JP2011217667A - 非ヒトノックアウト動物、並びにその用途およびその作製方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】PI3K−C2α遺伝子を欠損させた非ヒトノックアウト動物およびその作製方法の提供。及び、このノックアウト動物や当該動物由来の組織・細胞を用いた用途の提供。
【解決手段】相同染色体上でPI3K−C2α遺伝子の全部または一部の機能を喪失しており、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を呈する、非ヒトノックアウト動物やその子孫動物、当該動物由来の組織・細胞。当該動物や組織・細胞を用いた、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を予防および/または治療するための候補物質のスクリーニング方法や、上記疾患/症状のバイオマーカーのスクリーニング方法。
【選択図】図2

Description

本発明は、非ヒトノックアウト動物、並びにその用途およびその作製方法に関する。より詳細には、本発明は、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患および/または症状の治療および/または予防するための手段の開発における、非ヒトノックアウト動物の利用に関する。
ヒトを含む哺乳類の血管は胎生期に形成される。哺乳類における血管形成は、未分化な内皮前駆細胞の発生とその分化、管腔形成、そして原始的な血管叢の形成をいう脈管形成(vasculogenesis)の過程に始まる。この脈管形成の後、血管壁への壁細胞(周皮細胞、血管平滑筋細胞)の動員による血管構造の安定化、血管の融合、発芽型血管新生等の原始血管の再構築からなる血管新生(angiogenesis)過程を経て、全身に血管網が張り巡らされていく。
この血管形成の過程において、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(Phosphatidylinositol3−kinase;PI3K)ファミリーは極めて重要な役割を果たしている。現在、哺乳類においては、PI3Kについて3つのクラス(I、II、III)、および8つのアイソフォームの存在が知られており、これらのPI3Kによる生成物であるPI(3)P、PI(3,4)P、PI(3,4,5)Pを介して多岐にわたる生理作用を発揮する。近年、PI3Kと癌や糖尿病といった疾患との関係が注目され、とりわけクラスI型PI3K酵素の生理機能について精力的に研究が進められている。例えば、血管形成において、クラスI型PI3K、特にp110αおよびp110βは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)刺激に伴い、PI(4,5)Pを基質としてPI(3,4,5)Pを細胞膜上で産生し、下流のリン酸化酵素プロテインキナーゼB(Akt)を介して内皮細胞の増殖、生存、分化の制御を担っている(例えば、非特許文献1を参照)。
一方、これまでまったくと言ってよいほど機能が分からないままであったクラスII型PI3Kについては、本発明者らのグループを含めていくつかの研究チームが解析を行っているに留まっている。クラスII型PI3Kは細胞内において、ホスファチジルイノシトール(PI)を基質として、ホスファチジルイノシトール−3−リン酸(PI(3)P)を主に細胞内オルガネラであるエンドソーム上で産生し、エンドソームを介した膜輸送に関係することが想定されている。ただし、クラスII型PI3Kの1種であるC2αの生理的役割に関しては依然として不明な点が多く、C2αをコードするPI3K−C2α遺伝子を欠損させたときの個体の表現型については明らかではない。
成川−篠崎ら、イノシトールリン脂質を見る シグナル伝達脂質の細胞内イメージング、蛋白質 核酸 酵素、Vol.49,No.10(2004)
本発明は、PI3K−C2α遺伝子を欠損させた非ヒトノックアウト動物およびその作製方法を提供することを目的とする。また、このノックアウト動物や当該動物由来の組織・細胞の用途を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった。その結果、驚くべきことに、PI3K−C2α遺伝子の機能を失わせたノックアウトマウスが、脈管形成や血管新生に関連した疾患/症状を引き起こすことを見出した。また、さらなる検討により、C2αは血管形成において、「内皮細胞間接着の緊密化による血管透過性抑制」に必須の役割を担っていることを突き止めた。
以上のような知見に基づき完成された本発明の第1の形態は、相同染色体上でPI3K−C2α遺伝子の全部または一部の機能を喪失しており、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を呈する、非ヒトノックアウト動物やその子孫動物である。
また、本発明の第2の形態は、上記の動物から得られる組織または細胞である。この組織または細胞は、例えば血管由来のものである。
さらに、本発明の第3の形態は、上記の動物や組織・細胞を用いる、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を予防および/または治療するための候補物質のスクリーニング方法である。同様に、上記の動物や組織・細胞は、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状のバイオマーカーのスクリーニング方法にも適用されうる。
また、本発明の第4の形態は、相同染色体上でPI3K−C2α遺伝子の全部または一部の機能を喪失させるノックアウト工程を含む、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を呈する非ヒトノックアウト動物の作製方法を提供する。この際、ノックアウト工程は、例えば、PI3K−C2α遺伝子のエクソン1の開始コドンを含む領域を相同組換えにより他の塩基配列に置換することを含む。
本発明者らが本願において初めて見出した知見によれば、C2α機能の異常は、血管内皮細胞の機能異常、特に血管透過性亢進、炎症反応の惹起、ひいては血管構造の破綻を招くことになり、動脈瘤、動脈硬化、浮腫、アナフィラキシー・ショック等多くの血管形成(脈管形成および/または血管新生)に関連した疾患および/または症状の発現をもたらすことが示唆される。よって、本願が提供するC2αノックアウト非ヒト動物は、これら血管形成に関連した疾患・症状の病態生理を把握する上で新しいモデル動物として、基礎研究のみならず臨床的にも貴重な生物資源となる。また、このモデル動物を用いることで、上記疾患・症状を治療および/または予防することができる候補物質を個体レベルでスクリーニングすることも可能となる。
実施例において採用された、ノックアウト(KO)マウスを作製するためのストラテジーを示す説明図である。 実施例において、同腹のC2αホモKOマウスおよび野生型マウスのそれぞれの胎児について、血管内皮細胞マーカーである抗CD31抗体を用いてホールマウント染色(DAB発色法)を行なった結果を示す図である。 実施例において、C2αホモKOマウスおよび野生型マウスのそれぞれについて、胎児の組織切片を血管平滑筋マーカーである抗α平滑筋アクチン抗体により免疫組織化学染色(DAB発色法)した結果を示す図である。 図3に示すC2αホモKOマウスを電子顕微鏡を用いて詳しく観察した結果を示す図である。 実施例において採用された、組織特異的C2αコンディショナルノックアウト(CKO)マウスを作製するためのストラテジーを示す説明図である。 実施例において、C2α−eCKOマウスについてより詳細に観察を行なった結果を示す図である。 実施例において、C2α−eCKOマウスの胎児皮膚を剥離し、これについて血管内皮細胞マーカーである抗CD31抗体および血管平滑筋細胞マーカーである抗α平滑筋アクチン抗体による二重蛍光免疫ホールマウント染色を行なった結果を示す図である。 実施例において、C2αノックダウンHUVEC細胞について、マトリゲル・アッセイ法を用いてVEGFに対する管腔形成能を評価した結果をコントロールHUVEC細胞と比較して示す図である。 