JP2011216661A - 圧電・焦電素子用多孔質樹脂シート及びその製造方法 - Google Patents

圧電・焦電素子用多孔質樹脂シート及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 高い圧電率及び高い圧縮応力を有し、長時間経過後(1ヶ月後)においても初期の圧電性能を高く維持でき、かつ耐熱性に優れた圧電・焦電素子用多孔質樹脂シート、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートは、平均最大垂直弦長が1〜40μm、かつ平均アスペクト比(平均最大水平弦長/平均最大垂直弦長)が0.7〜4.0の気泡を有し、体積空孔率が20〜75%であり、樹脂成分の比誘電率よりも比誘電率が高いセラミックス粒子を含有する。
【選択図】なし

Description

本発明は、タッチパネル、超音波診断装置、超音波発生装置、発電装置、探査装置、マイク、音響変成器、計測機器、圧電振動子、機械的フィルター、圧電トランス、遅延装置、及び温度センサなどに設けられる圧電素子又は焦電素子用の多孔質樹脂シート及びその製造方法に関する。
圧電・焦電素子を作製するための高分子材料としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、多孔質ポリプロピレン(E−PP)などが用いられており、例えば、PVdFを圧電素子に用いた場合、その圧電定数d33は20pC/N程度を示すことが知られている。これら高分子材料で作製された圧電・焦電素子は、無機材料で作製された圧電・焦電素子にはない可とう性、柔軟性、耐摩耗性を有しているため広く用いられている。
例えば、特許文献1では、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVdF)からなる結晶性極性高分子シートを延伸する際に分極電圧を印加して、結晶性極性高分子シートを分極処理することにより高分子圧電体フィルムを製造する方法が提案されている。
特許文献2では、ポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂に扁平状あるいは鱗片状充填剤を添加し、フィルムあるいはシートに成形加工した後に、場合によりフィルムあるいはシートを延伸処理を行った後に、直流高電圧を印加することで帯電処理を行って圧電素子材料を製造する方法が提案されている。
また、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)は、無極性のポリマーであるが、ポリマー表面に電荷がトラップされることによって圧電・焦電素子になることが知られており、具体的には、FEPの無孔質シートにコロナ放電等によって電荷をトラップさせることによって圧電・焦電素子を作製している。
しかしながら、PVdF及びFEPからなる圧電・焦電素子は、無機材料からなる圧電・焦電素子に比べて圧電率が低いという問題があった。一方、圧電率を向上させるために、多孔質ポリプロピレン(EMFI:Electro Mechanical FIlm)からなる圧電・焦電素子が開発されている。
例えば、特許文献3では、引張りにより約0.25μmの高さ、80μmの長さ、および50μmの幅の平偏化された気泡を有する多孔構造の発泡ポリプロピレンフィルム層を含む誘電性フィルムが提案されている。
多孔質ポリプロピレンフィルムは、多数の空孔が巨大な双極子を構成し、フィルム面に圧力が加わると空孔が容易に圧縮されるため双極子の値が大きく変化するという特性を有している。双極子の値が大きく変化すると、フィルムの両面の電極に誘導される電荷も大きく変化するため、多孔質ポリプロピレンフィルムからなる圧電・焦電素子は、高い圧電率を有している。
しかしながら、多孔質ポリプロピレンフィルムは、圧電率ではPVdF及びFEPより優れているが、耐熱性に劣るため使用環境が限定される等の問題を有している。また、多孔質ポリプロピレンフィルムは、連続気泡構造であるため、無孔質フィルムに比べて圧縮応力が小さく、潰れやすいという問題も有している。
