JP2011209022A - モルタル又はコンクリートの製造方法、及びモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量の予測方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】モルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を迅速、且つ精度よく予測できる方法を提供すること。
【解決手段】セメントクリンカーを含み、K2O含有量が0.20〜0.60質量%であるセメントの粉末X線回折結果をプロファイルフィッティング法により解析して、セメントクリンカーに含まれるクリンカー鉱物の結晶情報を得る第一工程と、結晶情報を基に、セメントクリンカーを含むセメントから得られるモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を予測する第二工程と、を有するモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量の予測方法。
【選択図】なし
【解決手段】セメントクリンカーを含み、K2O含有量が0.20〜0.60質量%であるセメントの粉末X線回折結果をプロファイルフィッティング法により解析して、セメントクリンカーに含まれるクリンカー鉱物の結晶情報を得る第一工程と、結晶情報を基に、セメントクリンカーを含むセメントから得られるモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を予測する第二工程と、を有するモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量の予測方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、モルタル又はコンクリートの製造方法、及びモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量の予測方法に関する。より詳しくは、セメントの粉末X線回折結果を、プロファイルフィッティング法により解析し、これから得られるクリンカー鉱物の結晶情報に基づき、モルタル又は終局のコンクリートの断熱温度上昇量を予測する方法及び製造方法に関する。
近年、コンクリートの温度ひび割れ防止の観点から、断熱温度上昇特性の制御に関する関心が高まっている。このため、製造したセメントを用いてコンクリートを作製した場合の終局の断熱温度上昇量がどの程度の値になるのかを把握することが重要であると考えられている。コンクリート工学協会では、コンクリートの断熱上昇特性を、下記式で表わすことが提案されている(非特許文献1)。
Q(t)=Q∞(1−exp(−γ(t−t0)))
上式中、Q(t)は断熱温度上昇量(℃)を示し、Q∞は終局の断熱温度上昇量(℃)を示し、tは材齢(日)を示し、t0は発熱開始材齢(日)を示し、γは断熱温度上昇速度に関する定数を示す。
Q(t)=Q∞(1−exp(−γ(t−t0)))
上式中、Q(t)は断熱温度上昇量(℃)を示し、Q∞は終局の断熱温度上昇量(℃)を示し、tは材齢(日)を示し、t0は発熱開始材齢(日)を示し、γは断熱温度上昇速度に関する定数を示す。
しかしながら、上記式を用いた従来の方法でコンクリートの断熱温度上昇特性を調べる場合は、コンクリートを練って試料を調製して測定する必要がある。このため、多大な労力を要するうえに、普通セメントの場合には測定に3日間も所要してしまう。このような事情の下、モルタルの断熱温度上昇特性を予測する方法が提案されている(非特許文献2参照)。この方法は、上述の従来の方法ほどの労力を必要としないため、有用な予測方法であるといえる。
ところで、特許文献1では、セメント又はセメントクリンカーの粉末X線回折結果をプロファイルフィッティング法により解析し、これから得られる結晶情報をもとに、セメントの品質変化を予測する方法が提案されている。
「コンクリート標準示方書[施工編](2002)」、土木学会
丸屋英二ほか、「少量サンプル用断熱熱量計によるセメントの品質管理手法の開発」、セメント・コンクリート論文集、No.61、p.86−92(2007)
上述の非特許文献2に記載された方法で断熱温度上昇特性を測定する場合、モルタルの温度上昇がゆるやかになるまで測定する必要がある。このため、断熱温度上昇特性の測定に2日間以上も所要してしまう。