実施例において、細胞内PtdIns(3)P蛍光プローブであるmRFP−2XFYVEドメイン発現プラスミドを、コントロールHUVEC細胞およびC2αノックダウンHUVEC細胞にそれぞれAmaxaエレクトロポレーション法(Lonza社)により遺伝子導入し、生細胞におけるPtdIns(3)P局在をリアルタイム共焦点レーザー顕微鏡(横河電機−オリンパス社製)を用いて経時観察した結果を示す図である。 実施例において、C2αノックダウンHUVEC細胞を抗トランスゴルジ・ネットワーク(TGN)抗体(BD社)を用いた免疫蛍光染色法により観察した結果を示す図である。 実施例において、C2αノックダウンHUVEC細胞について、内皮細胞間接着分子VE−カドヘリンの局在を抗VE−カドヘリン抗体を用いた免疫蛍光染色法により調べた結果を示す図である。 実施例において、C2αノックダウン細胞について、抗GTP−RhoA抗体を用いた免疫蛍光染色法により観察した結果を示す図である。 実施例において、C2αヘテロKOマウスに対してエバンス・ブルー色素を用いたマイルズアッセイ法を適用し、C2αヘテロKOマウスにおける血管透過性を調べた結果を示す図である。 実施例において、KOマウスおよび野生型マウスに対してPAFを投与してアナフィラキシー・ショックを誘発した際の、それぞれのマウスの生存率およびそれぞれのマウスにおけるヘマトクリット値の変化を示すグラフである。 実施例において、KOマウスおよび野生型マウスに対してアンジオテンシンIIを投与して動脈瘤を誘発した際の、それぞれのマウスの生存率、それぞれのマウスの大動脈を観察した結果、およびKOマウスにおける大動脈瘤の観察結果を示す図である。
以下、本発明を実施するための具体的な形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の具体的な形態のみに限定されるわけではない。
[PI3K−C2α遺伝子]
ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)ファミリーのうち、クラスIIに属するC2αアイソフォーム(以下、単に「C2α」とも称する)をコードする遺伝子(本願においては、「PI3K−C2α遺伝子」と総称する)は公知である。例えば、マウス(Mus musculus)においてC2αタンパク質をコードするPI3K−C2α遺伝子(遺伝子名:Pik3c2a)は、マウス第7番染色体上に位置し(Location: 7 F1; 7 53.0 cM)、この遺伝子から、8042bp(33エクソン)からなるPik3c2a mRNA(Refseq Accession No.NM_011083.2)が転写される。このPik3c2a mRNAは、1686アミノ酸からなるタンパク質(マウスC2αタンパク質;RefSeq Accession No.NP_035213.2)をコードしている。同様に、ヒト(Homo sapiens)においてC2αタンパク質をコードするPI3K−C2α遺伝子(遺伝子名:PIK3C2A)は、ヒト第11番染色体短腕上に位置し(Location: 11p15.5-p14)、この遺伝子から、8304bp(32エクソン)からなるPIK3C2A mRNA(Refseq Accession No.NM_002645.2N)が転写される。このPIK3C2A mRNAは、1686アミノ酸からなるタンパク質(ヒトC2αタンパク質;RefSeq Accession No.NP_002636.2)をコードしている。
本発明を実施するにあたり、PI3K−C2α遺伝子は、例えばマウスやラット等のゲノムライブラリーから得ることができる。例えば、細菌人工染色体(BAC)ライブラリーから、ハイブリダイゼーション法により目的クローンを得ることができる。また、PCR法により目的クローンを得ることも可能である。
[非ヒトノックアウト動物]
本発明は、相同染色体上でPI3K−C2α遺伝子の全部または一部の機能を喪失しており、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を呈する、非ヒトノックアウト動物を提供する。本発明はまた、相同染色体上でPI3K−C2α遺伝子の全部または一部の機能を喪失させる工程(ノックアウト工程)を含む、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を呈する非ヒトノックアウト動物の作製方法を提供する。相同染色体上でPI3K−C2α遺伝子の全部または一部の機能を喪失させる手法としては、例えば、PI3K−C2α遺伝子の破壊または変異によるものが挙げられる。
なお、本発明において、「遺伝子の機能を喪失させる」とは、「遺伝子の機能を完全に失わせること」の意味に加えて、「遺伝子の機能が野生型と比較して低下している状態にすること」の意味をも含む概念である。遺伝子の機能を喪失させるためには、単純に遺伝子を破壊したり、欠損させたり、遺伝子に変異を導入して翻訳の段階で読み枠(ORF;Open Reading Frame)がずれるように操作する等の改変を施したりすればよい。
本発明の「ノックアウト動物」は、例えば、以下の手法により作製することができる。なお、以下では、ノックアウト動物の作製に用いられる非ヒト動物がマウスである場合を例に挙げて説明するが、他の非ヒト動物においても同様の手法が適用されうることはもちろんである。
まず、PI3K−C2α遺伝子の塩基配列の一部または全てを改変したものを分化全能性細胞に導入し、改変PI3K−C2α遺伝子が導入された分化全能性細胞を選択する。次いで、選択された遺伝子改変(欠損、破壊、変異等)が施された分化全能性細胞を受精卵に導入してキメラ個体を作製し、得られたキメラ個体を交配することにより相同染色体上の一方または双方のPI3K−C2α遺伝子がノックアウトされた個体を作出する。
本発明に用いられる動物の種類は、特に限定されない。例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ウシ、サル、チンパンジーおよびゼブラフィッシュなどの非ヒト動物が、ノックアウト動物の作製に用いられうる。なかでも、取り扱いが容易で繁殖しやすいマウスが好ましい。
ノックアウト工程において、PI3K−C2α遺伝子の機能を失わせるには、PI3K−C2α遺伝子の塩基配列の一部または全部を改変すればよい。ここで、「改変」とは、PI3K−C2α遺伝子を構成するDNAに、欠損、置換または付加を生じさせる変異を加えることをいう。これらの変異としては、例えば、遺伝子工学的手法による塩基配列の一部または全部の削除(欠失)、または他の遺伝子もしくは塩基配列の挿入もしくは置換が挙げられる。例えば、コドンの読み枠(ORF)をずらすか、プロモーターまたはエクソンの機能を破壊することにより、PI3K−C2α欠損遺伝子を作製することができる。これにより、PI3K−C2α遺伝子の発現産物であるC2αタンパク質の機能が発現しなくなる。
本発明の非ヒトノックアウト動物は、公知の遺伝子組換え法(遺伝子ターゲティング法)により作製することができる。遺伝子ターゲティング法は、当分野においてはよく知られた技術であり、その具体的な操作については本分野における種々の実験書に開示されている。
ターゲティングベクターを設計するにあたり、PI3K−C2α遺伝子の構造に変化をもたらす部位は、PI3K−C2α遺伝子の機能が欠損する限り、特に限定されない。ただし、C2αタンパク質の発現・機能を完全に欠損させるという観点からは、ノックアウト工程が、PI3K−C2α遺伝子のエクソン1の開始コドンを含む領域を相同組換えにより他の塩基配列に置換することを含むことが好ましい。かような手法によればC2αタンパク質をコードするmRNAがまったく転写されなくなり、C2αタンパク質の発現を完全に抑えることができる。ただし、かような手法のみには限定されず、例えば、C2αタンパク質の酵素活性部位や活性調節部位をコードするエクソンを欠損させて、酵素活性を喪失した、または酵素活性が低下したC2αタンパク質を発現させる手法もまた、採用されうる。
