JP2011215260A - 光学素子及び可変光モジュール - Google Patents

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信治 岩塚
Takao Noguchi
隆男 野口
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Abstract

【課題】長波長用の可変光モジュールに用いることができる電気光学特性に優れた光学素子を提供する。
【解決手段】シリコンを含有する単結晶基板110と、単結晶基板110上にエピタキシャル成長により形成された第1の電極130と、第1の電極130上にエピタキシャル成長により形成された電気光学効果を有する電気光学膜160と、電気光学膜160上に形成された第2の電極180とを備え、第1及び第2の電極130及び180は、電気光学膜160の膜厚方向に電圧を印加するためのものであり、電気光学膜160は、単一配向を有しない結晶化膜である光学素子。
【選択図】図1

Description

本発明は、光学素子及び可変光モジュールに関するものである。ここで、可変光モジュールとは、光変調器、光スイッチ、光偏向器、可変光減衰器、波長可変フィルタ、可変分散補償器等の、電気的に光信号を可変に制御する光モジュールを総称するものである。
従来、光ファイバ通信で用いられる高速の光変調器として、LiNbO3(以下、「LN」と表記する。)単結晶を用いたLN光変調器及び電界吸収型光変調器などが実用化されている。特に、高速長距離用としては、変調特性の良好なLN光変調器が主流となっている。しかしながら、LN光変調器は、その素子長が数十mm以上と長く、しかも大型かつ高価であるという課題を有している。そこで、発光受光素子や電子回路を実装でき、かつ小型化可能で安価なSi含有基板を用いた、高速の光変調器などの高特性の可変光モジュールを実現することが求められている。
また、そのような可変光モジュールにおいて、光学素子に備えられる薄膜であって、電圧(電場)の印加により屈折率が変化する電気光学効果を有する薄膜(以下、「電気光学膜」という。)の材料として半導体材料及び有機材料も検討されており、電気光学係数の大きな無機酸化物材料が最も有望な材料の一つである。ところが、無機酸化物材料はSiとは全く異質な材料であるため、Si含有基板上に、無機酸化物材料からなる電気光学特性に優れた電気光学膜を作製するのが非常に困難である。
ここで、特許文献1によると、c面単一配向の単純ペロブスカイト型又はタングステンブロンズ型の材料から構成されるc面単一配向薄膜を有する積層薄膜などの提供を主目的として、半導体単結晶基板上に酸化物薄膜が形成されており、この酸化物薄膜は酸化ジルコニウム又は希土類金属元素(Sc及びYを含む)により安定化された酸化ジルコニウムを主成分としたエピタキシャル薄膜を少なくとも1層含み、この酸化物薄膜上にペロブスカイト型又はタングステンブロンズ型の誘電体材料で形成され、基板表面と平行にc面単一配向した配向薄膜を備える積層薄膜が提案されている。特許文献1には、半導体単結晶基板としてSi単結晶基板が開示されており、上述の積層薄膜を光変調器に用いることが記載されている。
また、特許文献2によると、任意の基板上に形成された高速、小型で低電圧駆動の光変調器等の光学素子を提供することを意図して、基板と、基板上に形成された下部電極と、下部電極上に形成され、電気光学材料よりなる導波層を含む光導波路構造とを有する光学素子であって、下部電極が金属導電層と透明導電層よりなり、透明導電層が光導波路構造と接していることを特徴とする光学素子が提案されている。上記基板としてSi基板が開示されており、光学素子として光変調器及び光スイッチが例示されている。
特許第3310881号公報 特開2008−281896号公報
本発明者らは、上記特許文献1及び2に記載のものを始めとする従来の電気光学効果を有する光学素子について詳細に検討を行った。その結果、特許文献1に記載の光学素子では、その実施例に記載されているように、ペロブスカイト型などの誘電体材料からなる酸化物薄膜の膜厚が300nm前後と薄く、このままでは、長波長用の可変光モジュールに適用できないことが判明した。一方、使用波長や設計に依存するが、例えば波長1550nmという長波長に用いられる光変調器では、最低でも1μm以上の膜厚を有する電気光学膜が必要になる。ところが、特許文献1に記載されているc面単一配向した配向薄膜をそのような膜厚まで作製しようとすると、クラックの発生などに起因して、実際に配向薄膜を完成させることは非常に困難であることが分かった。
また、特許文献2では、透明導波層の作製に、常温衝撃固化現象を利用したエアロゾルデポジション法(AD法)による酸化物の薄膜形成方法を用いている。そのため、作製された透明導波層は結晶配向性がない多結晶膜になり、光の散乱が頻繁に発生するため、光の伝搬損失を低減するのが非常に困難であり、電気光学特性に優れた電気光学膜とは言い難い。
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、長波長用の可変光モジュールに用いることができる電気光学特性に優れた光学素子、及びそれを用いた可変光モジュールを提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明は、シリコンを含有する単結晶基板と、単結晶基板上にエピタキシャル成長により形成された第1の電極と、第1の電極上にエピタキシャル成長により形成された電気光学効果を有する少なくとも1層の電気光学膜と、電気光学膜上に形成された第2の電極とを備え、第1及び第2の電極は、電気光学膜の膜厚方向に電圧を印加するためのものであり、電気光学膜のうち少なくとも1層は、単一配向を有しない結晶化膜である、光学素子である。