本発明者らは、上記従来の問題を解決するために、高い圧電率及び高い圧縮応力を有し、かつ耐熱性に優れた圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートを提案した(本出願時未公開)。当該圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートは高い圧電率を有するが、前記特性に加えて、長時間経過後(1ヶ月後)においても初期の圧電性能を維持できる特性が求められる。
特開2008−171935号公報 特開2006−111837号公報 特公平5−41104号公報
本発明の目的は、高い圧電率及び高い圧縮応力を有し、長時間経過後(1ヶ月後)においても初期の圧電性能を高く維持でき、かつ耐熱性に優れた圧電・焦電素子用多孔質樹脂シート、及びその製造方法を提供することにある。
即ち本発明は、平均最大垂直弦長が1〜40μm、かつ平均アスペクト比(平均最大水平弦長/平均最大垂直弦長)が0.7〜4.0の気泡を有し、体積空孔率が20〜75%であり、樹脂成分の比誘電率よりも比誘電率が高いセラミックス粒子を含有する圧電・焦電素子用多孔質樹脂シート、に関する。
本発明者らは、高い圧電率及び高い圧縮応力を得るためには、双極子を形成する気泡を大きくして双極子の変化量を増やし、かつアスペクト比を小さくして厚み方向の弾性率を適切に調整することにより本発明の目的を解決できることを見出した。
平均最大垂直弦長が1μm未満の場合には、弾性率が大きくなりすぎ、多孔質樹脂シートが変形し難くなるため圧電率を高くすることができない。一方、平均最大垂直弦長が40μmを超える場合には、帯電処理の際に気泡にかかる電圧密度が低くなり、火花放電が起き難くなる。
平均アスペクト比が0.7未満の場合には、双極子の変化量が小さくなるため圧電率を高くすることができない。一方、平均アスペクト比が4.0を超える場合には、気泡の扁平率が大きくなり、歪み回復率が小さくなるため、短時間で同じ圧力が複数回加えられたときの圧電性能の再現性が悪くなる。
体積空孔率が20%未満の場合には、トラップできる体積が少なくなるため、トラップできる電荷量も少なくなり、圧電率を高くすることができない。一方、体積空孔率が75%を超える場合には、歪み回復率が小さくなるため、短時間で同じ圧力が複数回加えられたときの圧電性能の再現性が悪くなる。
また、本発明者らは、多孔質樹脂シート中に、該多孔質樹脂シートの主原料である樹脂成分の比誘電率よりも比誘電率が高いセラミックス粒子を添加することにより、帯電直後の圧電性能を長時間経過後(1ヶ月後)においても高く維持できることを見出した。
前記セラミックス粒子の一次粒径は、気泡内に十分な空間を確保するために、1nm〜10μmであることが好ましい。
前記樹脂成分は、熱硬化性樹脂、エンジニアリングプラスチック、又はスーパーエンジニアリングプラスチックであることが好ましい。これら樹脂を用いることにより耐熱性に優れた圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートを製造することができる。
多孔質樹脂シートの弾性率は、0.05〜1.5GPaであることが好ましい。弾性率が0.05GPa未満の場合には、歪み回復率が小さくなり、短時間で同じ圧力が複数回加えられた時の圧電性能の再現性が悪くなる傾向にある。一方、弾性率が1.5GPaを超える場合には、圧力が加えられた時に気泡が変形し難くなるため圧電性能が低下する傾向にある。
また、多孔質樹脂シートは、100Hzにおける誘電損失(tanδ)が0.01以下であることが好ましい。誘電損失が0.01を超える場合には、蓄えられた電荷が熱に変換される割合が高くなり、帯電量が低下、ひいては圧電性能が低下しやすくなる。
また、多孔質樹脂シートは、体積抵抗率が1.0×1016(Ω・cm)以上であることが好ましい。体積抵抗率が1.0×1016(Ω・cm)未満の場合には、トラップした電荷が移動しやすくなり、帯電量が低下、ひいては圧電性能が低下しやすくなる。
また、本発明は、樹脂成分と、該樹脂成分の硬化体と相分離する相分離化剤と、該樹脂成分の比誘電率よりも比誘電率が高いセラミックス粒子とを含む樹脂組成物を基板上に塗布し、硬化させてミクロ相分離構造を有する樹脂シートを作製する工程、樹脂シートから前記相分離化剤を除去して多孔質樹脂シートを作製する工程、及び多孔質樹脂シートに電子線照射処理又はコロナ放電処理を施すことにより気泡内部を帯電させる工程を含む圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートの製造方法、に関する。