一方、特許文献1に開示されたセメントの品質予測方法は、セメントの凝結時間及びモルタル圧縮強さを予測するものであり、モルタル又はコンクリートの断熱温度上昇特性を予測するものではない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、モルタル又はコンクリートの断熱温度上昇特性のうち、終局の断熱温度上昇量を精度よく予測することが可能な予測方法を提供することを目的とする。また、ひび割れ等の発生を抑制することによって、耐久性が向上したモルタル又はコンクリートの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記目的を達成するため、セメントのキャラクターによりクリンカー鉱物の結晶情報が変化することに着目し、クリンカー鉱物の結晶情報とそのセメントを用いたモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量との関係を解析した。その結果、クリンカー鉱物の結晶情報とモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量との間に密接な関係があることを見出した。
すなわち、本発明は、セメントクリンカーを含み、K2O含有量が0.20〜0.60質量%であるセメントの粉末X線回折結果をプロファイルフィッティング法により解析して、当該セメントクリンカーに含まれるクリンカー鉱物の結晶情報を得る第一工程と、結晶情報を基に、当該セメントクリンカーを含むセメントから得られるモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を予測する第二工程と、を有するモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量の予測方法を提供する。
本発明によれば、モルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を測定するための試料を調製することなく、モルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を迅速に予測することができる。
本発明の予測方法において、第一工程におけるプロファイルフィッティング法がリートベルト解析法又はWPF解析法であり、結晶情報がフェライト相のa軸長であることが好ましい。
このように、リートベルト解析法又はWPF解析法を用いることによって、より短時間でセメントの粉末X線回折結果を解析することができる。また、結晶情報としてフェライト相のa軸の長さ(a軸長)を採用することによって、より精度よくモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を予測することができる。
本発明の予測方法における第二工程では、フェライト相のa軸長を独立変数とし、終局の断熱温度上昇量の実測値を従属変数とする回帰分析によって求めた下記式(1)を用いて、モルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を予測することが好ましい。
(終局の断熱温度上昇量Q∞)=A×(フェライト相のa軸長)+B (1)
上記式(1)中、係数Aは−10000〜0の範囲の数値であり、係数Bは0〜6000の範囲の数値であり、フェライト相のa軸長は0.547〜0.560nmである。
(終局の断熱温度上昇量Q∞)=A×(フェライト相のa軸長)+B (1)
上記式(1)中、係数Aは−10000〜0の範囲の数値であり、係数Bは0〜6000の範囲の数値であり、フェライト相のa軸長は0.547〜0.560nmである。
このように、フェライト相のa軸長と終局の断熱温度上昇量の実測値の回帰分析によって求めた回帰式である上記式(1)を用いることによって、モルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量をさらに精度よく予測することができる。
本発明において、セメントにおけるK2O含有量は0.20〜0.60質量%である。K2O含有量が上記範囲であることによって、終局の断熱温度上昇量を精度よく予測することができる。
本発明ではまた、セメントクリンカーを含み、K2O含有量が0.20〜0.60質量%であるセメントの粉末X線回折結果をプロファイルフィッティング法により解析して、当該セメントクリンカーに含まれるクリンカー鉱物の結晶情報を得る第一工程と、結晶情報を基に、当該セメントクリンカーを含むセメントから得られるモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を予測する第二工程と、セメントと骨材と水とを練り混ぜてモルタル又はコンクリートを得る第三工程と、を有する、モルタル又はコンクリートの製造方法を提供する。