ここで、「単一配向」とは、下地となる基板又は層の表面と平行に目的とする結晶面が揃っている配向をいう。具体的には、例えば、(001)単一配向膜、すなわちc面単一配向膜は、膜の2θ−θX線回折(XRD)で(00L)面以外の反射強度が、(00L)面反射の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下のものをいう。なお、本明細書において(00L)は、(001)や(002)などの等価な面を総称する表示であり、(L00)などについても同様である。また、「エピタキシャル成長により形成された」とは、膜面内をX−Y面とし、膜厚方向をZ軸としたときに、結晶がX軸、Y軸及びZ軸方向に共に揃って配向して形成されたことをいう。ただし、上記のうちいずれか一つの軸に対して、1つの結晶軸が常に配向する必要はなく、例えば、Z軸方向に対して、a軸が配向したものとc軸が配向したものとが混在していてもよい。なお、本明細書において、X軸、Y軸又はZ軸方向に配向とは、それらの軸方向に対して±10°以内の配向も包含する。「エピタキシャル成長により形成された」と判断できる条件は、第一に、X線回折による測定を行ったとき、目的とする面以外の面の反射のピーク強度が目的とする面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下となることである。第二に、X線回折の極点測定を行った際に、明らかに強い回折点が得られることである。そのようなX線回折図の一例を図6に示す。図6は、後述のa−cドメイン構造を有するエピタキシャル成長により形成されたPZT膜の(202)の面方位についてX線の極点回折を行った結果である。この図より、4つの明らかに強い回折点が認められる。
本発明の光学素子は、シリコンを含有する単結晶基板上に、第1の電極と電気光学膜とが共にエピタキシャル成長により形成されていることをその技術的特徴の1つとする。これにより、本発明の光学素子は電気光学特性に優れたものとなる。それに加えて、電気光学膜が単一配向を有しない結晶化膜という技術的特徴を有することにより、その成長の段階で格子定数や熱膨張率差に起因して発生する応力が緩和される。その結果、安定的に膜厚の厚い電気光学膜を形成可能になるので、長波長用の可変光モジュールに用いることのできる光学素子となる。すなわち、本発明者らは、単一配向でなくても、エピタキシャル成長により形成された電気光学膜であれば、その電気光学膜としての特性を高く維持することができることを見出したのである。
本発明の光学素子において、上記結晶化膜の比誘電率は、1kHzの周波数において280以下であると好ましい。これにより、光学素子を光変調器などの可変光モジュールに採用した場合に、その高周波特性に一層優れたものとなり、更に良好な高速動作を実現できる。
本発明の光学素子において、上記結晶化膜は、より優れた電気光学特性を得る観点から、ペロブスカイト型結晶構造を有するものであると好ましい。さらに、上記結晶化膜は、下記一般式(1)
ABO3 (1)
で表される化学組成を有し、BはTi及び任意にZrを含み、Ti及びZrの合計量に対するZrのモル比が0〜0.45であると好ましい。これにより、本発明の光学素子が一層低い比誘電率を示すことが可能となる。ここで、式(1)中、A及びBはそれぞれ独立に金属原子を示す。
本発明の可変光モジュールは、光導波路が形成されており、且つ、光の入射端及び光の出射端を有する光導波層を備える可変光モジュールであって、シリコンを含有する単結晶基板と、単結晶基板上にエピタキシャル成長により形成された第1の電極と、第1の電極上にエピタキシャル成長により形成された電気光学効果を有する少なくとも1層の電気光学膜と、電気光学膜上に形成された第2の電極とを備える光学素子を含み、第1及び第2の電極は、電気光学膜の膜厚方向に電圧を印加するためのものであり、電気光学膜のうち少なくとも1層は、単一配向を有しない結晶化膜であり、且つ、上記光導波層である可変光モジュールである。この可変光モジュールは、上述の本発明の光学素子を備えているので、電気光学特性に優れ、長波長用の可変光モジュールとして有用なものとなる。
本発明によれば、長波長用の可変光モジュールに用いることができる電気光学特性に優れた光学素子、及びそれを用いた可変光モジュールを提供することができる。
本実施形態の光学素子を示す概略断面図である。 本実施形態の可変光モジュールの一例を示す概略平面図である。 図2のII−II線を切断して現れる断面の概略図である。 図2のIV−IV線を切断して現れる断面の概略図である。 実施例に係る電気光学膜のX線回折図である。 実施例に係る電気光学膜の極点測定によるX線回折図である。 実施例に係る電気光学膜のX線回折図である。 実施例に係る電気光学膜の印加電圧に対する屈折率の変化を示すグラフである。 実施例に係る電気光学膜の印加電圧に対する屈折率の変化を示すグラフである。 実施例に係る可変光モジュールの一部を示す断面顕微鏡写真である。 実施例に係る可変光モジュールの駆動電圧に対する光パワーを示すグラフである。 実施例に係る電気光学膜の比誘電率に対する変調帯域を示すグラフである。 実施例に係る電気光学膜のZr組成に対する比誘電率を示すグラフである。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
図1は本実施形態による光学素子の好適な一例の構成を概略的に示す断面図である。光学素子100は、基板110と、バッファ層120と、下部電極130と、シード層140と、下部クラッド層150と、コア層160と、上部クラッド層170と、上部電極180とを、この順で積層して備えるものである。
