためであると推察される。
より具体的には、ランタン系ガラスの組成は、酸化物基準の質量%で、以下の範囲内にあることが好ましい。
(好ましい範囲)
SiO成分 0〜20%
成分 10〜30%
La成分 15〜40%
ZrO成分 0〜15%
Nb成分 0〜20%
Ta成分 0〜20%
WO成分 0〜20%
ZnO成分 10〜30%
LiO成分 0〜5%
(より好ましい範囲)
SiO成分 1〜15%
成分 13〜27%
La成分 20〜40%
ZrO成分 1〜15%
Nb成分 1〜17%
Ta成分 1〜15%
WO成分 1〜15%
ZnO成分 12〜30%
LiO成分 0.1〜5%
(最も好ましい範囲)
SiO成分 1〜7.5%
成分 15.5〜25%
ただし、SiO成分+B成分 16.5〜30%未満
La成分 25〜40%
ZrO成分 1.5〜10%
Nb成分 1〜15%
Ta成分 1〜10%
WO成分 1〜10%
ZnO成分 15.5〜30%
LiO成分 0.6〜5%
ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
上記の各成分の他に、ランタン系ガラスには他の成分(例えば、GeO成分、TiO成分、Al成分、MgO成分、CaO成分、SrO成分、BaO成分、Sb成分等)を、ガラスに求められる特性を損なわない範囲で必要に応じて添加できる。但し、PbO成分は、環境上の影響を低減する観点から、不可避な混入を除いて実質的に含有しないことが好ましい。
このランタン系ガラスとして、転移点(Tg)が500℃以上のものを用いることが好ましい。このようなランタン系ガラスは、必然的にプレス成形温度が高く、成形後のガラスGには割れや傷、曇りが生じ易い。この点、上述の成形型10で転移点(Tg)が500℃以上のランタン系ガラスを用いることで、成形時にガラスGを割れ難くし、成形後のガラスGに傷や曇りを生じ難くできる。このとき、特にガラスGへの割れや傷を生じ難くできる理由は、プレス成形温度が高まって加熱時及び冷却時のガラスGの膨張量及び収縮量が大きくなっても、ガラスGと保護膜23、33との摩擦によってガラスGの表面に生じる応力が低減されるためであると推察される。従って、このランタン系ガラスの転移点(Tg)は、好ましくは500℃、より好ましくは510℃、最も好ましくは520℃を下限とする。
一方で、このランタン系ガラスとして、転移点(Tg)が590℃以下のものを用いることが好ましい。これにより、ガラスGをより低温で加熱した場合にも、ガラスGがプレス成形に耐えうる程度の粘度に軟化する。そのため、プレス後の冷却時における成形型10及びガラスGの収縮量を低減できることで、成形によるガラスGへの割れや傷、曇りをより低減することができる。また、保護膜23、33の酸化を低減して保護膜23、33の長寿命化を図ることもできる。従って、このランタン系ガラスの転移点(Tg)は、好ましくは590℃、より好ましくは580℃、最も好ましくは570℃を上限とする。
また、このランタン系ガラスとして、屈伏点(At)が530℃以上のものを用いることが好ましい。このようなランタン系ガラスは、必然的にプレス成形温度が高く、成形後のガラスGには割れや傷、曇りが生じ易い。この点、上述の成形型10で屈伏点(At)が530℃以上のランタン系ガラスを用いることで、成形時にガラスGを割れ難くし、成形後のガラスGに傷や曇りを生じ難くできる。従って、このランタン系ガラスの屈伏点(At)は、好ましくは530℃、より好ましくは540℃、最も好ましくは550℃を下限とする。
一方で、このランタン系ガラスとして、屈伏点(At)が630℃以下のものを用いることが好ましい。これにより、ガラスGの成形温度をより低くできる。また、ガラスGをより低温で加熱した場合にも、ガラスGをより少ない押圧力で所望の形状にプレス成形できる。そのため、成形型10の当接面213、313への傷の形成を低減できることで、成形型10の長寿命化を図ることができる。従って、このランタン系ガラスの屈伏点(At)は、好ましくは630℃、より好ましくは620℃、最も好ましくは610℃を上限とする。