本発明のモルタル又はコンクリートの製造方法によれば、所望の終局の断熱温度上昇量を有するモルタル又はコンクリートを容易に製造することができる。このような製造方法で製造されたモルタル又はコンクリートは、終局の断熱温度上昇量を制御することによって、ひび割れ等の発生を十分に抑制することができる。
本発明によれば、モルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を迅速に、且つ精度よく予測することが可能な予測方法を提供することができる。また、ひび割れ等の発生を抑制することによって、耐久性が向上したモルタル又はコンクリートの製造方法を提供することができる。
以下、本発明のモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量の予測方法に係る好適な実施形態について説明する。
本実施形態のモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量の予測方法は、セメントクリンカーを含み、K2O含有量が0.20〜0.60質量%であるセメントの粉末X線回折結果をプロファイルフィッティング法により解析して、当該セメントクリンカーに含まれるクリンカー鉱物の結晶情報を得る第一工程と、結晶情報を基に、セメントから得られるモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を予測する第二工程と、を有する。以下、各工程の詳細について説明する。
第一工程は、セメントクリンカーを含み、K2O含有量が0.20〜0.60質量%であるセメントの粉末X線回折結果をプロファイルフィッティング法により解析して、当該セメントクリンカーに含まれるクリンカー鉱物の結晶情報を得る工程である。
セメントクリンカーは、石灰石、硅石、石炭灰、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる少なくとも1種の原材料を所定の比率で配合して得られる原料を、所定の焼成条件で焼成し、クリンカークーラーで冷却されることによって調製される。本実施形態の予測方法においては、公知のセメントクリンカーを用いることができる。
セメントとしては、セメントクリンカーを含む、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランド等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントなどが挙げられる。このようなセメントは、例えば、セメントクリンカーと石膏等を混合し粉砕することによって得られる。以下に、セメントクリンカー及びセメントの製造方法の一例を説明する。
まず、上述のセメントクリンカーの各原材料を、例えばボールミル等で混合してセメントクリンカーの原料を調製する。このように混合して得られる原料を、サスペンションプレヒータ及びロータリーキルン等を用いて焼成する。焼成温度は、例えば1000〜1500℃、焼成帯の滞留時間は、例えば20分間〜2時間とすることができる。
例えば、セメントクリンカーの原料原単位としては、石灰石を好ましくは700〜1400kg/T−クリンカー、より好ましくは800〜1300kg/T−クリンカー、硅石を好ましくは40〜150kg/T−クリンカー、より好ましくは50〜120kg/T−クリンカー、石炭灰を好ましくは0〜200kg/T−クリンカー、より好ましくは50〜150kg/T−クリンカー、高炉スラグを好ましくは0〜100kg/T−クリンカー、より好ましくは0〜50kg/T−クリンカー、鉄源を好ましくは30〜80kg/T−クリンカー、より好ましくは40〜60kg/T−クリンカー、建設発生土を好ましくは0〜100kg/T−クリンカー、より好ましくは20〜80kg/T−クリンカー、及び下水汚泥を好ましくは0〜100kg/T−クリンカー、より好ましくは30〜70kg/T−クリンカーとすることができる。なお、「原料原単位」とは、セメントクリンカーを1トン製造するにあたり、使用される各原材料の質量(kg/T−クリンカー)をいう。
次に、上述のようにして調製したセメントクリンカーと石膏とを混合して粉砕し、セメントを調製する。混合及び粉砕は、ボールミルなどの通常の粉砕機及びセパレータなどの通常の分級機を用いて行うことができる。セメントクリンカーと石膏との混合比率も、通常の比率とすることができる。石膏としては、二水石膏、半水石膏又は無水石膏を使用することができる。
セメントに含まれるセメントクリンカーは、クリンカー鉱物として、エーライト相(C3S)、ビーライト相(C2S)、アルミネート相(C3A)及びフェライト相(C4AF)などを含む。