基板110は、シリコン(Si)を含有する単結晶基板であれば、その材料や厚さは特に限定されない。基板110は、Siを主成分とする、すなわち50質量%以上含むもの、好ましくは80質量%以上含むものであればよいが、少なくともバッファ層120側界面(表面)にSi層を有するものが好ましく(基板110の全体がSi層であってもよい。)、そのSi層が、上記界面に(100)面を有するSi単結晶であるとより好ましい。これにより、後述の各層を安定的にエピタキシャル成長により形成することが可能となる。また、基板110は、バッファ層120側表面にSi層が存在するSOI(Silicon On Insulator)基板であってもよく、基板110の材料としてSiGeを用いてもよい。基板110の厚さは例えば数百μmであってもよい。
バッファ層120は、基板110と後述の下部電極130との間に介在することにより、下部電極130からコア層160までのエピタキシャル成長による形成を促進させるものであり、単層であっても複数の層からなるものであってもよく、エピタキシャル成長により形成される。このバッファ層120の存在により、コア層160は更に結晶性が高く高品質(低比誘電率であること、及び、電圧を印加した際の屈折率変化が印加電圧量に対して一次関数的な関係にあること)になる。バッファ層120は、特に、下部電極130を所定面、特に(001)面に配向させるためのシード層としても機能する。したがって、バッファ層120の材料及び厚さは、それらの機能をバッファ層120に付与できるものであれば特に限定されない。
そのようなバッファ層120の組成としては、蛍石型結晶構造を有する膜が好適に利用でき、例えば、希土類酸化物、特許文献1に開示された酸化ジルコニウム又は希土類金属元素により安定化された酸化ジルコニウムを主成分とするエピタキシャル膜であってもよく、そのエピタキシャル膜を複数層積層したものであってもよい。ここで、希土類元素とは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイド元素からなる。
バッファ層120は、基板110側から順に、第1バッファ層及び第2バッファ層を積層した2層構造とすることが配向性の観点から好ましい。この場合、第1バッファ層は蛍石型結晶構造を有する膜であり、第2バッファ層は希土類C型の結晶構造、すなわち、立方晶型の結晶構造を有する希土類酸化物膜であることが好ましい。
第1バッファ層の表面は(001)面配向し、第2バッファ層の表面には(111)ファセット面が形成されることが好ましい。具体的には、第1バッファ層は、酸化ジルコニウム又は希土類元素により安定化された酸化ジルコニウムであることが好ましい。希土類元素により安定化された酸化ジルコニウムとしては、例えば、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)が挙げられる。希土類元素により安定化された酸化ジルコニウムにおいて、ジルコニウム(Zr)と希土類元素との原子数の合計に対するジルコニウムの原子数の割合は80%以上であることが好ましく、これにより、蛍石型結晶構造となる。一方、第2バッファ層は、Y23、Sc23、及び、La等のランタノイド系希土類金属を含む酸化物が好ましく、特にY23が好ましい。第2バッファ層もZrを含むことができ、希土類元素とZrとの原子数の合計に対するZrの原子数の割合は70%以下であることが好ましい。これにより、希土類C型構造となる。
また、バッファ層120は、上述のように明確に2層に分かれていなくても、基板110から遠いほど希土類元素が多くてZrが少ない酸化物とし、基板110に近いほど希土類元素が少なくZrが多くなるような酸化物となる、いわゆる傾斜組成構造としてもよい。
バッファ層120の厚さは、均質でかつファセット面を有する薄膜を形成するために 、3〜200nmであると好ましい。
下部電極130は、本発明の第1の電極として機能するものであり、単層であっても複数の層からなるものであってもよく、エピタキシャル成長により形成される。この下部電極130は、後述の上部電極180と共に後述の電気光学膜であるコア層160を挟む。それらの電極間に電圧を印加することにより、コア層160に電気光学効果が生じる。下部電極130の材料としては、Au、Pt、Ir、Os、Pd、Rh及びRuからなる群より選ばれる金属又はそれらのうち2種以上からなる合金が好ましい。特に基板110及びコア層160と格子定数を近づけることにより、基板110上に安定的にエピタキシャル成長した下部電極130を形成する観点、並びに、この下部電極130上に安定的に高品質のコア層160を形成する観点から、下部電極130の材料はPtであるとより好ましい。
下部電極130の材料にPtを用いる場合の上記効果は、特に、基板110の下部電極130側の界面(表面)がSiの(100)面を有すると、より有効に奏され、この際、下部電極130が、膜面と平行に(100)面が配向したエピタキシャル膜となると好ましい。
下部電極130の厚さは用途により異なるが、好ましくは10〜1000nm、より好ましくは50〜500nmであり、電極として機能するように厚さを確保しつつ、結晶性及び表面の平坦性を損なわない程度に薄いことが好ましい。より具体的には、バッファ層120のファセット面により構成される凹凸を埋める場合には、厚さを30nm以上とすることが好ましく、100nm以上の厚さとすれば、十分な表面平坦性が得られる。
このように、バッファ層120上に下部電極130を成膜すると下部電極130が良好に(100)面配向しやすくなり、この下部電極130上に後述のコア層160の成膜を行うと、コア層160の配向性を高めることができる。
シード層140は、後述の下部クラッド層150及びコア層160を安定的にエピタキシャル成長させ、それらの層を高品質のものとするために設けられ、単層であっても複数の層からなるものであってもよい。シード層140は、エピタキシャル成長により形成され、その材料として、例えば、SrRuO3、PLT及びPbTiO3が挙げられる。なお、シード層は必須ではなく、設けられなくてもよい。