本発明の製造方法によると、従来の延伸方法では得られない、気泡径が大きく、かつアスペクト比が小さい気泡を有する圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートを容易に製造することができる。
本発明においては、樹脂シートから相分離化剤を除去する方法として、溶剤抽出法を採用することが好ましく、溶剤としては、液化二酸化炭素又は超臨界二酸化炭素を用いることが好ましい。
本発明の圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートは、気泡径が大きく、かつアスペクト比が小さい気泡を多数有しており、該気泡は巨大な双極子を構成している。それにより、当該多孔質樹脂シートは、高い圧電率及び高い圧縮応力を有している。また、当該多孔質樹脂シートは、比誘電率が高いセラミックス粒子を含有しているため、長時間経過後(1ヶ月後)においても初期の圧電性能を高く維持することができる。
実施例1で作製した多孔質樹脂シートの垂直方向における断面の顕微鏡写真である。 実施例2で作製した多孔質樹脂シートの垂直方向における断面の顕微鏡写真である。 実施例3で作製した多孔質樹脂シートの垂直方向における断面の顕微鏡写真である。 実施例4で作製した多孔質樹脂シートの垂直方向における断面の顕微鏡写真である。 実施例5で作製した多孔質樹脂シートの垂直方向における断面の顕微鏡写真である。 比較例1で作製した多孔質樹脂シートの垂直方向における断面の顕微鏡写真である。 比較例2で作製した多孔質樹脂シートの垂直方向における断面の顕微鏡写真である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートは、平均最大垂直弦長が1〜40μm、かつ平均アスペクト比(平均最大水平弦長/平均最大垂直弦長)が0.7〜4.0の気泡を有し、体積空孔率が20〜75%である。そして、当該多孔質樹脂シートは、樹脂成分の比誘電率よりも比誘電率が高いセラミックス粒子を含有することを特徴とする。
前記圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートは、例えば、樹脂成分と、該樹脂成分の硬化体と相分離する相分離化剤と、該樹脂成分の比誘電率よりも比誘電率が高いセラミックス粒子とを含む樹脂組成物を基板上に塗布し、硬化させてミクロ相分離構造を有する樹脂シートを作製し、該樹脂シートから前記相分離化剤を除去して多孔質樹脂シートを作製し、該多孔質樹脂シートに電子線照射処理又はコロナ放電処理を施して気泡内部を帯電させることにより製造することができる。
樹脂成分としては、5%重量減少温度が250℃以上、好ましくは280℃以上である樹脂であれば特に制限されず、例えば、ポリスチレン、(メタ)アクリル樹脂、ABS樹脂、及びAS樹脂などの汎用プラスチック;ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、及び環状ポリオレフィンなどのエンジニアリングプラスチック;ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、及びポリエーテルイミドなどのスーパーエンジニアリングプラスチック;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、シリコーン樹脂、及びジアリルフタレート樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらのモノマー、オリゴマーを用いてもよい。これらのうち、熱硬化性樹脂、エンジニアリングプラスチック、又はスーパーエンジニアリングプラスチックを用いることが好ましい。