モルタル又はコンクリートの断熱温度上昇量の予測精度を向上させる観点から、クリンカー鉱物の組成は、ボーグ式換算で、エーライト相の含有量が好ましくは50〜70質量%、より好ましくは50〜65質量%である。また、同様の観点から、ビーライト相の含有量は5〜25質量%、より好ましくは10〜25質量%であり、アルミネート相の含有量は6〜15質量%、より好ましくは8〜13質量%であり、フェライト相の含有量は7〜15質量%、より好ましくは8〜12質量%である。また、粉末X線回折結果をリートベルト解析することで求めたフェライト相の含有量は、好ましくは3.5〜11質量%であり、より好ましくは4.5〜10質量%であり、さらに好ましくは5.0〜9.5質量%である。クリンカー鉱物の組成は、セメントクリンカーの原料原単位及び/又はセメントクリンカーの焼成条件を変えることによって調整することができる。
ここで、本実施形態のセメントは、K2O含有量が0.20〜0.60質量%である。K2O含有量が上記範囲であることにより、セメントの粉末X線回折結果をプロファイルフィッティング法により解析して得られる、クリンカー鉱物の結晶情報から断熱温度上昇量を精度よく予測できる。
K2O含有量は、好ましくは0.25〜0.55質量%であり、より好ましくは0.30〜0.50質量%であり、さらに好ましくは0.30〜0.40質量%である。K2Oの含有量が上記範囲にあれば、クリンカー鉱物の結晶情報から終局の断熱温度上昇量をより精度よく予測することが可能となる。
セメントのSO3の含有量は、好ましくは1.6〜2.6質量%であり、より好ましくは1.7〜2.5質量%であり、さらに好ましくは1.75〜2.35質量%である。また、セメントのMgOの含有量は、好ましくは0.7〜1.5質量%であり、より好ましくは0.8〜1.4質量%である。なお、上述のセメントの化学組成は、いずれも、JIS R 5202:1998「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定される値である。
第一工程で得られる結晶情報としては、上述の各クリンカー鉱物の結晶構造のパラメータが挙げられる。例えば、格子定数(a軸、b軸、c軸の長さや、各軸の交わる角度など)や格子体積(単位格子の体積)などが挙げられる。
上述のクリンカー鉱物の結晶情報を得るために、まず、セメントの粉末X線回折を行う。セメントの粉末X線回折は、例えば、市販の粉末X線回折装置を用いればよい。次に、セメントの粉末X線回折結果をプロファイルフィッティング法により解析する。プロファイルフィッティング法としては、例えば、リートベルト解析法又はWPF解析法が挙げられる。リートベルト解析法又はWPF解析法を用いれば、セメントの粉末X線回折をより短い時間で解析することができる。
第二工程は、第一工程で得られたクリンカー鉱物の結晶情報を基に、モルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を予測する工程である。
第二工程において用いられるクリンカー鉱物の結晶情報は、フェライト相のa軸の長さ、すなわちa軸長であることが好ましい。フェライト相のa軸長とモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量の間には密接な相関関係があることから、結晶情報としてフェライト相のa軸長を選択することによって、モルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量をより高い精度で予測することが可能となる。
モルタル及びコンクリートの断熱温度上昇特性は、下記式(2)で表されることが知られている。
Q(t)=Q∞(1−exp(−γ(t−t0))) (2)
式(2)中、Q(t)は断熱温度上昇量(℃)を示し、Q∞は終局の断熱温度上昇量(℃)を示し、tは材齢(日)を示し、t0は発熱開始材齢(日)を示し、γは断熱温度上昇速度に関する定数を示す。
Q(t)=Q∞(1−exp(−γ(t−t0))) (2)
式(2)中、Q(t)は断熱温度上昇量(℃)を示し、Q∞は終局の断熱温度上昇量(℃)を示し、tは材齢(日)を示し、t0は発熱開始材齢(日)を示し、γは断熱温度上昇速度に関する定数を示す。
既存の断熱熱量計を用いて終局の断熱温度上昇量を測定する場合には、例えば非特許文献2に記載されているように、所定量の水及びセメントを練り混ぜ、さらに骨材(例えば、砂)を加え練り混ぜて調製した少量のモルタル又はコンクリートの試料を試料容器に入れ、試料容器の蓋の孔に試料温度測定用及び温度制御用の熱電対を挿入する。そして、試料容器を断熱容器に設置し、一定温度に保持した試験槽内に入れ、数日間保持することによって測定することができる。