ターゲティングベクターを導入した組換え体については、当該ターゲティングベクターにより導入した薬剤耐性遺伝子を用いたスクリーニング、およびサザンブロット法やPCR法を用いたスクリーニングを併用して選抜することが好ましい。薬剤選択のマーカー遺伝子としては、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子などが用いられうる。また、ネガティブセレクション用遺伝子としては、ジフテリア毒素A(DT−A)遺伝子やHSVチミジンキナーゼ遺伝子などが用いられうる。
次いで、上記の方法により作製したターゲティングベクターを使用して、相同組換えを行なう。本願において、「相同組換え」とは、改変されたPI3K−C2α遺伝子を、ゲノム中のPI3K−C2α遺伝子のDNA領域に、人工的に組換えさせることをいう。
目的とする相同組換え体を得るためには、多数の組換え体をスクリーニングする必要がある。しかしながら、受精卵では多数のスクリーニングを行なうことが技術的に困難である。そこで、受精卵と同様に多分化能を有し、かつin vitroで培養することができる細胞を使用することが好ましい。かような分化全能性細胞としては、マウス(Nature 292:154-156, 1981)、ラット(Iannaccone, P.M. et al, Dev. Biol. 163(1): 288-292, 1994)、サル(Thomson, J.A. et al, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92(17):7844-7848, 1995)、ウサギ(Schoonjans, L. et al, Mol. Reprod. Dev. 45(4):439-443, 1996)については胚性幹(ES;Embryonic Stem)細胞などが確立されている。また、ブタについては胚性生殖(EG;Embryonic Germ)細胞が確立されている(Shim H. et al, Biol. Reprod 57(5):1089-1095, 1997)。
したがって、本発明においては、これらの動物種を対象にノックアウト動物を作製することが好ましいが、特にノックアウト動物の作製に関して技術が整っているマウスが最適である。マウスES細胞としては、現在マウス由来のES細胞株がいくつか確立されており、例えば129/Ola E14-1細胞株、TT-2細胞株、AB-1細胞株、J1細胞株、R1細胞株等が用いられうる。これらのどのES細胞株を用いるかは、実験の目的または手法に応じて適宜決定されうる。なお、ES細胞を樹立する場合、一般には受精後3.5日目の胚盤胞を使用するが、これ以外に8細胞期胚を採卵し胚盤胞まで培養して用いることにより、効率よく多数の初期胚を取得することができる。このようにして得られたES細胞株は、通常その増殖性は大変よいものの、個体発生できる再生能を失いやすいため、注意深く継代培養することが必要である。例えば、STO線維芽細胞のような適当なフィーダー細胞上で白血病抑制因子(LIF;Leukemia Inhibitory Factor)(1〜10000U/mL)存在下に炭酸ガス培養器内(好ましくは、5%炭酸ガス/95%空気または5%酸素/5%炭酸ガス/90%空気)で約37℃にて培養し、継代時には、例えば、トリプシン/EDTA溶液処理により単細胞化し、新たに用意したフィーダー細胞上に播種する方法などが採用されうる。このような継代は、通常1〜3日毎に行なうとともに、細胞の形態的観察を行うことが好ましい。
ES細胞への遺伝子導入は、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、リポフェクション法、レトロウイルス感染法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法などの方法により行なわれうる。なかでも、簡便に多数の細胞を処理できるという点で、エレクトロポレーション法が好ましく用いられる。
次いで、得られた組換えES細胞について、相同組換えが起こっているか否かのスクリーニングを行ない、相同組換えが起こっている組換えクローンを選択する。具体的に、例えばマーカー遺伝子としてネオマイシン耐性遺伝子を導入した場合には、G418などの抗生物質を含有する培地中で約37℃にて培養することで、組換えクローンを選択することができる。
さらに、得られた組換えES細胞について、PI3K−C2α遺伝子上またはその近傍のDNA配列をプローブとしたサザンブロット解析、または、ターゲティングベクター上のDNA配列と、ターゲティングベクターに使用したマウス由来のPI3K−C2α遺伝子以外の近傍領域のDNA配列とをプライマーとしたPCR法を行なうことにより、相同組換えが起こっているか否かを確実にスクリーニングすることができる。
以上のようなアッセイにより、染色体上に存在する野生型PI3K−C2α遺伝子と導入したPI3K−C2α遺伝子断片との間で正しく相同組換えが起こり、染色体上のPI3K−C2α遺伝子に変異が導入された組換えクローンを選択することができる。
続いて、導入遺伝子の組込みが確認されたES細胞を同種の非ヒト動物由来の胚内に戻すことにより、宿主胚の細胞塊に組み込まれたキメラ胚が形成される。ES細胞を胚盤胞等の胚に導入する方法としては、マイクロインジェクション法や凝集法といった手法が知られているが、いずれの方法を用いることも可能であり、適宜選択されうる。
マウスの場合には、ホルモン剤(例えば、FSH(follicle stimulating hormone)様作用を有するPMSG(pregnant mare's serum gonadotropin)およびLH(loteinizing hormone)作用を有するhCG(human chorionic gonadotropin)を使用)により過排卵処理を施した雌マウスを、雄マウスと交配させる。その後、胚盤胞を用いる場合には受精から3.5日目に、8細胞期胚を用いる場合には2.5日目に、それぞれ子宮から初期発生胚を回収する。このようにして回収した胚に対して、ターゲティングベクターを用いて相同組換えを行ったES細胞をin vitroにおいて注入し、キメラ胚を作製する。あるいはマウス2日胚(8細胞期胚)の透明帯を取り除き、ES細胞と一緒に培養して凝集塊を作らせる。その凝集塊を一日培養すると胚盤胞になる。これらを仮親に移植して発生および生育させることにより、キメラマウスが得られる。仮親とするための偽妊娠雌マウスは、正常性周期の雌マウスを、精管結紮などにより去勢した雄マウスと交配することにより得ることができる。作出した偽妊娠マウスに対して、上記の方法により作製したキメラ胚を子宮内移植し、妊娠・出産させることによりキメラマウスを作製することができる。キメラ胚の着床、妊娠がより確実に起こるようにするためには、受精卵を採取する雌マウスと仮親となる偽妊娠マウスとを、同一の性周期にある雌マウス群から作出することが好ましい。
そして、仮親から産まれた仔から、キメラマウスを選ぶ。ES細胞移植胚に由来するマウス個体が得られたら、このキメラマウスを野生型のマウスと交配し、次世代個体にES細胞由来の形質が表れるか否かを確認する。次世代個体にES細胞由来の形質が表れたら、ES細胞がキメラマウス生殖系列へ導入されたものとみなすことができる。ES細胞が生殖系列へ導入されたことを確認するには、様々な形質を指標として用いることができるが、確認の容易さを考慮して、好ましくは被毛色を指標とすることが望ましい。マウスにおいては野ネズミ色(アグーチ色)、黒色、黄土色、チョコレート色および白色などの被毛色が知られている。また、体の一部(例えば尾部先端)から染色体DNAを抽出し、サザンブロット解析やPCR法を行なうことにより、選抜を行うこともまた可能である。キメラの寄与率が高いマウスは、ES細胞がキメラマウス生殖系列へ導入された可能性が高い。以上のようにしてキメラマウスを選抜した後に、当該キメラマウスを野生型の雌と交配し、F1を得ることで変異マウス系統を樹立することができる。
上記の手法により得られたキメラ動物は、相同染色体の一方にのみ遺伝子欠損を有するヘテロ接合体として得られる。相同染色体上の双方のPI3K−C2α遺伝子が欠損したホモ接合体であるノックアウト動物を得るには、F1動物のうち相同染色体の一方にのみ遺伝子欠損を有するヘテロ接合体同士を交雑すればよい。