シード層は、その表面が(001)面配向することが好ましい。また、シード層140は、光学素子100の電気光学特性への影響を最小限に留め、かつ、下部クラッド層150及びコア層160を安定的にエピタキシャル成長させる観点から、その厚さが10〜100nmであると好ましい。
下部クラッド層150は、下部電極130による光吸収を低減すると共に、コア層160との間での組成の差異により、その屈折率をコア層160の屈折率よりも小さくして光導波路構造をより明確に画成するために備えられる金属酸化物膜である。下部クラッド層150は、エピタキシャル成長により形成され、本発明の電気光学膜の一部を構成してもよい。下部クラッド層150は単層であっても複数の層からなるものであってもよく、また、電気光学膜であってもなくてもよい。
下部クラッド層150の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ランタン添加ジルコン酸チタン酸鉛(PLZT)、マグネシウム酸ニオブ酸鉛−チタン酸鉛混晶(PMN−PT)、亜鉛酸ニオブ酸鉛−チタン酸鉛混晶(PZN−PT)、BaTiO3などの電気光学効果を有する材料、あるいは、SrTiO3、MgOなどの電気光学効果を有しない材料が挙げられる。下部クラッド層150の厚さは、上述の効果をより有効且つ確実に奏する観点、及び、光学素子100の電気光学特性を高く維持する観点から、0.5μm〜5μmであると好ましい。
コア層160は、本発明の電気光学膜の少なくとも一部として機能するものである。コア層160は単一配向を有しない結晶化膜である。単一配向を有しないことにより、コア層160は、その成長の段階で格子定数や熱膨張率差に起因して発生する応力が緩和される。その結果、安定的に膜厚の厚い電気光学膜となり、光学素子100は長波長用の可変光モジュールに用いることのできる有用なものとなる。
また、コア層160は、上述の応力の緩和により、特に電界(印加電圧)がゼロ付近である低電界の領域において、屈折率変化が電界に対して一次関数的な関係を有する。すなわち、屈折率が電界に対して直線的に変化する。よって、この観点からも、光学素子100は、光変調器を始めとする種々の可変光モジュールに好適である。さらに、コア層160がエピタキシャル成長により形成されることにより、単一配向でなくても、比誘電率が低くなり、光学素子100は、高速に動作することが可能となる。この観点からも、光学素子100は、種々の可変光モジュールに好適に用いられる。
コア層160を構成する単一配向を有しない結晶化膜としては、特に限定されないが、その結晶化膜が正方晶構造の電気光学材料からなる場合、a−cドメイン構造を有する結晶化膜であると、本発明のよる上記効果をより有効且つ確実に奏するので好ましい。ここで、「a−cドメイン」(a-c domain)構造とは、電気光学膜の膜厚方向とその電気光学膜の正方晶の自発分極方向(c軸)が平行なドメイン(cドメイン)と、膜厚方向に垂直なドメイン(aドメイン)とが混在している状態を示す(野口祐二他、「強誘電体結晶のドメインプロービング」、表面科学、Vol.26、No.4、(2005)、208頁〜214頁参照:特に当該文献のFig.2(b)参照)。
光学素子100を光変調器などの可変光モジュール、特に800nm以上の長波長用の可変光モジュールに採用するためには、コア層160は最低でも1μm以上、望ましくは2μm以上の膜厚が必要となる。ところが、コア層がaドメインやcドメインのいずれか一方のドメイン構造を有するように結晶軸が一方向に配向している単一配向の場合、そのように厚い電気光学膜を用いると、その下地となる層や基板110との間の格子定数の差異及び熱膨張率の差異に基づいて生じる応力により、結晶構造が歪んでしまう。その結果、膜の電気光学特性が良好なものとはならず、可変光モジュールに用いるには適していない。一方、コア層160がa−cドメイン構造を有すると、その下地となる層や基板110との間の格子定数の差異及び熱膨張率の差異に基づいて生じ得る応力が単一配向の場合よりも低くなり、歪みも小さくなる。さらに、コア層160がa−cドメイン構造を有することは、偏光依存性が小さくなるという観点からも好ましい。その結果、a−cドメイン構造を有するコア層160を備える光学素子100は、良好な電気光学特性を示すものとなる。
コア層160を構成する電気光学膜の材料としては、電気光学効果を有するものであれば特に限定されない。具体的には、より優れた電気光学特性を示す観点から、その材料がペロブスカイト型結晶構造を有すると好ましい。ここで、ペロブスカイト結晶構造を有する材料は、例えば、下記一般式(1)
ABO3 (1)
で表される化学組成を有する。式(1)中、A及びBはそれぞれ独立に金属元素を示す。その電気光学膜がより低い誘電率を示す観点から、より具体的には、上記BがTiを含むと好ましく、任意にZrを含んでも好ましく、ABO3がPZT系材料であるとより好ましい。ここで、「PZT系材料」とは、Pb、Zr及びTiを主成分として含む金属酸化物を意味し、La及びMnを始めとする他の元素を、好ましくは正方晶構造を維持する範囲で含んでもよい。したがって、PZTはもちろんのこと、例えばPLZT、PMN−PT及びPZN−PTもPZT系材料に包含される。
さらには、例えば1kHzの周波数で280以下の誘電率を示す電気光学膜を容易に得る観点から、BはTi及び任意にZrを含み、Ti及びZrの合計量に対するZrのモル比(Zr/(Zr+Ti))が、0〜0.45となるような組成を有するとより好ましく、200以下の誘電率を示す電気光学膜を容易に得る観点から、Zr/(Zr+Ti)が0〜0.40となるような組成を有すると更に好ましい。本実施形態の光学素子100において、コア層160は、かかる材料から構成されることにより、c軸配向の領域をより十分に有していると共に基板に拘束されているため、より低誘電率の層になると考えられる。
