JP2011211978A - 芳香族水酸化酵素遺伝子及びそれを用いたフェノール誘導体の製造方法 - Google Patents

芳香族水酸化酵素遺伝子及びそれを用いたフェノール誘導体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】芳香族化合物を基質としたフェノール誘導体の工業的に利用しやすい効率的製造方法の提供。
【解決手段】特定の塩基配列を有するM. goodii由来の水酸化酵素遺伝子及びそれにコードされる水酸化酵素タンパク質並びにその遺伝子を導入した形質転換体を用いたフェノール誘導体の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、微生物由来の芳香族水酸化酵素遺伝子及びそれを用いたフェノール誘導体の製造方法に関する。
フェノール誘導体は、o-、m-及びp-クレゾール、3,5-キシレノール、カルバクロール、チモール、α-及びβ-ナフトール等の一価フェノール、カテコール、レゾルシン及びハイドロキノン等の二価フェノール、ピロガロール及びフロログルシン等の三価フェノール、並びにシアノフェノール、ヒドロキシフェニルアセトニトリル及びアセトアミノフェノールなどの、芳香環上に水酸基を含む2つ以上の置換基が結合した骨格を有する多くのフェノール化合物の総称であり、合成樹脂、合成洗剤、医農薬等の広範囲な用途に使用されている重要な有機化学工業用原料である。
従来フェノール誘導体の製造方法としては、化学合成法や石油精製や石炭ガス化等の多くの工業的工程からの水性廃液流から回収する方法などが挙げられる。しかしながら、前者の方法では、多置換体や異性体が生成するため転換率を低く押さえる必要があり、また酸化反応での転換率が低く、未反応物が多い等の問題が存在する。また、後者の方法では、フェノール誘導体の回収効率が十分でなく限られた成果を与えるにすぎない。
このような問題を克服すべく、生化学的な酸化は選択性が大きく副生物が少ないという長所を考慮して、微生物を用いた様々な酸化方法が提案されてきた。しかし多くの方法では、使用できる菌が限定されていたり(例えば、特許文献1)、ベンゼン又はフェノールを基質としてハイドロキノンを製造する方法に限られていたり(例えば、特許文献2)して、実用上の制約が大きかった。
特開平9−279号公報(特許文献3)や特開平9−23893号公報(特許文献4)は、マイコバクテリウム属菌の菌体懸濁液を用いて、フェノールからのハイドロキノンの合成法など、各種芳香族化合物を基質としてフェノール誘導体を合成する方法を開示している。しかしながら、活性が十分に発揮されない場合も多く、また誘導基質の炭素源が培地中から無くなると活性が速やかに低下してしまうなど、依然として実用面での様々な問題が存在しており、工業生産に用いられるまでには至っていない。特開平9−281号公報及び特開平9−281号公報(特許文献5及び6)にはそのようなマイコバクテリウム属菌を使用した場合の活性を安定化し経時的な活性低下を防ぐ方法が開示されているが、タンパク質合成阻害剤やC3-10脂肪族化合物等の添加を必要とするため生産工程が煩雑になる。
フェノールをハイドロキノンに変換可能な微生物由来酵素として、Bacillus megaterium ATCC 14581株由来の酸化酵素P450 BM-3及びその改変酵素F87Vが報告されているが、それぞれ0.428 nmol/min/nmol protein、7.04 nmol/min/nmol proteinの活性を示すに過ぎず、十分な活性は得られていない(非特許文献1)。また、Pseudomonas stutzeri OX1株由来の酸化酵素ToMOの改変酵素I100Qもまたフェノールをハイドロキノンへ変換することが報告されているが、異性体であるカテコールを副生するために反応の選択率が低いという問題や、生成したハイドロキノンがさらにトリヒドロキシベンゼンに変換されてしまうため実用性に乏しいという問題がある(非特許文献2)。
特開昭58−193691号公報 特公昭62−47517号公報 特開平9−279号公報 特開平9−23893号公報 特開平9−281号公報 特開平9−282号公報
Sulistyaningdyah W.T. et al., Appl Microbiol Biotechnol, 67, 556-562 (2005) Vardar G. and Wood T.K., Appl Environ Microbiol, 70, 3253-3262 (2004)
本発明は、工業上利用しやすく高生産可能なフェノール誘導体の合成法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、高効率なフェノール誘導体合成をもたらす水酸化酵素タンパク質をコードする遺伝子の同定に成功し、その遺伝子を導入した形質転換体を用いてフェノール誘導体を高収率に合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 以下の(a)〜(c)のいずれかのDNAからなる、水酸化酵素遺伝子。
(a) 配列番号1で示される塩基配列と98%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードするDNA
(c) 配列番号2で示されるアミノ酸配列において1〜4個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、芳香族化合物水酸化活性を有するタンパク質をコードするDNA
[2] 以下の(a)又は(b)である、水酸化酵素タンパク質。
(a) 配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2で示されるアミノ酸配列において1〜4個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、芳香族化合物水酸化活性を有するタンパク質
[3] 上記[1]に記載の遺伝子を含む組換え発現ベクター。
[4] 上記[1]に記載の遺伝子をプロモーターの制御下に含む核酸構築物。
[5] 上記[3]に記載の組換え発現ベクター又は上記[4]に記載の核酸構築物を宿主細胞に導入して得られる形質転換細胞。
この宿主はより好ましくは大腸菌、酵母、及び放線菌からなる群から選択される。宿主はマイコバクテリウム属菌であることがさらに好ましい。
[6] レダクターゼをコードする遺伝子、水酸化酵素のスモールサブユニットタンパク質をコードする遺伝子、及びカップリングプロテインをコードする遺伝子がさらに導入された、上記[5]の形質転換細胞。
[7] 上記[5]又は[6]記載の形質転換細胞を芳香族化合物の存在下で培養することにより芳香族化合物を水酸化することを特徴とする、フェノール誘導体の製造方法。
本発明によれば、フェノールを始めとする芳香族化合物を効率よく水酸化することができる。
MGOOD_1971〜MGOOD_1974遺伝子を宿主細胞の染色体中に組み込むためのトランスポゾンの構築例を示す図である。黒の三角は逆方向反復配列を示す。 M. goodii NS12523株のMGOOD_1971アミノ酸配列(配列番号2)とM. smegmatis MC2 155株のMSMEG_1971のアミノ酸配列(配列番号13)のアラインメントを示す図である。 中間領域が欠損したMSMEG_1971遺伝子を有するプラスミドpK18mobsacBΔ1971の構造を示す図である。 MGOOD_1971遺伝子を有するプラスミドpRHK1-kap1-MGOOD_1971、及びMSMEG_1971遺伝子を有するプラスミドpRHK1-kap1-MSMEG_1971の構造を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
なお本発明において用いるmRNAの調製、cDNAの作製(RT-PCR)、PCR、ライブラリーの作製、ベクター中へのライゲーション、細胞の形質転換、DNA塩基配列決定、プライマーの合成、突然変異誘発、タンパク質の抽出などの分子生物学的・生化学的実験操作は、基本的には通常の実験書の記載に従って行うことができる。そのような実験書としては、例えば、SambrookらのMolecular Cloning, A laboratory manual, 2001, Eds., Sambrook, J. & Russell, DW. Cold Spring Harbor Laboratory Pressを挙げることができる。
1.芳香族水酸化酵素及び芳香族水酸化酵素遺伝子
本発明に係る芳香族水酸化酵素は、4つのサブユニットタンパク質(ラージサブユニット、スモールサブユニット(スモールコンポーネントとも呼ぶ)、レダクターゼ、及びカップリングプロテイン)から構成される、二核鉄中心型モノオキシゲナーゼである。このうちラージサブユニットは芳香族水酸化酵素の活性中心を有する。