また、このランタン系ガラスとして、950℃、2時間の条件の失透試験にて失透が見られないものを用いることが好ましい。これにより、プレス成形時におけるガラス成分の結晶化による失透が低減され易くなる。そのため、保護膜23、33への傷の形成を低減でき、保護膜23、33の長寿命化を図ることができる。これは、失透したガラスGの結晶化された部分と保護膜23、33との接触による傷の形成が低減されるためであると推察される。
なお、本発明で用いられるガラスGは、上述のガラスを含めたより幅広い組成範囲及び特性範囲のガラスのプレス成形に好ましく対応できる。
ランタン系ガラスをプレス成形する際に加熱する温度は、ランタン系ガラスの転移点(Tg)や屈伏点(At)等に応じて適宜設定されるが、例えば(At+0)℃以上であることが好ましく、(At+5)℃以上であることがより好ましく、(At+10)℃以上であることが最も好ましい。これにより、ガラスGがプレス成形に耐えうる程度の粘度に軟化し易くなる。そのため、保護膜23、33の型母材21、31からの剥離を低減して保護膜23、33の長寿命化を図ることができる。これは、ガラスGを押圧する際の保護膜23、33への応力が低減されるためであると推察される。一方で、ランタン系ガラスをプレス成形する温度は、例えば750℃以下であることが好ましく、700℃以下であることがより好ましく、650℃以下であることが最も好ましい。これにより、保護膜23、33の酸化が低減されるため、保護膜23、33の長寿命化を図ることができる。
[光学機器の作製]
この方法によって、レンズやプリズム等の光学素子が作製される。また、この光学素子を用いて、カメラやプロジェクタ等の光学機器を製造することも好ましい。これにより、ガラスGのプレス成形による割れや傷、曇りが低減されるため、光学素子及び光学機器の信頼性を高めつつ、これらの生産効率を高めることができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
成形型の型母材として、各々直径15.0mm、高さ12.5mmのWCからなる下型用母材及び上型用母材を用いた。ここで、下型用母材の上側の面と上型用母材の下側の面には、互いに対向するように成形面を形成した。この成形面は、内径15.0mmの円筒形状の胴型を下型用母材に嵌め込み、上型用母材をこの胴型に嵌め込んだ状態で、下型用母材の上側の面と上型用母材の下側の面とを対向させつつ接触させたときに、直径12mm、高さ2.5mmの略扁球面形状の空隙が形成されるように形成した。
ここで、下型用母材の上側の面と上型用母材の下側の面の全面に、Ir:50%、Re:50%を含有する、厚さ200nmの保護膜を形成し、下型及び上型を形成した(Re/Ir=1.0)。ここで、保護膜の形成は、DCスパッタリング装置(型番:E−400S、キヤノンアネルバ株式会社製)を用い、電圧300VでIrからなるターゲットに放電しつつ、電圧300VでReからなるターゲットに放電することで行った。
これにより形成された下型及び上型を用い、ランタン系ガラスのプレス成形を行った。ここで、ランタン系ガラスとして、株式会社オハラ製のL−LAH81(商品名)を用いた。また、このガラスは、転移点(Tg)が566℃、屈伏点(At)が602℃であり、且つ950℃、2時間の条件の失透試験にて失透が見られないものであった。
上述のガラスを成形型の下型の成形面上に供給し、内径15.0mm、外径20.0mm、高さ22.0mmのWCからなる円筒形状の胴型をこの下型に嵌め込み、上型をこの胴型に嵌め込んで、下型、上型及び胴型を成形型に組み立てた。次いで、成形型を620℃に加熱して軟化させた後、100kgfの力で上型を降ろしてガラスを押圧し、ガラスをプレス成形した。プレス成形を行った後、成形型を約100℃まで徐々に冷却した後で、成形型を上型及び下型に分解し、光学素子を取り出した。