かかる電気光学膜の材料としては、例えば、PZTなどの上記PZT系材料の他、BaTiO3といった電気光学材料が挙げられ、これらが好ましい。この中でも、上述のとおり、電気光学膜が低い誘電率を有することができる観点から、PZT系材料が好ましい。また、上述の歪みを更に小さくする観点から、電気光学膜の材料が正方晶構造を有すると好ましく、正方晶構造を有するPZT系材料であると特に好ましい。これにより、コア層160はより比誘電率の低い膜となるので、光学素子100はより高速な動作が可能となり、特に高周波特性が良好となる。
コア層160の膜厚は、1μm以上であると好ましく、2μm以上であるとより好ましい。これにより、光学素子100を、特に長波長用の可変光モジュールに採用した際、電気光学特性に優れた好適な可変光モジュールを実現することができる。ここで、本明細書において、膜厚及び厚さは膜(層)全体で平均した厚さを意味し、例えば、顕微鏡により断面を観察することによって測定される。
コア層160の比誘電率は、下部クラッド層150及び/又は後述の上部クラッド層170の比誘電率よりも低いことが好ましい。これにより、光学素子100に電圧を印加した際、電界がより比誘電率の低いコア層160に集中しやすくなるため、光学素子100は、印加する電圧(駆動電圧)を低くしても、優れた電気光学特性を示すことができる。より具体的には、コア層160の比誘電率は、1kHzの周波数において280以下であると好ましく、250以下であるとより好ましく、200以下であると更に好ましい。これにより、光学素子100を光変調器などの可変光モジュールに採用した場合に、その高周波特性に一層優れたものとなり、更に良好な高速動作を実現できる。特に、本実施形態においては、正方晶構造を有するPZT系材料をコア層160の材料として用いても、上述の280以下、より好ましくは250以下、更に好ましくは200以下の低比誘電率を実現することができる。この要因は、詳細には明らかではないものの、その一つとして、コア層160がエピタキシャル成長により形成し、且つ、単一配向を有しないことにあると推測される。
上部クラッド層170は、上部電極180による光吸収を低減すると共に、コア層160との間での組成の差異により、その屈折率をコア層160の屈折率よりも小さくして光導波路構造をより明確に画成するために備えられる金属酸化物膜である。上部クラッド層170は、エピタキシャル成長により形成されてもエピタキシャル成長により形成されなくてもよく、本発明の電気光学膜の一部を構成してもよい。上部クラッド層170は単層であっても複数の層からなるものであってもよく、また、電気光学膜であってもなくてもよい。コア層160が例えばリッジ型の構造を有することで上部電極180による光吸収を低減できるように、コア層160の形状によっては、上部クラッド層170を設ける必要はなくなる。ただし、上記の光吸収をより低減する観点から、光学素子100は上部クラッド層170を備えると好ましい。
上部クラッド層170の材料としては、例えば、PZT、PLZT、マグネシウム酸ニオブ酸鉛−チタン酸鉛混晶(PMN−PT)、亜鉛酸ニオブ酸鉛−チタン酸鉛混晶(PZN−PT)、BaTiO3などの電気光学効果を有する材料、あるいは、SrTiO3、MgOなどの電気光学効果を有しない材料が挙げられる。上部クラッド層170の厚さは、上述の効果をより有効且つ確実に奏する観点、及び、光学素子100の電気光学特性を高く維持する観点から、0.1μm〜5μmであると好ましい。上部クラッド層170の材料及び厚さは下部クラッド層150と互いに同一であっても異なっていてもよい。
上部電極180は、本発明の第2の電極として機能するものであり、単層であっても複数の層からなるものであってもよい。上部電極180は、コア層160の形成に影響を及ぼさないため、エピタキシャル成長により形成される必要はない。上部電極180の材料としては、下部電極130と同様のものが例示されるが、それらの電極130及び180の材料は互いに同一でも異なっていてもよい。また、それらの電極130及び180の厚さは互いに同一であっても異なっていてもよい。光学素子100を高速の光変調器に応用した場合は、上部電極180を厚くすることで、実効誘電率を低減し高周波特性を向上できる効果がある。その場合、上部電極180の厚さは、1μm〜30μmであると好ましい。
本実施形態の光学素子100は、下部電極130及び上部電極180間に電圧を印加して、コア層160の屈折率を変化させた際、特にゼロ付近の低電圧(電界)領域において、その屈折率が印加した電圧に対して一次関数的に変化できるものである。ここで、「一次関数的」とは、横軸が電界、縦軸が電圧を印加していないときの屈折率に対する屈折率変化量であるグラフにおいて、電圧を−2V/μm〜+2V/μmの範囲で印加した際の屈折率変化の実測値をプロットし、それらの相関係数Rの2乗(R2)を「一次関数的」であるか否かの指標として定義する。R2が0.95以上である場合を「一次関数的」と判断する。このような一次関数的な関係を有することにより、光学素子100は、電圧の印加量を調整することにより、屈折率を精度よく且つ正確に制御することが可能となる。
図2は、本実施形態の可変光モジュールの好適な一例の構成を示す概略平面図である。また、図3は、図2におけるII−II線により切断して現れる断面を示す概略断面図であり、図4は、図2におけるIV−IV線により切断して現れる断面を示す概略断面図である。可変光モジュールの1種である光変調器200は、進行波型電極を有するマッハツエンダー型光変調器である。