本発明で用いる相分離化剤とは、樹脂成分に対して相溶性であり、かつ該樹脂成分の硬化体と相分離する化合物である。ただし、樹脂成分と相分離する化合物であっても、有機溶剤を加えることで均一状態(均一溶液)となるものは使用可能である。相分離化剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール;ポリアルキレングリコールの片末端又は両末端メチル封鎖物;ポリアルキレングリコールの片末端又は両末端(メタ)アクリレート封鎖物;ウレタンプレポリマー;フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、及びオリゴエステル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系化合物などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。オリゴマーの場合、重量平均分子量は100〜10000であることが好ましく、より好ましくは100〜3000である。重量平均分子量が100未満の場合には、樹脂成分の硬化体と相分離し難くなり、一方、重量平均分子量が10000を超えると、ミクロ相分離構造が大きくなりすぎたり、樹脂シート中から除去し難くなる。
多孔質樹脂シートの気泡径、体積空孔率、孔径分布などは、使用する樹脂成分、相分離化剤などの原料の種類や配合比率、及び反応誘起相分離時における加熱温度や加熱時間などの反応条件により変化するため、目的とする気泡径、体積空孔率、孔径分布を得るために系の相図を作成して最適な条件を選択することが好ましい。
平均最大垂直弦長が1〜40μm、かつ平均アスペクト比(平均最大水平弦長/平均最大垂直弦長)が0.7〜4.0の気泡を有し、体積空孔率が20〜75%である多孔質樹脂シートを作製するためには、樹脂成分100重量部に対して相分離化剤を25〜300重量部用いることが好ましく、より好ましくは60〜200重量部である。
セラミックス粒子は、樹脂成分の比誘電率(通常2〜3.5程度)よりも比誘電率が高いものを用いることが必要である。好適に用いられるセラミック粒子としては、例えば、酸化チタン(比誘電率:83〜183)、酸化アルミニウム(比誘電率:9〜10)、チタン酸バリウム(比誘電率:3300)、チタン酸ストロンチウム(比誘電率:300)、ニオブ酸リチウム(比誘電率:85)、ニオブ酸カリウム(比誘電率:350)、ニオブ酸ナトリウム、トルマリン、タンタル酸リチウム(比誘電率:39〜54)、石英(比誘電率:3.7〜4.1)、炭化ケイ素(比誘電率:10)、窒化ケイ素(比誘電率:7.3)、窒化アルミニウム(比誘電率:7.1)、及び窒化ホウ素(比誘電率:4)などが挙げられる。
セラミックス粒子の一次粒径は、気泡内に十分な空間を確保するために、1nm〜10μmであることが好ましく、より好ましくは10nm〜3μmである。
セラミックス粒子は、樹脂成分100重量部に対して0.1〜40重量部添加することが好ましく、より好ましくは1〜30重量部である。0.1重量部未満の場合には、帯電直後の圧電率を長時間維持することが難しくなる。一方、40重量部を超える場合には、ミキサーでの撹拌中においても粒子の沈殿が起こりやすくなり、樹脂組成物を基板上に塗布する際に粒子が分離して平滑な塗布膜を形成することが難しくなる。
樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない程度に架橋剤、可塑剤、粘着付与剤、レベリング剤、チクソトロピー剤、及び着色剤等の添加剤を適宜添加してもよい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
以下、本発明の圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートの製造方法について詳しく説明する。
まず、少なくとも樹脂成分、相分離化剤、及びセラミックス粒子を含む樹脂組成物を基板上に塗布する。
均一な樹脂組成物を調製するために、トルエン、及びキシレンなどの芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、及びアセトンなどのケトン類;N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、及びジメチルホルムアミドなどのアミド類などの有機溶媒を使用してもよい。有機溶媒の使用量は、樹脂成分100重量部に対して通常100〜500重量部であり、好ましくは300〜500重量部である。
樹脂組成物は、例えば、樹脂成分と相分離化剤を有機溶媒中に加えて混合し、その後、得られた溶液中にセラミックス粒子を添加してバイオミキサーで数時間撹拌し、セラミックス粒子を均一に分散させることにより調製することができる。