その結果、100個のガラスに対して上述の方法を用いて成形を行ったところ、割れが発生したガラスは1個であり、傷が入ったガラスは0個であった。その一方で、成形されたガラスには、曇りは発生しなかった。
(実施例2)
下型用母材の上側の面と上型用母材の下側の面の全面に、Ir:60%、Re:40%を含有する、厚さ500nmの保護膜を形成し、下型及び上型を形成した(Re/Ir=0.67)。その他の工程は、実施例1と同様に行った。
その結果、100個のガラスに対して上述の方法を用いて成形を行ったところ、割れが発生したガラスは2個であり、傷が入ったガラスは1個であった。その一方で、成形されたガラスには、曇りは発生しなかった。
(実施例3)
下型用母材の上側の面と上型用母材の下側の面の全面に、Ir:50%、Re:40%、Rh:10%を含有する、厚さ300nmの保護膜を形成し、下型及び上型を形成した(Re/Ir=0.8)。その他の工程は、実施例1と同様に行った。
その結果、100個のガラスに対して上述の方法を用いて成形を行ったところ、割れが発生したガラスは20個であり、傷が入ったガラスは10個であった。その一方で、成形されたガラスには、曇りは発生しなかった。
(比較例1)
下型用母材の上側の面と上型用母材の下側の面の全面に、Ir:80%、Re:20%を含有する、厚さ300nmの保護膜を形成し、下型及び上型を形成した(Re/Ir=0.25)。その他の工程は、実施例1と同様に行った。
その結果、100個のガラスに対して上述の方法を用いて成形を行ったところ、割れが発生したガラスは50個であり、傷が入ったガラスは20個であった。その一方で、成形されたガラスには、曇りは発生しなかった。
(比較例2)
下型用母材の上側の面と上型用母材の下側の面の全面に、Ir:20%、Re:80%を含有する、厚さ300nmの保護膜を形成し、下型及び上型を形成した(Re/Ir=4.0)。その他の工程は、実施例1と同様に行った。
その結果、100個のガラスに対して上述の方法を用いて成形を行ったところ、成形されたガラスのうち60個に曇りが発生した。その一方で、成形されたガラスには、割れや傷は入らなかった。
実施例1〜3と比較例1〜2の結果を比較すると、Irの含量に対するReの含量のモル比が0.5倍以上2.5倍以下になる含量でIr及びReを含有する保護膜が形成された成形型をランタン系ガラスの成形に用いたときに、成形されたガラスに割れや傷を生じ難くすることができ、且つ曇りを生じ難くできることがわかる。
(参考例1)
実施例1と同様に形成された下型及び上型を用い、フッ化物ガラスのプレス成形を行った。ここで、フッ化物ガラスとして、株式会社オハラ製のS−FPL51(商品名)を用いた。また、このガラスは、転移点(Tg)が458℃、屈伏点(At)が489℃であり、且つ950℃、2時間の条件の失透試験にて失透が見られないものであった。その他の工程は、実施例1と同様に行った。
その結果、100個のガラスに対して上述の方法を用いて成形を行ったところ、割れが発生したガラスは40個であった。その一方で、成形されたガラスには、曇りは発生しなかった。
(参考例2)
比較例1と同様に形成された下型及び上型を用い、フッ化物ガラスのプレス成形を行った。ここで、フッ化物ガラスとして、株式会社オハラ製のS−FPL51(商品名)を用いた。このガラスは、950℃、2時間の条件の失透試験にて失透が見られないものであった。その他の工程は、比較例1と同様に行った。
その結果、100個のガラスに対して上述の方法を用いて成形を行ったところ、割れが発生したガラスは40個であり、傷が入ったガラスは10個であった。その一方で、成形されたガラスには、曇りは発生しなかった。