光変調器200は、光の入射端262を有し、下流に向けてY型に分岐する上流側の分岐光導波路202Uと、光の出射端264を有し、上流に向けてY型に分岐する下流側の分岐光導波路202Dと、それらの分岐光導波路202U及び202D間を接続する2本の光導波路202Mとを備える。それらの光導波路202U、202D及び202Mは、下から順に積層された下部クラッド層250と、コア層260とから構成され、このうちコア層260は、光の入射端262及び出射端264を有する光導波層として機能する。また、2本の光導波路202Mは、下部電極230と上部電極280とに上下から挟まれる。また、2本の光導波路202Mの間を通る中央接地電極204Cと、2本の光導波路202Mの幅方向に対して、それぞれ中央接地電極204Cと反対側に設けられる2本の端部接地電極204Eとが備えられる。接地電極204C及び204Eは下部電極230と直接接合すると共に上部電極280とは離間する。接地電極204C及び204Eは、上部電極280との間に電位差を与え、その上部電極280、及び下部電極230と共に2本の光導波路202Mに電界を与えるための接地電極として機能する。
光変調器200は、基板210と、その基板210上の略全体にわたってエピタキシャル成長により形成された下部電極230と、下部電極230上に部分的に形成された下部クラッド層250と、下部クラッド層250上にエピタキシャル成長により形成されたコア層260と、コア層260上に形成された上部電極280とを備える光学素子205を含む。
基板210、下部電極230、下部クラッド層250、コア層260、及び上部電極280の各々の材料や厚さは、上記光学素子100における基板110、下部電極130、下部クラッド層150、コア層160、及び上部電極180と同様のものであればよいので、ここでは説明を省略する。接地電極204C及び204Eの材料としては、下部電極230と同様のものが挙げられる。ただし、下部電極230と接地電極204C及び204Eとは、互いに材料が同一であっても異なっていてもよい。例えば、接地電極は、金めっきにより構成できる。
コア層260は、その上部に、図3に示す断面において上方に向けて突出したリッジ部260Rを有する。リッジ部260Rはコア層260の下部260Uよりも幅が狭くなっており、これによりコア層260の実効誘電率を下げて、変調帯域を上げることができる。また、リッジ部260Rを備えることで、光を横方向に閉じ込める効果もある。なお、低誘電層290がリッジ部260Rの側面を保護するように形成されているので、上部電極280はリッジ部260Rの上面にのみ形成されるようになっている。この低誘電層290の材料としては、例えばポリイミドなどの低誘電率を有する樹脂が挙げられる。
光変調器200は下記のようにして駆動される。まず、図2の「入力電気信号」と記載されている部分から、入力電気信号を印加する。これにより、上部電極280と接地電極及び下部電極230との間に電界が発生し、2本の光導波路202Mにおける電気光学膜の屈折率が変化するので、それに伴い、入射光が入力信号Vによってオン・オフ変調された状態で出射端から出力される。オン・オフ変調については、上流側の分岐光導波路202Uで2等分された光が2本の光導波路202Mを通過し、下流側の分岐光導波路202Dで同相(位相差が2nπ(nは整数))で合流すると光出力はオンになり、逆相(位相差が(2n+1)π)で合流すると光出力はオフになる。
本実施形態の光変調器200において、コア層260は単一配向を有しないことにより、その成長の段階で格子定数や熱膨張率差に起因して発生する応力が緩和される。その結果、コア層260は、安定的に膜厚の厚い電気光学膜となるので、光変調器200は、長波長の光を変調するのに特に有用なものとなる。また、コア層260は、上述の応力の緩和により、特に電界(印加電圧)がゼロ付近である低電界の領域において、屈折率が電界に対して直線的に変化する。よって、この観点からも、光変調器200は制御が容易な高品質のものとなる。さらに、コア層260がエピタキシャル成長により形成されることにより、単一配向でなくても、比誘電率が低くなるので、光変調器200は、高速に動作することが可能となる。
また、コア層260が正方晶構造の電気光学材料からなり、a−cドメイン構造を有する結晶化膜であると、本発明のよる上記効果をより有効且つ確実に奏することができる。コア層260がa−cドメイン構造を有すると、その下地となる層や基板210との間の格子定数の差異及び熱膨張率の差異に基づいて生じ得る応力が単一配向の場合よりも低くなり、歪みも小さくなる結果、a−cドメイン構造を有するコア層260を備える光変調器200は、より高品質のものとなる。
コア層260の材料が、正方晶構造を有するPZT系材料であると、更に低い比誘電率を実現することができ、光変調器200は、より高速に動作することが可能となる。また、コア層260の膜厚が2μm以上であると、特にゼロ付近の低電圧(電界)領域において、コア層260の屈折率が印加した電圧に対して一次関数的に変化できるもので、光変調器200は、より精度がよく且つ確実な制御が可能となる。コア層260の比誘電率が、1kHzの周波数において280以下であると、光変調器200は、その高周波特性に一層優れたものとなり、更に良好な高速動作を実現できる。
本実施形態の光学素子100は、例えば、特許第4299214号公報に記載の装置及び方法を用いて作製することができる。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、上記本実施形態の光学素子100には、バッファ層120、シード層140、下部クラッド層150及び上部クラッド層170が備えられていたが、それらのいずれか1つ以上は備えられていなくてもよい。また、本発明の可変光モジュールは、本発明による光学素子を備えるものであれば特に限定されず、上述の光変調器の他、例えば光スイッチ、光偏向器、可変光減衰器、波長可変フィルタ、可変分散補償器などであってもよい。
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