ノックアウト動物が得られたことの確認は、組織から染色体DNAを抽出し、サザンブロット解析またはPCR法により行なうことができる。また、解剖を行なった際の諸組織、臓器の異常を観察することにより、確認することもできる。さらに、組織からRNAを抽出し、ノーザンブロット解析により遺伝子の発現パターンを解析することにより、確認することもできる。さらに、必要に応じて血液を採取し、血液検査や血清生化学的検査を実施することにより、確認することも可能である。
ここで、ホモ接合体であるノックアウト動物を作製すると、胎性致死に至るなど、成体まで成長せずにモデル動物として適切でない場合がある。かような観点から、ホモ接合体が胎生致死に至る場合を考慮すると、本発明の非ヒトノックアウト動物は、ヘテロ接合体であることが好ましい。
また、ホモ接合体が胎生致死に至るような場合には、必要な時期にのみPI3K−C2α遺伝子をノックアウトさせることが好ましい。また生体内でのある特定の組織における遺伝子の機能を調べるには組織特異的に遺伝子をノックアウトすることが好ましい。このように特定の時期・特定の細胞系列だけをノックアウトさせた動物、および体細胞の限定された領域のみでノックアウトさせた動物を、コンディショナルノックアウト動物という(バイオマニュアルシリーズ8、ジーンターゲティング:ES細胞を用いた変異マウスの作製、相沢慎一著、羊土社、1995)。
コンディショナルノックアウト動物を作製するための手法としては、例えば、遺伝子ターゲティング法のためにバクテリオファージP1由来の組換えシステムであるCre−loxPシステム(R.Kuhn. et al., Science 269: 1427-1429, 1995)が用いられうる。Creは組換え酵素であり、loxPと呼ばれる34塩基の配列を認識して、この部位で組換えを起こさせることが可能となる。したがって、ターゲティングしたい遺伝子をloxP配列とloxP配列との間に挟み、Creリコンビナーゼ遺伝子を特異的プロモーター下流に組み込むことにより、部位特異的および時期特異的にCreが産生されてloxPで挟まれた遺伝子を切り取る(すなわち、特定の部位、時期において目的遺伝子の機能を喪失させる)ことができる。本発明において、Cre−loxPのシステムを用いてターゲティングベクターを設計するにあたり、PI3K−C2α遺伝子の構造に変化をもたらす部位は、PI3K−C2α遺伝子の機能が欠損する限り、特に限定されない。ただし、上述したように、PI3K−C2α遺伝子のエクソン1の開始コドンを含む領域を欠失させるように設計することが特に好ましい。
このようにして得られた本発明のノックアウト動物をさらに交配して得られる子孫動物や、これら動物から単離された組織または細胞も本発明の技術的範囲に含まれる。ノックアウト動物から単離される組織としては、すべての組織が挙げられ、好ましくは血管由来の組織である。また、ノックアウト動物から単離される細胞としては、前記組織から単離された細胞、これら細胞から樹立した細胞株が挙げられ、具体的には血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、周皮細胞、血管内皮前駆細胞、骨髄由来間葉系細胞などが好ましい。これらの組織や細胞は、当業者に周知の方法によって、ノックアウト動物から単離することが可能である。
本発明により提供される非ヒトノックアウト動物は、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を呈する。したがって、本発明の非ヒトノックアウト動物は、上述した疾患または症状を治療および/または予防するための医薬等の開発の伸展に大きく貢献しうるモデル動物として用いられうる。
本発明において、「脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状」としては、大動脈瘤(特に解離性大動脈瘤)、動脈硬化、浮腫、アナフィラキシー・ショック、血管内膜肥厚、血管閉塞、血管炎、腫瘍血管新生、虚血後血管新生、血管透過性亢進型肺障害、糖尿病網膜症などが挙げられ、これらの疾患または症状は、単独でまたは併発して発現しうる。
なお、本発明により提供される非ヒトノックアウト動物またはその子孫動物の特にヘテロノックアウト体においては、上述した疾患/症状を十分に呈さない場合もありうる。また、PI3K−C2α遺伝子の機能を喪失させるのみでは所望の疾患/症状を確実に呈するとは限らない。したがって、場合によっては、ノックアウト工程の後に、脈管形成および/または血管新生に関連した因子を非ヒト動物に対して投与する工程を行なってもよい。このようにすることで、ヘテロノックアウト体においても上述の疾患/症状を十分に発現させることが可能となる。また、投与する因子を選択することで、所望の疾患/症状を発現させることも可能となる。
本工程において投与される因子としては、例えば、血小板活性化因子(PAF;Platelet-Activating Factor)、ヒスタミン、トロンビン(以上、アナフィラキシー・ショック様病態誘発因子)、線維芽細胞成長因子(FGF;Fibroblast Growth Factor)、血管内皮細胞成長因子(VEGF;Vascular Endothelial Growth Factor;血管透過性亢進因子)、アンジオポエチン-1/2(Angiopoietin-1/2)、肝細胞成長因子(HGF; Hepatocyte Growth Factor)、血小板由来成長因子(PDGF;Platelet-derived Growth Factor)、アンジオテンシンII(大動脈瘤誘発因子)、塩化コバルト(虚血誘発因子)、ストレプトゾトシン(糖尿病誘発因子)、ブラジキニン(血管透過性亢進因子)などが挙げられる。
[スクリーニング方法]
本発明により提供される非ヒトノックアウト動物もしくはその子孫動物またはこれらの動物から単離された組織もしくは細胞を用いることにより、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状の治療および/または予防に用いられうる候補物質をスクリーニングすることができる。
本発明によれば、例えば、下記の(a)〜(c)の工程:
(a)本発明の非ヒトノックアウト動物またはその子孫動物に被験物質を投与する工程;
(b)前記被験物質を投与した動物における血管組織を調べ、被験物質を投与しない動物における血管組織と比較する工程;および、
(c)工程(b)における比較結果に基づいて、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を治療することができる被験物質を選択する工程、
を含む、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状の治療候補物質のスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法(1)」とも称する)が提供される。
工程(a)において、「非ヒトノックアウト動物またはその子孫動物」とは、動物の生体の全身のほか、限定された組織または臓器をも含む概念である。限定された組織または臓器には、動物から摘出されたものも含まれうる。
工程(a)において、「被験物質」とは、いかなる公知物質および新規物質であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、タンパク質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリーのほか、微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分などが挙げられる。また、これらの化合物の2種以上の混合物を被験物質として用いることもできる。これら被験物質は塩を形成していてもよく、被験物質の塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸など)や塩基(例、有機酸など)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸など)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など)との塩などが用いられる。