実施例1と参考例1の結果を比較すると、ランタン系ガラスを用いてプレス成形を行った場合であっても、ランタン系ガラス以外のフッ化物ガラスを用いてプレス成形を行った場合と大差ない、良好な成形結果を得られることがわかる。一方、比較例1と参考例2の結果を比較すると、ランタン系ガラスを用いてプレス成形を行った場合、ランタン系ガラス以外のフッ化物ガラスを用いてプレス成形を行った場合に比べて割れや傷が著しく増加していることがわかる。
以上のことから、本願発明の成形型は、特にランタン系ガラスの成形に用いたときにも、成形されたガラスに割れや傷を生じ難くすることができ、曇りを生じ難くできることがわかる。
10 成形型
11 下型
12 上型
20 下型
21 型母材
23 保護膜
30 上型
31 型母材
33 保護膜
211 成形面
213 当接面
311 成形面
313 当接面

Claims (12)

  1. 成形面を有する型母材と、前記成形面上に設けられた保護膜と、を備える成形型であって、
    前記保護膜は、Ir及びReを、Irの含量に対するReの含量のモル比が2.5倍以下になる含量で含有し、
    前記成形型は、ランタン系ガラスの成形に用いられる成形型。
  2. Irの含量に対するReの含量のモル比は、0.5倍以上である請求項1記載の成形型。
  3. 前記保護膜は、Rhを実質的に含有しない請求項1又は2記載の成形型。
  4. 型母材の成形面上に、Ir及びReを、Irの含量に対するReの含量のモル比が2.5倍以下になる含量で含有する保護膜を形成する工程を有するランタン系ガラスの成形に用いられる成形型の製造方法。
  5. Irの含量に対するReの含量のモル比を、0.5倍以上にする請求項4記載の成形型の製造方法。
  6. 前記保護膜にRhを実質的に含有させない請求項4又は5記載の成形型の製造方法。
  7. 請求項1から3いずれか記載の成形型を用いてランタン系ガラスをプレス成形する工程を有する光学素子の製造方法。
  8. 前記ランタン系ガラスとして、B成分、La成分及びZnO成分と、Nb成分、Ta成分及びWO成分からなる群より選ばれる1種以上と、を含有するものを用いる請求項7記載の光学素子の製造方法。
  9. 前記ランタン系ガラスとして、屈折率(nd)が1.75〜1.85及びアッベ数(νd)が35〜45の範囲の光学定数を有し、酸化物基準の質量%で、
    SiO成分 0〜20%
    成分 10〜30%
    La成分 15〜40%
    ZrO成分 0〜15%
    Nb成分 0〜20%
    Ta成分 0〜20%
    WO成分 0〜20%
    ZnO成分 10〜30%
    LiO成分 0〜5%
    の各成分を含有し、転移点(Tg)が500〜590℃、屈伏点(At)が530〜630℃であり、950℃、2時間の条件の失透試験にて失透が見られないものを用いる請求項8記載の光学素子の製造方法。
  10. 請求項1から3いずれか記載の成形型を用いてランタン系ガラスをプレス成形し、得られる光学素子を用いる光学機器の製造方法。
  11. 前記ランタン系ガラスとして、B成分、La成分及びZnO成分と、Nb成分、Ta成分及びWO成分からなる群より選ばれる1種以上と、を含有するものを用いる請求項10記載の光学機器の製造方法。
  12. 前記ランタン系ガラスとして、屈折率(nd)が1.75〜1.85及びアッベ数(νd)が35〜45の範囲の光学定数を有し、酸化物基準の質量%で、
    SiO成分 0〜20%
    成分 10〜30%
    La成分 15〜40%
    ZrO成分 0〜15%
    Nb成分 0〜20%
    Ta成分 0〜20%
    WO成分 0〜20%
    ZnO成分 10〜30%
    LiO成分 0〜5%
    の各成分を含有し、転移点(Tg)が500〜590℃、屈伏点(At)が530〜630℃であり、950℃、2時間の条件の失透試験にて失透が見られないものを用いる請求項11記載の光学機器の製造方法。
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