まず、電気光学膜がエピタキシャルに成長して形成されたことを確認するために、上部電極を除いた構成で光学素子を作製し、そのX線回折を測定した。Si単結晶基板上にバッファ層として酸化ジルコニウム膜及び酸化イットリウム膜、下部電極としてPt膜、及びシード層としてSrRuO3を順次積層した後、その上に、スパッタ法によりコア層としてPZT膜を成膜した。このPZT膜は、組成がPbZr0.3Ti0.73であり、その膜厚は2.1μmであった。このPZT膜についてX線回折分析装置(スペクトリス株式会社PANalytical社製、装置名:X’Pert PRO MPD。以下同様。)によって構造を解析したところ、a軸及びc軸に配向した領域が混在した(すなわち、cドメインとaドメインとが混在した)正方晶構造を有するエピタキシャル成長により形成された膜(エピタキシャル膜)であることが判明した。X線回折図を図5に示す。
また、このPZT膜について、(202)の面方位におけるX線回折の極点測定を行ったところ、上記図6と同様のX線回折図が得られ、PZT膜が膜面内にも揃って配向されたエピタキシャル膜であることが判明した。
続いて、光学素子における電気光学膜を2層(下部クラッド層及びコア層)積層した場合に、上記と同様にしてX線回折を測定した。まず、Si単結晶基板上にバッファ層として酸化ジルコニウム膜及び酸化イットリウム膜、下部電極としてPt膜、及びシード層としてSrRuO3を順次積層した。次いで、その上に、スパッタ法により下部クラッド層としてPZT膜を成膜した。このPZT膜は、組成がPbZr0.52Ti0.483であり、その膜厚は3.6μmであった。次に、その上に、スパッタ法によりコア層としてPZT膜を成膜した。このPZT膜は、組成がPbZr0.3Ti0.73であり、その膜厚は2.3μmであった。これらのPZT膜についてX線回折分析装置によって構造を解析したところ、コア層は、a軸及びc軸に配向した領域が混在した(すなわち、cドメインとaドメインとが混在した)正方晶構造を有するエピタキシャル膜であることが判明した。X線回折図を図7に示す。
次に、電気光学膜の電気光学特性を評価するために、プリズムカプラ法により1550nmの波長を有するレーザ光を用いた場合の、TEモードでの屈折率を測定した。まず、Si単結晶基板上にバッファ層として酸化ジルコニウム膜及び酸化イットリウム膜、下部電極としてPt膜、及びシード層としてSrRuO3を順次積層した後、その上に、スパッタ法によりコア層としてPZT膜を成膜した。このPZT膜は、組成がPbZr0.3Ti0.73であり、その膜厚は2.1μmであった。次いで、PZT膜上に上部電極としてPt膜を積層して光学素子を得た。その光学素子について、約−2〜約+2Vの電圧を印加した際の屈折率の変化量を測定した。結果を図8に示す。この結果から、R2は0.9995であり、屈折率が印加した電圧(電界)に対して一次関数的に変化していることが分かった。また、電気光学係数rを下記式(2)によって導出したところ、22pm/Vであった。ここで、nは、電界Eを印加する前の屈折率を示し、Δnは電界Eを印加した場合の屈折率変化を示す。
次いで、光学素子における電気光学膜を2層(下部クラッド層及びコア層)積層した場合に、上記と同様にして電気光学特性を評価した。まず、Si単結晶基板上にバッファ層として酸化ジルコニウム膜及び酸化イットリウム膜、下部電極としてPt膜、及びシード層としてSrRuO3を順次積層した。次いで、その上に、スパッタ法により下部クラッド層としてPZT膜を成膜した。このPZT膜は、組成がPbZr0.52Ti0.483であり、その膜厚は3.6μmであった。次に、その上に、スパッタ法によりコア層としてPZT膜を成膜した。このPZT膜は、組成がPbZr0.3Ti0.73であり、その膜厚は2.3μmであった。次いで、そのPZT膜上に上部電極としてPt膜を積層して光学素子を得た。その光学素子について、約−2〜約+2Vの電圧を印加した際の屈折率の変化量を測定した。結果を図9に示す。この結果から、R2は0.9994であり、屈折率が印加した電圧(電界)に対して一次関数的に変化していることが分かった。また、電気光学係数を上述と同様にして測定したところ、29pm/Vであった。
各層の構成、及びコア層のPZT膜の組成及び膜厚を変化させた以外は上述と同様にして、光学素子を得、上述と同様にして、電圧を印加した際の屈折率の変化量、電気光学係数、X線回折測定による軸配向及びエピタキシャル膜か否かの確認を行った。また、コア層のPZT膜について比誘電率をインピーダンスアナライザにより測定した。結果を表1及び2に示す。
表1中の各層の構成は、コア層/シード層/下部電極/バッファ層/バッファ層/基板であり、表2中の各層の構成は、(上部電極)/コア層/下部クラッド層/シード層/下部電極/バッファ層/バッファ層/基板である。表1及び2中、「一次関数的な変化」は、屈折率が印加した電圧に対して一次関数的に変化したか否かの評価であり、一次関数的に変化した(R2が0.95以上である)場合を「○」、そうでない場合を「×」と評価した。実施例1は上述の電気光学膜が1層の場合、実施例7は上述の電気光学膜が2層の場合である。また、参考例1及び2として、K.Kurihara他、「Electrooptic Properties of Epitaxial Lead Zirconate Titanate Films on Silicon Substrates」、Japanese Journal of Applied Physics, vol.46(2007)p6929-6932に開示された光学素子について、印加した電圧に対して屈折率が一次関数的に変化しているか否か、並びに電気光学係数の結果を表1に示した。なお、この文献におけるコア層は、単一配向(a軸配向)を有するエピタキシャル成長により形成された膜であったが、明らかに、屈折率は、印加した電圧に対して一次関数的に変化していなかった。