工程(a)において、被験物質を動物に投与する方法は特に限定されず、経口的または非経口的に投与されうる。非経口的投与経路としては、例えば、静脈内、動脈内、筋肉内等の全身投与、または標的細胞付近への局所投与等が挙げられる。
工程(a)における被験物質の投与量は、有効成分の種類、分子の大きさ、投与経路、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等に応じて、適宜設定されうる。
工程(b)において、被験物質を投与した動物における血管組織を調べる方法としては、例えば、血管組織を染色して顕微鏡で観察する方法;ウエスタンブロット法や免疫沈降などによって特定の標的タンパク質の発現を確認する方法、RT−PCRやリアルタイムPCRなどによって特定の遺伝子のmRNAレベルでの発現を確認する方法、マウスの生存期間を比較する方法などが挙げられる。
工程(b)においては、被験物質を投与しない動物における血管組織も同時にまたは別途調べ、投与動物の結果と非投与動物の結果とを比較する。
工程(c)においては、工程(b)で得られた比較結果に基づき、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を治療することができる被験物質を選択する。選択する基準は、被験物質を投与していない動物を指標として、適宜設定されうる。
このようにして選択された被験物質は、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を治療することができるものであり、各種の上記疾患/症状の治療薬の候補物質となりうる。
また、本発明によれば、下記の(a)〜(c)の工程:
(a)本発明の非ヒトノックアウト動物またはその子孫動物に被験物質を投与する工程;
(b)前記被験物質を投与した動物における血管組織を調べ、被験物質を投与しない動物における血管組織と比較する工程;および、
(c)工程(b)における比較結果に基づいて、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を発現させなくするか、またはその発現を遅らせることができる被験物質を選択する工程、
を含む、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状の予防候補物質のスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法(2)」とも称する)が提供される。
スクリーニング方法(2)において、工程(a)〜(b)は、上述したスクリーニング方法(1)と同様である。ただし、本発明の非ヒトノックアウト動物が脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を発現する時期を事前に検討し、被験物質を投与しない本発明のノックアウト動物における上記疾患/症状の発現が確認できる時期まで被験物質の投与を続けた後に、血管組織を調べることが重要である。
スクリーニング方法(2)の工程(c)においては、工程(b)で得られた比較結果に基づき、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を発現させなくするか、またはその発現を遅らせることができる被験物質を選択する。選択する基準は、被験物質を投与していない動物を指標として、適宜設定されうる。
このようにして選択された被験物質は、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を発現させなくするか、またはその発現を遅らせることができるものであり、各種の上記疾患/症状の予防薬の候補物質となりうる。
さらに、本発明によれば、下記の(a)〜(c)の工程:
(a)本発明の非ヒトノックアウト動物またはその子孫動物と、当該動物の同種野生型動物とのそれぞれから血液を採取する工程;
(b)工程(a)で得られた血液中のタンパク質を調べ、それぞれの動物におけるタンパク質の発現パターンを比較する工程;および、
(c)工程(b)における比較結果に基づいて、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状の発現の指標となる血清タンパク質を選択する工程、
を含む、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状のバイオマーカーのスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法(3)」とも称する)が提供される。
スクリーニング方法(3)の工程(a)において、動物から血液を採取する方法は、自体公知の方法により行なうことができる。血液の採取量は、動物の種類に応じて適切な量に設定されうる。採取した血液から、遠心分離等により血清を調製して工程(b)に供することが好ましい。なお、血液を採取する時期は、本発明の非ヒトノックアウト動物において脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状の発現が見られる時期を事前に検討しておき、当該疾患/症状の発現の前後の時期を複数選ぶことが好ましい。
スクリーニング方法(3)の工程(b)において、血液中のタンパク質の発現パターンを解析・比較する方法は特に限定されず、常法により行なうことができる。例えば、非ヒトノックアウト動物および同種野生型動物のそれぞれの血中タンパク質をペプチドマスフィンガープリント法などの手法を用いて比較し、ノックアウト動物において有意に増加または減少するタンパク質をスクリーニングしていく方法が例示される。
スクリーニング方法(3)の工程(c)においては、工程(b)で得られた比較結果に基づき、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状の発現の指標となる血清タンパク質を選択する。選択する基準は、血清タンパク質のうち、同種野生型動物と比較して、非ヒトノックアウト動物において有意に(好ましくは、2倍以上)発現が増加または減少していることを指標とすることができる。
このようにして選択された血清タンパク質は、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状の発現の有無を判断するバイオマーカーとして有用である。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例に記載の形態のみに制限されるわけではない。
[ノックアウト(KO)マウスの作製:図1]
以下の手法により、PI3K−C2α(Pik3c2a)遺伝子が相同染色体上で破壊されたノックアウト(KO)マウスを作製した。
まず、129/Ola E14-1 マウス胚性幹(ES)細胞ゲノムから、1.2kbp DNAフラグメントをPCR法によりクローニングした。このフラグメントは、マウスPI3K−C2α(Pik3c2a)遺伝子の翻訳開始コドン(ATG)を含むエクソン1を有する。
ターゲティングベクターは、定法に従い構築した。その際、条件付け(コンディショナル)KOマウス作製に対応できるように、Cre−loxPシステムを組み込むようにターゲティングベクターをデザインした。具体的には、市販のpBluescript-IIベクター(インビトロジェン社)をベースに、マウスPI3K−C2α(Pik3c2a)遺伝子のエクソン1の上流イントロン領域(5.6kbp)、バクテリオファージ由来loxP配列、C2α遺伝子のエクソン1領域、loxP配列、ポジティブセレクション用ネオマイシン耐性遺伝子(Neo)カセット、loxP配列、C2α遺伝子のエクソン1の下流イントロン領域(1.2kbp)、ネガティブセレクション用DT−A遺伝子カセットの各フラグメントを適切に連結して、ターゲティングベクターを得た。
得られたターゲティングベクター(20μg)をSacIIによって線状化し、129/Ola E14-1 マウスES細胞(1.25×10個)にエレクトロポレーション法によって遺伝子導入した。遺伝子導入した細胞を、抗生物質G418(200μg/mL)を含むES細胞用培地(15%牛胎児血清(FBS)−DMEM)中、37℃で培養し、組換えクローンを選択した。