この4つのサブユニットタンパク質のコード配列(ラージサブユニット遺伝子、レダクターゼ遺伝子、スモールサブユニット遺伝子、及びカップリングプロテイン遺伝子)は、マイコバクテリウム属菌等の天然の細菌ゲノムにおいては、この順番に配置されて1つのオペロンを構成する。すなわち、ラージサブユニット遺伝子、レダクターゼ遺伝子、スモールサブユニット遺伝子、及びカップリングプロテイン遺伝子は同じ転写制御を受けて1つのmRNAに転写される。その後、転写されたこのmRNAからは、ラージサブユニット遺伝子(開始コドンから終止コドンまで)が翻訳され、レダクターゼ遺伝子(開始コドンから終止コドンまで)が翻訳され、スモールサブユニット遺伝子(開始コドンから終止コドンまで)が翻訳され、またカップリングプロテイン遺伝子(開始コドンから終止コドンまで)が翻訳されて、各遺伝子由来のタンパク質が別々に発現されることとなる。
本発明に係る芳香族水酸化酵素は、好ましくは、芳香族化合物の芳香環のp位を選択的(特異的)に水酸化することができる。
本発明は、芳香族水酸化酵素の主たる構成要素であり、高い芳香族水酸化活性をもたらすラージサブユニットタンパク質及びそれをコードする遺伝子(芳香族水酸化酵素遺伝子)及びその使用に関する。
本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子は、より具体的には、配列番号1で示される塩基配列と60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは96%以上、特に好ましくは98%以上(例えば、99%以上、99.2%以上、又は99.5%以上)の同一性を有する塩基配列からなるDNAであってもよい。本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子はまた、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードするDNAであってもよいし、配列番号2で示されるアミノ酸配列において1〜50個、好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜4個(例えば、1〜2個)のアミノ酸がそれぞれ欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ芳香族化合物水酸化活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子としては、例えば、Mycobacterium goodii(M. goodii) NS12523株由来の芳香族水酸化酵素遺伝子のオープンリーディングフレーム配列(配列番号1)を含むDNA、又はその芳香族水酸化酵素ラージサブユニットのアミノ酸配列(配列番号2)をコードするDNAはとりわけ好ましい。
本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子は、ToMOと同じ二核鉄中心型モノオキシゲナーゼファミリーに属するもののToMOに対する配列相同性をほとんど示さない。
本発明においてDNAには少なくともゲノムDNA、cDNA、修飾塩基を一部に含むDNA等が含まれる。本発明において「遺伝子」は、タンパク質をコードする配列を含む限り、開始コドン及び/又は終止コドンを含む塩基配列を有する核酸断片であっても含まない塩基配列を有する核酸断片であってもよい。本発明の「遺伝子」は、非翻訳領域の配列を含んでもよい。
本発明の芳香族水酸化酵素遺伝子は、実施例のようにMycobacterium goodii(マイコバクテリウム グーディ;M. goodii) NS12523株から単離することができる。Mycobacterium goodii NS12523株は、炭化水素系化合物を唯一の炭素源として利用できる微生物として単離され、2008年9月5日付で、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、受託番号FERM P-21670として寄託されている。
本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子はまた、M. goodii NS12523株以外のマイコバクテリウム属菌であって好ましくは芳香族化合物の芳香環のp位を選択的に水酸化する活性を有する菌から、又は芳香族化合物の芳香環のp位を選択的に水酸化する活性を有するマイコバクテリウム属以外の微生物(好ましくは細菌)から、常法により単離してもよい。芳香族化合物の芳香環のp位の水酸化活性を有するか否かについては、たとえばSembaら(Appl. Microbiol. Biotechnol., 46, 432-437, 1996)に記載されている測定方法を用いることによって容易に判定することが可能である。例えば、そのようなマイコバクテリウム属菌や他の微生物から常法により調製された全mRNA、全RNAからRT-PCRにより得られたcDNA、cDNAライブラリー等の核酸を鋳型とし、本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子の配列に基づいて設計されるプライマーセットを用いたPCR法によって、本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子をDNA増幅断片として取得することができる。得られたDNA増幅断片は、常法により抽出・精製することが好ましい。あるいは、本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子(例えば、配列番号1の塩基配列からなるDNA)又はその一部を用いてプローブを作製し、それをマイコバクテリウム属菌又は他の微生物から常法により調製された全mRNA、全RNAからRT-PCRにより得られたcDNA、cDNAライブラリー等の核酸に対してハイブリダイズさせることにより、本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子をクローンとして取得することもできる。本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子はまた、その塩基配列に基いて化学合成法により合成してもよい。
また本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子は、天然源から得られた遺伝子又は合成した遺伝子を、部位特異的突然変異誘発法等の変異導入法を用いて改変することにより作製してもよい。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。これらの変異導入は、例えば市販の部位特異的突然変異誘発キット(例えばMutan(R)-K、Mutan(R)-Super Express Km、PrimeSTAR(R) Mutagenesis Basal Kit(いずれもTAKARA BIO INC.社製))などを用いて当業者であれば容易に行うことができる。
なお、得られた芳香族水酸化酵素遺伝子のDNAについては、塩基配列決定によりその配列を確認することが好ましい。塩基配列決定はマキサム-ギルバートの化学修飾法、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法等の公知手法により行うことができるが、通常は自動塩基配列解析装置(例えばABI社製DNAシークエンサー)を用いて行えばよい。
本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子は、優れた芳香族水酸化活性をもたらす芳香族水酸化酵素タンパク質(ラージサブユニット)を発現することができる。本発明は、本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子によってコードされる芳香族水酸化酵素タンパク質も提供する。
本発明に係る芳香族水酸化酵素タンパク質(ラージサブユニット)は、より具体的には、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質でありうる。本発明に係る芳香族水酸化酵素タンパク質はまた、配列番号2で示されるアミノ酸配列において1〜50個、好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜4個(例えば、1〜2個)のアミノ酸がそれぞれ欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、芳香族化合物水酸化活性を有するタンパク質でありうる。本発明に係る芳香族水酸化酵素タンパク質(ラージサブユニット)としては、Mycobacterium goodii(M. goodii) NS12523株由来の芳香族水酸化酵素ラージサブユニットのアミノ酸配列(配列番号2)からなるタンパク質がとりわけ好ましい。