次に、図2〜4に示したものと同様の光変調器を作製した。基板としてSi単結晶基板、下部電極として厚さが200nmのPt膜、接地電極として厚さが4μmのAu膜、下部クラッド層として組成がPbZr0.52Ti0.483であり、膜厚が2.3μmのPZT膜、コア層として組成がPbZr0.3Ti0.73であり、膜厚が3.6μm、下部の幅が20μm、リッジ部の幅が4μm、リッジ部の高さが2μmであるPZT膜、低誘電層としてポリイミドからなる層を用いて、光変調器を作製した。光変調器の長さは11mmと小型であった。
上述のようにして作製した光変調器の部分断面顕微鏡写真を図10に示す。この図から、Si単結晶基板上に下部クラッド層及びコア層が形成されていることが確認できた。なお、下部電極はそれらの層に比較して薄すぎるため、この顕微鏡写真では確認できなかった。
得られた光変調器の下部電極及び接地電極を接地して、図2における上側の上部電極280にのみ電圧を印加して光変調器を駆動したときの光パワーの変化を測定した。結果を図11に示す。この図から明らかなとおり、約6Vの駆動電圧で、光パワーのオン・オフが可能となった。なお、測定波長は1550nmであり、消光比は19dBであった。このことから、図2における上側の上部電極280及び下側の上部電極280の両方に正負の電圧を印加すれば約3Vという低電圧での駆動が可能になることが分かった。
また、この光変調器は、20GHzまでの電気信号に対して、光変調が可能であることを確認したので、高速の光変調器として有用であることが分かった。
次いで、上記光変調器(光学素子における電極の長さは3mm)について、コア層の比誘電率を変化させた場合の変調帯域を高周波電磁界シミュレータ(HFSS)により計算した。結果を図12に示す。光変調器は、半導体レーザの直接変調が困難になる10GHz以上の高速変調で一般に必要とされていることからかんがみると、コア層の比誘電率は280以下であると望ましいことが分かった。
次に、コア層(電気光学膜)にPZT膜を用いた場合に、Zrの組成を変化させて1kHzにおける比誘電率を測定した。結果を図13にプロットで示す。図中、実線は、PZT単結晶膜におけるε33(分極方向と電圧の印加方向とが平行である場合)での計算値、破線は、PZT単結晶膜におけるε11(分極方向と電圧の印加方向とが垂直である場合)での計算値を示す。この実施例に係る電気光学膜は、a−cドメイン構造を有しているので、ε11とε33との中間の値になると予想されたが、実際には、ε33に近く低い比誘電率となることが分かった。これは、その実施例に係る光学素子がc軸配向の領域を十分有していると共に、電気光学膜が基板に拘束されているためと考えられる。一般にSi単結晶基板上にPZTエピタキシャル膜を形成した場合には、上記文献にも記載されているように、SiとPZTと間の熱膨張率差によりa軸配向膜となる。これに反して、この実施例の光学素子は、c軸配向の領域を十分有しているので、高性能な特性を有することができる。
本発明の光学素子は、長波長用の可変光モジュールに用いることができる電気光学特性に優れたものである。したがって、この光学素子は、長波長の光を対象として用いられる光変調器、光スイッチ、光偏向器、可変光減衰器、波長可変フィルタ、可変分散補償器などの可変光モジュールに産業上の利用可能性がある。
100、205…光学素子、110、210…基板、120…バッファ層、130、230…下部電極、140…シード層、150、250…下部クラッド層、160、260…コア層、170、270…上部クラッド層、180、280…上部電極、200…光変調器、202D…分岐光導波路、202M…光導波路、202U…分岐光導波路、204C…中央接地電極、204E…端部接地電極、290…低誘電層。

Claims (5)

  1. シリコンを含有する単結晶基板と、
    前記単結晶基板上にエピタキシャル成長により形成された第1の電極と、
    前記第1の電極上にエピタキシャル成長により形成された電気光学効果を有する少なくとも1層の電気光学膜と、
    前記電気光学膜上に形成された第2の電極と、
    を備え、
    前記第1及び第2の電極は、前記電気光学膜の膜厚方向に電圧を印加するためのものであり、
    前記電気光学膜のうち少なくとも1層は、単一配向を有しない結晶化膜である、
    光学素子。
  2. 前記結晶化膜の比誘電率は、1kHzの周波数において280以下である、請求項1に記載の光学素子。
  3. 前記結晶化膜は、ペロブスカイト型結晶構造を有するものである、請求項1又は2に記載の光学素子。
  4. 前記結晶化膜は、下記一般式(1)
    ABO3 (1)
    (式(1)中、A及びBはそれぞれ独立に金属原子を示す。)
    で表される化学組成を有し、BはTi及び任意にZrを含み、Ti及びZrの合計量に対するZrのモル比が0〜0.45である、請求項3に記載の光学素子。
  5. 光導波路が形成されており、且つ、光の入射端及び光の出射端を有する光導波層を備える可変光モジュールであって、
    シリコンを含有する単結晶基板と、前記単結晶基板上にエピタキシャル成長により形成された第1の電極と、前記第1の電極上にエピタキシャル成長により形成された電気光学効果を有する少なくとも1層の電気光学膜と、前記電気光学膜上に形成された第2の電極とを備える光学素子を含み、
    前記第1及び第2の電極は、前記電気光学膜の膜厚方向に電圧を印加するためのものであり、
    前記電気光学膜のうち少なくとも1層は、単一配向を有しない結晶化膜であり、且つ、前記光導波層である、
    可変光モジュール。
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