選別された450個のG418耐性クローンを拡張培養し、以下の条件でPCRを行ない、初期変異型組換えクローンを同定した。すなわち、Neoカセットの5’末端領域に対するフォワードプライマー(下記の表1に示すFプライマー)および相同組換え領域外の3’末端側配列に対するリバースプライマー(下記の表1に示すRプライマー)を用いて、「94℃ 30秒、62℃ 30秒、72℃ 2分30秒」を35サイクル行なうPCR反応(DNAポリメラーゼ:LA−Taq(タカラバイオ社))により、2kbpの相同組換え体由来フラグメントのみを増幅させた。
適切に相同組換えされた初期変異型ES細胞に、Creリコンビナーゼ発現アデノウイルスを感染させ、エクソン1およびNeo発現カセットを欠失したノックアウト(KO)型組換えES細胞を得た。なお、得られたKO型組換えES細胞については、以下の条件によるPCRによって、同定した。すなわち、C2α遺伝子のエクソン1内の領域に対するフォワードプライマー(下記の表2に示すF1プライマー(配列番号:3))、C2α遺伝子のエクソン1の下流イントロン内の領域に対するリバースプライマー(下記の表2に示すR1プライマー(配列番号:4))、およびC2α遺伝子のエクソン1の上流Cre配列に対するフォワードプライマー(下記の表2に示すF2プライマー(配列番号:5))を用いて、「94℃ 30秒、60℃ 30秒、72℃ 30秒」を35サイクル行なうPCR反応(DNAポリメラーゼ:Go−Taq(プロメガ社))により、278bpのノックアウト型フラグメントを増幅させた。一方、初期変異型ES細胞にはもはやC2α遺伝子のエクソン1領域は存在しないため、F1プライマーとR1プライマーとで規定されるはずの増幅産物(432bp)は観察されなかった。
上記で得られたKO型組換えES細胞を用いて、C57BL/6Jマウス(Jackson laboratories社)から得られた8細胞期胚との細胞集合(アグリゲーション)法によりキメラ胚を得た。得られたキメラ胚を、C57BL/6Jマウス雌の仮親マウスに着床して、キメラマウスを発生させた。キメラマウス雄と野生型C57BL/6Jマウス雌とを交配させることにより、第1世代(F1)として、相同染色体上の一方のC2α遺伝子エクソン1領域が相同組換えにより欠損したC2αへテロ(+/−)KOマウスを得た。
胎児マウスおよび成体マウスのそれぞれについて、上記の表2に示す3つのPCRプライマー(F1、R1、F2)(配列番号:3〜5)を用いて、遺伝子型を同定した。F1プライマーとR1プライマーとのセットを用いたPCRでは、432bpのC2α野生型バンドが検出された。一方、F2プライマーとR1プライマーとを用いたPCRでは、278bpのKO型バンドが増幅された。
[C2α全身性ホモ(−/−)KOマウスの作製]
上記で得られた第1世代(F1)のC2αヘテロKOマウスの雌雄を交配させ、第2世代(F2)を得た。第2世代のうち、C2αヘテロ(+/−)KOマウスおよび野生型(+/+)マウスは正常に出生した。一方、C2αホモ(−/−)KOマウスは胎生致死であった。正常飼育下でのヘテロKOマウスは野生型と比較して、外見、体重、寿命、組織病理所見のいずれについても差異は認められなかった。
[C2α全身性ホモKOマウスの胎生期血管形成の異常]
上記で得られたC2α全身性ホモKOマウス、C2αヘテロKOマウスおよび野生型マウスのそれぞれについて、胎児の組織サンプルを抗C2α抗体(BD社)を用いたウエスタンブロット解析を行なった。その結果、ホモKOマウスではC2αタンパク質のバンドは全く検出できなかった。また、ヘテロKOマウスではC2αタンパク質の発現量が野生型と比較して約50%であることが確認された。
同腹のC2αホモKOマウスおよび野生型マウスのそれぞれの胎児(胎生11.5日目)を4%パラホルムアルデヒド液で組織固定した。次いで、血管内皮細胞マーカーである抗CD31抗体を用いてホールマウント染色(DAB発色法)を行なった。結果を図2に示す。図2に示すように、野生型マウスでは全身に血管網の構築が確認された。これに対し、ホモKOマウスでは、血管形成の著しい異常が見られた。
C2αホモKOマウスおよび野生型マウスのそれぞれについて、胎児を4%パラホルムアルデヒド液で組織固定し、パラフィン包埋、薄切後、組織切片を血管平滑筋マーカーである抗α平滑筋アクチン抗体により免疫組織化学染色(DAB発色法)した。結果を図3に示す。図3に示すように、野生型マウスでは背側大動脈にα平滑筋アクチン陽性細胞が血管周囲を取り巻くように集積していた。これに対し、ホモKOマウスでは、ほとんどそれが認められなかった。
さらに、電子顕微鏡を用いてより詳細に解析を行なったところ、C2αホモKOマウスでは、血管平滑筋細胞の集積不全に加え、内皮細胞間接着構造の異常が認められた(図4、矢尻)。
[組織特異的C2aコンディショナルノックアウト(CKO)マウスの作製:図5]
胎生致死が確認された全身性C2αホモKOマウスの死因、およびC2aの生理的役割を解析する目的で、以下の手法により組織特異的C2αCKOマウスを作製した。
図1に記載の初期変異型(3LoxP型)組換えES細胞を用いて、C57BL/6Jマウス(Jackson Laboratories社)から得られた8細胞期胚との細胞集合(アグリゲーション)法によりキメラ胚を得た。得られたキメラ胚を、C57BL/6J雌マウスに着床して、キメラマウスであるC2α−3LoxP型へテロ変異マウスを発生させた。この3LoxP型へテロ変異マウスではC2α発現が野生型マウスと同等であり、正常に生育した。
上記で得られた3LoxP型へテロ変異マウス(生後8週齢雌;第1世代(F1))と、精子で弱くCreリコンビナーゼを発現しているIns−Creトランスジェニック(Tg)マウス雄とを交配させて、C2α遺伝子のエクソン1領域が2つのloxP配列で挿まれる構造を持つFlox型ヘテロ変異(C2αflox/+)マウスを発生させた。なお、Flox型ヘテロ変異マウスの同定は、上記の表2に示す3つのPCRプライマー(F1、R1、F2)(配列番号:3〜5)を用いて行なった。F1プライマーとR1プライマーとのセットを用いたPCRにより、486bpのFlox型バンドおよび432bpの野生型バンドが区別されて検出された。
上記で得られたFlox型ヘテロ変異マウスは、正常に発生し、野生型と差異なく生育した。このFlox型ヘテロ変異マウスをC57BL/6Jとの交雑により10世代バッククロスさせた後、Flox型へテロ変異マウスの雌雄を交配させ、Flox型ホモ変異(C2αflox/flox)マウスを得た。
得られたFlox型ホモ変異マウス(生後8週齢)と組織特異的Creリコンビナーゼ発現Tgマウスとを交配させることにより、組織特異的にC2αがノックアウトされた組織特異的CKOマウスを作製することができる。本実施例では、血管を構成する血管内皮細胞および血管平滑筋細胞、並びに心臓を構成する心筋細胞のそれぞれにおいてCreリコンビナーゼを特異的に発現するTgマウスを用いて、組織特異的CKOマウスを作製した。これらの組織特異的CKOマウスでは、それぞれ血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、および心筋細胞において選択的に、C2α遺伝子が欠失している。
[組織特異的CKOマウスの観察]
上記で作製した組織特異的CKOマウスのうち、血管内皮細胞特異的CKOマウス(C2α−eCKOマウス)のみ、胎生期12日頃から血管形成異常が見られ、出生前後に死亡した。一方、血管平滑筋細胞特異的CKOマウスや心筋細胞特異的CKOマウスは、同腹野生型マウスと同等に出生し、発育した。組織病理的所見についても同腹野生型マウスと差異は認められなかった。
C2α−eCKOマウスについてより詳細に観察を行なったところ、胎生12.5日頃において、皮膚血管からの出血が見られた(図6、ii、iv、vi、矢尻)。また、C2α−eCKOマウスの胎児をホルマリン固定し、パラフィン切片についてヘマトキシリン・エオジン染色を行なった結果、皮膚血管に加えて、肺、肝臓、腎臓などの臓器においても、出血が観察された。出血が見られた皮膚血管を高解像度で観察するために、マウス胎児皮膚を剥離し、4%パラホルムアルデヒドで固定して、血管内皮細胞マーカーである抗CD31抗体および血管平滑筋細胞マーカーである抗α平滑筋アクチン抗体による二重蛍光免疫ホールマウント染色を行なった。染色サンプルについて、高解像度共焦点レーザー顕微鏡を用いてC2α−eCKOマウスの皮膚血管を観察した結果、野生型マウスと比較して、不完全な微小血管網の形成が見られ、さらに血管への平滑筋集積にも著しい異常が見られた(図7、ii、iv)。さらに、高解像度二重蛍光免疫ホールマウント染色法(抗VEカドヘリン抗体+抗NG2抗体二重染色)により皮膚毛細血管を観察したところ、内皮細胞間接着因子であるVEカドヘリンの局在および周皮細胞の形態における異常が観察された。