基材としては、平滑な表面を有するものであれば特に制限されず、例えば、PET、PE、及びPPなどのプラスチックフィルム;ガラス板;ステンレス、銅、及びアルミニウムなどの金属箔が挙げられる。連続して樹脂シートを製造するために、ベルト状の基材を用いてもよい。
樹脂組成物を基材上に塗布する方法は特に制限されず、連続的に塗布する方法としては、例えば、ワイヤーバー、キスコート、及びグラビアなどが挙げられ、バッチで塗布する方法としては、例えば、アプリケーター、ワイヤーバー、及びナイフコーターなどが挙げられる。
次に、基板上に塗布した樹脂組成物を硬化させて、相分離化剤がミクロ相分離した樹脂シートを作製する。ミクロ相分離構造は、通常、樹脂成分を海、相分離化剤を島とする海島構造となる。
樹脂組成物が溶媒を含まない場合には、塗布膜に熱硬化処理などの硬化処理を施し、塗布膜中の樹脂成分を硬化させて相分離化剤を不溶化する。
樹脂組成物が溶媒を含む場合には、塗布膜中の溶媒を蒸発(乾燥)させてミクロ相分離構造を形成した後に樹脂成分を硬化させてもよく、樹脂成分を硬化させた後に溶媒を蒸発(乾燥)させてミクロ相分離構造を形成してもよい。溶媒を蒸発(乾燥)させる際の温度は特に制限されず、用いた溶媒の種類により適宜調整すればよいが、通常10〜250℃であり、好ましくは10〜200℃である。
次に、樹脂シートからミクロ相分離した相分離化剤を除去して多孔質樹脂シートを作製する。なお、相分離化剤を除去する前に樹脂シートを基材から剥離しておいてもよい。
樹脂シートから相分離化剤を除去する方法は特に制限されないが、溶剤で抽出する方法が好ましい。溶剤は、相分離化剤に対して良溶媒であり、かつ樹脂成分の硬化体を溶解しないものを用いる必要があり、例えば、トルエン、エタノール、酢酸エチル、及びヘプタンなどの有機溶剤、液化二酸化炭素、超臨界二酸化炭素などが挙げられる。液化二酸化炭素、及び超臨界二酸化炭素は、樹脂シート内に浸透しやすいため相分離化剤を効率よく除去することができる。
溶剤として液化二酸化炭素または超臨界二酸化炭素を用いる場合には、通常、圧力容器を用いる。圧力容器としては、例えば、バッチ式の圧力容器、耐圧性のシート繰り出し・巻き取り装置を有する圧力容器などを用いることができる。圧力容器には、通常、ポンプ、配管、及びバルブなどにより構成される二酸化炭素供給手段が設けられている。
液化二酸化炭素または超臨界二酸化炭素で相分離化剤を抽出する際の温度及び圧力は、二酸化炭素の臨界点以上であればよく、通常、32〜230℃、7.3〜100MPaであり、好ましくは40〜200℃、10〜50MPaである。
抽出は、樹脂シートを入れた圧力容器内に、液化二酸化炭素または超臨界二酸化炭素を連続的に供給・排出して行ってもよく、圧力容器を閉鎖系(投入した樹脂シート、液化二酸化炭素または超臨界二酸化炭素が容器外に移動しない状態)にして行ってもよい。超臨界二酸化炭素を用いた場合には、樹脂シートの膨潤が促進され、かつ不溶化した相分離化剤の拡散係数の向上によって効率的に樹脂シートから相分離化剤が除去される。液化二酸化炭素を用いた場合には、前記拡散係数は低下するが、樹脂シート内への浸透性が向上するため効率的に樹脂シートから相分離化剤が除去される。
抽出時間は、抽出時の温度、圧力、相分離化剤の配合量、及び樹脂シートの厚みなどにより適宜調整する必要があるが、通常、1〜10時間であり、好ましくは2〜10時間である。
一方、溶剤として有機溶剤を用いて抽出する場合、大気圧下で相分離化剤を除去できるため、液化二酸化炭素または超臨界二酸化炭素を用いて抽出する場合に比べて多孔質樹脂シートの変形を抑制できる。また、抽出時間を短縮することもできる。さらに、有機溶剤中に順次樹脂シートを通すことにより、連続的に相分離化剤の抽出処理を行うことができる。
有機溶剤を用いた抽出方法としては、例えば、有機溶剤中に樹脂シートを浸漬する方法、樹脂シートに有機溶剤を吹き付ける方法などが挙げられる。相分離化剤の除去効率の観点から浸漬法が好ましい。また、数回に亘って有機溶剤を交換したり、撹拌しながら抽出することで効率的に相分離化剤を除去することができる。
相分離化剤を除去した後に多孔質樹脂シートを乾燥処理等してもよい。
多孔質樹脂シートの厚さは用途により異なるが、通常1〜500μmであり、好ましくは10〜150μmであり、より好ましくは30〜150μmである。