本発明に係る芳香族水酸化酵素タンパク質は、芳香族化合物水酸化活性を有し、好ましくは芳香族化合物を芳香環のp位特異的に水酸化する活性を有する。この水酸化活性の有無は、芳香族水酸化酵素タンパク質(ラージサブユニット)を、水酸化酵素の他のサブユニットタンパク質(スモールサブユニット、レダクターゼ、及びカップリングプロテイン)と会合させて機能性の水酸化酵素を形成することにより判定することができる。例えば、実施例に記載のように、芳香族水酸化酵素遺伝子の破壊株(欠損株)に本発明に係る芳香族水酸化酵素タンパク質をコードする芳香族水酸化酵素遺伝子を導入して発現させ、フェノール等の芳香族化合物の存在下で培養したときに、相補により水酸化活性が回復すれば、本発明に係る芳香族水酸化酵素タンパク質は芳香族化合物水酸化活性を有すると判断することができる。この場合、芳香環がp位特異的に水酸化された芳香族化合物が生成されたことが確認できれば、本発明に係る芳香族水酸化酵素タンパク質が芳香族化合物を芳香環をp位特異的に水酸化する活性を有することを確認できる。そのような芳香族水酸化酵素遺伝子欠損株の相補試験において、例えば、芳香族化合物であるフェノールを基質として使用して、ハイドロキノンの生成が確認された場合には、本発明に係る芳香族水酸化酵素タンパク質が芳香環をp位特異的に水酸化する活性を有することが示される。
2.組換えベクター及び核酸構築物の作製
上記のようにして単離される本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子は、ベクター中にクローニングして組換えベクターを作製することが好ましい。
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明の遺伝子を連結することにより得ることができる。本発明の遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。例えばプラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pUC702、pK18mobsacB、pBluescript、pET100/D-TOPO、pET21a等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50、pPICZαA等)、放線菌由来のプラスミド(例えばpRHK1、pRHK1-kap1、pKAP1、pKR321、pKR322、pSH19、pTip、pJAM2、pECTAC-K99)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP、λZAPII等)などが挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。ベクターは、大腸菌−放線菌シャトルベクター、大腸菌−酵母シャトルベクター等のシャトルベクターであってもよい。ベクター中に本発明の芳香族水酸化酵素遺伝子を組み込むには、例えば、その遺伝子を含むDNA断片を適当な制限酵素で切断し、ベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトにインフレームで挿入し連結すればよい。
本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子を含む組換えベクターは、本発明の遺伝子を宿主細胞内で発現させるため、組換え発現ベクターとして作製することも好ましい。組換え発現ベクターを作製するためには、本発明の遺伝子をインサートDNAとして発現ベクターに組み込めばよい。発現ベクターには、プロモーター(好ましくは構成性又は一過性の過剰発現をもたらすプロモーター)、ターミネーター、リボソーム結合部位などの宿主生物における発現に必要な各種エレメントが含まれることが好ましい。また発現ベクターにはプロモーターを制御する遺伝子がさらに含まれてもよい。プロモーターは、その発現ベクターを導入すべき宿主細胞中でその制御下の遺伝子の発現を誘導できる任意のものであってよい。例えば大腸菌中で発現させるのであれば、T7プロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等を使用でき、また放線菌中で発現させるのであれば、KAP1プロモーター、tipAプロモーター、nitAプロモーター、tacプロモーター、又はlacプロモーター等を使用できる。酵母中で発現させるのであれば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター、MFα1プロモーター等を使用でき、糸状菌中で発現させるのであれば、アミラーゼプロモーター、trpCプロモーター等を使用でき、動物細胞中で発現させるのであれば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等を使用でき、植物で発現させるのであれば、CaMV35Sプロモーター、ユビキチンプロモーター等を利用できる。
本発明で使用する発現ベクターは、インサートDNAに付加される開始コドンや終止コドンを含んでもよい。このような発現ベクターは、オペロンを構成する遺伝子(開始コドン及び/又は終止コドンを有しない)を個別に発現させる際に有用である。本発明で使用する発現ベクターには、ベクターが細胞内に保持されていることを示す選択マーカーやベクター内に簡単に正しい向きで遺伝子を挿入するためのポリリンカー、エンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、分泌シグナル配列、精製用のヒスチジンタグ配列等の有用な配列が必要に応じて含まれていてもよい。選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子(CAT遺伝子)等が挙げられる。
本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子はまた、相同組換え法により宿主生物のゲノムに直接導入するための核酸構築物の形態として作製してもよい。本発明において「核酸構築物」とは、自律複製能を有しないゲノム導入用の組換えDNA断片を意味する。この核酸構築物は、プロモーターの制御下に本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子を含むことが好ましい。この核酸構築物は、例えばトランスポゾンや、Cre-loxPシステムに基づくものであってよい。トランスポゾンは、例えば図1に示すように、本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子、又は本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子と共に水酸化酵素スモールサブユニット遺伝子、レダクターゼ遺伝子、及びカップリングプロテイン遺伝子を含むDNA断片をプロモーターの制御下に配置し、それを逆向き反復配列によって挟み込み、その両側にトランスポザーゼ遺伝子を連結したものであってよい。トランスポゾンは、さらにカナマイシン耐性遺伝子を始めとする選択マーカー遺伝子等を含むことも好ましい。トランスポゾンの構築は、例えば、Noda K et al., J. Biosci. Bioeng., 95, 354-360 (2003)等を参照して行うことができるが、市販のキット(例えばEpicentre Biotechnologies社製キット)を使用して行うこともできる。
本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子は、ハイドロキノン等のフェノール誘導体を高生産可能な組換え微生物を作製するために有用である。
3.形質転換細胞の作製及び培養
本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子を宿主細胞に導入することにより形質転換体(形質転換細胞)を作製することができる。具体的には、本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子を含む組換えベクター(好ましくは組換え発現ベクター)又はその遺伝子を含む核酸構築物を宿主細胞に導入することにより本発明に係る芳香族水酸化酵素を発現又は過剰発現するように宿主細胞を形質転換することができる。