本実施形態の予測方法では、上記式(2)を用いて、モルタル及び/又はコンクリートのQ∞を算出し(以下、Q∞実測値という)、このQ∞実測値とフェライト相のa軸長の測定値とを用いて回帰分析を行い、その分析結果を用いてQ∞を予測してもよい。Q∞実測値は、市販の断熱熱量計を用いて、得られた断熱温度上昇曲線から求めることができる。
一方、セメントのクリンカー鉱物におけるフェライト相のa軸長は、セメントの粉末X線回折を行い、粉末X線回折結果をリートベルト解析法又はWPF解析法などのプロファイルフィッティング法で解析して求めることができる。
求めたフェライト相のa軸長の測定値を独立変数、及びQ∞実測値を従属変数として回帰分析を行う。このようにして求められる回帰式は下記式(3)で表される。
(終局の断熱温度上昇量Q∞)=A×(フェライト相のa軸長)+B (3)
(終局の断熱温度上昇量Q∞)=A×(フェライト相のa軸長)+B (3)
上記式(3)においては、係数Aは−10000〜0の範囲の数値であり、係数Bは0〜6000の範囲の数値であり、フェライト相のa軸長は、0.547〜0.560nmである。より好ましくは、係数Aは−8000〜−1000の範囲の数値であり、係数Bは500〜4000の範囲の数値であり、フェライト相のa軸長は、0.548〜0.560nmである。さらに好ましくは、係数Aは−5000〜−1000の範囲の数値であり、係数Bは1000〜3000の範囲の数値であり、フェライト相のa軸長は、0.549〜0.560nmである。特に好ましくは、係数Aは−4000〜−2000の範囲の数値であり、係数Bは1200〜2000の範囲の数値であり、フェライト相のa軸長は、0.550〜0.560nmである。このような式(3)を用いれば、より精度高くモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を予測することが可能となる。
以上のように、本実施形態の予測方法によれば、モルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を、迅速且つ高精度で予測することができる。
次に、本発明のモルタル又はコンクリートの製造方法の好適な実施形態を説明する。本実施形態のモルタル又はコンクリートの製造方法は、上述の予測方法を行った後に、特定の結晶情報を有するセメントクリンカーを含むセメントに、骨材と水とを練り混ぜて混練物を調製し、モルタル又はコンクリートを得る第三工程を有する。
モルタルは、セメントに砂と水を混合して調製することができる。また、コンクリートとは、セメントに骨材と水を混合して調製することができる。モルタル又はコンクリートを調製する際の各原材料は、通常の混合割合で調製することができる。このようにして得られるモルタル又はコンクリートは、特定の断熱上昇量を有するように製造されたものであるため、ひび割れ等の発生を十分に抑制することができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、セメントに含まれるセメントクリンカーのクリンカー鉱物組成のX線回折結果に基づいて終局の断熱温度上昇量を予測したが、セメントを製造する前のセメントクリンカーのX線回折を行い、そのX線回折結果に基づいてモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を予測する予測方法、或いはモルタル又はコンクリートの製造方法であってもよい。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜5)
表1及び表2に示す化学組成及び鉱物組成を有する市販のセメントC1〜C5を準備した。なお、化学組成は、JIS R 5202:1998「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定した値であり、鉱物組成はボーグ式により算定した。
表1及び表2に示す化学組成及び鉱物組成を有する市販のセメントC1〜C5を準備した。なお、化学組成は、JIS R 5202:1998「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定した値であり、鉱物組成はボーグ式により算定した。
次に、原材料として、水及び細骨材(砂)を準備し、表3に示すコンクリート配合を基にモルタルを作製した。まず、準備した水と、表1及び表2に示すセメントC1〜C5と、を表3に示す比率で2分間練り混ぜた。その後、準備した細骨材(砂)を加えて3分間練混ぜて、モルタル試料(30mL)を調製した。セメントC1〜C5を用いて調製したモルタル試料を、それぞれモルタル試料M1〜M5とした。
特開2008−241520号公報に記載された断熱熱量計と同様の装置(株式会社東京理工製、商品名:ACM−120HA)を用い、上述の非特許文献2に記載された方法に基づいて、終局の断熱温度上昇量を測定した。