本発明の製造方法により得られる多孔質樹脂シートは、平均最大垂直弦長が1〜40μm、かつ平均アスペクト比(平均最大水平弦長/平均最大垂直弦長)が0.7〜4.0の気泡を有し、体積空孔率が20〜75%であることが好ましい。平均最大垂直弦長は1〜25μmであることがより好ましく、平均アスペクト比は0.9〜2.0であることがより好ましく、体積空孔率は35〜75%であることがより好ましい。
また、多孔質樹脂シートの弾性率は、0.05〜1.5GPaであることが好ましく、より好ましくは0.07〜1.0GPaである。
また、多孔質樹脂シートの熱変形温度は、100℃以上であることが好ましく、より好ましくは150℃以上である。熱変形温度が100℃未満の場合には、多孔質樹脂シートを電気機器などの発熱する装置と接触させて使用する時に、多孔質樹脂シートが変形したり、圧電性能が低下するなどの問題が生じるおそれがある。
また、多孔質樹脂シートの100Hzにおける誘電損失(tanδ)は、0.01以下であることが好ましく、より好ましくは0.008以下である。
また、多孔質樹脂シートの体積抵抗率は、1.0×1016(Ω・cm)以上であることが好ましく、より好ましくは2.0×1016(Ω・cm)以上である。
その後、多孔質樹脂シートに電子線照射処理又はコロナ放電処理を施すことにより気泡内部を帯電させることにより圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートを作製する。帯電処理の方法は特に制限されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、アースをつないだ金属板上に多孔質樹脂シートを粘着テープで固定し、該多孔質樹脂シートの中心部の上空5〜15mm程度の位置に針の先端を設置する。そして、常温、湿度20%の環境下で、5〜15kV程度の直流高電圧を針の先端に印加する。印加時間は通常0.5〜3分程度である。
本発明の圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートは、従来にない気泡構造を有しており、圧電率及び圧縮応力が高く、さらに初期の圧電性能を長時間経過後においても高く維持できるという特性を有しており、圧電素子または焦電素子の材料として好適に用いられる。
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
〔測定及び評価方法〕
(5%重量減少温度の測定)
示差熱熱重量同時測定装置(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA300)を用い、大気中で昇温速度10℃/minの条件にて、多孔質樹脂シートの重量が5%減少した時の温度を測定した。
(平均最大垂直弦長、平均最大水平弦長、及び平均アスペクト比の測定)
多孔質樹脂シートを液体窒素で冷却し、刃物を用いてシート面に対して垂直に切断してサンプルAを作製した。サンプルAの切断面にAu蒸着処理を施し、該切断面をSEMで観察した。その画像を画像処理ソフト(三谷商事(株)製、WinROOF)で二値化処理し、気泡部と樹脂部とに分離して気泡の最大垂直弦長を測定した。同様の方法で、シート面に対して水平に切断してサンプルBを作製し、気泡の最大水平弦長を測定した。なお、最大垂直弦長とは、気泡をシート面に対して垂直に切断した時の各気泡の最大長さであり、最大水平弦長とは、気泡をシート面に対して水平に切断した時の各気泡の最大長さである。50個の気泡について最大垂直弦長及び最大水平弦長をそれぞれ測定し、その平均値を平均最大垂直弦長及び平均最大水平弦長とした。また、下記式により平均アスペクト比を算出した。
平均アスペクト比=平均最大水平弦長/平均最大垂直弦長
(体積空孔率の測定)
多孔質樹脂シートから24mmφのサンプルを切り出し、その面積s、厚みl、及び重量mを測定した。また、多孔質樹脂シートの樹脂成分の比重σをJIS Z8807−1976に準拠して測定した。具体的には、樹脂成分を4cm×8.5cmの短冊状(厚み:任意)に切り出したものを比重測定用試料とし、温度23℃±2℃、湿度50%±5%の環境で16時間静置した。その後、比重計(ザルトリウス社製)を用いて比重σを測定した。そして、下記式により体積空孔率を算出した。
体積空孔率(%)={100−(m/(s×l×σ))}×100
(弾性率の測定)