宿主細胞は、原核細胞であっても真核細胞であってもよい。より具体的には、宿主細胞には、大腸菌、放線菌、枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、植物細胞等の任意の細胞(好ましくは培養細胞)が含まれる。本発明において用いる宿主細胞は微生物細胞であることが好ましく、放線菌であることがより好ましく、放線菌に含まれるマイコバクテリウム属菌、ロドコッカス属菌又はゴルドニア属(Gordonia)菌は宿主細胞として特に好ましく、マイコバクテリウム属菌はさらに好ましい。本発明で使用され得る宿主細胞の具体例としては、Mycobacterium goodii、Mycobacterium smegmatis、Mycobacterium phlei、Rhodococcus erythropolis、Rhodococcus rhodochrous、Rhodococcus opacus、Streptomyces lividans、Streptomyces coelicolor、Streptomyces avermitilis、Corynebacterium glutamicum、Escherichia coli、及びPseudomonas putida等が挙げられる。
本発明の遺伝子又はそれを含む組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換するには、一般的に行われている遺伝子導入法、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクルガン法、ポリエチレングリコール(PEG)法、アグロバクテリウム法、プロトプラスト融合法等を用いればよい。形質転換体の選択は、常法に従って行うことができるが、通常は使用した組換えベクターに組み込まれた選択マーカー等を利用して行うことができる。
本発明の好ましい実施形態では、得られた形質転換体において、導入された本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子を発現させ、芳香族水酸化酵素タンパク質を産生させることにより、芳香族化合物の水酸化活性、好ましくは芳香族化合物の芳香環のp位を特異的に水酸化する活性を有する、芳香族水酸化酵素を生成することができる。この実施形態では、本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子を導入する宿主細胞として、芳香族化合物の芳香環のp位を特異的に水酸化する活性を有する微生物を使用することが好ましい。このような微生物として、例えばプロパン酸化酵素を有する微生物を使用することができる。例えばマイコバクテリウム属(Mycobacterium)菌、ロドコッカス属(Rhodococcus)菌、ゴルドニア属(Gordonia)菌等の放線菌、及びシュードモナス属(Pseudomonas)菌、アシネトバクター属(Acinetobacter)菌、メチロコッカス属(Methylococcus)菌は、このような微生物として有利に使用できる。この実施形態では、そのような微生物の芳香族水酸化酵素遺伝子欠損株も宿主細胞として好ましい。この実施形態では、導入した芳香族水酸化酵素遺伝子から発現されるタンパク質(ラージサブユニット)と、宿主細胞が本来的に有する水酸化酵素スモールサブユニット、レダクターゼ、及びカップリングプロテインが水酸化酵素を形成し、芳香族化合物の水酸化活性、好ましくは芳香族化合物の芳香環のp位を特異的に水酸化する活性を発揮する。
本発明の好ましい別の実施形態では、本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子と共に水酸化酵素スモールサブユニット遺伝子、レダクターゼ遺伝子、及びカップリングプロテイン遺伝子を宿主細胞に導入し、それらを発現させることにより、芳香族化合物の水酸化活性、好ましくは芳香族化合物の芳香環のp位を特異的に水酸化する活性を有する芳香族水酸化酵素を生成することもできる。この場合、例えば上述の本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子、レダクターゼ遺伝子、水酸化酵素スモールサブユニット遺伝子、及びカップリングプロテイン遺伝子を、1つの組換え発現ベクター又は1つの核酸構築物中に組み込んで導入してもよいし、別々の組換え発現ベクター又は核酸構築物中に組み込んで導入してもよい。
1つの組換え発現ベクターにそれらの遺伝子を組み込む場合、本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子、水酸化酵素スモールサブユニット遺伝子、レダクターゼ遺伝子、及びカップリングプロテイン遺伝子は、オペロンを構成するように1つのプロモーターの制御下に配置されてもよいし、別々のプロモーターの制御下に配置されてもよい。これにより、芳香族水酸化活性を有しない微生物であっても芳香族水酸化酵素を生成させることができる。この場合、好ましい宿主細胞としては、大腸菌、酵母等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明で使用されうる水酸化酵素のレダクターゼ遺伝子は、より具体的には、配列番号14で示される塩基配列と60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは96%以上、特に好ましくは98%以上(例えば、99%以上、99.2%以上、又は99.5%以上)の同一性を有する塩基配列からなるDNAであってもよい。
本発明に係る水酸化酵素のレダクターゼ遺伝子はまた、配列番号15で示されるアミノ酸配列をコードするDNAであってもよいし、配列番号15で示されるアミノ酸配列において1〜50個、好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜4個(例えば、1〜2個)のアミノ酸がそれぞれ欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ還元活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
本発明に係る水酸化酵素のレダクターゼ遺伝子としては、例えば、Mycobacterium goodii(M. goodii) NS12523株由来の水酸化酵素のレダクターゼ遺伝子のオープンリーディングフレーム配列(配列番号14)を含むDNA、若しくはそのレダクターゼのアミノ酸配列(配列番号15)をコードするDNA、又はM. smegmatis MC2 155株由来の水酸化酵素のレダクターゼ遺伝子を含むDNA(GenBankアクセッション番号CP000480参照)はとりわけ好ましい。本発明はこのような水酸化酵素のレダクターゼ遺伝子及びこの遺伝子にコードされる水酸化酵素のレダクターゼにも関する。なおMycobacterium goodii(M. goodii) NS12523株由来の水酸化酵素レダクターゼ(配列番号15)とM. smegmatis MC2 155株由来の水酸化酵素のレダクターゼは、アミノ酸配列レベルで、約93%の配列同一性を示す。
本発明で使用されうる水酸化酵素スモールサブユニット遺伝子は、より具体的には、配列番号16で示される塩基配列と60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは96%以上、特に好ましくは98%以上(例えば、99%以上、99.2%以上、又は99.5%以上)の同一性を有する塩基配列からなるDNAであってもよい。
本発明に係る水酸化酵素スモールサブユニット遺伝子はまた、配列番号17で示されるアミノ酸配列をコードするDNAであってもよいし、配列番号17で示されるアミノ酸配列において1〜50個、好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜4個(例えば、1〜2個)のアミノ酸がそれぞれ欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ芳香族化合物水酸化活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
本発明に係る水酸化酵素スモールサブユニット遺伝子としては、例えば、Mycobacterium goodii(M. goodii) NS12523株由来の水酸化酵素スモールサブユニット遺伝子のオープンリーディングフレーム配列(配列番号16)を含むDNA、若しくはその水酸化酵素スモールサブユニットのアミノ酸配列(配列番号17)をコードするDNA、又はM. smegmatis MC2 155株由来の芳香族水酸化酵素スモールサブユニット遺伝子を含むDNA(GenBankアクセッション番号CP000480参照)はとりわけ好ましい。