測定は、モルタル試料を試料容器に入れて、予め20℃に保持した断熱容器の内部に当該試料容器を配置して行った。測定時間は、温度上昇がなくなるまでの期間(2日間以上)とし、断熱温度上昇曲線から、下記式(2)における終局の断熱温度上昇量(Q∞)を求めた。ここで求めた終局の断熱温度上昇量(Q∞)を「Q∞(実測値)」として、表6に示す。
Q(t)=Q∞(1−exp(−γ(t−t0))) (2)
式(2)中、Q(t)は材齢tにおける断熱温度上昇量(℃)、Q∞は終局の断熱温度上昇量(℃)を、tは材齢(日)を、t0は発熱開始材齢(日)を、γは断熱温度上昇速度に関する定数を、それぞれ示す。
Q(t)=Q∞(1−exp(−γ(t−t0))) (2)
式(2)中、Q(t)は材齢tにおける断熱温度上昇量(℃)、Q∞は終局の断熱温度上昇量(℃)を、tは材齢(日)を、t0は発熱開始材齢(日)を、γは断熱温度上昇速度に関する定数を、それぞれ示す。
[結晶情報の測定]
終局の断熱温度上昇量の測定に使用したセメントC1〜C5を採取して縮分し、振動ミルを用いて標準物質(アルミナ)とともに粉砕して、粉末状の試料S1〜S5を調製した。そして、試料S1〜S5の粉末X線回折測定を行った。粉末X線回折測定は、粉末X線回折装置RINT−2500((株)リガク製)を用い、X線源をCuKαとして,管電圧:35kV、管電流:110mA、測定範囲:2θ=10〜60°、ステップ幅:0.02°、計数時間:2秒間、発散スリット:1°、及び受光スリット:0.15mmの条件で行った。
終局の断熱温度上昇量の測定に使用したセメントC1〜C5を採取して縮分し、振動ミルを用いて標準物質(アルミナ)とともに粉砕して、粉末状の試料S1〜S5を調製した。そして、試料S1〜S5の粉末X線回折測定を行った。粉末X線回折測定は、粉末X線回折装置RINT−2500((株)リガク製)を用い、X線源をCuKαとして,管電圧:35kV、管電流:110mA、測定範囲:2θ=10〜60°、ステップ幅:0.02°、計数時間:2秒間、発散スリット:1°、及び受光スリット:0.15mmの条件で行った。
得られたX線回折プロファイルを、リートベルト解析ソフト(JADE 6)にて解析し、各クリンカー鉱物の結晶情報のパラメータを得た。なお、リートベルト解析で使用した各種クリンカー鉱物の結晶構造データを表4に示す。
参考文献1:F. Nishi and Y. Takeuchi: Tricalcium silicate Ca3O[SiO4]: The monoclinic Superstructure, Zeitschrift fur Krystallographie, Vol.172, pp.297 − 314 (1985)
参考文献2:K.H. Jost, B. Xiemer and R. Seydel: Redetermination of the Structure of β−Dicalcium Silicate, Acta Crystallographica, Vol.B33, pp.1696 − 1700 (1977)
参考文献3:P. Mondal and W.J. Jeffrey: The Crystal Structure of Tricalcium Aluminate, Acta Crystallographica, Vol.36, pp.689 − 697 (1975)
参考文献4:Y. Takeuchi and F. Nishi: Crystal−chemical Characterization of the 3CaO−Al2O3−Na2O Solid Solution Series, Zeitschrift fur Kristallographie, Vol.152, pp.259 − 307 (1980)
参考文献5:A.A. Colville and S. Geller: The Crystal Structure of Brownmillerite, Ca2FeAlO5, Acta Crystallographica, Vol.B27, p.2311 (1971)
参考文献2:K.H. Jost, B. Xiemer and R. Seydel: Redetermination of the Structure of β−Dicalcium Silicate, Acta Crystallographica, Vol.B33, pp.1696 − 1700 (1977)
参考文献3:P. Mondal and W.J. Jeffrey: The Crystal Structure of Tricalcium Aluminate, Acta Crystallographica, Vol.36, pp.689 − 697 (1975)