[C2α発現抑制血管内皮細胞を用いたin vitro解析]
RNA干渉法を用いて、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)におけるC2α発現を特異的に抑制できるin vitro実験系を構築した。
具体的には、市販の干渉RNA合成キット(アンビオン社)を用いて、ヒトC2α遺伝子のmRNA上の配列(5’−AAGGUUGGCACUUACAAGAAU−3’(配列番号:6))を標的とする干渉RNA(C2α−siRNA)を合成した。この合成C2α−siRNA(20nM)を市販の遺伝子導入試薬リポフェクタミン2000(インビトロジェン社)を用いてHUVEC細胞に導入して、C2αノックダウンHUVEC細胞を構築した。このC2αノックダウンHUVEC細胞を48時間通常培養した後、抗C2α抗体を用いたウエスタンブロット法によりC2αタンパク質発現量を調べた。その結果、C2α−siRNAを導入したHUVEC細胞では、コントロール干渉RNA(スクランブル配列:sc−siRNA)を導入したHUVEC細胞(コントロールHUVEC細胞)に比べて、C2αタンパク質の発現量が約95%抑制されていた。
C2αノックダウンHUVEC細胞においては、コントロールHUVEC細胞と比較して、細胞増殖、細胞接着および細胞遊走能が有意に減弱していた。さらに、in vitro系での血管新生評価法であるマトリゲル・アッセイ法を用いてVEGFに対する管腔形成能を評価したところ、C2αノックダウンHUVEC細胞においては、管腔長および管腔分岐点数が有意に減少していた(図8)。
ここで、C2αは細胞内のエンドソームおよびトランスゴルジ・ネットワーク(TGN)上で、ホスファチジルイノシトール(3)リン酸(PtdIns(3)P)を生成することが知られている。このPtdIns(3)PはエンドソームやTGNにおいて、膜輸送に深く関与していることが知られている。なお、エンドソームは、新しく作られたタンパク質をゴルジ装置から細胞膜や他のオルガネラへ輸送したり、細胞膜からのエンドサイトーシスを経てリソソームでの分解系へとタンパク質を輸送したり、リサイクリングによる細胞膜への再輸送、ホルモンなどの放出を担うエキソサイトーシスなどにも関与するなど、細胞内膜輸送の中継地点として機能することが知られている。
そこで、細胞内PtdIns(3)P蛍光プローブであるmRFP−2XFYVEドメイン発現プラスミドを、コントロールHUVEC細胞およびC2αノックダウンHUVEC細胞にそれぞれAmaxaエレクトロポレーション法(Lonza社)により遺伝子導入し、生細胞におけるPtdIns(3)P局在をリアルタイム共焦点レーザー顕微鏡(横河電機−オリンパス社製)を用いて経時観察した。また、陽性対照として、C2α以外のPI3Kファミリーであるp110α(クラスI)またはVps34(クラスIII)がそれぞれノックダウンされたHUVEC細胞を用いて同様の実験を行なった。結果を図9に示す。図9に示すように、C2αノックダウンHUVEC細胞においてはPtdIns(3)P陽性エンドソームの著しい減少が観察された。一方、コントロールHUVEC細胞やp110α(クラスI)またはVps34(クラスIII)のノックダウンHUVEC細胞では変化が確認されなかった。
[C2α発現抑制内皮細胞の細胞内形態異常]
C2αノックダウンHUVEC細胞を4%パラホルムアルデヒド固定後、抗トランスゴルジ・ネットワーク(TGN)抗体(BD社)を用いた免疫蛍光染色法により観察した。結果を図10に示す。図10上段に示すように、コントロールHUVEC細胞と比較して、C2αノックダウンHUVEC細胞ではTGN構造の拡大が見られた。なお、p110α(クラスI)またはVps34(クラスIII)のノックダウンHUVEC細胞はコントロールHUVEC細胞と同様の構造を示したことから、C2αノックダウンHUVEC細胞のみにおいて特異的に構造変化が生じたものと思われる。また、このTGNの構造変化は、電子顕微鏡観察による詳細な観察においても同様に認められた(図10、矢尻)。エンドソームおよびTGN上のPtdIns(3)Pは、細胞内小胞輸送系において重要な脂質であるが、C2αの発現が抑制された細胞では、エンドソームを介するTGN−細胞膜間の輸送システムが著しく阻害されており、このことが結果的にTGN構造の乱れをもたらしているものと考えられる。
[C2αノックダウンHUVEC細胞におけるVEカドヘリン局在異常]
4%パラホルムアルデヒド固定したHUVEC細胞について、内皮細胞間接着分子VE−カドヘリンの局在を抗VE−カドヘリン抗体を用いた免疫蛍光染色法により調べた。その結果、C2αノックダウン細胞においては、VE−カドヘリンの内皮細胞間での局在化が著しく障害され、細胞間隙が多く見られた(図11)。なお、後述するように、C2αノックダウン細胞では実際に血管透過性が著しく亢進していた。
低分子量Gタンパク質であるRhoAは、細胞骨格を構築する上で必須なアクチン繊維(F-actin)の形成および再構築に重要な役割を果たしていることが知られている。活性型RhoA(GTP型−RhoA)を認識する抗GTP−RhoA抗体を用いた免疫蛍光染色法による観察から、C2αノックダウン細胞でのみ、通常の培養条件下(+EBM2)で見られるRhoAの活性化が著しく抑制された(図12、左から2番目の写真)。また、細胞間接着を維持する上で重要なアクチン束の形態に異常が見られることが、F-actinを標識するAlexa594-ファロイジン染色により認められた。
C2αノックダウン細胞で見られたRhoA活性の低下は、RhoA活性化に必須の修飾反応であるゲラニル化の減弱によることが判明した。そこで、HUVEC細胞に不活性型RhoA変異体を強制発現したところ、VE−カドヘリンの細胞間局在が完全に消失した。一方、C2αノックダウン細胞において、活性化型RhoA変異体導入によりVE−カドヘリンの細胞間局在が部分的に回復した。さらに、不活性型C2α変異体(1268番目のアスパラギン酸をアラニンに点置換→ATPが結合せず、リン酸化活性を失う変異体)をHUVEC細胞に導入することにより、VE−カドヘリンの細胞間局在が障害された。これらの結果から、C2αによるRhoA活性は、VE−カドヘリンの細胞間局在化に関与することが示唆された。
[VEGFによる皮膚血管透過性の亢進]
上述したように、C2αタンパク質発現レベルが約50%であるC2αヘテロKOマウス(C2α+/−)は正常に出生し、通常の飼育下では正常に発育する。このC2αヘテロKOマウスに対してエバンス・ブルー色素を用いたマイルズアッセイ法を適用し、C2αヘテロKOマウスにおける血管透過性を調べた。具体的には、生理食塩水に溶かした市販の2%エバンス・ブルー色素(フルカ社)50μLをマウス尾静脈に投与し、20分後にマウス背部の皮下に市販のVEGF(ペプロテック社、100ng/mL)100μL、またはコントロールとしてPBS緩衝液100μLを注入した。20分後、背部の薬剤注入部を含む皮膚を切除し、ホルムアミド液を用いて55℃にて一晩、エバンス・ブルー色素を抽出した後、分光光度計によりエバンス・ブルー量を定量した。その結果、C2αヘテロKOマウスでは、血管外へのエバンス・ブルー色素の漏出が野生型マウスの約2倍に増加することが確認され、血管透過性の亢進が認められた(図13)。
[アナフィラキシー・ショックモデル]
アナフィラキシー・ショックは、異常免疫反応により活性化された肥満細胞などから放出されたヒスタミンや血小板活性化因子(PAF)により引き起こされる。具体的な病態としては、血管拡張や血漿成分の血管外への漏出などが見られ、その結果として血圧が急激に低下して、種々のショック症状を呈するというものである。