表面界面物性解析装置(ダイプラウィンテス社製、SAICAS)、サイズ6mm×4mmの長方形平面圧子を用いて、押し込み速度0.2μm/sec及び押し込み深さ20μmの条件で、多孔質樹脂シート(試料)の弾性率を測定した。弾性率は、下記数式により求められる。
Figure 2011216661
(圧電性能の評価)
多孔質樹脂シート(3cm×3cm)の両面にアルミ箔からなる矩形電極(三菱アルミ社製、FOIL、厚み11μm)を設けてサンプルを得た。圧電性能測定装置を用い、サンプルをおもりの下に設置し、室温(20℃)雰囲気下、湿度20%の条件で、サンプルの厚み方向に一定の交流加速度α(周波数:90−300Hz、大きさ:2−10m/s)を与え、そのときの応答電荷を測定し、初期の圧電定数d33を求めた。その後、帯電した多孔質樹脂シートを室温(20℃)、湿度20%の雰囲気下に7日間静置し、そして前記と同様の方法で圧電定数d33を求めた。その後、さらに当該多孔質樹脂シートを室温(20℃)、湿度20%の雰囲気下で24日間静置し、そして前記と同様の方法で圧電定数d33を求めた。
(比誘電率、誘電損失、体積抵抗率の測定)
多孔質樹脂シート(2cm×2cm)の片面に12mmφ、及び他面全面に金を蒸着してサンプルを得た。Precision LCR meter(HP4248A)を用いて、比誘電率、及び100Hzにおける誘電損失(tanδ)を測定した。また、同じサンプルを用いて体積抵抗率を測定した。測定装置として直流電圧発生装置(MATUSADA PLE-650-0.1)及び電流計(TAKEDA RIKEN TR8641 ELECTRONIC PICOAMMETER、1.0E-2〜1.0E-12(A))を用い、印加電圧500Vの条件にて、1分経過後の電流値とシート厚みから体積抵抗率を求めた。
実施例1
シクロオレフィン共重合体(JSR社製、アートン、比誘電率:3.30)100重量部、溶媒としてトルエン400重量部、相分離化剤としてトリプロピレングリコール100重量部、及びセラミック粒子としてチタン酸バリウム(堺化学工業(株)製、BT−03、一次粒径:300nm、比誘電率:3300)6.25重量部をバイオミキサーで混合して、白濁した樹脂組成物を調製した。コンマコーターを用いて、該樹脂組成物をPETフィルム(三菱化学ポリエステル社製、厚み38μm)上に塗布し、その後、50℃の恒温乾燥機内で4分間乾燥してトルエンを蒸発除去して樹脂シートを作製した。
樹脂シートをPETフィルムから剥離し、該樹脂シートを100mm×200mmの短冊状に切断した。切断した樹脂シートを500ccの耐圧容器に入れ、25℃に加熱、及び25MPaに加圧した後、該圧力を保ったまま7.4(l/min)の流量で二酸化炭素を注入し、排出してトリプロピレングリコールを抽出する操作を2時間行って多孔質樹脂シートを作製した。
多孔質樹脂シートを3cm×3cmの大きさに切断し、アースにつないだ金属板上に粘着テープで固定した。多孔質樹脂シート上8mmの位置に設置した針の先端に、室温および湿度20%の環境下で、直流高電圧(−7kV)を1分間印加して多孔質樹脂シートの気泡内部を帯電させることにより圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートを作製した。
作製した多孔質樹脂シートを樹脂に包埋させ、面に対して垂直に切断してサンプルを得た。該サンプルの断面を走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL−JSM−7001F)を用いて、加速電圧10kVにて観察した。該サンプルの断面の顕微鏡写真を図1に示す。
実施例2
チタン酸バリウムの添加量を6.25重量部から20重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートを作製した。また、実施例1と同様の方法で多孔質樹脂シートの断面を観察した。その顕微鏡写真を図2に示す。
実施例3
チタン酸バリウム6.25重量部の代わりに、酸化アルミニウム(アドマテックス製、アドマファイン、一次粒径:700nm、比誘電率:9〜10)を20重量部添加した以外は実施例1と同様の方法で圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートを作製した。また、実施例1と同様の方法で多孔質樹脂シートの断面を観察した。その顕微鏡写真を図3に示す。