本発明はこのような芳香族水酸化酵素スモールサブユニット遺伝子及びこの遺伝子にコードされる水酸化酵素スモールサブユニットタンパク質にも関する。なおMycobacterium goodii(M. goodii) NS12523株由来の水酸化酵素スモールサブユニット(配列番号17)とM. smegmatis MC2 155株由来の水酸化酵素スモールサブユニットは、アミノ酸配列レベルで、約94%の配列同一性を示す。
本発明で使用されうる水酸化酵素のカップリングプロテイン遺伝子は、より具体的には、配列番号18で示される塩基配列と60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは96%以上、特に好ましくは98%以上(例えば、99%以上、99.2%以上、又は99.5%以上)の同一性を有する塩基配列からなるDNAであってもよい。本発明に係る水酸化酵素のカップリングプロテイン遺伝子はまた、配列番号19で示されるアミノ酸配列をコードするDNAであってもよいし、配列番号19で示されるアミノ酸配列において1〜50個、好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜4個(例えば、1〜2個)のアミノ酸がそれぞれ欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつカップリング活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。本発明に係る水酸化酵素のカップリングプロテイン遺伝子のオープンリーディングフレーム配列(配列番号18)を含むDNA、若しくはその水酸化酵素スモールサブユニットのアミノ酸配列(配列番号19)をコードするDNA、又はM. smegmatis MC2 155株由来の水酸化酵素のカップリングプロテイン遺伝子を含むDNA(GenBankアクセッション番号CP000480参照)はとりわけ好ましい。本発明はこのような水酸化酵素のカップリングプロテイン遺伝子及びこの遺伝子にコードされる水酸化酵素のカップリングプロテインにも関する。なおMycobacterium goodii(M. goodii) NS12523株由来の水酸化酵素カップリングプロテイン(配列番号19)とM. smegmatis MC2 155株由来のカップリングプロテインは、アミノ酸配列レベルで、約96%の配列同一性を示す。
本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子、レダクターゼ遺伝子、水酸化酵素スモールサブユニット遺伝子、及びカップリングプロテイン遺伝子が連結されたDNAを宿主細胞に導入してもよい。このようなDNAとしては、具体的には例えば、配列番号20で示される塩基配列と60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは96%以上、特に好ましくは98%以上(例えば、99%以上、99.2%以上、又は99.5%以上)の同一性を有する塩基配列からなるDNAであってもよい。このようなDNAとしては、例えば、Mycobacterium goodii(M. goodii) NS12523株由来の本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子から始まるオペロンを構成する遺伝子群(芳香族水酸化酵素遺伝子、レダクターゼ遺伝子、水酸化酵素スモールサブユニット遺伝子、及びカップリングプロテイン遺伝子を含む)のmRNA読み枠に対応する塩基配列(配列番号20)を含むDNA、又はM. smegmatis MC2 155株由来の芳香族水酸化酵素遺伝子から始まるオペロンを構成する遺伝子群(芳香族水酸化酵素遺伝子、レダクターゼ遺伝子、水酸化酵素スモールサブユニット遺伝子、及びカップリングプロテイン遺伝子を含む)のmRNA読み枠に対応する塩基配列(GenBankアクセッション番号CP000480のMSMEG_1971〜MSMEG_1974参照)を含むDNAはとりわけ好ましい。
形質転換体の培養は、宿主生物の培養に用いられる通常の方法に従って行えばよい。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物を宿主細胞として得られた形質転換体(形質転換細胞)は、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有する培地中に接種して培養すればよい。培地は、形質転換細胞の培養を効率的に行える培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。培地には、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を添加してもよい。
誘導性プロモーターを含む組換え発現ベクターで形質転換した宿主細胞を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した宿主細胞を培養するときにはイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した宿主細胞を培養するときにはインドールアクリル酸(IAA)等を培地に添加することができる。培養条件は特に限定されないが、好ましくは形質転換に用いる宿主細胞に適した条件下で行われる。
芳香族水酸化酵素の生成のためには、形質転換体は、菌体が増殖でき、かつ組み込んだ芳香族水酸化酵素遺伝子の発現を誘導できる培養条件で培養される。たとえば炭素源としては、当該形質転換体が資化できるものであればよく、グルコース、フラクトース、でんぷんおよびセルロースの加水分解物、糖蜜などの糖類、フマール酸、クエン酸、コハク酸のごとき有機酸、メタノール、エタノール、ブタノール、イソブタノール、グリセロールのごときアルコール類、プロパン、ブタン、ペンタンなどの単鎖炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトンなどのC3からC6程度のケトン類などを1〜15%、窒素源として、酢酸アンモニウムのごとき有機アンモニウム塩、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、のごとき無機アンモニウム塩、アンモニアガス、アンモニア水、尿素等を0.1〜4.0%、有機微量成分としては、形質転換体が何らかの栄養要求性を示す場合には被要求性物質を0.000001%〜0.1%、また必要に応じて、コーンスティープリカー、ペプトン、酵母エキス等0〜5%をそれぞれ適当に含有する培地が用いられる。これらの他に、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸第1鉄、等が微量成分として添加される。また好ましくは消泡剤なども添加し、培養条件の安定化をはかる。またこれらの成分を適当に含有した市販の培地を用いることもできる。さらに、特定基質によって遺伝子転写が制御されるプロモーターを組み込んでなる場合は、その誘導基質を実質的な誘導効果が発揮される濃度で添加してもよい。
培養温度は形質転換体が増殖可能な温度に設定するのが好ましいが、発現させるべき水酸化酵素タンパク質がより多量に生産される温度条件を設定することがより好ましい。たとえば、特開2004-194550、2004-194551公報に記載されているように、宿主の増殖最適温度と組換えタンパク質生産の至適温度は必ずしも一致しないので、最適条件は、形質転換体個々において最適化するべきものである。
培養は好気条件で行った方が、細胞の収量が増加するために好ましく、フラスコ等で培養を行う場合には空気が導入できる振盪培養、ジャーファーメンター等の通気攪拌装置を用いる場合には、空気または酸素を通気して、培養液へ酸素供給を行うことが好ましい。振盪培養における振盪速度や振幅、通気攪拌装置における通気量と攪拌速度は、培養液中に効率よく酸素を供給できる条件と装置上の制限を加味して適宜決定すればよい。
培養後、産生された芳香族水酸化酵素のタンパク質(水酸化酵素ラージサブユニット、レダクターゼ、水酸化酵素スモールサブユニット、及びカップリングプロテイン)が細胞内に蓄積される場合にはその細胞を破砕して該タンパク質を採取することができる。一方、そのタンパク質が細胞外に分泌される場合には、培養物から該タンパク質を直接採取したり、培養物から遠心分離等で細胞を除去することにより培養上清として該タンパク質を採取したりすることもできる。
本発明では、形質転換細胞を用いる代わりに、無細胞タンパク質合成系を使用して本発明に係る芳香族水酸化酵素又はその構成要素である各芳香族水酸化酵素タンパク質を製造することもできる。「無細胞タンパク質合成系」とは、大腸菌や酵母細胞等の宿主生物の細胞構造を機械的に破壊して得た懸濁液に、翻訳に必要なアミノ酸などの試薬を加え、試験管中などのin vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。無細胞タンパク質合成系としては、多くの報告が為されている他、各社(島津製作所、Roche、Invitrogen等)より無細胞タンパク質合成キットも市販されている。例えば本発明の遺伝子又は組換えベクターをそれらキットの使用説明書に従って用いて、本発明の遺伝子からmRNAを合成し、それをタンパク質合成反応液中で翻訳させることにより、本発明に係る芳香族水酸化酵素タンパク質を産生させることができる。