このアナフィラキシー・ショックを誘発する目的で、PAFを12μg/kgの用量でC2αヘテロKOマウスまたは野生型マウスの尾静脈に全身麻酔下でそれぞれ投与した。その結果、C2αヘテロKOマウスのみが約35分以内に全例でショック死した。また、死亡直後のC2αヘテロKOマウスにおけるヘマトクリット値は、野生型マウスよりも有意に高い値を示した(図14)。
[アンジオテンシンIIにより誘発される動脈瘤の形成]
C2αヘテロKOマウスに血管障害ホルモンであるアンジオテンシンII(AngII、1.0mg/kg/day)を浸透圧ポンプ(アルゼット社製)により2週間持続的に全身投与した。そうしたところ、約48%のC2αヘテロKOマウスにおいて大動脈瘤の形成が見られ、約30%のヘテロKOマウスは大動脈瘤の破裂により出血死した(図15上段)。一方、野生型マウスでは、大動脈瘤形成は約11%であり、死亡率は5%にとどまった。ヘテロKOマウスで観察された大動脈瘤の多くは、偽腔を伴う解離性大動脈瘤であり(図15下段)、Mac3陽性マクロファージが血管外膜へ動員され、炎症が惹起されていた。血管外膜での炎症性マクロファージは、タンパク質分解酵素 Matrix Metalloproteinase(MMP)を産生し、血管壁の細胞外基質分解を引き起こす。本発明者らによる検討においても、C2αヘテロKOマウスにおいては、AngII投与により大動脈のMMP−2およびMMP−9の酵素活性が、野生型マウスと比較して顕著に増強されていた(図示せず)。さらに、AngII投与されたC2αヘテロKOマウスにおいても、VE−カドヘリンからなる内皮細胞間接着構造の異常が観察され、これを裏付けるように、エバンス・ブルー色素法による観察でも野生型マウスと比して血管透過性が有意に亢進していることが示された。
[考察]
以上の各実験結果から、血管形成におけるC2αの生理的役割として、1)内皮細胞のエンドソームおよびTGNにおけるPtdIns(3)P産生を介した細胞内膜輸送の調節、2)VE−カドヘリン膜輸送とVE−カドヘリン結合の安定化の2つの細胞内メカニズムに対する関与が示唆された。つまり、C2αは、上記の2つのメカニズムを介することで、「内皮細胞間接着の緊密化による血管透過性抑制」に必須の役割を担っているものと考えられる。
胎生期血管形成において、C2αは内皮細胞の分岐や壁細胞動員による血管成熟といった血管新生に必須のPI3Kであり、他のPI3Kファミリーとはまったく異なったメカニズムで血管形成および恒常性維持を支える酵素である。C2α機能の異常は、血管内皮細胞の機能異常、特に血管透過性亢進、炎症反応の惹起、ひいては血管構造の破綻を招くことになり、動脈瘤、動脈硬化、浮腫、アナフィラキシー・ショック等多くの血管形成(脈管形成および/または血管新生)に関連した疾患および/または症状の発現に関与する可能性が高い。本願により提供されるC2αノックアウト非ヒト動物は、これら血管形成に関連した疾患・症状の病態生理を把握する上で新しいモデル動物として、基礎研究のみならず臨床的にも貴重な生物資源となる。また、このモデル動物を用いることで、上記疾患・症状を治療および/または予防することができる候補物質を個体レベルでスクリーニングすることも可能となる。

Claims (15)

  1. 相同染色体上でPI3K−C2α遺伝子の全部または一部の機能を喪失しており、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を呈する、非ヒトノックアウト動物。
  2. PI3K−C2α遺伝子の全部または一部の機能の喪失が、PI3K−C2α遺伝子の破壊または変異によるものである、請求項1に記載の非ヒトノックアウト動物。
  3. 大動脈瘤、動脈硬化、浮腫、アナフィラキシー・ショック、血管内膜肥厚、血管閉塞、血管炎、腫瘍血管新生、虚血後血管新生、血管透過性亢進型肺障害、または糖尿病網膜症のモデル動物である、請求項1または2に記載の非ヒトノックアウト動物。
  4. ヘテロノックアウト動物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非ヒトノックアウト動物。
  5. マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ウシ、サル、チンパンジーおよびゼブラフィッシュからなる群から選択される動物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の非ヒトノックアウト動物。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の非ヒトノックアウト動物の子孫動物。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の動物から単離された組織または細胞。
  8. 血管由来のものである、請求項7に記載の組織または細胞。
  9. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の動物または請求項7または8に記載の組織もしくは細胞を用いる、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を予防および/または治療するための候補物質のスクリーニング方法。
  10. 下記の(a)〜(c)の工程:
    (a)請求項1〜6のいずれか1項に記載の動物に被験物質を投与する工程;
    (b)前記被験物質を投与した動物における血管組織を調べ、被験物質を投与しない動物における血管組織と比較する工程;および、
    (c)工程(b)における比較結果に基づいて、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を治療することができる被験物質を選択する工程、
    を含む、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状の治療候補物質のスクリーニング方法。
  11. 下記の(a)〜(c)の工程:
    (a)請求項1〜6のいずれか1項に記載の動物に被験物質を投与する工程;
    (b)前記被験物質を投与した動物における血管組織を調べ、被験物質を投与しない動物における血管組織と比較する工程;および、
    (c)工程(b)における比較結果に基づいて、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を発現させなくするか、またはその発現を遅らせることができる被験物質を選択する工程、
    を含む、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状の予防候補物質のスクリーニング方法。
  12. 下記の(a)〜(c)の工程:
    (a)請求項1〜6のいずれか1項に記載の動物と、当該動物の同種野生型動物とのそれぞれから血液を採取する工程;
    (b)工程(a)で得られた血液中のタンパク質を調べ、それぞれの動物におけるタンパク質の発現パターンを比較する工程;および、
    (c)工程(b)における比較結果に基づいて、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状の発現の指標となる血清タンパク質を選択する工程、
    を含む、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状のバイオマーカーのスクリーニング方法。
  13. 非ヒト動物の相同染色体上でPI3K−C2α遺伝子の全部または一部の機能を喪失させるノックアウト工程を含む、脈管形成および/または血管新生に関連した疾患または症状を呈する非ヒトノックアウト動物の作製方法。
  14. 前記ノックアウト工程が、前記非ヒト動物のPI3K−C2α遺伝子のエクソン1の開始コドンを含む領域を相同組換えにより他の塩基配列に置換することを含む、請求項13に記載の作製方法。
  15. 前記ノックアウト工程の後に、脈管形成および/または血管新生に関連した因子を前記非ヒト動物に投与する工程をさらに含む、請求項13または14に記載の作製方法。
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