実施例4
チタン酸バリウム6.25重量部の代わりに、酸化チタン(石原産業製、CR−60、一次粒径:200〜300nm、比誘電率:83〜183)を20重量部添加した以外は実施例1と同様の方法で圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートを作製した。また、実施例1と同様の方法で多孔質樹脂シートの断面を観察した。その顕微鏡写真を図4に示す。
実施例5
チタン酸バリウム6.25重量部の代わりに、酸化チタン(石原産業製、CR−60、一次粒径:200〜300nm、比誘電率:83〜183)を5重量部添加した以外は実施例1と同様の方法で圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートを作製した。また、実施例1と同様の方法で多孔質樹脂シートの断面を観察した。その顕微鏡写真を図5に示す。
比較例1
チタン酸バリウムを添加しなかった以外は実施例1と同様の方法で圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートを作製した。また、実施例1と同様の方法で多孔質樹脂シートの断面を観察した。その顕微鏡写真を図6に示す。
比較例2
チタン酸バリウム6.25重量部の代わりに、炭酸カルシウム(丸尾カルシウム製、カルファイン200、一次粒径:70nm、比誘電率:1.58)を20重量部添加した以外は実施例1と同様の方法で圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートを作製した。また、実施例1と同様の方法で多孔質樹脂シートの断面を観察した。その顕微鏡写真を図7に示す。
Figure 2011216661
本発明の圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートは、可とう性を有する圧電素子または焦電素子の材料として利用可能である。このような圧電素子または焦電素子を備えた機器としては、例えば、計算機、コンピュータ、及び携帯電話などの電子機器が挙げられる。さらに、制御機器を狭小部に搭載する必要のある自動車及び飛行機等の機械の制御回路にも利用可能である。

Claims (9)

  1. 平均最大垂直弦長が1〜40μm、かつ平均アスペクト比(平均最大水平弦長/平均最大垂直弦長)が0.7〜4.0の気泡を有し、体積空孔率が20〜75%であり、樹脂成分の比誘電率よりも比誘電率が高いセラミックス粒子を含有する圧電・焦電素子用多孔質樹脂シート。
  2. セラミックス粒子の一次粒径が、1nm〜10μmである請求項1記載の圧電・焦電素子用多孔質樹脂シート。
  3. 樹脂成分が、熱硬化性樹脂、エンジニアリングプラスチック、又はスーパーエンジニアリングプラスチックである請求項1又は2記載の圧電・焦電素子用多孔質樹脂シート。
  4. 弾性率が0.05〜1.5GPaである請求項1〜3のいずれかに記載の圧電・焦電素子用多孔質樹脂シート。
  5. 100Hzにおける誘電損失(tanδ)が0.01以下である請求項1〜4のいずれかに記載の圧電・焦電素子用多孔質樹脂シート。
  6. 体積抵抗率が1.0×1016(Ω・cm)以上である請求項1〜5のいずれかに記載の圧電・焦電素子用多孔質樹脂シート。
  7. 樹脂成分と、該樹脂成分の硬化体と相分離する相分離化剤と、該樹脂成分の比誘電率よりも比誘電率が高いセラミックス粒子とを含む樹脂組成物を基板上に塗布し、硬化させてミクロ相分離構造を有する樹脂シートを作製する工程、樹脂シートから前記相分離化剤を除去して多孔質樹脂シートを作製する工程、及び多孔質樹脂シートに電子線照射処理又はコロナ放電処理を施すことにより気泡内部を帯電させる工程を含む圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートの製造方法。
  8. 相分離化剤を溶剤抽出により除去する請求項7記載の圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートの製造方法。
  9. 溶剤が液化二酸化炭素又は超臨界二酸化炭素である請求項8記載の圧電・焦電素子用多孔質樹脂シートの製造方法。
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