参考文献4:Y. Takeuchi and F. Nishi: Crystal−chemical Characterization of the 3CaO−Al2O3−Na2O Solid Solution Series, Zeitschrift fur Kristallographie, Vol.152, pp.259 − 307 (1980)
参考文献5:A.A. Colville and S. Geller: The Crystal Structure of Brownmillerite, Ca2FeAlO5, Acta Crystallographica, Vol.B27, p.2311 (1971)
リートベルト解析で求められた試料S1〜S5のフェライト相のa軸長及びクリンカー鉱物におけるフェライト相の含有量は、表5に示すとおりであった。
試料S1〜S5のフェライト相のa軸長と、表6に示す終局の断熱温度上昇量(Q∞)の実測値の回帰分析を行って、回帰式を求めた。求められた回帰式は下記式(4)であった。この下記式(4)に表5に示すフェライト相のa軸長を代入して、終局の断熱温度上昇量(Q∞)を計算した。終局の断熱温度上昇量の式(4)による計算値(「Q∞計算値」とする)とQ∞実測値との比較結果を表6に示す。
(終局の断熱温度上昇量Q∞)=A×(フェライト相のa軸長)+B (4)
(上記式(4)中、係数A及びBは、A=−2441.4、B=1397.4である。)
(終局の断熱温度上昇量Q∞)=A×(フェライト相のa軸長)+B (4)
(上記式(4)中、係数A及びBは、A=−2441.4、B=1397.4である。)
表6に示す結果から明らかなように、Q∞実測値とQ∞計算値(すなわち、式(2)で予測される予測値)の差は最大でも1.2℃であり、Q∞計算値はQ∞実測値とほぼ一致することが確認された。
図1は、式(4)の直線(回帰直線)と、終局の断熱温度上昇量のQ∞実測値を併せて示すグラフである。図1に示す結果から明らかなように、フェライト相のa軸長とモルタルの終局の断熱温度上昇量(Q∞)とは良好な相関関係があることが確認された。これらの結果から、フェライト相のa軸長の測定値と上記式(4)から、終局の断熱温度上昇量を精度良く予測できることが確認された。
Claims (4)
- セメントクリンカーを含み、K2O含有量が0.20〜0.60質量%であるセメントの粉末X線回折結果をプロファイルフィッティング法により解析して、前記セメントクリンカーに含まれるクリンカー鉱物の結晶情報を得る第一工程と、
前記結晶情報を基に、前記セメントクリンカーを含むセメントから得られるモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を予測する第二工程と、を有するモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量の予測方法。 - 前記第一工程における前記プロファイルフィッティング法がリートベルト解析法又はWPF解析法であり、前記結晶情報がフェライト相のa軸長である、請求項1に記載のモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量の予測方法。
- 前記第二工程では、前記フェライト相のa軸長を独立変数とし、断熱温度上昇量の実測値を従属変数とする回帰分析によって求めた下記式(1)を用いて、モルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を予測する、請求項2に記載のモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量の予測方法。
(終局の断熱温度上昇量Q∞)=A×(フェライト相のa軸長)+B (1)
(上記式(1)中、係数Aは−10000〜0の範囲の数値であり、係数Bは0〜6000の範囲の数値であり、フェライト相のa軸長は0.547〜0.560nmである。) - セメントクリンカーを含み、K2O含有量が0.20〜0.60質量%であるセメントの粉末X線回折結果をプロファイルフィッティング法により解析して、前記セメントクリンカーに含まれるクリンカー鉱物の結晶情報を得る第一工程と、
前記結晶情報を基に、前記セメントクリンカーを含むセメントから得られるモルタル又はコンクリートの終局の断熱温度上昇量を予測する第二工程と、
前記セメントと骨材と水とを練り混ぜてモルタル又はコンクリートを得る第三工程と、を有する、モルタル又はコンクリートの製造方法。
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