産生された本発明のタンパク質は、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより単離精製することができる。しかしながら、場合により、遠心分離や限外濾過型フィルター等を用いて採取又は濃縮した培養上清や溶菌液上清、あるいはそれらの上清をさらに硫安分画後に透析にかけるなどして得た溶液を、粗酵素液としてそのまま利用してもよい。
4.形質転換細胞を用いたフェノール誘導体の製造方法
本発明では、上記のようにして作製した、芳香族水酸化酵素を生成可能な本発明に係る形質転換細胞を用いて、芳香族化合物を水酸化することにより、フェノール誘導体を製造することができる。より具体的には、そのような形質転換細胞を芳香族化合物の存在下で培養することにより、その芳香族化合物の水酸化物であるフェノール誘導体を製造することができる。本発明はこのようなフェノール誘導体の製造方法にも関する。
具体的には、この方法では、本発明に係る形質転換細胞を培養することにより、細胞導入した芳香族水酸化酵素遺伝子由来の芳香族水酸化酵素ラージサブユニットを構成要素として含む芳香族水酸化酵素を生成させ、その触媒作用によって芳香族化合物を水酸化することができる。この水酸化は、好ましくは、芳香族化合物の芳香環のp位特異的な水酸化である。
生成される芳香族水酸化酵素は、例えば以下に示す水酸化反応を触媒する。
Figure 2011211978
ここで、R1はシアノ、シアノメチル、シアノエチル、シアノプロピル、炭素数が1から3のアシル基を有するN-アシルアミノ、2-アミノ-2-カルボキシエチル、アミノカルボキシメチル及びヒドロキシ、ヒドロキシフェニル、ハロゲン化フェニル、アルキルフェニルなど置換されていてもよいフェニル基からなる群より選ばれる1種の置換基であり、R2は、R1がヒドロキシ基以外の置換基である場合には水素であり、R1がヒドロキシ基である場合には、メチル又はカルボキシル基である。
生成される芳香族水酸化酵素はまた、ナフタレン環、ビフェニルなどの他の任意の芳香族化合物も水酸化できる。
生成される芳香族水酸化酵素は、芳香族化合物を選択的かつ効率的に水酸化することができる。この水酸化反応は、芳香族化合物の芳香環をp位特異的に水酸化するものであることが好ましい。
芳香族水酸化酵素による芳香族化合物の水酸化反応には、芳香族化合物を基質として培養系に添加すればよい。任意の芳香族化合物を基質として利用でき、1個又は2個以上の芳香環を有する化合物であってよく、例えば単環式又は複素環式芳香族化合物であってよい。基質としての芳香族化合物は、例えば上記の一般式(I)の化合物であってもよい。基質として用いる芳香族化合物の好ましい例としては、例えばフェノール、ベンゾニトリル、フェニルアセトニトリル、o-クレゾール、m-クレゾール、アセトアニリド、サリチル酸、フェニルアラニン、ニコンチン酸、ビフェニル、及びヒドロキシビフェニル等が挙げられる。
芳香族水酸化酵素を生成させるため、必要であれば挿入遺伝子の発現を誘導するインデューサーとして機能する物質も培地に添加する。例えば、誘導性(一過性)プロモーターを使用している場合には、そのプロモーターの転写活性を誘導するインデューサーを培地に添加することが好ましい。このようなインデューサーとしては、例えば、イソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)インドールアクリル酸(IAA)、アセトン、チオストレプトン、及びε-カプロラクタム等が挙げられる。
また、分離精製を考慮して、培養した菌体をあらかじめ分離し、適当な緩衝液等へ添加してなる懸濁液などの状態を形成してから、基質を添加して反応を行うこともできる。本水酸化反応は、基質である芳香族化合物のほかに、分子酸素と、NADHが必要である。従って、基質に加えてこれらの物質が反応系内に存在することが必要となる。分子酸素の菌体への供給は、反応系内を好気条件に維持することで達成されるので、フラスコ等で実施する場合には気相部の酸素を反応液中へ導入するための振盪・攪拌、通気攪拌装置等を用いる場合には、空気又は酸素の導入と気泡分散のための攪拌を行うことが好ましい。さらに、加圧することにより、飽和溶存酸素濃度を上げることができるため、反応系内の圧力を高めることも有効である。
一方、NADHは菌体の代謝活性が維持されている場合には、反応系内に添加せずとも、菌体内でNADからリサイクル生成することができる。即ち、適当な炭素源を共存させることによって炭素源代謝に伴ってNADHが生成するので、これを利用して水酸化反応を実施することができる。好ましい炭素源としては、グルコース、フラクトース、でんぷんおよびセルロースの加水分解物、糖蜜などの糖類、フマール酸、クエン酸、コハク酸のごとき有機酸、メタノール、エタノール、ブタノール、イソブタノール、グリセロールのごときアルコール類、プロパン、ブタン、ペンタンなどの単鎖炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトンなどのC3からC6程度のケトン類などを挙げることができ、添加濃度はこれらの炭素源が枯渇しないように適宜調整すればよい。または、NADを還元しNADHを生成する活性を有する酵素を添加しても良いし、本酵素活性を有する菌体の形質転換体を用いることも可能である。
本発明に係る形質転換細胞の芳香族化合物の存在下での培養の結果、培地に添加した芳香族化合物から水酸化物が生成される。この水酸化物がフェノール誘導体である。例えば芳香族化合物として一般式(I)の化合物を基質とした場合には一般式(II)の化合物がフェノール誘導体として生成される。添加した芳香族化合物が所望のフェノール誘導体へ変換されたか否かについては、用いる基質や生成物に応じた定性・定量法を採用することができる。さらに、所望の転換率や収率で変換されたならば反応を完了させて、生成物を取得するが、分離精製法もまた、生成物固有の物性を加味して実施すればよく、特に制限はない。たとえば、フェノールを基質として用い、ハイドロキノンを生産させた場合には、特開平9-279公報に開示されているような分離精製法(酢酸エチルで抽出した後HPLC分析)が好ましく用いられる。精製されたフェノール誘導体は、これらの分離精製と共に通常行われる化学分析法において水酸化されていること及び水酸化部位を容易に確認することができる。
以上の通り、本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子を導入した形質転換細胞を用いることにより、二核鉄中心型モノオキシゲナーゼを用いた工業利用可能なフェノール誘導体の高生産法を実施できる。本発明に係るフェノール誘導体の製造方法によれば、水酸化(好ましくはp位特異的水酸化)された芳香族化合物を簡便かつ高効率に合成することができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]M. goodii NS12523株からの芳香族水酸化酵素タンパク質の同定
Mycobacterium goodii(M. goodii) NS12523株(受託番号FERM P-21670)では培地へのアセトン添加により芳香族水酸化活性が誘導される。そこで、M. goodii NS12523株においてアセトン含有培地で発現誘導されるタンパク質を解析することにより芳香族水酸化酵素タンパク質の同定を試みた。
まずM. goodii NS12523株をLB培地(トリプトン1%、イーストエクストラクト0.5%、NaCl 1%(pH 7.0))2 mlに植菌し、30℃で6日間培養した。集菌後、KG培地2 mlで洗菌し、続いて菌体をアセトン1%(v/v)を含むKG培地2 ml又はアセトンを含まないKG培地2 mlに懸濁して、30℃で24時間振とう培養した。培養終了後に集菌し、グリセロール10%(v/v)を含む50 mMリン酸カリウムバッファー(pH 7.5)で洗菌して、菌体を-80℃で凍結保存した。
KG培地の組成(培地1リットル当たり)は以下の通りである:(NH4)2SO43 g、KH2PO4 1.4 g、Na2HPO4 2.1 g、MgSO47H2O 0.2 g、FeCl2 5H2O 10.6 mg、CaCl2 2H2O 8 mg、ZnSO4 7H2O 4 mg、MnCl24H2O 2 mg、CuSO4 5H2O 0.02 mg、KI 0.2 mg、Na2MoO42H2O 0.2 mg、CoCl2 6H2O 0.2 mg、H3BO3 0.4 mg、NaCl 10 mgを1 L蒸留水に配合(pH 7.2)。
M. goodii NS12523株の凍結菌体を、湿菌体重量の5倍量のサンプル溶解液(60 mMトリス、5 M尿素、1 Mチオ尿素、コンプリートミニEDTA-free 1粒、CHAPS 1%、TritonX-100 1%、DTT 10 g/l(pH8.8〜9.0))に懸濁し、それを超音波破砕装置にかけて菌体を破砕した。菌体破砕液を超遠心分離(60,000 rpm、4℃、20分)にかけ、上清に1/10量の1 Mアクリルアミド溶液を添加し、二次元電気泳動用のサンプルとした。二次元電気泳動の一次元目(等電点電気泳動)は、pHレンジ3〜10のアガーゲル(φ2.5 mm×50 mm)を用いて行った(等電点電気泳動装置AE-6540、ATTO社製)。二次元目(SDS-PAGE)は、12.5%ポリアクリルアミドゲル(90 mm×50 mm×1 mm)を用いて行った(SDS-PAGE装置AE-6530M、ATTO社製)。二次元電気泳動後のゲルをPVDF膜(クリアブロット・P膜、ATTO社製)に転写した。培地にアセトンを添加した菌体のサンプルと添加していない菌体のサンプルを比較し、アセトン添加したサンプルにおいてのみ検出されたスポットを切り出してN末端アミノ酸配列分析に供した。次いで得られたN末端アミノ酸配列についてBLAST検索を行った。
その結果、得られた18アミノ酸残基のN末端アミノ酸配列SRQSLTKAHAKISELTWE(配列番号3)は、全長ゲノム配列が決定されているMycobacterium smegmatis(M. smegmatis) MC2 155株の遺伝子MSMEG_1971(アノテーションは、プロパンモノオキシゲナーゼ ラージサブユニット(propane monooxygenase large subunit))にコードされる機能未知タンパク質のN末端アミノ酸配列と100%の配列相同性を示した。また、得られた18アミノ酸残基のN末端アミノ酸配列MYEKDGQQYFIVDSHVHL(配列番号4)は、M. smegmatis MC2 155株の遺伝子MSMEG_1975(アノテーションは、アミドヒドロラーゼ(amidohydrolase 2))にコードされる機能未知タンパク質のN末端アミノ酸配列と100%の配列相同性を示した。さらに、MSMEG_1971とMSMEG_1975の間に位置するMSMEG_1972、MSMEG_1973、MSMEG_1974はMSMEG_1971のサブコンポーネントであること、そしてMSMEG_1971〜MSMEG_1974がオペロンを構成することが配列より推測された。そこで次に、M. smegmatis MC2 155株のMSMEG_1971〜1974に対応するM. goodii NS12523株の相同遺伝子群(本明細書ではMGOOD_1971〜1974と称する)を解析対象とした。
[実施例2]芳香族水酸化酵素遺伝子のクローニング
M. goodii NS12523株のMGOOD_1971〜1974遺伝子及びM. smegmatis MC2 155株のMSMEG_1971〜1974遺伝子は芳香族水酸化酵素をコードしている可能性が高いと考えられたため、この領域をクローニングした。
M. goodii NS12523株について決定した上記N末端アミノ酸配列及びM. smegmatis MC2 155株のゲノム配列に基づき、MGOOD_1971〜1974遺伝子及びMSMEG_1971〜1974遺伝子を特異的に増幅可能なプライマーを、以下のように設計し、合成した。
・フォワードプライマー:5'-gaa ttc cat ttg agc aga caa agc ctg acc aag-3'(配列番号5) (下線部はNdeI部位)
・リバースプライマー:5'-ccg gaa ttc ctg ttg gcc gtc ttt ttc gta cat-3'(配列番号6) (下線部はEcoRI部位)
フェノール・クロロホルム処理により抽出したM. goodii NS12523株及びM. smegmatis MC2 155株のゲノムDNAを、PCRの鋳型として用いた。PCRにはKOD -Plus-(TOYOBO社製)をDNAポリメラーゼとして用いた。用いたPCR反応液は、KOD -Plus- 1U、10×PCR Buffer 5μl、MgSO4 1 mM、ゲノムDNA(鋳型) 200 ng、プライマー各15 pM、dNTPs 0.2 mMに蒸留水を加えて総量50μlとなるように調製した。PCR反応は次のサイクル条件で行った:94℃で2分を1サイクル、94℃で15秒(ステップ1)、60℃で30秒(ステップ2)、及び68℃で5分(ステップ3)を30サイクル、68℃で5分を1サイクルの後、使用するまで4℃で保存。この結果、予想される領域の長さ(約4 kbp)に相当するPCR産物が得られた。
続いて、PCR産物をNdeI及びEcoRIで制限酵素消化し、得られたDNA断片をベクターpET21aのNdeI-EcoRI部位に連結した。クローニングしたDNA断片について、ABI PRISM 310遺伝子解析装置(Applied Biosystems社製)を使用して、ジデオキシ法により塩基配列を決定し、さらに配列解析を行った。
このようにして得られたM. goodii NS12523株のMGOOD_1971〜MGOOD_1974遺伝子(同一オペロンを構成する)の一続きの塩基配列を配列番号20に示す。
図2には、M. goodii NS12523株のMGOOD_1971アミノ酸配列(配列番号2)とM. smegmatis MC2 155株のMSMEG_1971のアミノ酸配列(配列番号13)のアラインメントを示した。MGOOD_1971遺伝子の塩基配列は配列番号1に、その塩基配列にコードされるアミノ酸配列は配列番号2に示す。配列解析の結果、MGOOD_1971及びMSMEG_1971は、活性中心に鉄を保持するタイプの水酸化酵素タンパク質であることが配列から推測された。鉄を保持するのに必要な6つのアミノ酸残基が保存されている(図2の*)ことも確認できたことから、このタンパク質は酸化酵素の活性中心を有することが示された。
配列解析はまた、MGOOD_1972及びMSMEG_1972はレダクターゼ、MGOOD_1973及びMSMEG_1973は水酸化酵素のスモールサブユニット、MGOOD_1974及びMSMEG_1974はカップリングタンパク質をコードすることが配列より推測され、これらはMGOOD_1971及びMSMEG_1971が水酸化活性を発現するために必要なサブコンポーネントであることが示された。すなわち、MGOOD_1971及びMSMEG_1971は水酸化酵素のラージサブユニットであり、MGOOD_1971〜MGOOD_1974及びMSMEG_1971〜MSMEG_1974は芳香族水酸化酵素をコードする遺伝子であると考えられた。MGOOD_1972遺伝子の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列は配列番号14及び15に、MGOOD_1973遺伝子の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列は配列番号16及び17に、MGOOD_1974遺伝子の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列は配列番号18及び19に示す。MSMEG_1972〜MSMEG_1974遺伝子の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列はGenBankアクセッション番号CP000480に開示されている。
[実施例3]芳香族水酸化酵素遺伝子の欠損株の作製
MGOOD_1971遺伝子及びMSMEG_1971遺伝子が芳香族水酸化酵素タンパク質をコードしていることを証明するためには、当該遺伝子を欠損させることにより水酸化活性が消失すること、及び欠損株に当該遺伝子を導入して相補することにより水酸化活性が回復することを示せばよい。
そこで、M. smegmatis MC2 155株のMSMEG_1971遺伝子を欠損させた。具体的にはまず、MSMEG_1971遺伝子(1629 bp;GenBankアクセッション番号CP000480のMSMEG_1971)の5’末端領域60 bp及び3’末端領域63 bpをPCR法により増幅した。5’末端領域及び3’末端領域を特異的に増幅するためのプライマーは以下のように設計し、合成した。
・5’末端領域増幅用フォワードプライマー:5'-ccc aag cttgtg atc cag cag cac cgt ctg atc-3'(配列番号7) (下線部はHindIII部位)
・5’末端領域増幅用リバースプライマー:5'-gc tct aga cgg ctc cca cgt gag ttc gct tat c-3'(配列番号8) (下線部はXbaI部位)
・3’末端領域増幅用フォワードプライマー:5'-gc tct aga atg acc gac gac gag cgc gac-3'(配列番号9) (下線部はXbaI部位)
・3’末端領域増幅用リバースプライマー:5'-cg gaa ttc tct ttg att ccc ttg ccc agt tcg-3'(配列番号10) (下線部はEcoRI部位)
得られた5’末端領域のPCR増幅産物をHindIIIとXbaIを用いて、また3’末端領域のPCR増幅産物をXbaI とEcoRIを用いて切断し、それらのDNA断片を、XbaI切断末端で互いに連結されるようにベクターpK18mobsacB中にクローニングし、中間領域が欠損したMSMEG_1971遺伝子を有するプラスミドpK18mobsacBΔ1971を構築した(図3)。
構築したプラスミドpK18mobsacBΔ1971をM. smegmatis MC2 155株にエレクトロポレーション法により導入し、ベクター上の選択マーカーであるカナマイシン耐性を指標にプラスミドが染色体に組み込まれた相同組換え体を選択した。さらに、得られた相同組換え体から、カナマイシン感受性を指標にベクター領域のみが脱落した相同組換え体を選択した。この2回の相同組換えにより染色体上のMSMEG_1971遺伝子の中間領域が欠損した組換え体M. smegmatis MC2 155Δ1971株を取得した。
[実施例4]芳香族水酸化酵素遺伝子相補株の作製
MGOOD_1971遺伝子及びMSMEG_1971遺伝子をPCR法により増幅し、それを発現ベクターにそれぞれクローニングして、M. smegmatis MC2 155Δ1971株に導入することにより、相補株を作製した。
具体的にはまず、MGOOD_1971遺伝子及びMSMEG_1971遺伝子を特異的に増幅するためのプライマーを以下のように設計し、合成した。
・フォワードプライマー:5'-gc tct aga cca act atc agg agg ctc acg ttg-3'(配列番号11) (下線部はXbaI部位)
・リバースプライマー:5'-ccg gaa ttc tca ggc cgg gac ccc gcc ggc gcg-3'(配列番号12) (下線部はEcoRI部位)
フェノール・クロロホルム処理により抽出したM. goodii NS12523株及びM. smegmatis MC2 155株のゲノムDNAを、PCRの鋳型として用いた。PCRにはKOD -Plus-(TOYOBO社製)をDNAポリメラーゼとして用いた。用いたPCR反応液は、KOD -Plus- 1U、10×PCR Buffer 5μl、MgSO4 1 mM、ゲノムDNA(鋳型) 200 ng、プライマー各15 pM、dNTPs 0.2 mMに蒸留水を加えて総量50μlとなるように調製した。PCR反応は次のサイクル条件で行った:94℃で2分を1サイクル、94℃で15秒(ステップ1)、60℃で30秒(ステップ2)、及び68℃で2分(ステップ3)を30サイクル、68℃で5分を1サイクルの後、使用するまで4℃で保存。この結果、予想される領域の長さ(約1.5 kbp)に相当するPCR産物が得られた。
続いて、PCR産物をXbaI及びEcoRIで制限酵素消化し、得られたDNA断片を発現ベクターpRHK1-kap1のXbaI-EcoRI部位に連結した。クローニングしたDNA断片については、ABI PRISM 310遺伝子解析装置(Applied Biosystems社製)を使用して塩基配列の確認を行った。このようにして、MGOOD_1971遺伝子をインサートDNAとして有するプラスミドpRHK1-kap1-MGOOD_1971、及びMSMEG_1971遺伝子をインサートDNAとして有するプラスミドpRHK1-kap1-MSMEG_1971の構築に成功した(図4)。これらのプラスミドはkap1プロモーターの制御下でインサートDNAの発現誘導が可能である。
次に、構築したプラスミドをM. smegmatis MC2 155Δ1971株にエレクトロポレーション法により導入して、相補株M. smegmatis MC2 155Δ1971(MGOOD_1971)及びM. smegmatis MC2 155Δ1971(MSMEG_1971)を取得した。
[実施例5]芳香族水酸化酵素遺伝子の機能評価
元株(M. goodii NS12523株、M. smegmatis MC2 155株)、欠損株(M. smegmatis MC2 155Δ1971株)、相補株(M. smegmatis MC2 155Δ1971(MGOOD_1971)株及びM. smegmatis MC2 155Δ1971(MSMEG_1971)株)の芳香族水酸化活性を、培養系で評価した。具体的には、Tween80 0.05%(v/v)、炭素源としてピルビン酸1g/l、発現誘導剤としてアセトン1%(v/v)、さらに基質としてフェノール1 mMを含むKG培地2 mlに植菌し、37℃で8日間培養した。培養後、フェノール水酸化産物であるハイドロキノンを酢酸エチルで抽出し、HPLC分析に供した。測定結果を表1に示す。
Figure 2011211978
欠損株M. smegmatis MC2 155Δ1971ではフェノール水酸化活性が完全に消失したが、相補株M. smegmatis MC2 155Δ1971(MGOOD_1971)及びM. smegmatis MC2 155Δ1971(MSMEG_1971)では芳香族水酸化活性が回復した。これより、MGOOD_1971遺伝子及びMSMEG_1971遺伝子が芳香族水酸化酵素タンパク質をコードしていることが証明された。なお、相補株M. smegmatis MC2 155Δ1971(MGOOD_1971)での芳香族水酸化活性は、M. smegmatis MC2 155Δ1971(MSMEG_1971)と比較して30%も高く、MGOOD_1971の芳香族水酸化酵素タンパク質(ラージサブユニット)はMSMEG_1971よりも高い芳香族水酸化活性を付与できることが示された。
上記結果は、本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子を、フェノール誘導体の効率的な製造に利用できることを示している。例えば、本発明に係る芳香族水酸化酵素遺伝子を大腸菌や放線菌などの微生物宿主で高発現させて触媒として利用することにより、フェノール誘導体を効率的に製造することが可能になる。
配列番号5〜12の配列はプライマーである。

Claims (9)

  1. 以下の(a)〜(c)のいずれかのDNAからなる、水酸化酵素遺伝子。
    (a) 配列番号1で示される塩基配列と98%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるDNA
    (b) 配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードするDNA
    (c) 配列番号2で示されるアミノ酸配列において1〜4個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、芳香族化合物水酸化活性を有するタンパク質をコードするDNA
  2. 以下の(a)又は(b)である、水酸化酵素タンパク質。
    (a) 配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b) 配列番号2で示されるアミノ酸配列において1〜4個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、芳香族化合物水酸化活性を有するタンパク質
  3. 請求項1に記載の遺伝子を含む組換え発現ベクター。
  4. 請求項1に記載の遺伝子をプロモーターの制御下に含む核酸構築物。
  5. 請求項3に記載の組換え発現ベクター又は請求項4に記載の核酸構築物を宿主細胞に導入して得られる形質転換細胞。
  6. 宿主が大腸菌、酵母、及び放線菌からなる群から選択される、請求項5に記載の形質転換細胞。
  7. 宿主がマイコバクテリウム属菌である、請求項5又は6に記載の形質転換細胞。
  8. レダクターゼをコードする遺伝子、水酸化酵素のスモールサブユニットタンパク質をコードする遺伝子、及びカップリングプロテインをコードする遺伝子がさらに導入された、請求項5〜7のいずれか1項記載の形質転換細胞。
  9. 請求項5〜8のいずれか1項記載の形質転換細胞を芳香族化合物の存在下で培養することにより芳香族化合物を水酸化することを特徴とする、フェノール誘導体の製造方法。
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